革巻きステアリングホイール
【課題】縁返した皮革端部を糸で締め付けることで、皮革端部の剥がれを防止した革巻きステアリングホイールを提供すること。
【解決手段】皮革15の縁返し部25の内部には糸26が設けられ、その縁返し部25は糸26によって皮革被覆部30の溝18全周に渡って巻付けられた状態で締め付けられている。すなわち、皮革15の縁返し部25にはその全周に渡って皮革被覆部30に対する締付力が加えられている。このため皮革15、特にその端部29の剥がれ、ずれを防止することができる。また、皮革15の縁返し部25は皮革被覆部30の溝18に嵌め込まれているので、縁返し部25の厚みによってステアリングホイール表面に凹凸が生じることがない。このため、意匠性を向上させることができる。
【解決手段】皮革15の縁返し部25の内部には糸26が設けられ、その縁返し部25は糸26によって皮革被覆部30の溝18全周に渡って巻付けられた状態で締め付けられている。すなわち、皮革15の縁返し部25にはその全周に渡って皮革被覆部30に対する締付力が加えられている。このため皮革15、特にその端部29の剥がれ、ずれを防止することができる。また、皮革15の縁返し部25は皮革被覆部30の溝18に嵌め込まれているので、縁返し部25の厚みによってステアリングホイール表面に凹凸が生じることがない。このため、意匠性を向上させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵用の革巻きステアリングホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
革巻きステアリングホイールは、リング状の芯金の周囲に軟質ウレタンやポリプロピレン等が被覆されてなるホイール部本体の外周面に、天然若しくは人工の皮革が巻き付けられて構成される。従来、革巻きステアリングホイールでは、意匠性の向上と縫合時の端部の補強のために、図12に示されるように皮革70の端部72が裏面側へ縁返され、この状態でホイール部本体に巻きつけられていた。皮革70は、その縁返された端部72が両面テープ71を介してホイール部本体の外周面に貼り付けられるとともに、縁返された端部72に交わる皮革70の両縁に設けられる多数の孔73を利用して糸で縫合することでホイール部本体の外周面に固定されていた(特許文献1)。
【特許文献1】特開平04−059477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、両面テープ71の接着力は温度及び湿度の影響を受けて低下し易く、特にその状態において、端部72にステアリング操作に伴う引張等の外力が加わると皮革70の端部72に剥がれ(めくれ)が生じたり、微妙な位置ずれが生じたりするおそれがあった。そして、このようなことが生じた場合、革巻きステアリングホイールの外観意匠性が低下し、見映えが悪くなることが懸念される。
【0004】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、皮革端部の剥がれを防止することのできる革巻きステアリングホイールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の発明は、ステアリング操作時に把持されるホイール部の被覆層の外周面に皮革が巻きつけられる革巻きステアリングホイールにおいて、前記ホイール部の周方向に沿った皮革の端部が裏面側へ折り返されて形成される縁返し部の内部に糸を挿通状態で配設し、前記糸を前記縁返し部とともに前記被覆層に巻き付け、当該巻付けられた縁返し部において、前記ホイール部の断面周方向における両端付近から引き出された糸で前記ホイール部の周方向に沿って設定された前記皮革の縫合部位が縫合されることをその要旨としている。
【0006】
同構成によれば、縁返し部に設けられた糸によって皮革の端部は、その端部全周に渡って被覆層に締め付けられる。従って、ステアリング操作に伴って、皮革の縁返し部が設けられる端部に頻繁に外力が加えられた場合であれ、端部の剥がれ又は、ずれを防止することができる。これによりステアリングホイールの表面の意匠性を保つことができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の革巻きステアリングホイールにおいて、前記糸の両端は、前記皮革の表面に設けられるとともに、皮革が被覆層に巻きつけられた状態において、前記ホイール部の断面周方向に隣接する前記皮革の前記端部の両側縁部にそれぞれ形成された孔から引き出され、両孔から引き出された前記糸の両端は互い違いに相手側の糸の出ている孔に潜らせた上で前記糸により前記縫合部位が縫合されてなることをその要旨としている。
【0008】
同構成によれば、皮革の表面に設けられた両孔から出された前記糸の両端を互い違いに相手側の糸の出ている孔に潜らせることにより、皮革の両側縁部をホイール部の断面周方向において互いに引き寄せつつ被覆層に締め付けることができる。よって皮革の両側端部をホイール部の断面周方向において互いに引き寄せ合い閉じた状態で被覆層に強固に固定することができ、皮革の端部、特にその両側縁部の剥がれ又は、ずれをいっそう確実に防止できる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の革巻きステアリングホイールにおいて、前記被覆層の前記縁返し部が巻きつけられる箇所に、前記糸を含めた縁返し部の厚み分の深さを有する溝が設けられていることをその要旨としている。
【0010】
同構成によれば、皮革の縁返し部は被覆層に設けられる溝にはめ込まれる。従って、縁返し部及び同縁返し部の内部に設けられる糸の厚みによって、皮革を巻きつけた後のステアリングホイールの表面に凹凸が生じることがない。これにより、より握り心地が良くなり、また皮革の端部のずれが防止できるためステアリングホイールの意匠性も高められる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の革巻きステアリングホイールにおいて、前記縁返し部は接着手段によって縁返し状態が保持され、また前記接着手段によって前記糸は前記縁返し部の内部に固定されていることをその要旨としている。
【0012】
