説明

非水電解液二次電池用正極板、非水電解液二次電池、電池パック、非水電解液二次電池用正極板の製造方法、および正極用電極活物質層の形成方法

【課題】本発明は、非水電解液二次電池の使用環境温度が急激に低下した場合であっても、電極容量の急激な低下を緩和することができる非水電解液二次電池用正極板、およびこれを用いた非水電解液二次電池、電池パック、並びに、上記非水電解液二次電池用正極板の製造方法、および正極用電極活物質層の形成方法を提供することを目的とする。
【解決手段】集電体と、上記集電体上の少なくとも一部に設けられる電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用正極板において、上記電極活物質層に、正極活物質粒子と、金属および/または金属酸化物と、樹脂とを含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池用正極板、上記非水電解液二次電池用正極板を用いる非水電解液二次電池および電池パック、並びに、非水電解液二次電池用正極板の製造方法、および正極用電極活物質層の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池は、高エネルギー密度、高電圧を有し、また充放電時におけるメモリ効果(完全に放電させる前に電池の充電を行なうと次第に電池容量が減少していく現象)が無いことから、携帯機器、及び大型機器など様々な分野で用いられている。
【0003】
また、現在、世界規模でCO排出抑制の取り組みが行われており、石油依存度を低減し、低環境負荷で走行可能とすることで、CO削減に大いに寄与することができるプラグインハイブリッド自動車、電気自動車に代表される次世代クリーンエネルギー自動車の開発・普及が急務とされている。これらの次世代クリーンエネルギー自動車の開発・普及には、ガソリンに依存しない駆動力が必須である。上記駆動力としてリチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池が期待されている。
【0004】
上記非水電解液二次電池は、正極板、負極板、セパレータ、及び非水電解液を備える。一般的には、非水電解液二次電池は、セパレータを介して正極板と負極板とが、電極活物質層を内側にして対面して構成される。
【0005】
上記正極板及び負極板(以下、総括して「電極板」ともいう)としては、金属箔などの集電体上に、樹脂製結着材のみによりバインドされた電極活物質粒子を含有する電極活物質層を備えるものが一般に用いられている(以下、「樹脂製結着材のみによりバインドされた電極活物質粒子を含有する電極活物質層を備える電極板」を、「従来の電極体」ともいう)。上述する従来の電極板の製造方法は、集電体上に、電極活物質層形成液を塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させて電極活物質層を形成する方法が一般的である。上記電極活物質層形成液には、電極活物質粒子の他に、樹脂製結着材が含有されており、上記塗膜乾燥時に、樹脂製結着材の結着作用により、電極活物質粒子が集電体上で固着され、該電極活物質粒子を含有する電極活物質層が完成される(例えば特許文献1段落[0019]乃至[0026]、特許文献2[請求項1]、段落[0051]乃至[0055])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−310010号公報
【特許文献2】特開2006−107750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非水電解液二次電池は、使用が予定される環境温度よりも著しく低い温度に冷却されると、充放電に寄与される電池容量が低下し電池性能が下がるという性質を有する。ここで、上述する従来の電極板を供える非水電解液二次電池は、使用環境温度が急激に低下した場合に、電池特性も急激に低下するという問題を有する。
【0008】
上記電池性能の急激な低下の原因は下記のとおり考えられた。即ち、電池の使用環境温度が急激に低下すると、集電体、あるいは非水電解液二次電池を収納する容器の外壁面から、電極活物質層に向けて、温度が低下する。このとき、従来の電極板では、集電体は金属箔など熱伝導性の良好な部材で構成されることが一般的であるため、速やかに温度が低下する。一方、従来の電極板における電極活物質層は、上述のとおり樹脂製結着材が含まれていることから、熱伝導性が集電体に比べて小さく、したがって、電極活物質層の膜厚方向において温度勾配が発生する。この温度勾配の発生により、実際の充放電において示される電極容量が急激に低下し、これが電池性能の低下を引き起こすものと考えられた。
【0009】
ここで、本出願人は、金属または金属酸化物を結着物質として、活物質粒子を集電体上に固着させてなる電極板を研究、開発している。上記本出願人の開発する電極板は、例えば、金属イオンが含有される金属イオン溶液に、少なくとも電極活物質粒子を混合させて電極活物質層形成液を調製し、上電極活物質層形成液を集電体上に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、上記塗膜中に含有される金属イオンあるいはその反応物により生成される金属または金属酸化物によって、活物質粒子同士を固着させることによって電極活物質層を形成し、もって電極板を製造する方法によって得ることができる。
【0010】
上述する金属または金属酸化物を結着物質とする電極板を用いて製造した電池を用い、使用環境温度の急激な低下における電池性能を確認したところ、やはり、電池性能が急激に低下することが分かった。これは、電極活物質層中に、主として活物質粒子、金属または金属酸化物、任意添加の導電材といった熱伝導性の良好な物質が含まれるため、集電体だけではなく、電極活物質層においても急激な温度低下が起こり、充放電に寄与する実質的な電極容量が急激に下がることによる電池性能の低下と考えられた。
【0011】
以上のとおり本発明者らは、活物質粒子を樹脂製結着材で固着させた場合であっても、金属または金属酸化物で固着させた場合であっても、非水電解液二次電池の使用環境温度の急激な低下に伴い、実際に充放電に寄与する電極容量が急激に低下し、この結果、電池性能が急激に低下するという問題を有していることを確認した。
【0012】
本発明は上記問題に鑑み、特に非水電解液二次電池に用いられる正極板に着目してなされたものである。即ち、本発明は、非水電解液二次電池の使用環境温度が急激に低下した場合であっても、電極容量の急激な低下を緩和することができる非水電解液二次電池用正極板、およびこれを用いた非水電解液二次電池、電池パック、並びに、上記非水電解液二次電池用正極板の製造方法、および正極用電極活物質層の形成方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
(1)集電体と、上記集電体上の少なくとも一部に設けられる電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用正極板であって、上記電極活物質層は、正極活物質粒子と、金属および/または金属酸化物と、樹脂とを含んでいることを特徴とする非水電解液二次電池用正極板、
(2)上記正極活物質粒子が、上記金属および/または金属酸化物、並びに、上記樹脂により互いに固着されていることを特徴とする上記(1)に記載の非水電解液二次電池用正極板、
(3)上記正極活物質粒子が、上記金属および/または金属酸化物により互いに固着されていることを特徴とする上記(1)に記載の非水電解液二次電池用正極板、
(4)集電体近傍に位置する正極活物質粒子が、上記金属および/または金属酸化物、あるいは上記樹脂の少なくともいずれかによって、直接に集電体上に固着されていることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池用正極板、
(5)上記金属酸化物が、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示すことを特徴とする上記(2)から(4)のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池用電正極板、
(6)正極板と、負極板と、上記正極板と上記負極板との間に設けられるセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを少なくとも備えた非水電解液二次電池であって、上記正極板が、上記(1)から(5)のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池用正極板であることを特徴とする非水電解液二次電池、
(7)収納ケースと、正極端子および負極端子を備える非水電解液二次電池と、過充電および過放電保護機能を有する保護回路とを少なくとも備え、上記収納ケースに上記非水電解液二次電池および上記保護回路が収納されて構成される電池パックにおいて、上記非水電解液二次電池が、正極板と、負極板と、上記正極板と上記負極板との間に設けられるセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを少なくとも備えた非水電解液二次電池であり、上記正極板が、上記(1)か(5)のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池用正極板であることを特徴とする電池パック、
(8)金属イオンが含有される金属イオン溶液に、少なくとも正極活物質粒子を混合させて電極活物質層形成液を調製し、上記電極活物質層形成液を正極集電体上に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、上記塗膜中に含有される金属イオンあるいはその反応物により生成される金属または金属酸化物によって、正極活物質粒子同士を固着させることによって準電極活物質層を形成する準電極活物質層形成工程と、をこの順に実施し、次いで、上記準電極活物質層に樹脂材料含有液を含浸させた後、該樹脂材料含有液の溶媒を除去し、樹脂と、金属または金属酸化物と、該金属または金属酸化物によって互いに固着される正極活物質粒子とを含む電極活物質層を集電体上に直接に形成することを特徴とする非水電解液二次電池用正極板の製造方法、
(9)金属イオンが含有される金属イオン溶液に、少なくとも正極活物質粒子を混合させて電極活物質層形成液を調製し、上記電極活物質層形成液を基材上に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、上記塗膜中に含有される金属イオンあるいはその反応物により生成される金属または金属酸化物によって、正極活物質粒子同士を固着させることによって準電極活物質層を形成する準電極活物質層形成工程と、をこの順に実施し、次いで、上記準電極活物質層に樹脂材料含有液を含浸させた後、該樹脂材料含有液の溶媒を除去し、樹脂と、金属または金属酸化物と、該金属または金属酸化物によって互いに固着される正極活物質粒子と、を含む電極活物質層を形成することを特徴とする正極用電極活物質層の形成方法、
を要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の非水電解液二次電池用正極板は、電池の使用環境温度が急激に低下した場合であっても、充放電に実際に寄与する電極容量が急激に低下することが防止される。したがって、本発明の非水電解液二次電池用正極板を用いた非水電解液二次電池、および電池パックは、使用環境温度が急激に低下した場合であっても、電池性能の急激な低下を防止可能である。
