説明

面状発熱体及び面状発熱体の製造方法

【課題】リード線を熱溶融性接着剤(ホットメルト)により冷却された治具を用いてシート状基材に固定する方法において、熱溶融性接着剤の治具からの洩れをなくし簡単で確実に外観品質の良い固定部を形成出来るようにした面状発熱体の製造方法を提供する。
【解決手段】上面を開口面22とする空洞部21を有する箱状の治具20を冷却した状態で使用し、前記開口面22に引き出し線4を配したシート状基材2を載置するとともに前記シート状基材2に抑え板25を重ねて前記開口面22とシート状基材2で前記引き出し線4を挟んだ状態において、前記シート状基材2と抑え板25に設けた小孔23、23´から溶融した熱溶融性接着剤16を注入して冷却固化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば自動車の座席に組み込まれて保温座席を構成する面状発熱体ならびにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車における暖房の一手段として座席に面状の発熱体を組み込んだものが既に採用されている。
【0003】
このような面状の発熱体は柔軟な面状の樹脂布に発熱金属細線を縫製したものまたは絶縁被覆を施した金属細線の被覆部分を溶着して成るものが一般的である。
【0004】
前記面状発熱体においては発熱金属細線と引き出し電線(リード線)が接続され、引き出し線もシート基材に確実に固定されねばならない。
【0005】
従来引き出し線は金属性の部材で固定する方法によるもの、または熱溶融性接着剤(以下ホットメルトと称する)を施して基材(樹脂布)に接着固定する方法が一般的に行われていた。
【0006】
前者の固定方法としては、ステープル状の金属性固定具により引き出し線を強く押しつぶすようにして固定するもので、非常に強く固着することが出来、取付強度は極めて高いものが得られる。しかし引き出し線の重なった状態で上から金属性の固定具で固着した場合には電線の被覆が裂け、短絡や断線することもあった。
【0007】
また、別の方法としては固定部にホットメルトを吐出、滴下させ治具にて押し固め、固化させる方法が行われており、確実な固着状態が得られるものであった。
【0008】
しかしながら、この場合は固着後の治具からの剥離性が悪く、このためシリコン離型剤を用いると電気絶縁性に対する問題が生じるものであった。
【0009】
叙上の観点から、本出願人は、引き出し線上に滴下した熱溶着性接着剤(ホットメルト)を冷却した治具により押圧固化し固定する方法を提案した(特許文献1)。
【0010】
図8、図9はその固定方法の一工程と固定部の要部を示している。
【0011】
図8において51は不織布より成るシート状基材で他に図示しない発熱金属細線が所定パターンで装着されている。
【0012】
52は前記発熱金属細線と接続されている引き出し線で芯線に塩化ビニル樹脂被覆を施して成るものである。
【0013】
53は前記引き出し線52をシート状基材51に固定する部分に滴下された熱溶着性接着剤(ホットメルト)である。
【0014】
前記熱溶着性接着剤(ホットメルト)53を予め冷却されている適当な成型治具(図示省略)により押圧して冷却することにより図9に示す固定部54が形成され、引き出し線52はシート状基材51に確実に固定される。
【0015】
この方法によれば、高温の溶融した熱溶着性接着剤(ホットメルト)53が急速に冷却固化され、しかもシリコン離型剤を使用することなく治具からの剥離も容易に行うことが出来るようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2008−192586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、前記方法による場合は、ホットメルト量を多めに滴下しなければならないとともに、冷却した成形治具による押圧作業をしなければならなかった。
【0018】
押圧作業はある程度の慣れを必要とするものであり、それでも図9に示される固定部54に見られるように治具からの洩れ55が生じ、製品としての外観品質において改良の余地を残すものであった。
【0019】
本発明は以上の問題点に鑑み成されたものでその目的は熱溶融性接着剤(ホットメルト)の使用量を最小限にして引き出し線の固定を簡単確実に行いしかも完成した製品の外観品質を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記目的を達成するために、請求項1に係る発明の面状発熱体は、シート状基材と、前記シート状基材に所定パターンにて適宜装着された発熱金属細線と、一端部が前記シート状基材に固着された接続部にて前記発熱金属細線に接続されている塩化ビニル樹脂被覆された引き出し線とを具え、前記引き出し線が予め冷却された開口面を有する箱状の治具に熱熔融性接着剤(ホットメルト)が注入されて形成された固定部により前記シート状基材に固着されて成り、前記固定部は、前記引き出し線を前記シート状基材と前記治具の開口面で挟んだ状態で治具内に注入された熱熔融性接着剤(ホットメルト)によって形成されていることを特徴とするものである。
【0021】
請求項2に係る発明は、前記面状発熱体の製造方法であって、前記固定部は、前記引き出し線を前記シート状基材と前記治具の開口面で挟んだ状態で熱熔融性接着剤(ホットメルト)を前記治具内に注入することにより形成することを特徴とするものである。
【0022】
