説明

非接触ストレス評価システムおよび非接触ストレス評価方法並びにそのプログラム

【課題】被験者および作業者の負担を減らし、かつ客観的にストレスを評価することが可能な非接触ストレス評価システムを提供する。
【解決手段】椅子に取り付けられると共に、椅子に着座する被験者の前方から当該被験者の腹部に向けて第1のマイクロ波を放射し、第1のマイクロ波の反射波に基づいて被験者の腹部の時間経過に応じた変位を計測する。そして、被験者の腹部の時間経過に応じた変位に基づいて被験者の呼吸数を検出し、その呼吸数に基づいて被験者のストレス評価を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触でメンタルストレスを評価する非接触ストレス評価システムおよび非接触ストレス評価方法並びにそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ストレスを評価する方法として、個人の心理状態を分析してストレスを評価する方法や、ストレスホルモン等のマーカを測定する方法などが知られている。ストレスにより変化する自律神経機能により心拍、血圧、呼吸、発汗等の変化が生じ、これらを指標としたストレス評価は、連続的な測定が可能、客観的な評価が可能等の利点を有する。
【0003】
特に近年、心拍の変動指標を用いることにより、ストレスを評価する研究は数多く発表されており、例えば、心電図や血圧計、さらには心拍出量計、超音波血流計、パルスオキシレータを用いる方法が挙げられる。なお、特許文献1には心拍の変動指標を用いてストレスを評価する技術について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−253538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような心電図や血圧計、心拍出量計、超音波血流計、パルスオキシレータ(以下、心電図等とする)を用いて心拍の変動指標を判定してストレスを評価する方法は、それらの心電図等の情報を、被験者に直接センサを接触させて測定するため、被験者が拘束された状態での測定が必要である。
他方、心拍以外にも呼吸活動は様々な心的要因に影響を受けやすいことから呼吸を評価指標としてストレス評価する方法も考えられるが、呼吸を計測する方法としては、呼吸流量を計測する方法や胸部あるいは腹部の外径変化を捉える方法、サーミスタを鼻孔に装着し温度変化を見る方法などであり、何れの方法も接触および拘束性による作業者への負担が増すといった欠点があった。
【0006】
そこでこの発明は、被験者および作業者の負担を減らし、かつ客観的にストレスを評価することが可能な非接触ストレス評価システムおよび非接触ストレス評価方法並びにそのプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、椅子に取り付けられると共に、前記椅子に着座する被験者の前方から当該被験者の腹部に向けて第1のマイクロ波を放射する第1マイクロ波放射装置と、前記第1のマイクロ波の反射波に基づいて前記被験者の腹部の時間経過に応じた変位を計測する腹部変位計測部と、前記被験者の腹部の時間経過に応じた変位に基づいて前記被験者の呼吸数を検出する呼吸数検出部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また本発明は、前記椅子に取り付けられると共に、前記被験者の心肺部に向けて第2のマイクロ波を放射する第2マイクロ波放射装置と、前記第2のマイクロ波の反射波に基づいて前記被験者の心肺部の時間経過に応じた変位を計測する心肺部変位計測部と、前記被験者の心肺部の時間経過に応じた変位に基づいて前記被験者の心拍数を検出する心拍数検出部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また本発明は、前記被験者の心肺部の時間経過に応じた変位に基づいて、当該心肺部の時間経過に応じた変位が最小値から最大値に達する間隔により特定される吸気時間と、当該変位の最小値と最大値の差を示す換気量とを算出し、前記換気量を前記吸気時間で除することにより前記被験者の呼吸時の吸い込み速度を算出する吸い込み速度算出部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また本発明は、前記被験者の心肺部の時間経過に応じた変位を周波数変換し、低周波数領