説明

非水電解液電池用セパレータ及び非水電解液電池

【課題】数十Cレートにおよぶ高電流密度において、良好な出力特性を示す非水電解液電池用セパレータを提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂と無機粒子とを含む微多孔膜からなる非水電解液電池用セパレータであって、
孔数が80個/μm以上であり、
前記熱可塑性樹脂の比誘電率と前記無機粒子の比誘電率の差が20以下である非水電解液電池用セパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液電池用セパレータ及び非水電解液電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池を中心とした非水電解液電池の開発が活発に行われている。通常、非水電解液電池には、微多孔膜(セパレータ)が正負極間に設けられている。このようなセパレータは、正負極間の直接的な接触を防ぎ、微多孔中に保持した電解液を通じイオンを透過させる機能を有する。
電池の新たな用途として、車載用途への展開が急速に拡大しつつある。車載用途においては、高出力、高容量、高電圧が求められており、非水電解液電池は、その電池の持つ特徴から最も有力視されている。特に、更なる高出力化への要望は強く、電池構成部材や電池構造に関して種々の検討がなされている。高出力化を達成する観点から、セパレータは、短時間における大量のイオンの移動を可能とすることが求められる。
【0003】
このような高出力化への要望に対して、例えば特許文献1には、イオン伝導性を高めたセパレータとして、主材料のポリオレフィンを熱収縮させることで無機粒子の周辺に均一な大きさの空隙を設けたセパレータが提案されている。特許文献2には、安全性と電気化学性能を改善したセパレータとして、誘電率定数が5以上である無機粒子とバインダーの混合物を、多孔性基材の表面又は空隙に塗布したセパレータが提案されている。特許文献3には、イオン伝導性を改良したセパレータとして、比誘電率が12以上である無機化合物を含有したセパレータが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−41604号公報
【特許文献2】特表2008−503049号公報
【特許文献3】特開2001−283811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3に記載されたセパレータはいずれも、電力密度が数Cレートにおける出力特性であり、数十Cレートにおける大電流放電では改良の余地を有するものである。
上記事情に鑑み、本発明は、数十Cレートにおよぶ高電流密度において、良好な出力特性を示す非水電解液電池用セパレータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、非水電解液電池の出力特性を向上させる手段として、セパレータの孔構造と骨格構造の両者を制御することで数十Cレートにおよぶ高電流密度における出力特性を改善し得る手段に着目した。
即ち、電池の高出力化には、セパレータの低抵抗化が有力な手段であることが知られており、孔構造の好適化、具体的には高気孔率化、大孔径化による低抵抗化が検討されている。また、骨格構造の好適化、具体的には高比誘電率の無機化合物を塗布又は含有させることで、電解質塩の解離を促進させ、イオン伝導性を向上させる改善がなされている。
しかしながら、これらの手段は電流密度が数Cレート程度における出力特性に関しては効果があるものの、数十Cレートにおよぶ高電流密度放電では異なる挙動を示し、良好な出力特性が得られない場合がある。
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、非水電解液電池用セパレータにおいて、単位面積当たりの孔数を特定範囲以上に調整すること、及び微多孔膜の骨格自体の電気的性質を制御することにより、高電流密度におけるイオンの移動を円滑にし、高電流密度での出力特性を向上させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]
熱可塑性樹脂と無機粒子とを含む微多孔膜からなる非水電解液電池用セパレータであって、
孔数が80個/μm以上であり、
前記熱可塑性樹脂の比誘電率と前記無機粒子の比誘電率の差が20以下である非水電解液電池用セパレータ。
[2]
前記熱可塑性樹脂の比誘電率と前記無機粒子の比誘電率の差が9以下である、上記[1]記載の非水電解液電池用セパレータ。
[3]
前記無機粒子の分散性指数が0.50以下である、上記[1]又は[2]記載の非水電解液電池用セパレータ。
[4]
前記熱可塑性樹脂はポリオレフィン樹脂である、上記[1]〜[3]のいずれか記載の非水電解液電池用セパレータ。
[5]
請求項1〜4のいずれか1項記載の非水電解液電池用セパレータと、正極板と、負極板と、非水電解液とを備える非水電解液電池であって、
出力密度が1000W/kg以上である、非水電解液電池。
[6]
前記正極板中の導電剤の含有量が8質量%以上である、上記[5]記載の非水電解液電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明の非水電解液電池用セパレータを用いた非水電解液電池は、高電流密度における良好な出力特性を確保し得る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」と略記する。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0010】
本実施の形態の非水電解液電池用セパレータ(以下、単に「セパレータ」とも略記される。)は、熱可塑性樹脂と無機粒子とを含む微多孔膜からなり、孔数が80個/μm以上であり、前記熱可塑性樹脂の比誘電率と前記無機粒子の比誘電率の差が20以下に調整されている。
【0011】
本実施の形態のセパレータは、熱可塑性樹脂と無機粒子とを含む樹脂組成物から形成される。本実施の形態において使用する熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、例えば、化学便覧基礎編改訂5版(日本化学会編、丸善、2003年)の710〜715頁記載の汎用プラスチックやエンジニアリングプラスチック等が挙げられる。また、14303の化学商品(化学工業日報社、2003年)の熱可塑性プラスチックの項(1019〜1075頁)記載の樹脂等が入手可能な樹脂として挙げられる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン、エチレンービニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ポリサルホン、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル等である。上記の中でも、結晶性を有する、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレンービニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール等の結晶性熱可塑性樹脂は、強度発現の観点から好適に用いることができる。
