説明

電線保持構造

【課題】電線を取り付ける際に電線に傷がつくのを防ぎ、かつ、電線が抜け出さない電線保持構造を提供すること。
【解決手段】電線3が配索される部材1の表面に形成される電線収容溝9の対向する溝側面11と、この溝側面にそれぞれ突出して設けられた少なくとも1組の突起15とを備え、1組の突起15は、突起相互間に形成される間隙L3が電線の外径よりも大きくなるように電線収容溝9の延在方向に互いに位置をずらして設けられ、かつ、電線収容溝9の延在方向に投影した突起先端の相互間隔L4が電線3の外径よりも小さく形成され、電線収容溝9の溝底に対する突起15の対向面の高さが電線3の外径よりも大きく形成されてなること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材の表面に電線を保持する電線保持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、複数の電池を直列に接続した電池モジュールを電気自動車やハイブリッドカーなどの電源として用いる技術が開示されている。この種の電池モジュールには、隣接する電池間の正極と負極を接続するバスバを複数保持して形成された樹脂材料製のバッテリ接続プレートが取り付けられている。バッテリ接続プレートには、各電池の電極と接続された多数の電線や電池モジュールの総電極と接続された高圧ケーブルなどが配索されている。
【0003】
このように多数の電線などが配索されるバッテリ接続プレートには、例えば、電線をプレートに沿って所定の配索方向に保持するため、基材の表面に少なくとも一対のロックが立設して設けられている。このロックは、電線の配索領域の両側に対向して立設する一対の脚部を備え、それぞれの脚部の対向面には突起が設けられている。この突起の先端同士の間には、電線の外径よりも小さい隙間が設けられ、この隙間から電線が圧入されることにより、基材の表面と一対のロックの間に電線を保持するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−362997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような電線保持構造において外径の異なる多数の電線を保持する場合、外径が大きい電線を圧入する際には電線を傷つけるおそれがある。また、そのような電線を無理に圧入しようとすると、ロックの脚部が破損するおそれがある。一方、外径が小さい電線を保持する場合、突起の先端同士の隙間から電線が抜け出すおそれがある。
【0006】
本発明は、電線を取り付ける際に電線に傷がつくのを防ぎ、かつ、電線が抜け出すことのない電線保持構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の電線保持構造は、電線が配索される部材の表面の配索領域の両側に対向させて立設させた少なくとも一対の板状の脚部と、該一対の脚部の対向面にそれぞれ突出して設けられた1組の突起とを備え、1組の突起は、突起相互間に形成される間隙が前記電線の外径よりも大きくなるように電線の配索方向に互いに位置をずらして設けられ、かつ、配索方向に投影した突起先端の相互間隔が前記電線の外径よりも小さく形成されてなり、部材の表面に対する突起の対向面の高さが電線の外径よりも大きく形成されてなることを特徴とする。
【0008】
すなわち、1組の突起の間に形成された、電線の外径よりも大きな隙間を利用することにより、電線を圧入することなく、また、脚部を変形させることなく、電線を挿入することができるため、電線の損傷及び脚部の破損を防ぐことができる。さらに、1組の突起は、電線の配索方向に投影した突起先端の相互間隔が電線の外径よりも小さく形成されるため、部材の配索領域に沿って配索された電線が何らかの外力により持ち上げられたとしても、突起先端の隙間から抜け出すことがない。このように、電線の挿入部分と保持部分を異ならせることにより、電線の損傷を防ぐとともに、電線が簡単に抜けない電線保持構造とすることができる。
【0009】
また、部材の表面に電線収容溝が形成されている場合は、その対向する溝側面に突起を設けるようにしてもよい。具体的には、電線が配索される部材の表面に形成される電線収容溝の対向する溝側面と、この溝側面にそれぞれ突出して設けられた少なくとも1組の突起とを備え、1組の突起は、突起相互間に形成される間隙が電線の外径よりも大きくなるように電線収容溝の延在方向に互いに位置をずらして設けられ、かつ、電線収容溝の延在方向に投影した突起先端の相互間隔が電線の外径よりも小さく形成されてなり、電線収容溝の溝底に対する突起の対向面の高さが電線の外径よりも大きく形成されてなることを特徴とする。
