説明

音響処理装置及び音響処理方法

【課題】ユーザの好みに応じた良好な音質で離散データを再生することができる音響処理装置及び音響処理方法を提案する。
【解決手段】音響処理部3では、低音域、中音域及び高音域の各周波数帯域毎に離散データを分離し、増幅器5a,5b,5cを介して各周波数帯域毎に生成した複数の帯域別調整信号毎に帯域別補間部6a,6b,6cを設け、各帯域別補間部6a,6b,6cにより帯域別調整信号を個別に補間処理するようにした。これにより、各周波数帯域毎に補間処理に用いる標本化関数を変更できるようになり、当該標本化関数を各周波数帯域毎に変えることによって、補間処理して得られる信号を各周波数帯域毎に細かく調整することができ、かくして当該補間処理により得た信号を合成して得たアナログ信号の周波数特性を必要に応じて変化させることができるので、ユーザ所望の音質からなる高音質な音楽を再生させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響処理装置及び音響処理方法に関し、例えば所定のサンプリング周波数でサンプリングされた時間方向に並ぶ離散データ間を補間して、入力時のサンプリング周波数よりも高周波で離散データを生成あるいはアナログ信号を生成する際に適用して好適なものである。なお、本明細書においては、高周波の離散間隔で信号生成することとアナログ信号を生成することを同一の処理として「アナログ信号の生成」と称して説明を行うものとする。また、関数の値が局所的な領域で0以外の有限の値を有し、それ以外の領域で0となる場合を「有限台」と称して説明を行うものとする。
【背景技術】
【0002】
従来、デジタルデータのような離散データからアナログ信号を生成する際には、シャノンの標本化定理に基づき導出されたシャノンの標本化関数が広く用いられてきた。ここでシャノンの標本化関数は、図11に示すように、t=0の標本位置のみで1になるとともに、他の全ての標本位置で0となり、理論的に−∞から+∞までその振動が無限に続く波形を示す。このため、実際に各種のプロセッサ等によってシャノンの標本化関数を用い離散データ間の補間処理を実行する際には、強制的に有限区間で処理が打ち切られており、その結果、打ち切りによる誤差が発生するという問題があった。
【0003】
また、このようなシャノンの標本化関数を用いた場合には、再生されるアナログ信号が帯域制限されてしまうことから、例えばCD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)に記録された離散データをアナログ信号に変換して再生すると、22.05kHz以上の超音波を再生し得ず、当該超音波の差音により生じる自然な音が再現できないという問題があった。
【0004】
そこで、このような問題点を解決するために、打ち切り誤差がなく、更に高次の帯域成分までも再生可能な、有限の範囲で収束する標本化関数が考え出されている(例えば、特許文献1参照)。この標本化関数では、原点から前後2個先の標本位置で0に収束するため、少ない計算量で信号再生を行うことができ、更に高周波まで帯域を有することが確かめられている。
【特許文献1】国際公開第99/38090号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような標本化関数を用いたオーディオ装置では、難聴者や高齢者等の各種ユーザや、音楽再生環境、音源、曲調等の各種条件に応じて高周波の帯域成分を可変することができず、状況に応じて周波数特性を自由に調整することができない。そして、その一方で、近年、各ユーザの好みや音楽の種類等に応じてユーザ自身が高周波の帯域成分も含め音質を自由に調整し得るテーラーメイドのオーディオ装置の提供が望まれている。
【0006】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、ユーザの好みに応じた良好な音質で離散データを再生することができる音響処理装置及び音響処理方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため本発明の請求項1の音響処理装置は、時間方向に並ぶ複数の離散データを複数の周波数帯域に分離して複数の帯域別信号を生成する帯域分離手段と、各前記帯域別信号毎に補間処理を個別に実行し、各前記周波数帯域毎に前記帯域別信号のサンプリング周波数を上げた補間処理信号を生成する補間処理手段と、各前記周波数帯域毎に生成された複数の前記補間処理信号を合成することにより合成信号を生成する帯域合成手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2の音響処理装置は、各前記周波数帯域毎に前記補間処理の手法を設定する設定手段を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3の音響処理装置は、前記補間処理手段は、有限回微分可能であって有限台の値を有した基本標本化関数と、有限回微分可能であって有限台の値を有し前記基本標本化関数が示す波形と異なる波形を示す制御標本化関数とからなる標本化関数を用いて、前記帯域別信号に対する畳み込み演算と、線形加算とによって、各前記周波数帯域毎に前記補間処理信号を生成する関数処理手段を備え、前記関数処理手段は、ユーザによって任意の数値に設定可能な可変パラメータを前記制御標本化関数に乗算する係数乗算手段を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項4の音響処理装置は、前記帯域別信号及び前記補間処理信号のいずれか一方に音圧パラメータを乗算して、各前記周波数帯域毎に音圧レベルを調整した複数の帯域別調整信号を生成する音圧設定手段を備え、前記補間処理手段は、前記帯域別信号に前記音圧パラメータを乗算するときには前記帯域別調整信号毎に前記補間処理を個別に実行することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項5の音響処理方法は、時間方向に並ぶ複数の離散データを複数の周波数帯域に分離して複数の帯域別信号を生成する帯域分離ステップと、各前記帯域別信号毎に補間処理を個別に実行し、各前記周波数帯域毎に前記帯域別信号のサンプリング周波数を上げた補間処理信号を生成する補間処理ステップと、各前記周波数帯域毎に生成された複数の前記補間処理信号を合成することにより合成信号を生成する帯域合成ステップとを備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項6の音響処理方法は、各前記周波数帯域毎に前記補間処理の手法を設定する設定ステップを、前記帯域分離ステップの前に備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項7の音響処理方法は、前記補間処理ステップは、ユーザにより任意の数値に可変パラメータが設定されるパラメータ設定ステップと、有限回微分可能であって有限台の値を有した基本標本化関数と、前記可変パラメータが乗算され有限回微分可能であって有限台の値を有し前記基本標本化関数が示す波形と異なる波形を示す制御標本化関数とからなる標本化関数を