説明

非球面マイクロレンズ用金型の製造方法、マイクロレンズ製造方法、マイクロレンズ、マイクロレンズアレイおよびレーザ光源

【課題】入射面および出射面が高精度な非球面レンズ面で形成されたマイクロレンズを得ることができる、マイクロレンズ用金型の製造方法。
【解決手段】SiO層202が形成されたSi基板201上に、楕円形状の穴Pが形成された撥水性の化学吸着単分子膜207を形成する。そして、穴P内にUV硬化性材料209を滴下して硬化させる。穴Pの形状とUV硬化性材料209の滴下量とを予め計算された値に設定することにより、硬化したUV硬化性材料209の表面形状は、所望の非球面レンズ面となる。このUV硬化性材料209の表面形状を、電鋳により形成された電着層211に転写することにより、非球面レンズの金型が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザビームの整形等に用いられるマイクロレンズを形成するための非球面マイクロレンズ用金型の製造方法、その金型によるマイクロレンズ製造方法、マイクロレンズ、マイクロレンズアレイおよびマイクロレンズを備えたレーザ光源に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザダイオードから出射されるレーザビームは、ダイオードチップに垂直な方向と水平な方向とで発散角が異なり、楕円形状の断面を有する発散光となっている。そのため、レーザダイオードから出射されたレーザビームを光ファイバに入射させるためには、複数の非球面レンズから成る光学系を用いて、レーザビームを円形断面のコリメート光に整形する必要があった。
【0003】
従来、そのような非球面レンズを製造する方法としては、精密機械加工により非球面レンズ面が形成された金型を用いて、成形加工によりレンズを作製する方法がある。また、ガラス基板にフォトレジストとガラスエッチングによりレンズ形状の凹部を形成し、その凹部にレンズ材料を充填する方法も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平8−201793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、精密機械加工で金型を形成する第1の方法では、複雑な非球面を加工するのが難しく、またコストの面で難点があった。また、エッチングにより型を形成する第2の方法では、レンズ面形状がエッチング速度により決まってくるため、面形状の制御性に劣り、エッチングの不均一性がそのままレンズ面の誤差へと影響し、高精度なレンズ面を形成するのが難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明による非球面マイクロレンズ用金型の製造方法は、基板上に開口領域が形成された撥水性膜を形成する第1工程と、開口領域に、形成すべきレンズ面形状に応じた量の液状部材を滴下する第2工程と、液状部材を硬化させる第3工程と、第3工程により硬化した液状部材の表面形状を金属面に転写して、金型を形成する第4工程とを有することを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載の非球面マイクロレンズ用金型の製造方法において、基板は、表面を親水性としたものである。
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の非球面マイクロレンズ用金型の製造方法において、撥水性膜を化学吸着単分子膜としたものである。
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の非球面マイクロレンズ用金型の製造方法により形成されたことを特徴とする非球面マイクロレンズ用金型。
請求項5の発明によるマイクロレンズ製造方法は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の非球面マイクロレンズ用金型の製造方法で形成された第1および第2の金型を所定間隔で配置し、配置された第1および第2の金型の間にレンズ材料を充填して硬化させることにより、入射面と出射面とがいずれも非球面レンズ面であるマイクロレンズを形成することを特徴とする。
