説明

非混和性液体を局所的に吐出させることによる薄膜の表面の構造化

【課題】本発明は、液状またはゲル状の有機薄膜表面にトポロジー形状(複数の位相同形な形状)を形成させる方法に関する。
【解決手段】この方法は、薄膜を構成する物質と非混和性の液状物質を、局所的に噴霧する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造化、すなわち、液状またはゲル状の薄膜の表面にトポロジー形状(topologies:複数の位相同形な構造)を作り出すことに関する。この構造化のために、薄膜を構成する物質と非混和性の物質の小滴を吐出させるマイクロディスペンシングプリントヘッドを使用する。
【0002】
マイクロディスペンシングプリントヘッドを使用することにより、得られるトポロジー形状の数、位置、配置、および形状を意のままに変化させることが可能になる。このようなトポロジー形状は、特に、2つの物質間の接触面積を縮小すること、あるいは薄膜の光学的特性を局所的に変化させることに役立つ。
【背景技術】
【0003】
ポリマー物質は、従来のマイクロエレクトロニクス方法、すなわちフォトリソグラフィー工程によって構造化することができる。しかし、これらの方法は、依然としてコストがかかり、これらと有機物質(例えば、特にポリマー物質など)との相溶性は限られている。
【0004】
さらに、「熱エンボス加工(Hot Embossing)」と呼ばれる技術は、物質上の表面のトポロジーを作り出すことに役立つ。しかし、この技術は、この方法が本来有する温度および圧力の両方に持ちこたえる物質にのみ適用することができる。
【0005】
これらの2つの方法については、パターンのいかなる変更も、型またはマスクの変更を必要とする。したがって、そのパターンを容易かつ安価に変更することができない。
【0006】
Kawaseらの文献(Adv. Mater. 13(21), 1601-05, 2001)にも、有機エレクトロニクスにおける用途を有する方法が記載されている。この方法は、前記ポリマーの溶媒を用いてポリマーを溶解させることにある。この溶媒は、インクジェットのプリントヘッドまたはノズルによって吐出され、効果的にポリマーを溶解させる。しかし、パターンの周りへの物質の再堆積が現れ、これが、この方法によって製造されるトポロジー形状の品質を損なう。
【0007】
確認されている最後の方法は、Syrringhausらによる刊行物(Science 290(5499), 2123-26, 2000)に記載されている方法である。基材が、薄膜を使用して得られた親水性または疎水性のゾーンで被覆される。インクのタイプに依存して、この親水性または疎水性のゾーンにインクが好ましく局在化される。したがって、この方法は、基材上に親水性または疎水性の物質の薄膜を堆積させる工程、次いで、フォトリソグラフィー技術によって実施されるパターニング工程を必要とする。このような方法のコストは高く、膜はその深さ全体が必然的に構造化される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Adv. Mater. 13(21), 1601-05, 2001
【非特許文献2】Science 290(5499), 2123-26, 2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、広範なタイプの薄膜の表面に制御されたパターンを作製するための容易かつ安価な方法に対する要求が明らかに存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明は、液状またはゲル状の形態を有する有機薄膜の表面にトポロジー形状(topologies:複数の位相同形な構造)を作製する方法であって、前記薄膜を構成する物質と非混和性である液状物質の1つを局所的に噴霧する工程を含む方法に関する。
【0011】
本発明の方法は、偏析ともよばれる相分離の物理的な原理に基づく。吐出された液状物質(以下、相IIという。)と、薄膜を構成する物質(以下、相Iという。)との間の混合非相溶性が、この物質内への液体の非相溶性に反映される。相分離に伴う物理的な力に帰因して、第二の相(II)が、相Iを構成する物質をはねのける。したがって、相Iの物質によって形成された薄層が変形させられる。相IIの物質は、相Iの物質の溶媒ではないことに注目されたい。
【0012】
本発明は、薄膜の表面の構造化に主眼を置く。このことは、薄層を打ってへこませる変形は考慮に入れないことを意味する。言い換えると、薄層が基材上に置かれている好ましい実施態様では、本方法の完了時に、薄層が、基材との接触面積が常に同じである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
