説明

非吸着性ヒートシール性組成物、非吸着性包装材及び非吸着性包装袋

【課題】非吸着性が良好で且つ薄手の熱接着層を簡便に形成することができる非吸着性ヒートシール性組成物並びにそれを用いて得られる非吸着性ヒートシール性包装材及び非吸着性包装袋を提供する。
【解決手段】ポリアクリロニトリル樹脂粒子及びポリエステル樹脂粒子からなる群から選択される少なくとも1種の平均粒径0.5μm以上の樹脂粒子(A)、平均粒径0.4μm以下のポリエステル樹脂(B)及び溶媒(C)を含有することを特徴とする非吸着性ヒートシール性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮吸収薬などの包装に有用な非吸着性包装袋並びにそれを形成するための非吸着性ヒートシール性組成物及び非吸着性包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
経皮吸収薬などの包装に用いられる非吸着性包装袋は、基材上に熱接着層が形成された非吸着性包装材をヒートシールによって袋状に形成することにより作製されている。
【0003】
非吸着性包装材の熱接着層としては、内包成分を吸着し難い非吸着性シーラントであるポリアクリロニトリルフィルム(商品名:ハイトロン)が知られている。しかしながら、このフィルムは厚みが30〜50μmの厚手のものしか市販されておらず、コストアップ、柔軟性の欠如、密封性の低下(耐湿性の低下)、低温熱接着性、デッドホールド性等の点で不利である。そこで、同素材の薄手のフィルムが要望されているが、ポリアクリロニトリルは柔軟性が低いために薄手のフィルムは製造できないという問題がある。また、上記フィルムは、別途接着剤を用いて基材上に接着しなければならないため、ラッカータイプやホットメルトタイプの熱接着層と比べてコストアップ・工程増加の点で不利である。
【0004】
よって、非吸着性が良好で且つ薄手の熱接着層を簡便に形成することができる改良技術の開発が切望されている。
【0005】
なお、本発明に関する先行技術として、ポリアクリロニトリルを用いた包装材(二重袋)が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平3-81887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、非吸着性が良好で且つ薄手の熱接着層を簡便に形成することができる非吸着性ヒートシール性組成物並びにそれを用いて得られる非吸着性ヒートシール性包装材及び非吸着性包装袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定組成の非吸着性ヒートシール性組成物によれば上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の非吸着性ヒートシール性組成物、非吸着性包装材及び非吸着性包装袋に関する。
1. ポリアクリロニトリル樹脂粒子及びポリエステル樹脂粒子からなる群から選択される少なくとも1種の平均粒径0.5μm以上の樹脂粒子(A)、平均粒径0.4μm以下のポリエステル樹脂(B)及び溶媒(C)を含有することを特徴とする非吸着性ヒートシール性組成物。
2. 前記ポリエステル樹脂(B)は、前記溶媒(C)に溶解又は分散している、上記項1に記載の非吸着性ヒートシール性組成物。
3. 前記樹脂粒子(A)、前記ポリエステル樹脂(B)及び前記溶媒(C)の成分からなる、上記項1又は2に記載の非吸着性ヒートシール性組成物。
4. 基材層上に、上記項1〜3のいずれかに記載の非吸着性ヒートシール性組成物を塗工・乾燥して熱接着層を形成することにより得られる非吸着性包装材。
5. 前記熱接着層は、厚みが10μm以下である、上記項4に記載の非吸着性包装材。
6. 上記項4又は5に記載の非吸着性包装材の熱接着層をヒートシールすることにより袋状に形成してなる非吸着性包装袋。
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の非吸着性ヒートシール性組成物は、ポリアクリロニトリル樹脂粒子及びポリエステル樹脂粒子からなる群から選択される少なくとも1種の平均粒径0.5μm以上の樹脂粒子(A)、平均粒径0.4μm以下のポリエステル樹脂(B)及び溶媒(C)を含有することを特徴とする。
【0012】