請求項6の発明によるマイクロレンズは、請求項5に記載のマイクロレンズ製造方法で形成されたことを特徴とする。
請求項7の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の非球面マイクロレンズ用金型の製造方法において、第1工程では、撥水性膜に開口領域を複数形成し、第2工程では、複数の開口領域の各々に液状部材を滴下し、第3工程では、各開口領域内に滴下された液状部材を各々硬化させ、第4工程では、硬化した複数の液状部材の表面形状を金属面に転写するようにしたものである。
請求項8の発明による非球面マイクロレンズ用金型は、請求項7に記載の非球面マイクロレンズ用金型の製造方法により形成されたことを特徴とする。
請求項9の発明によるマイクロレンズ製造方法は、請求項7に記載の非球面マイクロレンズ用金型の製造方法で形成された第1および第2の金型を所定間隔で配置し、配置された第1および第2の金型の間にレンズ材料を充填して硬化させることにより、入射面と出射面とがいずれも非球面レンズ面であるマイクロレンズが複数設けられたマイクロレンズアレイを形成することを特徴とする。
請求項10の発明によるマイクロレンズアレイは、請求項9に記載のマイクロレンズ製造方法で形成されたことを特徴とする。
請求項11の発明によるマイクロレンズは、第1の非球面レンズ面で形成された入射面と、第1の非球面レンズ面と異なる第2の非球面レンズ面で形成された出射面とを備え、楕円断面を有する発散光束を、円形断面を有する平行光束に変換することを特徴とする。
請求項12の発明によるレーザ光源は、レーザダイオード素子と、レーザダイオード素子から出射されたレーザビームを整形する請求項6または11に記載のマイクロレンズと、レーザダイオード素子およびマイクロレンズを収納する筐体とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、入射面および出射面が高精度な非球面レンズ面で形成されたマイクロレンズを得ることができ、レーザビーム用光学系やレーザ光源の小型化および低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。図1は、本発明による金型で形成されたレーザダイオード用マイクロレンズを示す斜視図である。柱状のマイクロレンズ1の一方の端面にはレーザ光の入射面101が形成され、他方の端面には出射面102が形成されている。入射面101は非球面凸レンズ面となっており、y軸方向の曲率半径はx軸方向の曲率半径よりも大きく設定されている。出射面102は非球面凹レンズ面となっており、y軸方向の曲率半径に比べてx軸の曲率半径は非常に大きく、ほぼ、シリンドリカルな凹面となっている。なお、入射面101および出射面102の曲率半径は、レーザダイオードの出射光の状態に応じて設定される。
【0009】
図2は、レーザダイオード2から出射されたレーザ光に対する、マイクロレンズ1のレンズ機能を説明する概念図である。レーザダイオード2から出射されるレーザ光束は、垂直方向(y軸方向)の発散角と水平方向(x軸方向)の発散角とが異なっており、発散光の断面形状は楕円になっている。一般的に、x軸方向の発散角は10〜15deg程度であり、y軸方向の発散角は30〜40deg程度である。図2に示す例では、y軸方向の発散角の方がx軸方向の発散角よりも大きくなっている。
【0010】
上述したように、入射面101の曲率半径はx軸方向とy軸方向とで異なっており、レーザビームに対するレンズ効果が異なっている。すなわち、x軸方向に関しては発散光を平行光に変える作用を及ぼし、y軸方向に関しては発散光を収束光に変える作用を及ぼす。そのため、入射面101を通過した後のレーザビームの断面は、x軸方向の短径に関しては大きさが変化せず、y軸方向の長径に関してはz軸方向に進行するにつれて大きさが小さくなる。そして、ビーム断面の長径と短径の大きさが等しくなる位置に、出射面102が形成されている。
【0011】
出射面102は、レーザビームに対して、x軸方向に関しては平行光の状態をそのまま維持するように作用し、y軸方向に関しては収束光を平行光に変える作用をする。その結果、出射面102からは、断面形状が円形である平行光が出射されることになる。入射面101のx軸およびy軸方向の曲率半径を、要求されるビーム径に応じてそれぞれ設定することにより、所望のビーム径のレーザビームを得ることができる。
