説明

非水電解質二次電池および非水電解質

【課題】抵抗上昇を抑制でき、電池特性を改善できる非水電解質二次電池および非水電解質電池を提供する。
【解決手段】この巻回電極体30は、セパレータ35および電解質36を介して正極33と負極34とが積層および巻回されたものである。電解質36は、オルト炭酸テトラメチル等のオルト炭酸エステル化合物と共に、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレン、炭酸メチレンエチレン等の環状炭酸エステル化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非水電解質二次電池および非水電解質に関する。さらに詳しくは、例えば非水溶媒および電解質塩を含む非水電解質を用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラ一体型VTR(Video Tape Recorder)、携帯電話またはノートパソコン等のポータブル電子機器が広く普及しており、その小型化、軽量化および長寿命化が強く求められている。これに伴い、電源として、電池、特に軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。
【0003】
中でも、充放電反応にリチウム(Li)の吸蔵および放出を利用する二次電池(いわゆるリチウムイオン二次電池)は、鉛電池やニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、大いに期待されている。このリチウムイオン二次電池は、正極および負極と共に、イオン伝導媒体である電解質を備えている。
【0004】
二次電池の種々の性能を向上させるために、鋭意開発が進められている。例えば、外装部材にアルミラミネートフィルム等のラミネートフィルムを使用するラミネート型電池は、軽量なためエネルギー密度を高めることができる。しかしながら、ラミネート型電池は、外装部材の膨張等により変形しやすく、電解液のような流動性の電解質を用いた場合には、外装部材の変形に伴い、液漏れ等の問題が生じやすい。
【0005】
この問題を解決できる二次電池として、例えば、ポリマーリチウム二次電池のように電解液に代えて、ゲル状電解質、完全固体型の電解質等の非流動性電解質を用いた二次電池が注目されている。この二次電池では、液漏れの懸念が少なく、安全性が高いため、アルミラミネートフィルムのような軽量且つ薄い材料を外装部材に使用できる。
【0006】
一方、二次電池のさらなる高エネルギー密度化に伴い、電池の充放電特性を高めるためには、正極と負極との間のイオンの受け渡し速度をできるだけ速くする必要がある。このため、電解質のイオン伝導度を高めることや電解質の粘度を低下させることによって、拡散による物質移動を起こりやすくする必要がある。
【0007】
しかしながら、二次電池の長期使用においては、電池内の種々の反応の進行に伴い、電解質のイオン伝導度の減少等により、電池特性が低下してしまう。イオン伝導度の低下は、保存特性やレート特性を悪化させることにつながることは勿論、アルミラミネートフィルム等の形状可変な外装部材を使用した場合には、電池厚みの増大等の電池変形も問題となる。
【0008】
これに対して、電池の使用初期の充放電時に電極上にSEI(Solid Electrolyte Interface;固体電解質膜)と呼称される被膜を形成する化合物を、予め溶媒中に添加することによって、電極表面を安定化する手法が提案されている。(例えば、特許文献1〜特許文献3参照)このような添加物を含む電解質構成によって、電池特性の改善はみられるが、今後、さらなる高容量化を図る場合、電解質の性能をより一層向上させることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平08−045545号公報
【特許文献2】特開2002−329528号公報
【特許文献3】特開平10−189042号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1〜特許文献2で提案されている、炭酸ビニレン(ビニレンカーボネート)等の不飽和基を含む環状化合物を含有する電解液は、負極の表面を被膜で覆うことにより、負極表面で起こる溶媒の分解等の副反応を抑制できる。このため、初期容量の低下等が改善される。このような理由から、特に炭酸ビニレンは、電解液添加剤として広く使用されている。
【0011】
しかしながら、炭酸ビニレンを単独で電解液に添加した場合には、炭酸ビニレンの分解により形成される被膜は、耐久性が低いために、電池の長期使用中や高温環境下では分解してしまい、電池特性の劣化が起こるという欠点があった。逆に、炭酸ビニレンを電解液中に一定量以上添加しても、生成する被膜成分が増大するだけとなり、使用初期に抵抗上昇が起こるため電池特性を改善することができない。
【0012】
このような問題は、負極の反応面積の増大とともにより顕著となる。例えば、二次電池をより高容量化するために、負極を高密度化する場合、負極合剤中での電解液との反応界面を確保する必要から、負極活物質として、より比表面積の大きな材料を用いることになる。このため、負極表面における電解液の副反応を抑制することはより重要となる。
【0013】
したがって、本願発明の目的は、抵抗上昇を抑制でき、電池特性を改善できる非水電解質二次電池および非水電解質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するために、第1の発明は、正極と、負極と、非水溶媒および電解質塩を含む非水電解質とを備え、非水電解質は、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物と、式(2)〜式(5)で表される環状炭酸エステル化合物とを含む非水電解質二次電池である。
【0015】
【化1】

(式中、R1〜R4は、それぞれ独立してアルキル基、ハロゲン化アルキル基またはアリール基である。R1〜R4は、互いに環を形成していてもよい。)
【化2】

(式中、R5〜R8は、それぞれ独立して水素基、アルキル基またはハロゲン化アルキル基である。R5〜R8のうちの少なくとも1つは、ハロゲン基またはハロゲン化アルキル基である。)
【化3】

(式中、R9〜R10は、それぞれ独立して水素基、アルキル基、ハロゲン基またはハロゲン化アルキル基である。)
【化4】

(式中、R11〜R14は、それぞれ独立してアルキル基、ビニル基またはアリル基である。R11〜R14のうちの少なくとも1つはビニル基またはアリル基である。)
【化5】

(R15はアルキレン基である。)
【0016】
第2の発明は、非水溶媒および電解質塩と、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物と、式(2)〜式(5)で表される環状炭酸エステル化合物とを含む非水電解質である。
【0017】
【化6】

(式中、R1〜R4は、それぞれ独立してアルキル基、ハロゲン化アルキル基またはアリール基である。R1〜R4は、互いに環を形成していてもよい。)
【化7】

(式中、R5〜R8は、それぞれ独立して水素基、アルキル基またはハロゲン化アルキル基である。R5〜R8のうちの少なくとも1つは、ハロゲン基またはハロゲン化アルキル基である。)
【化8】

(式中、R9〜R10は、それぞれ独立して水素基、アルキル基、ハロゲン基またはハロゲン化アルキル基である。)
【化9】

(式中、R11〜R14は、それぞれ独立してアルキル基、ビニル基またはアリル基である。R11〜R14のうちの少なくとも1つはビニル基またはアリル基である。)
【化10】

(R15はアルキレン基である。)
【0018】
第1および第2の発明では、非水電解質中に、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物と共に、式(2)〜式(5)で表される環状炭酸エステル化合物を含む。これにより、非水電解質と接する電極の表面状態を理想的な状態にすることができる。すなわち、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物は、電極表面に作用して、安定性を向上させる。したがって、イオン伝導度の低下が見られる長期使用および高温保存時の抵抗上昇を抑制して電池特性を改善できる。
【0019】
このような優れた特性を得られる理由は必ずしも明らかではないが、例えば、以下のことが考えられる。すなわち、非水電解質中に、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物を含有することによって、電池等の電気化学デバイスに用いた場合において、その化学安定性が向上する。より具体的には、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物が、自ら優先的に分解することによって、他の溶媒等の分解を抑制しやすくなる。したがって、充放電時において、非水電解質が分解しにくくなるため、イオン伝導度の低下が抑制されることが考えられる。
【0020】
一方、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物は、負極との反応性も高いために、過剰に添加した場合や単独で使用した場合に、初回の充電時に負極上でのみ反応して、ガス発生の原因となるとともに電池容量が低下する傾向にある。これに対して、非水電解質中に、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物と共に、式(2)〜式(5)で表される環状炭酸エステル化合物を添加し、これにより、予め負極上に安定な被膜を形成することで、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物が、初回充電時に負極でのみ分解することを抑制できることが考えられる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、抵抗上昇を抑制でき、電池特性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施の形態による非水電解質電池の構成例を示す分解斜視図である。
【図2】図1における巻回電極体のI−I線に沿った断面図である。
【図3】この発明の実施の形態による非水電解質電池の構成例を示す断面図である。
【図4】図3における巻回電極体の一部を拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、説明は、以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(電解質)
2.第2の実施の形態(非水電解質電池の第1の例)
3.第3の実施の形態(非水電解質電池の第2の例)
4.第4の実施の形態(非水電解質電池の第3の例)
5.他の実施の形態(変形例)
【0024】
1.第1の実施の形態
(電解質)
この発明の第1の実施の形態による電解質について説明する。この発明の第1の実施の形態による電解質は、例えば、液状の電解質である電解液である。この電解液は、非水溶媒と、電解質塩と、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物と、式(2)〜式(5)で表される環状炭酸エステル化合物とを含む。
【0025】
【化11】

