静圧気体軸受
【課題】高い回転精度を有し、低コストで製造することのできる静圧気体軸受を提供する。
【解決手段】矢印方向に回転する回転体を気体膜を介して回転支持する多孔質体2は、回転体の回転方向に交互に配設された複数の有効通気部3と線状の非有効通気部4とを有する。複数の有効通気部3は、それぞれ非有効通気部4によって分離され、通気流量を個別に制御される。線状の非通気有効部4を、回転方向に垂直な軸に対して回転方向に傾斜させることで、通気流量の回転方向の分布を低減し、均一な気体膜を形成する。
【解決手段】矢印方向に回転する回転体を気体膜を介して回転支持する多孔質体2は、回転体の回転方向に交互に配設された複数の有効通気部3と線状の非有効通気部4とを有する。複数の有効通気部3は、それぞれ非有効通気部4によって分離され、通気流量を個別に制御される。線状の非通気有効部4を、回転方向に垂直な軸に対して回転方向に傾斜させることで、通気流量の回転方向の分布を低減し、均一な気体膜を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工機の回転軸等の回転体を非接触にて回転支持する静圧気体軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光学機能向上の要求に伴い、光学素子に求められる加工精度が年々高まってきている。例えば、回折光学素子等においては光学素子金型の必要形状精度がナノメートルレベルにまで達している。そのため、光学素子金型を加工する加工装置にも従来より高精度なものが求められるようになってきている。このような加工装置では、可動部の摩擦要因を減らし、非線形要素を極力少なくすることで、送り精度および回転精度を高める工夫が行われている。特に、工具あるいは被加工物を設置、回転させる主軸スピンドルには高い回転精度が必要となるため、回転軸を支持する回転軸受のさらなる高精度化が求められている。
【0003】
高精度な回転精度を得ようとする場合、回転軸の支持には、気体膜が発生する気体圧力により回転軸を非接触支持する静圧気体軸受を用いるのが一般的である。静圧気体軸受における回転軸の支持力は、気体膜の発生する圧力により決定される。したがって、静圧気体軸受において、回転精度は発生圧力のバランスにより決定される。そのため、高回転精度を得るためには、軸受および回転体の真円度、円筒度が十分に作製されていること、および、回転軸が回転し、軸受部との位相が変化する間、気体膜の圧力分布における軸対称成分が各方位において常に等しいことが必要となる。しかし、現実的には、軸受および回転体の機械加工精度には限界があるため、最高精度のものであっても、回転軸外径形状、軸受部内径形状は真円度、円筒度に数十〜数百nm程度の形状誤差を有している。気体膜の発生圧力を管理、調整するには、軸受面からの通気流量分布を管理する必要がある。このような場合、軸受面全体に、気体通気性を持つ孔径0.1〜500μm程度の連続気孔を複数有する多孔質軸受を用いるのが有効である。
【0004】
多孔質軸受は、通気流量の調整および給気口に絞り効果を与える目的で、通気孔に目止め処理を施して使用する場合が多い。多孔質材の通気孔は、孔の大きさおよび分布にある程度のばらつきが存在するため、軸受面全範囲の通気流量の分布を高精度に測定および調整することが難しい。そのため、軸受面を所定の範囲ごとに区分けし、各区分の通気流量を管理することが有効である。
【0005】
特許文献1には、多孔質軸受面に密着しうるリング状弾性体を軸受面に押圧し、所定の区分ごとに通気流量を測定および調整する流量測定装置技術が開示されている。この従来技術では流量調整方法として、予め所定の通気流量以下になるように軸受面に樹脂を含浸させて多孔質材の孔を塞いだ後、所定の区分ごとに気体通気流量を測定しながら溶剤により適宜樹脂を除去し、通気流量が所定の値になるように調整している。
【0006】
図12(a)は、従来技術を適用した多孔質ラジアル軸受の外観図である。図12(b)は、軸受面の一部を周方向に平面展開し、有効通気部103および非有効通気部104の設置配向図と軸受幅での総通気流量を周方向に沿って1mm以下の区分幅で微小区分分割した場合の周方向の通気流量分布グラフをあらわしたものである。ハウジング部101に支持された多孔質体に対して、リング状弾性体の押圧によりシールされた区分ごとに流量を測定し、流量調整を行い、区分内の通気流量が管理された有効通気部103が周方向に等分配置となるようにし、発生圧力の軸対称性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2729700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、所定の区分ごとに通気流量管理を行った場合でも、近年の超精密加工装置の主軸等に求められている高い回転精度を達成しようとする場合には、わずかな流量分布のばらつきが、発生圧力のバランスを崩し、要求精度達成の障害となっている。