域においてパワースペクトル密度の最も高い低周波数成分値(LF)と、高周波数領域においてパワースペクトル密度の最も高い高周波数成分値(HF)とを求めるLF・HF算出部と、前記被験者の心肺部の時間経過に応じた変位に基づいて、当該心肺部の時間経過に応じた変位が最小値から最大値に達して再び最小値となるまでの間隔により特定される呼吸時間と、当該心肺部の時間経過に応じた変位が最小値から最大値に達する間隔により特定される吸気時間とを算出し、前記吸気時間を前記呼吸時間で除することにより1呼吸あたりの吸気時間の割合を示す吸気割合を算出する吸気割合算出部と、前記1呼吸あたりの吸気時間の割合、前記吸い込み速度、前記低周波数成分値、前記高周波数成分値、それぞれについての前記被験者の人体へ刺激を与えた際の値と、人体が安静である時の値の比を用いて、アミラーゼ変化量の推定値を算出するアミラーゼ変化量推定値算出部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記呼吸数、前記心拍数、前記吸い込み速度、前記アミラーゼ変化量の推定値、の何れか一つまたは複数を用いてストレス評価を行うストレス評価部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、非接触で検出した腹部の変位に基づいて、被験者のストレス評価を、作業者の負担を減らすとともに、かつ客観的に行うことができる。
また本発明によれば、非接触で検出した心肺部の変位に基づいて、被験者のストレス評価を、作業者の負担を減らすとともに、かつ客観的に行うことができる。
また本発明によれば、非接触で検出した被験者の呼吸の吸い込み速度に基づいて、被験者のストレス評価を、作業者の負担を減らすとともに、かつ客観的に行うことができる。
また本発明によれば、非接触で検出した被験者のアミラーゼ変化量の推定値に基づいて、被験者のストレス評価を、作業者の負担を減らすとともに、かつ客観的に行うことができる。
また本発明によれば、非接触で検出した腹部の変位、非接触で検出した心肺部の変位、接触で検出した被験者の呼吸の吸い込み速度、非接触で検出した被験者のアミラーゼ変化量の推定値の何れか一つまたは複数を用いて、被験者のストレス評価を、作業者の負担を減らすとともに、かつ客観的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】非接触ストレス評価システムの構成を示すブロック図である。
【図2】ストレス評価装置の概略ブロック図である。
【図3】非接触ストレス評価システムの処理フローを示す図である。
【図4】呼吸の定義を示す図である。
【図5】聴覚刺激時と安静時の心拍数と呼吸数とを表すグラフである。
【図6】聴覚刺激時と安静時のLF/HFの値を表すグラフである。
【図7】聴覚刺激時と安静時の吸い込み速度の値を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態による非接触ストレス評価システムを図面を参照して説明する。
図1は同実施形態による非接触ストレス評価システムの構成を示すブロック図である。
この図において、符号1は非接触ストレス評価システムである。また符号10は椅子、符号30は椅子に着座する被験者を示す。そして、当該非接触ストレス評価システム1は、椅子に取り付けられると共に、椅子に着座する被験者の前方から当該被験者の腹部に向けて第1のマイクロ波を放射する第1マイクロ波放射装置21を備えている。また非接触ストレス評価システム1は、椅子に取り付けられると共に、着座する被験者の背面から心肺部に向けて第2のマイクロ波を放射する第2マイクロ波放射装置22を備えている。本実施形態においてマイクロ波放射装置22は被験者の背後から当該被験者の心肺部に一致する位置に向けて第2のマイクロ波を送出する。
また非接触ストレス評価システム1は、コントロールユニット11、直流増幅器12、A/D(Analog/Digital)コンバータ13、ストレス評価装置14を備えている。
【0015】
図2はストレス評価装置の概略ブロック図である。
この図で示すようにストレス評価装置14は、腹部変位計測部141、呼吸数検出部142、心肺部変位計測部143、心拍数検出部144、LF・HF算出部145、吸い込み速度算出部146、吸気割合算出部147、アミラーゼ変化量推定値算出部148を備えている。