(式中、R1〜R4は、それぞれ独立してアルキル基、ハロゲン化アルキル基またはアリール基である。R1〜R4は、互いに環を形成していてもよい。)
【0026】
式(1)において、R1〜R4が互いに環を形成する場合、R1〜R4のうちの2つが互いに結合したR’を、1つまたは2つ形成することにより、環を形成していてもよい。このときR’は炭素数2以上のアルキレン基、炭素数2以上のハロゲン化アルキレン基または2価のアリール基である。また、式(1)において、R1〜R4が互いに環を形成する場合、R1〜R4うちの2つが1つの2価のアリール基となり、この2価のアリール基を1または2つ有することで環を形成していてもよい。
【0027】
【化12】

(式中、R5〜R8は、それぞれ独立して水素基、アルキル基またはハロゲン化アルキル基である。R5〜R8のうちの少なくとも1つは、ハロゲン基またはハロゲン化アルキル基である。)
【化13】

(式中、R9〜R10は、それぞれ独立して水素基、アルキル基、ハロゲン基またはハロゲン化アルキル基である。)
【化14】

(式中、R11〜R14は、それぞれ独立してアルキル基、ビニル基またはアリル基である。R11〜R14のうちの少なくとも1つはビニル基またはアリル基である。)
【化15】

(R15はアルキレン基である。)
【0028】
(式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物)
電解液は、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物を含む。電解液は、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物を1種または2種以上含んでいてもよい。電解液は、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物を含むことにより、電池等の電気化学デバイスに用いた場合において、その化学安定性が向上する。より具体的には、自らが優先的に分解することによって他の溶媒等の分解を抑制しやすくなる。したがって、充放電時において電解液が分解しにくくなるため、イオン伝導度の低下が抑制され、電池等の電気化学デバイスのサイクル特性およびエネルギー密度の向上に寄与することができる。
【0029】
一方、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物は、負極との反応性も高いために、過剰に添加した場合や単独で使用した場合に、初回充電時に負極上でのみ反応して、ガス発生の原因となると共に電池容量が低下する傾向にある。これに対して、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物と共に、式(2)〜式(5)で表される環状炭酸エステル化合物を含有させることで、予め負極上に安定な被膜を形成する。これにより、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物が初回充電時に負極でのみ分解することを抑制できると考えられる。
【0030】
式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物の中でも、容易に入手可能である点から、式(1)において、R1〜R4がそれぞれ独立して、炭素数1以上6以下のアルキル基またはアリール基であるものが好ましい。また、式(1)において、R1〜R4がそれぞれ独立して、メチル基、エチル基またはプロピル基であるものがより好ましい。
【0031】
具体的には、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物としては、オルト炭酸テトラメチル、オルト炭酸テトラエチル、オルト炭酸テトラ-n-プロピル、オルト炭酸ジエチレン、オルト炭酸ジプロピレン、オルト炭酸ジカテコールが好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。例示した上記オルト炭酸エステル化合物は、1種で使用しても、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0032】
式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物の中でも、例えば電池に用いた場合の初回充電時のガス発生抑制の点から、式(1)中のR1〜R4が互いに環を形成しているもの(以下、環状の式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物と適宜称する)が好ましい。また、環状の式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物の中でも、オルト炭酸ジエチレン、オルト炭酸ジプロピレン、オルト炭酸ジカテコール等のスピロ環を有する式(1A)で表されるオルト炭酸エステル化合物がより好ましい。さらに、初回充電時のガス発生抑制の点から、スピロ環を有する式(1A)で表される環状オルト炭酸エステル化合物の中でも、式(1A)中のR16〜R17が、それぞれ独立して、炭素数3以上のアルキレン基または炭素数3以上のハロゲン化アルキレン基であるものがより好ましい。
【0033】
【化16】

