説明

非水電解液二次電池

【課題】安全性を確保しつつ高率放電特性を向上させることができる非水電解液二次電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池は、外装体のラミネートフィルム内に、積層電極群10が封入されている。積層電極群10は、正極板14と負極板15とが交互に積層されている。正極板14は、アルミニウム箔W1の両面に、正極活物質のリチウムマンガン複酸化物を含む正極合剤層W2が形成されている。正極合剤層W2には、正極活物質以外に、導電剤の炭素材および難燃化剤のホスファゼン化合物が均等となるように分散混合されている。難燃化剤の質量に対する導電剤の質量比が1.3以上に調整されている。負極板15は、圧延銅箔の両面に、負極活物質を含む負極合剤層が形成されている。導電剤により正極板14の電子伝導性が確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池に係り、特に、正極合剤層を有する正極板と、負極活物質を含む負極合剤層を有する負極板とを備え設計容量が5Ah以上の非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池は、高電圧・高エネルギー密度であり、かつ、貯蔵性能や低温作動性能に優れるため、広く民生用の携帯型電気製品に使用されている。また、携帯用の小型電源に止まらず、電気自動車用の電源や家庭用の夜間電力貯蔵装置、さらには、太陽光や風力などの自然エネルギーの有効活用、電力使用の平準化、無停電電源装置(UPS)および建設機械に用いる産業用の電源についても開発が展開されている。換言すれば、携帯用の電源では容量が数Ahのオーダーであるのに対して、電気自動車用の電源では10Ah程度の容量、産業機器の駆動用、通信バックアップ用、太陽光や風力による発電装置の蓄電用の電源では数10Ah〜100Ah以上の容量が要求され、電池の大容量化が図られている。
【0003】
一方、電池特性の中でも重要な特性の1つに高率放電特性、すなわち、大電流での放電特性がある。通常、大電流で放電した場合は、小電流で放電した場合と比べて電圧降下が大きくなるため、大電流放電時の容量が小電流放電時の容量より小さくなる。このような高率放電特性は、電池の使用用途によっても要求度が異なっている。例えば、非常用電源の中でも、携帯電話の無線基地局での用途では要求度が小さいものの、無停電電源装置の用途では重要な性能の1つとなる。
【0004】
また、一般に、非水電解液二次電池の電解液に含まれる有機物は可燃性のため、短絡時の発熱のような異常な高温環境下において、電解液が燃焼することがあり安全性の問題がある。また、電池温度の上昇時、特に充電状態のときは、正極に用いられる化合物が酸素を放出して分解するため、燃焼を促進する。燃焼により電池温度が上昇し、さらに燃焼反応が加速されている状態を熱暴走状態と呼称することがある。この熱暴走状態では、電池から連続的に発煙が観察される。さらに激しい状態になると、電池が発火することがあり、急激な内圧上昇により電池容器が破裂するおそれもある。一方、上述したように、電池を大容量化すると、発熱量が大きくなるのに対して、電池の表面積は比較的大きくならない。電池からの放熱は表面積に比例するため、電池容量が大きくなると、発熱したときの放熱速度が遅くなり、必然的に電池内での蓄熱が大きくなる。結果として、電池の温度上昇速度が大容量化に伴い増加するため、大容量の電池では、携帯用の小型電源では現れないような安全上の問題が浮上する。換言すれば、携帯用の小型電池について過充電や釘刺し試験等により安全性が確認されていても、全く同じ材料で作製した大容量の電池について同じ試験をした場合は、発火や破裂のような質的に異なった深刻な安全上の問題にいたることがある。
【0005】
電池の安全性を確保するために種々の安全化技術が提案されている。例えば、非水電解液の燃焼を抑制するために、非水電解液に難燃化剤(不燃性付与物質)を添加する技術については多数の文献に開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、本出願人らは、正負極の合剤に固体難燃化剤を混合する技術を開示している(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−286571号公報