腹部変位計測部141は、第1マイクロ波放射装置21が被験者へ放射したマイクロ波についての反射波を示す信号を、コントロールユニット11、直流増幅器12、A/Dコンバータ13を介して入力し、当該信号から、被験者の腹部の時間経過に応じた変位を計測して出力する。
また呼吸数検出部142は、腹部変位計測部141より被験者の腹部の時間経過に応じた変位を入力して、単位時間あたりの呼吸数を算出し、当該呼吸数を出力する。
【0016】
また心肺部変位計測部143は、第2マイクロ波放射装置22が被験者へ放射したマイクロ波についての反射波を示す信号を、コントロールユニット11、直流増幅器12、A/Dコンバータ13を介して入力し、当該信号から、被験者の心肺部の時間経過に応じた変位を計測して出力する。
心拍数検出部144は、心肺部変位計測部143より被験者の心肺部の時間経過に応じた変位を入力して、単位時間(例えば1分)当たりの心拍数を算出し、当該心拍数を出力する。
【0017】
LF・HF算出部145は、被験者の心肺部の時間経過に応じた変位を周波数変換し、低周波数領域においてパワースペクトル密度の最も高い低周波数成分値(LF)と、高周波数領域においてパワースペクトル密度の最も高い高周波数成分値(HF)とを求める。
吸い込み速度算出部146は、被験者の心肺部の時間経過に応じた変位に基づいて、当該心肺部の時間経過に応じた変位が最小値から最大値に達する間隔により特定される吸気時間と、当該変位の最小値と最大値の差を示す換気量とを算出し、換気量を吸気時間で除することにより被験者の呼吸時の吸い込み速度を算出する。
【0018】
吸気割合算出部147は、被験者の心肺部の時間経過に応じた変位に基づいて、当該心肺部の時間経過に応じた変位が最小値から最大値に達して再び最小値となるまでの間隔により特定される呼吸時間と、当該心肺部の時間経過に応じた変位が最小値から最大値に達する間隔により特定される吸気時間とを算出し、吸気時間を呼吸時間で除することにより1呼吸あたりの吸気時間の割合を示す吸気割合を算出する。
吸気割合算出部147は、1呼吸あたりの吸気時間の割合、吸い込み速度、低周波数成分値、高周波数成分値、それぞれについての被験者の人体へ刺激を与えた際の値と、人体が安静である時の値の比を用いて、アミラーゼ変化量の推定値を算出する。
アミラーゼ変化量推定値算出部148は、1呼吸あたりの吸気時間の割合、吸い込み速度、低周波数成分値(LF)、高周波数成分値(HF)、それぞれについての被験者の人体へ刺激を与えた際の値と、人体が安静である時の値の比を用いて、アミラーゼ変化量の推定値を算出する。
【0019】
そして、ストレス評価部149は、呼吸数検出部142の算出した呼吸数に基づいて被験者のストレス評価を行う。
またストレス評価部149は、LF・HF算出部145の算出したLFやHFに基づいて被験者のストレス評価を行う。
またストレス評価部149は、吸い込み速度算出部146の算出した吸い込み速度に基づいて被験者のストレス評価を行う。
【0020】
またストレス評価部149は、アミラーゼ変化量推定値算出部148の算出したアミラーゼ変化量の推定値に基づいて被験者のストレス評価を行う。
またストレス評価部149は、呼吸数検出部142の算出した呼吸数、心拍数検出部144の算出した心拍数、LF・HF算出部145の算出したLFやHF、吸い込み速度算出部146の算出した吸い込み速度、アミラーゼ変化量の推定値、の何れか複数を用いて被験者のストレス評価を行う。
【0021】
このように非接触ストレス評価システムは、被験者および作業者の負担を減らし、かつ客観的にストレスを評価する。
【0022】
図3はストレス評価装置の処理フローを示す図である。
図4は呼吸の定義を示す図である。
次に非接触ストレス評価システムの処理の詳細について順を追って説明する。
まず、コントロールユニット11が、第1マイクロ波放射装置21によるマイクロ波放出と、その反射波の受信を制御する。第1マイクロ波放射装置21は、人体30の腹部に照射した第1のマイクロ波の反射波を受信する。そして、第1マイクロ波放射装置21は、受信した反射波の信号をコントロールユニット11へ出力する。第1マイクロ波の反射波の信号はコントロールユニット11から直流増幅器12に出力されると共に増幅される。そしてA/Dコンバータ13がその信号を入力する。またA/Dコンバータ13は第1マイクロ波の反射波の信号をA/D変換してストレス評価装置14へ出力する。
【0023】
