説明

電線被覆材用組成物、絶縁電線およびワイヤーハーネス

【課題】ポリオレフィン系樹脂組成物とは異なる系の組成物にて、難燃性、引張伸び、耐摩耗性が良好な電線被覆材用組成物を提供すること。
【解決手段】ポリブチレンテレフタレートを40〜95重量%含む高分子混合物100重量部に対して、リン酸エステル系化合物1〜30重量部を含有しており、高分子混合物中に含まれるポリブチレンテレフタレート成分全体に占める、分子量分布Mw/Mn(但し、Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)が2.5以上のポリブチレンテレフタレートの割合が、5〜100重量%の範囲内にある電線被覆材用組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線被覆材用組成物、絶縁電線およびワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、自動車部品などの車両部品、電気・電子機器部品などの配線として用いられる絶縁電線の絶縁被覆材には、一般に、ハロゲン系難燃剤を添加した塩化ビニル樹脂組成物が広く用いられてきた。
【0003】
しかしながら、上記絶縁被覆材は、ハロゲン元素を含有しているため、車両の火災時や電気・電子機器の焼却廃棄時などの燃焼時に、有害なハロゲン系ガスを大気中に放出し、環境汚染の原因になるという問題があった。
【0004】
そのため、近年では、地球環境への負荷を抑制するなどの観点から、上記塩化ビニル樹脂組成物から、ポリエチレンなどのポリオレフィンに水酸化マグネシウムなどの金属水和物を添加したポリオレフィン系樹脂組成物へ、絶縁被覆材料の代替が進められている。
【0005】
絶縁被覆材料として、ポリオレフィン系樹脂組成物を用いた絶縁電線としては、例えば、特許文献1には、絶縁被覆材として、直鎖状ポリエチレンとカルボン酸変性ポリエチレンとのブレンドポリマ100重量部に対して水酸化マグネシウム30〜100重量部を含有する組成物を用いた絶縁電線が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平7−176219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、この種の絶縁電線に要求される重要な電線特性として、難燃性、引張伸び、耐摩耗性がある。
【0008】
しかしながら、通常、ポリオレフィン系樹脂組成物を十分に難燃化させるためには、難燃剤(水酸化マグネシウムなど)を多量に添加せねばならず、これにより、耐摩耗性、引張伸びなどが極端に低下しやすいといった問題があった。この問題は、とりわけ、絶縁被覆材が薄い薄肉絶縁電線において顕著に生じやすい。
【0009】
このように、ポリオレフィン系樹脂組成物の改良だけにより、難燃性、引張伸び、耐摩耗性の何れもが良好な電線被覆材用組成物を得るのは困難な状況になってきている。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、ポリオレフィン系樹脂組成物とは異なる系の組成物にて、難燃性、引張伸び、耐摩耗性が良好な電線被覆材用組成物を提供することにある。また、これを用いた絶縁電線、ワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係る電線被覆材用組成物は、ポリブチレンテレフタレートを40〜95重量%含む高分子混合物100重量部に対して、リン酸エステル系化合物1〜30重量部を含有しており、上記高分子混合物中に含まれるポリブチレンテレフタレート成分全体に占める、分子量分布Mw/Mn(但し、Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)が2.5以上のポリブチレンテレフタレートの割合が、5〜100重量%の範囲内にあることを要旨とする。
【0012】
また、本発明に係る絶縁電線は、上記電線被覆材用組成物より形成された被覆層を有することを要旨とする。
【0013】
この際、上記被覆層の厚みは、0.4mm以下であると良い。
【0014】
また、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記絶縁電線を有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る電線被覆材用組成物は、ポリブチレンテレフタレートを40〜95重量%含む高分子混合物100重量部に対して、リン酸エステル系化合物1〜30重量部を含有しており、上記高分子混合物中に含まれるポリブチレンテレフタレート成分全体に占める、分子量分布Mw/Mn(但し、Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)が2.5以上のポリブチレンテレフタレートの割合が、5〜100重量%の範囲内にある。
【0016】
