説明

電鋳部品の製造方法

【課題】電鋳体の肌荒れを抑制しながら該電鋳体と樹脂層とを安定的に剥離させること。
【解決手段】基板の導電層上に化学増幅型の感光性材料を硬化させた樹脂層3が形成された成形型を利用して電鋳を行い、電鋳体5を形成させた後に、成形型から基板及び樹脂層を除去する電鋳部品の製造方法であって、成形型から基板を除去する第1除去工程と、成形型から樹脂層を除去する第2除去工程と、を備え、第2除去工程が、水酸化ナトリウム31及び水酸化カリウム32を有し、且つ、硫酸基或いは硝酸基を含む化合物、及びハロゲン化合物のうち少なくとも一方を有さない剥離剤30と、成形型とを混合させる混合工程と、該工程後、150℃以上、250℃以下の温度に剥離剤を加熱して融解させる加熱工程と、を備え、加熱工程の際、融解された剥離剤中に成形型を浸漬した状態に保持しておく製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電鋳を利用して各種部品や型といった電鋳部品を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に電鋳部品は、導電性を有する基板上に、樹脂系のメッキレジストが硬化した樹脂層が形成された成形型を利用して製造されている。具体的には、まず電鋳液が満たされた電鋳層内に成形型をセットした後、電鋳を行って電鋳体を成形型内で成長させる。そして、電鋳体が形成された後、この電鋳体を所望の厚み寸法に機械加工等する。その後、電鋳体から基板を除去する工程を行うと共に、剥離剤を利用して電鋳体から樹脂層を剥離させて取り除く工程を行うことで電鋳部品が製造される。
【0003】
ところで、上記メッキレジストとしては、アクリル系のドライフィルムフォトレジストや、エポキシ系のフォトレジストが使用される場合があるが、より精密な電鋳部品を作製するために、アスペクト比を高くした化学増幅型フォトレジストが使用される場合がある。ところが、この化学増幅型フォトレジストを使用した場合には、有機溶剤やアルカリ水溶液等の溶液系の剥離剤を使用しても、樹脂層を融解させることが難しいことが知られている。
【0004】
そこで、化学増幅型フォトレジストを硬化させた樹脂層を利用したとしても、該樹脂層を電鋳体から安定的に剥離させることができる方法が知られている(特許文献1参照)。
この方法は、剥離剤として、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとを有し、且つ、ハロゲン化合物又は硫酸基或いは硝酸基を含む化合物を有さない剥離剤を用い、該剥離剤を150℃以上、250℃以下の温度に加熱しながら剥離を行う方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−186735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記特許文献1に記載の方法では、樹脂層の剥離後、電鋳体の表面が荒れてざらついてしまう(肌荒れ)場合があった。
即ち、上記方法では、加熱によって融解された液状の剥離剤の中に成形型を沈ませることで、樹脂層を電鋳体から剥離させる方法であるが、加熱中における電鋳体の挙動が不安定になり易かった。つまり電鋳体は、加熱中に液化して流動している剥離剤の影響によって、該剥離剤に完全に浸かった状態になったり、半分浮いた状態になったり、完全に浮いた状態になったりする恐れがあり、剥離剤への浸かり方にムラが出易かった。
その結果、電鋳体の表面に肌荒れがでてしまうものと考えられる。
【0007】
特に、電鋳部品を時計用部品(例えばがんぎ歯車やアンクル体)等の微細な部品として利用する場合が多くあるが、このような時計用部品に肌荒れが生じてしまうと、その作動性や美的外観性を低下させる要因となってしまう。従って、極力肌荒れを生じさせないことが重要であり、また求められている。
【0008】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、電鋳体の肌荒れを抑制しながら該電鋳体と樹脂層とを安定的に剥離させることができる電鋳部品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
