説明

静圧流体軸受装置

【課題】静圧軸受に加わる外乱負荷に対し、静圧ポケットの圧力低下を抑制することで、軸受剛性の維持に必要な厚さの流体膜が形成されるようにし、安定した軸受剛性を得ることができる静圧流体軸受装置を提供する。
【解決手段】軸受面に設けられた静圧ポケット11と、静圧ポケット11に加圧流体を供給する流体供給手段Pと、流体供給手段Pから静圧ポケット11に至る流体の通路を形成する流体供給流路13と、流体供給流路13の途中に設けられた供給側絞り手段40と、静圧ポケット11からドレン23に至る流体の通路を形成する流体排出流路15と、流体排出流路15の途中に設けられた排出側絞り手段60と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変絞り手段を有する静圧流体軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
静圧流体軸受装置は、案内面又は軸受面の一方に静圧ポケットを設け、ポンプから高圧に加圧された流体を静圧ポケットに供給することにより、案内面と軸受面の間に所定の厚さの流体膜を形成し、軸受面を非接触に支持して、高精度に運動させるとともに、摩擦を低減する軸受装置である。流体膜は動的に形成された後、排出流路へ排出されることを繰り返すことにより維持されている。静圧軸受に加わる外乱負荷により流体膜に外乱力が作用すると、軸受剛性の維持に必要な厚さの流体膜が形成されず、軸受剛性が低下する。軸受剛性を安定して維持するにあたり、静圧ポケットへの供給圧力を外乱負荷に応じて制御する必要がある。実際には、ポンプから静圧ポケットに流体を供給する流路途中に絞りを設け、適切に減圧することにより、供給圧力を調整している。絞りには、開度を一定にした固定絞りと、開度が可変な可変絞りがあり、可変絞りでは、開度により流量を増減させることにより、供給圧力を制御することができる。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された従来技術では、静圧ポケットに流体を供給する流路途中に設けられた可変絞りにより、供給流量を制限することで静圧ポケットの圧力を調整し、軸受剛性を維持する流体軸受装置が開示されている。この可変絞りは、内部に流体が流入する充填空間を有し、充填空間には静圧ポケットに連通する流体流通孔が設けられており、流体流通孔に対向してダイアフラムが配置されている。流体流通孔とダイアフラムとの隙間が可変絞りとなっており、充填空間に流入した流体は、この絞りを経由することにより、流量が制限されて流体流通孔へ流出する。ダイアフラムには圧電アクチュエータが接続されており、圧電アクチュエータを伸縮させて、ダイアフラムを弾性変形させることにより、ダイアフラムと流体流通孔との隙間を変更できる可変絞りとなっている。静圧ポケットには圧力センサが備えられており、静圧ポケット内の圧力に応じて圧電アクチュエータを伸縮させて可変絞りを作動させている。静圧軸受に加わる外乱負荷により流体膜に外乱力が作用し、静圧ポケットの圧力の増加が検出されると、圧力に応じて、圧電アクチュエータによってダイアフラムを引き上げ、可変絞りの開度を大きくすることにより、供給流量を増加させ、軸受剛性を維持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平3−49415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような流体軸受装置にも、課題は残されている。
特許文献1の流体軸受装置では、静圧ポケットの圧力の増加が検出されると、圧力に応じて、ダイアフラムを引き上げ、可変絞りの開度を大きくし、供給流量を増加させている。ダイアフラムを引き上げると、開度の増加とともに、静圧ポケットと流体流通孔で連通された充填空間の体積が増加することになる。ダイアフラムを引き上げる速度が低速な場合、体積変動の速度も低速であるため、流入した流体は、体積変動の速度に追従して、充填空間が充填され、供給流量は滑らかに増加する。しかし、ダイアフラムを引き上げる速度が高速な場合、体積変動の速度も高速であるため、流入した流体は、体積変動の速度に追従して、充填空間を充填することができない。流入した流体は、静圧ポケットに供給されるよりも、先に増加した充填空間の充填に流れていくため、静圧ポケットの供給流量は一時的に減少する。また、静圧ポケットからの排出流量は一定であるため、静圧ポケットの圧力が低下し、軸受剛性が維持できなくなる。