説明

非水電解質電池及び電池パック

【課題】1.0V(vs Li/Li+)以上貴な電位である負極活物質を用いた非水電解質電池の自己放電と抵抗上昇とを抑制することを可能とし、かつこの非水電解質電池を備えた電池パックを提供する。
【解決手段】実施形態によれば、正極と、負極と、非水電解質とを含む非水電解質電池。負極は、リチウム吸蔵放出電位が1.0V(vs Li/Li+)以上貴である負極活物質を含む。非水電解質は、化学式(I)で表される官能基を有する第1の化合物、及び、イソチオシアナト基を有する第2の化合物を含む。


ここで、R1、R2及びR3は、それぞれ、炭素数が1以上10以下のアルキル基、炭素数が2以上10以下のアルケニル基、又は、炭素数が6以上10以下のアリール基を表し、R1、R2及びR3は互いに同じでも異なっていても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、非水電解質電池及び電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素質物と比較してリチウム吸蔵放出電位が高い、リチウムチタン複合酸化物(約1.56V vs Li/Li+)のような活物質を負極に用いた非水電解質電池が検討されている。リチウムチタン複合酸化物は、充放電に伴う体積変化が小さいためサイクル特性に優れている。また、リチウムチタン複合酸化物のリチウム吸蔵放出反応は、原理的にリチウム金属が析出し難いため、リチウムチタン複合酸化物を用いた電池は大電流での充放電を繰り返しても性能劣化が小さい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−54319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、リチウムチタン複合酸化物のようなリチウム吸蔵放出電位の高い材料を負極活物質に用いた電池は、貯蔵時の自己放電量が多くなることが分ってきた。これは、負極表面に安定な被膜が形成され難く、僅かではあるが非水電解質の分解反応が継続的に生じるためと考えられる。
【0005】
本発明は、1.0V(vs Li/Li+)以上貴な電位でリチウムを吸蔵放出する負極活物質を用いた非水電解質電池の自己放電と抵抗上昇とを抑制することを可能とし、かつこの非水電解質電池を備えた電池パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、正極と、負極と、非水電解質とを含む非水電解質電池が提供される。負極は、リチウム吸蔵放出電位が1.0V(vs Li/Li+)以上貴である負極活物質を含む。非水電解質は、化学式(I)で表される官能基を有する第1の化合物、及び、イソチオシアナト基を有する第2の化合物を含む。
【化1】

【0007】
ここで、R1、R2及びR3は、それぞれ、炭素数が1以上10以下のアルキル基、炭素数が2以上10以下のアルケニル基、又は、炭素数が6以上10以下のアリール基を表し、R1、R2及びR3は互いに同じでも異なっていても良い。
【0008】
また、実施形態によれば、正極と、負極と、非水電解質とを含む非水電解質電池が提供される。負極は、リチウム吸蔵放出電位が1.0V(vs Li/Li+)以上貴である負極活物質を含む。非水電解質は、化学式(I)で表される官能基を有する第1の化合物を含む。負極の表面に、イソチオシアナト基を有する第2の化合物を含む被膜が形成されている。
【化2】

【0009】
ここで、R1、R2及びR3は、それぞれ、炭素数が1以上10以下のアルキル基、炭素数が2以上10以下のアルケニル基、又は、炭素数が6以上10以下のアリール基を表し、R1、R2及びR3は互いに同じでも異なっていても良い。
【0010】
さらに、実施形態によれば、実施形態に係る非水電解質電池を含む電池パックが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一つの態様における扁平型非水電解質二次電池の断面模式図である。
【図2】図1のA部の拡大断面図である。
【図3】他の態様における非水電解質二次電池の断面模式図である。
【図4】図3のB部の断面模式図である。
【図5】電池パックの分解斜視図である。
【図6】電池パックの電気回路を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
リチウムチタン複合酸化物のようなリチウム吸蔵放出電位が高い材料を用いた非水電解質電池は、炭素質物を負極に用いた非水電解質電池よりも自己放電が増加する。この自己放電は、負極活物質に安定な被膜が形成され難いため、非水電解質の分解反応が継続的に生じることが原因であると考えられる。そのような場合、負極活物質のみでなく、負極導電剤にも安定な被膜が形成され難く、また負極材料層(負極活物質含有層)の比表面積が増大するほど自己放電量は大きくなると考えられる。
【0014】
また、電池内部に水分が含まれると、この水分と非水電解質に含まれるLiBF4やLiPF6などのリチウム塩とが反応してフッ酸が生じる。このフッ酸は、電池の構成部材を溶解し、電池性能を劣化させる。特に、正極の活物質中に遷移金属元素が含まれる場合、フッ酸はその遷移金属元素を溶解させる。溶解された遷移金属元素は、負極表面に析出し、電池抵抗を増加させる。
【0015】
非水電解質電池には、構成部材に由来するか、又は製造工程で不可避な水分が電池内部に含まれる。リチウムチタン複合酸化物は−OH基が付き易いため、リチウムチタン複合酸化物を用いた電池は特に水分を含みやすい。このため、電池抵抗の増加が顕著になる。また、リチウムチタン複合酸化物の比表面積が大きくなるに従って、吸着水分量も増大するため、比表面積が増大するほどその影響も大きくなる。
【0016】
非水電解質電池に含まれる水分を除去する方法として、活性アルミナなどを添加し、物理的に水分を吸着する方法や、イソチオシアナト基を有する有機化合物を非水電解液に添加する方法が提案されている。しかし、物理的に水分を吸着する方法は、水分除去効果が薄く、また、高温では吸着した水分を再び放出するという問題がある。一方、イソチオシアナト基を有する有機化合物を用いる方法によると、電池抵抗がわずかに増加する。車載用など非水電解質電池に高出入力特性が必要とされる場合には、この抵抗増加は大きな問題となる。
【0017】
そこで本発明者らは鋭意研究した結果、リチウム吸蔵放出電位が1.0V(vs Li/Li+)以上貴である負極活物質を含む負極を用いた電池において、非水電解質に、下記の化学式(I)で表される官能基を有する第1の化合物と、イソチオシアナト基を有する第2の化合物とを含有させることにより、自己放電を大幅に抑制すると共に、電池抵抗を低下させることが可能であることを見出した。
【化3】

【0018】
ここで、R1、R2及びR3は、それぞれ、炭素数が1以上10以下のアルキル基、炭素数が2以上10以下のアルケニル基、又は、炭素数が6以上10以下のアリール基を表す。R1、R2及びR3は互いに同じでも異なっていても良い。
【0019】
第2の化合物の還元電位は、凡そ0.9V(vs. Li/Li+)であるため、負極活物質のリチウム吸蔵放出電位(1.0V(vs Li/Li+)以上貴)に比して卑である。このため、第2の化合物は、初充放電時に完全に分解されずに、水と速やかに反応する。この反応物の一部は非水電解質中に溶解し、一部は負極表面に薄く緻密な被膜を形成する。この被膜は極めて安定であるため、負極の表面において生じる負極活物質と非水電解質との反応である還元反応を抑制することが可能である。
【0020】
仮に、負極活物質として炭素材料を用いる場合、第2の化合物の還元電位が負極活物質のリチウム吸蔵放出電位に比して貴な電位となるため、初回充電時に第2の化合物がほぼ完全に還元分解される。この還元分解による副生成物は、負極表面を過度に汚染し抵抗成分となって、充放電サイクル性能や大電流性能などの電池性能を著しく低下させる。
【0021】
このように、第2の化合物は、1.0V(vs. Li/Li+)以上貴な電位でリチウムを吸蔵放出する負極活物質を用いた非水電解質電池における水分除去と還元反応抑制とに有効であるものの、電池抵抗がわずかに増加する。車載用など非水電解質電池に高出入力特性が必要とされる場合には、この抵抗増加によって大きな電圧降下が生じる。
【0022】
この第2の化合物と共に第1の化合物を非水電解質に含有させることにより、電池抵抗を低下させることが可能である。第1の化合物は、下式(A)に示すように水と反応して分解生成物を生じる。
【化4】