(1)本発明に係る電鋳部品の製造方法は、基板の導電層上に化学増幅型の感光性材料を硬化させた樹脂層が形成された成形型を利用して電鋳を行い、導電層上に電鋳体を形成させた後に、成形型から基板及び樹脂層を除去する電鋳部品の製造方法であって、前記成形型から前記基板を除去する第1除去工程と、前記成形型から前記樹脂層を除去する第2除去工程と、を備え、前記第2除去工程が、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムを有し、且つ、硫酸基或いは硝酸基を含む化合物、及びハロゲン化合物のうち少なくとも一方を有さない剥離剤と、前記成形型とを混合させる混合工程と、該工程後、150℃以上、250℃以下の温度に前記剥離剤を加熱して融解させる加熱工程と、を備え、前記加熱工程の際、融解された前記剥離剤中に前記成形型を浸漬した状態に保持しておくことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る電鋳部品の製造方法によれば、上述した剥離剤を加熱することで、アルカリ水溶液等のような溶液系の剥離剤とは異なり、化学増幅型の感光性材料を硬化させた樹脂層であっても、確実に融解させて電鋳体から安定的に剥離させることができる。しかも、電鋳体の変色や変質を抑えた状態で樹脂層を融解して剥離させることができる。
特に、加熱工程時、融解された剥離剤中に成形型を完全に浸漬させた状態で保持しておくので、成形型の挙動が不安定になることがなく、剥離剤を樹脂層の全体にムラなく均一に触れさせた状態で反応させることができる。従って、電鋳体に肌荒れが生じてしまうことを抑制しながら樹脂層を安定的に剥離させることができる。
【0011】
(2)また、上記本発明の電鋳部品の製造方法において、前記加熱工程の際、前記成形型の浮き上がりを規制して融解された前記剥離剤中に該成形型を浸漬させる規制部材を利用しても良い。
この場合には、規制部材を利用するだけの簡便な方法で、融解された剥離剤中に成形型を確実に浸漬させた状態に保持しておくことができ、低コスト化に繋げ易い。
【0012】
(3)また、上記本発明の電鋳部品の製造方法において、前記加熱工程の際、無酸素雰囲気中で前記剥離剤を加熱しても良い。
この場合には、加熱中に、仮に成形型が浮き上がってその一部が融解された剥離剤から露出してしまったとしても、樹脂層に含まれる触媒が酸素と反応することに起因する肌荒れの発生を抑制することができる。
【0013】
(4)また、上記本発明の電鋳部品の製造方法において、前記剥離剤として、前記水酸化ナトリウムよりも前記水酸化カリウムを多く有するものを用いても良い。
この場合には、水酸化カリウムの含有量の方が水酸化ナトリウムの含有量よりも多いので、電鋳体の変色をより効果的に抑制することができる。
【0014】
(5)また、上記本発明の電鋳部品の製造方法において、前記電鋳体がニッケルを有し、前記加熱工程の際、前記剥離剤を215℃以下に加熱しても良い。
この場合には、ニッケルによる電鋳体の変質をより効果的に抑制することができる。
【0015】
(6)また、上記本発明の電鋳部品の製造方法において、前記剥離剤として、カルシウム化合物の添加剤を有するものを用いても良い。
この場合には、感光性材料にフッ化物やリン含有化合物が含まれている場合、フッ素やリンをカルシウムと反応させることによって、電鋳体からこれらの物質を安定した状態で除去することができる。
【0016】
(7)また、上記本発明の電鋳部品の製造方法において、前記剥離剤として、有機酸又は有機酸化合物の添加剤を有するものを用いても良い。
この場合には、感光性材料に光重合開始剤(光重合触媒)としてアンチモン化合物等の金属化合物が含まれている場合、この金属化合物を有機酸基と反応させることによって、電鋳体からこれらの物質を安定した状態で除去することができ、電鋳体の変色や劣化を防ぐことができる。
【0017】
(8)また、上記本発明の電鋳部品の製造方法において、前記有機酸が酒石酸であっても良い。
