説明

非水電解液二次電池用電極板、非水電解液二次電池、電池パック、及び非水電解液二次電池用電極板の製造方法

【課題】過酷な状況下において長期間にわたって使用可能であり、且つ出入力特性に優れる非水電解液二次電池用電極板、およびこれを使った電池や電池パックを提供すること。
【解決手段】集電体と、集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用電極板であって、電極活物質層は、電極活物質粒子と結着物質を含有しており、電極活物質粒子と集電体、および電極活物質粒子同士は、結着物質によって固着されており、結着物質は、金属酸化物とケイ素を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池に用いられる電極板、非水電解液二次電池、電池パック、及び非水電解液二次電池用電極板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池は、高エネルギー密度、高電圧を有し、また充放電時にいわゆるメモリ効果と呼ばれる完全に放電させる前に電池の充電を行なうと次第に電池容量が減少していく現象が無いことから、携帯機器、ノート型パソコン、ポータブル機器など様々な分野で用いられている。
【0003】
現在、地球温暖化防止の対策として、世界規模でCO2排出抑制の取り組みが行われているなかで、石油依存度を低減し、低環境負荷で走行可能とすることで、CO2削減に大いに寄与することができるプラグインハイブリッド自動車、電気自動車に代表される次世代クリーンエネルギー自動車の開発・普及が急務とされている。これらの次世代クリーンエネルギー自動車の駆動力として非水電解液二次電池を利用することができれば、ガソリンに依存する必要がなく、CO2削減に大いに寄与することができ、地球温暖化防止に大いに貢献することができる。一方で、次世代クリーンエネルギー自動車の駆動力として非水電解液二次電池が利用されるためには、長期にわたって安定的な使用が可能であることが必要とされている。
【0004】
現在、各種の提案がされている非水電解液二次電池は、正極板、負極板、セパレータ、及び非水電解液から構成される。正極板としては、金属箔などの集電体表面に、正極活物質粒子が固着されてなる電極活物質層を備えるものが一般的である。また負極板としては、銅やアルミニウムなどの集電体表面に、負極活物質粒子が固着されてなる電極活物質層を備えるものが一般的である。
【0005】
上記正極板または負極板である電極板を製造するには、まず、正極活物質粒子または負極活物質粒子である電極活物質粒子、樹脂製バインダー、あるいはさらに、必要に応じて導電材やその他の材料を用い、溶媒中で混練及び/又は分散させて、スラリー状の電極活物質層形成液を調製する。そして電極活物質層形成液を集電体表面に塗布し、次いで乾燥させて集電体上に塗膜を形成し、プレスすることにより電極活物質層を備える電極板が形成される(たとえば、特許文献1、または特許文献2)。
【0006】
このとき、電極活物質層形成液に含有される電極活物質粒子は、該液に分散する粒子状の金属化合物であって、それ自体だけでは、集電体表面に塗布され、乾燥させ、プレスされても該集電体表面に固着され難く、集電体からすぐに剥離してしまう。そこで、電極活物質層を形成する場合には、樹脂製バインダーを電極活物質層形成液に添加し、この樹脂製バインダーにより、電極活物質粒子を集電体上に固着させるとともに、電極活物質粒子同士を固着させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−310010号公報
【特許文献2】特開2006−107750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1、特許文献2に提案されている方法により形成された電極板は、電極活物質粒子と集電体および電極活物質粒子同士が樹脂製バインダーのみによって固着されていることから、電極活物質層のインピーダンスが大きくなってしまい、出力特性を向上することができないといった問題がある。
【0009】
このような問題を解決するために、樹脂製バインダーの全部または一部を金属酸化物に代える、つまり電極活物質粒子と集電体および電極活物質粒子同士をそれぞれ金属酸化物によって固着する試みがなされている。樹脂製バインダーに代えて金属酸化物を用いることにより、金属酸化物を用いた分だけ電極活物質層のインピーダンスを小さくすることができ、これにより出入力特性を向上することができる。
【0010】
本発明は、このような状況下において、前述の電極活物質粒子と集電体および電極活物質粒子同士をそれぞれ金属酸化物によって固着する試みをさらに前進させ、金属酸化物による固着を採用することにより電極活物質層のインピーダンスを低下させるとともに、当該電極活物質層と集電体との密着力を向上せしめることにより、従来に比べて、電極活物質層が集電体から剥離することがなく、よって長期間にわたって過酷な状況下において使用可能な非水電解液二次電池用電極板、およびこれを使った電池や電池パック、並びに、この非水電解液二次電池用電極板の製造方法を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、集電体と、前記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用電極板であって、前記電極活物質層は、電極活物質粒子と結着物質を含有しており、前記電極活物質粒子と前記集電体、および前記電極活物質粒子同士は、前記結着物質によって固着されており、前記結着物質が、金属酸化物とケイ素を含むことを特徴とする。
【0012】
また、上記課題を解決するための本発明は、集電体と、集電体と、前記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用電極板であって、前記電極活物質層は、電極活物質粒子と結着物質を含有しており、前記電極活物質粒子と前記集電体、および前記電極活物質粒子同士は、前記結着物質によって固着されており、前記結着物質は、金属酸化物を含み、前記電極活物質層の赤外吸収スペクトルを測定したときに得られるSi−O結合の980〜1100cm-1に現れるピークの半値半幅が、30〜230cm-1であることを特徴とする。また、前記電極活物質層の赤外吸収スペクトルを測定したときに得られるSi−O結合の1000〜1100cm-1に現れるピークの半値半幅が、30〜90cm-1であってもよい。
【0013】
また、上記課題を解決するための別の発明は、電極板と、セパレータと、非水電解液と、を少なくとも備える非水電解液二次電池であって、前記電極板が、上記の非水電解液二次電池用電極板であることを特徴とする。
【0014】
また、上記課題を解決するための別の発明は、収納ケースと、正極端子および負極端子を備える非水電解液二次電池と、過充電および過放電保護機能を有する保護回路とを少なくとも備え、前記収納ケースに非水電解液二次電池および前記保護回路が収納されて構成される電池パックであって、前記非水電解液二次電池が、上記の非水電解液二次電池であることを特徴とする。
【0015】
また、上記課題を解決するための別の発明は、非水電解液二次電池用電極板の製造方法であって、電極活物質粒子と、金属元素含有化合物と、ケイ素元素含有化合物と、が含有される電極活物質層形成液を、集電体上の少なくとも一部に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜を、前記金属元素含有化合物及び、ケイ素元素含有化合物が熱分解する温度以上で加熱する加熱工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の非水電解液二次電池用電極板によれば、長期にわたって出力特性に優れる電極板とすることが可能となる。また、本発明の電極板を用いた電池、電池パックにあっても前記と同様の効果を奏することができる。さらに、本発明の製造方法によれば、前記の効果を奏する非水電解液二次電池用電極板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の非水電解液二次電池用正極板の断面図である。
【図2】アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属酸化物を用いたサイクリックボルタンメトリー試験の結果を示すサイクリックボルタモグラムである。
【図3】アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示さない金属酸化物を用いたサイクリックボルタンメトリー試験の結果を示すサイクリックボルタモグラムである。
【図4】本発明の非水電解液二次電池の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の電池パックの一例を示す断面分解図である。
【図6】実施例1のIR測定結果を示すチャートである。
【図7】実施例13のIR測定結果を示すチャートである。
【図8】比較例3のIR測定結果を示すチャートである。
【図9】実施例1のTEM−EDXによるマッピング・データである。
【図10】実施例1のTEM−EDXによるマッピング・データである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の非水電解液二次電池用電極板、当該電極板を用いた非水電解液二次電池と電池パック、及び非水電解液二次電池用電極板の製造方法について、説明する。
【0019】
図1に示すように、本発明の非水電解液二次電池用電極板は、集電体1と、当該集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層2とから構成される。
【0020】
ここで、本発明の第1の実施形態の非水電解液二次電池用電極板10は、集電体1と、当該集電体1の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層2とから構成される上記構成において、電極活物質層2が、電極活物質粒子21と、金属酸化物とケイ素とを含む結着物質22と、を含有しており、電極活物質粒子21と集電体1、および前記電極活物質粒子21同士は、この結着物質22によって固着されていることに特徴を有している。
【0021】
また、本発明の第2の実施形態の非水電解液二次電池用電極板10は、集電体1と、当該集電体1の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層2とから構成される上記構成において、前記電極活物質層2が、電極活物質粒子21と、金属酸化物を含む結着物質22と、を含有しており、電極活物質粒子21と集電体1、および電極活物質粒子21同士は、この結着物質22によって固着されている。そしてさらに、電極活物質層2の赤外吸収スペクトルを測定したときに得られるSi−O結合の980〜1100cm-1に現れるピークの半値半幅が、30〜230cm-1であることに特徴を有している。
【0022】
上記第1の実施形態、及び第2の実施形態の非水電解液二次電池用電極板によれば、結着物質に含まれる金属酸化物によって電極活物質層のインピーダンスを低下させることができる。さらに、電極活物質層2と集電体1との密着力を向上せしめることにより、従来に比べて、電極活物質層2が集電体1から剥離することがなく、よって長期間にわたって過酷な状況下において使用可能な非水電解液二次電池用電極板10を提供することが可能となる。
【0023】
第1の実施形態、及び第2の実施形態の非水電解液二次電池用電極板とすることで、集電体と電極活物質粒子との密着力が理由は明らかではないが、少なくとも、第1の実施形態では、結着物質に含まれるケイ素の存在が、密着力の向上に寄与していると推察される。また、第2の実施形態においても、電極活物質層に、ケイ素元素および酸素元素を含有し、さらにはこれらの元素同士は層中で互いに結合(Si−O結合)していることは分かるが、当該結合が結着物質にどのように作用しているのか、つまり、電極活物質粒子と集電体、および電極活物質粒子同士の固着にどのように作用しているのかは必ずしも明確ではない。しかしながら、電極活物質層中に、上記範囲の半値半幅の980〜1100cm-1に現れるピークをもつSi−O結合が存在していることにより、結果として電極活物質層2と集電体1との密着性が向上しているものと推察される。以下、必要に応じて、本発明の非水電解液二次電池用電極板を、第1の実施形態、第2の実施形態に分けて説明する。
【0024】
本発明の非水電解液二次電池用電極板(以下、本発明の電極板という場合がある。)は、非水電解液二次電池の正極板としても負極板としても用いることができる。以下に、正極板として用いる場合、負極板として用いる場合に分けて詳細に説明する。なお、以下の説明にあっては、正極に用いられる本発明の電極板を正極板、負極に用いられる本発明の電極板を負極板と記載し、これを構成する電極活物質層や電極活物質粒子等についても、正極活物質層、正極活物質粒子、負極活物質層、負極活物質粒子など、正負の極性を明確にして記載する場合がある。
【0025】
<<正極板>>
図1は、本発明の非水電解液二次電池用正極板の断面図である。
【0026】
図1に示すように、正極板10は、正極集電体1上に正極活物質層2を備えた構成をとっている。
【0027】
<正極集電体>
本発明の正極板10に用いられる正極集電体1は、一般的に非水電解液二次電池用正極板の正極集電体として用いられるものであれば、特に限定されない。例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔などの単体又は合金から形成された正極集電体を好ましく用いることができる。なお、正極板10に用いられる正極集電体1は、必要に応じて正極活物質層2の形成が予定される面(正極集電体1の表面)において表面加工処理がなされている集電体1であってもよい。その表面に表面加工処理がなされている正極集電体1としては、導電性物質が集電機能を有する材料の表面に積層された正極集電体、化学研磨処理、コロナ処理、酸素プラズマ処理がなされた正極集電体等が挙げられる。すなわち、正極集電体1には、集電機能を有する材料のみから形成される集電体のみならず、その表面に導電性を担保するための物質が積層されたものや、何らかの表面処理がなされたものも含まれる。また、本発明でいう集電体の表面とは、集電機能を有する材料のみから形成される集電体1にあっては、集電機能を有する材料の表面をいい、集電機能を有する材料の表面の全体に表面加工処理や、導電性物質が積層されている場合にあっては、該表面加工処理面や、導電性物質の表面をいう。また、集電機能を有する材料の表面の一部に表面加工処理や、導電性物質が積層されている場合にあっては、表面加工処理面や、導電性物質の表面、または、これらの表面加工処理又は導電性物質が積層されていない部分(つまり、集電機能を有する材料表面)をいう。
