説明

非常ブレーキ過程の実行方法

【課題】ブレーキ支援を備えた車両ブレーキ・システムにおいて、非常ブレーキ過程を終了させるために、ブレーキ力増強を快適且つ確実に終了させる、車両内のブレーキ支援システムによる非常ブレーキ過程の実行方法およびその制御装置を提供する。
【解決手段】ドライバにより設定されたブレーキ操作がブレーキ支援システムにより増強される、車両内のブレーキ支援システムによる非常ブレーキ過程の実行方法において、ブレーキ力増強の遮断が、少なくとも2つの段階内において、第1の状態変数の限界値に到達した第1の段階内において、ブレーキ力増強が低下され、他の状態変数の限界値に到達した他の段階内において、ブレーキ力増強が0まで低下される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の車両内のブレーキ支援システムによる非常ブレーキ過程の実行方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドイツ特許公開第19936436A1号から、少なくとも1つの車輪の回転加速度の変化に基づいて車両内の非常ブレーキ状況を検出し且つ車両ブレーキ・システムにおいて実行されるブレーキ支援を介して追加のブレーキ力を発生し、この追加のブレーキ力がドライバにより発生されたブレーキ力に重ね合わされ且つこれを増強することが既知である。ブレーキ力増強の作動化のために、測定された車輪回転数から決定される、車両車輪の角速度の変化に対して、種々のしきい値が設定される。ブレーキ力増強を開始させるための他の基準として、ブレーキ・ペダルの操作速度が使用される。ブレーキ力増強が実際に非常ブレーキ状況においてのみ発生されることを保証するために、種々の基準の組み合わせのほかに、改善された妥当化が達成される。
【0003】
ブレーキ力増強の開始に対しての基準と同様に、ブレーキ力増強の終了に対してもまた基準が定義されなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】ドイツ特許公開第19936436A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ブレーキ支援を備えた車両ブレーキ・システムにおいて、非常ブレーキ過程を終了させるために、ブレーキ力増強を快適且つ確実に終了させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、本発明により、独立請求項の特徴によって解決される。従属請求項は適切な変更態様を与える。
非常ブレーキ過程の実行方法は、ブレーキ支援システムを有する車両ブレーキ・システムを前提とし、非常状況において、ブレーキ支援システムを介してブレーキ力増強が実行可能であり、ブレーキ力増強においては、ドライバにより発生されたブレーキ力に加えて自動的に追加ブレーキ力が発生される。ブレーキ力増強を開始させるために、車両状態変数ないしは車両システム変数が評価され、これらの変数は、特にセンサにより測定されたデータ、例えば車輪回転数センサからの情報に基づいている。ブレーキ力増強を開始させるために定義された基準ないしはしきい値が満たされているかぎり、ブレーキ力増強が行われ、ブレーキ力増強は、ブレーキ力増強を終了させるために定義された条件が発生するまでの間継続する。
【0007】
本発明の第1の態様により、ブレーキ力増強の遮断が、少なくとも2つの段階内において実行され、この場合、第1の状態変数限界値に到達した第1の段階内において、はじめに、ブレーキ力増強がより小さい値に低下され、他の状態変数限界値に到達した他の段階内においてブレーキ力増強が0まで低下される。ブレーキ力増強の低下は、少なくとも2つの段階内において行われ、その際、場合により、より多い段階数、例えば3つの段階または4つの段階が考慮されてもよい。ブレーキ力増強を段階的に低下することは、それぞれに関連付けられた限界値ないしはしきい値の設定を介して、実際の走行状況へのより良好な適合が可能であるという利点を有している。即ち、例えば、ブレーキ力増強は、実際の状況に応じて、各段階ごとに、他の状態変数の関数としてまたはその他の実際の車両特性変数の関数として決定される異なる期間にわたって、保持されてもよい。
【0008】
適切な一変更態様により、ブレーキ力増強を終了させるために評価される状態変数が、車両減速度またはこれと関連する変数、例えば1つまたは複数の車両車輪における車輪角速度の変化であるように設計されている。ブレーキ力増強の低下における種々の段階に対して、同じ状態変数が考慮されることは目的に適っており、この場合、基本的に、それぞれに関連付けられた限界値を有する個々の段階内において異なる状態変数が考慮されてもよい。
【0009】
ブレーキ力増強の遮断過程内において、最終段階が到達された後に、ブレーキ力増強は、直ちに遮断されて最短時間内にドライバにより発生されたブレーキ力のみが有効となるか、または所定の関数に基づき、特にランプ状に(傾斜状に)0まで低下される。一般に、ブレーキ力の遮断は、段階から段階へ急激に行われるのみならず、ランプ状にまたはその他の所定の関数に従って行われてもよく、この場合、種々の段階の間の切換ないしは最終段階から0への切換に対して、同じ低減関数のみならず異なる低減関数もまた考慮される。