(式中、R16〜R17は、それぞれ独立して、炭素数2以上のアルキレン基、炭素数2以上のハロゲン化アルキレン基または2価のアリール基である。)
【0034】
電解液中における、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物の含有量は、抵抗上昇抑制の点から、電解液の全質量に対して、例えば、0.01質量%以上2質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上1質量%以下であることが特に好ましい。
【0035】
また、環状の式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物は、式(1)中のR1〜R4が互いに環を形成していない、鎖状の式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物に比べて、化学構造上の理由から、初回充電時のガス発生が生じにくいと考えられる。
【0036】
したがって、抵抗上昇抑制の点に加えて、初回充電時のガス発生抑制の点も考慮すると、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物が、鎖状のオルト炭酸エステル化合物である場合には、その含有量は、0.01質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上1質量%以下であることがより好ましい。1質量%を超えると、初回充電時のガス発生が起こりやすくなると共に、電池容量が低下する傾向にあるからである。なお、下限値0.01質量%は、電池特性を考慮して設定したものである。
【0037】
また、抵抗上昇抑制の点に加えて、初回充電時のガス発生抑制の点も考慮すると、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物が、環状の式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物である場合、その含有量は、以下であることが好ましい。すなわち、その含有量は、0.01質量%以上2質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上1質量%以下であることが特に好ましい。2質量%を超えると、初回充電時のガス発生が起こりやすくなると共に、電池容量が低下する傾向にあるからである。なお、下限値0.01質量%は、電池特性を考慮して設定したものである。
【0038】
なお、特開平9−199171号公報や特開2002―270222号公報には、オルト炭酸エステル化合物を単独添加する技術が開示されている。例えば、特開平9−199171号公報には、非水電解液中に、オルト炭酸エステル化合物を含有させて、サイクル特性を悪化させる原因となる電解液中の水と、オルト炭酸エステル化合物とを積極的に反応させて、サイクル特性を改善する技術が開示されている。また、特開2002−270222号公報には、非水電解液中にオルトエステル化合物を含有させて、過充電時における安全性を向上させる技術が開示されている。
【0039】
特開平9−199171号公報においては、非水電解液中に含有される水の量に対して、充分な量のオルト炭酸エステル化合物を含有させることにより、充放電前からアルコール等を副成させてサイクル特性の劣化を防止している。したがって、具体的なオルト炭酸エステル化合物の非水溶媒中の含有量は、非水溶媒の5容量%以上としており、上述の最適含有量より、多く設定する必要があるとされている。また、特開2002−270222号公報においては、電池の通常状態の使用において、非水電解液中でのオルトエステル化合物の分解を抑制しながら、電池電圧が4.9V以上の過充電時に安全性を向上させている。
【0040】
(環状炭酸エステル化合物)
電解液は、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物と共に、式(2)〜式(5)で表される環状炭酸エステル化合物を含有する。電解液が式(2)〜式(5)で表される環状炭酸エステル化合物を含有する場合、式(2)〜式(5)で表される環状炭酸エステル化合物を1種で含有しても、2種以上で含有してもよい。
【0041】
式(2)〜式(5)で表される環状炭酸エステル化合物を、電解液に、単独で添加した場合には、これによる被膜の耐久性が低いため、電池の長期使用や高温環境下では、抵抗上昇を抑制することができない。これに対して、電解液に、式(2)〜式(5)で表されると共に、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物を添加すると、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物が負極表面で作用して、被膜の安定性を向上させることが考えられる。したがって、イオン伝導度の低下が見られる長期使用および高温保存時の抵抗上昇を抑制して電池特性を改善できる。
【0042】
式(2)で表される環状炭酸エステル化合物としては、例えば、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、テトラフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−クロロ−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジクロロ−1,3−オキソラン−2−オン、テトラクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ビストリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジフルオロ−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−5,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−フルオロ−5−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−メチル−5−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−フルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、5−(1,1−ジフルオロエチル)−4,4−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジクロロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−4,5,5−トリフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−フルオロ−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン等である。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンまたは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
【0043】
式(3)で表される環状炭酸エステル化合物は、炭酸ビニレン系化合物のような不飽和結合を有する環状炭酸エステル化合物である。この炭酸ビニレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニレン(1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸メチルビニレン(4−メチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸エチルビニレン(4−エチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、4,5−ジメチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4,5−ジエチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4−フルオロ−1,3−ジオキソール−2−オン、または4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソール−2−オン等が挙げられる。これらは単独でも良いし、複数種が混合されてもよい。中でも、炭酸ビニレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
【0044】
式(4)で表される環状炭酸エステル化合物は、炭酸ビニルエチレン系化合物のような不飽和結合を有する環状炭酸エステル化合物である。炭酸ビニルエチレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニルエチレン(4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン)、4−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−n−プロピル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、5−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、または4,5−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン等が挙げられる。これらは単独でも良いし、複数種が混合されてもよい。中でも、炭酸ビニルエチレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。もちろん、式(4)中のR11〜R14としては、全てがビニル基でもよいし、全てがアリル基でもよいし、ビニル基とアリル基とが混在していてもよい。
【0045】
式(5)で表される環状炭酸エステル化合物は、炭酸メチレンエチレン系化合物のような不飽和結合を有する環状炭酸エステル化合物である。炭酸メチレンエチレン系化合物としては、4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジメチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、または4,4−ジエチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン等が挙げられる。これらは単独でも良いし、複数種が混合されてもよい。この炭酸メチレンエチレン系化合物としては、1つのメチレン基を有するもの(式(5)に示した化合物)の他、2つのメチレン基を有するものであってもよい。
【0046】
なお、不飽和結合を有する環状炭酸エステル化合物としては、式(3)〜式(5)に示したものの他、ベンゼン環を有する炭酸カテコール(カテコールカーボネート)等であってもよい。
【0047】
(含有量)
電解液における、式(2)〜式(5)で表される環状炭酸エステル化合物の含有量は、電解液の全量に対して、0.1質量%以上40質量%以下であり、0.5質量%以上5質量%以下が好ましく、1質量%以上3質量%以下がより好ましい。5質量%を超えると、長期の使用や高温環境下での分解により、抵抗が上昇しやすい傾向があるからであり、0.5質量%未満では、初期充放電時のガス発生を十分に抑制できない傾向にある。
【0048】
(非水溶媒)
非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、リン酸トリメチルまたはジメチルスルホキシド等を用いることができる。電解質を備えた電池等の電気化学デバイスにおいて、優れた容量、サイクル特性および保存特性が得られるからである。これらは単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0049】
中でも、非水溶媒としては、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルからなる群のうちの少なくとも1種を含むものを用いることが好ましい。十分な効果が得られるからである。この場合には、特に、高粘度(高誘電率)溶媒(例えば、比誘電率ε≧30)である炭酸エチレンまたは炭酸プロピレンと、低粘度溶媒(例えば、粘度≦1mPa・s)である炭酸ジメチル、炭酸ジエチルまたは炭酸エチルメチルとを混合して含むものを用いることが好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するため、より高い効果が得られるからである。
【0050】
(電解質塩)
電解質塩は、例えば、リチウム塩等の軽金属塩の1種または2種以上を含有している。このリチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、過塩素酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C654)、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3SO3)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4)、六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2SiF6)、塩化リチウム(LiCl)または臭化リチウム(LiBr)等が挙げられる。中でも、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムからなる群のうちの少なくとも1種が好ましく、六フッ化リン酸リチウムがより好ましい。電解質の抵抗が低下するからである。
【0051】
この発明の第1の実施の形態による電解質は、電解液のように流動性のある電解質の他、固体状または半固体状の電解質である非流動性電解質であってもよい。非流動性電解質は、例えばゲル状電解質のような、上述の電解液を高分子化合物に保持させて非流動化した半固体状の非流動性電解質であってもよい。なお、非流動性電解質は、高分子化合物と電解質塩とによりイオン伝導性を有する固体を形成した完全固体型の電解質のような、固体状の非流動性電解質であってもよい。
【0052】
半固体状の非流動性電解質における上述の電解液の使用量は、非流動性電解質の総量に対して、50質量%以上99質量%以下であることが好ましい。使用量が多すぎると、電解液の保持が困難となり液漏れが生じやすくなり、逆に少なすぎると充放電効率や容量の点で不十分となることがある。
【0053】
半固体状の非流動性電解質において電解液を保持する高分子化合物としては、アルキレンオキシドユニットを有するアルキレンオキシド系高分子化合物や、ポリフッ化ビニリデンやフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体のようなフッ素系高分子化合物等、電解液を保持する機能を有する各種の高分子化合物を挙げることができる。これら高分子化合物の電解液に対する濃度は、使用する高分子化合物の分子量等にもよるが、通常0.1質量%以上30質量%以下である。高分子化合物の濃度が低すぎると電解液の保持性が低下して、流動、液漏れの問題が生じることがある。また、高分子化合物の濃度が高すぎると粘度が高くなりすぎて工程上困難を生じるとともに、電解液の割合が低下してイオン伝導度が低下しレート特性等の電池特性が低下する傾向にある。
【0054】
半固体状の非流動性電解質を形成する方法としては、上述した電解液をポリアルキレンオキシドのイソシアネ−ト架橋体等の高分子化合物に浸す方法や半固体状電解質前駆体を非流動化処理する方法が用いられる。好ましくは、(1)重合性ゲル化剤を含有する電解液に紫外線硬化や熱硬化等の重合処理を施す方法や、(2)高分子化合物を電解液中に高温溶解したものを常温まで冷却する方法のような、半固体状電解質前駆体を非流動化処理する方法が用いられる。
【0055】
重合性ゲル化剤を含有する電解液を用いる(1)の方法の場合、重合性ゲル化剤としては、例えばアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基等の不飽和二重結合を有するものが挙げられる。具体的には、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、エトキシエチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、エトキシエチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエトキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、アリルアクリレート、アクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリアルキレングリコールジアクリレート、ポリアルキレングリコールジメタクリレート等が使用でき、さらにトリメチロールプロパンアルコキシレートトリアクリレート、ペンタエリスリトールアルコキシレートトリアクリレート等の3官能モノマー、ペンタエリスリトールアルコキシレートテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンアルコキシレートテトラアクリレート等の4官能以上のモノマー等も使用できる。中でも、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有するオキシアルキレングリコール系化合物が好ましい。
【0056】
一方、高分子化合物を電解液中に高温溶解したものを常温まで冷却することで半固体状の非流動性電解質を形成する(2)の方法の場合、このような高分子化合物としては、電解液に対してゲルを形成し電池材料として安定なものであればどのようなものであっても使用できる。具体的には、例えばポリビニルピリジン、ポリ−N−ビニルピロリドン等の環を有するポリマーが挙げられる。また、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸ポリクリルアミド等のアクリル誘導体系ポリマーが挙げられる。ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂が挙げられる。ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンシアニド等のCN基含有ポリマーが挙げられる。ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール系ポリマーが挙げられる。ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン含有ポリマー等が挙げられる。また、上記の高分子化合物等の混合物、変性体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体等であっても使用できる。これらの高分子化合物の重量平均分子量は10000以上5000000以下の範囲であることが好ましい。分子量が低いとゲルを形成しにくくなり、分子量が高いと粘度が高くなりすぎて取り扱いが難しくなるからである。
【0057】
2.第2の実施の形態
(非水電解質電池の構成)
この発明の第2の実施の形態による非水電解質電池について説明する。図1は、この発明の第2の実施の形態による非水電解質電池の分解斜視構成を表しており、図2は、図1に示した巻回電極体30のI−I線に沿った断面を拡大して示している。この非水電解質電池は、例えば、充電および放電可能な非水電解質二次電池である。
【0058】
この非水電解質電池は、主に、フィルム状の外装部材40の内部に、正極リード31および負極リード32が取り付けられた巻回電極体30が収納されたものである。このフィルム状の外装部材40を用いた電池構造は、ラミネート型と呼ばれている。
【0059】
正極リード31および負極リード32は、例えば、外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード31は、例えば、アルミニウム等の金属材料によって構成されており、負極リード32は、例えば、銅、ニッケルまたはステンレス等の金属材料によって構成されている。これらの金属材料は、例えば、薄板状または網目状になっている。
【0060】
外装部材40は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムがこの順に貼り合わされたアルミラミネートフィルムによって構成されている。この外装部材40は、例えば、ポリエチレンフィルムが巻回電極体30と対向するように、2枚の矩形型のアルミラミネートフィルムの外縁部同士が融着または接着剤によって互いに接着された構造を有している。
【0061】
外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料によって構成されている。このような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンまたは変性ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0062】
なお、外装部材40は、上記したアルミラミネートフィルムに代えて、他の積層構造を有するラミネートフィルムによって構成されていてもよいし、ポリプロピレン等の高分子フィルムまたは金属フィルムによって構成されていてもよい。
【0063】
図2は、図1に示した巻回電極体30のI−I線に沿った断面構成を表している。この巻回電極体30は、セパレータ35および電解質36を介して正極33と負極34とが積層および巻回されたものであり、その最外周部は、保護テープ37によって保護されている。
【0064】
(正極)
正極33は、例えば、一対の面を有する正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。ただし、正極活物質層33Bは、正極集電体33Aの片面だけに設けられていてもよい。正極集電体33Aとしては、例えばアルミニウム(Al)箔、ニッケル(Ni)箔または、ステンレス(SUS)箔等の金属箔を用いることができる。
【0065】
正極活物質層33Bは、正極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて、結着剤や導電剤等の他の材料を含んでいてもよい。
【0066】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2(0.05≦x≦1.10))、リチウムニッケル複合酸化物(LixNiO2(0.05≦x≦1.10))、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(LixNi1-zCoz2(0.05≦x≦1.10、0<z<1)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LixNi(1-v-w)CovMnw2(0.05≦x≦1.10、0<v<1、0<w<1、v+w<1))、またはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn24)またはリチウムマンガンニッケル複合酸化物(LiMn2-tNit4(0<t<2))等が挙げられる。中でも、コバルトを含む複合酸化物が好ましい。高い容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。また、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4)、リチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-uMnuPO4(0<u<1))、LixFe1-yM2yPO4(式中、M2は、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)からなる群のうちの少なくとも1種を表す。xは、0.9≦x≦1.1の範囲内の値である。)等が挙げられる。
【0067】
その他、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムまたは二酸化マンガン等の酸化物や、二硫化チタンまたは硫化モリブデン等の二硫化物や、セレン化ニオブ等のカルコゲン化物や、硫黄、ポリアニリンまたはポリチオフェン等の導電性高分子も挙げられる。もちろん、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料は、上記以外のものであってもよい。また、上記した一連の正極材料は、任意の組み合わせで2種以上混合されてもよい。
【0068】
(結着剤)
結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムまたはエチレンプロピレンジエン等の合成ゴムや、ポリフッ化ビニリデン等の高分子材料、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース等が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0069】
(導電剤)
導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック等の炭素材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されていてもよい。
【0070】
(負極)
負極34は、一対の面を有する負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられたものである。ただし、負極活物質層34Bは、負極集電体34Aの片面だけに設けられていてもよい。負極集電体34Aとしては、例えば銅(Cu)箔、ニッケル箔またはステンレス箔等の金属箔を用いることができる。
【0071】
負極活物質層34Bは、負極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて、結着剤や導電剤等の他の材料を含んでいてもよい。この際、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料における充電可能な容量は正極33の放電容量よりも大きくなっていることが好ましい。なお、結着剤および導電剤に関する詳細は、正極33と同様である。
【0072】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維または活性炭等の炭素材料が挙げられる。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスまたは石油コークス等がある。有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂等の高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいい、一部には難黒鉛化性炭素または易黒鉛化性炭素に分類されるものもある。また、高分子材料としてはポリアセチレンまたはポリピロール等がある。これら炭素材料は、充放電時に生じる結晶構造の変化が非常に少なく、高い充放電容量を得ることができると共に、良好なサイクル特性を得ることができるので好ましい。特に黒鉛は、電気化学当量が大きく、高いエネルギー密度を得ることができ好ましい。
【0073】
負極活物質は、BET比表面積が0.8m2/g以上4.0m2/g以下である炭素材料を用いることが好ましい。このような炭素材料は電解液の保持性に優れ、電極表面でのリチウムイオンの吸蔵および放出が容易なため高い特性が得られる。
【0074】
炭素材料の比表面積が上記の範囲より小さい場合、負極を高密度化した場合の電解液保持性が下がるとともに、電解液との反応面積が減少するために負荷特性が低下する。逆に、比表面積が上記の範囲を超えた場合、電解液の分解反応が促進され、ガス発生が増加する傾向がある。
【0075】
このような炭素材料を得る手段としては、比較的低い比表面積を持つ人造黒鉛と、高い比表面積をもつ天然黒鉛を混合して用いる手法や、天然黒鉛の表面を改質して比表面積を低減する手法が挙げられる。表面改質の手段としては、炭素材料を熱処理する方法、力学的エネルギーを加える方法、炭素材料表面に低結晶性炭素を被覆する方法等がある。
【0076】
負極の製造方法としては、例えば負極材料と結着剤とを混合して負極合剤を調製し、N−メチル−2−ピロリドン等の溶剤に分散させることにより負極合剤スラリーを作製する。次に、この負極合剤スラリーを負極集電体に塗布し乾燥させ、圧縮成型して負極活物質層を形成し、負極を作製する。その際の加圧圧力を調整することで、負極合剤層が目的の密度となるようにする。負極合剤層の密度は、1.50g/cc以上1.80g/cc以下であることが好ましく、1.55g/cc以上1.75g/cc以下であることがより好ましい。負極合剤層の密度が低すぎる場合、体積あたりの活物質量が少なく、負極中の空隙により伝導性も低下するために容量が低下する。また、負極合剤層の密度が高すぎる場合には電極中の電解液保持性が低下し、電極界面でのリチウムイオンの移動を妨げる傾向にある。
【0077】
上述の炭素材料の他、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として有する材料が挙げられる。高いエネルギー密度が得られるからである。このような負極材料は、金属元素または半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、それらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、この発明における「合金」には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含まれる。また、「合金」は、非金属元素を含んでいてもよい。この組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、またはそれらの2種以上が共存するものがある。
【0078】
上記した金属元素または半金属元素としては、例えば、リチウムと合金を形成することが可能な金属元素または半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)または白金(Pt)等である。中でも、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種が好ましく、ケイ素がより好ましい。リチウムを吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0079】
ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する負極材料としては、例えば、ケイ素の単体、合金または化合物や、スズの単体、合金または化合物や、それらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。
【0080】
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)およびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。スズの合金としては、例えば、スズ(Sn)以外の第2の構成元素として、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)およびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。
【0081】
スズの化合物またはケイ素の化合物としては、例えば、酸素(O)または炭素(C)を含むものが挙げられ、スズ(Sn)またはケイ素(Si)に加えて、上記した第2の構成元素を含んでいてもよい。
【0082】
また、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、他の金属化合物または高分子材料が挙げられる。他の金属化合物としては、MnO2、V25、V613等の酸化物、NiS、MoS等の硫化物、LiN3等のリチウム窒化物が挙げられる。高分子材料としては、ポリアセチレン、ポリアニリンまたはポリピロール等が挙げられる。 なお、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料は、上記以外のものであってもよい。また、上記の負極材料は、任意の組み合わせで2種以上混合されてもよい。
【0083】
(電解質)
電解質36は、例えば、第1の実施の形態で説明した、ゲル状電解質のような、電解液を高分子化合物に保持させて非流動化した半固体状の非流動性電解質である。電解液、高分子化合物の詳細については、第1の実施の形態と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0084】
(セパレータ)
セパレータ35は、正極33と負極34とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。例えば、ポリエチレン(PE)またはポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系の材料よりなる多孔質膜により構成されている。セパレータは、2種以上の多孔質膜を積層した構造とされていてもよい。また、セパレータとして、ポリオレフィン系の材料よりなる多孔質膜上にポリフッ化ビニリデン(PVdF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の多孔性の樹脂層を形成したものを用いてもよい。
【0085】
なお、多孔性ポリオレフィンフィルムと半固体状の非流動性電解質を併用した形のセパレータ35に電解液を含浸させてもよい。すなわち、電解液を保持するための高分子化合物を表面に被着させたセパレータ35を用いることができる。このようなセパレータ35を用いることにより、後に電池作製工程においてセパレータ35に電解液を含浸させた際に、セパレータ35表面に電解質36が形成される。このとき、電解液は、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物と、式(2)〜式(5)で表される環状炭酸エステル化合物とを含むものを用いる。また、この発明では、セパレータ35を用いず、非流動性電解質を正極33および負極34を隔離する層として用いてもよい。
【0086】
(非水電解質電池の製造方法)
この非水電解質電池は、例えば、以下の3種類の製造方法(第1〜第3の製造方法)によって製造される。
【0087】
(第1の製造方法)
第1の製造方法では、まず、以下のように正極33および負極34を製造する。
【0088】
正極材料と、結着剤と、導電剤とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドン等の溶剤に分散して混合液を調製する。次に、この正極合剤スラリーを正極集電体33Aに塗布し乾燥させたのち、ロールプレス機等により圧縮成型して正極活物質層33Bを形成し、正極33を得る。
【0089】
負極材料と、結着剤とを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤をN−メチル−2−ピロリドン等の溶剤に分散させて負極合剤スラリーとする。次に、この負極合剤スラリーを負極集電体34Aに塗布し溶剤を乾燥させたのち、ロールプレス機等により圧縮成型して負極活物質層34Bを形成し、負極34を得る。
【0090】
次に、まず、非水溶媒と、電解質塩とともに、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物と、式(2)〜式(5)で表される環状炭酸エステル化合物と、溶剤とを含む前駆溶液を調製する。この後、正極33および負極34のそれぞれの表面にこの前駆溶液を塗布した後、溶剤を揮発させてゲル状の電解質36を形成する。続いて、正極集電体33Aおよび負極集電体34Aにそれぞれ正極リード31および負極リード32を取り付ける。ここで、正極リード31および負極リード32は、電解質36の形成前に正極集電体33および負極集電体34に取り付けておくようにしてもよい。
【0091】
続いて、電解質36が設けられた正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層させてから長手方向に巻回し、その最外周部に保護テープ37を接着させて巻回電極体30を形成する。最後に、例えば2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだ後、その外装部材40の外縁部同士を熱融着等で接着させて減圧下で封止し、巻回電極体30を封入する。このとき、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に、密着フィルム41を挿入する。これにより、非水電解質電池が完成する。
【0092】
(第2の製造方法)
第2の製造方法では、まず、正極集電体33Aおよび負極集電体34Aにそれぞれ正極リード31および負極リード32を取り付ける。そして、正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層させてから長手方向に巻回し、その最外周部に保護テープ37を接着させて巻回電極体30を形成する。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだ後、一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を熱融着等により接着させて、袋状の外装部材40の内部に巻回電極体30を収納する。
【0093】
続いて、非水溶媒と、電解質塩とともに、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物と、式(2)〜式(5)で表される環状炭酸エステル化合物とを含む電解液と、電解液を保持する高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤等の他の材料とを含む電解質用組成物を調製して袋状の外装部材40の内部に注入する。最後に、外装部材40の開口部を熱融着等により封止し、モノマーを熱重合させて高分子化合物とすることにより、ゲル状の電解質36を形成する。これにより、非水電解質電池が完成する。
【0094】
(第3の製造方法)
第3の製造方法では、まず、セパレータ35の両面に電解液を保持するための高分子化合物を塗布する。このセパレータ35に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体、すなわち単独重合体、共重合体または多元共重合体等が挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体等である。なお、高分子化合物は、上記したフッ化ビニリデンを成分とする重合体と共に、他の1種または2種以上の高分子化合物を含んでいてもよい。
【0095】
次に、正極集電体33Aおよび負極集電体34Aにそれぞれ正極リード31および負極リード32を取り付ける。そして、正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層させてから長手方向に巻回し、その最外周部に保護テープ37を接着させて巻回電極体30を形成し、袋状の外装部材40の内部に収容する。この後、非水溶媒と、電解質塩とともに、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物と、式(2)〜式(5)で表される環状炭酸エステル化合物とを含む電解液を外装部材40の内部に注液し、外装部材40の開口部を熱融着等により封止する。最後に、外装部材40に加重をかけながら加熱し、高分子化合物を介してセパレータ35を正極33および負極34に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸し、ゲル状の電解質36が形成される。これにより、非水電解質電池が完成する。
【0096】
第3の製造方法では、第1の製造方法と比較して、非水電解質電池の膨れが抑制される。また、第3の製造方法では、第2の製造方法と比較して、高分子化合物の原料であるモノマーや溶媒等が電解質36中にほとんど残らず、しかも高分子化合物の形成工程が良好に制御されるため、正極33、負極34およびセパレータ35と電解質36との間において十分な密着性が得られる。このため、第3の製造方法を用いることがより好ましい。
【0097】
3.第3の実施の形態
この発明の第3の実施の形態による非水電解質電池について説明する。この発明の第3の実施の形態による非水電解質電池は、電解液を高分子化合物に保持させたもの(電解質36)に代えて、電解液をそのまま用いた点以外は、第2の実施の形態による非水電解質電池と同様である。したがって、以下では、第2の実施の形態と異なる点を中心にその構成を詳細に説明する。
【0098】
(非水電解質電池の構成)
この発明の第3の実施の形態による非水電解質電池では、ゲル状の電解質36の代わりに、電解液を用いている。したがって、巻回電極体30は、電解質36が省略された構成を有し、電解液がセパレータ35に含浸されている。
【0099】
(非水電解質電池の製造方法)
この非水電解質電池は、例えば、以下のように製造する。
【0100】
まず、例えば正極活物質と結着剤と導電剤とを混合して正極合剤を調製し、N−メチル−2−ピロリドン等の溶剤に分散させることにより正極合剤スラリーを作製する。次に、この正極合剤スラリーを両面に塗布し、乾燥させ圧縮成型して正極活物質層33Bを形成し正極33を作製する。次に、例えば正極集電体33Aに正極リード31を、例えば超音波溶接、スポット溶接等により接合する。
【0101】
また、例えば負極材料と結着剤とを混合して負極合剤を調製し、N−メチル−2−ピロリドン等の溶剤に分散させることにより負極合剤スラリーを作製する。次に、この負極合剤スラリーを負極集電体34Aの両面に塗布し乾燥させ、圧縮成型して負極活物質層34Bを形成し、負極34を作製する。次に、例えば負極集電体34Aに負極リード32を例えば超音波溶接、スポット溶接等により接合する。
【0102】
続いて、正極33と負極34とをセパレータ35を介して巻回して外装部材40の内部に挟み込んだのち、外装部材40の内部に、電解液を注入し、外装部材40を密閉する。これにより、図3および図4に示す非水電解質電池が得られる。
【0103】
4.第4の実施の形態
(非水電解質電池の構成)
次に、図3〜図4を参照しながら、この発明の第4の実施の形態による非水電解質電池の構成について説明する。図3は、この発明の第4の実施の形態による非水電解質電池の一構成例を示す。この非水電解質電池は、いわゆる円筒型といわれるものであり、外装部材としての円筒缶であるほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、帯状の正極21と帯状の負極22とがセパレータ23を介して巻回された巻回電極体20を有している。セパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。電池缶11は、例えばニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶11の内部には、巻回電極体20を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板12、13がそれぞれ配置されている。
【0104】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、この電池蓋14の内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗(PTC:Positive Temperature Coefficient)素子16が、ガスケット17を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されており、内部短絡または外部からの加熱等により電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
【0105】
巻回電極体20は、例えば、センターピン24を中心に巻回されている。巻回電極体20の正極21にはアルミニウム(Al)等よりなる正極リード25が接続されており、負極22にはニッケル(Ni)等よりなる負極リード26が接続されている。正極リード25は安全弁機構15に溶接されることにより電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は電池缶11に溶接され電気的に接続されている。
【0106】
図4は、図3に示した巻回電極体20の一部を拡大して表す断面図ある。巻回電極体20は、正極21と負極22とをセパレータ23を介して積層し、巻回したものである。
【0107】
正極21は、例えば、正極集電体21Aと、この正極集電体21Aの両面に設けられた正極活物質層21Bとを有している。負極22は、例えば、負極集電体22Aと、この負極集電体22Aの両面に設けられた負極活物質層22Bとを有している。正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22B、セパレータ23および電解液の構成はそれぞれ、上述の第2の実施の形態における正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34A、負極活物質層34B、セパレータ35および電解液と同様である。
【0108】
(非水電解質電池の製造方法)
上述した非水電解質電池は、以下のようにして製造できる。
【0109】
正極21は、第2の実施の形態の正極33と同様にして作製する。負極22は、第2の実施の形態の負極34と同様にして作製する。
【0110】
次に、正極集電体21Aに正極リード25を溶接等により取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接等により取り付ける。その後、正極21と負極22とをセパレータ23を介して巻回し、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接すると共に、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接して、巻回した正極21および負極22を一対の絶縁板12、13で挟み、電池缶11の内部に収納する。正極21および負極22を電池缶11の内部に収納したのち、電解液を電池缶11の内部に注入し、セパレータ23に含浸させる。その後、電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16を、ガスケット17を介してかしめることにより固定する。以上により、図3に示した非水電解質電池が作製される。
【実施例】
【0111】
本発明の具体的な実施例について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、説明の便宜上、以下に示すように、実施例で用いた以下の化合物を化A〜化Mとして説明する。
【0112】
【化17】