このように、圧力に応じて、ダイアフラムを引き上げ、可変絞りの開度を大きくしたにもかかわらず、一時的に供給流量が減少することにより、軸受剛性の維持に必要な厚さの流体膜が形成されず、軸受剛性が低下するという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、可変絞り手段を有する静圧流体軸受装置において、静圧ポケットへの供給流量を増加させた瞬間に発生する、静圧ポケットの圧力低下を抑制することで、軸受剛性の維持に必要な厚さの流体膜が形成されるようにし、安定した軸受剛性を得ることができる静圧流体軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために提供される請求項1に記載の発明は、軸受面に設けられた静圧ポケットと、前記静圧ポケットに加圧流体を供給する流体供給手段と、前記流体供給手段から前記静圧ポケットに至る流体の通路を形成する流体供給流路と、前記流体供給流路の途中に設けられた供給側絞り手段と、前記静圧ポケットからドレンに至る流体の通路を形成する流体排出流路と、前記流体排出流路の途中に設けられた排出側絞り手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
本請求項の静圧流体軸受装置は、流体供給流路と流体排出流路のそれぞれに設けた供給側絞り手段と排出側絞り手段により、供給流量及び排出流量を制限することにより、静圧ポケットの圧力を制御することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の静圧流体軸受装置であって、前記静圧ポケット内の圧力を検出する圧力検出手段を備え、前記排出側絞り手段は、前記圧力検出手段により検出された圧力に応じて絞り量が増減される可変絞り装置であることを特徴とする。
【0010】
本請求項の静圧流体軸受装置は、静圧ポケットの圧力を圧力検出手段により検出した静圧ポケット内の圧力に応じて可変絞り装置の絞り量を増減するので、静圧ポケットからの排出流量の制限し、静圧ポケットの圧力を制御することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の静圧流体軸受装置であって、前記排出側絞り手段は、前記静圧ポケット内の圧力と、前記静圧ポケット内の圧力を固定絞りにより減衰された圧力との差圧に応じて絞り量が増減される可変絞り装置であることを特徴とする。
【0012】
本請求項の静圧流体軸受装置は、静圧ポケットの圧力と固定絞りにより減圧された圧力との差圧に応じて可変絞り装置が排出流量を制限するので、静圧ポケットの圧力を制御することができる。また、制御装置を必要としない簡単な構成とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、静圧軸受に加わる外乱負荷により、流体膜に外乱力が作用しても、軸受剛性の維持に必要な厚さの流体膜が形成されるようにし、安定した軸受剛性を得ることが可能な静圧流体軸受装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態の静圧流体軸受装置の概略図。
【図2】本発明の第2実施形態の静圧流体軸受装置の概略図。
【図3】ダイアフラム式可変絞り装置の断面図。
【図4】ピエゾ式可変絞りの断面図。
【図5】差圧式可変絞り装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1の実施形態]
以下、本発明の第1の実施形態を図面に従って説明する。図1は、本発明の第1実施形態の静圧流体軸受装置の概略図であり、図3、図4は図1に示された各可変絞り装置の断面図である。矢印は流体の流れる方向を示している。
【0016】
以下、本実施形態の構成について説明する。
図1に示すように、本実施形態による静圧流体軸受装置1は、直動テーブルの軸受面5に静圧ポケット11を備えており、静圧ポケット11には流体供給口14と流体排出口16が設けられている。流体供給口14は流体供給流路13と接続し、流体排出口16は流体排出流路15と接続している。流体供給流路13はポンプPと静圧ポケット11間を連通しており、流体供給流路13の途中には、供給側絞り手段に相当するダイアフラム式可変絞り装置40が設けられている。流体排出流路15は、静圧ポケット11とドレン23間を連通しており、流体排出流路15の途中には、排出側絞り手段に相当するピエゾ式可変絞り装置60が設けられている。