【0009】
図12に示した従来例では、発生圧力の軸対称性向上を図るため、周方向に同一形状の有効通気部を均等配置したが、通気流量に着目すると、周方向に沿って通気流量が正弦波状に変動していることがわかる。このような、回転方向に通気流量の変動を有する軸受において、回転軸が回転して軸受部との位相が変化すると、回転体の真円度、円筒度誤差により、位相に同期して軸受隙間が変動することとなる。この場合の回転精度に与える悪影響は、数十nm程度であり、従来では問題とならないレベルの影響であったが、ナノメートルオーダーでの回転精度が求められる場合には、解決しなければならない問題である。
【0010】
本発明は、高い回転精度を実現するとともに、安定した品質で安価に製造することのできる静圧気体軸受を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の静圧気体軸受は、気体膜を形成する軸受面によって回転体を回転支持する静圧気体軸受において、前記軸受面において前記回転体の回転方向に並設された、前記気体膜を形成するための複数の有効通気部と、前記軸受面において、前記複数の有効通気部をそれぞれ分離するために前記回転方向に垂直な方向に延在する線状の非有効通気部と、を有し、前記非有効通気部は、前記回転方向に垂直な軸に対して前記回転方向に傾斜して配置されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
通気流量がそれぞれ管理された複数の有効通気部と、通気流量が極少またはゼロである非有効通気部とを有する軸受面において、通気流量分布を均一にして回転精度を向上させることができる。区分された各有効通気部の形状および設置配向が高精度でなくてもよいため、高い回転精度を有する静圧気体軸受を安定して低コストで製造できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1によるラジアル静圧気体軸受を示す外観図である。
【図2】図1のラジアル静圧気体軸受の軸受面の一部を回転方向に平面展開した模式図と周方向の通気流量分布グラフを対応させたものである。
【図3】非有効通気部を傾斜させない構成において、通気流量変動が回転精度に悪影響を与える場合を説明するために、軸受面の一部を周方向に平面展開した模式図と回転方向の通気流量分布グラフを対応させたものである。
【図4】図1のラジアル静圧気体軸受におけるリサージュ測定波形である。
【図5】図3の構成において、通気流量変動が回転精度に悪影響を与える場合のリサージュ測定波形である。
【図6】実施例1によるスラスト静圧気体軸受を示す外観図である。
【図7】実施例2によるラジアル静圧気体軸受において、線状の非有効通気部の傾斜角度、線幅、組合わせ形状を説明する図である。
【図8】実施例3によるラジアル静圧気体軸受において、軸受面の一部を回転方向に平面展開した模式図と周方向の通気流量分布グラフを対応させたものである。
【図9】実施例3に類似した非有効通気部を傾斜させない構成において、通気流量変動が回転精度に悪影響を与える場合の、軸受面の一部を回転方向に平面展開した模式図と周方向の通気流量分布グラフを対応させたものである。
【図10】実施例4によるラジアル静圧気体軸受において、軸受面の一部を回転方向に平面展開した模式図と周方向の通気流量分布グラフを対応させたものである。
【図11】実施例5によるラジアル静圧気体軸受において、非有効通気部の形状を説明する図である。
【図12】従来技術を示すもので、(a)はラジアル静圧気体軸受を示す外観図、(b)は軸受面の一部を回転方向に平面展開した模式図と周方向の通気流量分布グラフを対応させたものである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0014】