【0023】
また、第1の化合物は、下式(B)に示すようにフッ酸と反応して分解生成物を生じる。
【化5】

【0024】
第1の化合物は、式(A)で示したように水と速やかに反応するため、非水電解質中の水分を除去する効果を有し、また、式(B)で示したようにフッ酸をトラップする効果も有すると期待される。第1の化合物を添加することにより、電池抵抗が低下するメカニズムは定かではないが、第2の化合物により形成される被膜に第1の化合物又は上記式(A)及び(B)に示したような分解生成物が介在することにより、より抵抗が低く安定な被膜が形成されるものと考えられる。
【0025】
このように、第1の化合物を添加することにより、第2の化合物を単独で加えた電池よりも電池抵抗を小さくすることができると共に、第2の化合物をも添加しない電池よりも低い電池抵抗を実現することができる。
【0026】
従って、非水電解質に第1の化合物と第2の化合物を添加することにより、非水電解質中の水分を除去することができるとともに、負極に安定な被膜を形成することができる。その際、過剰な被膜は形成されず、高い出入力性能を維持することができる。負極に安定な被膜が形成されることにより、負極と非水電解質との反応による自己放電を抑制することができる。負極上に形成された被膜は、抵抗が小さく、得られる電池は良好な大電流特性を実現することができる。
【0027】
さらに、第1の化合物と第2の化合物を含む非水電解質を用いることにより、リチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質を用いた非水電解質電池の充放電サイクル寿命を向上することができる。リチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質を用いた非水電解質電池の非水電解質として、第1の化合物を含むが、第2の化合物を含まないものを用いると、充放電サイクル寿命が低下する。この傾向は、リチウムニッケル複合酸化物中の残留アルカリ成分が多い(例えば、pH10.8を越えるような)場合に顕著である。第1の化合物と第2の化合物を併用することによって、これら化合物を含有させない場合、或いはどちらか一方を単独で含有させた場合に比べて充放電サイクル寿命を向上することができる。これは、第2の化合物が負極で分解され、分解生成物が電解液中に溶け出し、正極にも作用したためと推測される。このことは正極から本来含まれない硫黄成分が検出されたことで裏付けられる。詳細な機構は不明であるが、第1の化合物よりも還元分解電位が貴である第2の化合物が正極にも逸早く作用するためと予想している。
【0028】
以上、第2の化合物を単独で用いた場合には、自己放電は抑制されるが出力性能が低下する。一方、第1の化合物を単独で用いた場合には、抵抗は小さくなるが自己放電は抑制されない。正極活物質にリチウムニッケル複合酸化物を用いた場合には充放電サイクル性能も低下する。これらを併用した場合、各々を単独で用いた場合に比べて自己放電を抑制することができ、出力性能のみならず、充放電サイクル寿命も改善することができる。
【0029】
非水電解質中の第1の化合物の分解生成物は、ガスクロマトグラフィ質量分析法(GC/MS)によって検出することができる。負極表面上の第2の化合物は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)によって検出することができる。
【0030】
検出に供する非水電解質は、分析する電池を半充電状態(SOC50%)に調整し、アルゴンボックス等の不活性雰囲気中で解体して抽出する。負極は、解体した電池の電極群から採取する。負極の検出に供する部分は、正極とセパレータを介して対向している箇所のうち平均的な特性を示す部分とする。例えば、図1に例示される捲回型電極群の場合、捲回をほどいた負極の長辺の中央付近におけるセパレータを介して正極と対向している部分を、検出に供する。図3に例示される積層型電極群の場合、積層方向の中央に位置する層の中央付近のセパレータを介して正極と対向している部分を、検出に供する。
【0031】
GC/MSは、例えば以下の方法で分析できる。装置には、Agilent製GC/MS(5989B)を用い、測定カラムとしてDB-5MS(30m×0.25mm×0.25μm)を用いる。非水電解質は直接分析するほか、アセトン、DMSOなどで希釈して測定することもできる。
【0032】
FT−IRは、例えば以下の方法で分析できる。装置には、フーリエ変換型FTIR 装置 :FTS-60A(BioRad Digilab 社製)を用いる。測定条件として、光源:特殊セラミックス、検出器:DTGS、波数分解能:4 cm-1、積算回数:256 回、リファレンス:金蒸着フィルムとし、付属装置として、拡散反射測定装置(PIKE Technologies 社製)などを適用することができる。
【0033】
なお、正極活物質に遷移金属元素が含まれる場合のみでなく、遷移金属元素が含まれない場合であっても、大電流放電特性の向上と自己放電の抑制の効果を得ることができる。
【0034】
実施形態に係る非水電解質電池は、負極、非水電解質、正極、セパレータ、外装部材、正極端子、負極端子を含んでいても良い。
以下に、実施形態に係る非水電解質電池について図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0035】
図1は、非水電解質電池の一例である、扁平型非水電解質電池の断面図である。図2は図1のA部の拡大断面図である。
扁平状の捲回電極群6は、2枚の樹脂層の間に金属層を介在したラミネートフィルムからなる袋状外装部材7内に収納されている。扁平状の捲回電極群6は、外側から負極4、セパレータ5、正極3、セパレータ5の順で積層した積層物を渦巻状に捲回し、プレス成形することにより形成される。
【0036】
負極4は、負極集電体4aと負極材料層(負極活物質含有層)4bから構成される。最外層の負極4は、図2に示すように負極集電体4aの内面側の片面に負極材料層4bを形成した構成を有する。その他の負極4は、負極集電体4aの両面に負極材料層4bが形成されている。正極3は、正極集電体3aの両面に正極材料層(正極活物質含有層)3bが形成されている。
【0037】
捲回電極群6の外周端近傍において、負極端子2は最外層の負極4の負極集電体4aに接続され、正極端子1は内側の正極3の正極集電体3aに接続されている。これらの負極端子2及び正極端子1は、袋状外装部材7の開口部から外部に延出されている。非水電解質としての非水電解液は、例えば、袋状外装部材7の開口部から注入される。袋状外装部材7の開口部を負極端子2及び正極端子1を挟んでヒートシールすることにより捲回電極群6及び非水電解液を完全密封している。
【0038】
以下、負極、非水電解質、正極、セパレータ、外装部材、正極端子、負極端子について詳細に説明する。
【0039】
1)負極
負極は、集電体と、該集電体の片面若しくは両面に形成された活物質を含む負極材料層(負極活物質含有層)とを含む。負極材料層には、導電剤及び結着剤が含まれてよい。
【0040】
負極活物質としては、リチウム吸蔵放出電位が1.0V(vs. Li/Li+)であるか、1.0V(vs. Li/Li+)よりも貴である負極活物質が用いられる。負極活物質に、第2の化合物の分解電位よりも卑な電位、例えば、1.0V(vs. Li/Li+)よりも卑な電位でリチウムを吸蔵する炭素質物などを用いた場合には、第2の化合物が過度に還元分解されて、負極表面に抵抗の高い被膜を過剰に形成し、電池性能を著しく低下させる。また、これら化合物自身の過度な分解反応によって多量のガスを発生させ、電池を変形させてしまう。負極活物質は、電池電圧を高くするためにリチウム吸蔵放出電位が3V(vs. Li/Li+)よりも卑であることが好ましい。
【0041】
リチウム吸蔵放出電位が1.0V(vs. Li/Li+)以上貴な負極活物質は、リチウムチタン複合酸化物であることが好ましい。リチウムチタン複合酸化物は、1.5V(vs. Li/Li+)近傍でリチウムを吸蔵するため、非水電解質に添加する第2の化合物が過度に還元分解されるのを回避することができる。
【0042】
リチウムチタン複合酸化物の例には、例えば、立方晶系スピネル型Li4+xTi512(0≦x≦3)及び斜方晶系ラムスデライト型Li2+yTi37(yは0≦y≦3)のようなリチウムチタン酸化物、リチウムチタン酸化物の構成元素の一部を異種元素で置換したリチウムチタン複合酸化物が含まれる。充放電サイクル寿命の観点からは、リチウム吸蔵・放出による格子体積変化が小さい立方晶系スピネル型のリチウムチタン酸化物が好ましい。
【0043】
負極活物質の他の例には、リチウム吸蔵放出電位が1〜2V(vs. Li/Li+)である、LiNb(0≦x≦2)及びLiNbO(0≦x≦1)のようなリチウムニオブ複合酸化物、リチウム吸蔵放出電位が2〜3V(vs. Li/Li+)であるLiMoO(0≦x≦1)のようなリチウムモリブデン複合酸化物、リチウム吸蔵放出電位が1.8V(vs. Li/Li+)であるLiFeS(0≦x≦4)のようなリチウム鉄複合硫化物等が含まれる。
【0044】
また、負極活物質として、TiO2のようなチタン酸化物、又は、TiとP、V、Sn、Cu、Ni、Co及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有する金属複合酸化物を用いることもできる。これらの酸化物は、初回の充電時にリチウムを吸蔵してリチウムチタン複合酸化物となる。TiO2は、単斜晶系β型(ブロンズ型、或いはTiO(B)とも言われる)で熱処理温度が300〜500℃の低結晶性のものが好ましい。
【0045】
TiとP、V、Sn、Cu、Ni、Co及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素を含有する金属複合酸化物の例には、例えば、TiO2−P25、TiO2−V25、TiO2−P25−SnO2、TiO2−P25−MeO(MeはCu、Ni、Co及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素)が含まれる。この金属複合酸化物は、結晶相とアモルファス相が共存もしくは、アモルファス相単独で存在したミクロ構造であることが好ましい。このようなミクロ構造であることによりサイクル性能が大幅に向上することができる。
【0046】
負極活物質には、上記で挙げられた活物質を単独で用いてもよいが、混合して用いてもよい。
【0047】
負極活物質の平均一次粒径は1μm以下にすることが望ましい。また、平均一次粒径を0.001μm以上にすることによって、非水電解質の分布の偏りを少なくすることができるため、正極での非水電解質の枯渇を抑制することができる。よって、その平均一次粒径の下限値は、0.001μm以上であることが好ましい。
【0048】
負極活物質は、その平均一次粒径が1μm以下で、かつN2吸着によるBET法での比表面積が5〜50m2/gの範囲であることが望ましい。これにより、非水電解質の含浸性を高めることが可能となる。
【0049】
負極活物質の比表面積が大きくなるほど、自己放電抑制効果と大電流性能向上効果が高くなる。これは、リチウムチタン複合酸化物と水との親和力が高く、比表面積が大きいほど、多くの水分をセル内に持ち込むためである。
【0050】
負極の気孔率(集電体を除く)は、20〜50%の範囲にすることが望ましい。これにより、負極と非水電解質との親和性に優れ、かつ高密度な負極を得ることができる。気孔率は25〜40%の範囲であることがより好ましい。
【0051】
負極の密度は、1.8g/cc以上であることが好ましい。これにより、気孔率を上記の範囲内にすることができる。負極密度のより好ましい範囲は、1.8〜2.5g/ccである。
【0052】
負極集電体は、アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔であることが好ましい。負極集電体は、平均結晶粒径が50μm以下であることが好ましい。これにより、集電体の強度を飛躍的に増大させることができるため、負極を高いプレス圧で高密度化することが可能となり、電池容量を増大させることができる。また、高温環境下(40℃以上)における過放電サイクルでの負極集電体の溶解及び腐食による劣化を防ぐことができるため、負極インピーダンスの上昇を抑制することができる。さらに、出力特性、急速充電、充放電サイクル特性も向上させることができる。平均結晶粒径のより好ましい範囲は30μm以下であり、更に好ましい範囲は5μm以下である。
【0053】
平均結晶粒径は次のようにして求められる。集電体表面の組織を光学顕微鏡で組織観察し、1mm×1mm内に存在する結晶粒の数nを求める。このnを用いてS=1x106/n(μm2)から平均結晶粒子面積Sを求める。得られたSの値から下記(C)式により平均結晶粒子径d(μm)を算出する。
【0054】
d=2(S/π)1/2 (C)
平均結晶粒子径の範囲が50μm以下の範囲にあるアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔は、材料組成、不純物、加工条件、熱処理履歴ならび焼なましの加熱条件など多くの因子に複雑に影響され、結晶粒子径(直径)は、製造工程の中で、諸因子を組み合わせて調整される。
【0055】
アルミニウム箔およびアルミニウム合金箔の厚さは、20μm以下、より好ましくは15μm以下である。アルミニウム箔の純度は99質量%以上が好ましい。アルミニウム合金としては、マグネシウム、亜鉛、ケイ素などの元素を含む合金が好ましい。一方、鉄、銅、ニッケル、クロムなどの遷移金属の含有量は1質量%以下にすることが好ましい。
【0056】
負極材料層(負極活物質含有層)には導電剤を含有させることができる。導電剤としては、例えば、炭素材料、アルミニウム粉末のような金属粉末、TiOなどの導電性セラミックスを用いることができる。炭素材料の例には、アセチレンブラック、カーボンブラック、コークス、炭素繊維、及び黒鉛が含まれる。より好ましくは、熱処理温度が800〜2000℃である、平均粒子径10μm以下のコークス、黒鉛、TiOの粉末、及び、平均粒子径1μm以下の炭素繊維が用いられる。炭素材料のN2吸着によるBET比表面積は10m2/g以上が好ましい。
【0057】
負極材料層(負極活物質含有層)には結着剤を含有させることができる。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム、及び、コアシェルバインダーが含まれる。
【0058】
負極活物質、負極導電剤及び結着剤の配合比については、負極活物質は70質量%以上96質量%以下、負極導電剤は2質量%以上28質量%以下、結着剤は2質量%以上28質量%以下の範囲にすることが好ましい。負極導電剤量を2質量%以上にすることにより、負極材料層の集電性能を向上させることができ、非水電解質電池の大電流特性を向上させることができる。また、結着剤量を2質量%以上にすることにより、負極材料層と負極集電体の結着性が十分となり、高いサイクル特性が得られる。一方、高容量化の観点から、負極導電剤及び結着剤は各々28質量%以下であることが好ましい。
【0059】
負極は、例えば、負極活物質、負極導電剤及び結着剤を汎用されている溶媒に懸濁し作製したスラリーを、負極集電体に塗布し、乾燥し、負極材料層(負極活物質含有層)を作製した後、プレスを施すことにより作製される。
【0060】
2)非水電解質
非水電解質には、例えば、非水電解液を用いることができる。非水電解液は、非水溶媒と、電解質と、化学式(I)で表される官能基を有する第1の化合物と、イソチオシアナト基を有する第2の化合物とを含む。第1,第2の化合物は、固体である場合は非水溶媒に溶解させ、液体である場合は非水溶媒と混合させればよい。電解質は、非水溶媒に溶解され、非水溶媒中の電解質の濃度は、0.5mol/L以上2.5mol/L以下にすることが好ましい。
【化6】

