説明

鞍乗り型車両の車高調整装置

【課題】サスペンションのクッションユニットに油圧ジャッキを備えた鞍乗り型車両の車高調整装置において、多段階かつ容易な車高調整を可能とし、かつ当該装置の簡素化を図る。
【解決手段】サスペンションのクッションユニット16に油圧ジャッキ41を備え、該油圧ジャッキ41内の油圧の増減により前記クッションユニット16長さ(プリロード)を変化させて車高を調整する鞍乗り型車両の車高調整装置において、前記油圧ジャッキ41内の油圧を増減させる第二車高調整機構80が複数の小油圧シリンダ61,62,63を有し、該各小油圧シリンダ61,62,63毎の操作により前記油圧ジャッキ41内の油圧を所定量ずつ増減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動二輪車等の鞍乗り型車両の車高調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サスペンションのクッションユニットに油圧ジャッキを備え、該油圧ジャッキ内の油圧の増減により前記クッションユニット長さを変化させることで、車高を高低の二段階に調整可能とした鞍乗り型車両の車高調整装置が知られている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【特許文献1】特許第2932598号公報
【特許文献2】実用新案登録第2546022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記従来の技術は、オフロードタイプの自動二輪車における一般的に高い車高を低くすることを主目的としたものであるが、近年の自動二輪車においては、その走行状況等に応じてより多段階かつ容易に車高調整を行えるような構成が要望されている。またこれは、電動アクチュエータ等を用いない簡素な構成であることが望ましい。
そこでこの発明は、サスペンションのクッションユニットに油圧ジャッキを備えた鞍乗り型車両の車高調整装置において、多段階かつ容易な車高調整を可能とし、かつ当該装置の簡素化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載した発明は、サスペンション(例えば実施例のスイングアーム式リヤサスペンション10,110)のクッションユニット(例えば実施例のクッションユニット16)に油圧ジャッキ(例えば実施例の油圧ジャッキ41)を備え、該油圧ジャッキ内の油圧の増減により前記クッションユニット長さを変化させて(スプリングのプリロード(初期荷重)を変化させて)車高を調整する鞍乗り型車両(例えば実施例の自動二輪車1)の車高調整装置において、前記油圧ジャッキ内の油圧を増減させる車高調整手段(例えば実施例の第二車高調整機構80)が複数の操作部(例えば実施例の小油圧シリンダ61,62,63)を有し、該各操作部毎の操作により前記油圧ジャッキ内の油圧を所定量ずつ増減させることを特徴とする。
【0005】
請求項2に記載した発明は、前記各操作部の押圧操作により前記油圧ジャッキ内に油圧を供給することを特徴とする。
【0006】
請求項3に記載した発明は、前記各操作部が所定の操作状態に保持可能とされることを特徴とする。
【0007】
請求項4に記載した発明は、前記各操作部が操向ハンドル(例えば実施例の操向ハンドル9)の近傍に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載した発明によれば、各操作部毎の操作による油圧ジャッキ内の油圧の増減量を少なくでき、かつ各操作部をそれぞれ操作しきることで油圧ジャッキ内の油圧を所定量ずつ増減させることができる。これにより、少ない操作力かつ簡単な操作で多段階な車高調整を行うことができる。
また、電動アクチュエータ等を用いずに手動操作式の車高調整手段を用いた簡素な構成とすることができ、当該装置の複雑化及び大型化を抑えて鞍乗り型車両への搭載性を高めることができる。
【0009】
請求項2に記載した発明によれば、油圧ジャッキからの反力を受ける油圧供給操作を、各操作部の押圧操作という単純かつ入力し易い操作で行うことができ、車高調整をより容易に行うことができる。
【0010】
請求項3に記載した発明によれば、油圧ジャッキからの反力を受けたりクッション荷重が増減したりしても、各操作部が所定の操作状態から変化することを防止でき、車高を所定の調整状態に維持できる。