この場合には、光重合開始剤として広く用いられているアンチモン化合物を用いている場合、このアンチモン化合物と酒石酸基とが反応し、安定且つ水に可溶な化合物を形成するので、電鋳体表面よりこれらの物質を容易に除去でき、電鋳体の変色や劣化を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る電鋳部品の製造方法によれば、電鋳体の肌荒れを抑制しながら該電鋳体と樹脂層とを安定的に剥離させることができ、高品質な電鋳部品を製造することができる。特に、時計用部品として好適な電鋳部品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る電鋳部品の製造に使用する成形型の実施形態を示す断面図である。
【図2】図1に示す成形型を利用して製造された電鋳部品の断面図である。
【図3】図1に示す成形型を利用して図2に示す電鋳部品を製造する際のフローチャートである。
【図4】図2に示す電鋳部品を製造する際の一工程を示す図であって、フォトレジストを露光している状態を示す図である。
【図5】図2に示す電鋳部品を製造する際の一工程を示す図であって、図1に示す成形型を電鋳装置にセットした状態を示す図である。
【図6】図5に示す状態の後、電鋳を行って電鋳体を形成した状態を示す図である。
【図7】図6に示す状態の後、成形型から基板を除去した状態を示す図である。
【図8】図2に示す電鋳部品を製造する際の一工程を示す図であって、図7に示す成形型を坩堝内にセットした後、剥離剤及び落し蓋を順に投入した状態を示す図である。
【図9】図8に示す状態の後、加熱を行って剥離剤を融解させた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る電鋳部品の製造方法の一実施形態について、図1から図9を参照して説明する。
本実施形態の製造方法は、図1に示す成形型1を利用して電鋳を行って導電層2a上に電鋳体5を形成させた後に、成形型1から基板2及び樹脂層3を除去することで、図2に示すような電鋳部品Aを製造する方法である。
【0021】
はじめに、上記成形型1について説明する。
この成形型1は、図1に示すように、表面に導電層2aが形成された基板2と、導電層2a上に形成された樹脂層3と、を備えている。
本実施形態の基板2はシリコン基板であり、成形型1としての強度が維持できる程度の厚み(例えば、1μm〜1mm程度の厚み)とされている。樹脂層3は、化学増幅型のフォトレジスト(感光性材料)(図4参照)10が硬化されることで形成されたものである。この際、樹脂層3は、所定の形状にパターニングされており、該樹脂層3と導電層2aとで画成された空間部分に電鋳体5が形成されるようになっている。
なお、本実施形態では、エポキシ系の樹脂をベースとする化学増幅型のフォトレジスト10を硬化した樹脂層3を用いる場合を例に挙げて説明する。
【0022】
次に、上述した成形型1を利用して、図2に示す電鋳部品Aを製造する方法について、図3に示すフローチャートを参照しながら説明する。
本実施形態の製造方法は、大別して上記成形型1を製造する成形型製造工程(S1)と、この成形型1を用いて電鋳体5を製造する電鋳体製造工程(S2)と、を備えている。
以下、これら各工程について詳細に説明する。
【0023】
はじめに、上記成形型製造工程(S1)を行う。
この工程は、まず、図4に示すように、暗室にて基板2の導電層2a上に化学増幅型のフォトレジスト10を所定の厚さに塗布した後、該フォトレジスト10上にフォトマスク11をセットする。なお、本実施形態ではフォトレジスト10がネガ型とされている場合で説明する。そのため、フォトレジスト10のうち硬化させたくない部分を覆うようにフォトマスク11をセットする。
【0024】
次いで、フォトマスク11上から露光を行う。これにより、フォトレジスト10のうち、フォトマスク11を通過して露光された部分は硬化した樹脂層3になると共に、フォトマスク11によってマスクされている部分は露光されずに未硬化となった未硬化層10aとなる。
