説明

非水電解質二次電池

【課題】 正極活物質に安価なリチウム含有遷移金属複合酸化物を用いた非水電解質二次電池において、正極活物質を改良し、様々な温度条件下における出力特性を向上させて、ハイブリッド自動車等の電源として好適に利用できるようにする。
【解決手段】 正極活物質を含む正極11と、負極活物質を含む負極12と、非水系溶媒に溶質を溶解させた非水電解液14とを備えた非水電解質二次電池において、正極活物質として、一般式Li1+xNiMnCo2+d(式中、x,a,b,c,dはx+a+b+c=1、0.7≦a+b、0<x≦0.1、0≦c/(a+b)<0.35、0.7≦a/b≦2.0、−0.1≦d≦0.1の条件を満たす。)で表される層状構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物にニオブが付与されたものを用いた。更に、前記正極活物質の表面を非晶質炭素材料で被覆することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、非水系溶媒に溶質を溶解させた非水電解液とを備えた非水電解質二次電池に係り、特に、正極活物質に、層状構造を有し遷移金属の主成分がニッケル及びマンガンの2元素で構成される安価なリチウム含有遷移金属複合酸化物を用いた非水電解質二次電池において、上記の正極活物質を改良し、様々な温度条件下における出力特性を向上させて、ハイブリッド型電気自動車等の電源として好適に利用できるようにした点に特徴を有するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン、PDA等のモバイル機器の小型化・軽量化が著しく進行しており、また多機能化に伴って消費電力も増加しており、これらの電源として使用される非水電解質二次電池においても、軽量化及び高容量化の要望が高まっている。
【0003】
また、近年においては、車両からの排ガスによる環境問題を解決するため、自動車のガソリンエンジンと電気モーターを併用したハイブリッド型電気自動車の開発が進められている。
【0004】
そして、このような電気自動車の電源としては、一般にニッケル・水素蓄電池が広く用いられているが、より高容量かつ高出力な電源として、非水電解質二次電池を利用することが検討されている。
【0005】
ここで、上記のような非水電解質二次電池においては、その正極活物質として、コバルト酸リチウム(LiCoO2)等のコバルトを主成分とするリチウム含有遷移金属複合酸化物が主に用いられている。
【0006】
しかし、上記の正極活物質に使用されるコバルトは稀少な資源であり、コストが高くつくと共に、安定した供給が困難になる等の問題があり、特に、ハイブリッド型電気自動車等の電源として使用する場合には、多くの量のコバルトが必要になって、電源としてのコストが非常に高くなるという問題があった。
【0007】
このため、近年においては、安価で安定した供給が行える正極活物質として、コバルトに代えてニッケルやマンガンを主原料とする正極活物質の検討が行われている。
【0008】
例えば、層状構造を有するニッケル酸リチウム(LiNiO2)は、大きな放電容量が
得られる材料として期待されているが、熱安定性が悪くて安全性に劣ると共に、過電圧が大きいという欠点があった。
【0009】
また、スピネル型構造を有するマンガン酸リチウム(LiMn24)は、資源が豊富で安価であるという利点があるが、エネルギー密度が小さく、また高温環境下でマンガンが非水電解液中に溶出するという欠点があった。
【0010】
このため、近年においては、コストが低く、かつ熱安定性に優れるという観点から、遷移金属の主成分がニッケルとマンガンとの2元素から構成されて層状構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物が注目されている。
【0011】
例えば、特許文献1においては、コバルト酸リチウムとほぼ同等のエネルギー密度を有し、ニッケル酸リチウムのように安全性が低下したり、マンガン酸リチウムのように高温環境下でマンガンが非水電解液中に溶出したりすることのない正極活物質として、層状構造を有しニッケルとマンガンとを含み、ニッケルとマンガンとの原子比率の誤差が10原子%以内である菱面体構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物が提案されている。
【0012】
しかし、この特許文献1に示されるリチウム含有遷移金属複合酸化物の場合、コバルト酸リチウムに比べて、高率充放電特性が著しく劣り、電気自動車等の電源として使用することは困難であるという問題があった。
【0013】
また、特許文献2においては、少なくともニッケル及びマンガンを含有する層状構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物において、上記のニッケル及びマンガンの一部をコバルトで置換した単相カソード材料が提案されている。
【0014】
しかし、この特許文献2に示される単相カソード材料の場合、ニッケル及びマンガンの一部を置換させるコバルトの量が多くなると、前記のようにコストが高くつくという問題が生じ、一方、置換させるコバルトの量を少なくすると、高率充放電特性が大きく低下するという問題があった。
【0015】
また、特許文献3においては、リチウムニッケル複合酸化物の表面に酸化ニオブ又は酸化チタンを存在させて焼成した正極活物質が示されており、このように酸化ニオブ又は酸化チタンを存在させてリチウムニッケル複合酸化物の表面に焼成することにより、熱安定性の高いリチウムニッケル複合酸化物が得られることが示されている。
【0016】
しかし、この特許文献3に示されるようなリチウムニッケル複合酸化物の表面に、酸化ニオブ又は酸化チタンを存在させて焼成した正極活物質を用いた場合、特にSOC50%における出力特性を向上させることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2007−12629号公報