【0012】
また、耐溶剤性が高く、電気化学的にも安定である観点からは、ポリオレフィン樹脂を好適に用いることができる。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等のモノマーを重合して得られる重合体(ホモ重合体や共重合体、多段重合体等)が挙げられる。これら重合体は1種を単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0013】
また、前記ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(密度0.910〜0.930g/cm未満)、線状低密度ポリエチレン(密度0.910〜0.940g/cm未満)、中密度ポリエチレン(密度0.930〜0.942g/cm未満)、高密度ポリエチレン(密度0.942g/cm以上)、超高分子量ポリエチレン(密度0.910〜0.970g/cm未満)、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、ポリブテン、エチレンプロピレンラバー等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0014】
ここで、突刺強度を向上させる観点から、前記熱可塑性樹脂は高密度ポリエチレンを含むことが好ましい。高密度ポリエチレンが前記熱可塑性樹脂中に占める割合としては、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、上限としては、好ましくは100質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0015】
なお、前記樹脂組成物には、必要に応じて、フェノール系やリン系やイオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等の各種添加剤を混合してもよい。
【0016】
前記無機粒子としては、多孔構造を形成する熱可塑性樹脂との比誘電率の差が20以下であれば特に限定されず、例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア、マグネシア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物系セラミックス、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス、ガラス繊維等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。上記の中でも、大電流放電時における出力特性が良好となる観点から、酸化物系セラミックスが好ましく、シリカ、アルミナ、マグネシアがより好ましい。
【0017】
本実施の形態においては、数十Cレートにおよぶ高電流密度における出力特性を良好とするために、熱可塑性樹脂と無機粒子の比誘電率の差を20以下にする。高密度電流における出力特性がより良好となる観点から、比誘電率の差が9以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。下限としては、比誘電率の差が0.5以上であることが好ましい。
【0018】
通常、比誘電率の大きい物質がセパレータの骨格構造を形成している場合には、電解質塩の解離を促進し、イオンの解離度を向上させる傾向にある。そのため、電流密度3〜5Cレート程度における出力特性は優れる傾向にある。しかしながら、著しく比誘電率の大きい無機粒子(例えば、チタン酸バリウム等)を含む場合には、数十Cレートにおよぶ高電流密度における出力特性は、必ずしも良好になるとは限らない。セパレータを構成する熱可塑性樹脂と無機粒子の比誘電率の差が20以下と小さい場合には、セパレータ多孔内部において一様な解離度差を示すために、高速でイオンが移動する数十Cレートにおよぶ高電流密度での出力特性が良好になるものと推定される。
【0019】
前記無機粒子は、セパレータにおいて均一に分散していることが好ましい。特に、無機粒子がセパレータの厚さ方向に均一に分散している場合、セパレータの多孔内部において均一な解離度差を示すために、大電流放電時の出力特性が良好となる傾向にある。分散性の評価は後述する実施例における手法により分散性指数として定義される。分散性指数が、0.50以下の場合には、数十Cレートにおよぶ高電流密度における出力特性が良好となる傾向にあり、0.30以下の場合は、出力特性がさらに良好となる傾向にある。
【0020】
分散性指数を0.50以下にするための手段としては、例えば、溶融押出し工程において溶融物の冷却速度を制御することや、構成材料及びその比率により粘弾性挙動を制御することが一例として挙げられる。
【0021】
前記無機粒子が、セパレータ中に占める割合(総セパレータ質量に対する無機粒子の割合)としては、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、上限としては、通常70質量%以下、好ましくは60質量%以下である。当該割合を20質量%以上とすることは、高気孔率となりやすいため、出力特性向上の観点から好ましい。一方、当該割合を70質量%以下とすることは、均一に無機粒子を分散させる観点から好ましい。また、高延伸倍率における成膜性を向上させ、微多孔膜の突刺強度を向上させる観点からも好ましい。
【0022】
熱可塑性樹脂と無機粒子を含む微多孔膜、中でもセパレータとして好適なポリオレフィン微多孔膜の製法は複数開示されているが、大きくは、その原料から下記の(A)及び(B)の2種に大別される。
(A):ポリオレフィンと無機粒子を原料とした溶融製膜。
(B):ポリオレフィンと無機粒子と第3物質(後工程で抽出除去)を原料とした溶融製膜。
【0023】
前記(A)及び(B)に、更に延伸を組み合わせることで下記のように細分化される。
(A)−a:ポリオレフィンと無機粒子を溶融混錬した後、シート化。延伸により多孔化。
(B)−a:ポリオレフィンと無機粒子と第3物質を溶融混錬した後、シート化。第3物質を抽出(全て又は一部残留)することで多孔化。
(B)−b:ポリオレフィンと無機粒子と第3物質を溶融混錬した後、シート化。第3物質を抽出(全て又は一部残留)することで多孔化。次いで延伸により孔構造制御。
(B)−c:ポリオレフィンと無機粒子と第3物質を溶融混錬した後、シート化。延伸によりポリオレフィンと無機粒子及び第3物質の形態を制御。次いで第3物質を抽出(全て又は一部残留)することで多孔化。
【0024】
