説明

静圧軸受装置および静圧軸受装置による被支持体の支持方法

【課題】被支持体の急速な動きに対しても、被支持体の位置または姿勢を修正可能な静圧軸受装置および静圧軸受装置による被支持体の支持方法の提供。
【解決手段】静圧軸受装置の制御装置は、位置センサ5a〜5cによる検出結果に基づき、スライドテーブル2の基台1に対する変位速度が所定値Gよりも大きい場合には、容積変更装置4のピエゾアクチュエータを作動させて、ポケット部27a、27eの容積を増減させポケット部27a、27e内の圧力を変更することにより、スライドテーブル2の基台1に対する位置または姿勢を修正する。また、スライドテーブル2の基台1に対する変位速度が所定値G以下の場合には、油圧装置によってポケット部27a〜27f内に供給する油圧の圧力または量のうちの少なくともいずれかを変化させて、スライドテーブル2の基台1に対する位置または姿勢を修正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被支持体を流体の圧力により支持する静圧軸受装置および静圧軸受装置による被支持体の支持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スライドテーブル等の被支持体を、案内体に形成されたポケット部に対向するように配置し、ポケット部に供給された流体の圧力により、被支持体を案内体に対して案内可能に支持する静圧軸受装置に関しては従来より様々なものがあった。
その一つとして、流体圧源とポケット部とを接続する案内体の管路にテーパ孔を形成し、このテーパ孔内にテーパピンを移動可能に設けた従来技術があった(例えば、特許文献1参照)。これは、案内体に対してテーパピンを螺合させ、テーパピンを螺子操作することによりテーパ孔との間の隙間を調整し、供給する流体の量を変化させることによりポケット部内の圧力を制御しているものである。これにより、少ないテーパピンの移動量でポケット部内の圧力を大きく変化させ、被支持体の位置を制御することが可能となる。
【特許文献1】特開平4−370418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら本願発明の発明者は長期間に亘る鋭意努力の結果、従来の方法によっては、被支持体の急速な動き(高周波の動き)に対応して、被支持体の位置を修正することは困難であることを発見した。
すなわち、ポケット部へ供給する流体の量を増減して被支持体へ印加する押圧力を変化させ、被支持体の位置を修正する方法、または流体源の圧力を増減する、もしくは流体源とポケット部間の管路に設けられた圧力調整弁を操作して、ポケット部へ供給する流体の圧力を変化させることにより、被支持体の位置を修正する方法では、被支持体の緩慢な移動に対してはその修正が可能であっても、被支持体の急速な動きにまでは追従できない。特に、被支持体の静止状態からの立上り時におけるスクイーズ膜効果による被支持体の姿勢変化や、工作機械の加工負荷による高周波数の振動等には対応できない。このような場合には被支持体の位置の修正遅れが発生することがわかった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、被支持体の急速な動きに対しても、被支持体の位置または姿勢を修正可能な静圧軸受装置および静圧軸受装置による被支持体の支持方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
以下、上記課題を解決するのに適した各手段につき、必要に応じて作用効果等を付記しつつ説明する。
(手段1)手段1に係る静圧軸受装置は、
固定体と、
被支持体とを備え、
前記固定体は、前記被支持体の外周面と対向して狭小の間隙が形成される案内面を備え、
前記固定体および前記被支持体のうちの少なくとも一側には、周囲を前記間隙に取り囲まれるように形成された凹部により所定の容積のポケット部が形成され、
前記ポケット部内には流体圧供給手段により非圧縮性の流体による圧力が供給され、前記ポケット部内に供給された圧力は前記間隙により絞られて前記ポケット部内において保持され、保持された圧力が前記被支持体を押圧することにより前記被支持体が前記固定体の前記案内面に沿って移動可能に支持される静圧軸受装置において、
前記被支持体の前記固定体に対する位置または姿勢を検出する被支持体検出手段と、
前記固定体および前記被支持体のうちの少なくとも一側に設けられ、少なくとも一部が前記ポケット部内に臨むように形成され、前記ポケット部内から後退あるいは前記ポケット部内において収縮することにより前記ポケット部の容積を増大させ、前記ポケット部内に突出あるいは前記ポケット部内において膨張することにより前記ポケット部の容積を減少させるポケット部容積変更手段と、
前記被支持体検出手段により検出された前記被支持体の前記固定体に対する位置または姿勢に基づき、前記ポケット部容積変更手段を作動させることにより、前記被支持体の前記固定体に対する位置または姿勢を修正する制御手段と、
