説明

非水系二次電池用の正極活物質、その製造方法及びそれを用いた非水系二次電池

【課題】バナジウム又はインジウムを含むニッケル酸リチウムからなる正極活物質において、それを用いて製造した非水系二次電池の過充電及び高温保存時の熱的安定性を向上させ、一方、電池容量、サイクル寿命及び出力の低下を抑えることができる正極活物質とその効率的な製造方法、及びそれを用いてなる非水系二次電池を提供する。
【解決手段】バナジウム酸リチウム又はインジウム酸リチウムが粒子内部に均一に分散され、かつ粒子の形状は、一次粒子が集合した球状又は楕円球状の二次粒子であることを特徴とする非水系二次電池用の正極活物質などで提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池用の正極活物質、その製造方法及びそれを用いた非水系二次電池に関し、さらに詳しくは、ニッケル酸リチウム粒子に、添加元素としてバナジウム又はインジウムを添加してなる正極活物質において、それを用いて製造した非水系二次電池の過充電及び高温保存時の熱的安定性を向上させ、一方、電池容量、サイクル寿命及び出力の低下を抑えることができる正極活物質とその効率的な製造方法、及びそれを用いてなる非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化時代を担う携帯電子機器の発展にともない、それに用いられる二次電池の高出力、長寿命等の高機能化が望まれ、そのため二次電池用の正極活物質に関しても粉体特性の解明とその製造技術の向上が求められている。
例えば、ハイブリッド自動車用二次電池に代表される大型二次電池の主力製品としては、安全性と出力のバランスの良いニッケル水素二次電池が使用されているが、そのほかに、小型軽量であるリチウムイオン二次電池がニッケル水素二次電池を代替品として注目されていた。その実用化のため、まず、リチウムイオン二次電池に用いる正極活物質の高出力化が課題として挙げられ、その解決が求められた。この課題に関しては、ここ数年の材料開発によりおおよその目処がたち、非水系二次電池であるリチウムイオン二次電池を搭載したハイブリッド自動車が市場で販売されている。しかしながら、このようなリチウムイオン二次電池の正極材料の新たな課題として、実用に際して起る過充電又は高温環境下において安全性のより一層の向上が挙げられている。すなわち、これを解決することで、リチウムイオン二次電池の保護回路の簡素化及び小型化を実現することができ、ハイブリッド自動車用二次電池としてその有用性が高まる。
【0003】
上記非水系二次電池の正極活物質としては、一般に、リチウムイオンを可逆的に挿入及び脱離することができる層状構造を有するリチウム複合酸化物が用いられている。この中で、大型二次電池用の正極活物質としては、低価格と高容量化を実現することができるとともに、充放電時の電圧のプラトー領域が少ないため電圧制御が比較的容易であることから、主成分としてニッケルを含むリチウム複合酸化物であるニッケル酸リチウムが最有力である。
【0004】
しかしながら、ニッケル酸リチウムには、他のリチウム複合酸化物、例えばコバルト酸リチウムやマンガン酸リチウムと比べて加熱に際して熱的安定性が劣るという問題点を有している。そのため、非水系二次電池の正極活物質としてニッケル酸リチウムを用いる際には、出力は確保することができるが安全性が低下するので、保護回路の強化が必要不可欠であるとされていた。すなわち、リチウムイオン二次電池では、過充電又は高温での保存に際して、ニッケル酸リチウムの分解による酸素放出を発端とする発熱現象により有機電解液の分解およびそれに伴うガス発生が連鎖的に起こり、破裂又は発火の危険性があるとされている。したがって、ニッケル酸リチウムの正極活物質としての熱的安定性の確保が求められていた。
【0005】
この解決策として、ニッケル酸リチウムの添加元素としてバナジウム又はインジウムを用いることが提案されており、また、バナジウム又はインジウムを含むニッケル酸リチウムの製造方法として、これらの元素をニッケル酸リチウム中に固溶させる方法(例えば、特許文献1参照。)とニッケル酸リチウム粒子中に分散させる方法(例えば、特許文献2、3参照。)が挙げられている。
【0006】
例えば、前者の方法では、ニッケルの一部をバナジウム又はインジウムと置き換えるようにして共沈させて原子レベルで粒子内拡散を実現したニッケル含有を原料として用いて、リチウム無機塩と反応させることにより、バナジウム又はインジウムが固溶したニッケル酸リチウム粉末を製造する。しかしながら、この方法で得られたバナジウム又はインジウムが固溶したニッケル酸リチウムは、正極活物質としての熱的安定性を向上させることができるが、一方、高い熱的安定性を得るためには、非常に多くの固溶量が必要とされるので電池容量が大きく低下してしまうという問題がある。また、共沈法では、単位体積当たりの電池容量を示す体積エネルギー密度を高くするために有効である高嵩密度の球状形状の二次粒子を得ることが非常に難しいという問題がある。
【0007】
また、後者の方法では、得られるニッケル酸リチウムに含まれるリチウム以外の金属の無機塩をボールミル等で粉砕混合した後、これをリチウム無機塩と混合し、次いで焼成することによって、ニッケル酸リチウムの二次粒子内部にバナジウム含有リチウム複合酸化物又はインジウム含有リチウム複合酸化物を分散させたニッケル酸リチウム粉末を製造する。しかしながら、この方法で得られた粉末は、嵩密度が非常に低くなるため単位体積当たりの電池容量を示す体積エネルギー密度が大幅に低下することのほか、多量の微粉を含むので発熱又は発火を起こし易いという問題がある。