【特許文献2】特許第3571671号公報
【特許文献3】特許第3835412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、非水系溶媒に溶質を溶解させた非水電解液とを備えた非水電解質二次電池における上記のような様々な問題を解決することを課題とするものである。
【0019】
そして、本発明においては、正極活物質に層状構造を有し遷移金属の主成分がニッケル及びマンガンの2元素で構成される安価なリチウム含有遷移金属複合酸化物を用いた非水電解質二次電池において、この正極活物質を改良し、様々な温度条件下における出力特性を向上させて、ハイブリッド型電気自動車等の電源として好適に利用できるようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明においては、上記のような課題を解決するため、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、非水系溶媒に溶質を溶解させた非水電解液とを備えた非水電解質二次電池において、上記の正極活物質として、一般式Li1+xNiaMnbCoc2+d(式中
、x,a,b,c,dはx+a+b+c=1、0.7≦a+b、0<x≦0.1、0≦c/(a+b)<0.35、0.7≦a/b≦2.0、−0.1≦d≦0.1の条件を満たす。)で表される層状構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物にニオブが付与され
たものを用いた。
【0021】
ここで、上記のリチウム含有遷移金属複合酸化物において、コバルトCoの組成比cと、ニッケルの組成比aと、マンガンの組成比bとが0≦c/(a+b)<0.35の条件を満たすものを用いるのは、コバルトの割合を低くして、材料コストを低減させるためである。
【0022】
そして、本発明においては、このようにコバルトの割合が低くてコストが安価なリチウム含有遷移金属複合酸化物を正極活物質に用いた非水電解質二次電池において、様々な温度条件下における出力特性を向上させて、ハイブリッド型電気自動車等の電源として好適に用いることができるようにした。
【0023】
ここで、上記のリチウム含有遷移金属複合酸化物において、ニッケルの組成比aと、マンガンの組成比bとが0.7≦a/b≦2.0の条件を満たすものを用いるのは、a/bの値が2.0を超えてニッケルの割合が多くなった場合には、このリチウム含有遷移金属複合酸化物における熱安定性が極端に低下して、発熱がピークになる温度が低くなって安全性が極端に低下する一方、a/bの値が0.7未満になると、マンガン組成の割合が多くなり、不純物層が生じて容量が低下するためであり、熱安定性を高めると共に容量の低下を抑制するためには、0.7≦a/b≦1.5の条件を満たすものを用いることがより好ましい。
【0024】
また、上記のリチウム含有遷移金属複合酸化物において、リチウムの組成比(1+x)におけるxが0<x≦0.1の条件を満たすものを用いるのは、0<xになると、その出力特性が向上されるためであり、一方、x>0.1になると、このリチウム含有遷移金属複合酸化物の表面に残留するアルカリが多くなって、電池を作製する工程においてスラリーにゲル化が生じると共に、酸化還元反応を行う遷移金属量が低下して容量が低下するためであり、より好ましくは、0.05≦x≦0.1の条件を満たすものを用いるようにする。
【0025】
また、上記のリチウム含有遷移金属複合酸化物において、酸素の組成比(2+d)におけるdが−0.1≦d≦0.1の条件を満たすようにするのは、上記のリチウム含有遷移金属複合酸化物が酸素欠損状態や酸素過剰状態になって、その結晶構造が損なわれるのを防止するためである。
【0026】
なお、上記のリチウム含有遷移金属複合酸化物には、ホウ素(B)、フッ素(F)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、銅(Cr)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、錫(Sn)、タングステン(W)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)からなる群れから選択される少なくとも一種が含まれていてもよい。
【0027】
そして、本発明のように、上記のようなリチウム含有遷移金属複合酸化物にニオブを添加させたものを正極活物質として用いると、このように添加させたニオブによって正極と非水電解液との界面が改質され、これにより電荷移動反応が促進されて、様々な温度条件下における出力特性が改善されると考えられる。前記の一般式Li1+xNiaMnbCoc2+dで表されるリチウム含有遷移金属複合酸化物中では、Coの価数が3価、Mnの価数が4価で存在するため、Niの価数は主に2価として存在し、このように添加させたニオブが価数が2価のNiに選択的に作用し、正極と非水電解液との界面の抵抗が下がるため、出力特性が向上したと考えられる。一方、特許文献3である特許第3835412号公報に記載のリチウムニッケル複合酸化物では、Coの価数が3価、Alの価数が3価として存在するため、Niの価数は主に3価として存在し、出力特性の改善には効果がなかったと考えられる。
【0028】
ここで、上記の正極活物質において、上記のリチウム含有遷移金属複合酸化物にニオブを添加させる方法は特に限定されず、ニオブを上記のリチウム含有遷移金属複合酸化物の表面や内部に添加させることができる。但し、様々な温度条件下における出力特性をより向上させるためには、上記のリチウム含有遷移金属複合酸化物の少なくとも表面にニオブ含有酸化物を焼結させた正極活物質を用いることが好ましく、より好ましくは、このようにリチウム含有遷移金属複合酸化物の少なくとも表面にニオブ含有酸化物を焼結させると共に、このリチウム含有遷移金属複合酸化物の内部にニオブを含有させた正極活物質を用いるようにする。
【0029】