同構成によれば、縁返し部の折り返しは接着剤、テープ等の接着手段によって保持される。また、同じく接着手段によって縁返し部の内部に配設された糸は抜け止め状態に固定される。したがって、巻付け作業時に、折り返し状態を保持する必要がなく、また糸が縁返し部から抜けることを防止できる。これにより、皮革の巻き付け作業が容易となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の革巻きステアリングホイールによれば、縁返した皮革端部を糸で締め付けることにより、皮革端部の剥がれを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図1〜図10に基づいて説明する。
図1に示すように、ステアリングホイール1は、これに連結される図示しないステアリングシャフトを含む操舵機構を介して車両の車輪を転舵させるために操作される。この例では、ステアリングホイール1は、前記ステアリングシャフトに連結されるホーンパッド部3、及びホーンパッド部3の左右の側部に突設された2組のスポーク部4を介して当該ホーンパッド部3を囲むように連結された円環状のホイール部2を備えてなる。このホイール部2は運転者により把持され回転操作される。
【0015】
ステアリングホイール1の内部には、その骨格をなす部分である芯金5が配設されている。芯金5は、図1に破線で示すように、ホーンパッド部3のステアリングシャフト側に設けられるホーンパッド部芯金6と、各スポーク部4に設けられるスポーク部芯金7と、ホイール部2に設けられるホイール部芯金8とが一体に形成されてなる。なお、ホイール部芯金8の断面形状は、図2に示すように、ステアリングホイール1の裏面側に開口するように、U字形状としている。また、ステアリングホイール1におけるホイール部芯金8及びスポーク部芯金7は、その周囲に形成された、被覆層9により覆われている。
【0016】
この被覆層9は、図1に示されるように、ポリプロピレン等の硬質合成樹脂からなる硬質被覆層10と、硬質被覆層10より軟質の発泡ウレタン等の軟質合成樹脂からなる軟質被覆層11とから形成されている。硬質被覆層10及び軟質被覆層11はホイール部芯金8の周囲に交互に2つずつ配設されている。すなわち、ホイール部芯金8の図1中の上部には上部硬質被覆層10Uが、同じく下部には下部硬質被覆層10Dが形成されている。また、ホイール部芯金8の左部には左部軟質被覆層11Lが、同じく右部には右部軟質被覆層11Rが形成されている。また、軟質被覆層11は、各スポーク部芯金7の周囲において、ホイール部2側の一部分を覆うように形成されている。さらに、硬質被覆層10と軟質被覆層11とはこれらの端部において相互に連結されている。そして、軟質被覆層11の外周面には、軟質被覆層11を覆う皮革15が巻き付けられている。
【0017】
皮革15は、図3(a)に示すように、長方形形状の本体部16と、その本体部16の図3(a)の上側の側縁から突出する矩形状の2つの上延設部21a,22aと、同じく本体部16の下側の側縁から突出する矩形状の2つの下延設部21b,22bとから形成されている。本体部16は、ホイール部2における軟質被覆層11を覆うために設けられている。上延設部21a及び下延設部21bは、上側のスポーク部4(正確にはその被覆層)の表裏を被覆するために設けられている。上延設部22a及び下延設部22bは、下側のスポーク部4(正確にはその被覆層)の表裏面を被覆するために設けられている。
【0018】
また、本体部16の右端部29a及び左端部29bは、その裏面に接着剤が塗布された状態で、図3(a)に矢印で示されるように、裏面側に折り返されて裏面に貼り付けられることにより縁返し部25が形成されている。さらに、皮革15の外周部には、縫合用の第1〜第6孔群51〜56が形成されている。詳しくは、第1孔群51は、本体部16の側縁部のうち右端部29aの下側の角部から下延設部21bの右下の角部までの第1側縁部41に沿って等間隔に設けられた6つの孔31からなる。第2孔群52は、同じく右端部29aの上側の角部から上延設部21aの右上の角部までの第2側縁部42に沿って等間隔に設けられた6つの孔32で形成されてなる。第3孔群53は、同じく下延設部21bの左下の角部から、本体部16の中央下側の縁部を通り、下延設部22bの右下の角部までの第3側縁部43に沿って等間隔に設けられた17個の孔33からなる。第4孔群54は、同じく左端部29bの下側の角部から下延設部22bの左下の角部までの第4側縁部44に沿って等間隔に設けられる6つの孔でなる。第5孔群55は、同じく左端部29bの上側の角部から上延設部22aの左上の角部までの第5側縁部45に沿って等間隔に設けられる6つの孔35からなる。第6孔群56は、同じく上延設部21aの左上側の角部から、本体部16の中央上側の縁部を通り、上延設部22aの右上の角部までの第6側縁部46に沿って等間隔に設けられた17個の孔36からなる。
【0019】
なお、第1孔群51を構成する各孔31のうち右端部29a側から2つは孔31a、31c、第2孔群52を構成する孔32のうち右端部29a側から2つは孔32b、32dとして他と区別する。同様に第4孔群54を構成する各孔34のうち左端部29b側から2つは孔34b、34d、第5孔群55を構成する各孔35のうち、左端部29b側から2つは孔35a、35cとして区別する。
【0020】
一方、図3(b)に示されるように、縁返し部25の内部には、その折り返された方向に対し垂直方向に、すなわち本体部16の短辺に沿うようにポリアミド等からなる糸26が設けられている。糸26は、折り返された端部29a,29bを本体部16の裏面に接着する接着剤により縁返し部25の内部に固定されている。そして、右側の糸26の両端部は右端部29aの孔31a、32bに、左側の糸26は左端部29bの孔34b、35aに内側から通されて外部に導出されている。具体的には、右側の糸26において、孔31aから本体部16の表側へ引き出された部分は第1糸部26a、同じく孔32bから引き出された部分は第2糸部26bとされている。同様に、左側の糸26において、孔34bから本体部16の表側へ引き出された部分は第3糸部26c、同じく孔35aから引き出された部分は第4糸部26dとされている。これら第1〜第4糸部26a,26b,26c,26dを使用して皮革15は被覆層9に締付固定される。なお、本体部16の端部29a,29bの内面に接着手段として両面テープを貼着した状態で裏面側に折り返すことにより、縁返し部25を形成してもよい。折り返し状態及び糸26の固定状態は両面テープの粘着力により保持される。
【0021】
