説明

電解質のイオン濃度を設定する方法及びその装置

【課題】基板上に金属付着させるための電解質中に存在する付着金属のイオン濃度を、対応する陰イオン濃度に影響されずに設定、維持する方法、及びその装置を提供する。
【解決手段】電解質流1と交換液流2は、陽イオン交換膜又は微多孔膜3を介して互いに接触するので、交換液流中に存在する付着金属のイオン(Ni2+)は、陽イオン交換膜又は微多孔膜3を介して、ドナン透析法によって電解質流2に移動する。これにより、電解質の陰イオン濃度又は陰イオン構成を変えることなく、電解質流1中にある、付着する金属のイオン濃度を設定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に金属付着させるための電解質中にある、付着する金属のイオン濃度を設定する方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
全く異なった材質の基板上に、金属を電気めっき付着させることは、広い技術分野に普及しており、例えば、プリント基板の製造や、自動車工場、取付具工場等、全く異なった分野で応用されている。付着した金属層は、光学的又は技術的な観点で、コーティングした基板の表面特性を変化させる。
【0003】
電気めっきによる表面加工の分野において、電解質及び無電解の金属付着方法は、金属付着に用いられるものとして知られている。全く異なった手段でこれらの方法を利用し、複数の金属を付着させることが可能である。
【0004】
このため、どちらの方法でも、基本的に、コーティングされる基板は、付着する金属を溶解した形態で含んだ溶液と接触する。電解コーティング法においては、金属付着は、電極と対電極としてコーティングされる基板との間に印加する電流によって、また、その結果として生まれる基板表面での電気化学反応によって行われる。無電解コーティングの場合、金属付着は、還元剤を加えることにより、基板表面上で自己触媒作用的に行われる。
【0005】
どちらの場合でも、使用された電解質の構成は、付着の過程中に変化する。特に、付着する金属のイオン濃度は、過程中、継続的に減少するため、一定のコーティング結果を確保するためには、電解質に金属を加えることにより、付着する金属のイオン濃度を再調整しなければならない。
【0006】
金属は、金属を付着のための電解質中にイオンの形態で存在されなければならないため、金属は、電解質に可溶であり、対応する金属イオンを遊離させ、付着される金属の適宜の化合物の形態で加えられる。
【0007】
このため、金属は通常、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ハロゲン化物、炭酸塩、重炭酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩又は他のカルボン酸塩又はヒドロキシカルボン酸塩の形態で加えられる。
【0008】
この形態で金属を加えるため、電解質中の対応の陰イオン濃度が必然的に増加し、しばらくすると電解質は、これらの陰イオンで過飽和状態となり、電解質を破棄するか再生しなければならない。
【0009】
電解質の有効耐用年数の単位は、“メタル・ターン・オーバー”(MTO)である。ここで、1MTOは、もともと電解質に含まれていた金属の容量を完全に交換することに相当する。
【0010】
金属添加により引き起こされる陰イオンの濃度の増加により、方法によっては付着結果が変わり、非再生電解質の最大MTOは、2MTOから5MTOの間となる。この限度を超えると、付着結果は、もはや実用範囲を満たさなくなる。
【0011】
先行技術から、電解質を維持するための全く異なった方法が知られている。
【0012】
すなわち、例えば、文献DE(ドイツ特許出願公開)198 51 180は、電気透析セルを使った金属層の化学的還元の付着における処理液の再生方法を開示している。ここでは、電解質中に存在し、化学的還元の金属付着によって生成されたオルトリン酸イオンが除去されている。
【0013】
米国特許明細書2,726,968は、ニッケルの化学的還元付着のための電解質を制御及び維持方法を開示している。ここでは、生成されたリン酸イオンは、陰イオン交換体を使って次亜リン酸イオンと交換される。
【0014】
文献DE(ドイツ特許出願公開)43 10 366は、金属イオンと還元剤を使った金属付着のための無電解の水性コーティング槽の再生方法及びその装置を開示しており、イオン交換過程と電極による電解反応との組み合わせが提案されている。ここでは、オルトリン酸塩に変換される次亜リン酸塩と未使用の次亜リン酸塩の両方が、電気解析セルにおいて対応する陰イオン交換膜を介して電解質から除去され、また、オルトリン酸塩は、還元により陰極部で再生される。その後、再生された及び未使用の次亜リン酸塩は、再びコーティング槽に供給される。
【0015】
先行技術から知られている電解質の維持方法は、そのほとんどが電解質中の陰イオン濃度の制御に関するものである。