【0017】
ポンプPから供給される加圧流体は流体供給流路13を通り、途中、ダイアフラム式可変絞り装置40により減圧され、流体供給口14を通じて静圧ポケット11に供給される。静圧ポケット11に供給された流体は、軸受面5と案内面6との間に所定の厚さの流体膜を形成する。流体膜は動的に形成された後、ドレン23及び排出流路15へと排出される。そして、排出流路15へ排出された流体は、ピエゾ式可変絞り装置60により、排出流量が制限される。ピエゾ式可変絞り装置60は、制御装置100により制御される可変絞りとなっており、静圧ポケット11に備えた圧力センサ18により計測された圧力値に応じて、絞りの開度を変えることにより、排出流量を制限する。
【0018】
図3に示すように、ダイアフラム式可変絞り装置40は、ハウジング50内に、第1流入口41、第2流入口46、流出口42、ダイアフラム43と弁座45で形成された隙間Dと、を有している。ダイアフラム43は弾性変形部材であり、弾性変形することで、絞りとなる隙間Dの大きさを変える。ポンプPにて加圧された流体は、第1流入口41と第2流入口46から、それぞれ第1圧力室44及び第2圧力室49に流入して室内を充填する。第1圧力室44を充填した流体は、隙間Dにて流量が制限され、弁座45を経由し、流出口42から流出する。第1圧力室44は、流体供給流路13を通じて静圧ポケット11と連通されており、静圧ポケット11の圧力に応じてダイアフラム43が弾性変形する。無負荷の状態において、第1圧力室44と第2圧力室49の圧力は、ポンプPからの供給圧に等しく、静圧ポケット11へは、ダイアフラム43は初期状態の開度DLにより減圧されて供給される。外乱負荷により静圧ポケット11の圧力が高くなると、静圧ポケット11の圧力と第1圧力室44の圧力差が小さくなり、ダイアフラム43を押し上げる。また、外乱負荷により静圧ポケット11の圧力が低くなると、静圧ポケット11の圧力と第1圧力室44の圧力差が大きくなり、ダイアフラム43を押し下げる。これにより、ダイアフラム式可変絞り装置40は、静圧ポケット11に流体を供給するとともに、静圧ポケット11の圧力に連動する。従って、静圧ポケット11の圧力が高くなると、供給流量を大きくし、静圧ポケット11の圧力が低くなると、供給流量を小さくすることができる。
【0019】
図4に示すように、ピエゾ式可変絞り装置60は、ハウジング70内に、流入口61と、流出口62と、ダイアフラム63と弁座65で形成された隙間Eと、を有しており、流体は、流入口61から流入して圧力室64内を充填し、隙間Eにて流量が制限され、弁座65を経由し、流出口62から流出する。ダイアフラム63は弾性変形部材であり、圧電アクチュエータ66と連結されている。圧電アクチュエータ66は、印加電圧に応じて伸縮するピエゾ素子にて構成され、所定の電圧が印加されることにより伸長し、ダイアフラム63を弾性変形させ、絞りとなる隙間Eの大きさを変える。静圧ポケット11には、圧力センサ18が備えられており、制御装置100は、圧力センサ18が計測した圧力値に応じて、圧電アクチュエータ66の印加電圧を変えて隙間Eの大きさを制御する。流入口61と静圧ポケット11の流体排出口15は、流体排出流路15により接続されており、隙間Eを閉じる、又は小さくすることで、静圧ポケット11からの排出流量を小さくして、静圧ポケット11の圧力を高くすることができる。または、隙間Eを大きくすることで、排出流量を大きくして、静圧ポケット11の圧力を低くすることができる。制御装置100は、圧力値から制御量(印加電圧)を求めてもよいし、予め求めておいた圧力値−制御量(印加電圧)を記憶しておいて、制御してもよい。
【0020】
上記のように構成される静圧流体軸受装置1の動作を、図1、図3、図4に基づいて説明する。
図1に示すように、静圧流体軸受装置1は、ポンプPにより加圧された流体を、流体供給流路13の途中に設けられたダイアフラム式可変絞り装置40により減圧し、静圧ポケット11に流体を供給させている。静圧ポケット11に供給された流体により、案内面6と軸受面5の間に所定の厚さの流体膜が形成され、案内面6が支持される。流体膜は動的に形成された後、ドレン23及び排出流路15へ排出されることを繰り返すことにより維持されている。静圧軸受に加わる外乱負荷により流体膜に外乱力が作用すると、静圧ポケット11の圧力が変動する。
【0021】