【0113】
<実施例1−1>
以下の手順により、負極活物質として、非晶質コート天然黒鉛と天然黒鉛とが混合された炭素材料(日立化成工業社製、MAGX−SO2)を用いて、図1および図2に示したラミネート型の二次電池を作製した。
【0114】
まず、正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)94質量部と、導電剤としてグラファイト3質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)3質量部とを均質に混合してN−メチルピロリドンを添加し、正極合剤スラリーを得た。
【0115】
次に、この正極合剤スラリーを、厚み10μmのアルミニウム箔上の両面に、均一に塗布し、乾燥させ圧縮成型し、片面あたりの厚さが30μmの正極活物質層(活物質層の体積密度:3.40g/cc)を形成した。これを幅50mm、長さ300mmの形状に切断して正極を得た。
【0116】
また、負極活物質として、非晶質コート天然黒鉛と天然黒鉛とが混合された炭素材料(日立化成工業社製、MAGX−SO2)97質量部と、結着剤としてカルボキシメチルセルロース1質量部、スチレンブタジエンゴム2質量部とを均質に混合して水を添加し負極合剤スラリーを得た。このときの負極活物質の比表面積(BET比表面積)は3.61m2/gであった。
【0117】
次に、この負極合剤スラリーを、負極集電体となる厚み10μmの銅箔上の両面に、均一に塗布し、乾燥後200MPaでプレスし、片面当たり34μmの負極活物質層を形成した。これを幅50mm、長さ300mmの形状に切断して負極(負極活物質層の体積密度:1.60g/cc、負極活物質の比表面積:3.61m2/g)を得た。
【0118】
セパレータとしては、厚さ7μmの微多孔性ポリエチレンフィルムの両面に、電解液を保持するための高分子材料であるポリフッ化ビニリデンを2μmずつ塗布したものを用いた。
【0119】
電解液は、以下のように調製した。まず、エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)(EC:DEC=4:6(質量比))の混合溶媒に、電解質塩として、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1.0mol/kgとなるように溶解させたものを調製した。これに対して、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物として化Aをその濃度が電解液の全質量に対して0.005質量%となるように添加し、環状炭酸エステル化合物として化Iをその濃度が電解液の全量に対して1質量%となるように添加した。
【0120】
次に、正極と負極とをセパレータを介して巻回した後、アルミニウムラミネートフィルムからなる袋状の外装部材に入れたのち、電解液を2g注液し、その後袋を熱融着した。以上により、実施例1−1のラミネート型電池を作製した。
【0121】
<実施例1−2>
電解液の調製の際に、化Aの濃度を0.01質量%に変えた点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0122】
<実施例1−3>
電解液の調製の際に、化Aの濃度を0.5質量%に変え、化Iの濃度を0.5質量%に変えた点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0123】
<実施例1−4>
電解液の調製の際に、化Aの濃度を0.5質量%に変えた点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0124】
<実施例1−5>
電解液の調製の際に、化Aの濃度を0.5質量%に変え、化Iの濃度を3質量%に変えた点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0125】
<実施例1−6>
電解液の調製の際に、化Aの濃度を0.5質量%に変え、化Iの濃度を5質量%に変えた点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0126】
<実施例1−7>
電解液の調製の際に、化Aの濃度を1質量%に変えた点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0127】
<実施例1−8>
電解液の調製の際に、化Aの濃度を2質量%に変えた点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0128】
<実施例1−9>
電解液の調製の際に、化Aの濃度を0.01質量%に変え、化Iの代わりに化Kを1質量%添加した点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0129】
<実施例1−10>
電解液の調製の際に、化Aの濃度を0.5質量%に変え、化Iの代わりに化Kを0.5質量%添加した点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0130】
<実施例1−11>
電解液の調製の際に、化Aの濃度を0.5質量%に変え、化Iの代わりに化Kを1質量%添加した点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0131】
<実施例1−12>
電解液の調製の際に、化Aの濃度を0.5質量%に変え、化Iの代わりに化Kを3質量%添加した点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0132】
<実施例1−13>
電解液の調製の際に、化Aの濃度を1質量%に変え、化Iの代わりに化Kを1質量%添加した点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0133】
<実施例1−14>
電解液の調製の際に、化Aの代わりに化Fを0.01質量%添加した点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0134】
<実施例1−15>
電解液の調製の際に、化Aの代わりに化Fを0.5質量%添加し、化Iの濃度を0.5質量%に変えた点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0135】
<実施例1−16>
電解液の調製の際に、化Aの代わりに化Fを0.5質量%添加した点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0136】
<実施例1−17>
電解液の調製の際に、化Aの代わりに化Fを0.5質量%添加し、化Iの濃度を3質量%に変えた点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0137】
<実施例1−18>
電解液の調製の際に、化Aの代わりに化Fを1質量%添加した点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0138】
<実施例1−19>
電解液の調製の際に、化Aの代わりに化Fを2質量%添加した点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0139】
<実施例1−20>
電解液の調製の際に、化Aの代わりに化Gを0.01質量%添加した点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0140】
<実施例1−21>
電解液の調製の際に、化Aの代わりに化Gを0.5質量%添加し、化Iの濃度を0.5質量%に変えた点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0141】
<実施例1−22>
電解液の調製の際に、化Aの代わりに化Gを0.5質量%添加した点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0142】
<実施例1−23>
電解液の調製の際に、化Aの代わりに化Gを0.5質量%添加し、化Iの濃度を3質量%に変えた点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0143】
<実施例1−24>
電解液の調製の際に、化Aの代わりに化Gを1質量%添加した点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0144】
<実施例1−25>
電解液の調製の際に、化Aの代わりに化Gを2質量%添加した点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0145】
<比較例1−1>
電解液の調製の際に、化Aおよび化Iを添加しなかった点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0146】
<比較例1−2>
電解液の調製の際に、化Aの添加量を1質量%に変え、化Iを添加しなかった点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0147】
<比較例1−3>
電解液の調製の際に、化Aを添加しなかった点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0148】
実施例1−1〜実施例1−25および比較例1−1〜比較例1−3の各ラミネート型電池について、以下の評価を行った。
【0149】
(評価)
作製した各ラミネート型電池ついて、以下のように、初回充電時ガス発生、長期サイクル後の放電容量維持率、長期サイクル後のセル厚増加、負荷特性、および高温(60℃)保存後の抵抗変化を測定した。
【0150】
(初回充電時ガス発生の測定)
最初に、各電池を23℃環境下900mAで上限電圧4.2Vまで定電流定電圧充電したのち、初回充電時のガス発生によるセル変形の有無を調べ、ガス発生の見られたセルについては、セル厚の増加率を求めた。その後、900mAで終止電圧3.0Vまで定電流放電させて初回放電容量を測定した。
【0151】
(初期容量および長期サイクル試験)
最初に、各電池を23℃環境下900mAで1サイクル充放電させて、初回放電容量を求めた。続いて、23℃環境下において、300サイクルの充放電を繰り返した。このとき、放電容量維持率(%)=(300サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100として算出した。充放電条件としては、1Cの電流で上限電圧4.2Vまで定電流定電圧充電したのち、1Cの電流で終止電圧3.0Vまで定電流放電した。この「1C」とは、理論容量を1時間で放電しきる電流値である。
【0152】
(長期サイクル後のセル厚増加測定)
長期サイクル試験において、300サイクルの充放電を繰り返した後の各電池について、300サイクル後の電池厚さと初回放電後の電池厚さとの差を長期サイクル後のセル厚増加として求めた。
【0153】
(長期サイクル後負荷特性の測定)
300サイクルの充放電を繰り返した後の各電池について、1Cの電流で上限電圧4.2Vまで定電流定電圧充電したのち、0.2Cの電流で終止電圧3.0Vまで定電流放電したときの放電容量(0.2C放電容量)を測定した。次に、1Cの電流で上限電圧4.2Vまで定電流定電圧充電したのち、3Cの電流で終止電圧3.0Vまで定電流放電したときの放電容量(3C放電容量)を測定し、負荷特性を、(3C放電容量/0.2C放電容量)×100(%)として求めた。この「0.2C」とは、理論容量を5時間で放電しきる電流値であり、「3C」とは、理論容量を20分で放電しきる電流値である。
【0154】
(高温保存後抵抗の測定)
初回充電後に、各電池を23℃環境下900mAで上限電圧4.2Vまで定電流定電圧充電したのち、交流インピーダンス測定装置を用いて周波数1MHz〜50mHzまで走査し、縦軸に虚数部、横軸に実数部を示すコール−コールプロットを作成した。続いて、このコール−コールプロットの円弧部分を円でフィッティングして、この円の実数部分と交差する二点のうち、大きい方の値を電池の抵抗とした。測定後の電池を、充電させた状態で60℃の恒温槽中に15日間保存してから同様の測定を行い、保存後抵抗変化(mΩ)=(保存後の抵抗)−(初回充電時の抵抗)として算出した。
【0155】
実施例1−1〜実施例1−25および比較例1−1〜比較例1−3について、評価結果を表1に示す。
【0156】
【表1】