図1は、実施例1によるラジアル静圧気体軸受を示す外観図であり、軸中心Oを軸芯とする図示しない回転軸(回転体)を回転支持するものである。ハウジング部1に保持された軸受部は多孔質体2で構成されており、図示しない気体供給口から圧力発生源となる気体が供給されている。軸受面に気体膜を形成するための気体噴出量を管理するため、軸受面を所定の通気量分布条件を満たす複数の有効通気部3と非有効通気部4とに分けて、各有効通気部3の通気流量をそれぞれ制御する手段を設ける。線状の非有効通気部4は、軸受面において回転方向に垂直な方向に延在し、軸受面上の回転方向に垂直な軸に対して傾斜して配置され、複数の有効通気部3は、回転方向に並設されている。
【0015】
本実施例においては、非有効通気部4は目止め処理により気体通気を抑制されており、未管理通気部による流量分布の設計誤差を防いでいる。有効通気部3どうしの間はクリアランス状態、すなわち線状に延在する非有効通気部4によってそれぞれ分離され、その間隔を1mm±0.2mmとしてある。そうすることで、管理区分のオーバーラップによる既管理区分への干渉を防ぐとともに、管理区分の位置決めを容易なものとしている。
【0016】
有効通気部3は、平面展開した場合に形状が平行四辺形となる形状をしており、回転方向に沿って整数個配設されている。これにより、軸受面における圧力発生部の比率を大きくすることで軸受の負荷容量を大きくするとともに、回転方向に沿った通気量分布が全範囲において一定となるようにする。
【0017】
図2(a)は、上記軸受面の一部を回転方向(周方向)に平面展開した、有効通気部3および非有効通気部4の設置配向図と軸受幅での総通気流量を回転方向に沿って1mm以下の区分幅で微小区分分割した場合の通気流量分布グラフを示す。図12の従来例と比較した場合、非有効通気部4が線状かつ回転方向に垂直な軸受面上の軸に対して回転方向に傾斜していることにより、通気流量変動が非常に小さくなっている。そのため、回転軸が回転し、軸受部との位相が変化する間、気体膜の圧力分布における軸対称成分が回転方向の各方位において常に等しくなっている。
【0018】
有効通気部3の設置配向の理想状態は、有効通気部3どうしの間に非有効通気部4およびオーバーラップ部が存在しない場合であるが、微小気孔が分散した多孔質軸受面においてこれを実現することは非常に困難である。図2(b)は、本実施例による静圧気体軸受において、有効通気部3および非有効通気部4の形状誤差やズレが大きい場合の図2(a)と同様の展開模式図および通気流量分布グラフである。すなわち、隣り合う有効通気部間には、クリアランス、オーバーラップおよび理想状態が混在する場合である。図2(a)の場合との比較では、わずかに回転方向に沿った通気流量変動が多くなっているが、この場合でも、周方向に沿った1cm2
あたりの通気流量変動は3%程度であり、その影響は気体膜の平均化効果により鈍化され問題とならないレベルに収まっている。図4に、本実施例によるラジアル静圧気体軸受にロータ(回転体)を設置して、回転させ、慣性運動させたときのリサージュ測定波形を示す。通気流量の変動が回転精度に悪影響を及ぼすことなくナノメートルオーダーの回転精度を達成している。
【0019】
図3は、図1と同様のラジアル軸受の軸受面において、非有効通気部14を回転方向に垂直な軸受面内上の軸に対して傾斜させずに配置した場合を示すもので、(a)はオーバーラップを生じた場合、(b)はオーバーラップのない場合を示す。いずれの場合も、回転方向に沿った通気流量分布を見ると、非有効通気部14が存在する部分で通気流量がパルス状に急峻に変化している。このような通気流量分布の急激あるは過大な変化が存在すると発生圧力にアンバランスを生じ回転精度に悪影響を与えることとなる。図5は、図4と同様の試験を図3(a)に示す軸受面を持つラジアル軸受で行った場合のリサージュ測定波形を示す。通気流量の変動が回転精度に悪影響を及ぼし、基礎円に対して10nm程度のガタツキを発生させ、ナノメートルオーダーでの回転精度に悪影響を与えている。
【0020】
図6は、本実施例を適用したスラスト静圧気体軸受の外観図であり、ハウジング部7に支持された多孔質体8の端面に複数の有効通気部9と傾斜した線状の非有効通気部10を交互に配置している。
【実施例2】
【0021】
図7は、実施例2によるラジアル静圧気体軸受における有効通気部23および非有効通気部24の設置配向図であり、(a)、(b)は非有効通気部24の傾斜角度や幅に、部位によって差異がある場合である。図7(c)は回転方向に傾斜した部分とその逆方向に傾斜した部分を組合わせた非有効通気部24を用いた場合を示す。
【0022】