【0011】
請求項4に記載した発明によれば、運転者による各操作部の操作がより容易になり、車高調整を迅速かつ手軽に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の実施例について図面を参照して説明する。なお、以下の説明における前後左右等の向きは、特に記載が無ければ車両における向きと同一とする。また、図中矢印FRは車両前方を、矢印LHは車両左方を、矢印UPは車両上方をそれぞれ示す。
【0013】
図1に示すように、自動二輪車(鞍乗り型車両)1の前輪2を軸支する左右フロントフォーク3の上部は、ステアリングステム4を介して車体フレーム5前端部のヘッドパイプ6に操舵可能に枢支される。ステアリングステム4(又はフロントフォーク3)には操向ハンドル9が取り付けられる。ヘッドパイプ6からは左右メインフレーム7が斜め下後方に延び、その後端部が左右ピボットプレート8の上端部にそれぞれ連なる。車体フレーム5の内側には、自動二輪車1の原動機であるエンジンEが懸架される。左右ピボットプレート8には、後輪11を懸架するスイングアーム式リヤサスペンション10が取り付けられる。
【0014】
図2を併せて参照し、スイングアーム式リヤサスペンション10は、先端側(後端側)で後輪11を軸支するスイングアーム12の基端部(前端部)を、上下に延在する左右ピボットプレート8の上下中間部にこれらを車幅方向(左右方向)に沿って貫通するピボット軸Pを介して上下揺動可能に取り付け、このスイングアーム12の下部に設けたアーム下支持部13と左右ピボットプレート8の下端部間に設けたフレーム下支持部14との間に跨ってリンク機構15を取り付け、これらスイングアーム12及びリンク機構15の作動により、スイングアーム12の基端側に配置したクッションユニット16をストロークさせて路面からの反力を吸収、減衰する。なお、図中符号11aは後輪車軸を示す。
【0015】
スイングアーム12は、前記ピボット軸Pが挿通されるピボットパイプ12aと、該ピボットパイプ12aの両端部から後方へ延びる左右非対称の左右アーム12bと、該左右アーム12bの前側でこれらを互いに連結するクロスメンバ12cとを主になる。クロスメンバ12c及びピボットパイプ12aの間にはクッションユニット16が配置され、クロスメンバ12cの後方には後輪11が配置される。
【0016】
スイングアーム12の上部かつピボットパイプ12a及びクロスメンバ12cの間には、上方に突出するアッパーマウント17が一体形成され、このアッパーマウント17にクッションユニット16の上端部が第一連結軸21を介して連結される。また、スイングアーム12の下部であってアッパーマウント17よりも後位置には、下方に突出する前記アーム下支持部13が一体形成され、このアーム下支持部13にリンク機構15のリンクアーム18の後部上側が第二連結軸22を介して連結される
【0017】
リンク機構15は、側面視で略三角形状をなし各頂部が他部品との連結部とされるリンクアーム18と、前後に延びるリンクロッド19とを有してなる。リンクアーム18の上端部は前記アーム下支持部13に連結され、リンクアーム18の後端部には前記リンクロッド19の後端部が第三連結軸23を介して連結され、リンクロッド19の前端部は前記フレーム下支持部14に第四連結軸24を介して連結され、リンクアーム18の前端部にはクッションユニット16の下端部が第五連結軸25を介して連結される。
【0018】
スイングアーム式リヤサスペンション10において、スイングアーム12がピボット軸Pを中心に後輪車軸11aを上方に移動させるように揺動すると、リンクロッド19を介して車体側に連結されたリンクアーム18がスイングアーム12と共に上方へ移動しつつ第三連結軸23回りに図1,2において右回りに揺動し、自身の前端部及びこれに連結されたクッションユニット16の下端部を上方に押し上げる。この押し上げ量は、スイングアーム12の揺動に伴うクッションユニット16の上端部の上方への移動量よりも大きく、したがってクッションユニット16がその上下端部を接近させるようにストロークする。一方、スイングアーム12が後輪車軸11aを下方に移動させるように揺動すると、クッションユニット16がその上下端部を離間させるようにストロークする。