上記特徴を有する本発明の非吸着性ヒートシール性組成物は、基材上に塗工・乾燥し、好ましくは乾燥厚みが10μm以下の薄手の熱接着層を形成することができる。このように薄手の熱接着層を塗布・乾燥により形成できることで低コスト化が図れる上、熱接着層の非吸着性及び柔軟性が良好であり並びにヒートシール時の低温熱接着性、ヒートシール後の優れた密封性(耐湿性)及びデッドホールド性等が得られる点で有利である。本発明の非吸着性ヒートシール性組成物を用いて得られる非吸着性包装袋は、化学薬品、医薬品、飲食品等の包装に有用である。
【0013】
樹脂粒子(A)
樹脂粒子(A)は、平均粒径0.5μm以上であるポリアクリロニトリル樹脂粒子及びポリエステル樹脂粒子の少なくとも1種を用いる。
【0014】
上記ポリアクリロニトリル樹脂は、アクリロニトリルの単独重合体又は共重合体である。共重合成分としては限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシブチル、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。なお、共重合体の場合には、アクリロニトリルの含有量(モノマーとしての含有量)は50重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましい。アクリロニトリルの含有量が50重量%未満の場合には、非吸着性が不十分となるおそれがある。
【0015】
上記ポリアクリロニトリル樹脂の製造方法は限定されず、例えば、水系重合法又は溶液重合法を用いることができる。水系重合法は、アクリロニトリル又はアクリロニトリルと共重合成分を水性媒体中で重合開始剤を用いて重合する方法であり、具体的には、乳化重合、懸濁重合である。他方、溶液重合法は、アクリロニトリル又はアクリロニトリルと共重合成分を溶解し得る無機溶媒又は有機溶媒中で重合する方法である。
【0016】
上記ポリアクリロニトリル樹脂粒子は、例えば、乳化重合、懸濁重合により溶媒中で粒子を生成させた後に乾燥する方法、ポリアクリロニトリル樹脂をボールミル、アトライター等で機械粉砕する方法、ポリアクリロニトリル樹脂を適当な溶媒に溶解した後、貧溶媒を加えてポリアクリロニトリルを析出させて化学粉砕する方法等により調製する。
【0017】
上記ポリエステル樹脂は限定されないが、テレフタル酸及びエチレングリコールを重合して得られるポリエチレンテレフタレート系のポリエステルが好ましい。この場合には、上記2種類のモノマー成分以外に、芳香族二塩基酸、脂肪族二塩基酸、脂環式二塩基酸等から選ばれた二塩基酸と、脂肪族2価アルコール、脂環式2価アルコール等から選ばれた2価アルコールとを併用することができる。このポリエチレンテレフタレート系のポリエステルを用いることにより、後記の溶媒(C)への溶解性を低く抑えて樹脂粒子の形態を保持し易くなる。
【0018】
上記芳香族二塩基酸としては、例えば、イソフタル酸、オルソフタル酸、α-ナフタレンジカルボン酸、β-ナフタレンジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸ナトリウム等が挙げられる。また、上記脂肪族二塩基酸としては、例えば、グルタル酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバチン酸、アゼライン酸、ウンデシレン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。更に、これらの他、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等の脂環式二塩基酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸も酸成分として使用可能である。
【0019】
上記二塩基酸の種類と量は特に限定されないが、芳香族二塩基酸を二塩基酸成分の50モル%以上、特にテレフタル酸を二塩基酸成分の60モル%以上使用することが粒子形状の保持及び非吸着性の観点で好ましい。
【0020】
上記脂肪族2価アルコールとしては、例えば、1,2-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチルペンタンジオール、2,2,3-トリメチルペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
【0021】
上記脂環式2価アルコールとしては、1,4-シクロヘキサンジメタノールが挙げられる。
【0022】