【特許文献2】特開2009−016106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の技術は、難燃化剤を含有させた非水電解液を難燃化(不燃化)する技術であり、含有させる難燃化剤の量により非水電解液に難燃性(不燃性)を付与することも可能となる。一般に、非水電解液に難燃化剤を添加すると、非水電解液中でのイオン伝導が不十分となり出力や高率放電特性を低下させる。一方、特許文献2の技術でもまた、正負極の合剤に難燃化剤が混合されたことで安全性は向上するものの、高率放電特性の低下を招く可能性がある。ところが、上述したように、電池の大容量化に伴い安全性が低下する傾向にある。これを抑制するためには、難燃化剤の混合量を増加する必要が生じる。結果として、高率放電特性がますます低下してしまう、という問題が生じる。従って、安全性を確保することはもちろん、高率放電特性の低下を抑制することができれば、非水電解液電池の用途拡大ないし普及に期待することができる。
【0008】
本発明者らは、正負極の合剤に難燃化剤を混合した場合に高率放電特性が低下する機構について鋭意検討を重ねた。その結果、本来絶縁性を有する難燃化剤が正負極合剤に混合されたことで正極の電子伝導性が妨げられること、および、正負極の電子伝導性低下が高率放電特性低下の主な原因であることを見出した。
【0009】
本発明は上記事案に鑑み、安全性を確保しつつ高率放電特性を向上させることができる非水電解液二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、正極合剤層を有する正極板と、負極活物質を含む負極合剤層を有する負極板とを備え設計容量が5Ah以上の非水電解液二次電池において、前記正極合剤層は、正極活物質と、難燃化剤と、導電剤と、結着剤とを含み分散混合されて形成されたものであり、前記難燃化剤の質量に対する前記導電剤の質量の比が1.3以上であることを特徴とする。
【0011】
この場合において、正極合剤層には、難燃化剤が正極活物質に対して2.5質量%〜7.5質量%の範囲で分散混合されていてもよい。このとき、正極合剤層に細孔が形成されており、細孔の孔径の最頻値が0.8μm〜1.6μmの範囲であることが好ましい。また、難燃化剤を常温で固体の環状ホスファゼン化合物とすることができる。導電剤が炭素材を含むようにしてもよい。正極活物質がスピネル結晶構造を有するリチウムマンガン複酸化物を含むようにしてもよい。このとき、正極活物質の平均二次粒子径を20μm以上とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、正極合剤層に難燃化剤が分散混合されたことで、電池異常で温度上昇したときに難燃化剤が電池構成材料の燃焼を抑制すると共に、正極合剤層に分散混合された導電剤を、難燃化剤の質量に対する導電剤の質量の比で1.3以上としたことで、正極合剤層に低導電性ないし不導電性の難燃化剤が分散混合されていても充放電による電子伝導性が確保されるため、高率放電時でも5Ah以上の設計容量に対する放電容量の低下を抑制することができる、という効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用可能な実施形態の外装体にラミネートフィルムを使用したリチウムイオン二次電池の斜視図である。
【図2】実施形態のリチウムイオン二次電池の電極群を示す断面図である。
【図3】実施例1のリチウムイオン二次電池において、正極合剤に混合した固体難燃化剤に対する導電剤の質量比と、0.2C放電時に対する5.0C放電時の放電容量比との関係を示すグラフである。
【図4】実施例2のリチウムイオン二次電池において、正極合剤に混合した固体難燃化剤に対する導電剤の質量比と、0.2C放電時に対する5.0C放電時の放電容量比との関係を示すグラフである。
【図5】実施例3のリチウムイオン二次電池において、正極合剤に混合した固体難燃化剤に対する導電剤の質量比と、0.2C放電時に対する5.0C放電時の放電容量比との関係を示すグラフである。
【図6】実施例4のリチウムイオン二次電池において、正極合剤の細孔径の最頻値と、0.2C放電時に対する5.0C放電時の放電容量比との関係を示すグラフである。
【図7】リチウムイオン二次電池の設計容量と、釘刺し試験における最高到達温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明を適用したリチウムイオン二次電池の実施の形態について説明する。
【0015】
