説明

非付着性仕上げ塗り

基材上の非付着性コーティングが提供され、ここで、コーティングはオーバーコートとオーバーコートを基材に接着するプライマーとを含み、オーバーコートは、フルオロポリマー、ならびに少なくとも10マイクロメートルの平均粒度を有するセラミック粒子を有効量、好ましくはオーバーコート中のフルオロポリマーとセラミック粒子との組み合わせ質量を基準にして少なくとも3質量%含むことにより、乾燥SBAR法によって測定した場合にコーティングの耐摩耗性が増加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は改善された耐摩耗性を示す非付着性フルオロポリマー仕上げ塗りに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムなどの基材上に非付着性フルオロポリマー仕上げ塗りを形成して料理道具のような用途のために剥離表面を形成する技術は、典型的には、基材上の少なくとも2種のコーティング、すなわち、基材に接着させるためのプライマーと典型的に呼ばれるアンダーコート、ならびに非付着性コーティング(仕上げ塗り)を提供するオーバーコートの使用を含んでいる。フルオロポリマーの非付着性のゆえに、プライマーは、1種以上の接着促進剤を含有するように配合される。コロイドシリカおよび熱的に安定なポリマー結合剤(一般にフッ素を含まない)は、タンネンバウム(Tannenbaum)による米国特許第5,562,991号明細書で開示されたように接着促進剤の例である。接着促進剤は、プライマーの実質的な部分、フルオロポリマー+接着促進剤の組み合わせ質量を基準にして典型的には少なくとも40質量%を構成する。オーバーコートの表面は全くというわけではないとしてもフルオロポリマーに富んでいる。プライマーおよびオーバーコートの両方の中のフルオロポリマーの存在は、これらのコーティングの間の付着力(コート間付着力)を増進する。
【0003】
非付着性仕上げ塗りの耐摩耗性を高めるためにプライマー層に無機非金属粒子の比較的大きな粒子を導入することは知られるようになった。ビグナミ(Bignami)によるEP第0724915号明細書には、6.5のモース硬度(820のヌープ硬度に対応する)を有するSiO鉱物であるクリストバライトのプライマー層中での使用が開示されている。トーマス(Thomas)らによる米国特許第6,291,054号およびタンネンバウム(Tannenbaum)による米国特許第6,761,964号明細書には、好ましくは少なくとも1200のヌープ硬度を有するより硬い大きなセラミック粒子のプライマー層中での使用が開示されている。’054特許の実施例1において、単一コートが非常に厚く(19.5〜59.7マイクロメートル)、そしてポリマー結合剤の量がフルオロポリマーの量を上回る単一コート系が開示されている。シャー(shah)らによる米国特許第6,863,974号明細書では、フルオロポリマーがプライマー層中に存在せず、少なくとも10マイクロメートルの平均粒度および少なくとも5のモース硬度を有する不活性無機粒子(セラミック粒子)に加えて耐熱性接着促進剤(ポリマー結合剤)のみがプライマー層中に存在する。トップコートへのコート間付着力は、フルオロポリマー含有トップコート組成物中に接着促進剤を含めることにより得られる。
【0004】
少なくとも’054特許および’942特許は商業ベースで耐摩耗性の改善を提供した一方で、耐摩耗性の更なる改善が必要とされている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は耐摩耗性の更なる改善を示す基材上の非付着性仕上げ塗りを提供する。従って、本発明の1つの実施形態は、非付着性コーティングを上に有する基材であって、オーバーコートと前記オーバーコートを前記基材に接着するプライマーとを含み、前記オーバーコートがフルオロポリマーと、乾燥SBAR法によって測定した場合に前記コーティングの耐摩耗性を増加させる少なくとも約10マイクロメートルの平均粒度を有する有効量のセラミック粒子とを含む、基材である。
【0006】
好ましくは、少なくとも約10マイクロメートルの平均粒度を有するセラミック粒子の有効量は、乾燥SBAR法によって測定した場合に前記基材上のコーティングの耐摩耗性を少なくとも10%改善する量である。
【0007】
オーバーコートはプライマーではない。すなわち、非付着性仕上げ塗りを形成するためにオーバーコートを被着させる表面は、非付着性仕上げ塗りを受ける裸基材ではない。そうではなく、基材は基材への付着力のためのプライマー層を有し、プライマー層は、フルオロポリマー/セラミック粒子含有オーバーコートが上に形成される表面を形成する。オーバーコートの組成物が接着促進剤を含有しないので、またはオーバーコートの組成物が接着促進剤を含有する場合は、接着促進剤が基材に商業的に有用な付着力を提供しないような少量で存在するので、オーバーコートはプライマー層として機能することができない。典型的には、プライマー層中のフルオロポリマーの存在が、非付着性フルオロポリマー層へのコート間付着力のために必要であるすべてである。しかし、米国特許第6,863,974号明細書のようにプライマー層がフルオロポリマーを含有しない時、プライマー層とオーバーコート層との間のコート間付着力を増進するために、少量の接着促進剤がオーバーコート中に存在することが可能である。
【0008】
従って、本発明は、プライマー層被覆基材に被着させた上述したオーバーコート層の組み合わせである。オーバーコート層は、基材上の非付着性仕上げ塗りの露出面として機能することが可能であるか、またはトップコートが上に形成されるミッドコートとして機能することが可能である。トップコートは、全体的な仕上げ塗りに最善の非付着性を提供するためにミッドコートより高いフルオロポリマー濃度を有する。オーバーコートが非付着性コーティングの露出面を形成する(上塗り基材上の)単一層であろうと、フルオロポリマーおよび少なくとも10マイクロメートルの平均粒度を有するセラミック粒子を含有するミッドコート層であろうと、こうした層がフルオロポリマーとセラミック粒子の組み合わせ質量を基準にして少なくとも3質量%のセラミック粒子を含有することが好ましい。こうした層とプライマー層との間のコート間付着力を増進するために接着促進剤がこうした層中に存在する場合、接着促進剤の量は、オーバーコート層中のフルオロポリマーの質量の10質量%以下であるべきである。本明細書において用いられるオーバーコートという表現は、非付着性仕上げ塗りの露出面を形成する単一層としてのオーバーコートおよびミッドコート層とトップコート層の複合材におけるミッドコートの両方を意味する。