本実施の形態のセパレータの製法は、孔数を80個/μm以上に調整しやすくなる観点から(B)−cによる製法が好ましい。さらに高気孔率化により出力特性が向上する観点から、(B)−cの後に、更に延伸を実施する製法が好ましい。
【0025】
本実施の形態における熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂である場合、ポリオレフィン樹脂と無機粒子とを含むポリオレフィン微多孔膜からなる非水電解液電池用セパレータのより具体的な製造方法としては、例えば、下記(1)〜(4)の各工程を含む製造方法を用いることができる。
(1)ポリオレフィン樹脂及び無機粒子を含むポリオレフィン樹脂組成物と、可塑剤とを混練して所定の粘度指数を有する混練物を形成する混練工程、
(2)前記混練工程の後、前記混練物をシート状に変形し、所定の冷却速度にて冷却してシート状成形体に加工する成形工程、
(3)前記成形工程の後、前記シート状成形体を面倍率が20倍以上200倍以下で二軸延伸し、延伸物を形成する延伸工程、
(4)可塑剤を抽出して多孔体を形成する多孔体形成工程。
【0026】
前記(1)の工程で用いられる可塑剤としては、ポリオレフィン樹脂と混合した際にポリオレフィン樹脂の融点以上において均一溶液を形成しうる不揮発性溶媒であることが好ましい。また、常温において液体であることが好ましい。
【0027】
前記可塑剤としては、例えば、流動パラフィンやパラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジエチルヘキシルやフタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコールやステアリルアルコール等の高級アルコール類等が挙げられる。
【0028】
前記混錬物の粘度指数は、上限としては、0.40以下が好ましく、0.30以下がより好ましい。下限としては、0.1以上が好ましく、0.15以上がより好ましい。一般に、高分子溶融体の粘弾性挙動は非ニュートン流体として扱われる。そのせん断速度、せん断応力の関係は、下記式で示される「べき乗則」として知られている(参考資料、「押出成形 第7版」、29〜30頁、プラスチックス・エージ、1989年)。
τ=kγ
τ:せん断応力 γ:せん断速度 n:粘度指数 k:固有定数
粘度指数が0.40以下であれば、一度均一に分散した無機粒子の凝集が起こりにくく、固化する際も無機粒子が厚み方向に均一に分散した状態が維持される傾向にある。また冷却固化して得られたシート状成形体を延伸した際に、孔数を80個/μm以上に調整しやすくなる傾向にある。粘度指数が0.1以上であれば、吐出変動の少ない安定した押出成形が可能となる傾向にある。
【0029】
前記可塑剤が、前記混練物中に占める割合としては、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上であり、上限としては、好ましくは70質量%以下である。当該割合を70質量%以下とすることは、粘度指数を0.40以下に調整しやすくなる観点から好ましい。一方、当該割合を40質量%以上とすることは、成形性を確保する観点、及び、ポリオレフィンの結晶領域におけるラメラ晶を効率よく引き伸ばす観点から好ましい。ここで、ラメラ晶が効率よく引き伸ばされることは、ポリオレフィン鎖の切断が生じずにポリオレフィン鎖が効率よく引き伸ばされることを意味し、均一かつ微細な孔構造の形成や、ポリオレフィン微多孔膜の強度及び結晶化度の向上に寄与し得る。
【0030】
前記(2)の工程は、例えば、前記混練物をTダイ等を介してシート状に押し出し、ロール間で挟み込んで厚さ制御したシートを作成し、熱伝導体に接触させて冷却固化させる工程である。当該熱伝導体としては、金属、水、空気、あるいは可塑剤自身等が使用できる。冷却速度を制御する観点から、厚さ制御したシートを冷却する際に、温度制御した複数のロールを通過させることが好ましい。冷却速度は、シート状成形体の表面温度を計測し、熱可塑性樹脂の融点から融点−80℃に至るまでの時間を用いて算出することができる。冷却速度は、1℃/秒以上が好ましく、20℃/秒以下がより好ましい。1℃/秒以上であれば、無機粒子が均一に分散しやすくなる傾向にあり、20℃/秒以下であれば、孔数が80個/μm以上となりやすい傾向にある。
【0031】
前記(3)の工程における延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延、多段延伸、多数回延伸等のいずれの方法を単独もしくは併用しても構わないが、突刺強度の増加や膜厚均一化の観点から、同時二軸延伸が好ましい。ここでいう同時二軸延伸とはMD方向の延伸とTD方向の延伸が同時に施される手法であり、各方向の変形率は異なってもよい。逐次二軸延伸とは、MD方向、又はTD方向の延伸が独立して施される手法であり、MD方向、又はTD方向に延伸がなされている際は、他方向が非拘束状態、又は定長に固定されている状態にある。延伸倍率は、総面積倍率で好ましくは20倍以上200倍未満の範囲であり、20倍以上100倍以下がより好ましく、25倍以上50倍以下が更に好ましい。総面積倍率が20倍以上である場合は、孔数が80個/μm以上になりやすい傾向にあり、200倍未満である場合は、熱収縮が低減する傾向にある。
【0032】
各軸方向の延伸倍率はMD方向に4倍以上10倍以下、TD方向に4倍以上10倍以下の範囲が好ましく、MD方向に5倍以上8倍以下、TD方向に5倍以上8倍以下の範囲がより好ましい。延伸倍率がMD方向に4倍以上、TD方向に4倍以上であると、MD方向、TD方向共に、膜厚ムラが小さい製品が得られやすい傾向にあり、それぞれ10倍以下であると、捲回性に優れる傾向にある。
【0033】
延伸温度はポリオレフィンの融点温度−50℃以上、融点温度未満が好ましく、ポリオレフィンの融点温度−30℃以上、融点温度−2℃以下がより好ましく、ポリオレフィンの融点温度−15℃以上、融点温度−3℃以下が更に好ましい。延伸温度がポリオレフィンの融点温度−50℃以上であると、ポリオレフィンと充填剤間もしくはポリオレフィンと可塑剤間の界面剥離が生じにくく突刺強度が優れる傾向にある。延伸温度がポリオレフィンの融点温度未満であると、孔数が80個/μm以上になりやすい傾向にある。例えば、高密度ポリエチレンを用いた場合は、延伸温度は120℃以上132℃以下が好適である。複数のポリオレフィンを混合して用いた場合は、その融解熱量が大きい方のポリオレフィンの融点を基準にすればよい。
【0034】
前記(4)の工程は、ポリオレフィン微多孔膜の孔数を80個/μm以上に調整しやすくなる観点から、前記(3)の工程の後に行うことが好ましい。抽出方法としては、前記可塑剤の溶剤に対して前記延伸物を浸漬する方法が挙げられる。なお、抽出後の微多孔膜中の可塑剤の残存量としては1質量%未満にすることが好ましい。また、当該工程により無機粒子が抽出される量としては、配合量の好ましくは1質量%以下、より好ましくは実質的に0質量%である。