【0010】
本発明の他の一態様により、ブレーキ力増強の遮断は、ブレーキ支援システムが投入されている作動期間の経過の関数である。この基準は、基準の1つ、即ち段階的低下または所定の作動期間の経過が達成されたとき直ちに、自動的に発生されたブレーキ力の低下が実行されるように、ブレーキ力増強の段階的低下と組み合わされることが有利である。しかしながら、基本的に、車両ブレーキ・システムにおける独立の実行、即ち段階的低下のみ、または作動期間の達成後の低下のみ、もまた可能である。後者の場合においてもまた、ブレーキ力増強は、急激にまたは所定の関数に従って、例えばランプ状に低下される。
【0011】
本発明の第二の態様による作動期間は、固定のしきい値として設定されるか、または少なくとも1つの車両状態変数ないしは車両特定変数の関数として、特に車両速度の関数として決定され、この場合、作動期間もまた車両速度と共に増加することが好ましい。一般に、1つまたは複数の状態変数が作動期間の計算に取り入れられてもよい。
【0012】
遮断過程にまだ到達していない前のブレーキ力増強過程の間に、少なくともある区間の間、ブレーキ支援を介して形成されるブレーキ力増強により一定の減速度が発生されることが有利である。しかしながら、例えば、特に、ブレーキ力増強の投入により、はじめに隆起状の上昇が実行され、これに続いてブレーキ力増強の最大値よりも低下されたレベルに移行されるような階段状の関数もまた可能であり、この場合、このレベルは、少なくともある区間の間一定であることが好ましい。
【0013】
ブレーキ力増強を開始させる非常状況の検出は、実際のブレーキ圧力を決定するための圧力センサの利用なしに行われることが好ましい。基本的に、測定された車輪回転数の評価を介するのみで非常状況を十分に検出可能であり、この際、場合により、さらに他の影響因子、例えば路面摩擦、実際勾配、実際荷重状態、シャシ調節ないしは実際ブレーキ状態が考慮されてもよい。同様に、非常状況の検出のために、実際のブレーキ圧力を考慮することもまた適切であろう。
【0014】
本発明による方法は、ブレーキ・システムの構成部品であるかまたはブレーキ・システムと通信する、車両内の制御装置において行われる。
その他の利点および目的に適った実施形態が、その他の請求項、図面の説明および図面から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、ブレーキ支援システムの作動化および遮断の間における種々の状態変数の時間線図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1において、横座標には、時点t、tおよびtが記入された時間が示され、縦座標は、一点鎖線で示された車両減速度1(単位は〔m/s〕)、ないしはドライバのブレーキ圧力2並びにブレーキ力増強3(それぞれ、単位は〔bar〕ないしは比較可能な単位)を表わし、この場合、ドライバのブレーキ圧力2は実線で記入され、ブレーキ力増強3は破線で記入されている。図示されている曲線は、車両ブレーキ・システムにおけるブレーキ支援の作動化、実行並びに遮断を示す。
【0017】
時点tにおいて、ドライバのブレーキ圧力2の急上昇から理解されるように、ドライバがブレーキ・ペダルを操作することにより、車両ブレーキが作動化される。ドライバのブレーキ圧力の上昇高さは、例えば、ドライバのブレーキ圧力2に追加してブレーキ支援の投入によりブレーキ力増強3が発生される非常ブレーキ過程に対する指標である。非常状況は必ずしもブレーキ圧力によっては検出されない。非常ブレーキ状況は、むしろ、センサにより決定されるその他の情報の評価により検出され、例えば測定された車輪回転数に基づいて検出されてもよい。
【0018】
図示の実施例においては、時点tおよび時点tの間のドライバによる最大ブレーキ圧力の範囲内において、ブレーキ支援が投入され且つブレーキ力増強3が発生され、ブレーキ力増強3は、次に、階段状に下降する経過を有している。ブレーキ力増強3の投入と共に、ブレーキ力増強3ははじめに最大値に上昇し、この最大値は、時点tに到達するまで保持される。時点t以降、ブレーキ力増強3はより低い値に低下し、この値は、少なくともほぼ一定であり且つドライバのブレーキ圧力2の最大値より僅かに上方に存在するレベルを有している。この場合、ブレーキ力増強3は、ドライバのブレーキ圧力2に加算されるオフセットを示すので、ブレーキ力増強3の曲線は、横座標に対して、ドライバのブレーキ圧力およびブレーキ力増強から構成される絶対ブレーキ圧力値を表わす。
【0019】
ドライバのブレーキ圧力2とブレーキ力増強3との重ね合わせにより形成されるブレーキ圧力の急上昇に基づき、車両減速度1の線図もまた急上昇し、この場合、車両減速度1は、時点tおよびtの間において最大に到達し、このレベルは、ある区間の間保持され、次に、車両減速度は、ほぼ線形に0までないしはほぼ0まで低下する。車両減速度1の低下は、ドライバのブレーキ圧力2並びにブレーキ力増強3の低下にほぼ平行に経過する。
【0020】