【0010】
このように構成しても、脚部に突起を設ける場合と同様、電線を圧入せずに電線収容溝に収容することができ、電線の損傷を防ぐことができる。また、収容された電線が突起先端の隙間から抜け出すのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電線を取り付ける際に電線に傷がつくのを防ぐことができ、しかも、電線が抜け出すのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用してなる第1の実施形態の電線保持構造を示す上面図であり、(a)は電線を挿入するときの状態を示し、(b)は電線が保持される状態を示す図である。
【図2】本発明を適用してなる第1の実施形態の電線保持構造を示す上面図であり、(a)は電線を挿入するときの状態を示し、(b)は電線が保持される状態を示す図である。
【図3】従来の電線保持構造に電線が保持される状態を示す図であり、(a)は上面図、(b)は(a)のA−A矢視断面図である。
【図4】従来の電線保持構造に電線が保持される状態を示す図であり、(a)は上面図、(b)は(a)のB−B矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用してなる電線保持構造について図面を参照して説明する。以下の実施形態では、電気自動車やハイブリッドカーなどの電源となる電池モジュールに取り付けられるバッテリ接続プレートを基材とし、その基材の表面に形成される電線保持構造について説明するが、本発明が適用される電線保持構造はバッテリ接続プレートに限られず、電線を配索する基材であれば、特に制限なく適用することができる。
【0014】
はじめに、本発明の理解を容易にするため、従来の電線保持構造について図3及び図4を参照して説明する。
【0015】
図3の電線保持構造は、樹脂製のバッテリ接続プレート(以下、基材1という。)の表面に沿って配索される電線を保持するものである。この電線保持構造は、電線3の配索領域(図3(a)の上下方向に沿って所定の幅をなす領域)の両側に対向させて一対の板状の脚部5が立設して設けられている。脚部5の頂部には、それぞれ対向面に突起7が設けられている。基材1の表面とこの基材1の表面と対向する突起7の対向面(図3(b)の下向きの面)との隙間は、少なくとも電線3の外径よりも大きく設定されている。なお、脚部5及び突起7は、いずれも基材1と一体的に形成されている。
【0016】
一対の脚部5及び1組の突起7は、電線3の配索方向の同じ位置に対向させて設けられ、突起7の先端同士の間隔L1(図3(b))は、電線3の外径よりも小さい寸法に設定されている。このため、電線3を一対の脚部5間に挿入して保持するには、電線3を突起7の先端同士の隙間から圧入する必要がある。
【0017】
図4は、基材1の表面に電線収容溝9を設けた場合の電線保持構造を示す。電線収容溝9の対向する側壁11には、1組の突起13が設けられている。電線収容溝9の溝底とこの溝底と対向する突起13の対向面(図4(b)の下向きの面)との隙間は、電線3の外径よりも大きくなるように設定されている。なお、突起13は、基材1と一体的に形成されている。
【0018】
突起13は、電線収容溝9の延在方向(図4(a)の上下方向)の同じ位置に対向させて設けられ、突起13の先端同士の間隔L2(図4(b))は、電線3の外径よりも小さい寸法に設定されている。このため、電線3を電線収容溝9に挿入して保持するためには、電線3を突起13の先端同士の隙間から圧入する必要がある。
【0019】
図3及び図4の電線保持構造によれば、電線3を突起7,13の先端同士の隙間から圧入する際、電線3が突起7,13の先端から押し付けられることで損傷するおそれがある。例えば、図4の場合、電線収容溝9の側壁11に突起13が設けられているため、電線3の圧入時に突起13の先端同士の隙間は殆ど広がらない。このため、電線3の外径がL2よりも大きければ、電線3を圧入する際に電線3が強く押し付けられて、損傷しやすくなる。
【0020】