【0015】
また、本発明の非水電解液二次電池用電極板の製造方法であれば、上述する課題を克服する非水電解液二次電池用正極板を汎用の材料を用いて、容易に製造することができる。
【0016】
また、本発明の正極用電極活物質層の形成方法であれば、上述する課題を解決することのできる電極活物質層を膜として形成し、その後に、適切な集電体に積層させて電極板を製造することができ、種々の態様に適用可能である。あるいは、本発明の正極用電極活物質層の形成方法であれば、集電体以外の基材上に容易に形成することができ、当該基材ごと集電体に積層させることが可能であり、電極板の設計範囲を拡大することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(1A)は、本発明の正極板の実施態様1の一例に関する断面模式図であり、(1B)は、本発明の正極板の実施態様2の異なる例に関する断面模式図である。
【図2】本発明の正極板の実施態様5の一例に関する断面模式図である。
【図3】本発明の非水電解液二次電池の一態様を示す断面概略図である。
【図4】本発明の電池パックの一態様を示す分解斜視図である。
【図5】コバルト酸リチウムのCV試験結果を示すサイクルボルタモグラムである。
【図6】リチウムイオン挿入脱離反応を示さない金属化合物のCV試験結果を示すサイクルボルタモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の非水電解液二次電池用正極板(以下、単に「正極板」ともいう)は、集電体と、上記集電体上の少なくとも一部に設けられる電極活物質層とを備える、従来公知の一般的な正極板の構造において、特に、上記電極活物質層が、電極活物質粒子と、金属および/または金属酸化物と、樹脂とを含んでいることを特徴とするものである。上記構成を採用することにより、本発明は、非水電解液二次電池の使用環境温度が低下した際、これまで問題であった電極活物質層の温度勾配の発生、および、電極活物質層の温度の急激な低下を防止することによって、実際に充放電に寄与する電極容量の急激な低下を良好に防止することができる。
【0019】
上述のとおり、本発明の非水電解液二次電池用正極板は、電極活物質層中に、正極活物質粒子に加え、熱伝導性の良い材料として、金属または金属酸化物を含有する。本発明者らは、上記構成を採用することにより、非水電解液二次電池の使用環境温度が急激に低下した場合にであっても、上記金属または金属酸化物の存在により、該電池に用いられる正極板における電極活物質層の膜厚方向の温度勾配の発生が良好に防止されると推測する。
【0020】
また、本発明の非水電解液二次電池用正極板は、上記電極活物質層に、さらに、熱伝導性の不良な材料として、樹脂を含有する。本発明者らは、上記構成を採用することにより、非水電解液二次電池の使用環境温度が急激に低下した場合にであっても、上記樹脂の存在により、該電池に用いられる正極板における電極活物質層の温度が急激に低下することが防止されると推測する。
【0021】
尚、電極活物質層に含まれる活物質粒子は、一般的には、粒子自身で、互いに固着する作用、あるいは集電体上に固着する作用を有していないので、何らかの結着材を必要とする。本発明において、上記結着材は、何ら限定されず、電極活物質粒子が集電体上に直接または間接に固着でき、これによって電極活物質層の形成を可能とするものであればよい。特には、本発明における上記金属および/または金属酸化物、上記樹脂の少なくともいずれかが結着材として作用してもよく、これらの具体的な態様については、後述する。
【0022】
後述する本発明の実施態様において、本発明の正極板に含有される正極活物質粒子を単に「活物質粒子」という場合があり、また本発明に正極板に用いられる集電体は、正極集電体であるところ、単に「集電体」という場合がある。
【0023】
[実施態様1]
本発明の正極板は、電極活物質層中に、活物質粒子と、金属および/または金属酸化物、樹脂を含み、上記金属および/または金属酸化物、並びに、上記樹脂のいずれもが、結着材として作用し、これによって活物質粒子が、互いに固着する態様であってよい(上記態様を、「実施態様1」ともいう)。以下、結着材として作用する金属および/または金属酸化物を金属結着材、結着材として作用する樹脂を樹脂結着材という。尚、実施態様1では、金属結着材として、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示さない金属、あるいは金属酸化物が選択された本発明の態様を示す。
【0024】
図1Aに、実施態様1の一例として本発明の正極板10の断面を模式的に現した図を示す。正極板10は、集電体1上に、直接に電極活物質層21が形成されてなる。電極活物質層21は、複数の正極用の活物質粒子3を含み、活物質粒子3は、金属および/または金属酸化物からなる、非粒子状の金属結着材4と、樹脂結着材5とにより、互いに固着されている。また、集電体1近傍に存在する活物質粒子3は、金属結着材4および樹脂結着材5により、集電体1表面に直接に固着されており、これによって、電極活物質層21は、集電体1上に直接に形成されている。また、電極活物質層21には、ところどころに空隙6が存在し、これによって正極板10が非水電解液二次電池の正極板として用いられた際に、電極活物質層21内部に非水電解液が浸透可能である。尚、図1Aに示す、樹脂結着材5は、活物質粒子3同士、あるいは活物質粒子3と集電体1表面とを直接に結着させているもの、および、活物質粒子3同士、あるいは活物質粒子3と集電体1表面とを直接に結着させている金属結着材4を覆って、間接的に、結着作用を発揮させているもののいずれも含む。
【0025】
図1Bに示される本発明の正極板11は、電極活物質層22に含まれる金属結着材4’が粒子状である点が、正極板10と異なる。
【0026】
電極活物質層21の厚みは、正極板10に求められる電極容量や出入力特性を勘案して、適宜設計することができる。また特に、後述する本発明の正極板10の製造方法1を採用する場合には、使用の樹脂のサイズを勘案した上、含浸させる樹脂含有液が、電極活物質層に充分に浸透可能な程度に、電極活物質層21の厚みを設計することが望ましい。一般的には、電極活物質層21は、200μm以下、より一般的には30μm以上かつ150μm以下の厚みで設計される。しかし、後述する本発明の実施態様1の製造方法を実施することによれば、さらに電極活物質層21の厚みを薄くすることもでき、薄膜化による出入力特性の向上を図ることが可能である。例えば、出入力特性の向上の観点からは、電極活物質層21の膜厚を、好ましくは300nm以上150μm以下にすることができ、より好ましくは、500nm以上100μm以下にすることができる。ただし、以上の記載は、本発明における電極活物質層の厚みを何ら限定するものではない。
【0027】
集電体1:
集電体1は、一般的に非水電解液二次電池用正極板に用いられる正極集電体であれば、特に限定されない。例えば、集電体1は、アルミニウム箔、ニッケル箔などの単体又は合金から形成されているもの、もしくはカーボンシート、カーボン板、及びカーボンテキスタイル等の高い導電性を有する箔ものが好ましく用いられるが、これに限定されない。尚、本発明に用いられる集電体は、必要に応じて、電極活物質層の形成が予定される面において、表面加工処理がなされている集電体であってもよい。表面加工処理がなされている集電体としては、導電性物質が積層されているもの、化学研磨処理、コロナ処理、酸素プラズマ処理などの表面処理がなされていてもの等が挙げられる。あるいは、上記集電体は、物理的に任意の凹凸などが表面に設けられていてもよい。
【0028】
図1に示す正極板10あるいは11は、いずれも集電体1の表面に直接に電極活物質層21あるいは22が設けられた例を示した。このように、集電体上に直接に電極且つ物物質層が設けられることによって、集電体と活物質粒子との距離が近くなり、また特に集電体表面と直接に接する活物質粒子が存在することから、電極活物質層における電子の移動がスムーズになり、出入力特性の向上に寄与する結果となり好ましい。
【0029】
上記集電体の厚みは、一般に非水電解液二次電池用正極板に用いられる集電体として使用可能な厚みであれば特に限定されないが、10〜200μmであることが好ましく、15〜50μmであることがより好ましい。
【0030】
活物質粒子3:
活物質粒子3は、非水電解液二次電池用正極板において充放電に寄与するアルカリ金属の挿入脱離反応を示す化合物であれば、特に限定されず、従来公知の正極活物質を適宜選択して使用することができる。活物質粒子3の具体的な例として、例えばリチウム挿入脱離反応を示す正極活物質としては、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiFeO、LiTiO、LiFePOなどのリチウム複合酸化物などを挙げることができるが、これに限定されない。また、活物質粒子3の異なる具体例として、ナトリウム挿入脱離反応を示す活物質としては、NaCoO、NaMnO、NaNi0.5Co0.5、NaMn0.5Ni0.5、NaAl0.1Co0.2Mn0.7どのナトリウム複合酸化物などを挙げることができる。
【0031】
活物質粒子3の粒子径は、特に限定されず、任意の大きさのものを適宜選択して使用することができる。具体的には、用いられる活物質粒子の粒子径は、一般的は、0.1μm〜30μm程度であり、好ましくは10μm未満、より好ましくは5μm以下、特に好ましくは1μm以下であるが、これに限定されない。特に、後述する製造方法1によれば、粒子径の小さい活物質粒子を選択することができ、電極活物質層中における活物質粒子の表面面積の総量を増大させることができるとともに、1つの活物質粒子内におけるリチウムの移動距離を短縮することが可能であるため、出入力特性を向上させることができる。したがって、より高い出入力特性を求める場合には、粒子径の寸法の小さいものを選択することが望ましい。
【0032】
本発明において、使用する活物質粒子3の平均粒径は、たとえばレーザー回折/散乱式粒度分布測定により測定される平均粒径(体積中位粒径:D50)として示される。一方、上記、電極活物質層中に含有される活物質粒子の粒子径は、電子顕微鏡観察結果を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製、MAC VIEW)を用いて任意に選択された複数(例えば10ケ程度)の活物質粒子の最長径を測定し、その平均値を算出することにより求めることができる。
【0033】
金属結着材4
金属結着材4は、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示さない金属および/または金属酸化物であって、少なくとも活物質粒子3同士を固着させることができるものであればよい。したがって、金属結着材4の形状や、寸法は特に限定されない。例えば、図1Aに示すように、非粒子状の金属結着材であってもよいし、図1Bに示すように金属結着材4’のように粒子状であってもよい。上記非粒子状の金属結着材4とは、不定形な形状であって、活物質粒子などの表面を覆う被膜状、活物質間を充填する連続体などのいずれの形状であってもよい。一方、粒子状とは、例えば走査型電子顕微鏡1万倍〜5万倍程度で電極活物質層を観察した際に、輪郭線、あるいは輪郭線の延長線をたどった際に、閉曲していると解されるものをいう。