他方、コントロールユニット11は、第2マイクロ波放射装置22によるマイクロ波放出と、その反射波の受信を制御する。本実施形態においては、第2マイクロ波放射装置22は、人体30の心肺部に当該人体30の背面から第2のマイクロ波を照射し、その第2のマイクロ波の反射波を受信する。そして、第2マイクロ波放射装置22は、受信した反射波の信号をコントロールユニット11へ出力する。第2のマイクロ波の反射波の信号はコントロールユニット11から直流増幅器12に出力されると共に増幅される。そしてA/Dコンバータ13がその信号を入力する。またA/Dコンバータ13は第2のマイクロ波の反射波の信号をA/D変換してストレス評価装置14へ出力する。
【0024】
次にストレス評価装置14において、腹部変位計測部141が、第1のマイクロ波の反射波の信号を入力する(ステップS101)。当該信号は腹部変位計測部141内においてバンドバスフィルタをかけることでノイズが取り除かれる。そして腹部変位計測部141は入力した信号から被験者の腹部の時間経過に応じた変位を検出し、計測時刻からの経過時間と腹部の変位の対応関係をメモリ等に記録していく。なお、ストレス評価装置14の腹部変位計測部141は、例えば、6分間の間、第1のマイクロ波の反射波の信号を入力する。この6分間の間の途中2分〜4分の間、被験者には聴覚刺激が与えられている。当該聴覚刺激は、本実施形態においては、スピーカやヘッドホンなどから発する95dBのノイズ刺激である。
そしてユーザ操作に基づく停止信号をストレス評価装置14が検出すると、腹部変位計測部141は腹部変位計測終了の信号を呼吸数検出部142へ通知する。
【0025】
次に呼吸数検出部142はメモリから、腹部変位計測部141の記録した、計測時刻からの経過時間と腹部の変位の対応関係を読み取る。そして呼吸数検出部142は、読み取った計測時刻からの経過時間と変位の対応関係が示す波形に基づいて変位の最大値と最小値とを算出し、計測開始から計測終了までの6分間の間の1分毎に、腹部の変位が最大となる回数を算出し、その回数を呼吸数として出力する(ステップS102)。そして、呼吸数検出部142は分毎の呼吸数の値をメモリ内の呼吸数テーブルに記録する。
【0026】
他方、ストレス評価装置14がユーザ操作に基づく停止信号を検出するまでには、心肺部変位計測部143が、第2のマイクロ波の反射波の信号を入力する(ステップS103)。当該信号は心肺部変位計測部143内においてバンドバスフィルタをかけることでノイズが取り除かれる。そして心肺部変位計測部143は、入力した信号から、被験者の背面の心肺部の高さの位置(以下単に心肺部と呼ぶ)における時間経過に応じた変位を検出し、計測時刻からの経過時間と心肺部の変位の対応関係をメモリ等に記録していく。そしてユーザ操作に基づく停止信号をストレス評価装置14が検出すると、心肺部変位計測部143は心肺部変位計測終了の信号を呼吸数検出部142へ通知する。
【0027】
次に心拍数検出部144は、メモリから心肺部変位計測部143の記録した「計測時刻からの経過時間と腹部の変位の対応関係」の情報を読み取る。そして心拍数検出部144は、読み取った計測時刻からの経過時間と変位の対応関係が示す波形に基づいて、変位の最大値と最小値とを算出し、計測開始から計測終了までの6分間の間の1分毎に、心肺部の変位が最大となる回数を算出し、その回数を心拍数として出力する(ステップS104)。そして、呼吸数検出部142は6分間の間の1分毎の心拍数の値をメモリ内の心拍数テーブルに記録する。
【0028】
また、LF・HF算出部145は、心肺部変位計測部143がメモリに記録した、計測時刻からの経過時間と心肺部の変位の対応関係をメモリから読み取る。そしてLF・HF算出部145は、当該計測時刻からの経過時間と心肺部の変位の対応関係の情報が示す波形から、例えば60秒間の時間内における連続する各心拍の時間間隔(PP間隔)の時系列を求める。この時系列は、800ms、815ms,798ms…などの時間間隔で表され、一定でない。この時系列のゆらぎが心拍数変動指標(HRV;Heart Rate Variability)であり、LFはゆらぎの低周波成分(0.004−0.15Hz),HFは高周波成分(0.15−0.4Hz)を示す。LFは主として交感神経(副交感神経も含む)、HFは副交感系の活性を表している。
【0029】
