説明

非水電解質二次電池及びその製造方法

【課題】扁平状電極体の成形性を向上させ、出力特性等の電池特性に優れた非水電解液二次電池を提供する。
【解決手段】本発明は、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極板と、負極活物質としてリチウムイオンの挿入・脱離可能な炭素材料を含む負極板とを、セパレータを介して積層巻回した扁平状電極体1を有する非水電解質二次電池30において、前記負極板表面には、無機酸化物と絶縁性結着材からなる保護層が設けられており、前記セパレータの前記保護層と接する面の算術平均表面粗さRaが0.40μm〜3.50μmであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンの吸蔵・放出可能な正極活物質を含む正極板と、リチウムイオンの吸蔵・放出可能な負極活物質を含む負極板とをセパレータを介して積層巻回した扁平状電極体を有する非水電解質二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型ビデオカメラ、携帯電話、ノートパソコン等の携帯用電子・通信機器等に用いられる電池として、リチウムイオンを吸蔵・放出できる炭素材料あるいは合金などを負極活物質とし、コバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)等のリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質とする非水電解質二次電池が、小型軽量で電圧が高く、しかも高容量で充放電可能な電池として実用化されている。
【0003】
近年では、非水電解質二次電池を用いた電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)などの開発が盛んに行われている。電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)などに使用される非水電解質二次電池は、スペース効率及び放熱性を高める目的から、発電要素を角形電池外装缶に収容した角形のものが好ましい。
【0004】
一例として、図1を用いて角形の非水電解質二次電池の構造を説明する。図1Aは角形非水電解質二次電池30の正面図(透視図)であり、図1Bは図1AのA−A線の断面図である。
【0005】
角形非水電解質二次電池30は、正極板(図示省略)及び負極板(図示省略)がセパレータ(図示省略)を介して積層巻回された扁平状電極板1を、非水電解質とともに角形の外装缶2の内部に収容し、封口板3によって外装缶2を密閉したものである。この扁平状電極体1は、巻回軸方向の一方の端部に正極活物質合剤層を形成しない正極芯体露出部4を備え、他方の端部に負極活物質合剤層を形成しない負極芯体露出部5を備えている。正極芯体露出部4は正極集電体6を介して正極端子7に接続され、負極芯体露出部5は負極集電体8を介して負極端子9に接続されている。

【0006】
また、正極芯体露出部4を介して正極集電体6と対向する部分には正極集電受け部材(図示省略)が接続されており、負極芯体露出部5を介して負極集電体8と対向する部分には負極集電受け部材13が接続されている。正極端子7及び負極端子9は、それぞれ絶縁材11、12を介して封口板3に固定されている。この正極端子7及び負極端子9は、それぞれ封口板3と平行に配置される板状部分7a、9aと板状部分7a、9aに接続されたボルト部分7b、9bを有し、このボルト部分7b、9bにより隣接する他の角形非水電解質二次電池と接続されている。
【0007】
角形非水電解質二次電池30は次のような手順で作製される。まず、封口板3に設けられた貫通穴(図示省略)の内面、貫通穴の周囲の電池外側表面、及び電池内側表面に絶縁材(図示省略)を配置する。そして、封口板3の電池内側表面に位置する絶縁材上に、正極集電体6を封口板3の貫通穴と正極集電体6に設けられた貫通穴(図示省略)とが重なるように位置させる。その後、正極端子7の挿入部(図示省略)を、電池外側から封口板2の貫通穴および正極集電体6の貫通穴に挿通させる。この状態で挿入部の下部(電池内側部)の径を広げて、正極集電体6と共に正極端子7を封口板3にカシメ固定する。
【0008】
負極側についても同様にして、負極集電体8と共に負極端子9を封口板3にカシメ固定する。これらの作業により各部材が一体化されると共に、正極集電体6と正極端子7、負極集電体6と負極端子9がそれぞれ通電可能に接続される。また、正負極端子7、9が封口板3と絶縁された状態で封口板3から突出した構造となる。
【0009】
その後、封口板3と一体化された扁平状電極体1を外装缶2内に挿入し、封口板3を外装缶2の開口部にレーザ溶接する。そして、電解液注液孔(図示省略)から非水電解液を注液して、この電解液注液孔を密閉される。
【0010】
非水電解質二次電池に関して様々な開発が行われているなか、上述したような電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)などに使用される非水電解質二次電池に関しては、安全性のさらなる向上が求められている。