【0034】
金属結着材4として電極活物質層21に含有されてよい金属の例としては、ニッケルなどを挙げることができるが、これに限定されない。
【0035】
金属結着材4として電極活物質層21に含有されてよい金属酸化物は、一般的に金属と理解される元素の酸化物であれば、特に限定されるものではない。尚、本発明において金属酸化物は、金属元素に結合する酸素元素を有する化合物を意味し、金属リン酸化合物も本発明における金属酸化物に含むものとする。上記金属酸化物に含まれる金属の例としては、Li、Be、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Fr、Ra、およびCeなどを挙げることができる。また理由は明らかではないが、上記金属元素の中でも、特に第3周期乃至第5周期に属する金属の酸化物が金属結着材4として電極活物質層中に存在する場合には、より高い出入力特性向上効果が期待され好ましい。さらに上記第3周期乃至第5周期に属する金属の中でも、鉄、チタンおよびマンガンは、安価であって取扱性も容易である上、優れた出入力特性を電極板10にもたらすことが可能であるため、特に好ましい。
【0036】
金属結着材4として含有可能な金属酸化物であって、1種の金属元素の酸化物の例としては、酸化イットリウム、酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化スカンジウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化ストロンチウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化セリウムなどを挙げることができる。また、金属結着材4として、2種以上の金属元素が含有される複合金属酸化物としては、例えば、ガドリニウムが置換された酸化セリウム、イットリウムが置換された酸化ジルコニウム、鉄とチタンの混合酸化物、インジウムとスズが混合された酸化物、リチウムが置換された酸化ニッケルなどを挙げることができる。尚、以上の例示は、本発明における金属結着材4を何ら限定するものではない。
【0037】
樹脂結着材5:
樹脂結着材5として用いられる樹脂は、直接または間接に、活物質粒子3同士を固着させ、あるいは活物質粒子3と集電体1とを固着させる結着作用を発揮させることができるものであればよい。例えば、従来からの電極板において使用される樹脂製結着材を、本発明における樹脂結着材5として電極活物質層21に含有させてもよい。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素化ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系ポリマー;スチレンブタジエンゴムなどの合成ゴム;メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース;ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂などの熱可塑性樹脂などが挙げられるが、これに限定されない。
【0038】
電極活物質層21に含有される金属結着材4と、樹脂結着材5との含有比率は、特に限定されない。電極活物質層21に含有される金属結着材4と、樹脂結着材5との含有比率は、正極板10に求められる特性を勘案した上、適宜決定してよい。
【0039】
即ち、金属結着材4が電極活物質層21に含有されることによって、金属結着材4における速やかな熱伝導性が得られ、電池使用環境温度が急激に低下した場合にであっても電極活物質層の膜厚方向の温度勾配の発生を防止することができる。その上、樹脂結着材のみで活物質粒子を固着させる態様の従来の電極板に比べて、樹脂結着材の代替として電極活物質層中に金属結着材を含有させるか、あるいは樹脂結着材の一部を金属結着材に変更することによって、正極板の出入力特性が向上することが、本発明者らの研究により確認されている。特に金属結着材4として、導電性の良好な金属および/または金属酸化物を選択することによって、電極活物質層の導電性を良好にすることができる。したがって、電極活物質層21において金属結着材4の含有比率を多くすることによって、上記有利な効果の発生が顕著である。
【0040】
一方、樹脂結着材5が電極活物質層21に含有されることによって、電池使用環境温度が急激に低下した場合にであっても電極活物質層の急激な温度低下を防止することができる。その上、樹脂結着材5の可撓性が有利に働き、電極活物質層21の曲げ特性を向上させることができる。
【0041】
また、電極活物質層21中における金属結着材4と樹脂結着材5の総量と、活物質粒子3の配合比率は特に特定されず、使用される活物質粒子3の種類や大きさ、金属結着材4と樹脂結着材5の種類、正極に求められる機能などを勘案して適宜決定することができる。ただし、一般的には、電極活物質層21中における活物質粒子3の量が多い方が、電極の電気容量が増大するため、この観点からは、電極活物質層21中に存在する金属結着材4と樹脂結着材5の総量が、少ない方が好ましいといえる。より具体的には、電極活物質層21中において、活物質粒子3の重量比率を100重量部としたときに、金属結着材4と樹脂結着材5の総量の重量比率を、0.5重量部以上50重量部以下とすることができる。0.5重量部未満であると、活物質粒子3が集電体上に良好に固着されない場合がある。一方、金属結着材4と樹脂結着材5の総量の重量比率の上限の記載は、本発明において、金属結着材4と樹脂結着材5の総量が50重量部を超えることを除外する趣旨ではない。電極の電気容量を大きくするために、より少ない金属結着材4と樹脂結着材5の総量で活物質粒子3を集電体1上に固着されることができることを示すものである。したがって、電極活物質層形成液に配合される活物質粒子3と金属結着材4と樹脂結着材5の総量も、上記電極活物質層21中における金属結着材4と樹脂結着材5の総量と活物質粒子3の配合量を勘案して決定することができる。また、金属結着材4と樹脂結着材5との比率は、特に限定されないが、電極活物質層21において、金属結着材4と樹脂結着材5との比率は、金属結着材4:樹脂結着材5=3:7〜7:3程度であることが望ましい。
【0042】
空隙6:
空隙6は、非水電解液を浸透可能にするために、設けられる。電極活物質層21における空隙6の形成率(空隙率)は、特に限定されないが、後述する本発明の正極板の製造方法1を採用する場合には、樹脂含有液が充分に電極活物質層に浸透可能な程度な空隙率が確保されるよう留意することが望ましい。一般的には、電極活物質層21の体積を100%としたときに、15%以上45%以下程度に設計される。上記空隙率は、例えば水銀ポロシメータなどを用いて測定することができる。
【0043】
導電材:
電極活物質層21には、導電材粒子あるいは導電材繊維は、示されていないが、本発明の正極板では、適宜、導電材粒子および/または導電材繊維を電極活物質層中に含有されてもよい。上記導電材粒子、および上記導電材繊維は、従来公知のものを適宜選択して使用してよい。より具体的には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック等の炭素材料が例示されるが、これに限定されるものではない。導電材粒子の平均粒径は20nm〜80nm程度であることが一般的である。また導電材粒子としては、炭素繊維(VGCF)が公知である。上記導電剤は、1種または2種以上の組み合わせで電極活物質層中に含まれてよい。導電材を電極活物質層に含有させる場合には、その含有量は特に限定されないが、一般的には、活物質粒子100重量部、あるいは活物質粒子および結着物質の総量100重量部に対して、導電材の割合が5重量部以上20重量部以下となるようにしてよい。
【0044】
電極活物質層21に導電材が含有される場合には、該導電材についても、金属結着材4あるいは4’、および樹脂結着材5の少なくともいずれかによって、集電体上に固着される。
【0045】
正極板10の製造方法の例(製造方法1):
次に、正極板10の製造方法の一例(以下、「製造方法1」ともいう)について説明する。正極板10の製造方法1は、まず金属結着材4である金属または金属酸化物の前駆体である金属結着材前駆体および活物質粒子、あるいはさらに任意の添加剤を含む、電極活物質層形成液を調製する。そして上記製造方法1は、上記電極活物質層形成液を集電体表面の所望の領域に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、上記塗膜より準電極活物質層を形成する準電極活物質層形成工程と、を順に実施し、その後、形成された準電極活物質層に樹脂結着材5を含有させて電極活物質層21を形成する樹脂含浸工程を備える。尚、以下に説明する製造方法1では、金属結着材4としては、金属または金属酸化物が電極活物質層21に含有される電極板10が製造される。
【0046】
(電極活物質層形成液の調製)
製造方法1に用いられる電極活物質層形成液は、溶媒中に、上述で説明する正極活物質粒子、および金属結着材前駆体を含み、あるいはさらに任意で他の添加剤を含有し得る。
【0047】
金属結着材前駆体:
上記金属結着材前駆体は、上記電極活物質層形成液に溶解される材料であって、電極活物質層21中に含有され、金属結着材4として活物質粒子3同士を固着させ、また、活物質粒子3を集電体1上に固着させることのできる、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示さない金属または金属酸化物の前駆体である。電極活物質層形成液に溶解される金属結着材前駆体は1種または2種以上であってよく、溶媒中に溶解された状態で基板上に塗布され、熱分解開始温度以上で加熱されたときに、上述する金属または金属酸化物を生成することができるものであればよい。
【0048】
金属結着材前駆体は、具体的には、Li、Be、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Fr、Ra、およびCeの群から選択されるいずれか1つ、または2つ以上の金属元素を含有する化合物であればよい。また理由は明らかではないが、上記金属元素の中でも、特に3乃至5周期に属する金属元素が含有する金属結着材前駆体を用いた場合には、生成される電極板10の出入力特性が良好になる傾向にあるため、好ましい。
【0049】
上記金属元素を含有する金属結着材前駆体としては、例えば金属塩が好ましく使用される。上記金属塩としては、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、リン酸塩、臭素酸塩、炭酸塩等を挙げることができる。中でも、本発明においては、塩化物、硝酸塩、酢酸塩は汎用品として入手が容易なので、使用することが好ましい。尚、2種以上の金属元素を含有する金属結着材を電極活物質層中に生成させたい場合には、2種以上の金属塩を溶媒中に溶解させればよい。
【0050】