ここで、硬質被覆層10の各先端すなわち軟質被覆層11との連結部分には、図4に示すように、先細り状のテーパ部12が形成されている。テーパ部12付近において硬質被覆層10の外周面には、皮革15の縁返し部25が嵌め込まれる環状の溝18が形成されている。溝18には、図1に示すように、スポーク部4の上部のホイール部2に形成される2つの上部溝18Uと、下部に形成される2つの下部溝18Dとがある。そして、ステアリングホイール1において、左右の上部溝18Uから下部溝18Dまでの各部及び左右の各スポーク部4のホイール部2側の一部分は、皮革15が巻きつけられる皮革被覆部30である。
【0022】
以下に前述のように構成した皮革15の巻き付け方法について説明する。ここでは、右側の皮革被覆部30Rに皮革15Rを取り付ける方法について説明する。
図5に示すように、皮革15Rは、その縁返し部25が内側となる方向で、かつ上側の縁返し部25Uを上部溝18Uに,下側の縁返し部25Dを下部溝18Dに一致させた状態で右側の皮革被覆部30Rに巻きつけられる。すなわち糸26は縁返し部25を介して各溝18U,18Dに沿って巻回される。このとき、上延設部21a及び下延設部21bは上側のスポーク部4に、上延設部22a及び下延設部22bは下側のスポーク部4に対応する位置にある。
【0023】
このように皮革15Rを皮革被覆部30Rに巻き付けた状態に配置すると、図6に示すように、第1側縁部41の孔31a及び孔31c並びに第2側縁部42の孔32b及び32dは皮革被覆部30Rの周方向において隣接する。このため、第1糸部26aと第2糸部26bとにより、皮革15Rの第1側縁部41と第2側縁部42(縫合部位)とを縫合できる状態となる。
【0024】
孔31a及び孔32bから引き出された第1糸部26a及び第2糸部26bは、図7に示すように、また、前述したように、縁返し部25の内部に通された一本の糸26の一部分である。縫合前においては、糸26により皮革15に対して何ら締付力は加えられていない。すなわち、皮革15、ひいては糸26は皮革被覆部30に対し緩やかに巻回された状態に保持される。
【0025】
この状態で皮革15の縫合が開始される。まず、図6の丸数字1で示すように、第1側縁部41の孔31aから外側に引き出された第1糸部26aを第2側縁部42の孔32bに外側から内側に向かって潜らせ、縁返し部25Uを貫通させて外側に引き出す。次に、この引き出した第1糸部26aを図6の丸数字2で示すように、第1側縁部41の孔31cに外側から内側に向かって潜らせる。一方、第2糸部26bは、図8の丸数字3に示すように、第1側縁部41の孔31aに外側から内側に向かって潜らせ、縁返し部25Uを貫通させて外側に引き出す。次に、この引き出した第2糸部26bを図8の丸数字4で示すように、第2側縁部42の孔32dに外側から内側に向かって潜らせる。同様にして両第1糸部26a及び第2糸部26bが交差するように、第1側縁部41と第2側縁部42とを縫合していく。これにより、皮革被覆部30Rのホイール部2の上部から上側のスポーク部4に対応する部位は、皮革15Rの端部29a及び上延設部21a,21bにより覆われた状態に保持される。
【0026】
全ての第1孔群51及び第2孔群52について糸26を通すことで第1側縁部41と第2側縁部42とを縫合した後、第1糸部26a及び第2糸部26bを引っ張ると、図9に示すように、皮革15の第1側縁部41と第2側縁部42とが互いに近接して閉じた状態となる。また、このとき糸26に巻回された縁返し部25が縮径することにより、皮革被覆部30Rの溝18Uに締め付けられることで、皮革15の端部29aは皮革被覆部30Rに強固に固定される。すなわち図10に示すように、皮革15の縁返し部25Uには、その全周に渡って糸26によって上部溝18Uに対する締め付け力が加わるため、同縁返し部25U、ひいては皮革15の右端部29aのずれ及び剥がれを防止できる。そして、この第1側縁部41及び第2側縁部42が閉じた状態で、皮革15の裏面側で第1糸部26a及び第2糸部26bの端部をこま結び等の結び方で結び縫合を終了する。
【0027】
図9に示すように、1段目の縫い目は、孔31a及び孔32bから引き出された糸26の第1糸部26a及び第2糸部26bが互いに対をなす相手側の孔31a,32bに皮革15の表側から挿通されることにより、孔31a,32b間を結ぶ2本の直線状の縫い目となる。その他の2段目以降の縫い目は第1孔群51及び第2孔群52の各孔に第1糸部26a及び第2糸部26bが交互に挿通されることにより、逆V字形状の縫い目となる。
【0028】
以上に説明した方法と同様の方法で、皮革15の第4側縁部44と第5側縁部45とを縫合していく。すなわち、図6に示すように、第5側縁部45の孔35aから出された第3糸部26cを第4側縁部44の孔34bに外側から内側に向かって潜らせ、縁返し部25Dを貫通させる。外側に引き出された第3糸部26cを第5側縁部45の孔35cに外側から潜せる。次に、第4側縁部44の孔34bから出された第4糸部26dを第5側縁部45の孔35aに外側から内側に向かって潜らせて、縁返し部25Dを貫通させる。外側に引き出された第4糸部26dを第4側縁部44の孔34dに外側から内側に向かって潜らせる。また、皮革15Rの第3側縁部43と第6側縁部46とを糸26で縫合することにより、皮革被覆部30Rの両スポーク部4間の部分が皮革15Rで覆われた状態に保持される。これで、皮革15Rの縫合が完了する。
【0029】
なお、左側の皮革15Lについても右側の皮革15Rと同様の方法にて、縫合を行うため、その説明を省略する。
以上、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
【0030】
(1)皮革15の縁返し部25の内部には糸26が設けられ、その縁返し部25は糸26によって皮革被覆部30の溝18全周に渡って、巻付けられて締め付けられている。すなわち、皮革15の縁返し部25にはその全周に渡って締付力が加えられていることになる。このため皮革15、特にその端部29の剥がれ、ずれを防止することができる。
【0031】
(2)右端部29aの孔31a及び孔32bからは第1糸部26a及び第2糸部26bが皮革15の表面側へ引き出され、第1糸部26aは孔32bに外側から内側に向かって潜らせ、第2糸部26bは孔31aに外側から内側に向かって潜らせるようにした。したがって、右端部29a付近の第1側縁部41及び第2側縁部42、すなわち第1側縁部41及び第2側縁部42の縁返し部25に対応する部位、第1糸部26a及び第2糸部26bの2本の糸で皮革被覆部30に固定される。このため、皮革15の端部29の剥がれ、ずれをいっそう確実に防止できる。