その他のアルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコールが挙げられる。
【0023】
上記2価アルコールの種類と量は特に限定されないが、エチレングリコールを2価アルコールの50重量%以上使用することが非吸着性の観点で好ましい。
【0024】
上記ポリエステル樹脂の製造方法は限定されず、例えば、溶液重合、溶融重合等の公知の方法により製造できる。この中でも、溶融重合が好ましい。
【0025】
上記ポリエステル樹脂粒子は、例えば、ポリエステル樹脂を機械粉砕する方法、ポリエステル樹脂を適当な溶媒に溶解した後、貧溶媒を加えてポリエステルを析出させて化学粉砕する方法等により調製する。
【0026】
上記ポリアクリロニトリル樹脂粒子及びポリエステル樹脂粒子の平均粒径は、0.5μm以上であればよいが、この中でも0.5〜100μmが好ましく、1〜80μmがより好ましく、1〜50μmが更に好ましく、1〜20μmがより更に好ましく、2〜10μmが最も好ましい。平均粒径が0.5μm未満の場合には、微細粒子を安価に製造することは困難であるため、本発明では下限値を0.5μmに設定している。また100μmを超える場合には、塗工した際に均一な塗膜が得られないおそれがある。
【0027】
なお、本明細書における平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定法(体積基準)による測定値である。但し、レーザー回折式粒度分布測定法による測定が困難な場合は、走査型電子顕微鏡(FE-SEMなど)で測定することができ、走査型電子顕微鏡の分解能が低い場合には透過型電子顕微鏡等の他の電子顕微鏡を併用して測定してもよい。具体的には、粒子形状が球状の場合はその直径、非球状の場合はその最長径と最短径との平均値を直径とみなし、走査型電子顕微鏡等による観察により任意に選んだ20個分の粒子の直径の平均を平均粒径とすればよい。
【0028】
上記ポリアクリロニトリル樹脂粒子及びポリエステル樹脂粒子の混合割合は限定的ではないが、非吸着性ヒートシール性組成物のヒートシール性を重視する場合にはポリエステル樹脂粒子の混合割合を多くし、非吸着性を重視する場合にはポリアクリロニトリル樹脂粒子の混合割合を多くすることが好ましい。本発明では、非吸着性ヒートシール性組成物のヒートシール性は後記のポリエステル樹脂(B)により発揮されるため、樹脂粒子(A)としてポリアクリロニトリル樹脂粒子を単独で用いることが好ましい。
【0029】
ポリエステル樹脂(B)
ポリエステル樹脂(B)は主にヒートシール性を発揮する成分であり、平均粒径0.4μm以下のものを用いる。
【0030】
上記ポリエステル樹脂は共重合飽和ポリエステル樹脂であって、芳香族二塩基酸、脂肪族二塩基酸、脂環式二塩基酸等から選ばれた二塩基酸と、脂肪族2価アルコール、脂環式2価アルコール等から選ばれた2価アルコールを使用して調製することができる。
【0031】
上記芳香族二塩基酸としては、例えば、イソフタル酸、オルソフタル酸、α-ナフタレンジカルボン酸、β-ナフタレンジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸ナトリウム等が挙げられる。また、上記脂肪族二塩基酸としては、例えば、グルタル酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバチン酸、アゼライン酸、ウンデシレン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。更に、これらの他、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等の脂環式二塩基酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸も酸成分として使用可能である。
【0032】
上記二塩基酸の種類と量は特に限定されないが、芳香族二塩基酸を二塩基酸成分の50モル%以上、特にテレフタル酸を二塩基酸成分の60モル%以上使用することがヒートシール後の接着強度や非吸着性の観点で好ましい。芳香族二塩基酸の割合が50モル%未満の場合は、ポリエステル樹脂の凝集力が低く、接着強度が不足したり、吸着性が大きくなったりするおそれがある。
【0033】