金属塩の具体的な例示としては、塩化マグネシウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、酢酸スカンジウム、四塩化チタン、オキソ硫酸バナジウム、クロム酸アンモニウム、塩化クロム、二クロム酸アンモニウム、酢酸クロム、硝酸クロム、硫酸クロム、硝酸マンガン、硫酸マンガン、塩化鉄(I)、塩化鉄(III)、酢酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸アンモニウム鉄(III)、塩化コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、塩化銅、硝酸銅、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、硝酸イットリウム、塩化イットリウム、塩化酸化ジルコニウム、硝酸酸化ジルコニウム、四塩化ジルコニウム、塩化銀、酢酸銀、硝酸インジウム、酢酸インジウム、硫酸スズ、塩化セリウム、酢酸セリウム、硝酸セリウム、シュウ酸セリウム、硝酸二アンモニウムセリウム、硫酸セリウム、塩化サマリウム、硝酸サマリウム、塩化鉛、酢酸鉛、硝酸鉛、ヨウ化鉛、リン酸鉛、硫酸鉛、塩化ランタン、酢酸ランタン、硝酸ランタン、硝酸ガドリニウム、塩化ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、五塩化ニオブ、りん酸モリブデン酸アンモニウム、硫化モリブデン、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、五塩化アンチモン、三塩化アンチモン、三フッ化アンチモン、テルル酸、亜硫酸バリウム、塩化バリウム、塩素酸バリウム、過塩素酸バリウム、酢酸バリウム、硝酸バリウム、タングステン酸、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、五塩化タンタル、塩化ハフニウム、硫酸ハフニウム等を挙げることができる。
【0051】
上述する電極活物質層形成液において、溶媒中における、添加される1種または2種以上の金属結着材前駆体の添加量の合計の比率は、0.01〜5mol/L、特に0.1〜2mol/Lが好ましい。上記濃度が0.01mol/L以上であることにより、集電体1と該集電体1表面で生成される電極活物質層21とが良好に密着し、活物質粒子3の固着が図られる。また、上記濃度が、5mol/L以下であることにより、上記電極活物質層形成液は集電体1表面へ良好に塗布できる程度の良好な粘度を維持することができ、均一な塗膜が形成される。
【0052】
(その他の添加剤)
また上記電極活物質層形成液には、上述する活物質粒子3および金属結着材前駆体以外にも、導電材、分散剤、可塑剤あるいは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、その他の添加剤を添加してもよい。
【0053】
(溶媒)
上記電極活物質層形成液を調製するために用いられる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、あるいは、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロパノール、ブタノール等の総炭素数が5以下の低級アルコール、アセチルアセトン、ジアセチル、ベンゾイルアセトン等のジケトン類、アセト酢酸エチル、ピルビン酸エチル、ベンゾイル酢酸エチル、ベンゾイル蟻酸エチル等のケトエステル類、トルエン、およびこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
【0054】
尚、上記電極活物質層形成液は、集電体1上に形成が予定される電極活物質層21における活物質粒子3、金属結着材4、あるいはさらに必要に応じて導電材などのその他の添加剤を必要量含まれるように勘案して、これらの配合量が決定される。その際、溶媒に添加される溶質(即ち、活物質粒子、金属結着材前駆体、あるいはさらに任意の添加剤)の比率は、塗布工程において集電体1上への塗布性及び、その後の溶媒の除去を勘案し、適宜調整する。一般的には、電極活物質層形成液を100重量%としたときに、含有される溶質の総量は、30〜70重量%となるよう調整される。
【0055】
(塗布工程)
次に、以上のとおり調製された電極活物質層形成液を、集電体1上に塗布して塗膜を形成する塗布工程を実施する。製造方法1における塗布工程では、該形成液の塗布方法を、適宜選択して実施することができる。たとえば、印刷法、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレーコート等によって、集電体1表面の任意の領域に上記電極活物質層形成液を塗布して塗膜を形成することができる。また、集電体1表面が多孔質であったり、凹凸が多数設けられていたり、三次元立体構造を有したりする場合には、塗布方法は、上記方法以外であって例えば手動で塗布する方法も可能である。尚、集電体1は、必要に応じて、予めコロナ処理や酸素プラズマ処理等を行うことで、電極活物質層21の製膜性をさらに改善することができるため好ましい。
【0056】
上記電極活物層形成液の集電体1への塗布量は、製造される電極板10の用途等に応じて任意に決めることができる。本発明における電極活物質層21は、上述のとおり非常に薄く形成することが可能であるため、薄膜化を図りたい場合には、最終的な電極活物質層21の厚みが300nm〜150μm、特には500nm〜100μm程度となるように薄く塗布してよい。
【0057】
(プレス工程)
上記塗布工程と、後述する電極活物質層形成工程との間、あるいは、後述する電極活物質層形成工程の後には、さらに任意でプレス工程を実施してもよい。上記プレス工程は、集電体1上に形成された上記電極活物質層形成用塗膜を、必要に応じて乾燥させて溶媒を除去し、その後、プレスすることによって実施することができる。したがって、プレス工程後に電極活物質層形成工程を実施する場合には、該電極活物質層形成工程前に予め、塗膜中の溶媒の一部または全部が除去されていてよい。プレス方法は、従来の、樹脂結着材が含まれるスラリー状の電極活物質層形成液を集電体上に塗布して乾燥させ、次いで実施されるプレスと同様の方法で実施することができる。このように製造方法1は、プレス工程を実施することによって、最終的に製造される電極板10における電極活物質層21の空隙率を調整し、また体積エネルギー密度を増加させることができる。
【0058】
(準電極活物質層形成工程)
準電極活物質層形成工程は、上記塗膜中に含有される金属結着材前駆体を反応させて金属または金属酸化物を生成し、該金属または金属酸化物を金属結着材4として、活物質粒子3を集電体1上に固着させることによって、集電体1上に金属結着材4と活物質粒子3とを含有する準電極活物質層を形成する工程である。準電極活物質層形成工程において、上記塗膜中に溶媒が含有されている場合には、該溶媒が除去される。本工程において、金属結着材前駆体は、溶媒に溶解した状態であるもの、および溶媒の除去により析出した状態にあるもののいずれも含む。
【0059】
上記準電極活物質層形成工程は、例えば、加熱工程、減圧乾燥工程、減圧加熱工程、あるいはこれらの組み合わせなどが例示されるが、これらに限定されず、集電体上に塗布された電極活物質層形成溶液により形成された塗膜を準電極活物質層として形成可能な手段を実施する工程であればよい。例えば、上記準電極活物質層形成工程は、上記塗膜中に含有される溶媒を除去する手段を実施し、次いで金属結着材前駆体を反応させる手段を実施するなど、2以上の手段を含んでもよい。
【0060】
以下に、準電極活物質層形成工程として、特に加熱工程が実施される場合についてより詳細に説明する。加熱工程は、金属結着材4として金属酸化物を生成する予定の場合には、上記塗膜中に存在する金属結着材前駆体を熱分解するとともに酸化(リン酸化を含む)させることを目的に行われる。また加熱工程は、金属結着材4として金属を生成する予定の場合には、上記塗膜中に存在する金属結着材前駆体を熱分解し、金属単体を析出させることを目的に行われる。このとき、塗膜中に溶媒が残っているときは、加熱工程における加熱で、溶媒を除去する。
【0061】
加熱方法としては、後述する加熱温度で、塗膜を加熱することができる加熱方法あるいは加熱装置であれば、特に限定されず、適宜選択して実施することができる。具体的な例としては、ホットプレート、オーブン、加熱炉、赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、熱風送風機等のいずれかを使用するか、あるいは2以上を組み合わせて使用する方法を挙げることができる。用いられる集電体が平面状である場合には、加熱工程は、ホットプレート等を使用することが好ましい。尚、ホットプレートを用いて加熱する場合には、塗膜面側が、ホットプレート面と接しない向きに設置して加熱することが好ましい。上記加熱温度は用いられる金属結着材前駆体の種類によって異なるが、上記塗膜を通常150℃〜800℃の温度範囲において加熱することにより良好に金属結着材前駆体の熱分解が行われ、速やかに金属または金属酸化物が生成される。
【0062】
尚、加熱工程における加熱温度は、予備的に、使用が予定される金属結着材前駆体が溶解された溶液を適当な基板上に塗布して加熱し、基板上に積層される膜を削って試料とし、組成分析を行い、金属の含有比率、あるいは金属元素と酸素の含有比率を測定することによって、金属または金属酸化物が形成されているかどうかを判断することができる。そして、金属または金属酸化物が生成されていた場合には、用いられた金属結着材前駆体が、基板上で熱分解開始温度以上の温度で加熱されたことが確認される。尚、上記予備試験における加熱は、本製造方法において予定される加熱雰囲気と同様の雰囲気で実施する。
【0063】
また、上記加熱工程において、加熱温度を決定する際には、さらに、用いられる集電体、活物質粒子、導電材などの耐熱性も勘案することが望ましい。たとえば、一般的に正極板の集電体として用いられるアルミ箔の耐熱性は、660℃前後であるため、上記加熱温度が660℃を超える場合には、集電体が損傷するおそれがある。したがって、用いられる集電体、活物質粒子などを先に決定し、これらの耐熱性を勘案して、これらの耐熱温度と熱分解開始温度とを勘案して、金属結着材前駆体を選択してもよい。尚、本発明の電極板を製造する方法に関し、「加熱温度」とは、加熱工程における最高温度を意味する。また加熱工程における加温の態様は、例えば、除々に昇温し、あるいは、一定の温度で加熱し、あるいは、段階的な温度で加熱してよく、任意に決定することができる。
【0064】
上記加熱工程における加熱雰囲気は、特に限定されず、生成が予定される金属結着材4の種類、電極板を製造するために用いられる材料や加熱温度、金属元素の酸素ポテンシャルなどを勘案して適宜決定することができる。例えば大気雰囲気である場合には、特別な雰囲気の調整が必要なく、簡易に加熱工程を実施することができる点で好ましい。特に集電体としてアルミ箔を用いる場合には、大気雰囲気下において加熱工程を実施しても、該アルミ箔が酸化する虞がないので、好ましく加熱工程を実施することができる。また金属結着材4として、金属リン酸化物を生成予定の場合には、大気雰囲気ではなく、不活性雰囲気あるいは還元ガス雰囲気で加熱工程を実施することが望ましい。また、上記加熱工程において、金属結着材4として金属を生成する場合には、上記加熱工程を還元雰囲気で実施し、上記塗膜中に存在する金属結着材前駆体を還元雰囲気で熱分解し、金属単体を析出させることが望ましい。
【0065】
尚、本発明の製造方法において、不活性ガス雰囲気または還元ガス雰囲気は、特に特定の雰囲気に限定されず、従来公知のこれらの雰囲気下において適宜発明の製造方法を実施することができるが、たとえば、不活性ガス雰囲気としてはアルゴンガス、窒素ガス、還元ガス雰囲気としては、水素ガス、一酸化炭素ガス、あるいは上記不活性ガスと上記還元ガスを混合したガス雰囲気などが挙げられる。