すでに上述したように、興味が持たれる薄膜は有機薄膜である。実際に、薄膜を構成する相I物質は、液状または有利にはゲル状の形態である。より具体的には、このような物質は、次の形態:モノマー溶液、ポリマー溶液、液状モノマー、またはポリマーのゲルの1つである。
【0014】
本発明によって興味が持たれる薄膜は、有利には、20ミクロン以上の厚さを有する。この厚さは、液状またはゲル状の状態における層について測定された厚さ、すなわち非混和性物質の噴霧時の厚さに相当する。この厚さは、特に乾燥工程または重合工程によって、その後低下し得る。
【0015】
上述したように、本発明を用いて作製されたトポロジー形状は、膜の表面に局在している。より具体的には、これらの深さは、膜の厚さの50%を超えず、好ましくは20%未満である。
【0016】
薄膜を構成する物質Iが液状形態である場合には、その薄膜は、有利には、200から5000cpsの粘度を有する。これらの粘度の値は、当業者に周知のブルックフィールド法(T=室温、P=1気圧)によって決定する。予備的なアニール工程(annealing step)が、これらの値に達するために必要となり得る。
【0017】
あるいは、噴霧された物質の凝集を防ぐため、非混和性物質を噴霧する前に、薄膜を構成する物質をゲル化させておくことが望ましい。このゲル化は、光重合または熱重合によって実施することが有利である。この目的のために、重合開始剤を物質に添加してもよい。
【0018】
薄膜の表面にトポロジー形状を作製するために使用する物質に関しては、この物質は、本質的に、薄膜の物質と混合非混和性である特性を有する。言い換えると、この物質は、薄膜を構成する物質とは混合非相溶性である。
【0019】
この物質の局所的な噴霧がマイクロディスペンディングプリントヘッド、さらにより有利にはインクジェットプリントヘッドの使用によりもたらされる限りにおいて、噴霧は、プリントヘッドから吐出される小滴の形態の液体であることが好ましい。こうして、薄膜の表面への非混和性物質の噴霧、有利には小滴の形態の噴霧が、くぼみ(cavity)の形成を引き起こす。
【0020】
さらに、この液体が薄膜を構成する物質より低い密度を有する場合には、トポロジー形状が、表面だけで作り出されることが観察された。したがって、このことは、そのような構造化が所望される限りにおいて、好ましい態様を構成する。しかし、同じ場所での噴霧を繰り返して、パターンを「掘る(excavate)」ことができる。
【0021】
薄膜および/または噴霧装置を移動させることによって、このようなトポロジー形状を薄膜のさまざまな場所で作製することができる。
【0022】
したがって、薄膜表面に作製されるくぼみの構造および頻度を選択および制御することができる。こうして、特に、液滴を吐出させる工程、および相Iを構成する物質の粘度もしくはその架橋速度次第で、変形ゾーンを並列させることができ、さまざまなトポロジー形状を作り出すことができる。
【0023】
噴霧後にくぼみ内に存在する相IIの非混和性液体は、特に、周囲条件下での蒸気圧(標準の温度および圧力)次第で、2つの展開に直面する可能性がある。
【0024】
相IIの非混和性液体が高い蒸気圧(P1気圧およびT常温で、一般に1mm以上の水銀圧)を有する場合には、この液体は、特にアニール工程の間に蒸発し得る。同時に、薄膜を構成する物質中に存在する可能性のある溶媒も蒸発し、あるいは物質の重合が起こる。
【0025】
あるいは、特に、相IIの非混和性液体が、低い蒸気圧(P1気圧およびT常温で、一般に1mm以下の水銀圧)を有する場合であり且つ重合可能な場合には、この非混和性液体は、重合、有利には、適切な重合開始剤の存在下で光重合または熱重合を行わせることができる。相Iを構成する物質も光または熱重合可能である場合には、これらは同時に重合し得る。これにより、2つの物質が密接に組み合わされた構造が得られる。したがって、単純な方法を用いて、レリーフ(relief)を作り出し、これらを興味のある物質を用いて部分的にあるいは完全に満たすことができる。
【0026】
このような構造により、層と層の間の接触面積を増加させることが可能になる。これは、例えば、燃料電池の製造のために利用することができ、これによって、電解ポリマー〔例えば、Nafion(Dupont de Nemoursの登録商標)など〕の膜を構造化することができる。このようなトポロジー形状は、ポリマー電解質とプラチナ/炭素をベースとする触媒層との間の接触面積を縮小するために役立つ。燃料電池の電力は、これによって増加する。
【0027】
さらに、相Iおよび相IIを構成する物質の現実または仮想の光学指数が異なる場合には、このような素子によって透過光または反射光の物理的特性を改変することができる可能性がある。
【0028】
本発明を実現することができる方法およびその利点は、情報として提供するものであり、限定的なものではない、以下の例示的な実施態様、併せて添付の図から、さらに明確に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明の方法によって得られた、表面にくぼみを有する薄膜の断面図(A)および平面図(B)を概略的に示す。