【0157】
表1から以下のことがわかった。化Aのような式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物と、化Iのような式(2)で表される環状炭酸エステル化合物とを含む非水電解質を用いることにより、初回充電時のガス発生を抑制しながら、長期サイクル後のセル厚増加を抑制することができた。実施例1−1〜実施例1−25では、比較例1−1より、サイクルに伴う容量劣化(放電容量維持率の低下)、サイクル後のセル厚増加、サイクル後の負荷特性の低下、保存後の抵抗上昇を抑制することができた。比較例1−2では、非水電解質中に化Aを含有するが、化Iを含有しないため、初回充電時のガス発生を抑制できなかった。比較例1−3では、非水電解中に化Iを含有するが、化Aを含有しないため、実施例1−1〜実施例1−25より、放電容量維持率の低下、サイクル後の負荷特性の低下、保存後の抵抗上昇を抑制することができなかった。また、実施例1−1〜実施例1−8によれば、初回充電時のガス発生、保存後の抵抗変化の点から、式(1)で表される化合物の含有量は、0.01質量%以上1質量%以下が好ましいことが確認できた。
【0158】
さらに、実施例1−1〜実施例1−8および実施例1−14〜実施例1−25によれば、化F、化Gのようなスピロ環を有する式(1A)で表されるオルト炭酸エステル化合物は、化Aのような環を有さないオルト炭酸エステル化合物より、ガス発生しにくいことが確認できた。また、化Fより化Gの方がガス発生しにくいことが確認できた。
【0159】
<実施例2−1>
実施例1−4と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0160】
<実施例2−2〜実施例2−5>
化Iの代わりに化J、化K、化Lまたは化Mを添加した点以外は、実施例2−1と同様にして、各ラミネート型電池を作製した。
【0161】
<実施例2−6〜実施例2−10>
化Aの代わりに、化Bを添加した点以外は、実施例2−1〜実施例2−5と同様にして、各ラミネート型電池を作製した。
【0162】
<実施例2−11〜実施例2−15>
化Aの代わりに化Cを添加した点以外は、実施例2−1〜実施例2−5と同様にして、各ラミネート型電池を作製した。
【0163】
<実施例2−16〜実施例2−20>
化Aの代わりに化Dを添加した点以外は、実施例2−1〜実施例2−5と同様にして、各ラミネート型電池を作製した。
【0164】
<実施例2−21〜実施例2−25>
化Aの代わりに化Eを添加した点以外は、実施例2−21〜実施例2−25と同様にして、各ラミネート型電池を作製した。
【0165】
<実施例2−26〜実施例2−30>
化Aの代わりに化Fを添加した点以外は、実施例2−26〜実施例2−30と同様にして、各ラミネート型電池を作製した。
【0166】
<実施例2−31〜実施例2−35>
化Aの代わりに化Gを添加した点以外は、実施例2−31〜実施例2−35と同様にして、各ラミネート型電池を作製した。
【0167】
<実施例2−36〜実施例2−40>
化Aの代わりに化Hを添加した点以外は、実施例2−36〜実施例2−40と同様にして、各ラミネート型電池を作製した。
【0168】
(評価)
実施例2−1〜実施例2−40のラミネート型電池について、実施例1−1と同様にして、初回充電時ガス発生、長期サイクル後のセル厚増加、負荷特性、および高温保存後の抵抗変化を測定した。評価結果を表2に示す。
【0169】
【表2】