【0008】
また、他の方法として、バナジウム又はインジウムの酸化物等の無機塩を、球状又は楕円球状の二次粒子形状を有するニッケル無機塩及びリチウム無機塩と混合した後、これを焼成して反応させる方法も考えられるが、この方法ではバナジウム及びインジウムの固相内拡散速度が極めて遅いので、ニッケル酸リチウム粒子表面にバナジウム又はインジウムのリチウム複合酸化物が被膜状に存在する状態となる。このような粉体を用いた電池では、熱的安定性は向上するものの、表面に存在する被膜が充放電に際してリチウムイオンの挿入脱離を阻害するので内部抵抗が高くなるほか、電池容量とサイクル寿命までもが低下するという問題が起る。
【0009】
【特許文献1】特開平5−242891号公報(第1頁)
【特許文献2】特開2002−260660号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献3】特開2003−123750号公報(第1頁、第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、ニッケル酸リチウム粒子に添加元素としてバナジウム又はインジウムを添加してなる正極活物質において、それを用いて製造した非水系二次電池の過充電及び高温保存時の熱的安定性を向上させ、一方、電池容量、サイクル寿命及び出力の低下を抑えることができる正極活物質とその効率的な製造方法、及びそれを用いてなる非水系二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するために、ニッケル酸リチウム粒子に添加元素としてバナジウム又はインジウムを添加してなる正極活物質について、鋭意研究を重ねた結果、特定の組成式で表される層状構造を有するニッケル酸リチウムの粒子内部に、上記添加元素がリチウム複合酸化物を形成して均一に分散されており、かつ特定形状に調製された粉末を非水系二次電池用の正極活物質として用いたところ、二次電池の過充電及び高温保存時の熱的安定性を向上させる一方、電池容量、サイクル寿命及び出力の低下を抑えることができることを見出した。また、特定の工程に基づいて製造された球状又は楕円球状のニッケル含有無機塩粉末とリチウム無機塩とを混合し焼成する方法によって、本発明の正極活物質が効率的に製造することができることを見出した。以上により、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、下記(1)の組成式で表される層状構造を有するニッケル酸リチウム粒子に、添加元素としてバナジウム(V)又はインジウム(In)を添加してなる正極活物質であって、
上記添加元素は、バナジウム酸リチウム又はインジウム酸リチウムを形成して粒子内部に均一に分散され、かつ粒子の形状は、一次粒子が集合した球状又は楕円球状の二次粒子であることを特徴とする非水系二次電池用の正極活物質が提供される。
LiNi1−a …(1)
(式中、Mは、Mg、Ca、Ti、Mn、Cr、Fe、Ni、Co、Cu、Zn、Mo、Ag、W、B、Al、Ga、Nb、Sn、Pb、Sr、Sb又はPから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、aは、0.01≦a≦0.5である。)
【0013】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記添加元素の添加量は、(V又はIn)/(Liを除く全金属元素)原子比で、0.002〜0.1であることを特徴とする非水系二次電池用の正極活物質が提供される。
【0014】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、タップ密度が2.0g/mL以上であることを特徴とする非水系二次電池用の正極活物質が提供される。
【0015】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3いずれかの発明において、下記(イ)〜(ハ)の工程を含むことを特徴とする非水系二次電池用の正極活物質の製造方法が提供される。
(イ)ニッケル無機塩に、バナジウム又はインジウムの無機塩と、リチウムを除く正極活物質の成分である全金属元素の無機塩とを所定比率で混合した後、湿式超微粉砕してニッケル含有無機塩スラリーを調製する。
(ロ)上記ニッケル含有無機塩スラリーを噴霧乾燥に付し、球状又は楕円球状のニッケル含有無機塩粉末を調製する。
(ハ)上記ニッケル含有無機塩粉末とリチウム無機塩とを混合し焼成する。
【0016】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜3いずれかの発明の正極活物質を用いてなる、二次電池の過充電及び高温保存時の熱的安定性が高い非水系二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の非水系二次電池用の正極活物質は、ニッケル酸リチウム粒子に添加元素としてバナジウム又はインジウムを添加してなる正極活物質であって、それを用いてなる非水系二次電池の過充電及び高温保存時の熱的安定性を向上させる一方、電池容量、サイクル寿命及び出力の低下を抑えることができるので、非水系二次電池用の正極活物質として好適であり、また、その製造方法は、前記正極活物質を効率的に製造することができるので、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の非水系二次電池用の正極活物質、その製造方法及びそれを用いた非水系二次電池を詳細に説明する。