一方、図3の場合、突起7が脚部5に設けられており、電線3の圧入時に脚部5が弾性変形することから、突起7の先端同士の隙間が広がり易い。このため、電線3には傷が付きにくいが、外径の大きい電線3を無理に圧入しようとすると、脚部5が破損するおそれがある。
【0021】
また、図3及び図4のいずれの構造においても、電線3の外径が突起7,13の先端同士の隙間よりも小さい場合、電線3の配索領域に配索された電線3に何らかの外力が加わり、電線3が基材1の表面或いは電線収容溝9の溝底から持ち上げられると、突起7,13の先端同士の隙間から電線3が簡単に抜け出すおそれがある。
【0022】
以下、本発明を実施するための第1の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態において、従来の構成と同じ構成のものについては、同一の符号を付して説明を省略する。
【0023】
図1に、本実施形態による電線保持構造を模式化して示す。本実施形態の電線保持構造では、基材1の表面に形成された電線収容溝9の対向する側壁11にそれぞれ突起15a,15bが設けられている。この1組の突起15a,15bは、電線収容溝9の延在方向と平行な断面で、それぞれ側壁11から略垂直に延在する第1の面17と側壁から斜めに延在する第2の面19とが先端部21で交わることによりV字状に突出して形成される。電線収容溝9の溝底23とこの溝底と対向する突起15a,15bの対向面との隙間は、電線3の外径よりも大きくなるように設定されている。
【0024】
1組の突起15,15bは、電線収容溝9の延在方向で互いに先端部21a,21bの位置をずらして設けられ、突起15aと突起15bの相互間隔が電線3の外径よりも大きくなるように設定されている。すなわち、突起15aと突起15bは、第2の面19aと19bとの間に形成される間隔L3が、電線33の外径よりも大きくなるように、電線収容溝9の延在方向に互いに位置をずらして設けられている。また、1組の突起15a,15bは、電線収容溝9の延在方向に投影した突起15a,15bの先端同士、つまり先端部21a,21bの相互間隔L4が、電線3の外径よりも小さくなるように設定されている。
【0025】
次に、このようにして構成される電線保持構造に電線3を挿入する際の動作について説明する。まず、図1(a)に示すように、電線3の一部を第2の面19aと19bとの間に形成される間隙に沿って挿入する。ここで、L3は、電線3の外径よりも大きいことから、電線3を圧入しなくても、電線収容溝9に簡単に収容することができ、電線3の損傷及び突起15a,15bの損傷を防ぐことができる。
【0026】
続いて、電線収容溝9に挿入された電線3を、図1(b)に示すように、電線3の配索領域に沿って配索する。ここで、突起15a,15bは、L4が電線33の外径よりも小さいため、電線収容溝9に沿って配索された電線3が何らかの外力により持ち上げられたとしても、突起15a,15bの隙間から電線3が抜け出すことがない。なお、電線収容溝9に収容された電線3は、溝底23と突起15a,15bの対向面との隙間が電線3の外径よりも大きいため、突起15に押し付けられることなく収容される。
【0027】
次に、本発明を実施するための第2の実施形態について説明する。なお、本実施形態は、基本的には上述した実施形態と共通の構成をなすため、特徴的な構成を中心に説明し、共通の構成については説明を省略する。
【0028】
図2に、本実施形態による電線保持構造を模式化して示す。本実施形態の電線保持構造は、電線収容溝9の延在方向で互いに位置をずらして3つの突起25a,25b,25cを千鳥状に設けている点で、第1の実施形態と相違する。突起25は、電線収容溝9の延在方向と平行な断面が図1の突起15の断面形状と異なるが、これは、隣接する突起25との間に電線3が挿入される隙間を設けるための挿入面27を有しているためである。したがって、この挿入面27は、第1の実施形態の第2の面19と基本的に同じ機能を有している。
【0029】
本実施形態では、3個の突起25が設けられるが、突起25aと25b、突起25bと25cがそれぞれ組をなすため、合計2組の突起25が設けられることになる。例えば、突起25aと25bは、挿入面27同士の間隔L5が電線3の外径よりも大きくなるように設定され、また、電線収容溝9の延在方向に投影した突起53aと53bは、先端同士の相互間隔L6が、電線3の外径よりも小さくなるように設定されている。このような突起25aと25bとの関係は、突起25bと突起25cとの間にも同様に当てはまる。