を備えている。
手段1に係る静圧軸受装置によれば、被支持体の位置を修正できる周波数帯域が広がり、被支持体に急速な動きが発生しても、被支持体の動きに対応して被支持体の固定体に対する位置または姿勢の修正を行うことができ、修正遅れが発生することがない。
【0005】
(手段2)手段1に記載の静圧軸受装置において、
前記ポケット部容積変更手段は、
前記ポケット部内に進退可能なように前記固定体または前記被支持体に対して液密的に取り付けられたピストンと、
該ピストンに当接するように設けられ、電圧を印加することにより伸縮して前記ピストンを前記ポケット部内に進退させる圧電素子と、
を備えるとよい。
圧電素子は電圧の印加による伸縮の応答性が速く、手段2に係る静圧軸受装置によれば、よりいっそう被支持体の急速な動きに対応可能となる。
【0006】
(手段3)手段2に記載の静圧軸受装置において、
前記固定体または前記被支持体には、冷却流体が流動することにより前記圧電素子を冷却する流路が形成されているとよい。
したがって、手段3に係る静圧軸受装置によれば、被支持体の急速な動きに対応して、圧電素子を高周波で駆動することによる発熱を解消することができる。
【0007】
(手段4)手段1乃至3のいずれかの静圧軸受装置において、
前記被支持体の前記固定体に対する位置または姿勢の変化速度を検出する変位速度検出手段を備え、
前記制御手段は、
前記変位速度検出手段により検出された前記被支持体の前記固定体に対する変位速度が所定値よりも大きい場合には、前記ポケット部容積変更手段を作動させて前記被支持体の前記固定体に対する位置または姿勢を修正し、
前記変位速度検出手段により検出された前記被支持体の前記固定体に対する変位速度が前記所定値以下の場合には、前記流体圧供給手段によって前記ポケット部内に供給する流体の圧力または流体の量のうちの少なくともいずれかを変化させて、
前記被支持体の前記固定体に対する位置または姿勢を修正するとよい。
【0008】
したがって、手段4に係る静圧軸受装置によれば、被支持体の変位速度が所定値よりも大きく、被支持体の位置または姿勢の変化速度が速い場合には、ポケット部の容積を変化させることにより、被支持体の急速な動きに対応して被支持体の固定体に対する位置または姿勢を修正することができる。また、被支持体の変位速度が所定値以下である場合には、ポケット部内に供給する流体の圧力または流体の量のうちの少なくともいずれかを変化させて被支持体の固定体に対する位置または姿勢を修正することにより、ポケット部容積変更手段では補償できない変化速度が遅い変位に対しても対応可能となる。
【0009】
(手段5)手段1乃至4のいずれかの静圧軸受装置において、
前記ポケット部容積変更手段は、前記凹部の開口面積を減少させない位置に設けられているとよい。
したがって、手段5に係る静圧軸受装置によれば、ポケット部容積変更手段を設けることにより、固定体および被支持体のうちの相手側に対して対向する凹部の開口面積が変化してポケット部から被支持体に印加される押圧力が影響を受けるようなことがなく、被支持体の固定体に対する位置または姿勢の修正が正確に行える。
【0010】
(手段6)手段1乃至5のいずれかの静圧軸受装置において、
前記被支持体検出手段は前記固定体および前記被支持体のうちの一方に取り付けられ、前記固定体および前記被支持体のうちの他方に当接することなしに、前記被支持体の前記固定体に対する位置または姿勢を検出する非接触タイプのセンサであるとよい。
したがって、手段6に係る静圧軸受装置によれば、被支持体検出手段は被支持体の前記固定体に対する動きにより位置ずれすることがなく、正確に被支持体の固定体に対する位置または姿勢を検出することができる。また、被支持体の動きにより損傷を受けることもなく、被支持体検出手段の耐久性を向上させることができる。
【0011】
(手段7)手段7に係る静圧軸受装置による被支持体の支持方法は、
固定体と、
被支持体とを備え、
前記固定体は、前記被支持体の外周面と対向して狭小の間隙が形成される案内面を備え、
前記固定体および前記被支持体のうちの少なくとも一側には、周囲を前記間隙に取り囲まれるように形成された凹部により所定の容積のポケット部が形成され、
前記ポケット部内には流体圧供給手段により非圧縮性の流体による圧力が供給され、前記ポケット部内に供給された圧力は前記間隙により絞られて前記ポケット部内において保持され、保持された圧力が前記被支持体を押圧することにより前記被支持体が前記固定体の前記案内面に沿って移動可能に支持される静圧軸受装置による被支持体の支持方法において、
前記静圧軸受装置は、
前記被支持体の前記固定体に対する位置または姿勢を検出する被支持体検出手段と、