【0035】
本発明の効果を損なわない範囲で、延伸過程に引き続いて熱固定及び熱緩和等の熱処理工程を加えることは、微多孔膜の収縮を更に抑制する観点から好ましい。
【0036】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、微多孔膜に、界面活性剤等による親水化処理、電離性放射線等による架橋処理等の後処理を施してもよい。
【0037】
本実施の形態におけるセパレータは、孔数が80個/μm以上に調整されている。数十Cレートにおよぶ高電流密度における出力特性がより良好となる観点から、好ましくは100個/μm以上であり、より好ましくは120個/μm以上である。また、サイクル特性の観点から、上限としては、好ましくは500個/μm以下であり、より好ましくは300個/μm以下である。
【0038】
セパレータの孔数を80個/μm以上に調整するための手段としては、例えば、ポリオレフィンと無機粒子と第3物質(後工程で抽出除去される可塑剤)を原料とした溶融製膜の場合、延伸工程を第3物質を抽出する工程よりも以前に行う(抽出前延伸)方法、延伸温度や倍率を制御する方法、溶融物の冷却速度を制御する方法、構成材料及びその比率により粘弾性挙動を制御する方法等が一例として挙げられる。
【0039】
本実施の形態におけるセパレータの最終的な膜厚は、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上であり、上限としては、好ましくは100μm未満、より好ましくは60μm未満、更に好ましくは40μm未満である。膜厚を2μm以上とすることは、機械強度を向上させる観点及び耐電圧を向上させる観点から好適である。一方、100μm未満とすることは、セパレータの占有体積が減るため、電池の高容量化の点において有利となる傾向にある。なお、セパレータの膜厚は、後述する実施例における測定法に準じて測定される。
【0040】
なお、膜厚は、前記(2)の工程におけるシート厚さ、前記(3)の工程における延伸倍率、延伸温度等を調整すること等により調節可能である。
【0041】
本実施の形態におけるセパレータの気孔率は、好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上であり、上限としては、好ましくは80%未満、より好ましくは75%以下である。気孔率を45%以上とすることは、良好な出力特性を確保する観点から好適である。一方、80%未満とすることは、突刺強度を確保する観点及び耐電圧を確保する観点から好ましい。なお、セパレータの気孔率は、後述する実施例における測定法に準じて測定される。
【0042】
なお、上記気孔率は、前記(1)の工程におけるポリオレフィン樹脂/無機粒子/可塑剤の割合、前記(3)の工程における延伸温度、延伸倍率を調整すること等により調節可能である。
【0043】
本実施の形態におけるポリオレフィン微多孔膜の透気度は、好ましくは10秒以上、より好ましくは40秒以上であり、上限としては、好ましくは500秒以下、より好ましくは300秒以下、更に好ましくは200秒以下である。透気度を10秒以上とすることは、電池の自己放電を抑制する観点から好適である。一方、500秒以下とすることは、良好な充放電特性を得る観点から好適である。なお、ポリオレフィン微多孔膜の透気度は、後述する実施例における測定法に準じて測定される。
【0044】
なお、上記透気度は、前記(1)の工程におけるポリオレフィン樹脂/無機粒子/可塑剤の割合、前記(3)の工程における延伸温度、延伸倍率を調整すること等により調節可能である。
【0045】
本実施の形態における非水電解液電池は、上述した非水電解液電池用セパレートと、正極板と、負極板と、非水電解液(非水溶媒とこれに溶解した金属塩とを含む。)とを備えている。具体的には、例えば、リチウムイオン等を吸蔵及び放出可能な遷移金属酸化物を含む正極板と、リチウムイオン等を吸蔵及び放出可能な負極板とが、セパレータを介して対向するように捲回又は積層され、非水電解液を保液し、容器に収容されている。
【0046】
正極板について以下に説明する。正極活物質としては、例えば、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム又はコバルト酸リチウム等のリチウム複合金属酸化物、リン酸鉄リチウム等のリチウム複合金属リン酸塩等を用いることができる。正極活物質は導電剤及びバインダーと混錬され、正極ペーストとしてアルミニウム箔等の正極集電体に塗布乾燥され、所定厚に圧延された後、所定寸法に切断されて正極板となる。ここで、導電剤としては、正極電位下において安定な金属粉末、例えば、アセチレンブラック等のカーボンブラック又は黒鉛材料を用いることができる。また、バインダーとしては、正極電位下において安定な材料、例えば、ポリフッ化ビニリデン、変性アクリルゴム又はポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。
【0047】
正極板中の導電剤の含有量(正極活物質、バインダー、導電剤の総質量中における導電剤の含有量)は、8質量%以上が好ましい。ここで、電池をより高出力化するためには、反応抵抗を低減することが挙げられる。電池反応において、反応抵抗の寄与率は特に正極が大きいため、活物質の大比表面積化、導電剤量の増加等が検討されている。本実施の形態のセパレータを用いた際に、正極中の導電剤の質量が8質量%以上である場合は、数十Cレートにおよぶ高電流密度における出力特性がより良好となる傾向にある。これは、おそらく正極に由来する反応抵抗が大きく低減することにより、セパレータの抵抗(イオンの移動抵抗)の僅かな差が、出力特性に大きく寄与するようになるためと推察される。
【0048】
負極板について以下に説明する。負極活物質としては、リチウムを吸蔵できる材料を用いることができる。具体的には、例えば、黒鉛、シリサイド、及びチタン合金材料等からなる群から選ばれる少なくとも一種類を用いることができる。また、非水電解質二次電池の負極活物質としては、例えば、金属、金属繊維、炭素材料、酸化物、窒化物、珪素化合物、錫化合物、又は各種合金材料等を用いることができる。特に、珪素(Si)若しくは錫(Sn)の単体又は合金、化合物、固溶体等の珪素化合物若しくは錫化合物が、電池の容量密度が大きくなる傾向にあるため好ましい。上記炭素材料としては、例えば、各種天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、各種人造黒鉛、及び非晶質炭素等が挙げられる。負極活物質としては、上記材料のうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。負極活物質はバインダーと混錬され、負極ペーストとして銅箔等の負極集電体に塗布乾燥され、所定厚に圧延された後、所定寸法に切断されて負極板となる。ここで、バインダーとしては、負極電位下において安定な材料、例えば、PVDF又はスチレン−ブタジエンゴム共重合体等を用いることができる。