ここでPP間隔は一定ではないため、このまま周波数解析を行うことはできない。従ってLF/HF算出部145は、PP間隔の時系列を多項式で補完し、その後、その多項式を用いて一定間隔(例えば100Hz)でリサンプリングを行う。当該サンプリングを行う理由は、フーリエ解析などの周波数解析において、サンプリング間隔が一定であることが求められるためである。PP間隔は、第2マイクロ波放射装置22によるマイクロ波放出の反射波からでも、またはフォトリフレクターの出力波形からでも、ほぼ同様の手法で求めることができる。
【0030】
そして、LF・HF算出部145は、PP間隔の時系列を多項式で補完し、その補完結果をフーリエ解析し、PP間隔の周波数解析を行ってパワースペクトルを求める。そして、LF・HF算出部145は、パワースペクトルを0.004Hz−0.15Hzの範囲で積分してLF(低周波数成分値)を算出し、またパワースペクトルを0.15−0.4Hzの範囲で積分してHF(高周波数成分値)を得る。
【0031】
そして、LF・HF算出部145は、1秒経過する毎に次の60秒間の時間内における連続する各心拍の時間間隔(PP間隔)の時系列から、同様に、順次LF,HFを算出する。そしてLF・HF算出部145は、計測時刻からの時間経過(1秒毎)に応じたLFとHFとをLF・HFテーブルに記録する。
またLF・HF算出部145は、計測時刻からの時間経過に応じたLFとHFとを用いて、計測時刻からの時間経過に応じたLF÷HFを算出し、計測時刻からの経過時間と、LF÷HFの値の対応関係をLF・HFテーブルに記録する(ステップS105)。
【0032】
また吸い込み速度算出部146は、心肺部変位計測部143がメモリに記録した、計測時刻からの経過時間と心肺部の変位の対応関係をメモリから読み取る。そして吸い込み速度算出部146は、計測時刻からの経過時間と変位の対応関係が示す波形に基づいて1呼吸についての変位の最大値(tmax,vmax)と最小値(tmin,vmin)とを算出する(図4参照)。なお、tは経過時間を示し、vは変位を示している。なお1呼吸は、例えば最小値(tmin,vmin)から、次の最小値(tmin+1,vmin+1)までとする(図4参照)。そして、
min+1−tmin=呼吸時間Ttとする(図4参照)。
また、
max+1−vmin=換気量Viとする(図4参照)。
【0033】
吸い込み速度算出部146は、1呼吸についての呼吸時間Ttと、換気量Viとを算出する。また吸い込み速度算出部146は、換気量Vi÷呼吸時間Ttの式を用いて当該1呼吸についての吸い込み速度(Driving)を算出する。そして、吸い込み速度算出部146は、この算出を繰り返し、全ての呼吸についての吸い込み速度(Driving)を算出する。そして、吸い込み速度算出部146は、呼吸が行われた際の計測時刻を基準とした経過時間と、その呼吸についての吸い込み速度(Driving)との対応関係を、吸い込み速度テーブルに記録する。また、吸い込み速度算出部146は、計測時刻からの1分毎の吸い込み速度(Driving)の平均値を算出して、吸い込み速度テーブルに記録する(ステップS106)。
【0034】
また吸気割合算出部147は、心肺部変位計測部143がメモリに記録した、計測時刻からの経過時間と心肺部の変位の対応関係をメモリから読み取る。そして吸気割合算出部147は、計測時刻からの経過時間と変位の対応関係が示す波形に基づいて1呼吸についての変位の最大値(tmax,vmax)と最小値(tmin,vmin)とを算出する。ここで上記と同様に、tは経過時間を示し、vは変位を示している。そして、
min+1−tmin=呼吸時間Ttとする。
また、
max−tmin=吸気時間Tiとする。
【0035】
吸気割合算出部147は、1呼吸についての呼吸時間Ttと、吸気時間Tiとを算出する。また吸気割合算出部147は、吸気時間Ti÷呼吸時間Ttの式を用いて当該1呼吸についての吸気の割合(Timing)を算出する。そして、吸気割合算出部147は、この算出を繰り返し、全ての呼吸それぞれについての吸気の割合(Timing)を算出する。そして、吸気割合算出部147は、全ての呼吸それぞれについて、呼吸が行われた際の計測時刻を基準とした経過時間と、その呼吸についての吸気の割合(Timing)との対応関係を、吸気割合テーブルに記録する。また、吸気割合算出部147は、計測時刻からの1分毎の吸気の割合(Timing)の平均値を算出して、吸気割合テーブルに記録する(ステップS107)。
【0036】
また次にアミラーゼ変化量推定値算出部148は、LF・HF算出部145の算出した“時間経過に応じたLFとHFの値”をLF・HFテーブルから読み取る。