【0016】
陰イオン濃度は、電解質の最大MTOに対して影響を及ぼすことが、先行技術から知られている。例えば、塩のような、可溶性組成物の形態に、使用済み又は付着する金属を補充することは、電解質中のイオン濃度の増加を招き、耐用年数を制限してしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、電解質中の陰イオン濃度に影響を与えることなく、付着する金属のイオン濃度の設定を達成することにより、基板上に金属付着させるための電解質中にある、付着する金属のイオン濃度を設定する方法及びその装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的は、基板上に金属付着させるための電解質中にある、付着する金属のイオン濃度を設定する方法によって達成される。この方法は、電解質が、陽イオン交換膜又は微多孔膜を介したドナン透析法によって、付着した金属イオンで満たされ、また、付着した金属イオンと異なった、電解質中に存在する陽イオンが除去されることを特徴とし、これにより電荷中和が実現して電解質の電気的中性が維持される。
【0019】
こういった方法は、特に銅、ニッケル、コバルト、銀、金、白金、パラジウムといった金属を付着させるための電解質中のイオン濃度を設定するのに適している。
【0020】
付着する金属イオンと異なり、電解質から除去されうる陽イオンは、特に水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム元素のイオン又はアンモニウムイオンである。
【0021】
本発明によると、処理された電解質は、陽イオン交換膜又は微多孔膜を介して交換液と接触する。ここで、交換液は、水溶液、又は、例えば、リン酸トリブチル、クラウン・エーテル又は液−液抽出で知られる他の抽出剤といった、適切な有機溶媒をベースとする溶液でよい。
【0022】
付着する金属イオンは、可溶性化合物の形態で交換液に加えられる。付着する対応の金属の化合物としては、例えば、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ハロゲン化物、炭酸塩、重炭酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩又は他のカルボン酸塩又はヒドロキシカルボン酸塩でよい。
【0023】
電解質及び交換液は、陽イオン交換膜又は微多孔膜に沿って流れる。好ましくは、これは、逆方向の流れの原理により実現される。
【0024】
ここで、交換される陽イオンは、陽イオン交換膜又は微多孔膜を介して、交換液から電解質へ移動する。電気的中性を維持するため、付着する金属イオンの異なった陽イオンが、逆に電解質から交換液へ移動する。この交換の動力は、イオン活動度又はドナン電位の差と同様に、交換液及び電解質中の個々のイオンの種類の濃度差である。微多孔膜が使われる場合、両側に同一の液体圧を設定することにより、膜の両側にある液体の混合は避けられる。好ましくは、これは、可調のポンプの使用により実現される。
【0025】
交換液中の電解質から除去されるべき金属のイオンの濃度は、できるだけ低いものを選択しなければならないのに対し、交換液中の付着する金属のイオン濃度は、できるだけ高いものを選択しなければならない。
【0026】
この操作をサポートするため、本発明により、イオン選択的な陽イオン交換膜又は微多孔膜が用いられるようになる。ここで、膜の価数は、交換される金属イオンの価数に相当する。使われる膜は、基本的に平膜及び/又は中空繊維膜でよい。
【0027】
交換プロセスを更に増加させるため、交換液は、電解質から除去されるイオンのための錯化剤を含んでもよい。
【0028】
付着する金属のイオンと異なった陽イオンを受容した後、そのような交換液は、適宜の物理的又は化学的な方法により再生可能である。
【0029】
本発明による方法は、電解質の陰イオン濃度や構成を設定する既知の方法と並行して又は連続して用いられる。
【0030】
本発明による方法は、基板上に無電解の金属付着するための電解質中にある、付着する金属のイオン濃度の設定をするのに特に適している。
【0031】
本発明による方法は、好ましくは、少なくとも電解質の一部の流れが、本発明によってコーティング槽から抽出・処理される付着操作中、連続的に実行可能である。
【0032】
装置に関しては、本発明の目的は、電解質スペース(1)、交換液スペース(2)、電解質供給(5)、交換液供給(6)、電解質放出(7)、交換液放出(8)から構成される装置によって実現されるものであり、この装置は、電解質スペース(1)及び交換液スペース(2)が、陽イオン交換膜又は微多孔膜(3)によって互いに分離されていることを特徴とする。
【0033】
好ましくは、陽イオン交換膜又は微多孔膜(3)は、イオン選択膜である。
【0034】
陽イオン交換膜又は微多孔膜(3)は、例えば、平膜又は中空繊維膜又はその組み合わといった、適宜の膜の形態によって形成される。