【0049】
非水電解液について以下に説明する。非水電解液は、一般的に、非水溶媒とこれに溶解したリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩等の金属塩とを含む。非水溶媒としては、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル等が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(CF3SO22、LiAsF6、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、ホウ酸塩類、イミド塩類等が挙げられる。
【0050】
また、本実施の形態における非水電解液電池の出力密度は、好ましくは1000W/kgであり、より好ましくは1200W/kg、さらに好ましくは1500W/kgである。
【0051】
本実施の形態における非水電解液電池用セパレータを用いた非水電解液電池は、数十Cレートにおよぶ高電流密度における出力特性に優れるので、ハイブリッド自動車用やプラグインハイブリッド自動車用として特に有用である。
【実施例】
【0052】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。
【0053】
(1)孔数(個/μm
孔数は下記の関係式より算出した。
孔数(個/μm)=4×(ε/100)/(π×d×τ)
ここで、d(μm)は平均孔径(直径)、τは曲路率(無次元)、εは気孔率(%)である。平均孔径d(μm)、曲路率τ(無次元)は、下記に従い算出した。
キャピラリー内部の流体は、流体の平均自由工程がキャピラリーの孔径より大きいときはクヌーセンの流れに、小さい時はポアズイユの流れに従うことが知られている。そこで、微多孔膜の透気度測定における空気の流れがクヌーセンの流れに、また微多孔膜の透水度測定における水の流れがポアズイユの流れに従うと仮定した。
この場合、孔径d(μm)と屈曲率τ(無次元)は、空気の透過速度定数Rgas(m/(m・sec・Pa))、水の透過速度定数Rliq(m/(m・sec・Pa))、空気の分子速度ν(m/sec)、水の粘度η(Pa・sec)、標準圧力P(=101325Pa)、気孔率ε(%)、膜厚L(μm)から、次式を用いて求めることができる。
d=2ν×(Rliq/Rgas)×(16η/3P)×10
τ=(d×(ε/100)×ν/(3L×P×Rgas))1/2
ここで、Rgasは透気度(sec)から次式を用いて求めた。
gas=0.0001/(透気度×(6.424×10−4)×(0.01276×101325))
また、Rliqは透水度(cm/(cm・sec・Pa))から次式を用いて求められる。
liq=透水度/100
なお、透水度は次のように求めた。直径41mmのステンレス製の透液セルに、あらかじめアルコールに浸しておいた微多孔膜をセットし、該膜のアルコールを水で洗浄した後、約50000Paの差圧で水を透過させ、120sec間経過した際の透水量(cm)より、単位時間・単位圧力・単位面積当たりの透水量を計算し、これを透水度とした。
また、νは気体定数R(=8.314)、絶対温度T(K)、円周率π、空気の平均分子量M(=2.896×10−2kg/mol)から次式を用いて求められる。
ν=((8R×T)/(π×M))1/2
【0054】
(2)比誘電率
比誘電率は、アジレント製の4284A PRECISION LCR METER、及び安藤電気製SE70誘電率測定用電極を用いて測定した。
試料を電極冶具に敷き詰めて質量を測定し、オリエンテック製UCT−30T万能試験機にて荷重1000kgfを加えて押し固めた。その後、誘電率測定冶具にセットし下記の条件で測定を行った。
測定周波数:1MHz、温度:22℃±1℃、湿度:63±2%RH
【0055】
(3)分散性指数
a.試料作成
日立ハイテク製のイオンミリング装置 E−3500を用い、セパレータの平坦な断面を作製した。ビーム電流は40μAで行った。試料を試料台に固定し、オスミウムを約2nmコーティングした。
b.EDX測定
HORIBA製のEMAX EX−250を用い、EDX測定を行った。約2μm四方の領域について測定を行い、条件は加速電圧12kV、WD15mm、積算時間100秒で行った。厚さ方向に3箇所測定した。(A:表層付近、B中央付近、C:Aと逆面の表層付近)
c.分散性指数の算出
無機粒子を構成する最も原子量が大きい元素(元素番号が大きい元素)の質量濃度を用いて分散性指数を算出した。
分散性指数(DN)={MAX(A,B,C)−MIN(A,B,C)}/AVE(A,B,C)
A:表層付近の質量濃度、B:中央付近の質量濃度、C:Aと逆面の表層付近の質量濃度
MAX(A,B,C):A、B、Cの3点の最大値
MIN(A,B,C):A、B、Cの3点の最小値
AVE(A,B,C):A、B、Cの3点の平均値
【0056】
(4)膜厚(μm)
東洋精機製の微小測厚器、KBM(商標)を用いて室温23℃で測定した。
【0057】
(5)気孔率(%)
10cm×10cm角の試料をポリオレフィン微多孔膜から切り取り、その体積(cm)と質量(g)を求め、それらと密度(g/cm)より、次式を用いて計算した。
気孔率(%)=(体積−質量/混合組成物の密度)/体積×100
なお、混合組成物の密度は、用いたポリオレフィン樹脂と無機粒子の各々の密度と混合比より計算して求められる値を用いた。
【0058】
(5)透気度(sec)
JIS P−8117に準拠し、東洋精器(株)製のガーレー式透気度計、G−B2(商標)により測定した。
【0059】
(6)突刺強度(N)
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES−G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーでポリオレフィン微多孔膜を固定した。次に固定された微多孔膜の中央部を、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secで、25℃雰囲気下にて突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重として突刺強度(N)を得た。
【0060】
(7)融点(℃)
島津製作所社製DSC60を用いて測定した。試料を直径5mmの円形に打ち抜き、数枚重ね合わせて3mgとしたものを測定サンプルとして用いた。これを直径5mmのアルミ製オープンサンプルパンに敷き詰め、クランピングカバーを乗せサンプルシーラーでアルミパン内に固定した。窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minで30℃から200℃までを測定し、融解吸熱曲線を得た。得られた融解吸熱曲線のピークトップ温度を融点(℃)とした。ピークが複数観察される場合は、最も低い温度のピークトップをその試料の融点とした。
