説明

静電チャック装置の補修方法および補修装置、ならびに静電チャック装置

【課題】静電チャック装置における接着剤層の側面が侵食された際に、その侵食部分を均一に補修することができる補修方法、およびその補修に用いる補修装置、ならびにこれらを適用した静電チャック装置を提供する。
【解決手段】金属基盤上に、少なくとも接着剤層と吸着層とを有する静電チャック装置の補修方法であって、侵食された接着剤層の側面に、糸状の接着剤を巻き回した後、熱圧処理することを特徴とする静電チャック装置の補修方法。また、該補修方法に用いる装置であって、静電チャック装置20を回転させる回転台11と、接着剤層22に接着剤14を供給するボビン12と、ボビン12と接着剤層22との間で接着剤14の位置決めをする位置決め手段13とを有する補修装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック装置の補修方法および補修装置、ならびに静電チャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ICチップを製造する産業分野等では、半導体ウエハを加工する工程において、半導体ウエハを加工機の所定部位に固定するチャック装置が広く用いられている。チャック装置としては、機械式、真空式、および静電式のものが挙げられる。なかでも、静電式のチャック装置(静電チャック装置)は、平坦でない半導体ウエハであってもしっかりと吸着して固定することができる点、取り扱いが簡便な点、真空中でも使用できる点で優れている。
【0003】
静電チャック装置は、絶縁体で挟まれた内部電極に電圧を印加し、これにより生じる静電気を利用してウエハ等の被吸着物を吸着する。そして、装置内に内蔵されたヒーターにより吸着面(チャック面)を加熱し、ウエハを所望の温度に調整して、プラズマエッチング等によりウエハの加工が行われる。ウエハとの吸着面を構成する吸着層には、プラズマエッチングへの耐久性に優れ、寿命が長い点から、セラミック板が広く用いられている。
【0004】
静電チャック装置は、金属基盤とセラミック板とを接着剤により接合したものが多く用いられている。しかし、このような静電チャック装置では、金属基盤とセラミック板の間の接着剤層の露出している側面部分が、ウエハ加工時のプラズマによりサイドエッチングを受けて浸食される。このように接着剤層の外周部が侵食されると、セラミック板の外周部と中央部とで、セラミック板と金属基盤の間の熱伝導性が異なってしまう。そのため、エッチングにより高温となったウエハの熱を、セラミック板および接着剤層を通じて金属基盤から均一に放熱することが困難となることで、ウエハに温度斑ができ、反りが生じて所望のエッチング加工を行うことができなくなる。
接着剤層の側面の侵食を抑制する静電チャック装置としては、接着剤層の側面に侵食防止絶縁物を設けた静電チャック装置が示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−114358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の静電チャック装置では、プラズマによる接着剤層の侵食を充分に抑えられないことがあった。
また、接着剤層が侵食された場合には、その侵食された部分に、溶剤に溶かした液状の接着剤を注入し、熱圧処理することにより接着剤層を補修することが考えられる。しかし、この方法では、溶剤が揮発することで接着剤層の補修部分に空隙が生じ、接着剤層が不均一になるので、補修後の接着剤層の熱伝導性も不均一になってしまう。そのため、接着剤層が侵食してしまった場合、セラミック板に問題がなくても、接着剤層とセラミック板を破棄して新しいものに取り替えていた。
以上のように、セラミック板自体は耐久性に優れ、寿命が高いにもかかわらず、接着剤層の劣化によりそれらを取り替える必要があるため、セラミック板の特性を活かしきれていなかった。そのため、接着剤層の側面が侵食されたときに、該接着剤層を均一に補修して静電チャック装置の性能を維持することで、高価なセラミック板を交換せずに用いてランニングコストを低減することが望まれている。
【0007】
そこで本発明は、静電チャック装置における接着剤層の側面が侵食された際に、その侵食部分を均一に補修することができる補修方法、およびその補修に用いる補修装置、ならびに前記補修装置および補修方法を適用した静電チャック装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の静電チャック装置の補修方法は、金属基盤上に、少なくとも接着剤層と吸着層とを有する静電チャック装置の補修方法であって、侵食された接着剤層の側面に、糸状の接着剤を巻き回した後、熱圧処理することを特徴とする方法である。