用いて、前記帯域別信号に対する畳み込み演算と、前記線形加算とによって、各前記周波数帯域毎に前記補間処理信号を生成する関数処理ステップとを備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項8の音響処理方法は、前記帯域分離ステップ及び前記補間処理ステップのうちいずれか一方の後に音圧調整ステップを備え、前記音圧調整ステップは、前記帯域分離ステップの後においては前記帯域別信号に音圧パラメータを乗算し、前記補間処理ステップの後においては前記補間処理信号に音圧パラメータを乗算して、前記音圧パラメータによって各前記周波数帯域毎に音圧レベルが調整された複数の帯域別調整信号を生成し、前記補間処理手段は、前記帯域別信号に前記音圧パラメータを乗算するときには前記帯域別調整信号毎に前記補間処理を個別に実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1の音響処理装置及び請求項5の音響処理方法によれば、各周波数帯域毎に補間処理の手法を変更することも可能となり、当該補間処理の手法を各周波数帯域毎に変えることによって、補間処理信号を各周波数帯域毎に細かく調整することができ、かくして当該補間処理信号を畳み込み演算して得た合成信号の周波数特性を必要に応じて変化させることができるので、ユーザ所望の音質からなる高音質な音楽を再生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下図面に基づいて本発明の実施の形態を詳述する。
【0017】
(1)オーディオ装置の全体構成
図1において、1は全体として本発明による音響処理部3を備えたオーディオ装置を示し、このオーディオ装置1は、入力部2によって例えばCDやDVD等の種々の記録媒体を再生し、その結果得られる時間方向に並ぶ複数の離散データを音響処理部3へ順次送出する。因みに、離散データとは、例えば滑らかに変化する連続的な信号を一定の時間間隔で標本化し、その結果得られたサンプリングデータを量子化することにより得られた離散的なデータである。
【0018】
音響処理部3は、例えば低音域、中音域及び高音域の3つの周波数帯域に離散データを分離する帯域分離部4と、これら低音域、中音域及び高音域の3つの周波数帯域毎に音圧レベルを調整する音圧調整部5と、各周波数帯域毎に設定された所定の標本化関数(後述する)を用いて各周波数帯域毎に補間処理を個別に実行する補間処理部6と、ユーザ自身が音圧レベルと標本化関数とを各周波数帯域毎に任意に設定し得る設定部7と、各周波数帯域毎に生成した補間処理信号を合成することにより、合成信号としてのアナログ信号を生成する帯域合成部8とから構成されている。
【0019】
実際上、図2に示すように、音響処理部3は、帯域分離部4がデジタルローパスフィルタ4aとデジタルバンドパスフィルタ4bとデジタルハイパスフィルタ4cとから構成されており、離散データを低音域、中音域及び高音域の周波数帯域にそれぞれ分離し得るようになされている。因みに、この実施の形態の場合、これらデジタルローパスフィルタ4a、デジタルバンドパスフィルタ4b及びデジタルハイパスフィルタ4cは、FIR(Finite duration Impulse Response)フィルタで構成されている場合について述べるが、本発明はこれに限らず、IIR(Infinite Impulse Response)フィルタ等の他の種々のデジタルフィルタにより構成するようにしてもよい。
【0020】
帯域分離部4は、デジタルローパスフィルタ4aによって所定数の離散データを取り込んでその平均化を行うことにより、高音域成分を除去した低音域の周波数帯域からなる帯域別信号を生成し、これを音圧調整部5及びデジタルバンドパスフィルタ4bに送出する。
【0021】
デジタルハイパスフィルタ4cは、離散データ及び新たに入力される離散データを、設定された重み付けの割合で加減算することで、離散データから、設定された低音域成分を除去した高音域の周波数帯域からなる帯域別信号を生成し、これを音圧調整部5及びデジタルバンドパスフィルタ4bに送出する。
【0022】
デジタルバンドパスフィルタ4bは、離散データの値から、対応する低音域及び高音域の帯域別信号の値を減算することにより、低音域成分及び高音域成分を除去した残りの中音域の周波数帯域からなる帯域別信号を生成し、これを音圧調整部5へ送出する。
【0023】
音圧調整部5には、低音域、中音域及び高音域の各周波数帯域に対応して3つの増幅器5a,5b,5cが設けられており、設定部7からの音圧レベル調整命令によって、帯域別信号の音圧レベルを増幅させる増幅値が各増幅器5a,5b,5c毎に設定され得る。
【0024】
これにより、音圧調整部5は、増幅器5aにおいて低音域の周波数帯域からなる帯域別信号にのみ所定の増幅値を乗算して増幅し、他の増幅器5bにおいて中音域の周波数帯域からなる帯域別信号にのみ所定の増幅値を乗算して増幅し、さらに他の増幅器5cにおいて高音域の周波数帯域からなる帯域別信号にのみ所定の増幅値を乗算して増幅し得る。これにより、音圧調整部5は、例えば低音域の周波数帯域が比較的聴取し難いユーザにより、設定部7を介して低音域の帯域別信号の音圧レベルだけを増幅させるように増幅値が設定されると、当該増幅値に応じて音圧レベルが増幅された帯域別調整信号を生成する。
【0025】
このように各増幅器5a,5b,5cは、予め個別に設定された所定の音圧パラメータとしての増幅値に基づいて各帯域別信号を所定の音圧レベルにまで増幅させ、これにより生成された各帯域別調整信号を補間処理部6へそれぞれ送出するようになされている。ここで、補間処理部6には、低音域、中音域及び高音域の各周波数帯域に対応して3つの帯域別補間部6a,6b,6cが設けられており、設定部7からの補間処理選択命令によって、各帯域別調整信号を補間処理する所定の標本化関数が各帯域別補間部6a,6b,6c毎に設定され得る。
【0026】
これにより、帯域別補間部6aは、設定部7により予め設定された標本化関数に従って、低音域の帯域別調整信号にのみ補間処理を実行し、帯域別調整信号を構成する帯域別データ間を補間してサンプリング周波数を擬似的に上げ、その結果得られた補間処理信号を帯域合成部8へ送出する。また、このとき、帯域別補間部6bは、設定部7により他の帯域別補間部6a,6cとは別途設定された標本化関数に従って、中音域の帯域別調整信号にのみ補間処理を実行し、帯域別調整信号を構成する帯域別データ間を補間してサンプリング周波数を擬似的に上げ、その結果得られた補間処理信号を帯域合成部8へ送出する。さらに、このとき、帯域別補間部6cは、同じく設定部7により他の帯域別補間部6a,6bとは別途設定された標本化関数に従って、高音域の帯域別調整信号にのみ補間処理を実行し、帯域別調整信号を構成する帯域別データ間を補間してサンプリング周波数を擬似的に上げ、その結果得られた補間処理信号を帯域合成部8へ送出する。
【0027】