【0035】
装置の好ましい実施形態として、この装置は、電解質スペース内及び交換液スペース内で互いに対向する曲折流路(4)から構成されており、電解質及び交換液の流路に影響を及ぼすことで、できるだけ小さな構造的形態及び高い流速比で、最大限の接触時間を実現するものである。
【0036】
本発明による装置の他の実施形態では、電解質供給と交換液供給は、縦方向に互いに対向する装置の側面に設置される。
【0037】
他の実施形態では、本発明による装置は、モジュールの形態とすることが可能である。2つ又はそれ以上のモジュールが互いに流体的に接続されるようにすると、第1のモジュールの電解質放出が第2のモジュールの電解質供給に接続されるので、第1及び第2のモジュールは電解質の流れに関して、直列的に操作される。
【0038】
ここで、交換液の流れは、好ましくは直列ではなく並列に導かれるようにすると、全てのモジュールにフレッシュな交換液が供給される。
【0039】
本発明による方法は、陽イオン交換膜の代わりに陰イオン交換膜を備えた装置であっても、代替的に操作可能である。ここで、陽イオンの代わりに、対応する陰イオンが交換され、又は、対抗手段において不要な陰イオンが除去される。そのような過程的構造により、例えば、不動態化槽のような陰イオンが用いられる槽を維持するため、本発明による方法及び本発明による装置の使用が可能になる。
【0040】
図1において、付着槽から供給された電解質10が交換装置9に流れ込む。交換装置9は、電解質スペース1、交換液スペース2、更に陽イオン交換膜又は微多孔膜3から構成される。交換液は、交換液供給6を介して交換装置9に流れ込むので、電解質の流れと交換液の流れが逆行して導かれる。交換液中に存在する、付着する金属のイオンは、ここでは、例えば、Ni2+とするが、陽イオン交換膜又は微多孔膜3を介して、交換液から、電解質スペース1へ移動し、そこで、それらのイオンは電解質に受容される。対抗手段において、付着する金属イオンと異なるイオンは、ここでは、例えば、Na及びHとするが、陽イオン交換膜又は微多孔膜3を介して、電解質から、それらのイオンは交換液スペース2へ移動して、そこで交換液に受容される。
【0041】
この結果、電解質は、陰イオンを含んだ電解質を供給することなく、付着する金属のイオンを継続的に満たしたものとすることができる。
【0042】
図2は、曲折流路4を備えた本発明による装置の実施形態を示す。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明による装置の概略構造図及び主な方法を示す図。
【図2】曲折流路で構成される、本発明による装置のハーフセル構造を示す図。
【符号の説明】
【0044】
1 電解質流
2 交換液流
3 陽イオン交換膜又は微多孔膜
4 曲折流路
5 電解質供給
6 交換液供給
7 電解質放出
8 交換液放出
9 交換装置
10 付着槽外での電解質の流れ
11 付着槽へ向かう電解質の流れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に金属を付着させるための電解質中にある、付着する金属のイオン濃度を設定する方法であって、
前記電解質が、陽イオン交換膜又は微多孔膜を介したドナン透析法によって、付着する前記金属のイオンで満たされ、付着する前記金属の前記イオンと異なった前記電解質中に存在する陽イオンを除去することにより、電荷中和が実現して前記電解質の電気的中性が維持されることを特徴とする電解質の金属のイオン濃度を設定する方法。
【請求項2】
付着する前記金属は、銅、ニッケル、コバルト、銀、金、白金又はパラジウムから構成されるグループのうちの少なくとも一つの金属であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
除去される前記陽イオンは、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム又はアンモニウムイオンから構成されるグループのうちの少なくとも一つの元素のイオンであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
交換液は、前記陽イオン交換膜又は前記微多孔膜に対して前記電解質の反対側に存在することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記交換液は、水溶液又は有機溶媒をベースとする溶液であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
