説明

非侵襲性組織特性顕示システムと方法

本発明のシステムおよび方法の一つの実施態様は、非侵襲性走査によって血管対象から収集された超音波信号データを分析して血管対象内の組織を識別することに向けられている。超音波信号データから組織のタイプを識別および特性顕示することによって、侵襲性の手順なしに患者の健康状態に関する評価を出すことができる。本発明のシステムのその他の用途分野は、その他のタイプの組織の識別を含むことで評価されるであろう。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
超音波撮像は、最適なタイプとコースの治療を決定するために、医療行為の様々な分野において、有用なツールを提供する。超音波技術による患者の冠状血管の撮像は、価値のある情報を医師に提供することができる。例えば画像データは、患者の狭窄の範囲を示し、疾患の進行を明らかにし、血管形成術またはアテローム切除などの処置が処方されるか、あるいはもっと侵襲性の高い処置が保証されても良いかの決定を助けることもある。
【背景技術】
【0002】
典型的な超音波撮像システムにおいて、超音波トランスデューサをカテーテルの端に取り付けて、該カテーテルを血管内などの関心のある点まで患者の身体を通って慎重に操作する。データ回収の後、血管の画像は周知の技術を用いて再構築され、血管成分とプラークの内容を評価するために画像は心臓専門医によって視覚的に解析される。しかしながらこの処置は、侵襲性であり、また、患者に対する潜在的な健康のリスクを不必要に生じさせることもある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、非侵襲性走査から組織を特性顕示する、新規かつ有益な方法とシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一つの実施態様によれば、プラーク組成を決定するシステムが提供される。このシステムは、血管からの後方散乱信号を含む超音波データを収集するための、非侵襲性超音波プローブを備えた超音波システムを含んでいる。信号分析器ロジックは、超音波信号データを分析し、血管の後方散乱信号から一つ以上の信号特性を決定する。相関ロジックは、一つ以上の信号特性を、異なるプラーク成分からのあらかじめ定められた信号特性に関連づけるように構成され、関連に基づいて血管の成分を識別する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本明細書に含められその一部を構成する付属の図面において、システムの実施態様および方法が図示され、下記の詳細な説明とあわせて、該実施態様は、システムと方法の実施態様の実施例の説明に用いられる。当然のことながら、図の中の要素の図示された境界(例えば、ボックス、ボックス群、またはその他の形状)は、境界の一例を示すものである。当業者には自明のごとく、一つの要素が多数の要素として示されることがあり、またその多数の要素が一つの要素として示されることもある。別の要素の内部構成部品として示された要素は、外部構成部品として実施されることもあり、その逆もある。
【0006】
図1は、組織成分を識別するための超音波分析システムの一つの実施態様の例としてのシステム図である。
【0007】
図2は、対象物を走査する非侵襲性超音波プローブの一つの実施態様を図示している。
【0008】
図3は超音波A−走査の一つの実施態様を図示している。
【0009】
図4は、図3のA−走査信号から発生したパワースペクトルプロットの一つの実施態様を図示している。
【0010】
図5は、信号分析器システムの別の実施態様である。
【0011】
図6は、スペクトル特性の分類ツリーの一つの実施態様を示している。
【0012】
図7は、超音波走査から組織成分を識別する方法の一つの実施態様である。
【0013】
図示された実施態様の詳細な説明
以下に、発明の開示を通じて用いられる選択された用語の定義が含まれている。全ての用語の単数形と複数形の両方は、それぞれの意味を指す:
【0014】
本書で用いられる「コンピュータ読取り可能媒体」の語は、実行のために一つまたは複数のプロセッサへの信号、命令および/またはデータを直接的または間接的に提供することに関するいっさいの媒体を意味する。かかる媒体は、非揮発性媒体、揮発性媒体、伝送媒体をはじめとする多くの形態をとることができるが、それらに限定されない。非揮発性媒体には、例えば、光または磁気ディスクが含まれる。揮発性媒体はダイナミックメモリを含むことがある。伝送媒体は、同軸ケーブル、銅線、および光ファイバー・ケーブルを含むことがある。伝送媒体は、無線または赤外線データ通信の間に発生するもののような、音波または光波の形をとることもできる、あるいは一つ以上の信号群の形をとることもできる。コンピュータ読取り可能媒体の普通の形態は、例えば、フロッピーディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、またはその他いっさいの磁気媒体、CD−ROM、その他いっさいの光媒体、パンチカード、紙テープ、その他いっさいの穿孔パターンを備えた物理的媒体、RAM、PROM、EPROM、FLASH−EPROM、その他いっさいのメモリチップまたはカートリッジ、搬送波/パルス、あるいはそこからコンピュータ、プロセッサまたはその他の電子デバイスが読取可能なその他いっさいの媒体を含む。