【0032】
(3)皮革15の縁返し部25は皮革被覆部30の溝18に嵌め込まれている。溝の深さは縁返し部25と同じとした。従って、糸26を含めた縁返し部25の厚みによって、皮革15を巻きつけた後のステアリングホイール1の表面に凹凸が生じることがない。これにより、より握り心地が良く、ステアリングホイール1の意匠性も高められる。
【0033】
(4)皮革15の縁返し部25は、折り返した皮革15の端部29が接着剤等により皮革15の裏面に接着されることにより、その折り返し状態が保持される。これにより、縁返し部25の折り返し状態を手等で保持することなく巻き付け作業を行える。また縁返し部25の内部に配設された糸26は、折り返し状態の縁返し部25とともに接着される。したがって、糸26は縁返し部25から抜けづらくなるので、糸締め及び縫合しやすい。
【0034】
(5)皮革15の巻付けの際は、皮革15の各縁返し部25が皮革被覆部30の溝18に嵌る位置において、皮革15が皮革被覆部30に巻付けられる。すなわち、縁返し部25を溝に嵌めこむことで皮革15の皮革被覆部30に対する巻付け位置が位置決めされる。このため、巻付け位置の精度良く皮革被覆部30に皮革15を巻付けることができる。また、巻付け作業が容易となる。
【0035】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することができる。
・上記実施形態では、端部29に設けられた孔31a,32b,31c,32dから糸26が出されていたが、孔31a,32b,31c,32dから糸を出さなくてもよい。この場合には、例えば図11に示されるように、糸26の第1糸部26a(第3糸部26c)及び第2糸部26b(第4糸部26d)は、縁返し部25の両端、すなわち第1側縁部41及び第2側縁部42側の端部29から外部へ引き出す。そして、第1糸部26a(第3糸部26c)は孔32b(孔34b)に、第2糸部26b(第4糸部26d)は孔31a(孔35a)に外側から内側に向かって潜らせ、以降は上記実施形態と同様に縫合していく。
【0036】
・上記実施形態では、皮革15の縁返し部25の折り返し状態を保持するために接着剤及び両面テープで接着していたが、この接着剤及び両面テープを省略してもよい。この場合には、手などで折り返し状態を保持しつつ皮革15の巻き付け作業を行う。
【0037】
・上記実施形態では、皮革15の縁返し部25と皮革被覆部30とは糸の締付力のみによって固定されていたが、それに加えて皮革15と皮革被覆部30とを両面テープ及び接着剤等で接着してもよい。この場合には、皮革15の裏面に両面テープ又は接着剤を貼着又は塗布して、皮革15を皮革被覆部30に接着した後に糸による縫合を行う。
【0038】
・上記実施形態では、硬質被覆層10のテーパ12付近には、皮革15の縁返し部25が嵌め合わされる溝18が設けられているが、その溝18を省略してもよい。この場合であれ、皮革15の端部29は糸締めによって強固に固定されているので、端部29が剥がれたり、ずれたりすることはない。
【0039】
・上記実施形態では、ステアリングホイール1は芯金5の周囲を被覆層9で覆うことで形成されているが、この芯金5を省略してステアリングホイール1を形成してもよい。
次に、前記実施形態から把握できる技術的思想をその効果と共に記載する。
【0040】
請求項3又は4に記載の革巻きステアリングホイールにおいて、ステアリングホイールは硬質層と軟質層とからなり、硬質層と軟質層との連結部の付近に前記溝が設けられて、前記溝に前記皮革の前記縁返し部を嵌めこんだ状態で軟質層を皮革で被覆した革巻きステアリングホイール。
【0041】
同構成によれば、ステアリングホイールの軟質層の表面は全て皮革によって覆われる。これにより、傷つきやすい軟質層を皮革によって保護できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本実施形態の革巻きステアリングホイールの平面図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】(a)本実施形態の皮革の平面図、(b)図3(a)のC−C線断面図。
【図4】図1のB−B線断面図。
【図5】本実施形態の皮革の巻き付け位置を示す概略図。
【図6】本実施形態の皮革の縫合の工程を示す斜視図。
【図7】縫合前における図6のD−D線断面図。
【図8】本実施形態の皮革の縫合の工程を示す斜視図。
【図9】本実施形態の皮革が縫合された縫い目を示す平面図。
【図10】図9のE−E線断面図。
【図11】他の実施形態の皮革の縫合方法を示す斜視図。
【図12】従来技術における皮革の平面図。
【符号の説明】
【0043】
1…ステアリングホイール、2…ホイール部、9…被覆層、10…硬質被覆層、11…軟質被覆層、15…皮革、18…溝、25…縁返し部、26…糸、29…端部、30…皮革被覆部、31a,31c,32d,32b,34b,34d,35a,35c…孔。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵用の革巻きステアリングホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
革巻きステアリングホイールは、リング状の芯金の周囲に軟質ウレタンやポリプロピレン等が被覆されてなるホイール部本体の外周面に、天然若しくは人工の皮革が巻き付けられて構成される。従来、革巻きステアリングホイールでは、意匠性の向上と縫合時の端部の補強のために、図12に示されるように皮革70の端部72が裏面側へ縁返され、この状態でホイール部本体に巻きつけられていた。皮革70は、その縁返された端部72が両面テープ71を介してホイール部本体の外周面に貼り付けられるとともに、縁返された端部72に交わる皮革70の両縁に設けられる多数の孔73を利用して糸で縫合することでホイール部本体の外周面に固定されていた(特許文献1)。
【特許文献1】特開平04−059477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、両面テープ71の接着力は温度及び湿度の影響を受けて低下し易く、特にその状態において、端部72にステアリング操作に伴う引張等の外力が加わると皮革70の端部72に剥がれ(めくれ)が生じたり、微妙な位置ずれが生じたりするおそれがあった。そして、このようなことが生じた場合、革巻きステアリングホイールの外観意匠性が低下し、見映えが悪くなることが懸念される。
