説明

電荷輸送性ポリマー、有機電界発光素子用組成物、有機電界発光素子、有機ELディスプレイ及び有機EL照明

【課題】
本発明は、正孔輸送能が高く、溶解性及び成膜性に優れる電荷輸送性ポリマーと、該電荷輸送性ポリマーを含有する有機電界発光素子用組成物を提供することを課題とする。
本発明はまた、電流効率が高く、駆動安定性が高い有機電界発光素子を提供することを課題とする。
【解決手段】
側鎖として、下記式(1)で表される基を有することを特徴とする、電荷輸送性ポリマー。


(式(1)中のベンゾシクロブテン環は、置換基を有していてもよい。また、置換基同士が、互いに結合して環を形成してもよい。spacerは、3つ以上の単結合を介して、ベンゾシクロブテン環と電荷輸送性ポリマーの主鎖とをつなぐ基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷輸送性ポリマーと、該電荷輸送性ポリマーを含有する有機電界発光素子用組成物と、該電荷輸送性ポリマーを架橋させて形成される層を有する、電流効率が高く、駆動寿命が長い有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機薄膜を用いた電界発光素子(有機電界発光素子)の開発が行われている。有機電界発光素子における有機薄膜の形成方法としては、真空蒸着法と湿式成膜法が挙げられる。
真空蒸着法は積層化が容易であるため、陽極及び/又は陰極からの電荷注入の改善、励起子の発光層封じ込めが容易であるという利点を有する。湿式成膜法は真空プロセスが要らず、大面積化が容易で、1つの層(組成物)に様々な機能をもった複数の材料を混合して入れることが容易である等の利点がある。
【0003】
しかしながら、湿式成膜法は積層化が困難であるため、真空蒸着法による素子に比べて駆動安定性に劣り、一部を除いて実用レベルに至っていないのが現状である。特に、湿式成膜法での積層化は、有機溶剤と水系溶剤を使用するなどして二層の積層は可能であるが、三層以上の積層化は困難であった。
このような積層化における問題点を解決するために、特許文献1では、下記のように架橋性基としてオキセタン基を有するポリマーが提案され、このポリマーを塗布し、オキセタン基を反応させた層が開示されている。この層は、有機溶剤に不溶化しているため、この層上に他の層を積層することが可能である旨開示されている。しかしながら、この方法により得られる素子は、定電流通電時の駆動電圧が上昇したり、通電時の輝度安定性が低下したりして、駆動寿命が短いという課題があった。さらに、この方法では、平坦な層が形成されず、得られる素子の発光面が均一でないとの課題もあった。
【0004】
【化1】

【0005】
また、特許文献1及び非特許文献1では、電荷輸送性ポリマーの主鎖にスペーサ基を介してオキセタン基が結合した下記構造で示される電荷輸送性ポリマーが開示されている。しかしながら、これらのポリマーを用いて形成された素子は、駆動寿命が短くなるという課題があった。
【0006】
【化2】

【0007】
一方、特許文献2、特許文献3及び非特許文献2では、下記のように、架橋性基としてベンゾシクロブテン環由来の基を有するポリマーが開示されている。しかしながら、これらのポリマーでは、得られる素子の駆動電圧が上昇したり、また、駆動寿命が短いという課題があった。また、発光面が均一でなくなったり、得られる素子の電流効率が低下したりとの課題もあった。
【0008】
【化3】

【0009】
以上から、発光面が均一であり、電力効率が高く、駆動電圧が低く、また駆動寿命が長い有機電界発光素子が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2002/10129号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2008/032843号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2008/038747号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Macromolecules 2006年, 39巻, 8911頁
【非特許文献2】Chemistry of materials 2007年,19巻,4827頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、発光面が均一であり、電力効率が高く、駆動電圧が低く、また駆動寿命が長い有機電界発光素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、オキセタン基等のカチオン重合性基を有する化合物を用いて形成される層は、未反応のカチオン重合性基や架橋反応開始剤が通電時に分解することにより、素子特性に悪影響を及ぼしていることを見出した。
また、ポリマー主鎖の凝集が、成膜性や膜の平坦性に影響していることを見出した。
【0014】
そこで、これらの知見をもとに、分子設計を試みたところ、側鎖に下記式(1)で表される基を有する電荷輸送性ポリマーであれば、上記影響がなく、電力効率が高く、駆動電圧が低く、また駆動寿命が長い素子が得られることを見出して、本発明に到達した。
即ち、本発明は、側鎖に、下記式(1)で表される基を有することを特徴とする、電荷輸送性ポリマー及びこれを用いてなる有機電界発光素子用組成物、有機電界発光素子、並びに有機ELディスプレイ及び有機EL照明に存する。
【0015】
【化4】

【0016】
(式(1)中のベンゾシクロブテン環は、置換基を有していてもよい。また、置換基同士が、互いに結合して環を形成してもよい。spacerは、3つ以上の単結合を介して、ベンゾシクロブテン環と電荷輸送性ポリマーの主鎖とをつなぐ基を表す。)
【発明の効果】
【0017】
本発明の電荷輸送性ポリマーは、正孔輸送能が高く、有機溶剤に対する溶解性、成膜性及び電気化学的安定性に優れ、また架橋反応を行う際に架橋反応開始剤を必要としない。
また、本発明の電荷輸送性ポリマーを含有する有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜後、電荷輸送性ポリマーを架橋して得られる層(架橋層)は、有機溶剤に対して難溶であり、クラックなどが生じることがなく、平坦な層が得られる。
【0018】
そのため、本発明の電荷輸送性ポリマーを含む有機電界発光素子用組成物を用いて、湿式成膜後、電荷輸送性ポリマーを架橋して得られる層を有する有機電界発光素子は、大面積化が可能である。
本発明における架橋層を有する有機電界発光素子によれば、電力効率が高く、駆動電圧が低く、また駆動寿命が長い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】実施例で合成された電荷輸送性ポリマー(H1)と比較ポリマー1(H2)の蛍光スペクトル図である。縦軸は蛍光強度、縦軸は吸光波長(nm)、を表す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されない。
<電荷輸送性ポリマー>
本発明の電荷輸送性ポリマーは、側鎖として、下記式(1)で表される基を有する電荷輸送性ポリマーである。
【0021】
【化5】

【0022】
(式(1)中のベンゾシクロブテン環は、置換基を有していてもよい。また、置換基同士が、互いに結合して環を形成してもよい。spacerは、3つ以上の単結合を介して、ベンゾシクロブテン環と電荷輸送性ポリマーの主鎖とをつなぐ基を表す。)
[1.式(1)で表される基について]
本発明は、側鎖として、スペーサ基を介して、置換基を有していてもよいベンゾシクロブテン環由来の基が結合した電荷輸送ポリマーに関する。具体的には、側鎖として、下記式(1)で表される基を有する電荷輸送性ポリマーである。
【0023】
【化6】

【0024】
(式(1)中のベンゾシクロブテン環は、置換基を有していてもよい。また、置換基同士が、互いに結合して環を形成してもよい。spacerは、3つ以上の単結合を介して、ベンゾシクロブテン環と電荷輸送性ポリマーの主鎖とをつなぐ基を表す。)
本発明におけるspacer(以下、「スペーサ基」と称する)とは、通常3つ以上の単結合を介して、ベンゾシクロブテン環と電荷輸送性ポリマーの主鎖とをつなぐ基を意味する。
スペーサ基が有する単結合の数は、通常3以上、好ましくは4以上、また通常30以下、好ましくは20以下である。
【0025】
上記範囲内であると、膜のクラックやポリマー主鎖の凝集が起きにくく、電荷輸送能や耐熱性が良好である。
(1−1.式(1)中のベンゾシクロブテン環が有していてもよい置換基について)
式(1)中のベンゾシクロブテン環は、スペーサ基以外に置換基を有していてもよく、有していてもよい置換基としては、例えば、後述の[置換基群Z]の項に記載のものが挙げられる。
【0026】
また、置換基による立体障害や、置換基の電子的効果による架橋反応時の影響が小さい点で、式(1)中のベンゾシクロブテン環は、スペーサ基以外に置換基を有さないことが好ましい。
尚、置換基を有している場合は、架橋前の溶解性が高くなるため、環を形成していないほうが好ましく、一方、耐熱性が高くなるため、環を形成しているほうが好ましい。
【0027】
(1−2.式(1)の分子量について)
式(1)で表される基の分子量はその置換基も含めて、通常130以上、通常500以下、好ましくは300以下である。
上記範囲内であると、架橋反応を行う際に、膜がクラックしにくくなり、ポリマー主鎖が凝集しにくくなり、また電荷輸送能に影響を及ぼさない点で好ましい。
【0028】
(1−3.式(1)で表される基の架橋方法について)
式(1)で表される基は、通常架橋性基として用いられる。ここで「架橋性基」とは、
近傍に位置するほかの分子の同一又は異なる基と反応して、新規な化学結合を生成する基のことをいう。例えば、熱及び/又は活性エネルギー線の照射により、近傍に位置する他の分子の同一又は異なる基と反応して、新規な化学結合を生成する基が挙げられる。式(1)で表される基を架橋する方式については、後述の<有機電界発光素子>[成膜方法]の項に記載の方式と同様である。
【0029】
[2.式(2)について]
上記式(1)が、本発明の電荷輸送性ポリマーを加熱し、架橋反応させる際、反応部位であるベンゾシクロブテン環が自由に動くことができ、架橋反応が効率よく進行する点、また架橋反応後、架橋した主鎖同士が十分離れており、凝集やクラックが起こりにくい点で、前記式(1)で表される基は、下記式(2)で表される基であることが好ましい。
【0030】
【化7】

【0031】
(式(2)中、2価の基Qは、―CR―、―O―、―CO―、―NR―、及び―S―からなる群より選ばれる基を表し、nは2以上、30以下の自然数を表す。
〜Rは、各々独立して、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
また、n個のQは、同じでもよく、また異なっていてもよい。
【0032】
また、式(2)中のベンゾシクロブテン環は、2価の基Q以外に、置換基を有していてもよい。)
電荷輸送ポリマーが1分子中に、上記式(2)で表される基を複数有する場合、複数の上記式(2)で表される基は、同じでもよくまた異なっていてもよい。
(2−1.Qについて)
式(2)中、2価の基Qは、加熱時にベンゾシクロブテン環が自由に動くことを可能にする点、架橋反応後、架橋した主鎖同士を十分離すことを可能にする点で、―CR―、―O―、―CO―、―NR―、及び―S―からなる群より選ばれる基を表す。中でも電気的な耐久性に優れる点で、―CR―を含むことが好ましい。
【0033】
尚、n個のQは、互いに同じでもよく、又、異なっていてもよい。
(2−2.R〜Rについて)
式(2)中のR〜Rは、水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基であり、アルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。
また、R〜Rが置換基を有していてもよいアルキル基である場合、炭素数はその置換基も含めて、通常1以上、また、通常20以下、好ましくは10以下のものが挙げられる。具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、中でも好ましくはメチル基、エチル基である。
【0034】
〜Rは、電荷輸送能をさらに向上させる点、また、架橋反応を行う際に、膜がクラックしにくくなったり、ポリマー主鎖が凝集しにくくなったりする点で、水素原子であることが好ましい。
また、R〜Rがアルキル基である場合に、該アルキル基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ベンゾシクロブテン環由来の基が挙げられる。
【0035】
(2−3.nについて)
nは自然数を表し、通常2以上、好ましくは4以上、また通常30以下、好ましくは20以下である。
この下限値を下回ると、架橋反応を行う際に、膜がクラックしやすくなったり、ポリマー主鎖が凝集しやすくなったりするおそれがあり、またこの上限値を上回ると電荷輸送能が低下したり、耐熱性が低下したりする場合がある。
【0036】
(2−4.式(2)中のベンゾシクロブテン環が、2価の基Q以外に有していてもよい置換基について)
式(2)中のベンゾシクロブテン環は、2価の基Q以外に置換基を有していてもよく、有していてもよい置換基としては、前記(1−1.式(1)中のベンゾシクロブテン環が有していてもよい置換基について)の場合と同様である。また、好ましい態様も同様である。
【0037】
(2−5.式(2)の分子量について)
式(2)の分子量は、前記(1−2.式(1)の分子量について)の項に記載のものと同様である。また、好ましい態様も同様である。
[3.式(3)について]
前記式(2)で表される基は、電気的な耐久性に優れる点で、下記式(3)で表される基であることが好ましい。
【0038】
【化8】

【0039】
(式(3)中、R及びRは、各々独立して、水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基を表し、qは2以上、30以下の自然数を表す。
また、q個のR及びRは、各々独立に、同じでもよく、また異なっていてもよい。
電荷輸送性ポリマーが1分子中に、上記式(3)で表される基を複数有する場合、複数の上記式(3)で表される基は、同じでもよくまた異なっていてもよい。
【0040】
また、式(3)中のベンゾシクロブテン環は、―(CR)q―基以外に、置換基を有していてもよい。)
(3−1.R及びRについて)
式(3)中のR及びRは、前記(2−2.R〜Rについて)の項で記載のR及びRと同様である。また、好ましい態様も同様である。
【0041】
(3−2.qについて)
qは、2以上、30以下の自然数を表す。
上記qは、(2−3.nについて)の項に記載のnと同様である。好ましい態様も同様である。
(3−3.式(3)中のベンゾシクロブテン環が、―(CR―基以外に有していてもよい置換基について)
式(3)中のベンゾシクロブテン環は、―(CR―基以外に置換基を有していてもよく、有していてもよい置換基としては、前記(2−4.式(2)中のベンゾシクロブテン環が、2価の基Q以外に有していてもよい置換基について)の項に記載のものと同様である。また、好ましい態様も同様である。
【0042】
(3−4.式(3)で表される基の分子量について)
式(3)で表される基の分子量は、前記(2−5.式(2)の分子量について)の項に記載のものと同様である。また、好ましい態様も同様である。
尚、前記式(3)で表される基は、電荷輸送ポリマー中、後述の電荷輸送に適した部分構造又は該電荷輸送に適した部分構造以外に、結合してもよい。
【0043】
以下に、式(1)で表される基の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[式(1)で表される基の具体例]
【0044】
【化9】

【0045】
上記式(1)の具体例中、熱的及び電気化学的安定性に優れる点で、下記<式(1)で表される基群A>が、特に好ましい。
<式(1)で表される基群A>
【0046】
【化10】

