説明

非常用エレベータ制御システム

【課題】エレベータ利用者の安全を確保するための異常動作監視装置によって消防活動が阻害されるのを防止すること。
【解決手段】1次消防運転スイッチ6(非常運転スイッチ)が「入」に切り換わると、エレベータ運転制御手段9は1次消防運転制御を実行する。異常動作監視機能無効化手段14は、1次消防運転中にドア安全回路短絡検出手段12が運転停止指令を出力したとしてもこれをキャンセルする(開門発車防止手段13からの運転停止指令はキャンセルしない)。また、2次消防運転スイッチ7(非常運転スイッチ)が「入」に切り換わると、エレベータ運転制御手段9は2次消防運転制御を実行する。異常動作監視機能無効化手段14は、2次消防運転中にドア安全回路短絡検出手段12又は開門発車防止手段13のいずれが運転停止指令を出力したとしてもこれをキャンセルする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転制御プログラムとは独立の監視制御プログラムに基づき動作する異常動作監視装置を備えた非常用エレベータ制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
非常用エレベータとは、建築基準法第34条の規定に基づき、高さ31mを超える建築物に設置が義務づけられたエレベータのことである。この非常用エレベータは、平常時には通常エレベータとして利用することが可能であるが、火災時には消火活動及び救出活動に用いられるものであるため、通常エレベータとは異なる仕様に基づき設置されている。
【0003】
例えば、必要な消火機材及び消防隊員を運ぶことができるようにするため、乗りかごは最小寸法及び最小定員が規定されており、避難階(通常は1階)の乗場には非常用エレベータを呼び戻すための「呼び戻し釦」の設置が規定されている。また、乗りかご内には専用キーによって操作可能な消防運転スイッチが設置され、この消防運転スイッチが「切」から「入」に切り換えられると、他階床の乗場呼びの有無にかかわらず乗りかごを目的階に直行させること(1次消防運転)、あるいは戸開状態のままで乗りかごを昇降させること(2次消防運転)などができるように運転制御プログラムが作成されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−247076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、最近は、通常エレベータ又は非常用エレベータの別を問わず、エレベータ利用者の安全を確実に確保するために、運転制御プログラムから独立した監視制御プログラムに基づき機能する異常動作監視装置を設けることが検討されている。この異常動作監視装置は、監視すべきエレベータ異常動作が予め設定されているものであり、エレベータ異常動作の発生を検出した場合に、エレベータ運転制御回路に対して運転停止指令を出力し、運転制御状態の如何にかかわらずエレベータを強制的に停止させるものである。
【0005】
このような異常動作監視装置として、例えば、かごドア及び全階床の乗場ドアのうちのいずれかのドアスイッチが短絡されていることを検出した場合に運転停止指令を出力するドア安全回路短絡検出装置がある。
【0006】
また、別の異常動作監視装置として、例えば、乗りかごがかごドア開放状態で走行しようとした場合に運転停止指令を出力する開門発車防止装置がある。この開門発車防止装置は、戸開走行防止のための保護装置の一つである。
【0007】
ところが、火災発生中という非常事態において、上記のような異常動作監視装置が運転制御プログラムとは独立の監視制御プログラムに基づき機能した場合には、消防士が乗った乗りかごが階床間で停止し、消防士の消防活動が阻害されてしまうという不都合が発生する虞がある。
【0008】
例えば、ドア安全回路短絡検出装置が検出するドアスイッチの短絡状態とは、主としてスイッチ接点の溶着やイタズラによる異物の挟み込み等に起因して発生するものである。しかし、このようなドアスイッチの短絡が発生しても乗りかごの走行自体に支障をきたすわけではないため、たとえドア安全回路短絡検出装置が異常を検出したとしても消防運転を停止させるべきではない。
【0009】
