説明

非接触型データ受送信体、非接触型データ受送信体の被覆部材用ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物、非接触型データ受送信体用被覆部材

【課題】機械特性に優れるとともに、アンテナに生じる通信特性の低下を防止した非接触型データ受送信体を提供する。
【解決手段】本発明の非接触型データ受送信体10は、ベース基材14とベース基材14に設けられたアンテナ16とアンテナ16を通じて通信するICチップ15を有するインレット11と、インレット11を被覆する第一の被覆部材12および第二の被覆部材13と、を備え、マイクロ波帯または超短波帯で使用される非接触型データ受送信体であって第一の被覆部材12および第二の被覆部材13は、ポリフェニレンサルファイドを主成分としてなり、かつ、剛性強化材料として無吸水性材料のみを含有してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFID(Radio Frequency IDentification)用途の情報記録メディアのように、電波、主にマイクロ波を媒体として外部から情報を受信し、また外部に情報を送信できるようにした非接触型データ受送信体に関し、特に、機械特性に優れるとともに、通信特性に優れる非接触型データ受送信体に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触型データ受送信体の一例であるICタグは、基材と、その一方の面に設けられ互いに接続されたアンテナおよびICチップとから構成されるインレットを備えており、13.56MHz帯で使用するICタグは、情報書込/読出装置からの電磁波を受信すると共振作用によりアンテナに起電力が発生し、この起電力によりICタグ内のICチップが起動し、このICチップ内の情報を信号化し、この信号がICタグのアンテナから発信される。
ICタグから発信された信号は、情報書込/読出装置のアンテナで受信され、コントローラーを介してデータ処理装置へ送られ、識別などのデータ処理が行われる。
【0003】
このようなICタグを耐熱性、耐候性に優れたものとするために、インレットをシリコーン樹脂やポリテトラフルオロエチレン樹脂などの樹脂でモールドして、パッケージ化したICタグが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−24783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、数百MHz〜数GHzで通信する電波方式のICタグは、13.56MHz帯の誘導起電力式と異なり、水分や周辺物質の誘電率によって特性が変化し易い。
そのため、インレットを樹脂モールドした数百MHz〜数GHzで通信する電波方式のICタグは、13.56MHz帯のICタグと同様に樹脂などでモールドして使用すると、著しく特性が低下し、これにより出力が低下するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、機械特性に優れるとともに、アンテナに生じる通信特性の低下を防止した非接触型データ受送信体、非接触型データ受送信体の被覆部材用ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物、非接触型データ受送信体用被覆部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の非接触型データ受送信体は、ベース基材と該ベース基材に設けられたアンテナと該アンテナを通じて通信するICチップを有するインレットと、該インレットを被覆する被覆部材と、を備え、マイクロ波帯または超短波帯で使用される非接触型データ受送信体であって、前記被覆部材は、ポリフェニレンサルファイドを主成分としてなり、かつ、剛性強化材料として無吸水性材料のみを含有してなることを特徴とする。
【0007】