またアミラーゼ変化量推定値算出部148は、吸い込み速度算出部146の算出した“呼吸が行われた際の計測時刻を基準とした経過時間と、その呼吸についての吸い込み速度(Driving)との対応関係”を吸い込み速度テーブルから読み取る。
またアミラーゼ変化量推定値算出部148は、吸気割合算出部147の算出した“全ての呼吸それぞれについて、呼吸が行われた際の計測時刻を基準とした経過時間と、その呼吸についての吸気の割合(Timing)との対応関係”を吸気割合テーブルから読み取る。
【0037】
そしてアミラーゼ変化量推定値算出部148は、呼吸が行われた際の計測時刻を基準とした経過時間のそれぞれについて、
アミラーゼ変化量推定値=(LF比×0.00771)+(HF比×−0.2019)
+(吸い込み速度比×0.5793)
+(吸気割合比×8.6168)−8.1198
の式を用いてアミラーゼ変化量推定を算出する。そしてアミラーゼ変化量推定値算出部148は、呼吸が行われた際の計測時刻を基準とした経過時間それぞれについてのアミラーゼ変化量推定値をアミラーゼ変化量推定値テーブルに記録する(ステップS108)。
【0038】
ここでLF比は、「被験者の人体へ聴覚刺激を与えた際のLF値」÷「人体が安静である際のLF値」である。
またHF比は、「被験者の人体へ聴覚刺激を与えた際のHF値」÷「人体が安静である際のHF値」である。
また吸い込み速度比は、「被験者の人体へ聴覚刺激を与えた際の吸い込み速度(Driving)値」÷「人体が安静である際の吸い込み速度(Driving)値」である。
また吸気割合比は、「被験者の人体へ聴覚刺激を与えた際の吸気割合(Timing)値」÷「人体が安静である際の吸気割合(Timing)値」である。
【0039】
なお、上述のアミラーゼ変化量推定値の式は、LF,HF,吸い込み速度(Driving),吸気割合(Timing)の4指標の聴覚刺激時と安静時の変化量と、計測器を用いて実際に被験者の唾液から計測したアミラーゼの聴覚刺激時と安静時の変化量とを用いて重回帰分析を行って得た式である。
【0040】
以上の処理により、呼吸数、心拍数、LF/HF値,吸い込み速度(Driving),アミラーゼ変化量推定値のそれぞれが、計測時刻からの経過時間に応じて算出される。なお計測時刻からの経過時間は1秒間隔、または10秒間隔、30秒間隔など、予め設定された間隔による経過時間である。
そしてストレス評価部149は、それら呼吸数、LF/HF値,吸い込み速度(Driving),アミラーゼ変化量推定値の何れか1つまたは複数を用いて、被験者のストレス評価を行う(ステップS109)。
【0041】
一例としてストレス評価部149は、ある時刻における呼吸数が閾値以上である場合にはストレス有りと判定し、表示部などにストレス有りを示す情報を出力する。
また一例としてストレス評価部149は、ある時刻における心拍数が閾値以上である場合にはストレス有りと判定し、表示部などにストレス有りを示す情報を出力する。
図5は聴覚刺激時と安静時の心拍数と呼吸数とを表すグラフである。
この図が示すように、破線枠内の幅方向が示す時間において、被験者に聴覚刺激を与えた場合には、呼吸数が上昇しやすいことが分かる。
【0042】
また一例としてストレス評価部149は、ある時刻におけるLF/HFが閾値以上である場合にはストレス有りと判定し、表示部などにストレス有りを示す情報を出力する。
図6は聴覚刺激時と安静時のLF/HFの値を表すグラフである。
この図が示すように、破線枠内の幅方向が示す時間において、被験者に聴覚刺激を与えた場合には、LF/HFの値が上昇することが分かる。
【0043】
また一例としてストレス評価部149は、ある時刻における吸い込み速度(Driving)が閾値以上である場合にはストレス有りと判定し、表示部などにストレス有りを示す情報を出力する。
図7は聴覚刺激時と安静時の吸い込み速度(Driving)の値を表すグラフである。
この図が示すように、破線枠内の幅方向が示す時間において、被験者に聴覚刺激を与えた場合には、吸い込み速度(Driving)の値が上昇することが分かる。なお、図7より、被験者に聴覚刺激を与えても吸気割合(Timing)の値は上昇しないことが分かる。
【0044】
また一例としてストレス評価部149は、ある時刻における呼吸数と吸い込み速度(Driving)とがそれぞれについての閾値以上である場合にはストレス有りと判定し、表示部などにストレス有りを示す情報を出力する。