【0061】
ここで、R1、R2及びR3は、それぞれ、炭素数が1以上10以下のアルキル基、炭素数が2以上10以下のアルケニル基、又は、炭素数が6以上10以下のアリール基を表す。R1、R2及びR3は互いに同じでも異なっていても良い。
【0062】
第1の化合物は、化学式(I)で表わされる官能基を3個、2個又は1個有する化合物である。第1の化合物は、化学式(I)で表わされる官能基を有するリン酸化合物又はホウ酸化合物であることが好ましい。リン酸化合物及びホウ酸化合物は、非水電解質中に添加された後、還元分解されてリン酸リチウム及びホウ酸リチウムを生成する。これらの化合物は負極表面で安定化し、良質な被膜の形成に寄与することができる。特に、以下の化学式(IV)で表されるリン酸化合物が好ましい。化学式(IV)で表されるリン酸化合物によると、正極の表面に良質な被膜を形成することができる。
【化7】

【0063】
ここで、R1、R2及びR3は、それぞれ、炭素数が1以上10以下のアルキル基、炭素数が2以上10以下のアルケニル基、又は、炭素数が6以上10以下のアリール基を表す。R1、R2及びR3は互いに同じでも異なっていても良い。R1、R2及びR3として好ましい官能基は、メチル基、エチル基である。これらによると、自己放電抑制効果と出入力性能向上効果をさらに高めることができる。
【0064】
リン酸化合物は、リン酸シリルエステルであることが好ましく、例えば、以下の化学式(V)で表されるトリス(トリメチルシリル)フォスフェート(TMSP)を用いることができる。
【化8】

