説明

電線結束具および電線結束方法

【課題】車両用のワイヤーハーネスに適用される電線結束具において、電線を保護する必要がある場合でも、ワイヤーハーネスの製造効率を向上させる。
【解決手段】電線結束具11は、電線を収束して結束する半円断面樋形の下側部品12と、この下側部品12に嵌合し、かつ電線を収容する半円断面樋形の蓋部品13とを備えている。下側本体14の内周面には5個の電線係止突起15が、互いに間隔を置いて垂直に立設されている。これにより、電線の結束と保護とを同時に行うことができる。したがって、電線を保護する必要がある場合でも、ワイヤーハーネスの製造効率が向上する。電線は、電線係止突起15によって湾曲した状態となり、電線結束具11との固着力が増大する。そのため、電線結束具11の取付位置が電線長手方向にずれにくくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のワイヤーハーネスなどに適用するに好適な電線結束具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図12は結束バンドの斜視図、図13は結束バンドの使用例を示す斜視図、図14はプロテクタの使用例を示す斜視図である。
【0003】
従来、この種の電線結束具としては、図12および図13に示すように、バンド本体2の一端に挿通片3が、他端に貫通孔4が形成されるとともに、バンド本体2の片面に波状の係合溝8が形成された構成を有する結束バンド1が使用されている。すなわち、バンド本体2を電線束5に巻き付け、バンド本体2の挿通片3を貫通孔4に挿通し、電線束5を締め付けて係合溝8で係止することにより、すべての電線6を結束していた(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
また、一般的にワイヤーハーネス7は電線束断面が円形状になっているため、配索スペースの小さい車両では、図14に示すように、電線束5に専用のプロテクタ9を取り付けることにより、ワイヤーハーネス7の電線束断面を円形状から異型形状へ変化させて配索する場合があった。
【特許文献1】特開平9−51624号公報
【特許文献2】特開平11−205967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、結束バンド1には電線6を保護する機能がない。そのため、電線6を保護する必要がある場合には、結束バンド1の取付前または取付後に電線保護材を部分的に装着しなければならず、ワイヤーハーネス7の製造効率が低下する。
【0006】
また、プロテクタ9を使用する場合には、プロテクタ9の材料費および取付費の分だけコストが上昇する。
【0007】
本発明は、こうした課題を解決することが可能な、電線結束具および電線結束方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
まず、請求項1に係る電線結束具の発明では、電線を収束して結束する下側部品と、この下側部品に嵌合し、かつ電線を収容する蓋部品とを備えていることを特徴とする。
また、請求項2に係る電線結束具の発明では、前記下側部品と前記蓋部品とを固定するロック手段が設けられていることを特徴とする。
また、請求項3に係る電線結束具の発明では、前記蓋部品には、前記下側部品と結合する結合足が設けられていることを特徴とする。
また、請求項4に係る電線結束具の発明では、前記下側部品と前記蓋部品には、少なくとも一方に電線係止突起が形成されていることを特徴とする。
また、請求項5に係る電線結束方法の発明では、電線結束断面の異なる複数個の電線結束具をワイヤーハーネスの電線長手方向に配置して装着することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電線の結束と保護とを同時に行うことが可能となる。したがって、電線を保護する必要がある場合でも、ワイヤーハーネスの製造効率を向上させることができる。
【0010】
また、配索スペースに応じてワイヤーハーネスの電線束断面形状を電線長手方向に沿って自在に変化させることができる。そのため、専用のプロテクタを使用してワイヤーハーネスの電線束断面を変化させる場合と比べて、低コストでワイヤーハーネスを配索することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
<第1の実施形態>
図1は本発明に係る第1の電線結束具を示す図であって、(a)は正面図、(b)は下側部品の平面図、図2は図1に示す電線結束具の使用状態を示す図であって、(a)は正面図、(b)は下側部品の平面図、図3は本発明に係る第2の電線結束具(開蓋状態)を示す斜視図、図4は本発明に係る第3の電線結束具(閉蓋状態)を示す斜視図、図5は第1〜3の電線結束具の共用状態を示す斜視図である。