ほぼ時点tにおいて、ブレーキ力増強の遮断過程が開始される。ブレーキ力増強3の遮断は、種々の基準に基づいて開始されてもよい。車両減速度に対して、しきい値ないしは限界値dlim,1およびdlim,2を設定することが可能であり、この場合、ブレーキ力増強の遮断過程は、大きいほうの限界値dlim,1が実際の車両減速度1によって到達されたときに直ちに開始される。この限界値への到達と共に、ブレーキ力増強は、ランプ状に低下されるのが好ましい。車両減速度1が低いほうの第2の限界値dlim,2まで低下したとき、ブレーキ力増強の0までのさらなる低下が行われる。このさらなる低下は、同じ勾配で実行されても、または異なる勾配で実行されても、あるいは場合により全く別の関数で実行されてもよい。車両減速度に対する限界値dlim,1およびdlim,2は、固定のしきい値として設定されるか、または状況に応じて車両の他の状態変数ないしは特性値から決定される。
【0021】
基本的に、限界値dlim,1およびdlim,2が一致し、したがって同じ値をとることもまた可能である。
さらに、しきい値への到達と共に、例えば時点tへの到達と共に遮断過程を開始することもまた可能であり、この場合、この遮断時点tは作動期間tactから決定され、作動化期間tactの開始は、ブレーキ力増強の作動化の時点に一致する。この時点以降、時点tまでの作動期間が経過したとき直ちに、ブレーキ力増強の遮断過程が開始し、ブレーキ力増強は、その後に正確に0に低下される。
【0022】
有利な一実施形態により、ブレーキ力増強3の遮断に対して、種々の基準の組み合わせが使用されてもよい。即ち、車両の状態変数に関する種々のしきい値ないしは限界値に状態変数が到達したときに、遮断過程が開始される、車両の状態変数に関する種々のしきい値ないしは限界値を、時間しきい値と組み合わせることが特に可能である。実施例において、これは、作動期間tactを超えていなくとも、遮断の開始に対する種々の基準の1つが満たされているとき、例えば車両減速度が限界値dlim,1以下に低下したとき直ちに、遮断過程が開始されることを意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバにより設定されたブレーキ操作がブレーキ支援システムにより増強される、車両内のブレーキ支援システムによる非常ブレーキ過程の実行方法において、
ブレーキ力増強の遮断が、少なくとも2つの段階内において、第1の状態変数の限界値(dlim,1)に到達した第1の段階内において、ブレーキ力増強が低下され、他の状態変数の限界値(dlim,2)に到達した他の段階内において、ブレーキ力増強が0まで低下されるように実行されることを特徴とする非常ブレーキ過程の実行方法。
【請求項2】
前記状態変数が、車両減速度またはこれに関連する変数であることを特徴とする請求項1に記載の実行方法。
【請求項3】
前記他の状態変数限界値(dlim,2)に到達後直ちに、ブレーキ力増強が遮断されることを特徴とする請求項1または2に記載の実行方法。
【請求項4】
前記ブレーキ支援システムが所定の作動期間(tact)の間投入された後に、ブレーキ力増強の遮断が実行され、ドライバにより設定されたブレーキ操作が前記ブレーキ支援システムにより増強されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の実行方法。
【請求項5】
前記作動期間(tact)が固定のしきい値として設定されることを特徴とする請求項4に記載の実行方法。
【請求項6】
前記作動期間(tact)が、車両状態変数の関数として、特に車両速度の関数として決定されることを特徴とする請求項4に記載の実行方法。
【請求項7】
前記ブレーキ力増強の遮断が、所定の関数に従って、特にランプ状に実行されることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の実行方法。
【請求項8】
前記ブレーキ支援システムを介してのブレーキ力増強の遮断前に、一定の追加減速度が発生されることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の実行方法。
【請求項9】
前記ブレーキ支援システムを作動化させる非常状況の検出が圧力センサなしに行われることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の実行方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の方法を実施するための制御装置。

【図1】
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【公表番号】特表2013−521179(P2013−521179A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555338(P2012−555338)
【出願日】平成23年1月10日(2011.1.10)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050218
【国際公開番号】WO2011/107301
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】