また、上記のようにリチウム含有遷移金属複合酸化物の少なくとも表面にニオブ含有酸化物を焼結させるにあたっては、上記のリチウム含有遷移金属複合酸化物と所定量のニオブ含有酸化物とをメカノフュージョン等の方法を用いて混合させて、ニオブ含有酸化物をリチウム含有遷移金属複合酸化物の表面に付着させ、その後、これを焼結させるようにすることができる。なお、上記のニオブ含有物としては、特に制限されないものの、フッ化ニオブ、塩化ニオブ、臭化ニオブ、ヨウ化ニオブ、窒化ニオブ、炭化ニオブ、けい化ニオブ、アルミ化ニオブを用いることができ、酸化ニオブやニオブ酸リチウムなどの酸化物を特に用いることが好ましい。
【0030】
また、上記のようにリチウム含有遷移金属複合酸化物の少なくとも表面にニオブ酸化物を焼結させる場合、焼成温度をリチウム含有遷移金属複合酸化物の分解温度以下にすることが好ましい。
【0031】
また、上記の正極活物質において、上記のリチウム含有遷移金属複合酸化物に添加させるニオブの量が少ないと、ニオブによる上記のような作用効果が十分に得られなくなる一方、ニオブの量が多くなりすぎると、上記のリチウム含有遷移金属複合酸化物の特性が低下するため、この正極活物質におけるニオブの量を0.05質量%以上、2.00質量%以下にすることが好ましく、より好ましくは0.20質量%以上、1.00質量%以下にする。
【0032】
また、上記の正極活物質の粒径が大きくなりすぎると、放電性能が低下する一方、粒径が小さくなりすぎると、非水電解液との反応性が高くなって保存特性等が低下するため、正極活物質における一次粒子の体積平均粒径が0.5μm以上、2μm以下であり、二次粒子の体積平均粒径が4μm以上、15μm以下のものを用いることが好ましい。
【0033】
また、本発明の非水電解質二次電池においては、上記の正極活物質の表面を非晶質炭素で被覆して用いることが、出力特性及びサイクル特性の向上の観点から好ましい。この理由は、上記の正極活物質の表面を非晶質炭素で被覆することにより、正極活物質の界面の反抗が小さくなり、リチウムイオンの入出がしやすくなるとともに、活物質間の導電パスが良好となるため、出力特性及びサイクル特性が向上するためである。
【0034】
また、本発明の非水電解質二次電池においては、上記の正極活物質と他の正極活物質とを混合して使用することも可能であり、混合する他の正極活物質としては、可逆的にリチウムを挿入・脱離可能な化合物であれば特に限定されず、例えば、安定した結晶構造を維持したままリチウムの挿入脱離が可能である層状構造や、スピネル型構造や、オリビン型構造を有するものを用いることが好ましい。
【0035】
また、本発明の非水電解質二次電池において、その負極に用いる負極活物質は、リチウムを可逆的に吸蔵・放出できるものでれば特に限定されず、例えば、炭素材料や、リチウムと合金化する金属或いは合金材料や、金属酸化物等を用いることができる。なお、材料コストの観点からは、負極活物質に炭素材料を用いることが好ましく、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソフェーズピッチ系炭素繊維(MCF)、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス、ハードカーボン、フラーレン、カーボンナノチューブ等を用いることができ、特に、出力特性を向上させる観点からは、黒鉛材料を低結晶性炭素で被覆した炭素材料を用いることが好ましい。
【0036】
また、本発明の非水電解質二次電池において、非水電解液に用いる非水系溶媒としては、従来から非水電解質二次電池において一般に使用されている公知の非水系溶媒を用いることができ、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネートや、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートを用いることができる。特に、低粘度、低融点でリチウムイオン伝導度の高い非水系溶媒として、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒を用いることが好ましく、この混合溶媒における環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比を2:8〜5:5の範囲にすることが好ましい。
【0037】
また、非水電解液の非水系溶媒としてイオン性液体を用いることもでき、この場合、カチオン種、アニオン種については特に限定されるものではないが、低粘度、電気化学的安定性、疎水性の観点から、カチオンとしては、ピリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、4級アンモニウムカチオンを、アニオンとしては、フッ素含有イミド系アニオンを用いた組合せが特に好ましい。
【0038】
また、上記の非水電解液に用いる溶質としても、従来から非水電解質二次電池において一般に使用されている公知のリチウム塩を用いることができる。そして、このようなリチウム塩としては、P、B、F、O、S、N、Clの中の一種類以上の元素を含むリチウム塩を用いることができ、具体的には、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、LiC(C25SO23、LiAsF6、LiClO4等のリチウム塩及びこれらの混合物を用いることができる。特に、非水電解質二次電池における出力特性や耐久性を高めるためには、LiPF6を用いることが好ましい。
【0039】
また、本発明の非水電解質二次電池において、上記の正極と負極との間に介在させるセパレータとしては、正極と負極との接触による短絡を防ぎ、かつ非水電解液を含浸して、リチウムイオン伝導性が得られる材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリプロピレン製やポリエチレン製のセパレータ、ポリプロピレン−ポリエチレンの多層セパレータ等を用いることができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明における非水電解質二次電池においては、上記のように正極における正極活物質として、一般式Li1+xNiaMnbCoc2+d(式中、x,a,b,c,dはx+a+b