【0011】
非水電解質二次電池の安全性を向上させるために、電池材料あるいは機構等で様々な対策が検討されており、その一例として、正極板あるいは負極板いずれかの表面に内部短絡防止を目的としてアルミナ等の無機酸化物と絶縁性結着材からなる絶縁性の保護層を設ける技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−91461号公報
【特許文献2】特開平9−245762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、従来技術に基づいてアルミナ等の無機酸化物と絶縁性結着材からなる保護層が形成された負極板を用いて扁平状の電極体を作製した場合、電極体の成形性が低下するという課題が生じた。このように電極体の成形性が低下した場合、電極体を外装缶に挿入する際に外装缶に挿入できない厚みとなる等の弊害が生じ、歩留まりの低下が懸念される。また、得られる非水電解質二次電池の出力特性等の電池特性の低下が懸念される。
【0014】
発明者らは、種々検討の結果、保護層が形成された負極板を用いて扁平状の電極体を作製した場合、セパレータと負極板表面に形成された保護層との密着性が低下することにより、電極体の成形性が低下することを見いだした。
【0015】
ここで、上記特許文献2には、算術平均表面粗さRaが0.3〜0.6μmのセパレータを用いると、電極体を加熱プレスした後、電極板とセパレータの密着性が向上することが開示されている。
しかしながら、上記特許文献2においては、負極板表面に無機酸化物と絶縁性結着材からなる絶縁性の保護層を設けることは開示されていない。
【0016】
本発明は、上記課題を解決するものであり、アルミナ等の無機酸化物と絶縁性結着材からなる保護層が形成された負極板を用いた扁平状電極体において、電極体の成形性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の非水電解質二次電池は、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極板と、負極活物質としてリチウムイオンの挿入・脱離可能な炭素材料を含む負極板とを、セパレータを介して積層巻回した扁平状電極体を有する非水電解質二次電池において、前記負極板表面には、無機酸化物と絶縁性結着材からなる保護層が形成されており、前記セパレータの前記保護層と接する面の算術平均表面粗さRaが0.40μm〜3.50μmであることを特徴とする。
【0018】
本発明者らは、検討の結果、セパレータの負極板に形成された保護層と接する面の算術平均表面粗さRaを制御することにより、セパレータと保護層の密着性を向上させ、電極体の成形性を改善できることを見出した。
【0019】
本発明によると、セパレータの保護層と接する面の算術平均表面粗さRaを0.40μm以上とすることにより、セパレータと保護層の密着性を向上させ、電極体の成形性を改善できる。また、セパレータの保護層と接する面の算術平均表面粗さRaが3.50μm以下であれば、本発明の効果が得られると考えられる。
【0020】
本発明において、保護層に含まれる無機酸化物としてアルミナ、チタ二ア、およびジルコニアからなる群から選択された少なくとも一種を使用することができる。また、無機酸化物として平均粒子径が0.1〜1.0μmのものを用いることが好ましい。
【0021】
保護層に含まれる絶縁性結着材としては、非水電解質二次電池において一般的に使用されるバインダーを用いることができる。具体的には、アクリルニトリル構造を含む共重合体、ポリイミド゛樹脂、スチレン−ブタジエン−ラバー(SBR)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)などが挙げられる。
【0022】
本発明において、表裏で異なる算術平均表面粗さRaを有するセパレータを用い、算術平均表面粗さRaが大きい面を負極板に形成された保護層と接するように配置することが好ましい。このとき、セパレータの正極板と接する面の算術平均表面粗さを0.05μm〜0.25μmとすることができる。
【0023】
セパレータはその製造方法により、表裏の算術平均表面粗さRaが異なる場合がある。これは、セパレータの製造過程において帯状のセパレータがロール上を移動する際、ロールとの摩擦によりセパレータにおいてロールと接する面の算術平均表面粗さRaが、他方の面よりも小さくなるためである。ここで、ロール上をセパレータが移動する際、生産効率向上のため複数のセパレータを重ねて移動させる場合があり、その際、ロール通過後のセパレータを剥がすと、剥がされた面の算術平均表面粗さRaがロールと接触した面よりも大きくなる。
【0024】
このことから、コストの面を考慮した場合、表裏の算術平均表面粗さRaが同等であるセパレータのみではなく、表裏の算術平均表面粗さRaが異なるセパレータを使いこなすことが必要となる。