【0047】
[4.電荷輸送性ポリマーについて]
本発明の電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、通常3,000,000以下、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下、さらに好ましくは200,000以下であり、また通常1,000以上、好ましくは2,500以上、より好ましくは5,000以上、さらに好ましくは20,000以上である。
【0048】
重量平均分子量がこの上限値を超えると、溶剤に対する溶解性が低下するため、成膜性が損なわれるおそれがある。また重量平均分子量がこの下限値を下回ると、電荷輸送性ポリマーのガラス転移温度、融点及び気化温度が低下するため、耐熱性が低下する場合がある。
また、本発明の電荷輸送性ポリマーにおける数平均分子量(Mn)は、通常2,500,000以下、好ましくは750,000以下、より好ましくは400,000以下であり、また通常500以上、好ましくは1,500以上、より好ましくは3,000以上である。
【0049】
さらに、本発明の電荷輸送性ポリマーにおける分散度(Mw/Mn)は、好ましくは3.5以下であり、さらに好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下である。尚、分散度は値が小さい程よいため、下限値は理想的には1である。該電荷輸送性ポリマーの分散度が、上記範囲内であると、精製が容易で、また溶剤に対する溶解性や電荷輸送能が良好である。
【0050】
通常、この重量平均分子量はSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)測定により決定される。SEC測定では高分子量成分ほど溶出時間が短く、低分子量成分ほど溶出時間が長くなるが、分子量既知のポリスチレン(標準試料)の溶出時間から算出した校正曲線を用いて、サンプルの溶出時間を分子量に換算することによって、重量平均分子量が算出される。
【0051】
[5.電荷輸送性ポリマーの構造]
本発明の電荷輸送性ポリマーとは、電荷(電子及び/又は正孔)を輸送するポリマーである。該電荷輸送性ポリマーを成膜して得られる電荷輸送層は、(A)電荷(電子及び/又は正孔)を隣接する層から受け取る、(B)電荷(電子及び/又は正孔)を層内で移動させる、(C)電荷(電子及び/又は正孔)を隣接する層に受け渡す、のいずれか1つ以上の機能を担う層である。
【0052】
より具体的には、本発明における電荷輸送性ポリマーとは、1種または2種以上の繰り返し単位を有するポリマーであって、少なくとも電荷輸送に適した部分構造を有する。なお、前記式(1)で表される基は、該電荷輸送に適した部分構造に結合してもよく、該電荷輸送に適した部分構造以外に結合してもよい。また、好ましくは、本発明の電荷輸送性ポリマーは、電荷輸送に適した部分構造のうち少なくとも一部が側鎖に前記式(1)で表
される基を有するポリマーである。
【0053】
電荷輸送に適した部分構造としては、例えばトリアリールアミン構造、カルバゾール環、ジベンゾチオフェン環、チオフェン環、アントラセン環、フルオレン環、ジベンゾフラン環、ピレン環、フェノキサジン環、フェナントロリン環などの3環以上の芳香族環構造、ピリジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、チオフェン環、シロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、オキサジアゾール環、ベンゾチアジアゾール環などの芳香族複素環構造、及び金属錯体構造等由来の1価以上の基が挙げられる。
【0054】
本発明の電荷輸送性ポリマーを、正孔輸送性ポリマーとして用いる場合は、上記電荷輸送に適した部分構造の中でも、特に、トリアリールアミン構造、カルバゾール環、ジベンゾチオフェン環、チオフェン環、アントラセン環、フルオレン環、ピレン環、フェノキサジン環、フェナントロリン環などの3環以上の芳香族環構造、などを含むポリマーが好ましい。
【0055】
更に、トリアリールアミン構造及び/又はフルオレン環由来の1価以上の基を含むことが、本発明の電荷輸送性ポリマーにおけるHOMO及び/又はLUMOが適度に非局在化し、電気化学的安定性及び電荷輸送能を向上させる点で好ましい。
本発明の電荷輸送性ポリマーは、主鎖が全体的に、又は、部分的に共役していることが、電荷輸送能を向上につながるためである。
【0056】
(5−1.式(4)について)
本発明の電荷輸送性ポリマーは、トリアリールアミン構造、より具体的には、下記式(4)で表される繰り返し単位を含むことが好ましい。尚、前記式(1)で表される基は、下記式(4)におけるAr11〜Ar15のいずれに結合していてもよく、また電荷輸送材性ポリマーにおける式(4)以外の部分に結合していてもよい。
【0057】
【化11】

【0058】
(式中、mは0〜3の整数を表し、
Ar11、及びAr12は、各々独立して、直接結合、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、
Ar13〜Ar15は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
【0059】
但し、Ar11及びAr12が同時に、直接結合であることはない。)
(5−1−1.Ar11〜Ar15について)
式(4)中、Ar11及びAr12は、各々独立して、直接結合、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、Ar13〜Ar15は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
【0060】
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレ
ン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの、6員環の単環又は2〜5縮合環由来の基が挙げられる。
置換基を有していてもよい芳香族複素環基としては、例えばフラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などの、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の基が挙げられる。
【0061】
溶剤に対する溶解性、及び耐熱性の点から、Ar11〜Ar15は、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、フルオレン環からなる群より選ばれる環由来の基が好ましい。
また、Ar11〜Ar15としては、前記群から選ばれる1種又は2種以上の環を直接結合、又は―CH=CH―基により連結した基も好ましく、ビフェニル基及びターフェニル由来基、がさらに好ましい。
前記置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基及び置換基を有していてもよい芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、例えば後述の[置換基群Z]に記載の基が挙げられる。
【0062】
[置換基群Z]
メチル基、エチル基等の好ましくは炭素数1〜24、更に好ましくは炭素数1〜12のアルキル基;
ビニル基等の好ましくは炭素数2〜24、更に好ましくは炭素数2〜12のアルケニル基;
エチニル基等の好ましくは炭素数2〜24、更に好ましくは炭素数2〜12のアルキニル基;
メトキシ基、エトキシ基等の好ましくは炭素数1〜24、更に好ましくは炭素数1〜12のアルコキシ基;
フェノキシ基、ナフトキシ基、ピリジルオキシ基等の好ましくは炭素数4〜36、更に好ましくは炭素数5〜24のアリールオキシ基;
メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の好ましくは炭素数2〜24、更に好ましくは炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基;
ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の好ましくは炭素数2〜24、更に好ましくは炭素数2〜12のジアルキルアミノ基;
ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、N−カルバゾリル基等の好ましくは炭素数10〜36、更に好ましくは炭素数12〜24のジアリールアミノ基;
フェニルメチルアミノ基等の好ましくは炭素数6〜36、更に好ましくは炭素数7〜24のアリールアルキルアミノ基;
アセチル基、ベンゾイル基等の好ましくは炭素数2〜24、好ましくは炭素数2〜12のアシル基;
フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;
トリフルオロメチル基等の好ましくは炭素数1〜12、更に好ましくは炭素数1〜6のハロアルキル基;
メチルチオ基、エチルチオ基等の好ましくは炭素数1〜24、更に好ましくは炭素数1〜12のアルキルチオ基;
フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等の好ましくは炭素数4〜36、更に好ましくは炭素数5〜24のアリールチオ基;
トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等の好ましくは炭素数2〜36、更に好ましくは炭素数3〜24のシリル基;
トリメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基等の好ましくは炭素数2〜36、更に好ましくは炭素数3〜24のシロキシ基;
シアノ基;
フェニル基、ナフチル基等の好ましくは炭素数6〜36、更に好ましくは炭素数6〜24の芳香族炭化水素基;
チエニル基、ピリジル基等の好ましくは炭素数3〜36、更に好ましくは炭素数4〜24の芳香族複素環基
上記各置換基は、さらに置換基を有していてもよく、その例としては前記置換基群Zに例示した基が挙げられる。
【0063】
Ar11〜Ar15における芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が後述の不溶化基以外に有してもよい置換基の分子量としては、さらに置換した基を含めて500以下が好ましく、250以下がさらに好ましい。
溶剤に対する溶解性の点から、Ar11〜Ar15における芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、各々独立に、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数1〜12のアルコキシ基が好ましい。
【0064】
なお、mが2以上である場合、前記式(4)で表される繰り返し単位は、2個以上のAr14及びAr15を有することになる。その場合、Ar14同士及びAr15同士は、各々、同じでもよく、異なっていてもよい。さらに、Ar14同士、Ar15同士は、各々互いに直接又は連結基を介して結合して環状構造を形成していてもよい。
Ar11〜Ar15が有していてもよい置換基としては、後述の(5−3.式(1)で表される基以外の架橋性基)に記載の架橋性基であってもよい。
【0065】
(5−1−2.mについて)
式(4)におけるmは、0以上、3以下の整数を表す。
mは0であることが、架橋性重合体の、有機溶剤に対する溶解性及び成膜性が高められる点で好ましい。
また、mは1以上、3以下であることが、ポリマーの正孔輸送能が向上する点で好ましい。
【0066】
(5−2.式(4’)について)
式(1)で表される基が、式(4)で表される繰り返し単位中に含まれる場合、前記式(4)で表される繰り返し単位は、下記式(4’)で表される繰り返し単位であることが好ましい。これは、Ar23に式(1)で表される基を有する場合、他の位置に結合した場合よりも、式(4’)で表される部分構造の酸化還元安定性に優れ、また電荷輸送性ポリマーが凝集しないためである。
【0067】
【化12】

【0068】
(式中、pは0〜3の整数を表し、
Ar21及びAr22は、各々独立に、直接結合、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、
Ar23〜Ar25は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、
Tは前記式(1)で表される基を表す。
【0069】
但し、Ar21及びAr22が同時に、直接結合であることはない。)
(5−2−1.Ar21〜Ar25について)
Ar21及びAr22は、各々独立に、直接結合、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、
Ar23〜Ar25は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
【0070】
Ar21〜Ar25における置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、及び置換基を有していてもよい芳香族複素環基の具体例は、前記(5−1−1.Ar11〜Ar15について)の項で記載のものと同様である。また、好ましい例も同様である。
更に、有していてもよい置換基も同様である。
(5−2−2.pについて)
上記pは、(5−1−2.mについて)の項に記載のmと同様である。好ましい例も同様である。
【0071】
(5−2−3.Tについて)
式(4’)中のTは、式(1)で表される基を表し、具体例及び好ましい基についても、前記[1.式(1)で表される基について]の項で記載したものと同様である。
(5−3.式(1)で表される基以外に有していてもよい架橋性基)
本発明の電荷輸送性ポリマーは、式(1)で表される基以外の架橋性基を有していてもよい。
【0072】
式(1)で表される基以外の架橋性基としては、例えば、ラジカル重合性基、カチオン重合性基、アニオン重合性基、環化付加性基が挙げられる。中でも、カチオン重合性基が好ましく、カチオン重合性基としては、例えば、エポキシ基、オキセタン基などの環状エーテル基、ビニルエーテル基、スチリル基などが挙げられる。
中でも、式(1)で表される基が含むベンゾシクロブテン環と反応し、安定な6員環を形成し得る点で、スチリル基が特に好ましい。
【0073】
(5−3−1.式(5)で表される基について)
具体的には、下記式(5)で表される基を含む基であることが好ましい。
【0074】
【化13】

【0075】
(式(5)中、スチリル基は、置換基を有していてもよい。また、置換基同士が、結合して環を形成していてもよい。)
式(5)中のスチリル基は、置換基を有していてもよいが、好ましくは無置換である。有していてもよい置換基としては、前記(2−4.式(2)中のベンゾシクロブテン環が
、2価の基Q以外に有していてもよい置換基について)の項に記載のものと同様である。
【0076】
また、式(5)で表される基は、合成し易いという点で電荷輸送性ポリマー中に直接結合していることが好ましく、またスチリル基の反応性が高められる点で、スペーサ基を介して側鎖として含まれていてもよい。尚、式(5)で表される基がスペーサ基を介して含まれている場合、該スペーサ基は、本発明におけるものと同様のものを用いることができる。
なお、これら式(1)で表される基以外の架橋性基は、前記式(1)で表される基と同様、本発明の電荷輸送性ポリマーの性能を損なわない限り、該ポリマーのどの部分に結合してもよく、例えば、電荷輸送に適した部分構造に結合してもよく、また該部分構造以外に結合してもよい。
【0077】
本発明の電荷輸送性ポリマーが、式(1)で表される基以外の架橋性基を有する場合、式(1)で表される基1個に対して、通常3個以下、好ましくは1個以下である。また、式(1)で表される基以外の架橋性基を含まないことがより好ましい。
[6.式(1)で表される基の数]
本発明においては、本発明の電荷輸送性ポリマーが有する式(1)で表される基の数を、分子量1000あたりの数で表す。ここで、電荷輸送性ポリマーの分子量1000あたりの式(1)で表される基の数は、電荷輸送性ポリマーからその末端基を除いて、合成時の仕込みモノマーのモル比と、構造式から算出することができる。
【0078】
例えば、後述の実施例1で用いた電荷輸送性ポリマー(H1)の場合で説明する。
【0079】
【化14】

【0080】
電荷輸送性ポリマー(H1)において、末端基を除いた分子量は410.3であり、また式(1)で表される基の数は、1分子当たり平均0.1408個である。これを単純比例により計算すると、分子量1000あたりの式(1)で表される基の数は、0.255個と算出される。
本発明の電荷輸送性ポリマーが有する式(1)で表される基の数は、分子量1000あたり、通常3.0個以下、好ましくは2.0個以下、さらに好ましくは1.0個以下、また通常0.01個以上、好ましくは0.05個以上である。
【0081】
この上限値を上回ると、クラックによって平坦な膜が得られなかったり、また、架橋密度が大きくなりすぎて、架橋層中に未反応の式(1)で表される基が増えて、得られる素子の寿命に影響を及ぼすおそれがある。一方、この下限値を下回ると、架橋層の不溶化が不十分となり、湿式成膜法で多層積層構造が形成できないおそれがある。
[7.具体例について]
以下、本発明の電荷輸送性ポリマーの繰り返し単位の好ましい例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0082】
(式(1)で表される基を含む繰り返し単位群)
【0083】
【化15】

【0084】
【化16】

【0085】
以下に、式(1)で表される基を含まない繰り返し単位群の、好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0086】
【化17】

【0087】
【化18】

【0088】
[8.式(1)で表される基が好ましい理由]
架橋性基の中で、式(1)で表される基が、好ましい理由を発明者等は以下のように推測する。
式(1)で表される基が架橋されると、新規な化学結合として環を形成する。その為、
本発明の電荷輸送性ポリマーを架橋させて形成される層(架橋層)は、電気化学的に安定であり、本発明における架橋層を有する有機電界発光素子は、電流効率が高く、また駆動寿命が長いと推測される。
【0089】
式(1)で表される基は、スペーサ基を有するため、式(1)で表される基に含まれるベンゾシクロブテン環の自由度が高くなる。これより、同一系内に存在する式(1)で表される基との結合確率が高くなる。その結果、架橋層中に残存する式(1)で表される基が少なくなり、クラックが生じにくくなる。加えて、主鎖構造が近接する割合が少なくなるため、主鎖の凝集が起こりにくくなり、膜の平坦性に優れる。
【0090】
また、式(1)で表される基は、架橋反応開始剤を必ずしも必要としないため、本発明の電荷輸送性ポリマーを用いて有機層を形成しても、通電によって架橋反応開始剤が分解することによる悪影響を避けることができる。
さらに、形成した有機層中に架橋性基が残存した場合、他の架橋性基、例えば極性が高いカチオン重合性基は電荷のトラップや劣化の原因となりやすい。しかし、式(1)で表される基に含まれるベンゾシクロブテン環は極性が小さいため、有機層中に残存しても素子特性に対する悪影響が少ない。
【0091】
<合成方法>
本発明の電荷輸送性ポリマーは、目的とする化合物の構造に応じて原料を選択し、公知の手法を用いて合成することができる。
ベンゾシクロブテン環にスペーサ基を結合する方法としては、公知のカップリング手法が適用可能である。
【0092】
例えば、ブロモベンゾシクロブテンにリチウム又はマグネシウムを作用させ、有機リチウム試薬又は有機マグネシウム試薬(グリニャール試薬)を調整した後、アルキルブロマイドと反応させる方法(但し、反応式中に記載したように、Brは―CR―と結合している必要がある)、
【0093】
【化19】

【0094】
(上記式中、Mはポリマー構造、ポリマー化する前のモノマー構造、以後の工程でポリマ
ー構造と結合する基を表す。)
ブロモベンゾシクロブテンとアルキンをパラジウム触媒、銅触媒、塩基の存在下反応(薗頭反応)させ、得られたイン化合物を、還元鉄、パラジウム/カーボン等の触媒存在下、水素分子、ヒドラジン一水和物などで水添反応させる方法、
ブロモベンゾシクロブテンとアルケンをパラジウム触媒、塩基の存在下反応(ヘック反応)させ、得られたエン化合物を、還元鉄、パラジウム/カーボン等の触媒存在下、水素分子、ヒドラジン一水和物などで水添反応させる方法、
【0095】
【化20】