1.非水系二次電池用の正極活物質
本発明の非水系二次電池用の正極活物質は、下記(1)の組成式で表される層状構造を有するニッケル酸リチウム粒子に、添加元素としてバナジウム又はインジウムを添加してなる正極活物質であって、上記添加元素は、バナジウム酸リチウム又はインジウム酸リチウムを形成して粒子内部に均一に分散され、かつ粒子の形状は、一次粒子が集合した球状又は楕円球状の二次粒子であることを特徴とするものである。
LiNi1−a …(1)
(式中、Mは、Mg、Ca、Ti、Mn、Cr、Fe、Ni、Co、Cu、Zn、Mo、Ag、W、B、Al、Ga、Nb、Sn、Pb、Sr、Sb又はPから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、aは、0.01≦a≦0.5である。)
【0019】
本発明の非水系二次電池用の正極活物質において、組成式(1)で表される層状構造を有するニッケル酸リチウムの粒子内部に添加元素をバナジウム酸リチウム又はインジウム酸リチウムとして均一に分散された状態で含み、かつ粒子の形状は一次粒子が集合した球状又は楕円球状の二次粒子からなることが重要である。これによって、それを用いてなる非水系二次電池の過充電及び高温保存時の熱的安定性を向上させる一方、電池容量、サイクル寿命及び出力の低下を抑えることができる。
【0020】
すなわち、ニッケル酸リチウム等のリチウム複合酸化物を二次電池の正極活物質として用いる場合、二次電池の充放電は、結晶構造からリチウムイオンが挿入脱離することによって行われる。一般に、金属元素で置換されていない純粋なニッケル酸リチウム(LiNiO)では、熱的安定性、特に電池の過充電時の発熱開始温度に問題があるといわれる。これは、充電時には活物質の結晶構造からリチウムイオンの脱離量が多くなるにつれ結晶構造が不安定になり、ここに熱エネルギーが加えられると結晶構造が崩れて酸素放出による発熱が起こり、これを契機に、急激に発熱さらに発火すると考えられている。
【0021】
この熱的安定性を向上させるためには、前述のように、バナジウムやインジウムを固溶させずともリチウム複合酸化物としてニッケル酸リチウム粉末中に分散させるだけでも有効であるが、このときの電池容量及びサイクル寿命の低下を抑えるためには、バナジウム酸リチウム又はインジウム酸リチウムがニッケル酸リチウムの粒子内部に均一に分散された状態にすることが有効である。これに対して、不均一な分散状態、例えばニッケル酸リチウム粒子表面にバナジウム又はインジウムのリチウム複合酸化物が被膜状に存在する状態では、表面に存在する被膜が充放電に際してリチウムイオンの挿入脱離を阻害するので内部抵抗が高くなり、出力が低下するほか、電池容量とサイクル寿命までもが低下するという問題が起る。
【0022】
また、粒子の形状を一次粒子が集合した二次粒子を球状又は楕円球状にすることによって、嵩密度が高くなるので、単位体積当たりの電池容量を示す体積エネルギー密度を上昇させることができるとともに、発熱又は発火を防止することができる。
【0023】
上記層状構造を有するニッケル酸リチウムとしては、組成式:LiNi1−aで表され、ニッケルを主成分金属として含み、置換成分金属(M)としてMg、Ca、Ti、Mn、Cr、Fe、Ni、Co、Cu、Zn、Mo、Ag、W、B、Al、Ga、Nb、Sn、Pb、Sr、Sb又はPから選ばれる少なくとも1種の元素を、aが0.01≦a≦0.5を満足する条件で含むリチウム複合酸化物を用いる。
【0024】
上記添加元素の添加量を表す(V又はIn)/(Liを除く全金属元素)原子比は、特に限定されるものではないが、0.002〜0.1であることが好ましく、0.005〜0.05がより好ましい。すなわち、前記原子比が0.002未満では、熱的安定性の改善効果が見られず、一方、0.1を超えると、添加量が多いので固溶させる方法と同様に電池容量が大きく低下してしまう。
【0025】
上記正極活物質のタップ密度は、特に限定されるものではないが、2.0g/mL以上が好ましく、2.2〜2.4g/mLがより好ましい。すなわち、タップ密度が2.0g/mL未満では、電池当たりの充填量が少なくなり、電池容量が現状品よりも劣る性能になってしまう。
【0026】
2.製造方法
本発明の非水系二次電池用正極活物質の製造方法は、下記(イ)〜(ハ)の工程を含むことを特徴とする。
(イ)ニッケル無機塩に、バナジウム無機塩又はインジウム無機塩と、リチウムを除く正極活物質の成分である全金属元素の無機塩とを所定比率で混合した後、湿式超微粉砕してニッケル含有無機塩スラリーを調製する。
(ロ)上記ニッケル含有無機塩スラリーを噴霧乾燥に付し、球状又は楕円球状のニッケル含有無機塩粉末を調製する。
(ハ)上記ニッケル含有無機塩粉末とリチウム無機塩とを混合し焼成する。
【0027】
本発明の非水系二次電池用正極活物質の製造方法において、ニッケル含有無機塩粉末を製造するに際して、前記無機塩の混合物を所定の粒子径になるように湿式超微粉砕することと噴霧乾燥に付すことが重要である。これによって、バナジウム無機塩又はインジウム無機塩が均一に分散された球状又は楕円球状のニッケル含有無機塩粉末が得られる。さらに、このニッケル含有無機塩粉末を用いてリチウム無機塩とを混合し焼成することによって、バナジウム又はインジウムを含有するニッケル酸リチウム粒子からなる熱的安定性が改善された正極活物質が得られる。