また、2次消防運転は緊急度が非常に高い運転であり、もともと消防士が乗った乗りかごが戸開状態であったとしても走行を許可することを前提とするものであるから、たとえ開門発車防止装置がかごドアの開放状態を検出したとしてもその運転を停止させるべきではない。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、エレベータ利用者の安全を確保するための異常動作監視装置によって消防活動が阻害されるのを防止できるようにした非常用エレベータ制御システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するための手段として、乗りかごの操作盤内部に配設された非常運転スイッチと、前記非常運転スイッチからの操作信号に基づき、非常運転制御を行うエレベータ運転制御手段と、所定のエレベータ異常動作に対する監視制御プログラムが運転制御プログラムとは独立して予め設定されており、このエレベータ異常動作の発生を検出した場合に前記監視制御プログラムに基づき前記エレベータ運転制御手段に対して運転停止指令を出力する異常動作監視手段と、前記非常運転スイッチからの操作信号を入力している場合に、前記異常動作監視手段が出力した運転停止指令を無効にする異常動作監視機能無効化手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エレベータ利用者の安全を確保するための異常動作監視装置によって消防活動が阻害されるのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る非常用エレベータ制御システムの構成図である。この図において、昇降路内に昇降動可能に配設された乗りかご1の上部に、主ロープ2の一端側が取り付けられている。主ロープ2の中間部は巻上機3に巻回され、その他端側はカウンタウェイト4に取り付けられている。
【0014】
乗りかご1の室内には操作盤5が設置されており、この操作盤5内部に非常運転スイッチとしての1次消防運転スイッチ6及び2次消防運転スイッチ7が設けられている。なお、操作盤5には専用キーでのみ開放可能な扉が設けられており、一般のエレベータ利用者がこれらの消防運転スイッチを操作することができないようになっている。
【0015】
1次消防運転スイッチ6又は2次消防運転スイッチ7からの操作信号は、非常用エレベータ制御装置8内のエレベータ運転制御手段9に出力されるようになっている。エレベータ運転制御手段9は、これらの消防運転スイッチからの操作信号に基づき1次消防運転又は2次消防運転を実行し、巻上機3を駆動制御するようになっている。
【0016】
そして、非常用エレベータ制御装置8に対して安全装置10が並設されている。この安全装置10は、ドア安全回路短絡検出手段12及び開門発車防止手段13を含んで構成される異常動作監視手段11と、異常動作監視機能無効化手段14とを有している。
【0017】
ドア安全回路短絡検出手段12は、乗りかご1のかごドア及び全階床の乗場ドアのうちのいずれかのドアスイッチが短絡されていることを検出した場合に、エレベータ運転制御手段9に対する運転停止指令を、運転制御プログラムとは独立した監視制御プログラムに基づき出力するようになっている。この場合のドアスイッチの短絡は、例えば、エレベータ運転制御手段9が戸開指令を出力している状態であるにもかかわらず、各ドアスイッチの直列接続により構成されるドア安全回路の電圧レベルが戸閉状態のレベルであることを検知することで検出することができる。
【0018】
開門発車防止手段13は、乗りかご1がかごドア開放状態で走行しようとした場合に、エレベータ運転制御手段9に対する運転停止指令を、運転制御プログラムとは独立した監視制御プログラムに基づき出力するようになっている。この場合、乗りかご1がかごドア開放状態で走行しようとすることは、例えば、上記のドア安全回路の電圧レベルが戸閉状態のレベルになっていないにもかかわらず、乗りかご1が走行開始したことを検知することで検出することができる。
【0019】
異常動作監視機能無効化手段14は、1次消防運転スイッチ6及び2次消防運転スイッチ7からの操作信号を入力できるようになっており、操作信号を入力した場合にはその信号の種類に応じて、ドア安全回路短絡検出手段12、開門発車防止手段13から出力される運転停止指令を無効に、すなわちキャンセルするようになっている。
【0020】
つまり、異常動作監視機能無効化手段14は、1次消防運転スイッチ6及び2次消防運転スイッチ7のいずれからも操作信号を入力しない場合(通常運転の場合)には、ドア安全回路短絡検出手段12、開門発車防止手段13のいずれからの運転停止指令についてもキャンセルすることはなく、これをそのまま通過させてエレベータ運転制御手段9に出力する。したがって、ドア安全回路短絡検出手段12、開門発車防止手段13の機能が有効に働きエレベータ利用者の安全が確保される。