【0028】
正極集電体1の厚みは、一般に非水電解液二次電池用正極板の集電体として使用可能な厚みであれば特に限定されないが、10〜100μmであることが好ましく、15〜50μmであることがより好ましい。
【0029】
<正極活物質層>
正極活物質層2は、正極活物質粒子21と、正極活物質粒子21と集電体1および正極活物質粒子21同士を固着させるための結着物質22と、を含有している。
【0030】
正極活物質層2の層厚について特に限定はなく、一般的には、300nm以上200μm以下程度である。
【0031】
また、正極活物質層2は、非水電解液が浸透可能な程度に空隙が存在していることが好ましく、空隙率が10%以上70%以下であることが好ましい。なお、空隙率の測定は、島津製作所製 オートポアIV 9500等で測定可能である。以下、正極活物質粒子21、結着物質22について具体的に説明する。
【0032】
(正極活物質粒子)
正極活物質粒子21は、充放電可能な正極活物質粒子を適宜選択して用いることができ、正極活物質粒子21について特に限定はない。リチウムイオン二次電池における、正極活物質粒子21としては、例えば、LiCoO2、LiMn24、LiNiO2、LiFeO2、Li4Ti512、LiFePO4、LiNi1/3Mn1/3Co1/32、LiNi0.80Co0.15Al0.052、などのリチウム遷移金属複合酸化物などの正極活物質粒子を挙げることができる。
【0033】
正極活物質粒子21の粒子径について特に限定されず、任意の大きさのものを適宜選択して使用することができる。ただし、正極活物質粒子の粒子径が小さいほど、単位重量当たりの表面積を増大し、レート特性の向上を図ることができる。したがって、より高いレート特性を求める場合には、正極活物質粒子21は、粒子径の寸法の小さいもの、具体的には10μm未満であることが好ましく、5μm以下、特に好ましくは1μm以下である。
【0034】
なお、本発明及び本明細書に示す正極活物質粒子21、および後述する負極活物質粒子の粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定により測定される平均粒子径(体積中位粒径:D50)である。また、正極活物質粒子、および負極活物質粒子の粒子径は、測定された電子顕微鏡観察結果のデータを、粒子認識ツールを用いて識別し、認識された粒子の画像から取得した形状データをもとに粒度分布のグラフを作成し、この粒度分布のグラフから算出することができる。粒度分布のグラフは、例えば、電子顕微鏡観察結果を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製、MAC VIEW)を用いて作成可能である。
【0035】
(結着物質)
図1に示すように、正極板10を構成する正極活物質層2には、結着物質22が含有されており、正極活物質粒子21と集電体1、および正極活物質粒子21同士は、当該結着物質22によって固着されている。
【0036】
(第1の実施形態における結着物質)
第1の実施形態における結着物質22には、必須の成分として金属酸化物とケイ素が含まれる。
【0037】
結着物質22に金属酸化物とケイ素が含まれているか否かは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、走査透過型電子顕微鏡法(STEM法)によって、EDX検出器でナノオーダーの元素分析により示される元素マッピングと、X線回折法(XRD)によって確認することができる。具体的には、電極活物質層に含まれる金属酸化物をX線回折法によって特定し、後述する第1の固着態様、及び第2の固着態様をもって被固着物同士を固着せしめている物質を、上記元素マッピングによって確認する。このとき、同一の箇所、あるいは近傍する個所に金属元素とケイ素の存在が確認でき、確認された金属元素が、X線回折によって特定された金属酸化物の金属である場合には、結着物質22に金属酸化物と、ケイ素が含まれていると判断できる。また、結着物質22は、金属酸化物にケイ素がドープされてなる形態であってもよく、金属酸化物とケイ素とがそれぞれ独立して存在する形態であってもよい。
【0038】
「ケイ素」
結着物質22には、必須の成分としてケイ素が含まれる。ケイ素は、ケイ素元素であってもよく、ケイ素化合物であってもよく、これらの化合物を組合せたものであってもよい。ケイ素化合物としては、ケイ素酸化物、ケイ素窒化物、ケイ素リン酸化合物、ケイ素硫化物、ケイ素炭化物、ケイ素フッ化物などを挙げることができるが、これ以外のケイ素化合物であってもよい。
【0039】
金属酸化物とケイ素の含有量について特に限定はないが、全ての結着物質22に含まれるケイ素と金属酸化物の合計質量を100%とした場合に、ケイ素元素、あるいはケイ素化合物の合計質量は、10〜50%の範囲内であることが好ましい。ケイ素元素、あるいはケイ素化合物の含有量を当該範囲内とすることで、集電体1と正極活物質粒子21、及び正極活物質粒子同士の密着力をさらに向上させることが可能となる。
【0040】
なお、結着物質22に含まれるケイ素、あるいはケイ素化合物の含有量は、上述したように、第1の固着態様、及び第2の固着態様をもって被固着物同士を固着せしめている物質を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、走査透過型電子顕微鏡法(STEM法)によって、EDX検出器でナノオーダーの元素分析により示される元素マッピングにより確認することができる。また、ケイ素あるいはケイ素化合物を含む結着物質だけを、実際の電極活物質層に含まれる結着物質と同一の条件で別途合成し、ICP発光分析によって求められるケイ素あるいはケイ素化合物の組成から含有量を算出することもできる。
【0041】
「金属酸化物」
また、結着物質22には、上記ケイ素とともに、必須の成分として金属酸化物が含まれる。この金属酸化物は、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属酸化物であってもよく、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示さない金属酸化物であってもよい。
【0042】
アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属酸化物としては、当該挿入脱離反応を示すあらゆる金属酸化物を適宜選択して用いることができ、特に限定されることはない。このような金属酸化物としては、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、及びチタンの中から選択される1種以上の金属と、リチウムとの複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiMn24、LiNiO2、LiFeO2、Li4Ti512、LiFePO4、LiNi1/3Mn1/3Co1/32、LiNi0.9Co0.12、LiNi0.80Co0.15Al0.052、などのリチウム遷移金属複合酸化物などを挙げることができる。
【0043】
アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属酸化物を含む結着物質22とした場合には、この結着物質22自体も活物質として機能し得ることから、正極板10の容量を増大させることができるという利点がある。
【0044】
一方、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示さない金属酸化物としては、一般的に金属と理解される金属元素の酸化物であって、当該反応を示さない金属酸化物を適宜選択して用いることができ、特に限定されることはない。上記金属元素としては、Li、Be、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Fr、Ra、およびCeなどを挙げることができる。
【0045】
アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示さない金属酸化物を含む結着物質22とした場合には、この結着物質22が、リチウムイオンなどのアルカリ金属イオンと電気化学的に反応することがない。これにより、金属酸化物の電気化学的な反応に伴う膨張や反応物が生じず、結果として正極活物質層2中の金属酸化物の膨張や欠損などによる劣化を抑制することができるという利点がある。
【0046】
また理由は明らかではないが、上記金属元素の中でも、特に第3周期乃至第5周期に属する金属元素の酸化物を含む結着物質が正極活物質層中に存在する場合には、より良好に出入力特性の向上が示されるため、好ましい。
【0047】
上記第3周期乃至第5周期に属する金属元素を含む金属酸化物の中でも、酸化チタンは安価であって取り扱い性も容易である上、正極活物質層中に含有された際に、非常に優れた出入力特性向上効果を示すことが可能であるため、好ましい。特に、酸化チタンを含む結着物質が正極活物質層中に存在する場合には、放電レート50Cにおいて80%以上の高い充放電レート(放電容量維持率)を示すことが可能であり、自動車などの大型な装置にも十分対応可能である。
【0048】
本発明における金属酸化物とは、上述する金属元素のうちのいずれか1種の元素に酸素が結合した金属酸化物、あるいは上述する金属元素から選択される2種以上の金属元素を含む複合金属酸化物のいずれであってもよい。例えば、1つの金属元素に酸素が結合した金属酸化物の例としては、酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化スカンジウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化ストロンチウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化セリウムなどを挙げることができる。
【0049】
また、2種以上の金属元素を含む複合金属酸化物であって、金属酸化物として用いることができるものの例としては、例えば、ガドリニウムがドープされた酸化セリウム、イットリウムがドープされた酸化ジルコニウム、鉄とチタンの混合酸化物、インジウムとスズが混合された酸化物、リチウムがドープされた酸化ニッケルなどを挙げることができる。
【0050】
また、本発明では、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属酸化物と、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示さない金属酸化物を併せて用いることもできる。
【0051】
金属酸化物のアルカリ金属イオン挿入脱離反応の有無については、電気化学測定(サイクリックボルタンメトリー:CV)法により確認することができる。以下に、CV試験について説明する。例えば、電極電位を活物質の適切な電圧範囲において、例えばアルカリ金属イオンとしてリチウムイオンを想定し、結着物質22がLiMn24であれば、3.0Vから4.3Vまで掃引したのち、再び3.0Vまで戻す作業を3回程度繰り返すものである。走査速度は1mV/秒が好ましい。例えばLiMn24であれば、図2に示すように、約3.9V付近にLiMn24のアルカリ金属イオン脱離反応に相当する酸化ピークが出現し、約4.1V付近にアルカリ金属イオン挿入反応に相当する還元ピークが出現し、これによってアルカリ金属イオンの挿入脱離反応の有無を確認することができる。また、図3に示すように、ピークが出現しない場合にはアルカリ金属イオンの挿入脱離反応がないと判断することができる。
【0052】
(第2の実施形態における結着物質)
第2の実施形態における結着物質22には、必須の成分として金属酸化物が含まれており、ケイ素を必須の成分として含有していない点で、第1の実施形態の結着物質とは相違する。また、第2の実施形態の結着物質22に含まれる金属酸化物は、上記で説明した第1の結着物質22に含まれる金属酸化物と同一であり、ここでの説明は省略する。
【0053】
本発明の第1の実施形態、及び第2の実施形態の正極板において、正極活物質粒子21と正極集電体1、および正極活物質粒子21同士が、結着物質22によって固着される、という場合には、以下の2つの態様を含む。第1の固着態様は、被固着物間(例えば、正極活物質粒子21間、または正極活物質粒子21と正極集電体1との間、あるいは導電材を使用する場合には、導電材と正極活物質粒子21間、導電材粒子間など)に、結着物質22が介在して両者を固着させる態様である。第2の固着態様は、被固着物同士が直接接触し、接触部分を囲んで結着物質22が存在することによって、被固着物同士を固着させる態様である。本発明では、正極活物質層中において、上記の第1の固着態様、および第2の固着態様の何れかの態様、又は双方の態様が存在している。特に、正極活物質層中に含まれる正極活物質粒子21の粒子径が小さくなるほど、第2の固着態様が増える傾向にある。
【0054】
結着物質22は、正極活物質層中に上記の第1の固着態様、あるいは第2の固着態様で被固着物間を固着させるような形状で存在していればよく、結着物質22の大きさ、形状について特に限定されることはない。例えば、結着物質22が、微小な粒子状の金属酸化物であって、多数の微小な粒子状の結着物質22が、正極活物質粒子21の1つ、又は2つ以上の集合体の全面又は一部を取り囲むように存在していてもよい。