【0019】
クッションユニット16は、ロッド式のダンパ31と、該ダンパ31の周囲を巻回するように配されたコイルスプリング32と、ダンパ31の上下にそれぞれ配されてコイルスプリング32の端部を支持するアッパ及びロアスプリングシート33,34とを主になる。
【0020】
ダンパ31は、例えば円筒状のシリンダチューブ31aを上側とし、該シリンダチューブ31a内を往復動する不図示のピストンから延びる棒状のピストンロッド31bを下側とした倒立型であり、ピストンロッド31bのストローク時にはシリンダチューブ31a内の作動油の粘性抵抗により減衰力を発生させる。ダンパ31の中心軸線(クッションユニット16のストローク軸線)C1は概ね上下方向に沿うように配置される。
【0021】
ダンパ31(シリンダチューブ31a)の上端部には、前記スイングアーム12のアッパーマウント17に対する上連結部35が設けられ、ダンパ31(ピストンロッド31b)の下端部には、前記リンク機構15のリンクアーム18の前端部に対する下連結部36が設けられる。
【0022】
コイルスプリング32の上端部を支持するアッパスプリングシート33は、シリンダチューブ31a及び上連結部35に対して油圧ジャッキ41を介して軸方向で相対移動可能に設けられ、コイルスプリング32の下端部を支持するロアスプリングシート34は、ピストンロッド31b及び下連結部36に固定的に設けられる。各スプリングシート33,34間にはコイルスプリング32が所定の初期荷重を有して縮設される。
【0023】
上下連結部35,36はそれぞれクッションユニット16の上下端部であり、後輪11が上下動しスイングアーム12が上下に揺動した際には、上下連結部35,36を互いに近接離反させるようにクッションユニット16がストロークし、路面からの衝撃や振動をコイルスプリング32の伸縮エネルギーに変化させると共にこれをダンパ31の伸縮により減衰させて穏やかに吸収する。
【0024】
ここで、クッションユニット16の上端部がスイングアーム12の上部に取り付けられると共に、下端部がピボット軸Pよりも下位置で左右ピボットプレート8間に連結されることで、クッションユニット16のクッション荷重が車体側のピボット軸Pよりも上方の部位に直接入力されることがない。また、クッションユニット16をピボット軸Pよりも上位置で車体側に取り付ける場合に必要だった車体フレーム5のクロスパイプ等を廃止でき、ピボット軸Pの上方に不図示のバッテリ等の比較的大型の部品を集中的に配置することが可能となる。
【0025】
クッションユニット16の上端部後側には、例えばダンパ31の伸び側の減衰力を調整するためのアジャスター37が斜め上後方に突出するように一体的に設けられると共に、該アジャスター37の突出方向には、作動油や圧縮ガス等を封入する円筒状のサブタンク38が斜め上後方に突出するように一体的に連設される。また、クッションユニット16の下端部には、例えばダンパ31の縮み側の減衰力を調整するためのアジャスター39が一体的に設けられる。
【0026】
図3に示すように、油圧ジャッキ41は、シリンダチューブ31aの上部外周にこれと同軸に設けられる円筒状のもので、シリンダチューブ31aに固定されるジャッキインナ42と、該ジャッキインナ42の外周側に軸方向で移動可能に設けられるジャッキアウタ43とを主になる。ジャッキアウタ43及びジャッキインナ42の間には環状の油室44が形成され、該油室44に対して油圧(作動油)を供給する、又は油室44から油圧を排出することで、ジャッキアウタ43及びこれに一体形成されたアッパスプリングシート33とジャッキインナ42及びシリンダチューブ31aとが互いに軸方向で相対移動する。
【0027】
アッパスプリングシート33は車体後部の重量を受けるコイルスプリング32の上端を支持することから、前記相対移動時にクッション荷重が一定であればアッパスプリングシート33及びジャッキアウタ43に対してジャッキインナ42及びシリンダチューブ31aが相対移動する。これにより、クッションユニット16がダンパ31をストロークさせつつ上下連結部35,36間を互いに近接離反させるように伸縮し、車体後部の車高を変化させる。
【0028】
ジャッキアウタ43には、後述の油圧回路51との接続ポート45が一体形成される。接続ポート45は軸方向に沿う筒状をなして上方に向けて開口し、その開口側には油圧回路51における油圧ホース52の一端側のホースコネクタCNが螺着、固定される。