また、本発明の静電チャック装置の補修方法は、前記糸状の接着剤が前記接着剤層と同じ成分であることが好ましい。
また、前記接着剤層および前記糸状の接着剤が、アクリルゴムと熱硬化性樹脂を含むことが好ましい。
また、前記糸状の接着剤の断面形状が矩形状であることが好ましい。
また、前記糸状の接着剤の高さが、前記接着剤層の高さの1〜2倍であることが好ましい。
また、前記熱圧処理を、0.02〜0.5MPaの条件下で行うことが好ましい。
【0009】
また、本発明の静電チャック装置の補修装置は、前記補修方法に用いる装置であって、前記静電チャック装置を回転させる回転台と、前記接着剤層に前記接着剤を供給するボビンとを有する装置である。
また、本発明の静電チャック装置の補修装置は、さらに、前記ボビンと前記接着剤層との間で前記接着剤の位置決めをする位置決め手段を有することが好ましい。
【0010】
また、本発明の静電チャック装置は、金属基盤上に、少なくとも接着剤層と吸着層とを有する静電チャック装置であって、前記接着剤層の側面に、糸状の接着剤を巻き回したことを特徴とする装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の補修方法によれば、静電チャック装置の接着剤層の側面が侵食されても、その侵食部分を均一に補修することができる。また、本発明の補修装置によれば、静電チャック装置の接着剤層の側面が侵食された際に、容易にその侵食部分を均一に補修することができる。また、本発明では、前記補修装置および補修方法を適用した静電チャック装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の補修装置の一実施形態例を模式的に示した平面図である。
【図2】図1の回転台および静電チャック装置の正面図である。
【図3】図1の回転台および静電チャック装置の斜視図である。
【図4】静電チャック装置の一実施形態例を示した断面図である。
【図5】静電チャック装置の3層構造を有する接着剤層の断面図である。
【図6】接着剤層に糸状の接着剤を巻き回している様子を上側から見た模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[補修装置]
本発明の静電チャック装置の補修装置は、静電チャック装置の接着剤層の側面が侵食された際に、その侵食部分を補修するのに用いる装置である。本発明の補修装置に適用する静電チャック装置は、金属基盤上に、少なくとも接着剤層と吸着層とを有する静電チャック装置であれば特に限定されない。
以下、本発明の補修装置の実施形態の一例を示して詳細に説明する。図1は本実施形態の補修装置10を用いて静電チャック装置20(図4)を補修する様子を示した平面図であり、図2はそれを静電チャック装置20側から見た正面図である。
【0014】
静電チャック装置20は、図4に示すように、金属基盤21と、電極を内部に有する、セラミックや絶縁樹脂シートからなる吸着層23とが、接着剤層22により接着された公知の静電チャック装置である。吸着層23の上面にウエハ24が吸着される。
【0015】
本実施形態の補修装置10は、図1に示すように、静電チャック装置20を回転させる回転台11と、静電チャック装置20の接着剤層22に糸状の接着剤14(以下、単に「接着剤14」という。)を供給するボビン12と、ボビン12と接着剤層22との間で接着剤14の位置決めをする位置決め手段13とを有する。
【0016】
回転台11は、静電チャック装置20を載せ、該静電チャック装置20を所望の速度で安定して回転させることができる台であれば形状、大きさは特に限定されない。この例の回転台11は、図2および図3に示すように、静電チャック装置20の金属基盤21よりも大きく、円盤状である。回転台11を回転させることにより、回転台11の上に載せた静電チャック装置20を所望の速度で回転させることができる。
回転台11の回転は、ハンドル等を用いて手動で行うものであってもよく、回転の開始、終了のタイミング、回転速度等を制御する制御手段を用いて行うものであってもよい。
【0017】
ボビン12は、侵食された接着剤層22の側面22a(図3)に接着剤14を供給するボビンである。ボビン12には、接着剤14が巻き回されて収納されている。ボビン12は特に限定されず、糸状の物質を巻き回して収納するのに用いられる通常のボビンを用いることができる。
【0018】