【0055】
特に、正極活物質層2は、隣り合う結着物質22同士の一部において、結晶格子が連続することにより繋がっている箇所を含んでいることが好ましい。この構成により、膜密着性を向上させレート特性を向上させることができる。上述のとおり、本発明における結着物質22は、正極活物質粒子21同士を固着させるためのものであり、結着物質22同士の少なくとも一部において、互いに結晶格子が連続することにより繋がっている箇所を含ませることで、正極活物質層2の膜密着性が向上するものと推察される。そして、この膜密着性の向上がレート特性の向上に寄与するものと思われる。
【0056】
また、正極活物質層2の膜密着性を向上させるという観点からは、隣り合う結着物質22同士の結晶格子が連続する部分は、正極活物質層2に有意に存在することがより望ましい。なお、本発明において結着物質同士の結晶格子が連続するか否かは、透過型電子顕微鏡で正極活物質層における隣り合う結着物質の断面の結晶格子を観察することによって確認することができる。
【0057】
本発明の正極活物質層において、隣り合う結着物質22同士における結晶格子が連続する箇所を含むよう構成するためには、後述する本発明の非水電解液二次電池用正極板の製造方法に従って製造することが望ましい。本発明の製造方法によれば、正極集電体上において、正極活物質粒子の周囲に存在する金属元素含有化合物が熱分解、酸化などの反応を起こして、正極活物質粒子の周囲に結着物質である結着物質が生成される。このとき、隣接する結着物質同士、あるいはその前駆体の一部が接合していると、該接合部分において、両者の結晶成長が同時に進行し易い。上記接合部分において結晶成長が同時に進行する結果、本発明の正極活物質層において、隣り合う結着物質同士における結晶格子が連続する箇所を含むよう構成される。
【0058】
また、結着物質22が非粒子状であって、正極活物質粒子21間を、空隙を残して充填する連続体であってもよい。あるいは、結着物質22が、正極活物質粒子21の2つ以上の集合体を包囲する膜状、ひだ状、またはこぶ状の連続的な被覆層を形成していてもよい。また、結着物質22の表面は、走査型電子顕微鏡レベルで観察した際に、例えば、滑らかな状態で観察されるもの、無数の突起が密集しているもの、粒子感のあるもの、あるいはこれらの組合せなどであってもよく、その表面状態について何ら限定されることはない。つまり、本発明における結着物質22は、正極活物質粒子21の少なくとも一部を包囲し、かつ結着物質22同士が繋がり、あるいは結着物質22が連続体であり、加えて、結着物質22のうち正極集電体1の近傍の結着物質22が正極集電体1の表面に繋がることによって正極活物質層2を構成するものであればよい。
【0059】
また、本発明では、結着物質として機能し得る樹脂製のバインダーによって、正極集電体1と正極活物質粒子21、及び正極活物質粒子21同士が固着されている箇所が存在していてもよい。すなわち、本発明の正極板に、樹脂製のバインダーが含まれることを禁止するものではない。なお、樹脂製のバインダーは結着物質として機能するものであるが、樹脂製のバインダーは、本発明の結着物質22、すなわち、金属酸化物とケイ素、あるいは金属酸化物を含む結着物質22とは異なるものであり、本発明において結着物質22という場合に樹脂製のバインダーは含まれない。
【0060】
また、本発明の正極板に樹脂製のバインダーが含まれる場合に、金属酸化物とケイ素、あるいは金属酸化物を含む結着物質22と、結着物質として機能し得る樹脂製のバインダーと、の合計質量に対し、結着物質22が占める割合が多くなるほど、レート特性は向上する。このような点を考慮すると、結着物質22と、結着物質として機能し得る樹脂製のバインダーとの総質量を100質量%としたときに、結着物質22は、50質量%以上100質量以下%の範囲内であることが好ましい。無論、当該範囲以外である場合であっても、正極板に結着物質22が含有されている分だけレート特性が向上することはいうまでもない。
【0061】
また、本発明において、正極活物質層2中に含有される正極活物質粒子21と結着物質22との配合比率について特に限定されることはないが、結着物質22の含有量が少なすぎる場合には、正極集電体1と正極活物質粒子21、および正極活物質粒子21同士の固着力を所望の程度まで上げることができなくなるおそれや、レート特性の向上を充分に満足させることができなくなるおそれが生じうる。したがって、この点を考慮すると、正極活物質粒子21の質量比率を100質量部としたときの、結着物質22の質量比率は、1質量部以上100質量部以下であることが好ましい。
【0062】
また、上記正極活物質層2は、正極活物質粒子21、結着物質22を含むとの要件を満たすものであればよいが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、さらなる添加剤を含有させて形成してもよい。たとえば、本発明によれば、カーボンブラック等の導電性の炭素材料に例示される導電材を使用することなく良好な導電性を発揮させることが可能であるが、より優れた導電性が望まれる場合や、活物質粒子の種類などによっては、導電材を使用することとしてもよい。
【0063】
次に、本発明の第2の実施形態のSi−O結合について具体的に説明する。
<Si−O結合>
本発明の第2の実施形態の非水電解液二次電池用正極板10は、正極集電体1及び正極活物質粒子21、及び正極活物質粒子21同士が、金属酸化物を含む結着物質22によって固着されている。さらに、正極活物質層2の赤外吸収スペクトルを測定したときに得られるSi−O結合の980〜1100cm-1に現れるピークの半値半幅が、30〜230cm-1である点に特徴を有している。
【0064】
このことから、当該層は、ケイ素(Si)元素および酸素(O)元素を含有し、さらにはこれらの元素同士は層中で互いに結合(Si−O結合)していることは分かるが、当該結合が結着物質22にどのように作用しているのか、つまり、正極活物質粒子21と集電体1、および正極活物質粒子21同士の固着にどのように作用しているのかは必ずしも明確ではない。しかしながら、正極活物質層2中に、上記範囲の半値半幅のピークをもつSi−O結合が存在していることにより、結果として正極活物質層2と集電体1との密着性を向上させることが可能となる。
【0065】
なお、980〜1100cm-1に現れるピークがSi−O結合のピークであるか否かは、X線光電子分光法におけるケイ素元素、及び酸素元素の確認と、赤外吸収スペクトルを測定した時の980〜1100cm-1付近のピークの存在の確認とを総合判断することで特定することができる。すなわち、X線光電子分光法によってケイ素元素、及び酸素元素の存在が確認され、赤外吸収スペクトルを測定した時に980〜1100cm-1付近にピークが存在している場合には、このピークがSi−O結合のピークであると同定することができる。
【0066】
また、上記より、第2の実施形態の正極板は、正極活物質層2にケイ素元素が含まれていることは明らかであるが、このことは、ケイ素が結着物質22に含まれていることを意味するものではなく、結着物質22にケイ素が含まれるか否かは問わない。
【0067】
正極活物質層2全体の構造として、赤外吸収スペクトル測定において、このような特徴あるピークが現れる構造とすることにより、当該ピークを生じさせる原因となるSi−O結合が、上述した結着物質22に直接的もしくは間接的に作用し、または正極活物質粒子21や集電体1に直接的もしくは間接的に作用することで、さらには、ケイ素(Si)や酸素(O)それぞれが単独で作用し、結果的に正極活物質層2と集電体1との密着性を向上することができるものと推察される。
【0068】
ここで、本発明にあっては、赤外吸収スペクトル測定で得られるSi−O結合の980〜1100cm-1に現れるピークの半値半幅が、30〜230cm-1であれば上記の作用効果を奏するが、さらなる密着性の向上の点からは、Si−O結合のピークが1000〜1100cm-1に現れるとともに、当該ピークの半値半幅が30〜90cm-1であることが好ましく、当該ピークの半値半幅は50〜70cm-1であることがさらに好ましい。
【0069】
また、本発明にあっては、正極活物質層2について赤外吸収スペクトル測定を行った際に上記所定のピークが確認できるような正極活物質層であればよく、当該所定のピークを生じさせるSi−O結合を有する具体的な物質が何であるか、最終的に当該Si−O結合を生じさせるための出発物質が何であるのかは特に限定されない。
【0070】
また、正極活物質層2に含まれるSi−O結合は、例えば、酸化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化フッ化ケイ素などのケイ素を含む化合物が正極活物質層2に含まれることに起因していてもよいが、これに限定されず、正極活物質層2に存在するケイ素が、正極集電体1表面を含む正極活物質層2内における任意の酸素と間で示す結合であればよい。
【0071】
本発明の第2の実施形態の正極板の製造方法について特に限定されることはないが、後述する本発明の製造方法を好ましい態様として例示することができる。後述する本発明の製造方法においては、上記赤外吸収スペクトルで表されるSi−O結合のピークの半値半幅を示す要因となるケイ素を含む化合物は、上述において説明したとおり、加熱工程を経た後に残存可能なケイ素を含む化合物であって、例えば、上記ピークの半値半幅が一般的に、30cm-1未満であるシランカップリング剤などは含まれない。
【0072】
以上、本発明の第1の実施形態の正極板、第2の実施形態の正極板について説明を行ったが、第1の実施形態、及び第2の実施形態の双方の特徴を有する正極板、具体的には、結着物質22に金属酸化物とケイ素が含まれており、正極活物質層2の赤外吸収スペクトルを測定したときに得られるSi−O結合の980〜1100cm-1に現れるピークの半値半幅が、30〜230cm-1である正極板においても上記で説明した本願の優位な効果を発揮することができる。
【0073】
<<正極板の製造方法>>
次に、本発明の正極板の製造方法について説明する。上記第1の実施形態の正極板は、正極活物質粒子と、金属元素含有化合物と、ケイ素元素含有化合物と、が含有される正極活物質層形成液を、集電体上の少なくとも一部に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜を、前記金属元素含有化合物及び、ケイ素元素含有化合物が熱分解する温度以上で加熱する加熱工程と、を含み、前記加熱工程によって、金属酸化物とケイ素を含む結着物質を生成し、この結着物質によって、集電体と正極活物質粒子、及び正極活物質粒子同士を固着せしめることにより製造することができる。
【0074】
また、本発明の第2の実施形態の正極板は、正極活物質粒子と、金属元素含有化合物と、ケイ素元素含有化合物と、が含有される正極活物質層形成液を、集電体上の少なくとも一部に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜を、前記金属元素含有化合物及び、ケイ素元素含有化合物が熱分解する温度以上で加熱する加熱工程と、を含み、前記加熱工程によって、金属酸化物を含む結着物質を生成し、この結着物質によって、集電体と正極活物質粒子、及び正極活物質粒子同士を固着せしめ、且つ赤外吸収スペクトルを測定したときに得られるSi−O結合の980〜1100cm-1に現れるピークの半値半幅が、30〜230cm-1である正極活物質層を形成することにより製造することができる。なお、赤外吸収スペクトルを測定したときに得られるSi−O結合のピークが1000〜1100cm-1に現れるとともに、当該ピークの半値半幅が、30〜90cm-1である正極活物質層を形成することで、集電体と正極活物質層との密着力がさらに高い正極板を製造することができる。
【0075】
<塗布工程>
塗布工程は、正極活物質粒子と、金属元素含有化合物と、ケイ素元素含有化合物と、が含有される正極活物質層形成液を、集電体上の少なくとも一部に塗布して塗膜を形成する工程である。以下、正極活物質層形成液に含有される、正極活物質粒子、金属元素含有化合物、ケイ素元素含有化合物について説明する。
【0076】
(正極活物質粒子)
正極活物質粒子は、上記本発明の正極板で説明した正極活物質粒子をそのまま用いることができここでの説明は省略する。
【0077】
(金属元素含有化合物)
正極活物質層形成液に含有される金属元素含有化合物は、上記本発明の正極板で説明した結着物質22に含まれる金属酸化物を生成するための前駆体である。したがって、正極活物質層形成液中に添加された状態で基板上に塗布され、加熱工程を経たときに、金属酸化物が生成されるものであればいかなる金属元素含有化合物であってもよい。
【0078】
アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属酸化物を生成するための、金属元素含有化合物としては、リチウム元素含有化合物と、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄またはチタンから選択されるいずれかの金属元素を含む金属元素含有化合物の1種あるいは2種以上とを好ましく用いることができる。金属元素含有化合物は、当該化合物内に炭素が含まれていない、無機金属元素含有化合物であってもよいし、あるいは当該化合物内に炭素が含まれて構成される有機金属元素含有化合物であってもよい。本発明および本明細書において、無機金属元素含有化合物及び有機金属含有化合物をあわせて、単に金属元素含有化合物という場合がある。
【0079】
また、金属元素含有化合物としては、リチウム元素あるいはコバルト等の他の金属元素の炭酸塩、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、リン酸塩、臭素酸塩等を挙げることができる。中でも、本発明においては、炭酸塩、塩化物、硝酸塩、酢酸塩は汎用品として入手が容易なので、使用することが好ましい。とりわけ、硝酸塩は広範囲の種類の正極集電体に対して製膜性がよいので、好ましく使用される。
【0080】