【0012】
本実施の形態では、図1に示したような出射面101および入射面102を有するマイクロレンズ1を、型を用いた成形により形成するようにした。次に、レンズ成形に用いる金型の製造方法について図3〜6を用いて説明する。図3の(a)〜(c)は工程1〜3を説明する図である。図3(a)の工程1では、熱酸化によりSi基板201の表面にSiO層202を形成する。図3(b)の工程2では、SiO層202上に、フォトレジスト203を、後述するリフトオフ加工ができる程度の厚さに形成する。
【0013】
図3(c)の工程3では、楕円形状の開口パターン204aが形成されたマスク204を用いて、フォトレジスト203を露光しパターンニングを行う。本実施の形態では開口パターン204aの形状を楕円形状としたが、必ずしも楕円形状と限らず、所望の非球面レンズ形状に応じて設定されるものである。この開口パターン204aの形状は、後述するように、光線シミュレーション結果に基づいて設定される。
【0014】
図4の(a)〜(c)は第4〜6の工程を説明する図である。図3(c)の工程の後に、図4(a)の工程4でフォトレジスト203の現像処理を行うと、楕円形状のフォトレジストパターン203aがSiO層202上に残る。次いで、スパッタリングにより、基板上にアルミ膜205とSiO膜206を順に形成する。ここで、フォトレジストパターン203aは厚く形成されているため、フォトレジストパターン203a上に形成されたアルミ膜205およびSiO膜206と、SiO層202上に形成されたアルミ膜205とSiO膜206とは、フォトレジストパターン203aの段差によって途切れている。その結果、フォトレジストパターン203aの側面が露出し、リフトオフ加工が可能となる。
【0015】
さらに、図4(c)に示す工程6では、SiO膜206上に化学吸着単分子膜207(ハッチング部分)を形成する。化学吸着単分子膜207は、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質を用いて形成する。そのような物質としては、CF(CF(CHSi(OA),[CF(CF(CHSi(OA),あるいは[CF(CF(CHSiOA(nは整数、Aはメチル基、エチル基、プロピル基等の短鎖アルキル基)があげられる。具体的には、CFCHO(CH15Si(OCH、CF(CHSi(CH(CH15Si(OCHなどがある。これらの物質を用いた場合、SiO膜206をその蒸気に曝すだけで、SiO膜206上に化学吸着単分子膜207が形成されるので、非常に簡単な処理で撥水性領域を形成することができる。
【0016】
図7は化学吸着単分子膜の形成過程を示したものであり、図7(a)に示すように、基板のSiO膜206には、大気中の水蒸気と反応してできたOH基が形成されている。符号300で示したものがアルコキシラン系のフッ化炭素化合物の分子である。この分子はSi(OCH基を有しており、そのOCHとSiO膜206表面のOH基とが反応してCHOHが生成されるとともに、この分子のSiとSiO膜206の表面に並んだOとが共有結合して、単分子膜207が形成されることになる(図7(c)参照)。この化学吸着単分子膜207は優れた撥水性を有している。
【0017】
なお、アルコキシラン系のフッ化炭素化合物の例を示したが、他に、クロロシラン系のフッ化炭素化合物でも同様に可能である。例えば、CF(CF(R)SiXCl3−p(ただし、nは0または整数、好ましくは1〜22の整数、Rはアルキル基、フェニル基、ビニル基、エチニル基、シリコン若しくは酸素原子を含む置換基、mは0または1、Xはアルキル基、アルコキシル基、含フッ素アルキル基または含フッ素アルコキシ基の置換基、pは0,1または2)があげられる。具体的には、CFCHO(CH15SiCl、CF(CHSi(CH(CH15SiClなどがある。
【0018】
図5(a)に示す工程7では、剥離剤によりフォトレジストパターン203aを除去することにより、その上のアルミ膜205およびSiO膜206も同時にリフトオフ除去される。その結果、基板上のアルミ膜205およびSiO膜206には楕円形状の穴Pが形成され、SiO層202が穴Pの底面として露出することになる。上述したように、SiO膜206の表面には撥水性の化学吸着単分子膜207が形成されているが、楕円形状の穴Pの底面であるSiO層202は親水性を有している。
