説明

非硬化型塗膜形成用組成物

【課題】 含フッ素樹脂基体上に、密着性、耐候性、耐湿性に優れた塗膜を形成できる組成物を提供する。
【解決手段】 含フッ素樹脂基体上に塗布される組成物であって、含フッ素共重合体と溶剤を含有してなり、前記含フッ素共重合体の質量平均分子量(M)が30000以上60000以下であり、かつ前記含フッ素共重合体一モル当たりの、水酸基、カルボキシ基、アミド基、およびグリシジル基からなる第1の官能基群に含まれる官能基の平均モル数が33以上54未満である非硬化型塗膜形成用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素樹脂基体上に非硬化型の塗膜を形成する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば含フッ素樹脂フィルムは耐候性、耐熱性、耐薬品性、電気的性質、機械的性質が優れており、その透明性および機械的強度が長期にわたり維持されることから、園芸用のグリーンハウスを構成する透明フィルムとしての需要が高まっている。また、近年では展示場のテント膜、またはアリーナ天井部の採光機能を有する構造部材としての使用も始められている。
【0003】
特に、採光機能を有する構造部材に用いられる場合は、屋外に暴露されても性能の低下が生じ難い耐候性の良さだけでなく、構造物としてのデザイン性、または内部空間の快適性向上のために、フィルム自体を着色できること、採光率をコントロールできること等が要求される。
【0004】
一般に含フッ素樹脂フィルムは、フィルム面に印刷を施すことが困難な材質であるが、下記特許文献1,2では、含フッ素樹脂フィルム上に顔料または染料を有するインキを用いて印刷できる方法が提案されている。
下記特許文献1には、含フッ素樹脂フィルム本来の耐候性を損ねないように、耐候性の良いフッ素樹脂タイプのインキを用いて印刷層(塗膜)を形成する方法が記載されている。また、印刷に先立って被印刷面をコロナ放電処理等によって表面活性化処理することにより、印刷層と含フッ素樹脂フィルムとの密着性を向上できることが記載されている。
該特許文献1の実験例において、含フッ素共重合体を含有するインキ1が用いられているが、この含フッ素共重合体は、固有粘度が0.4dL/gであることから、質量平均分子量は10万を超えると推測される。
【0005】
また、下記特許文献2には、含フッ素樹脂からなる層上に硬化型フッ素樹脂の硬化物からなる層(硬化型塗膜)を設ける方法が記載されている。
【特許文献1】特開平3−142237号公報
【特許文献2】特開平8−11268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1,2に記載されているように、含フッ素樹脂フィルム上に塗膜を設ける方法を用いれば、採光率のコントロールや、デザインの付与等を容易にできる。
しかし、近年は、含フッ素樹脂フィルムの用途がますます広がっており、塗膜のより高い密着性、より高い耐候性、より高い耐湿性を達成できる技術が求められている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、含フッ素樹脂基体上に、密着性、耐候性、および耐湿性に優れた塗膜を形成できる組成物、およびこれを用いた積層体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の非硬化型塗膜形成用組成物は、含フッ素樹脂基体上に塗布される組成物であって、含フッ素共重合体と溶剤とを含有してなり、前記含フッ素共重合体の質量平均分子量(M)が30000以上60000以下であり、かつ前記含フッ素共重合体一モル当たりの、水酸基、カルボキシ基、アミド基、およびグリシジル基からなる第1の官能基群に含まれる官能基の平均モル数が33以上54未満であることを特徴とする。
【0009】
前記含フッ素共重合体一モル当たりの前記第1の官能基群に含まれる官能基の平均モル数に対する、前記含フッ素共重合体一モル当たりの水酸基の平均モル数の割合が80%以上であることが好ましい。
【0010】
また本発明は、含フッ素樹脂基体上の一部または全部に、本発明の非硬化型塗膜形成用組成物からなる塗膜が設けられている積層体を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の非硬化型塗膜形成用組成物によれば、含フッ素樹脂基体上に、密着性、耐候性、および耐湿性に優れた塗膜を形成できる。
本発明によれば、含フッ素樹脂基体上に、密着性、耐候性、および耐湿性に優れた塗膜が設けられた積層体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
<含フッ素共重合体>