【0028】
上記製造方法において、ニッケル含有無機塩スラリーを得る(イ)の工程では、ニッケル無機塩にバナジウム無機塩又はインジウム無機塩とリチウムを除く正極活物質の成分である全金属元素の無機塩とを所定比率で混合し、その後平均粒子径が0.1〜1μmになるように湿式超微粉砕する。
【0029】
上記(イ)の工程で用いるニッケル無機塩としては、特に限定されるものではないが、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、オキシ水酸化ニッケル及び炭酸ニッケルが用いられる。 また、Mg、Ca、Ti、Mn、Cr、Fe、Ni、Co、Cu、Zn、Mo、Ag、W、B、Al、Ga、Nb、Sn、Pb、Sr、Sb又はPから選ばれる少なくとも1種の元素を添加するためには、これらの元素を含有する酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物及び炭酸塩を用いることができる。
【0030】
上記(イ)の工程で用いるバナジウム無機塩としては、特に限定されるものではないが、酸化バナジウム及び水酸化バナジウムが用いられる。また、上記工程で用いるインジウム無機塩としては、特に限定されるものではないが、酸化インジウム及び水酸化インジウムが用いられる。
【0031】
上記(イ)の工程で用いる粉砕方法としては、ビーズミル、アトマイザー等を用いる湿式超微粉砕が好ましい。すなわち、上記ニッケル含有無機塩スラリーの分散状態としては、後工程であるニッケル含有無機塩粉末とリチウム無機塩を焼成する際に得られるニッケル酸リチウム中で、バナジウム又はインジウムが固溶するほど、すなわち原子レベル迄均一に分散させずに、適度の大きさに粉砕された粒子が均一に分散された状態を作ることが望ましい。
【0032】
この手法としては、固相内拡散を利用する方法が用いられ、例えば、ニッケル無機塩、置換金属無機塩及びバナジウム無機塩又はインジウム無機塩の混合物をスラリーにしてそれらの二次粒子の形骸ができるだけ壊れるように混合粉砕し、その後リチウム無機塩をさらに添加混合して焼成する方法が好ましい。ここで、固相内拡散を利用する方法のように置換元素が均一に拡散しにくい方法では、二次粒子の形骸をできるだけ崩し粉末粒子を予め微細にして混ぜ合わせておかなければ均一な置換元素、バナジウム及びインジウムの分散が得られない。
【0033】
上記(イ)の工程で得られるスラリー中の固形物の平均粒子径は、0.1〜1μmであり、好ましくは0.1〜0.5μm、より好ましくは0.1〜0.3μmである。すなわち、スラリー中の固形物の平均粒子径が1μmを超えると、後工程である噴霧乾燥で得られる粉末の球形度が低下し、電池に使用する際の最終的な粉体充填密度及び得られる粉体の強度が低くなる傾向にある。一方、平均粒子径が0.1μm未満では、粉砕のコストアップになる。
【0034】
上記(イ)の工程で用いるスラリーの分散媒としては、特に限定されるものではなく、水のほか、各種有機溶媒が用いられるが、特に、不純物は電池特性の劣化を引き起こすので、水が好ましく、純水がより好ましい。
【0035】
上記製造方法において、ニッケル含有無機塩粉末を得る(ロ)の工程では、上記ニッケル含有無機塩スラリーを噴霧乾燥に付し、球状又は楕円球状のニッケル含有無機塩粉末を得る。ここで、球状又は楕円球状のニッケル含有無機塩粉末を得ることによって、前述したように単位体積当たりの電池容量を示す体積エネルギー密度を上昇させることができるとともに、発熱又は発火を防止することができる。
【0036】
すなわち、上記湿式超微粉砕において得られるスラリーの固形物には細かい粒子が多数存在し正極活物質としての充填性に直接影響する嵩密度が低くなる。これをそのままの形状で用いた際には、電極を形成する際の成形性が悪くなるほか、導電剤又は導電助剤として添加するカーボンや成形性を向上させる結着剤、さらには電解液量を多くしなければならなくなる。その結果として、成形された正極単位体積中の活物質量は少なくなるので体積エネルギー密度が大幅に低下してしまうという問題のほか、微粉が多いため発熱の原因となる活性な粒子が増えてしまい添加元素による熱的安定性の付与の効果が相殺されるという問題があるからである。
【0037】
上記(ロ)の工程で用いる噴霧乾燥としては、特に限定されるものではなく、一般に微粉末を含む無機物スラリーから粉末を得る際に用いられる種々の方法が適用することができる。例えば、乾燥塔の上部からスラリーを噴霧し、下部に向かいダウンフローで乾燥ガスを導入する構造が好ましい。このような構造とすることにより、乾燥塔単位容積あたりの処理量を大幅に向上させることができる。
【0038】
上記噴霧乾燥で用いる乾燥ガス温度は、特に限定されるものではなく、通常50〜120℃が好ましく、70〜100℃がより好ましい。すなわち、温度が120℃を超えると、得られる乾燥造粒粒子に中空構造のものが多くなり、粉体の充填密度を下げる。一方、50℃未満では、噴霧乾燥装置の粉体出口部分での水分結露による粉体固着及び閉塞などの問題が生ずる。
【0039】
上記噴霧乾燥で用いるスラリー濃度は、特に限定されるものではなく、1〜70重量%が好ましく、10〜70重量%がより好ましく、20〜30重量%がさらに好ましい。すなわち、スラリー濃度が1重量%未満では、蒸発水分の体積が大きすぎ、噴霧量が非常に少なくなるため生産性が低くなる。一方、スラリー濃度が70重量%を超えると、噴霧に用いるノズル内でスラリーが乾燥し粉体が詰まって閉塞するため噴霧ができなくなる。
