説明

面発光型発光素子、及び発光モジュール

【課題】窒化物半導体基板やZnO基板を採用する面発光型の窒化物半導体発光素子において、広い面積の活性層に、より均一に駆動電流を注入するための技術を提供する。
【解決手段】本発明による面発光型発光素子は、窒化ガリウム又は酸化亜鉛で形成されたn型基板(11)と、n型基板(11)の裏面を部分的に被覆し、且つ、該裏面にオーミック的に接合されたカソード電極(18)と、n型基板(11)の主面を被覆し、且つ、n型基板(11)のバンドギャップに相当する波長よりも長い波長の光を発生するように構成された、窒化物半導体で形成された活性層(14)と、活性層(14)を被覆するp型窒化物半導体層(15、16)と、p型窒化物半導体層(15、16)の、n型基板(11)の反対側の面の全面を被覆するように形成されたアノード電極(17)を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光型発光素子に関し、特に、窒化物半導体材料により活性層(発光層)が形成されている面発光型発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオードやレーザダイオードのような半導体発光素子の開発における近年の最も重要な成果の一つは、窒化物半導体の採用によって短波長の光、特に、青色の光を発光する技術を確立したことである。窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)のような窒化物半導体は、バンドギャップが広く、且つ、直接遷移型であるため、短波長の光、特に、青色の光を発光するために適している。その一方で、窒化物半導体の形成プロセスの困難性は、技術の進展によって解消されつつある。現在では、窒化物半導体を活性層に採用する発光ダイオード及びレーザダイオードが実用化されている。
【0003】
近年の窒化物半導体発光素子の一つのトピックは、窒化物半導体基板やZnO基板の採用である。格子定数の観点からは適切とはいえないにも関らず、窒化物半導体発光素子は、一般的にはサファイア基板を採用している。これは、窒化物半導体基板の作製がかつては困難であったこと、及び、窒化物半導体発光素子の高温プロセスに耐える材料としてサファイアが適切であったことによる。しかしながら、近年の技術の進展によって窒化物半導体基板、及びZnO基板の作製が可能になり、このため、窒化物半導体基板やZnO基板の上に窒化物半導体層で形成された活性層を備えた発光素子を形成する技術の検討がなされ始めている。格子定数のミスマッチが小さい窒化物半導体基板やZnO基板の使用は、格子欠陥の低減に有効である。
【0004】
例えば、特開平11−191637号公報は、GaN基板の上に窒化物半導体の積層体が形成されている発光素子を開示している。開示された発光素子は、GaN基板と、その上に順次に形成されたn側クラッド層、活性層、p側クラッド層、及びp側コンタクト層とを備えている。GaN基板の裏面にはn電極が接合されている。p側コンタクト層は、そのほぼ全面がNi/Alで形成されたp電極によって被覆され、その上にp電極を部分的に被覆するpパッド電極が形成されている。加えて、特開2001−77423号公報は、AlGaN基板の上に窒化物半導体の積層体が形成されている発光素子を開示している。
【0005】
近年の窒化物半導体発光素子のもう一つのトピックは、面発光型構造の採用である。例えば、面発光型構造の発光ダイオードは、表示用光源、及び、照明用光源として適切である。一方、面発光型構造のレーザダイオードは、レーザーダイオードアレイの形成によって高密度に光源を集積するために有効である。
【0006】
面発光型発光素子では、広い面積の活性層に均一に駆動電流が注入されることが重要である。しかしながら、窒化物半導体基板やZnO基板を採用する面発光型の窒化物半導体発光素子では、p型の窒化物半導体の抵抗率が高いことが、均一に駆動電流を注入する上で問題になる。具体的には、p型の窒化物半導体の抵抗率が高いため、窒化物半導体発光素子では、n型窒化物半導体基板が採用される。また、ZnO基板では、そもそも、p型基板を得ることができない。このため、窒化物半導体基板やZnO基板を採用する発光素子では、p型の窒化物半導体層(例えば、クラッド層やコンタクト層)がn型基板の上方に設けられ、そのp型の窒化物半導体層の上にアノード電極が形成される。面発光型発光素子では、光の放出効率を高めるために、アノード電極をp型の窒化物半導体層の上面を部分的に被覆するように形成される必要がある。しかしながら、このような構造では、抵抗率が高いp型の窒化物半導体層を横方向に駆動電流を流す必要があり、駆動電流の均一性が悪くなる。