【図2】図2は、均一に隔てられた同一の溝の形状を有する薄膜の表面構造の平面図(A)および斜視図(B)を示す。
【図3】図3は、陰極(本発明にしたがって構造化された電解質ポリマーの層)と、陽極とがその上に順次堆積された基板を組み込む燃料電池の断面図を示す。
【図4】物質IおよびIIが重合可能である場合の本発明の方法を用いて得られた構造の概略断面図である。
【実施例】
【0030】
[実施例1]:
以下のモノマーおよび開始剤(各重量パーセントを示す)を含む溶液を使用して実験を行った:
− 2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチルアクリレート(モノマー):95%;
− 1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロ-1,3-ブタンジオールジアクリレート(モノマー):4%;
− Irgacure 651(登録商標)(CIBA)(ラジカル開始剤):1%。
【0031】
これらは、相Iの物質(1)を構成する。
【0032】
この混合物の密度は、相IIの物質(2)を構成する以下のモノマーおよび開始剤(各重量パーセントを示す)の混合物と比較して、1.6倍であった:
− エチルヘキシルアクリレート(モノマー):90%;
− ノニルアクリレート(モノマー):5%;
− エチレングリコールジメチルアクリレート(モノマー):4%;
− Irgacure 651(登録商標)(CIBA)(ラジカル開始剤):1%。
【0033】
相I(1)を構成する物質を、ポリエチレンナフタレートタイプのフレキシブルな基材(3)(Teonex(登録商標)Q65 Dupont Tijin フィルム)上に、コーティングによって堆積させた。365ナノメートルの紫外光を、7 mW/cm2のエネルギーで5秒間照射することによって、層(1)をゲル化させた。この層の厚さは400ミクロンであった。
【0034】
次いで、基材(3)をAltadropインクジェット装置(ALTATECH)に移した。このプリンターは、60ミクロンのMicrofabプリントヘッドを備えていた。相II(2)を構成する物質20滴を、位置決定装置(localization)によって吐出させた。365ナノメートルのUV光(エネルギー7 mW/cm2で200秒間)下での光重合後に、相Iの物質(1)に由来するポリマーマトリックス中に、相IIの物質(2)に由来するポリマーが並置された構造が観察された。これを図4に示す。
【0035】
[実施例2]:
9%のCytop(登録商標)フルオロポリマー(Asahi Glass)溶液を使用して実験を行った。
【0036】
この製品(1)の密度は、ネマチック液晶4’-ペンチル-4-ビフェニルカルボニトリル(2)と比較して1.9倍であった。
【0037】
このCytop(登録商標)物質を、ポリエチレンナフタレートタイプのフレキシブルな基材(3)(Teonex(登録商標)Q65 Dupont Tijin フィルム)上に、コーティングによって堆積させた。この堆積物の厚さは、アニールする前で、300ミクロンであった。この試料を、40℃にて20秒間アニールした。このCytop(登録商標)溶液の粘度は、400センチポアズであった。
【0038】
こうして得られた層(1)を、DMP 2818 Dimatrixインクジェットプリンターに移した。4’-ペンチル-4-ビフェニルカルボニトリル液晶(2)20滴を、位置決定装置(localization)によって吐出させた。こうして得られた組立体を100℃にて120秒間アニールした。フルオロポリマーマトリックス(1)中に、互いに独立して、液晶ドメイン (2)が並置された構造が観察された。これを図4に示す。
【0039】
[実施例3]:
9%のCytop(登録商標)ポリマー(Asahi Glass)溶液を使用して実験を行った。
【0040】
この製品(1)の密度は、以下のモノマーおよび開始剤(各重量パーセントを示す)の混合物(2)と比較して、1.8倍であった:
− エチルヘキシルアクリレート(モノマー):85%;
− ノニルアクリレート(モノマー):10%;
− エチレングリコールジメチルアクリレート(モノマー):4%;
− Irgacure 651(登録商標)(CIBA)(ラジカル開始剤):1%。
【0041】
このCytop(登録商標)溶液を、ポリエチレンナフタレートタイプのフレキシブルな基材(3)(Teonex(登録商標)Q65 Dupont Tijin フィルム)上に、コーティングによって堆積させた。この堆積物の厚さは、アニールする前で、300ミクロンであった。この試料を、40℃にて20秒間アニールした。このCytop(登録商標)溶液の粘度は、400センチポアズであった。
【0042】