【0061】
(8)粘度指数
押出機より溶融混錬し、シート状に成形したシートの粘度指数を測定した。測定は、TOYOSEIKI製のCAPIROGRAPH 1Cを使用した。キャピラリー長さは10mm、キャピラリー直径は1mmのものを使用した。シリンダー径は9.55mmのシリンダーを用い、設定温度は220℃とした。押出速度を、0.5mm/min、1mm/min、2mm/min、5mm/min、10mm/min、20mm/min、50mm/min、100mm/min、150mm/min、200mm/min、500mm/minと変化させて、せん断応力(Pa)の測定を行った。
せん断速度(S−1)とせん断応力(Pa)の関係は、τ=kγで知られている。
τ:せん断応力、γ:せん断速度、n:粘度指数、k:固有定数
得られたデータを、せん断速度(S−1)をX軸(対数表示)に、せん断応力(Pa)をY軸(対数表示)としてプロットした。最小二乗法により近似直線を算出し、その傾きを粘度指数とした。
【0062】
(9)出力密度測定(W/kg)
a.電池作製
(a−1) 正極板作製(正極板A、正極板B)
密度1.1g/cm、比表面積15m/gのLiFePO粉末とアセチレンブラックとポリフッ化ビニリデンの質量比が87:8:5となるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解しスラリーを調製した。作製したスラリーを、集電体としてのアルミニウム箔の上に塗布した後、乾燥し、その後圧延ローラー用いて圧延し、集電タブを取り付けて正極板を作製した(正極板A)。
LiFePO粉末とアセチレンブラックとポリフッ化ビニリデンの質量比が87:7:6となるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解しスラリーを調製した。作製したスラリーを、集電体としてのアルミニウム箔の上に塗布した後、乾燥し、その後圧延ローラー用いて圧延し、集電タブを取り付けて正極板を作製した(正極板B)。
(a−2) 負極板作製
人造グラファイト96.9質量%、バインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%とスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス1.7質量%を精製水中に分散させてスラリーを調製した。作製したスラリーを、集電体としての銅箔の上に塗布した後、乾燥し、その後圧延ローラー用いて圧延し、集電タブを取り付けて負極板を作製した。
(a−3) 非水電解液の調製
非水電解液としてエチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート=1:1:1(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度1.0mol/リットルとなるように溶解させて調製した。
(a−4) 捲回・組み立て
各種セパレータ、前記正極及び前記負極を、負極,セパレータ,正極,セパレータの順に重ねて渦巻状に複数回捲回することで円筒型積層体を作製した。この円筒型積層体をステンレス金属製容器に収納し、負極集電体から導出したニッケル製リードを容器底に接続し、正極集電体から導出したアルミニウム製リードを容器蓋端子部に接続した。更に、この容器内に前記非水電解液を注入し、封口した。封口板には、通常の円筒型電池であれば安全弁やPTC素子等の安全素子が組み込まれているが、セパレータの差異を明瞭にするために封口板には安全機構は含まれていなかった。こうして作製されるリチウムイオン電池は、直径18mm,高さ65mmの大きさ(18650サイズ円筒型電池)で、放電容量が1100mAhとなるよう設計した。
以下、正極板Aを用いたものは電池A、正極板Bを用いたものは電池Bとする。
【0063】
b.1C容量測定(mAh)
25℃雰囲気下、1.1A(1.0C)の電流値で電池電圧3.6Vまで充電し、さらに3.6Vを保持するようにして電流値を1.1Aから絞り始めるという方法で、合計3時間充電を行った。次に1.1A(1.0C)の電流値で電池電圧2.0Vまで放電し、1C放電容量を得た。
【0064】
c.出力密度測定(W/kg)
bで初期容量を測定した電池を1Cの電流値で電池電圧3.6Vまで充電し、到達後3.6Vを保持するようにして電流値を絞り始めるという方法で、合計3時間の充電を行い、SOC100%とした。10分休止後、0.3Cの電流値でSOC50%まで放電し、1時間休止した。その後、(1)0.5Cで10秒間放電、1分休止、0.5Cで10秒間充電、1分休止、(2)1Cで10秒間放電、1分休止、1Cで10秒間充電、1分休止、(3)2Cで10秒間放電、1分休止、2Cで10秒間充電、1分休止、(4)3Cで10秒間放電、1分休止、3Cで10秒間充電、1分休止、(5)5Cで10秒間放電、1分休止、5Cで10秒間充電、1分休止という作業を行った。
(1)〜(5)における10秒間放電後の電池電圧をそれぞれ計測し、それぞれの電圧を電流値に対してプロットした。最小二乗法による近似直線が放電下限電圧(V)と交差する電流値を(I)とし、電池質量Wtとから、次式により出力密度を算出した。
出力密度(P)=(V×I)/Wt
なお、上記b及びcでの電圧(3.6V及び2.0V)は、正極にLiFePO、負極にグラファイトを用いたときの一例であり、測定は電極部材の作動電圧範囲に合わせて調整した。例えば、正極にLiCoO、負極にグラファイトを用いた場合は、4.2Vまで充電し、3.0Vまで放電し、放電下限電圧も3.0Vとした。
また、入力密度を算出する場合は、(1)〜(5)における各々の10秒間充電後の電池電圧を計測し、それぞれの電圧を電流値に対してプロットした。最小二乗法による近似直線が充電上限電圧(V)と交差する電流値を(I)とし、電池質量Wtとから上記出力密度と同様に入力密度を算出した。
【0065】
(10)20C容量維持率(%)、温度上昇度(℃)
20Cレートの放電を行い容量及び電池表面温度より出力特性の評価を行った。
25℃雰囲気下、1.1A(1.0C)の電流値で電池電圧3.6Vまで充電し、さらに3.6Vを保持するようにして電流値を1.1Aから絞り始めるという方法で、合計3時間充電を行った。次に、22A(20C)の電流値で電池電圧2.0Vまで放電し、20C放電容量を得た。
1C放電容量に対する20C放電容量の割合を20C容量維持率(%)と定義した。
また、セル表面に温度計測用の端子を取り付け、電池表面温度を測定し、20C放電が終了した時点の温度と放電前の温度の差を温度上昇度(℃)とした。
【0066】
実施例及び比較例において用いた材料は以下とおりである。
(1)熱可塑性樹脂
(1−1)ポリエチレン(PE)
粘度平均分子量70万、融点139℃のホモポリエチレン