そのため、難燃性、引張伸び、耐摩耗性の何れもが良好である。これは、以下の理由によるものと推察される。すなわち、ポリブチレンテレフタレートは、高い結晶性を有し、高強度、高硬度を発揮できる代表的なエンジニアリングプラスチックである。そのため、例えば、構造強度などが要求されるコネクタ材料などとして好適に用いられるが、通常、電線被覆材の材料には適用されない。
【0017】
ところが、本発明では、分子量分布が比較的ブロードなポリブチレンテレフタレートを特定割合含んでいるので、ポリブチレンテレフタレートの結晶化速度が比較的遅くなり、アモルファスのポリブチレンテレフタレートが生じ、これにより、電線被覆材として良好な引張伸びを発揮できるようになると推察される。また、特定量のリン酸エステル系化合物を含有しているので、引張伸び、耐摩耗性を損なうことなく、難燃性を付与できるものと推察される。
【0018】
本発明に係る絶縁電線は、絶縁被覆材として、上記電線被覆材用組成物を用いているので、難燃性、引張伸び、耐摩耗性に優れる。
【0019】
とりわけ、その被覆層の厚みが0.4mm以下と薄肉であっても、優れた耐摩耗性を発揮できることから、傷なども付き難い。
【0020】
本発明に係るワイヤーハーネスは、上記絶縁電線を有している。そのため、ハーネス作製時における絶縁電線の配索時などに、絶縁電線の被覆層を端子などで引っ掻いても傷が付き難いなどの利点がある。また、ハーネス使用時などに、絶縁電線が摩耗し難いので、長期にわたって高い信頼性を確保しやすいなどの利点がある。また、絶縁電線の被覆層を薄肉化しやすいことから、ワイヤーハーネスの細径化を図りやすいなどの利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、以下では、本実施形態に係る電線被覆材用組成物を「本組成物」と、本実施形態に係る絶縁電線を「本電線」と、本実施形態に係るワイヤーハーネスを「本ワイヤーハーネス」ということがある。
【0022】
1.本組成物
本組成物は、ポリブチレンテレフタレートを含む高分子混合物100重量部に対して、リン酸エステル系化合物1〜30重量部を含有している。
【0023】
1.1 高分子混合物
本組成物において、上記高分子混合物は、ポリブチレンテレフタレートを40〜95重量%含んでいる。40重量%を下回ると、耐摩耗性が低下するなどの傾向が見られ、95重量%を上回ると、難燃性が低下するなどの傾向が見られるからである。
【0024】
上記高分子混合物中に含まれるポリブチレンテレフタレートの上限は、難燃性に優れるなどの観点から、好ましくは、90重量%以下、より好ましくは、85重量%以下である。一方、上記高分子混合物中に含まれるポリブチレンテレフタレートの下限は、耐摩耗性に優れるなどの観点から、好ましくは、45重量%以上、より好ましくは、50重量%以上である。
【0025】
ここで、本組成物では、上記高分子混合物中に含まれるポリブチレンテレフタレート成分全体に占める、分子量分布Mw/Mn(但し、Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量、以下省略)≧2.5のポリブチレンテレフタレートの割合が、5〜100重量%の範囲内にある。
【0026】
本組成物において、上記ポリブチレンテレフタレートの分子量分布Mw/Mnとは、次のようにして測定される値である。
【0027】
すなわち、測定対象となるポリブチレンテレフタレートをヘキサフロロイソプロパノール(HFIP)とクロロホルムとの混合液に溶解し、溶離液には、HFIPとCFCOONaとの混合液を使用し、GPC(ゲル浸透型クロマトグラフィー)装置を用いて紫外検出器により測定することができる。
【0028】
上記分子量分布Mw/Mn≧2.5のポリブチレンテレフタレートの割合が5重量%を下回ると、引張伸び、特に、熱老化後の引張伸びが低下する傾向が見られる。
【0029】
上記分子量分布Mw/Mn≧2.5のポリブチレンテレフタレートの割合の下限は、引張伸びに優れるなどの観点から、10重量%以上が好ましく、15重量%以上がより好ましく、20重量%以上が最も好ましい。
【0030】
なお、本組成物では、上記分子量分布Mw/Mnの上限は、特に限定されるものではないが、分子量分布が過度に広いポリブチレンテレフタレートは、その製造が難しく、入手もし難しい。このような観点から、上記分子量分布Mw/Mnの上限は、好ましくは、5以下、より好ましくは、4.5以下であると良い。
【0031】
また、分子量分布Mw/Mn≧2.5のポリブチレンテレフタレートが上記割合含まれておれば、本組成物中には、分子量分布Mw/Mn<2.5のポリブチレンテレフタレートが含まれていても良い。
【0032】
上記高分子混合物中に含まれるポリブチレンテレフタレート以外の成分(以下、「他成分高分子」ということがある。)は、特に限定されるものではないが、例えば、以下の高分子を例示することができる。以下の高分子は1種または2種以上混合されていても良い。