接着剤14は糸状の接着剤であり、その材料は補修する対象の接着剤層22を形成する接着剤と同じものであることが好ましい。補修する対象の接着剤層22と同じ成分の接着剤14で補修することにより、補修後に均一な接着剤層22が得られやすく、該接着剤層22の熱伝導性が不均一になってウエハに温度斑が生じたり、吸着層23に反りが生じたりすることを防ぎやすい。
【0019】
接着剤14および接着剤層22に用いられる接着剤の材料としては、静電チャック装置の接着剤層に用いられているものであればよく、アクリルゴムと熱硬化性樹脂を含むものが好ましい。アクリルゴムと熱硬化性樹脂を含む接着剤は、プラズマによる侵食を低減する効果が大きい。
【0020】
アクリルゴムは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体、または該(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、これに活性基を有する第二成分を共重合した共重合体を挙げることができる。このうち、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等が挙げられる。これらは1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
また、活性基を有する第二成分としては、例えばジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、ビニルクロルアセテート、アリルクロルアセテート、2−クロロエチルビニルエーテル、ビニルアクリレート、アリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルスチリルビニルシラン、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、アルキルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、2−クロロエチルアクリレート、モノクロル酢酸ビニル、ビニルノルボルネン、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等が挙げられる。これらは1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの活性基を有する第二成分は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに対して15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
さらに、アクリルゴム中には、第三成分として、アクリロニトリル、スチレン、1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等の単量体を含有させることができる。これらは1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。接着剤中の第三成分の含有量は40質量%以下であることが好ましい。
【0021】
本発明のアクリルゴムの共重合方法は特に限定されず、通常の方法で製造されるが、質量平均分子量を100万以上に重合するには溶液重合法では難しく、乳化重合法やパール重合法等、乳化剤を利用した方法で合成することが一般的である。使用に当たってはアクリルゴムの粉末をそのまま用いたり、有機溶媒に溶解して用いることができる。市販されている実用的なアクリルゴムとしては、日本ゼオン株式会社製の「Nipolゴム」、帝国化学産業株式会社製の「テイサンゴム」、株式会社トウペ製「トアアクロン」、東亜合成化学株式会社製「アクロンゴム」等が挙げられる。
【0022】
熱硬化性樹脂は特に限定されず、エポキシ樹脂、フェノール樹脂を使用することが好ましい。
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、グリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、グリシジルアミン型、トリヒドロキシフェニルメタン型、テトラグリシジルフェノールアルカン型、ナフタレン型、ジグリシジルジフェニルメタン型、ジグリシジルビフェニル型等の2官能または多官能エポキシ樹脂が挙げられ、なかでもビスフェノール型のものが好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であることがより好ましい。