【0019】
なお、アルミ膜205は、親水性領域と撥水性領域とを視認し易くするために設けたものであり、アルミ膜でなくてもかまわない。フォトレジストパターン203aを除去した際に、その部分のアルミ膜205も一緒に除去されるため、アルミ膜205の有無によって、親水性領域と撥水性領域とが視認し易くなる。
【0020】
図5(b)に示す工程8では、楕円形状の親水性領域である穴PにUV硬化性材料209を滴下する。UV硬化性材料209としては、エポキシ系材料等が用いられる。UV硬化性材料209の滴下は、滴下量が正確に制御できるディスペンサー208を用いて行った。穴P内に滴下されたUV硬化性材料209は、周囲が撥水領域に囲まれているため、表面張力により凸形状に盛り上がり、後述するように、その表面形状は非球面レンズ形状となっている。その後、図5(c)の工程9においてUV硬化性材料209に紫外線を照射し、UV硬化性材料209を硬化させることにより非球面レンズの母型が形成される。
【0021】
図6(a)の工程10では、工程9で形成された母型210を用いて、電鋳により成形用金型を作製する。ここでは、低ストレスな電着層211が得られるように銅メッキによる電鋳を行い、母型210の表面に銅の厚メッキを施す。形成された電着層211を母型210から剥離すると、硬化したUV硬化性材料209(図5(c)参照)の表面形状と全く逆の面形状(凹面)が電着層211に転写されている。
【0022】
図6(b)は、剥離後の電着層、すなわち金型211を示したものであり、母型210の表面形状と逆の面211aが形成されている。ここでは説明を省略するが、マイクロレンズ1の出射面102に関しても入射面と同様にして金型が形成される。ただし、出射面102は凹面となっているのでUV硬化性材料で形成された凸面から凹面の型を形成し、さらに、その凹面の型から、図6(c)に示すような最終的な金型212を形成する。金型212には、出射面102(図1参照)の形状と全く逆の形状を有する凸面212aが形成されている。
【0023】
図6(c)はレンズ成形工程を示す図であり、入射面101に対応する面211aと、出射面102に対応する面212aとの距離dが所定の設計値となるように、所定間隔で金型211および212を配置する。そして、その隙間にレンズ材料を充填して硬化させることにより、図6(d)に示すようなマイクロレンズ213が形成される。なお、図6(d)の破線で囲まれた部分が図1のマイクロレンズ1に相当し、凸面213aが出射面101に、凹面213bが出射面102にそれぞれ対応している。
【0024】
このようにして金型211,212が作製されるが、所望の非球面レンズを得るためには、UV硬化性材料209が滴下される親水性領域(穴P)の形状と、UV硬化性材料209の滴下量とを適切な値に制御する必要がある。まず、レーザダイオード2から出射されるレーザビームの発散角に応じて、マイクロレンズ1の入射面101および出射面102の面形状を光線シミュレーションによって設定する。
【0025】
ここでは、レーザビームのx軸方向の発散角が10degで、y軸方向の発散角が40degの場合について説明するが、これとは異なる発散角を有する場合も同様の取り扱いとなる。このレーザビームに対する光線シミュレーションの結果は、次のようになった。入射面101に関しては、x軸方向の曲率半径は0.425mm、y軸方向の曲率半径は0.900mmとなった。一方、出射面102に関しては、x軸方向の曲率半径は200.0mm、y軸方向の曲率半径は0.226mmとなった。また、入射面101と出射面102との距離は4.75mmとなった。図8は光線シミュレーションの結果を示す図であり、(a)はx方向から見た図であり、(b)はy軸方向から見た図である。なお、入射面101とレーザ光出射点との間の距離は0.5mmとした。
【0026】
通常、液滴を撥水性の面上に滴下すると、液滴は球を上下方向にやや押しつぶしたような形状となる。そのため、撥水面に液滴を滴下しただけでは所望の非球面レンズ面を得ることはできない。例えば、楕円レンズ面を得るためには、上述したように撥水領域で囲まれた領域の形状を楕円とする必要がある。本実施の形態では、光線シミュレーションで得られるレンズ面形状から、親水性領域(図5(a)の穴P)の形状を、長軸寸法=1.38mm、短軸寸法=0.82mmの楕円形状パターンに設定した。