いずれの場合も、有効通気部23の長さをh、線状の非有効通気部24の周方向の線幅の最大値をΔbとするとき、0.1<(1−(h−Δbtan|θ|)/h)であらわされる関係を満たす範囲の角度θで非有効通気部24を傾斜させている。これにより、非有効通気部24の存在による影響は発生圧力のバランスに悪影響を与えない程度に収めることができる。非有効通気部24の傾斜および線幅に、部位によって差異がある場合でも、上記条件を満足すれば、発生圧力にアンバランスを生じることなく高回転精度を達成することができる。
【0023】
上記関係式は、軸受面を回転方向のある区間で任意に抽出した場合に、1−有効通気部面積/軸受面面積<10% となる関係を軸受面上の各寸法に展開したものである。10%の規格値は、静圧気体軸受の加圧気体の供給圧力0.5MPa、基準軸受隙間5μm、軸受面から噴出する通気流量40〜60sccm/cm2を一般的な使用条件として行った軸受特性シミュレーションにより算出した。この結果、周方向の通気流量変動が6〜8sccm/cm2程度の変化でナノメーターオーダーでの回転精度に影響がでることが確認されており、非有効通気部が傾斜している場合において十分な効果が得られる傾斜角度を決定し、関係式とした。
【0024】
上記一般使用条件と異なる条件下の静圧気体軸受おいても、上記関係式を満たす場合には高回転精度の達成に有意な効果を得ることができる。
【実施例3】
【0025】
図8は、実施例3によるラジアル静圧気体軸受を示す。図8(a)は、線状の非有効通気部34における回転方向に垂直な軸受面上の軸と平行な成分が階段状に傾斜して連設する形状を示し、(b)は、各階段の間に周方向に延びる線状の成分を有する非有効通気部34を設けた構成を示す。非有効通気部34の存在により、図3の例と同様に通気流量がパルス状に急峻に変化しているが、前記平行成分の移動平均が回転方向に垂直な軸受面上の軸に対して傾斜しているため、周方向に沿った1cm2あたりの通気流量変動が10%未満に抑えられる。これにより、オーバーラップによる過通気部35があっても発生圧力のアンバランスを防ぎ、回転精度への悪影響を抑制することができる。10%の規格値は、静圧気体軸受の軸受内径34〜80mm、軸受幅23〜35mmの場合を一般的な軸受寸法として行った軸受特性シミュレーションにより、許容できる通気流量変動を算出したものである。
【0026】
図9(a)、(b)は、図8(a)、(b)の構成に類似しているが、有効通気部43の間の非有効通気部44が傾斜しない階段状に配置されたラジアル静圧気体軸受についての、有効通気部43の設置配向図および通気流量分布グラフである。非有効通気部44における回転方向に垂直な軸受面上の軸と平行な成分の移動平均の傾斜度が小さいため、1cm2あたりの通気流量変動が10%を超えており、発生圧力のアンバランスが生じ、回転精度への悪影響がある。
【実施例4】
【0027】
図10は、実施例4によるラジアル静圧気体軸受における有効通気部53および非有効通気部54の設置配向図および通気流量分布グラフである。有効通気部53の形状が三角形をしており、回転方向に沿って三角形状を対向させるかたちで設置配向している。通気の抑制された非有効通気部54や、管理区分のオーバーラップによる過通気部55が存在する場合、また、有効通気部53や非有効通気部54の形状誤差やズレがある場合にも、回転方向に沿った通気流量変動は問題とならないレベルに収まっている。
【実施例5】
【0028】
図11(a)、(b)、(c)は、実施例5によるラジアル静圧気体軸受を示すもので、有効通気部63の間の非有効通気部64が、軸受面上に、連続かつ滑らかな曲線状に存在している。このように、非有効通気部は曲線状であってもよい。
【符号の説明】
【0029】
1、7 ハウジング部
2、8 多孔質体
3、9、23、33、53、63 有効通気部
4、10、24、34、54、64 非有効通気部
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工機の回転軸等の回転体を非接触にて回転支持する静圧気体軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光学機能向上の要求に伴い、光学素子に求められる加工精度が年々高まってきている。例えば、回折光学素子等においては光学素子金型の必要形状精度がナノメートルレベルにまで達している。そのため、光学素子金型を加工する加工装置にも従来より高精度なものが求められるようになってきている。このような加工装置では、可動部の摩擦要因を減らし、非線形要素を極力少なくすることで、送り精度および回転精度を高める工夫が行われている。特に、工具あるいは被加工物を設置、回転させる主軸スピンドルには高い回転精度が必要となるため、回転軸を支持する回転軸受のさらなる高精度化が求められている。