前記固定体および前記被支持体のうちの少なくとも一側に設けられ、少なくとも一部が前記ポケット部内に臨むように形成され、前記ポケット部内から後退あるいは前記ポケット部内において収縮することにより前記ポケット部の容積を増大させ、前記ポケット部内に突出あるいは前記ポケット部内において膨張することにより前記ポケット部の容積を減少させるポケット部容積変更手段と、
を備え、
前記被支持体検出手段により検出された前記被支持体の前記固定体に対する位置または姿勢に基づき、前記ポケット部容積変更手段を作動させることにより、前記被支持体の前記固定体に対する位置または姿勢を修正する。
【0012】
したがって、手段7に係る静圧軸受装置による被支持体の支持方法によれば、被支持体の位置を修正できる周波数帯域が広がり、被支持体に急速な動きが発生しても、被支持体の動きに対応して被支持体の固定体に対する位置または姿勢の修正を行うことができ、修正遅れが発生することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1乃至図5に基づき、本発明の一実施形態による静圧軸受装置および静圧軸受装置による被支持体の支持方法について説明する。尚、図2において、油圧管路は実線にて表し、電気的接続は破線にて表している。図1に示すように、本実施形態の静圧軸受装置は基台1(本発明の固定体に該当する)およびスライドテーブル2(本発明の被支持体に該当する)とを備えている。基台1の上面には大きく掘り下げられた移動領域11が形成されており、移動領域11内にはスライドテーブル2が収容されている。移動領域11の底部に設けられたマグネット12と、スライドテーブル2の最下部に配置されたリニヤコイル21によりリニヤモータの機能を有し、リニヤコイル21に図示しない電源から電力が供給されることにより、スライドテーブル2は基台1に対して図1において紙面に垂直な方向に移動可能とされている。
【0014】
図1におけるスライドテーブル2の両側端部には、矩形状に突出した一対のガイド部22a、22bが形成されている。また、基台1の移動領域11の側端部には、スライドテーブル2のガイド部22a、22bをそれぞれ収容するようにへこんだ、一対のガイド収容部13a、13bが形成されている。ガイド収容部13a、13bには、案内面14a、14b、15a、15b、16a、16b(本発明の案内面に該当する)が形成されている。
【0015】
図3および図4に示すように、それぞれガイド収容部13a、13bの下面を形成する案内面14a、14bは、スライドテーブル2のガイド部22a、22bの底面23a、23bと対向している。また、それぞれガイド収容部13a、13bの側面を形成する案内面15a、15bは、スライドテーブル2のガイド部22a、22bの側端面24a、24bと対向している。さらに、それぞれガイド収容部13a、13bの上面を形成する案内面16a、16bは、スライドテーブル2のガイド部22a、22bの上面25a、25bと対向している。いずれの案内面14a〜16bも、対向するガイド部22a、22bの外周面23a〜25bとの間において狭小の間隙(符号なし)を形成している。
【0016】
また、スライドテーブル2の外周面には、基台1の案内面14a〜16bと対向するように複数の凹部26a、26b、26c、26d、26e、26f(本発明の凹部に該当する)が形成されている。各々の凹部26a〜26fは周囲を上述した間隙により取り囲まれており、基台1の外周面との間に所定の容積のポケット部27a、27b、27c、27d、27e、27f(本発明のポケット部に該当する)を形成している。
【0017】
スライドテーブル2には、各々のポケット部27a〜27f内に、作動油等の非圧縮性の流体による圧力を供給するための流体管路28a、28b、28c、28d、28e、28fが形成されている。流体管路28a〜28f中には、基台1に対するスライドテーブル2の変位により、各々のポケット部27a〜27fから流体圧力の変動が伝播しないように、絞り管路29a、29b、29c、29d、29e、29fが設けられている(図3および図4示)。
【0018】
基台1には、2つのポケット部27a、27e内に各々その一部が臨むように容積変更装置4(後述するアクチュエータドライバ7と包括して、本発明のポケット部容積変更手段に該当する)が内蔵されている。図3に基づいて、ポケット部27aに対して取り付けられた容積変更装置4について詳述する。容積変更装置4は、ポケット部27aに連通するようにスライドテーブル2に形成されたアクチュエータ収容孔30内に設けられている。容積変更装置4は、先端がポケット部27a内に突出した略円柱形のピストン41(本発明のピストンに該当する)を具備している。ピストン41はシール材42を介してスライドテーブル2に液密的に取り付けられ、かつ、ポケット部27a内に進退可能なように、スライドテーブル2に対して移動可能に設けられている。
【0019】