【0004】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、皮革端部の剥がれを防止することのできる革巻きステアリングホイールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の発明は、ステアリング操作時に把持されるホイール部の被覆層の外周面に皮革が巻きつけられる革巻きステアリングホイールにおいて、前記ホイール部の周方向に沿った皮革の端部が裏面側へ折り返されて形成される縁返し部の内部に糸を挿通状態で配設し、前記糸を前記縁返し部とともに前記被覆層に巻き付け、当該巻付けられた縁返し部において、前記ホイール部の断面周方向における両端付近から引き出された糸で前記ホイール部の周方向に沿って設定された前記皮革の縫合部位が縫合されることをその要旨としている。
【0006】
同構成によれば、縁返し部に設けられた糸によって皮革の端部は、その端部全周に渡って被覆層に締め付けられる。従って、ステアリング操作に伴って、皮革の縁返し部が設けられる端部に頻繁に外力が加えられた場合であれ、端部の剥がれ又は、ずれを防止することができる。これによりステアリングホイールの表面の意匠性を保つことができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の革巻きステアリングホイールにおいて、前記糸の両端は、前記皮革の表面に設けられるとともに、皮革が被覆層に巻きつけられた状態において、前記ホイール部の断面周方向に隣接する前記皮革の前記端部の両側縁部にそれぞれ形成された孔から引き出され、両孔から引き出された前記糸の両端は互い違いに相手側の糸の出ている孔に潜らせた上で前記糸により前記縫合部位が縫合されてなることをその要旨としている。
【0008】
同構成によれば、皮革の表面に設けられた両孔から出された前記糸の両端を互い違いに相手側の糸の出ている孔に潜らせることにより、皮革の両側縁部をホイール部の断面周方向において互いに引き寄せつつ被覆層に締め付けることができる。よって皮革の両側端部をホイール部の断面周方向において互いに引き寄せ合い閉じた状態で被覆層に強固に固定することができ、皮革の端部、特にその両側縁部の剥がれ又は、ずれをいっそう確実に防止できる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の革巻きステアリングホイールにおいて、前記被覆層の前記縁返し部が巻きつけられる箇所に、前記糸を含めた縁返し部の厚み分の深さを有する溝が設けられていることをその要旨としている。
【0010】
同構成によれば、皮革の縁返し部は被覆層に設けられる溝にはめ込まれる。従って、縁返し部及び同縁返し部の内部に設けられる糸の厚みによって、皮革を巻きつけた後のステアリングホイールの表面に凹凸が生じることがない。これにより、より握り心地が良くなり、また皮革の端部のずれが防止できるためステアリングホイールの意匠性も高められる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の革巻きステアリングホイールにおいて、前記縁返し部は接着手段によって縁返し状態が保持され、また前記接着手段によって前記糸は前記縁返し部の内部に固定されていることをその要旨としている。
【0012】
同構成によれば、縁返し部の折り返しは接着剤、テープ等の接着手段によって保持される。また、同じく接着手段によって縁返し部の内部に配設された糸は抜け止め状態に固定される。したがって、巻付け作業時に、折り返し状態を保持する必要がなく、また糸が縁返し部から抜けることを防止できる。これにより、皮革の巻き付け作業が容易となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の革巻きステアリングホイールによれば、縁返した皮革端部を糸で締め付けることにより、皮革端部の剥がれを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図1〜図10に基づいて説明する。
図1に示すように、ステアリングホイール1は、これに連結される図示しないステアリングシャフトを含む操舵機構を介して車両の車輪を転舵させるために操作される。この例では、ステアリングホイール1は、前記ステアリングシャフトに連結されるホーンパッド部3、及びホーンパッド部3の左右の側部に突設された2組のスポーク部4を介して当該ホーンパッド部3を囲むように連結された円環状のホイール部2を備えてなる。このホイール部2は運転者により把持され回転操作される。
【0015】
ステアリングホイール1の内部には、その骨格をなす部分である芯金5が配設されている。芯金5は、図1に破線で示すように、ホーンパッド部3のステアリングシャフト側に設けられるホーンパッド部芯金6と、各スポーク部4に設けられるスポーク部芯金7と、ホイール部2に設けられるホイール部芯金8とが一体に形成されてなる。なお、ホイール部芯金8の断面形状は、図2に示すように、ステアリングホイール1の裏面側に開口するように、U字形状としている。また、ステアリングホイール1におけるホイール部芯金8及びスポーク部芯金7は、その周囲に形成された、被覆層9により覆われている。
【0016】
この被覆層9は、図1に示されるように、ポリプロピレン等の硬質合成樹脂からなる硬質被覆層10と、硬質被覆層10より軟質の発泡ウレタン等の軟質合成樹脂からなる軟質被覆層11とから形成されている。硬質被覆層10及び軟質被覆層11はホイール部芯金8の周囲に交互に2つずつ配設されている。すなわち、ホイール部芯金8の図1中の上部には上部硬質被覆層10Uが、同じく下部には下部硬質被覆層10Dが形成されている。また、ホイール部芯金8の左部には左部軟質被覆層11Lが、同じく右部には右部軟質被覆層11Rが形成されている。また、軟質被覆層11は、各スポーク部芯金7の周囲において、ホイール部2側の一部分を覆うように形成されている。さらに、硬質被覆層10と軟質被覆層11とはこれらの端部において相互に連結されている。そして、軟質被覆層11の外周面には、軟質被覆層11を覆う皮革15が巻き付けられている。
【0017】