【0015】
本書で用いられる「ロジック」の語は、機能または行動を遂行するため、および/または他の構成部品から機能または行動を引き起こすための、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェアおよび/またはそれぞれの組み合わせを含むが、それらに限定されない。例えば、所望の用途分野または必要に基づいて、ロジックは、ソフトウェア制御マイクロプロセッサ、ディスクリートロジック、例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)、プログラムされたロジックデバイス、命令を含むメモリデバイスなどを含むことがある。ロジックは、ソフトウェアとして完全に具体化されることもある。
【0016】
本書で用いられる「信号」の語は、一つ以上の電気信号、アナログまたはデジタル信号、一つ以上のコンピュータまたはプロセッサ命令、メッセージ、ビットまたはビットストリーム、または受信、送信、および/または検出が可能なその他の手段を含むが、それらに限定されない。
【0017】
本書で用いられる「ソフトウェア」の語は、コンピュータまたはその他の電子デバイスにファンクション、アクションを遂行させる、および/または所望の仕方で動く、一つ以上のコンピュータ読取可能および/または実行可能命令を含むが、それらに限定されない。命令は、動的に連結されたライブラリからの別個のアプリケーションまたはコードを含むルーチン、アルゴリズム、モジュールまたはプログラムなどの各種の形で具体化される。ソフトウェアは、スタンドアロンプログラム、ファンクションコ−ル、サーブレット、アプレット、メモリに保存された命令、オペレーティングシステムの一部またはその他の実行可能な命令などの各種の形で実施できる。当業者には自明のごとく、ソフトウェアの形態は、例えば、所望の用途分野の要求事項、それら実行される環境、および/または設計者/プログラマの要望などに依存する。
【0018】
本書で用いられる「ユーザ」の語は、一人以上の人、ソフトウェア、コンピュータまたはその他のデバイス、またはそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。
【0019】
一般的に本システムと方法の一つの実施態様は、非侵襲性の走査によってヒトの頚動脈から収集された、超音波データの分析による血管対象内のプラークの識別に向けられる。頚動脈は、ヒトの頸部を通過して頭部に血液を供給する動脈または動脈対である。頸動脈超音波データからのプラークを識別し、特性顕示することによって、侵襲性の措置なしに患者の心臓発作のリスクを評価することができる。心臓血管性疾患と脳血管性疾患との相関が高いという疫学の所見から、高価でときには侵襲性の冠状動脈循環評価に対して可能な代替の認識に至った。その一例が、頸動脈Intima−Media Thickness(IMT)測定であって、該測定は、現在、アメリカ心臓学会第5回予防会議によって、「無症状アテローム性動脈硬化症評価の安全かつ非侵襲性手段」と見なされている。
【0020】
しかしながら、プラークのあることが分かっている(したがって、もはや無症状疾患を有するとは見なされない)患者においてIMTを測定することは、将来の心臓血管系のリスクを決定するために臨床的使用が限定されるかもしれない。これが当てはまるので、プラーク体積とプラーク特性顕示は、今後数年間に心臓血管系の事象を予測するのによりよい方法として発達するかもしれない。本システムの他の用途分野は、以下の説明から分かるであろう。
【0021】
図1に示したのは、対象物を非侵襲的に走査し、対象物の一つ以上の構成要素を識別するように構成された超音波撮像システムの一つの実施態様である。システムは、データプロセッシング、分析、および/または表示能力を含む超音波撮像システムコンソール100を含んでいる。撮像コンソール100は、例えば、General Electric Vivid 5 Echocardiography System、Hewlett−Packard SONOS System、またはその他のタイプの超音波システムとしてもよい。別の実施態様において、撮像コンソール100は、非侵襲性超音波プローブ105からのデータと通信して該データを収集するように構成された汎用コンピュータとしてもよい。別の実施態様において、コンソール100は、小型のポータブルスキャナとしてもよい。非侵襲性超音波プローブ105は、患者の身体の外部の場所から対象物110を走査するように構成された非侵襲性の超音波デバイスである。非侵襲性超音波プローブ105は、走査した対象物110から無線周波数データを取得する一つ以上のトランスデューサを含んでいる。様々なタイプの非侵襲性超音波プローブを使用できる、例えば、フェイズドアレイプローブ、リニアプローブ、曲線プローブ、あるいはその他のタイプのハンドヘルドプローブを用いることができる。