【0025】
一方、セパレータの算術平均表面粗さRaが表裏とも大きい場合、セパレータへの活物質合剤層の噛み込みが深くなり、負極板に保護層を設けていても、内部短絡が生じる可能性が高くなると考えられる。
【0026】
発明者らは、保護層が形成された負極板に比べ、正極板のセパレータとの密着性が高いことを見出した。このため、セパレータの正極板と接する面の算術平均表面粗さRaを小さく設定することが可能であることが分かった。
【0027】
以上のことから、表裏で異なる算術平均表面粗さRaを有するセパレータおよび保護層が形成された負極板を用いる場合、算術平均表面粗さRaが大きい面を負極板に形成された保護層と接するように配置することが好ましい。このような構成により、セパレータと負極板に形成された保護層の密着性を向上させ、且つ正負極間の短絡の発生確率を低くすることが可能となる。
【0028】
ここで、本発明では上述のとおり、セパレータの負極板に形成された保護層と接する面(算術平均表面粗さRaが大きい方の面)の算術平均表面粗さRaを0.40μm〜3.50μmとする。また、正極板とセパレータの密着強度が不十分ではないため、セパレータの正極板と接する面(算術平均表面粗さRaが小さい方の面)の算術平均表面粗さRaは、セパレータへの活物質合剤層の噛み込みが深くなることを避けるために、0.05μm〜0.25μmとすることが好ましい。
【0029】
本発明の非水電解質二次電池では、負極活物質としてリチウムイオンの吸蔵・放出可能な炭素材料を用いることができる。リチウムイオンの吸蔵・放出可能な炭素材料としては、黒鉛、難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素、繊維状炭素、コークス、およびカーボンブラックなどが挙げられる。特に黒鉛を用いることが好ましい。
【0030】
本発明の非水電解質二次電池では、負極板の充填密度を0.9〜1.4g/cmとすることが好ましく、1.0〜1.2g/cmとすることがより好ましい。負極板の充填密度が0.9g/cm未満では電池のエネルギー密度が低下するため好ましくない。また、負極板の充填密度が1.4g/cmを超える場合は充放電による電極の膨張収縮が大きくなり好ましくない。 ここで、負極板の充填密度とは、負極活物質を含む負極活物質合剤層の充填密度を意味し、負極板表面に形成された保護層、および負極芯体は含まない。
【0031】
本発明の非水電解質二次電池では、正極活物質としてリチウムイオンの吸蔵・放出可能なリチウム遷移金属複合酸化物が使用可能である。リチウムイオンの吸蔵・放出可能なリチウム遷移金属複合酸化物としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi1−xMn(0<x<1))、リチウムニッケルコバルト複合酸化物LiNi1−xCo(0<x<1)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNiMnCo(0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1)等のリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。また、上記のリチウム遷移金属複合酸化物にAl、Ti、Zr、Nb、B、Mg、またはMoなどを添加したものが使用できる。例えば、Li1+aNiCoMn(M=Al、Ti、Zr、Nb、B、Mg、Moから選択される少なくとも一種の元素、0≦a≦0.2、0.2≦x≦0.5、0.2≦y≦0.5、0.2≦z≦0.4、0≦b≦0.02、a+b+x+y+z=1)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。
【0032】
本発明の非水電解質二次電池では、正極板の充填密度は、2.5〜2.9g/cmとすることが好ましく、2.5〜2.8g/cmとすることがより好ましい。ここで、正極板の充填密度とは、正極活物質を含む正極活物質合剤層の充填密度を意味し、正極芯体は含まない。
【0033】
正極板の充填密度が2.5g/cm未満では十分な出力特性が得られないため好ましくない。正極板の充填密度が2.8g/cmを超えると芯体の伸びが大きくなることにより極板がたわみ、正極板とセパレータの密着性が低下したり、巻取りの際に巻きズレによる耐圧不良が発生する可能性がある。
【0034】
本発明の非水電解質二次電池では、セパレータとしてポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)などのポリオレフィン製の多孔質セパレータを用いることが好ましい。また、ポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)の3層構造(PP/PE/PP、あるいはPE/PP/PE)を有するセパレータを用いることもできる。
【0035】