付着する前記金属は、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ハロゲン化物、炭酸塩、重炭酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩又は他のカルボン酸塩又はヒドロキシカルボン酸塩から構成されるグループの化合物の形態で前記交換液に加えられることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記電解質及び前記交換液は、前記陽イオン交換膜又は前記微多孔膜に沿って流れることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記電解質及び前記交換液は、前記陽イオン交換膜又は前記微多孔膜に沿って、逆方向の流れに導かれることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
イオン選択膜が、陽イオン交換膜又は微多孔膜として使われることを特徴とする請求項1乃至請求項9の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
平膜及び/又は中空繊維膜が、膜として使われることを特徴とする請求項1乃至請求項9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記電解質から除去される前記イオンのための錯化剤が、前記交換液に加えられることを特徴とする請求項4乃至請求項10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
付着する前記金属の前記イオンと異なった前記陽イオンを受容した後、前記交換液は、適宜の物理的又は化学的な方法によって再生されることを特徴とする請求項1乃至請求項11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記電解質の前記陰イオンの濃度又は前記陰イオンの構成を設定する既知の方法と同時に又は連続して用いられることを特徴とする請求項1乃至請求項12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記基板上の前記金属の付着は、外部電流なしで実現されることを特徴とする請求項1乃至請求項13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
付着操作中に連続的に実行され、このために、少なくとも一部の前記電解質の流れが、本発明に従って処理されることを特徴とする請求項1乃至請求項14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
電解質スペース(1)、交換液スペース(2)、電解質供給(5)、交換液供給(6)、電解質放出(7)、交換液放出(8)から構成され、電解質スペース(1)及び交換液スペース(2)は、陽イオン交換膜又は微多孔膜(3)によって互いに分離されていることを特徴とする請求項1乃至請求項15の何れか一項に記載の方法を実施する装置。
【請求項17】
前記陽イオン交換膜又は前記微多孔膜(3)は、イオン選択膜であることを特徴とする請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記陽イオン交換膜又は前記微多孔膜は、平膜又は中空繊維膜であることを特徴とする請求項16及び請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記装置は、前記電解質スペース内及び前記交換液スペース内でお互いに面する曲折流路(4)から構成されることを特徴とする請求項16乃至請求項18の何れか一項に記載の装置。
【請求項20】
前記電解質供給及び前記交換液供給は、縦方向に互いに対向する前記装置の側面に設置されることを特徴とする請求項16乃至請求項18の何れか一項に記載の装置。
【請求項21】
2つ又はそれ以上のモジュールから構成される装置であって、
個々の前記装置は、請求項16乃至請求項20の何れか一項に記載の装置に対応し、
前記第1のモジュールの前記電解質放出が流体的に前記第2のモジュールの前記電解質供給に接続されており、前記電解質の流れに関し、第1及び第2のモジュールが連続的に操作されることを特徴とする装置。
【請求項22】
前記第1及び前記第2のモジュールは、フレッシュな交換液が各々供給されることを特徴とする請求項21に記載の装置。
【請求項23】
陽イオン交換膜の代わりに陰イオン交換膜が用いられ、前記陽イオンの代わりに対応の前記陰イオンが交換され又は対抗手段において不要な陰イオンが除去されることを特徴とする請求項1乃至請求項15の何れか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−328536(P2006−328536A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145310(P2006−145310)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(501251806)エンソーン インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】