【0003】
高精度な回転精度を得ようとする場合、回転軸の支持には、気体膜が発生する気体圧力により回転軸を非接触支持する静圧気体軸受を用いるのが一般的である。静圧気体軸受における回転軸の支持力は、気体膜の発生する圧力により決定される。したがって、静圧気体軸受において、回転精度は発生圧力のバランスにより決定される。そのため、高回転精度を得るためには、軸受および回転体の真円度、円筒度が十分に作製されていること、および、回転軸が回転し、軸受部との位相が変化する間、気体膜の圧力分布における軸対称成分が各方位において常に等しいことが必要となる。しかし、現実的には、軸受および回転体の機械加工精度には限界があるため、最高精度のものであっても、回転軸外径形状、軸受部内径形状は真円度、円筒度に数十〜数百nm程度の形状誤差を有している。気体膜の発生圧力を管理、調整するには、軸受面からの通気流量分布を管理する必要がある。このような場合、軸受面全体に、気体通気性を持つ孔径0.1〜500μm程度の連続気孔を複数有する多孔質軸受を用いるのが有効である。
【0004】
多孔質軸受は、通気流量の調整および給気口に絞り効果を与える目的で、通気孔に目止め処理を施して使用する場合が多い。多孔質材の通気孔は、孔の大きさおよび分布にある程度のばらつきが存在するため、軸受面全範囲の通気流量の分布を高精度に測定および調整することが難しい。そのため、軸受面を所定の範囲ごとに区分けし、各区分の通気流量を管理することが有効である。
【0005】
特許文献1には、多孔質軸受面に密着しうるリング状弾性体を軸受面に押圧し、所定の区分ごとに通気流量を測定および調整する流量測定装置技術が開示されている。この従来技術では流量調整方法として、予め所定の通気流量以下になるように軸受面に樹脂を含浸させて多孔質材の孔を塞いだ後、所定の区分ごとに気体通気流量を測定しながら溶剤により適宜樹脂を除去し、通気流量が所定の値になるように調整している。
【0006】
図12(a)は、従来技術を適用した多孔質ラジアル軸受の外観図である。図12(b)は、軸受面の一部を周方向に平面展開し、有効通気部103および非有効通気部104の設置配向図と軸受幅での総通気流量を周方向に沿って1mm以下の区分幅で微小区分分割した場合の周方向の通気流量分布グラフをあらわしたものである。ハウジング部101に支持された多孔質体に対して、リング状弾性体の押圧によりシールされた区分ごとに流量を測定し、流量調整を行い、区分内の通気流量が管理された有効通気部103が周方向に等分配置となるようにし、発生圧力の軸対称性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2729700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、所定の区分ごとに通気流量管理を行った場合でも、近年の超精密加工装置の主軸等に求められている高い回転精度を達成しようとする場合には、わずかな流量分布のばらつきが、発生圧力のバランスを崩し、要求精度達成の障害となっている。
【0009】
図12に示した従来例では、発生圧力の軸対称性向上を図るため、周方向に同一形状の有効通気部を均等配置したが、通気流量に着目すると、周方向に沿って通気流量が正弦波状に変動していることがわかる。このような、回転方向に通気流量の変動を有する軸受において、回転軸が回転して軸受部との位相が変化すると、回転体の真円度、円筒度誤差により、位相に同期して軸受隙間が変動することとなる。この場合の回転精度に与える悪影響は、数十nm程度であり、従来では問題とならないレベルの影響であったが、ナノメートルオーダーでの回転精度が求められる場合には、解決しなければならない問題である。
【0010】
本発明は、高い回転精度を実現するとともに、安定した品質で安価に製造することのできる静圧気体軸受を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の静圧気体軸受は、気体膜を形成する軸受面によって回転体を回転支持する静圧気体軸受において、前記軸受面において前記回転体の回転方向に並設された、前記気体膜を形成するための複数の有効通気部と、前記軸受面において、前記複数の有効通気部をそれぞれ分離するために前記回転方向に垂直な方向に延在する線状の非有効通気部と、を有し、前記非有効通気部は、前記回転方向に垂直な軸に対して前記回転方向に傾斜して配置されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