本発明における含フッ素共重合体の重合単位となるモノマーは、エチレン性不飽和基を有する含フッ素モノマーであり、例示するとテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロブテン−1、パーフルオロヘキセン−1、パーフルオロノネン−1、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデンなどのフルオロオレフィン類;パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロ(ヘプチルビニルエーテル)などのパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類;(パーフルオロメチル)エチレン、(パーフルオロブチル)エチレンなどの(パーフルオロアルキル)エチレン類等が挙げられる。ビニルエーテル成分については各種のモノマーが使用できる。該含フッ素モノマーは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。該含フッ素モノマーとしては、炭素数2〜3のフルオロオレフィン類が好ましく、特にテトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデンなどのフルオロエチレン類が好ましい。
【0013】
前記含フッ素共重合体は、含フッ素モノマー以外の重合性モノマーに基づく重合単位を有することが好ましい。該重合性モノマーとしては、エチレン性不飽和基を形成する炭素原子に結合する水素原子がフッ素原子に置換されていない重合性モノマーが好ましい。重合性モノマーとしては、ビニルエーテル類が挙げられる。なかでも、炭素数1〜15の直鎖状、分岐状または脂環状のアルキル基を有する化合物が好ましい。該重合性モノマーは単独で用いてもよく、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。具体的な重合性モノマーとしては以下の化合物が挙げられる。
メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテル、(パーフルオロアルキル)ビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類が挙げられる。
【0014】
含フッ素共重合体は、前記含フッ素モノマーに由来する重合単位を30〜70モル%含む共重合体であることが好ましい。特に、含フッ素モノマーに由来する重合単位が40〜60モル%の割合であることが好ましい。含フッ素モノマーの共重合割合が上記の範囲内にあると、塗膜の耐候性が向上する。
【0015】
前記含フッ素共重合体は、水酸基、カルボキシ基、アミド基、およびグリシジル基からなる第1の官能基群に含まれる官能基を持つことが必要である。
含フッ素共重合体一モル当たりの、第1の官能基群に含まれる官能基の平均モル数は33以上54未満の範囲内である。より好ましい範囲は34以上51未満である。
上記範囲の下限値以上とすることにより、塗膜と含フッ素樹脂基体との密着性が向上する。特にフッ素樹脂基体に後述の表面処理が施された場合に、良好な密着性向上効果が得られる。前記第1の官能基群に含まれる官能基の平均モル数が上記範囲の上限値未満であると、塗膜の粘着性が低く、大気中の粉塵を吸着し難く、塗膜の表面が汚れ難いnnnnnnnnnj。
【0016】
前記含フッ素共重合体一モル当たりの前記第1の官能基群に含まれる官能基の平均モル数に対する、前記含フッ素共重合体一モル当たりの水酸基の平均モル数の割合は80%以上であることが好ましく、90%以上がより好ましく、100%でもよい。
該水酸基の平均モル数の割合を上記範囲とすることにより、フッ素樹脂基体に後述の表面処理が施された場合に密着性に優れる。
【0017】
前記含フッ素共重合体を製造する際に、官能基を含有する重合性モノマーを用いることによって、官能基を持つ重合単位を有する共重体が得られる。
該官能基を有する重合性モノマーの具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
水酸基含有の重合性モノマーとしては、アリルアルコール;2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、4−ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル類;2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、3−ヒドロキシプロピルアリルエーテル、4−ヒドロキシブチルアリルエーテル、4−ヒドロキシシクロヘキシルアリルエーテル等のヒドロキシアルキルアリルエーテル類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;ヒドロキシ酢酸ビニル、ヒドロキシイソ酪酸ビニル、ヒドロキシプロピオン酸ビニル、ヒドロキシ酪酸ビニル、ヒドロキシ吉草酸ビニル、ヒドロキシシクロヘキシルカルボン酸ビニル等のヒドロキシアルキルカルボン酸とビニルアルコールとのエステル類;ヒドロキシエチルアリルエステル、ヒドロキシプロピルアリルエステル、ヒドロキシブチルアリルエステル、ヒドロキシイソブチルアリルエステル、ヒドロキシシクロヘキシルアリルエステル等のヒドロキシアルキルアリルエステル類等が挙げられる。