【0066】
(樹脂含浸工程)
樹脂含浸工程は、上述のとおり製造された準電極活物質層に、さらに樹脂材料を含有させて、当該樹脂材料を樹脂結着材5として活物質粒子3同士あるいは、活物質粒子3と集電体1とを固着させ、電極活物質層21を形成する工程である。
【0067】
樹脂含浸工程を実施するために、樹脂結着材5として上述で説明する樹脂材料を用い、適当な溶媒に混合させて樹脂含有液を調製する。このとき溶媒は、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロパノール、ブタノール等の総炭素数が5以下の低級アルコール、アセチルアセトン、ジアセチル、ベンゾイルアセトン等のジケトン類、アセト酢酸エチル、ピルビン酸エチル、ベンゾイル酢酸エチル、ベンゾイル蟻酸エチル等のケトエステル類、Nーメチルピロリドン(NMP)などのピロリドン類、トルエン、およびこれらの混合溶媒、水等などであってよい。尚、選択される樹脂は、形成された準電極活物質層の空隙を構成する孔のサイズなどを勘案し、その分子量を調整してよい。
【0068】
次に、上述のとおり調製した樹脂含有液を準電極活物質層の空隙に含浸させる。含浸させる方法は特に限定されないが、例えば、樹脂含有液を、準電極活物質層の表面に塗布してもよいし、あるいは、印刷法、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレーコートなどによって含浸させでもよいし、あるいは、樹脂含有液槽に準電極活物質層を浸漬させて、該樹脂含有液を準電極活物質層の空隙に浸透させてもよい。
【0069】
次いで、準電極活物質層を乾燥させて、準電極活物質層中に含浸する樹脂含有液の溶媒を除去し、且つ、該樹脂含有液中に含まれる樹脂材料によって、活物質粒子3同士、あるいは活物質粒子3と集電体1とを、直接または間接に固着させることによって、電極活物質層が形成され、電極板10が完成する。
【0070】
実施態様1の製造方法の一例(製造方法1’)
上述する実施態様1の正極板10の製造方法について、製造方法1とは異なる方法について説明する。実施態様1の正極板10は、所謂、ゾルゲル法による金属粒子あるいは金属酸化物粒子の生成を利用し、さらに、製造方法1において説明する樹脂含浸工程を実施することにより製造することができる(以下、「製造方法1’」ともいう)。
【0071】
即ち、現在、ゾルゲル法を用いた電極板の製造方法が検討されている。例えば、特願願2007−537121(エボニックデグサ公報)には、ゾルゲル法を用いて電極活物質層を形成し、さらに該電極活物質層上にセパレータを積層してなる電極板ユニットの発明が提案されている。上記公報には、ゾルゲル法で形成される無機金属粒子は、結着材である旨記載されているが、実際には、ゾルゲル法で形成される無機金属粒子同士の結着性が弱く、電極活物質層に充分な膜強度付与するには不十分であった。しかしながら、ゾルゲル法を利用して集電体上に生成される膜(本発明では、これを準電極活物質層と呼ぶ)に、製造方法1に示すとおり、樹脂含有液を含浸させることによって、膜強度が良好で、且つ、本発明の課題を解決する優れた電極板を製造することができる。
【0072】
[実施態様2]
本発明の正極板の実施態様2として、金属結着材4として、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属酸化物が、電極活物質層に含有されていてもよい。実施態様2の正極板の構成は、金属結着材以外の構成、即ち、活物質粒子、樹脂結着材、集電体、空隙、導電材については、実施態様1で説明したものと同様であるので、ここでは説明を割愛する。
【0073】
本発明における金属結着材として、特にアルカリ金属イオン挿入脱離反応を示すものを選択することにより、電極板の電極容量の増大効果を挙げることができる。即ち、従来の樹脂結着材のみで活物質粒子を固着させていた従来の電極板と比較した場合に、本発明は、樹脂結着材の一部を、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属結着材に置き換えることによって、固着作用が良好に維持される上、当該金属結着材を活物質として作用させることが可能であるため、実質的に、電極活物質層における単位面積当たりの活物質量を増大させることが可能であるからである。
【0074】
アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属酸化物は、一般的に金属と理解される元素の酸化物であって、アルカリ金属イオンの挿入脱離反応を示すものであれば、特に限定されるものではない。尚、上記アルカリ金属イオンの挿入脱離反応を示す金属酸化物に、金属リン酸化合物が含まれることは、実施態様1と同様である。より上記金属酸化物の例としては、Li、Be、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Fr、Ra、およびCeなどの金属元素の1種の金属酸化物、または2種以上の金属元素を含むアルカリ金属複合金属酸化物とすることができる。さらに上記第3周期乃至第5周期に属する金属の中でも、鉄、チタンおよびマンガンは、安価であって取扱性も容易である上、優れた出入力特性を電極板10にもたらすことが可能であるため、特に好ましい。
【0075】
アルカリ金属イオンの挿入脱離反応を示す金属結着材のうち、特にリチウムイオン挿入脱離反応を示す金属酸化物としては、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiFeO、LiTiO、LiFePO、LiMnPO、V、LiTi12などを挙げることができるが、これに限定されない。
【0076】
一方、アルカリ金属イオンの挿入脱離反応を示す金属結着材となり得るその他の例としては、例えば、ナトリウムイオン挿入脱離反応を示す金属酸化物があり、具体的には、NaCoO、NaMn0.5Ni0.5、NaAl0.1Co0.2Mn0.7、NaMnO、NaNi0.5Co0.5などを挙げることができる。
【0077】
本発明における金属結着材がアルカリ金属イオン挿入脱離反応を示すか否かの確認方法について、リチウムイオン挿入脱離を例に説明する。
【0078】
サイクリックボルタンメトリー試験(CV試験):
例えば、本発明の電極板10において、金属結着材4として、コバルト酸リチウムを電極活物質層中に生成を予定する場合には、活物質粒子3を含まないこと以外には、電極板10と同様に、積層体を作成する。そして、該積層体を用いてCV試験を行う。具体的には、まず電極電位を3.0Vから4.3Vまで掃引したのち、再び3.0Vまで戻す作業を3度繰り返す。走査速度は1mV/秒としてよい。2回目のサイクル結果を示すサイクリックボルタモグラム(図5参照)において、3.9V付近にコバルト酸リチウムのLi脱離反応に相当する酸化ピークが、4.1V付近にLi挿入反応に相当する還元ピークが確認される。これによって、確かに、上記積層体に設けられた、活物質粒子3を含まない以外は、電極活物質層21と同等の層中に含有されるコバルト酸リチウムが、リチウムオン挿入脱離反応を示すことが確認される。尚、上記CV試験は、例えば、Bio Logic社製のVMP3を用いて実施することができる。また、CV試験における電極電位、および走査速度は、試験される金属酸化物に好適な条件で決定してよい。
【0079】
一方、リチウム挿入脱離反応を示さない金属酸化物を用いて、CV試験を実施した場合には、酸化ピーク、還元ピークがサイクリックボルタモグラムから確認されない(図6参照)。
【0080】
本発明の非水電解液二次電池用正極板を製造するにあたり、電極活物質層中に含有が予定される金属酸化物のアルカリ金属イオン挿入脱離を示すか否かは、上述のとおり予め確認することができる。一方、すでに完成された正極板における電極活物質層中に含有される金属酸化物または金属単体が、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示すか否かは、例えば、以下のとおり確認することができる。即ち、電極活物質層を削ってサンプルを作成し、該サンプルの組成分析を実施することにより、サンプル中に、いかなる金属酸化物または金属単体が含有されているかを推定することができる。そして、推定された金属酸化物または金属単体よりなる塗膜を、アルミニウムなどの任意の基板上に形成し、これをCV試験に供することにより、当該金属酸化物または金属単体がアルカリ金属イオン挿入脱離反応を示すか否かを確認することができる。
【0081】
実施態様2の製造方法の例(製造方法2):
実施態様2の製造は、金属結着材前駆体として、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属結着材を生成するために適切な化合物を選択すること、および、準電極活物質層形成工程において生成される金属結着材が、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属結着材となるよう条件を設定すること以外は、製造方法1と同様に電極活物質層形成液を調製し、塗布工程および準電極活物質層形成工程を実施し、さらに樹脂含浸工程を実施することができる(以下、「製造方法2」ともいう)。
【0082】
即ち、電極活物質層形成液を調製する際に選択される金属結着材前駆体は、以下のとおりである。例えばリチウムイオン挿入脱離反応を示す金属酸化物を金属結着材として電極活物質層中に生成したい場合には、金属結着材前駆体としては、リチウム元素含有化合物と、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄またはチタンから選択されるいずれかの金属元素を含む金属元素含有化合物の1種あるいは2種以上との組み合わせが挙げられる。ただし、実施態様2の製造において選択される金属結着材前駆体の例は、上述に限定されない。
【0083】
上記金属結着材前駆体は、リチウム元素あるいはコバルト等の他の金属元素の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、リン酸塩、臭素酸塩、炭酸塩等であってよい。中でも、本発明においては、塩化物、硝酸塩、酢酸塩は汎用品として入手が容易なので、使用することが好ましい。とりわけ、硝酸塩は広範囲の種類の集電体あるいは任意の基材に対して製膜性がよいので、好ましく使用される。
【0084】
例えば、集電体上に金属酸化物として、LiCoOを生成するための金属結着材前駆体としては、Li元素含有化合物、及びCo元素含有化合物を主原料として組み合わせて用いることができ、さらに、必要に応じてその他の原料を上記主原料と組み合わせて用いることもできる。上記Li元素含有化合物としては、例えば、クエン酸リチウム四水和物、過塩素酸リチウム三水和物、酢酸リチウム二水和物、硝酸リチウム、及びりん酸リチウム等が挙げられ、また、Co元素含有化合物としては、例えば、塩化コバルト(II)六水和物、蟻酸コバルト(II)二水和物、コバルト(III)アセチルアセトナート、コバルト(II)アセチルアセトナート二水和物、酢酸コバルト(II)四水和物、しゅう酸コバルト(II)二水和物、硝酸コバルト(II)六水和物、塩化コバルト(II)アンモニウム六水和物、亜硝酸コバルト(III)ナトリウム、及び硫酸コバルト(II)七水和物等が挙げられる。主原料として用いるLi元素含有化合物、及びCo元素含有化合物の組み合わせ割合(Li:Co=X:1)は、特に限定されないが、1≦X<2であることが好ましく、1≦X≦1.2であることがより好ましい。