こうして得られた層(1)を、DMP 2818 Dimatrixインクジェットプリンターに移した。このプリンターは、Dimatrixによって販売されている10ピコリットルのプリントヘッドを備えていた。20滴の上述した混合物(2)を、位置決定装置によって吐出させた。こうして得られた組立体を100℃にて120秒間アニールし、次いで、365ナノメートルのUV光(エネルギー7 mW/cm2で200秒間)下で光重合させた。得られた構造を図4に示す。
【0043】
[実施例4]:
Nafion(登録商標)2010(Dupont)の分散物について実験を行った。
【0044】
分散物(1)の密度は、トルエン(2)の密度と比較して1.2倍であった。
【0045】
この分散物を、シリコンウェハ(3)上にコーティングによって堆積させた。この体積物の厚さは、アニールする前で、400ミクロンであった。この基材を、50℃にて30秒間アニールした。Nafion(登録商標)分散物の粘度は、アニールした後で、500センチポアズであった。
【0046】
基材(3,1)を、DMP 2818 Dimatrixインクジェットプリンターに移した。15滴のトルエン(2)を、500ミクロンのX-Y軸位置決定装置によって吐出させた。この層を85℃にて1時間アニールした後、Nafion(登録商標)層の構造が、図1および図2に示す構造に類似した溝(slot)の形状で観察された。
【0047】
本発明の方法は、燃料電池の製造、特に、例えばNafion(Dupont de Nemoursの登録商標)からなる電解質ポリマー層(1)の構造化のために利用することができる。図3に示すこのようなトポロジー構造は、ポリマー電解質とプラチナ/炭素をベースとする触媒層(6)との間の接触面積を縮小するために役立つ。これにより、燃料電池の電力の増大がもたらされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状またはゲル状の形態を有し、基材(3)上に置かれている有機薄膜(1)の表面にトポロジー形状(topologies)(4)を作製する方法であって、薄膜(1)を構成する物質と非混和性の液状物質(2)の少なくとも1種を、局所的に噴霧する工程を含む方法。
【請求項2】
前記薄膜(1)を構成する物質が、有利には次の形態:モノマー溶液、ポリマー溶液、液状モノマー、またはポリマーのゲルであることを特徴とする、請求項1に記載の有機薄膜表面のトポロジー形状の作製方法。
【請求項3】
前記薄膜(1)が、液体状態またはゲル状態で20ミクロン以上の厚さを有することを特徴とする、請求項1または2に記載の有機薄膜表面のトポロジー形状の作製方法。
【請求項4】
前記薄膜(1)を構成する物質が液状形態であり、200〜5000cpsの粘度を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機薄膜表面のトポロジー形状の作製方法。
【請求項5】
前記薄膜(1)を構成する物質が、液状形態であり、かつ、有利には光重合または熱重合によって前記噴霧工程の前にゲル化されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機薄膜表面のトポロジー形状の作製方法。
【請求項6】
前記非混和性の液状物質(2)が、前記薄膜(1)を構成する物質より低い密度を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機薄膜表面のトポロジー形状の作製方法。
【請求項7】
前記局所的に噴霧する工程を、マイクロディスペンシングプリントヘッド、有利にはインクジェットプリントヘッドを使用して行うことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機薄膜表面のトポロジー形状の作製方法。
【請求項8】
前記噴霧工程の後で、前記薄膜(1)を構成する物質および/または前記非混和性の液状物質(2)を蒸発させる工程を行うことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の有機薄膜表面のトポロジー形状の作製方法。
【請求項9】
前記噴霧工程の後で、前記薄膜(1)を構成する物質および/または前記非混和性の液状物質(2)を重合させる工程を行うことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の有機薄膜表面のトポロジー形状の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−89078(P2010−89078A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198279(P2009−198279)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(590000514)コミツサリア タ レネルジー アトミーク (429)
【Fターム(参考)】