(構成)
本実施形態のリチウムイオン二次電池20は、図1に示すように、外装体に4辺を有する矩形状のラミネートフィルム2が使用されている。ラミネートフィルム2内には、積層電極群が封入されている。リチウムイオン二次電池20を平板上に載置したときに、積層電極群の上側に位置するラミネートフィルム2は凸状に、下側に位置するラミネートフィルム2は略平坦状にそれぞれ形成されている。ラミネートフィルム2の辺縁部の4辺は熱溶着で封止されており、リチウムイオン二次電池20は密閉構造とされている。ラミネートフィルム2の辺縁部の対向する2辺には、正極端子4および負極端子5がそれぞれ先端部を互いに反対方向外側に突出させて、ラミネートフィルム2の熱溶着部に挟み込まれている。
【0016】
ラミネートフィルム2には、基材として厚さ40μmのアルミニウム箔が用いられている。アルミニウム箔は、一面に絶縁保護用の厚さ25μmのナイロン製フィルムが、他面に厚さ80μmの熱溶着樹脂のポリプロピレン製フィルムが積層されている。ラミネートフィルム2は、ナイロン製フィルム、アルミニウム箔、ポリプロピレン製フィルムの順に接着剤を介して積層されプレス加工されており、3層構造を有している。
【0017】
正極端子4にはアルミニウム板が使用されており、アルミニウム板の外周にはシールテープとして厚さ100μm、幅10mmのポリプロピレン製テープが貼り付けられている。負極端子5にはニッケル板が使用されており、ニッケル板の外周にはシールテープとして厚さ100μm、幅10mmのポリプロピレン製テープが貼り付けられている。正極端子4および負極端子5の周囲には、熱溶着時に軟化したラミネートフィルム2のポリプロピレン樹脂が隙間なく密着している。
【0018】
図2に示すように、ラミネートフィルム2内に封入される積層電極群10は、10枚の正極板14と11枚の負極板15とが、積層電極群10の上下両端が負極板15となるように交互に積層されている。正極板14は、厚さ40μmで矩形状のポリエチレン製フィルムの3辺が熱溶着で袋状に加工されたセパレータ12に1枚ずつ挿入されている。このため、各正極板14および負極板15間にはセパレータ12が介在している。また、積層電極群10の対向する2辺のうち1辺には図示を省略した正極リード片が位置し、他辺には図示しない負極リード片が位置するように積層されている。正極リード片および負極リード片はそれぞれ集合させて正極端子4および負極端子5にそれぞれ超音波溶接で接合されている。
【0019】
積層電極群10を構成する正極板14は、正極集電体としてアルミニウム箔W1を有している。アルミニウム箔W1の厚さは、本例では、20μmに設定されている。アルミニウム箔W1の両面には、正極活物質としてリチウムマンガン複酸化物を含む正極合剤が塗着され正極合剤層W2が形成されている。リチウムマンガン複酸化物には、本例では、スピネル結晶構造を有するマンガン酸リチウム粉末が用いられている。正極合剤層W2には、正極活物質以外に、導電剤として炭素材、バインダ(結着剤)としてポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略記する。)および難燃化剤として粉末状(固体)のホスファゼン化合物が均等となるように分散混合されている。導電剤として、本例では、グラファイト粉末とアセチレンブラック粉末とが用いられている。
【0020】
ここで、正極活物質および導電剤の粒子径について説明する。本例の正極活物質であるマンガン酸リチウム粉末は、一次粒子が凝集した二次粒子を形成している。マンガン酸リチウムとしては、平均二次粒子径が20μm以上のものを用いることができるが、本例では平均二次粒子径25μmのものが使用されている。平均二次粒子径が20μm以上の粒子は、例えば、分級することで得られるが、従来用いられるマンガン酸リチウムの中でも大粒径のものである。平均二次粒子径が20μm以上のものでは、20μm未満のものと比較して粒子の体積に対する表面積が小さくなり、導電剤の量を少なくしても電気抵抗を小さくすることができる。本例のように、正極合剤に絶縁性を有する難燃化剤を混合する場合は、導電性を補う点で有利となる。
【0021】