ピストン41の後端部にはピストン凹部41aが形成され、この中には圧電素子により形成されたピエゾアクチュエータ43(本発明の圧電素子に該当する)が内蔵されている。ピエゾアクチュエータ43は、水晶、ロッシェル塩、圧電セラミックス等のいかなる圧電素子を使用してもよい。ピエゾアクチュエータ43の先端はピストン41の後端に当接するように設けられ、ピストン41から離隔しないように接着剤等で接合されている。ピエゾアクチュエータ43の後端には、電力供給用のハーネス44が接続されている。
【0020】
ハーネス44を介して電圧を印加させることにより、ピエゾアクチュエータ43が伸縮して、ピストン41をポケット部27a内に進退させる。容積変更装置4は、ピストン41がポケット部27a内から後退することによりポケット部27aの容積を増大させ、ポケット部27a内に突出することによりポケット部27aの容積を減少させる。ここで、図3に示すように、容積変更装置4は基台1に対向したポケット部27aを形成する凹部26aの開口面積を減少させないように、凹部26aの側面等ではなく、ポケット部27aの底部に臨むように設けられている。
【0021】
また、ピストン41の側面には複数の円環状の冷却溝41bが形成されており、これらは各々スライドテーブル2中に形成された複数の流路31(本発明の流路に該当する)と連通している。スライドテーブル2に形成された流路31を介して冷却溝41bに作動油等の冷却流体を流動(供給および排出)させることにより、その駆動によって発熱するピエゾアクチュエータ43を冷却している。図4に示したポケット部27eに設けられた容積変更装置4も、上述した容積変更装置4と同様であるため説明は省略する。
【0022】
図1に示すように、スライドテーブル2の側端部上面には、一対の取付ステー32a、32bが突出している。図1の左方に取り付けられた取付ステー32aには、一対の位置センサ5a、5bが取り付けられており、右方に取り付けられた取付ステー32bには、単一の位置センサ5cが取り付けられている。取付ステー32aに設けられた位置センサ5aは、基台1から突出した検出部17の上面に対して離れた状態で対向するように取り付けられている。また、取付ステー32aに設けられた位置センサ5bは、検出部17の側面に対して離れた状態で対向するように取り付けられている(図3示)。一方、取付ステー32bに設けられた単一の位置センサ5cは、基台1の上面に対して離れた状態で対向するように取り付けられている(図4示)。
【0023】
これらの位置センサ5a〜5c(本発明の被支持体検出手段に該当する)は同一のものであって、渦電流式の位置センサまたは静電容量式の位置センサもしくはレーザー式の位置センサ等が使用され、基台1に当接することなしにスライドテーブル2の基台1に対する位置またはスライドテーブル2の基台1に対する姿勢を検出する非接触タイプのものである。尚、位置センサ5a〜5cのすべてあるいはいずれかは、基台1側に取り付けられていてもよい。
【0024】
図2に示すように、油圧装置6(本発明の流体圧供給手段に該当する)は油圧を発生させるポンプユニット61(駆動回路を含む)、各々ポンプユニット61に油圧管路により接続された電磁弁である複数の減圧弁62、および減圧弁62に駆動電流を供給する駆動回路である減圧弁ドライバ63により構成されている。
【0025】
それぞれの減圧弁62は上述した流体管路28a〜28fへと接続され、ポンプユニット61により発生された油圧が減圧弁62により減圧後された後、各ポケット部27a〜27fへと供給される。ポケット部27a〜27f内に供給された油圧は、上述した基台1とスライドテーブル2との間の間隙により絞られてポケット部27a〜27f内において保持され、保持された油圧がスライドテーブル2を押圧することによりスライドテーブル2が基台1の案内面14a〜16bに沿って移動可能に支持される。
【0026】
駆動回路により形成されたアクチュエータドライバ7は、ハーネス44を介して容積変更装置4のピエゾアクチュエータ43と接続されており、ピエゾアクチュエータ43に対して駆動電流を供給することにより作動させ、ポケット部27a、27eの容積を増減させポケット部27a、27e内の圧力を変更している。ポンプユニット61、減圧弁ドライバ63およびアクチュエータドライバ7は、図示しないCPU、ROM、RAM等により形成された制御装置8(本発明の制御手段および変位速度検出手段に該当する)と電気的に接続されており、制御装置8には上述した位置センサ5a〜5cが電気的に接続されている。
【0027】
これにより、制御装置8は位置センサ5a〜5cにより検出された基台1に対するスライドテーブル2の位置または姿勢に基づいて、ポンプユニット61、減圧弁ドライバ63およびアクチュエータドライバ7に対して駆動信号を発信してこれらの作動を制御し、各ポケット部27a〜27fへ供給する油圧の圧力または量、もしくはポケット部27a、27eの容積を変更している。
【0028】