【0096】
(上記式中、Mはポリマー構造、ポリマー化する前のモノマー構造、以後の工程でポリマ
ー構造と結合する基を表す。nは2以上の自然数を表す。spacerは、3つ以上の単結合を介して、ベンゾシクロブテン環と電荷輸送性ポリマーの主鎖とをつなぐ基を表す。)
ブロモベンゾシクロブテンとアルケニルホウ素化合物又はアルキニルホウ素化合物をパラジウム触媒、塩基の存在下反応(鈴木反応)させ、得られたエン化合物又はイン化合物を、還元鉄、パラジウム/カーボン等の触媒存在下、水素分子、ヒドラジン一水和物などで水添反応させる方法、ブロモベンゾシクロブテンとアルケニルスズ化合物をパラジウム触媒の存在下反応(スティレ反応)させ、得られたエン化合物を、還元鉄、パラジウム/カーボン等の触媒存在下、水素分子、ヒドラジン一水和物などで水添反応させる方法、
【0097】
【化21】

【0098】
(上記式中、Mはポリマー構造、ポリマー化する前のモノマー構造、以後の工程でポリマ
ー構造と結合する基を表し、
Gは、2つの置換基を有するホウ素原子BR又は、3つの置換基を有するスズ原子S
nRを表す。Rは任意の置換基を表す。nは2以上の自然数を表す。spacerは、3つ以上の単結合を介して、ベンゾシクロブテン環と電荷輸送性ポリマーの主鎖とをつなぐ基を表す。尚、上記式中2つの置換基を有するホウ素原子BR2が有するRは、例えば
ヒドロキシル基やアルコキシ基が挙げられる。また3つの置換基を有するスズ原子SnR3が有するRは、例えばアルキル基などが挙げられる。)
などが挙げられる。
【0099】
尚、上記式中、2つの置換基を有するホウ素原子BRが有するRは、例えばヒドロキシル基やアルコキシ基が挙げられる。また、3つの置換基を有するスズ原子SnRが有するRは、例えばアルキル基などが挙げられる。
本発明の電荷輸送性ポリマーの合成方法としては、例えば、下記式のように式(IIIa)で表されるハロゲン化物のみを、Ar−Ar結合を形成する反応によって逐次重合させることによって、重合体を得ることができる。反応は、通常、銅やパラジウム、ニッケル錯体等の遷移金属触媒存在下で行われる。
【0100】
【化22】

【0101】
(上記式中、Xはハロゲン原子又は、CFSOO−基のようなスルホン酸エステル基を表し、Arは置換基を有してもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有してもよい芳香族複素環基を表す。nは1以上の自然数を表す。)
また、例えば、式(IIIa)で表されるハロゲン化物と一般式(IIIb)で表される二級アミン化合物とを、N−Ar結合を形成する反応(例えば、Buchwald−Hartwingカップリング、Ullmannカップリング)によって逐次重合させることによって得られる。N−Ar結合を形成する反応は、炭酸カリウム、tert-ブトキシナトリ
ウム、トリエチルアミン等の塩基存在下で行い、必要に応じて、銅やパラジウム錯体等の遷移金属触媒存在下で行うこともできる。
【0102】
【化23】

【0103】
(上記式中、Xはハロゲン原子又は、CFSOO−基のようなスルホン酸エステル基を表し、Ar’は置換基を有してもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有してもよい芳香族複素環基を表し、Ar、Arは各々独立に置換基を有してもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有してもよい芳香族複素環基を表す。nは1以上の自然数を表す。)
例えば、式(IIIa)で表されるハロゲン化物と一般式(IIIc)で表されるホウ素化合物とを、Ar−Ar結合を形成する反応(例えば、Suzukiカップリング)によって逐次重合させることによって得られる。Ar−Ar結合を形成する反応は、炭酸カリウム、tert-ブトキシナトリウム、トリエチルアミン等の塩基存在下で行い、必要に応じて
、銅やパラジウム錯体等の遷移金属触媒存在下で行うこともできる。
【0104】
【化24】

【0105】
(上記式中、Xはハロゲン原子又は、CFSOO−基のようなスルホン酸エステル基を表し、R’はヒドロキシ基または互いに結合して環を形成してもよいアルコキシ基を表す。
Ar及びArは、各々独立に置換基を有してもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有してもよい芳香族複素環基を表す。nは1以上の自然数を表す。)
また、本発明の電荷輸送性ポリマーは、上述した重合方法以外にも、特開2001−2
23084号公報に記載の重合方法、特開2003−213002号公報に記載の重合方法、特開2004−2740号公報に記載の重合方法、さらには、不飽和二重結合を有する化合物のラジカル重合、エステル結合やアミド結合を形成する反応による逐次重合などを用いることができる。
【0106】
その他、公知のカップリング反応が使用可能である。公知のカップリング手法としては、具体的には、「Palladium in Heterocyclic Chemistry:A guide for the Synthetic Chemist」(第二版、2002、Jie Jack Li and Gordon W.Gribble、Pergamon社)、「遷移金属が拓く有機合成 その多彩な反応形式と最新の成果」(1997年、辻二郎、化学同仁社)、「ボルハルト・ショアー現代有機化学 下」(2004年、K.P.C.Vollhardt、化学同人社))などに記載または引用されている、ハロゲン化アリールとアリールボ
レートとのカップリング反応などの、環同士の結合(カップリング)反応)を用いることができる。
【0107】
なお、前記式(1)で表される基は、前述したように、予め本発明の電荷輸送性ポリマーの原料であるモノマーに結合させておき、これを重合することにより本発明の電荷輸送性ポリマーを得てもよいし、また、本発明の電荷輸送性ポリマーの主鎖にあたる部分を合成した後に、所望の部分に式(1)で表される基を結合してもよい。
化合物の精製方法としては、「分離精製技術ハンドブック」(1993年、(財)日本化学会編)、「化学変換法による微量成分及び難精製物質の高度分離」(1988年、(株)アイ ピー シー発行)、あるいは「実験化学講座(第4版)1」(1990年、(財)日本化学会編)の「分離と精製」の項に記載の方法をはじめとし、公知の技術を利用可能である。具体的には、抽出(懸濁洗浄、煮沸洗浄、超音波洗浄、酸塩基洗浄を含む)、吸着、吸蔵、融解、晶析(溶剤からの再結晶、再沈殿を含む)、蒸留(常圧蒸留、減圧蒸留)、蒸発、昇華(常圧昇華、減圧昇華)、イオン交換、透析、濾過、限外濾過、逆浸透、圧浸透、帯域溶解、電気泳動、遠心分離、浮上分離、沈降分離、磁気分離、各種クロマトグラフィー(形状分類:カラム、ペーパー、薄層、キャピラリー、移動相分類:ガス、液体、ミセル、超臨界流体。分離機構:吸着、分配、イオン交換、分子ふるい、キレート、ゲル濾過、排除、アフィニティー)などが挙げられる。
【0108】
生成物の確認や純度の分析方法としては、ガスクロマトグラフ(GC)、高速液体クロマトグラフ(HPLC)、高速アミノ酸分析計(有機化合物)、キャピラリー電気泳動測定(CE)、サイズ排除クロマトグラフ(SEC)、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)、交差分別クロマトグラフ(CFC)、質量分析(MS、LC/MS,GC/MS,MS/MS)、核磁気共鳴装置(NMR(1HNMR,13CNMR))、フーリエ変換赤外分光高度計(FT−IR)、紫外可視近赤外分光高度計(UV.VIS,NIR)、電子スピン共鳴装置(ESR)、透過型電子顕微鏡(TEM-EDX)電子線マイクロアナラ
イザー(EPMA)、金属元素分析(イオンクロマトグラフ、誘導結合プラズマ−発光分光(ICP−AES)原子吸光分析(AAS)、蛍光X線分析装置(XRF))、非金属元素分析、微量成分分析(ICP−MS,GF−AAS,GD−MS)等を必要に応じ、適用可能である。
【0109】
<電荷輸送性ポリマーの用途>
本発明の電荷輸送性ポリマーは、電荷輸送材料として用いられることが好ましく、特に有機電界発光素子材料として用いられることが好ましい。有機電界発光素子材料として用いられる場合は、有機電界発素子における正孔注入層及び/又は正孔輸送層の電荷輸送材料として用いることが好ましい。
【0110】
また、有機電界発光素子を簡便に製造できることから、本発明の電荷輸送性ポリマーは、湿式成膜法で形成される有機層に用いることが好ましい。
<網目状高分子化合物>
本発明の電荷輸送性ポリマーは、下記<有機電界発光素子用組成物>[成膜方法]の項で記載のように、加熱及び/又は光などの活性エネルギー照射により、架橋反応を起こし、網目状高分子化合物を形成することができる。網目状高分子化合物を含む層は、下記詳述の正孔注入層及び/又は正孔輸送層であることが好ましい。
【0111】
<有機電界発光素子用組成物>
本発明の有機電界発光素子用組成物は、本発明の電荷輸送性ポリマーを少なくとも1種含む組成物である。
本発明の有機電界発光素子用組成物は、陽極と陰極の間に配置された有機層を有する有機電界発光素子において、通常、該有機層を湿式成膜法により形成する際の塗布液として用いられる。本発明の有機電界発光素子用組成物は、該有機層のうち、正孔輸送層を形成するために用いられることが好ましい。
【0112】
なお、ここでは、有機電界発光素子における陽極−発光層間の層が1つの場合には、これを「正孔輸送層」と称し、2つ以上の場合は、陽極に接している層を「正孔注入層」、それ以外の層を総称して「正孔輸送層」と称す。また、陽極−発光層間に設けられた層を総称して「正孔注入・輸送層」と称する場合がある。
本発明の有機電界発光素子用組成物は、本発明の電荷輸送性ポリマーを含有することを特徴とするが、通常、さらに溶剤を含有する。
【0113】
該溶剤は、本発明の電荷輸送性ポリマーを溶解するものが好ましく、通常、高分子化合物を常温で0.05重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上溶解する溶剤である。
なお、本発明の有機電界発光素子用組成物は、本発明の電荷輸送性ポリマーの1種のみを含むものであってもよく、2種以上を含むものであってもよい。
【0114】
本発明の有機電界発光素子用組成物は、本発明の電荷輸送性ポリマーを通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下含有する。
また、上記組成物は、各種添加物等の添加剤を含んでいてもよい。この場合は、溶剤としては、本発明の電荷輸送性ポリマーと添加剤の双方を0.05重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上溶解する溶剤を使用することが好ましい。
【0115】
本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる、本発明の電荷輸送性ポリマーの架橋反応を促進する添加物としては、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩などの重合開始剤や重合促進剤、縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物などの光増感剤等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0116】
本発明の有機電界発光素子用組成物は、正孔注入層を形成するために用いる場合、形成した層の抵抗値を低下する点で、さらに電子受容性化合物を含有することが好ましい。
電子受容性化合物としては、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましい。具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物である化合物がさらに好ましい。
【0117】
電子受容性化合物の例としては、例えば、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニル
ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート等の有機基の置換したオニウム塩、塩化鉄(III)(特開平11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物、テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物、フラーレン誘導体、ヨウ素等が挙げられる。
【0118】
上記の化合物のうち、強い酸化力を有する点で、有機基の置換したオニウム塩、高原子価の無機化合物等が好ましい。また、種々の溶剤に対する溶解性が高く湿式成膜法で膜を形成するのに適用可能である点で、有機基の置換したオニウム塩、シアノ化合物、芳香族ホウ素化合物等が好ましい。
電子受容性化合物として好適な有機基の置換したオニウム塩、シアノ化合物、芳香族ホウ素化合物の具体例としては、国際公開第2005/089024号パンフレットに記載のものが挙げられ、その好ましい例も同様である。例えば、下記構造式で表わされる化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0119】
【化25】