【0013】
第1の電線結束具11は、図2(a)に示すように、ワイヤーハーネス7の電線束断面形状を円形状に結束するためのものであり、図1および図2に示すように、電線6を収束して結束する下側部品12と、この下側部品12に嵌合し、かつ電線6を収容する蓋部品13とを備えている。ここで、下側部品12は、半円断面樋形の下側本体14を有しており、下側本体14の内周面には5個の電線係止突起15が、互いに間隔を置いて垂直に立設されている。また、下側本体14の側部両端面にはそれぞれ嵌合片16が形成されている。一方、蓋部品13は、半円断面樋形の蓋本体17を有しており、蓋本体17の側部両端面にはそれぞれ嵌合片19が形成されている。
【0014】
そして、この電線結束具11を用いてワイヤーハーネス7の電線6を結束する際には、次の手順による。
【0015】
まず、治具(図示せず)上に下側部品12を設置して準備した後、図2に示すように、この下側部品12に電線6を配索する。このとき、下側部品12には5個の電線係止突起15が形成されているので、電線6は、これらの電線係止突起15によって湾曲した状態となり、電線結束具11との固着力が増大する。
【0016】
次に、この下側部品12の上側に蓋部品13を載置して嵌合させ、電線6を収束する。このとき、下側部品12および蓋部品13には嵌合片16、19が形成されているので、下側部品12と蓋部品13との嵌合動作は迅速かつ確実に行われる。
【0017】
ここで、ワイヤーハーネス7の電線6の結束作業が終了する。
【0018】
このようにして電線6の結束作業が終了したワイヤーハーネス7は、図2(a)に示すように、すべての電線6が電線結束具11で円形状に結束された状態となる。また、ワイヤーハーネス7は、電線結束具11が取り付けられた部位においては、電線6の周囲を電線結束具11が取り囲んでいるので、電線6は電線結束具11によって保護された状態となる。そのため、電線結束具11は、電線6の結束と保護とを同時に行うことが可能となる。したがって、電線6を保護する必要がある場合においても、ワイヤーハーネス7に電線保護材を別途装着する必要がなく、ワイヤーハーネス7の製造効率を向上させることができる。
【0019】
しかも、電線6と電線結束具11との固着力が増大しているため、電線結束具11の取付位置が電線長手方向にずれにくくなる。
【0020】
また、第2の電線結束具21は、図3に示すように、ワイヤーハーネス7の電線束断面形状を長方形状に結束するためのものであり、電線6を収束して結束する下側部品22と、この下側部品22に嵌合し、かつ電線6を収容する蓋部品23とを備えている。ここで、下側部品22は、コの字断面樋形の下側本体24を有しており、下側本体24の底面内側には5個の電線係止突起25が、互いに間隔を置いて垂直に立設されている。また、下側本体24の側部両端面にはそれぞれ嵌合片26が形成されている。一方、蓋部品23は、平板状の蓋本体27を有しており、蓋本体27の側部両端部下面にはそれぞれ嵌合片29が形成されている。
【0021】
さらに、第3の電線結束具31は、図4に示すように、ワイヤーハーネス7の電線束断面形状を異型形状に結束するためのものであり、電線6を収束して結束する下側部品32と、この下側部品32に嵌合し、かつ電線6を収容する蓋部品33とを備えている。ここで、下側部品32は、L字断面樋形の下側本体34を有しており、下側本体34の側部両端面にはそれぞれ嵌合片36が形成されている。一方、蓋部品33は、瓦状の蓋本体37を有しており、蓋本体37の側部両端部下面にはそれぞれ嵌合片39が形成されている。
【0022】
そして、これら第1〜3の電線結束具11、21、31を共用してワイヤーハーネス7の電線6を結束する際には、図5に示すように、配索スペースに応じて電線結束具11、21、31をワイヤーハーネス7の電線長手方向に適宜配置して装着することにより、ワイヤーハーネス7の電線束断面形状を電線長手方向に沿って自在に変化させることができる。したがって、配索スペースの小さい車両においても、専用のプロテクタ9を使用してワイヤーハーネス7の電線束断面を変化させる場合(図14参照)と比べて、低コストでワイヤーハーネスを配索することが可能となる。
【0023】
<第2の実施形態>
図6は本発明に係る第4の電線結束具を示す図であって、(a)は正面図、(b)は蓋部品の平面図、(c)は下側部品の平面図、図7は図6に示す電線結束具の装着手順の一工程を示す斜視図、図8は図6に示す電線結束具の装着手順の次の工程を示す斜視図である。
【0024】
