静電型電気音響変換器
【課題】振動体や電極に複雑な加工を行うことなく、指向特性を改善する。
【解決手段】カバー60の内部においては、振動体を一対の電極で挟んだ放音部2が位置している。また、放音部2とカバー60との間には、弾性を有するスペーサ40A,40Bがある。カバー60内に空気が入ると、放音部2とカバー60との間に空気層ができる。上面側から見て壁611より外側の領域にできる空気層の厚さは、壁611より内側にできる空気層の厚さより薄くなっている。放音部2の縁は、静電型スピーカ1を上面側から見ると、壁611より外側の領域にできる空気層と重なる位置にある。
【解決手段】カバー60の内部においては、振動体を一対の電極で挟んだ放音部2が位置している。また、放音部2とカバー60との間には、弾性を有するスペーサ40A,40Bがある。カバー60内に空気が入ると、放音部2とカバー60との間に空気層ができる。上面側から見て壁611より外側の領域にできる空気層の厚さは、壁611より内側にできる空気層の厚さより薄くなっている。放音部2の縁は、静電型スピーカ1を上面側から見ると、壁611より外側の領域にできる空気層と重なる位置にある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電型電気音響変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
静電型スピーカの指向特性を制御する発明として、例えば特許文献1や特許文献2に開示された発明がある。特許文献1に開示された発明は、2枚の平板電極の間に振動膜を備えた構成となっており、この振動膜は、振動膜の外縁に近づくほど面密度が増大するように構成されている。この構成によれば、振動膜において面密度が大きい領域では振幅が小さくなって発生する音の音圧が低下するため、サイドローブが抑制される。また、特許文献2に開示された発明も、2枚の電極の間に振動膜を備えた構成となっている。特許文献2の発明においては、振動膜と電極との間の間隔が異なる領域が複数設けられている。静電型スピーカにおいては、振動膜に働く静電力は振動膜と電極との間の距離の2乗に反比例するため、間隔が異なると振動膜から発生する音の音圧も異なることとなる。このため、静電型スピーカにおいて外縁に近い領域で振動膜と電極との間の距離を大きくすれば、外縁に近い領域の音圧が低下するため、サイドローブが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−274363号公報
【特許文献2】特開2007−274362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、特許文献1の発明においては、振動膜の面密度を外縁に近づくほど大きくする必要があるが、1枚の振動膜において複数の領域で面密度が異なるように振動体を構成するのは難しい。また、1枚の振動膜ではなく面密度が異なる複数の振動膜を用いる方法も考えられるが、この構成では振動膜毎にバイアス電圧を供給する配線が必要となる。
また、特許文献2の発明においては、電極と振動膜との距離を複数の領域で異ならせる必要があるが、電極を1枚で構成しようとすると電極の加工が難しくなる。また、1枚の電極ではなく複数の電極で構成して、各電極と振動膜との距離を異ならせる方法も考えられるが、この構成だと電極毎に信号を供給する配線が必要となってしまう。
また、一対の電極の間に振動膜を挟む構成は、静電型のマイクロフォンとしても用いることができる。振動膜の面密度や電極と振動膜の距離を上記のような構成にすれば、静電型のマイクロフォンにおいても指向特性を制御できるものの、静電型のスピーカの場合と同様に前述の問題が生じ得る。
【0005】
本発明は、上述した背景の下になされたものであり、振動体や電極に複雑な加工を行うことなく、指向特性を改善する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために本発明は、ガスバリア性を有する袋状のカバーと、前記カバー内に位置する振動体と、前記カバー内において前記振動体を挟んで対向する一対の電極と、前記カバー内において前記振動体と前記一対の電極との間に位置し、弾性を有し音が透過する弾性部材と、を有し、前記振動体と前記カバーとの間には、各々厚さの異なる複数の空気層があり、前記カバー側からみて厚さの薄い空気層より内側に厚さの厚い空気層が位置することを特徴とする静電型電気音響変換器を提供する。
【0007】
また、本発明は、ガスバリア性を有する袋状のカバーと、前記カバー内に位置する振動体と、前記カバー内において前記振動体と対向する電極と、前記カバー内において前記振動体と前記電極との間に位置し、弾性を有し音が透過する弾性部材と、を有し、前記振動体と前記カバーとの間には、各々厚さの異なる複数の空気層があり、前記カバー側からみて厚さの薄い空気層より内側に厚さの厚い空気層が位置することを特徴とする静電型電気音響変換器を提供する。
【0008】
本発明においては、前記電極において前記カバーと向かい合う面には、弾性を有する第1スペーサと、弾性を有する第2スペーサが配置され、前記第1スペーサと前記第2スペーサの前記面からの高さは、前記第2スペーサより前記第1スペーサのほうが高く、前記第1スペーサは、前記カバー側から見て厚さの厚い第1空気層内に位置し、前記第2スペーサは、前記カバー側から見て前記第1空気層より薄い第2空気層内に位置する構成であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、振動体や電極に複雑な加工を行うことなく、指向特性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る静電型スピーカ1の平面図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】放音部2の分解図。
【図4】カバー61Lの平面、側面及び正面を示した図。
【図5】チューブ70を拡大した図。
【図6】駆動回路100の構成を示した図。
【図7】変形例に係るカバー61Lの平面、側面及び正面を示した図。
【図8】変形例に係るカバー61Lの平面、側面及び正面を示した図。
【図9】変形例に係る静電型スピーカ1Aの平面図。
【図10】変形例に係る静電型スピーカの断面図。
【図11】静電型マイクロフォン5に係る電気的構成を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係る静電型スピーカ1(静電型電気音響変換器)の平面図、図2は、図1のA−A線断面図である。また、図3は、静電型スピーカ1が有する放音部2の分解図である。なお、図中の各部材の寸法は、各部材の形状や位置関係を容易に理解できるように実際の寸法とは異ならせてある。また、図においては、直交するX軸、Y軸およびZ軸で方向を示しており、静電型スピーカ1を正面から見たときの左右方向をX軸の方向、奥行き方向をY軸の方向、高さ方向をZ軸の方向としている。以下の説明においては、説明の便宜上、Z軸の正方向側を上面側、Z軸の負方向側を下面側と称する場合がある。また、図中、「○」の中に「・」が記載されたものは図面の裏から表に向かう矢印を意味するものとし、図中、「○」の中に「×」が記載されたものは図面の表から裏に向かう矢印を意味するものとする。
【0012】
静電型スピーカ1は、振動体10、電極20U,20L及び弾性部材30U,30Lで構成された放音部2を有している。また、静電型スピーカ1は、スペーサ40A,40B、カバー60及びチューブ70を有している。なお、本実施形態においては、電極20Uと電極20Lの構成は同じであり、弾性部材30Uと弾性部材30Lの構成は同じである。このため、これらの部材において符号の末尾が「U」の部材と符号の末尾が「L」の部材とを区別する必要が特に無い場合は、「L」および「U」などの記載を省略する。
【0013】
(静電型スピーカ1の各部の構成)
まず、静電型スピーカ1を構成する各部について説明する。上面側から見て矩形の振動体10は、PET(polyethylene terephthalate:ポリエチレンテレフタレート)またはPP(polypropylene:ポリプロピレン)などの絶縁性および柔軟性を有する合成樹脂のフィルム(絶縁層)の一方の面に導電性のある金属を蒸着して導電膜(導電層)を形成したシート状の構成となっている。なお、本実施形態においては、導電膜は、フィルムの一方の面に形成されているが、フィルムの両面に形成されていてもよい。また、振動体10は、導電性を有する金属を圧延して膜状にした構成であってもよい。
【0014】
弾性部材30は、本実施形態においては不織布であって電気を通さず空気および音の通過が可能となっており、その形状は上面側からから見て矩形となっている。本実施形態においては、弾性部材30のX軸方向の長さは振動体10のX軸方向の長さと同じであり、弾性部材30のY軸方向の長さも振動体10のY軸方向の長さと同じとなっている。また、弾性部材30は、弾性を有しており、外部から力を加えられると変形し、外部から加えられた力が取り除かれると元の形状に戻る。なお、弾性部材30は、絶縁性があり、音及び空気が透過し、弾性がある部材であればよく、中綿に熱を加えて圧縮したもの、織られた布、絶縁性を有する合成樹脂を海綿状にしたものなどであってもよい。また、弾性部材30は、音が通過するのであれば空気が通過しない構成であってもよく、例えば、弾性があり不連続気泡のスポンジをシート状にして弾性部材30としてもよい。
【0015】
電極(固定極)20は、PETまたはPPなどの絶縁性を有する合成樹脂のフィルム(絶縁層)の一方の面に導電性のある金属を蒸着して導電膜(導電層)を形成した構成となっている。また電極20は、上面側から見て矩形となっている。電極20は、表面から裏面に貫通する孔を複数有しており、空気および音の通過が可能となっているが、図面においては、この孔の図示を省略している。電極20の寸法は、X軸方向の長さとY軸方向の長さが振動体10と同じとなっている。なお、振動体10と同様に電極20についても、導電性を有する金属を圧延して膜状にした構成であってもよい。また、電極20は、導電性を備えていれば柔軟性を備えていないものでもよく、例えばパンチングメタルであってもよい。
【0016】
カバー60は、合成樹脂のカバー61Uとカバー61Lとで袋状に構成されており、内部に放音部2を収納する。カバー61Uとカバー61Lは、絶縁性、防湿性、及び気体の通過を防ぐガスバリア性を有している。なお、本実施形態においては、カバー61U及びカバー61Lの素材はポリエチレンであるが、素材はポリエチレンに限定されるものではなく、絶縁性、防湿性及びガスバリア性を備えていれば他の素材であってもよい。カバー60は、上面側から見て矩形となっており、X軸方向及びY軸方向の長さが電極20より長く、面積が電極20より広くなっている。なお、ガスバリア性とは、気体の通過を全て遮断するという意味に限定されず、気体が通過しにくいという意味である。