【0022】
下記の例において、システムは、頸動脈の走査から収集された超音波データを分析するように構成される。操作を実行するために、非侵襲性超音波プローブ105は、関心領域(Region of Interest)近くの患者の頚部に押しつけられる。非侵襲性超音波プローブのトランスデューサは走査線にそってパルス駆動し、ついでそれぞれの走査線にそって組織から反射された後方散乱信号のエコーを取得するだろう。様々なタイプと密度の組織は、超音波パルスを異なる仕方で吸収、反射する。パルス信号を受けた組織は、パルスエネルギーの一部を後方散乱または反射信号として反射し、発信する。つぎに後方散乱信号は、非侵襲性超音波プローブ105内のトランスデューサ(1個又は複数)によって受信される。非侵襲性超音波プローブ105は、発信した信号と受信した信号の間の差が、受信信号が発信信号の減衰され、後方散乱されたバージョンであるということである。
【0023】
この後方散乱信号は、それを反射した組織のタイプの特徴を表す。それぞれの走査線にそった後方散乱信号の差は、信号の周波数分析を実施することで求められる。結果として、それぞれの走査線にそって異なる信号特性を識別することによって、これらの特定の信号特性に関連づけられた組織のタイプの相関を可能にする。後述のごとく、後方散乱信号の信号特性は、プラーク成分をはじめとする動脈内の様々なタイプの成分の署名として、用いることができる。
【0024】
図2に示したのは、トランスデューサ205の線形配列を含む超音波プローブ200の一つの実施態様の簡略図である。超音波プローブのタイプに応じて、様々な数のトランスデューサ、例えば、192個のトランスデューサが用いられることがある。トランスデューサは、別個に、あるいは一緒に瞬動して、複数個の走査線210を生み出すことができる。線215は患者の皮膚を表し、対象物220は頸動脈のような血管対象の断面図を表している。超音波プローブを患者の頚部に押しつけることによって、頸動脈220から超音波データを収集することができる。
【0025】
図1において、非侵襲性超音波プローブ105によって収集されたデータは、当初はそれぞれの走査線にそった後方散乱信号の生の無線周波数(RF)データ115の形である。RFデータ115は、つぎに組み合わされた組織タイプを識別できる各種の信号特性を決定するために分析される。信号分析器ロジック120は、走査された頸動脈の血管成分を実時間で識別するために、無線周波数データ115をプロセッシングし、分析するように構成されている。この実施態様において、ロジックは、各種のプラーク成分を識別し、識別されたプラークのタイプ、識別されたプラーク成分の量、あるいは両者に基づいて患者の状態に関する評価を提供するように構成されている。
【0026】
一つの実施態様において、信号分析ロジック120には無線周波数データ115を周波数ドメインに変換し、一つ以上の信号特性125を決定するために信号の周波数情報を分析するためのロジックを含んでいる。例えば、それぞれの走査線はセグメントで分析することが可能で、信号特性はそれぞれのセグメントについて決定される。セグメントはサイズが等しいことも、サイズが異なることも、互いに等間隔のことも、互いに重なっていることもあり、および/またはその他の所望の仕方で定義されることもある。
【0027】
図3に示したのは、経時にプロットした電圧として図示した一つの走査線300の無線周波数データの一例である。走査線はウィンドウ305のように、図内に示したウィンドウによって表されるセグメントで分析される。ウィンドウ305内の無線周波数データは、この実施態様において、図4に示したごとく、パワースペクトル密度プロットに変換される。セグメント305からの信号特性は、図4のパワースペクトルから決定される。この場合、スペクトル特性とも呼ばれる信号特性は、y切片、最大パワー、ミッドバンドフィット、最小パワー、最大パワー時および最小パワー時周波数、回帰線の傾斜、積分後方散乱、あるいはこれらまたはその他の組み合わせを含むことがある。
【0028】
再度、図1において、信号特性125は、走査線セグメントの信号特性をこれらまたは類似の信号特性を有する血管成分のタイプと相関させるように構成された相関ロジック130によってプロセッシングされる。この点で、相関ロジック130は、信号特性125を所定の信号特性135と比較し、マッチさせるように構成されている。一つの実施態様において、所定の信号特性135は、測定された信号特性または観察所見の信号特性を血管成分のタイプ、例えば、正常組織、内腔、および存在することのあるプラークの成分のタイプに組み合わせるデータ構造において構成されている。各種のプラーク成分は、カルシウム、繊維、繊維脂質、および石灰化壊死を含んでいる。データ構造は、データファイル、アレー、テーブル、リンクリスト、ツリー構造、データベース、これらの組み合わせおよび所望であればそれぞれの多数の成分の組み合わせをはじめとする多種多様な仕方で実施しても良い。相関ロジック130は、走査線、または走査線の領域からの信号特性125を所定の信号特性135とマッチさせ、組織のタイプを識別する組織特性顕示140を出力する。システムは、この走査線上の他のセグメントについて、およびその他の走査線について分析を反復する。