正極合剤層W2に分散混合される正極活物質の量は、得られるリチウムイオン二次電池20の設計容量により調整される。例えば、下表1に示すように、設計容量が10Ahの場合は、正極活物質を130g分散混合させればよい。また、難燃化剤であるホスファゼン化合物の量は、正極活物質の質量に対して、2.5〜7.5質量%(wt%)となるように調整する。導電剤である炭素材の量(グラファイトとアセチレンブラックとの合計)は、ホスファゼン化合物の質量に対して、1.3倍以上となるように調整する。つまり、難燃化剤の質量に対する導電剤の質量比が1.3以上となる。なお、表1では、正極活物質として上述したマンガン酸リチウムを用いた場合について、難燃化剤量を正極活物質の質量に対して5wt%とし、導電剤量を難燃化剤量に対して1.5倍としたときの数値を設計容量とともに示している。
【0022】
【表1】

【0023】
アルミニウム箔W1に正極合剤を塗着するときには、分散溶媒のN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記する。)で粘度調整されスラリが調製される。難燃化剤は、スラリ中に略均等に分散しており、正極合剤層W2に一体化されてアルミニウム箔W1に塗着されている。正極板14は、正極合剤塗布後、乾燥、プレス、裁断することで矩形状に形成されている。なお、正極集電体の1辺には、アルミニウム製で帯状の正極リード片が超音波溶接で接合されている。
【0024】
ホスファゼン化合物は、一般式(NPRまたは(NPRで表される環状化合物である。一般式中のRは、フッ素や塩素等のハロゲン元素または一価の置換基を示している。一価の置換基としては、メトキシ基やエトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基やメチルフェノキシ基等のアリールオキシ基、メチル基やエチル基等のアルキル基、フェニル基やトリル基等のアリール基、メチルアミノ基等の置換型アミノ基を含むアミノ基、メチルチオ基やエチルチオ基等のアルキルチオ基、および、フェニルチオ基等のアリールチオ基を挙げることができる。
【0025】
作製された正極板14では、正極合剤層W2に細孔(正極合剤に含有される化合物粒子の間隙)が形成されている。細孔径の大きさは、プレス加工する際の荷重やプレスロール間の隙間(ギャップ)により調整することができる。細孔径は、例えば、水銀圧入法により多孔性固体の細孔分布を測定する水銀ポロシメータ(水銀細孔計)で測定することができる。細孔径の最頻値は、本例では、0.8〜1.6μmの範囲に調整されている。
【0026】
一方、負極板15は、負極集電体として圧延銅箔を有している。圧延銅箔の厚さは、本例では、10μmに設定されている。圧延銅箔の両面には、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵、放出可能な非晶質炭素粉末や黒鉛粉末等の炭素材料を含む負極合剤が塗着され負極合剤層が形成されている。負極合剤には、例えば、炭素材料の90質量部に対して、バインダとしてPVDFの10質量部が配合されている。圧延銅箔に負極合剤を塗着するときには、分散溶媒のNMPで粘度調整されスラリが調製される。負極板15は、負極合剤塗布後、乾燥、プレス、裁断することで矩形状に形成されている。なお、負極集電体の一辺には、銅製で帯状の負極リード片が超音波溶接で接合されている。
【0027】
(電池組立)
リチウムイオン二次電池20は、以下の手順で組立を完成させる。すなわち、積層電極群10の形状に合わせて凹部が形成されたシリコンゴム製の受け台に、ラミネートフィルム2、積層電極群10をこの順に受け台の凹部に合わせて載置する。凹部のラミネートフィルム2に非水電解液を注液後、別の1枚のラミネートフィルム2を被せて2枚のラミネートフィルム2の辺縁部同士を重ね合わせる。このとき、正極端子4および負極端子5の先端部がラミネートフィルム2の対向する2辺の辺縁部からそれぞれ反対方向外側に突出するように位置させる。積層電極群10に被せたラミネートフィルム2の上側にポリプロピレン製フィルムの溶融温度に加熱した金属板を減圧雰囲気下で押し当てることでラミネートフィルム2の辺縁部を熱溶着させる。非水電解液には、本例では、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比1:1の混合溶媒にリチウム塩(電解質)として6フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/リットル(1M)溶解させたものが用いられている。
【実施例】
【0028】
以下、本実施形態に従い作製したリチウムイオン二次電池20の実施例について説明する。なお、比較のために作製した比較例のリチウムイオン二次電池についても併記する。