次に、図5に基づいて、制御装置8によるスライドテーブル2を支持するための制御方法について説明する。上述したように、ポンプユニット61により発生させた油圧を減圧弁62により調圧した後、各ポケット部27a〜27fへそれぞれ供給してスライドテーブル2を基台1により支持している。それとともに、マグネット12とリニヤコイル21の作動によりスライドテーブル2を基台1の案内面14a〜16bに沿って移動させている。
【0029】
図5のステップS501に示したように、位置センサ5a〜5cによりスライドテーブル2の基台1に対する位置または姿勢を検出し、ステップS502において、検出したスライドテーブル2の基台1に対する位置または姿勢に基づき、制御装置8により位置偏差および変位速度が演算される。スライドテーブル2の基台1に対する位置偏差とは、制御装置8に記憶されているスライドテーブル2の基台1に対する正規の位置または姿勢に対する検出された位置または姿勢の偏差をいう。また、スライドテーブル2の基台1に対する変位速度とは、検出されたスライドテーブル2の基台1に対する位置または姿勢の変化速度をいい、本実施形態においては検出されたスライドテーブル2の基台1に対する位置または姿勢の微分値を使用している。
【0030】
次に、ステップS503において、演算されたスライドテーブル2の基台1に対する位置偏差が、制御装置8に記憶されている値D以下であると判定されると、スライドテーブル2の基台1に対する位置または姿勢の修正を行う必要はないため本制御フローは終了する。ステップS503において、演算されたスライドテーブル2の基台1に対する位置偏差が値Dより大きいと判定されるとステップS504へと進み、演算されたスライドテーブル2の基台1に対する変位速度が、制御装置8に記憶されている値Gより大きいか否かが判定される。
【0031】
ステップS504において、スライドテーブル2の基台1に対する変位速度が値Gより大きいと判定されると、ステップS505へと進み、演算されたスライドテーブル2の基台1に対する位置偏差および変位速度に基づき、容積変更装置4のピエゾアクチュエータ43の駆動量(駆動電流)を演算する。その後、ステップS506において、演算された駆動電流によりピエゾアクチュエータ43を作動させる(既に、スライドテーブル2の位置または姿勢を修正するためにピエゾアクチュエータ43が作動している場合は、演算された駆動電流に変更してピエゾアクチュエータ43の作動を継続する)ことにより、ポケット部27a、27eの双方あるいは一方の容積を変化させてポケット部27a、27e内の圧力を増減させ、スライドテーブル2の基台1に対する位置または姿勢を修正する。
【0032】
具体的には、図1において、スライドテーブル2が制御目標位置よりも鉛直下方に移動した場合、スライドテーブル2の下方に位置するポケット部27aの容積を減少させるように、ピストン41をポケット部27a内に突出させる。これにより、ポケット部27aの圧力が増加し、また、ポケット部27aから流出して、基台1とスライドテーブル2との間の間隙や絞り管路29aを流れる流体の量が増加することにより、スライドテーブル2を上方に押し上げる荷重を発生させ、制御目標位置に押し戻す。
【0033】
一方、図1において、スライドテーブル2が制御目標位置よりも上方に移動した場合、上述した場合とは逆に、ポケット部27aの容積を増大させるように、ピストン41をポケット部27a内において後退させる。
また、スライドテーブル2が制御目標位置に対して傾いた場合、スライドテーブル2が基台1に近づいた側に位置するポケット部27a、27eの容積を減少させるように、ピストン41をポケット部27a、27e内に突出させる。これにより、スライドテーブル2を、変位した方向に対する反対方向に回転させる荷重を発生させ、制御目標位置に押し戻す。
【0034】
この場合、スライドテーブル2が基台1に近づいた側に位置するポケット部27a、27eの容積を減少させることに代えて、スライドテーブル2が基台1から離れた側に位置するポケット部27a、27eの容積を増大させるように、ピストン41をポケット部27a、27e内において後退させてもよい。
あるいは、スライドテーブル2が基台1に近づいた側に位置するポケット部27a、27eの容積を減少させることに加えて、スライドテーブル2が基台1から離れた側に位置するポケット部27a、27eの容積を増大させてもよい。
【0035】
ステップS504において、スライドテーブル2の基台1に対する変位速度が値G以下であると判定されると、ステップS507へと進み、演算されたスライドテーブル2の基台1に対する位置偏差および変位速度に基づき、ポンプユニット61の駆動量(ポンプユニット61へ供給される駆動電流)および減圧弁62の駆動量(減圧弁ドライバ63から各減圧弁62へと供給される駆動電流)を演算する。その後、ステップS508において、演算された駆動電流を供給することにより、ポンプユニット61の回転速度および少なくとも一つの減圧弁62の減圧値の双方、またはいずれかを変更して、各ポケット部27a〜27f内に供給する油圧の圧力および量、あるいはいずれか一方を変化させ、スライドテーブル2の基台1に対する位置または姿勢を修正する。