【0120】
なお、電子受容性化合物は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶剤としては、特に制限されるものではないが、本発明の電荷輸送性ポリマーを溶解させる必要があることから、好ましくは、トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族系溶剤;1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等の含ハロゲン溶剤;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等のエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸イソプロピル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等のエステル系溶剤等の有機溶剤が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0121】
本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶剤の組成物中の濃度は、通常10重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは80重量%以上である。
なお、水分は有機電界発光素子の性能劣化、中でも特に連続駆動時の輝度低下を促進する可能性があることが広く知られており、塗膜中に残留する水分をできる限り低減するために、これらの溶剤の中でも、25℃における水の溶解度が1重量%以下であるものが好
ましく、0.1重量%以下である溶剤がより好ましい。
【0122】
本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶剤として、20℃における表面張力が40dyn/cm未満、好ましくは36dyn/cm以下、より好ましくは33dyn/cm以下である溶剤が挙げられる。
即ち、本発明における架橋層を湿式成膜法により形成する場合、下地との親和性が重要である。膜質の均一性は有機電界発光素子の発光の均一性、安定性に大きく影響するため、湿式成膜法に用いる塗布液には、よりレベリング性が高く均一な塗膜を形成しうるように表面張力が低いことが求められる。このような溶剤を使用することにより、本発明における架橋層を均一に形成することができる。
【0123】
このような低表面張力の溶剤の具体例としては、前述したトルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族系溶剤、安息香酸エチル等のエステル系溶剤、アニソール等のエーテル系溶剤、トリフルオロメトキシアニソール、ペンタフルオロメトキシベンゼン、3−(トリフルオロメチル)アニソール、エチル(ペンタフルオロベンゾエート)等が挙げられる。
【0124】
これらの溶剤の組成物中の濃度は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上である。
本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶剤としてはまた、25℃における蒸気圧が10mmHg以下、好ましくは5mmHg以下で、通常0.1mmHg以上の溶剤が挙げられる。このような溶剤を使用することにより、有機電界発光素子を湿式成膜法により製造するプロセスに好適な、また、本発明の電荷輸送性ポリマーの性質に適した組成物を調製することができる。このような溶剤の具体例としては、前述したトルエン、キシレン、メチシレン等の芳香族系溶剤、エーテル系溶剤及びエステル系溶剤が挙げられる。これらの溶剤の組成物中の濃度は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上である。
【0125】
本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶剤として、25℃における蒸気圧が2mmHg以上、好ましくは3mmHg以上、より好ましくは4mmHg以上(但し、上限は好ましくは10mmHg以下である。)である溶剤と、25℃における蒸気圧が2mmHg未満、好ましくは1mmHg以下、より好ましくは0.5mmHg以下である溶剤との混合溶剤が挙げられる。このような混合溶剤を使用することにより、湿式成膜法により本発明の電荷輸送性ポリマー、更には電子受容性化合物を含む均質な層を形成することができる。このような混合溶剤の組成物中の濃度は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上である。
【0126】
有機電界発光素子は、有機化合物からなる層を多数積層して形成するため、膜質が均一であることが非常に重要である。湿式成膜法で層形成する場合、その材料や、下地の性質によって、スピンコート法、スプレー法などの塗布法や、インクジェット法、スクリーン法などの印刷法等の成膜方法が採用できる。例えばスプレー法は、凹凸のある面への均一な膜形成に有効であるため、パターニングされた電極や画素間の隔壁による凹凸が残る面に、有機化合物からなる層を設ける場合に、好ましい。スプレー法による塗布の場合、ノズルから塗布面へ噴射された塗布液の液滴はできる限り小さい方が、均一な膜質が得られるため好ましい。そのためには、塗布液に蒸気圧の高い溶剤を混合し、塗布雰囲気中において噴射後の塗布液滴から溶剤の一部が揮発することにより、基板に付着する直前に細かい液滴が生成する状態が好ましい。また、より均一な膜質を得るためには、塗布直後に基板上に生成した液膜がレベリングする時間を確保することが必要で、この目的を達成するためにはより乾燥の遅い溶剤、すなわち蒸気圧の低い溶剤をある程度含有させる手法が用いられる。
【0127】
具体例としては、25℃における蒸気圧が2mmHg以上10mmHg以下である溶剤としては、例えば、キシレン、アニソール、シクロヘキサノン、トルエン等の有機溶剤が挙げられる。25℃における蒸気圧が2mmHg未満である溶剤としては、安息香酸エチル、安息香酸メチル、テトラリン、フェネトール等が挙げられる。
混合溶剤の比率は、25℃における蒸気圧が2mmHg以上である溶剤が、混合溶剤総量中、5重量%以上、好ましくは25重量%以上、但し50重量%未満であり、25℃における蒸気圧が2mmHg未満である溶剤が、混合溶剤総量中、30重量%以上、好ましくは50重量%以上、特に好ましくは75重量%以上、但し、95重量%未満である。
【0128】
なお、有機電界発光素子は、多数の有機化合物からなる層を積層して形成するため、各層がいずれも均一な層であることが要求される。湿式成膜法で層形成する場合、層形成用の溶液(組成物)に水分が混入することにより、塗膜に水分が混入して膜の均一性が損なわれるおそれがあるため、溶液中の水分含有量はできるだけ少ない方が好ましい。具体的には、有機電界発光素子組成物中に含まれる水分量は、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下、さらに好ましくは0.05重量%以下である。
【0129】
また、有機電界発光素子は、陰極等の水分により著しく劣化する材料が多く使用されているため、素子の劣化の観点からも、水分の存在は好ましくない。溶液中の水分量を低減する方法としては、例えば、窒素ガスシール、乾燥剤の使用、溶剤を予め脱水する、水の溶解度が低い溶剤を使用する等が挙げられる。なかでも、水の溶解度が低い溶剤を使用する場合は、塗布工程中に、溶液塗膜が大気中の水分を吸収して白化する現象を防ぐことができるため好ましい。
【0130】
この様な観点からは、本発明の有機電界発光素子用組成物は、例えば25℃における水の溶解度が1重量%以下(好ましくは0.1重量%以下)である溶剤を、該組成物中10重量%以上含有することが好ましい。なお、上記溶解度条件を満たす溶剤が30重量%以上であればより好ましく、50重量%以上であれば特に好ましい。
なお、本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶剤として、前述した溶剤以外にも、必要に応じて、各種の他の溶剤を含んでいてもよい。このような他の溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等がある。
【0131】
また、本発明の有機電界発光素子用組成物は、レベリング剤や消泡剤等の塗布性改良剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
[成膜方法]
前述の如く、有機電界発光素子は、多数の有機化合物からなる層を積層して形成するため、膜質が均一であることが非常に重要である。湿式成膜法で層形成する場合、その材料や、下地の性質によって、スピンコート法、スプレー法などの塗布法や、インクジェット法、スクリーン法などの印刷法等の成膜方法が採用できる。
【0132】
湿式成膜法を用いる場合、本発明の電荷輸送性ポリマー及び必要に応じて用いられるその他の成分(電子受容性化合物、架橋反応を促進する添加物や塗布性改良剤等)を、適切な溶剤に溶解させ、上記有機電界発光素子用組成物を調製する。この組成物を、スピンコート法やディップコート法等の手法により、形成する層の下層に該当する層上に塗布し、乾燥した後、架橋することにより、本発明における架橋層を形成する。
【0133】
本発明の電荷輸送性ポリマーを架橋反応させ、網目状高分子化合物とする場合に、通常加熱及び/又は光などの活性エネルギー照射を行う。
加熱の手法は特に限定されないが、例としては加熱乾燥等が挙げられる。加熱乾燥の場
合の条件としては、通常120℃以上、好ましくは400℃以下に本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて形成された層を加熱する。
【0134】
加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。加熱手段としては特に限定されないが、形成された層を有する積層体をホットプレート上に載せたり、オーブン内で加熱するなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上、1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。
加熱の手法は特に限定されないが、加熱乾燥の場合の条件としては、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上、また通常400℃以下、好ましくは350℃以下、より好ましくは300℃以下に、有機電界発光素子用組成物を用いて形成された層を加熱する。加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。加熱手段としては特に限定されないが、形成された層を有する積層体をホットプレート上に載せたり、オーブン内で加熱するなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上、1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。
【0135】
光などの活性エネルギー照射による場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは前述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法などが挙げられる。光以外の活性エネルギー照射では、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。
【0136】
照射時間としては、架橋反応が充分に起こるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常、0.1秒以上、好ましくは10時間以下照射される。
加熱及び光などの活性エネルギー照射は、それぞれ単独、あるいは組み合わせて行ってもよい。組み合わせる場合、実施する順序は特に限定されない。
【0137】
加熱及び光などの活性エネルギー照射は、実施後に層に含有する水分及び/又は表面に吸着する水分の量を低減するために、窒素ガス雰囲気等の水分を含まない雰囲気で行うことが好ましい。同様の目的で、加熱及び/又は光などの活性エネルギー照射を組み合わせて行う場合には、少なくとも発光層の形成直前の工程を窒素ガス雰囲気等の水分を含まない雰囲気で行うことが特に好ましい。
【0138】
<有機電界発光素子>
本発明の有機電界発光素子は、基板上に、陽極、陰極、及び該陽極と該陰極の間に配置された有機層を有する有機電界発光素子において、該有機層が、本発明の網目状高分子化合物を含有する層である有機電界発光素子である。
さらに、本発明の有機電界発光素子は、本発明における架橋層が、正孔注入層及び/又は正孔輸送層であることが好ましい。
【0139】
本発明の架橋層は、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法にて形成されることが好ましい。
また、該正孔輸送層の陰極側には、湿式成膜法で形成される発光層を有することが好ましく、さらに、該正孔輸送層の陽極側には、湿式成膜法で形成される正孔注入層を有することが好ましい。すなわち、本発明の有機電界発光素子は、正孔注入層、正孔輸送層及び発光層の全てが湿式成膜法で形成されることが好ましい。特にこの湿式成膜法で形成される発光層は低分子材料からなる層であることが好ましい。
【0140】
図1は、本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。図1に示す有機電界発光素子は、基板の上に、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層,電子注入層及び陰極を、この順に積層して構成される。この構成の場合、通常は正
孔輸送層が上述の本発明の有機化合物含有層に該当することになる。
[1]基板
基板は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシートなどが用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンなどの透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0141】
[2]陽極
陽極は、後述する発光層側の層(正孔注入層又は発光層など)への正孔注入の役割を果たすものである。この陽極は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物などの金属酸化物、ヨウ化銅などのハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子などにより構成される。陽極の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法などにより行われることが多い。また、銀などの金属微粒子、ヨウ化銅などの微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末などの場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散し、基板上に塗布することにより陽極を形成することもできる。更に、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板上に薄膜を形成したり、基板上に導電性高分子を塗布して陽極を形成することもできる(Applied
Physics Letters,1992年,Vol.60,pp.2711参照)。陽極は異なる物質で積層して形
成することも可能である。
【0142】
陽極の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが望ましく、この場合、厚みは、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。不透明でよい場合、陽極は基板と同一でもよい。また、更には上記の陽極の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0143】
なお、陽極に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的として、陽極表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理することが好ましい。
[3]正孔注入層
陽極の上には、正孔注入層が形成される。
【0144】
正孔注入層は、陽極の陰極側に隣接する層へ正孔を輸送する層である。
なお、本発明の有機電界発光素子は、正孔注入層を省いた構成であってもよい。
正孔注入層は、正孔輸送性化合物を含むことが好ましく、正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを含むことがより好ましい。更には、正孔注入層中にカチオンラジカル化合物を含むことが好ましく、カチオンラジカル化合物と正孔輸送性化合物とを含むことが特に好ましい。
【0145】
正孔注入層は、必要に応じて、バインダー樹脂や塗布性改良剤を含んでもよい。なお、バインダー樹脂は、電荷のトラップとして作用し難いものが好ましい。
また、正孔注入層は、電子受容性化合物のみを湿式成膜法によって陽極上に成膜し、その上から直接、電荷輸送材料組成物を塗布、積層することも可能である。この場合、電荷輸送材料組成物の一部が電子受容性化合物と相互作用することによって、正孔注入性に優れた層が形成される。
(正孔輸送性化合物)
上記の正孔輸送性化合物としては、4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。ただし、湿式成膜法に用いる場合には、湿式成膜法に用いる溶剤への溶解性が高い方が好ましい。
【0146】
正孔輸送性化合物としては、成膜性に優れ、高い電荷輸送能を有する点から、本発明の電荷輸送性ポリマーであることが好ましい。つまり、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて層を形成することが好ましい。
本発明の電荷輸送性ポリマー以外の化合物を正孔輸送性化合物として用いる場合、正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン化合物、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましい。
【0147】
芳香族アミン化合物の種類は特に制限されず、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよいが、表面平滑化効果の点から、重量平均分子量が1000以上、及び1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型炭化水素化合物)が好ましい。
芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例としては、下記式(I)で表わされる繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物も挙げることができる。
【0148】
【化26】

【0149】
(上記式(I)中、Arb1及びArb2は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表わす。Arb3〜A
b5は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有
していてもよい芳香族複素環基を表わす。Zbは、下記の連結基群の中から選ばれる連結
基を表わす。また、Arb1〜Arb5のうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。)
【0150】
【化27】