【0065】
非水電解質に添加されたトリス(トリメチルシリル)フォスフェートは、分解してフルオロトリメチルシラン((CHSiF)を生成する。よって、添加される第1の化合物として、フルオロトリメチルシラン((CHSiF)を用いることもできる。トリス(トリメチルシリル)フォスフェート及びフルオロトリメチルシランの双方を用いることにより、自己放電抑制効果を高めることができる。
【0066】
なお、ホウ酸化合物として例えばトリス(トリメチルシリル)ボレートを用いた場合も、同様に分解してフルオロトリメチルシラン((CHSiF)が生成される。
【0067】
上記化学式(I)で表される官能基を3個有する第1の化合物の例には、トリス(トリメチルシリル)フォスフェート、トリス(トリエチルシリル)フォスフェート、及び、トリス(ビニルジメチルシリル)フォスフェート、トリス(トリメチルシリル)ボレート、トリス(トリエチルシリル)ボレートが含まれる。特にトリス(トリメチルシリル)フォスフェートが好ましく用いられる。
【0068】
上記官能基を2個有する第1の化合物の例には、ビス(トリメチルシリル)メチルフォスフェート、ビス(トリメチルシリル)エチルフォスフェート、ビス(トリメチルシリル)−n−プロピルフォスフェート、ビス(トリメチルシリル)−i−プロピルフォスフェート、ビス(トリメチルシリル)−n−ブチルフォスフェート、ビス(トリメチルシリル)トリクロロエチルフォスフェート、ビス(トリメチルシリル)トリフルオロエチルフォスフェート、ビス(トリメチルシリル)ペンタフルオロプロピルフォスフェート、及びビス(トリメチルシリル)フェニルフォスフェートが含まれる。
【0069】
上記官能基を1個有する第1の化合物の例には、ジメチルトリメチルシリルフォスフェート、ジエチルトリメチルシリルフォスフェート、ジ−n−プロピルトリメチルシリルフォスフェート、ジ−i−プロピルトリメチルシリルフォスフェート、ジ−n−ブチルトリメチルシリルフォスフェート、ビス(トリクロロエチル)トリメチルシリルフォスフェート、ビス(トリフルオロエチル)トリメチルシリルフォスフェート、ビス(ペンタフルオロプロピル)トリメチルシリルフォスフェート、及びジフェニルトリメチルシリルフォスフェートが含まれる。
【0070】
第1の化合物として、上記に挙げられた化合物を単独で添加してもよいが、複数を組合せて添加してもよい。
【0071】
第2の化合物は、イソチオシアナト基を有する化合物であれば何れのものでもよい。環状有機化合物であっても良いが、環境に対する影響も考慮すると鎖状有機化合物が望ましく、特に以下の化学式(II)又は(III)で表される第2の化合物が、自己放電抑制効果と大電流性能向上効果とに優れ、好ましい。
【0072】
R−NCS (II)
NCS−R−NCS (III)
ここで、Rは炭素数1〜10の鎖状炭化水素基を表す。
【0073】
第2の化合物の分子量が小さい程、少ない添加量で大きな効果を得ることができる。添加量が小さい方が、電導度のような非水電解質の性質を変化させる虞が少ない。従って、上式(II)及び(III)におけるRは、炭素数1以上8以下の鎖状炭化水素基であることがより好ましい。また、第2の化合物は、化学式(III)で表される化合物であることがより好ましい。イソチオシアナト基を2つ有することにより、水分除去効果が2倍になるためである。より水分除去効果が高い化合物を用いることにより、セル内の水分量が増えた場合であっても十分に水分を除去することができる。
【0074】
第2の化合物の例には、1,2−ジイソチオシアナトエタン、1,3−ジイソチオシアナトプロパン、1,4−ジイソチオシアナトブタン、1,4−ジイソチオシアナトベンゼン、1,5−ジイソチオシアナトペンタン、1,6−ジイソチオシアナトヘキサン、1,7−ジイソチオシアナトヘプタン、1,8−ジイソチオシアナトクタン、1−イソチオシアナトヘキサン、1−イソチオシアナトブタン、エチルイソシアネートが含まれる。好ましい第2の化合物は、1,2−ジイソチオシアナトエタン、1,3−ジイソチオシアナトプロパン、1,4−ジイソチオシアナトブタン、1,4−ジイソチオシアナトベンゼン、1,5−ジイソチオシアナトペンタン、1,6−ジイソチオシアナトヘキサン、1,7−ジイソチオシアナトヘプタン、及び、1,8−ジイソチオシアナトクタンからなる群から選択される少なくとも一つの化合物である。これらの化合物は、いずれも入手が容易で、自己放電抑制効果と出入力性能向上効果とに優れている。最も好ましくは、1,6−ジイソチオシアナトヘキサンが用いられる。
【0075】
非水電解質中において、第1の化合物は、第2の化合物の分解電位よりも貴な電位で僅かに反応する。そのため、第2の化合物の過剰な分解を抑制する効果を有すると考えられる。すなわち、被膜の形成が第2の化合物の分解反応に優先して起こると考えられる。この被膜は、電荷移動抵抗が小さく、リチウムイオンをスムーズに負極内部に吸蔵放出させることを可能とし、その結果、電池の初期抵抗を小さくすると考えられる。
【0076】
非水電解質中の第1の化合物の含有量は、0.05質量%以上であることが好ましい。0.05質量%以上添加することによって、抵抗抑制効果を得ることができる。第1の化合物の含有量が多いほど、抵抗抑制効果が大きくなるため、0.1質量%以上であることがより好ましい。一方で、第1の化合物は電導度が低いため、過剰に添加すると電池の大電流性能が低下する虞がある。よって、非水電解質中の第1の化合物の含有量は5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0077】
非水電解質中の第2の化合物の含有量は、0.05〜2質量%の範囲であることが好ましく、0.1〜1質量%の範囲であることがより好ましい。第2の化合物を0.05質量%以上添加することにより、自己放電を抑制する効果を長期間得ることができる。添加量を2質量%以下にすることにより、非水電解質の電導度を低下させることがなく、大電流性能を維持することができる。
【0078】
電解質は、例えば、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、又は、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF3SO22]のようなリチウム塩を用いることができる。電解質は、高電位でも酸化し難いものであることが好ましく、LiBF4又はLiPF6が最も好ましい。電解質は、1種類を単独で用いてもよく、又は2種類以上を合せて用いてもよい。
【0079】
非水溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、及びビニレンカーボネートのような環状カーボネート;ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、及びメチルエチルカーボネート(MEC)のような鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、及びジオキソラン(DOX)のような環状エーテル;ジメトキシエタン(DME)及びジエトエタン(DEE)のような鎖状エーテル;γ−ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)又はスルホラン(SL)を、単独で又は組合せて用いることができる。
【0080】
好ましくは、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)及びγ−ブチロラクトン(GBL)からなる群のうち、2種以上を混合した混合溶媒が用いられる。さらに好ましくは、γ−ブチロラクトン(GBL)とその他の溶媒を混合した混合溶媒が用いられる。この理由は以下の通りである。
【0081】
第一に、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、及びエチレンカーボネートは沸点及び引火点が高く、熱安定性に優れるためである。
【0082】
第二に、γ−ブチロラクトンは、鎖状カーボネート及び環状カーボネートに比べて還元されやすい。具体的には、γ−ブチロラクトン>>>エチレンカーボネート>プロピレンカーボネート>>ジメチルカーボネート>メチルエチルカーボネート>ジエチルカーボネートの順に還元されやすさが低下する。なお、>の数が多いほど、溶媒間の反応性に差があることを示している。
【0083】
γ−ブチロラクトンは、非水電解質中で、リチウムチタン複合酸化物の作動電位域において、僅かに還元されて分解する。この分解物がアミノ化合物と相まって、リチウムチタン酸化物の表面に更に安定な被膜を形成する。これは、上述した混合溶媒についても同様である。よって、還元されやすい溶媒ほど好適に用いられる。
【0084】
負極表面により良質な被膜を形成するためには、γ−ブチロラクトンの含有量が非水溶媒に対して40体積%以上95体積%以下であることが好ましい。
【0085】
γ−ブチロラクトンを含む非水電解質は、上述した優れた効果を示すものの、粘度が高く、電極への含浸性が低い。しかしながら、平均粒径が1μm以下の負極活物質を用いると、γ−ブチロラクトンを含む非水電解質であっても、非水電解質の含浸をスムーズに行うことが可能である。よって、生産性を向上させると共に、出力特性及び充放電サイクル特性を向上させることが可能となる。
【0086】
3)正極
正極は、正極集電体と、正極集電体の片面若しくは両面に担持され、正極活物質及び任意に正極導電剤及び結着剤を含む正極材料層(正極活物質含有層)とを有する。
【0087】
正極活物質には、酸化物、硫化物、及びポリマーを用いることができる。
【0088】