通気流量がそれぞれ管理された複数の有効通気部と、通気流量が極少またはゼロである非有効通気部とを有する軸受面において、通気流量分布を均一にして回転精度を向上させることができる。区分された各有効通気部の形状および設置配向が高精度でなくてもよいため、高い回転精度を有する静圧気体軸受を安定して低コストで製造できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1によるラジアル静圧気体軸受を示す外観図である。
【図2】図1のラジアル静圧気体軸受の軸受面の一部を回転方向に平面展開した模式図と周方向の通気流量分布グラフを対応させたものである。
【図3】非有効通気部を傾斜させない構成において、通気流量変動が回転精度に悪影響を与える場合を説明するために、軸受面の一部を周方向に平面展開した模式図と回転方向の通気流量分布グラフを対応させたものである。
【図4】図1のラジアル静圧気体軸受におけるリサージュ測定波形である。
【図5】図3の構成において、通気流量変動が回転精度に悪影響を与える場合のリサージュ測定波形である。
【図6】実施例1によるスラスト静圧気体軸受を示す外観図である。
【図7】実施例2によるラジアル静圧気体軸受において、線状の非有効通気部の傾斜角度、線幅、組合わせ形状を説明する図である。
【図8】実施例3によるラジアル静圧気体軸受において、軸受面の一部を回転方向に平面展開した模式図と周方向の通気流量分布グラフを対応させたものである。
【図9】実施例3に類似した非有効通気部を傾斜させない構成において、通気流量変動が回転精度に悪影響を与える場合の、軸受面の一部を回転方向に平面展開した模式図と周方向の通気流量分布グラフを対応させたものである。
【図10】実施例4によるラジアル静圧気体軸受において、軸受面の一部を回転方向に平面展開した模式図と周方向の通気流量分布グラフを対応させたものである。
【図11】実施例5によるラジアル静圧気体軸受において、非有効通気部の形状を説明する図である。
【図12】従来技術を示すもので、(a)はラジアル静圧気体軸受を示す外観図、(b)は軸受面の一部を回転方向に平面展開した模式図と周方向の通気流量分布グラフを対応させたものである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0014】
図1は、実施例1によるラジアル静圧気体軸受を示す外観図であり、軸中心Oを軸芯とする図示しない回転軸(回転体)を回転支持するものである。ハウジング部1に保持された軸受部は多孔質体2で構成されており、図示しない気体供給口から圧力発生源となる気体が供給されている。軸受面に気体膜を形成するための気体噴出量を管理するため、軸受面を所定の通気量分布条件を満たす複数の有効通気部3と非有効通気部4とに分けて、各有効通気部3の通気流量をそれぞれ制御する手段を設ける。線状の非有効通気部4は、軸受面において回転方向に垂直な方向に延在し、軸受面上の回転方向に垂直な軸に対して傾斜して配置され、複数の有効通気部3は、回転方向に並設されている。
【0015】
本実施例においては、非有効通気部4は目止め処理により気体通気を抑制されており、未管理通気部による流量分布の設計誤差を防いでいる。有効通気部3どうしの間はクリアランス状態、すなわち線状に延在する非有効通気部4によってそれぞれ分離され、その間隔を1mm±0.2mmとしてある。そうすることで、管理区分のオーバーラップによる既管理区分への干渉を防ぐとともに、管理区分の位置決めを容易なものとしている。
【0016】
有効通気部3は、平面展開した場合に形状が平行四辺形となる形状をしており、回転方向に沿って整数個配設されている。これにより、軸受面における圧力発生部の比率を大きくすることで軸受の負荷容量を大きくするとともに、回転方向に沿った通気量分布が全範囲において一定となるようにする。
【0017】
図2(a)は、上記軸受面の一部を回転方向(周方向)に平面展開した、有効通気部3および非有効通気部4の設置配向図と軸受幅での総通気流量を回転方向に沿って1mm以下の区分幅で微小区分分割した場合の通気流量分布グラフを示す。図12の従来例と比較した場合、非有効通気部4が線状かつ回転方向に垂直な軸受面上の軸に対して回転方向に傾斜していることにより、通気流量変動が非常に小さくなっている。そのため、回転軸が回転し、軸受部との位相が変化する間、気体膜の圧力分布における軸対称成分が回転方向の各方位において常に等しくなっている。
【0018】