帯域合成部8は、各帯域別補間部6a,6b,6cにおいて生成された複数の補間処理信号を合成することにより全周波数帯域からなる1つのアナログ信号を生成し、これを出力部9へ送出する。このように音響処理部3は、補間処理部6において、各周波数帯域毎に個別に補間処理を実行する構成としたことによって、各周波数帯域毎に異なる標本化関数を自由に設定することができるようになる。これにより音響処理部3は、標本化関数を適宜変更することで、帯域別調整信号毎に帯域別データ間を補間する補間値を調整し、その結果、各周波数帯域毎に調整された補間処理信号を生成でき、かくしてアナログ信号の周波数特性が細かく調整されたユーザ所望の音質からなる音楽を出力部9から再生し得るようになされている。
【0028】
(2)帯域別補間部における補間処理
次に各帯域別補間部6a,6b,6cで実行される補間処理の概略について以下説明する。帯域別補間部6a,6b,6cにおいて用いられる標本化関数sN(t)は基本標本化関数f(t)及び制御標本化関数c0(t)から構成されている。ここで、離散データの標本位置をtとし、例えば当該離散データの標本位置[−2,2]間での基本標本化関数f(t)及び制御標本化関数c0(t)からなる標本化関数s2(t)は、次式、
【0029】
【数1】

【0030】
によって表され、一般的な制御標本化関数をck(t)とし、ck(t)=cr(t−k)+cr(−t−k)と置いたときは、当該離散データの標本位置[−N,N]間で標本化関数sN(t)は次式
【0031】
【数2】

【0032】
によって表される。なお、αkは後述する可変パラメータを示し、ユーザによって設定可能な任意の数値を示すもので、α1=α2=α3…のようにkによって可変しない同一の値でもよい。因みに、N=2のときの標本化関数s2(t)については、説明の便宜上、単に標本化関数sN(t)として以下説明する。この標本化関数sN(t)は、可変パラメータαの数値が反映した補間値を算出できることから、可変パラメータαの数値を変更することにより、各周波数帯域毎に補間処理信号を調整し得るようになされている。基本標本化関数f(t)及び制御標本化関数c0(t)は、図3に示すような波形を示し、可変パラメータαの数値に応じて制御標本化関数c0(t)が示す波形の振幅が増減して可変し得る。
【0033】
基本標本化関数f(t)は、微分可能性に着目した有限台の関数であり、例えば全域において1回だけ微分可能であって、横軸に沿った標本位置tが−1から+1(すなわち、区間[−1,1])にあるときに0以外の有限な値を有し、他の区間は恒等的に0で表される関数である。具体的には基本標本化関数f(t)は、代表的関数形式が2次式であり、全範囲で1回だけ微分可能な凸形状の波形を示し、t=0の標本位置でのみ1になり、t=±1に向けて0に収束してt=±2の標本位置までそのまま0になるという特徴を有する。
【0034】
また、この基本標本化関数f(t)は、有限台のn次インパルス応答関数でよく、標本点間を区分した点で連続なn次の区分多項式関数であれば良い。具体的には、このような基本標本化関数f(t)は、2次の区分多項式関数の場合、次式、
【0035】
【数3】

【0036】
によって表される。そして、この基本標本化関数f(t)を用いて帯域別調整信号を構成する各帯域別データに基づく重ね合わせを行うことにより、帯域別調整信号の帯域別データ間の値を1回だけ微分可能な関数を用いて仮補間することができる。
【0037】
一方、制御標本化関数c0(t)は、微分可能性に着目した有限台の関数であり、例えば全域において1回だけ微分可能であって、横軸に沿った標本位置tが−2から+2(すなわち、区間[−2,2])にあるときに0以外の有限な値を有し、他の区間では恒等的に0で表される関数である。また、制御標本化関数c0(t)は、全範囲で1回だけ微分可能な波形を示し、t=0,±1,±2の各標本位置で0になるという特徴を有する。
【0038】
また、この制御標本化関数c0(t)は、有限台のn次インパルス応答関数でよく、標本点間を区分した点で連続なn次の区分多項式関数であれば良い。ここで、制御標本化関数c0(t)は、上述したように制御標本化関数c0(t)=cr(t)+cr(−t)で表され、このcr(t)は具体的に次式、
【0039】
【数4】

【0040】
によって表される。そして、この制御標本化関数c0(t)を用いて帯域別調整信号の各帯域別データに基づく重ね合わせを行うことにより、帯域別調整信号の帯域別データ間の値を1回だけ微分可能な関数を用いて仮補間することができる。
【0041】
標本化関数sN(t)は、基本標本化関数f(t)と制御標本化関数c0(t)との線形結合で表され、実際の補間演算は基本標本化関数f(t)と離散データ(標本値)との畳み込み演算で算出した仮の補間値(以下、これを基本補間値と呼ぶ)と、制御標本化関数c0(t)と離散データ(標本値)との畳み込み演算で算出した仮の補間値(以下、これを制御補間値と呼ぶ)とを線形加算することにより、帯域別調整信号の帯域別データ間の値を1回だけ微分可能な関数を用いて補間することができる。
【0042】
因みに、この基本標本化関数f(t)と制御標本化関数c0(t)との線形結合では、下記の6つの条件が成立する関数であることを特徴としている。第1としては、S2(0)=1,S2(±1)=S2(±2)=0となること。第2としては、偶関数、すなわちy軸に関して対称となること。第3としては、標本位置区間[−∞,−2]、[2,∞]で恒等的に0であること。第4としては、各区間[n/2,(n+1)/2](−4≦n≦3)においては高々二次の多項式であること。第5としては、全区間ではC1級、すなわち連続的一回微分可能であること。第6としては、標本位置区間[−1/2,1/2]において、次式
【0043】
【数5】

【0044】
となること。
【0045】
これに加えて、このとき制御標本化関数c0(t)には、ユーザによって任意の数値が設定された可変パラメータαが乗算され得るようになされている。これにより制御標本化関数c0(t)は、t=0,±1,±2の標本位置で0としたまま、標本位置−2から+2までの間で当該可変パラメータαの数値に応じてその波形の振幅が変形され得る。その結果、制御標本化関数c0(t)は、離散データ(標本値)との畳み込み演算による算出結果を変更させ得る。このように、可変パラメータαは、数値が変更されることで、標本化関数sN(t)によって算出した補間処理信号の周波数特性を変化させることができ、各周波数帯域毎に高域成分の信号レベルを調整し得るようになされている。
【0046】
従って、本発明では、各周波数帯域毎に、制御標本化関数c0(t)に乗算される可変パラメータαを変化させることによって補間処理信号を調整し、これら各周波数帯域毎に生成された複数の補間処理信号を合成してアナログ信号を生成することにより、高音域が各周波数帯域毎に細かく調整されたユーザ所望の音質からなるアナログ信号を生成し得るようになされている。
【0047】
(3)帯域別補間部の回路構成
(3−1)帯域別補間部における補間処理の概略説明
3つの帯域別補間部6a,6b,6cは、補間処理に用いる標本化関数sN(t)の可変パラメータαが個別に設定されている点と、当該補間処理する帯域別調整信号が異なる点とで相違するものの、その他の点については同一構成を有することから、以下、低音域の帯域別調整信号に対して補間処理する帯域別補間部6aに着目して説明する。
【0048】