【0018】
カルボキシ基含有の重合性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、カルボキシアルキルアリルエステル等が挙げられる。
アミド基含有の重合性モノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
グリシジル基含有の重合性モノマーとしては、グリシジルアリルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0019】
官能基を有する重合単位は、特定の化合物と反応させて他の官能基を有する重合単位に変換できる。たとえば、水酸基含有の重合単位は、無水コハク酸等の二価カルボン酸無水物と反応させることによりカルボキシ基含有の重合単位に変換できる。
【0020】
前記含フッ素共重合体の質量平均分子量(M)は30000以上60000以下である。35000以上55000以下がより好ましく、40000以上50000以下がさらに好ましい。
該質量平均分子量を上記範囲の下限値以上とすると、塗膜の凝集破壊が生じ難くなる。
該質量平均分子量を上記範囲の上限値以下とすると、熱流動性が良くなり、塗膜の密着向上において重要な、界面での濡れ性を確保できる。これにより密着性が効果的に向上する。
【0021】
前記含フッ素共重合体の数平均分子量(M)は、特に限定されないが、基体と塗膜との良好な密着性、および塗膜の凝集破壊の抑制の点から、10000以上35000未満が好ましい。12000以上33000以下がより好ましく、12000以上30000以下が最も好ましい。
【0022】
本発明において、非硬化型塗膜形成用組成物の樹脂成分として、本発明の効果を損なわない範囲で、該含フッ素共重合体以外の他の樹脂、たとえばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等を併用してもよい。
非硬化型塗膜形成用組成物の樹脂成分中の含フッ素共重合体の割合は75質量%以上が好ましく、100質量%でもよい。
【0023】
<溶剤>
本発明の非硬化型塗膜形成用組成物は、前記含フッ素共重合体を溶剤に溶解して調製できる。
溶剤としてはキシレン、トルエン等の芳香族炭化水素、酢酸ブチル等のエステル類、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン類、n−ヘキサン、リグロイン等の飽和炭化水素類、HCFC−225(旭硝子社製、商品名;AK−225)等のHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)が挙げられる。溶剤は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の非硬化型塗膜形成用組成物の固形分濃度は特に限定されず、得ようとする塗膜の膜厚にもよるが、20〜70質量%程度が好ましく、30〜60質量%程度がより好ましい。
【0024】
<その他の成分>
非硬化型塗膜形成用組成物には、着色成分を含有させることができる。たとえば通常グラビアインキで使用される顔料を配合できる。好適な顔料としては、有機顔料、無機顔料等の着色顔料、アルミペースト、マイカ、パール等の光輝顔料等が挙げられる。
前記有機顔料および無機顔料は、含フッ素共重合体とのなじみを良くするため、シリコンオイル、ステアリン酸等の界面活性剤を被覆したタイプを用いることもできる。
また、アルミペーストの場合には、水、酸、およびアルカリに対する耐性を向上させるために、架橋密度の高いアクリル樹脂等を表面に被覆したタイプ、またはシリカを表面に被覆したタイプを用いることが好ましい。
また、最外層に酸化チタンを被覆したパール顔料は、含フッ素共重合体に対する光活性を抑えるために、酸化チタン被覆層の外側に、ジルコニア、アルミナ、シリカからなる無機被覆層を有するものが好適に用いられる。
顔料の添加量は、含フッ素共重合体の100質量部に対して5〜150質量部が好ましく、10〜100質量部がより好ましい。
【0025】
非硬化型塗膜形成用組成物には、従来からインキ用途に使用されているその他の成分も適宜使用できる。たとえば通常グラビアインキで使用されるその他の添加剤を配合できる。具体例としては、酸化防止剤、タレ防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、表面調整剤、スリップ剤、触媒等が挙げられる。
その他の添加剤の配合量は、含フッ素共重合体の100質量部に対して、0.01〜40質量部の範囲から適宜選定される。
【0026】
<基体>
本発明における基体は、フッ素含有量が45質量%以上の含フッ素樹脂からなる。フッ素含有量を45%質量以上とすることにより、良好な耐汚染性、耐薬品性、非粘着性、耐候性が得られる。特に充分な非粘着性、耐汚染性が得られる。該フッ素含有量は50質量%以上が好ましく、特に55質量%以上が好適である。基体は、光透過性を有することが好ましく、透明であることがより好ましい。