+c=1、0.7≦a+b、0<x≦0.1、0≦c/(a+b)<0.35、0.7≦a/b≦2.0、−0.1≦d≦0.1の条件を満たす。)で表される層状構造を有する
リチウム含有遷移金属複合酸化物にニオブが付与されたものを用いたため、正極と非水電解液との界面が改質され、これにより電荷移動反応が促進されて、様々な温度条件下における出力特性が改善され、ハイブリッド型電気自動車等の電源として好適に利用できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例1において作製した正極活物質の状態を示した図である。
【図2】本発明の実施例及び比較例において作製した正極を作用極に用いた三電極式試験用セルの概略説明図である。
【図3】本発明の実施例4において作製した正極活物質の状態を示した図である。
【図4】本発明の実施例7において作製した正極活物質の状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、この発明に係る非水電解質二次電池について実施例を挙げて具体的に説明すると共に、この実施例における非水電解質二次電池においては、様々な温度条件下における出力特性が改善されることを、比較例を挙げて明らかにする。なお、本発明の非水電解質二次電池は下記の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0043】
(実施例1)
実施例1においては、正極活物質を作製するにあたり、前記の一般式に示すリチウム含有遷移金属複合酸化物として、Li2CO3と、共沈法によって得たNi0.50Mn0.50(OH)2とを所定の割合で混合し、これらを空気中において1000℃で焼成させ、下記の組成式に示すようにニッケルとマンガンとの2元素を主成分とし、層状構造を有するLi1.06Ni0.47Mn0.472を用いた。なお、このようにして得たLi1.06Ni0.47Mn0.472の一次粒子の体積平均粒径は約1μmであり、また二次粒子の体積平均粒径は約7μmであった。
【0044】
そして、上記のLi1.06Ni0.47Mn0.472と、平均粒径が150nmのNb25とを所定の割合で混合した後、これらを空気中において700℃焼成し、Li1.06Ni0.47Mn0.472の表面にニオブ含有酸化物が焼結された正極活物質を作製した。なお、このようにして作製した正極活物質の表面におけるニオブの量を誘導結合プラズマ分光分析(ICP)によって測定した結果、ニオブの量は0.45質量%になっていた。
【0045】
また、上記のようにして作製した正極活物質について、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、その結果を図1に示した。
【0046】
また、上記の正極活物質について、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を用いて調べた結果、この正極活物質においては、上記のLi1.06Ni0.47Mn0.472の表面に平均粒径が約150nmのニオブ含有酸化物からなる微粒子が焼結されて付着していることが確認された。
【0047】
ここで、上記のLi1.06Ni0.47Mn0.472の表面に付着したニオブ含有酸化物からなる微粒子は、原料のNb25、またLi1.06Ni0.47Mn0.472の表面におけるリチウムとNb25とが反応して生成したLiNb23等のニオブ酸リチウム、或いはこれらの混合物であると考えられる。
【0048】
次に、上記の正極活物質と、導電剤の気相成長炭素繊維(VGCF)と、結着剤のポリフッ化ビニリデンを溶解させたN−メチル−2−ピロリドン溶液とを、正極活物質と導電剤と結着剤の質量比が92:5:3となるように調整し、これらを混練させて正極合剤のスラリーを作製し、このスラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体の上に塗布し、これを乾燥させた後、圧延ローラーにより圧延し、これにアルミニウムの集電タブを取りつけて正極を作製した。
【0049】
そして、図2に示すように、上記のようにして作製した正極を作用極11として用いる一方、負極となる対極12及び参照極13にそれぞれ金属リチウムを用い、また非水電解液14として、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとジメチルカーボネートとを3:3:4の体積比で混合させた混合溶媒にLiPF6を1mol/lの濃度になるように溶解させ、さらにビニレンカーボネートを1質量%溶解させたものを用いて、三電極式試験用セルA1を作製した。
【0050】
(実施例2)
実施例2においては、実施例1における正極活物質の作製において、上記のLi1.06Ni0.47Mn0.472に対して平均粒径が150nmのNb25を混合させる割合を増加させ、それ以外は実施例1の場合と同様にして正極活物質を作製し、このように作製した正極活物質を用い、上記の実施例1の場合と同様にして、実施例2の三電極式試験用セルA2を作製した。
【0051】
ここで、上記のようにして作製した正極活物質の表面におけるニオブの量をICPによって測定した結果、ニオブの量は0.90質量%になっていた。
【0052】
また、上記のようにして作製した正極活物質について、SEM及びEDXを用いて調べた結果、実施例1の正極活物質と同様に、Li1.06Ni0.47Mn0.472の表面に、平均粒径が約150nmのNb含有酸化物からなる微粒子が焼結されて付着している様子が確認された。また、この実施例2の正極活物質においては、Li1.06Ni0.47Mn0.472の表面におけるニオブ含有酸化物の付着量が、実施例1の正極活物質よりも多くなっていた。