本発明の非接触型データ受送信体の被覆部材用ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物は、ポリフェニレンサルファイドを50質量%以上、70質量%以下、剛性強化材料としての無吸水性材料を30質量%以上、50質量%以下含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の非接触型データ受送信体用被覆部材は、ポリフェニレンサルファイド、剛性強化材料としての無吸水性材料を含むポリフェニレンサルファイド樹脂組成物からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の非接触型データ受送信体によれば、ベース基材と該ベース基材に設けられたアンテナと該アンテナを通じて通信するICチップを有するインレットと、該インレットを被覆する被覆部材と、を備え、マイクロ波帯または超短波帯で使用される非接触型データ受送信体であって、前記被覆部材は、ポリフェニレンサルファイドを主成分としてなり、かつ、剛性強化材料として無吸水性材料のみを含有してなるので、被覆部材の剛性を高めることができるとともに、被覆部材が水分を吸収しないから、マイクロ波帯におけるアンテナの通信特性の低下を防止することができる。したがって、本発明の非接触型データ受送信体は、耐候性、耐熱性および耐薬品性に優れるとともに、マイクロ波帯を用いた読み取り/書き込みの精度に優れ、マイクロ波帯における読み取り/書き込みの距離が低下することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の非接触型データ受送信体、非接触型データ受送信体の被覆部材用ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物、非接触型データ受送信体用被覆部材の最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0011】
図1は、本発明に係る非接触型データ受送信体の一実施形態を示す概略図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線に沿う断面図である。
図1中、符号10は非接触型データ受送信体、11はインレット、12は第一の被覆部材、13は第二の被覆部材、14はベース基材、15はICチップ、16はアンテナをそれぞれ示している。
【0012】
この非接触型データ受送信体10は、インレット11と、このインレット11を被覆する第一の被覆部材12および第二の被覆部材13とから概略構成されている。この非接触型データ受送信体10は、マイクロ波帯で使用される非接触型データ受送信体である。
また、インレット11は、第一の被覆部材12に設けられた、インレット11の大きさに相当する凹部12a内に収容され、凹部12a内に隙間なく埋め込まれた第二の被覆部材13に覆われて、結果として、第一の被覆部材12および第二の被覆部材13により被覆されている。
【0013】
ここで、マイクロ波とは、一般的に、波長100μm〜1m、周波数300MHz〜3THzの電波を指す。
非接触型データ受送信体10では、主に、極超短波帯(UHF)やマイクロ波帯の電波帯の周波数(300MHz〜30GHz)のマイクロ波を使用する。
【0014】
第一の被覆部材12および第二の被覆部材13は、ポリフェニレンサルファイド(polyphenylene sulfide、PPS)を主成分としてなり、かつ、剛性強化材料として無吸水性材料のみを含有してなるものである。
【0015】
ポリフェニレンサルファイドは、構造式−Ar−S−(但し、Arはアリーレン基)で示される繰り返し単位を70モル%以上含有する重合体で、その代表的物質は、下記の構造式(1)
【0016】
【化1】

【0017】
(但し、上記の構造式(1)中、Rは炭素数6以下のアルキル基、アルコキシ基、フェニル基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン原子から選ばれる置換基であり、mは0〜4の整数である。また、nは平均重合度を示し、10〜30の範囲である。)で表される繰り返し単位を70モル%以上有するものである。
中でも、α−クロロナフタレン溶液(濃度0.4g/dl)、206℃における対数粘度が0.1〜0.5(dl/g)、好ましくは0.13〜0.4(dl/g)、さらに好ましくは0.15〜0.35(dl/g)の範囲にあるものが適当である。
【0018】
本発明で使用する、好ましいポリフェニレンサルファイドは、繰り返し単位として、パラフェニレンスルフィド単位を70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。
共重合構成単位としては、例えば、メタフェニレンスルフィド単位、オルソフェニレンスルフィド単位、p,p´−ジフェニレンケトンスルフィド単位、p,p´−ジフェニレンスルホンスルフィド単位、p,p´−ビフェニレンスルフィド単位、p,p´−ジフェニレンエーテルスルフィド単位、2,6−ナフタレンスルフィド単位などが挙げられる。
【0019】