皮革15は、図3(a)に示すように、長方形形状の本体部16と、その本体部16の図3(a)の上側の側縁から突出する矩形状の2つの上延設部21a,22aと、同じく本体部16の下側の側縁から突出する矩形状の2つの下延設部21b,22bとから形成されている。本体部16は、ホイール部2における軟質被覆層11を覆うために設けられている。上延設部21a及び下延設部21bは、上側のスポーク部4(正確にはその被覆層)の表裏を被覆するために設けられている。上延設部22a及び下延設部22bは、下側のスポーク部4(正確にはその被覆層)の表裏面を被覆するために設けられている。
【0018】
また、本体部16の右端部29a及び左端部29bは、その裏面に接着剤が塗布された状態で、図3(a)に矢印で示されるように、裏面側に折り返されて裏面に貼り付けられることにより縁返し部25が形成されている。さらに、皮革15の外周部には、縫合用の第1〜第6孔群51〜56が形成されている。詳しくは、第1孔群51は、本体部16の側縁部のうち右端部29aの下側の角部から下延設部21bの右下の角部までの第1側縁部41に沿って等間隔に設けられた6つの孔31からなる。第2孔群52は、同じく右端部29aの上側の角部から上延設部21aの右上の角部までの第2側縁部42に沿って等間隔に設けられた6つの孔32で形成されてなる。第3孔群53は、同じく下延設部21bの左下の角部から、本体部16の中央下側の縁部を通り、下延設部22bの右下の角部までの第3側縁部43に沿って等間隔に設けられた17個の孔33からなる。第4孔群54は、同じく左端部29bの下側の角部から下延設部22bの左下の角部までの第4側縁部44に沿って等間隔に設けられる6つの孔でなる。第5孔群55は、同じく左端部29bの上側の角部から上延設部22aの左上の角部までの第5側縁部45に沿って等間隔に設けられる6つの孔35からなる。第6孔群56は、同じく上延設部21aの左上側の角部から、本体部16の中央上側の縁部を通り、上延設部22aの右上の角部までの第6側縁部46に沿って等間隔に設けられた17個の孔36からなる。
【0019】
なお、第1孔群51を構成する各孔31のうち右端部29a側から2つは孔31a、31c、第2孔群52を構成する孔32のうち右端部29a側から2つは孔32b、32dとして他と区別する。同様に第4孔群54を構成する各孔34のうち左端部29b側から2つは孔34b、34d、第5孔群55を構成する各孔35のうち、左端部29b側から2つは孔35a、35cとして区別する。
【0020】
一方、図3(b)に示されるように、縁返し部25の内部には、その折り返された方向に対し垂直方向に、すなわち本体部16の短辺に沿うようにポリアミド等からなる糸26が設けられている。糸26は、折り返された端部29a,29bを本体部16の裏面に接着する接着剤により縁返し部25の内部に固定されている。そして、右側の糸26の両端部は右端部29aの孔31a、32bに、左側の糸26は左端部29bの孔34b、35aに内側から通されて外部に導出されている。具体的には、右側の糸26において、孔31aから本体部16の表側へ引き出された部分は第1糸部26a、同じく孔32bから引き出された部分は第2糸部26bとされている。同様に、左側の糸26において、孔34bから本体部16の表側へ引き出された部分は第3糸部26c、同じく孔35aから引き出された部分は第4糸部26dとされている。これら第1〜第4糸部26a,26b,26c,26dを使用して皮革15は被覆層9に締付固定される。なお、本体部16の端部29a,29bの内面に接着手段として両面テープを貼着した状態で裏面側に折り返すことにより、縁返し部25を形成してもよい。折り返し状態及び糸26の固定状態は両面テープの粘着力により保持される。
【0021】
ここで、硬質被覆層10の各先端すなわち軟質被覆層11との連結部分には、図4に示すように、先細り状のテーパ部12が形成されている。テーパ部12付近において硬質被覆層10の外周面には、皮革15の縁返し部25が嵌め込まれる環状の溝18が形成されている。溝18には、図1に示すように、スポーク部4の上部のホイール部2に形成される2つの上部溝18Uと、下部に形成される2つの下部溝18Dとがある。そして、ステアリングホイール1において、左右の上部溝18Uから下部溝18Dまでの各部及び左右の各スポーク部4のホイール部2側の一部分は、皮革15が巻きつけられる皮革被覆部30である。
【0022】
以下に前述のように構成した皮革15の巻き付け方法について説明する。ここでは、右側の皮革被覆部30Rに皮革15Rを取り付ける方法について説明する。
図5に示すように、皮革15Rは、その縁返し部25が内側となる方向で、かつ上側の縁返し部25Uを上部溝18Uに,下側の縁返し部25Dを下部溝18Dに一致させた状態で右側の皮革被覆部30Rに巻きつけられる。すなわち糸26は縁返し部25を介して各溝18U,18Dに沿って巻回される。このとき、上延設部21a及び下延設部21bは上側のスポーク部4に、上延設部22a及び下延設部22bは下側のスポーク部4に対応する位置にある。
【0023】
このように皮革15Rを皮革被覆部30Rに巻き付けた状態に配置すると、図6に示すように、第1側縁部41の孔31a及び孔31c並びに第2側縁部42の孔32b及び32dは皮革被覆部30Rの周方向において隣接する。このため、第1糸部26aと第2糸部26bとにより、皮革15Rの第1側縁部41と第2側縁部42(縫合部位)とを縫合できる状態となる。
【0024】
孔31a及び孔32bから引き出された第1糸部26a及び第2糸部26bは、図7に示すように、また、前述したように、縁返し部25の内部に通された一本の糸26の一部分である。縫合前においては、糸26により皮革15に対して何ら締付力は加えられていない。すなわち、皮革15、ひいては糸26は皮革被覆部30に対し緩やかに巻回された状態に保持される。
【0025】
この状態で皮革15の縫合が開始される。まず、図6の丸数字1で示すように、第1側縁部41の孔31aから外側に引き出された第1糸部26aを第2側縁部42の孔32bに外側から内側に向かって潜らせ、縁返し部25Uを貫通させて外側に引き出す。次に、この引き出した第1糸部26aを図6の丸数字2で示すように、第1側縁部41の孔31cに外側から内側に向かって潜らせる。一方、第2糸部26bは、図8の丸数字3に示すように、第1側縁部41の孔31aに外側から内側に向かって潜らせ、縁返し部25Uを貫通させて外側に引き出す。次に、この引き出した第2糸部26bを図8の丸数字4で示すように、第2側縁部42の孔32dに外側から内側に向かって潜らせる。同様にして両第1糸部26a及び第2糸部26bが交差するように、第1側縁部41と第2側縁部42とを縫合していく。これにより、皮革被覆部30Rのホイール部2の上部から上側のスポーク部4に対応する部位は、皮革15Rの端部29a及び上延設部21a,21bにより覆われた状態に保持される。