【0151】
(上記各式中、Arb6〜Arb16は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環由来の1価又は2価の基を表わす。Rb5及びRb6は、各々独立して、水素原子又は任意の置換基を表わす。)
Arb1〜Arb16としては、任意の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環由来の1価又は2価の基が適用可能である。これらの基は各々同一であっても、互いに異なって いて
もよい。また、これらの基は、更に任意の置換基を有していてもよい。
【0152】
一般式(I)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、国際公開第2005/089024号パンフレットに記載の化合物が挙げられる。
正孔注入層の材料として用いられる正孔輸送性化合物は、このような化合物のうち何れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。
【0153】
2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物1種又は2種以上と、その他の正孔輸送性化合物1種又は2種以上とを併用するのが好ましい。
(電子受容性化合物)
電子受容性化合物としては、前記<7.有機電界発光素子用組成物>の項に記載のものと同様である。また、好ましい具体例も同様である。
【0154】
(カチオンラジカル化合物)
カチオンラジカル化合物としては、正孔輸送性化合物から一電子取り除いた化学種であるカチオンラジカルと、対アニオンとからなるイオン化合物が好ましい。但し、カチオンラジカルが正孔輸送性の高分子化合物由来である場合、カチオンラジカルは高分子化合物の繰り返し単位から一電子取り除いた構造となる。
【0155】
カチオンラジカルとしては、正孔輸送性化合物として前述した化合物から一電子取り除いた化学種であることが好ましい。正孔輸送性化合物として好ましい化合物から一電子取り除いた化学種であることが、非晶質性、可視光の透過率、耐熱性、及び溶解性などの点から好適である。
ここで、カチオンラジカル化合物は、前述の正孔輸送性化合物と電子受容性化合物を混合することにより生成させることができる。即ち、前述の正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを混合することにより、正孔輸送性化合物から電子受容性化合物へと電子移動が起こり、正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと対アニオンとからなるカチオンイオン化合物が生成する。
【0156】
PEDOT/PSS(Adv.Mater.,2000年,12巻,481頁)やエメラルジン塩酸塩(J.Phys.Chem.,1990年,94巻,7716頁)等の高分子化合物由来のカチオンラジカル化合物は、酸化重合(脱水素重合)することによっても生成する。
ここでいう酸化重合は、モノマーを酸性溶液中で、ペルオキソ二硫酸塩等を用いて化学的に、又は、電気化学的に酸化するものである。この酸化重合(脱水素重合)の場合、モノマーが酸化されることにより高分子化されるとともに、酸性溶液由来のアニオンを対アニオンとする、高分子の繰り返し単位から一電子取り除かれたカチオンラジカルが生成する。
【0157】
正孔注入層は、湿式成膜法でも、真空蒸着法などの乾式成膜法でも形成することができる。成膜性が優れる点で、湿式成膜法で形成されるのが好ましい。
正孔注入層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000
nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
なお、正孔注入層における電子受容性化合物の正孔輸送性化合物に対する含有量は、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上である。但し、通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
【0158】
(その他の構成材料)
正孔注入層の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述の正孔輸送性化合物や電子受容性化合物に加えて、さらに、その他の成分を含有させてもよい。その他の成分の例としては、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0159】
(溶剤)
湿式成膜法に用いる正孔注入層形成用組成物の溶剤のうち少なくとも1種は、上述の正孔注入層の構成材料を溶解しうる化合物であることが好ましい。また、この溶剤の沸点は通常110℃以上、好ましくは140℃以上、中でも200℃以上、通常400℃以下、中でも300℃以下であることが好ましい。溶剤の沸点が低すぎると、乾燥速度が速すぎ、膜質が悪化する可能性がある。また、溶剤の沸点が高すぎると乾燥工程の温度を高くする必要があり、他の層や基板に悪影響を与える可能性がある。
【0160】
溶剤として例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、等が挙げられる。
【0161】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3−イロプロピルビフェニル、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。
【0162】
アミド系溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、等が挙げられる。
その他、ジメチルスルホキシド、等も用いることができる。
これらの溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0163】
(成膜方法)
正孔注入層形成用組成物を調製後、この組成物を湿式成膜により、正孔注入層の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布し、乾燥することにより正孔注入層を形成する。
成膜工程における温度は、組成物中に結晶が生じることによる膜の欠損を防ぐため、10℃以上が好ましく、50℃以下が好ましい。
【0164】
成膜工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、通常80%以下である。
塗布後、通常加熱等により正孔注入層形成用組成物の膜を乾燥させる。乾燥させる方法としては、通常、加熱工程が行なわれる。加熱工程において使用する加熱手段の例を挙げると、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるためには、クリーンオーブン及びホットプレートが好ましい。
【0165】
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り、正孔注入層形成用組成物に用いた溶剤の沸点以上の温度で加熱することが好ましい。また、正孔注入層形成用組成物に用いた溶剤が2種類以上含まれている混合溶剤の場合、少なくとも1種類がその溶剤の沸点以上の温度で加熱されるのが好ましい。溶剤の沸点上昇を考慮すると、加熱工程においては、好ましくは120℃以上、好ましくは410℃以下で加熱することが好ましい。
【0166】
加熱工程において、加熱温度が正孔注入層形成用組成物の溶剤の沸点以上が好ましい。また、加熱時間は、塗布膜の十分な架橋が起こらなければ限定されないが、好ましくは10秒以上、通常180分以下である。加熱時間が長すぎると他の層の成分が拡散する傾向があり、短すぎると正孔注入層が不均質になる傾向がある。加熱は2回にわけて行ってもよい。
【0167】
<真空蒸着法による正孔注入層の形成>
真空蒸着により正孔注入層を形成する場合には、正孔注入層の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種又は2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度まで排気した後、るつぼを加熱して(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上の材料を用いる場合は各々独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極上に正孔注入層を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層を形成することもできる。
【0168】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10−6Torr(0.13×10−4Pa)以上、通常9.0×10−6Torr(12.0×10−4Pa)以下である。蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、通常5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上で、好ましくは50℃以下で行われる。
【0169】
正孔注入層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
[4]正孔輸送層
正孔輸送層は、正孔注入層がある場合には正孔注入層の上に、正孔注入層が無い場合には陽極の上に形成することができる。また、本発明の有機電界発光素子は、正孔輸送層を省いた構成であってもよい。
【0170】
正孔輸送層を形成する材料としては、正孔輸送能が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのために、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。また、多くの場合、発光層に接するため、発光層からの発光を消光したり、発光層との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりしないことが好ましい。
【0171】
正孔輸送性化合物としては、上記の点から、特に、本発明の電荷輸送性ポリマーであることが好ましい。本発明の電荷輸送性ポリマー以外の化合物を正孔輸送性化合物として用いる場合、従来、正孔輸送層の構成材料として用いられている材料を用いることができる。従来用いられている材料としては、例えば、前述の正孔注入層に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられる。また、4,4'−ビス[N−(1−ナフチル)
−N−フェニルアミノ]ビフェニルで代表わされる2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4’’−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J.Lumin.,72−74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2',7,7'−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9'−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth.Me
tals,91巻、209頁、1997年)、4,4'−N,N'−ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール誘導体などが挙げられる。また、例えばポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7−53953号公報)、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン(Polym.Adv.Tech.,7巻、33頁、1996年)等が挙げられる。
【0172】
湿式成膜で正孔輸送層を形成する場合は、上記正孔注入層の形成と同様にして、正孔輸送層形成用組成物を調製した後、塗布後、加熱乾燥させる。
正孔輸送層形成用組成物には、上述の正孔輸送性化合物の他、溶剤を含有する。用いる溶剤は上記正孔注入層形成用組成物に用いたものと同様である。また、塗布条件、加熱乾燥条件等も正孔注入層の形成の場合と同様である。
【0173】
真空蒸着により正孔輸送層を形成する場合もまた、その成膜条件等は上記正孔注入層の形成の場合と同様である。
正孔輸送層は、上記正孔輸送性化合物の他、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などを含有していてもよい。
正孔輸送層はまた、架橋性化合物を架橋して形成される層であってもよい。架橋性化合物は、架橋性基を有する化合物であって、架橋することにより網目状高分子化合物を形成する。
【0174】
この架橋性基の例を挙げると、オキセタン基、エポキシ基などの環状エーテル基;ビニル基、トリフルオロビニル基、スチリル基、アクリル基、メタクリロイル基、シンナモイル基等の不飽和二重結合を含む基;ベンゾシクロブテン環由来の基などが挙げられる。
架橋性化合物は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよい。架橋性化合物は1種のみを有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で有していてもよい。
【0175】
架橋性化合物としては、架橋性基を有する正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。正孔輸送性化合物の例を挙げると、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体等の含窒素芳香族化合物誘導体;トリフェニルアミン誘導体;シロール誘導体;オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。その中でも、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体等の含窒素芳香族誘導体;トリフェニルアミン誘導体、シロール誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが好ましく、特に、トリフェニルアミン誘導体がより好ましい。
【0176】
架橋性化合物を架橋して正孔輸送層を形成するには、通常、架橋性化合物を溶剤に溶解
又は分散した正孔輸送層形成用組成物を調製して、湿式成膜により塗布して架橋させる。
正孔輸送層形成用組成物には、架橋性化合物の他、架橋反応を促進する添加物を含んでいてもよい。架橋反応を促進する添加物の例を挙げると、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩等の重合開始剤及び重合促進剤;縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物等の光増感剤;などが挙げられる。
【0177】
また、さらに、レベリング剤、消泡剤等の塗布性改良剤;電子受容性化合物;バインダー樹脂;などを含有していてもよい。
正孔輸送層形成用組成物は、架橋性化合物を通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下含有する。
【0178】
このような濃度で架橋性化合物を含む正孔輸送層形成用組成物を下層(通常は正孔注入層)上に成膜後、加熱及び/又は光などの活性エネルギー照射により、架橋性化合物を架橋させて網目状高分子化合物にする。
塗布時の温度、湿度などの条件、並びに塗布後の加熱条件は、前記<7.有機電界発光素子>[成膜方法]の項に記載の方法と同様である。また、好ましい態様も同様である。
【0179】
正孔輸送層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
[5]発光層
発光層は、正孔輸送層が有る場合には正孔輸送層の上に、正孔輸送層が無くて正孔注入層が有る場合には正孔注入層の上に、正孔輸送層と正孔注入層が無い場合には陽極の上に形成される。
【0180】
発光層は前述の正孔注入層や正孔輸送層、及び後述する正孔阻止層や電子輸送層等とは独立した層であってもよいが、独立した発光層を形成せず、正孔輸送層や電子輸送層など他の有機層が発光層の役割を担ってもよい。
発光層は、電界を与えられた電極間において、陽極から直接に、又は正孔注入層や正孔輸送層等を通じて注入された正孔と、陰極から直接に、又は陰極バッファ層や電子輸送層や正孔阻止層等を通じて注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
【0181】
発光層は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の方法で形成することができるが、例えば、湿式成膜法又は真空蒸着法により陽極上に形成される。ただし、大面積の発光素子を製造する場合には、湿式成膜法の方が好ましい。湿式成膜法、及び真空蒸着法の方法は、正孔注入層と同様の方法を用いて行なうことができる。
発光層は、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、正孔輸送の性質を有する材料(正孔輸送材料)、或いは、電子輸送の性質を有する材料(電子輸送材料)とを含有する。更に、発光層は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。これらの材料としては、後述のように湿式成膜法で発光層を形成する観点から、何れも低分子系の材料を使用することが好ましい。
【0182】
発光材料としては、任意の公知の材料を適用可能である。例えば、蛍光発光材料であってもよく、燐光発光材料であってもよいが、内部量子効率の観点から、好ましくは燐光発光材料である。
なお、溶剤への溶解性を向上させる目的で、発光材料の分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基を導入したりすることも、重要である。
以下、発光材料のうち蛍光色素の例を挙げるが、蛍光色素は以下の例示物に限定されるも
のではない。
【0183】
青色発光を与える蛍光発光材料(青色蛍光色素)としては、例えば、ナフタレン、クリセン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼン及びそれらの誘導体等が挙げられる。
緑色発光を与える蛍光色素(緑色蛍光色素)としては、例えば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、Al(CNO)などのアルミニウム錯体等が挙げられる。
【0184】
黄色発光を与える蛍光発光材料(黄色蛍光色素)としては、例えば、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。
赤色発光を与える蛍光発光材料(赤色蛍光色素)としては、例えば、DCM(4−(dicyanomethylene)−2−methyl−6−(p−dimethylaminostyryl)−4H−pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0185】
燐光発光材料として、具体的には、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2−フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2−フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2−フェニルピリジン)白金、トリス(2−フェニルピリジン)オスミウム、トリス(2−フェニルピリジン)レニウム、オクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン等が挙げられる。
【0186】
高分子系の発光材料としては、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)-co-(4,4’−(N
−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)]、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)-co-(1,4−ベンゾ−2{2,1’−3}−トリアゾール)]などのポリフルオレン系材料、ポリ[2−メトキシ−5−(2−ヘチルヘキシル
オキシ)−1,4−フェニレンビニレン]などのポリフェニレンビニレン系材料が挙げられる。
【0187】
また、本発明の電荷輸送性ポリマーを発光材料として用いることもできる。
発光材料として用いる化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。発光材料の分子量が小さ過ぎると、耐熱性が著しく低下したり、ガス発生の原因となったり、膜を形成した際の膜質の低下を招いたり、あるいはマイグレーションなどによる有機電界発光素子のモルフォロジー変化を来したりする場合がある。一方、発光材料の分子量が大き過ぎると、有機化合物の精製が困難となってしまったり、溶剤に溶解させる際に時間を要したりする傾向がある。
【0188】
なお、上述した発光材料は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
発光層における発光材料の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、好ましくは0.05重量%以上、好ましくは35重量%以下である。発光材料が少なすぎると発光ムラを生じる可能性があり、多すぎると電流効率が低下する可能性がある。なお、2種以上の発光材料を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0189】
低分子系の正孔輸送材料の例としては、前述の正孔輸送層の正孔輸送材料として例示し
た各種の化合物の他、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルに代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4” −トリ
ス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(Journal of Luminescence,1997年,Vol.72-74,pp.985)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chemical Communications,1996年,pp.2175)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9, 9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synthetic Metals,1997年,Vol.91,pp.209)
等が挙げられる。
【0190】
低分子系の電子輸送材料の例としては、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)や、2,5−ビス(6’−(2’,2”−ビピリジル))−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPySPyPy)や、バソフェナントロリン(BPhen)や、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)、2−(4−ビフェニリル)−5−(p−ターシャルブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)や、4,4’−ビス(9−カルバゾール)−ビフェニル(CBP)、9,10-ジ-(2-ナフチル)アントラセン(ADN)等がある。
【0191】
これら正孔輸送材料や電子輸送材料は発光層においてホスト材料として使用されることが好ましい。ホスト材料の具体例としては、特開2007−067383号公報、特開2007−88433号公報、特開2007−110093号公報に記載のものが挙げられ、その好適例も同様である。
発光層の形成法としては、湿式成膜法、真空蒸着法が挙げられるが、上述したように、均質で欠陥がない薄膜を容易に得られる点や、形成のための時間が短くて済む点、更には、本発明の有機化合物による正孔輸送層の架橋の効果を享受できる点から、湿式成膜法が好ましい。湿式成膜法により発光層を形成する場合、上述の材料を適切な溶剤に溶解させて塗布溶液を調製し、それを上述の形成後の正孔輸送層の上に塗布・成膜し、乾燥して溶剤を除去することにより形成する。その形成方法としては、前記正孔輸送層の形成方法と同様である。
【0192】
発光層の膜厚は、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
[6]正孔阻止層
発光層5と後述の電子注入層8との間に、正孔阻止層6を設けてもよい。正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極9側の界面に接するように積層される層である。
【0193】
この正孔阻止層6は、陽極2から移動してくる正孔を陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。
正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公
開第2005−022962号パンフレットに記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層6の材料として好ましい。
【0194】
なお、正孔阻止層6の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
正孔阻止層6の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成できる。
正孔阻止層6の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0195】
[7]電子輸送層
電子輸送層は素子の電流効率をさらに向上させることを目的として、発光層と電子注入層との間に設けられる。
電子輸送層は、電界を与えられた電極間において陰極から注入された電子を効率よく発光層の方向に輸送することができる化合物より形成される。電子輸送層に用いられる電子輸送性化合物としては、陰極又は電子注入層からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。
【0196】
このような条件を満たす材料としては、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−又は5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5,645,948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0197】
電子輸送層の膜厚は、通常下限は1nm、好ましくは5nm程度であり、上限は通常300nm、好ましくは100nm程度である。
電子輸送層は、前記と同様にして湿式成膜法、或いは真空蒸着法により正孔阻止層上に積層することにより形成される。通常は、真空蒸着法が用いられる。
[8]電子注入層
電子注入層は、陰極から注入された電子を効率よく、電子輸送層又は発光層へ注入する役割を果たす。
【0198】
電子注入を効率よく行うには、電子注入層を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられる。その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
更に、後述するバソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送材料に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は通常、5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0199】
電子注入層は、湿式成膜法或いは真空蒸着法により、発光層又はその上の正孔阻止層上に積層することにより形成される。
湿式成膜法の場合の詳細は、正孔注入層及び発光層の場合と同様である。
一方、真空蒸着法の場合には、真空容器内に設置されたるつぼ又は金属ボートに蒸着源を入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度にまで排気した後、るつぼ又は金属ボートを加熱して蒸発させ、るつぼ又は金属ボートと向き合って置かれた基板上の発光層、正孔阻止層又は電子輸送層上に電子注入層を形成する。
【0200】
電子注入層としてのアルカリ金属の蒸着は、クロム酸アルカリ金属と還元剤をニクロムに充填したアルカリ金属ディスペンサーを用いて行う。このディスペンサーを真空容器内で加熱することにより、クロム酸アルカリ金属が還元されてアルカリ金属が蒸発される。有機電子輸送材料とアルカリ金属とを共蒸着する場合は、有機電子輸送材料を真空容器内に設置されたるつぼに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度にまで排気した後、各々のるつぼ及びディスペンサーを同時に加熱して蒸発させ、るつぼ及びディスペンサーと向き合って置かれた基板上に電子注入層を形成する。
【0201】
このとき、電子注入層の膜厚方向において均一に共蒸着されるが、膜厚方向において濃度分布があっても構わない。
[9]陰極
陰極は、発光層側の層(電子注入層又は発光層など)に電子を注入する役割を果たす。陰極の材料としては、前記の陽極に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行うには、仕事関数の低い金属が好ましく、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
【0202】
陰極の膜厚は通常、陽極と同様である。
低仕事関数金属から成る陰極を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。
[10]その他
以上、図1に示す層構成の有機電界発光素子を例に説明してきたが、本発明の有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極と陰極との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。
【0203】
なお、本発明においては、正孔輸送層に本発明の電荷輸送性ポリマーを使用することにより、正孔注入層、正孔輸送層及び発光層を全て湿式成膜法により積層形成することができる。これにより、大面積のディスプレイを製造することが可能となる。
なお、図1とは逆の構造、即ち、基板上に陰極、電子注入層、発光層、正孔注入層、陽極の順に積層することも可能であり、既述したように少なくとも一方が透明性の高い2枚の基板の間に本発明の有機電界発光素子を設けることも可能である。
【0204】
さらには、図1に示す層構成を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その際には段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合はその2層)の代わりに、例えばV25等を電荷発生層(CGL)として用いると段間の障壁が少なくなり、電流効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
本発明は、有機電界発光素子が、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。
【0205】
<有機ELディスプレイ及び有機EL照明>
本発明の有機ELディスプレイ及び有機EL照明は、上述のような本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の有機ELディスプレイ及び有機EL照明の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【0206】
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発行、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の有機ELディスプレイ及び有機EL照明を形成することができる。
【実施例】
【0207】
次に、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
<モノマーの合成>
【0208】
【化28】

【0209】
窒素を通じた200mL4つ口フラスコにジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)(212mg、0.03等量)、ヨウ化銅(104mg、0.02等量)を入れ、これにあらかじめ窒素をバブリングして脱気したジオキサン(75mL)を入れて攪拌した。この液にトリ−t−ブチルホスフィン(331mg、0.06等量)を添加して15分、室温で攪拌した。この溶液にジ−i−プロピルアミン(3.31g、1.2等量)、4−ブロモベンゾシクロブテン(5.00g、1.0等量)、1,7−オクタジイン(20.3g、7.0等量)を加えて室温下9時間反応させた。得られた反応混合物を400Paの減圧下、バス温60℃で軽沸分を留去した後、飽和食塩水(50mL)、1N塩酸(5mL)を添加し、酢酸エチル(30mL×3回)で抽出、得られた酢酸エチル層を飽和食塩水(30mL×2回)で洗浄した。酢酸エチル層を濃縮すると粗成生物(7.7g)が得られた。この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶剤:n−ヘキサン/酢酸エチル)にて精製することにより目的物1(2.78g)を無色の油状として得た(48.9%収率、ガスクロマトグラフィーで分析した純度95.4%)。
【0210】
【化29】

【0211】
窒素を通じた100mL4つ口フラスコにm−ヨウ化ニトロベンゼン(3.64g、1.1等量)、炭酸カリウム(5.06g、2.75等量)、ヨウ化銅(111mg、0.044等量)、トリフェニルホスフィン(307mg、0.088等量)、5%Pd/C(623mg、Pdとして0.022等量)を入れ、これにあらかじめ窒素をバブリングして脱気したジメトキシエタン/水=1/1の混合溶剤(95mL)を入れて室温下、1時間攪拌した。この液に目的物1(2.77g、1.0等量)をジメトキシエタン(2mL)に溶解させた溶液を添加し、70℃のバス(内温63℃)で7時間加熱反応した。得られた反応混合物は、セライトを通してろ過した後、エバポレーターで濃縮、1N塩酸25mLを添加して酢酸エチル(30mL×3回)で抽出、得られた酢酸エチル層を飽和食塩水(20mL×3回)で洗浄した。酢酸エチル層を濃縮して得られた粗生成物を酢酸エチル−n−ヘキサンの混合溶剤から再結晶して目的物2(2.50g)をごく薄い黄色の針状結晶として得た(57.1%収率、液体クロマトグラフィーで分析した純度99.5%)。
【0212】
【化30】