図4に示すように、帯域別補間部6aは、帯域別調整信号を構成する所定数(この場合4つ)の帯域別データを順次抽出して保持するデータ抽出部15と、データ抽出部15で抽出保持された所定数の帯域別データを一度に受け取り、これら帯域別データを用いて補間処理を実行する関数処理部14とから構成され、増幅器5aから順次入力される帯域別データ間を所定の時間間隔でデータ補間し得るようになされている。
【0049】
関数処理部14は、帯域別データを基に標本化関数sN(t)のうち基本標本化関数f(t)の項との畳み込み演算を処理する基本項演算部16と、当該帯域別データを基に標本化関数sN(t)のうち制御標本化関数c0(t)の項との畳み込み演算を処理する制御項演算部17と、制御項演算部17の算出結果に可変パラメータαを乗算する係数乗算部18と、基本項演算部16の算出結果と係数乗算部18の算出結果とを線形加算する加算演算部19とから構成されている。
【0050】
この実施の形態の場合、データ抽出部15は、順次入力される帯域別データの中から直前の4つの帯域別データを抽出し、次に新たな帯域別データが入力されるまでこの4つの帯域別データを保持して、これら4つの帯域別データを基本項演算部16及び制御項演算部17へそれぞれ送出する。
【0051】
基本項演算部16は、所定の記憶手段(図示せず)に基本標本化関数f(t)を記憶しており、帯域別データ間の補間位置が指定されると、この補間位置と帯域別データとの間の距離に基づいて基本標本化関数f(t)の値を計算する。この基本項演算部16は、データ抽出部15から送出される4つの帯域別データ毎にそれぞれ基本標本化関数f(t)の値が計算され得る。また、基本項演算部16は、帯域別データ毎に得られた4つの基本標本化関数f(t)の値毎にそれぞれ対応する帯域別データの値を乗算した後、これら4つの帯域別データに対応する畳み込み演算を行い、この畳み込み演算の算出結果を加算演算部19へ送出する。
【0052】
これと同時に制御項演算部17は、所定の記憶手段(図示せず)に制御標本化関数c0(t)を記憶しており、補間位置が指定されると、この補間位置と帯域別データとの間の距離に基づいて制御標本化関数c0(t)の値を計算する。この制御項演算部17は、データ抽出部15から送出される4つの帯域別データ毎にそれぞれ制御標本化関数c0(t)の値が計算され得る。また、制御項演算部17は、帯域別データ毎に得られた4つの制御標本化関数c0(t)の値毎にそれぞれ対応する帯域別データの値を乗算した後、これらを加算することにより4つの帯域別データに対応する畳み込み演算を行い、この畳み込み演算の算出結果を係数乗算部18へ送出する。
【0053】
係数乗算部18は、制御項演算部17から受け取った制御標本化関数c0(t)の畳み込み演算の算出結果に可変パラメータαを乗算し、その結果得られた可変パラメータ乗算結果を加算演算部19へ送出する。加算演算部19は、基本項演算部16から受け取った基本標本化関数f(t)の畳み込み演算の算出結果と、係数乗算部18から受け取った可変パラメータ乗算結果とを線形加算することにより、4つの帯域別データに対応する演算結果を得る。この線形加算によって得られる値は、所定の2つの帯域別データ間の補間位置における補間値となる。因みに、この補間位置は、予め設定された所定の時間間隔、具体的には帯域別データの入力間隔に対応する周期Tの1/Nの周期(=T/N)毎にその値が更新される。
【0054】
(3−2)4つの帯域別データに基づいて補間値を求める具体例
次に、時間的に連続して並ぶ4つの帯域別データに基づいて所定の2つの帯域別データ間の補間値を算出する補間処理について、連続する4つの帯域別データと、補間位置である着目点との位置関係を示す図5を用い、以下説明する。この図5では、標本位置t1、t2、t3、t4のそれぞれに対応して順次入力される帯域別データd1、d2、d3、d4の各値をY(t1)、Y(t2)、Y(t3)、Y(t4)とし、標本位置t2及びt3間の所定位置(すなわち補間位置(t2から距離b))t0に対応した補間値yを求める場合を考える。
【0055】
本実施の形態で用いる標本化関数sN(t)は、t=±2の標本位置で0に収束するため、t=±2までの帯域別データd1、d2、d3、d4を考慮に入れればよい。従って、図5に示す補間値yを求める場合には、t=t1、t2、t3、t4に対応した4つの帯域別データd1、d2、d3、d4のみを考慮すればよいことになり、演算量を大幅に削減することができる。しかも、t=±3以上の各帯域別データ(図示せず)については、本来考慮すべきであるが演算量や精度等を考慮して無視しているというわけではなく、理論的に考慮する必要がないため、打ち切り誤差は発生しない。
【0056】
図6に示すように、データ抽出部15は、3つのシフト回路20a,20b,20cを備えており、連続する帯域別データが入力されると、各シフト回路20a,20b,20c毎に当該帯域別データを例えばCDのサンプリング周期(44.1kHz)でシフトし、各シフト回路20a,20b,20cで直前の帯域別データd1、d2、d3、d4をそれぞれ1つ抽出保持し得る。すなわち、データ抽出部15は、連続する4つの帯域別データd1、d2、d3、d4が入力されると、最新の帯域別データd4をそのまま基本項演算部16の基本項計算回路21a及び制御項演算部17の制御項計算回路22aへそれぞれ送出する。
【0057】
また、データ抽出部15は、連続する4つの帯域別データd1、d2、d3、d4からなる帯域別データ列をシフト回路20aに送出し、当該シフト回路20bによって帯域別データ列をシフトして最新の帯域別データd4から1つ前の帯域別データd3を抽出し、これを基本項演算部16の基本項計算回路21b及び制御項演算部17の制御項計算回路22bへそれぞれ送出する。
【0058】
さらに、データ抽出部15は、残りのシフト回路20b、20cにも帯域別データ列を順次送出してゆき、シフト回路20bで帯域別データ列をさらにシフトさせて最新の帯域別データd4から2つ前の帯域別データd2を基本項計算回路21c及び制御項計算回路22cへそれぞれ送出するとともに、シフト回路20cで帯域別データ列をさらにシフトさせて最新の帯域別データd4から3つ前の帯域別データd1を基本項計算回路21d及び制御項計算回路22dへそれぞれ送出する。
【0059】
ここで図7及び図8は、本実施の形態の基本項演算部16及び制御項演算部17における所定の補間位置t0に対する補間処理の概略を示す図である。補間処理の内容としては、上述したように先ず始めに、基本項演算部16における基本補間値を算出する演算処理(以下、これを単に基本補間値算出処理と呼ぶ)と、制御項演算部17及び係数乗算部18における制御補間値を算出する演算処理(以下、これを単に制御補間値算出処理と呼ぶ)とが実行される。以下、これら図7及び図8を用い、基本補間値算出処理と制御補間値算出処理とについて説明する。
【0060】
(3−2−1)基本補間値算出処理
基本補間値算出処理の内容としては、図7(A)〜(D)に示すように、各標本位置t1、t2、t3、t4毎に、基本標本化関数f(t)のt=0(中心位置)におけるピーク高さを一致させ、このときの補間位置t0におけるそれぞれの基本標本化関数f(t)の値を求めることになる。