ポリフェニレンサルファイドは、アルカリ金属硫化物とハロゲン化芳香族化合物とを反応させて製造する。好ましくは、ポリフェニレンサルファイドを硫化リチウムと塩化芳香族化合物から製造する。
具体的には、非プロトン性有機溶媒と、水酸化リチウム(LiOH)またはN−メチルアミノ酪酸リチウム(LMAB)とが存在する系に、液状または気体状の硫黄化合物を投入する。このとき、脱水することが好ましい。この後、硫黄分の調整後、塩化芳香族化合物を投入し、重縮合させる。
なお、溶融粘度は、重合時に重合時間、反応温度を調整することにより制御できる。
【0020】
架橋性のポリフェニレンサルファイドとしては、300℃、121/sにおける溶融粘度が50〜500Pa・sであり、分岐指数N値が1.20〜1.70のものが好適に用いられる。
ここで、分岐指数N値とは、樹脂の溶融粘度ηおよび剪断速度γに関し、logηをlogγの関数として、logη=f(logγ)で表したとき、下記の式(1)で表される値である。
【0021】
【数1】

【0022】
上記の式(1)中、ηは直鎖ポリフェニレンサルファイドの溶融粘度、ηは分岐指数N値を求めようとしている分岐ポリフェニレンサルファイドの溶融粘度を表す。また、∂logη/∂logγ|γ=200とは、logγによるlogηの偏微分∂logη/∂logγにおいて、γ=200(sec−1)における偏微分値を表す。
【0023】
半架橋性のポリフェニレンサルファイドとしては、300℃、121/sにおける溶融粘度が50〜500Pa・sであり、分岐指数N値が1.05〜1.20のものが好適に用いられる。
【0024】
直鎖型のポリフェニレンサルファイドとしては、300℃、121/sにおける溶融粘度が10〜500Pa・sであり、分岐指数N値が1.00〜1.05のものが好適に用いられる。
【0025】
上記のポリフェニレンサルファイドは、以下のような特性を有する。
(1)溶融温度約280℃、分解温度400℃以上と、高い耐熱性を有する。
(2)ほとんどの酸・アルカリ・有機溶剤に侵されないという耐薬品性を有する。
(3)他の樹脂と比較して強度、弾性率、クリープ特性、疲労特性などに優れるという機械特性を有する。
(4)成形時の流動性がよく、寸法安定性に優れるので、精密成形に適する。
(5)難燃剤を添加することなくUL94規格V−0と同等レベルの難燃性を有する。
(6)耐アーク性、絶縁破壊電圧などの電気特性に優れる。
【0026】
剛性強化材料として添加される無吸水性材料としては、吸水性がなく、かつ、ポリフェニレンサルファイドに添加することにより、剛性を向上する効果が得られるものであれば特に限定されないが、ガラス繊維、ガラスパウダー(ガラス粉)、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ガラスフレーク、シリカ、チタン酸カリウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、ワラストナイトなどが挙げられる。
ガラス繊維としては、直径が5μm〜30μmのものが好適に用いられる。
ガラスパウダーなどの粒子状充填材としては、平均粒子径が1μm〜50μmのものが好適に用いられる。
【0027】
第一の被覆部材12および第二の被覆部材13における無吸水性材料の含有率は、30質量%以上、50質量%以下が好ましく、より好ましくは35質量%以上、45質量%以下である。
第一の被覆部材12および第二の被覆部材13における無吸水性材料の含有率が30質量%未満では、第一の被覆部材12および第二の被覆部材13の機械的強度を向上する効果が十分に得られない。一方、無吸水性材料の含有率が50質量%を超えると、第一の被覆部材12および第二の被覆部材13の誘電率が高くなり、非接触型データ受送信体10の通信特性が劣化する(通信距離が短くなる)からである。
【0028】
第一の被覆部材12および第二の被覆部材13の厚みは、2mm以上であることが好ましく、より好ましくは3mm以上、5mm以下である。
第一の被覆部材12および第二の被覆部材13の厚みが2mm以上であれば、非接触型データ受送信体10は耐熱性および耐久性に優れたものとなる。
【0029】
インレット11は、基材14と、ICチップ15と、アンテナ16とから概略構成されている。また、ICチップ15およびアンテナ16は、基材14の一方の面14aに設けられ、互いに電気的に接続されている。
【0030】
アンテナ16は、各種導電体からなり、互いに対向し、その対向する側にそれぞれ給電点(ICチップ15と接続している部分)を有する一対の放射素子21,22と、放射素子21,22の給電点近傍を短絡する短絡部23とからなるダイポールアンテナである。