例えば、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属酸化物としてLiCoO2を生成するための金属元素含有化合物としては、Li元素含有化合物、及びCo元素含有化合物を主原料として組み合わせて用いることができ、さらに、必要に応じてその他の原料を組み合わせて用いることもできる。Li元素含有化合物としては、例えば、炭酸リチウム、クエン酸リチウム四水和物、過塩素酸リチウム三水和物、酢酸リチウム二水和物、硝酸リチウム、及びリン酸リチウム等が挙げられ、また、Co元素含有化合物としては、例えば、炭酸コバルト、塩化コバルト(II)六水和物、蟻酸コバルト(II)二水和物、コバルト(III)アセチルアセトナート、コバルト(II)アセチルアセトナート二水和物、酢酸コバルト(II)四水和物、しゅう酸コバルト(II)二水和物、硝酸コバルト(II)六水和物、塩化コバルト(II)アンモニウム六水和物、亜硝酸コバルト(III)ナトリウム、及び硫酸コバルト(II)七水和物等が挙げられる。主原料として用いるLi元素含有化合物、及びCo元素含有化合物の組み合わせ割合(Li:Co=X:1)は、特に限定されないが、1≦X<2であることが好ましく、1≦X≦1.2であることがより好ましい。
【0081】
また、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属酸化物としてLiNiO2を生成するための金属元素含有化合物としては、Li元素含有化合物、及びNi元素含有化合物を主原料として組み合わせて用いることができ、さらに、必要に応じてその他の原料を組み合わせて用いることもできる。Li元素含有化合物の例は、上述するLiCoO2を生成する場合と同様であり、また、Ni元素含有化合物としては、例えば、炭酸ニッケル、塩化ニッケル(II)六水和物、酢酸ニッケル(II)四水和物、過塩素酸ニッケル(II)六水和物、臭化ニッケル(II)三水和物、硝酸ニッケル(II)六水和物、ニッケル(II)アセチルアセトナート二水和物、次亜リン酸ニッケル(II)六水和物、及び硫酸ニッケル(II)六水和物等が挙げられる。主原料として用いるLi元素含有化合物、及びNi元素含有化合物の組み合わせ割合(Li:Ni=X:1)は、特に限定されないが、1≦X<2であることが好ましく、1≦X≦1.2であることがより好ましい。
【0082】
また、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属酸化物としてLiMn24を生成するための金属元素含有化合物としては、Li元素含有化合物、及びMn元素含有化合物を主原料として組み合わせて用いることができ、さらに、必要に応じてその他の原料を組み合わせて用いることもできる。Li元素含有化合物の例は、上述するLiCoO2を生成する場合と同様であり、また、Mn元素含有化合物としては、例えば、炭酸マンガン、酢酸マンガン(III)二水和物、硝酸マンガン(II)六水和物、硫酸マンガン(II)五水和物、しゅう酸マンガン(II)二水和物、及びマンガン(III)アセチルアセトナート等が挙げられる。主原料として用いるLi元素含有化合物、及びMn元素含有化合物の組み合わせ割合(Li:Mn=X:1)は、特に限定されないが、0.5≦X<1であることが好ましく、0.5≦X≦0.6であることがより好ましい。
【0083】
また、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属酸化物としてLiFeO2を生成するための金属元素含有化合物としては、Li元素含有化合物、及びFe元素含有化合物を主原料として組み合わせて用いることができ、さらに、必要に応じてその他の原料を組み合わせて用いることもできる。Li元素含有化合物の例は、上述するLiCoO2を生成する場合と同様であり、また、Fe元素含有化合物としては、例えば、塩化鉄(II)四水和物、クエン酸鉄(III)、酢酸鉄(II)、しゅう酸鉄(II)二水和物、硝酸鉄(III)九水和物、乳酸鉄(II)三水和物、及び硫酸鉄(II)七水和物等が挙げられる。主原料として用いるLi元素含有化合物、及びFe元素含有化合物の組み合わせ割合(Li:Fe=X:1)は、特に限定されないが、1≦X<2であることが好ましく、1≦X≦1.2であることがより好ましい。
【0084】
また、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属酸化物としてLi4Ti512を生成するための金属元素含有化合物としては、Li元素含有化合物、及びTi元素含有化合物を主原料として組み合わせて用いることができ、さらに、必要に応じてその他の原料を組み合わせて用いることもできる。Li元素含有化合物の例は、上述するLiCoO2を生成する場合と同様であり、また、Ti元素含有化合物としては、例えば、四塩化チタン、及びチタンアセチルアセトナート等が挙げられる。主原料として用いるLi元素含有化合物、及びTi元素含有化合物の組み合わせ割合(Li:Ti=X:1)は、特に限定されないが、0.8≦X<2であることが好ましく、0.8≦X≦1.2であることがより好ましい。
【0085】
一方、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示さない金属元素含有化合物としては、Li、Be、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Fr、Ra、及びCeなどの一般的な金属元素群から選択されるいずれか1種、または2種以上の金属元素を含有する化合物であって、熱分解によりアルカリ金属イオン挿入脱離反応を示さない金属酸化物となる化合物を挙げることができる。
【0086】
また、理由は明らかではないが、上記に例示される金属元素の中でも、特に3乃至5周期に属する金属元素を含有する金属元素含有化合物を用いた場合には、生成される正極板の出入力特性がより高くなる傾向にあるため、好ましい。
【0087】
また、金属元素を含有する金属元素含有化合物としては、例えば金属塩を好ましく使用することができる。金属塩としては、上記の金属元素の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、臭素酸塩等を挙げることができる。中でも、塩化物、硝酸塩、酢酸塩は汎用品としての入手が容易であるほか、これらの金属元素含有化合物を溶媒に溶解させ、塗工液を集電体上に塗工して塗膜を形成し、加熱すると、塩素イオン、硝酸イオン、酢酸イオンを容易に塗膜中から消失させることができることから、これらを特に好適に用いることができる。
【0088】
また、金属元素含有化物として、金属と炭素とを含む化合物である有機金属化合物を用いてもよい。上記有機金属化合物には、炭素元素を含有する金属錯体、炭素元素を含有する金属塩のいずれも含む。より具体的には、有機金属化合物は、上記の金属元素含有化合物において列挙されるような一般的な金属元素群から選択されるいずれか1種、または2種以上の金属元素および炭素を含有する化合物であればよい。また有機金属化合物において、上記金属元素群の中でも、特に3乃至5周期に属する金属元素が含有することが好ましいことも、上記金属元素含有化合物と同様である。
【0089】
上記炭素元素を含有する金属塩としては、酢酸塩、シュウ酸塩等を挙げることができる。中でも、本発明においては、酢酸塩は汎用品として入手が容易なので、好ましく使用される。
【0090】
また上記炭素元素を含有する金属錯体としては、エトキシド、アセチルアセトナート、ラクテート等を挙げることができる。
【0091】
なお、上述に具体的に例示する金属元素含有化合物以外であっても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜、選択して金属元素を含有する化合物たり得る材料を使用することができる。即ち、当該製造方法にて製造される非水電解液二次電池用正極板に設けられる正極活物質層において、正極活物質粒子を集電体上に固着させるとともに、正極活物質粒子同士を固着させることができ、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示さない金属酸化物を生成可能な生成材料となるものであれば、適宜選択して使用することが可能である。
【0092】
上記で説明した金属元素含有化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。また、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属酸化物を生成するための金属元素含有化合物と、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示さない金属酸化物を生成するための金属元素含有化合物とを併せて用いてもよい。
【0093】
上述する正極活物質層形成液において、溶媒中における、添加される1種または2種以上の金属元素含有化合物の添加量の合計の比率は、0.01〜5mol/L、特に0.1〜2mol/Lが好ましい。上記濃度を0.01mol/L以上とすることにより、正極集電体と正極活物質層とを良好に密着性させることができ、正極活物質粒子の固着が図られる。また、上記濃度を、5mol/L以下とすることにより、上記塗工液を正極集電体の表面へ良好に塗布できる程度の良好な粘度を維持することができ、均一な塗膜を形成することができる。
【0094】
(ケイ素元素含有化合物)
ケイ素含有化合物は、本発明の製造方法により製造される正極板において、結着物質に含まれる所定のケイ素またはケイ素を含む化合物を付与可能な化合物、あるいは正極活物質層に含まれる所定のケイ素またはケイ素を含む化合物を付与可能な化合物であればよい。具体的には、シランカップリング剤、アルキルシリケート、シロキサンなどの有機系ケイ素含有化合物、あるいは、ポリシラン、ケイ酸などの無機系ケイ素含有化合物を挙げることができる。ただし、本発明の製造方法の加熱工程における加熱温度は、ケイ素含有化合物の熱分解温度以上であるため、いずれのケイ素含有化合物であっても、熱分解後のケイ素またはケイ素を含む化合物を、正極活物質層または結着物質に含ませることが可能であるため、上記例示に限定されず種々のケイ素含有化合物を使用し得る。溶媒との相溶性が良好であるという観点からは、有機系ケイ素含有化合物が好ましい。なお、本発明において有機系ケイ素含有化合物とは、ケイ素および炭素を含む化合物を意味し、無機系ケイ素含有化合物は、ケイ素含み、炭素を含まない化合物を意味する。
【0095】
また、有機系ケイ素含有化合物の中でも、以下の理由から、加水分解性基を有するケイ素含有化合物がより好ましい。即ち、加水分解性基は無機化合物の表面と良好に接着するため、製造工程中に、正極活物質粒子の表面に該加水分解性基が良好に接着することが期待される。そして、上記加水分解性基による正極活物質粒子への接着により、隣接する正極活物質粒子との間、あるいは集電体との間の密着力を向上させる作用が期待される(第一の作用)。また別の作用として、加水分解性基に結合するケイ素元素を覆って、結着物質が生成されることにより、正極活物質粒子と集電体、及び正極活物質粒子同士は、このケイ素を含む結着物質によって良好に固着される作用が期待される(第二の作用)。したがって、上述する第一の作用および/または第二の作用を享受するという観点では、上記有機系ケイ素含有化合物の中でも、シランカップリング剤、およびアルキルシリケートなどの加水分解性基を有するケイ素含有化合物が好ましい。
【0096】
なお、本明細書において、加水分解性基および反応性官能基に関して使用する「接着」という用語は、加水分解性基と正極活物質粒子、あるいは加水分解基と集電体との間の相互作用により両者が結び付く状態を広範に意味し、例えば、化学結合であってもよいが、これに限定されない。
【0097】
特に、シランカップリング剤は、分子構造の一端側に加水分解でシラノール基(Si−OH)とアルコールを生じることの可能な加水分解性基(例えばエトキシ基やメトキシ基など)を有する上、他端側に、反応性官能基として、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、クロロプロピル基、メルカプト基、ポリスルフィド基、イソシアネート基からなる群より選ばれた官能基を有する。上記反応性官能基は、集電体、金属元素含有化合物、正極活物質粒子、あるいは任意で添加される樹脂と良好に接着する。即ち、上記反応性官能基は、熱分解前の原料と結びつき易い。したがって、シランカップリング剤は、一端における加水分解性基により、熱分解している最中の原料と接着し、一方、他端における反応性官能基により、熱分解前の原料と接着する。シランカップリング剤自体は、加熱工程における加熱によって熱分解されるが、製造工程中の原料同士の接着が促進されることによって、最終的に、集電体と正極活物質粒子、及び正極活物質粒子同士の密着力を向上させることが可能であると推察される。この結果、製造された本発明の正極板において優れた密着力が発揮されるものと推察される。したがって、本発明の製造方法における1種または2種以上のケイ素含有化合物の少なくとも1種のケイ素含有化合物としてシランカップリング剤が選択されることが好ましい。
【0098】
シランカップリング剤は、反応性官能基としてビニル基、メタクリロキシ基、アミノ基を有するものであることが、集電体と正極活物質層との密着性を高める点からは、好ましい。
【0099】
シランカップリング剤の添加量については、正極活物質層形成液全体量に対して1重量%以上25重量%以下の範囲で添加されていることが好ましい。シランカップリング剤の添加量がこの範囲内にあることで、塗膜の加熱時に活物質の生成の阻害が抑制される虞を抑制しつつ、形成される正極活物質層と集電体との接着性を高めることができるという効果を一層高めることができる。
【0100】
シランカップリング剤であるシリルイソシアネートとしては、例えば、メチルトリイソシアネートシラン、テトライソシアネートシランなどが挙げられるがこれに限定されない。
【0101】
アルキルシリケートとしては、例えば、テトラメトキシシラン、ポリメトキシシロキサン、テトラ−n−プロポキシシランなどが挙げられるがこれに限定されない。