【0029】
一旦、十分な量の超音波データが分析、および特性顕示されたとき、識別されたプラークのタイプおよび量と、心疾患またはその他の関連する健康上の問題についての患者の健康状態とに関する評価を出すために、診断ロジックを含めても良い。くわえて、診断ロジックは、超音波データを表示画像に再構築するように構成されることがあり、識別された成分はディスプレイの上で視覚的に区別できる。プラークの成分の評価に基づいて、ロジックは患者の健康状態を示す得点を発生するように構成することができる。例えば、得点ゼロは心臓発作のリスクがないことを示し、得点10は心臓発作のリスクが高いことを示すことができる。この得点によって、医師は、監視、生活様式の変更、投薬および/または外科を含むことがある特定の処置を勧告してもよい。該得点は、患者にそれらの状態を説得するのに役立つかもしれない。
【0030】
図5に示したのは、無線周波数超音波データをプロセッシングおよび分析するための、信号分析ロジック500の一つの実施態様である。当然のことながら、信号分析ロジック500は、超音波撮像コンソールの一部として、あるいは超音波コンソールから生の無線周波数データを受信する別個のシステムの一部として、実施してもよい。無線周波数データがアナログ形式の場合、データのデジタル化のためにデジタイザ505を備えても良い。信号プロセッシングロジック510は、超音波データのそれぞれの走査線をプロセッシングし、それを分析可能な形式に変換するように構成される。プロセッシング時間を短縮するために、境界検出ロジック515を用いて、走査される血管壁の境界の位置を決定しても良い。分析は頸動脈の成分に特に関心が高いので、動脈の外の走査線データはフィルタにかけて除去することができる。境界検出システムの一つの例は、全ての目的のために本書に参照として組み入れる、“Intravascular Ultrasonic Analysis Using Active Contour Method and System”と題する米国特許第6,381,350号明細書に記載されている。
【0031】
境界検出の後、走査線データは変換される。もちろん、境界検出は変換後に実施しても良い。変換ロジック520は、残りの走査線データを分析に適した形式に変換するように構成されている。一般的に、変換した形式は、血管成分の所定の信号特性を構築するのに用いたのと同じ形式にマッチすべきである。一つの実施態様において、変換ロジック520は、データを図4に見るごとく周波数対出力のパワースペクトルプロットに変換する。各種の変換アルゴリズムに含まれるのはフーリエ変換、Welchペリオドグラム、および自己回帰モデリングである。その他のタイプの変換は、周波数および時間情報とともに画像を提供するウェーブレットにデータを変換することを含むことができる。別の変換に含まれるのは、周波数の代わりにインピーダンスを用いることで、音響インピーダンスの画像が付与される。この形式において、異なる組織成分は、異なる信号反射を提供する異なるインピーダンス特性を有する。下記の例において、パワースペクトル密度プロットはフーリエ変換から用いられる。
【0032】
さらに図5に関して、スペクトル分析ロジック525は、スペクトル特性530を決定するために走査線データのパワースペクトルを分析する。先に述べたごとく、スペクトル特性またはパラメータは、最大パワー、最大パワー時の周波数、最小パワー、最小パワー時の周波数、傾斜、y切片、ミッドバンドフィット、および積分後方散乱を含むことがある。ついで、スペクトルパラメータ530は分類ロジック535に入力され、該分類ロジックは、既知の血管成分からあらかじめ測定されたスペクトルパラメータで特定の走査線セグメントに組み合わされたスペクトルパラメータの分類を試みる。
【0033】
一つの実施態様において、分類データ構造540は、血管成分の特定のタイプに組み合わされた測定または観察スペクトル特性の統計的分類を含んでいる。分類データ構造540は、一つの実施態様において、組織サンプルの血管内超音波データ分析をその対応する組織学区分に相関させる実験室研究からあらかじめ発生する。このプロセスの一つの例は、全ての目的のために本書に含めた、2001年3月13日発行の“Vascular Plaque Characterization”と題する米国特許第6,200,268B1号明細書に記載されている。
【0034】