本発明の非水電解質二次電池では、非水電解質を構成する非水溶媒(有機溶媒)としては、非水電解質二次電池において一般的に使用されているカーボネート類、ラクトン類、エーテル類、エステル類などを使用することができ、これら溶媒の2種類以上を混合して用いることもできる。これらの中ではカーボネート類、ラクトン類、エーテル類、ケトン類、エステル類などが好ましく、カーボネート類がさらに好適に用いられる。
【0036】
例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートを用いることができる。特に、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒を用いることが好ましい。また、ビニレンカーボネート(VC)などの不飽和環状炭酸エステルを非水電解質に添加することもできる。
【0037】
本発明における非水電解質の溶質としては、非水電解質二次電池において一般に溶質として用いられるリチウム塩を用いることができる。このようなリチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、LiAsF、LiClO、Li10Cl10、Li12Cl12、LiB(C、LiB(C)F、LiP(C、LiP(C、LiP(C)Fなど及びそれらの混合物が例示される。これらの中でも、LiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)が好ましく用いられる。前記非水溶媒に対する溶質の溶解量は、0.5〜2.0mol/Lとするのが好ましい。
【0038】
また本発明は、非水電解質二次電池の製造方法に関し、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を含む帯状の正極板と、負極活物質としてリチウムイオンの吸蔵・放出可能な炭素材料を含み、表面に無機酸化物と絶縁性結着材からなる保護層が形成された帯状の負極板とを、保護層に接する面の算術平均表面粗さRaが0.40μm〜3.50μmであるセパレータを介して積層巻回し電極体を作製する工程と、前記電極体を5〜35℃の状態でプレスすることにより扁平状に成形する工程を有することを特徴とする。
【0039】
電極体を加熱しながらプレスし扁平状に形成すると、熱によるセパレータの透気度上昇による電池特性の低下や、破膜による短絡不良発生のリスクがある。
【0040】
本発明では、電極体を加熱することなく常温状態でプレスし扁平状に形成することにより、成形性が改善されるとともに、電池特性の低下や短絡発生の生じることのない非水電解質二次電池を製造することができる。ここで、常温状態とは、5〜35℃を意味する。
【0041】
上記の非水電解質二次電池の製造方法において、セパレータの正極板と接す
る面の算術平均表面粗さRaを0.05μm〜0.25μmとすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】角形非水電解質二次電池を示す図である。図1Aは角形非水電解 質二次電池の正面図(透視図)であり、図1Bは図1AのA−A線の断面図 である。
【図2】電極−セパレータの密着強度測定の方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明を参考実験、実施例、及び比較例を用いて詳細に説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための例を示すものであって、本発明をこの実施例に特定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。
【0044】
最初に、参考実験、実施例、及び比較例に共通する正極板及び負極板の作製方法について述べる。
【0045】
[正極板の作製]
LiCOと(Ni0.35Co0.35Mn0.3とを、Liと(Ni0.35Co0.35Mn0.3)とのモル比が1:1となるように混合した。次いで、この混合物を空気雰囲気中にて900℃で20時間焼成し、LiNi0.35Co0.35Mn0.3で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を得て、正極活物質とした。以上のようにして得られた正極活物質、導電剤として薄片化黒鉛およびカーボンブラック、結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液とを、リチウム遷移金属複合酸化物:薄片化黒鉛:カーボンブラック:ポリフッ化ビニリデン(PVdF)の質量比が88:7:2:3となるように混練し、正極スラリーを作製した。作製した正極スラリーを正極芯体としてアルミニウム合金箔(厚さ15μm)の一方の面に塗布した後、乾燥させてスラリー作製時に溶媒として使用したNMPを除去し正極活物質合剤層を形成した。同様の方法により、アルミニウム合金箔のもう一方の面にも正極活物質合剤層を形成した。その後、圧延ロールを用いて所定の充填密度(2.61g/cm)になるまで圧延し、所定寸法に切断して正極板Aを作製した。