【0053】
(実施例3)
実施例3においては、実施例1における正極活物質の作製において、上記のLi1.06Ni0.47Mn0.472に対して平均粒径が150nmのNb25を混合させる割合を増加させ、それ以外は実施例1の場合と同様にして正極活物質を作製し、このように作製した正極活物質を用い、上記の実施例1の場合と同様にして、実施例3の三電極式試験用セルA3を作製した。
【0054】
ここで、上記のようにして作製した正極活物質の表面におけるニオブの量をICPによって測定した結果、ニオブの量は1.80質量%になっていた。
【0055】
また、上記のようにして作製した正極活物質について、SEM及びEDXを用いて調べた結果、実施例1,2の正極活物質と同様に、Li1.06Ni0.47Mn0.472の表面に、平均粒径が約150nmのニオブ含有酸化物からなる微粒子が焼結されて付着している様子が確認された。また、この実施例3の正極活物質においては、Li1.06Ni0.47Mn0.472の表面におけるニオブ含有酸化物の付着量が、実施例1,2における正極活物質よりも多くなっていた。
【0056】
(実施例4)
実施例4においては、Li2CO3と、共沈法によって得たNi0.50Mn0.50(OH)2と、平均粒径が150nmのNb25とを所定の割合で混合し、これを空気中において1000℃で焼成させて、層状構造を有するLi1.06Ni0.47Mn0.472の内部にNbが含有された正極活物質を作製した。
【0057】
そして、このように作製した正極活物質を使用し、上記の実施例1の場合と同様にして、実施例4の三電極式試験用セルA4を作製した。
【0058】
ここで、上記のようにして作製した正極活物質の内部におけるニオブの量をICPによって測定した結果、ニオブの量は0.45質量%になっていた。
【0059】
また、上記のようにして作製した正極活物質について、SEMにより観察してその結果を図3に示すと共に、EDXを用いてこの正極活物質を調べた。
【0060】
この結果、この正極活物質においては、Li1.06Ni0.47Mn0.472の表面にニオブ含有酸化物が付着しておらず、Li1.06Ni0.47Mn0.472の内部にNbが取り込まれていた。
【0061】
(実施例5)
実施例5においては、実施例4における正極活物質の作製において、上記の平均粒径が150nmのNb25を混合させる割合を増加させて、層状構造を有するLi1.06Ni0.47Mn0.472の内部にニオブが含有された正極活物質を作製し、このように作製した正極活物質を使用し、上記の実施例1の場合と同様にして、実施例5の三電極式試験用セルA5を作製した。
【0062】
ここで、上記のようにして作製した正極活物質の内部におけるニオブの量をICPによって測定した結果、ニオブの量は0.90質量%になっていた。
【0063】
また、上記のようにして作製した正極活物質について、SEM及びEDXを用いて調べた結果、上記の実施例4の正極活物質と同様に、Li1.06Ni0.47Mn0.472の表面にニオブ含有酸化物が付着しておらず、Li1.06Ni0.47Mn0.472の内部にニオブが取り込まれていた。
【0064】
(実施例6)
実施例6においては、実施例4における正極活物質の作製において、上記の平均粒径が150nmのNb25を混合させる割合を増加させて、層状構造を有するLi1.06Ni0.47Mn0.472の内部にニオブが含有された正極活物質を作製し、このように作製した正極活物質を使用し、上記の実施例1の場合と同様にして、実施例6の三電極式試験用セルA6を作製した。
【0065】
ここで、上記のようにして作製した正極活物質の内部におけるニオブの量をICPによって測定した結果、ニオブの量は1.80質量%になっていた。
【0066】
また、上記のようにして作製した正極活物質について、SEM及びEDXを用いて調べた結果、上記の実施例4,5の正極活物質と同様に、Li1.06Ni0.47Mn0.472の表面にニオブ含有酸化物が付着しておらず、Li1.06Ni0.47Mn0.472の内部にニオブが取り込まれていた。
【0067】
(実施例7)
実施例7においては、Li2CO3と、共沈法によって得たNi0.50Mn0.50(OH)2
と、平均粒径が150nmのNb25とを所定の割合で混合し、これを空気中において1000℃で焼成させて、層状構造を有するLi1.06Ni0.47Mn0.472の内部にニオブが含有されたリチウム複合酸化物を作製し、このリチウム複合酸化物と、平均粒径が150nmのNb25とを所定の割合で混合した後、これを空気中において700℃で焼成し、内部にニオブが含有された上記のリチウム複合酸化物の表面にニオブ含有酸化物が焼結された正極活物質を作製した。
【0068】
そして、このように作製した正極活物質を使用し、上記の実施例1の場合と同様にして、実施例7の三電極式試験用セルA7を作製した。
【0069】
ここで、このようにして作製した正極活物質について、ICPによりニオブの量を測定した結果、正極活物質の内部におけるニオブの量は0.45質量%であり、また正極活物質の表面におけるニオブの量は0.45質量%であり、正極活物質に対するニオブの合計量は0.90質量%になっていた。
【0070】
また、上記のようにして作製した正極活物質について、SEMにより観察してその結果を図4に示すと共に、EDXを用いてこの正極活物質を調べた。
【0071】
この結果、この正極活物質においては、Li1.06Ni0.47Mn0.472の表面に平均粒径が約150nmのニオブ含有酸化物からなる微粒子が焼結されて付着していると共に、その内部にNbが取り込まれていた。
【0072】
(実施例8)
実施例8においては、実施例7における正極活物質の作製において、層状構造を有するLi1.06Ni0.47Mn0.472の内部にニオブが含有されたリチウム複合酸化物を作製するにあたり、平均粒径が150nmのNb25を混合させる割合を増加させると共に、このように内部にニオブが含有されたリチウム複合酸化物と混合させる平均粒径が150nmのNb25の割合を増加させて、内部にニオブが含有されたリチウム複合酸化物の表面にニオブ含有酸化物が焼結された正極活物質を作製した。