図4は、カバー61Lの平面、側面及び正面を示した図である。カバー61Lは、シート状のシート部610の一方の面側(放音部2に対向する側の面)に当該面側から垂直に突出した壁611を有している。壁611は、側面側から見ると、矩形の枠型の一部を取り除いた形状となっており、シート部610の縁より内側に設けられている。なお、カバー61Uの構成は、カバー61Lと同じであるため、その構成の説明を省略する。
【0017】
スペーサ40A,40Bは、本実施形態においては、ポリウレタンのスポンジであり、その形状は角柱の形状となっている。スペーサ40A,40Bは、通気性及び弾性を有している。スペーサ40Aとスペーサ40Bを比較すると、X軸方向の寸法とY軸方向の寸法は同じであるものの、Z軸方向の寸法が異なっており、スペーサ40Bのほうがスペーサ40AよりZ軸方向の寸法が長くなっている。なお、スペーサ40A,40Bは、弾性を有するものとして、中綿に熱を加えて圧縮したものや不織布に厚みを持たせたものなど、他の素材で形成されていてもよい。また、ゴムなど通気性を備えずに弾性を備えるものであってもよく、更には通気性と弾性の両方を備えないものであってもよい。また、スペーサ40A,40Bの形状は、角柱に限定されるものではなく、円柱や多角柱の形状であってもよい。なお、本実施形態においては、スペーサ40BのZ軸方向の寸法は、壁611のZ軸方向の寸法と同じである。
【0018】
ケーブル51Aの一端は、カバー60の内部に位置する電極20Uの導電膜に接続されており、ケーブル51Bの一端は、カバー60の内部に位置する電極20Lの導電膜に接続されている。また、ケーブル51Cの一端は、カバー60の内部に位置する振動体10の導電膜に接続されている。また、各ケーブルの他端はコネクター141の端子に接続され、外部から音響信号とバイアス電圧が供給される。
【0019】
チューブ70は、ゴム製のチューブであり、カバー60の内部の空間と外部の空間とを連通させる部材である。チューブ70は、Y軸方向に平行で内周面からチューブ70の内部空間側へ交互に突出した凸部71A〜71Cを有している。チューブ70内の空間は空気が流れる通路となる。図5は、チューブ70を図1のX軸の正方向の側から負方向の側に向かって見た図である。凸部71A〜凸部71Cは、開閉自在なファスナーとして機能し、図2や図5(b)に示したように、凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bとの間に押し込むと、凸部71Cが凸部71Aと凸部71Bに係合、密着し、チューブ70の一端から他端側への空気の流れが遮断される。また、図5(a)に示したように凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bから離すと、チューブ70内の空間が一端側と他端側とで繋がり、チューブ70の一端から他端側へ空気が流れるようになる。つまり、凸部71A〜71Cは、空気の通路を開閉する開閉部として機能する。
【0020】
(静電型スピーカ1の構造)
次に静電型スピーカ1の構造について説明する。静電型スピーカ1においては、振動体10は、弾性部材30Uの下面と弾性部材30Lの上面との間に配置されている。なお、振動体10は、X軸の正方向側及び負方向側の縁とY軸の正方向側及びY軸の負方向側の縁から内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されて弾性部材30Uと弾性部材30Lに接着されており、接着剤が塗布された部分より内側は弾性部材30Uと弾性部材30Lに固着されていない状態となっている。
【0021】
電極20Uは、弾性部材30Uの上面に重ねられている。また、電極20Lは、弾性部材30Lの下面に重ねられている。電極20Uは、X軸の正方向側及び負方向側の縁とY軸の正方向側及び負方向側の縁から内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されて弾性部材30Uに接着されており、電極20Lは、X軸の正方向側及び負方向側の縁とY軸の正方向側及び負方向側の縁から内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されて弾性部材30Lに接着されている。電極20は、接着剤が塗布された部分より内側の領域は弾性部材30に固着されていない状態となっている。また、電極20Uは、導電膜のある側が弾性部材30Uに接しており、電極20Lは、導電膜のある側が弾性部材30Lに接している。
【0022】
電極20Uの上面には、スペーサ40Aとスペーサ40Bが接着されている。スペーサ40Aは、電極20Uの四隅に接着されている。またスペーサ40Aは、電極20Uの四隅の間の位置においても電極20Uの縁に接するように接着されている。スペーサ40Bは、電極20Uの縁より内側の領域において複数行複数列で並べられて接着されている。
なお、電極20Lの下面においては、スペーサ40Aが電極20Lの四隅に接着されており、電極20Lの四隅の間の位置においても、スペーサ40Aが電極20Lの縁に接するように接着されている。また、電極20Lの下面においても、スペーサ40Bは、電極20Lの縁より内側の領域において複数行複数列で並べられて接着されている。
【0023】
カバー61Uとカバー61Lは、チューブ70、ケーブル51A〜51C、スペーサ40A、スペーサ40B、及び放音部2を間に挟み、縁から一定の幅で接着剤が塗布され、互いの縁部分が接着されて袋状のカバー60を形成している。また、壁611の先端にも接着剤が塗布され、カバー61Uの壁611の先端が電極20Uの上面に接着されており、カバー61Lの壁611の先端が電極20Lの下面に接着されている。また、スペーサ40A,40Bにも接着剤が塗布され、電極20Uに接着されているスペーサ40A,40Bはカバー61Uに接着され、電極20Lに接着されているスペーサ40A,40Bはカバー61Lに接着されている。壁611が電極20に接着されると、スペーサ40Bは、上面側から見て壁611より内側の領域に位置し、スペーサ40Aは壁611より外側の領域に位置する。
【0024】
チューブ70の一方の端部は、袋状のカバー60の内部に位置し、他方の端部は、袋状になったカバー60の外側に位置するようにカバー61Uとカバー61Lの間に配置されている。また、チューブ70は、カバー61Uとカバー61Lに隙間なく接着されており、袋状になったカバー60内の空気がチューブ70とカバー61U及びカバー61Lとの間から外部に漏れないようになっている。
また、ケーブル51A〜51Cもカバー61Uとカバー61Lに隙間なく接着されており、袋状になったカバー60内の空気が各ケーブルとカバー61U及びカバー61Lとの間から外部に漏れないようになっている。
【0025】
静電型スピーカ1を構成する各部品は、柔軟性があるため折り曲げたり巻物のように丸めたりすることができる。静電型スピーカ1を収納するために折り曲げたり巻物のように丸めたりする場合には、図5(a)に示したように、凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bから離した状態にする。図5(a)に示したように凸部71Cが凸部71Aと凸部71Bから離れていると、カバー60内の空間が外部に通じた状態となる。この状態で静電型スピーカ1を折り曲げて圧縮したり、丸めて巻き込んだりして小さく変形させると、カバー60内の空気が押し出されてチューブ70内を通って外部へ排出されるため、カバー60内の空気の圧力によりカバー60が破裂するということがない。なお、折り曲げたり丸めたりする場合には、カバー60内の空気をポンプで吸引してカバー60内の空気を直接排出するといった機械を用いた構成としてもよい。この場合も、弾性を備える弾性部材30やスペーサ40A,40Bが圧縮されて薄くなる。
【0026】
カバー60内の空気を排出し終えた後で図5(b)に示したように凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bの間に押し込むと、チューブ70の外から内部への空気の流れが遮断され、カバー60は密閉された状態となる。カバー60を構成するカバー61Uとカバー61Lは防湿性を備えているため、カバー60が密閉されると、外部の湿気がカバー60内へ侵入することがなく、保管している時に電極20や振動体10の導電膜の劣化を抑えることができる。
【0027】
一方、静電型スピーカ1を使用する場合、図5(a)に示したように凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bから離し、折り曲げられたり丸められたりしていた静電型スピーカ1を広げる。凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bから離すと、外部の空気がチューブ70の内部を通ってカバー60内に入る。チューブ70内の空間は、電極20Uの上面側(放音部2の表面側)とカバー61Uとの間、及び電極20Lの下面側(放音部2の裏面側)とカバー61Lとの間に繋がっているため、カバー60内に入った空気は、放音部2の表面側とカバー61Uとの間、及び放音部2の裏面側とカバー61Lとの間に流れ、圧縮されていたスペーサ40A,40Bと弾性部材30が弾性の復元力により膨張する。スペーサ40A,40Bが膨張すると、スペーサ40A,40Bは図2に示したように角柱の形状となり、電極20とカバー60との間に所定の厚さの空間(隙間)ができ、カバー60内においては放音に必要な空気の層が確保される。
なお、図2に示したようにカバー61U及びカバー61Lの壁611の高さとスペーサ40Bの高さはスペーサ40Aの高さより高いため、振動体10とカバー61Uとの間にできる空気層の厚さは、上面側(カバー61U側)から見て壁611より内側の領域にある空気層(第1空気層)のほうが壁611の外側の領域にある空気層(第2空気層)より厚くなり、振動体10とカバー61Lとの間にできる空気層の厚さも、上面側(カバー61L側)から見て壁611より内側の領域にある空気層(第1空気層)のほうが壁611の外側の領域にある空気層(第2空気層)より厚くなる。
【0028】
スペーサ40A,40Bと弾性部材30が膨張して空気がカバー60内に入った後で図5(b)に示したように凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bの間に押し込むと、チューブ70の外から内部への空気の流れが遮断され、カバー60内は密閉された状態となる。ここでも、カバー60の内部が密閉されるため、外部の湿気が内部に侵入することがなく、電極20や振動体10の導電膜の劣化を抑えることができる。
【0029】
(静電型スピーカ1の電気的構成)
次に、静電型スピーカ1に係る電気的構成について説明する。図6に示したように、静電型スピーカ1を駆動する駆動回路100は、増幅部130、変圧器110、バイアス電源120、抵抗器R1及び雄型のコネクター140を備えている。
【0030】
増幅部130は、入力される音響信号を増幅して出力する増幅手段である。増幅部130は、変圧器110の一次側コイルの端子に接続されている。増幅部130で増幅された交流の音響信号は、変圧器110の一次側コイルへ供給される。
【0031】