図3に示すように、静圧ポケット11の圧力が上昇すると、流体供給流路13を通じて連通するダイアフラム式可変絞り装置40の供給圧力との差が小さくなり、ダイアフラム43は押し上げられ、隙間Dが開度DLから開度DHに増加する。絞りが開かれることにより、静圧ポケット11への供給流量は増加することになる。ダイアフラム43が押し上げられ、変形することにより、第1圧力室44の体積が一時的に変動体積C分増加する。変動体積C分増加時、第1流入口41から、流入した流体は、変動体積Cを充填状態とした後、ダイアフラム43と弁座45の隙間Dにて流量が制限され、弁座45を経由して流出口42から流出し、静圧ポケット11に供給されることになる。ダイアフラム43が押し上げられる速度は、静圧ポケット11の圧力変動の速度に応じたものとなり、外乱負荷が衝撃的であるほど、圧力変動は高速となる。
【0022】
静圧ポケット11の圧力の変動が低速な場合、ダイアフラム43が押し上げられる速度も低速であるため、体積変動の速度も低速となり、流入した流体は、体積変動の速度に追従して、変動体積Cを充填することができる。従って、隙間Dの開度に応じて、供給流量を滑らかに増加することができる。しかし、静圧ポケット11の圧力の変動が高速な場合、ダイアフラム43が押し上げられる速度も高速であるため、体積変動の速度も高速となり、流入した流体は、体積変動の速度に追従して、変動体積Cを充填することができず、充填状態となるまでの時間、供給流量が減少することとなる。
【0023】
一方、図1に示すように、制御装置100は、静圧ポケット11の圧力の上昇を圧力センサ18により検知すると、圧力に応じてピエゾ式可変絞り装置60を動作させる。図4に示すように、ピエゾ式可変絞り装置60の圧電アクチュエータ66の印加電圧を上げ、圧電アクチュエータ66を伸長させることにより、絞りの開度を減少する。そして、ダイアフラム式可変絞り装置40の変動体積Cが充填された後、圧電アクチュエータ66の印加電圧を下げて、ダイアフラム63を初期状態に戻し、排出流量を定常流量にする。
【0024】
このように、静圧軸受に加わる外乱負荷により流体膜に外乱力が作用し、静圧ポケット11の圧力が上昇すると、供給側絞り手段であるダイアフラム式可変絞り装置40は、静圧ポケット11の圧力に応じて、開度を増加させる。衝撃的な外乱負荷により、静圧ポケット11の圧力変動の速度が高速であると、ダイアフラム式可変絞り装置40の開度が増加する瞬間に静圧ポケット11への供給流量が一時的に減少するが、同時に静圧ポケット11の圧力は圧力センサ18により検知され、排出側絞り手段であるピエゾ式可変絞り装置60の絞りの開度を減少させる。静圧ポケット11への供給流量が減少すると同時に、排出流量も減少されるため、一時的な供給と排出の不釣合いは相殺されて、静圧ポケット11の圧力は安定して維持される。
【0025】
[第2の実施形態]
図2は、本発明の第2実施形態の静圧流体軸受装置の概略図であり、図3、図5は図2に示された各可変絞り装置40,80の断面図である。矢印は流体の流れる方向を示している。
【0026】
以下、本実施形態の構成について説明する。
図2に示すように、本実施形態による静圧流体軸受装置2は、直動テーブルの軸受面5に静圧ポケット11を備えており、静圧ポケット11には流体供給口14と流体排出口16が設けられている。流体供給口14は流体供給流路13と接続し、流体排出口16は流体排出流路15と接続している。流体供給流路13はポンプPと静圧ポケット間11を連通しており、流体供給流路13の途中には、供給側絞り手段に相当するダイアフラム式可変絞り装置40が設けられている。流体排出流路15は、静圧ポケット11とドレン23間を連通している。流体排出流路15の途中には、排出側絞り手段に相当する差圧式可変絞り装置80が設けられている。差圧式可変絞り装置80は、2つの流入口を有し、それぞれ流体排出流路15が途中分岐した流路と接続しており、一方の流入口は固定絞り19を介して流入し、他方の流入口は直接流入するようになっている。
【0027】
ポンプPから供給される加圧流体は流体供給流路13を通り、途中、ダイアフラム式可変絞り装置40により減圧され、流体供給口14を通じて静圧ポケット11に供給される。静圧ポケット11に供給された流体は、軸受面5と案内面6との間に所定の厚さの流体膜を形成する。流体膜は動的に形成された後、ドレン23及び排出流路15へと排出される。そして、排出流路15へ排出された流体は、差圧式可変絞り装置80により、排出流量が制限される。差圧式可変絞り装置80は、静圧ポケット11の圧力により作動される可変絞りとなっており、静圧ポケット11の圧力に応じて、絞りの開度を変えることにより、排出流量を制限する。