【0085】
また例えば、集電体上に金属酸化物として、LiNiOを生成するための金属結着材前駆体としては、Li元素含有化合物、及びNi元素含有化合物を主原料として組み合わせて用いることができ、さらに、必要に応じてその他の原料を上記主原料と組み合わせて用いることもできる。Li元素含有化合物の例は、上述するLiCoOを生成する場合と同様であり、また、Ni元素含有化合物としては、例えば、塩化ニッケル(II)六水和物、酢酸ニッケル(II)四水和物、過塩素酸ニッケル(II)六水和物、臭化ニッケル(II)三水和物、硝酸ニッケル(II)六水和物、ニッケル(II)アセチルアセトナート二水和物、次亜りん酸ニッケル(II)六水和物、及び硫酸ニッケル(II)六水和物等が挙げられる。主原料として用いるLi元素含有化合物、及びNi元素含有化合物の組み合わせ割合(Li:Ni=X:1)は、特に限定されないが、1≦X<2であることが好ましく、1≦X≦1.2であることがより好ましい。
【0086】
また例えば、集電体上に金属酸化物としてLiMnを生成するための金属結着材前駆体としては、Li元素含有化合物、及びMn元素含有化合物を主原料として組み合わせて用いることができ、さらに、必要に応じてその他の原料を上記主原料と組み合わせて用いることもできる。Li元素含有化合物の例は、上述するLiCoOを生成する場合と同様であり、また、Mn元素含有化合物としては、例えば、酢酸マンガン(III)二水和物、硝酸マンガン(II)六水和物、硫酸マンガン(II)五水和物、しゅう酸マンガン(II)二水和物、及びマンガン(III)アセチルアセトナート等が挙げられる。主原料として用いるLi元素含有化合物、及びMn元素含有化合物の組み合わせ割合(Li:Mn=X:1)は、特に限定されないが、0.5≦X<1であることが好ましく、0.5≦X≦0.6であることがより好ましい。
【0087】
また例えば、集電体上に金属酸化物としてLiFeOを生成するための金属結着材前駆体としては、Li元素含有化合物、及びFe元素含有化合物を主原料として組み合わせて用いることができ、さらに、必要に応じてその他の原料を上記主原料と組み合わせて用いることもできる。Li元素含有化合物の例は、上述するLiCoOを生成する場合と同様であり、また、Fe元素含有化合物としては、例えば、塩化鉄(II)四水和物、クエン酸鉄(III)、酢酸鉄(II)、しゅう酸鉄(II)二水和物、硝酸鉄(III)九水和物、乳酸鉄(II)三水和物、及び硫酸鉄(II)七水和物等が挙げられる。主原料として用いるLi元素含有化合物、及びFe元素含有化合物の組み合わせ割合(Li:Fe=X:1)は、特に限定されないが、1≦X<2であることが好ましく、1≦X≦1.2であることがより好ましい。
【0088】
また例えば、集電体上に金属酸化物としてLiTi12を生成するための金属結着材前駆体としては、Li元素含有化合物、及びTi元素含有化合物を主原料として組み合わせて用いることができ、さらに、必要に応じてその他の原料を上記主原料と組み合わせて用いることもできる。Li元素含有化合物の例は、上述するLiCoOを生成する場合と同様であり、また、Ti元素含有化合物としては、例えば、四塩化チタン、及びチタンアセチルアセトナート等が挙げられる。主原料として用いるLi元素含有化合物、及びTi元素含有化合物の組み合わせ割合(Li:Ti=X:1)は、特に限定されないが、0.8≦X<2であることが好ましく、0.8≦X≦1であることがより好ましい。
【0089】
実施態様2の製造方法において、製造方法1における準電極活物質層形成工程における条件の変更とは、以下のとおりである。即ち、実施態様2における金属結着材は、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属酸化物であるため、結晶性の金属酸化物であると理解される。したがって、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を可能とする程度に結晶性が示されるよう準電極活物質層形成工程の条件を設定するよう留意する。例えば、準電極活物質層形成工程が、加熱工程である場合には、加熱温度あるいは加熱温度および加熱雰囲気を、適切に調整する。ただし、調整の範囲は、製造方法1において示される内容の中で設定することが可能である。即ち、加熱温度は、通常150℃〜800℃の温度範囲内において調整することができ、また加熱雰囲気も、大気雰囲気、還元雰囲気、不活性雰囲気など任意の雰囲気であってよい。具体的な条件は、予備実験において、金属酸化物を生成し、上記CV試験において、そのアルカリ金属イオン挿入脱離反応を示すか否かを確認しながら、適宜決定してよい。
【0090】
[実施態様3]
本発明の正極板は、電極活物質層中に、活物質粒子と、金属および/または金属酸化物、樹脂を含み、上記金属および/または金属酸化物が、結着材として作用し、これによって活物質粒子が、互いに固着する態様であってよい(上記態様を、「実施態様3」ともいう)。
【0091】
実施態様3は、上述する実施態様1あるいは2に対し、電極活物質層に含有される樹脂が、活物質粒子同士の固着、あるいは活物質粒子と集電体との固着に寄与する結着性を示さない点において相違する。
【0092】
より具体的には、実施態様3における樹脂としては、活物質粒子同士の固着、あるいは活物質粒子と集電体との固着には実質的に関与せず、且つ、電池を作動させた場合であっても、電極活物質層中に留まることが可能な樹脂であれば、熱可塑性樹脂、セルロース系樹脂、合成ゴムなどのいずれの樹脂であってもよい。電極板のその他の構成、即ち、電極活物質、金属および/または金属酸化物である金属接着剤、導電材、空隙、集電体については、実施態様1あるいは2と同様であるため、ここではその説明を割愛する。尚、電極活物質層において、活物質粒子同士の固着、あるいは活物質粒子と集電体との固着には実質的に関与しない樹脂とは、電極活物質層中に含まれることによって樹脂結着材として作用することが可能な樹脂であって、且つ、結着材としての作用が確認されない樹脂および、樹脂結着材としての作用を発揮できないが、電極活物質層中に留まることのできる樹脂のいずれをも含む。
【0093】
ただし、実施態様3は、上述のとおり電極活物質層に含まれる樹脂が、結着作用を有しないため、電極活物質層中に含有される金属結着材の量は、電極活物質層の膜強度が良好となる程度に実施態様1あるいは2における金属結着材の含有量以上とすることが望ましい。具体的には、電極活物質層に含有される活物質粒子の含有量を100重量部としたときに、金属結着材の含有量を0.5重量部以上50重量部以下とすることが好ましい。
【0094】
実施態様3の製造方法の例(製造方法3)
実施態様3の製造方法の例としては、樹脂含浸工程で選択される樹脂材料が、樹脂結着材以外の樹脂から選択されることを除き、上記製造方法1あるいは、上記製造方法2と同様である。あるいはまた、実施態様3の製造方法の例として、使用する樹脂結着材の量を小さく抑えて、実質的に樹脂結着材として作用しない程度の樹脂量とすること以外、上記製造方法1あるいは、上記製造方法2と同様である。
【0095】
[実施態様4]
本発明の電極板は、集電体上に間接的に電極活物質層が設けられていてもよい。即ち、上述する製造方法1から3によって製造される正極板は、いずれも、集電体上に直接に電極活物質層が形成されてなる。しかしならが、本発明の電極板はこれに限定されず、実施態様4の正極板12として図2に示すとおり、集電体1と電極活物質層23との間に任意の中間層14が設けられていてもよい。たとえば、正極板12は、電極活物質層23を膜として別途形成し、集電体1上に中間層14として粘着剤層を設け、この上に膜として形成した電極活物質層23を貼り付けてもよい。もちろん、膜として形成した電極活物質層23側に中間層14である粘着剤層を設け、該粘着剤層を集電体1側にして両者を貼り付けてもよい。あるいは、電極活物質層23と集電体1との間に、両者間における電子の移動を妨げない範囲で、中間層14として導電性層を設けてもよい。
【0096】
尚、実施態様4は、集電体1上に直接に電極活物質層23が設けられていないこと以外は、上述する実施態様1から4に示す電極板の同様であってよく、用いられる集電体1、および電極活物質層23の構成は、実施態様1から4のいずれかに示すものと同じであるためここでは詳細な説明を割愛する。
【0097】
実施態様4の製造方法の例(製造方法4)
実施態様4は、正極集電体の代わりに任意の基材を用いること以外は、製造方法1から5と同様に製造することができる(以下、「製造方法4」ともいう)。例えば製造方法4は、上記任意の基材として、電極活物質層との剥離性のある基材を用い、該基材上に、製造方法1から5において示される工程と同様に電極活物質層23を形成し、その後、基材を剥離して電極活物質層23を膜として形成し、該電極活物質層23を集電体1上に中間層14である粘着剤層を介して貼り付けることによって、実施態様4の正極板12を製造することができる。
【0098】
あるいは、製造方法4は、電子の移動を妨げない基材上に、製造方法1から5において示される工程と同様に電極活物質層23を形成し、その後、該基材の電極活物質層23形成側とは反対側面を集電体1上に貼り付けて、該基材を中間層14として実施態様5の正極板12を製造することができる。
【0099】
上述するように、本発明の正極板は、集電体上に直接に電極活物質層が形成されていてよく、かかる場合には、電極板の薄膜化の観点で望ましく、且つ、電極活物質層中に含有される活物質粒子と集電体面との距離が短くなるため、出入力特性の向上の点からも好ましい。一方、本発明の正極板は、集電体上に間接に電極活物質層が形成されていてよく、かかる場合には、電極活物質層の形成工程における形成条件に左右されることなく正極集電体を選択することができ、また、電極活物質層と集電体との間に、任意の機能層を設けるなど、電極板の設計範囲を広くすることができる。
【0100】
[非水電解液二次電池]
本発明の非水電解液二次電池は、一般的には、図3に例示するように、集電体1の一方面側に電極活物質層21が設けられてなる本発明の正極板10及びこれに組み合わされる集電体55の一方面側に電極活物質層54が設けられてなる負極板50と、これらの間にポリエチレン製多孔質フィルムのようなセパレータ70とが設けられる。そして、これらが外装81、82内に収納され、且つ、外装81、82内に非水電解液90が充填された状態で密封されて製造されて、非水電解液二次電池100が構成される。
【0101】
(電極板)
本発明の非水電解液二次電池は、正極板として、上述する本発明の非水電解液二次電池用正極板を用いることを特徴とする。一方、負極板は、従来公知の負極板を使用することができる。
【0102】
従来公知の負極板としては、集電体として厚み5〜50μm程度の電解銅箔や圧延銅箔等の銅箔を用い、上記集電体表面の少なくとも一部に、負極活物質層形成液を塗布して、乾燥し、必要に応じてプレスすることにより形成されたものが使用することができるが、これに限定されない。上記負極活物質層形成液には、一般的に、天然グラファイト、人造グラファイト、アモルファス炭素、カーボンブラック、またはこれらの成分に異種元素を添加したもののような炭素質材料からなる活物質粒子、あるいは、金属リチウム及びその合金、スズ、ケイ素、及びそれらの合金等の、リチウムイオン挿入脱離可能な材料などからなる活物質粒子、および樹脂製結着材、必要に応じて導電材などの他の添加剤が混合されることが一般的である。