また、ストレス評価装置14は、ストレス評価の処理を行わずに、単に、呼吸数、心拍数、LF/HF値,吸い込み速度(Driving),アミラーゼ変化量推定値のそれぞれについての計測時刻からの経過時間に応じた値を示す表や画面情報を印刷機やモニタに出力するようにしてもよい。この場合、医者などの評価者が、出力結果を見てストレス評価を行うようにしてもよい。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上述の処理によれば、被験者および作業者の負担を減らし、かつ客観的にストレスを評価することが可能な非接触ストレス評価システムを提供することができる。
【0046】
なお、上述のストレス評価装置14は内部に、コンピュータシステムを有している。そして、上述した各処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【0047】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【符号の説明】
【0048】
10・・・椅子
11・・・コントロールユニット
12・・・直流増幅器
13・・・A/Dコンバータ
14・・・ストレス評価装置
141・・・腹部変位計測部
142・・・呼吸数検出部
143・・・心肺部変位計測部
144・・・心拍数検出部
145・・・LF・HF算出部
146・・・吸い込み速度算出部
147・・・吸気割合算出部
148・・・アミラーゼ変化量推定値算出部
149・・・ストレス評価部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
椅子に取り付けられると共に、前記椅子に着座する被験者の前方から当該被験者の腹部に向けて第1のマイクロ波を放射する第1マイクロ波放射装置と、
前記第1のマイクロ波の反射波に基づいて前記被験者の腹部の時間経過に応じた変位を計測する腹部変位計測部と、
前記被験者の腹部の時間経過に応じた変位に基づいて前記被験者の呼吸数を検出する呼吸数検出部と、
を備えることを特徴とする非接触ストレス評価システム。
【請求項2】
前記椅子に取り付けられると共に、前記被験者の心肺部に向けて第2のマイクロ波を放射する第2マイクロ波放射装置と、
前記第2のマイクロ波の反射波に基づいて前記被験者の心肺部の時間経過に応じた変位を計測する心肺部変位計測部と、
前記被験者の心肺部の時間経過に応じた変位に基づいて前記被験者の心拍数を検出する心拍数検出部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の非接触ストレス評価システム。
【請求項3】
前記被験者の心肺部の時間経過に応じた変位に基づいて、当該心肺部の時間経過に応じた変位が最小値から最大値に達する間隔により特定される吸気時間と、当該変位の最小値と最大値の差を示す換気量とを算出し、前記換気量を前記吸気時間で除することにより前記被験者の呼吸時の吸い込み速度を算出する吸い込み速度算出部と、
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非接触ストレス評価システム。
【請求項4】
前記被験者の心肺部の時間経過に応じた変位を周波数変換し、低周波数領域においてパワースペクトル密度の最も高い低周波数成分値(LF)と、高周波数領域においてパワースペクトル密度の最も高い高周波数成分値(HF)とを求めるLF・HF算出部と、
前記被験者の心肺部の時間経過に応じた変位に基づいて、当該心肺部の時間経過に応じた変位が最小値から最大値に達して再び最小値となるまでの間隔により特定される呼吸時間と、当該心肺部の時間経過に応じた変位が最小値から最大値に達する間隔により特定される吸気時間とを算出し、前記吸気時間を前記呼吸時間で除することにより1呼吸あたりの吸気時間の割合を示す吸気割合を算出する吸気割合算出部と、
前記1呼吸あたりの吸気時間の割合、前記吸い込み速度、前記低周波数成分値、前記高周波数成分値、それぞれについての前記被験者の人体へ刺激を与えた際の値と、人体が安静である時の値の比を用いて、アミラーゼ変化量の推定値を算出するアミラーゼ変化量推定値算出部と、
を備えることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の非接触ストレス評価システム。
【請求項5】
前記呼吸数、前記吸い込み速度、前記アミラーゼ変化量の推定値、の何れか一つまたは複数を用いてストレス評価を行うストレス評価部と、