次いで、現像を行って上記未硬化層10aを除去する。これにより、導電層2a上に樹脂層3が形成された図1に示す成形型1を製造することができる。この時点で成形型製造工程(S1)が終了する。
【0025】
続いて、上記電鋳体製造工程(S2)を行う。
この工程は、成形型1を図5に示す電鋳装置20にセットして電鋳体5を形成する電鋳体形成工程(S10)と、形成した電鋳体5を所望の厚み寸法になるように調整する厚み調整工程(S20)と、成形型1から導電層2aを有する基板2を除去する第1除去工程(S30)と、成形型1から樹脂層3を除去する第2除去工程(S40)と、を備えている。
なお、本実施形態では、ニッケル(Ni)電鋳によって電鋳体5を製造する場合を例に挙げて説明する。また、第1除去工程(S30)を先に行った後、第2除去工程(S40)を行う場合を例に挙げて説明する。
【0026】
ここで、上記電鋳装置20について簡単に説明する。
図5に示すように、この電鋳装置20は、電鋳液Wが貯液された電鋳槽21と、電鋳すべき金属材料であるニッケルから形成され、電鋳液W内に浸されて配設された電極22と、電気配線23を介して電極22及び成形型1の導電層2aにそれぞれ接続される電源部24と、を備えている。
【0027】
なお、電源部24の陽極側に電極22が接続され、陰極側に導電層2aが接続されている。また、電鋳液Wは、電鋳すべき金属材料に応じて選択されるが、ニッケル電鋳を行う場合には、例えばスルファミン酸浴、ワット浴や硫酸浴等が用いられる。仮にスルファミン酸浴を用いてニッケル電鋳を行う場合には、例えば電鋳槽21の中にスルファミン酸ニッケル水和塩を主成分とするスルファミン酸浴を入れる。
【0028】
そして、このように構成された電鋳装置20を利用して、上記電鋳体形成工程(S10)を行う。
まず、図5に示すように、電鋳槽21内に貯液された電鋳液W中に成形型1を浸漬させた後、電源部24を作動させて、電極22と導電層2aとの間に所定の電圧を所定時間印加させる。すると、電極22を構成するNiがイオン化してスルファミン酸浴中を移動し、図6に示すように電鋳液W内にて露出している導電層2a上に金属として析出すると共に、このNiが徐々に成長して電鋳体5となる。そして、少なくとも樹脂層3の厚みに達するまで電鋳体5を成長させる。なお、樹脂層3には電流が流れないので、該樹脂層3には電鋳体5が析出することはない。
この時点で、電鋳体形成工程(S10)が終了する。
【0029】
なお、この工程を行う際、電鋳槽21に配管(図示せず)を介して弁(図示せず)を接続し、さらにこの配管に濾過用フィルタ(図示せず)を設けることにより、電鋳槽21から排出されるスルファミン酸浴を濾過することが好ましい。更に、濾過したスルファミン酸浴を、注入用配管(図示せず)によって電鋳槽21内に返送し、スルファミン酸浴を循環させることが好ましい。
【0030】
続いて、上記厚み調整工程(S20)を行う。
まず、電鋳体5が形成された成形型1を電鋳槽21から取り出した後、電鋳体5が所望の厚み寸法となるように成形型1ごと表面を機械的に平面研削する。その後、再度表面を例えば段階的に研磨加工して、研削時に生じた研削傷等を除去する。
この工程を行うことで、電鋳体5の表面を平坦面とすることができると共に、電鋳部品Aとして規定された厚み寸法に調整することができる。
【0031】
続いて、上記第1除去工程(S30)を行う。
まず、電鋳体5が形成された成形型1を水酸化ナトリウム50%水溶液に浸し、略95℃に加熱して数時間維持する。これにより、基板2の材料であるシリコンが水溶液中に溶解する。その後、この水溶液を冷却して、基板2が除去された成形型1(電鋳体5と樹脂層3と一体化したもの)を取り出すと共に、樹脂層3に付着している残りの導電層2aをさらにエッチング等によって除去する。
これにより、図7に示すように、電鋳体5に樹脂層3のみが固着している状態となる。なお、以降、この状態を基板2が除去された成形型1’と称する。
この時点で、第1除去工程(S30)が終了する。
【0032】
続いて、残った樹脂層3を除去する上記第2除去工程(S40)を行う。