【0040】
上記噴霧乾燥により球状又は楕円球状のニッケル含有無機塩粉末が得られる。得られる粉末の平均粒子径は、噴霧形式、ノズル形状、加圧気体流供給速度、スラリー供給速度、及び乾燥温度を適宜選定することにより制御することができる。本発明のニッケル含有無機塩粉末としては、特に限定されるものではなく、3〜15μmが好ましく、5〜10μmがより好ましく、5〜8μmがさらに好ましい。すなわち、3μm未満では、充填密度が低下する。
【0041】
上記製造方法において、ニッケル酸リチウム粒子を得る(ハ)の工程では、上記ニッケル含有無機塩粉末と、リチウム無機塩とを混合して混合物を得た後、これを焼成する。
【0042】
上記(ハ)の工程で用いるリチウム無機塩としては、特に限定されるものではなく、水酸化物、炭酸塩、フッ化物、塩化物及び硝酸塩が挙げられる。
【0043】
上記(ハ)の工程で行うニッケル含有無機塩粉末と上記リチウム無機塩との混合は、所望の組成になるよう行われる。例えば、リチウム無機塩中のリチウムとニッケル含有無機塩粉末中の全金属の原子比は、1:1.02〜1:1.10が好ましい。また、用いる混合装置としては、特に限定されるものではなく、Vブレンダー等の乾式混合機、又は混合造粒装置等が挙げられる。
【0044】
上記(ハ)の工程の焼成条件としては、特に限定されるものではないが、例えば、酸素雰囲気下、焼成温度は500〜900℃が好ましく、650〜800℃がより好ましく、焼成保持時間は1〜60時間が好ましく、10〜30時間がより好ましい。すなわち、温度が500℃未満では、結晶性が良い、組成式(1)で表される層状構造を有するニッケル酸リチウムが形成されないため電池容量が小さくなり、一方、900℃を超えると、層状構造を持たず、充放電を行えないリチウムニッケル複合酸化物が生成される。また、焼成保持時間が1時間未満では、温度が500℃未満のときと同様に電池容量が小さくなり、一方、30時間を超えると、それ以上の焼成の効果がなくなる。
【0045】
以上の製造方法によつて、組成式(1)で表される層状構造を有するニッケル酸リチウムの粒子内部に添加元素としてバナジウム又はインジウムをバナジウム酸リチウム又はインジウム酸リチウムとして均一に分散された状態で含むとともに、粒子の形状は一次粒子が集合した球状又は楕円球状の二次粒子からなり、かつ2.0g/mL以上のタップ密度を有する粉末が得られる。
【0046】
3.非水系二次電池
本発明の非水系二次電池は、二次電池の過充電及び高温保存時の熱的安定性が高い非水系二次電池であって、本発明の正極活物質を用いてなる非水系二次電池である。
上記非水系二次電池は、正極活物質として、組成式(1)で表される層状構造を有するニッケル酸リチウム粒子に、添加元素としてバナジウム又はインジウムを添加してなる正極活物質であって、上記添加元素は、バナジウム酸リチウム又はインジウム酸リチウムを形成して粒子内部に均一に分散され、かつ粒子の形状は一次粒子が集合した球状又は楕円球状の二次粒子からなる粉末を用いているので、電池の熱的安定性が高く、一方電池容量、サイクル寿命及び出力の低下を抑えることができる高性能小型二次電池である。
【実施例】
【0047】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いたバナジウム又はインジウムの分布状況、タップ密度の測定及び電池の充放電特性(初期放電容量、容量維持率及び発熱ピーク比)の評価方法は、以下の通りである。
(1)バナジウム又はインジウムの分布状況の評価:EPMA面分析で行った。ここで、均一に分散するとは、無作為に選んだ粒子20個の断面の各元素の濃度分布において、極端な濃淡すなわち濃度のばらつきがない状態を意味する。
(2)タップ密度の測定:20mLメスシリンダーに試料10gを入れ、500回タッピングした時の体積で重量を割った値である。
【0048】
(3)電池の充放電特性(初期放電容量、容量維持率及び発熱ピーク比)の測定:リチウムコイン二次電池を作製して、評価した。
まず、図を用いて、電池の構成と作製方法を説明する。図1に、作製した2032型のコイン電池の概略図を示す。調製した正極1のほか、負極3としてはリチウム金属を、電解液には1モルのLiClOを支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合溶液を用いた。ポリエチレンからなるセパレータ2に電解液を染み込ませ、露点が−80℃に管理されたアルゴン雰囲気下のグローブボックス中で、正極1、負極3、セパレータ2をガスケット4、正極缶5、及び負極缶6中に格納してコイン電池を作製した。その後、作製された電池を24時間程度放置し、OCV(開回路電圧)が安定した後、サイクル特性を調べる場合は正極に対する電流密度を0.5mA/cmとし、カットオフ電圧4.3〜3.0Vの条件で充放電試験を行った。
【0049】
ここで、初期放電容量及びそれに対する20サイクル目の放電容量の比(容量維持率)を求めた。さらに、1サイクル目の充電カット電圧を4.5Vとして過充電させた状態のコイン電池を解体し、正極合剤を取り出してその熱的安定性をDSCによって測定し、発熱ピーク比を求めた。なお、発熱ピーク比は、バナジウム含有活物質とインジウム含有活物質のそれぞれで基準値を決めて他は相対比で表した。
【0050】
また、実施例及び比較例で原料として用いた金属無機塩は、いずれも試薬1級であった。
【0051】