また、請求項3に係る発明は、請求項2記載の面状発熱体の製造方法において箱状の治具に注入口を備え、この注入口から治具内に熱熔融性接着剤(ホットメルト)を注入するようにしたものである。
【0023】
また、請求項4に係る発明は請求項2記載の面状発熱体の製造方法において、箱状の治具の上面に開口面を設け、この開口面とシート状基材にて引き出し線を挟み、さらに前記シート状基材の上に抑え板を配するとともに前記抑え板とシート状基材に設けた小孔より熱熔融性接着剤(ホットメルト)を注入するようにしたものである。
【0024】
請求項5に係る発明は請求項2〜4のいずれかに記載の面状発熱体の製造方法において、治具の開口面の周縁の相対する二辺に引き出し線を固定する略半円弧状の凹部を適数個有するものを用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば次のような効果がある。
【0026】
請求項1に係る面状発熱体によれば、引き出し線が冷却した成型治具により注入した熱溶融性接着剤の固化が早く、固定部の熱熔融性接着剤(ホットメルト)のはみ出しが無いのでホットメルト使用量の無駄が少なく、引き出し線をシート状基材に確実に固定し製品の外観品質を向上させることが出来る。
【0027】
請求項2に係る面状発熱体の製造方法によれば、治具に熱熔融性接着剤を注入するだけで良いので、押圧作業が不要であり作業が熟練を要せず簡単となり、冷却した成型治具を一定場所に置き接着剤を注入することが出来るもので治具を冷却槽から加工部へ移動する工程が削減出来るものである。
【0028】
また、請求項3に係る面状発熱体の製造方法によれば、箱状の治具に注入口を設けてあるので熱熔融性接着剤の注入作業が一層容易となる。
【0029】
また、請求項4に係る面状発熱体の製造方法によれば、箱状の治具が上面に開口面を有しており、この開口面に小孔を有するシート状基材と抑え板を載せ、前記小孔から熱熔融性接着剤を注入して簡単に引き出し線の固定を行うことが出来る。
【0030】
また、請求項5に係る面状発熱体の製造方法によれば、開口面の相対する二辺に適数個の略半円弧状の凹部を備えているため、引き出し線の位置を決めることが出来るとともに、引き出し線が前記凹部に密着して洩れを効果的に防止する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態における面状発熱体の要部平面図である。
【図2】同上面状発熱体の要部拡大斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態1における面状発熱体の製造方法を示す要部斜視図である。
【図4】図3のIV−IV´線における断面図である。
【図5】図3、図4に示す箱状治具の底面図である。
【図6】本発明の実施の形態2における面状発熱体の製造方法を示す要部斜視図である。
【図7】同じく実施の形態2における面状発熱体の製造方法を示す縦断面図である。
【図8】従来の面状発熱体の製造方法における一工程を示す要部平面図である。
【図9】従来の面状発熱体の要部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下添付図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態の説明をする。尚、本発明は本実施の形態により限定されるものではない。
【0033】
図1は本発明の一実施例に係る面状発熱体の平面図を示し、図2は同上面状発熱体の引き出し線を固定する固定部の斜視図である。
【0034】
図1において1は自動車の座席等に組み込まれる面状発熱体で不織布またはウレタン表布等より成るシート状基材2と前記基材2に所定パターンで装着された発熱金属細線3及びコネクタ6と前記発熱金属細線3を接続する引き出し線4等から成っている。5は引き出し線4を熱溶融性接着剤により固定化する固定部である。
【0035】
尚、5´は熱溶融性接着剤により固定化する工程において生じた注入痕である。
【0036】
以下前記面状発熱体1の製造方法につき詳述する。
【0037】
(実施の形態1)
図3は実施の形態1における面状発熱体の製造方法の一工程と治具を示す斜視図であり、図4は同じく前記工程に使用される治具の断面図であり、図5は前記工程に使用される治具の底面図を示している。
【0038】
前記各図において10は箱状の治具で内部に空洞部11が形成されるとともに前記空洞部11は下面に開口面12を有するものである。
【0039】
また、前記箱状の治具10の上面には前記空洞部11に連通する注入口13が穿設されている。
【0040】
14は前記開口面12の周縁のうち相対する二辺に形成された適数個の凹部である。
【0041】
前記凹部14は一例として前記引き出し線4の外径と略同寸の半円弧状に形成されており、個数は固定すべき引き出し線4の数と同数である。
【0042】
前記箱状の治具10は予め冷却された状態で使用されるが、冷却に当たっては冷凍装置または、氷や蓄冷剤による水槽等いずれを用いても構わない。
【0043】
また、冷却温度も厳密な設定は不要であるが、0℃前後であれば全く問題がない。
【0044】
図4に示すように、前記箱状の治具10は前記引き出し線4を配置したシート状基材2の上に置かれる。
【0045】
そして前記開口面12とシート状基材2にて前記引き出し線4を挟んだ状態で注入器15により溶融した熱溶融性接着剤16が注入される。
【0046】
前記熱溶融性接着剤16は前記空洞部11が満たされるまで注入すれば良い。
【0047】