【0061】
図7(A)に示す標本位置t1における帯域別データd1に着目すると、補間位置t0と標本位置t1との距離は1+bとなる。従って、標本位置t1に基本標本化関数f(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における基本標本化関数の値はf(1+b)となる。実際には、帯域別データd1の値Y(t1)に一致するように基本標本化関数f(t)の中心位置のピーク高さを合わせるため、上述したf(1+b)をY(t1)倍した値f(1+b)・Y(t1)が求めたい値となる。f(1+b)の計算は基本項演算部16の基本項計算回路21aで行われ、f(1+b)にY(t1)を乗算する計算は基本項演算部16の基本項乗算回路23aで行われる(図6)。
【0062】
同様に、図7(B)に示す標本位置t2における帯域別データd2の値Y(t2)に着目すると、補間位置t0と標本位置t2との距離はbとなる。従って、標本位置t2に基本標本化関数f(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における基本標本化関数の値はf(b)となる。実際には、帯域別データd2の値Y(t2)に一致するように基本標本化関数f(t)の中心位置のピーク高さを合わせるため、上述したf(b)をY(t2)倍した値f(b)・Y(t2)が求めたい値となる。f(b)の計算は基本項演算部16の基本項計算回路21bで行われ、f(b)にY(t2)を乗算する計算は基本項演算部16の基本項乗算回路23bで行われる(図6)。
【0063】
図7(C)に示す標本位置t3における帯域別データd3の値Y(t3)に着目すると、補間位置t0と標本位置t3との距離は1−bとなる。従って、標本位置t3に基本標本化関数f(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における基本標本化関数の値はf(1−b)となる。実際には、帯域別データの値Y(t3)に一致するように基本標本化関数f(t)の中心位置のピーク高さを合わせるため、上述したf(1−b)をY(t3)倍した値f(1−b)・Y(t3)が求めたい値となる。f(1−b)の計算は基本項演算部16の基本項計算回路21cで行われ、f(1−b)にY(t3)を乗算する計算は基本項演算部16の基本項乗算回路23cで行われる(図6)。
【0064】
図7(D)に示す標本位置t4における帯域別データd4の値Y(t4)に着目すると、補間位置t0と標本位置t4との距離は2−bとなる。従って、標本位置t4に基本標本化関数f(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における基本標本化関数の値はf(2−b)となる。実際には、帯域別データd4の値Y(t4)に一致するように基本標本化関数f(2−b)の中心位置のピーク高さを合わせるため、上述したf(2−b)をY(t4)倍した値f(2−b)・Y(t4)が求めたい値となる。f(2−b)の計算は基本項演算部16の基本項計算回路21dで行われ、f(2−b)にY(t4)を乗算する計算は基本項演算部16の基本項乗算回路23dで行われる(図6)。
【0065】
そして、基本項演算部16は、補間位置t0の着目点に対応して得られた4つの値f(1+b)・Y(t1)、f(b)・Y(t2)、f(1−b)・Y(t3)、f(2−b)・Y(t4)を、基本項畳み込み回路24において畳み込み演算し、低音域の周波数帯域において基本補間値yaが計算される。因みに、この実施の形態の場合、補間位置t0の着目点に対応して得られた値f(1+b)・Y(t1)及びf(2−b)・Y(t4)は、図7(A)及び(D)に示すように0となるため、基本補間値yaは、{f(b)・Y(t2)}+{f(1−b)・Y(t3)}となる。
【0066】
(3−2−2)制御補間値算出処理
一方、制御補間値算出処理の内容としては、図8(A)〜(D)に示すように、各標本位置t1、t2、t3、t4毎に、制御標本化関数c0(t)のt=0(中心位置)を一致させて、各制御標本化関数c0(t)に対応した帯域別データd1、d2、d3、d4の値Y(t1)、Y(t2)、Y(t3)、Y(t4)を乗算し、このときの補間位置t0におけるそれぞれの制御標本化関数c0(t)の値を求めることになる。
【0067】
図8(A)に示す標本位置t1における帯域別データd1の値Y(t1)に着目すると、補間位置t0と標本位置t1との距離は1+bとなる。従って、標本位置t1に制御標本化関数c0(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における制御標本化関数の値はc0(1+b)となる。実際には、帯域別データd1の値Y(t1)に対応させて制御標本化関数c0(t)の波形高さを合わせるため、上述したc0(1+b)をY(t1)倍した値c0(1+b)・Y(t1)が求めたい値となる。c0(1+b)の計算は制御項演算部17の制御項計算回路22aで行われ、c0(1+b)にY(t1)を乗算する計算は制御項演算部17の制御項乗算回路25aで行われる(図6)。
【0068】
同様に、図8(B)に示す標本位置t2における帯域別データd2の値Y(t2)に着目すると、補間位置t0と標本位置t2との距離はbとなる。従って、標本位置t2に制御標本化関数c0(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における制御標本化関数の値はc0(b)となる。実際には、帯域別データd2の値Y(t2)に対応させて制御標本化関数c0(t)の波形高さを合わせるため、上述したc0(b)をY(t2)倍した値c0(b)・Y(t2)が求めたい値となる。c0(b)の計算は制御項演算部17の制御項計算回路22bで行われ、c0(b)にY(t2)を乗算する計算は制御項演算部17の制御項乗算回路25bで行われる(図6)。
【0069】
図8(C)に示す標本位置t3における帯域別データd3の値Y(t3)に着目すると、補間位置t0と標本位置t3との距離は1−bとなる。従って、標本位置t3に制御標本化関数c0(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における制御標本化関数の値はc0(1−b)となる。実際には、帯域別データd3の値Y(t3)に対応させて制御標本化関数c0(t)の波形高さを合わせるため、上述したc0(1−b)をY(t3)倍した値c0(1−b)・Y(t3)が求めたい値となる。c0(1−b)の計算は制御項演算部17の制御項計算回路22cで行われ、c0(1−b)にY(t3)を乗算する計算は制御項演算部17の制御項乗算回路25cで行われる(図6)。
【0070】
図8(D)に示す標本位置t4における帯域別データd4の値Y(t4)に着目すると、補間位置t0と標本位置t4との距離は2−bとなる。従って、標本位置t4に制御標本化関数c0(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における制御標本化関数の値はc0(2−b)となる。実際には、帯域別データd4の値Y(t4)に対応させて制御標本化関数c0(2−b)の波形高さを合わせるため、上述したc0(2−b)をY(t4)倍した値c0(2−b)・Y(t4)が求めたい値となる。c0(2−b)の計算は制御項演算部17の制御項計算回路22dで行われ、c0(2−b)にY(t4)を乗算する計算は制御項演算部17の制御項乗算回路25dで行われる(図6)。