上記脂肪族2価アルコールとしては、例えば、1,2-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチルペンタンジオール、2,2,3-トリメチルペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
【0034】
上記脂環式2価アルコールとしては、1,4-シクロヘキサンジメタノールが挙げられる。
【0035】
その他のアルコール成分としては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコールが挙げられる。
【0036】
上記2価アルコールの種類と量も特に限定されないが、エチレングリコールを2価アルコールの50重量%以上使用することがヒートシール時の接着強度や非吸着性の観点で好ましい。エチレングリコールが50重量%未満の場合は、ポリエステル樹脂の凝集力が低く、接着強度が不足したり、吸着性が大きくなったりするおそれがある。
上記ポリエステル樹脂としては、ガラス転移温度(Tg)が、80℃以下のものが好ましい。ガラス転移温度が80℃を超える場合には、ヒートシール時にポリエステルが溶融又は軟化し難くなり、所望の接着強度が得られないおそれがある。
【0037】
また、上記ポリエステル樹脂としては、数平均分子量5,000〜50,000のものが好ましく、8,000〜30,000のものがより好ましい。数平均分子量が5,000未満の場合には、脆くなってヒートシール後の接着強度が得られ難くなるおそれがある。また、50,000を超える場合には組成物の粘度が高くなり、塗工が困難となるおそれがある。
【0038】
上記ポリエステル樹脂は公知の方法により製造される。例えば、原料を仕込み、生成物の融点以上の温度で加熱する溶融重合法、生成物の融点以下で重合する固相重合法、溶媒を使用する溶液重合法等が挙げられる。この中でも、上記数平均分子量のポリエステルを得るため及び経済性の点で溶融重合法が好ましい。
【0039】
上記ポリエステル樹脂(B)は、本発明では平均粒径0.4μm以下(0μmを含む)で用いる。なお、ポリエステル樹脂(B)は、後記の溶媒(C)中に溶解又は分散のいずれかの状態で使用する。溶解の場合は、ポリエステル樹脂(B)の平均粒径は実測できないので0μmとみなす。分散の場合には、平均粒径0.001〜0.4μmであることが好ましい。また、分散の場合には、後記の溶媒(C)は分散媒であることを意味する。
【0040】
上記ポリエステル樹脂(B)を後記の溶媒(C)に溶解して使用する場合には、予め、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等の有機溶剤に溶解しておいてもよい。また、スルホン酸ナトリウム基を有する二塩基酸を使用したポリエステルや三価以上の多塩基酸を共重合してカルボキシル基を含有するポリエステルを用いる場合には、水、又は、水とアルコールなどの水性溶剤の混合溶媒に溶解しておいてもよい。なお、これらの溶媒は、後記の溶媒(C)の一部として取扱う。
【0041】
本発明の非吸着性ヒートシール性組成物中の上記ポリエステル樹脂(B)の濃度は限定的ではないが、5〜50重量%が好ましい。5重量%未満の場合には、塗工時の膜厚が薄くなり接着強度が得られないおそれがある。また、50重量%を超える場合は、溶液の粘度が高くなり塗工が難しくなるおそれがある。
【0042】
非吸着性ヒートシール性組成物中のポリエステル樹脂(B)の含有割合は、樹脂粒子(A)とポリエステル樹脂(B)の合計に対して1〜50重量%が好ましく、3〜30重量%がより好ましい。1重量%未満の場合には接着強度が不足し、剥離などの接着不良が生じるおそれがある。また、50重量%を超える場合には非吸着性が発現し難い場合がある。
【0043】
溶媒(C)
溶媒(C)は樹脂粒子(A)に対しては分散媒であり、ポリエステル樹脂(B)に対しては溶媒又は分散媒である。非吸着性ヒートシール性組成物を調製する際は、樹脂粒子(A)及びポリエステル樹脂(B)の種類に応じて、樹脂粒子(A)が溶解せず、ポリエステル(B)が溶解又は分散するように溶媒(C)の種類を選択する。
【0044】