統計的分類ツリー600の一つの例は、図6に示されている。分類ツリー600は、超音波データから測定され、対応する組織学サンプルからの組織成分にマッチした多くのスペクトル特性に基づくこともある。各種の統計的ソフトウェアアプリケーションを用いてStatistical Sciences, Inc., Seattle, WashingtonによるS Plusなどのデータを編集しても良い。分類ツリー600にはルーツノード605が含まれ、該ルーツノードは、統計的アルゴリズムから編集された信号特性に基づいてブランチする。例えば、第一のブランチレベルは、ミッドバンドフィットの値に基づいている。分類ツリー600は、特定の組織タイプを表すリーフノード(各ボックスで示される)で終端している。この例において、リーフノードは、タイプC(石化)、タイプF(繊維性)、タイプFL(繊維脂質)、タイプCN(石化壊死)の組織を示している。したがって、一連の信号特性を入力することによって、分類ツリー600は、ブランチ条件にしたがって横切られることが可能であり、また、入力した信号特性をマッチングさせる組織のタイプを識別するリーフノードに至ることができる。
【0035】
分かりやすい例において、ある後方散乱信号の一つのセグメントからのスペクトル特性が、ミッドバンドフィット=−11.0、および最小出力=−8.2に決定されるものとする。分類ツリー600を介してこれらの特性をプロセッシングすることによって、分類ツリーを二つのレベルで横切らせ、一つのリーフノード610で終わらせる。リーフノード610への到達は、セグメントが、タイプ=C(石化)プラークに対応することを示している。この場合、その他のスペクトル特性は組織の識別には不必要であった。これは、測定組織学サンプルからの統計的データが、一部の石化プラーク組織がスペクトル特性としてミッドバンドフィット>−11.4、および最小パワー>−8.6を有することを示したからである。もちろん、これらはスペクトル特性の例であり、値は収集されたデータの量とタイプ、使用した統計的アルゴリズム、あるいは結果に影響するかもしれないその他の因子にもとづいて変化することもある。
【0036】
後方散乱信号のその他のセグメントと、走査から収集されたその他の走査線からのセグメントとの分析を継続して、システムは、頸動脈内の成分タイプの有益な識別を提供できる。くわえて、走査線にそったセグメントの位置に基づいて、システムは、頸動脈内の対応する組織の位置に関する決定をなすことができる。ついで、隣接するセグメントと、同じ組織成分を有する隣接走査線からのデータを組み合わせて、システムは、組織成分の大きさおよび/または体積を推定することができる。このことは重要かもしれない、なぜなら一部の成分は、その位置および/または大きさに基づいて、プラーク崩壊および/または血管閉塞のより大きなリスクを生み出すかもしれないし、それがこれらの状態を識別するのに役立つかもしれないからである。
【0037】
図7に示したのは、超音波信号の分析と該信号に対応する成分タイプの識別とに関連づけられた、方法論700の一つの実施態様である。図示された要素は、「プロセッシングブロック」を表示し、コンピュータまたはプロセッサに行動を遂行させ、および/または決定を下させるコンピュータソフトウェア命令または命令群を表している。代案として、プロセッシングブロックは、デジタル信号プロセッサ回路、特定用途向け集積回路(ASIC)、またはその他のロジックデバイスなどの、機能的に等価の回路によって実行される機能および/または行動を表しても良い。図は、ある特定のプログラミング言語のシンタックスを描写するものではない。そうではなく、図は、当業者が、回路を製作、コンピュータプログラムを作製、あるいは図示されたプロセッシングを実行するためにハードウェアとソフトウェアの組み合わせを用いるのに利用することができる、機能的情報を示している。当然のことながら、電子およびソフトウェアアプリケーションは、図示されたブロックが図示されたものとは異なる別の順序で実行できるように、および/またはブロックが組み合わされたり、複数の成分に分離されたりするように動的かつ柔軟性のあるプロセスを伴うことがある。それらはまた機械言語、手続き形言語、オブジェクト指向言語、人工知能、またはその他の技術などの各種のプログラミングの手法を用いて実行されることもある。このことを、本書に記載の全ての方法に適用する。
【0038】
図7において、分析は、走査の間にまたは走査完了後に、超音波データが実時間で受信されたときに開始しても良い(ブロック705)。この例において、走査の関心領域は頸動脈などの血管対象であるとする。超音波データがまだ生の無線周波数の形であるとき、それはデジタル化される(ブロック710)。一つの実施態様において、デジタル化されたデータは、一つ以上のセグメントにおいて、走査線に沿って分析される。図7の実施態様は、データの一つのセグメントの分析を図示している。図7に示されてはいないが、プロセッシングは、走査線のそれぞれのセグメントについて反復し、プロセッシングが完了するまで、あるいはプロセッシングが停止するまでその他の走査線について反復する。選択的に、プロセッシングは、セグメントの各種の大きさや間隔の定義など、走査線がどのように分割されるかという特性の変更を可能にすることもある。
【0039】