【0030】
これによれば、まず、図2(a)に示すように、電線3の一部を湾曲させ、突起25aと25bの挿入面27同士の間に形成される間隙、及び、突起25bと23cの挿入面27同士の間に形成される間隙に沿って電線3をそれぞれ挿入する。ここで、それぞれの挿入面27同士の間に形成される間隙L5は電線3の外径よりも大きく設定されるため、電線3を圧入しなくても、電線収容溝9に電線3を簡単に収容することができ、電線3の損傷及び突起25a,25b,25cの損傷を防ぐことができる。
【0031】
続いて、電線収容溝9に挿入された電線3を、図2(b)に示すように、電線33の配索領域に沿って配索する。ここで、突起25a,25b,25cは、相互間隔L6が電線3の外径よりも小さく形成されることから、電線収容溝39に沿って配索された電線3が何らかの外力により持ち上げられたとしても、突起25a,25b,25cの隙間から電線3が抜け出すことがない。
【0032】
本実施形態のように、3つ以上の突起25a,25b,25cを電線3の配索領域の両側に位置をずらしながら交互に設けることにより、突起25を2つ配置する場合と比べて、電線3をより安定に保持することができる。
【0033】
上述した実施形態は、いずれも基材1の表面に形成される電線収容溝9に適用するものであるが、本発明は、図3のように、基材1の表面から立設する脚部5に突起7を設ける場合にも適用することができる。例えば、第2の実施形態の突起25a,25b,25cを、電線収容溝9の側壁11に代えて、それぞれ図3と同じ形状の脚部5から突出させるようにしてもよい。この場合、脚部5は、電線3の配索領域の両側に対向させて立設されるとともに、その配索方向に互いに位置をずらして設けられる。
【0034】
このような構成によれば、電線3を圧入しなくても、脚部5間に電線3を簡単に挿入することができ、電線3の損傷及び脚部5の損傷を防ぐことができる。また、電線3の配索領域に沿って配索された電線3が何らかの外力により持ち上げられたとしても、突起同士の隙間から電線3が抜け出すこともない。
【0035】
以上、本発明の実施形態を図面により詳述してきたが、上記実施形態は本発明の例示にしか過ぎないものであり、本発明は上記実施形態の構成にのみ限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0036】
1 基材
3 電線
5 脚部
7,13,15,25 突起
9 電線収容溝
11 側壁
17 第1の面
19 第2の面
21 先端部
23 溝底
27 挿入面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線が配索される部材の表面の配索領域の両側に対向させて立設させた少なくとも一対の板状の脚部と、該一対の脚部の対向面にそれぞれ突出して設けられた1組の突起とを備え、
前記1組の突起は、突起相互間に形成される間隙が前記電線の外径よりも大きくなるように前記電線の配索方向に互いに位置をずらして設けられ、かつ、前記配索方向に投影した突起先端の相互間隔が前記電線の外径よりも小さく形成されてなり、
前記部材の表面に対する前記突起の対向面の高さが前記電線の外径よりも大きく形成されてなる電線保持構造。
【請求項2】
電線が配索される部材の表面に形成される電線収容溝の対向する溝側面と、該溝側面にそれぞれ突出して設けられた少なくとも1組の突起とを備え、
前記1組の突起は、突起相互間に形成される間隙が前記電線の外径よりも大きくなるように前記電線収容溝の延在方向に互いに位置をずらして設けられ、かつ、前記電線収容溝の延在方向に投影した突起先端の相互間隔が前記電線の外径よりも小さく形成されてなり、
前記電線収容溝の溝底に対する前記突起の対向面の高さが前記電線の外径よりも大きく形成されてなる電線保持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−27113(P2013−27113A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158609(P2011−158609)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】