【0029】
油圧回路51は、前記油圧ホース52と、該油圧ホース52の他端側から分岐して延びる第一及び第二油圧ホース53,54と、第一油圧ホース53の先端側が接続される比較的大径(大容量)の大油圧シリンダ55と、第二油圧ホース54の先端側から分岐して延びる第一、第二及び第三分岐油圧ホース56,57,58と、該各分岐油圧ホース56,57,58の先端側が接続される比較的小径(小容量)の第一、第二及び第三小油圧シリンダ61,62,63とを有してなる。
【0030】
なお、図中符号J1は油圧ホース52から油圧ホース53,54を分岐させる第一ホースジョイントを、符号J2は第二油圧ホース54から各分岐油圧ホース56,57,58を分岐させる第二ホースジョイントをそれぞれ示す。各油圧ホースの端部には前記ホースコネクタCNがそれぞれ設けられ、該各ホースコネクタCNを介して各油圧ホースの端部が対応する部品に螺着、固定される。
【0031】
大油圧シリンダ55は、有底円筒状のシリンダ本体71及び該シリンダ本体71内に嵌装されるピストン72を有してなり、シリンダ本体71の底部71aとピストン72との間に油室73を形成する。シリンダ本体71の底部71aには、第一油圧ホース53の先端側のホースコネクタCNを螺着、固定するボス部74が同軸に突設される。このホースコネクタCN(及び第一油圧ホース53)内の油路と油室73とは、底部71aに形成された油路71bを介して互いに連通する。油室73の内径は、底部71aの油路71b並びにホースコネクタCN及び第一油圧ホース53内の油路の内径よりも十分に大きい。
【0032】
シリンダ本体71の開口側内周にはブロック体75が嵌合、固定される。ブロック体75にはシリンダ本体71と同軸のナット孔75aが貫通形成され、該ナット孔75aには調整ボルト76の首下が螺着される。調整ボルト76の首下先端はピストン72にその背後から当接する。シリンダ本体71の開口側にはやや大径の有底円筒状の調整ダイヤル77が配設され、該調整ダイヤル77の開口側内周にシリンダ本体71の開口側が挿入される。調整ダイヤル77の底部77aには調整ボルト76の頭部が一体回転可能に固定される。
【0033】
そして、調整ダイヤル77及び調整ボルト76を回転させてピストン72を前進させるべく押圧することで、油室73内の油圧が各油圧ホース等を介して油圧ジャッキ41の油室44内に供給され、クッションユニット16長さが伸長して(コイルスプリング32のプリロード(初期荷重)が増加して)車体後部の車高を増加させる。
一方、調整ダイヤル77及び調整ボルト76を逆転させることで、油圧ジャッキ41からの反力を受けてピストン72が後退し、クッションユニット16長さが短縮して(コイルスプリング32のプリロードが減少して)車体後部の車高を減少させる。
以下、大油圧シリンダ55、調整ボルト76及び調整ダイヤル77を主になる集合体を第一車高調整機構70とする。
【0034】
各小油圧シリンダ61,62,63は互いに同一構成のもので、以下、図中左側の小油圧シリンダ61を参照して説明する。
小油圧シリンダ61は、比較的細身の有底円筒状のシリンダ本体81及び該シリンダ本体81内に嵌装されるピストン82を有してなり、シリンダ本体81の底部81aとピストン82との間に油室83を形成する。シリンダ本体81の底部81aには、分岐油圧ホース56の先端側のホースコネクタCNを螺着、固定するボス部84が同軸に突設される。このホースコネクタCN(及び分岐油圧ホース56)内の油路と油室83とは、底部81aに形成された油路81bを介して互いに連通する。油室83の内径は、底部81aの油路81b並びにホースコネクタCN及び分岐油圧ホース56内の油路の内径よりも大きい。
【0035】
シリンダ本体81の開口側にはやや大径の有底円筒状のキャップ体85が配設され、該キャップ体85の内周にシリンダ本体81の開口側が嵌合、固定される。
ピストン82におけるシリンダ本体81の開口側(底部81aと反対側)にはピストンロッド86が一体形成され、該ピストンロッド86がキャップ体85の底部85aを貫通してその外部に突出し、該ピストンロッド86の先端部にナット状の操作ノブ87がロックナット87aと共に螺着、固定される。
【0036】