【0102】
ケイ素含有化合物の添加量は、正極活物質層形成液全体量に対して1重量%以上25重量%以下の範囲内であることが好ましい。ケイ素含有化合物の添加量がこの範囲内にあることで、塗膜の加熱時に活物質の生成の阻害が抑制される虞を抑制しつつ、形成される正極活物質層と集電体との接着性を高めることができるという効果を一層高めることができる。
【0103】
また、シランカップリング剤を用いる場合にあっては、その原液をそのまま用いてもよく、溶媒として水やIPAなどを用い、この中に、シランカップリング剤を溶解・加水分解せしめ、適宜濃度調整したものなどを用いてもよい。
【0104】
また、上記正極活物質層形成液には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、導電材、あるいは、当該塗工液の粘度調整剤である有機物、その他の添加剤を配合してもよい。金属元素含有化合物を分散または溶解させるための溶媒は、該金属元素含有化合物を溶解することができるものであればよく、従来公知の溶媒を適宜選択して用いることができる。例えば、水、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソ−プロパノール、n−ブタノール、イソ−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール等の低級アルコール、アセチルアセトン、ジアセチル、ベンゾイルアセトン等のケトン類、アセト酢酸エチル、ピルビン酸エチル、ベンゾイル酢酸エチル、ベンゾイル蟻酸エチル等のケトエステル類、トルエン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール及びこれらの混合溶媒を挙げることができる。
【0105】
正極活物質層形成液を集電体上に塗工する方法について特に限定はなく、一般的な塗工方法を適宜選択して用いることができる。例えば、印刷法、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレーコート等によって、塗工液を塗工することができる。また、集電体の表面が多孔質であったり、凹凸が多数設けられていたり、三次元立体構造を有したりする場合には、上記の方法以外に手動で塗布することも可能である。
【0106】
また、正極活物質層形成液の塗工量について特に限定はないが、加熱後の厚みが、上記で説明した正極活物質層の厚みとなるような範囲で塗工されていることが好ましい。
【0107】
<加熱工程>
加熱工程は、塗布工程で集電体上に形成された塗膜を、前記金属元素含有化合物及び、ケイ素元素含有化合物が熱分解する温度以上で加熱する工程である。
【0108】
加熱工程における加熱温度については、正極活物質層において用いられる金属元素含有化合物、及びケイ素元素含有化合物を熱分解することができる温度であればよく、したがってこれらの種類に応じて適宜設定することができる。なお、金属元素含有化合物、及びケイ素元素含有化合物を熱分解することができる温度とは、金属元素含有化合物と、ケイ素元素含有化合物の双方が熱分解される温度である。換言すれば、金属元素含有化合物と、ケイ素元素含有化合物の双方が熱分解される温度のうち、高い方の温度である。また、熱分解する温度以上の温度とは、熱分解開始温度以上の温度である。
【0109】
熱分解開始温度は、島津製作所の自動TG/DTA同時測定装置DTG-60Aを用いて熱分解温度を測定することにより求めることができる。なお、熱分解開始温度は、金属元素含有化合物を10℃/minの昇温速度で加熱した時に、金属元素含有化合物の重量が、加熱開始時の重量から10重量%減少した時の温度である。ケイ素元素含有化合物の熱分解開始温度についても同様である。
【0110】
また、上記加熱工程における加熱雰囲気についても、特に限定されず、正極板を製造するために用いられる材料や加熱温度、金属元素の酸素ポテンシャルなどを勘案して適宜決定することができる。例えば、空気雰囲気である場合には、特別な雰囲気の調整が必要なく、簡易に加熱工程を実施することができる点で好ましい。特に正極集電体としてアルミ箔を用いる場合には、空気雰囲気下において加熱工程を実施しても、該アルミ箔が酸化するおそれがないので、好ましく加熱工程を実施することができる。
【0111】
一方、正極集電体として銅箔を用いる場合には、空気雰囲気下で加熱工程を実施すると酸化してしまい、望ましくない。したがって、かかる場合には、不活性ガス雰囲気下、あるいは還元ガス雰囲気下あるいは不活性ガスと還元ガスの混合ガス雰囲気下で加熱することが好ましい。なお、酸素ガスが充分に含有されない雰囲気下で加熱工程を実施する場合には、金属元素含有化合物中における金属元素の酸化は、正極活物質層形成液中に含有される化合物中の酸素と金属元素とが結合することによって実現される必要があるので、使用する化合物中に酸素元素が含有される化合物を用いる必要がある。
【0112】
本発明の製造方法において、不活性ガス雰囲気または還元ガス雰囲気は、特に特定の雰囲気に限定されず、従来公知のこれらの雰囲気下において適宜発明の製造方法を実施することができるが、たとえば、不活性ガス雰囲気としてはアルゴンガス、窒素ガス、還元ガス雰囲気としては、水素ガス、一酸化炭素ガス、あるいは上記不活性ガスと上記還元ガスを混合したガス雰囲気などが挙げられる。
【0113】
また、本発明の正極板は、上述のとおり製造された正極活物質層に、さらに樹脂バインダー等の樹脂成分を含有させてもよい。正極活物質層にさらに樹脂成分を含有させる方法は、例えば、樹脂混合液を、正極活物質層の表面に塗布し、あるいは、樹脂混合液槽に正極板を浸漬させて、該樹脂混合液を正極活物質層の空隙に浸透させ、次いで、乾燥させることによって、正極活物質層に含浸する上記樹脂混合液の溶媒を除去し、樹脂成分だけを、正極活物質層の内部に残留させる方法が挙げられる。
【0114】
<<負極板>>
次に、本発明の非水電解液二次電池用負極板について説明する。上記「正極板」においても説明したように、本発明の電極板は、非水電解液二次電池の正極板としても負極板としても用いることが可能である。本発明の非水電解液二次電池用負極板は、図1に示した本発明の非水電解液二次電池用正極板と同様の構成を有しており、図1における正極集電体1を負極集電体に置き換え、正極活物質層2を負極活物質層に置き換え、正極活物質粒子21を負極活物質粒子に置き換えることにより、本発明の負極板の構成を説明することができる。また、負極板においても、上記「正極板」で説明した第1の実施形態、第2の実施形態と同様の構成をとることができる。
【0115】
上述した本発明の正極板と同様、結着物質に含まれるケイ素、あるいは負極活物質層中に存在する所定のSi−O結合が結着物質に直接または間接的に作用し、または負極活物質粒子や負極集電体に直接または間接的に作用することで、最終的に、負極活物質層と負極集電体とがより密着している。
【0116】
<負極集電体>
負極集電体について特に限定はなく、非水電解液二次電池用負極板に用いられる従来公知の負極集電体を適宜選択して用いることができる。例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔、銅箔などの単体又は合金から形成された負極集電体を好ましく用いることができる。また、正極集電体1と同様、負極集電体には、その表面に導電性を担保するための物質が積層されたものや、何らかの表面処理がなされたものも含まれる。
【0117】
負極集電体の厚みは、一般に非水電解液二次電池用負極板の負極集電体として使用可能な厚みであれば特に限定されないが、5〜200μmであることが好ましく、10〜50μmであることがより好ましい。
【0118】
<負極活物質層>
負極活物質層は、負極活物質粒子と、負極活物質粒子と集電体、および負極活物質粒子同士を固着させるための結着物質とを含有している。また、本発明の負極板の第1の実施形態では、結着物質が、金属酸化物とケイ素を含有しており、第2の実施形態では、金属酸化物を含有している。
【0119】
負極活物質層の層厚について特に限定はないが、レート特性を向上させつつも高容量を得るためには、層厚は、50μm〜150μmであることが好ましい。負極活物質層の層厚を当該範囲とすることで、負極活物質層と負極集電体との距離を短くすることができ負極板のインピーダンスを下げることができる。
【0120】
また、負極活物質層は、正極活物質層と同様に非水電解液が浸透可能な程度に空隙が存在していることが好ましい。
【0121】
(負極活物質粒子)
負極板を構成する負極活物質層には、負極活物質粒子が含有される。負極活物質粒子について特に限定はなく、非水電解液二次電池の分野で従来公知の負極活物質粒子を適宜選択して用いることができる。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、アモルファス炭素、カーボンブラック、またはこれらの成分に異種元素を添加した炭素材料や、金属リチウム及びその合金、スズ、ケイ素及びそれらの合金や、ケイ素、チタンコバルトの酸化物、マンガン、鉄、コバルトの窒化物など、アルカリ金属イオンを吸蔵放出可能な材料を挙げることができる。中でも、炭素材料はコストが安く、取り扱い性容易な上、単位質量あたりに取り出せるエネルギーが大きく、放電電位が卑であり、平坦性がよいなどの理由から負極活物質粒子として特に好適に使用可能である。
【0122】
負極活物質粒子の形状についても特に限定はなく、例えば、鱗片形状、扁平形状、紡錘形状、球状のものを用いることができる。また、負極活物質粒子の粒径についても特に限定はなく、設計される負極活物質層の厚みなどを勘案して、任意の大きさのものを適宜選択して使用することができる。なお、上記で説明した正極活物質粒子と同様、負極活物質粒子の粒子径を小さくすることで、レートと構成の向上を図ることができる。したがって、負極活物質粒子の粒子径は10μm未満であることが好ましく、5μm以下、特には1μm以下が好ましい。
【0123】
(結着物質)
負極板を構成する負極活物質層には、結着物質が含有されており、負極活物質粒子と集電体、および負極活物質粒子同士は、当該結着物質によって固着されている。本発明の負極板の第1の実施形態では、結着物質が、必須の成分として金属酸化物とケイ素を含有しており、第2の実施形態では、結着物質が、必須の成分として金属酸化物を含有している。
【0124】
結着物質に含まれる金属酸化物としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、周期律表第4周期に属する遷移金属の金属酸化物を好ましく用いることができる。アルカリ金属、アルカリ土類金属は、酸化還元電位が低いことから、非水電解液二次電池の負極板に用いた場合でも安定である。また、周期律表第4周期に属する遷移金属は、化学的に安定で、複数の酸化数を形成することが可能であり、同じ元素でも複数の錯体を形成する。そのため、負極板に含有される金属としての利便性が高い。このような金属酸化物としては、銅、ニッケル、リチウムの酸化物等を挙げることができる。また、本発明の負極板の第1の実施形態において、結着物質に含まれるケイ素については、上述した本発明の正極板の第1の実施形態の結着物質に含まれるケイ素と同様であり、ここでの説明は省略する。
【0125】
(その他の材料)
負極活物質層は、上述した負極活物質粒子と結着物質を含むとの要件を満たすものであればよいが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、さらなる添加剤を含有させて形成してもよい。たとえば、本発明において導電材を使用することなく良好な導電性を発揮させることが可能であるが、より優れた導電性が望まれる場合や、負極活物質粒子の種類などによっては、導電材を使用することとしてもよい。
【0126】
なお、正極板で説明したことと同様の理由により、負極板においても、金属酸化物とケイ素、あるいは金属酸化物を含む結着物質と、樹脂製のバインダーとを併せて用いることとしてもよい。
【0127】
<Si−O結合>
本発明の負極板の第2の実施形態のSi−O結合は、前記正極板の第2の実施形態におけるSi−O結合と同様であり、ここでの詳細な説明は省略する。
【0128】
なお、本発明の非水電解液二次電池に上記で説明した負極板を用いる場合には、正極板としては従来公知の正極板、例えば、正極活物質粒子と正極集電体、および正極活物質粒子同士を樹脂製のバインダーで固着してなる正極板を使用してもよく、上記で説明した正極板と併せて使用してもよい。
【0129】
ここまで説明してきた本発明の負極板の製造方法は、上述した本発明の正極板と同様、特に限定されることはないが、以下の方法により、本発明の負極板を歩留まり良く製造することができる。以下、負極板の製造方法について具体的に説明する。
【0130】
<<負極板の製造方法>>
本発明の非水電解液二次電池用負極板の製造方法は、前述した「正極板の製造方法」と、その特徴は同じである。以下に各工程について説明する。
【0131】
上記第1の実施形態の負極板は、負極活物質粒子と、金属元素含有化合物と、ケイ素元素含有化合物と、が含有される負極活物質層形成液を、集電体上の少なくとも一部に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜を、前記金属元素含有化合物及び、ケイ素元素含有化合物が熱分解する温度以上で加熱する加熱工程と、を含み、前記加熱工程によって、金属酸化物とケイ素を含む結着物質を生成し、この結着物質によって、集電体と負極活物質粒子、及び負極活物質粒子同士を固着せしめることにより製造することができる。
【0132】