この工程は、水酸化ナトリウム31及び水酸化カリウム32を有し、且つ、硫酸基或いは硝酸基を含む化合物、及びハロゲン化合物のうち少なくとも一方を有さない剥離剤30と、基板2が除去された成形型1’とを混合させる混合工程(S41)と、該工程後、150℃以上、250℃以下の温度に剥離剤30を加熱して融解させる加熱工程(S42)と、を備えている。
【0033】
まず、上記混合工程(S41)を行う。
即ち、図8に示すように、坩堝35内に基板2が除去された成形型1’を投入した後、所定量の剥離剤30を投入することで、両者を混合させる。この際、坩堝35は、電鋳体5を構成するニッケルよりもイオン化傾向が大きい、例えば鉄製のものを用いることが好ましい。
【0034】
なお、本実施形態では、剥離剤30として、水酸化ナトリウム31と水酸化カリウム32との混合物を主成分とし、且つ、硫酸基或いは硝酸基を含む化合物及びハロゲン化合物の両方を有さないものを用いる。また、水酸化ナトリウム31と水酸化カリウム32との比率は、例えば、重量比で1対4となるように調整しておく。
【0035】
また、この混合工程(S41)の段階では、剥離剤30は液相を形成する比率で水酸化ナトリウム31の粒と水酸化カリウム32の粒とを混ぜただけのもので良く、或いは、液相を形成する組成の水酸化ナトリウム31と水酸化カリウム32との固溶体としたものでも構わない。
更に、エポキシ系の樹脂をベースとするフォトレジスト10には、光重合開始剤(光重合触媒)として六フッ化アンチモンイオンが含まれているので、剥離剤30には、例えばアンチモンと安定な物質を形成する酒石酸やカリウム等のような酒石酸基を有する化合物を添加剤33として混ぜても良い。
【0036】
ところで、本実施形態では、剥離剤30を投入した後、さらにこれら剥離剤30上に落し蓋(規制部材)36をセットする。この落し蓋36は、坩堝35の開口部を略塞ぐサイズに形成され、耐薬品性を有すると共に剥離剤30よりも比重が重い金属製又は樹脂製の蓋である。また、この落し蓋36には、全面に亘って厚さ方向に貫通する貫通孔36aが複数形成されている。この時点で、混合工程(S41)が終了する。
【0037】
続いて、上記加熱工程(S42)に移行する。
まず、坩堝35を図示しない電気炉内に投入する。そして、この電気炉内を真空引きした後、内部を不活性ガス(例えば窒素やアルゴン)雰囲気状態とする。これにより、電気炉内は無酸素雰囲気状態となる。
次いで、剥離剤30の温度が150℃以上、215℃以下となるように電気炉内を加熱する。そして、剥離剤30がある程度融解するまで数時間加熱した後、この加熱状態を少なくとも1時間維持する。
【0038】
すると、図9に示すように、上記加熱によって剥離剤30は融解して液化し、樹脂層3の全体に亘って作用する。特に、剥離剤30は上記成分からなるものであるので、アルカリ水溶液等のような溶液系の剥離剤とは異なり、化学増幅型のフォトレジスト10を硬化させた樹脂層3であっても、確実に融解させて電鋳体5から安定的に剥離させることができる。しかも、電鋳体5の変色や変質を抑えた状態で樹脂層3を融解して剥離させることができる。
【0039】
ところで、上記加熱中、剥離剤30が融解して液化されると同時に、落し蓋36は坩堝35の底部に向かって沈み始める。この際、この落し蓋36は、剥離剤30よりも比重が重く、全面に亘って複数の貫通孔36aが形成されているので、傾くことなく略水平状態を維持したまま滑らかに沈み始める。これにより、基板2が除去された成形型1’の浮き上がりを規制することができると共に、融解されて液化した剥離剤30中に成形型1’を確実に沈めて浸漬させた状態に保持できる。
【0040】
従って、加熱中、成形型1’が不安定になることがなく、剥離剤30を樹脂層3の全体にムラなく均一に触れさせた状態で反応させることができる。しかも、貫通孔36a内にも液化した剥離剤30が行き渡るので、落し蓋36に邪魔されることなく、剥離剤30を樹脂層3に作用させることができる。
その結果、電鋳体5に肌荒れが生じてしまうことを抑制しながら樹脂層3を剥離させることができる。
【0041】
次いで、上記加熱工程(S42)が終了した後、坩堝35を電気炉内から取り出し、水酸化ナトリウム31が固化するまで剥離剤30を冷却する。そして、電鋳体5と共に固化した剥離剤30を水中に投入して、剥離剤30を溶融させることで電鋳体5を取り出す。この時点で、第2除去工程(S40)が終了する。