第4の電線結束具41は、図8に示すように、ワイヤーハーネス7の電線束断面形状を楕円形状に結束するためのものであり、図6に示すように、電線6を収束して結束する下側部品42と、この下側部品42に嵌合し、かつ電線6を収容する蓋部品43とを備えている。ここで、下側部品42は、U字断面樋形の下側本体44を有しており、下側本体44の内周面には2個の円柱状の電線係止突起45が、互いに間隔を置いて下側本体44の上端から上方に延びるように垂直に立設されている。さらに、電線係止突起45の先端には矢形の係止部45aが形成されている。また、下側本体44の中央部および両端部にはそれぞれ結合部46が凹設されている。一方、蓋部品43は、平板状の蓋本体47を有しており、蓋本体47の中央部および両端部にはそれぞれ結合足49が、下側部品42の結合部46に対応する形で形成されている。さらに、蓋本体47には係止孔48が、下側部品42の電線係止突起45に対応する形で貫通して穿設されている。
【0025】
そして、この電線結束具41を用いてワイヤーハーネス7の電線6を結束する際には、次の手順による。
【0026】
まず、治具(図示せず)上に下側部品42を設置して準備した後、図7に示すように、この下側部品42に電線6を配索する。このとき、下側部品42には2個の電線係止突起45が形成されているので、電線6は、これらの電線係止突起45によって湾曲した状態となり、電線結束具41との固着力が増大する。
【0027】
次に、図8に示すように、この下側部品42の上側に蓋部品43を載置して嵌合させ、電線6を収束する。このとき、電線係止突起45が係止孔48に挿通され、係止部45aが係止孔48に引っ掛かるので、蓋部品43は下側部品42にロックされた状態となる。また、結合足49が結合部46に係合して下側本体44を水平方向に圧迫する。
【0028】
ここで、ワイヤーハーネス7の電線6の結束作業が終了する。
【0029】
このようにして電線6の結束作業が終了したワイヤーハーネス7は、図8に示すように、すべての電線6が電線結束具41で楕円形状に結束された状態となる。また、ワイヤーハーネス7は、電線結束具41が取り付けられた部位においては、電線6の周囲を電線結束具41が取り囲んでいるので、電線6は電線結束具41によって保護された状態となる。そのため、電線結束具41は、電線6の結束と保護とを同時に行うことが可能となる。したがって、電線6を保護する必要がある場合においても、ワイヤーハーネス7に電線保護材を別途装着する必要がなく、ワイヤーハーネス7の製造効率を向上させることができる。
【0030】
しかも、電線6と電線結束具41との固着力が増大しているため、電線結束具41の取付位置が電線長手方向にずれにくくなる。
【0031】
<第3の実施形態>
図9は本発明に係る第5の電線結束具を示す図であって、(a)は蓋部品の正面図、(b)は下側部品の正面図、図10は図9に示す電線結束具の開蓋状態の斜視図、図11は図9に示す電線結束具の使用状態を示す斜視図である。
【0032】
第5の電線結束具51は、図11に示すように、ワイヤーハーネス7の電線束断面形状を円形状に結束するためのものであり、図9に示すように、電線6を収束して結束する下側部品52と、この下側部品52に嵌合し、かつ電線6を収容する蓋部品53とを備えている。ここで、下側部品52は、半円断面樋形の下側本体54を有しており、下側本体54の内周面には、図9および図10に示すように、上下3段の電線係止突起55が、前後左右に2行2列で互いに間隔を置いて水平に形成されている。一方、蓋部品53は、半円断面樋形の蓋本体57を有している。蓋本体57の内周面には4個の電線係止突起58が、互いに間隔を置いて垂直に垂れ下がるように形成されており、各電線係止突起58には円柱状の節58aが2個ずつ形成されている。なお、電線係止突起58は、図10に示すように、前後に並ぶ電線係止突起55の間の空間に収まるように形成されているため、下側部品52に蓋部品53が嵌合しても、電線係止突起55と電線係止突起58とが互いに干渉することはない。
【0033】
そして、この電線結束具51を用いてワイヤーハーネス7の電線6を結束する際には、次の手順による。
【0034】
まず、治具(図示せず)上に下側部品52を設置して準備した後、図11に示すように、この下側部品52に電線6を配索する。すると、電線6は、複数個の電線係止突起55の間に入り込む。
【0035】
次に、この下側部品52の上側に蓋部品53を載置して嵌合させ、電線6を収束する。すると、電線係止突起58が電線6をかき分けて降下するので、電線6は、電線係止突起55と電線係止突起58との間を縫うように湾曲した状態となり、電線結束具11との固着力が増大する。
【0036】