【0046】
また、正極板の充填密度を2.39g/cmとすること以外、正極板Aと同様にして正極板Bを作製した。
【0047】
更に、正極板の充填密度を2.88g/cmとすること以外、正極板Aと同様にして正極板Cを作製した。
【0048】
[負極板の作製]
負極活物質としての人造黒鉛と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)と、結着材としてのスチレン−ブタジエン−ラバー(SBR)を水と共に混練して負極スラリーを作製した。ここで、負極活物質:カルボキシメチルセルロース(CMC):スチレン−ブタジエン−ラバー(SBR)の質量比は98:1:1となるように混合した。ついで、作製した負極スラリーを負極芯体としての銅箔(厚さが10μm)の一方の面に塗布した後、乾燥させてスラリー作製時に溶媒として使用した水を除去し負極活物質合剤層を形成した。同様の方法により、銅箔のもう一方の面にも負極活物質合剤層を形成した。その後、圧延ローラーを用いて所定の充填密度(1.11g/cm)になるまで圧延した。
【0049】
次いで、アルミナ粉末と、結着材(アクリルニトリル構造を含む共重合体)と、溶剤としてNMPを重量比30:0.9:69.1となるように混合し、ビーズミルにて混合分散処理を施し、保護層スラリーを作製した。このように作製した保護層スラリーを一方の面の負極活物質合剤層上に塗布した後、溶剤として使用したNMPを乾燥除去して、負極板表面にアルミナと結着材からなる絶縁性の保護層を形成した。同様の方法により、もう一方の面の負極活物質合剤層上に保護層を形成した。その後、所定寸法に切断して、負極板Aを作製した。なお、上記アルミナと結着材からなる層の厚みは3μmとした。
【0050】
また、保護層を設けないこと以外、負極板Aと同様にして負極板Bを作製した。
【0051】
また、負極板の充填密度を0.90g/cmとし、保護層を設けないこと以外、負極板Aと同様にして負極板Cを作製した。
【0052】
上述の正極板及び負極板の充填密度は以下のような方法で求めた。
[充填密度の測定]
電極板を10cmに切り出し、電極板10cmの質量A(g)、電極板の厚みC(cm)を測定する。また、芯体10cmの質量B(g)、および芯体厚みD(cm)を測定する。そして、次の式から充填密度を求める。
充填密度=(A―B)/〔(C−D)×10cm
ここで、負極板表面に保護層が形成されている場合は、保護層を除いた負極活物質合剤層の充填密度とする。
【0053】
<参考実験>
参考実験として、上記正極板A〜C、負極板A〜Cの算術平均表面粗さRa、及びセパレータの各面の算術平均表面粗さRaを以下のような方法で調べた。
【0054】
[正負極板及びセパレータの算術平均表面粗さRaの測定]
正極板および負極板、並びに、セパレータについて、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製 VK−9710)にて表面を観察し、解析ソフト(キーエンスソフトウェア株式会社製 VK―Analyzer)を用いてJIS B0601:1994に準じた条件で算術平均表面粗さRaを求めた。
【0055】
次に、上記正極板A〜C、及び負極板A〜Cと、算術平均表面粗さRaの異なるセパレータとの密着強度を以下の方法により調べた。
【0056】
[極板−セパレータ密着強度測定]
まず図2のように、長さ120mm、幅30mmの板状の治具20を台座(図示省略)に固定し、その上面に長さ90mm、幅20mmの両面粘着テープ21を貼り付ける。このとき、板状の治具20の幅方向の中心線と両面粘着テープ21の幅方向の中心線をそろえる。また、板状の治具20の長さ方向の一方の端部と両面粘着テープ21の長さ方向の一方の端部をそろえた状態とする(図2の(a))。
【0057】
次に、両面粘着テープ21上に長さ150mm、幅28mmのセパレータ22を貼り付ける。このとき、セパレータ22の幅方向の中心線と両面粘着テープ21の幅方向の中心線をそろえる。また、セパレータ22の長さ方向の一方の端部を、両面粘着テープ21における板状の治具20の長さ方向の一方の端部とそろえられた端部とをそろえる(図2の(b))。
【0058】
そして、セパレータ22上に長さ160mm、幅25mmの試験用電極23(正極板あるいは負極板)を配置する。このとき、試験用電極23の幅方向の中心線とセパレータ22の幅方向の中心線をそろえる。また、試験用電極23の長さ方向の一方の端部を、セパレータ22における両面粘着テープ21の長さ方向の一方の端部とそろえられた端部とをそろえる(図2の(c))。
【0059】
その後、板状の治具20上に位置する試験用電極23(正極板あるいは負極板)の全面を上方から40kNの荷重でプレスする。そして、引張試験機(株式会社島津製作所製、SHIMAZU AG−IS)にて、試験用電極板23(正極板あるいは負極板)の板状の治具20上に位置していない側の端部から1cmの領域をつかみ、板状の治具20に対して垂直方向に1mm/secの速度で引っ張ってピール試験を行った。このとき、試験用電極板23における板状の両面粘着テープ21の長さ方向の端部(板状の治具20の端部とそろえられていない側の端部)に対応する位置から、試験用電極板23の長さ方向に50mmまでの領域X(図2の(a)、(c))での凸点平均応力を密着強度とした(JIS C6481に準じる)。