【0029】
(実施例1)
実施例1では、正極合剤に配合するホスファゼン化合物の量を、正極活物質に対して2.5wt%に設定し、導電剤にグラファイト粉末(日本黒鉛工業株式会社製、商品名JSP、粒子径:約3μm)、アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、商品名HS、粒子径:48nm)の2種類を用いた。正極活物質の合計量が130gとなるように電極の積層枚数を調整することで電池の設計容量を10Ahとした(表1も参照)。ホスファゼン化合物の量に対する導電剤の量を変えることで、5種類のリチウムイオン二次電池20を作製した。導電剤/ホスファゼン化合物の質量比は、1.0、1.1、1.3、1.5、1.7に設定した。
【0030】
5種類のリチウムイオン二次電池20について、高率放電特性を評価した。すなわち、各リチウムイオン二次電池を初充電した後、0.2C、5Cの放電率(放電率nCは総容量を1/n時間で放電する時の電流値を示す。)を変えて放電し放電容量を測定した。各放電率での電流値は、それぞれ、2A、50Aである。0.2C放電時の放電容量に対する5C放電時の放電容量の比を算出し高率放電特性の目安とした。
【0031】
図3に示すように、導電剤/固体難燃化剤の質量比の増加に伴い、高率放電特性、つまり、5C/0.2C容量比が増加することが判った。また、導電剤/固体難燃化剤質量比を1.3〜1.7の範囲とすることで、容量比が概ね90%以上の高率放電特性を得ることができることが明らかとなった。換言すれば、ホスファゼン化合物の量を正極活物質に対して2.5wt%に設定したことから、導電剤を3.25〜4.25wt%の範囲で配合すれば、良好な高率放電特性が維持されることとなる。
【0032】
(実施例2)
実施例2では、正極合剤に配合するホスファゼン化合物の量を、正極活物質に対して5wt%に設定したこと以外は実施例1と同様にして、5種類のリチウムイオン二次電池20を作製した。
【0033】
5種類のリチウムイオン二次電池20について、実施例1の評価と同様にして、高率放電特性を評価した。図4に示すように、導電剤/固体難燃化剤の質量比の増加に伴い、高率放電特性、つまり、5C/0.2C容量比が増加することが判った。また、導電剤/固体難燃化剤質量比を1.3〜1.7の範囲とすることで、容量比が80%以上の高率放電特性を得ることができることが明らかとなった。換言すれば、ホスファゼン化合物の量を正極活物質に対して5wt%に設定したことから、導電剤を6.5〜8.5wt%の範囲で配合すれば、良好な高率放電特性が維持されることとなる。
【0034】
(実施例3)
実施例3では、正極合剤に配合するホスファゼン化合物の量を、正極活物質に対して7.5wt%に設定したこと以外は実施例1と同様にして、5種類のリチウムイオン二次電池20を作製した。
【0035】
5種類のリチウムイオン二次電池20について、実施例1の評価と同様にして、高率放電特性を評価した。図5に示すように、導電剤/固体難燃化剤の質量比の増加に伴い、高率放電特性、つまり、5C/0.2C容量比が増加することが判った。また、導電剤/固体難燃化剤質量比を1.3〜1.7の範囲とすることで、容量比が概ね80%以上の高率放電特性を得ることができることが明らかとなった。換言すれば、ホスファゼン化合物の量を正極活物質に対して7.5wt%に設定したことから、導電剤を9.75〜12.75wt%の範囲で配合すれば、良好な高率放電特性が維持されることとなる。
【0036】
(実施例4)
実施例4では、正極合剤層W2における細孔径の最頻値を変えたときの高率放電特性を評価した。正極合剤に配合するホスファゼン化合物の量を正極活物質に対して5wt%に設定した。導電剤/ホスファゼン化合物の質量比を1.5に調整した場合、つまり、本実施形態で示した1.3以上に調整した場合について、細孔径の最頻値が、0.9、1.0、1.1、1.6μmとなるようにプレス圧を変えてそれぞれ正極板14を作製し、リチウムイオン二次電池20を作製した。また、導電剤/ホスファゼン化合物の質量比が本実施形態の範囲外である1.1に調整した場合について、細孔径の最頻値が、0.8、1.1、1.4、1.6μmとなるようにプレス圧を変えてそれぞれ正極板を作製し、リチウムイオン二次電池を作製した。細孔の最頻値は、水銀ポロシメータ(株式会社島津製作所製、オートポアIV9520)を用い測定したものである。