また、フェノール樹脂としては、アルキルフェノール樹脂、p−フェニルフェノール樹脂、ビスフェノールA型フェノール樹脂等のノボラックフェノール樹脂およびレゾールフェノール樹脂、ポリフェニルパラフェノール樹脂等の公知のフェノール樹脂が挙げられる。特にノボラックフェノール樹脂が好ましく使用される。
これら熱硬化性樹脂は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
接着剤14におけるアクリルゴムの含有量および熱硬化性樹脂の含有量は、接着剤層22における含有量と同じであることが好ましい。
また、接着剤層22には目的に応じて酸化防止剤、フィラー等が添加されていてもよく、この場合には接着剤14にも同様に添加する。また、エポキシ樹脂を用いる場合、接着剤層22には、所望により、エポキシ樹脂用の硬化剤および硬化促進剤を含有させることができ、この場合も同様に接着剤14にも含有させる。例えば、イミダゾール類、第3アミン類、フェノール類、ジシアンジアミド類、芳香族ジアミン類、有機過酸化物等が挙げられる。
【0024】
糸状の接着剤14は、例えば、接着剤層22の形成に用いられた接着剤と同じ成分の接着剤を離型フィルムに表面が平坦となるように塗布し、加熱して半硬化させた後、スリット状もしくは渦状に切り出すことにより得ることができる。
【0025】
また、接着剤層22は、応力の緩和およびプラズマ侵食の低減に優れる点から、図5に示すように、応力緩和層22cの両面に第1接着剤層22bおよび第2接着剤層22dが形成された3層構造であることが好ましい。この場合には、同様に3層構造で各層の成分も同じにした接着剤14を補修に用いることが好ましい。
【0026】
応力緩和層22cは、アクリルゴムが含まれるゴム状弾性体であれば特に限定されず、目的に応じて適宜選択できる。アクリルゴムは、前記接着剤の材料として挙げたものと同じものを使用することができる。応力緩和層22cには、アクリルゴム以外にシリコーンゴムを除くゴムが含まれていてもよい。例えば、ブチルゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、天然ゴム等が挙げられる。
第1接着剤層22bおよび第2接着剤層22dは、前述の接着剤と同じものを用いることができる。
【0027】
接着剤層22がこのような3層構造である場合に、同じ構成、成分の接着剤14を用いるときは、例えば、以下の方法により該接着剤14を得ることができる。第1接着剤層22bを離型フィルムに塗布して、加熱して第1接着剤層22bを構成するシートを得る。同様に、応力緩和層22c、第2接着剤層22dを形成するシートを離型フィルム上に形成する。次に、それらの離型フィルムを剥がし、それぞれのシートを順に積層して熱圧着することにより、3層構造のシートを得る。次に、このシートをスリット状もしくは渦状に切断することにより得ることができる。
【0028】
接着剤層22がこのような積層構造であると、接着剤層22と成分や構成が全く同一の糸状の接着剤14を紡糸により製造することは極めて困難である。そのため、接着剤14は、前述のように離型フィルム上で接着剤を半硬化させて3層構造のシートとし、そのシートから接着剤層22を形成する接着シートと接着剤14とを作成することが好ましい。これにより、接着剤層22と全く同じ成分および構成を有する接着剤14を容易に得ることができる。
【0029】
接着剤層22の側面22aへの接着剤14の先端14a(図3)の接着は、接着剤14自体が接着性を有しているため、治具等による押圧によりそのまま先端14aを側面22aに接着させることができる。
【0030】
接着剤14の断面形状は特に限定されないが、矩形状のものを好ましく用いることができる。断面形状が矩形状であれば、侵食された接着剤層22に接着剤14を隙間なく充填しやすい。
接着剤14の厚みa(巻き回された際の接着剤層22の中心方向の長さ、図6)は、接着剤層22の侵食された部分の長さb(図2)に対して1/10以下(少なくとも10回程度巻き回して補修できる程度の厚み)にすることが好ましい。このようにa/bを1/10以下にすることにより、接着剤14を接着剤層22に巻き回す際に隙間ができ難くなる。すなわち、接着剤14の厚みaが前記長さbの1/10より厚い場合は、接着剤層22に接着剤14を巻き回す際、2周目にさしかかるときに接着剤14の先端14aの部分に隙間αができやすい(図6)。接着剤14の厚みaが薄いほど、隙間αを形成させずに緊密に接着剤14を巻き回すことが容易になる。
【0031】