【0028】
ダイアフラム式可変絞り装置40の構成は、第1実施形態に用いられているものと同じであるため、説明を省略する。
【0029】
図5に示すように、差圧式可変絞り装置80は、ハウジング90内に、第1圧力室84と第2圧力室89の2つの圧力室を有し、第1圧力室84と第2圧力室89は、ダイアフラム83を介して対向して配置されている。第1圧力室84は、第1流入口81とダイアフラム83と弁座85で構成された絞りと流出口82を有し、第2圧力室89は、第2流入口86を有している。流体は、第1流入口81から第1圧力室84に流入するとともに、第2流入口86から第2圧力室89に流入する。第1圧力室84と第2圧力室89は、流体排出流路15を通して静圧ポケット11と連通しており、第1流入口81の前側には固定絞り19が配置され、第1圧力室84へは固定絞り19を経由して流入するように構成されている。第2圧力室89は静圧ポケット11内と同圧で流体を充填した状態で留まり、第1圧力室84は固定絞り19により、衝撃的な圧力変動が減衰されて充填される。これにより、第1圧力室84と第2圧力室89には差圧が生じ、この差圧に応じてダイアフラム83が動作する。
【0030】
上記のように構成される静圧流体軸受装置2の動作を、図2、図3、図5に基づいて説明する。
図2に示すように、静圧流体軸受装置1は、ポンプPにより加圧された流体を、流体供給流路13の途中に設けられたダイアフラム式可変絞り装置40により減圧し、静圧ポケット11に流体を供給させている。静圧ポケット11に供給された流体により、案内面6と軸受面5の間に所定の厚さの流体膜が形成され、案内面6が支持される。流体膜は動的に形成された後、ドレン23及び排出流路15へ排出されることを繰り返すことにより維持されている。静圧軸受に加わる外乱負荷により流体膜に外乱力が作用すると、静圧ポケット11の圧力が変動する。
【0031】
図3に示すように、静圧ポケット11の圧力が上昇すると、流体供給流路13を通じて連通するダイアフラム式可変絞り装置40の供給圧力との差が小さくなり、ダイアフラム43は押し上げられ、隙間Dが開度DLから開度DHに増加する。絞りが開かれることにより、静圧ポケット11への供給流量は増加することになる。ダイアフラム43が押し上げられ、変形することにより、第1圧力室44の体積が一時的に変動体積C分増加する。変動体積C分増加時、第1流入口41から、流入した流体は、変動体積Cを充填状態とした後、ダイアフラム43と弁座45の隙間Dにて流量が制限され、弁座45を経由して流出口42から流出し、静圧ポケット11に供給されることになる。ダイアフラム43が押し上げられる速度は、静圧ポケット11の圧力変動の速度に応じたものとなり、外乱負荷が衝撃的であるほど、圧力変動は高速となる。
【0032】
静圧ポケット11の圧力の変動が低速な場合、ダイアフラム43が押し上げられる速度も低速であるため、体積変動の速度も低速となり、流入した流体は、体積変動の速度に追従して、変動体積Cを充填することができる。従って、隙間Dの開度に応じて、供給流量を滑らかに増加することができる。しかし、静圧ポケット11の圧力の変動が高速な場合、ダイアフラム43が押し上げられる速度も高速であるため、体積変動の速度も高速となり、流入した流体は、体積変動の速度に追従して、変動体積Cを充填することができず、充填状態となるまでの時間、供給流量が減少することとなる。
【0033】
一方、図5に示すように、静圧ポケット11の圧力は、流体排出流路15を通じて連通する差圧式可変絞り装置80の第1圧力室84と第2圧力室89に伝わっている。第1圧力室84内は固定絞り19により、衝撃的な圧力変動が減衰された圧力となり、第2圧力室89内は静圧ポケット11の圧力と同圧である。静圧ポケット11の圧力変動が衝撃的である場合、第2圧力室89の圧力が、第1圧力室84の圧力よりも大きく、所定の差圧の大きさを超えると、ダイアフラム83の弾性変形により、ダイアフラム83は押し下げられ、絞りとなる隙間Fを閉じる。
【0034】