【0026】
全ての第1孔群51及び第2孔群52について糸26を通すことで第1側縁部41と第2側縁部42とを縫合した後、第1糸部26a及び第2糸部26bを引っ張ると、図9に示すように、皮革15の第1側縁部41と第2側縁部42とが互いに近接して閉じた状態となる。また、このとき糸26に巻回された縁返し部25が縮径することにより、皮革被覆部30Rの溝18Uに締め付けられることで、皮革15の端部29aは皮革被覆部30Rに強固に固定される。すなわち図10に示すように、皮革15の縁返し部25Uには、その全周に渡って糸26によって上部溝18Uに対する締め付け力が加わるため、同縁返し部25U、ひいては皮革15の右端部29aのずれ及び剥がれを防止できる。そして、この第1側縁部41及び第2側縁部42が閉じた状態で、皮革15の裏面側で第1糸部26a及び第2糸部26bの端部をこま結び等の結び方で結び縫合を終了する。
【0027】
図9に示すように、1段目の縫い目は、孔31a及び孔32bから引き出された糸26の第1糸部26a及び第2糸部26bが互いに対をなす相手側の孔31a,32bに皮革15の表側から挿通されることにより、孔31a,32b間を結ぶ2本の直線状の縫い目となる。その他の2段目以降の縫い目は第1孔群51及び第2孔群52の各孔に第1糸部26a及び第2糸部26bが交互に挿通されることにより、逆V字形状の縫い目となる。
【0028】
以上に説明した方法と同様の方法で、皮革15の第4側縁部44と第5側縁部45とを縫合していく。すなわち、図6に示すように、第5側縁部45の孔35aから出された第3糸部26cを第4側縁部44の孔34bに外側から内側に向かって潜らせ、縁返し部25Dを貫通させる。外側に引き出された第3糸部26cを第5側縁部45の孔35cに外側から潜せる。次に、第4側縁部44の孔34bから出された第4糸部26dを第5側縁部45の孔35aに外側から内側に向かって潜らせて、縁返し部25Dを貫通させる。外側に引き出された第4糸部26dを第4側縁部44の孔34dに外側から内側に向かって潜らせる。また、皮革15Rの第3側縁部43と第6側縁部46とを糸26で縫合することにより、皮革被覆部30Rの両スポーク部4間の部分が皮革15Rで覆われた状態に保持される。これで、皮革15Rの縫合が完了する。
【0029】
なお、左側の皮革15Lについても右側の皮革15Rと同様の方法にて、縫合を行うため、その説明を省略する。
以上、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
【0030】
(1)皮革15の縁返し部25の内部には糸26が設けられ、その縁返し部25は糸26によって皮革被覆部30の溝18全周に渡って、巻付けられて締め付けられている。すなわち、皮革15の縁返し部25にはその全周に渡って締付力が加えられていることになる。このため皮革15、特にその端部29の剥がれ、ずれを防止することができる。
【0031】
(2)右端部29aの孔31a及び孔32bからは第1糸部26a及び第2糸部26bが皮革15の表面側へ引き出され、第1糸部26aは孔32bに外側から内側に向かって潜らせ、第2糸部26bは孔31aに外側から内側に向かって潜らせるようにした。したがって、右端部29a付近の第1側縁部41及び第2側縁部42、すなわち第1側縁部41及び第2側縁部42の縁返し部25に対応する部位、第1糸部26a及び第2糸部26bの2本の糸で皮革被覆部30に固定される。このため、皮革15の端部29の剥がれ、ずれをいっそう確実に防止できる。
【0032】
(3)皮革15の縁返し部25は皮革被覆部30の溝18に嵌め込まれている。溝の深さは縁返し部25と同じとした。従って、糸26を含めた縁返し部25の厚みによって、皮革15を巻きつけた後のステアリングホイール1の表面に凹凸が生じることがない。これにより、より握り心地が良く、ステアリングホイール1の意匠性も高められる。
【0033】
(4)皮革15の縁返し部25は、折り返した皮革15の端部29が接着剤等により皮革15の裏面に接着されることにより、その折り返し状態が保持される。これにより、縁返し部25の折り返し状態を手等で保持することなく巻き付け作業を行える。また縁返し部25の内部に配設された糸26は、折り返し状態の縁返し部25とともに接着される。したがって、糸26は縁返し部25から抜けづらくなるので、糸締め及び縫合しやすい。
【0034】
(5)皮革15の巻付けの際は、皮革15の各縁返し部25が皮革被覆部30の溝18に嵌る位置において、皮革15が皮革被覆部30に巻付けられる。すなわち、縁返し部25を溝に嵌めこむことで皮革15の皮革被覆部30に対する巻付け位置が位置決めされる。このため、巻付け位置の精度良く皮革被覆部30に皮革15を巻付けることができる。また、巻付け作業が容易となる。
【0035】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することができる。
・上記実施形態では、端部29に設けられた孔31a,32b,31c,32dから糸26が出されていたが、孔31a,32b,31c,32dから糸を出さなくてもよい。この場合には、例えば図11に示されるように、糸26の第1糸部26a(第3糸部26c)及び第2糸部26b(第4糸部26d)は、縁返し部25の両端、すなわち第1側縁部41及び第2側縁部42側の端部29から外部へ引き出す。そして、第1糸部26a(第3糸部26c)は孔32b(孔34b)に、第2糸部26b(第4糸部26d)は孔31a(孔35a)に外側から内側に向かって潜らせ、以降は上記実施形態と同様に縫合していく。
【0036】
・上記実施形態では、皮革15の縁返し部25の折り返し状態を保持するために接着剤及び両面テープで接着していたが、この接着剤及び両面テープを省略してもよい。この場合には、手などで折り返し状態を保持しつつ皮革15の巻き付け作業を行う。
【0037】
・上記実施形態では、皮革15の縁返し部25と皮革被覆部30とは糸の締付力のみによって固定されていたが、それに加えて皮革15と皮革被覆部30とを両面テープ及び接着剤等で接着してもよい。この場合には、皮革15の裏面に両面テープ又は接着剤を貼着又は塗布して、皮革15を皮革被覆部30に接着した後に糸による縫合を行う。