酸化物の例には、Liを吸蔵放出することが可能な二酸化マンガン(例えばMnO2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、及び、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLiMn24又はLixMnO2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLiNi1-yCoy2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLiMnyCo1-y2)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiy4)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(例えばLixFePO4、LixFe1-yMnyPO4、及びLixCoPO4等)、硫酸鉄(例えばFe2(SO43)、バナジウム酸化物(例えばV25)、及び、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物が含まれる。ここで、x及びyは0〜1.2の範囲であることが好ましい。
【0089】
ポリマーの例には、ポリアニリン及びポリピロールのような導電性ポリマー材料、ジスルフィド系ポリマー材料が含まれる。その他に、イオウ(S)及びフッ化カーボンも使用できる。
【0090】
高い正極電圧が得られる正極活物質の例には、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn24)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoy2)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiy4)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-y2)、リチウムリン酸鉄(例えばLixFePO4)、及びリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物が含まれる。ここで、x及びyは0〜1.2の範囲であることが好ましい。
【0091】
上述したように、本発明では、上記正極活物質の中でも特にニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物を適用する場合に高い効果を示す。特に、活物質2gを100gの蒸留水に投入・攪拌して測定される2%pHの値が10.8を超える場合に特に有効である。
【0092】
正極活物質として、LiCoO2及びLiMn24のようなリチウム遷移金属複合酸化物を用いた場合は、第2の化合物が僅かに酸化分解し、正極表面を汚染することがある。この場合、Al、Mg、Zr、B、Ti及びGaの少なくとも1種の元素の酸化物により、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面の一部又は全部を被覆することが好ましい。これにより、非水電解質に第2の化合物が含まれる場合であっても、正極活物質表面での非水電解質の酸化分解を抑制することができる。よって、正極表面の汚染を軽減することができ、より長寿命の非水電解質電池が得られる。
【0093】
被覆に用いられる酸化物には、例えば、Al23、MgO、ZrO2、B23、TiO2、又はGa23を使用することができる。酸化物は、これに限定されないが、リチウム遷移金属複合酸化物の量に対して0.1〜15質量%含まれることが好ましく、0.3〜5質量%含まれることがより好ましい。被覆に用いられる酸化物を0.1質量%以上にすることにより、リチウム遷移金属複合酸化物の表面での非水電解質の酸化分解を抑制することができる。また、酸化物を15質量%以下にすることにより、高容量なリチウムイオン電池を実現することができる。
【0094】
また、リチウム遷移金属複合酸化物中には、上記のような被覆に用いられる酸化物の付着したリチウム遷移金属複合酸化物粒子と、これらの酸化物の付着していないリチウム遷移金属複合酸化物粒子が含まれてもよい。
【0095】
被覆に用いられる酸化物は、MgO、ZrO2又はB23であることが好ましい。これらの酸化物が付着したリチウム遷移金属複合酸化物を、正極活物質として用いることにより、充電電圧をより高く、例えば4.4V(vs Li/Li)以上まで上昇させることができ、充放電サイクル特性を改善することができる。
【0096】
リチウム遷移金属複合酸化物の組成は、その他の避けられない不純物を含んでいてもよい。
【0097】
リチウム遷移金属複合酸化物の被覆は、以下のように行うことができる。まず、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子に、Al、Mg、Zr、B、Ti、Gaの少なくとも1種の元素Mのイオンを含有する水溶液を含浸させる。得られた含浸リチウム遷移金属複合酸化物粒子を焼成することにより、Al、Mg、Zr、B、Ti、Gaの少なくとも1種の元素Mの酸化物で被覆されたリチウム遷移金属複合酸化物粒子を得ることができる。
【0098】
含浸に用いる水溶液の形態としては、焼成後にリチウム遷移金属複合酸化物の表面にAl、Mg、Zr、B、Ti、Gaの少なくとも1種の元素Mの酸化物が付着することを可能にするものであれば特に限定されず、適切な形態のAl、Mg、Zr、B、Ti、Gaを含む水溶液を用いることができる。これらの金属(ホウ素を含む)の形態は、例えば、Al、Mg、Zr、B、Ti及びGaから選択される少なくとも1つの元素のオキシ硝酸塩、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物あるいは酸などであってよい。
【0099】
前述の通り、被覆に用いられる酸化物は、MgO、ZrO2又はB23であることが好ましいため、元素MのイオンはMgイオン、Zrイオン又はBイオンであることがより好ましい。元素Mのイオンを含む水溶液としては、例えば、Mg(NO32水溶液、ZrO(NO32水溶液、ZrCO4・ZrO2・8H2O水溶液、Zr(SO42水溶液又はH3BO3水溶液がより好ましく、中でも、Mg(NO32水溶液、ZrO(NO32水溶液又はH3BO3水溶液が最も好ましい。
【0100】
元素Mのイオン水溶液の濃度は、特に限定されないが、飽和溶液が好ましい。飽和溶液を用いることにより、含浸工程において溶液の体積を小さくできる。
【0101】
元素Mのイオンの水溶液中における形態は、M元素単体からなるイオンのみならず、他の元素と結合しているイオンの状態であってよい。ホウ素を例にあげると、例えばB(OH)4-であってよい。
【0102】
含浸工程における、リチウム遷移金属複合酸化物と元素Mのイオン水溶液との質量比は、特に限定されず、製造しようとするリチウム遷移金属複合酸化物の組成に応じた質量比とすればよい。含浸時間については、含浸が充分に行われる時間であればよく、また、含浸温度についても特に限定はされない。
【0103】
焼成の温度及び時間は、適宜決定することができるが、好ましくは400〜800℃で1〜5時間、特に好ましくは600℃で3時間である。また焼成は、酸素気流下又は大気中にて行ってもよい。また、含浸後の粒子をそのまま焼成してもよいが、混合物中の水分を除去するために、該粒子を焼成前に乾燥させることが好ましい。ここで乾燥は、通常知られている方法により行うことができ、例えばオーブン内加熱、熱風乾燥などを単独又は組み合わせて行うことができる。また、乾燥の際には、酸素又は空気などの雰囲気下で行うことが好ましい。
【0104】
このようにして得られた、被覆されたリチウム遷移金属複合酸化物は、必要に応じて粉砕してもよい。
【0105】
正極活物質の一次粒子径は、100nm以上1μm以下であることが好ましい。100nm以上であると、工業生産上扱いやすい。1μm以下であると、リチウムイオンの固体内拡散をスムーズに進行させることができる。
【0106】
正極活物質の比表面積は、0.1m2/g以上10m2/g以下であることが好ましい。0.1m2/g以上であると、リチウムイオンの吸蔵放出サイトを十分に確保できる。10m2/g以下であると、工業生産上扱いやすく、良好な充放電サイクル性能を確保できる。
【0107】
集電性能を高め、集電体との接触抵抗を抑えるための正極導電剤は、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、及び黒鉛のような炭素質物を用いることができる。
【0108】
正極活物質と正極導電剤を結着させるための結着剤は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、及びフッ素系ゴムを用いることができる。
【0109】
正極活物質、正極導電剤及び結着剤の配合比は、正極活物質が80質量%以上95質量%以下、正極導電剤が3質量%以上18質量%以下、結着剤が2質量%以上17質量%以下の範囲であることが好ましい。正極導電剤は、3質量%以上であることにより上述した効果を発揮することができ、18質量%以下であることにより、高温保存下での正極導電剤表面での非水電解質の分解を低減することができる。結着剤は、2質量%以上であることにより十分な電極強度が得られ、17質量%以下であることにより、電極の絶縁体の配合量を減少させ、内部抵抗を減少できる。
【0110】
正極は、例えば、正極活物質、正極導電剤及び結着剤を適当な溶媒に懸濁してスラリーを調製する。このスラリーを、正極集電体に塗布し、乾燥し、正極材料層(正極活物質含有層)を形成した後、プレスを施すことにより作製することができる。その他、正極活物質、正極導電剤及び結着剤をペレット状に形成し、正極材料層(正極活物質含有層)として用いても良い。
【0111】
正極集電体は、アルミニウム箔若しくはアルミニウム合金箔が好ましく、負極集電体と同様にその平均結晶粒径は50μm以下であることが好ましい。より好ましくは、30μm以下である。更に好ましくは5μm以下である。平均結晶粒径が50μm以下であることにより、アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔の強度を飛躍的に増大させることができ、正極を高いプレス圧で高密度化することが可能になり、電池容量を増大させることができる。
【0112】