走査線が分析されるために、境界検出アルゴリズムを用いて血管対象(ブロック715)の境界を識別し、血管対象に対応する走査線データに分析の焦点を合わせることができる。この例において走査は血管内にはないため、血管対象を通過する走査線は、対象物の二つの壁を通過することがある。例えば、図2は、走査対象215の二つの壁を通過する走査線210の数を図示している。このように、境界検出は走査線に沿って二つの境界を探して識別しようとするだろう。数多くの境界検出方法が利用可能であり、該方法は、走査線の信号特性分析、超音波データからの画像再構築および画像データからの境界検出、およびその他の方法を含む。血管対象の境界外部の走査線データを無視することができ、また所望であれば分析から除外できる。
【0040】
再び図7において、走査線は、セグメント化され、およびセグメントごとに分析されることができる。一つの実施態様において、セグメントからの信号データは、図4のようなパワースペクトル形式(ブロック720)に変換される。スペクトル特性は、パワースペクトル(ブロック725)から決定され、該パワースペクトルは、y切片、最大パワー、ミッドバンドフィット、最小パワー、最大出力時と最小出力時での周波数、回帰線の傾斜、積分後方散乱、および/またはパワースペクトルからのその他の特性を含むことがある。つぎに走査線データのスペクトル特性は、既知の血管成分の所定のスペクトル特性と比較することによって、どのタイプの成分が走査線スペクトル特性に一番よくマッチするかを決定する。
【0041】
一つの実施態様において、所定のスペクトル特性は、どのように特性が組織成分のタイプと相関するかの統計的分析から発生した分類ツリーとして構築される。分類ツリー構造の一つの例は図6に示され、それにはスペクトル特性値の条件を有するブランチノードが含まれる。走査線スペクトル特性はつぎに、スペクトル特性がどのくらいブランチノードの条件に合致するかに基づいてブランチ間を横切り、分類ツリーを通ってプロセッシングされる(ブロック730)。分類ツリーは、組織成分のタイプを識別するリーフノードまで横切る。走査線セグメントのスペクトル特性はつぎに、このタイプの成分として特性顕示される(ブロック735)。
【0042】
分析は、走査線のその他のセグメントとその他の走査線について継続される。十分な量の走査線が特性顕示されたとき、患者の健康状態および/または血管の状態を反映して、評価を発生し、出力することが可能になる(ブロック740)。診断得点および/または画像は、健康状態を示して生成させることもできるが、それには識別されたプラークのタイプと量、プラークの場所、心臓発作の潜在的リスク、あるいはその他の状態の表示を含むことがある。非侵襲性走査で頸動脈の状態を決定することによって、患者の心臓血管の状態について評価をなすことができる。なされた推定は、頸動脈の状態と冠状動脈の状態の間に相関があるというものである。頸動脈があるレベルのプラークを示すならば、冠状動脈内にも同様な状態があると推定できる。その他の因子もまた、患者の病歴、家族の病歴、その他の因子などの診断を下すのに利用可能であろうである。適切な治療がそのとき処方できるであろう。頸動脈を走査すれば、患者を外科に伴うリスクにさらす侵襲性の処置を実施する必要なしに診断が下せるだろう。
【0043】
別の実施態様において、システムは、外部胸走査から組織を識別するように構成されることができる。例えば、胸内の未知の塊を走査し、それがガンかもしれないと判断することは、早期診断ツールとして役立つことができる。この実施態様において、超音波信号特性とガン組織および非ガン組織の間に所定の相関が得られ、データ構造内に記憶されるであろう。相関は、血管対象について先に述べたのと同様な仕方で得ることができる。これには、組織の身体サンプルからの超音波信号データの収集と、そのデータと組織の組織学サンプルからの対応する組織とのマッチングが含まれることがある。
【0044】
一つの実施態様は、所定のプラーク特性135が、ガン組織、非ガン組織、または両方の信号特性を含むデータ構造に代えられるであろうことをのぞいて、図1のシステムと同様に実施できる。構造の一つの形は、統計的分類ツリーであろう。走査を実行するために、非侵襲性の超音波プローブが関心領域の近くの胸の組織(例えば、疑わしい塊)に対して置かれるだろう。つぎに超音波データが分析されることによって、先に述べたのと同様な仕方で、スペクトル特性またはその他の信号特性が決定されるだろう。スペクトル特性が、ガン組織の所定のスペクトル特性と十分にマッチするとき、システムは、ガン組織が存在しうることを示す信号を出力することができる。ガン組織のタイプはこのタイプの早期診断にはそれほど重要ではないので、簡単なイエス・オア・ノーを出力できる。当然のことながらシステムは、ここに論じた技術を用いて、いかなる所望のタイプの組織または対象物も識別するように構成されることができる。
【0045】