【0103】
(非水電解液)
本発明に用いられる非水電解液は、一般的に、非水電解液二次電池用の非水電解液として用いられるものであれば、特に限定されないが、リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液が好ましく用いられる。
【0104】
上記リチウム塩の例としては、LiClO、LiBF、LiPF、LiAsF、LiCl、及びLiBr等の無機リチウム塩;LiB(C、LiN(SOCF、LiC(SOCF、LiOSOCF、LiOSO、LiOSO、LiOSO11、LiOSO13、及びLiOSO15等の有機リチウム塩;等が代表的に挙げられる。
【0105】
リチウム塩の溶解に用いられる有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの環状エステル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状エステル類、テトラヒドロフラン、アルキルテトラヒドロフランなどの環状エーテル類、及び1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタンなどの鎖状エーテル類等が挙げられるが、これに限定されない。
【0106】
上記正極板、負極板、セパレータ、非水電解液を用いて製造される電池の構造は、従来公知の構造を適宜選択して採用することができる。例えば、正極板及び負極板を、ポリエチレン製多孔質フィルムのようなセパレータを介して渦巻状に巻き回して、電池容器内に収納する構造が挙げられる。また別の態様としては、所定の形状に切り出した正極板及び負極板がセパレータを介して積層されて固定され、これを電池容器内に収納する構造を採用してもよい。いずれの構造においても、正極板及び負極板を電池容器内に収納後、正極板に取り付けられたリード線を外装容器に設けられた正極端子に接続し、一方、負極板に取り付けられたリード線を外装容器内に設けられた負極端子に接続し、さらに電池容器内に非水電化液を充填した後、密閉することによって非水電解液二次電池が製造される。
【0107】
[電池パック]
本発明の電極板を正極板として用いる非水電解液二次電池は、所謂、電池パックに用いられる非水電解液二次電池として使用することができる。即ち、本発明の電池パックは、本発明の電極板を正極板として用い、且つ、正極端子および負極端子を備える非水電解液二次電池と過放電保護機能を有する保護回路とが収納ケースに収納されて構成される。本発明の電池パックは、例えば、過充電、過放電、過電流、電池周辺回路の短絡、正負電極間の短絡などから電池を保護するための保護機能を非水電解液二次電池自体に装備するとともに、過充電や過放電を防止するための保護回路を該非水電解液二次電池と共に収納ケースに収容して一体化されてなる電池パックであってよい。本発明の電池パックは、ノートパソコン、カメラ、携帯電話等の携帯機器など、装置の規模に対して消費電力が大きい装置の電池電源装置として好適に使用することができる。
【0108】
図4に、本発明の電池パックの一態様として、本発明の正極板が用いられて構成されるリチウムイオン二次電池31を用いた本発明の電池パック30の概略分解図を示す。電池パック30は、リチウムイオン二次電池31が樹脂容器36a、樹脂容器36b、および端部ケース37に収納されて構成される。このとき、リチウムイオン二次電池31の一端面であって、正極端子32および負極端子33を備える面と、端部ケース37との間には、過充電や過放電を防止するための保護回路基板34が、設けられる。保護回路基板34は、外部接続コネクタ35を備えており、外部接続コネクタ35は、樹脂容器36aに設けられた外部接続用窓38aおよび、端部ケース37に設けられた外部接続用窓38bに挿入され、外部端子と接続される。また、保護回路基板34には、図示しない、充放電を制御するための充放電安全回路、外部接続端子とリチウムイオン二次電池31とを導通させるための配線回路などが搭載されている。尚、電池パック30は、本発明の電極板が用いられたリチウムイオン二次電池31を用いること以外は、従来公知の電池パックの構成を適宜採用することができる。図示省略するが、電池パック30は、リチウムイオン二次電池31と端部ケース37との間に、正極端子32と接続する正極リード板、負極端子33と接続する負極リード板、絶縁体などを、適宜備えてよい。
【0109】
尚、本発明の正極板を用いた本発明の非水電解液二次電池は、電池パックへの使用態様以外に、上記保護回路に、さらに、過大電流の遮断、電池温度モニター等の機能を備え、且つ、該保護回路を二次電池自体に一体化させて取り付けられる態様に用いられてもよい。かかる態様では、電池パックを構成することなく、保護機能および保護回路を備える二次電池として使用することができ、汎用性が高い。尚、上述するいくつかの態様は、例示に過ぎず、本発明の正極板、あるいは本発明の非水電解液二次電池の使用を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0110】
(実施例1)
<非水電解液二次電池用正極板の作製>
非水電解液二次電池用正極板における電極活物質層を形成するための正極活物質層形成溶液を以下のとおり調製した。金属結着材前駆体として、Li(CHCOO)・2H0を0.8g、及びMn(NO・6HOを4.5g用い、これらをエタノール50gに加えて混合させ、さらに粘度調整材としてエチルセルロース樹脂(STD−200)を3g、正極活物質粒子としてマンガン酸リチウム粒子を40g、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業社製HS−100)を5g、導電材繊維(昭和電工社製VGCF)を0.5g加え、エクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所)で7000rpmの回転数で15分攪拌することによって正極用の電極活物質層形成液を得た。
【0111】
次に、正極集電体である厚さ15μmのアルミ板を準備し、当該正極集電体の一面側に、上記電極活物質層形成液を、アプリケーターで塗布して塗膜を形成した。尚、塗布量は、表2に示す。次に、活物質層の密度が2.0g/cmとなるようにプレスした。そして、上記塗膜を有する正極集電体を、電気炉(マッフル炉 デンケン社製、P90)を用いて、大気雰囲気において室温から370℃まで10分かけて徐々に加熱した。これによって、集電体上に、準電極活物質層形成工程において、金属結着材として、リチウム挿入脱離反応を示すマンガン酸リチウムが生成され、且つ、上記金属結着材により、活物質粒子であるマンガン酸リチウム粒子同士が集電体上に固着されて構成される、準電極活物質層を形成した。その後、準電極活物質層を備える集電体を電気炉から取り出し、樹脂含浸工程を下記のとおり実施した。
【0112】
まず、樹脂結着材としてPVDF樹脂4gを溶媒NMP46gに混合させて樹脂含有液を調製した。そして、上記樹脂含有液が満たされた浸漬槽内に、上記準電極活物質層面を10秒間浸漬させて取り出し、140℃、5分間、大気雰囲気下で乾燥して溶媒を除去した。これによって、集電体上に、上記金属結着材と、樹脂結着材であるPVDFが含まれ、且つ、これらの結着作用により、活物質粒子が固着されてなる正極用の電極活物質層が設けられた本発明の正極板を得た。そして、上記正極板を所定の大きさ(15mmφ)に裁断し、これを実施例1とした。尚、マイクロメーターを用いて電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、52μmであった。
【0113】
膜形成性評価:
実施例1を作成するにあたり、上述で得られた正極板を所望のサイズの円板形状に繰り抜く加工を行ったが、当該加工作業において、電極活物質層が剥離するなどの不具合なく、加工することができた。このことから、電極活物質層の膜形成性が良好であることを確認した。以下に示す実施例および比較例においても、上述するように、不具合なく電極板を円板状に繰り抜く加工ができた場合には、電極活物質層の膜形成性が良好であると評価する。一方、上記繰り抜き加工において電極活物質層の一部が剥がれ、あるいは活物質粒子が集電体上から落下するなどして、加工が不良であり、後述する三極式コインセルの作用極として使用に耐える円板が形成されなかった場合には、電極活物質層の膜形成性が不良であると評価する。
【0114】
サイクリックボルタンメトリー試験(CV試験):
実施例1における電極活物質層中に含有される金属結着材が、リチウムイオン挿入脱離反応を示すか否かを予め確認するために、以下のとおり試験を行った。即ち、正極活物質粒子であるマンガン酸リチウム粒子を用いない以外は、実施例1に用いた上記電極活物質層形成液と同様に形成液を調整し、これを用いて、実施例1の作製方法と同様の方法で積層体を作成した。そして、上記積層体を用いてCV試験を行った。具体的には、まず電極電位を3.0Vから4.3Vまで掃引したのち、再び3.0Vまで戻す作業を3度繰り返した。走査速度は1mV/秒とした。2回目のサイクル結果を示すサイクリックボルタモグラムにおいて、3.9V付近にマンガン酸リチウムのLi脱離反応に相当する酸化ピークが、4.1V付近にLi挿入反応に相当する還元ピークが確認された。これによって、電極活物質層中に含有される金属酸化物が、リチウムオン挿入脱離反応を示すマンガン酸リチウムであることが確認された。尚、上記CV試験は、Bio Logic社製のVMP3を用いて実施した。
【0115】
<三極式コインセルの作製>
エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)混合溶媒(体積比=1:1)に、溶質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を加えて、当該溶質であるLiPFの濃度が、1mol/Lとなるように濃度調整して、非水電解液を調製した。正極板として上述のとおり作製した実施例1を作用極として用い、対極板及び参照極板として金属リチウム板、電解液として上記にて作製した非水電解液を用い、三極式コインセルを組み立て、これを実施例試験セル1とした。そして実施例試験セル1を下記充放電試験に供した。
【0116】
充放電試験:
上述のとおり作成した三極式コインセルである実施例試験セル1において、作用極の放電試験を実施するために、まず実施例試験セル1の下記充電試験のとおり満充電させた。
(充電試験)
実施例試験セル1を、25℃の環境下で、電圧が4.3Vに達するまで定電流(1C)で充電し、続いて、電圧が4.3Vを上回らないように、当該電流(放電レート:1C)が5%以下となるまで減らしていき、定電圧で充電を行ない、満充電させた後、10分間休止させた。尚、ここで、上記「1C」とは、上記三極式コインセルを用いて定電流放電して、1時間で放電終了となる電流値(放電終止電圧に達する電流値)のことを意味する。また上記定電流は、実施例試験セル1における作用極において、1時間で放電可能な容量(実施例1におけるコバルト酸リチウムであれば、132mAh/g)を、この充放電試験において1時間で放電完了させるよう設定された電流値である。
(放電試験)