【0033】
上記他成分高分子としては、具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド;ポリエチレン(高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)など)、ポリプロピレン(ホモ、ランダム、ブロック)、ポリブテン、α−オレフィン共重合体(エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体(EBA)、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)など)などのオレフィン系重合体;ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマー;ポリスチレン(PS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体などのスチレン系樹脂や、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、これらの水添物などのスチレン系熱可塑性エラストマーなどといったスチレン系重合体;上記オレフィン系重合体を主鎖とし、側鎖として、上記スチレン系重合体がグラフトされたグラフト共重合体;上記ポリカーボネート系樹脂を主鎖とし、側鎖として、上記スチレン系重合体がグラフトされたグラフト共重合体などを例示することができる。
【0034】
また、上記他成分高分子は、グラフト法や直接(共重合)法などにより、カルボン酸基、酸無水基、エポキシ基、シラン基、オキサゾリン基などの官能基が導入されていても良い。これら官能基は1種または2種以上含まれていても良い。
【0035】
なお、上記カルボン酸基または酸無水基を導入する化合物としては、具体的には、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸などのα,β−不飽和ジカルボン酸またはこれらの無水物、アクリル酸、メタクリル酸、フラン酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ペンテン酸などの不飽和モノカルボン酸などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用しても良い。これらのうち、好ましくは、マレイン酸、無水マレイン酸などである。
【0036】
また、上記エポキシ基を導入する化合物としては、具体的には、例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸ジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸トリグリシジルエステルおよびα−クロロアクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、フマール酸などのグリシジルエステル類またはビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルオキシエチルビニルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類、p−グリシジルスチレンなどを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0037】
また、上記シラン基を導入する化合物としては、具体的には、例えば、ビニルトリメトキシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセチルシラン、ビニルトリクロロシランなどの不飽和シラン化合物などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0038】
1.2 リン酸エステル系化合物
本組成物は、上記のような高分子混合物100重量部に対して、リン酸エステル系化合物を1〜30重量部含有している。
【0039】
上記リン酸エステル化合物としては、具体的には、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、クレジルジ2,6−キシレニルホスフェートなどのハロゲンを含有しない芳香族リン酸エステル、1,3フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、1,3フェニレンビス(ジ2,6キシレニルホスフェート)、1,4フェニレンビス(ジ2,6キシレニルホスフェート)などのハロゲンを含有しない芳香族縮合リン酸エステルなどを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0040】
上記リン酸エステル系化合物の含有量が30重量部を上回ると、耐摩耗性が低下するなどの傾向が見られる。一方、1重量部を下回ると、難燃性が低下するなどの傾向が見られる。