(実施例1)
無機塩が均一分散した球状又は楕円球状のニッケル含有無機塩粉末と水酸化リチウムからニッケル酸リチウムを合成した。
(1)ニッケル含有無機塩スラリーの調製
まず、水酸化ニッケル、水酸化コバルト、水酸化アルミニウム、及び酸化バナジウム(V)を、原子比でNi:Co:Al:V=80:15:4:1となるようにそれぞれ秤量し、攪拌用タンク内に投入後、純水を加えてスラリー濃度を20重量%に調整した。次に、このスラリーをビーズミル(浅田鉄工株式会社製)に投入し、スラリー中の固形物の平均粒子径が0.2μmになるまで粉砕して、ニッケル含有無機塩スラリーを得た。
【0052】
(2)ニッケル含有無機塩粉末の調製
上記ニッケル含有無機塩スラリーを、噴霧乾燥機(マイクロミストドライヤー、藤崎電機株式会社製)を用いて下記条件で処理して球状又は楕円球状のニッケル含有無機塩粉末を得た。
エアー流量:40L/min
スラリー供給量:50mL/min
入口温度:200℃
出口温度:70℃
【0053】
(3)ニッケル酸リチウム粉末の製造
まず、上記ニッケル含有無機塩粉末に対して、水酸化リチウム一水和物を原子比でLi:Ni:Co:Al:V=105:80:15:4:1になるように添加し、これらと純水を混合造粒装置に装入し混合造粒した。次に、この造粒粉末を、酸素雰囲気に調整した電気炉中にて加熱した。なお、加熱条件は、一度500℃で3時間仮焼した後、730℃で20時間焼成し、その後室温まで炉内で冷却した。ここで、球状及び楕円球状からなり、二次粒子の平均粒子径が6μmで、バナジウムのリチウム複合酸化物を粒子内部に均一に拡散させているニッケル酸リチウム粉末が得られた。その後、得られた粉体のタップ密度を測定した。結果を表1に示す。
【0054】
(4)電池の作製と特性評価
上記粉体を正極活物質として用いて、以下のように正極を作製し、上記電池の充放電特性の測定に従って、作製したリチウムコイン二次電池の初期放電容量、容量維持率及び発熱ピーク比を評価した。結果を表1に示す。なお、発熱ピーク比は、このバナジウム含有活物質の最大発熱ピークの大きさを1(基準)とした。
【0055】
[正極の作製方法]
まず、上記粉末90重量部に、アセチレンブラック5重量部及びPVDF(ポリ沸化ビニリデン)5重量部を混合し、さらにNMP(n−メチルピロリドン)を加えペースト化した。次に、20μm厚のアルミニウム箔に乾燥後の活物質重量が0.05g/cmになるようにペーストを塗布した後、120℃で真空乾燥を行った。得られた乾燥物から直径1cmの円板状に打ち抜いて正極を得た。
【0056】
(実施例2)
無機塩が均一分散した球状又は楕円球状のニッケル含有無機塩粉末と水酸化リチウムからニッケル酸リチウムを合成した。
ニッケル含有無機塩スラリーの調製において、酸化バナジウムの代わりに酸化インジウム(In)を用いた以外は、実施例1と同様に行い、平均粒子径6μmの二次粒子で、インジウムのリチウム複合酸化物を粒子内部に均一に拡散させているニッケル酸リチウム粉末を得て、得られた粉体のタップ密度、及び作製したリチウムコイン二次電池の初期放電容量、容量維持率及び発熱ピーク比を評価した。結果を表1に示す。なお、発熱ピーク比は、このインジウム含有活物質の最大発熱ピークの大きさを1(基準)とした。
【0057】
(実施例3)
無機塩が均一分散した球状又は楕円球状のニッケル含有無機塩粉末と水酸化リチウムからニッケル酸リチウムを合成した。
ニッケル含有無機塩スラリーの調製において、酸化バナジウムの配合比を変えて各無機塩の原子比をNi:Co:Al:V=80.8:15:4:0.2とした以外は、実施例1と同様に行い、平均粒子径6μmの二次粒子で、バナジウムのリチウム複合酸化物を粒子内部に均一に拡散させているニッケル酸リチウム粉末を得て、得られた粉体のタップ密度、及び作製したリチウムコイン二次電池の初期放電容量、容量維持率及び発熱ピーク比を評価した。結果を表1に示す。なお、発熱ピーク比は、実施例1で得られたバナジウム含有活物質の最大発熱ピークの大きさを1として相対値で示した。
【0058】
(実施例4)
無機塩が均一分散した球状又は楕円球状のニッケル含有無機塩粉末と水酸化リチウムからニッケル酸リチウムを合成した。
ニッケル含有無機塩スラリーの調製において、酸化インジウムの配合比を変えて各無機塩の原子比をNi:Co:Al:In=80.8:15:4:0.2とした以外は、実施例2と同様に行い、平均粒子径6μmの二次粒子で、インジウムのリチウム複合酸化物を粒子内部に均一に拡散させているニッケル酸リチウム粉末を得て、得られた粉体のタップ密度、及び作製したリチウムコイン二次電池の初期放電容量、容量維持率及び発熱ピーク比を評価した。結果を表1に示す。なお、発熱ピーク比は、実施例2で得られたインジウム含有活物質の最大発熱ピークの大きさを1として相対値で示した。
【0059】
(実施例5)
無機塩が均一分散した球状又は楕円球状のニッケル含有無機塩粉末と水酸化リチウムからニッケル酸リチウムを合成した。
ニッケル含有無機塩スラリーの調製において、酸化バナジウムの配合比を変えて各無機塩の原子比をNi:Co:Al:V=71:15:4:10とした以外は、実施例1と同様に行い、平均粒子径6μmの二次粒子で、バナジウムのリチウム複合酸化物を粒子内部に均一に拡散させているニッケル酸リチウム粉末を得て、得られた粉体のタップ密度、及び作製したリチウムコイン二次電池の初期放電容量、容量維持率及び発熱ピーク比を評価した。結果を表1に示す。なお、発熱ピーク比は、実施例1で得られたバナジウム含有活物質の最大発熱ピークの大きさを1として相対値で示した。