粘度平均分子量27万、融点137℃のホモポリエチレン
粘度平均分子量200万、融点140℃のホモポリエチレン
(1−2)ポリフッ化ビニリデン(PVdF)
重量平均分子量24万、融点173℃のポリフッ化ビニリデン
(2)無機粒子
(2―1)シリカ
比誘電率1.1、比表面積120m/gのシリカ
比誘電率2.4、比表面積200m/gのシリカ
(2−2)炭酸カルシウム
比誘電率1.5、比表面積30m/gの炭酸カルシウム
(2―3)γ−アルミナ
比誘電率6.3、比表面積130m/gのγ−アルミナ
(2−4)ケイ酸アルミニウム
比誘電率7.8、比表面積80m/gのケイ酸アルミニウム
(2−5)酸化チタン
比誘電率80、比表面積50m/gの酸化チタン
(3)可塑剤
(3−1)流動パラフィン(LP)
松村石油研究所社製「スモイルP−350P」
(3−2)フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DOP)
新日本理化社製
【0067】
[実施例1]
比誘電率が2.2、粘度平均分子量(Mv)70万のポリエチレンを22質量部、比誘電率が1.1であるシリカ18質量部、可塑剤として流動パラフィンを24質量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.3質量部添加したものをスーパーミキサーにて予備混合した。得られた混合物をフィーダーにより二軸同方向スクリュー式押出機フィード口へ供給した。また溶融混練し押し出される全混合物(100質量部)中に占める流動パラフィン量比が60質量部となるように、流動パラフィンを二軸押出機シリンダーへサイドフィードした。溶融混練条件は、設定温度220℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量18kg/hで行った。続いて、溶融混練物を220℃に温度設定したTダイより押出し、表面温度を40℃、ロール間隔を1700μmに制御した金属ロール間に挟み、引き続き、表面温度を25℃に制御したロールにより冷却し、シート状のポリオレフィン組成物を得た。このポリオレフィン組成物の粘度指数は0.28、冷却速度は8℃/秒であった。次に連続して同時二軸テンターへ導き、縦方向に7倍、横方向に6.4倍に同時二軸延伸を行った。この時同時二軸テンターの延伸部の設定温度は120℃であった。次に塩化メチレン槽に導き、十分に塩化メチレンに浸漬して流動パラフィンを抽出除去した。その後塩化メチレンの乾燥を行った。さらに横テンターに導き横方向に1.5倍延伸したのち最終出口は1.3倍となるように13%緩和し巻取りを行うことで微多孔膜を得た。横延伸部の設定温度は135℃で緩和部の設定温度は140℃であった。これをセパレータとして使用し、電池Aにて評価を行った。製膜条件、セパレータ特性及び電池評価結果を表2に示す。
【0068】
[実施例2]〜[実施例5]、[比較例1]
実施例1の無機粒子を表1に示すような無機粒子に変更した以外は、実施例1と同様にして製膜して微多孔膜を得た。これらをセパレータとして使用し、電池Aにて評価を行った。実施例2〜5の製膜条件、セパレータ特性及び電池評価結果を表2に示す。比較例1の製膜条件、セパレータ特性及び電池評価結果を表4に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
[実施例6]
比誘電率が2.2、粘度平均分子量(Mv)27万のポリエチレンを14.4質量部、比誘電率が2.2、Mv200万のポリエチレンを9.6質量部、比誘電率が1.1であるシリカ16質量部、可塑剤として流動パラフィンを24質量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.3質量部添加したものをスーパーミキサーにて予備混合した。得られた混合物をフィーダーにより二軸同方向スクリュー式押出機フィード口へ供給した。また溶融混練し押し出される全混合物(100質量部)中に占める流動パラフィン量比が60質量部となるように、流動パラフィンを二軸押出機シリンダーへサイドフィードした。溶融混練条件は、設定温度220℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量18kg/hで行った。続いて、溶融混練物を220℃に温度設定したTダイより押出し、表面温度を40℃、ロール間隔を1580μmに制御した金属ロール間に挟み、引き続き、表面温度を25℃に制御したロールにより冷却し、シート状のポリオレフィン組成物を得た。このポリオレフィン組成物の粘度指数は0.25、冷却速度は8℃/秒であった。次に連続して同時二軸テンターへ導き、縦方向に7倍、横方向に6.4倍に同時二軸延伸を行った。この時同時二軸テンターの延伸部の設定温度は122℃であった。次に塩化メチレン槽に導き、十分に塩化メチレンに浸漬して流動パラフィンを抽出除去し巻き取りを行うことで微多孔膜を得た。これをセパレータとして使用し、電池Aにて評価を行った。製膜条件、セパレータ特性及び電池評価結果を表2に示す。
【0071】
[実施例7]
実施例6の微多孔膜をさらに横テンターに導き横方向に1.4倍延伸した後、最終出口は1.3倍となるように7%緩和し巻取りを行うことで微多孔膜を得た。横延伸部の設定温度は130℃で緩和部の設定温度は132℃であった。これをセパレータとして使用し、電池Aにて評価を行った。製膜条件、セパレータ特性及び電池評価結果を表2に示す。
【0072】
[実施例8]
実施例6の微多孔膜をさらに横テンターに導き横方向に1.4倍延伸したのち最終出口は1.3倍となるように7%緩和し巻取りを行うことで微多孔膜を得た。横延伸部の設定温度は140℃で緩和部の設定温度は142℃であった。これをセパレータとして使用し、電池Aにて評価を行った。製膜条件、セパレータ特性及び電池評価結果を表3に示す。
【0073】
[実施例9]
実施例7においてシート状のポリオレフィン組成物を得る際の冷却速度が2℃/秒となるようにロール温度を変更した。表面温度を90℃、ロール間隔を1700μmに制御した金属ロール間に挟み、引き続き、表面温度を60℃に制御したロールにより冷却し、シート状のポリオレフィン組成物を得た。これ以外は実施例7と同様にして微多孔膜を得た。これをセパレータとして使用し、電池Aにて評価を行った。製膜条件、セパレータ特性及び電池評価結果を表3に示す。
【0074】
[実施例10]
実施例8においてシート状のポリオレフィン組成物を得る際の冷却速度が20℃/秒となるようにロール温度を変更した。表面温度を30℃、ロール間隔を1700μmに制御した金属ロール間に挟み、引き続き、表面温度を20℃に制御したロールにより冷却し、シート状のポリオレフィン組成物を得た。これ以外は実施例8と同様にして微多孔膜を得た。これをセパレータとして使用し、電池Aにて評価を行った。製膜条件、セパレータ特性及び電池評価結果を表3に示す。
【0075】
[実施例11]