接着剤14の高さc(接着剤層22の高さ方向(z軸方向)の長さ、図3)は、接着剤層22の高さd(図3)に対して、1倍またはそれを少し超える程度であることが好ましく、1〜2倍であることがより好ましく、1.05〜1.15倍であることがさらに好ましい。前記高さcが高さdに対して1倍以上であれば、接着剤14を接着剤層22の高さ方向に複数回巻き回す必要がなく、また接着剤14による補修部分において接着剤層22の高さ方向に隙間ができることを抑えることができるため、補修により均一な接着剤層22が得られやすい。また、補修装置10により接着剤14を巻き回す際、位置決め手段13により接着剤14を緊張させながら巻き回す場合には、接着剤14は引き延ばされて細くなる。従って、この場合には前述のような予め少し太目の接着剤14を用いて補修を行う。
接着剤層22の高さdは通常100μm程度であることから、接着剤14の高さcは、100μmまたは100μmを少し超える程度(例えば110μm)であることが好ましい。
【0032】
本発明における補修は、後述するように、接着剤層22が吸着層23の縁(初期の接着剤層22の側面の位置)から内側に1〜10mm程度侵食されたときに行うことが好ましい。そのため、前述のような、侵食された長さbに比べて厚みaが1/10以下の接着剤14を用いることで、侵食された接着剤層22の側面22aに接着剤14を少なくとも10回以上巻き回すことになるため、吸着層23の縁まで接着剤層22を余すことなく補修することが容易になる。すなわち、例えば厚みaが5mmの糸状の接着剤14を用意していた場合に、吸着層23の縁から内側に6mm侵食された(長さbが6mm)接着剤層22を補修すると、吸着層23の縁から内側に1mmの部分は補修されずに残ってしまうが、侵食された長さbに比べて充分に細い糸(厚みaが小さい)を用いれば補修されない部分を作らずに縁まで均一に補修しやすい。
【0033】
位置決め手段13は、ボビン12と接着剤層22との間で接着剤14の位置決めをする役割を果たす。すなわち、位置決め手段13は、接着剤14の高さ方向(z軸方向)の位置を接着剤層22の位置に揃えることができ、また接着剤14を所望の通りに緊張させたり弛緩させたりできるものである。
【0034】
例えば、位置決め手段13内に接着剤14を通過させ、該位置決め手段13をz軸方向に移動できるようにすることで、接着剤14のz軸方向の位置を接着剤層22の位置に揃えるように調節することができる。また、この位置決め手段13をx軸方向に移動できるようにすることにより、接着剤14を緊張させたり弛緩させたりすることもできる(図1)。このように、接着剤14を適度に緊張させることで、接着剤14を接着剤層22の側面22aに、より緊密に巻き回すことが容易になる。
【0035】
[補修方法]
本発明の静電チャック装置の補修方法は、金属基盤上に、少なくとも接着剤層と吸着層とを有する静電チャック装置の補修方法である。本発明の補修方法では、侵食された接着剤層の側面に、糸状の接着剤を巻き回した後、熱圧処理することにより補修することを特徴とする。
以下、本発明の補修方法の一実施形態例として、前述の補修装置10を用いて静電チャック装置20の接着剤層22を補修する方法について説明する。
【0036】
静電チャック装置20の接着剤層22は、その側面が露出しているため、プラズマ等により侵食される(図2)。本発明の補修方法は、静電チャック装置20の接着剤層22の側面に露出している部分が、吸着層23の縁から1〜10mm程度内側まで侵食されたとき(長さbが1〜10mm程度のとき)に行い、侵食によりウエハに不具合が生じることを防ぐために侵食された長さbが5mm未満で補修することが好ましい。接着剤層22の侵食された長さbが10mmを超えると、ウエハ24の最外周部(接着剤層22の侵食された部分に対応する部分)の熱伝導率が著しく悪くなるため、ウエハのエッチング状態が中央部と最外周部とで異なり、ウエハの不具合が出やすくなる。特に侵食された長さbが5mm未満で補修を行うことで、接着剤層22の侵食によりウエハに不具合が生じることを防ぎ、補修により静電チャック装置20の性能を維持していくことが容易になる。また、特に静電チャック装置20が、ウエハ24を冷却するHe等の冷却ガスの供給手段を内蔵する場合、その冷却ガスの出口が露出することを抑制しやすい。
【0037】
本発明の補修方法では、まずボビン12から接着剤14を引き出し、位置決め手段13を通過させ、その接着剤14の先端14aを、侵食された接着剤層22の側面22aに接着する(図3)。接着剤14の先端14aの側面22aへの接着は、接着剤14自体が接着性を有しているため、金属基盤21と吸着層23の間に治具を押し込んで押圧することにより接着させることができる。
【0038】