このように、静圧軸受に加わる外乱負荷により流体膜に外乱力が作用し、静圧ポケット11の圧力が上昇すると、供給側絞り手段であるダイアフラム式可変絞り装置40は、静圧ポケット11の圧力に応じて、開度を増加させる。衝撃的な外乱負荷により、静圧ポケット11の圧力変動の速度が高速であると、ダイアフラム式可変絞り装置40の開度が増加する瞬間、静圧ポケット11への供給流量が一時的に減少するが、同時に静圧ポケット11の衝撃的な圧力変動は、排出側絞り手段である差圧式可変絞り装置80に伝わり、絞りを閉じる。静圧ポケット11への供給流量が減少すると同時に、排出流量も減少されるため、一時的な供給と排出の不釣合いは相殺されて、静圧ポケット11の圧力は安定して維持される。本実施形態では、排出側絞り装置に制御装置を必要としない簡単な構成でありながら、静圧ポケット11の圧力を制御することが可能である。
【0035】
供給側絞り手段は、実施形態のダイアフラム式可変絞り装置に限定されることはなく、各種のダイアフラム式可変絞り装置を適用することができる。また、排出側絞り手段も、実施形態の可変絞り装置に限定されることはなく、微小流量に応答可能な各種の可変絞り装置を適用することができる。
【0036】
本実施形態では、供給側絞り手段として、ダイアフラム式可変絞り装置を用いているが、固定絞りを用いてもよい。排出側の流量制限により、静圧ポケットへの供給圧力を制御することで、外乱負荷に対し、高い軸受剛性を持たせることができる。
【0037】
また、本実施形態では、直動テーブルの静圧案内面に適用しているが、スピンドル等の回転軸を支持する静圧軸受に適用してもよい。回転軸の場合、対向する軸受面に配置することで、外乱負荷に対し、高い軸受剛性を持たせることができる。その他、ジャーナル軸受、スラスト軸受、静圧ネジにも適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1,2:静圧流体軸受装置、 5:軸受面、 6:案内面、 11:静圧ポケット、
13:流体供給流路、 14:流体供給口、 15:流体排出流路、
16:流体排出口、 18:圧力センサ、 19:固定絞り、 22:タンク、
23:ドレン、
40:ダイアフラム式可変絞り装置(供給側可変絞り)、
41:第1流入口、 42:流出口、 43:ダイアフラム 44:第1圧力室、
45:弁座、 46:第2流入口、 49:第2圧力室、 50:ハウジング、
60:ピエゾ式可変絞り装置(排出側可変絞り)、
61:流入口、 62:流出口、 63:ダイアフラム、 64:圧力室、
65:弁座、 66:圧電アクチュエータ、 70:ハウジング、
80:差圧式可変絞り装置(排出側可変絞り)、
81:第1流入口、 82:流出口、 83:ダイアフラム、 84:第1圧力室、
85:弁座、 86:第2流入口、 87:Oリング、 89:第2圧力室、
90:ハウジング、
100:制御装置
C:変動体積、 D:隙間, DL,DH:開度、 E:隙間、 F:隙間、
P:ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受面に設けられた静圧ポケットと、
前記静圧ポケットに加圧流体を供給する流体供給手段と、
前記流体供給手段から前記静圧ポケットに至る流体の通路を形成する流体供給流路と、
前記流体供給流路の途中に設けられた供給側絞り手段と、
前記静圧ポケットからドレンに至る流体の通路を形成する流体排出流路と、
前記流体排出流路の途中に設けられた排出側絞り手段と、
を備えたことを特徴とする静圧流体軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の静圧流体軸受装置であって、
前記静圧ポケット内の圧力を検出する圧力検出手段を備え、
前記排出側絞り手段は、前記圧力検出手段により検出された圧力に応じて絞り量が増減される可変絞り装置であることを特徴とする静圧流体軸受装置。
【請求項3】
請求項1に記載の静圧流体軸受装置であって、
前記排出側絞り手段は、前記静圧ポケット内の圧力と、前記静圧ポケット内の圧力を固定絞りにより減衰された圧力との差圧に応じて絞り量が増減される可変絞り装置であることを特徴とする静圧流体軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−107744(P2012−107744A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74657(P2011−74657)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】