【0042】
その後、この電鋳体5の形状や寸法等の最終的な確認や、傷や変形等の有無等の外観検査等を行うことで、図2に示す電鋳部品Aを得ることができる。
【0043】
上述した製造方法によれば、電鋳体5の変色や変質を抑えた状態で、化学増幅型のフォトレジスト10を硬化させた樹脂層3であっても確実に融解して電鋳体5から剥離させることができ、電鋳体5からの樹脂層3の剥離性を向上させることができる。
特に、電鋳体5の肌荒れを抑制できるので、高品質な電鋳部品Aを製造することができる。従って、本実施形態の製造方法で製造された電鋳部品Aは、がんぎ歯車やアンクル体や二番車等の時計用部品として好適に利用することが可能である。
【0044】
また、落し蓋36を利用するだけの簡便な方法で、融解された剥離剤30中に成形型1’を確実に浸漬させた状態に保持しておくことができ、構成の簡略化を図って低コスト化に繋げ易い。
また、無酸素雰囲気中で加熱を行うので、加熱中に、仮に基板2が除去された成形型1’が浮き上がってしまい、その一部が液化した剥離剤30の液面上に露出してしまったとしても、樹脂層3に含まれる触媒(例えばアンチモンやリン化合物)が酸素と反応することに起因する肌荒れの発生を抑制することができる。
【0045】
また、水酸化カリウム32の含有量の方が水酸化ナトリウム31の含有量より多い剥離剤30を使用しているので、電鋳体5の変色をより効果的に抑制することができる。
また、150℃以上、215℃以下の温度で剥離剤30を加熱するので、ニッケルからなる電鋳体5に不純物が含まれていても変質をより効果的に抑制することができる。
また、剥離剤30に酒石酸基を有する化合物を添加剤33として添加しているので、電鋳体5から六フッ化アンチモンイオン等のアンチモン化合物を除去でき、電鋳体5の変色や劣化を効果的に抑制することができる。
【0046】
なお、上記実施形態において、剥離剤30にカルシウム化合物の添加剤33を添加した場合には、電鋳体5にフッ化物やリン含有化合物が含まれていたとしても、フッ素やリンをカルシウムと反応させることによって、電鋳体5からこれらの物質を安定した状態で除去することができる。
【0047】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0048】
例えば、上記実施形態では、混合工程(S41)の際、坩堝35内に先に基板2が除去された成形型1’を投入した後、剥離剤30を投入したが、これとは逆に先に剥離剤30を投入してから基板2が除去された成形型1’を投入しても構わない。
また、一旦剥離剤30を投入した後、基板2が除去された成形型1’を投入し、その後残りの剥離剤30を投入しても構わない。いずれの場合であっても、同様の作用効果を奏することができる。
更には、坩堝35内に先に基板2が除去された成形型1’を投入した場合、該成形型1’上に落し蓋36を載せた後に、剥離剤30を投入しても構わない。この場合であっても、同様の作用効果を奏することができる。
【0049】
また、上記実施形態では、落し蓋36を利用したが、この場合に限定されるものではない。例えば、坩堝35の内面に係合可能なプレート部材を規制部材として採用しても構わない。この場合であっても、成形型1’の浮き上がりを規制することができると共に、液化した剥離剤30中に成形型1’を浸漬した状態で保持することが可能である。
なお、成形型1’を液化した剥離剤30中に浸漬する際、該成形型1’が極力坩堝35に触れないようにすることが好ましい。こうすることで、樹脂層3に対してよりムラなく均一に剥離剤30を作用させることができ、剥離性をより向上することができる。
【0050】
また、上記実施形態では、シリコンからなる基板2を例に挙げて説明したが、この場合に限定されるものではない。特に、シリコンを採用した場合には、該シリコンが水酸化ナトリウム31や水酸化カリウム32の融解液に融解されて高融点物質が形成されるため、液化した剥離剤30が固化する恐れが考えられる。そのため、上記実施形態では、第2除去工程(S40)よりも前に第1除去工程(S30)を行った。