変圧器110の二次側コイルのセンタータップは、駆動回路100の基準電位であるグラウンドGNDに接続されている。変圧器110の二次側コイルの一方の端子は、雌型のコネクター140の1番端子に接続され、変圧器110の二次側コイルの他方の端子は、雌型のコネクター140の3番端子に接続されている。
バイアス電源120は、振動体10に対して直流でプラスのバイアス電圧を印加するための電源であり、保護抵抗として機能する抵抗器R1を介して雌型のコネクター140の2番端子に接続されている。バイアス電源120のプラス側は抵抗器R1に接続され、バイアス電源120のマイナス側はグラウンドGNDに接続されている。
【0032】
雌型のコネクター141の1番端子はケーブル51Aで電極20Uに接続され、コネクター141の3番端子はケーブル51Bで電極20Lに接続されている。また、コネクター141の2番端子はケーブル51Cで振動体10に接続されている。なお、コネクター140及びコネクター141においては、各端子間は絶縁されている。
【0033】
駆動回路100で静電型スピーカ1を駆動する際には、静電型スピーカ1を広げてカバー60内に空気を入れた後、雌型のコネクター141を雄型のコネクター140に嵌める。コネクター140にコネクター141が嵌められると、同じ番号の端子同士が接続され、バイアス電源120が抵抗器R1を介して振動体10に接続され、直流でプラスのバイアス電圧が振動体10に印加される。また、コネクター140とコネクター141が接続されると、変圧器110の二次側コイルの端子が電極20Uと電極20Lに接続される。変圧器110のセンタータップはグラウンドGNDに接続されているため、増幅部130に入力された音響信号の振幅が0Vの状態では、電極20Uと電極20Lの電圧は0Vとなる。
【0034】
次に、音響信号の振幅が0Vから変化した場合について説明する。増幅部130に交流の音響信号が入力されると、入力された音響信号が増幅されて変圧器110の一次側に供給される。変圧器110で昇圧されて電極20Lに供給される音響信号は、変圧器110で昇圧されて電極20Uに供給される音響信号とは振幅が同じで信号の極性が逆となる。
【0035】
増幅部130にプラスの音響信号が供給されたことにより、電極20Uにプラスの電圧が印加され、電極20Lにマイナスの電圧が印加された場合には、振動体10と電極20Uとの間の静電引力が弱まる一方、振動体10と電極20Lとの間の静電引力が強くなる。すると振動体10は、電極20U側に作用する静電引力と電極20L側に作用する静電引力との差に応じて電極20L側(Z軸の負方向)へ変位する。
【0036】
また、増幅部130にマイナスの音響信号が供給されたことにより、電極20Uにマイナスの電圧が印加され、電極20Lにプラスの電圧が印加された場合には、振動体10と電極20Lとの間の静電引力が弱まる一方、振動体10と電極20Uとの間の静電引力が強くなる。すると振動体10は、電極20U側に作用する静電引力と電極20L側に作用する静電引力との差に応じて電極20U側(Z軸の正方向)へ変位する。
【0037】
このように振動体10は、音響信号に応じて図中のZ軸の正の方向とZ軸の負の方向に変位し、その変位方向が逐次変わることによって振動となり、その振動状態(振動数、振幅、位相)に応じた音波が振動体10から発生する。
【0038】
本実施形態においては、使用する際にはスペーサ40A,40Bと弾性部材30が膨張し、音を放音するのに必要な量の空気がカバー60内に入るため、振動体10の振動によりカバー60内の空気を振動させ、音を放音することができる。また、本実施形態においては、チューブ70を閉じてカバー60を密閉するため、湿気による振動体10や電極20の導電膜の劣化を抑えることができる。また、使用しない時には、カバー60内の空気を排出して折り畳んだり丸めたりすることができるため、小さくして保管することができる。
【0039】
また、カバー60内においては、振動体10を上面側(振動体の法線方向)から見て壁611より外側の領域は、壁611より内側の領域より空気層の厚さが薄い。このため、壁611より外側の領域では、振動する空気の量が壁611より内側の領域より少なく、壁611より外側の領域から発生する音の音圧は、壁611より内側の領域から発生する音の音圧より小さくなる。このように、静電型スピーカ1においては、放音部2の縁側の領域(X軸の正負方向及びY軸の正負方向の外縁を含む領域)で発生する音の音圧が壁611より内側の領域で発生する音の音圧より相対的に小さくなるため、放音部2から放音される音はサイドローブが小さくなり、放音される音の指向性は、従来の静電型スピーカより改善されている。
なお、空気層の厚さは、特定の閾値を越えると厚さが違っていても音圧には差がなく、閾値以下であると、厚さが薄くなるにつれて音圧が下がる。よって、壁611より内側の領域にある空気層は、閾値を越える厚さとし、壁611より外側(縁側)の領域にある空気層は、閾値以下の厚さとする。また、壁611より内側の領域にある第1空気層の厚さを閾値以下の厚さとし、壁611より外側(縁側)の領域にある第2空気層の厚さと第1空気層の厚さの関係を、第1空気層の厚さ>第2空気層の厚さという関係にしてもよい。
【0040】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば、上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。なお、上述した実施形態および以下の変形例は、各々を組み合わせてもよい。
【0041】
(変形例1)
放音部2においてX軸の正方向側の縁から壁611までの距離と、放音部2においてX軸の負方向側の縁から壁611までの距離は同じであってもよく、異なっていてもよい。また、放音部2においてY軸の正方向側の縁から壁611までの距離と、放音部2においてY軸の負方向側の縁から壁611までの距離は同じであってもよく、異なっていてもよい。要するに、各距離は完全に一致する構成に限定されず、サイドローブが抑えられるのであれば、寸法のばらつきや組み立て時の精度などによって各距離が異なっていてもよい。また、上述した実施形態では複数の部品で寸法が同じと説明している場合があるが、「同じ」とは完全一致に限定限定されるものではなく、製造時の寸法のばらつきは「同じ」の範囲となる。また、上面側から見て放音部2の縁を含む領域の空気層の厚さが壁611より内側の空気層の厚さより薄くなるのであれば、壁611から放音部2の縁までの距離は任意に設定してよい。
【0042】
(変形例2)
上述した実施形態においては、カバー61Uとカバー61Lは、各々一つの壁611を有しているが、各カバーが有する壁611の数は一つに限定されるものではない。例えば、図7に示したように、カバー61Lに第1の高さの壁611Aと第2の高さの壁611Bを設けてもよい。なお、この変形例においては、カバー61Uの構成は、カバー61Lと同じく第1の高さの壁611Aと第2の高さの壁611Bを備える。カバー61U,61Lが異なる高さの壁を設ける場合、上面側から見て縁に近い側に高さの低い壁を設け、中央側に高さの高い壁を設ける。
【0043】
図7に示したカバー61Lにおいては、上面側から見て外側にある壁611Bの高さが壁611Bより内側にある壁611Aの高さより低くなっている。このため、カバー61Lの壁611A,611Bの上面側が電極20Lに接着されると、電極20Lとカバー61Lとの間の空気層の厚さは、壁611Aより内側の領域が最も厚く、次に壁611Bと壁611Aの間の領域が厚く、壁611Bより外側の領域は最も薄くなる。また、カバー61Uについては、壁がある側を電極20Uに対向させ、壁611A,611Bの下面側が電極20Uに接着されると、電極20Uとカバー61Uとの間の空気層の厚さは、壁611Aより内側の領域が最も厚く、次に壁611Bと壁611Aの間の領域が厚く、壁611Bより外側の領域は最も薄くなる。
【0044】
この構成によれば、静電型スピーカ1から放音される音の音圧の大小関係は、壁611Aより内側の領域の音圧>壁611Bと壁611Aとの間の領域の音圧>壁611Bより外側の領域の音圧、となり、放音部2の縁に近い領域ほど発生する音の音圧が小さくなる。このため、放音部2においてはサイドローブが小さくなり、静電型スピーカ1から発生する音の指向性は、従来の静電型スピーカより改善されている。
なお、本変形例においては、カバー61Uと放音部2の間、及びカバー61Lと放音部2との間にスペーサを配置しないようにしてもよい。スペーサを配置しない場合、チューブ70から空気入れを用いて空気を強制的にカバー60内へ送りこむ。壁611Aと壁611Bは高さが違うため、スペーサを設けなくても、壁611Aと壁611Bとの間の領域にできる空気層の厚さは、壁611Aより内側にできる空気層の厚さより薄くなる。つまり、放音部2の縁側の領域にある空気層の厚さが薄くなるため、放音部2から放音される音はサイドローブが小さくなり、静電型スピーカ1から発生する音の指向性は、従来の静電型スピーカより改善される。
【0045】
(変形例3)
上述した実施形態においては、各部材は上面側から見て矩形となっていたが、各部材について上面側から見た形状は矩形に限定されるものではない。静電型スピーカ1を構成する各部材の形状は、楕円形、円形又は矩形以外の多角形であってもよい。
【0046】
(変形例4)
上述した実施形態においては、壁611は、シート部610の法線方向から見て矩形の枠型になっているが、図8に示した壁611Cのように、円環の一部を切り取った形状であってもよい。この構成においては、上面側から見て放音部2の縁より内側に壁611Cが位置するようにし、壁611Cより内側の領域にスペーサ40Bを配置し、壁611Cより外側にスペーサ40Aを配置する。この構成によれば、カバー60内において壁611Cより外側の領域の空気層の厚さは、壁611Cより内側の領域の空気層の厚さより薄くなる。このため、壁611Cより外側の領域で発生する音の音圧は、壁611Cより内側の領域で発生する音の音圧より小さくなり、放音部2から放音される音はサイドローブが小さく、静電型スピーカ1から発生する音の指向性は、従来の静電型スピーカより改善されている。
【0047】
(変形例5)
上述した実施形態においては、振動体10と電極20の寸法は、X軸方向とY軸方向で同じとなっているが、振動体10のX軸方向とY軸方向の寸法は、電極20より短くてもよい。なお、この場合、上面側から見て振動体10の縁から内側へ一定幅の領域が壁611の外側に位置するように壁611の位置を設定する。
【0048】
(変形例6)
上述した実施形態においては、カバー60内と外部との間で空気を移動させる構成は、上述した実施形態の構成に限定されるものではない。例えば、チューブ70を設けない替わりにカバー60の上面側と下面側に空気弁を設け、これらの弁によりカバー60内と外部との間の空気の移動を調整してもよい。