【0213】
100mLナスフラスコに目的物2(2.31g)、テトラヒドロフラン15mL、エタノール15mLを添加して溶解させた。この溶液に水素化触媒としてラネーニッケル1.07g(日興リカ社製、R−200)を添加、水素で3回置換後、水素下、室温で35時間反応させた。反応液を、セライトを通してろ過、エバポレーターで濃縮して2.8gの粗生成物を得た。この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶剤:n−ヘキサン/酢酸エチル混合溶剤)にて精製することにより目的物3(1.72g)を白色の針状結晶として得た(80.1%収率、液体クロマトグラフィーで分析した純度99.1%)。
【0214】
【化31】

【0215】
2−ニトロフルオレン(25.0g)、1−ブロモヘキサン(58.61g)、テトラブチルアモンニウムブロマイド(TBAB)(7.63g)、ジメチルスルホキシド(DMSO)(220ml)に水酸化ナトリウム水溶液(17M)35mlをゆっくり滴下し、室温で3時間反応した。酢酸エチル(200ml)及び水(100ml)を加え攪拌後、分液し、水層を酢酸エチル(100ml×2回)で抽出し、有機層を合わせ、硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮した。さらに、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン/酢酸エチル混合液)で精製することにより、目的物4(44.0g)を得た。
【0216】
【化32】

【0217】
目的物4(44.0g)、テトラヒドロフラン(THF)(120ml)、エタノール(1
20ml)に10%Pd/C(8.6g)を加え、50℃に昇温後、ヒドラジン・1水和物(58.0g)をゆっくり滴下し、50℃で3時間反応した。放冷後、反応液を、セライトを通して濾過し、濾液を濃縮後、析出した結晶をメタノールで洗浄した。減圧濾過、乾燥することにより、目的物5(34.9g)を得た。
【0218】
【化33】

【0219】
窒素気流中、3−ブロモスチレン(5.0g)、3−ニトロフェニルボロン酸(5.5g)、トルエン:エタノール(80ml:40ml)、炭酸ナトリウム水溶液(2M)20m
lを、60℃に加熱下、30分間撹拌し、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)を加え、6時間還流した。室温まで放冷した後、反応液に塩化メチレン(100ml)及び水(100ml)を加え攪拌後、分液し、水層を塩化メチレン(100ml×2回)で抽出し、有機層を合わせ、硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮した。さらに、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン/塩化メチレン混合液)で精製することにより、目的物6(5.5g)を得た。
【0220】
【化34】

【0221】
窒素気流中、目的物6(2.5g)、酢酸(60ml)、エタノール(60ml)、塩酸(1N、2ml)、水(8ml)及び還元鉄(12.4g)を1時間還流した。室温で反応液を濾過し、酢酸エチル(100ml)及び水(100ml)を加え攪拌後、炭酸水素ナトリウム飽和水溶液で中和し、分液し、水層を酢酸エチル(100ml×2回)で抽出し、有機層を合わせ、硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮した。さらに、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン/酢酸エチル混合液)で精製することにより、目的物7(2.1g)を得た。
【0222】
【化35】

【0223】
反応容器内にフッ化カリウム(23.01g)を仕込み、減圧下、加熱乾燥と窒素置換を繰り返し系内を窒素雰囲気とした。3−ニトロフェニルボロン酸(6.68g)、4−ブロモ−ベンゾシクロブテン(7.32g)、脱水テトラヒドロフラン(50ml)を仕込み、撹拌した。そこへ、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0.21g)を加え、さらに系内を十分に窒素置換して、室温でトリ−t−ブチルホスフィン(0.47g)を加え、添加終了後、そのまま1時間攪拌させた。反応終了後、反応液に水を加え、酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を2回水洗し、硫酸ナトリウムを加え脱水乾燥し、濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)にて精製し、目的物8(8.21g)を得た。
【0224】
【化36】

【0225】
目的物8(8.11g)、テトラヒドロフラン36ml、エタノール36ml、10%Pd/C(1.15g)を仕込み、70℃で加熱撹拌した。そこへヒドラジン一水和物(10.81g)をゆっくり滴下した。2時間反応後、放冷し、反応液をセライトでろ過して濾液を濃縮した。この濾液に酢酸エチルを加え、水で洗浄し、有機層を濃縮した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)にて精製することにより、目的物9(4.90g)を得た。
【0226】
【化37】

【0227】
窒素雰囲気とした300ml四ツ口フラスコに、4−ブロモベンゾシクロブテン9.15g、乾燥エーテル100mlを入れ、反応器をドライアイス−アセトンバス中で−70℃まで冷却した。n−ブチルリチウム(1.06M)50mlを30分掛けて滴下し、滴下終了から2時間−70℃のまま保持しながら撹拌を継続した。1,6-Dibromohexane(24.4g)を滴下した。滴下終了から30分冷却条件下で撹拌を行ない、その後冷却用バスを外して徐々に室温に昇温し、終夜静置した。これを水100mlで洗浄し、有機層を濃縮し、得られた油状成分をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン)により精製した。さらに低沸点成分除去のため、減圧留去行い、目的物10(4.94g)を得た。
【0228】
【化38】

【0229】
100ml四ツ口フラスコに、目的物10(2.89g)と2、7−ジブロモフルオレン(1.17g)、ジメチルスルホキシド(30ml)を入れて撹拌し、60℃に昇温し
た。粉砕した水酸化ナトリウム(0.72g)を水5mlに溶解させ、この溶液に滴下し、3時間反応させた。反応液にヘキサン50mlを加えて水30mlで洗浄し、油層を濃縮し、カラム精製を行った。得られた油状成分をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)で精製することにより、目的物11(1.47g)を得た。
【0230】
H NMR(CDCl、400MHz)
δ(ppm)7.52〜7.42(m,6H)、6.91(s,4H)、6.80(s,2H)、3.11(s,8H)、2.44(m,4H)、1.90(m,4H)、1.40(m,4H)、1.28(m、4H)、1.08(m,4H)、0.88(m,4H)
【0231】
【化39】

【0232】
窒素雰囲気中、2、7−ジブロモフルオレン(6.93g)をテトラヒドロフラン(100ml)に溶解させ,−72℃に冷却した。リチウムジイソプロピルアミドのヘキサン溶液(1.09M、19.6ml)を滴下した。−72℃で2時間攪拌した後、目的物10(6.00g)のテトラヒドロフラン溶液(10ml)を滴下した。−72℃で2.5時間攪拌した後、室温まで昇温した。反応液に水(50ml)及び塩化メチレン(150ml)を加え、有機層を濃縮、得られた油状成分をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン)で精製することにより、目的物12(2.80g)を得た。
【0233】
【化40】

【0234】
反応器に目的物12(2.70g)、1−ブロモヘキサン(1.31g)、臭化テトラ−n−ブチルアンモニウム(0.34g)、ジメチルスルホキシド(30ml)を加え60℃に昇温後,室温にもどした。水酸化ナトリウム(0.64g)の水溶液(1.2ml)を滴下した。1.5時間攪拌した後、反応液に水(60ml)及び酢酸エチル(100ml)を加え、有機層を濃縮、得られた油状成分をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン)で精製することにより、目的物13(1.80g)を得た。
【0235】
【化41】

【0236】
窒素雰囲気中、目的物13(5.0g)をテトラヒドロフラン(100ml)に溶解させ,−75℃に冷却した。n−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.66M、10.9ml)を滴下した。−70℃で2.5時間攪拌した後、ホウ酸トリメチル(5.35g)を滴下した。−70℃で4時間攪拌した後、室温まで昇温した後、反応液に1N塩酸(50ml)を加え、2時間攪拌した。酢酸エチル(150ml)を加え、有機層を濃縮、得られた固体をヘキサンで懸洗することにより、目的物14(3.90g)を得た。
【0237】
【化42】

【0238】
窒素雰囲気中、反応器に目的物14(3.64g)、4−ブロモヨードベンゼン(3.97g)、トルエン(60ml)、エタノール(30ml)、2M炭酸ナトリウム水溶液(30ml)を加え50℃に昇温後,テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.40g)を加えた。80℃に昇温し、8時間攪拌した。反応液に水(100ml)及びトルエン(100ml)を加え、有機層を濃縮、得られた油状成分をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/トルエン)で精製することにより、目的物15(2.81g)を得た。
【0239】
【化43】

【0240】
窒素雰囲気中、反応器に9,9−ジヘキシルフルオレン−2,7−ジボロン酸(3.00g)、4−ブロモヨードベンゼン(4.42g、15.6mmol)、トルエン(45ml)、エタノール(45ml)を仕込み、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.54g、0.5mmol)を添加し、炭酸ナトリウム(4.52g、43m
mol)の水溶液(22ml)を添加し、6時間反応させた。反応終了後、反応液に水を加え、トルエンで抽出した。得られた有機層を2回水洗し、硫酸ナトリウムを加え脱水乾燥し、濃縮した。粗生成物をn−ヘキサンで洗浄し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン)にて精製し、さらに塩化メチレン/メタノール懸洗を行い、目的物16(3.15g)を得た。
<ポリマーの合成>
【0241】
【化44】

【0242】
目的物5(1.086g、3.1075mmol)、目的物3(0.184g、0.5984mmol)、アニリン(0.197g、2.1185mmol)、4,4’−ジブロモビフェニル(0.891g、2.8551mmol)及びtert-ブトキシナトリウム
(1.76g、18.27mmol)、トルエン(23ml)を仕込み、系内を十分に窒素置換して、60℃まで加温した(溶液A)。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0.059g、0.057mmol)のトルエン2ml溶液に、トリ−t−ブチルホスフィン(0.092g、0.457mmol)を加え、60℃まで加温した(溶液B)。窒素気流中、溶液Aに溶液Bを添加し、1.5時間、加熱還流反応した。目的物5、目的物3、アニリン、4,4’−ジブロモビフェニルが消失したこと確認し、4,4’−ジブロモビフェニル(0.8375g、2.684mmol)を追添加した。1時間加熱還流した後、重合が始まったことが確認できたので、さらに、4,4’−ジブロモビフェニル(0.015g、0.048mmol)を40分おきに計3回(計0.045g)追添加した。4,4’−ジブロモビフェニルを全量添加後、さらに30分間加熱還流し、反応液を放冷して、反応液をエタノール300ml中に滴下し、粗ポリマー1を晶出させた。
【0243】
得られた粗ポリマー1をトルエン120mlに溶解させ、ブロモベンゼン(0.34g
、2.17mmol)、tert-ブトキシナトリウム(1.67g、17.40mmol)を仕込み
、系内を十分に窒素置換して、60℃まで加温した(溶液C)。トリス(ジベンジリデン
アセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0.056g、0.054mmol)のトルエン
1ml溶液に、トリ−t−ブチルホスフィン(0.088g、0.435mmol)を加え、60℃まで加温した(溶液D)。窒素気流中、溶液Cに溶液Dを添加し、2時間、加熱還流反応した。この反応液に、N,N−ジフェニルアミン(1.6g、8.16mmol)のトルエン(3ml)溶液を添加し、さらに、4時間、加熱還流反応した。反応液を放冷し、エタノール/水(250ml/50ml)溶液に滴下し、エンドキャップした粗ポリマー1を得た。
【0244】
このエンドキャップした粗ポリマー1をトルエンに溶解し、アセトンに再沈殿し、析出したポリマーを濾別した。得られたポリマーをトルエンに溶解させ、希塩酸にて洗浄し、アンモニア含有エタノールにて再沈殿した。濾取したポリマーをカラムクロマトグラフィーにより精製し、目的ポリマー1(2.2g)を得た。
重量平均分子量(Mw)=27320
数平均分子量(Mn)=14435
分散度(Mw/Mn)=1.89
【0245】
【化45】

【0246】
目的物3(0.1087g)、目的物5(1.185g)、目的物7(0.069g)、9,10−ビス(4−ブロモフェニル)アントラセン(1.000g)、及びtert-ブ
トキシナトリウム(1.26g、トルエン(10ml)を仕込み、系内を十分に窒素置換して、50℃まで加温した(溶液E)。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0.042g)のトルエン2ml溶液に、トリ−t−ブチルホスフィ
ン(0.066g)を加え、50℃まで加温した(溶液F)。窒素気流中、溶液Eに溶液Fを添加し、1.5時間、90℃に加熱し反応した。続いて、9,10−ビス(4−ブロモフェニル)アントラセン(0.940g)を追添加した。1時間加熱還流した後、反応液を放冷して、反応液をエタノール中に滴下し、粗ポリマー2を晶出させた。
【0247】
得られた粗ポリマー2をトルエン150mlに溶解させ、ブロモベンゼン(0.52g)、tert-ブトキシナトリウム(0.63g)を仕込み、系内を十分に窒素置換して、5
0℃まで加温した(溶液G)。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0.021g)のトルエン2ml溶液に、トリ−t−ブチルホスフィン(0.033g)を加え、50℃まで加温した(溶液H)。窒素気流中、溶液Gに溶液Hを添加し、3時間、加熱還流反応した。この反応液に、N,N−ジフェニルアミン(1.63g、9.6mmol)を添加し、再度調製した溶液Hを加え、さらに、4時間、加熱還流反応した
。反応液を放冷し、エタノール中に滴下し、エンドキャップした粗ポリマー2を得た。
【0248】
このエンドキャップした粗ポリマー2をトルエンに溶解し、アセトンに再沈殿し、析出したポリマーを濾別した。得られたポリマーをトルエンに溶解させ、希塩酸にて洗浄し、アンモニア含有エタノールにて再沈殿した。濾取したポリマーをカラムクロマトグラフィーにより2回精製し、目的ポリマー2(1.63g)を得た。
重量平均分子量(Mw)=332000
数平均分子量(Mn)=36300
分散度(Mw/Mn)=9.17
【0249】
【化46】

【0250】
ジフェニルベンジジン(2.07g、6.2mmol)、目的物11(0.43g、0.6mmol)、9.9’−ジヘキシル−2,7−ジブロモフルオレン(2.63g、5.3mmol
)、及びtert-ブトキシナトリウム(2.22g、23.0mmol)、トルエン(20ml
)を仕込み、系内を十分に窒素置換して、50℃まで加温した(溶液I)。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0.07g、0.0068mmol)のトルエン15ml溶液に、トリ−t−ブチルホスフィン(0.10g、0.049mmol)を加え、50℃まで加温した(溶液J)。窒素気流中、溶液Iに溶液Jを添加し、1時間、加熱還流反応した。ジフェニルベンジジン、目的物11、9.9’−ジヘキシル−2,7−ジブロモフルオレンが消失したことを確認し、9.9’−ジヘキシル−2,7−ジブロモフルオレン(1.91g、6.1mmol)を追添加した。1時間加熱還流した後、重合が始まったことが確認できたので、さらに、9.9’−ジヘキシル−2,7−ジブロモフルオレン(0.041g、0.13mmol)を追添加し、さらに1時間加熱還流反応させた。反応液を放冷して、反応液をメタノール200ml中に滴下し、粗ポリマー3を晶出させた。
【0251】
得られた粗ポリマー3をトルエン100mlに溶解させ、ブロモベンゼン(0.97g、6.2mmol)、tert-ブトキシナトリウム(0.710g、7mmol)を仕込み、系
内を十分に窒素置換して、50℃まで加温した(溶液K)。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0.051g、0.0049mmol)のトルエン10ml溶液に、トリ−t−ブチルホスフィン(0.012g、0.0062mmol)を加え、50℃まで加温した(溶液L)。窒素気流中、溶液Kに溶液Lを添加し、2時間、加熱還流反応した。この反応液に、N,N−ジフェニルアミン(1.041g、6.15mmol)を添加し、さらに、2時間、加熱還流反応した。反応液を放冷し、メタノールに滴下し、エンドキャップされた粗ポリマー3を得た。
【0252】
このエンドキャップされた粗ポリマー3をトルエンに溶解し、アセトンに再沈殿し、析出したポリマーを濾別した。得られたポリマーをトルエンに溶解させ、希塩酸にて洗浄し、アンモニア含有エタノールにて再沈殿した。濾取したポリマーをカラムクロマトグラフィーにより4回精製を行い、目的ポリマー3を得た(0.740g)。
重量平均分子量(Mw)=75600
数平均分子量(Mn)=32700
分散度(Mw/Mn)=2.31
【0253】
【化47】