【0036】
本実施形態によれば、基台1とスライドテーブル2を備え、基台1の外周にはスライドテーブル2の外周面23a〜25bと対向して狭小の間隙が形成される案内面14a〜16bが形成され、スライドテーブル2には周囲が間隙に取り囲まれた凹部26a〜26fが設けられ、凹部26a〜26fと案内面14a〜16bとの間には所定の容積のポケット部27a〜27fが形成され、ポケット部27a〜27f内には油圧装置6により油圧が供給され、ポケット部27a〜27f内に供給された油圧は間隙により絞られてポケット部27a〜27f内において保持され、保持された油圧がスライドテーブル2を押圧することによりスライドテーブル2が基台1の案内面14a〜16bに沿って移動可能に支持されている。また、スライドテーブル2の基台1に対する位置または姿勢を検出する位置センサ5a〜5cと、スライドテーブル2に設けられ、一部がポケット部27a、27e内に臨むように形成され、ポケット部27a、27e内から後退することによりポケット部27a、27eの容積を増大させ、ポケット部27a、27e内に突出することによりポケット部27a、27eの容積を減少させる容積変更装置4と、位置センサ5a〜5cにより検出されたスライドテーブル2の基台1に対する位置または姿勢に基づき、容積変更装置4を作動させることにより、ポケット部27a、27eの容積を変化させて圧力を増減させ、スライドテーブル2の基台1に対する位置または姿勢を修正する制御装置8を備えている。
【0037】
油圧を含んだポケット部27a、27eの容積を変化させると、非圧縮性の流体が、基台1とスライドテーブル2との間の間隙や絞り管路29a、29eを介して、ポケット部27a、27eに対して出入りするため、間隙や絞り管路29a、29eを通過する際の流体抵抗により動的な力が発生し、ポケット部27a、27e内の圧力が動的に増減する。この現象を利用して、スライドテーブル2の基台1に対する位置または姿勢を修正すれば、スライドテーブル2の急速な動きに追従可能となる。
【0038】
したがって、上述した静圧軸受装置および静圧軸受装置によるスライドテーブル2の支持方法によれば、スライドテーブル2の位置または姿勢を修正できる周波数帯域が広がり、工作機械の加工負荷による振動等の高い周波数領域においてもスライドテーブル2の基台1に対する位置、姿勢を修正でき、スライドテーブル2に急速な動きが発生しても、スライドテーブル2の動きに対応してその位置、姿勢の修正を行うことができ、修正遅れが発生することがない。
【0039】
尚、ここで、容積変更装置4を作動させ、ポケット部27a、27eの容積を変化させて、ポケット部27a、27e内の圧力を動的に増減させる場合の動的とは、油圧装置6によるポケット部27a〜27f内に供給する流体の圧力または流体の量を変化させて、スライドテーブル2の基台1に対する位置または姿勢を修正する静的な変更手段に比較して、圧力等の時間的変化が大きく、その変化速度が速いことを意味している。
【0040】
また、本実施形態によれば、容積変更装置4は、ポケット部27a、27e内に進退可能なようにスライドテーブル2に対して液密的に取り付けられたピストン41と、ピストン41に当接するようにスライドテーブル2に取り付けられ、電圧を印加することにより伸縮してピストン41をポケット部27a、27e内に進退させるピエゾアクチュエータ43により形成されている。
圧電素子により形成されたピエゾアクチュエータ43は電圧の印加による伸縮の応答性が速く、したがって、上述した静圧軸受装置によれば、よりいっそうスライドテーブル2の急速な動きに対応可能となる。
【0041】
また、本実施形態によれば、スライドテーブル2には、作動油が流動することによりピエゾアクチュエータ43を冷却する流路31が形成されている。
したがって、上述した静圧軸受装置によれば、スライドテーブル2の急速な動きに対応して、ピエゾアクチュエータ43を高周波で駆動することによる発熱を解消することができる。
【0042】
また、本実施形態によれば、制御装置8はスライドテーブル2の基台1に対する位置または姿勢の変化速度を演算し、演算されたスライドテーブル2の基台1に対する変位速度が所定値Gよりも大きい場合には、容積変更装置4を作動させてポケット部27a、27eの容積を増減させることにより、圧力を変化させてスライドテーブル2の基台1に対する位置または姿勢を修正する。また、演算されたスライドテーブル2の基台1に対する変位速度が所定値G以下の場合には、油圧装置6によってポケット部27a〜27c内に供給する油圧の圧力および量、またはそのいずれかを変化させて、スライドテーブル2の基台1に対する位置または姿勢を修正する。
【0043】