また、上述した実施形態においては、壁611は、上面側から見ると矩形の枠型の一部を切り取った形状となっているが、前述のように空気弁を設ける構成の場合、壁611を矩形の枠型の形状とし、壁611の内側と外側とで空気が移動しないようにしてもよい。この場合、壁611より外側の領域と壁611より内側の領域の両方に空気弁を設ける。この構成でも、壁611より内側と外側とで空気層の厚さを異ならせることができ、サイドローブを小さくすることができる。なお、この構成においては、空気弁と空気入れによって壁611より内側に入れる空気の量と壁611より外側に入れる空気の量を調整し、壁611より内側において放音部2とカバー60との間にできる空気層の厚さと、壁611より外側において放音部2とカバー60との間にできる空気層の厚さを調整できるため、スペーサ40A,40Bを設けないようにしてもよい。
【0049】
(変形例7)
上述した実施形態においては、カバー60内には空気が入れられてカバー60と放音部2との間に空気層ができるが、カバー60内に入れられるのは空気に限定されず気体であればよい。よって、前述の空気層は、空気の層に限定されるものではなく、空気以外の気体の層という概念も含む。
【0050】
(変形例8)
上述した実施形態の静電型スピーカは、プッシュプル型の静電型スピーカであるが、シングル型の静電型スピーカであってもよい。シングル型の場合、放音部2は、電極20Lを備えておらず、シート61Lの壁611が弾性部材30Lに接着され、弾性部材30Lとシート61Lとの間にスペーサ40A,40Bが配置される構成となる。この構成によれば、放音部2の下面側にある弾性部材30Lとスペーサ40A,40Bにより、放音部2の下面側にも空間が確保されるため、振動体10が振動して音を放音することができる。
【0051】
(変形例9)
上述した実施形態では、シート61U,61Lは、壁611を備えているが、これらの壁を備えない構成としてもよい。スペーサ40Aとスペーサ40Bは高さが異なるため、上面側から見スペーサ40Bがある領域よりスペーサ40A側(放音部2の縁側)のほうが空気層の厚さが薄くなり、放音部2から放音される音はサイドローブが小さくなる。
なお、シート61U,61Lに壁を設けない構成にあっては、スペーサの形状は、図1に示したものに限定されるものではない。例えば、図9の(a)に示した静電型スピーカ1Aのように、スペーサの形状を上面側から見て枠型としたスペーサ41A,41Bを設けてもよい。このスペーサ41A,41Bはスペーサ41Bのほうがスペーサ41AよりZ軸方向の高さが高くなっており、通気性またはスペーサを貫通して空気が移動可能な孔を備える。この場合、上面側から見てスペーサ41Bより外側の領域は、スペーサ41Bより内側の領域と比較して空気層の厚さが薄くなり、サイドローブが小さくなる。
また、シート61U,61Lに壁を設けない構成にあっては、スペーサの形状を、図9の(b)に示したスペーサ42A,42Bのように、Y軸方向が長手方向となる柱体の形状としてもよい。この構成にあっては、スペーサ41Bのほうがスペーサ41AよりZ軸方向の高さが高くなっており、各スペーサは、通気性またはスペーサを貫通して空気が移動可能な孔を備える。この構成の場合、上面側から見て放音部2のX軸正方向側の縁から図面において右側に記載されたスペーサ42Bまでの間と、放音部2のX軸負方向側の縁から図面において左側に記載されたスペーサ42Bまでの間は、2つのスペーサ42Bの間の領域より空気層の厚さが薄く、サイドローブが小さくなる。
【0052】
(変形例10)
上述した実施形態においては、スペーサと壁とによりカバー60と放音部2との間に空間を確保しているが、スペーサと壁を設けない構成であってもよい。例えば、カバー60を弾性を有する素材で形成する。なお、このカバーは、図10に示したように、放音部2をカバー内に配置し、凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bから離し(即ち、カバー内部とカバー外部が連通した状態)、カバーに外力を加えない状態において、カバー内面と放音部2との間に空気層ができる形状に形成される。
この構成によれば、凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bから離すと、カバー内の空気を排出することができ、折り曲げてもカバー内の空気の圧力によりカバーが破裂するということがない。また、カバーを外部から押さえて内部の空気を強制的に排出すると、カバーが変形し、Z軸方向の厚さを薄くすることができる。また、カバー内の空気を抜いて薄くなった状態から凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bから離すと、空気がカバー内に入ると共に、カバー自身の弾性によりカバーが膨らむ方向へ変形し、図10に示したように放音部2とカバーとの間に空間を確保することができる。なお、カバー内においては、図に示したbの領域の空気層の厚さはaの領域の空気層より薄くなるため、サイドローブが小さくなる。
【0053】
(変形例11)
上述した実施形態においては、外側にある空気層の厚さを一定とせず、内側から外側に向かうにつれて空気層の厚さが次第に薄くなるように構成してもよい。
【0054】
(変形例12)
上述した実施形態においては、壁611は、矩形の一部を取り除いた形状となっているが、矩形の形状としてもよい。この構成においては、チューブ70を、壁611の内側の空間に通じるチューブと、壁611の外側の空間に通じるチューブとに分けてもよい。この構成によれば、壁611より内側の空気層の厚さと壁611より外側の空気層の厚さを独立して調整できる。なお、カバー61が壁611を備える構成にあっては、放音される音の音圧が低くなる部分を視覚的に知ることができる。
【0055】
(変形例13)
上述した実施形態においては、電極、振動体及び弾性部材を積層した構成を、音響信号を音に変換する静電型のスピーカとしているが、この構成は、音を音響信号に変換する静電型のマイクロフォン(静電型電気音響変換器)とすることも可能である。
図11は、本変形例に係る静電型マイクロフォン5と、静電型マイクロフォン5で収音された音を表す音響信号を生成する音響信号生成回路200の構成を示した図である。本変形例においては、静電型マイクロフォン5は、前述の静電型スピーカ1と同じ部材を備えているため、静電型マイクロフォン5を構成する部材には、静電型スピーカ1の各部材と同じ符号を付し、その説明を省略する。また、音響信号生成回路200の構成は、信号が流れる方向が駆動回路100と異なる以外は、駆動回路100と同じであるため、音響信号生成回路200が備える部品には駆動回路100が備える部品と同じ符号を付し、各部品の説明を省略する。なお、変圧器110の変圧比や各抵抗器の抵抗値は適宜調整される。
【0056】
静電型マイクロフォン5においては、導体である電極20と導体である振動体10は距離をおいて向かいあって配置されており、電極20と振動体10は平行平板の導体によって構成されたコンデンサとして機能している。振動体10にはバイアス電圧が印加されているため、静電型マイクロフォン5に音が到達していない状態においては、このコンデンサに一定の電荷が溜まった状態となる。
静電型マイクロフォン5に音が到達した場合、到達した音によって振動体10が振動する。振動体10が振動すると、振動体10と電極20U,20Lとの間の距離が変わるため、振動体10と電極20との間の静電容量に変化が生じる。
【0057】
例えば、振動体10が電極20U側に変位すると、電極20Uと振動体10との間の距離が短くなり、電極20Uと振動体10との間の静電容量が大きくなる。また、電極20Lと振動体10との間の距離が長くなり、電極20Lと振動体10との間の静電容量が小さくなる。このように静電容量が変化すると、電極20Uと振動体10との電位差が小さくなるように電極20Uの電位が変化し、電極20Lと振動体10との電位差が大きくなるように電極20Lの電位が変化する。ここで、電極20Uと電極20Lとの間で電位差が生じるため、変圧器110の二次側コイルには電流が流れる。
【0058】
また、振動体10が電極20L側に変位すると、電極20Lと振動体10との間の距離が短くなり、電極20Lと振動体10との間の静電容量が大きくなる。また、電極20Uと振動体10との間の距離が長くなり、電極20Uと振動体10との間の静電容量が小さくなる。すると、電極20Lと振動体10との電位差が小さくなるように電極20Lの電位が変化し、電極20Uと振動体10との電位差が大きくなるように電極20Uの電位が変化する。ここで、電極20Uと電極20Lとの間で電位差が生じ、変圧器110の二次側コイルには、振動体10が電極20Uの方向に変位したときとは逆の方向に電流が流れる。
【0059】
変圧器110の二次側コイルに電流が流れると、この電流に対応して変圧器110の一次側コイルにも電流が流れる。一次側コイルに流れた信号は、増幅部130で増幅され、増幅された信号が静電型マイクロフォン5で収音された音を表す音響信号として増幅部130から出力される。つまり、静電型スピーカ1において放音部2となっていた部分は、音を収音する収音部として機能する。
【0060】
なお、本変形例においては、変圧器110のインピーダンスが低い場合には、静電型マイクロフォン5の負荷容量の影響により、低い周波数における周波数特性が低下する場合がある。この場合、変圧器110に替えてインピーダンスの高いアンプを電極20U,20Lに接続し、周波数特性の低下を抑えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1、1A,1B…静電型スピーカ、2…放音部、5…静電型マイクロフォン、10…振動体、20,20U,20L…電極、30,30U,30L…弾性部材、40A,40B…スペーサ、51A〜51C…ケーブル、60…カバー、61U,61L…カバー、70…チューブ、71A〜71C…凸部、100…駆動回路、110…変圧器、120…バイアス電源、130…増幅回路、140,141…コネクター、200…音響信号生成回路、610…シート部、611,611A,611B,611C…壁、R1…抵抗器
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電型電気音響変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
静電型スピーカの指向特性を制御する発明として、例えば特許文献1や特許文献2に開示された発明がある。特許文献1に開示された発明は、2枚の平板電極の間に振動膜を備えた構成となっており、この振動膜は、振動膜の外縁に近づくほど面密度が増大するように構成されている。この構成によれば、振動膜において面密度が大きい領域では振幅が小さくなって発生する音の音圧が低下するため、サイドローブが抑制される。また、特許文献2に開示された発明も、2枚の電極の間に振動膜を備えた構成となっている。特許文献2の発明においては、振動膜と電極との間の間隔が異なる領域が複数設けられている。静電型スピーカにおいては、振動膜に働く静電力は振動膜と電極との間の距離の2乗に反比例するため、間隔が異なると振動膜から発生する音の音圧も異なることとなる。このため、静電型スピーカにおいて外縁に近い領域で振動膜と電極との間の距離を大きくすれば、外縁に近い領域の音圧が低下するため、サイドローブが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−274363号公報