【0037】
得られた各リチウムイオン二次電池について、実施例1の評価と同様にして、0.2C放電時の放電容量に対する5C放電時の放電容量の比を算出した。図6に示すように、導電剤の量が難燃化剤の量に対して少ない場合(図の白丸)は、容量比が60%以上を示す細孔径の範囲が1.1〜1.6μmの範囲であった。これに対して、導電剤量を本実施形態の範囲とした場合(図の黒丸)は、容量比が大きくなり、高率放電特性の向上が認められた。さらに、容量比が80%以上を示す細孔径の範囲が0.9〜1.6μmの範囲となり、広範囲の細孔径で優れた高率放電特性を示すことが明らかとなった。
【0038】
実施例4の結果から、正極合剤層W2における細孔径の最頻値に着目すると、リチウムイオン二次電池20の安全性と高率放電特性との関係について、以下のことが考えられる。すなわち、電極の電子伝導性を向上させるためには、合剤層における細孔径を小さくし、活物質や導電材の接触性を高めることで電子の導電パスを増加させる、という方法もある。しかしながら、細孔径を小さくすると、リチウムイオンの移動性の点で不利になるだけではなく、細孔径を精密に制御するために電極作製時の塗工やプレスの精度を高める必要がある。ところが、大面積の電極全体にわたり塗工やプレスを均一に制御することは製造上難しくなる。一方、作製後の電極においても、経過時間とともに弾性的に細孔が拡径することがある。さらには、電解液中で膨張したり、充放電により膨張収縮したりすることで細孔径が変化することもある。このため、細孔径の違いによりリチウムイオンや電子の移動性が影響されることから、安定した電池特性を得ることが難しくなる。これに対し本実施形態に従い作製した実施例4のリチウムイオン二次電池20では、上述したように、比較的広範囲の細孔径で優れた特性が得られた。従って、安全性と高率放電特性とに優れた大容量電池を安定して提供できることが明らかとなった。
【0039】
(作用等)
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池20の作用等について説明する。
【0040】
まず、正極合剤層W2に難燃化剤を分散混合することの安全性に対する効果に関し、電池の設計容量と、釘刺し試験時の電池表面最高到達温度との関係を評価した結果について説明する。この評価では、正極合剤に固体難燃化剤を混合しない場合、および、正極活物質に対して5質量%の固体難燃化剤を正極合剤に混合した場合のそれぞれについて、積層電極群をステンレス製の電池容器に収容すること以外は本実施形態と同様にして、設計容量が1、10、20、50、100Ahのリチウムイオン二次電池を作製した(表1も参照)。作製した各リチウムイオン二次電池を平台上に水平となるように載置し、電池の中央部に向けて電池上方から、直径5mmφのセラミック釘を1.6mm/sの釘刺し速度で釘刺し試験を行い、発煙、破裂および発火の様子を観察するとともに、電池表面の温度を測定した。
【0041】
図7に示すように、固体難燃化剤を配合していないリチウムイオン二次電池の場合(図7では黒丸で示す。)、設計容量が1Ah程度の電池では、釘刺し試験時の最高到達温度は30℃から50℃であった。また、設計容量が5Ah程度までであれば、最高到達温度が180℃より低く抑えられ、熱暴走を回避することができた。しかしながら、設計容量が5Ahを超えると、釘刺し試験において最高到達温度が180℃を超えて上昇し、発煙を伴う熱暴走を起こした。これは、リチウムイオン二次電池の大型化に伴い、単位体積に対する表面積の割合が小さくなり、釘刺し試験による発熱に対して放熱が追いつかなくなった結果、リチウムイオン二次電池内に蓄熱されるためと考えられる。さらに、設計容量が20Ahを超えると、最高到達温度は数百℃に達し、発煙だけではなく発火や電池容器の破裂が観察された。設計容量が100Ahになると、最高到達温度が1700℃以上となり、極めて危険な状態となった。
【0042】
これに対して、5wt%の固体難燃化剤を配合したリチウムイオン二次電池の場合(図7では白丸で示す。)、設計容量が100Ahの場合でも、最高到達温度が400℃以下に抑えられている。設計容量が100Ahのリチウムイオン二次電池では、熱暴走状態にいたったものの、発火や破裂は観察されず、発煙に止まった。また、設計容量が概ね50Ahまでであれば、熱暴走を起こさないことが判った。従って、正極合剤に固体難燃化剤を配合することで、電池異常時の挙動を穏やかにできることが明らかといえる。