【0073】
そして、このように作製した正極活物質を使用し、上記の実施例1の場合と同様にして、実施例8の三電極式試験用セルA8を作製した。
【0074】
ここで、このようにして作製した正極活物質について、ICPによりニオブの量を測定した結果、正極活物質の内部におけるニオブの量は0.90質量%であり、また正極活物質の表面におけるニオブの量は0.90質量%であり、正極活物質に対するニオブの合計量は1.80質量%になっていた。
【0075】
また、上記のようにして作製した正極活物質について、SEM及びEDXを用いて調べた結果、上記の実施例7の正極活物質と同様に、Li1.06Ni0.47Mn0.472の表面に平均粒径が約150nmのニオブ含有酸化物からなる微粒子が焼結されて付着していると共に、その内部にニオブが取り込まれていた。
【0076】
(実施例9)
実施例9においては、正極活物質を作製するにあたり、前記の一般式に示すリチウム含有金属複合酸化物として、LiCOと共沈法によって得たNi0.40Mn0.40Co0.20(OH)とを所定の割合で混合し、これらを空気中において1000℃で焼成させ、下記の組成式に示すようにニッケルとマンガンとの2元素を主成分とし、層状構造を有するLi1.06Ni0.38Mn0.38Co0.182を得た。
【0077】
そして、上記のLi1.06Ni0.38Mn0.38Co0.182と平均粒径が150nmのNb25とを用い、実施例2と同様にしてLi1.06Ni0.38Mn0.38Co0.182の表面にニオブ含有酸化物が焼結された正極活物質を作製した。なお、このように作製した正極活物質におけるニオブの量は0.90質量%であった。
【0078】
このように作製した正極活物質を用い、上記の実施例1の場合と同様にして、実施例9に係る三電極式試験用セルA9を作製した。
【0079】
(比較例1)
比較例1においては、実施例1における正極活物質の作製において、平均粒径が150nmのNb25を混合させずに、上記のLi1.06Ni0.47Mn0.472だけからなるリチウム複合酸化物を正極活物質として使用し、それ以外は上記の実施例1の場合と同様にして、比較例1の三電極式試験用セルX1を作製した。
【0080】
(比較例2)
比較例2においては、実施例9における正極活物質の作製において、平均粒径が150nmのNbを混合させずに、上記のLi1.06Ni0.38Mn0.38Co0.182だけを正極活物質として使用し、それ以外は上記の実施例1の場合と同様にして、本件比較例2に係る三電極式試験用セルX2を作製した。
【0081】
そして、上記のように作製した実施例1〜9及び比較例1、2の各三電極式試験用セルを用い、それぞれ25℃の温度条件下において、0.2mA/cm2の電流密度で4.3V(vs.Li/Li+)まで定電流充電を行い、4.3V(vs.Li/Li+)の定電圧で電流密度が0.04mA/cm2になるまで定電圧充電を行った後、0.2mA/cm2の電流密度で2.5V(vs.Li/Li+)まで定電流放電を行った。この時の放電容量を上記の各三電極式試験用セルの定格容量とした。
【0082】
次に、上記のようにして作製した実施例1〜9及び比較例1、2に係る各三電極式試験用セルを、それぞれ定格容量の50%まで充電させた後、各三電極式試験用セルの初期抵抗を測定し、その結果を下記の表1に示した。
【0083】
また、上記の各三電極式試験用セルを、上記のように定格容量の50%まで充電させた時点、すなわち充電深度(SOC)が50%の時点において、それぞれ放電時の出力を25℃と−30℃とで測定し、これらの結果を下記の表1に示した。
【0084】
【表1】

【0085】
この結果から明らかなように、前記の一般式Li1+xNiaMnbCoc2+dに示す条件を満たすリチウム含有遷移金属複合酸化物の表面や内部にニオブを付与した正極活物質を用いた実施例1〜9の各三電極式試験用セルにおいては、前記のリチウム含有遷移金属複合酸化物の表面や内部にニオブを付与していない正極活物質を用いた比較例1及び比較例2の三電極式試験用セルに比べて、初期抵抗が僅かに上昇していたが、充電深度(SOC)が50%において、25℃及び−30℃で測定した出力が大きくなって、出力特性が向上していた。
【0086】
また、上記の実施例1〜9の各三電極式試験用セルについて、前記のリチウム含有遷移金属複合酸化物に付与するニオブの量が同じになったものを比較すると、前記のリチウム含有遷移金属複合酸化物の内部にニオブを含有させた正極活物質を用いた実施例4〜6の三電極式試験用セルよりも、前記のリチウム含有遷移金属複合酸化物の表面にニオブ含有酸化物を焼結させた正極活物質を用いた実施例1〜3の三電極式試験用セルの方が、出力特性が向上しており、さらに、前記のリチウム含有遷移金属複合酸化物の内部にニオブを含有させると共にその表面にニオブ含有酸化物を焼結させた正極活物質を用いた実施例7,8の三電極式試験用セルの方が、出力特性がさらに向上していた。
【0087】
また、前記のリチウム含有遷移金属複合酸化物に付与するニオブの量については、正極活物質に対するニオブの量が1.00質量%を越えると、出力特性が低下する傾向にあるため、正極活物質に対するニオブの量を0.20〜1.00質量%の範囲にすることが好ましいということが分かった。
【0088】
なお、前記の特許文献3である特許第3835412号公報に示されるように、この文献に示されたリチウムニッケル複合酸化物の表面に酸化ニオブを添加した正極活物質を用いた場合においては、レート特性や低温特性が向上されず、出力特性を向上させる効果がないことから、ニオブを付与することによって出力特性が向上されるという効果は、前記の一般式Li1+xNiaMnbCoc2+d(式中、x,a,b,c,dはx+a+b+c=1、0.7≦a+b、0<x≦0.1、0≦c/(a+b)<0.35、0.7≦a/b≦2.0、−0.1≦d≦0.1の条件を満たす。)で表される層状構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物を用いた場合における特有の効果であると考えられる。