前記熱溶融性接着剤16は一例として140〜170℃に加熱されたものが使用されている。
【0048】
前記製造方法によれば、上部注入口13から熱溶融性接着剤16を注入することによりシート状基材2及び引き出し線4に熱溶融性接着剤16が絡まり、治具10外にはみ出すことも無く固定部5が形成され、治具が冷却されているので容易に離型することが出来る。
【0049】
(実施の形態2)
図6は実施の形態2における面状発熱体の製造方法を示す斜視図で、図7は同じくその断面図である。
【0050】
図6、図7において、20は箱状の治具で内部に空洞部21が形成されるとともに前記空洞部21は上面に開口面22を有するものである。
【0051】
24は前記開口面22の周縁のうち相対する二辺に形成された適数個の凹部である。
【0052】
前記凹部24は一例として前記引き出し線4の外径と略同寸の半円弧状に形成されており、個数は固定すべき引き出し線4の数と同数である。
【0053】
前記箱状の治具20は前述実施の形態1と同様に予め冷却された状態で使用される。
【0054】
図示のように、前記箱状の治具20は一例として冷却された作業盤26に載置されており、開口面22の上にシート状基材2とその上に抑え板25が重ねて置かれる。
【0055】
23、23´は前記シート状基材2と抑え板25に穿設された小孔である。
【0056】
また、前記引き出し線4は前記凹部24に各々配置されている。シート状基材2は前記引き出し線4を配置した治具の上に置かれる。
【0057】
以上のように前記開口面22とシート状基材2にて前記引き出し線4を挟んだ状態で前記小孔23、23´から注入器15により溶融した熱溶融性接着剤16が注入される。
【0058】
熱溶融性接着剤16は前記治具の空洞部21が一杯になるまで注入すれば良い。
【0059】
注入された熱溶融性接着剤16は前記治具の空洞部21内で急速に冷却固化され固定部5が形成される。
【0060】
前記固定部5は治具20から容易に離脱させることが出来、治具20及び抑え板25を取り外し、上下を逆にすれば図1、図2に示す面状発熱体1が得られる。
【0061】
尚、本方法による場合、注入痕は殆ど目立たない。
【0062】
以上実施の形態2によれば熱溶融性接着剤16の注入作業が簡単で、従来の押圧成形作業が不要であり、治具外へのはみ出しも無く、冷却した治具を移動する手間を解消出来るものである。
【0063】
従って熱溶融性接着剤の無駄がなく且つ生産効率を大きく向上させることが出来るものである。
【符号の説明】
【0064】
1 面状発熱体
2 シート状基材
3 発熱金属細線
4 リード線
5 固定部
10 箱状の治具
11 空洞部
12 開口面
13 注入口
14 凹部
16 熱溶融性接着剤
20 箱状の治具
21 空洞部
22 開口面
23 小孔
23´ 小孔
24 凹部
25 抑え板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状基材と、前記シート状基材に所定パターンにて適宜装着された発熱金属細線と、一端部が前記シート状基材に固着された接続部にて前記発熱金属細線に接続されている塩化ビニル樹脂被覆された引き出し線とを具え、前記引き出し線が予め冷却された開口面を有する箱状の治具に熱熔融性接着剤(ホットメルト)が注入されて形成された固定部により前記シート状基材に固着されて成り、前記固定部は、前記引き出し線を前記シート状基材と前記治具の開口面で挟んだ状態で治具内に注入された熱熔融性接着剤(ホットメルト)によって形成されていることを特徴とする面状発熱体。
【請求項2】
シート状基材と、前記シート状基材に所定パターンにて適宜装着された発熱金属細線と、一端部が前記シート状基材に固着された接続部にて前記発熱金属細線に接続されている塩化ビニル樹脂被覆された引き出し線とを具え、前記引き出し線が予め冷却された開口面を有する箱状の治具に熱熔融性接着剤(ホットメルト)が注入されて形成された固定部により前記シート状基材に固着されて成る面状発熱体の製造方法であって、前記固定部は、前記引き出し線を前記シート状基材と前記治具の開口面で挟んだ状態で熱熔融性接着剤(ホットメルト)を前記治具内に注入することにより形成することを特徴とする面状発熱体の製造方法。
【請求項3】
箱状の治具は注入口を備えており、この注入口から治具内に熱熔融性接着剤(ホットメルト)を注入するようにした請求項2記載の面状発熱体の製造方法。
【請求項4】
箱状の治具は上面に開口面を有し、この開口面とシート状基材にて引き出し線を挟み、さらに前記シート状基材の上に抑え板を配するとともに前記抑え板と前記引き出し線に設けた小孔よりを備えており、熱熔融性接着剤(ホットメルト)を注入するようにした請求項2記載の面状発熱体の製造方法。
【請求項5】
箱状の治具は開口面の周縁の相対する二辺に略半円弧状の凹部を適数個有するものを用いることを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれか一項に記載の面状発熱体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−272498(P2010−272498A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143724(P2009−143724)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(595042623)たちばな電機株式会社 (10)
【Fターム(参考)】