比誘電率が5.6のポリフッ化ビニリデンを30質量部、比誘電率が1.1であるシリカ20質量部、可塑剤としてフタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DOP)を30質量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.3質量部添加したものをスーパーミキサーにて予備混合した。得られた混合物をフィーダーにより二軸同方向スクリュー式押出機フィード口へ供給した。また溶融混練し押し出される全混合物(100質量部)中に占めるDOP比が50質量部となるように、DOPを二軸押出機シリンダーへサイドフィードした。溶融混練条件は、設定温度220℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量18kg/hで行った。続いて、溶融混練物を220℃に温度設定したTダイより押出し、表面温度を60℃、ロール間隔を800μmに制御した金属ロール間に挟み、引き続き、表面温度を25℃に制御したロールにより冷却し、シート状のポリオレフィン組成物を得た。このポリオレフィン組成物の粘度指数は0.38、冷却速度は8℃/秒であった。次に連続して同時二軸テンターへ導き、縦方向に5倍、横方向に4倍に同時二軸延伸を行った。この時同時二軸テンターの延伸部の設定温度は130℃であった。次に塩化メチレン槽に導き、十分に塩化メチレンに浸漬してDOPを抽出除去し巻き取りを行うことで微多孔膜を得た。これをセパレータとして使用し、電池Aにて評価を行った。製膜条件、セパレータ特性及び電池評価結果を表3に示す。
【0076】
[実施例12]
実施例11において、比誘電率が1.1であるシリカを比誘電率が2.4であるシリカに変更した以外は、実施例11と同様にして微多孔膜を得た。これをセパレータとして使用し、電池Aにて評価を行った。製膜条件、セパレータ特性及び電池評価結果を表3に示す。
【0077】
[実施例13]
実施例1で得られた微多孔膜をセパレータとして使用し、電池Bにて評価を行った。製膜条件、セパレータ特性及び電池評価結果を表3に示す。
【0078】
[実施例14]
実施例4で得られた微多孔膜をセパレータとして使用し、電池Bにて評価を行った。製膜条件、セパレータ特性及び電池評価結果を表3に示す。
【0079】
[比較例2]
実施例8においてシート状のポリオレフィン組成物を得る際の冷却速度が2℃/秒となるようにロール温度を変更した。表面温度を90℃、ロール間隔を1700μmに制御した金属ロール間に挟み、引き続き、表面温度を60℃に制御したロールにより冷却しシート状のポリオレフィン組成物を得た。これ以外は実施例8と同様にして微多孔膜を得た。これをセパレータとして使用し、電池Aにて評価を行った。製膜条件、セパレータ特性及び電池評価結果を表4に示す。
【0080】
[比較例3]
比誘電率が2.2、粘度平均分子量(Mv)70万のポリエチレンを35質量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.1質量部添加したものをスーパーミキサーにて予備混合した。得られた混合物をフィーダーにより二軸同方向スクリュー式押出機フィード口へ供給した。また溶融混練し押し出される全混合物(100質量部)中に占める流動パラフィン量比が65質量部となるように、流動パラフィンを二軸押出機シリンダーへサイドフィードした。溶融混練条件は、設定温度220℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量18kg/hで行った。続いて、溶融混練物を220℃に温度設定したTダイより押出し、表面温度を40℃、ロール間隔を1700μmに制御した金属ロール間に挟み、引き続き、表面温度を25℃に制御したロールにより冷却し、シート状のポリオレフィン組成物を得た。このポリオレフィン組成物の粘度指数は0.38、冷却速度は8℃/秒であった。次に連続して同時二軸テンターへ導き、縦方向に7倍、横方向に6.4倍に同時二軸延伸を行った。この時同時二軸テンターの延伸部の設定温度は120℃である。次に塩化メチレン槽に導き、十分に塩化メチレンに浸漬して流動パラフィンを抽出除去した。その後塩化メチレンの乾燥を行った。さらに横テンターに導き横方向に1.4倍延伸したのち最終出口は1.3倍となるように7%緩和し巻取りを行うことで微多孔膜を得た。横延伸部の設定温度は127℃で緩和部の設定温度は132℃であった。これをセパレータとして使用し、電池Aにて評価を行った。製膜条件、セパレータ特性及び電池評価結果を表4に示す。
【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
表2及び3の結果から明らかなように、実施例1〜14で得られた微多孔膜をセパレータとして用いた非水電解液電池は、20Cレートと言う大電流放電時においても、1Cレートの容量に対する容量維持率が高く、また温度上昇度が低いために、高電流密度においても良好な出力特性を示すことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の非水電解液電池用セパレータを用いた非水電解液電池は、高電流密度における良好な出力特性を確保し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と無機粒子とを含む微多孔膜からなる非水電解液電池用セパレータであって、
孔数が80個/μm以上であり、
前記熱可塑性樹脂の比誘電率と前記無機粒子の比誘電率の差が20以下である非水電解液電池用セパレータ。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂の比誘電率と前記無機粒子の比誘電率の差が9以下である、請求項1記載の非水電解液電池用セパレータ。
【請求項3】
前記無機粒子の分散性指数が0.50以下である、請求項1又は2記載の非水電解液電池用セパレータ。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂はポリオレフィン樹脂である、請求項1〜3のいずれか1項記載の非水電解液電池用セパレータ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の非水電解液電池用セパレータと、正極板と、負極板と、非水電解液とを備える非水電解液電池であって、
出力密度が1000W/kg以上である、非水電解液電池。
【請求項6】
前記正極板中の導電剤の含有量が8質量%以上である、請求項5記載の非水電解液電池。


【公開番号】特開2010−262785(P2010−262785A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111278(P2009−111278)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】