【0089】
次に、以下実施例10〜11に係る正極活物質を用いた円筒電池を作製し、その性能を評価し、下記表2に示す。
【0090】
(実施例10)
実施例9で作製した正極活物質と、非晶質炭素であるHS−100(電気化学工業株式会社製比表面積39m/g)とを、正極活物質と前記HS−100の質量比が92:3になるようにして予備混合後、被覆装置として、ホソカワミクロン株式会社製ノビルタNOB−130を用い、上記正極活物質表面に非晶質炭素(HS−100)を被覆した。SEM観察結果より、上記活物質表面を非晶質炭素(HS−100)が均一に被覆されていることを確認した。
【0091】
上記非晶質炭素被膜正極活物質と結着剤としてのN−メチル−2−ピロリドンに溶かしたポリフッ化ビニリデン溶液と、更に導電剤として非晶質炭素であるHS−100粉末を、非晶質炭素被膜正極活物質:導電剤:結着剤の質量比が95:2:3となるように混合後、混練することにより正極スラリーを作製した。尚、この配合は、正極活物質:炭素材料(HS−100):結着剤の質量比に換算すると、92:5:3となる。
【0092】
上記スラリーを、集電体としてのアルミニウム箔上に塗布した後乾燥し、その後、集電体上に正極合剤が塗布されたものを圧延ローラにより圧延し、これにアルミニウムの集電タブを取り付けることにより正極を得た。
【0093】
次に、増粘剤であるCMC(カルボキシメチルセルロース)を水に溶解した溶液に、黒鉛粉末を投入し、攪拌混合した後、バインダーであるSBRを混合してスラリーを調整した。黒鉛、SBR、及びCMCの質量比は、98:1:1とした。得られたスラリーを、厚み20μmの銅箔の両面にドクターブレード法により塗布し、150℃で2時間真空乾燥して、負極を作製した。
【0094】
イオン透過性のポリエチレン微多孔膜をセパレータとして用い、上記正極及び負極の間に介在させ、スパイラル状に巻き取り、電極体を作製した。
【0095】
この電極体を電池缶に挿入した後、非水電解液として、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとジメチルカーボーネートとをそれぞれ3:3:4の体積比で混合させた混合溶媒にLiPFを1mol/lの濃度になるように溶解させ、さらにビニレンカーボネートを1質量%溶解させたものを用い上記電解液を注入し、封止して、本件実施例に係る円筒形電池A10を作製した。
【0096】
(実施例11)
実施例9で作製した正極活物質と導電剤としての非晶質炭素材料としてのHS−100(電気化学工業株式会社製)を、正極活物質:導電剤(HS−100):結着剤の質量比が92:5:3となるように混合後、混練して正極スラリーを作製する以外は、実施例10と同様に円筒形電池A11を作製した。
【0097】
上記のように非水電解質円筒型二次電池を作製した後、25℃の条件下、電流値1000mAで4.2Vまで定電流充電を行い、4.2Vで定電圧充電を行った後に333mAで2.4Vまで定電流放電を行った。この時の放電容量を上記非水電解質円筒型二次電池の定格容量とした。
【0098】
次に、上記のようにして作製した実施例10、11の各円筒形電池を定格容量の50%充電した後に、電池温度25℃及び−30℃において、放電終止電圧を2.4Vとしたときの、10秒間放電可能な最大電流値から充電深度(SOC)50%における出力値を以下の式より求めた。
【0099】
出力値(SOC50%)=(最大電流値)×放電終止電圧(2.4V)
また、上記と同様の条件で充電後、10Aで放電する充放電サイクル試験も行い、各電池の500サイクル後での放電容量維持率を測定した。このようにして測定した結果を表2に示した。
【0100】
【表2】

【0101】
上記表2に示す結果から明らかなように、本件実施例に係る電池A10とA11とを比較すると、炭素材料の配合量が同一であっても、非晶質炭素材料で上記正極活物質を被覆させた実施例10に係る電池A10の方が、出力特性が更に向上するとともに、500サイクル後の容量維持率も更に向上していることがわかる。この理由は、正極活物質の表面に非晶質炭素材料が被覆されることで、活物質の界面の反応抵抗が小さくなり、Liイオンの入出が容易になるとともに、活物質間の導電パスが良好となり、極板内で、均一な充放電反応が行われるためであることが考えられる。
【0102】

〔参考実験〕
(比較例3)
比較例3においては、LiOHと、Ni0.78Co0.19Al0.03(OH)で表される共沈水酸化物とを、リチウムと遷移金属全体のモル比とが1.02:1になるように混合し、酸素雰囲気中にて750℃で20時間熱処理し、層状構造を有するLi1.02Ni0.78Co0.19Al0.032を正極活物質として用いた以外は、比較例1と同様にして、比較例3の三電極式試験用セルX3を作製した。なお、このようにして得たLi1.02Ni0.78Co0.19Al0.032の一次粒子の体積平均粒径は約1.0μmであり、また二次粒子の体積平均粒径は約12.5μmであった。
【0103】
(比較例4)
比較例4においては、実施例1における正極活物質の作製において、正極活物質として、Li1.02Ni0.78Co0.19Al0.032を用いた以外は実施例1の場合と同様にして、比較例4の三電極式試験用セルX4を作製した。尚、この比較例4は、前記特許文献3である特許第3835412号公報に類似した内容である。
【0104】
ここで、上記のようにして作製した正極活物質の表面におけるニオブの量をICPによって測定した結果、ニオブの量は0.45質量%になっていた。
【0105】
そして、上記のように作製した比較例3、4の各三電極式試験用セルを用い、それぞれ25℃の温度条件下において、0.2mA/cm2の電流密度で4.3V(vs.Li/Li+)まで定電流充電を行い、4.3V(vs.Li/Li+)の定電圧で電流密度が0.04mA/cm2になるまで定電圧充電を行った後、0.2mA/cm2の電流密度で2.5V(vs.Li/Li+)まで定電流放電を行った。この時の放電容量を上記の各三電極式試験用セルの定格容量とした。