【0071】
そして、補間位置t0の着目点に対応して得られた4つの値c0(1+b)・Y(t1)、c0(b)・Y(t2)、c0(1−b)・Y(t3)、c0(2−b)・Y(t4)は、制御項演算部17の制御項畳み込み回路26によって畳み込み演算された後、係数乗算部18において可変パラメータαが乗算され、これにより低音域の周波数帯域における制御補間値ybが計算される。
【0072】
(3−2−3)補間値演算処理
加算演算部19は、基本項演算部16により算出された着目点に対応する基本補間値yaと、制御項演算部17及び係数乗算部18により算出された着目点に対応する制御補間値ybとを線形加算することにより、低音域の周波数帯域における補間位置t0の補間値yを出力し得るようになされている。このようにして、帯域別データd2及びd3間の他の全ての補間位置も同様に補間値が算出されるとともに、帯域別補間部6b,6cにおいても中音域及び高音域の各周波数帯域毎に設定された標本化関数を用いて同様の補間処理手法が実行され得る。
【0073】
(3−3)可変パラメータの数値を変更したときの補間処理結果
かかる構成に加えて、音響処理部3は、設定部7によって係数乗算部18の可変パラメータαの数値が各帯域別補間部6a,6b,6c毎に適宜変更されることにより、各帯域別補間部6a,6b,6c毎に標本化関数sN(t)の値が変更され、各周波数帯域毎に補間値yを調整し得る。その結果、帯域合成部8において生成されるアナログ信号は、各周波数帯域毎に可変パラメータαの数値が変更されることにより周波数特性が調整され得るようになされている。ここでは、可変パラメータαを変更した際に、標本化関数sN(t)がどのように変化するかについて、図3に示した基本標本化関数f(t)が示す波形と、制御標本化関数c0(t)が示す波形とを合成した波形に着目して以下説明する。
【0074】
基本標本化関数f(t)が示す波形と、制御標本化関数c0(t)が示す波形とを合成した標本化関数sN(t)の波形は、図9に示すように、可変パラメータαの数値によって大きく異なるものとなる。この実施の形態の場合、可変パラメータαを−1.5、−0.25、1.5に順次変化させてゆくと、−2≦t≦−1の領域と、1≦t≦2の領域とでは、標本化関数sN(t)の波長の振幅が次第に大きくなり波形の極性が反転することを確認した。一方、−1≦t≦0の領域と、0≦t≦1の領域とでは、標本化関数sN(t)の波長の振幅が次第に小さくなり波形の極性が反転することを確認した。
【0075】
因みに、テスト曲としてCDに記録されたヴァイオリン曲「Zigeunerweisen(ツィゴイナーヴァイゼン)」を23秒間再生して得られた離散データを、低音域、中音域及び高音域の周波数帯域に分離せずにそのまま補間処理した。このとき、可変パラメータαを−0.25、−1.5及び1.5にそれぞれ設定し、各標本化関数sN(t)で補間処理したアナログ信号の周波数特性について比較したところ、図10に示すような結果が得られた。
【0076】
図10に示したように、これら可変パラメータαの数値を変えた各標本化関数sN(t)による補間処理では、可変パラメータαの数値を変化させても、いずれも20kHz以上の高音域で信号レベルが上昇し、従来のシャノンの標本化関数を用いた場合に比べて高音域成分を再生できることが確認できた。このような特性を有する波形は、低音域、中音域及び高音域の周波数帯域に離散データを分離して生成した帯域別データを補間処理したときであっても同様に形成されることから、従来のシャノンの標本化関数を用いた場合に比べて、低音域、中音域及び高音域の各周波数帯域の範囲毎にその範囲内での高音域成分を再生させ得る。
【0077】
また、可変パラメータαを1.5、−1.5又は−0.25に設定したときには、各信号レベルの波形が互いに異なるものとなった。そして、このような特性を有する波形は、低音域、中音域及び高音域の周波数帯域に離散データを分離して生成した帯域別データを補間処理したときであっても同様に形成されることから、可変パラメータαの数値を低音域、中音域及び高音域の各周波数帯域毎に適宜変更することにより、低音域、中音域及び高音域の各周波数帯域の範囲内でそれぞれ個別に信号レベルを調整することができる。
【0078】
このように、音響処理部3は、各周波数帯域毎に標本化関数sN(t)の可変パラメータαが変更されることで、各周波数帯域毎に微細な信号レベルの調整ができることにより、周波数特性の一段と細かな調整をユーザに対して容易に行わせることができる。かくして、本発明では、可変パラメータαを各周波数帯域毎にそれぞれ変化させることによって各補間処理信号を個別に調整し、この調整された複数の補間処理信号を合成してアナログ信号を生成することにより、高音域が各周波数帯域毎に細かく調整されたアナログ信号を生成できる。
【0079】
(4)動作及び効果
以上の構成において、音響処理部3では、低音域、中音域及び高音域の各周波数帯域毎に離散データを分離し、各周波数帯域毎に生成した複数の帯域別調整信号毎に帯域別補間部6a,6b,6cを設け、各帯域別補間部6a,6b,6cにより帯域別調整信号を個別に補間処理するようにした。これにより、音響処理部3では、各周波数帯域毎に補間処理に用いる標本化関数を変更できるようになり、当該標本化関数を各周波数帯域毎に変えることによって、補間処理して得られる補間処理信号を各周波数帯域毎に細かく調整することができ、かくして当該補間処理により得た複数の補間処理信号を合成することで、アナログ信号の周波数特性を必要に応じて細かく変化させ、ユーザ所望の音質からなる高音質な音楽を再生させることができる。
【0080】
このように、音響処理部3では、各周波数帯域毎に補間値が細かく調整された補間処理信号を生成し、これら複数の補間処理信号を合成することによりアナログ信号を生成するようにしたことにより、音楽再生環境、音源、曲調等の各種条件に応じてユーザが周波数帯域毎に標本化関数を適宜変更することで、アナログ信号の周波数特性が調整されたユーザ所望の音質からなる高音質な音楽を再生させることができる。
【0081】
特に、本発明においては、各周波数帯域毎に標本化関数sN(t)の可変パラメータαを個別に変更して補間処理できるようにしたことにより、各周波数帯域毎に補間値の微細な調整ができるようになり、その分だけアナログ信号の周波数特性を一段と細かく調整できる。すなわち、低音域、中音域及び高音域の各周波数帯域に分離せずに全周波数帯域からなる離散データを、単にそのまま標本化関数sN(t)の可変パラメータαを変更して補間処理して周波数特性を調整する場合に比して、本発明では、各周波数帯域毎に補間値の微細な調整ができる分、アナログ信号の周波数特性を一段と細かく調整でき、かくしてユーザ所望の音質からなる高音質な音楽を再生させることができる。
【0082】