また、本発明の第2の実施形態の負極板は、負極活物質粒子と、金属元素含有化合物と、ケイ素元素含有化合物と、が含有される負極活物質層形成液を、集電体上の少なくとも一部に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜を、前記金属元素含有化合物及び、ケイ素元素含有化合物が熱分解する温度以上で加熱する加熱工程と、を含み、前記加熱工程によって、金属酸化物を含む結着物質を生成し、この結着物質によって、集電体と負極活物質粒子、及び負極活物質粒子同士を固着せしめ、且つ赤外吸収スペクトルを測定したときに得られるSi−O結合の980〜1100cm-1に現れるピークの半値半幅が、30〜230cm-1である負極活物質層を形成することにより製造することができる。なお、赤外吸収スペクトルを測定したときに得られるSi−O結合のピークが1000〜1100cm-1に現れるとともに、当該ピークの半値半幅が、30〜90cm-1である正極活物質層を形成することで、集電体と負極活物質層との密着力がさらに高い負極板を製造することができる。
【0133】
<塗布工程>
塗布工程は、負極活物質粒子と、金属元素含有化合物と、ケイ素元素含有化合物と、が含有される負極活物質層形成液を、集電体上の少なくとも一部に塗布して塗膜を形成する工程である。以下、負極活物質層形成液に含有される、負極活物質粒子、金属元素含有化合物、ケイ素元素含有化合物について説明する。なお、ケイ素元素含有化合物については、上述した、本発明の正極板の製造方法で説明した、ケイ素元素含有化合物をそのまま用いることができ、ここでの説明は省略する。
【0134】
(負極活物質粒子)
負極活物質粒子は、上記本発明の負極板で説明した負極活物質粒子をそのまま用いることができここでの説明は省略する。
【0135】
(金属元素含有化合物)
負極活物質層形成液に含有される金属元素含有化合物は、上記本発明の負極板で説明した結着物質に含まれる金属酸化物を生成するための前駆体である。したがって、負極活物質層形成液中に添加された状態で基板上に塗布され、加熱工程を経たときに、金属酸化物が生成されるものであればいかなる金属元素含有化合物であってもよい。
【0136】
このような金属元素含有化合物の具体的な例としては、金属元素の塩化物、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、臭素酸塩等の金属塩や、これらの金属塩の水和物等を挙げることができる。中でも、塩化物、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩は汎用品としての入手が容易であるほか、これらを溶媒に溶解させ、塗工液を集電体上に塗工して塗膜を形成し、加熱すると、塩素イオン、炭酸イオン、硝酸イオン、酢酸イオンを容易に塗膜中から消失させることができることから、これらを特に好適に用いることができる。
【0137】
例えば、金属元素が銅である場合には、塩化銅、炭酸銅(II)、硝酸銅、酢酸銅、酢酸銅(II)一水和物等を挙げることができ、金属元素がニッケルである場合には、塩化ニッケル、炭酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、硝酸ニッケル(II)六水和物、酢酸ニッケル(II)四水和物等を挙げることができ、金属元素がリチウムである場合には、塩化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、酢酸リチウム三水和物等を挙げることができる。
【0138】
負極活物質層形成液を調製する際に用いられる溶媒としては、上述した金属元素含有化合物を溶解することができるものであればよく、前記正極活物質層形成液で用いることができる溶媒と同様のものを用いることができる。
【0139】
上述する負極活物質層形成液において、溶媒に対し、添加される1種または2種以上の金属元素含有化合物の添加量の合計の比率は、0.01〜20mol/L、特に0.1〜10mol/Lが好ましい。上記濃度を0.01mol/L以上とすることにより、負極集電体と負極活物質層とを良好に密着させることができ、負極活物質粒子の固着が充分に図られる。また、上記濃度を、20mol/L以下とすることにより、上記塗工液を負極集電体表面へ良好に塗布できる程度の良好な粘度を維持することができ、均一な塗膜を形成することができる。
【0140】
上記負極活物質層形成液を負極集電体上に塗工する方法について特に限定はなく、正極板の製造に用いられる塗工方法と同様の方法を適宜選択して用いることができる。塗工量の厚みについても同様である。
【0141】
(加熱工程)
加熱工程については、前記本発明の正極板の製造方法と同一とすればよく、したがってここでの説明は省略する。なお、負極板の形成において、集電体として、例えば、銅箔等を用いる場合には、窒素雰囲気下等で加熱を行うことが好ましい。
【0142】
また、上記によって形成された結着物質に対し、還元処理を施すことで結着物質に含まれる金属酸化物を金属に還元し、この還元された金属によって負極活物質粒子同士を固着させた負極板を製造してもよい。
【0143】
還元処理方法としては、水素プラズマ雰囲気下で還元処理を行う還元処理方法や、水素、一酸化炭素等、もしくは水素、一酸化炭素を窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスで希釈した還元ガスを用い、該還元ガス雰囲気下で還元を行う還元処理方法を好適に用いることができる。還元ガスは1種の還元ガスを単独で使用してもよく、2種以上のガスを混合して用いることとしてもよい。
【0144】
また、還元処理を経ることで形成された負極板は、負極活物質層中に酸化物が含まれておらず、初期充電時に還元反応が生ずることもない。これにより、初期充電時における還元反応により、充電反応が妨げられ初期充放電効率が低下することを防止することができる。
【0145】
<<非水電解液二次電池>>
次に、上記で説明した本発明の正極板および/または負極板を用いた、本発明の非水電解液二次電池について説明する。
【0146】
図4は、本発明の非水電解液二次電池の一例を示す概略図である。
【0147】
図4に示すように、本発明の非水電解液二次電池100は、正極集電体1の一方面側に正極活物質層2が設けられてなる正極板10、及び、これに組合される負極集電体55の一方面側に負極活物質層54が設けられてなる負極板50と、正極板10と負極板50との間に設けられるセパレータ70とから構成され、これらが、外装81、82で構成される容器内に収容され、かつ、容器内にリチウム化合物を電解質として含む非水電解液90が充填された状態で密封された構成をとる。ここで、本発明の非水電解液二次電池100は、正極板10および負極板50のいずれか一方または双方が上記で説明した本発明の電極板であることを特徴とする。
【0148】
以下に、上記で説明した正極板および/または負極板以外の構成、具体的にはセパレータとリチウム化合物を含む非水電解液とについて説明する。
【0149】
(セパレータ)
セパレータ70について特に限定はなく、非水電解液二次電池の分野で従来公知のセパレータを適宜選択して使用することができる。例えば、マイクロポアを有するリチウムイオン透過性のポリエチレンフィルムを、多孔性のリチウムイオン透過性のポリプロピレンフィルムで挟んだ三層構造としたものなどを好適に使用可能である。これは、非水電解液二次電池内の温度が上昇した場合に、ポリエチレンフィルムが約130℃で軟化してマイクロポアが潰れ、リチウムイオンの移動を抑制する安全機構を兼ねたものである。そして、このポリエチレンフィルムを、より軟化温度の高いポリプロピレンフィルムで挟持することによって、ポリエチレンフィルムが軟化した場合においても、ポリプロピレンフィルムが形状を保持して正極板10と負極板50の接触・短絡を防止し、電池反応の確実な抑制と安全性の確保が可能となる。
【0150】
(非水電解液)
本発明に用いられる非水電解液90は、一般的に、非水電解液二次電池用の非水電解液として用いられるものであれば、特に限定されないが、非水電解液二次電池に用いる場合には、リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液が好ましく用いられる。
【0151】
上記リチウム塩の例としては、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAsF6、LiCl、及びLiBr等の無機リチウム塩;LiB(C654、LiN(SO2CF32、LiC(SO2CF33、LiOSO2CF3、LiOSO225、LiOSO249、LiOSO2511、LiOSO2613、及びLiOSO2715等の有機リチウム塩;等が代表的に挙げられる。
【0152】
リチウム塩の溶解に用いられる有機溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、環状エーテル類、及び鎖状エーテル類等が挙げられる。
【0153】
上記正極板10、負極板50、セパレータ70、非水電解液90を用いて製造される非水電解液電池100の構造としては、従来公知の構造を適宜選択して用いることができる。例えば、上記の正極板10及び負極板50を、セパレータ70を介して渦巻状に巻き回して、電池容器内に収納する構造が挙げられる。また別の態様としては、所定の形状に切り出した正極板10及び負極板50をセパレータ70を介して積層して固定し、これを電池容器内に収納する構造を採用してもよい。いずれの構造においても、正極板10及び負極板50を電池容器内に収納後、正極板に取り付けられたリード線を外装容器に設けられた正極端子に接続し、一方、負極板に取り付けられたリード線を外装容器内に設けられた負極端子に接続し、さらに電池容器内に非水電解液を充填した後、密閉することによって非水電解液二次電池が製造される。
【0154】
<<電池パック>>
次に、図5を用いて本発明の非水電解液二次電池100を用いて構成される電池パック200について説明する。
【0155】
図5は、本発明の電池パック200の一例を示す概略分解図である。
【0156】
図5に示すように電池パック200は、非水電解液二次電池100が樹脂容器36a、樹脂容器36b、および端部ケース37に収納されて構成される。また、非水電解液二次電池の一端面であって、正極端子32および負極端子33を備える面と、端部ケース37との間には、過充電や過放電を防止するための保護回路基板34が設けられている。
【0157】
保護回路基板34は、外部接続コネクタ35を備えており、外部接続コネクタ35は、樹脂容器36aに設けられた外部接続用窓38a、および、端部ケース37に設けられた外部接続用窓38bに挿入され外部端子と接続される。また、保護回路基板34には、図示しない、充放電を制御するための充放電安全回路、外部接続端子と非水電解液二次電池100とを導通させるための配線回路などが搭載されている。
【0158】
電池パック200は、本発明の正極板10および/または負極板50が用いられた本発明の非水電解液二次電池100を用いること以外は、従来公知の電池パックの構成を適宜選択することができる。図示しないが、電池パック200は、非水電解液二次電地100と端部ケース37との間に、正極端子32と接続する正極リード板、負極端子33と接続する負極リード板、絶縁体などを適宜備えていてもよい。
【0159】
なお、本発明の正極板10および/または負極板50を用いた本発明の非水電解液二次電池100は、電池パックへの使用態様以外に、上記保護回路に、さらに過大電流の遮断、電池温度モニター等の機能を備え、且つ、該保護回路を非水電解液二次電池に一体化させて取り付けられる態様に用いられてもよい。かかる態様では、電池パックを構成することなく、保護機能および保護回路を備える二次電池として使用することができ、汎用性が高い。なお、上記で説明したいくつかの態様は、例示に過ぎず、本発明の正極板10および/または負極板50、あるいは本発明の非水電解液二次電池100の使用を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0160】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。以下、特に断りのない限り、部または%は質量基準である。
【0161】
(実施例1)
Li(CH3COO)・2H2O[分子量:102.02]:1.0gをメタノール:1.0gに加えたものとMn(CH3COO)2・4H2O[分子量:245.09]:5gをメタノール:5gに加えたものを、Li(CH3COO):Mn(CH3COO)=2.1g:9.8gの量で混合し、リチウムイオン挿入脱離反応を示すリチウム複合酸化物を生成する原料溶液とした。次いで、上記原料溶液:8gに、平均粒径4μmの正極活物質(LiMn24):10gと、アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、デンカブラック):1.2g、炭素繊維(昭和電工株式会社製 VGCF):0.25g、シランカップリング剤(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製 KBM403)):1.5gと、樹脂ヒドロキシエチルセルロース:0.2gを純水:9.8gに溶解した増粘剤水溶液:10gと、溶媒メタノールを混合させ、エクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所)で8000rpmの回転数で15分間混練することによって電極活物質層形成液を調製した。集電体として厚さ15μmのアルミ板を準備し、最終的に得られる電極活物質層の電極質量が91.7g/m2となる量で、当該集電体の一面側に上記にて調製した電極活物質層形成液をアプリケーターで塗布して電極活物質層形成用塗膜を形成した。次いで、ロールプレス機(株式会社サンクメタル社製:メカ式1ton)を用いて、加圧力:0.1ton/cm、プレス速度10mm/秒の条件で、上記塗膜をプレスした。次に、表面に電極活物質層形成用塗膜が形成された集電体を、常温の電気炉(マッフル炉、デンケン社製、P90)内に設置し、室温から20分かけて450℃まで加熱し、その後、集電体上に正極活物質層として適切な電極活物質層が積層された非水電解液二次電池用正極板を得た。この正極板を電気炉から取り出して室温になるまで放置した後、プレス機を用い所定の大きさ(直径15mmの円板)に裁断し、実施例1の正極板を得た。尚、マイクロメーターを用いて電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、60μmであった。