【特許文献2】特開2007−274362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、特許文献1の発明においては、振動膜の面密度を外縁に近づくほど大きくする必要があるが、1枚の振動膜において複数の領域で面密度が異なるように振動体を構成するのは難しい。また、1枚の振動膜ではなく面密度が異なる複数の振動膜を用いる方法も考えられるが、この構成では振動膜毎にバイアス電圧を供給する配線が必要となる。
また、特許文献2の発明においては、電極と振動膜との距離を複数の領域で異ならせる必要があるが、電極を1枚で構成しようとすると電極の加工が難しくなる。また、1枚の電極ではなく複数の電極で構成して、各電極と振動膜との距離を異ならせる方法も考えられるが、この構成だと電極毎に信号を供給する配線が必要となってしまう。
また、一対の電極の間に振動膜を挟む構成は、静電型のマイクロフォンとしても用いることができる。振動膜の面密度や電極と振動膜の距離を上記のような構成にすれば、静電型のマイクロフォンにおいても指向特性を制御できるものの、静電型のスピーカの場合と同様に前述の問題が生じ得る。
【0005】
本発明は、上述した背景の下になされたものであり、振動体や電極に複雑な加工を行うことなく、指向特性を改善する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために本発明は、ガスバリア性を有する袋状のカバーと、前記カバー内に位置する振動体と、前記カバー内において前記振動体を挟んで対向する一対の電極と、前記カバー内において前記振動体と前記一対の電極との間に位置し、弾性を有し音が透過する弾性部材と、を有し、前記振動体と前記カバーとの間には、各々厚さの異なる複数の空気層があり、前記カバー側からみて厚さの薄い空気層より内側に厚さの厚い空気層が位置することを特徴とする静電型電気音響変換器を提供する。
【0007】
また、本発明は、ガスバリア性を有する袋状のカバーと、前記カバー内に位置する振動体と、前記カバー内において前記振動体と対向する電極と、前記カバー内において前記振動体と前記電極との間に位置し、弾性を有し音が透過する弾性部材と、を有し、前記振動体と前記カバーとの間には、各々厚さの異なる複数の空気層があり、前記カバー側からみて厚さの薄い空気層より内側に厚さの厚い空気層が位置することを特徴とする静電型電気音響変換器を提供する。
【0008】
本発明においては、前記電極において前記カバーと向かい合う面には、弾性を有する第1スペーサと、弾性を有する第2スペーサが配置され、前記第1スペーサと前記第2スペーサの前記面からの高さは、前記第2スペーサより前記第1スペーサのほうが高く、前記第1スペーサは、前記カバー側から見て厚さの厚い第1空気層内に位置し、前記第2スペーサは、前記カバー側から見て前記第1空気層より薄い第2空気層内に位置する構成であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、振動体や電極に複雑な加工を行うことなく、指向特性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る静電型スピーカ1の平面図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】放音部2の分解図。
【図4】カバー61Lの平面、側面及び正面を示した図。
【図5】チューブ70を拡大した図。
【図6】駆動回路100の構成を示した図。
【図7】変形例に係るカバー61Lの平面、側面及び正面を示した図。
【図8】変形例に係るカバー61Lの平面、側面及び正面を示した図。
【図9】変形例に係る静電型スピーカ1Aの平面図。
【図10】変形例に係る静電型スピーカの断面図。
【図11】静電型マイクロフォン5に係る電気的構成を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係る静電型スピーカ1(静電型電気音響変換器)の平面図、図2は、図1のA−A線断面図である。また、図3は、静電型スピーカ1が有する放音部2の分解図である。なお、図中の各部材の寸法は、各部材の形状や位置関係を容易に理解できるように実際の寸法とは異ならせてある。また、図においては、直交するX軸、Y軸およびZ軸で方向を示しており、静電型スピーカ1を正面から見たときの左右方向をX軸の方向、奥行き方向をY軸の方向、高さ方向をZ軸の方向としている。以下の説明においては、説明の便宜上、Z軸の正方向側を上面側、Z軸の負方向側を下面側と称する場合がある。また、図中、「○」の中に「・」が記載されたものは図面の裏から表に向かう矢印を意味するものとし、図中、「○」の中に「×」が記載されたものは図面の表から裏に向かう矢印を意味するものとする。
【0012】
静電型スピーカ1は、振動体10、電極20U,20L及び弾性部材30U,30Lで構成された放音部2を有している。また、静電型スピーカ1は、スペーサ40A,40B、カバー60及びチューブ70を有している。なお、本実施形態においては、電極20Uと電極20Lの構成は同じであり、弾性部材30Uと弾性部材30Lの構成は同じである。このため、これらの部材において符号の末尾が「U」の部材と符号の末尾が「L」の部材とを区別する必要が特に無い場合は、「L」および「U」などの記載を省略する。
【0013】
(静電型スピーカ1の各部の構成)
まず、静電型スピーカ1を構成する各部について説明する。上面側から見て矩形の振動体10は、PET(polyethylene terephthalate:ポリエチレンテレフタレート)またはPP(polypropylene:ポリプロピレン)などの絶縁性および柔軟性を有する合成樹脂のフィルム(絶縁層)の一方の面に導電性のある金属を蒸着して導電膜(導電層)を形成したシート状の構成となっている。なお、本実施形態においては、導電膜は、フィルムの一方の面に形成されているが、フィルムの両面に形成されていてもよい。また、振動体10は、導電性を有する金属を圧延して膜状にした構成であってもよい。
【0014】
弾性部材30は、本実施形態においては不織布であって電気を通さず空気および音の通過が可能となっており、その形状は上面側からから見て矩形となっている。本実施形態においては、弾性部材30のX軸方向の長さは振動体10のX軸方向の長さと同じであり、弾性部材30のY軸方向の長さも振動体10のY軸方向の長さと同じとなっている。また、弾性部材30は、弾性を有しており、外部から力を加えられると変形し、外部から加えられた力が取り除かれると元の形状に戻る。なお、弾性部材30は、絶縁性があり、音及び空気が透過し、弾性がある部材であればよく、中綿に熱を加えて圧縮したもの、織られた布、絶縁性を有する合成樹脂を海綿状にしたものなどであってもよい。また、弾性部材30は、音が通過するのであれば空気が通過しない構成であってもよく、例えば、弾性があり不連続気泡のスポンジをシート状にして弾性部材30としてもよい。
【0015】
電極(固定極)20は、PETまたはPPなどの絶縁性を有する合成樹脂のフィルム(絶縁層)の一方の面に導電性のある金属を蒸着して導電膜(導電層)を形成した構成となっている。また電極20は、上面側から見て矩形となっている。電極20は、表面から裏面に貫通する孔を複数有しており、空気および音の通過が可能となっているが、図面においては、この孔の図示を省略している。電極20の寸法は、X軸方向の長さとY軸方向の長さが振動体10と同じとなっている。なお、振動体10と同様に電極20についても、導電性を有する金属を圧延して膜状にした構成であってもよい。また、電極20は、導電性を備えていれば柔軟性を備えていないものでもよく、例えばパンチングメタルであってもよい。
【0016】
カバー60は、合成樹脂のカバー61Uとカバー61Lとで袋状に構成されており、内部に放音部2を収納する。カバー61Uとカバー61Lは、絶縁性、防湿性、及び気体の通過を防ぐガスバリア性を有している。なお、本実施形態においては、カバー61U及びカバー61Lの素材はポリエチレンであるが、素材はポリエチレンに限定されるものではなく、絶縁性、防湿性及びガスバリア性を備えていれば他の素材であってもよい。カバー60は、上面側から見て矩形となっており、X軸方向及びY軸方向の長さが電極20より長く、面積が電極20より広くなっている。なお、ガスバリア性とは、気体の通過を全て遮断するという意味に限定されず、気体が通過しにくいという意味である。
図4は、カバー61Lの平面、側面及び正面を示した図である。カバー61Lは、シート状のシート部610の一方の面側(放音部2に対向する側の面)に当該面側から垂直に突出した壁611を有している。壁611は、側面側から見ると、矩形の枠型の一部を取り除いた形状となっており、シート部610の縁より内側に設けられている。なお、カバー61Uの構成は、カバー61Lと同じであるため、その構成の説明を省略する。
【0017】
スペーサ40A,40Bは、本実施形態においては、ポリウレタンのスポンジであり、その形状は角柱の形状となっている。スペーサ40A,40Bは、通気性及び弾性を有している。スペーサ40Aとスペーサ40Bを比較すると、X軸方向の寸法とY軸方向の寸法は同じであるものの、Z軸方向の寸法が異なっており、スペーサ40Bのほうがスペーサ40AよりZ軸方向の寸法が長くなっている。なお、スペーサ40A,40Bは、弾性を有するものとして、中綿に熱を加えて圧縮したものや不織布に厚みを持たせたものなど、他の素材で形成されていてもよい。また、ゴムなど通気性を備えずに弾性を備えるものであってもよく、更には通気性と弾性の両方を備えないものであってもよい。また、スペーサ40A,40Bの形状は、角柱に限定されるものではなく、円柱や多角柱の形状であってもよい。なお、本実施形態においては、スペーサ40BのZ軸方向の寸法は、壁611のZ軸方向の寸法と同じである。
【0018】
ケーブル51Aの一端は、カバー60の内部に位置する電極20Uの導電膜に接続されており、ケーブル51Bの一端は、カバー60の内部に位置する電極20Lの導電膜に接続されている。また、ケーブル51Cの一端は、カバー60の内部に位置する振動体10の導電膜に接続されている。また、各ケーブルの他端はコネクター141の端子に接続され、外部から音響信号とバイアス電圧が供給される。
【0019】
チューブ70は、ゴム製のチューブであり、カバー60の内部の空間と外部の空間とを連通させる部材である。チューブ70は、Y軸方向に平行で内周面からチューブ70の内部空間側へ交互に突出した凸部71A〜71Cを有している。チューブ70内の空間は空気が流れる通路となる。図5は、チューブ70を図1のX軸の正方向の側から負方向の側に向かって見た図である。凸部71A〜凸部71Cは、開閉自在なファスナーとして機能し、図2や図5(b)に示したように、凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bとの間に押し込むと、凸部71Cが凸部71Aと凸部71Bに係合、密着し、チューブ70の一端から他端側への空気の流れが遮断される。また、図5(a)に示したように凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bから離すと、チューブ70内の空間が一端側と他端側とで繋がり、チューブ70の一端から他端側へ空気が流れるようになる。つまり、凸部71A〜71Cは、空気の通路を開閉する開閉部として機能する。