したがって、上述した静圧軸受装置によれば、スライドテーブル2の変位速度が所定値Gよりも大きく、スライドテーブル2の位置または姿勢が動的に変化している場合には、ポケット部27a、27eの容積を変化させてポケット部27a、27e内の圧力を動的に増減させることにより、スライドテーブル2の急速な動きに対応してスライドテーブル2の基台1に対する位置または姿勢を修正することができる。
【0044】
また、スライドテーブル2の変位速度が所定値G以下であり、スライドテーブル2の位置または姿勢が静的に変化している場合には、ポケット部27a〜27f内に供給する油圧の圧力および量、またはそのいずれかを変化させてスライドテーブル2の基台1に対する位置または姿勢を修正することにより、容積変更装置4では補償できない静的な変位に対しても対応可能となる。
尚、ここで、被支持体の位置または姿勢が動的に変化する場合の動的とは、被支持体の位置または姿勢の変化周波数が高く、その変化速度が速いことを意味している。
【0045】
また、本実施形態によれば、容積変更装置4は、基台1に対して対向するポケット部27a、27eを形成する凹部26a、26eの開口面積を減少させない位置に設けられている。
したがって、上述した静圧軸受装置によれば、容積変更装置4を設けることにより、基台1に対して対向する凹部26a、26eの開口面積が変化してポケット部27a、27eからスライドテーブル2に印加される押圧力が影響を受けるようなことがなく、スライドテーブル2の基台1に対する位置または姿勢の修正が正確に行える。
【0046】
また、本実施形態によれば、位置センサ5a〜5cはスライドテーブル2に取り付けられ、基台1に当接することなしにスライドテーブル2の基台1に対する位置または姿勢を検出する非接触タイプのセンサである。
したがって、上述した静圧軸受装置によれば、位置センサ5a〜5cはスライドテーブル2の基台1に対する動きにより位置ずれすることがなく、正確にスライドテーブル2の基台1に対する位置または姿勢を検出することができる。また、スライドテーブル2の動きにより損傷を受けることもなく、位置センサ5a〜5cの耐久性を向上させることができる。
【0047】
<他の実施形態>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
凹部26a〜26fは、スライドテーブル2側ではなく基台1側に設けてもよいし、双方に形成してもよい。
【0048】
容積変更装置4も、スライドテーブル2側ではなく基台1側に設けてもよいし、双方に形成してもよい。
容積変更装置4は、ポケット部27a、27e以外のポケット部27b〜27d、27fに設けてもよいし、すべてのポケット部27a〜27fに設けてもよい。
【0049】
容積変更装置4は、ピストン41を設けずに、ポケット部27a〜27f内に圧電素子が直接に臨むように形成し、圧電素子がポケット部27a〜27f内で膨張または収縮することにより、ポケット部27a〜27f内の圧力を変化させるように形成してもよい。
ポケット部27a〜27f内へ供給される圧力媒体は、非圧縮性の流体であればどのようなものでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態による静圧軸受装置の基台とスライドテーブルの構造を示した断面図
【図2】図1に示したスライドテーブルを支持するための制御装置等を表したブロック図
【図3】図1に示したスライドテーブルの左方のガイド部の部分詳細図
【図4】図1に示したスライドテーブルの右方のガイド部の部分詳細図
【図5】図1および図2に示した静圧軸受装置によるスライドテーブルの支持方法を示すフローチャート
【符号の説明】
【0051】
図面中、1は基台(固定体)、2はスライドテーブル(被支持体)、4は容積変更装置(ポケット部容積変更手段)、5a,5b,5cは位置センサ(被支持体検出手段)、6は油圧装置(流体圧供給手段)、7はアクチュエータドライバ(ポケット部容積変更手段)、8は制御装置(制御手段、変位速度検出手段)、14a,14b,15a,15b,16a,16bは案内面、23a,23b,24a,24b,25a,25bはスライドテーブルの外周面、26a,26b,26c,26d,26e,26fは凹部、27a,27b,27c,27d,27e,27fはポケット部、31は流路、41はピストン、43はピエゾアクチュエータ(圧電素子)を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定体と、
被支持体とを備え、
前記固定体は、前記被支持体の外周面と対向して狭小の間隙が形成される案内面を備え、
前記固定体および前記被支持体のうちの少なくとも一側には、周囲を前記間隙に取り囲まれるように形成された凹部により所定の容積のポケット部が形成され、
前記ポケット部内には流体圧供給手段により非圧縮性の流体による圧力が供給され、前記ポケット部内に供給された圧力は前記間隙により絞られて前記ポケット部内において保持され、保持された圧力が前記被支持体を押圧することにより前記被支持体が前記固定体の前記案内面に沿って移動可能に支持される静圧軸受装置において、