【0162】
(実施例2)
実施例1で用いたシランカップリング剤の添加量を2gに変更した以外は、実施例1と全て同様にして、実施例2の正極板を得た。なお、尚、マイクロメーターを用いて電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、61μmであった。
【0163】
(実施例3)
実施例1のシランカップリング剤にかえて、シランカップリング剤(3-アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製 KBE903))を2g添加した以外は、実施例1と全て同様にして、実施例3の正極板を得た。なお、尚、マイクロメーターを用いて電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、60μmであった。
【0164】
(実施例4)
実施例1のシランカップリング剤にかえて、シランカップリング剤(N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製 KBE603))を1g添加した以外は、実施例1と全て同様にして、実施例4の正極板を得た。なお、尚、マイクロメーターを用いて電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、62μmであった。
【0165】
(実施例5)
実施例1のシランカップリング剤にかえて、シリルイソシアネート化合物(マツモトファインケミカル株式会社製 オルガチックスSI-310)を2g添加した以外は、実施例1と全て同様にして、実施例5の正極板を得た。なお、尚、マイクロメーターを用いて電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、61μmであった。
【0166】
(実施例6)
Li(CH3COO)・2H2O[分子量:102.02]:10gと、Co(NO32・6H2O[分子量:290.9]:30gと、メタノール:20gを加えたものを混合しリチウムイオン挿入脱離を示すリチウム複合酸化物を生成する原料溶液とした。次いで、上記原料溶液10gに、平均粒径4μmの正極活物質LiMn2410gと、アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、デンカブラック)1.2g、炭素繊維(昭和電工株式会社製 VGCF)0.25g、シランカップリング剤(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製 KBM403)):2gと、樹脂ヒドロキシエチルセルロース:0.2gを純水:9.8gに溶解した増粘剤水溶液:10gと、溶媒(メタノール)を混合させ、エクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所)で8000rpmの回転数で15分間混練することによって電極活物質層形成液を調製した。
【0167】
次いで、集電体として厚さ15μmのアルミ板を準備し、最終的に得られる電極活物質層の電極質量が84.6g/m2となる量で、当該集電体の一面側に上記にて調製した電極活物質層形成液をアプリケーターで塗布して電極活物質層形成用塗膜を形成した。次いで、ロールプレス機(株式会社サンクメタル社製:メカ式1ton)を用いて、加圧力:0.1ton/cm、プレス速度10mm/秒の条件で、上記塗膜をプレスした。次に、表面に電極活物質層形成用塗膜が形成された集電体を、常温の電気炉(マッフル炉、デンケン社製、P90)内に設置し、室温から20分かけて450℃まで加熱し、集電体上に電極活物質層が積層された非水電解液二次電池用正極板を得た。この正極板を電気炉から取り出して室温になるまで放置した後、プレス機を用い所定の大きさ(直径15mmの円板)に裁断し、実施例6の正極板とした。尚、マイクロメーターを用いて電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、57μmであった。
【0168】
(実施例7)
実施例1で作製した非水電解液二次電池用正極板上に、PVDF(クレハ社製、KF#1320):0.9gを有機溶媒であるNMP(三菱化学社製):10gに溶解したPVDF樹脂溶液を、アプリケーターで塗布し、120℃で10min乾燥したこと以外は、同様にして、実施例7の正極板を得た。尚、マイクロメーターを用いて電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、60μmであった。
【0169】
(実施例8)
平均粒径4μmの正極活物質(LiMn24)10gと、アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、デンカブラック)1.28g、炭素繊維(昭和電工株式会社製、VGCF)0.25g、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)(マツモトファインケミカル株式会社製 TC400)3g、シランカップリング剤(3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製 KBM503))2gと、樹脂エチルセルロース0.3gをイソプロピルアルコール2.7gに溶解した樹脂溶液3gと、溶媒プロピレングリコールモノメチルエチルアセテート6gを混合させ、エクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所)で8000rpmの回転数で15分間混練することによって電極活物質層形成液を調製した。集電体として厚さ15μmのアルミ板を準備し、最終的に得られる電極活物質層の電極質量が55g/m2となる量で、当該集電体の一面側に上記にて調製した電極活物質層形成液をアプリケーターで塗布して電極活物質層形成用塗膜を形成した。次いで、ロールプレス機(株式会社サンクメタル社製:メカ式1ton)を用いて、加圧力:0.1ton/cm、プレス速度10mm/秒の条件で、上記塗膜をプレスした。次に、表面に電極活物質層形成用塗膜が形成された集電体を、常温の電気炉(マッフル炉、デンケン社製、P90)内に設置し、室温から20分かけて400℃まで加熱し、その後、集電体上に正極活物質層として適切な電極活物質層が積層された本発明の非水電解液二次電池用正極板を得た。そして上記正極板を電気炉から取り出して室温になるまで放置した後、プレス機を用い所定の大きさ(直径15mmの円板)に裁断し、実施例8の正極板を得た。なお、マイクロメーターを用いて電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、42μmであった。
【0170】
(実施例9)
実施例8における、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)(マツモトファインケミカル株式会社製 TC400)にかえて、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)(マツモトファインケミカル株式会社製 TC750)2g添加すること以外は実施例8と同様にして実施例2の正極板を得た。なお、マイクロメーターを用いて電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、44μmであった。
【0171】
(実施例10)
実施例8のシランカップリング剤にかえて、シリルイソシアネート化合物(マツモトファインケミカル株式会社製 オルガチックスSI-310)を用いる以外は実施例8と全て同様にして、実施例10の正極板を得た。なお、マイクロメーターを用いて電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、40μmであった。
【0172】
(実施例11)
実施例8で作製した非水電解液二次電池用正極板上に、PVDF(クレハ社製、KF#1320):0.9gを有機溶媒であるNMP(三菱化学社製):10gに溶解したPVDF樹脂溶液を、アプリケーターで塗布し、120℃で10min乾燥したこと以外は、同様にして、実施例11の正極板を得た。なお、マイクロメーターを用いて電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、48μmであった。
【0173】
(実施例12)
実施例8のシランカップリング剤を0.02g用いた以外はすべて実施例8と同様にして実施例12の正極板を得た。なお、マイクロメーターを用いて電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、47μmであった。
【0174】
(実施例13)
実施例8のシランカップリング剤にかえて、水の分散溶媒中に無機ケイ酸を分散させた、日産化学社製のスノーテックXSを2g用いた以外はすべて実施例8と同様にして実施例13の正極板を得た。なお、マイクロメーターを用いて電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、45μmであった。
【0175】
(比較例1)
シランカップリング剤を添加しない以外は実施例6と全て同様にして比較例1の正極板を得た。なお、マイクロメーターを用いて電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、60μmであった。
【0176】
(比較例2)
シランカップリング剤を添加しない以外は実施例8と全て同様にして比較例2の正極板を得た。なお、マイクロメーターを用いて電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、44μmであった。
【0177】
(比較例3)
加熱温度を20分かけて150℃まで加熱した以外は、全て実施例8と同様にして、比較例3の正極板を得た。なお、マイクロメーターを用いて電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、43μmであった。
【0178】
(比較例4)
ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)(マツモトファインケミカル株式会社製 TC400)、樹脂エチルセルロース0.3gをイソプロピルアルコール2.7gに溶解した樹脂溶液、溶媒プロピレングリコールモノメチルエチルアセテート6gにかえて、樹脂製結着材としてPVDF樹脂(クレハ社製、KF#1100)を4gと、これらに有機溶媒であるNMP(三菱化学社製)36gを加えて混合させた溶液を用いて、固形分濃度が55質量%となるように分散、混練させたこと、加熱を室温から20分かけて150℃まで加熱し、150℃で10分間保持したこと以外は、全て実施例8と同様にして比較例4の正極板を得た。なお、マイクロメーターを用いて電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、45μmであった。
【0179】
(IRによる半値半幅の測定)
各実施例、比較例の正極板における正極活物質層の表面を、SPECTRA TECH社製IRμsを用い、測定モード:μ−ATR、ATR結晶:Ge、分解能:4cm-1、積算数:128回、測定波数領域650cm-1〜4000cm-1の条件にて測定し、980〜1100cm-1現れるピークの半値半幅の測定をGaussian fittingにより行った。測定結果は、980〜1100cm-1にSi−Oの結合のピークが現れるとともに、当該ピークの半値半幅が、30cm-1以上90cm-1以下の範囲内である場合を○とし、当該範囲外である場合を×とした。測定結果を表1に示す。なお、参考として、実施例1の上記半値半幅の測定における赤外吸収スペクトルのチャートを図6Aに、また、実施例1の製造工程中、電極活物質層形成液を塗布した後であって加熱工程前の赤外吸収スペクトルのチャートを図6Bに示す。また、実施例13の上記半値半幅の測定における赤外吸収スペクトルのチャートを図7に、比較例3の上記半値半幅の測定における赤外吸収スペクトルのチャートを図8に示す。
【0180】
図6Bに示すチャートより、1080cm-1にシランカップリング剤である3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランのピークが確認された。図6Aに示すチャートより、熱分解以上の温度で加熱されることで形成された結着物質中には、991cm-1にSi−O結合のピークが確認されたが、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランのピークは確認されなかった。また、図7に示すチャートより、990cm-1にSi−O結合のピークが確認された。また、図8に示すチャートより、1056.2cm-1にSiのピークが確認され、1102cm-1にシランカップリング剤である3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのピークが確認されたが、Si−O結合のピークが確認されなかった。
【0181】
(X線回折)
X線回折装置を用い、各実施例、比較例における電極活物質層に含まれる金属酸化物を分析した。分析結果を表1の結着物質の欄に示す。なお、実施例1〜5の電極活物質粒子と、結着物質に含まれる金属酸化物はいずれもマンガン酸リチウムであり同一の物質であるが、このマンガン酸リチウムが結着物質に含まれていることは、後述するTEM−EDXによる金属元素の確認によって特定することができる。
【0182】
(X線光電子分光法による分析)
また、各実施例、及び比較例における電極活物質層について、X線光電子分光法による分析(XPS組成分析)を行った。XPS組成分析装置としては、ESCA3400(株式会社島津製作所製)を用いた。この分析結果から、全ての実施例において、電極活物質層にケイ素元素が存在していることが確認された。
【0183】
(TEM−EDXによるケイ素元素、金属元素、酸素の確認)