【0009】
驚くべきことに、オーバーコート中のセラミック粒子の存在は、実施例で実証されるように耐摩耗性の更なる改善を提供する。従って、本発明の非付着性仕上げ塗り(コーティング)は、驚くべきほどに改善された耐摩耗性を提供する。例えば、オーバーコート中のセラミック粒子の少量は、(a)プライマーが同じセラミック粒子の遙かにより多い量を含有する時、および(b)オーバーコートがセラミック粒子を全く含有しない時より高い耐摩耗性を示す。驚くべきことに、セラミック粒子をオーバーコートに入れるのは、プライマー層中でのセラミック粒子の単なる使用に比べて耐摩耗性を改善する。
【0010】
本発明の1つの態様において、オーバーコート層は約0.5〜1ミル(12.7〜25.4マイクロメートル)の厚さを有する。もう1つの態様において、オーバーコートは、前記セラミック粒子の副寸法より大きい厚さを有する。なおもう1つの態様において、オーバーコートの厚さはセラミック粒子の主寸法より小さい。前述した態様から、セラミック粒子が主寸法(長さまたは主軸)および副寸法(高さまたは副軸)を有する(拡大下で見て)外観において砂利またはタブレットに似て形状において典型的には不規則であることが明らかである。上塗り基材への液媒体からのオーバーコート組成物の塗布、引き続く乾燥しだい、粒子は、得られたオーバーコートの厚さ内に埋め込まれる傾向があり、よって粒子の副寸法のみが被覆される基材から垂直に伸びる傾向がある。これは、良好な非付着性露出面を与える傾向があり、それは、コーティングの非付着性を助長する。このミッドコート層を本質的にすべてがフルオロポリマーのトップコートにより上塗りして、剥離特性のなお更なる改善を提供することが可能である。
【0011】
本発明のもう1つの実施形態は、上述したオーバーコート(ミッドコート)組成物である。この組成物は、表面、特にプライマー層上に非付着性耐摩耗性コーティングを提供するために塗布可能であり、前記組成物は、フルオロポリマーと、乾燥SBAR法によって測定した場合に好ましくは少なくとも10%だけ前記表面上の前記コーティングの耐摩耗性を改善する少なくとも約10マイクロメートルの平均粒度を有する有効量のセラミック粒子とを含む。前記組成物は、任意選択的に、前記フルオロポリマーの質量の約10質量%以下の量で接着促進剤を含有する。好ましくは、オーバーコート中の前記フルオロポリマーの量は、前記コーティングを形成するために前記表面に前記組成物を塗布すると、前記セラミック粒子が分散されている連続フィルムが提供されるのに有効な量であり、前記組成物中に存在する前記セラミック粒子は前記フルオロポリマーと前記セラミック粒子との組み合わせ質量を基準にして少なくとも約3質量%を構成する。本発明のオーバーコート組成物は、好ましくは、追加の成分として約5マイクロメートル未満の平均粒度を有する無機フィルム硬化剤の粒子も含有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
発明の詳細な説明
本発明において用いられるオーバーコートの主たる成分は、非付着性成分としてのフルオロポリマーおよび耐摩耗性成分としての少なくとも10マイクロメートルの平均粒度を有するセラミック粒子である。これらの成分は、非付着性コーティングが付与されている基材への付着力を得るのに十分な接着促進剤に加えてプライマー層中にも存在してもよい。
【0013】
フルオロポリマーに関して、以下の説明は、プライマー、オーバーコートおよびトップコート中に存在するフルオロポリマーに当てはまる。フルオロポリマーはフルオロカーボン樹脂である。フルオロポリマーは、少なくとも1×10Pa・sの溶融クリープ粘度を有する非溶融−二次加工性フルオロポリマーであることが可能である。1つの実施形態は、フルオロポリマーの間で最高熱安定性であるとともに380℃で少なくとも1×10Pa・sの溶融クリープ粘度を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。こうした非溶融−二次加工性PTFEは、パーフルオロオレフィン、特にヘキサフルオロプロピレン(HFP)または特にアルキル基が1〜5個の炭素原子を含むパーフルオロ(アルキルビニル)エーテルなどの、ベーキング(ヒュージング)中に膜形成能力を改善する少量のコモノマー変性剤も含有することが可能であり、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)は好ましい。こうした変性剤の量はPTFEに溶融二次加工性を与えるのに不十分な量であり、一般には0.5モル%以下である。PTFEは、単純化のために通常は少なくとも1×10Pa・sの単一溶融クリープ粘度を有することも可能であるが、異なる溶融粘度を有するPTFEの混合物を用いて、非付着性成分を形成することが可能である。
【0014】
フルオロポリマーは、PTFEまたはPTFE代替物と組み合わされた(ブレンドされた)溶融二次加工性フルオロポリマーであることも可能である。こうした溶融二次加工性フルオロポリマーの例には、TFEホモポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の融点より実質的に下に、例えば、315℃以下の溶融温度にコポリマーの融点を下げるのに十分な量でポリマー中に存在する少なくとも1種のフッ素化共重合性モノマー(コモノマー)とTFEのコポリマーが挙げられる。TFEとの好ましいコモノマーには、3〜6個の炭素原子を有するパーフルオロオレフィンおよびアルキル基が1〜5個の炭素原子、特に1〜3個の炭素原子を含むパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)などの過フッ素化モノマーが挙げられる。特に好ましいコモノマーには、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)およびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)が挙げられる。好ましいTFEコポリマーには、FEP(TFE/HFPコポリマー)、PFA(TFE/PAVEコポリマー)、TFE/HFP/PAVE(ここで、PAVEはPEVEおよび/またはPPVEおよびMFAである)、TFE/PMVE/PAVE(ここで、PAVEのアルキル基は少なくとも2個の炭素原子を有する)が挙げられる。溶融二次加工性テトラフルオロエチレンコポリマーの分子量は、膜形成性であるために十分であるとともにアンダーコート塗布において一体性を有するように成形形状を持続することができることを除き重要ではない。典型的には、溶融粘度は、ASTMD−1238に準拠して372℃で測定した場合、少なくとも1×10Pa・sであり、約60〜100×10Pa・sに至る範囲であってもよい。