【0060】
(実施例6)
無機塩が均一分散した球状又は楕円球状のニッケル含有無機塩粉末と水酸化リチウムからニッケル酸リチウムを合成した。
ニッケル含有無機塩スラリーの調製において、酸化インジウムの配合比を変えて各無機塩の原子比をNi:Co:Al:In=71:15:4:10とした以外は、実施例2と同様に行い、平均粒子径6μmの二次粒子で、インジウムのリチウム複合酸化物を粒子内部に均一に拡散させているニッケル酸リチウム粉末を得て、得られた粉体のタップ密度、及び作製したリチウムコイン二次電池の初期放電容量、容量維持率及び発熱ピーク比を評価した。結果を表1に示す。なお、発熱ピーク比は、実施例2で得られたインジウム含有活物質の最大発熱ピークの大きさを1として相対値で示した。
【0061】
(比較例1)
共沈法で作製したバナジウム、コバルト及びアルミニウムを固溶させた球状水酸化ニッケルと、水酸化リチウムとからニッケル酸リチウムを合成した。
まず、所定量の純水をはった吐出口付き攪拌反応槽に、ニッケル、コバルト、アルミニウム、バナジウムの原子比が80:15:4:1となるように硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸アルミニウム及び酸化硫酸バナジウムを溶解して水溶液を作製した。次に、水溶液にアンモニア水を滴下しながら、かつ苛性ソーダを滴下してpHを12に調整し、滞留時間を10時間に設定して連続運転を行った。これによって、平均粒子径6μmで、バナジウム、コバルト及びアルミニウムを固溶させた球状水酸化ニッケルが得られた。
【0062】
次いで、ニッケル含有無機塩粉末の代わりに、上記球状水酸化ニッケルを用いた以外は、実施例1のニッケル酸リチウム粉末の製造と同様の条件で行い、平均粒子径6μmの二次粒子で、バナジウム、コバルト及びアルミニウムを固溶させたニッケル酸リチウムを得て、得られた粉体のタップ密度、及び作製したリチウムコイン二次電池の初期放電容量、容量維持率及び発熱ピーク比を評価した。結果を表1に示す。なお、発熱ピーク比は、実施例1で得られたバナジウム含有活物質の最大発熱ピークの大きさを1として相対値で示した。
【0063】
(比較例2)
共沈法で作製したインジウム、コバルト及びアルミニウムを固溶させた球状水酸化ニッケルと、水酸化リチウムとからニッケル酸リチウムを合成した。
酸化硫酸バナジウムに代えて、硫酸インジウムを用いた以外は、比較例1と同様に行って、平均粒子径6μmで、インジウム、コバルト及びアルミニウムを固溶させた球状水酸化ニッケルを得た。
次いで、ニッケル含有無機塩粉末の代わりに、上記球状水酸化ニッケルを用いた以外は、実施例1のニッケル酸リチウム粉末の製造と同様の条件で行い、平均粒子径6μmの二次粒子で、インジウム、コバルト及びアルミニウムを固溶させたニッケル酸リチウムを得て、得られた粉体のタップ密度、及び作製したリチウムコイン二次電池の初期放電容量、容量維持率及び発熱ピーク比を評価した。結果を表1に示す。なお、発熱ピーク比は、実施例2で得られたインジウム含有活物質の最大発熱ピークの大きさを1として相対値で示した。
【0064】
(比較例3)
リチウム、ニッケル、バナジウム、コバルト及びアルミニウム無機塩の粉砕混合物からニッケル酸リチウムを合成した。
まず、水酸化リチウム一水和物、水酸化ニッケル、水酸化コバルト、水酸化アルミニウム及び酸化バナジウム(V)を用いて、原子比でLi:Ni:Co:Al:V=105:80:15:4:1となるようにそれぞれを秤量し、これらをボールミルに投入して24時間粉砕して、粉砕混合物を得た。
次いで、得られた粉砕混合物を酸素雰囲気に調整した電気炉中にて加熱した。なお、加熱条件は、一度500℃で3時間仮焼した後、730℃で20時間焼成し、その後室温まで炉内で冷却した。その後、得られた粉体のタップ密度、及び作製したリチウムコイン二次電池の初期放電容量、容量維持率及び発熱ピーク比を評価した。結果を表1に示す。なお、発熱ピーク比は、実施例1で得られたバナジウム含有活物質の最大発熱ピークの大きさを1として相対値で示した。
【0065】
(比較例4)
リチウム、ニッケル、インジウム、コバルト及びアルミニウム無機塩の粉砕混合物からニッケル酸リチウムを合成した。
酸化バナジウム(V)に代えて、酸化インジウム(In)を用いた以外は比較例3と同様に行い、得られた粉体のタップ密度、及び作製したリチウムコイン二次電池の初期放電容量、容量維持率及び発熱ピーク比を評価した。結果を表1に示す。なお、発熱ピーク比は、実施例1で得られたインジウム含有活物質の最大発熱ピークの大きさを1として相対値で示した。
【0066】
(比較例5)
共沈法で作製したコバルト及びアルミニウムを固溶させた球状水酸化ニッケル、酸化バナジウム、及び水酸化リチウムからニッケル酸リチウムを合成した。
まず、所定量の純水をはった吐出口付き攪拌反応槽に、ニッケル、コバルト、アルミニウムの原子比が80:15:4となるように硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸アルミニウムを溶解して水溶液を作製した。次に、水溶液にアンモニア水を滴下しながら、かつ苛性ソーダを滴下してpHを12に調整し、滞留時間を10時間に設定して連続運転を行った。これによって、平均粒子径6μmで、コバルト及びアルミニウムを固溶させた球状水酸化ニッケルが得られた。
【0067】