含フッ素樹脂としては、エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体(以下、ETFEという)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体(以下、FEPという)またはテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体が好ましい。特にETFEが好ましい。
【0027】
前記ETFEとしては、たとえばテトラフルオロエチレン重合単位/エチレン重合単位のモル比が30/70〜70/30、好ましくは40/60〜60/40のETFEが挙げられる。ETFEとしては、上記2成分の他に、さらに1種または2種以上のフッ素含有オレフィンおよび/または炭化水素系オレフィンなどの追加成分を共重合せしめたものでもよい。
該追加成分としては、プロピレン、1−ブテン等のα−オレフィン類、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、(パーフルオロブチル)エチレン、トリフルオロクロロエチレン等の含フッ素オレフィン類、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)等の含フッ素ビニルエーテル類、および含フッ素アクリレート類などが挙げられる。
前記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)が好ましい。
該追加成分を共重合せしめる場合には、フッ素含有量が45質量%未満にならない範囲内で、ETFE中に50モル%以下で共重合せしめることが好ましい。場合によっては、追加成分を10モル%以下の少量で共重合せしめて、ETFEを改質せしめる程度であってもよい。
特に(パーフルオロブチル)エチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)を第3成分、または第4成分として0.1〜2モル%用いて共重合させたETFEは、長期にわたり透明性と機械強度を保持できる。さらに該ETFEを厚さ100μm〜300μm程度に成型したフィルムは、構造部材用のフィルムとして好適である。
【0028】
ETFEの分子量は特に限定されないが、その目安となる容量流速として10〜300mm/秒程度が好適である。該容量流速は、高化式フローテスターを使用して、温度300℃、荷重30kg/cmで、直径1mm、長さ2mmのノズルから流出させ、単位時間(秒)に流出するETFEの容量(mm)で表される値である。
【0029】
前記FEPとしては、たとえばテトラフルオロエチレン重合単位/ヘキサフルオロプロピレン重合単位のモル比が70/30〜99/1、好ましくは80/20〜95/5のFEPが挙げられる。FEPとしては、上記2成分の他に、さらに1種または2種以上のフッ素含有オレフィンおよび/または炭化水素系オレフィンなどの追加成分を共重合せしめたものでもよい。この追加成分としては、プロピレン、1−ブテン等のα−オレフィン類、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、(パーフルオロブチル)エチレン、トリフルオロクロロエチレン等の含フッ素オレフィン類、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)等の含フッ素ビニルエーテル類などが挙げられる。
前記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)が好ましい。
これらの追加成分を共重合せしめる場合には、FEPを改質せしめる程度でよく、10モル%以下で共重合せしめることが好ましい。
【0030】
FEPの分子量は特に限定されないが、その目安となる容量流速として0.5〜300mm/秒程度が好適である。該容量流速は、高化式フローテスターを使用して、温度380℃、荷重7kg/cmで、直径2mm、長さ8mmのノズルから流出させ、単位時間(秒)に流出するFEPの容量(mm)で表される値である。
【0031】
前記テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体におけるアルキル基の炭素数は1〜3が好ましい。特に、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)系共重合体(以下、PFAという)が好ましい。