【0020】
(静電型スピーカ1の構造)
次に静電型スピーカ1の構造について説明する。静電型スピーカ1においては、振動体10は、弾性部材30Uの下面と弾性部材30Lの上面との間に配置されている。なお、振動体10は、X軸の正方向側及び負方向側の縁とY軸の正方向側及びY軸の負方向側の縁から内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されて弾性部材30Uと弾性部材30Lに接着されており、接着剤が塗布された部分より内側は弾性部材30Uと弾性部材30Lに固着されていない状態となっている。
【0021】
電極20Uは、弾性部材30Uの上面に重ねられている。また、電極20Lは、弾性部材30Lの下面に重ねられている。電極20Uは、X軸の正方向側及び負方向側の縁とY軸の正方向側及び負方向側の縁から内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されて弾性部材30Uに接着されており、電極20Lは、X軸の正方向側及び負方向側の縁とY軸の正方向側及び負方向側の縁から内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されて弾性部材30Lに接着されている。電極20は、接着剤が塗布された部分より内側の領域は弾性部材30に固着されていない状態となっている。また、電極20Uは、導電膜のある側が弾性部材30Uに接しており、電極20Lは、導電膜のある側が弾性部材30Lに接している。
【0022】
電極20Uの上面には、スペーサ40Aとスペーサ40Bが接着されている。スペーサ40Aは、電極20Uの四隅に接着されている。またスペーサ40Aは、電極20Uの四隅の間の位置においても電極20Uの縁に接するように接着されている。スペーサ40Bは、電極20Uの縁より内側の領域において複数行複数列で並べられて接着されている。
なお、電極20Lの下面においては、スペーサ40Aが電極20Lの四隅に接着されており、電極20Lの四隅の間の位置においても、スペーサ40Aが電極20Lの縁に接するように接着されている。また、電極20Lの下面においても、スペーサ40Bは、電極20Lの縁より内側の領域において複数行複数列で並べられて接着されている。
【0023】
カバー61Uとカバー61Lは、チューブ70、ケーブル51A〜51C、スペーサ40A、スペーサ40B、及び放音部2を間に挟み、縁から一定の幅で接着剤が塗布され、互いの縁部分が接着されて袋状のカバー60を形成している。また、壁611の先端にも接着剤が塗布され、カバー61Uの壁611の先端が電極20Uの上面に接着されており、カバー61Lの壁611の先端が電極20Lの下面に接着されている。また、スペーサ40A,40Bにも接着剤が塗布され、電極20Uに接着されているスペーサ40A,40Bはカバー61Uに接着され、電極20Lに接着されているスペーサ40A,40Bはカバー61Lに接着されている。壁611が電極20に接着されると、スペーサ40Bは、上面側から見て壁611より内側の領域に位置し、スペーサ40Aは壁611より外側の領域に位置する。
【0024】
チューブ70の一方の端部は、袋状のカバー60の内部に位置し、他方の端部は、袋状になったカバー60の外側に位置するようにカバー61Uとカバー61Lの間に配置されている。また、チューブ70は、カバー61Uとカバー61Lに隙間なく接着されており、袋状になったカバー60内の空気がチューブ70とカバー61U及びカバー61Lとの間から外部に漏れないようになっている。
また、ケーブル51A〜51Cもカバー61Uとカバー61Lに隙間なく接着されており、袋状になったカバー60内の空気が各ケーブルとカバー61U及びカバー61Lとの間から外部に漏れないようになっている。
【0025】
静電型スピーカ1を構成する各部品は、柔軟性があるため折り曲げたり巻物のように丸めたりすることができる。静電型スピーカ1を収納するために折り曲げたり巻物のように丸めたりする場合には、図5(a)に示したように、凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bから離した状態にする。図5(a)に示したように凸部71Cが凸部71Aと凸部71Bから離れていると、カバー60内の空間が外部に通じた状態となる。この状態で静電型スピーカ1を折り曲げて圧縮したり、丸めて巻き込んだりして小さく変形させると、カバー60内の空気が押し出されてチューブ70内を通って外部へ排出されるため、カバー60内の空気の圧力によりカバー60が破裂するということがない。なお、折り曲げたり丸めたりする場合には、カバー60内の空気をポンプで吸引してカバー60内の空気を直接排出するといった機械を用いた構成としてもよい。この場合も、弾性を備える弾性部材30やスペーサ40A,40Bが圧縮されて薄くなる。
【0026】
カバー60内の空気を排出し終えた後で図5(b)に示したように凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bの間に押し込むと、チューブ70の外から内部への空気の流れが遮断され、カバー60は密閉された状態となる。カバー60を構成するカバー61Uとカバー61Lは防湿性を備えているため、カバー60が密閉されると、外部の湿気がカバー60内へ侵入することがなく、保管している時に電極20や振動体10の導電膜の劣化を抑えることができる。
【0027】
一方、静電型スピーカ1を使用する場合、図5(a)に示したように凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bから離し、折り曲げられたり丸められたりしていた静電型スピーカ1を広げる。凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bから離すと、外部の空気がチューブ70の内部を通ってカバー60内に入る。チューブ70内の空間は、電極20Uの上面側(放音部2の表面側)とカバー61Uとの間、及び電極20Lの下面側(放音部2の裏面側)とカバー61Lとの間に繋がっているため、カバー60内に入った空気は、放音部2の表面側とカバー61Uとの間、及び放音部2の裏面側とカバー61Lとの間に流れ、圧縮されていたスペーサ40A,40Bと弾性部材30が弾性の復元力により膨張する。スペーサ40A,40Bが膨張すると、スペーサ40A,40Bは図2に示したように角柱の形状となり、電極20とカバー60との間に所定の厚さの空間(隙間)ができ、カバー60内においては放音に必要な空気の層が確保される。
なお、図2に示したようにカバー61U及びカバー61Lの壁611の高さとスペーサ40Bの高さはスペーサ40Aの高さより高いため、振動体10とカバー61Uとの間にできる空気層の厚さは、上面側(カバー61U側)から見て壁611より内側の領域にある空気層(第1空気層)のほうが壁611の外側の領域にある空気層(第2空気層)より厚くなり、振動体10とカバー61Lとの間にできる空気層の厚さも、上面側(カバー61L側)から見て壁611より内側の領域にある空気層(第1空気層)のほうが壁611の外側の領域にある空気層(第2空気層)より厚くなる。
【0028】
スペーサ40A,40Bと弾性部材30が膨張して空気がカバー60内に入った後で図5(b)に示したように凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bの間に押し込むと、チューブ70の外から内部への空気の流れが遮断され、カバー60内は密閉された状態となる。ここでも、カバー60の内部が密閉されるため、外部の湿気が内部に侵入することがなく、電極20や振動体10の導電膜の劣化を抑えることができる。
【0029】
(静電型スピーカ1の電気的構成)
次に、静電型スピーカ1に係る電気的構成について説明する。図6に示したように、静電型スピーカ1を駆動する駆動回路100は、増幅部130、変圧器110、バイアス電源120、抵抗器R1及び雄型のコネクター140を備えている。
【0030】
増幅部130は、入力される音響信号を増幅して出力する増幅手段である。増幅部130は、変圧器110の一次側コイルの端子に接続されている。増幅部130で増幅された交流の音響信号は、変圧器110の一次側コイルへ供給される。
【0031】
変圧器110の二次側コイルのセンタータップは、駆動回路100の基準電位であるグラウンドGNDに接続されている。変圧器110の二次側コイルの一方の端子は、雌型のコネクター140の1番端子に接続され、変圧器110の二次側コイルの他方の端子は、雌型のコネクター140の3番端子に接続されている。
バイアス電源120は、振動体10に対して直流でプラスのバイアス電圧を印加するための電源であり、保護抵抗として機能する抵抗器R1を介して雌型のコネクター140の2番端子に接続されている。バイアス電源120のプラス側は抵抗器R1に接続され、バイアス電源120のマイナス側はグラウンドGNDに接続されている。
【0032】
雌型のコネクター141の1番端子はケーブル51Aで電極20Uに接続され、コネクター141の3番端子はケーブル51Bで電極20Lに接続されている。また、コネクター141の2番端子はケーブル51Cで振動体10に接続されている。なお、コネクター140及びコネクター141においては、各端子間は絶縁されている。
【0033】
駆動回路100で静電型スピーカ1を駆動する際には、静電型スピーカ1を広げてカバー60内に空気を入れた後、雌型のコネクター141を雄型のコネクター140に嵌める。コネクター140にコネクター141が嵌められると、同じ番号の端子同士が接続され、バイアス電源120が抵抗器R1を介して振動体10に接続され、直流でプラスのバイアス電圧が振動体10に印加される。また、コネクター140とコネクター141が接続されると、変圧器110の二次側コイルの端子が電極20Uと電極20Lに接続される。変圧器110のセンタータップはグラウンドGNDに接続されているため、増幅部130に入力された音響信号の振幅が0Vの状態では、電極20Uと電極20Lの電圧は0Vとなる。
【0034】
次に、音響信号の振幅が0Vから変化した場合について説明する。増幅部130に交流の音響信号が入力されると、入力された音響信号が増幅されて変圧器110の一次側に供給される。変圧器110で昇圧されて電極20Lに供給される音響信号は、変圧器110で昇圧されて電極20Uに供給される音響信号とは振幅が同じで信号の極性が逆となる。
【0035】
増幅部130にプラスの音響信号が供給されたことにより、電極20Uにプラスの電圧が印加され、電極20Lにマイナスの電圧が印加された場合には、振動体10と電極20Uとの間の静電引力が弱まる一方、振動体10と電極20Lとの間の静電引力が強くなる。すると振動体10は、電極20U側に作用する静電引力と電極20L側に作用する静電引力との差に応じて電極20L側(Z軸の負方向)へ変位する。
【0036】