接着剤14の断面形状、およびその厚みa、高さcの好ましい態様は前述の通りである。
また、接着剤層22の侵食部分に接着剤14を巻き回す際には、位置決め手段13の位置を予め調整しておいて、接着剤14を適度に緊張させる。このようにして接着剤14を緊張させることにより、侵食部分に接着剤14を緊密に巻き回すことが容易になり、補修後に均一な接着剤層22が得られやすくなる。
【0039】
そして、接着剤層22の側面22aに、吸着層23の縁まで接着剤14を充分に巻き回した後、所定の条件で上方から熱圧処理を行うことにより、巻き回した接着剤14と接着剤層22とを溶融一体化させる。熱圧処理は、補修する静電チャック装置における接着剤層の製造のときと同様の条件で行うことができる。具体的には、0.02〜0.5MPaであることが好ましい。
以上のような方法により、接着剤層22が侵食された静電チャック装置20を補修することができる。
【0040】
[静電チャック装置]
前述の補修装置や補修方法に適用した静電チャック装置は、接着剤層の側面に、糸状の接着剤が巻き回されている。この静電チャック装置は、接着剤層が均一であるため、ウエハの熱を、接着剤層を通じて金属基盤から均一に放熱することができ、ウエハに所望のエッチング加工を行うことができる。
【0041】
以上説明した静電チャック装置の補修方法および補修装置によれば、侵食された接着剤層を均一に補修することができる。そのため、補修後の接着剤層の熱伝導性が不均一になることを防ぐことができ、ウエハに不具合を生じさせずに静電チャック装置を長期にわたって使用することができる。
尚、本発明の静電チャック装置の補修方法は、図1で例示した補修装置10を用いる方法には限定されない。また、補修装置は、位置決め手段13を有さないものであってもよい。また、図1〜図3では、静電チャック装置20の補修について説明したが、補修の対象となる静電チャック装置はこれには限定されず、侵食の生じる接着剤層を有する静電チャック装置であれば適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の静電チャック装置の補修方法は、侵食された接着剤層を均一に補修することで、従来は破棄して新たなものに交換していた接着剤層および吸着層を、取り替えずに補修して使用することができ、非常に有用である。
【符号の説明】
【0043】
10 補修装置 11 回転台 12 ボビン 13 位置決め手段 14 糸状の接着剤 20 静電チャック装置 21 金属基盤 22 接着剤層 23 吸着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基盤上に、少なくとも接着剤層と吸着層とを有する静電チャック装置の補修方法であって、
侵食された接着剤層の側面に、糸状の接着剤を巻き回した後、熱圧処理することを特徴とする静電チャック装置の補修方法。
【請求項2】
前記糸状の接着剤が前記接着剤層と同じ成分である、請求項1に記載の静電チャック装置の補修方法。
【請求項3】
前記接着剤層および前記糸状の接着剤が、アクリルゴムと熱硬化性樹脂を含む、請求項1または2に記載の静電チャック装置の補修方法。
【請求項4】
前記糸状の接着剤の断面形状が矩形状である、請求項1〜3のいずれかに記載の静電チャック装置の補修方法。
【請求項5】
前記糸状の接着剤の高さが、前記接着剤層の高さの1〜2倍である、請求項1〜4のいずれかに記載の静電チャック装置の補修方法。
【請求項6】
前記熱圧処理を、0.02〜0.5MPaの条件下で行う、請求項1〜5のいずれかに記載の静電チャック装置の補修方法。
【請求項7】
請求項1に記載の補修方法に用いる装置であって、
前記静電チャック装置を回転させる回転台と、前記接着剤層に前記接着剤を供給するボビンとを有する静電チャック装置の補修装置。
【請求項8】
さらに、前記ボビンと前記接着剤層との間で前記接着剤の位置決めをする位置決め手段を有する、請求項7に記載の静電チャック装置の補修装置。
【請求項9】
金属基盤上に、少なくとも接着剤層と吸着層とを有する静電チャック装置であって、前記接着剤層の側面に、糸状の接着剤を巻き回したことを特徴とする静電チャック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−165776(P2010−165776A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5611(P2009−5611)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】