ポリエステル樹脂(B)を溶解させて用いる場合には、溶媒(C)として、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエステル系溶剤;トルエン、キシレン、ソルベッソ等の芳香族系溶剤;N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤;γ―ブチロラクトン等の環状エステル系溶剤;クレゾール、クロロフェノール等のフェノール系溶剤;テトラハイドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン等のエーテル系溶剤;塩化メチレン等の塩素系溶剤などが使用できる。これらの溶媒は、単独又は2種以上を混合して使用できる。これらの溶媒の中で、溶解時の安定性や塗工後の乾燥性の点で、メチルエチルケトン、酢酸エチル及びトルエンが好ましい。
【0045】
ポリエステル樹脂(B)が水溶性又は水分散性の場合には、溶媒(C)として、たとえば、水、又は、水とアルコールのような水性溶剤との混合溶剤を使用する。水性溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、i-ブチルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノt-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールなどのアルコール類、1,3-ジオキソラン、テトラハイドロフラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミン類、アセトン、γ-ブチロラクトン、ダイアセトンアルコールなどのケトン類が挙げられる。これらの中でも、使用時の液安定性や塗工時の乾燥性の点で、水とアルコール類との混合溶剤が好ましく、特に水とイソプロピルアルコールの混合溶剤とすることが更に好ましい。
【0046】
非吸着性ヒートシール性組成物を調製する際は、例えば、ポリエステル樹脂(B)を溶媒(C)に溶解又は分散させた後、樹脂粒子(A)を攪拌しながら添加し、均一に分散する。その際、ホモジナイザー、高速ディスパー等の高速攪拌機、三本ロール等のロール分散機、コロイドミル、サンドミル、ボールミル等のミル分散機を使用することにより樹脂粒子(A)の分散性が向上し、安定な分散液が得られ易い。
【0047】
上記の分散時、又は、分散後に、樹脂粒子(A)の分散性を向上させる目的で分散剤を添加することができる。その他、効果を損なわない範囲で、消泡剤、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、ブロッキング防止剤、等の添加剤を適宜使用できる。
【0048】
また、ポリエステル樹脂(B)の耐熱性及び耐久性を上げる目的で、イソシアネート系硬化剤、エポキシ系硬化剤、メラミン系硬化剤、オキサゾリン系硬化剤、カルボジイミド系硬化剤などの硬化剤を併用することも可能である。
【0049】
非吸着性ヒートシール性組成物中の固形分濃度は限定的ではないが、1〜70重量%が好ましく、3〜50重量%がより好ましい。1重量%未満の場合には塗工時の膜厚が薄過ぎて接着強度が不足し、また、70重量%を超える場合には粘度が高くなって塗工が難しくなるおそれがある。
【0050】
本発明の非吸着性包装材は、上記非吸着性ヒートシール性組成物を基材層上に塗工・乾燥して熱接着層を形成することにより得られる。
【0051】
基材層としては、紙、合成紙、樹脂フィルム、蒸着層付き樹脂フィルム、アルミニウム箔等の単体、又は、これらの複合材料・積層材料を使用することが好ましい。
【0052】
熱接着層を設ける方法は公知の方法によって実施することができる。例えば、ロールコーティング、グラビアコーティング、バーコート、ドクターブレードコーティング等の方法を採用することができる。
【0053】
非吸着性ヒートシール性組成物を塗工後の乾燥工程は、熱風や遠赤外加熱などの方法で加熱乾燥することが望ましい。乾燥温度は、基材やヒートシール層に影響を与えない範囲であれば制限されないが、150℃以下、特に80〜120℃が好ましい。
【0054】
熱接着層の厚さは限定されないが、0.5〜25μmが好ましく、1〜15μmがより好ましい。本発明では、特定の非吸着性ヒートシール性組成物を用いることにより、特に好ましい態様では熱接着層の厚さを10μm以下の薄さに設定することもできる。
【0055】
本発明の包装袋は、上記非吸着性包装材の熱接着層をヒートシールすることにより袋状に形成することにより得られる。ヒートシールの条件は限定的ではないが、120〜240℃で0.1〜3秒間が好ましく、140〜220℃で0.5〜2秒間がより好ましい。
【0056】