PFAとしては、たとえばテトラフルオロエチレン重合単位/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)重合単位のモル比が80/20〜99.5/0.5、好ましくは90/10〜99/1のPFAが挙げられる。また、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロ(n−ヘプチルビニルエーテル)などが挙げられる。共重合体物性などを考慮するとパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)が好ましい。PFAとしては、上記2成分の他に、さらに1種または2種以上の少量のフッ素含有オレフィンおよび/または炭化水素系オレフィンなどの追加成分を共重合せしめたものでもよい。この追加成分としては、プロピレン、1−ブテン等のα−オレフィン類、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、(パーフルオロブチル)エチレン、トリフルオロクロロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等の含フッ素オレフィン類などが挙げられる。
これらの追加成分を共重合せしめる場合には、PFAを改質せしめる程度でよく、10モル%以下で共重合せしめることが好ましい。
【0032】
PFAの分子量は特に限定されないが、その目安となる容量流速として0.5〜300mm/秒程度が好適である。該容量流速は、高化式フローテスターを使用して、温度380℃、荷重7kg/cmで、直径2mm、長さ8mmのノズルから流出させ、単位時間(秒)に流出するPFAの容量(mm)で表される値である。
【0033】
基体の含フッ素樹脂としては、フッ素含有量が45質量%以上のものであれば特に限定されることなく、上記のETFE、FEP、PFAの他にも種々の含フッ素樹脂を用いることができる。たとえば、高い透明性を有する含フッ素樹脂として、含フッ素脂肪族環構造を有する重合体が挙げられる。該重合体としては、含フッ素環構造を有するモノマーを重合して得られるもの、または少なくとも2つの重合性二重結合を有する含フッ素モノマーを環化重合して得られる、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する重合体が挙げられる。
【0034】
前記主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する重合体は、たとえばパーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)等の含フッ素環構造を有するモノマーを単独重合させたり、または該含フッ素環構造を有するモノマーとテトラフルオロエチレン等のラジカル重合性モノマーを共重合させることにより得られる(特公昭63−18964号公報等を参照)。
また、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する重合体は、たとえばパーフルオロ(アリルビニルエーテル)、パーフルオロ(ブテニルビニルエーテル)等の少なくとも2つの重合性二重結合を有する含フッ素モノマーを環化重合せしめたり、またはこの含フッ素モノマーとテトラフルオロエチレン等のラジカル重合性モノマーを共重合せしめることにより得られる(特開昭63−238111号公報、特開昭63−238115号公報等を参照)。
さらに、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する重合体は、含フッ素環構造を有するモノマーと少なくとも2つの重合性二重結合を有する含フッ素モノマーを共重合せしめることによっても得られる。主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する重合体は、環構造の含有割合が20質量%以上であるものが、透明性、機械的特性等の面から特に好ましい。
【0035】
基体の厚さは特に限定されないが、高い透明性を得るためには5〜500μmが好ましく、機械的特性、コスト等を考慮すると10〜200μmが好ましい。
また、基体を他の基材に積層して使用する場合には、基体の厚さをさらに小さくすることもできる。
【0036】
<表面処理>
基体と塗膜との良好な密着性を得るために、基体の、塗膜が形成される面が、塗膜形成前に表面処理されていることが好ましい。
該表面処理方法としては、含フッ素樹脂の密着性改善に通常用いられている既知の方法を適宜採用できる。たとえば、コロナ放電処理、金属ナトリウム処理、機械的粗面化処理、エキシマレーザー処理等が使用できる。特に、コロナ放電処理が好ましい。
一般的に、基体と塗膜の良好な密着性を得るには、基体の表面張力が0.035N/m以上となるように表面処理することが好ましく、0.04N/m以上がより好ましい。
上記表面処理を行うことにより、酸素官能基および/または窒素官能基が基体の表面に導入され、該基体側の官能基と、非硬化型塗膜形成用組成物の含フッ素共重合体に存在する水酸基等の官能基とが化学結合を形成して、基体と塗膜との密着性が向上すると考えられる。
【0037】
コロナ放電処理は、含フッ素樹脂基体を製造する製造ライン上にコロナ放電処理機を配置して逐次処理することが製造プロセス上有利である。処理条件は、処理する含フッ素樹脂基体の種類、および所望する処理の程度により選択される。特に限定されないが、0.1〜10kW程度の強度で、0.5〜100m/分程度処理することが好ましい。
【0038】
<積層体>