【0015】
好ましい組成物は、例えば1×10〜1×1011Pa・sの範囲内の溶融クリープ粘度を有する非溶融−二次加工性フルオロポリマーと例えば1×10〜1×10Pa・sの範囲内の粘度を有する溶融二次加工性フルオロポリマーのブレンドである。
【0016】
フルオロポリマーが隣接層中に存在する時、ベーキングするとコート間付着力を達成するために互いに十分に適合するように、フルオロポリマーは、プライマー層およびオーバーコート層の中で、ならびにミッドコート層およびトップコート層の中で選択される。
【0017】
フルオロポリマー成分は水中のポリマーの分散液として一般に市販され、それは、塗布の容易さおよび環境許容性のために本発明において用いられるプライマー組成物、オーバーコート組成物、ミッドコート組成物およびトップコート組成物に関して好ましい形態である。「分散液」は、分散液を用いる時間内に粒子の沈降が起きないようにフルオロポリマー樹脂粒子が粒度においてコロイドであり、水性媒体中で安定に分散されていることを意味する。これは、典型的にはほぼ0.5マイクロメートル未満のフルオロポリマー粒子の小粒度および分散液製造業者による水性分散液中での界面活性剤の使用によって達成される。こうした分散液は、水性分散重合として知られているプロセス、任意選択的に引き続く濃縮および/または界面活性剤の更なる添加によって直接得ることが可能である。
【0018】
上述した層のいずれかを形成するために用いられるべきフルオロポリマーのもう1つの液形態は、有機液中のフルオロポリマーの分散液である。これは、フルオロポリマーが、溶融流動性を有する低分子量PTFEであるPTFE微粉である時に特に有用である。PTFE微粉は、水性分散液形態でも用いることが可能である。上述したフルオロポリマーの水性分散液は混和性有機液を含むことが可能である。
【0019】
セラミック粒子成分に関して、粒子を作るセラミックは、組成物の他の成分に対して不活性であるとともにフルオロポリマーを融解させる最終ベーキング温度で熱的に安定である1種以上の無機非金属充填剤タイプ材料である。フルオロポリマーを中で分散させている水性媒体または有機媒体にセラミック粒子が典型的には均一に分散するが、溶解しないようにセラミック粒子は水不溶性および/または溶媒不溶性である。セラミック粒子は、好ましくは約50ナノメートル以下の平均粒度を有する。セラミック粒子のために好ましい平均粒度は約14〜36マイクロメートルであり、最も好ましくは約20〜30マイクロメートルである。本明細書で開示された少なくとも約10マイクロメートルの平均粒度を有するセラミック粒子は、大きいセラミック粒子と表現することが可能である。
【0020】
セラミック粒子は、好ましくは少なくとも1200、より好ましくは少なくとも1500のヌープ硬度を有する。ヌープ硬度は、凹みまたは引掻きに対する材料の抵抗を表現するための尺度である。大きなセラミック粒子は、コーティング表面に加えられた研磨力をそらせることにより本発明において用いられる非付着性コーティングに耐久性のある耐摩耗性を与える。
【0021】
大きなセラミック粒子は、形状の多少の不規則性を表す典型的には1.5より大きいアスペクト比を有するが、好ましくは板様でないように約5:1以下のアスペクト比を有する。アスペクト比は、米国特許第6,291,054号明細書の図1に示されたように、粒子の最長直径または最長寸法(主軸または長さ)対、粒子の最長直径に垂直に測定された副寸法(高さ)の最大距離の比を意味する。アスペクト比は、好ましい粒子形状および配向を定量化する手段である。
【0022】
無機充填剤フィルム硬化剤の例には、少なくとも1200のヌープ硬度を有する無機酸化物、炭化物、硼化物、窒化物が挙げられる。ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、硼素、アルミニウムおよびベリリウムの無機酸化物、窒化物、硼化物および炭化物は好ましい。炭化珪素および酸化アルミニウムは特に好ましい。好ましい無機組成物に関する典型的なヌープ硬度値は、ジルコニア(1200)、窒化アルミニウム(1225)、ベリリア(1300)、窒化ジルコニウム(1510)、硼化ジルコニウム(1560)、窒化チタン(1770)、炭化タンタル(1800)、炭化タングステン(1880)、アルミナ(2025)、炭化ジルコニウム(2150)、炭化チタン(2470)、炭化珪素(2500)、硼化アルミニウム(2500)、硼化チタン(2850)である。従って、セラミックが無機化合物であり、単一元素ではないことが本発明において用いられる大きなセラミック粒子を作るセラミックの前述した例から明らかである。セラミックは金属元素の酸化物、窒化物、硼化物または炭化物とも考え得る。本発明において用いられる組成物の大きなセラミック粒子成分は、単一セラミックの粒子または異なるセラミックの粒子の混合物であることが可能である。好ましい大きなセラミック粒子はSiCである。もう1つの好ましい大きなセラミック粒子はAlである。
【0023】
本発明によると、大きなセラミック粒子はオーバーコート中に存在し、好ましくはプライマー層中にも存在する。
【0024】