また、放射素子21,22は、その長手方向の形状が蛇行したメアンダ形状(蛇行形状)をなしている。
また、放射素子21,22の給電点とは反対側の端部21a,22aは、放射素子21,22におけるその他の部分よりも幅広に形成されている。
アンテナ16の長手方向における長さは、非接触ICカードなどの非接触ICモジュールに利用できる極超短波帯〈UHF〉やマイクロ波帯の電波帯の周波数(300MHz〜30GHz)の1/2波長に相当する長さとなっている。すなわち、放射素子21,22の長手方向における長さは、1/4波長に相当する長さとなっている。
【0031】
基材14としては、少なくとも表層部には、ガラス繊維、アルミナ繊維などの無機繊維からなる織布、不織布、マット、紙などまたはこれらを組み合わせたもの、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維などの有機繊維からなる織布、不織布、マット、紙などまたはこれらを組み合わせたものや、あるいはこれらに樹脂ワニスを含浸させて成形した被覆部材や、ポリアミド系樹脂基材、ポリエステル系樹脂基材、ポリオレフィン系樹脂基材、ポリイミド系樹脂基材、エチレン−ビニルアルコール共重合体基材、ポリビニルアルコール系樹脂基材、ポリ塩化ビニル系樹脂基材、ポリ塩化ビニリデン系樹脂基材、ポリスチレン系樹脂基材、ポリカーボネート系樹脂基材、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合系樹脂基材、ポリエーテルスルホン系樹脂基材、(ガラス)エポキシ樹脂基材などのプラスチック基材や、あるいはこれらにマット処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、電子線照射処理、フレームプラズマ処理、オゾン処理、または各種易接着処理などの表面処理を施したものなどの公知のものから選択して用いられる。これらの中でも、ポリエチレンテレフタレートまたはポリイミドからなる電気絶縁性のフィルムまたはシートが好適に用いられる。
【0032】
ICチップ15としては、特に限定されず、アンテナ16を介して非接触状態にて情報の書き込みおよび読み出しが可能なものであれば、非接触型ICタグや非接触型ICラベル、あるいは非接触型ICカードなどのRFIDメディアに適用可能なものであればいかなるものでも用いられる。
【0033】
アンテナ16は、基材14の一方の面14aにポリマー型導電インクを用いて所定のパターン状にスクリーン印刷により形成されてなるものか、もしくは、導電性箔をエッチングしてなるもの、金属メッキしてなるものである。
【0034】
ポリマー型導電インクとしては、例えば、銀粉末、金粉末、白金粉末、アルミニウム粉末、パラジウム粉末、ロジウム粉末、カーボン粉末(カーボンブラック、カーボンナノチューブなど)などの導電微粒子が樹脂組成物に配合されたものが挙げられる。
【0035】
樹脂組成物として熱硬化型樹脂を用いれば、ポリマー型導電インクは、200℃以下、例えば100〜150℃程度でアンテナ15をなす塗膜を形成することができる熱硬化型となる。アンテナ15をなす塗膜の電気の流れる経路は、塗膜をなす導電微粒子が互いに接触することによる形成され、この塗膜の抵抗値は10-5Ω・cmオーダーである。
また、本発明におけるポリマー型導電インクとしては、熱硬化型の他にも、光硬化型、浸透乾燥型、溶剤揮発型といった公知のものが用いられる。
【0036】
光硬化型のポリマー型導電インクは、光硬化性樹脂を樹脂組成物に含むものであり、硬化時間が短いので、製造効率を向上させることができる。光硬化型のポリマー型導電インクとしては、例えば、熱可塑性樹脂のみ、あるいは熱可塑性樹脂と架橋性樹脂(特にポリエステルとイソシアネートによる架橋系樹脂など)とのブレンド樹脂組成物に、導電微粒子が60質量%以上配合され、ポリエステル樹脂が10質量%以上配合されたもの、すなわち、溶剤揮発型かあるいは架橋/熱可塑併用型(ただし熱可塑型が50質量%以上である)のものや、熱可塑性樹脂のみ、あるいは熱可塑性樹脂と架橋性樹脂(特にポリエステルとイソシアネートによる架橋系樹脂など)とのブレンド樹脂組成物に、ポリエステル樹脂が10質量%以上配合されたもの、すなわち、架橋型かあるいは架橋/熱可塑併用型のものなどが好適に用いられる。
【0037】
また、アンテナ16をなす導電性箔としては、銅箔、銀箔、金箔、白金箔、アルミニウム箔などが挙げられる。
さらに、アンテナ16をなす金属メッキとしては、銅メッキ、銀メッキ、金メッキ、白金メッキなどが挙げられる。