有効通気部3の設置配向の理想状態は、有効通気部3どうしの間に非有効通気部4およびオーバーラップ部が存在しない場合であるが、微小気孔が分散した多孔質軸受面においてこれを実現することは非常に困難である。図2(b)は、本実施例による静圧気体軸受において、有効通気部3および非有効通気部4の形状誤差やズレが大きい場合の図2(a)と同様の展開模式図および通気流量分布グラフである。すなわち、隣り合う有効通気部間には、クリアランス、オーバーラップおよび理想状態が混在する場合である。図2(a)の場合との比較では、わずかに回転方向に沿った通気流量変動が多くなっているが、この場合でも、周方向に沿った1cm2
あたりの通気流量変動は3%程度であり、その影響は気体膜の平均化効果により鈍化され問題とならないレベルに収まっている。図4に、本実施例によるラジアル静圧気体軸受にロータ(回転体)を設置して、回転させ、慣性運動させたときのリサージュ測定波形を示す。通気流量の変動が回転精度に悪影響を及ぼすことなくナノメートルオーダーの回転精度を達成している。
【0019】
図3は、図1と同様のラジアル軸受の軸受面において、非有効通気部14を回転方向に垂直な軸受面内上の軸に対して傾斜させずに配置した場合を示すもので、(a)はオーバーラップを生じた場合、(b)はオーバーラップのない場合を示す。いずれの場合も、回転方向に沿った通気流量分布を見ると、非有効通気部14が存在する部分で通気流量がパルス状に急峻に変化している。このような通気流量分布の急激あるは過大な変化が存在すると発生圧力にアンバランスを生じ回転精度に悪影響を与えることとなる。図5は、図4と同様の試験を図3(a)に示す軸受面を持つラジアル軸受で行った場合のリサージュ測定波形を示す。通気流量の変動が回転精度に悪影響を及ぼし、基礎円に対して10nm程度のガタツキを発生させ、ナノメートルオーダーでの回転精度に悪影響を与えている。
【0020】
図6は、本実施例を適用したスラスト静圧気体軸受の外観図であり、ハウジング部7に支持された多孔質体8の端面に複数の有効通気部9と傾斜した線状の非有効通気部10を交互に配置している。
【実施例2】
【0021】
図7は、実施例2によるラジアル静圧気体軸受における有効通気部23および非有効通気部24の設置配向図であり、(a)、(b)は非有効通気部24の傾斜角度や幅に、部位によって差異がある場合である。図7(c)は回転方向に傾斜した部分とその逆方向に傾斜した部分を組合わせた非有効通気部24を用いた場合を示す。
【0022】
いずれの場合も、有効通気部23の長さをh、線状の非有効通気部24の周方向の線幅の最大値をΔbとするとき、0.1<(1−(h−Δbtan|θ|)/h)であらわされる関係を満たす範囲の角度θで非有効通気部24を傾斜させている。これにより、非有効通気部24の存在による影響は発生圧力のバランスに悪影響を与えない程度に収めることができる。非有効通気部24の傾斜および線幅に、部位によって差異がある場合でも、上記条件を満足すれば、発生圧力にアンバランスを生じることなく高回転精度を達成することができる。
【0023】
上記関係式は、軸受面を回転方向のある区間で任意に抽出した場合に、1−有効通気部面積/軸受面面積<10% となる関係を軸受面上の各寸法に展開したものである。10%の規格値は、静圧気体軸受の加圧気体の供給圧力0.5MPa、基準軸受隙間5μm、軸受面から噴出する通気流量40〜60sccm/cm2を一般的な使用条件として行った軸受特性シミュレーションにより算出した。この結果、周方向の通気流量変動が6〜8sccm/cm2程度の変化でナノメーターオーダーでの回転精度に影響がでることが確認されており、非有効通気部が傾斜している場合において十分な効果が得られる傾斜角度を決定し、関係式とした。
【0024】
上記一般使用条件と異なる条件下の静圧気体軸受おいても、上記関係式を満たす場合には高回転精度の達成に有意な効果を得ることができる。
【実施例3】
【0025】
図8は、実施例3によるラジアル静圧気体軸受を示す。図8(a)は、線状の非有効通気部34における回転方向に垂直な軸受面上の軸と平行な成分が階段状に傾斜して連設する形状を示し、(b)は、各階段の間に周方向に延びる線状の成分を有する非有効通気部34を設けた構成を示す。非有効通気部34の存在により、図3の例と同様に通気流量がパルス状に急峻に変化しているが、前記平行成分の移動平均が回転方向に垂直な軸受面上の軸に対して傾斜しているため、周方向に沿った1cm2あたりの通気流量変動が10%未満に抑えられる。これにより、オーバーラップによる過通気部35があっても発生圧力のアンバランスを防ぎ、回転精度への悪影響を抑制することができる。10%の規格値は、静圧気体軸受の軸受内径34〜80mm、軸受幅23〜35mmの場合を一般的な軸受寸法として行った軸受特性シミュレーションにより、許容できる通気流量変動を算出したものである。