【0027】
図9は、UV硬化性材料209の滴下量と曲率半径との関係の計算結果を示したものであり、縦軸は曲率半径、横軸はUV硬化性材料209の滴下量である。親水性領域の寸法を上述したように設定すると、UV硬化性材料209の滴下量に応じて曲率半径が計算される。図9の曲線L11は長軸方向(y軸方向に対応)の曲率半径を表しており、曲線L12は短軸方向(x軸方向に対応)の曲率半径を表している。
【0028】
いずれの場合にも、滴下量が増加するにつれて曲率半径が減少しており、曲率半径と滴下量とがほぼ反比例の関係にあることが確認された。上述したマイクロレンズ1では、入射面101のy軸方向(長軸方向)の曲率半径のシミュレーション結果は、0.900mmである。そのため、図9の計算結果から得られる滴下量は、0.15μl程度となる。
【0029】
図10は、実際にUV硬化性材料209を滴下して硬化させ、そのときに得られた凸面形状の曲率半径の実測値を示したものである。親水性領域の寸法は、長軸寸法=1.38mm、短軸寸法=0.82mmとした。図10では、実測値をUV硬化性材料209の滴下量と曲率半径との関係で示しており、データD1が長軸方向の曲率半径であり、データD2が短軸方向の曲率半径である。図9に示した計算値とほぼ一致する曲線が得られ、滴下量で非球面レンズの曲率半径を制御できることが分かる。なお、図10は特定のUV硬化性材料(ここでは、エポキシ系材料を用いた)を用いた場合の実測値であり、この値はUV硬化性材料209の特性(粘度など)によって異なる。
【0030】
図11は、UV硬化性材料209の滴下に用いたディスペンサーの空気加圧時間と、UV硬化性材料209の滴下量との関係を示す図である。図11から、滴下量と空気加圧時間との関係は近似的にリニアに変化するとみなすことができる。図10と図11とから、ディスペンサーの空気加圧時間により、非球面レンズの曲率半径を制御できることが分かる。
【0031】
入射面101の場合には、楕円パターンは長軸寸法=1.398mm、短軸寸法=0.82mmで、空気加圧時間は0.6secであった。このとき、レンズ高さは0.33mmとなり、y軸方向の曲率半径は0.902mm、x軸方向の曲率半径は0.419mmであった。この値は、シミュレーションから得られるx軸方向曲率半径=0.900mm、y軸方向曲率半径=0.425mmとほぼ等しい値になっている。
【0032】
以上説明したように、本実施の形態では以下のような作用効果を奏することができる。
(1)図9,10に示すように、UV硬化性材料209の滴下によって形成される凸部表面の曲率半径は、計算で求まる曲率半径に精度良く一致している。そのため、ディスペンサー等を用いてUV硬化性材料209の滴下量を精度良く制御することにより、高精度な非球面レンズ面を容易に形成することができる。
(2)UV硬化性材料209の表面張力により形成される面が金型に転写されるため、金型に転写されたレンズ面は、従来のように機械加工やエッチングで形成された面に比べて、非常に滑らかな面となっており、高精度な非球面レンズ面を形成することができる。
【0033】
(3)半導体基板をフォトリソグラフィー技術により撥水性領域で囲まれた所定形状のパターン(上述した例では、楕円形状パターン(穴P))を形成し、そのパターン内に所定量のUV硬化性材料を滴下することで、高精度な非球面レンズ面を有する母型が形成できる。そして、その母型から形成される金型によりマイクロレンズを成形加工できるので、一対の非球面レンズ面を有するマイクロレンズを容易に形成することができる。その結果、レーザビーム整形用光学系を一つのマイクロレンズにまとめることができ、小型化を図ることができる。
【0034】
上述した例では、レンズ厚みは4.7mmと薄く、一つのレンズでレーザ光を円形断面のコリメート光に整形できる。そのため、図12(a)に示すように、マイクロレンズ1とレーザダイオード素子2とを、一つのケーシング31内に容易に収納することが可能となり、レーザ光源30を従来より小型化できる。一方、図12(b)の従来例のように複数のレンズ33a,33b,33cを組み合わせてレーザ光を整形する場合、レンズ系が大きいために、レーザダイオード素子2と共に一つのパッケージに収納するのは難しく、レンズ系はレーザ光源35とは別に設けられていた。図12(b)において、34はレンズ33a〜33cを収納するケーシングである。