また、増幅部130にマイナスの音響信号が供給されたことにより、電極20Uにマイナスの電圧が印加され、電極20Lにプラスの電圧が印加された場合には、振動体10と電極20Lとの間の静電引力が弱まる一方、振動体10と電極20Uとの間の静電引力が強くなる。すると振動体10は、電極20U側に作用する静電引力と電極20L側に作用する静電引力との差に応じて電極20U側(Z軸の正方向)へ変位する。
【0037】
このように振動体10は、音響信号に応じて図中のZ軸の正の方向とZ軸の負の方向に変位し、その変位方向が逐次変わることによって振動となり、その振動状態(振動数、振幅、位相)に応じた音波が振動体10から発生する。
【0038】
本実施形態においては、使用する際にはスペーサ40A,40Bと弾性部材30が膨張し、音を放音するのに必要な量の空気がカバー60内に入るため、振動体10の振動によりカバー60内の空気を振動させ、音を放音することができる。また、本実施形態においては、チューブ70を閉じてカバー60を密閉するため、湿気による振動体10や電極20の導電膜の劣化を抑えることができる。また、使用しない時には、カバー60内の空気を排出して折り畳んだり丸めたりすることができるため、小さくして保管することができる。
【0039】
また、カバー60内においては、振動体10を上面側(振動体の法線方向)から見て壁611より外側の領域は、壁611より内側の領域より空気層の厚さが薄い。このため、壁611より外側の領域では、振動する空気の量が壁611より内側の領域より少なく、壁611より外側の領域から発生する音の音圧は、壁611より内側の領域から発生する音の音圧より小さくなる。このように、静電型スピーカ1においては、放音部2の縁側の領域(X軸の正負方向及びY軸の正負方向の外縁を含む領域)で発生する音の音圧が壁611より内側の領域で発生する音の音圧より相対的に小さくなるため、放音部2から放音される音はサイドローブが小さくなり、放音される音の指向性は、従来の静電型スピーカより改善されている。
なお、空気層の厚さは、特定の閾値を越えると厚さが違っていても音圧には差がなく、閾値以下であると、厚さが薄くなるにつれて音圧が下がる。よって、壁611より内側の領域にある空気層は、閾値を越える厚さとし、壁611より外側(縁側)の領域にある空気層は、閾値以下の厚さとする。また、壁611より内側の領域にある第1空気層の厚さを閾値以下の厚さとし、壁611より外側(縁側)の領域にある第2空気層の厚さと第1空気層の厚さの関係を、第1空気層の厚さ>第2空気層の厚さという関係にしてもよい。
【0040】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば、上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。なお、上述した実施形態および以下の変形例は、各々を組み合わせてもよい。
【0041】
(変形例1)
放音部2においてX軸の正方向側の縁から壁611までの距離と、放音部2においてX軸の負方向側の縁から壁611までの距離は同じであってもよく、異なっていてもよい。また、放音部2においてY軸の正方向側の縁から壁611までの距離と、放音部2においてY軸の負方向側の縁から壁611までの距離は同じであってもよく、異なっていてもよい。要するに、各距離は完全に一致する構成に限定されず、サイドローブが抑えられるのであれば、寸法のばらつきや組み立て時の精度などによって各距離が異なっていてもよい。また、上述した実施形態では複数の部品で寸法が同じと説明している場合があるが、「同じ」とは完全一致に限定限定されるものではなく、製造時の寸法のばらつきは「同じ」の範囲となる。また、上面側から見て放音部2の縁を含む領域の空気層の厚さが壁611より内側の空気層の厚さより薄くなるのであれば、壁611から放音部2の縁までの距離は任意に設定してよい。
【0042】
(変形例2)
上述した実施形態においては、カバー61Uとカバー61Lは、各々一つの壁611を有しているが、各カバーが有する壁611の数は一つに限定されるものではない。例えば、図7に示したように、カバー61Lに第1の高さの壁611Aと第2の高さの壁611Bを設けてもよい。なお、この変形例においては、カバー61Uの構成は、カバー61Lと同じく第1の高さの壁611Aと第2の高さの壁611Bを備える。カバー61U,61Lが異なる高さの壁を設ける場合、上面側から見て縁に近い側に高さの低い壁を設け、中央側に高さの高い壁を設ける。
【0043】
図7に示したカバー61Lにおいては、上面側から見て外側にある壁611Bの高さが壁611Bより内側にある壁611Aの高さより低くなっている。このため、カバー61Lの壁611A,611Bの上面側が電極20Lに接着されると、電極20Lとカバー61Lとの間の空気層の厚さは、壁611Aより内側の領域が最も厚く、次に壁611Bと壁611Aの間の領域が厚く、壁611Bより外側の領域は最も薄くなる。また、カバー61Uについては、壁がある側を電極20Uに対向させ、壁611A,611Bの下面側が電極20Uに接着されると、電極20Uとカバー61Uとの間の空気層の厚さは、壁611Aより内側の領域が最も厚く、次に壁611Bと壁611Aの間の領域が厚く、壁611Bより外側の領域は最も薄くなる。
【0044】
この構成によれば、静電型スピーカ1から放音される音の音圧の大小関係は、壁611Aより内側の領域の音圧>壁611Bと壁611Aとの間の領域の音圧>壁611Bより外側の領域の音圧、となり、放音部2の縁に近い領域ほど発生する音の音圧が小さくなる。このため、放音部2においてはサイドローブが小さくなり、静電型スピーカ1から発生する音の指向性は、従来の静電型スピーカより改善されている。
なお、本変形例においては、カバー61Uと放音部2の間、及びカバー61Lと放音部2との間にスペーサを配置しないようにしてもよい。スペーサを配置しない場合、チューブ70から空気入れを用いて空気を強制的にカバー60内へ送りこむ。壁611Aと壁611Bは高さが違うため、スペーサを設けなくても、壁611Aと壁611Bとの間の領域にできる空気層の厚さは、壁611Aより内側にできる空気層の厚さより薄くなる。つまり、放音部2の縁側の領域にある空気層の厚さが薄くなるため、放音部2から放音される音はサイドローブが小さくなり、静電型スピーカ1から発生する音の指向性は、従来の静電型スピーカより改善される。
【0045】
(変形例3)
上述した実施形態においては、各部材は上面側から見て矩形となっていたが、各部材について上面側から見た形状は矩形に限定されるものではない。静電型スピーカ1を構成する各部材の形状は、楕円形、円形又は矩形以外の多角形であってもよい。
【0046】
(変形例4)
上述した実施形態においては、壁611は、シート部610の法線方向から見て矩形の枠型になっているが、図8に示した壁611Cのように、円環の一部を切り取った形状であってもよい。この構成においては、上面側から見て放音部2の縁より内側に壁611Cが位置するようにし、壁611Cより内側の領域にスペーサ40Bを配置し、壁611Cより外側にスペーサ40Aを配置する。この構成によれば、カバー60内において壁611Cより外側の領域の空気層の厚さは、壁611Cより内側の領域の空気層の厚さより薄くなる。このため、壁611Cより外側の領域で発生する音の音圧は、壁611Cより内側の領域で発生する音の音圧より小さくなり、放音部2から放音される音はサイドローブが小さく、静電型スピーカ1から発生する音の指向性は、従来の静電型スピーカより改善されている。
【0047】
(変形例5)
上述した実施形態においては、振動体10と電極20の寸法は、X軸方向とY軸方向で同じとなっているが、振動体10のX軸方向とY軸方向の寸法は、電極20より短くてもよい。なお、この場合、上面側から見て振動体10の縁から内側へ一定幅の領域が壁611の外側に位置するように壁611の位置を設定する。
【0048】
(変形例6)
上述した実施形態においては、カバー60内と外部との間で空気を移動させる構成は、上述した実施形態の構成に限定されるものではない。例えば、チューブ70を設けない替わりにカバー60の上面側と下面側に空気弁を設け、これらの弁によりカバー60内と外部との間の空気の移動を調整してもよい。
また、上述した実施形態においては、壁611は、上面側から見ると矩形の枠型の一部を切り取った形状となっているが、前述のように空気弁を設ける構成の場合、壁611を矩形の枠型の形状とし、壁611の内側と外側とで空気が移動しないようにしてもよい。この場合、壁611より外側の領域と壁611より内側の領域の両方に空気弁を設ける。この構成でも、壁611より内側と外側とで空気層の厚さを異ならせることができ、サイドローブを小さくすることができる。なお、この構成においては、空気弁と空気入れによって壁611より内側に入れる空気の量と壁611より外側に入れる空気の量を調整し、壁611より内側において放音部2とカバー60との間にできる空気層の厚さと、壁611より外側において放音部2とカバー60との間にできる空気層の厚さを調整できるため、スペーサ40A,40Bを設けないようにしてもよい。
【0049】
(変形例7)
上述した実施形態においては、カバー60内には空気が入れられてカバー60と放音部2との間に空気層ができるが、カバー60内に入れられるのは空気に限定されず気体であればよい。よって、前述の空気層は、空気の層に限定されるものではなく、空気以外の気体の層という概念も含む。
【0050】
(変形例8)
上述した実施形態の静電型スピーカは、プッシュプル型の静電型スピーカであるが、シングル型の静電型スピーカであってもよい。シングル型の場合、放音部2は、電極20Lを備えておらず、シート61Lの壁611が弾性部材30Lに接着され、弾性部材30Lとシート61Lとの間にスペーサ40A,40Bが配置される構成となる。この構成によれば、放音部2の下面側にある弾性部材30Lとスペーサ40A,40Bにより、放音部2の下面側にも空間が確保されるため、振動体10が振動して音を放音することができる。
【0051】
(変形例9)
上述した実施形態では、シート61U,61Lは、壁611を備えているが、これらの壁を備えない構成としてもよい。スペーサ40Aとスペーサ40Bは高さが異なるため、上面側から見スペーサ40Bがある領域よりスペーサ40A側(放音部2の縁側)のほうが空気層の厚さが薄くなり、放音部2から放音される音はサイドローブが小さくなる。
なお、シート61U,61Lに壁を設けない構成にあっては、スペーサの形状は、図1に示したものに限定されるものではない。例えば、図9の(a)に示した静電型スピーカ1Aのように、スペーサの形状を上面側から見て枠型としたスペーサ41A,41Bを設けてもよい。このスペーサ41A,41Bはスペーサ41Bのほうがスペーサ41AよりZ軸方向の高さが高くなっており、通気性またはスペーサを貫通して空気が移動可能な孔を備える。この場合、上面側から見てスペーサ41Bより外側の領域は、スペーサ41Bより内側の領域と比較して空気層の厚さが薄くなり、サイドローブが小さくなる。