【0170】
表2から以下のことがわかった。式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物として、化Dのようなアリール基を有するオルト炭酸エステル化合物、化Eのようなハロゲン基を有するオルト炭酸エステル化合物、化F、化G、化Hのようなスピロ環を有するオルト炭酸エステル化合物を用いた場合においても、以下のことがわかった。すなわち、初回充電時のガス発生、サイクルに伴う容量劣化(放電容量維持率の低下)、サイクル後のセル厚増加、サイクル後の負荷特性の低下、保存後の抵抗上昇を抑制することができた。また、ハロゲンとしてフッ素を有する環状炭酸エステル化合物に代えて、化Jのような塩素を有する式(2)で表される環状炭酸エステル化合物、化Kのような式(3)で表される不飽和結合を有する環状炭酸エステル化合物、化Lのような式(4)で表される不飽和結合を有する環状炭酸エステル化合物、化Mのような式(5)で表される不飽和結合を有する環状炭酸エステル化合物を用いても、同様の効果が得られることがわかった。容量維持率および負荷特性の観点から、化Iのようなフッ素を有する環状炭酸エステルまたは化Kのような式(3)で表される環状炭酸エステル化合物が好ましいことがわかった。
【0171】
<実施例3−1>
負極活物質として、非晶質コート天然黒鉛と天然黒鉛とが混合された炭素材料(日立化成工業社製、MAGX−SO2)のみを用いて、負極合剤密度が1.65g/ccとなるように乾燥後のプレスを行った。なお、負極活物質の比表面積は3.61m2/gであった。
【0172】
電解液は、以下のように調製した。まず、エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)(EC:DEC=4:6(質量比))の混合溶媒に、電解質塩として、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1.0mol/kgとなるように溶解させたものを調製した。これに対して、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物として化Aをその濃度が電解液の全質量に対して0.5質量%となるように添加し、環状炭酸エステル化合物として化Iをその濃度が電解液の全質量に対して1質量%となるように添加した。
【0173】
以上の点以外は、実施例1−1と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0174】
<実施例3−2>
負極活物質として、非晶質コート天然黒鉛と天然黒鉛とが混合された炭素材料(日立化成工業社製、MAGX−SO2)のみを用いて、負極合剤密度が1.60g/ccとなるように乾燥後のプレスを行った以外は、実施例3−1と同様にしてラミネート型電池を作製した。
【0175】
<実施例3−3>
負極活物質として、非晶質コート天然黒鉛と天然黒鉛とが混合された炭素材料(日立化成工業社製、MAGX−SO2)のみを用いて、負極合剤密度が1.50g/ccとなるように乾燥後のプレスを行った以外は、実施例3−1と同様にしてラミネート型電池を作製した。
【0176】
<実施例3−4>
負極活物質として、MCMB(メソカーボンマイクロビーズ)系黒鉛20質量部と、非晶質コート天然黒鉛と天然黒鉛とが混合された炭素材料(日立化成工業社製、MAGX−SO2)80質量部とを均一に混合したものを用いた。このときの負極活物質の比表面積は3.05m2/gであった。負極合剤密度は1.60g/ccとなるように乾燥後のプレスを行った。以上の点以外は、実施例3−1と同様にしてラミネート型電池を作製した。
【0177】
<実施例3−5>
負極活物質として、MCMB(メソカーボンマイクロビーズ)系黒鉛50質量部と、非晶質コート天然黒鉛と天然黒鉛とが混合された炭素材料(日立化成工業社製、MAGX−SO2)50質量部とを均一に混合したものを用いた。このときの負極活物質の比表面積は2.08m2/gであった。負極合剤密度は1.60g/ccとなるように乾燥後のプレスを行った。以上の点以外は、実施例3−1と同様にしてラミネート型電池を作製した。
【0178】
<実施例3−6>
負極活物質として、MCMB(メソカーボンマイクロビーズ)系黒鉛80質量部と、非晶質コート天然黒鉛と天然黒鉛とが混合された炭素材料(日立化成工業社製、MAGX−SO2)20質量部とを均一に混合したものを用いた。このときの負極活物質の比表面積は1.10m2/gであった。負極合剤密度は1.60g/ccとなるように乾燥後のプレスを行った。以上の点以外は、実施例3−1と同様にしてラミネート型電池を作製した。
【0179】
<実施例3−7>
負極活物質として、MCMB(メソカーボンマイクロビーズ)系黒鉛のみを用いて、MCMB系鉛97質量部と、結着剤としてPVdF3質量部とを均質に混合してN−メチルピロリドンを添加した負極合剤スラリーを用いた。このときの負極活物質の比表面積は0.45m2/gであった。負極合剤密度は1.60g/ccとなるように乾燥後のプレスを行った。以上の点以外は、実施例3−1と同様にしてラミネート型電池を作製した。
【0180】
<比較例3−1>
電解液の調製の際に、化Aおよび化Iを添加しなかった点以外は、実施例3−2と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0181】
<比較例3−2>
電解液の調製の際に、化Aの濃度を1質量%に変え、化Iを添加しなかった点以外は、実施例3−2と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0182】
<比較例3−3>
電解液の調製際に、化Aを添加しなかった点以外は、実施例3−2と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0183】
<比較例3−4>
電解液の調製の際に、化Aおよび化Iを添加しなかった点以外は、実施例3−7と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0184】
<比較例3−5>
電解液の調製の際に、化Aの濃度を1質量%に変え、化Iを添加しなかった点以外は、実施例3−7と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0185】
<比較例3−6>
電解液の調製の際に、化Aを添加しなかった点以外は、実施例3−7と同様にして、ラミネート型電池を作製した。
【0186】
(評価)
実施例3−1〜実施例3−7、比較例3−1〜比較例3−6のラミネート型電池について、実施例1−1と同様にして、初回充電時ガス発生、長期サイクル後のセル厚増加、負荷特性、および高温保存後の抵抗変化を測定した。評価結果を表3に示す。
【0187】
【表3】