【0060】
上記の正極板A〜C及び負極板A〜Cについて、充填密度、算術平均表面粗さRa、セパレータ(Ra= 0.16μm、0.42mμm、0.46μm、0.62μm)との密着強度をまとめて表1及び表2に示す。なお、表中の「−」は未測定を示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示すように、保護層が形成されていない正極板A〜Cに関しては、セパレータの算術平均表面粗さRaによりセパレータとの密着強度が変化するものの、いずれも50mN/以上の密着強度を有している。このことから、セパレータの正極板に接する面の算術平均表面粗さRaを0.40μmよりも小さくしても、正極板とセパレータとの密着性が不十分とはならないことがわかる。
また、正極板の充填密度の変化により正極板の算術平均表面粗さRaが変化し、これに伴いセパレータとの密着強度が変化することがわかる。したがって、正極板の充填密度としては、2.88g/cm以下とすることが好ましく、2.80g/cm以下とすることがより好ましい。
【0063】
【表2】

【0064】
負極側に関しては表2に示すように、保護層が形成されていない負極板B及び負極板Cでは、セパレータの算術平均表面粗さRaに関わらず同程度の密着強度を示した。これに対して、保護層が形成された負極板Aでは、セパレータの算術平均表面粗さRaが0.16μmである場合、密着強度が44.6mN/cmという低い値となった。一方、セパレータの算術平均表面粗さRaが0.42μm、0.46μm、0.62μm、2.14μmの場合は、密着強度が50mN/cm以上の値となった。これらのことから、セパレータの負極板に形成された保護層と接する面の算術平均表面粗さRaを0.40μm以上にすることにより、負極表面に形成された保護層とセパレータの密着性を高くすることが可能となることがわかる。
【0065】
以上、参考実験の結果に基づき、実際に扁平状電極体を作製し、セパレータの算術平均表面粗さRaが扁平状電極体の成形性に与える影響を検討した。
【0066】
[実施例1]
[扁平状電極体の作製]
まず、上記の正極板A及び負極板Aを用意した。ここで、正極板Aは、幅104.8mm、長さ3870mm、厚さ69μmの帯状であり、長手方向に沿って一方の端部に芯体の両面に電極活物質合剤層が形成されていない芯体露出部(幅15.2mm)を有するものを用いた。
また、負極板Bは、幅106.8mm、長さ4020mm、厚さ71μmの帯状であり、長手方向に沿って一方の端部に芯体の両面に電極活物質合剤層が形成されていない芯体露出部(幅10.0mm)を有するものを用いた。
【0067】
次に、正極板Aと負極板Bとポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータ(幅100mm、長さ4310mm、厚さ30μm)とを、異なる芯体露出部同士が巻回方向に対し互いに逆向きに突出し、且つ異なる極性の活物質合剤層の間にセパレータが介在するように3つの部材を位置合わせし重ね合わせ、巻き取り機により巻回した。そして、巻回された電極体の巻き終わり部を、絶縁性の巻き止めテープにより固定した。このとき、セパレータにおいて正極板Aと接する面の算術平均表面粗さRaを0.16μmとし、負極板Aに接する面の算術平均表面粗さRaを0.62μmとした。
【0068】
その後、渦巻状に巻回された電極体を室温(25℃)にて110kNでプレスし、実施例1の扁平状電極体を作製した。
【0069】
[比較例1]
セパレータの算術平均表面粗さRaが0.62μmの面と正極板Aが接し、算術平均表面粗さRaが0.16μmの面と負極板Aが接するようにセパレータを配置したこと以外は実施例1と同様の方法で比較例1の扁平状電極体を作製した。
【0070】
[実施例2]
セパレータの算術平均表面粗さRaが0.42μmの面と正極板Aが接し、算術平均表面粗さRaが0.46μmの面と負極板Aが接するようにセパレータを配置したこと以外は実施例1と同様の方法で比較例2の扁平状電極体を作製した。
【0071】
[実施例3]
セパレータの算術平均表面粗さ:Raが0.46μmの面と正極板Aが接し、算術平均表面粗さ:Raが0.42μmの面と負極板Aが接するようにセパレータを配置したこと以外は実施例1と同様の方法で比較例3の扁平状電極体を作製した。
【0072】
[電極体の成形性の判断]
実施例1〜3及び比較例1で作製した扁平状電極体の中心部分の厚み(電極体厚み)から、扁平状電極体の成形性を判断した。
【0073】
実施例1〜3及び比較例1の扁平状電極体の成形性の調査結果を表3に示す。表3における実施例1〜3及び比較例1の電極体厚みは、実施例1の電極体の厚みを100%とした数値である。