その後、満充電された実施例試験セル1を、25℃の環境下で、電圧が4.3V(満充電電圧)から3.0V(放電終止電圧)になるまで、定電流(1C)(放電レート:1C)で定電流放電し、縦軸にセル電圧(V)、横軸に放電時間(h)をとり、放電曲線を作成し、正極用電極板の放電容量(μAh)を求め、1C・25℃放電容量とした。次いで、放電レートを表3に示す値(20C)に変更し、20C・25℃放電容量を求めた。20C・25℃放電容量の結果は、表3に示す。
【0117】
続いて、試験環境温度を−20℃に変更し、放電レートを表3に示すレート(20C)にしたこと以外は、上述の同様に充電試験と放電試験を実施し、20C・−20℃放電容量を求めた。結果は、表3に示す。尚、20C・−20℃における充放電試験は、実施例試験セルを−20℃環境に置いたあと、速やかに実施した。
【0118】
急冷下における放電容量維持率の評価:
上記充放電試験で求めた20C・−20℃放電容量値を、20C・25℃放電容量値で除して、100を乗じ、急冷下における放電容量維持率(%)を求めた。結果は表3に示す。尚、以下に示す実施例および比較例について同様に急冷下における放電容量維持率の評価を行う場合の、放電レートは、いずれも表3に示す。
【0119】
(比較例1)
樹脂含浸工程を実施しなかったこと以外は、実施例1と同様に電極板を製造し、電極活物質層中にマンガン酸リチウムである金属結着材を有し、樹脂を含まない、比較例1とした。
【0120】
(比較例2)
電極活物質層中に金属および/または金属酸化物を含まない比較例2を以下のとおり作成した。まず、実施例1で用いたマンガン酸リチウム粒子を80重量部(40g)、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、デンカブラック)10重量部(5g)、導電材繊維VGCF0.5g、及び樹脂製結着材としてPVDF(クレハ社製、KF#1100)10重量部(4g)を用い、有機溶媒であるNMP(三菱化学社製)46gに加えて、分散させ、固形分濃度が55重量%となるように分散及び/又は混練させて、スラリー状の電極活物質層形成液を調製した。
【0121】
上記にて調製した電極活物質層形成液を、正極集電体である厚さ15μmのアルミ箔上に、乾燥後の正極活物質層用塗工組成物の塗工量が55g/mとなるように塗布し、オーブンを用いて、120℃の大気雰囲気下で15分間、乾燥(一次乾燥)を行ない、電極活物質層を形成した。
【0122】
さらに、形成された電極活物質層の塗工密度が2.0g/cm(電極活物質層の厚さ:52μm)となるように、ロールプレス機を用いてプレスした後、所定の大きさ(15mmφ)に裁断し、140℃にて5分間、真空乾燥(二次乾燥)させて電極板を作製し、比較例1とした。
【0123】
(実施例2)
表1に示される材料および加熱条件に変更し、表2に示される塗布量に変更したこと以外には、実施例1と同様に電極板を作成し、電極活物質層中に、金属結着材であるマンガン酸リチウムと、樹脂結着材であるカルボキシメチルセルロースが含まれる実施例2を得た。
【0124】
(比較例3)
樹脂含浸工程を実施しなかったこと以外は、実施例2と同様に電極板を製造し、電極活物質層中に金属結着材としてマンガン酸リチウムを含有し、樹脂を含まない、比較例3とした。
【0125】
(比較例4)
表1に示される材料および加熱条件に変更し、表2に示される塗布量に変更したこと以外には、比較例2と同様に電極板を作成し、電極活物質層中に金属および/または金属酸化物を含まない比較例4を作成した。
【0126】
(実施例3)
表1に示される材料および加熱条件に変更し、表2に示される塗布量に変更したこと以外には、実施例1と同様に電極板を作成し、電極活物質層中に、金属結着材としてニッケルを含み、樹脂結着材としてPVDFが含まれる実施例3を得た。
【0127】
(比較例5)
樹脂含浸工程を実施しなかったこと以外は、実施例3と同様に電極板を製造し、電極活物質層中に金属結着材としてニッケルを含有し、樹脂を含まない、比較例5とした。
【0128】
(比較例6)
表1に示される材料および加熱条件に変更し、表2に示される塗布量に変更したこと以外には、比較例2と同様に電極板を作成し、電極活物質層中に金属および/または金属酸化物を含まない比較例6を作成した。
【0129】
(実施例4)
表1に示される材料および加熱条件に変更し、表2に示される塗布量に変更したこと以外には、実施例1と同様に電極板を作成し、電極活物質層中に、金属結着材として酸化イットリウムを含み、樹脂結着材としてメチルセルロースが含まれる実施例4を得た。
【0130】
(比較例7)
樹脂含浸工程を実施しなかったこと以外は、実施例4と同様に電極板を製造し、電極活物質層中に金属結着材として酸化イットリウムを含有し、樹脂を含まない、比較例7とした。
【0131】
(比較例8)
表1に示される材料および加熱条件に変更し、表2に示される塗布量に変更したこと以外には、比較例2と同様に電極板を作成し、電極活物質層中に金属および/または金属酸化物を含まない比較例8を作成した。
【0132】
実施例2〜4、および比較例2〜8について、実施例1と同様に、電極活物質層の膜厚の測定、膜形成性評価、CV試験を実施した。結果は、表2に示す。また実施例2〜4、および比較例2〜8について、実施例1と同様に、25℃および−20℃における充放電試験を実施し、急冷下における放電容量維持率を求めた。結果は、表3に示す。
【0133】
単位あたりの活物質粒子の重量をそろえた実施例と比較例との組み合わせにおいて、いずれも、実施例の放電容量維持率が高く、電極活物質層中に、金属および/または金属酸化物と、樹脂とが含有される場合に、周囲の急激な温度低下に対する電極性能の向上が図られることが確認された。
【0134】
また、上述の結果から、本発明の電極板を正極板として使用する非水電解液二次電池あるいは電池パックは、使用環境温度が急激に低下した場合であっても、急激な電池性能の低下の問題が回避され、良好に所期の課題が達成されることが示唆された。
【0135】
【表1】

【0136】
【表2】

【0137】
【表3】

【符号の説明】
【0138】
1、55 集電体
3 活物質粒子
4、4’ 金属結着材
5 樹脂結着材
6 空隙
10、11、12、 正極板
14 中間層
21、22、23、54 電極活物質層
30 電池パック
31 リチウムイオン二次電池
32 正極端子
33 負極端子
34 保護回路基板
35 外部接続コネクタ
36a、36b 樹脂容器
37 端部ケース
38a、38b 外部接続用窓
50 負極板
70 セパレータ
81、82 外装
90 非水電解液
100 リチウムイオン二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、上記集電体上の少なくとも一部に設けられる電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用正極板であって、
上記電極活物質層は、正極活物質粒子と、金属および/または金属酸化物と、樹脂とを含んでいることを特徴とする非水電解液二次電池用正極板。
【請求項2】
上記正極活物質粒子が、上記金属および/または金属酸化物、並びに、上記樹脂により互いに固着されていることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池用正極板。
【請求項3】
上記正極活物質粒子が、上記金属および/または金属酸化物により互いに固着されていることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池用正極板。
【請求項4】
集電体近傍に位置する正極活物質粒子が、上記金属および/または金属酸化物、あるいは上記樹脂の少なくともいずれかによって、直接に集電体上に固着されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用正極板。
【請求項5】
上記金属酸化物が、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示すことを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用電正極板。
【請求項6】
正極板と、負極板と、上記正極板と上記負極板との間に設けられるセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを少なくとも備えた非水電解液二次電池であって、
上記正極板が、請求項1から5のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用正極板であることを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項7】
収納ケースと、正極端子および負極端子を備える非水電解液二次電池と、過充電および過放電保護機能を有する保護回路とを少なくとも備え、上記収納ケースに上記非水電解液二次電池および上記保護回路が収納されて構成される電池パックにおいて、
上記非水電解液二次電池が、正極板と、負極板と、上記正極板と上記負極板との間に設けられるセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを少なくとも備えた非水電解液二次電池であり、
上記正極板が、請求項1か5のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用正極板であることを特徴とする電池パック。
【請求項8】
金属イオンが含有される金属イオン溶液に、少なくとも正極活物質粒子を混合させて電極活物質層形成液を調製し、
上記電極活物質層形成液を正極集電体上に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、
上記塗膜中に含有される金属イオンあるいはその反応物により生成される金属または金属酸化物によって、正極活物質粒子同士を固着させることによって準電極活物質層を形成する準電極活物質層形成工程と、
をこの順に実施し、次いで、
上記準電極活物質層に樹脂材料含有液を含浸させた後、該樹脂材料含有液の溶媒を除去し、樹脂と、金属または金属酸化物と、該金属または金属酸化物によって互いに固着される正極活物質粒子とを含む電極活物質層を集電体上に直接に形成することを特徴とする非水電解液二次電池用正極板の製造方法。
【請求項9】
金属イオンが含有される金属イオン溶液に、少なくとも正極活物質粒子を混合させて電極活物質層形成液を調製し、
上記電極活物質層形成液を基材上に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、
上記塗膜中に含有される金属イオンあるいはその反応物により生成される金属または金属酸化物によって、正極活物質粒子同士を固着させることによって準電極活物質層を形成する準電極活物質層形成工程と、
をこの順に実施し、次いで、
上記準電極活物質層に樹脂材料含有液を含浸させた後、該樹脂材料含有液の溶媒を除去し、樹脂と、金属または金属酸化物と、該金属または金属酸化物によって互いに固着される正極活物質粒子とを含む電極活物質層を形成することを特徴とする正極用電極活物質層の形成方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−94334(P2012−94334A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239926(P2010−239926)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】