【0041】
上記リン酸エステル系化合物の含有量の上限は、耐摩耗性に優れるなどの観点から、好ましくは、25重量部以下、より好ましくは、20重量部以下である。一方、上記リン酸エステル系化合物の含有量の下限は、難燃性に優れるなどの観点から、好ましくは、2重量部以上、より好ましくは、3重量部以上である。
【0042】
1.3 任意成分
本組成物は、必要に応じて以下の任意成分を含有していても良い。
【0043】
上記任意成分としては、通常、プラスチックス・ゴム用添加剤として使用される配合剤、具体的には、例えば、酸化防止剤(フェノール系、硫黄系、リン系など)、光安定剤、金属不活性剤(銅害防止剤など)、滑剤(脂肪酸系、脂肪酸アマイド、金属せっけん系、炭化水素系(ワックス系)、エステル系、シリコン系など)、造核剤、帯電防止剤、着色剤、難燃助剤(シリコン系、窒素系、ホウ酸亜鉛など)、カップリング剤(シラン系、チタネート系など)、柔軟剤(プロセスオイルなど)、亜鉛系化合物(酸化亜鉛、硫化亜鉛など)、補強剤(ガラス繊維、ワラストナイト、タルク、ベントナイト、モンモリロナイトなど)、充填剤(炭酸カルシウムなど)などを例示することができる。これらは本発明の趣旨を損なわない範囲内で適宜配合することができ、1種または2種以上含まれていても良い。
【0044】
1.4 本組成物の製造方法
本組成物の製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、二軸押出機などの混練機を用いて、全ての配合成分を一括で練ることにより本組成物を製造しても良いし、一部の配合成分を中間フィーダーなどから途中で添加して本組成物を製造しても良い。また、一部の配合成分を先に混練した後、残りの配合成分を後添加して2段練りするなどして本組成物を製造しても良い。
【0045】
2.本電線
本電線は、絶縁被覆材として、上述した本組成物より形成された被覆層(以下、「特定の被覆層」ということがある。)を有している。
【0046】
2.1 絶縁被覆材の層構成など
本電線は、被覆層を1層有していても良いし、複数層有していても良い。被覆層が1層よりなる場合には、この層が特定の被覆層に該当する。被覆層が複数層よりなる場合には、特定の被覆層は、何れの層にあっても良い。好ましくは、薄肉化しやすいなどの観点から、被覆層は1層であると良い。
【0047】
本電線の具体的な層構成としては、例えば、導体の外周に特定の被覆層が1層直接被覆された構成や、導体の外周に1層または2層以上の被覆層(特定の被覆層、他の被覆層、その組み合わせなど)が被覆され、その外周に特定の被覆層が被覆された構成などを例示することができる。
【0048】
上記特定の被覆層は、好ましくは、最外層に配置されていると良い。火(熱)や摺動などの外的要因を最も受けやすい表層部位に位置しておれば、その効果を発揮しやすいからである。
【0049】
上記特定の被覆層の厚さとしては、その好ましい上限値としては、具体的には、例えば、柔軟性、取扱い性などが良好であるなどの観点から、0.4、0.35、0.3、0.25、0.2mmなどを例示することができる。一方、これら上限値と組み合わせ可能な好ましい下限値として、具体的には、例えば、0.06mm、0.08mm、0.1mmなどを例示することができる。
【0050】
2.2 導体
上記導体としては、具体的には、例えば、単線、複数本の素線が撚り合わされた撚線、圧縮された撚線などを例示することができる。また、導体の材質としては、具体的には、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレスなどの金属(合金含む)を例示することができる。なお、導体が撚線からなる場合、各素線は、それぞれ同じ材質であっても良いし、2種以上の異なる材質の組み合わせであっても良い。また、その導体径などは、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択することができる。
【0051】
2.3 本電線の製造方法
本電線の製造方法としては、以下のような方法を例示することができる。本電線の構成が、例えば、導体の外周に特定の被覆層が1層直接被覆された構成である場合には、押出成形機などを用いて、上記導体の外周に上記本組成物を任意の厚さで被覆すれば、特定の被覆層を有する本電線を得ることができる。
【0052】
なお、被覆層が複数層よりなる場合には、各被覆層の形成材料を、上記と同様にして、所望の層順となるように押出被覆すれば良い。
【0053】
3.本ワイヤーハーネス
本ワイヤーハーネスは、本電線を有している。具体的には、本ワイヤーハーネスは、本電線を少なくとも含んだ電線束が、ワイヤーハーネス保護材により被覆されてなる。
【0054】
ここで、上記ワイヤーハーネス保護材は、上記電線束の外周を覆い、外部環境などから電線束を保護する役割を有するものである。
【0055】