【0074】
【表3】

【0075】
保護層が形成された負極板Aとセパレータの算術平均表面粗さRaが0.16μmの面が接している比較例1の扁平状電極体では、電極体の成形性が低いのに対し、保護層が形成された負極板Aとセパレータの算術平均表面粗さRaが0.42μm、0.46μm、0.62μmの面とそれぞれ接している実施例1〜3では、負極板に形成された保護層とセパレータの密着強度が高いことにより、扁平状電極体の成形性が優れていることがわかる。
【0076】
これらのことから、負極板に形成された保護層と接するセパレータの面の算術平均表面粗さRaを0.40以上とすることにより、電極体の成形性を向上できることがわかる。
【0077】
[発明の効果]
以上のとおり、本願発明によれば、セパレータの負極板に形成された保護層と接する面の算術平均表面粗さRaを0.40〜3.50μmとすることにより、負極板に形成された保護層とセパレータの密着強度を高くし、扁平状電極体の成形性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0078】
1:扁平状電極体 2:外装缶 3:封口板 4:正極芯体露出部 5:負極芯体露出部 6:正極集電部材 7:正極端子 8:負極集電部材 9:負極端子 7a、9a : 板状部分 7b、9b:ボルト部分 11、12:絶縁材 13:負極集電受け部材 20:板状の治具 21:両面粘着テープ 22:セパレータ 23:試験用電極(正極板又は負極板)30:角形非水電解質二次電池










【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極板と、負極活物質としてリチウムイオンの吸蔵・放出可能な炭素材料を含む負極板とを、セパレータを介して積層巻回した扁平状電極体を有する非水電解質二次電池において、前記負極板表面には、無機酸化物と絶縁性結着材からなる保護層が設けられており、前記セパレータの前記保護層と接する面の算術平均表面粗さRaが0.40μm〜3.50μmであることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記無機酸化物がアルミナ、チタ二ア、およびジルコニアからなる群から選択された少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記セパレータは表裏で異なる算術平均表面粗さRaを有し、算術平均表面粗さRaが大きい面が前記保護層と接することを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記セパレータの前記正極板と接する面の算術平均表面粗さRaが0.05μm〜0.25μmであることを特徴とする請求項3に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記負極活物質が、黒鉛であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記正極活物質が、Li1+aNiCoMn(M=Al、Ti、Zr、Nb、B、Mg、Moから選択される少なくとも一種の元素、0≦a≦0.2、0.2≦x≦0.5、0.2≦y≦0.5、0.2≦z≦0.4、0≦b≦0.02、a+b+x+y+z=1)で表されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極板と、負極活物質としてリチウムイオンの吸蔵・放出可能な炭素材料を含む負極板とを、セパレータを介して積層巻回した扁平状電極体を有する非水電解質二次電池の製造方法において、
正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を含む帯状の正極板と、負極活物質としてリチウムイオンの吸蔵・放出可能な炭素材料を含み、表面に保護層が設けられた帯状の負極板とを、前記保護層に接する面の算術平均表面粗さRaが0.40μm〜3.50μmであるセパレータを介して積層巻回し電極体を作製する工程と、前記電極体を5〜35℃の状態でプレスすることにより扁平状に成形する工程を有することを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項8】
前記セパレータの正極板と接する面の算術平均表面粗さRaが0.05μm〜0.25μmであることを特徴とする請求項7に記載の非水電解質二次電池の製造方法。




























【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−171250(P2011−171250A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36300(P2010−36300)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】