【0043】
本実施形態では、正極合剤層W2に難燃化剤のホスファゼン化合物が均等となるように分散混合されている。このホスファゼン化合物は、電解液の燃焼の際に発生する活性種と反応し、連鎖反応を終止させる働きがあると推測される。このため、電池構成材料の燃焼を抑制するので、リチウムイオン二次電池20の安全性を確保することができる。
【0044】
また、本実施形態では、正極合剤層W2に難燃化剤の質量に対する質量比が1.3以上の導電剤が均等となるように分散混合されている。正極合剤層W2に分散混合されたホスファゼン化合物が低導電性ないし不導電性を有しているため、正極合剤層W2における導電性が低下することがあり、高率放電時の放電容量を低下させるおそれがある。これに対して、難燃化剤とともに導電剤が正極合剤層W2に難燃化剤の質量に対する導電剤の質量比が1.3以上の割合で混合されているため、充放電による電子伝導性が確保される。これにより、高率放電時でも放電容量の低下を抑制することができる。難燃化剤に対する導電剤の質量比が1.3に満たないと、導電性が不十分となり、高率放電時の放電容量を十分に確保することが難しくなる。反対に、質量比が1.7を超えると、高率放電特性の向上の程度が小さくなる。また、電池サイズが同じ場合を考えたときに、導電剤の量が多くなる分で相対的に正極活物質の量が制限されるため、電池容量を低下させることとなる。
【0045】
導電剤の混合量について、さらに付言すると、上述した各実施例では、難燃化剤の質量に対する導電剤の質量比を1.0〜1.7の範囲とした場合を示したが、質量比が1.7を超えても安全性と高率放電特性とをバランスよく確保することができる。換言すれば、導電剤の混合量を増加させると電池容量が低下するものの、用途やユーザーニーズにあわせた製品の電池容量、エネルギー密度および高率放電特性等の設計仕様により調整すればよい。また、導電剤が多すぎる場合は、正極合剤スラリの調製時に均一な分散状態で混練することが困難になる、等の問題が生じる可能性もあり、製造上の観点も考慮することが重要となる。
【0046】
更に、本実施形態では、正極合剤層W2に分散混合される難燃化剤の量が、正極活物質に対して2.5〜7.5wt%の範囲に調整されている。リチウムイオン二次電池の設計容量を大きくすると、正極活物質および電解液の量が増大するため(表1も参照)、電池異常時の発熱が大きくなる。一方、設計容量を大きくした場合は、電池の表面積が体積の増大分に比較して大きくならないため、放熱しにくくなり蓄熱にいたる。このため、難燃化剤の量が2.5wt%に満たないと、設計容量が5Ahを超えるようなリチウムイオン二次電池では、十分な難燃性能を得ることが難しくなる。反対に、難燃化剤の量が7.5wt%を超えると、電池サイズが同じ場合を考えたときに、難燃化剤の量が多くなる分で相対的に正極活物質の量が制限されるため、容量を低下させることとなる。
【0047】
また更に、本実施形態では、正極合剤層W2に形成された細孔径の最頻値が0.8〜1.6μmの範囲に調整されている。このため、正極の電子伝導性と充放電時のリチウムイオンの移動性が確保されるため、高率放電時でも、0.2C放電時の放電容量に対する5C放電時の放電容量の比が80%以上の高率放電特性を発揮することができる(実施例4参照)。
【0048】
以上説明したように、本実施形態のリチウムイオン二次電池20では、電池異常時の安全性を確保することができるとともに、高率放電時の放電容量の低下を抑制することができる。このようなリチウムイオン二次電池は、設計容量が5Ah以上の電池で機能を発揮することができる。さらには、数10Ah〜100Ahを超える容量を要求される、産業機器の駆動用、太陽光や風力等による発電装置の蓄電用等の電源に用いられる電池にも有効活用することが期待できる。
【0049】
なお、本実施形態では、難燃化剤として、リンおよび窒素を基本骨格とするホスファゼン化合物を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、難燃性や自己消化性を付与できるものであれば使用することができる。また、ホスファゼン化合物についても本実施形態で例示した化合物以外の化合物を用いることも可能である。導電剤としては、グラファイトとアセチレンブラックとを用いる例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。導電剤としては、炭素材を用いることができ、1種でもよく、2種以上を混合し用いるようにしてもよい。