このワイヤーハーネス保護材を構成する基材としては、ノンハロゲン系樹脂組成物、塩化ビニル樹脂組成物などを好適に用いることができる。
【0056】
ノンハロゲン系樹脂組成物としては、具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体などのポリオレフィンに、金属水和物(水酸化マグネシウムなど)などのノンハロゲン系難燃剤や各種添加剤を添加してなるポリオレフィン系難燃樹脂組成物などを例示することができる。
【0057】
また、このワイヤーハーネス保護材の形態としては、テープ状に形成された基材の少なくとも一方の面に粘着剤が塗布されたものや、チューブ状、シート状などに形成された基材を有するものなどが挙げられ、用途に応じて適宜選択して用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0059】
(供試材料)
本実施例において使用した供試材料を以下にまとめて示す。
【0060】
・ポリブチレンテレフタレート<1>(PBT<1>)[Mw/Mn=2.2、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、「NOVADURAN5020」]
・ポリブチレンテレフタレート<2>(PBT<2>)[Mw/Mn=2.2、ウィンテックポリマー(株)製、「DURANEX2002」]
・ポリブチレンテレフタレート<3>(PBT<3>)[Mw/Mn=2.6、CHANG CHUN PLASTICS CO.,LTD製、「1100−211X」]
・ポリブチレンテレフタレート<4>(PBT<4>)[Mw/Mn=2.5、ウィンテックポリマー(株)製、「DURANEX800FP」]
なお、上記各分子量分布Mw/Mnの値は、各ポリブチレンテレフタレートについて、上述したGPC法により測定した値である。
測定条件は下記の通りである。
測定装置:東ソー(株)製、「HLC−802A」
カラム:Shodex HFIP−LG+HFIP−806M×2本
溶離液:HFIP+10mM CFCOONa
温度:カラム恒温槽 40℃
流速:0.8ml/min
流圧:31kgf/cm
濃度:約0.1wt/vol%
注入量:500μl
前処理 0.2μm フィルタろ過
検出器:RI−8011
【0061】
・ポリエチレンテレフタレート(PET)[東洋紡績(株)製、「PETMAX RN203」]
・ポリカーボネート(PC)[出光興産(株)製、「タフロン A2500」]
・ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)[三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、「PX100L」]
・耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)[PSジャパン(株)製、「HT478」]
・スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)[クレイトンポリマージャパン(株)製、「KRATON G1652」]
・無水マレイン酸変性スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(MAH−SEBS)[クレイトンポリマージャパン(株)製、「KRATON FG1901X」]
・エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体(E−GMA−MA)[住友化学工業(株)製、「ボンドファースト7L」]
・ポリエステル系熱可塑性エラストマー(ハードセグメント:ポリエステル、ソフトセグメント:ポリエーテル)(ポリエステル系TPE)[東洋紡績(株)製、「ペルプレン P150B」]
【0062】
・トリフェニルホスフェート(リン酸エステル<1>)[大八化学工業(株)製、「TPP」]
・1,3フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)(リン酸エステル<2>)[大八化学工業(株)製、「CR−733S」]
・1,3フェニレンビス(ジ2,6キシレニルホスフェート)(リン酸エステル<3>)[大八化学工業(株)製、「PX200」]
・1,4フェニレンビス(ジ2,6キシレニルホスフェート)(リン酸エステル<4>)[大八化学工業(株)製、「PX201」]
【0063】
・フェノール系酸化防止剤[旭電化工業(株)製、「AO−60」]
・イオウ系酸化防止剤[旭電化工業(株)製、「AO412S」]
・リン系酸化防止剤[旭電化工業(株)製、「PEP−36」]
・光安定剤[旭電化工業(株)製、「LA51」]
・銅害防止剤[旭電化工業(株)製、「CDA−1」]
・タルク(補強剤<1>)[日本タルク(株)製、「SG−95」]
・ベントナイト(補強剤<2>)[クニミネ工業(株)製]
【0064】
(電線被覆材用組成物、絶縁電線の作製)