次いで、上記球状水酸化ニッケルに原子比でNi:Co:Al:V=80:15:4:1となるように酸化バナジウム(V)を添加し、コバルト及びアルミニウムを固溶させた球状水酸化ニッケルと酸化バナジウム粉末の混合物を得た。なお、酸化バナジウムとしては、ボールミル粉砕により細かく砕いたもの(平均粒子径6μm)を用いた。
最後に、ニッケル含有無機塩粉末の代わりに、上記混合物を用いた以外は、実施例1のニッケル酸リチウム粉末の製造と同様の条件で行い、平均粒子径6μmの二次粒子で、バナジウム、コバルト及びアルミニウムを固溶させたニッケル酸リチウムを得て、得られた粉体のタップ密度、及び作製したリチウムコイン二次電池の初期放電容量、容量維持率及び発熱ピーク比を評価した。結果を表1に示す。なお、発熱ピーク比は、実施例1で得られたバナジウム含有活物質の最大発熱ピークの大きさを1として相対値で示した。
【0068】
(比較例6)
共沈法で作製したコバルト及びアルミニウムを固溶させた球状水酸化ニッケル、酸化インジウム、及び水酸化リチウムからニッケル酸リチウムを合成した。
酸化バナジウム(V)に代えて、酸化インジウム(In)を用いた以外は比較例5と同様に行い、得られた粉体のタップ密度、及び作製したリチウムコイン二次電池の初期放電容量、容量維持率及び発熱ピーク比を評価した。結果を表1に示す。なお、発熱ピーク比は、実施例1で得られたインジウム含有活物質の最大発熱ピークの大きさを1として相対値で示した。
【0069】
【表1】

【0070】
表1より、実施例1〜6では、ニッケル含有金属無機塩粉末の製造が湿式超微粉砕と噴霧乾燥を含む本発明の方法に従って行われたので、それを用いてバナジウム又はインジウムのリチウム複合酸化物を粒子内部に均一に拡散させているニッケル酸リチウム粉末が得られ、これを正極活物質として熱的安定性と電池特性に優れた二次電池が得られるることが分かる。これに対して、比較例1〜6では、金属無機塩の調製方法がこれらの条件に合わないので、タップ密度、放電容量の維持率又は熱的安定性(発熱ピーク比)のいずれかにおいて満足すべき結果が得られないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上より明らかなように、本発明の非水系二次電池用の正極活物質とその製造方法は、特にハイブリッド自動車用二次電池に代表される大型二次電池分野で利用されるリチウムイオン二次電池の正極活物質とその製造方法として好適である。また、それを用いた非水系二次電池は、リチウムイオン二次電池の保護回路の簡素化及び小型化を実現することができ、ニッケル水素二次電池にかわって小型高容量電池として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施例で作製した2032型のコイン電池の概略図である。
【符号の説明】
【0073】
1 正極
2 セパレーター
3 負極
4 ガスケット
5 正極缶
6 負極缶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)の組成式で表される層状構造を有するニッケル酸リチウム粒子に、添加元素としてバナジウム(V)又はインジウム(In)を添加してなる正極活物質であって、
上記添加元素は、バナジウム酸リチウム又はインジウム酸リチウムを形成して粒子内部に均一に分散され、かつ粒子の形状は、一次粒子が集合した球状又は楕円球状の二次粒子であることを特徴とする非水系二次電池用の正極活物質。
LiNi1−a …(1)
(式中、Mは、Mg、Ca、Ti、Mn、Cr、Fe、Ni、Co、Cu、Zn、Mo、Ag、W、B、Al、Ga、Nb、Sn、Pb、Sr、Sb又はPから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、aは、0.01≦a≦0.5である。)
【請求項2】
前記添加元素の添加量は、(V又はIn)/(Liを除く全金属元素)原子比で、0.002〜0.1であることを特徴とする請求項1に記載の非水系二次電池用の正極活物質。
【請求項3】
タップ密度が2.0g/mL以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水系二次電池用の正極活物質。
【請求項4】
下記(イ)〜(ハ)の工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水系二次電池用の正極活物質の製造方法。
(イ)ニッケル無機塩に、バナジウム又はインジウムの無機塩と、リチウムを除く正極活物質の成分である全金属元素の無機塩とを所定比率で混合した後、湿式超微粉砕してニッケル含有無機塩スラリーを調製する。
(ロ)上記ニッケル含有無機塩スラリーを噴霧乾燥に付し、球状又は楕円球状のニッケル含有無機塩粉末を調製する。
(ハ)上記ニッケル含有無機塩粉末とリチウム無機塩とを混合し焼成する。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の正極活物質を用いてなる、二次電池の過充電及び高温保存時の熱的安定性が高い非水系二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2006−4689(P2006−4689A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177922(P2004−177922)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】