【0007】
このような背景から、窒化物半導体基板やZnO基板を採用する面発光型の窒化物半導体発光素子では、広い面積の活性層により均一に駆動電流を注入するための技術の提供が求められている。
【特許文献1】特開平11−191637号公報
【特許文献2】特開2001−77423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、窒化物半導体基板やZnO基板を採用する面発光型の窒化物半導体発光素子において、広い面積の活性層に、より均一に駆動電流を注入するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下に述べられる手段を採用する。その手段を構成する技術的事項の記述には、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための最良の形態]の記載との対応関係を明らかにするために、[発明を実施するための最良の形態]で使用される番号・符号が付加されている。但し、付加された番号・符号は、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲を限定的に解釈するために用いてはならない。
【0010】
本発明による面発光型発光素子は、窒化ガリウム、窒化インジウムガリウム又は酸化亜鉛で形成されたn型基板(11)と、n型基板(11)の主面を被覆するn型窒化物半導体層(12、13)と、n型窒化物半導体層(12、13)を被覆し、且つ、前記n型基板(11)のバンドギャップに相当する波長よりも長い波長の光を発生するように構成された、窒化物半導体で形成された活性層(14)と、活性層(14)を被覆するp型窒化物半導体層(15、16)と、n型基板の裏面を部分的に被覆するカソード電極(18)と、p型窒化物半導体層(15、16)の、n型基板(11)の反対側の面の全面を被覆するように形成されたアノード電極(17)とを備えている。
【0011】
このような構成の面発光型発光素子は、アノード電極(17)がp型窒化物半導体層(15、16)の全面を被覆しているため、p型窒化物半導体層(15、16)に電位の分布が生じにくい。従って、活性層(14)に注入される駆動電流の均一性を有効に向上させることができる。加えて、窒化ガリウム又は酸化亜鉛で形成されたn型基板(11)は、その厚さが充分に大きく、且つ、抵抗率を充分に低減可能であるから、カソード電極(18)はn型基板(11)の裏面を部分的にしか被覆していないことが駆動電流の均一性に及ぼす影響は小さい。
【0012】
カソード電極(18)は、前記活性層によって発生された前記光を透過するように構成されることが好ましい。例えば、カソード電極(18)は、金及びニッケルの積層電極で形成されることが好適である。その代わりに、カソード電極(18)は、酸化インジウム、酸化スズ、ITO、及び酸化亜鉛からなる群から選択されたいずれかの材料で形成されることも好適である。
【0013】
このような面発光型発光素子(1)は、アノード電極(17)の全面に接合する金属構造体(3)を備える発光モジュールに実装されることが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、窒化物半導体基板やZnO基板を採用する面発光型の窒化物半導体発光素子において、広い面積の活性層に、より均一に駆動電流を注入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の一実施形態における発光モジュール10の構成を示す断面図である。発光モジュール10は、面発光型の発光ダイオード1と、パッケージ2と、金属ヒートシンク3とを備えている。パッケージ2には、カップ2aが形成され、カップ2aの底面に金属ヒートシンク3が挿入されている。発光ダイオード1は、金属ヒートシンク3の上面に接合されている。リード4、5がパッケージ2を貫通するように設けられている。リード4は、ワイヤ6によって発光ダイオード1に電気的に接続され、リード5は、金属ヒートシンク3を介して発光ダイオード1に電気的に接続されている。リード4、5は、発光ダイオード1への駆動電流の供給に使用される。カップ2aの内部は透明な封止樹脂(図示されない)によって封じられ、封止樹脂によって発光ダイオード1とワイヤ6が保護される。