ここで、図5を併せて参照し、ピストンロッド86の中間部外周にはガイド溝88が刻設されると共に、キャップ体85の底部85aにはその径方向に沿う係合ピン89が挿通固定される。係合ピン89の先端部はガイド溝88に係合し、もってピストンロッド86及びピストンのストローク量が規定されると共に操作ノブ87の操作パターンが規定される。
【0037】
具体的には、例えば図5(a)に示すように、ガイド溝88は、例えばピストンロッド86の軸方向に対してやや傾斜して延びるストローク量規定部88aと、該ストローク量規定部88aの操作ノブ87側の端部からこれと鈍角を形成する側にピストンロッド86の周方向に沿って延びるストロークロック部88bとを有してなる。なお、図中符号C2はピストンロッド86の中心軸線を示す。
【0038】
そして、操作ノブ87がシリンダ本体81側に押し込まれる前の状態(ピストンロッド86及びピストン82が後退した状態、図3の小油圧シリンダ61参照)では、係合ピン89がガイド溝88(ストローク量規定部88a)のピストン82側の端部まで移動しきった状態にあり、この状態から操作ノブ87をシリンダ本体81側に押し込むことで、ピストンロッド86及びピストン82がストローク量規定部88aに沿ってやや回転しつつ前進し、油室83内の油圧が各油圧ホース等を介して油圧ジャッキ41の油室44内に供給され、クッションユニット16長さが伸長して(コイルスプリング32のプリロード(初期荷重)が増加して)車体後部の車高を増加させる。
【0039】
ここで、各小油圧シリンダ61,62,63毎の押圧操作による油圧ジャッキ41への油圧供給量は、該油圧ジャッキ41の油室44の容量に対して十分に小さく、したがって各小油圧シリンダ61,62,63毎の押圧操作に要する操作力は小さくてすむ。
【0040】
係合ピン89がストローク量規定部88aの操作ノブ87側の端部まで移動しきった状態(ピストン82が前進しきった状態、図3の小油圧シリンダ62,63参照)では、操作ノブ87(及びピストンロッド86)を回転させて係合ピン89をストロークロック部88bに移動させることで、係合ピン89及びガイド溝88の軸方向での相対移動が不能となり、油圧ジャッキ41からの反力を受けてもピストン82(及びピストンロッド86)が後退することがなく、したがって油圧ジャッキ41の油室44内の油圧を逃がすことがなく、前述の如く車体後部の車高を増加させた状態を維持する。
【0041】
一方、係合ピン89をストロークロック部88bに移動させた上記状態から操作ノブ87を逆転させれば、係合ピン89及びガイド溝88の軸方向での相対移動が可能となり、油圧ジャッキ41からの反力を受けてピストン82が後退し、車体後部の車高を減少させる。
以下、各小油圧シリンダ61,62,63、並びに各ピストンロッド86及び操作ノブ87を主になる集合体を第二車高調整機構80とする。
【0042】
第二車高調整機構80は、各操作ノブ87を押し込むことを主とした簡単な操作により、各小油圧シリンダ61,62,63の油室83の容量分だけ油圧ジャッキ41の油室44内の油圧を増減させて車体後部の車高の調整を可能とし、例えば自動二輪車1の走行中であっても比較的容易に車高の調整を可能とする。
【0043】
なお、図5(b)は、上記ガイド溝88の変形例としてのガイド溝88’を示す。ガイド溝88’は、前記ストローク量規定部88aのピストン82側の端部にも該ピストンロッド86の周方向に沿って延びるストロークロック部88bを有する点で異なる。すなわち、係合ピン89がストローク量規定部88aのピストン82側の端部まで移動しきった状態で操作ノブ87を回転させ、係合ピン89をストロークロック部88bに係合させて係合ピン89(シリンダ本体81)及びガイド溝88(ピストン82)の軸方向での相対移動を不能にすれば、後輪荷重の減少時等にピストン82が前進してしまうことを防止できる。
【0044】
また、図5(c)は、上記ガイド溝88の他の変形例としてのガイド溝88”を示す。ガイド溝88”は、前記ストローク量規定部88aの両端部並びに中間部にそれぞれストロークロック部88bを有する点で異なる。すなわち、前述の作用効果に加え、ストローク量規定部88aの中間部でも係合ピン89(シリンダ本体81)及びガイド溝88(ピストン82)の軸方向での相対移動を不能にでき、当該小油圧シリンダの全油圧供給量の一部を油圧ジャッキ41に供給した状態に維持でき、より細やかな車高調整が可能となる。