本発明の包装袋は、例えば、三方袋、四方袋、ガセット袋、ピロー袋、スタンディングパウチ等にできる。内容物としては、消臭剤、芳香剤、脱臭剤、防虫剤などの化学薬品、粉薬、顆粒薬、湿布、パップ剤、経皮吸収薬などの医薬品(特にリモネン、メントール等を含有する医薬品)、香辛料、調味料、インスタント食品、コーヒー、紅茶、緑茶などの飲食品などが好適である。勿論、本発明の非吸着性包装材は、包装袋以外の用途、即ち蓋材、チューブ材、パッキン、箱、容器等にも使用できるのは言うまでもない。
【発明の効果】
【0057】
本発明の非吸着性ヒートシール性組成物は、基材上に塗工・乾燥し、好ましくは乾燥厚みが10μm以下の薄手の熱接着層を形成することができる。このように薄手の熱接着層を塗布・乾燥により形成できることで低コスト化が図れる上、熱接着層の非吸着性及び柔軟性が良好であり並びにヒートシール時の低温熱接着性、ヒートシール後の優れた密封性(耐湿性)及びデッドホールド性等が得られる点で有利である。本発明の非吸着性ヒートシール性組成物を用いて得られる非吸着性包装袋は、化学薬品、医薬品、飲食品等の包装に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例5の非吸着性ヒートシール性組成物についての低温接着性試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0060】
実施例1
還流冷却管と撹拌機の付いた四つ口フラスコに、ヒートシール性成分として、ガラス転移温度20℃のポリエステル樹脂C1を50重量部と溶媒としてトルエン400重量部を投入し、60℃で2時間撹拌し溶解した。室温まで冷却後、非吸着性のポリアクリロニトリル樹脂粒子A1(平均粒径7μm)50重量部を加え、1時間撹拌し、非吸着性ヒートシール性組成物を得た。
【0061】
後記の試験方法に沿って、塗膜外観及び剥離強度の評価並びに非吸着性試験を実施し、結果を表1に記載した。
【0062】
実施例2
実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂C4を25重量部、溶媒としてイオン交換水300重量部及びイソプロパノール100重量部を加え、70℃で3時間撹拌し、水分散体を得た。これに、非吸着性のポリアクリロニトリル樹脂粒子A2(平均粒径18μm)50重量部及び非吸着性のポリエステル樹脂粒子B1(平均粒径4μm)25重量部を加え、1時間撹拌し、非吸着性ヒートシール性組成物を得た。
【0063】
後記の試験方法に沿って、塗膜外観及び剥離強度の評価並びに非吸着性試験を実施し、結果を表1に記載した。
【0064】
実施例3
実施例1と同様にして、結晶性ポリエステル樹脂C2を25重量部、非晶性ポリエステル樹脂C3を25重量部を、溶媒である1,3-ジオキソラン300重量部、トルエン50重量部及びメチルエチルケトン50重量部に溶解した。その後、アクリロニトリル樹脂粒子A3(平均粒径4μm)50重量部を加え、1時間撹拌し、非吸着性ヒートシール性組成物を得た。
【0065】
後記の試験方法に沿って、塗膜外観及び剥離強度の評価並びに非吸着性試験を実施し、結果を表1に記載した。
【0066】
実施例4
実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂C4を10重量部、溶媒としてイオン交換水325重量部、イソプロパノール68重量部及びn-プロパノール7重量部に70℃で3時間分散し、水分散体を得た。これに、非吸着性のポリエステル樹脂粒子B2(平均粒径8μm)90重量部を加え、1時間撹拌し、非吸着性ヒートシール性組成物を得た。
【0067】
後記の試験方法に沿って、塗膜外観及び剥離強度の評価並びに非吸着性試験を実施し、結果を表1に記載した。
【0068】
実施例5〜7及び比較例1〜2
実施例1と同様にして、表1及び表2に記載の非吸着性成分(比較例は非吸着性成分を添加していない)、ヒートシール成分及び溶媒を使用し、非吸着性ヒートシール性組成物を得た。また、実施例1と同様の評価及び試験を行い、結果を表1及び表2に記載した。
【0069】
比較例3
厚み30μmのアルミニウム箔(JIS 1N30軟質箔)にポリウレタン系ドライラミネート接着剤を使用し、市販の厚み30μmのポリアクリロニトリルフィルム(PAN)を積層したものを2つ作製し、その2つのポリアクリロニトリルフィルム面同士を重ね合わせ、180℃で1秒間、圧力30MPaでヒートシールを行った。また、吸着性試験としては、ポリアクリロニトリルフィルムをそのまま使用して行った。
【0070】
比較例4〜5