【0016】
図2は、発光ダイオード1の構造を示す断面図であり、図3は、発光ダイオード1の構造を示す平面図である。図2に示されているように、発光ダイオード1は、n型GaN基板11を備えている。n型GaN基板11は、その不純物濃度が高く、これにより、充分な導電性が与えられている。
【0017】
n型GaN基板11の主面には、n型コンタクト層12と、n型クラッド層13と、MQW(multi-quantum well)層14と、p型クラッド層15と、p型コンタクト層16とが順次に形成されている。本実施形態では、発光ダイオード1は、面発光型構造を採用しており、n型GaN基板11の主面の面積は、0.5×0.5mmである。
【0018】
n型コンタクト層12、n型クラッド層13、MQW層14、p型クラッド層15、及びp型コンタクト層16は、いずれも、窒化物半導体で形成される。一実施形態では、n型コンタクト層12がn型のGaNで形成され、n型クラッド層13がn型のAlGaNで形成される。MQW層14は、光を発生する活性層として機能する層である。一実施形態では、MQW層14は、InGaN層とGaN層とが積層された多層量子井戸で形成される。加えて、p型クラッド層15がp型のAlGaNで形成され、p型コンタクト層16がp型のGaNで形成される。
【0019】
更に、金属で形成されたアノード電極17が、p型コンタクト層16にオーミック的に接合されている。発光モジュール10の金属ヒートシンク3は、このアノード電極17に接合されている。
【0020】
加えて、カソード電極18がn型GaN基板11の裏面にオーミック的に接合されている。発光モジュール10のワイヤ6は、このカソード電極18に接合されている。
【0021】
本実施形態の発光ダイオード1の構造的な特徴の一つは、MQW層14で発生した光をn型GaN基板11の裏面から放出するように構成されている点にある。発光ダイオード1の裏面から光を放出するために、図3に示されているように、カソード電極18は、n型GaN基板11の裏面の全面ではなく、該裏面の一部分のみを被覆するように形成されている。本実施形態においては、カソード電極18は、発光ダイオード1の中央に形成された円形のドット部と、そのドット部から発光ダイオード1の隅に向かって延設された突出部分とを備えて構成されている。
【0022】
加えて、MQW層14はn型GaN基板11のバンドギャップに対応する波長よりも長い波長の光を発生するように構成される。これは、MQW層14が発生した光がn型GaN基板11に吸収しにくくするために重要である。MQW層14が発生する光の波長が短すぎると、発生された光がn型GaN基板11で顕著に吸収され、発光ダイオード1の裏面から放出される光の強度が弱くなる。
【0023】
一方、アノード電極17は、p型コンタクト層16の、n型GaN基板11と反対側の面の全面を被覆するように形成されている。n型GaN基板11の裏面から光が放出されるため、アノード電極17には、光を透過することを要求されないことに留意されたい。従って、アノード電極17は、厚い金属電極で形成されることが可能であり、面内方向の抵抗を低下させ、且つ、光の反射率を向上するためには、むしろ、アノード電極17が厚い金属電極で形成されることが好適である。
【0024】
上述された構造の利点は、p型の窒化物半導体層(即ち、p型クラッド層15、及びp型コンタクト層16)の抵抗率が大きくても、MQW層14に均一に駆動電流を注入できる点にある。金属で形成され、従って抵抗率が低いアノード電極17によってp型コンタクト層16の全面が被覆され、更に、金属ヒートシンク3がアノード電極17に接合されているため、p型クラッド層15、及びp型コンタクト層16の電位の面内分布は小さい。これは、駆動電流の面内均一性を有効に向上させる。
【0025】
カソード電極18は、n型GaN基板11の裏面を部分的にしか被覆していないが、このことは、駆動電流の均一性に影響しにくい。なぜなら、n型GaN基板11の面内方向の抵抗は小さいからである。n型GaN基板11は、厚さが充分に大きく、且つ、n型のGaNの抵抗率は充分に小さくすることができるから、n型GaN基板11の面内方向の抵抗は、容易に低減することができる。
【0026】
駆動電流の均一性に優れた上記の構造は、n型GaN基板11の一辺が0.5mm以上であるような大きな面積のLEDを作製するために特に有効である。
【0027】