オーバーコート層中に存在する大きなセラミック粒子の量は、この層の耐摩耗性を高めるために有効である量、好ましくは、大きなセラミック粒子の存在しない層の耐摩耗性より少なくとも20%だけ大きい量である。より好ましくは、大きなセラミック粒子は、大きなセラミック粒子のない層と比べた時、少なくとも50%だけ、なおより好ましくは少なくとも100%だけ耐摩耗性を高める有効量で存在する。オーバーコート層中に存在するフルオロポリマーの量は、層をベーキングすると連続フィルムを提供するのに少なくとも十分(有効)な量である。ここで、フルオロポリマーは、大きなセラミック粒子が中で分散されているマトリックスを形成する。大きなセラミック粒子の含有率が、これらの成分の両方を含有するオーバーコート層中の大きなセラミック粒子およびフルオロポリマーの組み合わせ質量を基準にして少なくとも約3質量%、好ましくは層中の大きなセラミック粒子およびフルオロポリマーの組み合わせ質量を基準にして約3〜40質量%であり、よってフルオロポリマー含有率が96〜60質量%である時、耐摩耗性の大幅な改善が得られる。フルオロポリマーのこの量は、組成物から得られたコーティングをベーキングした際に望まれるフィルムを提供するのに十分である。これらの成分の両方を含有する層中のこれらの粒子とフルオロポリマーの組み合わせ質量を基準にして、より好ましくは、大きなセラミック粒子は約5〜40質量%を構成し、最も好ましくは約5〜20質量%を構成する。よって、フルオロポリマー含有率は95〜60質量%である。大きなセラミック粒子およびフルオロポリマーのこれらの比率は、上で開示された大きなセラミック粒子に関する粒度の各々に当てはまる。
【0025】
追加の成分は、本発明において用いられる非付着性コーティングのオーバーコート層中に存在してもよい。例えば、オーバーコート層は、小粒度の無機フィルム硬化剤、すなわち、5マイクロメートル未満、好ましくは約3マイクロメートル未満、より好ましくは約1マイクロメートル未満の平均粒度を有する無機フィルム硬化剤を含有してもよい。小粒度の無機フィルム硬化剤の個性は、大粒子および小粒子が同じ粒子本性をもつ必要がないことを除き、大きなセラミック粒子に関して同じであることが可能である。無機フィルム硬化剤の小粒子の存在は、本発明において用いられる組成物から得られる非付着性コーティングの耐摩耗性を高めない傾向があるが、コーティングの硬度を高め、よって引掻きに対するコーティングの耐久性を高める。従って、本発明において用いられるオーバーコート層は、無機フィルム硬化剤の小粒子0〜約30質量%を含有することが可能である。単一層中の大きなセラミック粒子、フルオロポリマーおよび無機フィルム硬化剤の小粒子の組み合わせ質量を基準にして、好ましくは約5〜30質量%、より好ましくは約8〜20質量%のこれらの小粒子は存在する。
【0026】
本発明において用いられるオーバーコート層は、接着促進剤を含有しない。すなわち、接着促進剤を含まない。接着促進剤は、金属、ガラスまたはセラミック材料などの未被覆基材にプライマー層を接着させるためにプライマー層中に通常は存在する材料である。フルオロポリマーの非付着性のゆえに、フルオロポリマーは未被覆基材に接着せず、従って、接着促進剤の機能を果たさない。オーバーコート層中に存在するフルオロポリマーもまた、ベーキングプロセス中にフルオロポリマーを含有する隣接層にこのフルオロポリマーがこの層を接着させる、すなわち、コート間付着力を提供するにもかかわらず接着促進剤ではない。しかし、オーバーコート組成物が上に被覆される層がフルオロポリマーを含有しない時、コート間付着力を得るために、少量の接着促進剤が本発明において用いられるオーバーコート組成物中に存在することが可能である。こうした組成物から形成された層中の接着促進剤の存在が(a)こうした層の露出面の非付着性を損ない、(b)水性分散液の形態を取った組成物のスプレー塗布において困難を増加させるので、接着促進剤の量は可能なかぎり少ないのがよい。組成物中に存在する接着促進剤の量は、存在するなら、オーバーコート層中のフルオロポリマーの質量を基準にして好ましくは約8質量%以下、より好ましくは約5質量%以下である。組成物は、実質的に接着促進剤を含まないことも可能である。すなわち、2質量%未満、好ましくは1.5質量%未満、より好ましくは1質量%未満の接着促進剤を含有する。これらの質量は、組成物中のフルオロポリマーの質量に基づいている。
【0027】
接着促進剤は一般にフッ素を含有しない。典型的な接着促進剤は、コロイドシリカおよび/または典型的にはポリマー結合剤と呼ばれる熱的に安定なポリマーなどのプライマー層中で用いられる接着促進剤である。ポリマー結合剤が一般に非フッ素含有である一方で、ポリマー結合剤は、プライマーが被着されている基材だけでなく、フルオロポリマーにも接着する。本ケースにおいて、接着促進剤は、特にプライマーがポリマー結合剤を含有する一方でフルオロポリマーを含有しない時にコート間付着力を増進する。好ましいポリマー結合剤は、水、または水と、水と混和性の結合剤用有機溶媒との混合物に可溶性であるか、または可溶化されるポリマー結合剤である。この溶解性は、水性分散液形態を取ったフルオロポリマー成分と結合剤のブレンドを助ける。
【0028】
結合剤成分の例は、組成物をベーキングするとポリアミドイミド(PAI)に転化するポリアミド酸塩である。ポリアミド酸塩をベーキングすることにより得られる完全イミド化形態において、この結合剤が250℃を上回る連続使用温度を有するので、この結合剤は好ましい。ポリアミド酸塩は、30℃でN,N−ジメチルアセトアミド中の0.5質量%溶液として測定した時、少なくとも0.1の固有粘度を有するポリアミド酸として一般に入手できる。ポリアミド酸塩は、N−メチルピロリドンなどの融合助剤およびフルフリルアルコールなどの粘度減少剤に溶解し、米国特許第4,014,834号明細書(コンキャノン(Concannon))においてより詳しく記載されたように第三アミン、好ましくはトリエチルアミンと反応して、水に可溶性である塩を生成させる。その後、ポリアミド酸塩を含有する得られた反応媒体をフルオロポリマー水性分散液とブレンドすることが可能である。融合助剤および粘度減少剤が水に混和性であるので、ブレンディングは均一コーティング組成物をもたらす。ブレンディングは、フルオロポリマー水性分散液の凝集を避けるために過度な攪拌を用いずに液体を一緒に単純混合することにより達成することが可能である。本発明と合わせて用いるために適する他の結合剤の例には、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアリーレン−エーテルケトン、ポリエーテルイミドおよびポリフェニレンオキシド(PPO)として一般に知られているポリ(1,4(2,6−ジメチルフェニル)オキシド)が挙げられる。これらの樹脂のすべては、少なくとも140℃の温度で熱的に安定である。ポリエーテルスルホンは、190℃以下の持続使用温度(熱安定性)および220℃のガラス転移温度を有する非晶質ポリマーである。ポリアミドイミドは、少なくとも250℃の温度で熱的に安定であり、少なくとも290℃の温度で溶融する。ポリフェニレンスルフィドは285℃で溶融する。ポリアリーレン−エーテルケトンは、少なくとも250℃の温度で熱的に安定であり、少なくとも300℃の温度で溶融する。