比較例3と同様の方法で、ポリアクリロニトリルフィルムの代わりに、厚み30μmの非晶質ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETG)、厚み30μmのポリエチレンアクリル酸コポリマーフィルム(EAA)をそれぞれ積層し、ヒートシールを行った。また、吸着性試験としては、比較例3と同様にそれぞれのフィルムをそのまま使用して行った。
【0071】
試験方法
(1)試料作製
各組成物を、厚み12μmのPETフィルムと、厚み30μmのアルミニウム箔(JIS 1N30軟質箔)と、厚み12μmのPETフィルムとの積層体(各貼り合せはウレタン系接着剤を用いたドライラミネート法による)の片面に、乾燥後の厚み約7μmになるようにバーコーターで塗布し、100℃で2分間加熱乾燥し、非吸着性ヒートシール性組成物を片面に設けた積層体を得た。
(2)塗膜外観
塗工面の外観を目視により評価した。評価基準は、次の通りである。
○:均一で良好である。
×:不均一な凸凹した外観で不良である。
(3)剥離強度測定
上記(1)で作製した積層体の非吸着性ヒートシール性組成物塗工面同士を重ね合わせ、180℃で1秒間、圧力30MPaでヒートシールした後、15mm幅に切り出し、20℃雰囲気で、剥離速度100mm/分でT型剥離強度(N/15mm幅)を測定した。比較例3〜5で作製した試料についても15mm幅に切り出し、同様に測定した。結果を表1及び表2に示す。
(4)非吸着性試験
各組成物を離型フィルム上に塗工し、100℃×10分間加熱乾燥した後、皮膜を離型フィルムから剥がして、厚みが30μmの皮膜を得た。d-リモネンを20g入れたビーカーを密閉容器(内容積220ml)に静置し、d-リモネンに触れないように前記の皮膜を共存させて、50℃中で7日間保管した後、一定面積を切り出し、アセトンにて抽出し、皮膜に吸着したd-リモネンの割合をガスクロマトグラフにて定量分析を行った(重量ppm)。
【0072】
d-リモネンと同様の方法で、l−メントールについても吸着性試験を行い、定量した。
(5)低温接着性試験
実施例5のヒートシール性組成物について低温接着性を評価した。試片の作製は上記(1)に準じた。但し、ヒートシール性組成物の(乾燥後)付着量は平方メートルあたり2〜10gで変化させた。剥離強度測定は上記(3)に準じた。但し、熱接着温度は120〜220℃まで変化させた。結果を表3及び図1に示す。
<包装材の評価>
実施例5のヒートシール性組成物を用いて熱接着性包装材を試作した。また、比較材として比較例3のPANフィルムを用いて同様構成の熱接着性包装材を試作し、包装材料としての性能、特性を評価した。
【0073】
実施例5-2
厚み7μmのアルミニウム箔(材質:1N30軟質箔)と厚み12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)を、ポリウレタン系ドライラミネート接着剤(乾燥後重量3g/m2)を用いて貼り合せた。貼り合わせ材のPET面に実施例5のヒートシール性組成物をバーコーターによって乾燥後の厚みが7μmとなるよう塗布積層した。
【0074】
比較例3-2
厚み7μmのアルミニウム箔(材質:1N30軟質箔)と厚み12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)を、ポリウレタン系ドライラミネート接着剤(乾燥後重量3 g/m2)を用いて貼り合せた。さらに貼り合わせ材のPET面に比較例3で用いたPANフィルムを同じくポリウレタン系ドライラミネート接着剤(乾燥後重量3 g/m2)を用いて貼り合せた。
(6)袋シール性(T字型剥離強度)
長さ200mm×15mm幅の包装材料を2枚用意し、ヒートシール面どうしの一部(長さ方向の約半分)を160℃, 30MPa, 1秒で熱接着し試片を準備した。歪速度100mm/分でT字型剥離強度(N/15mm幅)を測定した(n=5)。
(7)開封性
上記(6)で作製した試片を手指で剥離できるかどうか確認した。
【0075】
評価基準は次の通りである。
○:切り込み等なしに手指で剥離でき、開封できた。
△:手指で剥離できず、開封できなかった(開封には鋏などが必要)。
(8)袋密封性