また、この実施の形態の場合では、基本項演算部16に基本標本化関数f(t)を記憶しておき、データ抽出部15によって抽出された各帯域別データd1、d2、d3、d4毎に補間位置t0までの距離をtとして基本標本化関数f(t)の値を計算し、帯域別データd1、d2、d3、d4のそれぞれに対応させた基本標本化関数f(t)の値を畳み込み演算することより、補間位置t0での基本補間値yaを計算するようにした。
【0083】
また、これとは別に音響処理部3では、制御項演算部17に制御標本化関数c0(t)を記憶しておき、データ抽出部15によって抽出された各帯域別データd1、d2、d3、d4毎に補間位置t0での距離をtとして制御標本化関数c0(t)の値を計算し、帯域別データd1、d2、d3、d4のそれぞれに対応させた制御標本化関数c0(t)の値を畳み込み演算した後、ユーザによって任意の数値に設定された可変パラメータαを、制御標本化関数c0(t)の畳み込み演算結果に乗算することにより、補間位置t0での制御補間値ybを計算するようにした。
【0084】
そして、この音響処理部3では、このようにして算出した基本補間値yaと制御補間値ybとを線形加算することにより離散データ間の補間値yを計算するようにしたことにより、制御標本化関数c0(t)の値に乗算される可変パラメータαの数値が反映した補間値yを算出できる。
【0085】
従って、音響処理部3では、単に可変パラメータαの数値を変更するだけで、標本化関数sN(t)により補間処理されて得られる補間値yを容易に調整できるので、異なる標本化関数sN(t)毎にそれぞれ対応した回路基板を複数設ける必要もなく、その分構成が簡素化し、コスト低減を図ることができる。
【0086】
また、音響処理部3では、標本化関数sN(t)として全域で1回だけ微分可能な有限台の基本標本化関数f(t)及び制御標本化関数c0(t)を用い、当該制御標本化関数c0(t)に可変パラメータαを乗算しているため、従来のシャノンの標本化関数を用いた場合に比べて離散データ間の補間処理に必要な演算量を大幅に減らすことができ、またシャノンの標本化関数を用いた場合に生じる打ち切り誤差が発生せず、折り返し歪みの発生を防止することができる。
【0087】
この実施の形態の場合では、特に補間位置t0を挟んで前後2つずつの標本位置と同じかそれよりも狭い範囲において標本化関数sN(t)の波形の値を0に収束させることが可能になるため、この標本化関数sN(t)を用いてデータ補間等を行う際に、着目位置の前後2つずつ合計4つの離散データを用いるだけでよくなり、シャノンの標本化関数を用いた場合に比べて処理負担の格段的な軽減が可能になる。
【0088】
また、この実施の形態の場合、標本化関数sN(t)では、基本標本化関数f(t)と、可変パラメータαの数値によって可変する制御標本化関数c0(t)とを別々に記憶し、それぞれ個別に離散データに対して畳み込み演算を行い、制御標本化関数c0(t)と離散データとの畳み込み演算結果に対して可変パラメータαを乗算して、これに基本標本化関数sN(t)と離散データとの畳み込み演算結果を線形加算して出力信号を得るようにしているため、制御標本化関数c0(t)は一つ持てば良く、数式を極力単純化させることができ、制御標本化関数c0(t)の可変制御を容易に行うことができる。
【0089】
さらに、音響処理部3では、各周波数帯域毎に増幅器5a,5b,5cを設け、各増幅器5a,5b,5cにより個別に音圧レベルを増幅させるようにしたことにより、必要に応じてユーザが聴取し難い周波数帯域の音圧レベルのみを増幅させることができ、かくしてユーザ所望の音質からなる高音質な音楽を再生させることができる。
【0090】
(5)他の実施の形態
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、上述した実施の形態においては、補間処理として、標本化関数sN(t)を用いた補間処理を適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、標本化関数を用いた補間処理だけでなく、この他種々の補間処理を適用してもよい。
【0091】
また、ここでは、基本標本化関数f(t)及び制御標本化関数c0(t)からなる標本化関数sN(t)を用い、当該制御標本化関数c0(t)に乗算される可変パラメータαの数値を変更することにより補間処理信号を調整するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、当該標本化関数sN(t)に加えて、シャノンの標本化関数を選択させるようにしたり、予め設定された各種標本化関数を単に選択させるようにして補間処理信号を調整するようにしてよい。
【0092】
また、例えば、標本化関数sN(t)を全域で1回だけ微分可能な有限台の関数としたが、微分可能回数を2回以上に設定してもよい。さらに、上述した実施の形態においては、標本化関数sN(t)を用いて補間処理を行うことにより合成信号としてアナログ信号を生成するようにした場合についてのべたが、本発明はこれに限らず、標本化関数sN(t)を用いて補間処理を行うことにより単にオーバーサンプリングした合成信号を生成し、その後にアナログデジタル変換器でアナログ信号を生成するようにしてもよい。
【0093】
さらに、上述した実施の形態においては、標本化関数sN(t)はt=±2で0に収束するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、t=±3以上で0に収束するようにしてもよい。例えば、t=±3で0に収束するようにした場合には、データ抽出部15によって直前の6つの離散データを抽出し、関数処理部14によってこれら6つの離散データに対して標本化関数sN(t)の値が計算され得る。
【0094】
さらに、上述した実施の形態においては、基本項演算部16に基本標本化関数f(t)を記憶し、これとは別に制御項演算部17に制御標本化関数c0(t)を記憶しておき、それぞれ基本標本化関数f(t)及び制御標本化関数c0(t)毎に帯域別データd1、d2、d3、d4に対する畳み込み演算を行って基本補間値yaと制御補間値ybとを算出した後、基本補間値yaと制御補間値ybとを線形加算して補間値yを算出するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、基本標本化関数f(t)及び制御標本化関数c0(t)を予め線形加算して一つの標本化関数sN(t)として記憶しておき、可変パラメータαを変更した標本化関数sN(t)を用い、帯域別データd1、d2、d3、d4に対する畳み込み演算を行って補間値yを直接算出するようにしてもよい。
【0095】
さらに、上述した実施の形態においては、音圧レベルを増幅させた帯域別調整信号毎に補間処理を実行するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、各周波数帯域毎に音圧レベルを増幅させることなく、帯域分離部で所定の周波数帯域に分離された帯域別信号を補間処理部が直接受け取って、各帯域別信号毎に所定の補間処理を実行するようにしてもよい。
【0096】