ここに紹介した教示を用いる本システムおよび方法の、各種の構成要素を実施するのに適切なソフトウェアは、プログラミング言語、およびツール、例えば、Java(登録商標)、Pascal、C#、C++、C、CGI、PerI、SQL、APIs、SDKs、アセンブリ、ファームウェア、マイクロコード、および/またはその他の言語とツールを含んでいる。ソフトウェアとして具体化された構成要素には、一つ以上のコンピュータ、プロセッサおよび/またはその他の電子デバイスを所定の仕方で振る舞わせる、読取可能/実行可能な命令を含む。完全なシステムであれ、システムの構成要素であれ、いかなるソフトウェアも、製造品として具体化し、先に定義したごとくコンピュータ読取可能媒体の一部として維持してもよい。ソフトウェアの別の形態は、ソフトウェアのプログラムコードをネットワークまたはその他の通信媒体上の受容体に伝達する信号を含むことがある。当然のことながら、本書に記載の各構成要素は、別個の構成要素として実施しても良い、あるいは一緒に組み合わせても良い。
【0046】
本発明をその実施態様の説明によって例示し、実施態様をかなり詳細に説明したが、それによって付属の請求の範囲をかかる細部に限定またはいかなる形であれ制限することは本出願人の意図するところではない。当業者には、追加の利点および変更は、容易に自明であろう。したがって、本発明は、その広い面において特定の細部に限定されず、代表的装置、および図示され説明された例示的実施例に限定されない。したがって、かかる各細部からの回避をなし得たとしても、本出願人の全体的発明概念の精神と範囲からは回避することにはならない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】組織成分を識別するための超音波分析システムの一つの実施態様の例としてのシステム図
【図2】対象物を走査する非侵襲性超音波プローブの一つの実施態様
【図3】超音波A−走査の一つの実施態様
【図4】図3のA−走査信号から発生したパワースペクトルプロットの一つの実施態様
【図5】信号分析器システムの別の実施態様
【図6】スペクトル特性の分類ツリーの一つの実施態様
【図7】超音波走査から組織成分を識別する方法の一つの実施態様
【符号の説明】
【0048】
100 撮像システム
105 非侵襲性超音波プローブ
110 走査対象
115 無線データ
120 信号分析器ロジック
125 信号特性
130 相関ロジック
135 所定のプラーク特性
140 組織特性顕示
200 超音波プローブ
205 超音波トランスデューサ
210 走査線
215 患者の皮膚を表す対象物
220 頸動脈を表す対象物
500 信号分析器ロジック
505 デジタイザ
510 信号プロセッシングロジック
515 血管境界検出
520 変換ロジック
525 スペクトル分析ロジック
530 スペクトル特性
535 分類ロジック
540 分類データ構造
600 分類ツリー
605 ルーツノード
610 リーフノード
700 方法論
705 無線周波数超音波データ受信
710 データのデジタル化
715 走査線データにそって血管の境界決定
720 走査線データをパワースペクトルデータに変換
725 スペクトル特性決定
730 分類データを用いてスペクトル特性をプロセッシング
735 成分のタイプの特性顕示
740 評価得点出力−血管の状態


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラーク組成を決定するシステムであって、
血管からの後方散乱信号を含む超音波データを収集するための非侵襲性超音波プローブを備えた超音波システムと、
超音波信号データを分析し、血管の後方散乱信号から一つ以上の信号特性を決定するための信号分析器ロジックと、
一つ以上の信号特性を、プラーク成分からのあらかじめ定められた信号特性に関連づけるように構成され、関連に基づいて血管の成分を識別するように構成された相関ロジック、
とから成るシステム。
【請求項2】
超音波データをパワースペクトル密度形式に変換するように構成された変換ロジックをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のプラーク組成を決定するシステム。
【請求項3】
一つ以上の信号特性が、一つ以上のスペクトル特性を含むことを特徴とする、請求項2に記載のプラーク組成を決定するシステム。
【請求項4】
所定の信号特性が、所定の信号特性に基づくブランチノード条件とプラーク成分のタイプを識別する一つ以上のリーフノードとを有する分類ツリーとして具体化されることを特徴とする、請求項1に記載のプラーク組成を決定するシステム。
【請求項5】
相関ロジックが、後方散乱信号からの一つ以上の信号特性とブランチノード条件との比較に基づいた一つのリーフノードへ、分類ツリーを横切るように構成されていることを特徴とする請求項4に記載のプラーク組成を決定するシステム。
【請求項6】
後方散乱信号から血管の境界を決定するように構成された境界検出ロジックをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のプラーク組成を決定するシステム。
【請求項7】
非侵襲性超音波プローブが、複数個のトランスデューサで超音波データを収集するように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のプラーク組成を決定するシステム。