平均結晶粒径の範囲が50μm以下の範囲にあるアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔は、材料組織、不純物、加工条件、熱処理履歴、ならびに焼鈍条件など複数の因子に複雑に影響され、結晶粒径は製造工程の中で、諸因子を組合せて調整される。
【0113】
アルミニウム箔およびアルミニウム合金箔の厚さは、20μm以下、より好ましくは15μm以下である。アルミニウム箔の純度は99質量%以上が好ましい。アルミニウム合金としては、マグネシウム、亜鉛、ケイ素、などの元素を含む合金が好ましい。一方、鉄、銅、ニッケル、クロムなどの遷移金属の含有量は1質量%以下にすることが好ましい。
【0114】
4)セパレータ
セパレータとして、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、又はポリフッ化ビニリデン(PVdF)を含む多孔質フィルム、又は、合成樹脂製不織布を用いることができる。セルロースは末端に水酸基を持つため、セル内に水分を持ち込みやすい。そのため、特にセルロースを含むセパレータを用いた場合に、実施形態による効果がより発揮される。
【0115】
セパレータは、水銀圧入法による細孔メディアン径が0.15μm以上2μm以下であることが好ましい。細孔メディアン径を0.15μm以上にすることにより、セパレータの膜抵抗が小さく、高出力が得られる。また、2μm以下であると、セパレータのシャットダウンが均等に起こるため、高い安全性が実現できる。その他、毛細管現象による非水電解質の拡散が促進され、その結果、非水電解質の枯渇によるサイクル劣化が防止される。より好ましい範囲は0.18μm以上0.40μm以下である。
【0116】
セパレータは、水銀圧入法による細孔モード径が0.12μm以上1.0μm以下であることが好ましい。細孔モード径が0.12μm以上であることにより、セパレータの膜抵抗が小さく、高出力が得られ、さらに高温及び高電圧環境下でのセパレータの変質が防止され、高出力が得られる。また、1.0μm以下であることにより、セパレータのシャットダウンが均等に起こるため、高い安全性が実現できる。より好ましい範囲は0.18μm以上0.35μm以下である。
【0117】
セパレータの気孔率は45%以上75%以下であることが好ましい。気孔率が45%以上であることにより、セパレータ中のイオンの絶対量が十分であり高出力が得られる。気孔率が75%以下であることにより、セパレータの強度が高く、また、シャットダウンが均等に起こらため高い安全性が実現できる。より好ましい範囲は、50%以上65%以下である。
【0118】
5)外装部材
外装部材は、肉厚0.2mm以下のラミネートフィルム、又は、肉厚1mm以下の金属製容器を用いることができる。金属製容器の肉厚は、0.5mm以下であるとより好ましい。
【0119】
形状は、扁平型、角型、円筒型、コイン型、ボタン型、シート型、又は積層型であってよい。また、携帯用電子機器等に積載される小型電池、二輪乃至四輪の自動車等に積載される大型電池であってもよい。
【0120】
ラミネートフィルムは、金属層と金属層を被覆する樹脂層とからなる多層フィルムである。軽量化のために、金属層はアルミニウム箔若しくはアルミニウム合金箔が好ましい。樹脂層は、金属層を補強するためのものであり、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、及びポリエチレンテレフタレート(PET)のような高分子を用いることができる。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行うことにより成形する。
【0121】
金属製容器は、アルミニウム又はアルミニウム合金を用いることができる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛及びケイ素のような元素を含む合金が好ましい。一方、鉄、銅、ニッケル及びクロムのような遷移金属の含有量は、1質量%以下にすることが好ましい。これにより、高温環境下での長期信頼性、放熱性を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0122】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属缶は、平均結晶粒径が50μm以下であることが好ましい。より好ましくは30μm以下である。更に好ましくは5μm以下である。平均結晶粒径を50μm以下とすることによって、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属缶の強度を飛躍的に増大させることができる。また、缶をより薄肉化することができる。その結果、軽量かつ高出力で長期信頼性に優れた、車載用に適した電池を提供することができる。
【0123】
6)負極端子
負極端子は、リチウムイオン金属に対する電位が0.4V以上3V以下の範囲における電気的安定性と導電性とを備える材料から形成することができる。具体的には、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金、アルミニウムが挙げられる。接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料が好ましい。
【0124】
7)正極端子
正極端子は、リチウムイオン金属に対する電位が3V以上5V以下の範囲における電気的安定性と導電性とを備える材料から形成することができる。具体的には、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金、アルミニウムが挙げられる。接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料が好ましい。
【0125】
図3に、非水電解質電池の他の例を示す。図3は、扁平型非水電解質電池の部分切欠斜視図である。図4は、図3のB部の拡大断面図である。
【0126】
積層型電極群19は、2枚の樹脂層の間に金属層を介在したラミネートフィルムからなる外装部材18内に収納されている。積層型電極群19は、図4に示すように、正極13と負極14とが、その間にセパレータ15を介在させながら交互に積層した構造を有する。正極13は複数枚存在し、それぞれが正極集電体13aと、正極集電体13aの両面に形成された正極材料層(正極活物質含有層)13bとを含む。負極14は複数枚存在し、それぞれが負極集電体14aと、負極集電体14aの両面に形成された負極材料層(負極活物質含有層)14bとを含む。各負極14の負極集電体14aは、一辺が突出している。突出した負極集電体14aは、帯状の負極端子12に電気的に接続されている。帯状の負極端子12の先端は、外装部材18から外部に引き出されている。また、図示しないが、正極集電体13aは、負極集電体14aの突出辺と反対側に位置する辺が突出している。突出した正極集電体13aは、帯状の正極端子11に電気的に接続されている。帯状の正極端子11の先端は、負極端子12とは反対側に位置し、外装部材18の辺から外部に引き出されている。
【0127】
第1の実施形態によれば、第1の化合物及び第2の化合物を含む非水電解質を用いるため、リチウム吸蔵放出電位が1.0V(vs Li/Li+)以上貴である負極活物質を用いた非水電解質電池における自己放電の抑制が可能であり、さらに電池抵抗を低下させることが可能である。よって、良好な出入力性能を有する非水電解質電池を提供することができる。
【0128】
(第2の実施形態)
第2の実施形態によれば、正極と、リチウム吸蔵放出電位が1.0V(vs Li/Li+)以上貴である負極活物質を含む負極と、非水電解質とを含む非水電解質電池が提供される。非水電解質は、第1の化合物を含む。また、負極の表面に、第2の化合物を含む被膜が形成されている。
【0129】
第2の実施形態に係る非水電解質電池は、第1の実施形態に係る非水電解質電池を組み立てた後、初充放電を施すことにより得ることができる。
【0130】
第2の実施形態によれば、第1の化合物を含む非水電解質を用いると共に、負極の表面に第2の化合物を含む被膜が形成されているため、リチウム吸蔵放出電位が1.0V(vs Li/Li+)以上貴である負極活物質を用いた非水電解質電池における自己放電の抑制が可能であり、さらに電池抵抗を低下させることが可能である。よって、良好な出入力性能を有する非水電解質電池を提供することができる。
【0131】
(第3の実施形態)
第3の実施形態によれば、第1の実施形態に係る非水電解質電池及び/または第2の実施形態に係る非水電解質電池を備えた電池パックが提供される。
【0132】
電池パックについて、図面を参照して説明する。電池パックは、上記非水電解質電池(単電池)を1個又は複数有する。複数の単電池を含む場合、各単電池は、電気的に直列もしくは並列に接続して配置される。
【0133】
図5及び6に、図1に示した扁平型電池を使用した電池パックの一例を示す。図5は、電池パックの分解斜視図である。図6は、図5の電池パックの電気回路を示すブロック図である。
【0134】
複数の単電池21は、外部に延出した負極端子2及び正極端子1が同じ向きに揃えられるように積層され、粘着テープ23で締結することにより組電池22を構成している。これらの単電池21は、図6に示すように互いに電気的に直列に接続されている。
【0135】
プリント配線基板24は、負極端子2及び正極端子1が延出する単電池21側面と対向して配置されている。プリント配線基板24には、図6に示すようにサーミスタ25、保護回路26及び外部機器への通電用端子27が搭載されている。なお、組電池22と対向する保護回路基板24の面には組電池22の配線と不要な接続を回避するために絶縁板(図示せず)が取り付けられている。
【0136】
組電池22の正極側リード28は、プリント配線基板24の保護回路26の正極側コネクタ29に電気的に接続されている。組電池22の負極側リード30は、プリント配線基板24の保護回路26の負極側コネクタ31に電気的に接続されている。