【0029】
単純化するために、唯一のポリマー結合剤を用いて、存在するなら、オーバーコート層の接着促進剤成分を形成してもよい。しかし、多ポリマー結合剤も本発明において用いるために考慮されている。これは、プライマー層中のポリマー結合剤の使用に関して特に当てはまる。好ましいポリマー結合剤は、PAI、PESおよびPPSからなる群から選択された少なくとも1種のポリマーである。この選択は、接着促進剤がオーバーコート中に存在する場合、プライマーおよびオーバーコート中で用いられるポリマー結合剤に当てはまる。
【0030】
本発明の非付着性コーティングは、非付着性コーティングを構成する1層以上の層の中に1200未満のヌープ硬度値を有する他の充填剤材料を含有してもよい。適する追加の充填剤には、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラス繊維、珪酸アルミニウムまたは珪酸ジルコニウム、マイカ、金属フレーク、金属繊維、微細セラミック粉、二酸化珪素、硫酸バリウム、タルクなどが挙げられ、それらをプライマー層、オーバーコート層および/またはトップコート層の中で用いてもよい。非付着性コーティングは顔料も含有してよく、その量は、所望の色および用いられる特定の顔料に応じて異なる。顔料は、本発明において用いられるプライマー層、オーバーコート層およびトップコート層(組成物)のいずれかの中に存在することが可能である。
【0031】
本発明の非付着性コーティングの層の各々は、好ましくは液媒体の形態を取った、より好ましくは、媒体の液が水を含み、基材に被着させる組成物が水性分散液である従来の手段によって基材に逐次被着させることが可能である。プライマーは、上述したような接着促進剤および必須成分としてフルオロポリマーを典型的に含有している先行技術で開示されたプライマーのいずれであることも可能である。特に柔軟性、硬さまたは腐食防止などの特定の末端用途特性が必要とされる時、多ポリマー結合剤をプライマー中で用いることが可能である。一般的な組み合わせには、PAI/PES、PAI/PPSおよびPES/PPSが挙げられる。プライマー中の接着促進剤は異なる接着促進剤、例えば、コロイドシリカとポリマー結合剤の組み合わせも含んでよい。
【0032】
プライマーは接着促進剤を含有し、オーバーコート中でおそらく用いられる上述した接着促進剤をプライマー中で用いることが可能である。プライマー中で用いられる好ましい接着促進剤は、PAI、PESおよびPPSの少なくとも1種を含む。しかし、プライマーは大きなセラミック粒子を含有してもよく、または含有しなくてもよく、そしてフルオロポリマーを排除してもよい。大きなセラミック粒子(少なくとも10マイクロメートルの平均粒度)をプライマー層中で用いる時、大きなセラミック粒子は、非付着性コーティングの耐摩耗性(乾燥SBAR)を高めるために有効な量で存在する。ここで、オーバーコートも大きなセラミック粒子を含有する。典型的には、これは、プライマー層の全質量(乾燥固体基準)を基準にしてプライマー層中の大きなセラミック粒子少なくとも3質量%の存在を必要とする。プライマー層は、プライマー層の質量(乾燥固体基準)を基準にして大きなセラミック粒子60質量%以下も含有してよい。プライマー層は、上述した5マイクロメートル未満の平均粒度を有する無機フィルム硬化剤も含有してよい。プライマー層中のフルオロポリマーの使用は好ましいが、本発明の実施のために必須ではない。従って、プライマーは、実質的にフルオロポリマーを含まないことが可能である。すなわち、プライマー層組成物中の固体の質量を基準にして10質量%未満のフルオロポリマー、好ましくは5質量%未満のフルオロポリマーを含有する。本明細書における固体質量に関しては、ベーキング後の質量を指す。
【0033】
一般に、フルオロポリマーは、プライマー層中に存在する時にプライマー層の10〜45質量%を構成し、ミッドコート層の少なくとも70質量%を構成し、オーバーコート層の少なくとも90質量%を構成する。これらの質量%のすべては固体に基づいている。
【0034】
各層を形成するスプレー塗布およびロール塗布は、プライマーで被覆されている基材に応じて最も便利な塗布方法である。浸漬およびコイル被覆を含む周知された他の被覆方法は適する。オーバーコートは、プライマー層の乾燥の前にプライマー層上に従来の方法によって被着させることが可能である。しかし、プライマー組成物およびオーバーコート組成物が水性分散液である時、好ましくは触ってみると乾いていた後にオーバーコート組成物をプライマー層に被着させることが可能である。同じことは、後で非付着性仕上げ塗りのミッドコート層になるオーバーコートにトップコート層を塗布する場合に当てはまる。トップコート組成物は、公表されたトップコートフルオロポリマー組成物のいずれであることも可能である。有機溶媒からプライマー組成物を被着させることによりプライマー層を作製し、オーバーコート層を水性媒体から被着させる時、オーバーコートの塗布前にすべての水不適合溶媒を除去するようにプライマー層を乾燥させるべきである。基材へのプライマーの付着特性およびコート間付着力は、基材上に非付着性仕上げ塗りを形成するためにプライマー(存在必須)およびトップコート(任意選択的に存在)の乾燥およびベーキングと合わせてオーバーコート層を乾燥させベーキングすると発現する。
【0035】
得られた複合層状構造をベーキングして、同時にすべてのコーティングを融解させて、基材上に非付着性仕上げ塗りを形成することが可能である。フルオロポリマーがPTFEである時、迅速で高いべーク温度が好ましい。例えば、800°F(427℃)で出発し、815°F(435℃)に上がる温度で5分間。プライマーまたはオーバーコート中のフルオロポリマーがPTFEとFEP、例えば、50〜70質量%PTFEおよび50〜30質量%FEPのブレンドである時、3分(全ベーク時間)で800°F(427℃)に上がる780°F(415℃)にベーク温度を下げてもよい。
【0036】