本発明の積層体は、含フッ素樹脂基体上に前記非硬化型塗膜形成用組成物を塗布し、乾燥させて塗膜を形成することにより得られる。
塗布方法は、たとえば、グラビア印刷等の普通の塗布法によって行うことができる。
塗布後は、溶剤を揮発させるとともに、塗膜と基体との密着性を向上させるために、60℃〜150℃で2秒間から20秒間程度の条件で乾燥させることが好ましい。
塗膜は、基体の全面上に形成してもよく、基体表面の一部を覆うように形成してもよい。
また、基体の一面上に設けてもよく、基体の表裏両面上に塗膜を設けてもよい。好ましくは一面上である。
本発明における塗膜は非硬化型である。該非硬化型の塗膜とは樹脂成分が架橋されていない状態の塗膜をいう。したがって、非硬化型の塗膜は、溶剤を接触させて溶解できる。
【0039】
本発明によれば、基体と塗膜の密着性が優れており、長期の屋外暴露にも性能が劣化しない優れた耐候性および耐湿性を備えた積層体が得られる。
また基体上に設けられている塗膜は非硬化型であるため、基体の変形に対する優れた追従性を有する。したがって風、または構造物内部の圧力変化によって基体に変形が繰り返し生じても塗膜が剥離し難い。これに対して、従来の硬化型フッ素樹脂の硬化物からなる膜は、その収縮応力により、基体の変形に追従し難く、用途によっては界面剥離が生じ易い。
本発明の積層体の用途は特に限定されないが、特に屋外において使用される用途に好適である。具体例としては、展示場のテント膜、またはアリーナ天井部の採光機能を有する構造部材、農業資材等が挙げられる。
また塗膜の形状および大きさの設計自由度が高い。したがって、基体を透明材料で構成し、塗膜を遮光性の材料で構成すれば、塗膜の形状および大きさによって採光率を自由にコントロールできる。
【実施例】
【0040】
本発明をより詳細に説明するため以下に実施例を示す。
(含フッ素共重合体合成例1)
内容積2500mLのステンレス製撹拌機付き耐圧反応器にキシレンの620g、エチルビニルエーテル(EVE)の330g、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル(HBVE)の133g、バッファーとして炭酸カリウムの10g及び重合開始剤としてパーブチルパーピバレート(PBPV)の3.5gを仕込み、液体窒素による固化・脱気により液中の溶存酸素を除去した。
次いでクロロトリフルオロエチレン(CTFE)の690gを導入して徐々に昇温し、温度を65℃に維持しながら反応を続けた。10時間後、反応器を水冷して反応を停止し反応液を得た。この反応液を室温まで冷却した後、未反応モノマーをパージし、得られた反応液を珪藻土で濾過して固形物を除去して固形分濃度50質量%、数平均分子量(M)=16000、質量平均分子量(M)=50000、水酸基価57mgKOH/gの固形の含フッ素共重合体Aを得た。
得られた含フッ素共重合体Aの一モル当たりの、第1の官能基群に含まれる官能基の平均モル数は、水酸基が51モルであった。
【0041】
(含フッ素共重合体合成例2)
合成例1と同じ反応器に、キシレンの600g、EVEの200g、HBVEの129g、シクロヘキシルビニルエーテル(CHVE)の210g、炭酸カリウムの10g及びPBPVの3.5gを仕込み、液体窒素による固化・脱気により液中の溶存酸素を除去した。
次いでCTFEの660gを導入し、後は合成例1と同じ手順で固形分濃度50質量%、M=12000、M=36000、水酸基価52mgKOH/gの固形の含フッ素共重合体Bを得た。
得られた含フッ素共重合体Bの前記官能基の平均モル数は、水酸基が34モルであった。
【0042】
(含フッ素共重合体合成例3)
合成例1と同じ反応器に、キシレンの590g、EVEの120g、HBVEの254g、CHVEの200g、炭酸カリウムの11g及びPBPVの3.5gを仕込み、液体窒素による固化・脱気により液中の溶存酸素を除去した。
次いでCTFEの650gを導入し、後は合成例1と同じ手順で固形分濃度50質量%、M=6000、M=16000、水酸基価90mgKOH/gの固形の含フッ素共重合体Cを得た。
得られた含フッ素共重合体Cの前記官能基の平均モル数は、水酸基が26モルであった。
【0043】
(含フッ素共重合体合成例4)
合成例1と同じ反応器に、キシレンの580g、EVEの78g、HBVEの251g、CHVEの273g、炭酸カリウムの11g及びPBPVの3.5gを仕込み、液体窒素による固化・脱気により液中の溶存酸素を除去した。
次いでCTFEの640gを導入し、後は合成例1と同じ手順で固形分濃度50質量%、M=10000、M=36000、水酸基価98mgKOH/gの固形の含フッ素共重合体Dを得た。
得られた含フッ素共重合体Dの前記官能基の平均モル数は、水酸基が63モルであった。
【0044】
(含フッ素共重合体合成例5)
合成例1と同じ反応器に、キシレンの250g、t−ブチルアルコールの530g、EVEの189g、HBVEの123g、CHVEの200g、炭酸カリウムの11g及び重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチルニトリル(AIBN)の0.5gを仕込み、液体窒素による固化・脱気により液中の溶存酸素を除去した。