縦200mm×横200mmの包装材料を2枚用意し、ヒートシール面どうしを対向させ、周縁部(外側から約10mm)を上記(6)同様の熱接着し、4方シール袋体を得た。得られた袋体について、{乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和54年4月16日厚生省令第17号)}の封緘強度試験法に準じて封緘強度試験を行った。但し、袋内に空気を流入し続け、空気漏れする時点の内圧(mmHg)を測定した(n=5)。
【0076】
評価基準は次の通りである。
○:300mmHg以上
(9)袋密封性(落下テスト)
上記(8)同様、袋体を作製した。但し、袋体の中には水を充満させた状態で4方シールを施した。高さ50cmから水を充満させた袋を、コンクリート床上に自然落下させ、水の漏れの有無を目視で確認した(n=5)。
【0077】
評価基準は次の通りである。
○:水漏れ無し
(10)折り目保持性(デッドホールド性)
縦200mm×横200mmの包装材料を、ヒートシール面を外側にして中央で半分に折り曲げ(180度)、元の状態に戻るまでの時間を測定してデッドホールド性を評価した。
【0078】
評価基準は次の通りである。
△:3秒以内にほぼ元の形状(平板状)に戻る。
○:10秒経過しても元の形状(平板状)には戻らなかった。
(11)型付性
各包装材料に型付けロールを用いて、#60の絹目型付け(エンボス加工)を施した。
【0079】
評価基準は次の通りである。
○:型どおりに全面に絹目が施された。
△:所々絹目が消えていた。
【0080】
上記(6)〜(11)の結果を表4に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
A1: アクリロニトリル樹脂粒子(ポリアクリロニトリルホモポリマー、平均粒径7μm)
A2: アクリロニトリル樹脂粒子(ポリアクリロニトリルホモポリマー、平均粒径18μm)
A3: アクリロニトリル樹脂粒子(ポリアクリロニトリルホモポリマー、平均粒径4μm)
B1: ポリエステル樹脂粒子(ポリエステル、軟化点185℃、平均粒径4μm)
B2: ポリエステル樹脂粒子(ポリエステル、軟化点185℃、平均粒径8μm)
C1: ポリエステル樹脂(結晶性ポリエステル樹脂(PET系)、融点185℃、ガラス転移温度20℃)
C2: ポリエステル樹脂(結晶性ポリエステル樹脂(PBT系)、融点120℃、ガラス転移温度-45℃)
C3: ポリエステル樹脂(非晶性ポリエステル樹脂(溶剤可溶性)、ガラス転移温度15℃)
C4: ポリエステル樹脂(非晶性ポリエステル樹脂(水分散性)、ガラス転移温度60℃)
非吸着性ヒートシール性組成物中におけるC1〜C4のポリエステル樹脂の平均粒径は0.4μm以下(C3は溶剤可溶性であり0μm)である。
【0083】
【表2】

【0084】
A1〜C4の説明は表1と同じである。
【0085】
【表3】

【0086】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアクリロニトリル樹脂粒子及びポリエステル樹脂粒子からなる群から選択される少なくとも1種の平均粒径0.5μm以上の樹脂粒子(A)、平均粒径0.4μm以下のポリエステル樹脂(B)及び溶媒(C)を含有することを特徴とする非吸着性ヒートシール性組成物。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂(B)は、前記溶媒(C)に溶解又は分散している、請求項1に記載の非吸着性ヒートシール性組成物。
【請求項3】
前記樹脂粒子(A)、前記ポリエステル樹脂(B)及び前記溶媒(C)の成分からなる、請求項1又は2に記載の非吸着性ヒートシール性組成物。
【請求項4】
基材層上に、請求項1〜3のいずれかに記載の非吸着性ヒートシール性組成物を塗工・乾燥して熱接着層を形成することにより得られる非吸着性包装材。
【請求項5】
前記熱接着層は、厚みが10μm以下である、請求項4に記載の非吸着性包装材。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の非吸着性包装材の熱接着層をヒートシールすることにより袋状に形成してなる非吸着性包装袋。

【図1】
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【公開番号】特開2012−184357(P2012−184357A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49322(P2011−49322)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】