前記被支持体の前記固定体に対する位置または姿勢を検出する被支持体検出手段と、
前記固定体および前記被支持体のうちの少なくとも一側に設けられ、少なくとも一部が前記ポケット部内に臨むように形成され、前記ポケット部内から後退あるいは前記ポケット部内において収縮することにより前記ポケット部の容積を増大させ、前記ポケット部内に突出あるいは前記ポケット部内において膨張することにより前記ポケット部の容積を減少させるポケット部容積変更手段と、
前記被支持体検出手段により検出された前記被支持体の前記固定体に対する位置または姿勢に基づき、前記ポケット部容積変更手段を作動させることにより、前記被支持体の前記固定体に対する位置または姿勢を修正する制御手段と、
を備えたことを特徴とする静圧軸受装置。
【請求項2】
前記ポケット部容積変更手段は、
前記ポケット部内に進退可能なように前記固定体または前記被支持体に対して液密的に取り付けられたピストンと、
該ピストンに当接するように設けられ、電圧を印加することにより伸縮して前記ピストンを前記ポケット部内に進退させる圧電素子と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の静圧軸受装置。
【請求項3】
前記固定体または前記被支持体には、冷却流体が流動することにより前記圧電素子を冷却する流路が形成されたことを特徴とする請求項2に記載の静圧軸受装置。
【請求項4】
前記被支持体の前記固定体に対する位置または姿勢の変化速度を検出する変位速度検出手段を備え、
前記制御手段は、
前記変位速度検出手段により検出された前記被支持体の前記固定体に対する変位速度が所定値よりも大きい場合には、前記ポケット部容積変更手段を作動させて前記被支持体の前記固定体に対する位置または姿勢を修正し、
前記変位速度検出手段により検出された前記被支持体の前記固定体に対する変位速度が前記所定値以下の場合には、前記流体圧供給手段によって前記ポケット部内に供給する流体の圧力または流体の量のうちの少なくともいずれかを変化させて、
前記被支持体の前記固定体に対する位置または姿勢を修正することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の静圧軸受装置。
【請求項5】
前記ポケット部容積変更手段は、前記凹部の開口面積を減少させない位置に設けられたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の静圧軸受装置。
【請求項6】
前記被支持体検出手段は前記固定体および前記被支持体のうちの一方に取り付けられ、前記固定体および前記被支持体のうちの他方に当接することなしに、前記被支持体の前記固定体に対する位置または姿勢を検出する非接触タイプのセンサであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の静圧軸受装置。
【請求項7】
固定体と、
被支持体とを備え、
前記固定体は、前記被支持体の外周面と対向して狭小の間隙が形成される案内面を備え、
前記固定体および前記被支持体のうちの少なくとも一側には、周囲を前記間隙に取り囲まれるように形成された凹部により所定の容積のポケット部が形成され、
前記ポケット部内には流体圧供給手段により非圧縮性の流体による圧力が供給され、前記ポケット部内に供給された圧力は前記間隙により絞られて前記ポケット部内において保持され、保持された圧力が前記被支持体を押圧することにより前記被支持体が前記固定体の前記案内面に沿って移動可能に支持される静圧軸受装置による被支持体の支持方法において、
前記静圧軸受装置は、
前記被支持体の前記固定体に対する位置または姿勢を検出する被支持体検出手段と、
前記固定体および前記被支持体のうちの少なくとも一側に設けられ、少なくとも一部が前記ポケット部内に臨むように形成され、前記ポケット部内から後退あるいは前記ポケット部内において収縮することにより前記ポケット部の容積を増大させ、前記ポケット部内に突出あるいは前記ポケット部内において膨張することにより前記ポケット部の容積を減少させるポケット部容積変更手段と、
を備え、
前記被支持体検出手段により検出された前記被支持体の前記固定体に対する位置または姿勢に基づき、前記ポケット部容積変更手段を作動させることにより、前記被支持体の前記固定体に対する位置または姿勢を修正することを特徴とする静圧軸受装置による被支持体の支持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−299726(P2009−299726A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152757(P2008−152757)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】