【0038】
この実施形態の非接触型データ受送信体10は、インレット11と、このインレット11を被覆する第一の被覆部材12および第二の被覆部材13と、を備え、第一の被覆部材12および第二の被覆部材13はポリフェニレンサルファイドを主成分としてなり、かつ、剛性強化材料として無吸水性材料のみを含有してなるので、第一の被覆部材12および第二の被覆部材13の剛性を高めることができるとともに、第一の被覆部材12および第二の被覆部材13が水分を吸収しないから、マイクロ波帯におけるアンテナ16の通信特性の低下を防止することができる。したがって、非接触型データ受送信体10は、耐候性、耐熱性および耐薬品性に優れるとともに、マイクロ波帯を用いた読み取り/書き込みの精度に優れ、マイクロ波帯における読み取り/書き込みの距離が低下することを防止できる。
【0039】
なお、この実施形態では、被覆部材が第一の被覆部材12および第二の被覆部材13とからなる非接触型データ受送信体10を例示したが、本発明の非接触型データ受送信体はこれに限定されない。本発明の非接触型データ受送信体にあっては、被覆部材は1つの部材からなるものであってもよい。
また、この実施形態では、アンテナ16がダイポールアンテナである非接触型データ受送信体10を例示したが、本発明の非接触型データ受送信体はこれに限定されない。本発明の非接触型データ受送信体にあっては、アンテナがモノポールアンテナ、クロスダイポールアンテナなどであってもよい。
【0040】
次に、この実施形態における非接触型データ受送信体の製造方法について図1を参照して説明する。
【0041】
まず、射出形成などにより、インレット11の大きさに相当する凹部12aを有し、上記のポリフェニレンサルファイドを主成分としてなり、かつ、剛性強化材料として無吸水性材料のみを含有した第一の被覆部材12を作製する。
次いで、ICチップ14、アンテナ15などが基材13に設けられたインレット11を用意し、第一の被覆部材12の凹部12aの底面に、接着材を介してインレット11を貼着し、凹部12a内にインレット11を収容する。
接着材としては、公知の液体状の接着剤やフィルム状のものを用いることができ、例えば、両面テープが用いられる。
次いで、射出成形などにより、インレット11を覆うように、凹部12a内に上記のポリフェニレンサルファイドを主成分としてなり、かつ、剛性強化材料として無吸水性材料のみを含有した複合材料を充填して第二の被覆部材13を形成し、この第二の被覆部材13と第一の被覆部材12とを一体化することにより、インレット11が第一の被覆部材12および第二の被覆部材13に被覆された非接触型データ受送信体10が得られる。
【0042】
(実験例)
以下、実験例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0043】
[樹脂板の誘電率測定]
射出成形により、ポリフェニレンサルファイド樹脂からなり、長さが80mm、幅が30mm、厚みが1mmの長方形状の樹脂板を5種類作製した。
ポリフェニレンサルファイド樹脂としては、大日本インキ化学工業社製の半架橋ポリフェニレンサルファイドT1G(以下、「PPS−A」と言う。)、東ソー社製の架橋ポリフェニレンサルファイド#160(以下、「PPS−B」と言う。)、大日本インキ化学工業社製の半架橋ポリフェニレンサルファイドT3G(以下、「PPS−C」と言う。)、大日本インキ化学工業社製の直鎖ポリフェニレンサルファイドLR300G(以下、「PPS−D」と言う。)、大日本インキ化学工業社製の直鎖ポリフェニレンサルファイドLR2G(以下、「PPS−E」と言う。)を用いた。
なお、それぞれの樹脂板はそれぞれ、上記のポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS−A〜PPS−E)のから選択した1種類のみで作製した。
次に、誘電率測定装置(インピーダンスアナライザー、E4991A、アジレントテクノロジー社製)を用い、共振周波数を1GHzとして、それぞれの樹脂板の誘電率を測定した。
また、キャピラリーレオメーターを使用して、樹脂温度300℃、剪断速度121/sの条件で、上記のポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS−A〜PPS−E)の溶融粘度を測定した。