なお、図5(b),(c)のストローク量規定部88aはピストンロッド86の軸方向に対して平行とした。また、図5の各ストロークロック部88bの向きは操作性の観点で適宜変更可能である。
【0045】
ここで、第一車高調整機構70は、その操作を自動二輪車1の停車時に運転者が降車して行うことを前提としており、かつ各油圧ホース長さも短縮できることから、通常はクッションユニット16又はその近傍の車体に取り付けられる。
これに対し、第二車高調整機構80は、図4に実線で示すように、運転車が把持する操向ハンドル9の近傍であるステアリングステム4のトップブリッジ4aに取り付けられ、その操作を自動二輪車1に乗車した運転者から容易に行うことを可能にしている。
【0046】
第二車高調整機構80は、各小油圧シリンダ61,62,63を並列に並べて一体的に保持し、例えばステアリングステム4のトップブリッジ4aの左上面に沿うように取り付けられる。各小油圧シリンダ61,62,63の操作ノブ87は後方かつ左側(左右外側)に斜めに突出し、これらに対する押圧操作を容易にしている。また、このような配置は、第二車高調整機構80の操作状態を運転者が視認し易いという点でも好ましい。
【0047】
なお、図4(a)に鎖線で示す如く、第二車高調整機構80を車体フレーム5のメインフレーム7の側面に取り付けたり、トップブリッジ4a後方の燃料タンク(又はエアクリーナあるいはこれらを覆うカバー)TAの前端部に取り付けてもよく、さらには図4(b)に鎖線で示す如く、第二車高調整機構80をトップブリッジ4aの下面に取り付けたり、ヘッドパイプ6の側面に取り付けてもよい。
【0048】
以上説明したように、上記実施例における自動二輪車1の車高調整装置は、スイングアーム式リヤサスペンション10のクッションユニット16に油圧ジャッキ41を備え、該油圧ジャッキ41内の油圧の増減により前記クッションユニット16長さを変化させて(コイルスプリング32のプリロード(初期荷重)を変化させて)車高を調整するものにおいて、前記油圧ジャッキ41内の油圧を増減させる第二車高調整機構80が複数の小油圧シリンダ61,62,63を有し、該各小油圧シリンダ61,62,63毎の操作により前記油圧ジャッキ41内の油圧を所定量ずつ増減させるものである。
【0049】
この構成によれば、各小油圧シリンダ61,62,63毎の操作による油圧ジャッキ41内の油圧の増減量を少なくでき、かつ各小油圧シリンダ61,62,63をそれぞれ操作しきることで油圧ジャッキ41内の油圧を所定量ずつ増減させることができる。これにより、少ない操作力かつ簡単な操作で多段階な車高調整を行うことができる。
また、電動アクチュエータ等を用いずに手動操作式の車高調整手段を用いた簡素な構成とすることができ、当該装置の複雑化及び大型化を抑えて鞍乗り型車両への搭載性を高めることができる。
【0050】
また、上記車高調整装置は、前記各小油圧シリンダ61,62,63の押圧操作により前記油圧ジャッキ41内に油圧を供給することで、油圧ジャッキ41からの反力を受ける油圧供給操作を、各小油圧シリンダ61,62,63の押圧操作という単純かつ入力し易い操作で行うことができ、車高調整をより容易に行うことができる。
【0051】
さらに、上記車高調整装置は、前記各小油圧シリンダ61,62,63が所定の操作状態に保持可能とされることで、油圧ジャッキ41からの反力を受けたりクッション荷重が増減したりしても、各小油圧シリンダ61,62,63が所定の操作状態から変化することを防止でき、車高を所定の調整状態に維持できる。
【0052】
しかも、上記車高調整装置は、前記各小油圧シリンダ61,62,63が操向ハンドル9の近傍に配置されることで、運転者による各小油圧シリンダ61,62,63の操作がより容易になり、車高調整を迅速かつ手軽に行うことができる。
【0053】
ここで、図6は、上記スイングアーム式リヤサスペンション10の変形例としてのスイングアーム式リヤサスペンション110を示す。スイングアーム式リヤサスペンション110は、上記実施例のものに対し、左右ピボットプレート8の上端部間(車体フレーム5)にクッションユニット16の上端部を支持するアッパーマウント17を設け、かつクッションユニット16本体に別体のアジャスター37及びサブタンク38を連結ホースを介して接続し、さらにはロアスプリングシート34を油圧ジャッキ41で移動可能とした点を主に異なるもので、同一部分に同一符号を付してその説明は省略する。