【0254】
窒素雰囲気中、反応器に目的物15(0.659g)、目的物16(1.22g)、アニリン(0.516g)、tert−ブトキシナトリウム(1.70g)、及びトルエン
(20ml)を加え、50℃まで加温した(溶液A)。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0.0057g)のトルエン1ml溶液に、トリ−t−ブチルホスフィン(0.089g)を加え、50℃まで加温した(溶液B)。
【0255】
窒素気流中、溶液Aに溶液Bを添加し、1時間加熱還流反応した。原料が消失したことを確認し、目的物16(1.78g)を添加した。40分間加熱還流反応させた。反応液を放冷して、反応液をエタノール200ml中に滴下し、粗ポリマー4を晶出させた。
窒素雰囲気中、得られた粗ポリマーをトルエン130mlに溶解させ、ブロモベンゼン(0.21g)、tert−ブトキシナトリウム(1.70g)を加え、50℃まで加温した(溶液C)。窒素気流中、溶液Cに再度調整した溶液Bを添加し、2時間、加熱還流反応した。この反応液に、N,N−ジフェニルアミン(1.28g)を添加し、さらに、4.5時間、加熱還流反応した。反応液を放冷し、エタノール/水混合液に滴下し、エンドキャップした粗ポリマー4を得た。
【0256】
このエンドキャップした粗ポリマー4をトルエンに溶解させ、希塩酸にて洗浄し、アンモニア含有エタノールにて再沈殿した。続いてトルエンに溶解し、アセトンに再沈殿し、析出したポリマーを濾別した。濾取したポリマーをカラムクロマトグラフィーにより精製し、目的ポリマー4を得た(1.80g)。なお、目的ポリマー4の重量平均分子量及び数平均分子量を測定したところ、重量平均分子量(Mw)は56000、分散度(Mw/Mn)は1.6であった。
【0257】
【化48】

【0258】
窒素雰囲気中、反応器に目的物13(1.50g)、2,7−ジブロモ−9,9−ジヘキシルフルオレン(0.683g)、アニリン(0.728g)、tert−ブトキシナトリウム(2.41g)、及びトルエン(15ml)を加え、50℃まで加温した(溶液A)。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0.080g)のトルエン1ml溶液に、トリ−t−ブチルホスフィン(0.126g)を加え、50℃まで加温した(溶液B)。窒素気流中、溶液Aに溶液Bを添加し、1時間、加熱還流反応した。原料が消失したことを確認し、p−ジブロモベンゼン(0.905g)を添加した。2時間加熱還流した後、p−ジブロモベンゼン(0.018g)を添加した。2時間加熱還流した後、反応液を放冷して、反応液をエタノール200ml中に滴下し、粗ポリマーを晶出させた。
【0259】
窒素雰囲気中、得られた粗ポリマーをトルエン100mlに溶解させ、ブロモベンゼン
(0.25g)、tert−ブトキシナトリウム(2.40g)を加え、50℃まで加温した(溶液C)。窒素気流中、溶液Cに再度調整した溶液Bを添加し、2時間、加熱還流反応した。この反応液に、N,N−ジフェニルアミン(1.50g)を添加し、さらに、4時間、加熱還流反応した。反応液を放冷し、エタノール/水混合液に滴下し、エンドキャップした粗ポリマー5を得た。
【0260】
このエンドキャップした粗ポリマー5をトルエンに溶解させ、希塩酸にて洗浄し、アンモニア含有エタノールにて再沈殿した。続いてトルエンに溶解し、アセトンに再沈殿し、析出したポリマーを濾別した。濾取したポリマーをカラムクロマトグラフィーにより精製し、目的ポリマー5を得た(1.80g)。なお、目的ポリマー5の重量平均分子量及び数平均分子量を測定したところ、重量平均分子量(Mw)は33000、分散度(Mw/Mn)は1.9であった。
[比較ポリマーの合成]
【0261】
【化49】

【0262】
アニリン(0.36g、3.8mmol)、目的物9(0.19g、0.96mmol)、目的物5(1.68g、4.8mmol)、4,4’−ジブロモビフェニル(1.5g、4.8mmol)、及びtert-ブトキシナトリウム(2.96g、30.8mmol)、トル
エン(22ml)を仕込み、系内を十分に窒素置換して、50℃まで加温した(溶液M)。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0.10g、0.1mmol)のトルエン6ml溶液に、トリ−t−ブチルホスフィン(0.16g、0.8mmol)を加え、50℃まで加温した(溶液N)。窒素気流中、溶液Mに溶液Nを添加し、1時間、加熱還流反応した。アニリン、目的物9、目的物5、4,4’−ジブロモビフェニルが消失したことを確認した後、4,4’−ジブロモビフェニル(1.41g、4.5mmol)を追
添加した。1時間加熱還流した後、重合が始まったことが確認できたので、さらに、4,4’−ジブロモビフェニル(0.03g、0.1mmol)を1時間おきに計3回(計0.09
g)追添加した。目的物9を全量添加後、さらに30分間加熱還流し、反応液を放冷して、反応液をエタノール水溶液(エタノール150ml+水25ml)中に滴下し、粗ポリマー6を晶出させた。
【0263】
得られた粗ポリマー6をトルエン70mlに溶解させ、ブロモベンゼン(0.30g、1.9mmol)、tert-ブトキシナトリウム(1.48g、15.3mmol)を仕込み、系内を十分に窒素置換して、50℃まで加温した(溶液O)。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0.05g、0.05mmol)のトルエン4ml溶液に、トリ−t−ブチルホスフィン(0.08g、0.4mmol)を加え、50℃まで加温した(溶液P)。
窒素気流中、溶液Oに溶液Pを添加し、2時間、加熱還流反応した。この反応液に、N,N−ジフェニルアミン(1.63g、9.6mmol)を添加し、さらに、4時間、加熱還流反
応した。反応液を放冷し、エタノール水溶液(エタノール150ml+水25ml)中に滴下し、エンドキャップした粗ポリマー6を得た。
【0264】
このエンドキャップした粗ポリマー6をトルエンに溶解し、アセトンに再沈殿し、析出したポリマーを濾別した。得られたポリマーをトルエンに溶解させ、希塩酸にて洗浄し、アンモニア含有エタノールにて再沈殿した。濾取したポリマーをカラムクロマトグラフィーにより2回精製し、比較ポリマー1(1.71g)を得た。
重量平均分子量(Mw)=46770
数平均分子量(Mn)=20100
分散度(Mw/Mn)=2.33
【0265】
【化50】

【0266】
目的物9(0.1702g)、目的物5(1.485g)、9,10−ビス(4−ブロモフェニル)アントラセン(1.250g)、及びtert-ブトキシナトリウム(1.58
g)、トルエン(12ml)を仕込み、系内を十分に窒素置換して、50℃まで加温した(溶液Q)。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0.053g)のトルエン3ml溶液に、トリ−t−ブチルホスフィン(0.083g)を加え、50℃まで加温した(溶液R)。窒素気流中、溶液Qに溶液Rを添加し、1時間、90℃に加熱し反応した。続いて、9,10−ビス(4−ブロモフェニル)アントラセン(1.175g)を追添加した。1.5時間加熱還流した後、反応液を放冷して、反応液をエタノール中に滴下し、粗ポリマー7を晶出させた。
【0267】
得られた粗ポリマー7をトルエン500ml中で加熱攪拌し、不溶分を濾別、濾液を濃縮しエタノールに再沈殿した。濾取した粗ポリマー7(1.12g)、ブロモベンゼン(0.057g)、tert-ブトキシナトリウム(0.28g)を仕込み、系内を十分に窒素
置換して、50℃まで加温した(溶液S)。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0.019g)のトルエン3ml溶液に、トリ−t−ブチルホスフィン(0.030g)を加え、50℃まで加温した(溶液T)。窒素気流中、溶液Sに溶液Tを添加し、2時間、加熱還流反応した。この反応液に、N,N−ジフェニルアミン(0.30g)を添加し、再度調製した溶液Tを加え、さらに、5時間、加熱還流反応した。反応液を放冷し、エタノール中に滴下し、エンドキャップした粗ポリマー7を得た。
【0268】
このエンドキャップした粗ポリマー7をトルエンに溶解し、アセトンに再沈殿し、析出したポリマーを濾別した。得られたポリマーをトルエンに溶解させ、希塩酸にて洗浄し、アンモニア含有エタノールにて再沈殿した。濾取したポリマーをカラムクロマトグラフィーにより2回精製し、比較ポリマー2(0.27g)を得た。
【0269】
重量平均分子量(Mw)=68000
数平均分子量(Mn)=27400
分散度(Mw/Mn)=2.48
(参考例1)
スライドガラス上に下記構造を有する本発明の電荷輸送性ポリマー(H1)(ポリマーの合成例1で合成した目的ポリマー1)を含有する組成物を調製し、下記の条件でスピンコートにより塗布して、加熱により架橋させることにより膜厚50nmの膜を形成した。
【0270】
【化51】

【0271】
<有機電界発光素子用組成物>
溶剤 トルエン
固形分濃度 1.0重量%
<正孔輸送層の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 窒素中、230℃、1時間
以上のようにして得られた膜を、分光光度計F−4500(日立製作所社製)を用いて励起光波長375nmにおいての蛍光スペクトルを測定したところ、蛍光強度が最大を示す波長が430nmであった。
【0272】
(比較参考例1)
スライドガラス上に下記構造を有する化合物(H2)(比較ポリマーの合成例1で合成した比較ポリマー1)を含有する組成物を調製し、下記の条件でスピンコートにより塗布して、加熱により架橋させることにより膜厚50nmの膜を形成した。
【0273】
【化52】

【0274】
<有機電界発光素子用組成物>
溶剤 トルエン
固形分濃度 1.0重量%
<正孔輸送層の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 窒素中、230℃、1時間
以上のようにして得られた膜を、分光光度計F−4500(日立製作所社製)を用いて励起光波長375nmにおいての蛍光スペクトルを測定したところ、蛍光強度が最大を示す波長が462nmであった。
【0275】
参考例1及び比較参考例1で作製した膜の蛍光波長を表1に示す。
【0276】
【表1】

【0277】
表1より、本発明の電荷輸送性ポリマーを用いて成膜された膜は、蛍光波長が短波長側に現れている。つまり、本発明の電荷輸送性ポリマーを用いて成膜された膜は、偏凝集が少ないことが分かる。
[有機電界発光素子の作製]
(実施例1)
図1に示す有機電界発光素子を作製した。
【0278】
ガラス基板上に、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を120nmの厚さに堆積したもの(三容真空社製、スパッタ成膜品)を、通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。パターン形成したITO基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、圧縮空気で乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0279】
まず、下の構造式(P1)に示す繰り返し構造を有する正孔輸送能高分子材料(重量平均分子量:26500,数平均分子量:12000)、構造式(A1)に示す4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート及び安息香酸エチルを含有する正孔注入層用組成物を調製した。この組成物を下記条件で陽極上にスピンコートにより塗布して、膜厚30nmの正孔注入層を得た。
【0280】
【化53】

【0281】
<正孔注入層用組成物>
溶剤 安息香酸エチル
組成物濃度 P1:2.0重量%
A1:0.8重量%
<正孔注入層の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 大気中
加熱条件 大気中 230℃ 3時間
引き続き、以下の構造式に示す、本発明の電荷輸送性ポリマー(H1)(ポリマーの合成例1で合成した目的ポリマー1)を含有する有機電界発光素子用組成物を調製し、下記の条件でスピンコートにより塗布して、加熱により架橋させることにより膜厚20nmの正孔輸送層を形成した。
【0282】
【化54】

【0283】
<有機電界発光素子用組成物>
溶剤 トルエン
組成物濃度 0.4重量%
<正孔輸送層の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 窒素中、230℃、1時間
次に、発光層を形成するにあたり、以下に示す有機化合物(C1)、及び(D1)を用いて下記に示す有機電界発光素子組成物を調製し、以下に示す条件で正孔輸送層上にスピンコートして膜厚40nmで発光層を得た。
【0284】
【化55】

【0285】
<発光層用組成物>
溶剤 トルエン
組成物濃度 C1:0.75重量%
D1:0.08重量%
<発光層の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 減圧下(0.1MPa)、130℃、1時間
ここで、発光層までを成膜した基板を、窒素グローブボックスに連結された真空蒸着装置内に移し、装置内の真空度が1.7×10-4Pa以下になるまで排気した後、BAl
q(C2)を真空蒸着法によって積層し正孔阻止層を得た。蒸着速度を0.5〜1.1Å/秒の範囲で制御し、発光層の上に積層して膜厚10nmの膜の正孔阻止層を形成した。蒸着時の真空度は2.6〜3.9×10−5Paであった。
【0286】
【化56】

【0287】
続いて、Alq3(C3)を加熱して蒸着を行い、電子輸送層を成膜した。蒸着時の真空度は2.8〜3.7×10-5Pa、蒸着速度は0.7〜1.2Å/秒の範囲で制御し
、膜厚30nmの膜を正孔阻止層の上に積層して電子輸送層を形成した。
【0288】
【化57】

【0289】
ここで、電子輸送層までの蒸着を行った素子を正孔阻止層、及び電子輸送層を蒸着したチャンバーに連結されたチャンバーへと真空中で搬送し、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極のITOストライプとは直交するように素子に密着させた。
電子注入層として、先ずフッ化リチウム(LiF)を、モリブデンボートを用いて、蒸着速度0.09〜0.14Å/秒、真空度2.7〜5.4×10-5Paで制御し、0.
5nmの膜厚で電子輸送層の上に成膜した。次に、陰極としてアルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.5〜1.3Å/秒、真空度2.1〜5.4×10-5Paで制御して膜厚80nmのアルミニウム層を形成した。以上の2層の蒸着時
の基板温度は室温に保持した。
【0290】
引き続き、素子が保管中に大気中の水分等で劣化することを防ぐため、以下に記載の方法で封止処理を行った。
窒素グローブボックス中で、23mm×23mmサイズのガラス板の外周部に、約1mmの幅で光硬化性樹脂30Y−437(スリーボンド社製)を塗布し、中央部に水分ゲッターシート(ダイニック社製)を設置した。この上に、陰極形成を終了した基板を、蒸着された面が乾燥剤シートと対向するように貼り合わせた。その後、光硬化性樹脂が塗布された領域のみに紫外光を照射し、樹脂を硬化させた。
【0291】
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の発光特性は以下の通りである。
10mA/cm通電時の輝度:5204cd/m
10mA/cm通電時の電圧:5.8V
100cd/mでの電力効率:1.2lm/W
素子の発光スペクトルの極大波長は461nmであり、化合物(D1)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.140,0.136)であった。
【0292】
(比較例1)
実施例1において、正孔輸送層を以下のように形成したほかは、実施例1と同様にして図1に示す有機電界発光素子を作製した。
引き続き、以下の構造式に示す化合物(H2)(比較ポリマーの合成例1で合成した比較ポリマー1)を含有する有機電界発光素子用組成物を調製し、下記の条件でスピンコートにより塗布して、加熱により架橋させることにより膜厚20nmの正孔輸送層を形成した。
【0293】
【化58】