【0038】
・上記実施形態では、硬質被覆層10のテーパ12付近には、皮革15の縁返し部25が嵌め合わされる溝18が設けられているが、その溝18を省略してもよい。この場合であれ、皮革15の端部29は糸締めによって強固に固定されているので、端部29が剥がれたり、ずれたりすることはない。
【0039】
・上記実施形態では、ステアリングホイール1は芯金5の周囲を被覆層9で覆うことで形成されているが、この芯金5を省略してステアリングホイール1を形成してもよい。
次に、前記実施形態から把握できる技術的思想をその効果と共に記載する。
【0040】
請求項3又は4に記載の革巻きステアリングホイールにおいて、ステアリングホイールは硬質層と軟質層とからなり、硬質層と軟質層との連結部の付近に前記溝が設けられて、前記溝に前記皮革の前記縁返し部を嵌めこんだ状態で軟質層を皮革で被覆した革巻きステアリングホイール。
【0041】
同構成によれば、ステアリングホイールの軟質層の表面は全て皮革によって覆われる。これにより、傷つきやすい軟質層を皮革によって保護できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本実施形態の革巻きステアリングホイールの平面図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】(a)本実施形態の皮革の平面図、(b)図3(a)のC−C線断面図。
【図4】図1のB−B線断面図。
【図5】本実施形態の皮革の巻き付け位置を示す概略図。
【図6】本実施形態の皮革の縫合の工程を示す斜視図。
【図7】縫合前における図6のD−D線断面図。
【図8】本実施形態の皮革の縫合の工程を示す斜視図。
【図9】本実施形態の皮革が縫合された縫い目を示す平面図。
【図10】図9のE−E線断面図。
【図11】他の実施形態の皮革の縫合方法を示す斜視図。
【図12】従来技術における皮革の平面図。
【符号の説明】
【0043】
1…ステアリングホイール、2…ホイール部、9…被覆層、10…硬質被覆層、11…軟質被覆層、15…皮革、18…溝、25…縁返し部、26…糸、29…端部、30…皮革被覆部、31a,31c,32d,32b,34b,34d,35a,35c…孔。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリング操作時に把持されるホイール部の被覆層の外周面に皮革が巻きつけられる革巻きステアリングホイールにおいて、
前記ホイール部の周方向に沿った皮革の端部が裏面側へ折り返されて形成される縁返し部の内部に糸を挿通状態で配設し、前記糸を前記縁返し部とともに前記被覆層に巻付け、当該巻付けられた前記縁返し部において、前記ホイール部の断面周方向における両端付近から引き出された糸で前記ホイール部の周方向に沿って設定された前記皮革の縫合部位が縫合されてなる革巻きステアリングホイール。
【請求項2】
請求項1に記載の革巻きステアリングホイールにおいて、
前記糸の両端は、前記皮革の表面に設けられるとともに、皮革が被覆層に巻きつけられた状態において、前記ホイール部の断面周方向に隣接する前記皮革の前記端部の両側縁部にそれぞれ形成された孔から引き出され、両孔から引き出された前記糸の両端は互い違いに相手側の糸の出ている孔に潜らせた上で前記糸により前記縫合部位が縫合されてなる革巻きステアリングホイール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の革巻きステアリングホイールにおいて、
前記被覆層の前記縁返し部が巻きつけられる箇所に、前記糸を含めた縁返し部の厚み分の深さを有する溝が設けられている革巻きステアリングホイール。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の革巻きステアリングホイールにおいて、
前記縁返し部は接着手段によって縁返し状態が保持され、また前記接着手段によって前記糸は前記縁返し部の内部に固定されている革巻きステアリングホイール。
【請求項1】
ステアリング操作時に把持されるホイール部の被覆層の外周面に皮革が巻きつけられる革巻きステアリングホイールにおいて、
前記ホイール部の周方向に沿った皮革の端部が裏面側へ折り返されて形成される縁返し部の内部に糸を挿通状態で配設し、前記糸を前記縁返し部とともに前記被覆層に巻付け、当該巻付けられた前記縁返し部において、前記ホイール部の断面周方向における両端付近から引き出された糸で前記ホイール部の周方向に沿って設定された前記皮革の縫合部位が縫合されてなる革巻きステアリングホイール。
【請求項2】
請求項1に記載の革巻きステアリングホイールにおいて、
前記糸の両端は、前記皮革の表面に設けられるとともに、皮革が被覆層に巻きつけられた状態において、前記ホイール部の断面周方向に隣接する前記皮革の前記端部の両側縁部にそれぞれ形成された孔から引き出され、両孔から引き出された前記糸の両端は互い違いに相手側の糸の出ている孔に潜らせた上で前記糸により前記縫合部位が縫合されてなる革巻きステアリングホイール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の革巻きステアリングホイールにおいて、
前記被覆層の前記縁返し部が巻きつけられる箇所に、前記糸を含めた縁返し部の厚み分の深さを有する溝が設けられている革巻きステアリングホイール。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の革巻きステアリングホイールにおいて、
前記縁返し部は接着手段によって縁返し状態が保持され、また前記接着手段によって前記糸は前記縁返し部の内部に固定されている革巻きステアリングホイール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−70134(P2010−70134A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241646(P2008−241646)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】
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