【0137】
サーミスタ25は、単電池21の温度を検出するために用いられる。その検出信号は保護回路26に送信される。保護回路26は、所定の条件で保護回路26と外部機器への通電用端子27との間のプラス側配線31a及びマイナス側配線31bを遮断できる。所定の条件とは、例えばサーミスタ25の検出温度が所定温度以上になったときである。或いは、単電池21の過充電、過放電、過電流等を検出したときである。この過充電等の検出は、個々の単電池21もしくは単電池21全体について行われる。個々の単電池21を検出する場合、電池電圧を検出してもよいし、正極電位もしくは負極電位を検出してもよい。後者の場合、個々の単電池21中に参照極として用いるリチウム電極が挿入される。図6の場合、単電池21それぞれに電圧検出のための配線32を接続し、これら配線32を通して検出信号が保護回路26に送信される。
【0138】
正極端子1及び負極端子2が突出する側面を除く組電池22の三側面には、ゴムもしくは樹脂からなる保護シート33がそれぞれ配置されている。
【0139】
正極端子1および負極端子2が突出する側面とプリント配線基板24との間には、ゴムもしくは樹脂からなるブロック状の保護ブロック34が配置される。
【0140】
組電池22は、各保護シート33及びプリント配線基板24と共に収納容器35内に収納される。すなわち、収納容器35の長辺方向の両方の内側面と短辺方向の内側面それぞれに保護シート33が配置され、短辺方向の反対側の内側面にプリント配線基板24が配置される。組電池22は、保護シート33及びプリント配線基板24で囲まれた空間内に位置する。収納容器35の上面には、蓋36が取り付けられる。
【0141】
なお、組電池22の固定には粘着テープ22に代えて、熱収縮テープを用いてもよい。この場合、組電池の両側面に保護シートを配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて組電池を結束させる。
【0142】
図5、図6では単電池21を直列接続した形態を示したが、電池容量を増大させるためには並列に接続してもよい。あるいは、直列接続と並列接続を組合せてもよい。組み上がった電池パックをさらに直列又は並列に接続することもできる。
【0143】
また、電池パックの態様は用途により適宜変更される。本実施形態に係る電池パックは、大電流を取り出したときにサイクル特性が優れていることが要求される用途に好適に用いられる。具体的には、デジタルカメラの電源として、又は、例えば二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、及び、アシスト自転車の車載用電池として用いられる。特に、車載用電池として好適に用いられる。
【0144】
第3の実施形態によれば、第1の化合物及び第2の化合物を含む非水電解質電池を含むため、自己放電が抑制され、電池抵抗が低く、良好な出入力性能を有する電池パックを提供することができる。
【実施例】
【0145】
以下に実施例を説明するが、実施形態の主旨を超えない限り、実施形態は以下に記載される実施例に限定されるものでない。
【0146】
(実施例A-1)
<正極の作製>
正極活物質として、リチウムニッケル複合酸化物(LiNi0.8Co0.1Mn0.12)粉末90質量%を用いた。用いた正極活物質の2%pHの値は11.91であった。導電剤として、アセチレンブラック3質量%及びグラファイト3質量%を用いた。結着剤として、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)4質量%を用いた。以上の成分をN−メチルピロリドン(NMP)に加えて混合し、スラリーを調製した。このスラリーを、厚さ15μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布し、乾燥し、プレスすることにより、電極密度が3.2g/cm3の正極を得た。
【0147】
<負極の作製>
平均粒子径が0.84μm、BET比表面積が10.8m2/g、Li吸蔵電位が1.56V(vs. Li/Li+)である、スピネル構造を有するチタン酸リチウム(Li4Ti512)粉末を負極活物質として用意した。負極活物質の粒径は、レーザー回折式分布測定装置(島津SALD−300)を用いて次のように測定した。まず、ビーカーに、試料を約0.1g、界面活性剤及び1〜2mLの蒸留水を添加して十分に攪拌した。これを攪拌水槽に注入し、2秒間隔で64回光度分布を測定した。得られた粒度分布データを解析し、粒径を決定した。
【0148】
上記の負極活物質を90質量%、導電剤としてグラファイトを7質量%、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を3質量%用いた。これらの成分と、N−メチルピロリドン(NMP)とを、固形分比率が62質量%になるように混合した。得られた混合物を、プラネタリーミキサーで混練しながら、NMPを加えて固形比率を徐々に低下させ、粘度が10.2cp(B型粘度計、50rpmでの値)のスラリーを調製した。このスラリーを更に、直径が1mmのジルコニア製ボールをメディアとしてビーズミルで混合した。
【0149】
得られたスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔(純度99.3質量%、平均結晶粒径10μm)からなる集電体の両面に塗布し、乾燥した後、100℃に加温したロールでロールプレスすることにより負極を得た。
【0150】
<電極群の作製>
セパレータとして、厚さ25μmのセルロース製の不織布を用いた。
正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順で積層し、積層体を得た。次いで、この積層体を渦巻き状に捲回した。これを80℃で加熱プレスすることにより、高さ100mm、幅70mmで、厚さが4mmの偏平状電極群を作製した。得られた電極群を、ナイロン層/アルミニウム層/ポリエチレン層の3層構造を有し、厚さが0.1mmであるラミネートフィルムからなるパックに収納し、80℃で16時間、真空中で乾燥した。
【0151】
<液状非水電解質の調製>
プロピレンカーボネート(PC)及びジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒(体積比率1:2)に、電解質としてLiPF6を1mol/L溶解した。さらに、非水電解液の総質量に対して、第1の化合物として2質量%のトリス(トリメチルシリル)フォスフェートを添加し、第2の化合物として0.5質量%の1,6−ジイソチオシアナトヘキサンを添加して混合し、非水電解液を得た。
【0152】
電極群を収納したラミネートフィルムパック内に非水電解液を注入した後、パックをヒートシールにより完全密閉した。組み立てられた非水電解質二次電池に、初充電として25℃環境下で0.2C電流2.8V電圧の定電流定電圧充電を10時間行った。次いで、25℃環境下で0.2C電流にて1.5Vまで放電した。その後、25℃環境下で1C電流2.8V電圧の定電流定電圧充電を3時間と25℃環境下で1C電流1.5V終止電圧の放電を1サイクルとして、これを2回繰り返すことにより、図1に示すような構造を有し、高さ110mm、幅72mm、厚さが4mmの非水電解質二次電池が得られた。
【0153】
負極活物質、正極活物質、添加した第1の化合物とその添加量、添加した第2の化合物とその添加量を、表1に示した。
【0154】
(比較例A-1〜A-3、実施例A-2〜A-7)
非水電解液の調製において、トリス(トリメチルシリル)フォスフェートの添加量及び1,6−ジイソチオシアナトヘキサンの添加量を表1に示したように変えた以外は、実施例A1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0155】
(比較例B-1〜B-2、実施例B-1〜B-3)
非水電解液の調製において、第1の化合物とその添加量、及び、第2の化合物とその添加量を表1に示したように変えた以外は、実施例A1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0156】
(比較例C-1、実施例C-1)
表1に示したように、負極活物質として単斜晶系TiO2(B)を用いた以外は、比較例A-1、実施例A-1と同様に非水電解質二次電池を作製した。単斜晶系β型TiO2のリチウム吸蔵放出電位は1〜2V(vs Li/Li+)である。
【0157】
(比較例D-1、D-2)
表1に示したように、負極活物質として平均粒径6μmの黒鉛を用いた以外は、比較例A-1、実施例A-1と同様に非水電解質二次電池を作製した。黒鉛のリチウム吸蔵放出電位は0〜0.2V(vs Li/Li+)である。
【0158】
(電気化学的測定)
各実施例及び比較例の電池を、50%の充電量(SOC50%)の状態で60℃環境下に1ヶ月貯蔵した。その後、電池を放電して残存容量を求め、残存容量率を測定した。残存容量率は、(貯蔵後容量/貯蔵前容量)×100(%)から算出した。その結果を表2、表3に示す。
【0159】
また、貯蔵前の各実施例及び比較例の電池を用いて、50%の充電量(SOC50%)の状態で交流インピーダンス測定を行い、1kHzの交流抵抗値(mΩ)を求めた。その結果を表2、表3に示す。抵抗値は、非水電解液に何れの添加物も加えていない比較例A-1、C-1、D-1の電池の抵抗値を基準(1.00)とした比率で示した。
【0160】
(成分検出)
作製した実施例及び比較例の試験前の電池に含まれる成分を検出した。具体的には、ガスクロマトグラフィ質量分析法(GC/MS)によって電解液中に含まれる成分を検出し、フッ化トリメチルシリルの存在を確認した。また、第2の化合物の添加量が多い場合にはその存在も確認された。
【0161】
また、負極表面のフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)により、約2060cm−1近傍にピークが確認された。イソチオシアナト基を有する化合物の存在が示唆される。
【表1】