得られた被覆基材は、好ましくは厚さ0.6ミル(16マイクロメートル)以下、より好ましくは厚さ0.3〜0.5ミル(8〜13マイクロメートル)であるプライマー層を有する。好ましくは、ミッドコート層はプライマー層より厚く、より好ましくは少なくとも50%より厚い。ベーキング後のミッドコート層の厚さは、0.5〜1.0ミル(12.5〜15マイクロメートル)の厚さであることが可能である。ベーキング後、ミッドコート(層)は、好ましくは、ミッドコート中に存在するセラミック粒子の副寸法より厚い厚さおよびこれらの粒子の主寸法より薄い厚さを有する。好ましくは、ミッドコート層は厚さ0.6〜0.9ミル(15〜23マイクロメートル)であり、トップコート層は厚さ0.2〜0.5ミル(5〜12マイクロメートル)である。大きなセラミック粒子を含有する層の厚さは、ベーキング後に渦電流原理(ASTM B244)によって測定される。渦電流値は、大きい粒子の高さおよび粒子間の谷の深さを含む基材を横切る値の平均を表す。この方法は、非付着性コーティングの形成における基材上へのコーティングの層の構築に適用される「試験方法」下で更に説明される。被覆基材、例えば、フライパンを細片に切り、走査電子顕微鏡(SEM)から得られた顕微鏡写真から厚さを測定することにより、プライマー層厚さはベーキングされた非付着性コーティング上で測定することも可能である。SEMを用いることにより、大きな粒子の高さと粒子間の谷の深さとの間の識別を行うことが可能である。粒子間の谷におけるプライマー厚さを報告するSEM値は、報告された渦電流値の約50%である。
【0037】
本発明において用いられる基材は金属またはセラミックであることが可能であり、それらの例には、アルミニウム、陽極処理アルミニウム、冷間圧延鋼、ステンレススチール、エナメル、ガラスおよびパイロセラムが挙げられる。これらの材料は基材全体を形成してもよいか、または複合材料の場合、基材の表面だけを形成してもよい。基材は平滑であることが可能である。すなわち、イタリア国ミランのアルパ(Alpa Co.(Milan,Italy))によって製造されたモデルRT−60表面テスターによって測定した時に50マイクロインチ(1.25マイクロメートル)未満の表面状態を有する。パイロセラムおよびある種ガラスに関しては、裸眼に見えない(すなわち、表面はなお平滑である)若干の化学エッチングによるなどの基材表面の活性化によって改善された結果が得られる。基材は、タンネンバウム(Tannenbaum)による米国特許第5,079,073号明細書で開示されたようにポリアミド酸塩の化粧塗のように接着剤により化学処理することも可能である。
【0038】
本発明の非付着性仕上げ塗りを有する製品には、料理道具、耐熱皿、炊飯器および炊飯器用の差し込み、水ポット、鉄基礎板、コンベア、シュート、ロール表面、刃などが挙げられる。
【0039】
試験方法
乾燥SBAR試験
SBAR試験を用いて非付着性コーティングの耐摩耗性に関して非付着性被覆基材を評価する。この試験は、往復水平運動により垂直アーム上に取り付けられた研磨パッドにコーティング系を供するBS7069:1988料理道具のための英国標準仕様書に基づいている。装置は、±10m/分の平均速度でシリンダー中心から100mm±5mm(4インチ±0.25インチ)のアーム往復水平運動を行う。研磨パッド(スリーエム(3M)「スコッチブライト(Scotch−Brite)」7447)は、フェノール樹脂で含浸されたランダムナイロンウェブであり、酸化アルミニウムはシリンダーに固定され、コーティング上に±15Nの合計力(アームの質量+自重=4.5kgまたは10ポンド)を加えるために装填されている。規定されたように乾燥およびベーキングにより実施例において説明された通り基材を被覆することにより試験サンプルを調製する。
【0040】
被覆された基材を洗浄せずに調製されたまま試験する。被覆された基材を固定支持体上に固定し、装填された研磨パッドを非付着性表面上に当てる。試験片を静止させておき、シリンダー中心点の両側に50mm±2.5mm(2インチ±0.1インチ)の距離にわたって研磨パッドアームを前後に動かす。
【0041】
研磨パッドを250サイクル後に裏返し、もう250サイクル後に更新した。金属が見えるまでこの手順を続け、その後、コーティング除去のためのサイクル数を報告する。コーティング除去は試験の最終点である。
【0042】
剥離試験
非付着性被覆パンを374°F(190℃)〜392°F(200℃)の範囲に加熱し、試験全体を通して基材表面上で接触高温計によって測定した時にこの温度範囲内で維持する。乾燥させていなかったパン内で卵を揚げる。試験を行うために、卵をパン上で割り、3分にわたり調理する。卵をスパチュラで持ち上げ、パンを傾けて卵がすべるのを可能にする。卵がすべる容易さを評価する。パンをバーナーに戻し、卵をひっくりかえす。卵の黄身をスパチュラで壊し、卵をもう2分にわたり調理する。卵をスパチュラで再び持ち上げ、スパチュラが非付着性コーティングから卵を除去する容易さがコーティングに関する剥離評点である。非付着性コーティング上で行われたSBAR試験の各7500サイクル後にこの剥離試験を繰り返す。比較コーティングを含む以下の実施例の非付着性コーティングのすべてに関して、基材の金属が最初に見えるようになる時間に至るまでSBAR試験におけるコーティングの寿命を通してスパチュラによって非付着性表面から卵を容易に除去した。この観察の例外は、剥離が45000サイクルで低下し始めた表8の実施例12の非付着性コーティングである。
【0043】
乾燥フィルム厚さ(DFT)
フィルム厚さ計器、例えば、渦電流原理(ASTM B244)に基づく「フィッシャースコープ(Fisherscope)」により、ベーキングされたコーティングの厚さを測定する。コーティング中の大きい粒子の存在のゆえに、厚さの決定は、パンに入れられたクーポン上で行う。クーポンを調製するために、1つのクーポンを金属パンに取り付け、コーティングのあらゆる塗布の前に2つの隣接点にテープを貼る。プライマーを実施例における規定通り被着させ、1つのテープを除去して、第2のクーポンを上に置く裸金属を露出させた。その後、ミッドコートを被着させ、第2のテープを除去して、第3のクーポンを上に被着させる裸金属を露出させた。第1のクーポンの測定は3つのすべてのコーティング−プライマー、ミッドコートおよびトップコートの合計厚さを提供する。第2のクーポンの測定はミッドコートおよびトップコートの厚さを提供する。第3のクーポンの測定はトップコートの厚さを提供する。プライマーの厚さおよびミッドコートの厚さに関する個々の値を減算により計算する。第1のクーポンから第2のクーポンの厚さの値を減算することによりプライマーの厚さを決定する。第2のクーポンから第3のクーポンの厚さの値を減算することによりミッドコートの厚さを決定する。