各実施例、及び比較例について、各々の電極活物質層を、TEM−EDX(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)手法によりケイ素、金属元素、及び酸素をマッピングした。その結果、全ての実施例において、ケイ素元素が、金属元素と同じ箇所に存在していることが確認された。
【0184】
参考として、図9、図10に、実施例1のマッピング・データを示す。図9は、集電体と電極活物質粒子とを固着せしめる結着物質の存在を示すマッピング・データであり、図9(a)は、ケイ素の存在を確認するためのマッピング・データであり、図9(b)は、酸素の存在を確認するためのマッピング・データであり、図9(c)は、金属元素の存在を確認するためのマッピング・データである。図10は、電極活物質粒子同士を固着せしめる結着物質の存在を示すマッピング・データであり、図10(a)は、ケイ素の存在を確認するためのマッピング・データであり、図10(b)は、酸素の存在を確認するためのマッピング・データであり、図10(c)は、金属元素の存在を確認するためのマッピング・データである。また、図9、図10中の符号Xは、集電体であり、符号Yは、電極活物質粒子であり、符号Zは、結着物質の存在を示す領域である。図9(a)、(b)及び、図10(a)、(b)のマッピング・データより、集電体と電極活物質粒子とを固着している箇所、及び電極活物質粒子同士を固着している箇所に、ケイ素、酸素の存在が確認された。また、図9(c)、図10(c)のマッピング・データからもわかるように、電極活物質粒子Y、及び集電体と電極活物質粒子とを固着している箇所及び、電極活物質粒子同士を固着している箇所、すなわちケイ素と同じ箇所に、マンガンの存在が確認された。
【0185】
TEM−EDX(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)手法によるケイ素、酸素、及び金属元素の確認と、上記のX線回折によって確認された金属酸化物によって、ケイ素元素と同じ箇所に存在する金属元素は、金属酸化物を構成する金属元素であると同定できる。つまり、全ての実施例で、集電体と電極活物質粒子、及び電極活物質粒子同士はケイ素元素及び金属酸化物によって固着されていることが確認できた。一方、比較例1、2ではケイ素元素含有化合物が用いられていないことからケイ素元素の存在が確認されなかった。また、比較例4では、金属元素含有化合物にかえてPVdFが用いられており、PVdFの成分である炭素、酸素、フッ素と同じ箇所にケイ素元素の存在が確認された。なお、比較例3では、金属元素と、ケイ素の存在は確認できるが、上記IRによって金属酸化物の存在が確認できなかったことより、ケイ素元素と同じ箇所に金属酸化物が存在していないことがわかる。
【0186】
(膜形成性の確認)
上記実施例および比較例において、不具合なく電極板を円板上にくり抜く加工ができた場合には、電極活物質層の膜形成性が良好であると評価した。一方、上記くり抜き加工において電極活物質層の一部が剥がれ、あるいは活物質粒子が集電体上から落下するなどして、加工が不良であり、後述する三極式コインセルの作用極として使用に耐える円板が形成されなかった場合には、電極活物質層の膜形成性が不良であると評価する。上記膜形成性について表2に示す。
【0187】
(密着力の評価)
以下のとおり密着性試験を実施し、集電体に対し電極活物質層の剥離性について測定し、以下のとおり評価した。セロハンテープ(ニチバン社製、CT−15)を、実施例1〜13及び比較例1〜4の正極板の電極活物質層表面に貼り、次いで剥がしとった際、セロハンテープ側に電極活物質層の転写量が30%未満であった場合に○、30%以上〜90%未満であった場合に△、90〜100%であった場合に×とした。なお、%はセロハンテープに占める転写された膜の面積を示す。密着力の評価結果を表2に併せて示す。
【0188】
(曲げ試験)
曲げ試験機(有限会社SEPRO)の軸の径20mmを用いて、実施例1〜13及び比較例1〜4の正極板の電極活物質層の膜強度を測定し、曲げた時に膜にクラックが入らなかったものを○、クラックが1本〜2本入ったものを△、クラックが3本以上入ったものを×とした。曲げ試験の評価結果を、表1に併せて示す。
【0189】
(電池特性評価)
<三極式コインセルの作製>
エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)混合溶媒(体積比=1:1)に、溶質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を加えて、当該溶質であるLiPF6の濃度が、1mol/Lとなるように濃度調整して、非水電解液を調製した。正極板として上述のとおり作製した実施例1〜5および比較例1を作用極として用い、対極板及び参照極板として金属リチウム板、非水電解液として上記にて作製した非水電解液を用い、三極式コインセルを組み立て、下記充放電試験およびサイクル試験に供した。
【0190】
(初期充電試験)
試験セルを、25℃の環境下で、電圧が4.3Vに達するまで定電流(1300μA)で定電流充電し、当該電圧が4.3Vに達した後は、電圧が4.3Vを上回らないように、当該電流(放電レート:1C)が5%以下となるまで減らしていき、定電圧で充電を行
ない、満充電させた後、10分間休止させた。尚、ここで、上記「1C」とは、上記三極式コインセルを用いて定電流放電して、1時間で放電終了となる電流値(放電終止電圧に達する電流値)のことを意味する。
【0191】
(初期放電試験)
その後、満充電された試験セルを、25℃の環境下で、電圧が4.3V(満充電電圧)から3.0V(放電終止電圧)になるまで、定電流(1300μA)(放電レート:1C)で定電流放電し、縦軸にセル電圧(V)、横軸に放電時間(h)をとり、放電曲線を作成し、正極用電極板の初期放電容量(μAh)を求めた。
【0192】
(初期充放電効率の算出)
初期充放電効率%={(初期充電容量)÷(初期放電容量)]×100より算出した上記
実施例および比較例の結果を表2に示す。
【0193】
(サイクル試験)
上記初期充放電試験後の試験セルを上記初期充放電試験と同様に、さらに2回行い、この時の放電容量の平均値をサイクル試験時の初期値とし、上記初期充放電試験と同様の充放電試験を繰り返し、放電容量が初期値に対して95%以下になったときのサイクル数を表2に示す。
【0194】
【表1】

【0195】
【表2】

【0196】
表1、表2からも明らかなように、集電体と電極活物質粒子、及び電極活物質粒子同士を、金属酸化物とケイ素を含む結着物質によって固着せしめるか、集電体と電極活物質粒子、及び電極活物質粒子同士を、金属酸化物を含む結着物質によって固着せしめるとともに、電極活物質層の赤外吸収スペクトルを測定したときに得られるSi−O結合の980〜1100cm-1に現れるピークの半値半幅が、30〜230cm-1である実施例の電極板は、本発明の条件を充足しない電極板を備える各比較例と比較して、膜形成性、密着力、曲げ試験の全てにおいて優れた効果を発揮していることが確認できた。特に、電極活物質層の赤外吸収スペクトルを測定したときに得られるSi−O結合の1000〜1100cm-1に現れるピークの半値半幅が、30〜90cm-1である実施例の電極板は、優れた密着力を発揮していることが確認できた。また、初期充放電効率、サイクル特性についても向上していることが確認できた。
【0197】
一方、結着物質にケイ素、あるいはケイ素化合物を含まず、半値半幅も本願の範囲に含まれない比較例1、2、及び結着物質に金属酸化物を含まない比較例3、4の電極板は、膜形成性、密着力、曲げ試験の全てにおいて、実施例の電極板に劣る結果となった。また、サイクル数についても実施例の電極板に劣る結果となった。
【符号の説明】
【0198】
1・・・正極集電体
2・・・正極活物質層
10・・・正極板
32・・・正極端子
33・・・負極端子
34・・・保護回路基板
35・・・外部接続コネクタ
36a、36b・・・樹脂容器
37・・・端部ケース
38a、38b・・・外部接続窓
54・・・負極活物質層
55・・・負極集電体
70・・・セパレータ
81、82・・・外装
90・・・非水電解液
100・・・非水電解液二次電池
200・・・電池パック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、前記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用電極板であって、
前記電極活物質層は、
電極活物質粒子と結着物質を含有しており、
前記電極活物質粒子と前記集電体、および前記電極活物質粒子同士は、前記結着物質によって固着されており、
前記結着物質が、金属酸化物とケイ素を含むことを特徴とする非水電解液二次電池用電極板。
【請求項2】
集電体と、前記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用電極板であって、
前記電極活物質層は、
電極活物質粒子と結着物質を含有しており、
前記電極活物質粒子と前記集電体、および前記電極活物質粒子同士は、前記結着物質によって固着されており、
前記結着物質は、金属酸化物を含み、
前記電極活物質層の赤外吸収スペクトルを測定したときに得られるSi−O結合の980〜1100cm-1に現れるピークの半値半幅が、30〜230cm-1であることを特徴とする非水電解液二次電池用電極板。
【請求項3】
前記電極活物質層の赤外吸収スペクトルを測定したときに得られるSi−O結合の1000〜1100cm-1に現れるピークの半値半幅が、30〜90cm-1であることを特徴とする請求項2に記載の非水電解液二次電池用電極板。
【請求項4】
電極板と、セパレータと、非水電解液と、を少なくとも備える非水電解液二次電池であって、
前記電極板は、集電体と、前記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層を備え、
前記電極活物質層は、電極活物質粒子と結着物質を含有しており、
前記電極活物質粒子と前記集電体、および前記電極活物質粒子同士は、前記結着物質によって固着されており、
前記結着物質が、金属酸化物とケイ素を含むことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項5】
電極板と、セパレータと、非水電解液と、を少なくとも備える非水電解液二次電池であって、
前記電極板は、集電体と、前記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層を備え、
前記電極活物質層は、電極活物質粒子と結着物質を含有しており、
前記電極活物質粒子と前記集電体、および前記電極活物質粒子同士は、前記結着物質によって固着されており、
前記結着物質は、金属酸化物を含み、
前記電極活物質層の赤外吸収スペクトルを測定したときに得られるSi−O結合の980〜1100cm-1に現れるピークの半値半幅が、30〜230cm-1であることを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項6】
前記電極活物質層の赤外吸収スペクトルを測定したときに得られるSi−O結合の1000〜1100cm-1に現れるピークの半値半幅が、30〜90cm-1であることを特徴とする請求項5に記載の非水電解液二次電池。
【請求項7】
収納ケースと、正極端子および負極端子を備える非水電解液二次電池と、過充電および過放電保護機能を有する保護回路とを少なくとも備え、前記収納ケースに非水電解液二次電池および前記保護回路が収納されて構成される電池パックであって、
前記非水電解液二次電池は、電極板と、セパレータと、非水電解液と、を少なくとも備え、
前記電極板は、集電体と、前記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層を備え、
前記電極活物質層は、電極活物質粒子と結着物質を含有しており、
前記電極活物質粒子と前記集電体、および前記電極活物質粒子同士は、前記結着物質によって固着されており、
前記結着物質が、金属酸化物とケイ素を含むことを特徴とする電池パック。
【請求項8】
収納ケースと、正極端子および負極端子を備える非水電解液二次電池と、過充電および過放電保護機能を有する保護回路とを少なくとも備え、前記収納ケースに非水電解液二次電池および前記保護回路が収納されて構成される電池パックであって、
前記非水電解液二次電池は、電極板と、セパレータと、非水電解液と、を少なくとも備え、
前記電極板は、集電体と、前記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層を備え、
前記電極活物質層は、電極活物質粒子と結着物質を含有しており、
前記電極活物質粒子と前記集電体、および前記電極活物質粒子同士は、前記結着物質によって固着されており、
前記結着物質は、金属酸化物を含み、
前記電極活物質層の赤外吸収スペクトルを測定したときに得られるSi−O結合の980〜1100cm-1に現れるピークの半値半幅が、30〜230cm-1であることを特徴とする電池パック。
【請求項9】
前記電極活物質層の赤外吸収スペクトルを測定したときに得られるSi−O結合の1000〜1100cm-1に現れるピークの半値半幅が、30〜90cm-1であることを特徴とする請求項8に記載の電池パック。
【請求項10】
電極活物質粒子と、金属元素含有化合物と、ケイ素元素含有化合物と、が含有される電極活物質層形成液を、集電体上の少なくとも一部に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、
前記塗膜を、前記金属元素含有化合物及び、ケイ素元素含有化合物が熱分解する温度以上で加熱する加熱工程と、
を含むことを特徴とする非水電解液二次電池用電極板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−109237(P2012−109237A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234387(P2011−234387)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】