【0162】
【表2】

【0163】
【表3】

【0164】
表1〜表3における実施例A−1〜A−7及び比較例A−1〜A−3の結果から明らかなように、第1の化合物と第2の化合物を含む非水電解質を用いた実施例A−1〜A−7の電池は、第1の化合物と第2の化合物の双方を用いない比較例A−1に比して残存容量率が高く、且つ、1kHzの交流抵抗値が低かった。第2の化合物のみを添加し、第1の化合物を添加しなかった比較例A-2は、残存容量率が高かったが、1kHzの抵抗値も高かった。このことから、第1の化合物を添加することにより、電池抵抗が低下されることが示された。しかしながら、第1の化合物のみを用いる比較例A−3の電池は、残存容量率が実施例A−1〜A−7に比して低かった。このように、第1の化合物のみでは、電池抵抗を低くできるものの、自己放電を抑制することができない。
【0165】
このように、実施例A−1〜A−7の電池は、自己放電が少なく、且つ、電池抵抗が小さい。
【0166】
実施例B−1〜B−3は、添加物がない比較例A-1よりも残存容量率が高く、且つ、電池抵抗が小さかった。また、第1の化合物が添加されていない比較例B-1及び第2の化合物が添加されていない比較例B-2と比較して、残存容量率が高く、且つ、電池抵抗が小さかった。よって、第1の化合物としてトリス(トリメチルシリル)ボレート、フルオロトリメチルシランを用いたり、第2の化合物として1,4−ジイソチオシアナトベンゼンを用いることによっても、残存容量率が高く、且つ電池抵抗が低下することが示された。
【0167】
実施例C−1及び比較例C−1の結果に示す通り、チタン酸リチウムの代わりに単斜晶系TiO2(B)を負極活物質として用いた場合にも、第1の化合物及び第2の化合物を用いることにより、残存容量率が高くなり、かつ電池抵抗が小さくなった。
【0168】
比較例D-1及びD-2の結果から、負極活物質に黒鉛を用いた場合、第2の化合物を添加することによって、電池抵抗が大幅に増加し、また、残存容量も小さいことが示された。これは、添加物が負極表面で完全に還元され、還元生成物が負極表面に過剰に堆積することによって電池性能を低下させたためと推察された。
【0169】
第2の化合物の添加量が少ない実施例A-1〜A-4は、成分検出IIとして第2の化合物が検出されなかったが、負極表面上にその存在を検出された。
【0170】
また、トリス(トリメチルシリル)フォスフェート及びトリス(トリメチルシリル)ボレートのような第1の化合物は、一部がフルオロトリメチルシランに転換されていることが示された。実施例A−1〜A−7、B−1,B−2,C−1では、検出成分Iにトリス(トリメチルシリル)フォスフェートまたはトリス(トリメチルシリル)ボレートと、フルオロトリメチルシランとが含まれていた。
【0171】
第2の化合物を添加した実施例A−1〜A−7,B−1〜B−3,C−1及び比較例A−2,B−1,D−2は何れも、FT−IRにより約2060cm−1にピークが検出され、負極上にイソチオシアナト基を有する化合物が存在することが示された。
【0172】
実施例A-1、及び比較例A-1〜A-3の非水電解質電池に対して、45℃環境下で1C充電/1C放電(1.5〜2.8V)の充放電サイクル試験を行った。初期容量に対する1500回目の容量比(%)をサイクル寿命として表4に纏めた。
【表4】

【0173】
表4から明らかなように、第1の化合物と第2の化合物を含む非水電解質を用いた実施例A−1の電池は、第1の化合物と第2の化合物の双方を用いない比較例A−1、第2の化合物のみを添加した比較例A-2、第1の化合物のみを用いる比較例A−3に比してサイクル寿命が高かった。
【0174】
(実施例E-1、比較例E-1〜E-3)
正極活物質をLiMn24とする以外は実施例A−1、比較例A−1、A−2、A−3と同様の非水電解質電池を作製し、実施例E−1、比較例E−1、E−2、E−3を得た。先述した方法で残存容量と1kHz交流抵抗値を測定した。抵抗値は、非水電解液に何れの添加物も加えていない比較例E-1の電池の抵抗値を基準(1.00)とした比率で示した。また、作製した電池を60℃環境下で2C充電/2C放電(1.8〜2.8V)の充放電サイクル試験を行った。初期容量に対する3000回目の容量比(%)をサイクル寿命として表5に纏めた。
【表5】

【0175】
表5から明らかなように、第1の化合物と第2の化合物を含む非水電解質を用いた実施例E−1の電池は、第1の化合物と第2の化合物の双方を用いない比較例E−1、第2の化合物のみを添加した比較例E-2、第1の化合物のみを用いる比較例E−3に比して残存容量及びサイクル寿命が高く、また、抵抗が低かった。
【0176】
(実施例F−1、比較例F−1〜F−3)
正極活物質をLiCoO2とし、電解液にエチレンカーボネートとγブチロラクトンを1:2で混合した溶媒に、2MのLiBF4を溶解させた溶液を用いる以外は実施例A−1、比較例A−1、A−2、A−3と同様の非水電解質電池を作製し、実施例F−1、比較例F−1〜F−3を得た。先述した方法で残存容量と1kHz交流抵抗値を測定した。抵抗値は、非水電解液に何れの添加物も加えていない比較例F-1の電池の抵抗値を基準(1.00)とした比率で示した。また、作製した電池を45℃環境下で1C充電/1C放電(1.8〜2.7V)の充放電サイクル試験を行った。初期容量に対する1000回目の容量比(%)をサイクル寿命として表6に纏めた。
【表6】

【0177】
表6から明らかなように、第1の化合物と第2の化合物を含む非水電解質を用いた実施例F−1の電池は、第1の化合物と第2の化合物の双方を用いない比較例F−1、第2の化合物のみを添加した比較例F-2、第1の化合物のみを用いる比較例F−3に比して残存容量及びサイクル寿命が高く、また、抵抗が低かった。
【0178】
実施例A−1において、第2の化合物として1,6−ジイソチオシアナトヘキサンの代わりに、1,2−ジイソチオシアナトエタン、1,3−ジイソチオシアナトプロパン、1,4−ジイソチオシアナトブタン、1,5−ジイソチオシアナトペンタン、1,7−ジイソチオシアナトヘプタンまたは1,8−ジイソチオシアナトクタンを用いたところ、実施例A−1と同様に、残存容量が高く、かつ電池抵抗が低かった。
【0179】
以上説明した実施例によれば、第1の化合物及び第2の化合物を含むため、自己放電が少なく、低抵抗で長寿命な非水電解質電池を実現することができる。
【0180】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0181】
1,11…正極端子、2,12…負極端子、3,13…正極、3a,13a…正極集電体、3b,13b…正極材料層、4,14…負極、4a,14a…負極集電体、4b,14b…負極材料層、5,15…セパレータ、6,19…電極群、7,18…外装部材、21…単電池、22…組電池、23…粘着テープ、24…プリント配線基板、28…正極側リード、29…正極側コネクタ、30…負極側リード、31…負極側コネクタ、33…保護シート、34…保護ブロック、35…収納容器、36…蓋。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
リチウム吸蔵放出電位が1.0V(vs Li/Li+)以上貴である負極活物質を含む負極と、
化学式(I)で表される官能基を有する第1の化合物、及び、イソチオシアナト基を有する第2の化合物を含む非水電解質と
を含むことを特徴とする非水電解質電池:
【化1】

ここで、R1、R2及びR3は、それぞれ、炭素数が1以上10以下のアルキル基、炭素数が2以上10以下のアルケニル基、又は、炭素数が6以上10以下のアリール基を表し、R1、R2及びR3は互いに同じでも異なっていても良い。
【請求項2】
前記第1の化合物は、トリス(トリメチルシリル)フォスフェート及びフルオロトリメチルシランから選択される少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質電池。
【請求項3】
前記非水電解質中の前記第1の化合物の含有量が0.05質量%以上5質量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の非水電解質電池。
【請求項4】
前記第2の化合物は、化学式(II)又は化学式(III)で表される化合物から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の非水電解質電池:
R−NCS (II)
NCS−R−NCS (III)
ここで、Rは炭素数1〜10の鎖状炭化水素基を表す。
【請求項5】
前記第2の化合物は、1,2−ジイソチオシアナトエタン、1,3−ジイソチオシアナトプロパン、1,4−ジイソチオシアナトブタン、1,4−ジイソチオシアナトベンゼン、1,5−ジイソチオシアナトペンタン、1,6−ジイソチオシアナトヘキサン、1,7−ジイソチオシアナトヘプタン、及び、1,8−ジイソチオシアナトクタンからなる群から選択される少なくとも一つの化合物であることを特徴とする請求項4に記載の非水電解質電池。
【請求項6】
前記非水電解質の前記第2の化合物の含有量が0.05質量%以上2質量%以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載の非水電解質電池。
【請求項7】
前記負極活物質がリチウムチタン複合酸化物であることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項に記載の非水電解質電池。
【請求項8】
前記リチウムチタン複合酸化物が、立方晶系スピネル型構造、或いは単斜晶系β型構造を有することを特徴とする請求項7に記載の非水電解質電池。
【請求項9】
正極と、
リチウム吸蔵放出電位が1.0V(vs Li/Li+)以上貴である負極活物質を含む負極と、
化学式(I)で表される官能基を有する第1の化合物を含む非水電解質と
を含み、
前記負極の表面に、イソチオシアナト基を有する第2の化合物を含む被膜が形成されていることを特徴とする非水電解質電池:
【化2】

ここで、R1、R2及びR3は、それぞれ、炭素数が1以上10以下のアルキル基、炭素数が2以上10以下のアルケニル基、又は、炭素数が6以上10以下のアリール基を表し、R1、R2及びR3は互いに同じでも異なっていても良い。
【請求項10】
請求項1〜9いずれか1項記載の非水電解質電池を含むことを特徴とする電池パック。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−199145(P2012−199145A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63288(P2011−63288)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】