結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1の結果から、ポリフェニレンサルファイド樹脂の分子量や、ポリフェニレンサルファイド樹脂における不純物の含有量の誘電率に対する影響は小さく、架橋ポリフェニレンサルファイドおよび半架橋ポリフェニレンサルファイドからなる樹脂板は誘電率が低いことが分かった。
【0046】
[被覆部材の誘電率測定]
射出成形により、ポリフェニレンサルファイド樹脂と添加材からなり、長さが80mm、幅が30mm、厚みが1mmの長方形状であり、表2に示す組成の被覆部材を9種類作製した。
添加材としては、ガラス繊維A(CS 03 JAFT591、オーエンスコーニング社製)、ガラス繊維B(CGS 3PA−830S、日東紡社製)、炭酸カルシウム(CaCO)(P−30、白石工業社製)を用いた。
次に、誘電率測定装置(インピーダンスアナライザー、E4991A、アジレントテクノロジー社製)を用い、共振周波数を1GHzとして、それぞれの樹脂板の誘電率を測定した。
結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2の結果から、試料6〜9のポリフェニレンサルファイド樹脂とガラス繊維からなる被覆部材は、試料10〜14のポリフェニレンサルファイド樹脂、ガラス繊維および炭酸カルシウムからなる被覆部材よりも、誘電率が低いこと分かった。
なお、ガラス繊維A、Bの誘電率は6.6であるから、ポリフェニレンサルファイド樹脂にガラス繊維を添加した被覆部材は、ポリフェニレンサルファイド樹脂よりも誘電率が上昇する。
一方、炭酸カルシウムの誘電率は1.58であるにもかかわらず、試料10〜14の被覆部材の誘電率が高くなる理由は、炭酸カルシウムが多孔質であるため吸水性を有し、3%の水分を含んでいる(吸水率3%)からであると考えられる。
【0049】
また、各被覆部材について、その組成から誘電率を推算した。この推算では、ポリフェニレンサルファイドの誘電率を3.1(文献値)、炭酸カルシウムの誘電率を1.58(文献値)、ガラス繊維の誘電率を6.6(文献値)、水の誘電率を80.4(文献値)とした。
この推算では、炭酸カルシウムの吸水率を考慮しない場合(吸水率0%)と、炭酸カルシウムの吸水率を考慮した場合(吸水率3%)とについて、被覆部材の誘電率を算出した。
実測した被覆部材の誘電率(表2に示す値)と、組成から推算した被覆部材の誘電率との関係を表すグラフを図2、3に示す。なお、図2は、炭酸カルシウムの吸水率を考慮しない場合(吸水率0%)の実測した被覆部材の誘電率と、組成から推算した被覆部材の誘電率との関係を表すグラフである。また、図3は、炭酸カルシウムの吸水率を考慮した場合(吸水率3%)の実測した被覆部材の誘電率と、組成から推算した被覆部材の誘電率との関係を表すグラフである。
【0050】
図2、3の結果から、炭酸カルシウムの吸水率(3%)を考慮すれば、被覆部材の誘電率が上昇することが明確になることが分かった。
【0051】
[被覆部材の機械特性と成形性]
上記の被覆部材(試料6〜14)について、樹脂流動性(スパイラルフローレングス、SFL)、引張強度、曲げ強度、衝撃強度(靱性)のそれぞれを測定した。
(1)樹脂流動性(SFL)測定
それぞれの被覆部材を構成する複合材料について、30トン射出成形機(東芝機械社製)により、厚み1mmのスパイラルフロー金型を用いて、樹脂温度320℃,金型温度135℃、射出圧力100MPaの条件下に、厚さ1mmの試験片を作成し、その際のスパイラルフロー長さを測定した。
(2)引張強度測定
ASTM D638に準拠して、それぞれの被覆部材の引張強度および伸びを測定した。
(3)曲げ強度測定
ASTM D790に準拠して、それぞれの被覆部材の曲げ強度および弾性率を測定した。
(4)衝撃強度測定
ASTM D256に準拠して、それぞれの被覆部材のアイゾット衝撃強度(ノッチあり、ノッチなし)を測定した。
これらの結果を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
表3の結果から、試料6〜9の被覆部材は、試料10〜14の被覆部材よりも流動性が高いことが分かった。したがって、試料6〜9の被覆部材の方が、成形性に優れると考えられる。
また、試料6〜9の被覆部材は、試料10〜14の被覆部材よりも、引張強度、曲げ強度およびアイゾット衝撃強度が高いこと分かった。
【0054】
[被覆部材の厚みと通信距離との関係]
ICチップ、アンテナなどがガラスエポキシ樹脂からなる基材に設けられ、長さが70mm、幅が17.5mm、厚みが2mmの長方形状のインレットを用意した。
このインレットを、一対の複合基材(上記の試料6〜14)で挟み込み、簡易ICタグを作製した。