を備えることを特徴とする請求項4に記載の非接触ストレス評価システム。
【請求項6】
非接触ストレス評価システムの非接触ストレス評価方法であって、
第1マイクロ波放射装置が、椅子に取り付けられると共に、前記椅子に着座する被験者の前方から当該被験者の腹部に向けて第1のマイクロ波を放射し、
非接触ストレス評価装置の腹部変位計測部が、前記第1のマイクロ波の反射波に基づいて前記被験者の腹部の時間経過に応じた変位を計測し、
前記非接触ストレス評価装置の呼吸数検出部が、前記被験者の腹部の時間経過に応じた変位に基づいて前記被験者の呼吸数を検出し、
前記非接触ストレス評価装置のストレス評価部が、前記呼吸数を用いてストレス評価を行う
ことを特徴とする非接触ストレス評価方法。
【請求項7】
第2マイクロ波放射装置が、前記椅子に取り付けられると共に、前記被験者の心肺部に向けて第2のマイクロ波を放射し、
前記非接触ストレス評価装置の心肺部変位計測部が、前記第2のマイクロ波の反射波に基づいて前記被験者の心肺部の時間経過に応じた変位を計測し、
前記非接触ストレス評価装置の心拍数検出部が、前記被験者の心肺部の時間経過に応じた変位に基づいて前記被験者の心拍数を検出し、
前記非接触ストレス評価装置の吸い込み速度算出部が、前記被験者の心肺部の時間経過に応じた変位に基づいて、当該心肺部の時間経過に応じた変位が最小値から最大値に達する間隔により特定される吸気時間と、当該変位の最小値と最大値の差を示す換気量とを算出し、前記換気量を前記吸気時間で除することにより前記被験者の呼吸時の吸い込み速度を算出し、
前記非接触ストレス評価装置のストレス評価部が、前記呼吸数または前記吸い込み速度の何れかを用いてストレス評価を行う
ことを特徴とする請求項6に記載の非接触ストレス評価方法。
【請求項8】
椅子に取り付けられると共に、前記椅子に着座する被験者の前方から当該被験者の腹部に向けて第1のマイクロ波を放射する第1マイクロ波放射装置と、非接触ストレス評価装置と、を備えた非接触ストレス評価システムにおける、前記非接触ストレス評価装置のコンピュータを、
前記第1のマイクロ波の反射波に基づいて前記被験者の腹部の時間経過に応じた変位を計測する腹部変位計測手段、
前記被験者の腹部の時間経過に応じた変位に基づいて前記被験者の呼吸数を検出する呼吸数検出手段、
前記呼吸数を用いてストレス評価を行うストレス評価手段、
として機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項9】
さらに、前記被験者の心肺部に向けて第2のマイクロ波を放射する第2マイクロ波放射装置と、を備えた非接触ストレス評価システムにおける、前記非接触ストレス評価装置のコンピュータを、
前記第2のマイクロ波の反射波に基づいて前記被験者の心肺部の時間経過に応じた変位を計測する心肺部変位計測手段、
前記被験者の心肺部の時間経過に応じた変位に基づいて前記被験者の心拍数を検出する心拍数検出手段、
前記被験者の心肺部の時間経過に応じた変位に基づいて、当該心肺部の時間経過に応じた変位が最小値から最大値に達する間隔により特定される吸気時間と、当該変位の最小値と最大値の差を示す換気量とを算出し、前記換気量を前記吸気時間で除することにより前記被験者の呼吸時の吸い込み速度を算出する吸い込み速度算出手段、として機能させ、
前記ストレス評価手段は、前記呼吸数または前記吸い込み速度の何れかを用いてストレス評価を行う
ことを特徴とする請求項8に記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−249884(P2012−249884A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125730(P2011−125730)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 一般社団法人日本人間工学会 関東支部第40回大会 卒業研究発表会講演集(発行所:日本人間工学会 関東支部第40回大会 大会長 西口宏美、発行日:2010年12月4日)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【出願人】(593062175)株式会社タウ技研 (4)
【出願人】(000000561)株式会社岡村製作所 (1,415)
【Fターム(参考)】