【0188】
表3に示すように、負極活物質として、比表面積が制御された炭素材料を用いることによって、式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物および式(2)〜式(5)で表される環状炭酸エステル化合物を含有させる効果が、より効果的に得られた。実施例3−4〜実施例3−6によれば、負極活物質の比表面積が低くなると、電極反応面積が低下することから負荷特性がより低下する傾向にある。一方、実施例3−7のように、負極活物質の比表面積が高すぎると、初回充電時またはサイクル、保存中のガス発生が大きくなる傾向にある。なお、炭素材料の表面処理により比表面積を制御した炭素材料を用いる他にも、炭素材料の混合により、活物質全体で比表面積を制御することでも同様の効果が得られることが分かる。
【0189】
5.他の実施の形態(変形例)
この発明は、上述したこの発明の実施の形態に限定されるものでは無く、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。例えば、上述の実施の形態および実施例では、巻回構造を有する非水電解質電池を具体例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、この発明は、正極と負極とを積層しつづら折りにした電池素子を備える場合、または正極および負極を積層した他の積層構造を有する非水電解質電池についても同様に適用することができる。
【0190】
また、上述の実施の形態および実施例では、フィルム状の外装部材を用いる場合、円筒型の缶の外装部材を用いる場合について説明したが、外装部材として、角型、コイン型またはボタン型の缶を用いてもよい。
【0191】
さらに、上述の実施形態および実施例では、電極反応にリチウムを用いる場合を説明したが、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)等の他のアルカリ金属、またはマグネシウムまたはカルシウム(Ca)等のアルカリ土類金属、またはアルミニウム等の他の軽金属を用いる場合についても、この発明を適用することができ、同様の効果を得ることができる。また、負極活物質としてリチウム金属を用いてもよい。
【0192】
また、上記実施の形態および実施例では、電解質における式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物と式(2)〜式(5)で表される環状炭酸エステル化合物の含有量、および負極活物質の比表面積と負極活物質層の体積密度について、適正範囲を説明しているが、その説明は、含有量が上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本発明の効果を得る上で特に好ましい範囲であり、本発明の効果が得られるのであれば、含有量が上記した範囲から多少外れてもよい。
【符号の説明】
【0193】
11・・・電池缶、12,13・・・絶縁板、14・・・電池蓋、15A・・・ディスク板、15・・・安全弁機構、16・・・熱感抵抗素子、17・・・ガスケット、20・・・巻回電極体、21・・・正極、21A・・・正極集電体、21B・・・正極活物質層、22・・・負極、22A・・・負極集電体、22B・・・負極活物質層、23・・・セパレータ、24・・・センターピン、25・・・正極リード、26・・・負極リード、27・・・ガスケット、30・・・巻回電極体、31・・・正極リード、32・・・負極リード、33・・・正極、33A・・・正極集電体、33B・・・正極活物質層、34・・・負極、34A・・・負極集電体、34B・・・負極活物質層、35・・・セパレータ、36・・・電解質、37・・・保護テープ、40・・・外装部材、41・・・密着フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
負極と、
非水溶媒および電解質塩を含む非水電解質と
を備え、
上記非水電解質は、
式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物と、
式(2)〜式(5)で表される環状炭酸エステル化合物と
を含む非水電解質二次電池。
【化1】