【0050】
また、本実施形態では、正極活物質として、スピネル結晶構造を有するマンガン酸リチウムを例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。正極活物質としては、リチウムマンガン複酸化物であればよく、通常リチウムイオン二次電池に用いられるいずれのものも用いることができる。例えば、リチウムやマンガンの一部をそれら以外の元素で置換またはドープした材料を用いることもできる。また、本実施形態では、負極活物質として、非晶質炭素粉末や黒鉛粉末等の炭素材料を例示したが、本発明はこれに制限されるものではなく、その形状としても、球状、燐片状、繊維状、塊状等特に制限されるものではない。
【0051】
更に、本実施形態では、外装体にラミネートフィルムを使用したリチウムイオン二次電池20を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ラミネートフィルムに代えて、円筒状や角型状の電池缶に電極群を収容するようにしてもよい。また、本実施形態では、正極板4、負極板5を積層した電極群10を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、帯状の正極板、負極板を捲回した電極群としてもよい。更に、リチウムイオン二次電池以外に、非水電解液を用いる非水電解液二次電池に適用することも可能である。非水電解液の組成等についても特に制限されないことはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は安全性を確保しつつ高率放電特性を向上させることができる非水電解液二次電池を提供するものであるため、非水電解液二次電池の製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0053】
W2 正極合剤層
1 リチウムイオン二次電池(非水電解液二次電池)
10 積層電極群
14 正極板
15 負極板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極合剤層を有する正極板と、負極活物質を含む負極合剤層を有する負極板とを備え設計容量が5Ah以上の非水電解液二次電池において、前記正極合剤層は、正極活物質と、難燃化剤と、導電剤と、結着剤とを含み分散混合されて形成されたものであり、前記難燃化剤の質量に対する前記導電剤の質量の比が1.3以上であることを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記正極合剤層は、前記難燃化剤が前記正極活物質に対して2.5質量%〜7.5質量%の範囲で分散混合されていることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記正極合剤層には細孔が形成されており、前記細孔の孔径の最頻値が0.8μm〜1.6μmの範囲であることを特徴とする請求項2に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記難燃化剤は、常温で固体の環状ホスファゼン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
前記導電剤は、炭素材を含むことを特徴とする請求項4に記載の非水電解液二次電池。
【請求項6】
前記正極活物質は、スピネル結晶構造を有するリチウムマンガン複酸化物を含むことを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項7】
前記正極活物質は、平均二次粒子径が20μm以上であることを特徴とする請求項6に記載の非水電解液二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−54890(P2013−54890A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192037(P2011−192037)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(593063161)株式会社NTTファシリティーズ (475)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】