【0021】
一方、異常動作監視機能無効化手段14が1次消防運転スイッチ6からの操作信号を入力した場合(1次消防運転の場合)は、ドア安全回路短絡検出手段12からの運転停止指令のみをキャンセルし、開門発車防止手段13からの運転停止指令についてはそのまま通過させてエレベータ運転制御手段9に出力するようになっている。これは、ドア安全回路短絡検出手段12がドアスイッチの短絡を検出したとしても乗りかご1の走行は可能であるため1次消防運転を続行させるべきである反面、1次消防運転は2次消防運転ほどには緊急度の高い運転モードではないため、開門発車防止手段13からの運転停止指令についてはキャンセルすることなく有効にしておくことが、乗場ホールあるいは乗りかご1内に乗っている消防士やエレベータ利用者の安全上好ましいからである。
【0022】
また、異常動作監視機能無効化手段14が2次消防運転スイッチ7からの操作信号を入力した場合(2次消防運転の場合)は、ドア安全回路短絡検出手段12及び開門発車防止手段13のいずれからの運転停止指令についてもこれをキャンセルするようになっている。緊急度の非常に高い2次消防運転が、これらからの運転停止指令によって中断されて消防活動に支障をきたすようでは、非常用エレベータ本来の趣旨が損なわれるからである。
【0023】
次に、図1の動作を図2のフローチャートを参照しつつ説明する。エレベータ運転制御手段9が通常運転制御を行っている場合、異常動作監視機能無効化手段14は、ドア安全回路短絡検出機能及び開門発車防止機能の双方を有効にする(ステップ1)。そして、1次消防運転スイッチ6及び2次消防運転スイッチ7のいずれも操作されずに「切」のままであれば(ステップ2,3の判別結果がいずれも「NO」の場合)、そのまま通常運転制御が継続され、双方の機能が有効に維持される。
【0024】
しかし、上記のような通常運転制御が行われている間に建物に火災が発生すると、火災通報により駆けつけた消防士は避難階の乗場に設置されている「呼び戻し釦」を押して乗りかご1を呼び戻し、この乗りかご1内に乗り込む。そして、消防士は、施錠されている操作盤5の扉を専用キーにより解錠して開放し、例えば1次消防運転スイッチ6の方を「入」に切り換える(ステップ2の「YES」)。これにより、1次消防運転スイッチ6の操作信号がエレベータ運転制御手段9及び異常動作監視機能無効化手段14に出力される。
【0025】
1次消防運転スイッチ6からの操作信号の入力により、異常動作監視機能無効化手段14は、ドア安全回路短絡検出機能を無効にすると共に、開門発車防止機能を有効にし、また、エレベータ運転制御手段9は、消防士のかご呼び釦の操作により1次消防運転制御を実行する(ステップ4)。
【0026】
すなわち、エレベータ運転制御手段9は、もしそれまでに登録済みのかご呼びあるいは乗場呼びが有れば、これらの呼びを全てキャンセルした後、消防士のかご呼びのみに応答して目的階に直行する。また、異常動作監視機能無効化手段14は、もしドア安全回路短絡検出手段12が運転停止指令を出力した場合には、この運転停止指令をキャンセルするようにし、一方、開門発車防止手段13が運転停止指令を出力した場合には、この運転停止指令をキャンセルすることなくそのままエレベータ運転制御手段9に出力する。したがって、エレベータ運転制御手段9は、乗りかご1を戸開状態のまま走行させることはできないが、ドアスイッチの短絡が検出されたとしても、そのまま支障なく目的階に向かわせることができる。
【0027】
このような1次消防運転制御は、消防士が1次消防運転スイッチ6を「入」から「切」に切り換えない限り継続され(ステップ5の「NO」)、消防士が消防活動を終えて1次消防運転スイッチ6を「入」から「切」に切り換えた時点で終了する(ステップ5の「YES」)。この後は、エレベータ保守会社の保守作業員が、火災によりエレベータ設備に損傷を受けた個所がないかどうか等を点検して(ステップ6)、通常運転制御に復旧させるようにする。
【0028】
また、消防士が2次消防運転スイッチ7の方を「入」に切り換えると(ステップ3の「YES」)、2次消防運転スイッチ7の操作信号がエレベータ運転制御手段9及び異常動作監視機能無効化手段14に出力される。
【0029】
2次消防運転スイッチ7からの操作信号の入力により、異常動作監視機能無効化手段14は、ドア安全回路短絡検出機能及び開門発車防止機能の双方を無効にし、また、エレベータ運転制御手段9は、消防士のかご呼び釦の操作により2次消防運転制御を実行する(ステップ7)。
【0030】