【0035】
なお、上述した実施の形態では、撥水成膜として化学吸着単分子膜207を用いたが、撥水性の材料であればこれに限らず用いることができる。また、UV硬化性材料209を硬化させて母型としたが、例えば、熱硬化性の液状部材を用いてもかまわない。
【0036】
また、図3(c)のマスク204に、複数の開口パターン204aを2次元的に配するように形成しても良い。その場合、Si基板201上には複数の穴Pが形成され、それぞれの穴PにUV硬化性材料209を滴下して硬化させることで、非球面レンズの母型がアレイ状に複数形成される。その結果、図13(a)に示すような、非球面レンズの型(凹面311a、凸面312a)がアレイ状に配列された金型311,312を形成することができる。
【0037】
図13(a)は、金型311,312を用いたマイクロレンズアレイの成形工程を示す図である。金型311,312を所定間隔で配置し、その間にレンズ材料を充填して硬化させることにより、図13(b)に示すようなマイクロレンズ320を形成することができる。金型311は入射面側の金型であり、レンズ面を形成するための凹面311aが複数形成されている。一方、出射面側の金型312には、レンズ面を形成するための凸面312aが複数形成されている。
【0038】
図13(b)に示すマイクロレンズアレイ320を破線で示すように分割することにより、個別のマイクロレンズが得られる。そのため、多数のマイクロレンズを容易に得ることができる。なお、レーザダイオードがアレイ状に設けられている装置の場合には、マイクロレンズアレイ320を分割することなく、そのまま用いることも可能である。
【0039】
以上説明した実施の形態と特許請求の範囲の要素との対応において、化学吸着単分子膜207は撥水性膜を、UV硬化性材料209は液状部材を、ケーシング31は筐体をそれぞれ構成する。なお、以上の説明はあくまでも一例であり、発明を解釈する際、上記実施の形態の記載事項と特許請求の範囲の記載事項の対応関係に何ら限定も拘束もされない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明による金型で形成されたレーザダイオード用マイクロレンズ1を示す斜視図である。
【図2】マイクロレンズ1のレンズ機能を説明する概念図である。
【図3】金型の製造工程を説明する図であり、(a)は第1の工程を、(b)は第2の工程を、(c)は第3の工程をそれぞれ示す。
【図4】金型の製造工程を説明する図であり、(a)は第4の工程を、(b)は第5の工程を、(c)は第6の工程をそれぞれ示す。
【図5】金型の製造工程を説明する図であり、(a)は第7の工程を、(b)は第8の工程を、(c)は第9の工程をそれぞれ示す。
【図6】(a),(b)は金型製造の第10,第11の工程を示す図であり、(c),(d)はレンズ整形工程を示す図である。
【図7】化学吸着単分子膜207の形成過程を示す図であり、(a)〜(c)の順に形成される。
【図8】光線シミュレーションの結果を示す図であり、(a)はx方向から見た図であり、(b)はy軸方向から見た図である。
【図9】UV硬化性材料209の滴下量と曲率半径との関係の、計算結果を示す図である。
【図10】硬化したUV硬化性材料209の表面の、曲率半径の実測値を示す図である。
【図11】ディスペンサーの空気加圧時間とUV硬化剤の滴下量との関係を示す図である。
【図12】(a)は本発明によるマイクロレンズを用いたレーザ光源の一例を示す図であり、(b)は複数のレンズを有する従来のレーザ光源を示す図である。
【図13】(a)は金型311,312を用いたマイクロレンズアレイの成形工程を示す図であり、(b)はマイクロレンズアレイ320の斜視図である。
【符号の説明】
【0041】
1,213:マイクロレンズ、2:レーザダイオード、30,35:レーザ光源、31,34:ケーシング、101:入射面、102:出射面、202:SiO層、207:化学吸着単分子膜、209:UV硬化性材料、210:母型、211,212,311,312:金型、320:マイクロレンズアレイ、P:穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に開口領域が形成された撥水性膜を形成する第1工程と、