【0044】
フルオロポリマー
PTFE分散液:59〜61質量%の固体含有率および170〜210ナノメートルのRDPSを有するデュポン(DuPont)TFEフルオロポリマー分散液。PTFEフルオロポリマー分散液グレード30は、デラウェア州ウィルミントンのデュポン・カンパニー(DuPont Company(Wilmington,DE))から入手できる。
FEP分散液:54.5〜56.5質量%の固体含有率および150〜210ナノメートルのRDPSを有するTFE/HFPフルオロポリマー分散液。樹脂は、9.3〜12.4質量%のHFP含有率および米国特許第4,380,618号明細書に記載されたように修正されたASTM D−1238の方法によって372℃で測定された11.8〜21.3g/10分のメルトフローレートを有する。
PFA分散液:58〜62質量%の固体含有率および185〜245ナノメートルのRDPSを有するデュポン(DuPont)PFAフルオロポリマー分散液。樹脂は、2.9〜3.6質量%のPPVE含有率および米国特許第4,380,618号明細書に記載されたように修正されたASTM D−1238の方法によって372℃で測定された1.3〜2.7g/10分のメルトフローレートを有する。PFAフルオロポリマー分散液グレード335は、デラウェア州ウィルミントンのデュポン・カンパニー(DuPont Company(Wilmington,DE))から入手できる。
【0045】
ポリマー結合剤
PAIは、「トーロン(Torlon)」(登録商標)AI−10ポリ(アミドイミド)(ソルベイ・アドバンスド・ポリマーズ(Solvay Advanced Polymers)である。残留NMP6〜8%を含有する固体樹脂(ポリアミド酸塩に戻され得る)。
【0046】
ポリアミド酸塩は、30℃でN,N−ジメチルアセトアミド中の0.5質量%溶液として測定した時に少なくとも0.1の固有粘度を有するポリアミド酸として一般に入手できる。ポリアミド酸塩は、N−メチルピロリドンなどの融合助剤およびフルフリルアルコールなどの粘度減少剤に溶解し、米国特許第4,014,834号明細書(コンキャノン(Concannon))においてより詳しく記載されたように第三アミン、好ましくはトリエチルアミンと反応して、水に可溶性である塩を生成させる。
【0047】
炭化珪素
炭化珪素は、ドイツ国ミュンヘンのエレクトロシュメルツベルク・ケンプテン(Elektroschmelzwerk Kempten GmbH(Munich,Germany))(ESK)によって供給され、用いられる。
P1200=15.3±1マイクロメートル平均粒度
P600=25.8±1マイクロメートル平均粒度
P400=35.0±1.5マイクロメートル平均粒度
P320=46.2±1.5マイクロメートル平均粒度
F1000−D=5〜7マイクロメートル平均粒度
平均粒度は、供給業者によって提供された情報によるそれぞれISO8486、FEPA−標準−43−GB 1984R 1993を用いる沈降分離によって測定される。
【0048】
酸化アルミニウム
酸化アルミニウム(小粒子)は、アルミナム・コーポレーション・オブ・アメリカ(Aluminum Corporation of America)によって供給される。平均粒度0.35〜0.50マイクロメートルを有するグレードSG A−16。
【実施例】
【0049】
油脂を除去するために洗浄することによってのみ処理されたが、機械的に粗化されなかった平滑アルミニウムの試験パン上に本発明の3コート非付着系代表物を噴霧する。プライマー、ミッドコートおよびトップコートの水性分散液組成物をそれぞれ表1、2、3および4に記載している。
【0050】
【表1】

【0051】
プライマーAはフルオロポリマーとSiCの両方を有する。プライマーBはフルオロポリマーを有するが、SiCはない。プライマーCはSiCを有するが、フルオロポリマーはない。
【0052】
【表2】

【0053】
ミッドコートAはSiCを含有しない。ミッドコートBはSiCを含有する。
【0054】
【表3】

【0055】
ミッドコートC、D、E、FおよびJは、およそ同じ量の炭化珪素を含有するが、平均粒度が異なる。ミッドコートG、HおよびIは同じ平均粒度の炭化珪素を含有するが、量が異なる。
【0056】
【表4】

【0057】
プライマーをアルミニウム基材上に噴霧し、150°F(66℃)で10分にわたり乾燥させる。その後、ミッドコートを乾燥プライマー上に噴霧する。トップコートをミッドコートにウェットオンウェットで被着(噴霧する)させる。コーティングを300°F(149℃)で10分にわたり強制乾燥させ、その後、800°F(427℃)で5分にわたり硬化させる。上述した渦電流分析を用いてクーポンによってプライマー/ミッドコート/トップコートに関する乾燥コーティングフィルム厚さ(DFT)を決定する。一般に、厚さは、プライマー0.31〜0.55ミル(7.8〜13.8マイクロメートル)/ミッドコート0.62〜0.82ミル(15.5〜20.5マイクロメートル)/トップコート0.2〜0.48ミル(5〜12マイクロメートル)である。
【0058】
以下の表で提示された実施例は、コーティング系のミッドコート中のSiC粒子の量および粒度を変えて3コート系の耐摩耗性を示している。非付着性被覆試験パンを乾燥SBAR試験に供して耐摩耗性を評価する。
【0059】
ミッドコート中のSiC粒子−%装填量
ミッドコート中にSiC粒子を有する3コート系の摩耗試験結果を表5において示している。%質量を変えつつSiC粒度を25.8マイクロメートルで維持する。乾燥SBAR結果の大幅な改善は、SiCがSiC粒子のより高い装填量により増加する場合、少量でさえも見られる。用いられたプライマー中にSiC粒子は存在しない(プライマーB)。
【0060】
【表5】

【0061】
ミッドコート中のSiC粒子−粒度効果