しかしながら、基板2の材料を剥離剤30に不溶な材料、例えばサファイヤ、鉄、ステンレスやチタン等の材料を採用した場合には、第2除去工程(S40)を先に行い、その後、第1除去工程(S30)を行う順序でも構わない。
【符号の説明】
【0051】
A…電鋳部品
1…成形型
2…基板
2a…導電層
3…樹脂層
5…電鋳体
10…フォトレジスト(化学増幅型の感光性材料)
30…剥離剤
31…水酸化ナトリウム
32…水酸化カリウム
33…添加剤
36…落し蓋(規制部材)
S30…第1除去工程
S40…第2除去工程
S41…混合工程
S42…加熱工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の導電層上に化学増幅型の感光性材料を硬化させた樹脂層が形成された成形型を利用して電鋳を行い、前記導電層上に電鋳体を形成させた後に、前記成形型から前記基板及び前記樹脂層を除去する電鋳部品の製造方法であって、
前記成形型から前記基板を除去する第1除去工程と、
前記成形型から前記樹脂層を除去する第2除去工程と、を備え、
前記第2除去工程は、
水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムを有し、且つ、硫酸基或いは硝酸基を含む化合物、及びハロゲン化合物のうち少なくとも一方を有さない剥離剤と、前記成形型とを混合させる混合工程と、
該工程後、150℃以上、250℃以下の温度に前記剥離剤を加熱して融解させる加熱工程と、を備え、
前記加熱工程の際、融解された前記剥離剤中に前記成形型を浸漬した状態に保持しておくことを特徴とする電鋳部品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電鋳部品の製造方法において、
前記加熱工程の際、前記成形型の浮き上がりを規制して融解された前記剥離剤中に該成形型を浸漬させる規制部材を利用することを特徴とする電鋳部品の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電鋳部品の製造方法において、
前記加熱工程の際、無酸素雰囲気中で前記剥離剤を加熱することを特徴とする電鋳部品の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の電鋳部品の製造方法において、
前記剥離剤として、前記水酸化ナトリウムよりも前記水酸化カリウムを多く有するものを用いることを特徴とする電鋳部品の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の電鋳部品の製造方法において、
前記電鋳体がニッケルを有し、
前記加熱工程の際、前記剥離剤を215℃以下に加熱することを特徴とする電鋳部品の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の電鋳部品の製造方法において、
前記剥離剤として、カルシウム化合物の添加剤を有するものを用いることを特徴とする電鋳部品の製造方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載の電鋳部品の製造方法において、
前記剥離剤として、有機酸又は有機酸化合物の添加剤を有するものを用いることを特徴とする電鋳部品の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の電鋳部品の製造方法において、
前記有機酸が酒石酸であることを特徴とする電鋳部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−41600(P2012−41600A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183223(P2010−183223)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(305018823)盛岡セイコー工業株式会社 (51)
【Fターム(参考)】