【0026】
図9(a)、(b)は、図8(a)、(b)の構成に類似しているが、有効通気部43の間の非有効通気部44が傾斜しない階段状に配置されたラジアル静圧気体軸受についての、有効通気部43の設置配向図および通気流量分布グラフである。非有効通気部44における回転方向に垂直な軸受面上の軸と平行な成分の移動平均の傾斜度が小さいため、1cm2あたりの通気流量変動が10%を超えており、発生圧力のアンバランスが生じ、回転精度への悪影響がある。
【実施例4】
【0027】
図10は、実施例4によるラジアル静圧気体軸受における有効通気部53および非有効通気部54の設置配向図および通気流量分布グラフである。有効通気部53の形状が三角形をしており、回転方向に沿って三角形状を対向させるかたちで設置配向している。通気の抑制された非有効通気部54や、管理区分のオーバーラップによる過通気部55が存在する場合、また、有効通気部53や非有効通気部54の形状誤差やズレがある場合にも、回転方向に沿った通気流量変動は問題とならないレベルに収まっている。
【実施例5】
【0028】
図11(a)、(b)、(c)は、実施例5によるラジアル静圧気体軸受を示すもので、有効通気部63の間の非有効通気部64が、軸受面上に、連続かつ滑らかな曲線状に存在している。このように、非有効通気部は曲線状であってもよい。
【符号の説明】
【0029】
1、7 ハウジング部
2、8 多孔質体
3、9、23、33、53、63 有効通気部
4、10、24、34、54、64 非有効通気部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体膜を形成する軸受面によって回転体を回転支持する静圧気体軸受において、
前記軸受面において前記回転体の回転方向に並設された、前記気体膜を形成するための複数の有効通気部と、
前記軸受面において、前記複数の有効通気部をそれぞれ分離するために前記回転方向に垂直な方向に延在する線状の非有効通気部と、を有し、
前記非有効通気部は、前記回転方向に垂直な軸に対して前記回転方向に傾斜して配置されたことを特徴とする静圧気体軸受。
【請求項2】
各有効通気部の通気流量を制御するための手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の静圧気体軸受。
【請求項3】
前記非有効通気部は、前記回転方向に垂直な方向の各有効通気部の長さをh、前記非有効通気部の線幅の最大値をΔbとするとき、0.1<(1−(h−Δbtan|θ|)/h)の関係を満たす範囲の角度θで傾斜していることを特徴とする請求項1または2に記載の静圧気体軸受。
【請求項1】
気体膜を形成する軸受面によって回転体を回転支持する静圧気体軸受において、
前記軸受面において前記回転体の回転方向に並設された、前記気体膜を形成するための複数の有効通気部と、
前記軸受面において、前記複数の有効通気部をそれぞれ分離するために前記回転方向に垂直な方向に延在する線状の非有効通気部と、を有し、
前記非有効通気部は、前記回転方向に垂直な軸に対して前記回転方向に傾斜して配置されたことを特徴とする静圧気体軸受。
【請求項2】
各有効通気部の通気流量を制御するための手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の静圧気体軸受。
【請求項3】
前記非有効通気部は、前記回転方向に垂直な方向の各有効通気部の長さをh、前記非有効通気部の線幅の最大値をΔbとするとき、0.1<(1−(h−Δbtan|θ|)/h)の関係を満たす範囲の角度θで傾斜していることを特徴とする請求項1または2に記載の静圧気体軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−117613(P2012−117613A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268176(P2010−268176)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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