ここで、ワイヤーハーネス7の電線6の結束作業が終了する。
【0037】
このようにして電線6の結束作業が終了したワイヤーハーネス7は、図11に示すように、すべての電線6が電線結束具51で円形状に結束された状態となる。また、ワイヤーハーネス7は、電線結束具51が取り付けられた部位においては、電線6の周囲を電線結束具51が取り囲んでいるので、電線6は電線結束具51によって保護された状態となる。そのため、電線結束具51は、電線6の結束と保護とを同時に行うことが可能となる。したがって、電線6を保護する必要がある場合においても、ワイヤーハーネス7に電線保護材を別途装着する必要がなく、ワイヤーハーネス7の製造効率を向上させることができる。
【0038】
しかも、電線6と電線結束具51との固着力が増大しているため、電線結束具51の取付位置が電線長手方向にずれにくくなる。
【0039】
<その他の実施形態>
なお、上述した第1および第2の実施形態においては、下側部品12、22にのみ電線係止突起15、25を設ける場合について説明し、第3の実施形態においては、下側部品52に電線係止突起55を設けるとともに、蓋部品53に電線係止突起58を設ける場合について説明した。しかし、蓋部品にのみ電線係止突起を設けるようにしても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、自動車、航空機、電車、製造プラント、電化製品、OA機器など各種の産業分野に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る第1の電線結束具を示す図であって、(a)は正面図、(b)は下側部品の平面図である。
【図2】図1に示す電線結束具の使用状態を示す図であって、(a)は正面図、(b)は下側部品の平面図である。
【図3】本発明に係る第2の電線結束具(開蓋状態)を示す斜視図である。
【図4】本発明に係る第3の電線結束具(閉蓋状態)を示す斜視図である。
【図5】第1〜3の電線結束具の共用状態を示す斜視図である。
【図6】本発明に係る第4の電線結束具を示す図であって、(a)は正面図、(b)は蓋部品の平面図、(c)は下側部品の平面図である。
【図7】図6に示す電線結束具の装着手順の一工程を示す斜視図である。
【図8】図6に示す電線結束具の装着手順の次の工程を示す斜視図である。
【図9】本発明に係る第5の電線結束具を示す図であって、(a)は蓋部品の正面図、(b)は下側部品の正面図である。
【図10】図9に示す電線結束具の開蓋状態の斜視図である。
【図11】図9に示す電線結束具の使用状態を示す斜視図である。
【図12】結束バンドの斜視図である。
【図13】結束バンドの使用例を示す斜視図である。
【図14】プロテクタの使用例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
5……電線束
6……電線
7……ワイヤーハーネス
11、21、31、41、51……電線結束具
12、22、32、42、52……下側部品
13、23、33、43、53……蓋部品
15、25、45、55、58……電線係止突起
45a……係止部(ロック手段)
48……係止孔(ロック手段)
49……結合足
58a……節

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線を収束して結束する下側部品と、
この下側部品に嵌合し、かつ電線を収容する蓋部品と
を備えていることを特徴とする電線結束具。
【請求項2】
前記下側部品と前記蓋部品とを固定するロック手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電線結束具。
【請求項3】
前記蓋部品には、前記下側部品と結合する結合足が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の電線結束具。
【請求項4】
前記下側部品と前記蓋部品には、少なくとも一方に電線係止突起が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電線結束具。
【請求項5】
電線結束断面の異なる複数個の電線結束具をワイヤーハーネスの電線長手方向に配置して装着することを特徴とする電線結束方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−181307(P2007−181307A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−376934(P2005−376934)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】