また、シート61U,61Lに壁を設けない構成にあっては、スペーサの形状を、図9の(b)に示したスペーサ42A,42Bのように、Y軸方向が長手方向となる柱体の形状としてもよい。この構成にあっては、スペーサ41Bのほうがスペーサ41AよりZ軸方向の高さが高くなっており、各スペーサは、通気性またはスペーサを貫通して空気が移動可能な孔を備える。この構成の場合、上面側から見て放音部2のX軸正方向側の縁から図面において右側に記載されたスペーサ42Bまでの間と、放音部2のX軸負方向側の縁から図面において左側に記載されたスペーサ42Bまでの間は、2つのスペーサ42Bの間の領域より空気層の厚さが薄く、サイドローブが小さくなる。
【0052】
(変形例10)
上述した実施形態においては、スペーサと壁とによりカバー60と放音部2との間に空間を確保しているが、スペーサと壁を設けない構成であってもよい。例えば、カバー60を弾性を有する素材で形成する。なお、このカバーは、図10に示したように、放音部2をカバー内に配置し、凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bから離し(即ち、カバー内部とカバー外部が連通した状態)、カバーに外力を加えない状態において、カバー内面と放音部2との間に空気層ができる形状に形成される。
この構成によれば、凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bから離すと、カバー内の空気を排出することができ、折り曲げてもカバー内の空気の圧力によりカバーが破裂するということがない。また、カバーを外部から押さえて内部の空気を強制的に排出すると、カバーが変形し、Z軸方向の厚さを薄くすることができる。また、カバー内の空気を抜いて薄くなった状態から凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bから離すと、空気がカバー内に入ると共に、カバー自身の弾性によりカバーが膨らむ方向へ変形し、図10に示したように放音部2とカバーとの間に空間を確保することができる。なお、カバー内においては、図に示したbの領域の空気層の厚さはaの領域の空気層より薄くなるため、サイドローブが小さくなる。
【0053】
(変形例11)
上述した実施形態においては、外側にある空気層の厚さを一定とせず、内側から外側に向かうにつれて空気層の厚さが次第に薄くなるように構成してもよい。
【0054】
(変形例12)
上述した実施形態においては、壁611は、矩形の一部を取り除いた形状となっているが、矩形の形状としてもよい。この構成においては、チューブ70を、壁611の内側の空間に通じるチューブと、壁611の外側の空間に通じるチューブとに分けてもよい。この構成によれば、壁611より内側の空気層の厚さと壁611より外側の空気層の厚さを独立して調整できる。なお、カバー61が壁611を備える構成にあっては、放音される音の音圧が低くなる部分を視覚的に知ることができる。
【0055】
(変形例13)
上述した実施形態においては、電極、振動体及び弾性部材を積層した構成を、音響信号を音に変換する静電型のスピーカとしているが、この構成は、音を音響信号に変換する静電型のマイクロフォン(静電型電気音響変換器)とすることも可能である。
図11は、本変形例に係る静電型マイクロフォン5と、静電型マイクロフォン5で収音された音を表す音響信号を生成する音響信号生成回路200の構成を示した図である。本変形例においては、静電型マイクロフォン5は、前述の静電型スピーカ1と同じ部材を備えているため、静電型マイクロフォン5を構成する部材には、静電型スピーカ1の各部材と同じ符号を付し、その説明を省略する。また、音響信号生成回路200の構成は、信号が流れる方向が駆動回路100と異なる以外は、駆動回路100と同じであるため、音響信号生成回路200が備える部品には駆動回路100が備える部品と同じ符号を付し、各部品の説明を省略する。なお、変圧器110の変圧比や各抵抗器の抵抗値は適宜調整される。
【0056】
静電型マイクロフォン5においては、導体である電極20と導体である振動体10は距離をおいて向かいあって配置されており、電極20と振動体10は平行平板の導体によって構成されたコンデンサとして機能している。振動体10にはバイアス電圧が印加されているため、静電型マイクロフォン5に音が到達していない状態においては、このコンデンサに一定の電荷が溜まった状態となる。
静電型マイクロフォン5に音が到達した場合、到達した音によって振動体10が振動する。振動体10が振動すると、振動体10と電極20U,20Lとの間の距離が変わるため、振動体10と電極20との間の静電容量に変化が生じる。
【0057】
例えば、振動体10が電極20U側に変位すると、電極20Uと振動体10との間の距離が短くなり、電極20Uと振動体10との間の静電容量が大きくなる。また、電極20Lと振動体10との間の距離が長くなり、電極20Lと振動体10との間の静電容量が小さくなる。このように静電容量が変化すると、電極20Uと振動体10との電位差が小さくなるように電極20Uの電位が変化し、電極20Lと振動体10との電位差が大きくなるように電極20Lの電位が変化する。ここで、電極20Uと電極20Lとの間で電位差が生じるため、変圧器110の二次側コイルには電流が流れる。
【0058】
また、振動体10が電極20L側に変位すると、電極20Lと振動体10との間の距離が短くなり、電極20Lと振動体10との間の静電容量が大きくなる。また、電極20Uと振動体10との間の距離が長くなり、電極20Uと振動体10との間の静電容量が小さくなる。すると、電極20Lと振動体10との電位差が小さくなるように電極20Lの電位が変化し、電極20Uと振動体10との電位差が大きくなるように電極20Uの電位が変化する。ここで、電極20Uと電極20Lとの間で電位差が生じ、変圧器110の二次側コイルには、振動体10が電極20Uの方向に変位したときとは逆の方向に電流が流れる。
【0059】
変圧器110の二次側コイルに電流が流れると、この電流に対応して変圧器110の一次側コイルにも電流が流れる。一次側コイルに流れた信号は、増幅部130で増幅され、増幅された信号が静電型マイクロフォン5で収音された音を表す音響信号として増幅部130から出力される。つまり、静電型スピーカ1において放音部2となっていた部分は、音を収音する収音部として機能する。
【0060】
なお、本変形例においては、変圧器110のインピーダンスが低い場合には、静電型マイクロフォン5の負荷容量の影響により、低い周波数における周波数特性が低下する場合がある。この場合、変圧器110に替えてインピーダンスの高いアンプを電極20U,20Lに接続し、周波数特性の低下を抑えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1、1A,1B…静電型スピーカ、2…放音部、5…静電型マイクロフォン、10…振動体、20,20U,20L…電極、30,30U,30L…弾性部材、40A,40B…スペーサ、51A〜51C…ケーブル、60…カバー、61U,61L…カバー、70…チューブ、71A〜71C…凸部、100…駆動回路、110…変圧器、120…バイアス電源、130…増幅回路、140,141…コネクター、200…音響信号生成回路、610…シート部、611,611A,611B,611C…壁、R1…抵抗器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスバリア性を有する袋状のカバーと、
前記カバー内に位置する振動体と、
前記カバー内において前記振動体を挟んで対向する一対の電極と、
前記カバー内において前記振動体と前記一対の電極との間に位置し、弾性を有し音が透過する弾性部材と、
を有し、
前記振動体と前記カバーとの間には、各々厚さの異なる複数の空気層があり、前記カバー側からみて厚さの薄い空気層より内側に厚さの厚い空気層が位置すること
を特徴とする静電型電気音響変換器。
【請求項2】
ガスバリア性を有する袋状のカバーと、
前記カバー内に位置する振動体と、
前記カバー内において前記振動体と対向する電極と、
前記カバー内において前記振動体と前記電極との間に位置し、弾性を有し音が透過する弾性部材と、
を有し、
前記振動体と前記カバーとの間には、各々厚さの異なる複数の空気層があり、前記カバー側からみて厚さの薄い空気層より内側に厚さの厚い空気層が位置すること
を特徴とする静電型電気音響変換器。
【請求項3】
前記電極において前記カバーと向かい合う面には、弾性を有する第1スペーサと、弾性を有する第2スペーサが配置され、
前記第1スペーサと前記第2スペーサの前記面からの高さは、前記第2スペーサより前記第1スペーサのほうが高く、
前記第1スペーサは、前記カバー側から見て厚さの厚い第1空気層内に位置し、
前記第2スペーサは、前記カバー側から見て前記第1空気層より薄い第2空気層内に位置すること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の静電型電気音響変換器。
【請求項1】
ガスバリア性を有する袋状のカバーと、
前記カバー内に位置する振動体と、
前記カバー内において前記振動体を挟んで対向する一対の電極と、
前記カバー内において前記振動体と前記一対の電極との間に位置し、弾性を有し音が透過する弾性部材と、
を有し、
前記振動体と前記カバーとの間には、各々厚さの異なる複数の空気層があり、前記カバー側からみて厚さの薄い空気層より内側に厚さの厚い空気層が位置すること
を特徴とする静電型電気音響変換器。
【請求項2】
ガスバリア性を有する袋状のカバーと、
前記カバー内に位置する振動体と、
前記カバー内において前記振動体と対向する電極と、
前記カバー内において前記振動体と前記電極との間に位置し、弾性を有し音が透過する弾性部材と、
を有し、
前記振動体と前記カバーとの間には、各々厚さの異なる複数の空気層があり、前記カバー側からみて厚さの薄い空気層より内側に厚さの厚い空気層が位置すること
を特徴とする静電型電気音響変換器。
【請求項3】
前記電極において前記カバーと向かい合う面には、弾性を有する第1スペーサと、弾性を有する第2スペーサが配置され、
前記第1スペーサと前記第2スペーサの前記面からの高さは、前記第2スペーサより前記第1スペーサのほうが高く、
前記第1スペーサは、前記カバー側から見て厚さの厚い第1空気層内に位置し、
前記第2スペーサは、前記カバー側から見て前記第1空気層より薄い第2空気層内に位置すること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の静電型電気音響変換器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−66165(P2013−66165A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−148826(P2012−148826)
【出願日】平成24年7月2日(2012.7.2)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月2日(2012.7.2)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
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