初めに、二軸押出機を用いて、後述する表に示した配合にしたがって各成分を混練し、実施例および比較例に係る電線被覆材用組成物のペレットを調製した。
【0065】
次いで、得られた各ペレットを乾燥させた後、押出成形機により、サイズ0.35mmの導体の外周に各組成物を1層被覆し、実施例および比較例に係る絶縁電線を得た。この際、各絶縁電線における被覆層の厚さは全て0.2mmとした。
【0066】
(試験方法)
以上のように作製した各絶縁電線について、難燃性、引張伸び、耐摩耗性について評価を行った。
【0067】
難燃性については、JASO D611に準拠して評価を行った。すなわち、絶縁電線を300mmの長さに切り出して試験片とした。次いで、各試験片を鉄製試験箱に入れて水平に支持し、口径10mmのブンゼンバーナーを用いて還元炎の先端を試験片中央部の下側から30秒以内で燃焼するまで当て、炎を静かに取り去った後の残炎時間を測定した。この残炎時間が15秒以内のものを合格とし、15秒を超えるものを不合格とした。
【0068】
引張伸びについては、JASO D611に準拠して評価を行った。すなわち、絶縁電線を150mmの長さに切り出し、導体を取り除いて被覆層のみの管状試験片とした後、その中央部に50mmの間隔で標線を記した。次いで、23±5℃の室温下にて試験片の両端を引張試験機のチャックに取り付けた後、引張速度200mm/分で引っ張り、試験片の破断時の荷重および標線間の距離を測定した。また、上記と同様にして管状試験片を採取した後、これを130℃の恒温槽内にて48時間放置して熱老化させ、その後、上記と同様の引張試験を行った。引張伸びについては初期の引張伸びおよび熱老化後の引張伸びがともに125%以上のものを合格とし、何れか一方または両方とも125%未満のものを不合格とした。
【0069】
耐摩耗性については、以下の試験により評価した。すなわち、コルゲートチューブに絶縁電線を挿通し、周波数30Hz、加速度44.0m/s、温度80℃、240時間の条件下にて、振動を加えた。このとき、被覆層が摩耗して導体が露出しなかったものを合格とし、導体が露出したものを不合格とした。
【0070】
以下の表1〜2に、本実施例および比較例に係る電線被覆材用組成物の成分配合、本実施例および比較例に係る絶縁電線の評価結果をまとめて示す。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
上記表2によれば、比較例に係る絶縁電線は、難燃性、引張伸び、耐摩耗性の評価項目のうち、何れかに難点があることが分かる。
【0074】
すなわち、より具体的には、比較例1および比較例2は、高分子混合物中におけるPBTの含有割合が本願の規定範囲外(過少)であるので、耐摩耗性を満足しない。
【0075】
比較例3〜比較例5は、分子量分布が2.5以上のPBTを全く含んでいないので、熱老化後の引張伸びを満足しない。
【0076】
比較例6は、高分子混合物中におけるPBTの含有割合が本願の規定範囲外(過多)であるので、難燃性を満足しない。
【0077】
比較例7は、リン酸エステル系化合物を全く含んでいないので、難燃性を満足しない。
【0078】
比較例8は、リン酸エステル系化合物の含有割合が本願の規定範囲外(過多)であるので、耐摩耗性を満足しない。
【0079】
これらに対して、上記表1によれば、本実施例に係る電線被覆材用組成物を被覆層に有する本実施例に係る絶縁電線は、難燃性、引張伸び、耐摩耗性の全てに優れることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレートを40〜95重量%含む高分子混合物100重量部に対して、リン酸エステル系化合物1〜30重量部を含有しており、
前記高分子混合物中に含まれるポリブチレンテレフタレート成分全体に占める、分子量分布Mw/Mn(但し、Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)が2.5以上のポリブチレンテレフタレートの割合が、5〜100重量%の範囲内にあることを特徴とする電線被覆材用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の電線被覆材用組成物より形成された被覆層を有することを特徴とする絶縁電線。
【請求項3】
前記被覆層の厚みは0.4mm以下であることを特徴とする請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
請求項2または3に記載の絶縁電線を有することを特徴とするワイヤーハーネス。

【公開番号】特開2008−66213(P2008−66213A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245129(P2006−245129)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】