【請求項8】
超音波システムが、超音波データをプロセッシングするように構成された少なくとも一つのプロセッサを含むことを特徴とする、請求項1に記載のプラーク組成を決定するシステム。
【請求項9】
超音波システムが、識別された血管の成分に基づいた健康状態に関する評価を発生させるための診断ロジックをさらに含んでいることを特徴とする、請求項1に記載のプラーク組成を決定するシステム。
【請求項10】
超音波信号データを分析するプロセッシングシステムで使用するためにコンピュータ読取可能媒体内に実施された製造品において、
非侵襲性超音波プローブから収集された走査対象の超音波信号データをプロセッサに受信させる、第一のプロセッサ実行可能命令と、
超音波信号データからの走査対象に関連する一つ以上の関心領域の信号特性をプロセッサに決定させる、第二のプロセッサ実行可能命令と、
信号特性と、走査対象に類似の対象の一つ以上の成分タイプとの間の測定組み合わせからあらかじめ決定された分類データ構造に基づいて、一つ以上の関心領域を、プロセッサに成分タイプに分類させる第三のプロセッサ実行可能命令
とから成ることを特徴とする製造品。
【請求項11】
分類された一つ以上の関心領域に基づいて走査対象の状態に関する評価をプロセッサに発生させる、第四のプロセッサ実行可能命令をさらに含むことを特徴とする、請求項10に記載の製造品。
【請求項12】
前記評価が、走査対象内に識別されたプラーク成分の量を反映する得点であることを特徴とする、請求項11に記載の製造品。
【請求項13】
前記評価が、分類された関心領域を識別する画像であることを特徴とする、請求項11に記載の製造品。
【請求項14】
信号特性がスペクトル特性を含む超音波信号データの周波数スペクトルを、プロセッサに分析させる、第四のプロセッサ実行可能命令をさらに含むことを特徴とする、請求項10に記載の製造品。
【請求項15】
非侵襲性超音波プローブが、対象物の外の場所から対象物を走査するように構成されていることを特徴とする、請求項10に規定した製造品。
【請求項16】
前記第二のプロセッサ実行可能命令が、一つ以上の関心領域の信号特性を決定するために、超音波信号データからの周波数データをプロセッサに分析させる命令を含むことを特徴とする、請求項10に規定した製造品。
【請求項17】
超音波信号データが複数個の走査線データを含み、前記第二のプロセッサ実行可能命令が、プロセッサに走査線データを分割させる命令を含むことを特徴とする、請求項10に記載の製造品。
【請求項18】
分類データ構造が、信号特性とガン組織および非ガン組織の一つ以上の成分タイプとの間の、測定された関連を含むことを特徴とする、請求項10に記載の製造品。
【請求項19】
分類データ構造が、信号特性とプラークの一つ以上の成分タイプとの間の、測定された関連を含むことを特徴とする、請求項10に記載の製造品。
【請求項20】
対象物の一つ以上の成分を識別する方法において、
対象物の外部の場所から対象物を走査する非侵襲性超音波プローブからの後方散乱信号を受信する過程と、
後方散乱信号から一つ以上の信号特性を決定する過程と、
一つ以上の信号特性を、信号特性の類似の組み合わせを有する成分を識別する、信号特性の所定の組み合わせと比較して、対象物の一つ以上の成分を識別する過程
とから成る方法。
【請求項21】
後方散乱信号が複数個の走査線を含み、決定過程が、複数個の走査線からの複数個のセグメントについての信号特性の決定を含むことを特徴とする、請求項20に記載の対象物の一つ以上の成分を識別する方法。
【請求項22】
受信過程が、頸動脈からの後方散乱信号の収集を含むことを特徴とする、請求項20に記載の対象物の一つ以上の成分を識別する方法。
【請求項23】
識別過程が、頸動脈内のプラークの一つ以上のタイプの識別を含むことを特徴とする、請求項20に記載の対象物の一つ以上の成分を識別する方法。
【請求項24】
受信過程が、胸部組織からの後方散乱信号の収集を含むことを特徴とする、請求項20に記載の対象物の一つ以上の成分を識別する方法。
【請求項25】
識別過程が、ガン組織の有無の識別を含むことを特徴とする、請求項22に記載の対象物の一つ以上の成分を識別する方法。


【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−524431(P2007−524431A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−503105(P2006−503105)
【出願日】平成16年1月29日(2004.1.29)
【国際出願番号】PCT/US2004/002367
【国際公開番号】WO2004/069027
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(504291867)ザ クリーヴランド クリニック ファウンデーション (11)
【氏名又は名称原語表記】THE CLEVELAND CLINIC FOUNDATION
【Fターム(参考)】