(式中、R1〜R4は、それぞれ独立してアルキル基、ハロゲン化アルキル基またはアリール基である。R1〜R4は、互いに環を形成していてもよい。)
【化2】

(式中、R5〜R8は、それぞれ独立して水素基、アルキル基またはハロゲン化アルキル基である。R5〜R8のうちの少なくとも1つは、ハロゲン基またはハロゲン化アルキル基である。)
【化3】

(式中、R9〜R10は、それぞれ独立して水素基、アルキル基、ハロゲン基またはハロゲン化アルキル基である。)
【化4】

(式中、R11〜R14は、それぞれ独立してアルキル基、ビニル基またはアリル基である。R11〜R14のうちの少なくとも1つはビニル基またはアリル基である。)
【化5】

(R15はアルキレン基である。)
【請求項2】
上記式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物は、上記式(1)中の上記R1〜R4が互いに環を形成したものである請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
上記式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物は、式(1A)で表されるオルト炭酸エステル化合物である請求項1記載の非水電解質二次電池。
【化6】

(式中、R16〜R17は、それぞれ独立して、炭素数2以上のアルキレン基、炭素数2以上のハロゲン化アルキレン基または2価のアリール基である。)
【請求項4】
上記式(1A)で表されるオルト炭酸エステル化合物は、上記式(1A)中の上記R16〜R17が、それぞれ独立して、炭素数3以上のアルキレン基または炭素数3以上のハロゲン化アルキレン基であるものである請求項3記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
上記式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物の含有量は、上記非水電解質の全量に対して、0.01質量%以上2質量%以下である請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
上記式(2)〜式(5)で表される環状炭酸エステル化合物の含有量は、上記非水電解質の全量に対して、0.5質量%以上5質量%以下である請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
上記式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物は、オルト炭酸テトラメチル、オルト炭酸テトラエチル、オルト炭酸テトラ−n−プロピル、オルト炭酸ジエチレン、オルト炭酸ジプロピレンまたはオルト炭酸ジカテコールであり、
上記式(2)で表される環状炭酸エステル化合物は、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンまたは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンであり、
上記式(3)で表される環状炭酸エステル化合物は、炭酸ビニレンであり、
上記式(4)で表される環状炭酸エステル化合物は、炭酸ビニルエチレンであり、
上記式(5)で表される環状炭酸エステル化合物は、炭酸メチレンエチレンである請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
上記非水電解質は、上記式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物と、上記式(2)〜式(5)で表される環状炭酸エステル化合物と、上記電解質塩および上記非水溶媒とを含有する電解液が、高分子化合物によって保持された半固体状の非水電解質である請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項9】
上記負極は、負極活物質として炭素材料を有する負極活物質層を含む
請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項10】
上記負極活物質層の体積密度は、1.55g/cc以上1.80g/cc以下であり、
上記炭素材料の比表面積は、0.8m2/g以上4.0m2/g以下である請求項9記載の非水電解質二次電池。
【請求項11】
上記電解質塩は、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムからなる群のうちの少なくとも1種を含む請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項12】
上記正極および上記負極を含む電極体がラミネートフィルムによって外装された請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項13】
非水溶媒および電解質塩と、
式(1)で表されるオルト炭酸エステル化合物と、
式(2)〜式(5)で表される環状炭酸エステル化合物と
を含む非水電解質。
【化7】

(式中、R1〜R4は、それぞれ独立してアルキル基、ハロゲン化アルキル基またはアリール基である。R1〜R4は、互いに環を形成していてもよい。)
【化8】

(式中、R5〜R8は、それぞれ独立して水素基、アルキル基またはハロゲン化アルキル基である。R5〜R8のうちの少なくとも1つは、ハロゲン基またはハロゲン化アルキル基である。)
【化9】

(式中、R9〜R10は、それぞれ独立して水素基、アルキル基、ハロゲン基またはハロゲン化アルキル基である。)
【化10】

(式中、R11〜R14は、それぞれ独立してアルキル基、ビニル基またはアリル基である。R11〜R14のうちの少なくとも1つはビニル基またはアリル基である。)
【化11】

(R15はアルキレン基である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−119151(P2012−119151A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267453(P2010−267453)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】