さらに、上述した実施の形態においては、音圧レベルを増幅させた後に補間処理を実行するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、補間処理を実行した後に音圧レベルを増幅させるにようにしてもよく、この場合、帯域別調整信号毎に補間処理を個別に実行するとともに、その結果得られた補間処理信号に音圧パラメータを個別に乗算するようにすればよい。
【0097】
さらに、上述した実施の形態においては、音圧パラメータとしての増幅値を乗算してユーザが聴取し難い周波数帯域の音圧レベルを増幅させるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、音圧パラメータとしての減衰値を乗算してユーザが聴取し易い周波数帯域の音圧レベルを減衰させるようにしてもよく、この場合であっても、音圧レベルを減衰していない他の周波数帯域を強調させることができるので、ユーザが本来聴取し難い周波数帯域を聴取させ易くでき、かくてユーザにとって高音質な音楽を再生させることができる。
【0098】
さらに、上述した実施の形態においては、低音域、中音域及び高音域の3つの周波数帯域に離散データを分離するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、低音域及び高音域の2つに離散データを分離したり、或いは、さらに細かく低音域及び中音域間の低中音域等の4つ、5つの複数の周波数帯域に離散データを分離するようにしてもよく、この場合、分離する周波数帯域の数に応じて増幅器や帯域別補間部を設ければよい。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】オーディオ装置の回路構成を示すブロック図である。
【図2】音響処理部の回路構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の帯域別補間部で用いる基本標本化関数の波形と、制御標本化関数の波形との関係を示す概略図である。
【図4】帯域別補間部の回路構成を示すブロック図である。
【図5】4つの帯域別データと着目点との位置関係を示す概略図である。
【図6】帯域別補間部の詳細構成を示すブロック図である。
【図7】本発明による帯域別補間部による基本標本化関数を用いた補間処理を示す概略図である。
【図8】本発明による帯域別補間部による制御標本化関数を用いた補間処理を示す概略図である。
【図9】可変パラメータを変化させたときの標本化関数の波形を示す概略図である。
【図10】可変パラメータを変化させたときの周波数特性を示す概略図である。
【図11】従来におけるシャノンの標本化関数の波形を示す概略図である。
【符号の説明】
【0100】
3 音響処理部(音響処理装置)
4 帯域分離部(帯域分離手段)
5 音圧調整部(音圧調整手段)
6 補間処理部(補間処理手段)
7 設定部(設定手段)
8 帯域合成部(帯域合成手段)
14 関数処理部(関数処理手段)
18 係数乗算部(係数乗算手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間方向に並ぶ複数の離散データを複数の周波数帯域に分離して複数の帯域別信号を生成する帯域分離手段と、
各前記帯域別信号毎に補間処理を個別に実行し、各前記周波数帯域毎に前記帯域別信号のサンプリング周波数を上げた補間処理信号を生成する補間処理手段と、
各前記周波数帯域毎に生成された複数の前記補間処理信号を合成することにより合成信号を生成する帯域合成手段と
を備えることを特徴とする音響処理装置。
【請求項2】
各前記周波数帯域毎に前記補間処理の手法を設定する設定手段を備える
ことを特徴とする請求項1記載の音響処理装置。
【請求項3】
前記補間処理手段は、
有限回微分可能であって有限台の値を有した基本標本化関数と、有限回微分可能であって有限台の値を有し前記基本標本化関数が示す波形と異なる波形を示す制御標本化関数とからなる標本化関数を用いて、前記帯域別信号に対する畳み込み演算と、線形加算とによって、各前記周波数帯域毎に前記補間処理信号を生成する関数処理手段を備え、
前記関数処理手段は、ユーザによって任意の数値に設定可能な可変パラメータを前記制御標本化関数に乗算する係数乗算手段を有する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の音響処理装置。
【請求項4】
前記帯域別信号及び前記補間処理信号のいずれか一方に音圧パラメータを乗算して、各前記周波数帯域毎に音圧レベルを調整した帯域別調整信号を生成する音圧調整手段を備え、
前記補間処理手段は、前記帯域別信号に前記音圧パラメータを乗算するときには前記帯域別調整信号毎に前記補間処理を個別に実行する
ことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項記載の音響処理装置。
【請求項5】
時間方向に並ぶ複数の離散データを複数の周波数帯域に分離して複数の帯域別信号を生成する帯域分離ステップと、
各前記帯域別信号毎に補間処理を個別に実行し、各前記周波数帯域毎に前記帯域別信号のサンプリング周波数を上げた補間処理信号を生成する補間処理ステップと、
各前記周波数帯域毎に生成された複数の前記補間処理信号を合成することにより合成信号を生成する帯域合成ステップと
を備えることを特徴とする音響処理方法。
【請求項6】
各前記周波数帯域毎に前記補間処理の手法を設定する設定ステップを、前記帯域分離ステップの前に備える
ことを特徴とする請求項5記載の音響処理方法。
【請求項7】
前記補間処理ステップは、
ユーザにより任意の数値に可変パラメータが設定されるパラメータ設定ステップと、
有限回微分可能であって有限台の値を有した基本標本化関数と、前記可変パラメータが乗算され有限回微分可能であって有限台の値を有し前記基本標本化関数が示す波形と異なる波形を示す制御標本化関数とからなる標本化関数を用いて、前記帯域別信号に対する畳み込み演算と、前記線形加算とによって、各前記周波数帯域毎に前記補間処理信号を生成する関数処理ステップと
を備えることを特徴とする請求項5又は6記載の音響処理方法。
【請求項8】
前記帯域分離ステップ及び前記補間処理ステップのうちいずれか一方の後に音圧調整ステップを備え、
前記音圧調整ステップは、
前記帯域分離ステップの後においては前記帯域別信号に音圧パラメータを乗算し、
前記補間処理ステップの後においては前記補間処理信号に音圧パラメータを乗算して、
前記音圧パラメータによって各前記周波数帯域毎に音圧レベルが調整された帯域別調整信号を生成し、
前記補間処理手段は、
前記帯域別信号に前記音圧パラメータを乗算するときには前記帯域別調整信号毎に前記補間処理を個別に実行する
ことを特徴とする請求項5〜7のうちいずれか1項記載の音響処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−278175(P2009−278175A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124906(P2008−124906)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】