なお、一対の被覆部材の厚みを、1mm、2mm、3.2mm、5mmと変えて、簡易ICタグを作製した。
次に、発砲スチロール板(誘電率:1.0)の表面に、接着剤を介して各ICタグを貼着した後、R/W(リーダ/ライタ)(XR-480JP、Symbol社製)を用い、出力1Wにて、それぞれの簡易ICタグの通信距離を測定した。
結果を図4に示す。
【0055】
図4の結果から、厚みが大きくなると通信距離が短くなるものの、試料6〜9の被覆部材を用いた簡易ICタグは、試料10〜14の被覆部材を用いた簡易ICタグよりも常に通信距離が長いことが分かった。
なお、耐熱性および耐久性に優れたICタグ(非接触型データ受送信体)を実現するには、被覆部材の厚みは3mm以上必要である。
図4の結果から、例えば、被覆部材の厚みが5mmの場合、試料6の被覆部材(誘電率3.71)を用いた簡易ICタグ(ICタグ6)と、試料14の被覆部材(誘電率5.37)を用いた簡易ICタグ(ICタグ14)とを比較すると、ICタグ6の通信距離は、ICタグ14の通信距離の約1.3倍であることが分かった。
【0056】
以上の結果から、マイクロ波帯のICタグに耐熱性や耐久性を付与するために、ICタグをポリフェニレンサルファイド樹脂で被覆する場合、ポリフェニレンサルファイド樹脂としては、直鎖型よりも架橋型または半架橋型が好ましいことが確認された。さらに、ガラス繊維を30質量%以上、50質量%以下含む被覆部材は誘電率が低く、通信距離が長くなるとともに、機械特性にも優れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の非接触型データ受送信体は、非金属物質の他に、金属物品や水分を含む物品へ直接貼付する用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る非接触型データ受送信体の一実施形態を示す概略図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線に沿う断面図である。
【図2】炭酸カルシウムの吸水率を考慮しない場合(吸水率0%)の実測した被覆部材の誘電率と、組成から推算した被覆部材の誘電率との関係を表すグラフである。
【図3】炭酸カルシウムの吸水率を考慮した場合(吸水率3%)の実測した被覆部材の誘電率と、組成から推算した被覆部材の誘電率との関係を表すグラフである。
【図4】被覆部材の厚みを変えて、簡易ICタグの通信距離を測定した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0059】
10・・・非接触型データ受送信体、11・・・インレット、12・・・第一の被覆部材、13・・・第二の被覆部材、14・・・ベース基材、15・・・ICチップ、16・・・アンテナ、21,22・・・放射素子、23・・・短絡部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース基材と該ベース基材に設けられたアンテナと該アンテナを通じて通信するICチップを有するインレットと、該インレットを被覆する被覆部材と、を備え、マイクロ波帯または超短波帯で使用される非接触型データ受送信体であって、
前記被覆部材は、ポリフェニレンサルファイドを主成分としてなり、かつ、剛性強化材料として無吸水性材料のみを含有してなることを特徴とする非接触型データ受送信体。
【請求項2】
ポリフェニレンサルファイドを50質量%以上、70質量%以下、剛性強化材料としての無吸水性材料を30質量%以上、50質量%以下含むことを特徴とする請求項1に記載の非接触型データ受送信体の被覆部材用ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項3】
ポリフェニレンサルファイド、剛性強化材料としての無吸水性材料を含むポリフェニレンサルファイド樹脂組成物からなることを特徴とする請求項1に記載の非接触型データ受送信体用被覆部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−237853(P2009−237853A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82531(P2008−82531)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000110217)トッパン・フォームズ株式会社 (989)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】