本実施形態において、n型GaN基板11の代わりに、n型InGa1−xN基板が使用されることも可能である。この場合、MQW層14は、n型InGa1−xN基板のバンドギャップに対応する波長よりも長い波長の光を発生するように構成される。使用されるn型InGa1−xN基板のIn組成xは、0よりも大きく、0.5以下であることが好ましい。
【0028】
加えて、上記の構造は、n型GaN基板11の代わりにn型ZnO基板が使用される場合でも有効である。ZnOはバンドギャップが大きいから、ZnO基板は、窒化物半導体で形成されたMQW層14で発光された光を吸収しにくい。従って、図2に図示されているような基板の裏面から光を放出する構造を採用しても、光の放出効率の低減は小さい。
【0029】
本実施形態において、カソード電極18は、MQW層14によって発生された光の少なくとも一部を透過するように構成されることが好適である。例えば、カソード電極18は、金薄膜及びニッケル薄膜の積層電極で形成されることが好適である。金及びニッケルは青色光に対する透過率が高いため、金薄膜及びニッケル薄膜の厚さを適切に定めることにより、金薄膜及びニッケル薄膜の積層電極で形成された積層電極は透明電極として機能する。また、カソード電極18は、酸化インジウム、酸化スズ、ITO、及び酸化亜鉛のような透明電極で形成されることも好適である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明による一実施形態に係る発光モジュールの構成を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明による一実施形態に係る発光ダイオードの構成を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明による一実施形態に係る発光ダイオードの構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0031】
1:発光ダイオード
2:パッケージ
3:金属ヒートシンク
4、5:リード
6:ワイヤ
10:発光モジュール
11:n型GaN基板
12:n型コンタクト層
13:n型クラッド層
14:MQW層
15:p型クラッド層
16:p型コンタクト層
17:アノード電極
18:カソード電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ガリウム、窒化インジウムガリウム又は酸化亜鉛で形成されたn型基板と、
前記n型基板の主面を被覆するn型窒化物半導体層と、
前記n型窒化物半導体層を被覆し、且つ、前記n型基板のバンドギャップに相当する波長よりも長い波長の光を発生するように構成された、窒化物半導体で形成された活性層と、
前記活性層を被覆するp型窒化物半導体層と、
前記n型基板の裏面を部分的に被覆するカソード電極と、
前記p型窒化物半導体層の、前記n型基板の反対側の面の全面を被覆するように形成されたアノード電極
とを備える
面発光型発光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の面発光型発光素子であって、
前記カソード電極は、前記活性層によって発生された前記光を透過するように構成されている
面発光型発光素子。
【請求項3】
請求項2に記載の面発光型発光素子であって、
前記カソード電極は、金及びニッケルの積層電極で形成された
面発光型発光素子。
【請求項4】
請求項2に記載の面発光型発光素子であって、
前記カソード電極は、酸化インジウム、酸化スズ、ITO、及び酸化亜鉛からなる群から選択されたいずれかの材料で形成された
面発光型発光素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の面発光型発光素子と、
前記アノード電極の全面に接合された金属構造体と、
前記カソード電極に接合されたワイヤ
とを備える
発光モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−200998(P2007−200998A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−15273(P2006−15273)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【出願人】(501045021)株式会社ナノテコ (9)
【出願人】(504133110)国立大学法人 電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】