前記開口領域に、形成すべきレンズ面形状に応じた量の液状部材を滴下する第2工程と、
前記液状部材を硬化させる第3工程と、
前記第3工程により硬化した液状部材の表面形状を金属面に転写して、金型を形成する第4工程とを有することを特徴とする非球面マイクロレンズ用金型の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の非球面マイクロレンズ用金型の製造方法において、
前記基板は、表面が親水性であることを特徴とする非球面マイクロレンズ用金型の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の非球面マイクロレンズ用金型の製造方法において、
前記撥水性膜が、化学吸着単分子膜であることを特徴とする非球面マイクロレンズ用金型の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の非球面マイクロレンズ用金型の製造方法により形成されたことを特徴とする非球面マイクロレンズ用金型。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の非球面マイクロレンズ用金型の製造方法で形成された第1および第2の金型を所定間隔で配置し、配置された前記第1および第2の金型の間にレンズ材料を充填して硬化させることにより、入射面と出射面とがいずれも非球面レンズ面であるマイクロレンズを形成することを特徴とするマイクロレンズ製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のマイクロレンズ製造方法で形成されたことを特徴とするマイクロレンズ。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の非球面マイクロレンズ用金型の製造方法において、
前記第1工程では、前記撥水性膜に開口領域を複数形成し、
前記第2工程では、前記複数の開口領域の各々に前記液状部材を滴下し、
前記第3工程では、前記各開口領域内に滴下された液状部材を各々硬化させ、
前記第4工程では、硬化した複数の液状部材の表面形状を金属面に転写することを特徴とする非球面マイクロレンズ用金型の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の非球面マイクロレンズ用金型の製造方法により形成されたことを特徴とする非球面マイクロレンズ用金型。
【請求項9】
請求項7に記載の非球面マイクロレンズ用金型の製造方法で形成された第1および第2の金型を所定間隔で配置し、配置された前記第1および第2の金型の間にレンズ材料を充填して硬化させることにより、入射面と出射面とがいずれも非球面レンズ面であるマイクロレンズが複数設けられたマイクロレンズアレイを形成することを特徴とするマイクロレンズ製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載のマイクロレンズ製造方法で形成されたことを特徴とするマイクロレンズアレイ。
【請求項11】
第1の非球面レンズ面で形成された入射面と、
前記第1の非球面レンズ面と異なる第2の非球面レンズ面で形成された出射面とを備え、
楕円断面を有する発散光束を、円形断面を有する平行光束に変換することを特徴とするマイクロレンズ。
【請求項12】
レーザダイオード素子と、
前記レーザダイオード素子から出射されたレーザビームを整形する請求項6または11に記載のマイクロレンズと、
前記レーザダイオード素子および前記マイクロレンズを一体で収納する筐体とを備えたことを特徴とするレーザ光源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−156021(P2007−156021A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349708(P2005−349708)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(390022471)アオイ電子株式会社 (85)
【Fターム(参考)】