【0294】
<有機電界発光素子用組成物>
溶剤 トルエン
組成物濃度 0.4重量%
<正孔輸送層の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 窒素中、230℃、1時間
このようにして得られた2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子の発光特性は以下の通りである。
【0295】
10mA/cm通電時の輝度:4693cd/m
10mA/cm通電時の電圧:7.5V
100cd/mでの電力効率:0.9lm/W
素子の発光スペクトルの極大波長は465nmであり、化合物(D1)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.137,0.175)であった。
【0296】
実施例1、及び比較例1において作製した有機電界発光素子の特性、及び初期輝度を1000cd/mとして直流駆動試験を行い、輝度が800cd/mまで減少するまでの時間(輝度80%減衰寿命)を表2にまとめる。
【0297】
【表2】

【0298】
表2より、本発明の電荷輸送性ポリマーを架橋させて形成される層を有する有機電界発光素子は駆動電圧が低く、電力効率が高く、また駆動寿命が長いことが分かる。
(実施例2)
実施例1において、正孔輸送層、及び発光層を以下のように形成したほかは、実施例1と同様にして図1に示す有機電界発光素子を作製した。
【0299】
以下の構造式に示す、本発明による電荷輸送性ポリマー(H3)(ポリマー
の合成例2で合成した目的ポリマー2)を含有する有機電界発光素子用組成物を調製し、下記の条件でスピンコートにより塗布して、加熱により架橋させることにより膜厚20nmの正孔輸送層を形成した。
【0300】
【化59】

【0301】
<有機電界発光素子用組成物>
溶剤 トルエン
組成物濃度 0.4重量%
<正孔輸送層の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 窒素中、230℃、1時間
次に、発光層を形成するにあたり、以下に示す有機化合物(C4)、及び(D1)を用いて下記に示す有機電界発光素子組成物を調製し、以下に示す条件で正孔輸送層上にスピンコートして膜厚40nmで発光層を得た。
【0302】
【化60】

【0303】
<発光層用組成物>
溶剤 トルエン
組成物濃度 C4:0.75重量%
D1:0.08重量%
<発光層の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 減圧下(0.1MPa)、130℃、1時間
このようにして得られた2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光
素子の発光特性は以下の通りである。
【0304】
10mA/cm通電時の輝度:9477cd/m
10mA/cm通電時の電圧:7.5V
100cd/mでの電力効率:2.0lm/W
素子の発光スペクトルの極大波長は465nmであり、化合物(D1)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.141,0.165)であった。
【0305】
(比較例2)
実施例2において、正孔輸送層を以下のように形成したほかは、実施例2と同様にして図1に示す有機電界発光素子を作製した。
引き続き、以下の構造式に示す化合物(H4)(比較ポリマーの合成例2で合成した比較ポリマー2)を含有する有機電界発光素子用組成物を調製し、下記の条件でスピンコートにより塗布して、加熱により架橋させることにより膜厚20nmの正孔輸送層を形成した。
【0306】
【化61】

【0307】
<有機電界発光素子用組成物>
溶剤 トルエン
組成物濃度 0.4重量%
<正孔輸送層の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 窒素中、230℃、1時間
このようにして得られた2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子の発光特性は以下の通りである。
【0308】
10mA/cm通電時の輝度:8670cd/m
10mA/cm通電時の電圧:7.4V
100cd/mでの電力効率:1.8lm/W
素子の発光スペクトルの極大波長は464nmであり、化合物(D1)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.137,0.155)であった。
【0309】
実施例2、及び比較例2において作製した有機電界発光素子の特性、及び初期輝度を2000cd/mとして直流駆動試験を行い、輝度が800cd/mまで減少するまでの時間(輝度80%減衰寿命)を表3にまとめる。
【0310】
【表3】

【0311】
表3より、本発明の電荷輸送性ポリマーを架橋させて形成される層を有する有機電界発光素子は、電力効率が高く、また駆動寿命が長いことが分かる。
(実施例3)
実施例2において、正孔輸送層を以下にように形成したほかは、実施例2と同様にして図1に示す有機電界発光素子を作製した。
【0312】
以下の構造式に示す、本発明による電荷輸送性ポリマー(H5)(ポリマーの合成例4で合成された目的ポリマー4)を含有する有機電界発光素子用組成物を調製し、下記の条件でスピンコートにより塗布して、加熱により架橋させることにより膜厚20nmの正孔輸送層を形成した。
【0313】
【化62】

【0314】
<有機電界発光素子用組成物>
溶剤 トルエン
組成物濃度 0.4重量%
<正孔輸送層の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 窒素中、230℃、1時間
このようにして得られた2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子の発光特性は以下の通りである。
【0315】
100cd/mでの電圧:6.0V
1000cd/mでの電圧:8.3V
100cd/mでの電流効率:3.6cd/A
1000cd/mでの電流効率:3.7cd/A
素子の発光スペクトルの極大波長は465nmであり、化合物(D1)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.137,0.176)であった。
【0316】
(比較例3)
実施例3において、正孔輸送層を以下にように形成したほかは、実施例3と同様にして図1に示す有機電界発光素子を作製した。
以下の構造式に示す、電荷輸送性ポリマー(H6)(重量平均分子量(Mw)=67850、数平均分子量(Mn)=35400)を含有する有機電界発光素子用組成物を調製し、下記の条件でスピンコートにより塗布して、加熱により架橋させることにより膜厚20nmの正孔輸送層を形成した。
【0317】
【化63】

【0318】
<有機電界発光素子用組成物>
溶剤 トルエン
組成物濃度 0.4重量%
<正孔輸送層の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 窒素中、230℃、1時間
このようにして得られた2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子の発光特性は以下の通りである。
【0319】
100cd/mでの電圧:6.2V
1000cd/mでの電圧:8.7V
100cd/mでの電流効率:3.4cd/A
1000cd/mでの電流効率:3.5cd/A
素子の発光スペクトルの極大波長は467nmであり、化合物(D1)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.134,0.180)であった。
【0320】
実施例3、及び比較例3において作製した有機電界発光素子の特性、及び初期輝度を2000cd/mとして直流駆動試験を行い、輝度が800cd/mまで減少するまでの時間(輝度80%減衰寿命)を表4にまとめる。
【0321】
【表4】

【0322】
表4より、本発明の電荷輸送性ポリマーを架橋させて形成される層を有する有機電界発光素子は、駆動電圧が低く、電流効率が高く、また寿命が長いことが分かる。
(実施例4)
実施例2において、正孔輸送層を以下にように形成したほかは、実施例2と同様にして図2に示す有機電界発光素子を作製した。
【0323】
以下の構造式に示す、本発明による電荷輸送性ポリマー(H7)(ポリマーの合成例3で合成された目的ポリマー3)を含有する有機電界発光素子用組成物を調製し、下記の条件でスピンコートにより塗布して、加熱により架橋させることにより膜厚20nmの正孔輸送層を形成した。
【0324】
【化64】

【0325】
<有機電界発光素子用組成物>
溶剤 トルエン
組成物濃度 0.4重量%
<正孔輸送層の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 窒素中、230℃、1時間
このようにして得られた2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子の発光特性は以下の通りである。
【0326】
100cd/mでの電圧:5.6V
100cd/mでの電流効率:2.6cd/A
素子の発光スペクトルの極大波長は465nmであり、化合物(D1)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.137,0.160)であった。
(比較例4)
実施例4において、正孔輸送層を以下にように形成したほかは、実施例4と同様にして図1に示す有機電界発光素子を作製した。
【0327】
以下の構造式に示す、電荷輸送性ポリマー(H8)(Mw:55000、Mn:28900、Mw/Mn:1.9)を含有する有機電界発光素子用組成物を調製し、下記の条件でスピンコートにより塗布して、加熱により架橋させることにより膜厚20nmの正孔輸送層を形成した。
【0328】
【化65】

【0329】
<有機電界発光素子用組成物>
溶剤 トルエン
組成物濃度 0.4重量%
<正孔輸送層の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 窒素中、230℃、1時間
このようにして得られた2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子の発光特性は以下の通りである。
【0330】
100cd/mでの電圧:5.8V
100cd/mでの電流効率:2.2cd/A
素子の発光スペクトルの極大波長は467nmであり、化合物(D1)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.136,0.168)であった。
実施例4、及び比較例4において作製した有機電界発光素子の特性、及び初期輝度を2000cd/mとして直流駆動試験を行い、輝度が800cd/mまで減少するまでの時間(輝度80%減衰寿命)を表5にまとめる。
【0331】
【表5】

【0332】
表5より、本発明の電荷輸送性ポリマーを架橋させて形成される層を有する有機電界発光素子は、駆動電圧が低く、電流効率が高く、また駆動寿命が長いことが分かる。
(実施例5)
以下に説明する要領で、図に示す単層構造の測定用素子を作製した。
ガラス基板1上に、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を120nmの厚さに堆積したもの(三容真空社製、スパッタ成膜品)を、通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成し、ITO基板を得た。
【0333】
パターン形成したITO基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、圧縮空気で乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
電荷輸送性ポリマー(H9)(ポリマーの合成例5で合成した目的ポリマー5)2重量%と、構造式(A1)に示す4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート0.06重量%を、溶剤としてのトルエンに溶解した後、孔径0.2μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製メンブレンフィルターを用いて濾過し、塗布組成物を作製した。この塗布組成物を上記ITO基板上にスピンコートした。スピンコートは気温23℃、相対湿度60%の大気中で行い、スピナ回転数は1500rpm、スピナ時間は30秒とした。スピンコート後、オーブンにて常圧大気雰囲気中、230℃で1時間加熱した。このようにして、サンプル層(有機電界発光素子の正孔注入層に相当する。)10を形成した。
【0334】
【化66】

【0335】
続いて、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプと直交するように素子に密着させた。油回転ポンプにより装置の粗排気を行った後、クライオポンプを用いて装置内の真空度が3×10−4Pa以下になるまで排気した。
陰極9としてアルミニウムをモリブデンボートにより加熱し、蒸着速度0.5〜5Å/秒、真空度2〜3×10−4Paで制御して膜厚80nmのアルミニウム層を形成した。以上の陰極9の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0336】
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの素子面積を有する測定用素子が得られた。
得られた測定用素子を2400型ソースメーター(Keithley社製)に接続し、電圧を順次印加していき電流値を読み取った。その結果、100mA/cmの電流密度のときの電圧は5.6Vと低い値を示した。
(比較例5)
電荷輸送性ポリマー(H9)を以下の構造式(H10)(重量平均分子量(Mw)=63600、数平均分子量(Mn)=35100)に代えた以外は、実施例5と同様にして
、図2に示す測定用素子を作製した。
【0337】
【化67】

【0338】
得られた測定用素子を2400型ソースメーター(Keithley社製)に接続し、電圧を順次印加していき電流値を読み取った。その結果、100mA/cmの電流密度のときの電圧は8.3Vであった。
本発明の電荷輸送性ポリマーを架橋させて形成される層に、さらに電子受容性化合物を含有する有機電界発光素子は、駆動電圧が低いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0339】
本発明の電荷輸送性ポリマーは、優れた電気化学的安定性、成膜性、電荷輸送能、発光特性、耐熱性から、素子の層構成に合わせて、正孔注入材料、正孔輸送材料、発光材料、ホスト材料、電子注入材料、電子輸送材料などとしても適用可能である。
本発明の電荷輸送性ポリマーを架橋して得られる層(架橋層)を有する有機電界発光素子は、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)、車載表示素子、携帯電話表示や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯への応用が考えられ、その技術的価値は大きいものである。
【0340】
更に、本発明の電荷輸送性ポリマーは、本質的に優れた耐酸化還元安定性を有することから、有機電界発光素子に限らず、電子写真感光体や有機太陽電池など有機デバイス全般に有用である。
【符号の説明】
【0341】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖として、下記式(1)で表される基を有することを特徴とする、電荷輸送性ポリマー。
【化1】

(式(1)中のベンゾシクロブテン環は、置換基を有していてもよい。また、置換基同士が、互いに結合して環を形成してもよい。spacerは、3つ以上の単結合を介して、ベンゾシクロブテン環と電荷輸送性ポリマーの主鎖とをつなぐ基を表す。)
【請求項2】
前記式(1)で表される基が、下記式(2)で表される基であることを特徴とする、請求項1に記載の電荷輸送性ポリマー。
【化2】

(式(2)中、2価の基Qは、―CR―、―O―、―CO―、―NR―、及び―S―からなる群より選ばれる基を表し、nは2以上、30以下の自然数を表す。
〜Rは、各々独立して、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
また、n個のQは、同じでもよく、また異なっていてもよい。
また、式(2)中のベンゾシクロブテン環は、2価の基Q以外に、置換基を有していてもよい。)
【請求項3】
前記式(2)で表される基が、下記式(3)で表される基であることを特徴とする、請求項2に記載の電荷輸送性ポリマー。
【化3】

(式中、R及びRは、各々独立して、水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基を表し、qは2以上、30以下の自然数を表す。
また、q個のR及びRは、各々独立に、同じでもよく、また異なっていてもよい。
電荷輸送性ポリマーが1分子中に、上記式(3)で表される基を複数有する場合、複数の上記式(3)で表される基は、同じでもよくまた異なっていてもよい。)
【請求項4】
部分構造としてトリアリールアミン構造由来の1価以上の基を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電荷輸送性ポリマー。
【請求項5】
部分構造としてフルオレン環由来の1価以上の基を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電荷輸送性ポリマー。
【請求項6】
重量平均分子量(Mw)が20,000以上であり、分散度(Mw/Mn)が2.5以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電荷輸送性ポリマー。
(但し、Mnは数平均分子量を表す。)
【請求項7】
下記式(4)で表される繰り返し単位を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の電荷輸送性ポリマー。
【化4】

(式中、mは0〜3の整数を表し、
Ar11、及びAr12は、各々独立して、直接結合、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、
Ar13〜Ar15は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
但し、Ar11及びAr12が同時に、直接結合であることはない。)
【請求項8】
前記式(1)で表される基を、分子量1,000あたり0.01個以上、3個以下有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電荷輸送性ポリマー。
(但し、分子量は、該電荷輸送性ポリマーからその末端基を除いて、仕込みモノマーのモル比と構造式から算出される値である。)
【請求項9】
下記式(5)で表される基を有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の電荷輸送性ポリマー。
【化5】

(式(5)中、スチリル基は、置換基を有していてもよい。また、置換基同士が、結合して環を形成していてもよい。)
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の電荷輸送性ポリマー及び溶剤を含有することを特徴とする、有機電界発光素子用組成物。
【請求項11】
さらに、電子受容性化合物を含有することを特徴とする、請求項10に記載の有機電界発光素子用組成物。
【請求項12】
基板上に、陽極、陰極、及び該陽極と該陰極の間に有機層を有する有機電界発光素子において、
該有機層が、請求項10又は11に記載の有機電界発光素子用組成物を用いて塗布後、前記電荷輸送性ポリマーを架橋して形成される層を含むことを特徴とする、有機電界発光素子。
【請求項13】
電荷輸送性ポリマーを架橋して形成される層が、正孔注入層及び/又は正孔輸送層であることを特徴とする、請求項12に記載の有機電界発光素子。
【請求項14】
正孔注入層、正孔輸送層及び発光層を有する有機電界発光素子において、正孔注入層、
正孔輸送層及び発光層の全てが湿式成膜法により形成されることを特徴とする、請求項12又は13に記載の有機電界発光素子。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を用いることを特徴とする、有機ELディスプレイ。
【請求項16】
請求項12〜14のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を用いることを特徴とする、有機EL照明。
【請求項17】
側鎖として、下記<式(1)で表される基群A>より選ばれることを特徴とする、電荷輸送性ポリマー。
<式(1)で表される基群A>
【化6】


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−65213(P2010−65213A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185119(P2009−185119)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】