【0106】
次に、上記の各三電極式試験用セルを、上記のように定格容量の50%まで充電させた時点、すなわち充電深度(SOC)が50%の時点において、それぞれ放電時の出力を25℃で測定した。ここで各組成において、ニオブを添加していないリチウム複合酸化物を正極活物質として使用した比較例3の出力特性を100%として、比較例4の出力特性を算出し、表3に示した。
【0107】

【表3】

【0108】
前記特許文献3である特許第3835412号公報に示されるように、この文献に示されたリチウムニッケル複合酸化物の表面に酸化ニオブ、酸化チタンを存在させて焼成した正極活物質を用いた場合においては、正極の熱安定性は向上するものの、比較例3、4の結果より、Li1.02Ni0.78Co0.19Al0.032で表されるリチウムニッケル複合酸化物の表面にニオブ酸化物を付与させた場合は、SOC50%の出力特性は寧ろ低下する結果であった。これは、Li1.02Ni0.78Co0.19Al0.032で表されるリチウムニッケル複合酸化物のNiはその価数が3価であり、その場合には、ニオブが作用しなかったためと推察される。このように、正極活物質表面へのニオブ含有物を付与させることによる出力特性の向上は、前記の一般式Li1+xNiaMnbCoc2+d(式中、x,a,b,c,dはx+a+b+c=1、0.7≦a+b、0<x≦0.1、0≦c/(a+b)<0.35、0.7≦a/b≦2.0、−0.1≦d≦0.1の条件を満たす。) で表されるリチウム含有遷移金属複合酸化物を用いた場合における特有の効果であると考えられる。
【符号の説明】
【0109】
10 三電極式試験用セル
11 作用極(正極)
12 対極(負極)
13 参照極
14 非水電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、非水系溶媒に溶質を溶解させた非水電解液とを備えた非水電解質二次電池において、上記の正極活物質として、一般式Li1+xNiaMnbCoc2+d(式中、x,a,b,c,dはx+a+b+c=1、0.7≦a+b、0<x≦0.1、0≦c/(a+b)<0.35、0.7≦a/b≦2.0、−0.1≦d≦0.1の条件を満たす。)で表される層状構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物にニオブが付与されたものを用いたことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解質二次電池において、正極活物質として、前記のリチウム含有遷移金属複合酸化物の少なくとも表面にニオブ含有酸化物が焼結されたものを用いたことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項3】
請求項1または2に記載の非水電解質二次電池において、正極活物質として、前記のリチウム含有遷移金属複合酸化物を作製後、ニオブ含有物を添加し、熱処理することにより、前記リチウム含有遷移金属複合酸化物の少なくとも表面にニオブ含有酸化物が焼結されたものを用いたことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の非水電解質二次電池において、一般式Li1+xNiaMnbCoc2+d(式中、x,a,b,c,dはx+a+b+c=1、0.7≦a+b、0<x≦0.1、0≦c/(a+b)<0.35、0.7≦a/b≦2.0、−0.1≦d≦0.1の条件を満たす。)で表される層状構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物中に2価としてのNiが存在することを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の非水電解質二次電池において、正極活物質として、さらに前記のリチウム含有遷移金属複合酸化物の内部にニオブが含有されたものを用いたことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の非水電解質二次電池において、前記の正極活物質におけるニオブの量が0.05質量%以上、2.00質量%以下であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項7】
請求項6に記載の非水電解質二次電池において、前記の正極活物質におけるニオブの量が0.20質量%以上、1.00質量%以下であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載の非水電解質二次電池において、前記の正極活物質における一次粒子の体積平均粒径が0.5μm以上、2μm以下であり、二次粒子の体積平均粒径が4μm以上、15μm以下であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載の非水電解質二次電池において、前記の非水電解液の非水系溶媒に、環状カーボネートと鎖状カーボネートとが体積比2:8〜5:5の範囲で含まれる混合溶媒を用いたことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか1項に記載の非水電解質二次電池において、前記正極活物質の表面を非晶質炭素材料で被覆させたことを特徴とする非水電解質二次電池。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−70789(P2011−70789A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218531(P2009−218531)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】