ミッドコート中にSiC粒子を有する3コート系の摩耗試験結果を表6および7において示している。ミッドコート中のSiC粒度を乾燥フィルム中で約12質量%の装填量比率で5〜7マイクロメートル〜46マイクロメートルの範囲内で変える。表6において、サンプルはプライマー中にもSiC粒子を有し、粒子は25.8マイクロメートルの粒度を有する。表7において、サンプルはプライマー中にSiC粒子がない。結果は、ミッドコート中で14マイクロメートルより大きい粒子を有するすべてのサンプルの増加した乾燥SBAR結果を示しており、驚くべき優れた結果は、ミッドコート中で20〜30マイクロメートルの範囲内のSiC粒子を含有するサンプルについてである。プライマーが19.30質量%のSiCを含有する比較例2とプライマー中にSiC粒子が存在せず、ミッドコート中に3.98質量%のみのSiCが存在する表5の実施例1との比較は、プライマー中よりもミッドコート中の大きいSiC粒子の存在の遙かに大幅な有効性を示している。実施例1のコーティングは、比較例2のプライマー中で用いられたSiCの量の25%未満を有する比較例2の耐摩耗性と比べてSBAR耐摩耗性の40%を上回る改善を示している。
【0062】
【表6】

【0063】
%改善の計算=((29.0−18.4)÷18.4)×100
【0064】
【表7】

【0065】
プライマー中のフルオロポリマー入りの系およびフルオロポリマーなしの系の比較
両方ともミッドコートBで被覆されたプライマーA(フルオロポリマー入り)およびプライマーC(フルオロポリマーなし)による3コート系(SiCとフルオロポリマーの組み合わせ質量を基準にして13.2質量%のSiC)の摩耗試験結果を表8に示している。ミッドコート中のSiC平均粒度は25.8マイクロメートルである。
【0066】
【表8】

【0067】
本発明のもう1つの実施例において、フルオロポリマーのないプライマーを接着促進剤のないミッドコートと組み合わせて用いる。SiCがプライマー組成物の乾燥質量の25.2質量%を構成する全くP600であることを除き、プライマーはプライマーCに似ている。ミッドコートは、SiCの量が組成物の乾燥質量を基準にして11.7質量%であることを除き、ミッドコートDに似ている。ミッドコートDの場合のように、この実施例において用いられたミッドコート組成物はPAI接着促進剤をもたない。トップコートは表4と同じ組成物である。プライマー組成物、ミッドコート組成物およびトップコート組成物を上述したのと同じ方式で基材(アルミニウムフライパン)に後で被着させて、基材上に非付着性コーティングを形成する。コーティングの厚さ(乾燥)は、プライマー層に関して0.45ミル(11.3マイクロメートル)、ミッドコート層に関して0.76ミル(19マイクロメートル)およびトップコート層に関して0.37ミル(9.3マイクロメートル)である。このコーティングに関するSBAR試験の結果は、39,000サイクルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非付着性コーティングを上に有する基材であって、オーバーコートとこのオーバーコートを該基材に接着するプライマーとを含み、該オーバーコートがフルオロポリマーと、乾燥SBAR法によって測定した場合に該コーティングの耐摩耗性を増加させる少なくとも10マイクロメートルの平均粒度を有する有効量のセラミック粒子とを含む、基材。
【請求項2】
セラミック粒子の量が、オーバーコート中のセラミック粒子とフルオロポリマーとの合計質量を基準にして少なくとも3質量%である、請求項1に記載の基材。
【請求項3】
少なくとも10マイクロメートルの平均粒度を有するセラミック粒子をプライマーも含有する、請求項1に記載の基材。
【請求項4】
プライマーが接着促進剤と、場合によりフルオロポリマーとを含む、請求項1に記載の基材。
【請求項5】
フルオロポリマーを含みセラミック粒子を含まないトップコートを非付着性コーティングが含む、請求項1に記載の基材。
【請求項6】
更に無機フィルム硬化剤がプライマーとオーバーコートの少なくとも一方の中に存在し、該無機フィルム硬化剤が5マイクロメートル未満の平均粒度を有する、請求項1に記載の基材。
【請求項7】
オーバーコートの厚さがプライマーの厚さより少なくとも50%厚い、請求項1に記載の基材。
【請求項8】
プライマーが約0.6ミル(5.1〜16マイクロメートル)以下の厚さを有し、オーバーコートが0.6〜0.9ミル(15〜23マイクロメートル)の厚さを有する、請求項1に記載の基材。
【請求項9】
オーバーコートがフルオロポリマーの質量を基準にして10質量%以下の量で接着促進剤を含有する、請求項1に記載の基材。
【請求項10】
接着促進剤がポリアミドイミド、ポリエーテルスルホンおよびポリフェニレンスルフィドからなる群から選択される、請求項9に記載の基材。
【請求項11】
オーバーコートが接着促進剤を実質的に含まない、請求項1に記載の基材。
【請求項12】
表面上に非付着性耐摩耗性コーティングを提供するために塗布することが可能な組成物であって、該組成物がフルオロポリマーと、乾燥SBAR法によって測定した場合に該表面上の該コーティングの耐摩耗性を少なくとも10%改善する少なくとも10マイクロメートルの平均粒度を有する有効量のセラミック粒子とを含み、該組成物が該フルオロポリマーの質量の10質量%以下の量で接着促進剤を場合により含有する、組成物。
【請求項13】
フルオロポリマーの量が、コーティングを形成するために表面に組成物を塗布すると、セラミック粒子が分散されている連続フィルムを提供するのに有効な量であり、該組成物中に存在する該セラミック粒子が該フルオロポリマーと該セラミック粒子との合計質量の少なくとも3質量%を構成する、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
5マイクロメートル未満の平均粒度を有する無機フィルム硬化剤の粒子を更に含有する、請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
セラミック粒子が少なくとも1200のヌープ硬度を有する、請求項12に記載の組成物。
【請求項16】
接着促進剤がポリアミドイミド、ポリエーテルスルホンおよびポリフェニレンスルフィドからなる群から選択された少なくとも1つのポリマーである、請求項12に記載の組成物。

【公表番号】特表2009−532247(P2009−532247A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−504296(P2009−504296)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【国際出願番号】PCT/US2007/008482
【国際公開番号】WO2007/114941
【国際公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】