次いでCTFEの620gを導入し、後は合成例1と同じ手順で固形分濃度40質量%、M=40000、M=100000、水酸基価52mgKOH/gの固形の含フッ素共重合体Eを得た。
得られた含フッ素共重合体Eの前記官能基の平均モル数は、水酸基が94モルであった。
【0045】
(含フッ素共重合体合成例6)
合成例1と同じ反応器にキシレンの710g、HBVEの133g、CHVEの520g、炭酸カリウムの11g及びPBPVの3.5gを仕込み、液体窒素による固化・脱気により液中の溶存酸素を除去した。
次いでCTFEの620gを導入し、後は合成例1と同じ手順で固形分濃度50質量%、M=11000、M=40000、水酸基価52mgKOH/gの固形の含フッ素共重合体Fを得た。
得られた含フッ素共重合体Fの前記官能基の平均モル数は、水酸基が37モルであった。
【0046】
(含フッ素共重合体合成例7)
合成例1と同じ反応器に、キシレンの720g、EVEの133g、HBVEの126g、CHVEの320g、炭酸カリウムの11g及びPBPVの3.5gを仕込み、液体窒素による固化・脱気により液中の溶存酸素を除去した。
次いでCTFEの620gを導入し、後は合成例1と同じ手順で固形分濃度50質量%、M=7000、M=18000、水酸基価51mgKOH/gの固形の含フッ素共重合体Fを得た。
得られた含フッ素共重合体Gの前記官能基の平均モル数は、水酸基が16モルであった。
【0047】
(積層体製造例1〜7)
基材として、厚さ200μmのETFEフィルム(旭硝子社製、製品名;アフレックス)に、放電密度200W・min/mで、コロナ放電処理を行った。放電処理された面の表面張力は0.045N/mであった。
上記合成例1〜7でそれぞれ得られた含フッ素共重合体A〜Gを用い、含フッ素共重合体100質量部と、アルミペースト20質量部を、溶剤20質量部に溶解させてグラビアインキ(非硬化型塗膜形成用組成物)を調製した。
アルミペーストは旭化成ケミカルズ社製、商品名;HR7000、固形分濃度50質量%を用いた。溶剤には、トルエンとメチルエチルケトンを質量比1:1で混合した混合溶液を用いた。
続いて、35μm、175線に彫刻したグラビア版に上記で調製したグラビアインキを満たし、水玉模様のグラビア印刷を行い、印刷後80℃で20秒間乾燥し印刷物(積層体)を得た。
【0048】
(評価)
積層体製造例1〜7でそれぞれ得られた印刷物(積層体)について、以下の評価を実施した。その結果を下記表1に示す。
(1)初期密着性
印刷されたグラビアインキ上にセロテープ(登録商標)を貼り付け、急激に引き剥ぎを行う剥離試験を行った。セロテープ側にインキが移行したかどうかを目視判定し、移行なしを○、移行ありを×とした。
【0049】
(2)耐候性試験
メタルハライドランプ型促進耐候性試験器(大日本プラスティック社製、商品名:ダイプラメタルウェザー)を用い、1000時間試験後に、上記(1)初期密着性の評価と同様の剥離試験を行った。セロテープ側にインキが移行したかどうかを目視判定し、移行なしを○、移行ありを×とした。
(3)耐湿試験
温度85℃、湿度85%の恒湿恒温試験器中に1000時間暴露した後、上記(1)初期密着性の評価と同様の剥離試験を行った。セロテープ側にインキが移行したかどうかを目視判定し、移行なしを○、移行ありを×とした。
【0050】
【表1】

【0051】
含フッ素共重合体の質量平均分子量および共重合体一モル当たりの平均官能基モル数が、いずれも本発明の範囲内である製造例1,2,6では全ての試験において良好な評価結果が得られた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素樹脂基体上に塗布される組成物であって、
含フッ素共重合体と溶剤とを含有してなり、前記含フッ素共重合体の質量平均分子量(M)が30000以上60000以下であり、かつ前記含フッ素共重合体一モル当たりの、水酸基、カルボキシ基、アミド基、およびグリシジル基からなる第1の官能基群に含まれる官能基の平均モル数が33以上54未満であることを特徴とする非硬化型塗膜形成用組成物。
【請求項2】
前記含フッ素共重合体一モル当たりの前記第1の官能基群に含まれる官能基の平均モル数に対する、前記含フッ素共重合体一モル当たりの水酸基の平均モル数の割合が80%以上である請求項1に記載の非硬化型塗膜形成用組成物。
【請求項3】
含フッ素樹脂基体上の一部または全部に、請求項1または2に記載の非硬化型塗膜形成用組成物からなる塗膜が設けられている積層体。


【公開番号】特開2006−152061(P2006−152061A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−342088(P2004−342088)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】