【0054】
図6において、前記第二車高調整機構80は左メインフレーム7の後部に取り付けられる。第二車高調整機構80は、例えば各小油圧シリンダ61,62,63を左右方向に沿わせた状態で左メインフレーム7の後部上面(又は下面)に沿うように取り付けられる。各小油圧シリンダ61,62,63の操作ノブ87は左方(左右外側)に突出し、これらに対する押圧操作を容易にしている。また、このような配置は、第二車高調整機構80に対する各油圧ホース長さを短縮できるという点でも好ましい。なお、メインフレーム7の後部側面に各小油圧シリンダ61,62,63を縦にした状態で第二車高調整機構80を取り付けてもよい。
【0055】
なお、この発明は上記実施例に限られるものではなく、例えば、第一車高調整機構70を無くしてもよく、第二車高調整機構80における小油圧シリンダの数や容量を増減させてもよく、かつ各小油圧シリンダの構成を互いに異ならせてもよい。
また、各小油圧シリンダを所定の操作状態に保持する手段として、ピストンロッド86や操作ノブ87の軸方向移動を係止爪や摩擦係合により規制可能な構成としてもよい。また、操作子の傾動や回転により各小油圧シリンダを操作するようにしてもよい。
さらに、上記車高調整装置を自動二輪車1のテレスコピック式フロントサスペンションに適用してもよく、かつフロント及びリヤの両サスペンションに適用してもよい。
そして、上記実施例における構成はこの発明の一例であり、自動二輪車に限らず三輪又は四輪の鞍乗り型車両にも適用できることはもちろん、当該発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】この発明の実施例における自動二輪車の左側面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】上記自動二輪車の車高調整装置の構成説明図である。
【図4】上記車高調整装置の第二車高調整機構の配置の例を示す図であり、(a)はステアリングステムのトップブリッジを面直に見た上面図、(b)は(a)のA矢視図である。
【図5】(a),(b),(c)共、上記第二車高調整機構を所定の操作状態に保持するガイド溝及び係合ピンの例を示すピストンロッドの外周面に沿う展開図である。
【図6】上記自動二輪車のスイングアーム式リヤサスペンションの変形例及び第二車高調整機構の他の配置の例を示す左側面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 自動二輪車(鞍乗り型車両)
9 操向ハンドル
10,110 スイングアーム式リヤサスペンション(サスペンション)
16 クッションユニット
41 油圧ジャッキ
80 第二車高調整機構(車高調整手段)
61,62,63 小油圧シリンダ(操作部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
サスペンションのクッションユニットに油圧ジャッキを備え、該油圧ジャッキ内の油圧の増減により前記クッションユニット長さを変化させて車高を調整する鞍乗り型車両の車高調整装置において、
前記油圧ジャッキ内の油圧を増減させる車高調整手段が複数の操作部を有し、該各操作部毎の操作により前記油圧ジャッキ内の油圧を所定量ずつ増減させることを特徴とする鞍乗り型車両の車高調整装置。
【請求項2】
前記各操作部の押圧操作により前記油圧ジャッキ内に油圧を供給することを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り型車両の車高調整装置。
【請求項3】
前記各操作部が所定の操作状態に保持可能とされることを特徴とする請求項1又は2に記載の鞍乗り型車両の車高調整装置。
【請求項4】
前記各操作部が操向ハンドルの近傍に配置されることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の鞍乗り型車両の車高調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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