すなわち、エレベータ運転制御手段9は、もしそれまでに登録済みのかご呼びあるいは乗場呼びが有れば、これらの呼びを全てキャンセルした後、消防士のかご呼びのみに応答して目的階に直行する。また、異常動作監視機能無効化手段14は、もしドア安全回路短絡検出手段12又は開門発車防止手段13のいずれかが運転停止指令を出力したとしても、これらの運転停止指令をキャンセルする。
【0031】
したがって、エレベータ運転制御手段9は、たとえドアスイッチの短絡が検出されたとしても、あるいは乗りかご1が戸開状態のままであったとしても、そのまま目的階に向かわせることができ、2次消防運転制御を支障なく実行することができる。
【0032】
このような2次消防運転制御は、消防士が2次消防運転スイッチ7を「入」から「切」に切り換えない限り継続され(ステップ8の「NO」)、消防士が消防活動を終えて2次消防運転スイッチ7を「入」から「切」に切り換えた時点で終了する(ステップ8の「YES」)。この後は、エレベータ保守会社の保守作業員が、火災によりエレベータ設備に損傷を受けた個所がないかどうか等を点検して(ステップ6)、通常運転制御に復旧させるようにする。
【0033】
以上のように、本実施形態の構成によれば、通常運転中にエレベータが異常な動作をした場合には異常動作監視手段の機能によって直ちにエレベータの運転を停止させることができ、一方、消防運転中にはこの異常動作監視手段の機能によって消防活動が阻害されるのを防止することができる。
【0034】
なお、本実施形態では、異常動作監視手段11がドア安全回路短絡検出手段12及び開門発車防止手段13を含む構成である場合につき説明したが、勿論その他の手段を含む構成であってもよい。例えば、異常動作監視手段11に地震管制運転制御手段を含ませる構成とすることもできる。この場合には、消防運転中に地震が発生したとしても、この地震管制運転制御手段が出力する運転停止指令を異常動作監視機能無効化手段14がキャンセルするので、やはり消防活動が阻害されるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態に係る非常用エレベータ制御システムの構成図。
【図2】図1の動作を説明するためのフローチャート。
【符号の説明】
【0036】
1:乗りかご
2:主ロープ
3:巻上機
4:カウンタウェイト
5:操作盤
6:1次消防運転スイッチ(非常運転スイッチ)
7:2次消防運転スイッチ(非常運転スイッチ)
8:非常用エレベータ制御装置
9:エレベータ運転制御手段
10:安全装置
11:異常動作監視手段
12:ドア安全回路短絡検出手段
13:開門発車防止手段
14:異常動作監視機能無効化手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗りかごの操作盤内部に配設された非常運転スイッチと、
前記非常運転スイッチからの操作信号に基づき、非常運転制御を行うエレベータ運転制御手段と、
所定のエレベータ異常動作に対する監視制御プログラムが運転制御プログラムとは独立して予め設定されており、このエレベータ異常動作の発生を検出した場合に前記監視制御プログラムに基づき前記エレベータ運転制御手段に対して運転停止指令を出力する異常動作監視手段と、
前記非常運転スイッチからの操作信号を入力している場合に、前記異常動作監視手段が出力した運転停止指令を無効にする異常動作監視機能無効化手段と、
を備えたことを特徴とする非常用エレベータ制御システム。
【請求項2】
前記異常動作監視手段は、かごドア及び全階床の乗場ドアのうちのいずれかのドアスイッチが短絡されていることを検出した場合に前記運転停止指令を出力するドア安全回路短絡検出手段、並びに前記乗りかごがかごドア開放状態で走行しようとした場合に前記運転停止指令を出力する開門発車防止手段を含むものである、
ことを特徴とする請求項1記載の非常用エレベータ制御システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−1196(P2011−1196A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195435(P2010−195435)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【分割の表示】特願2007−230085(P2007−230085)の分割
【原出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】