説明

頭部に支圧版構造を有する太径芯材を利用した杭体変形を許容する斜群杭工法

【目的】
本発明は,太径芯材の利用による撓み補強の効果,頭部支圧版構造を有することによる引張り補強の効果,プレストレスを載荷しないことですべり面変位を移動層内の変形挙動に転換し,地盤と芯材の一体化効果を発現して緩みを生じた斜面全体の安定性向上を図る斜群杭工法に関する。
【解決手段】
頭部に支圧版構造を有する太径芯材を利用した杭体変形を許容する斜群杭工法において,通常使用される芯材の断面をマイクロパイル規模と大きくして頭部構造に支圧版を備え,打設角をすべり面に対する垂線から0°〜45°の範囲で決定することとし,軸力と曲げせん断抵抗力の発現割合を応力−歪み関係と補強材の降伏基準から評価する手法を確立し、プレストレスを載荷しないことで地すべりの活動に伴って芯材が撓み,すべり面での変位挙動を芯材の撓みに起因した移動層内の変形挙動に転換することで,地盤と芯材の一体化効果を設計に考慮した構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,太径芯材を利用することによるたわみ補強の効果,頭部支圧版構造を有することによる引張り補強の効果,さらにプレストレスを載荷しないことですべり面変位を移動層内の変形挙動に転換し,地盤と芯材の一体化効果を発現して緩みを生じた斜面全体の安定性向上を図る斜群杭工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地すべりを生じた斜面の末端部は,一般に本体の地すべり対策工事が完了した後も不安定な斜面状態を呈することが多い。不安定化した斜面は,背後からの土圧や地すべり推力を受け,受動破壊によるせん断帯が重層構造を形成するもの,本体地すべりの移動土塊がトップリングをともなう緩んだ岩盤露頭の急崖を成すもの,急傾斜部から供給された土砂が崖面脚部に被りの厚い崖錐斜面を形成するもの等,多種多様である。
【0003】
また,降雨パターンが変化し,豪雨災害のリスクが増している近年,地すべり末端部におけるこうした不安定要素を残した斜面が,将来,崩壊または浸食されることで,概成したはずの地すべり本体が再び不安定化するリスクが高まっている。
【0004】
しかしながら,こうした地すべり末端部の挙動に対して,将来起こり得る不安定化要素の排除を目的とした対策を計画することは,本体工事費に匹敵する事業量となる場合もあり,重要な保全対象が背後に控える場合を除き,特別に対策工が導入されることは少ない。
【0005】
従来工法をこうした用途に適用する場合,幾つかの課題に直面する。まず,「杭工法」や「アンカー工法」は,大きな抑止力を列状に配置することで一体化した滑動体を停止に導くよう設計されており,安定化の対象が斜面全体に拡散する場合は適用が困難である。また,不安定化を生じる土層は基岩面に達して深く,移動層厚が最大3mを対象とする既存の「補強土工法」は,適用外となる。
【非特許文献1】「新版 地すべり鋼管杭設計要領」,社団法人日本地すべり学会監修、社団法人地すべり対策技術協会発行,2003年6月30日改訂新版第1刷)
【非特許文献2】「地盤工学会基準 グラウンドアンカー設計・施工基準,同解説JGS4101・2000)」,(地盤工学会編集、社団法人地盤工学会発行,平成12年3月30日)
【非特許文献3】「切土補強土工法設計・施工指針」,(日本道路公団監修、財団法人道路厚生会発行,平成16年6月 第5刷)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本体地すべりが活発に活動することで地すべり末端部に生じた,押し出され,孕んだ急勾配の不安定斜面は,一般に内的安定を確保すべき施工面積が広く,かつ地耐力が小さいため,大きな抑止力を局所的に配置することを設計の基本とする杭工やアンカー工では1本当たりの設計荷重を小さくせざるを得ない点から不経済となる。逆に,移動層厚が面的対応に有利性を有する補強土工法の適用を考えた場合は,移動層厚が5〜10mとなって適用の範囲を超え,対応が困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで,本発明の第1は,頭部に支圧版構造を有する太径芯材を利用した杭体変形を許容する斜群杭工法において,太径芯材を利用することによるたわみ補強の効果,頭部支圧版構造を有する斜杭構造を採用することによる引張り補強の効果を,歪み進行に伴う相互の分担割合を図る設計にするものである。
【0008】
本発明の第2は,第1の発明に係る頭部に支圧版構造を有する太径芯材を利用した杭体変形を許容する斜群杭工法において,プレストレスを載荷しないようにするものである。
【0009】
本発明の第3は,第1の発明に係る頭部に支圧版構造を有する太径芯材を利用した杭体変形を許容する斜群杭工法において,設計補強力及び施工性を勘案して,長方千鳥配置,正方千鳥配置から補強効率の優れた配置を選定するようにするものである。
【0010】
本発明の第4は,第1の発明に係る頭部に支圧版構造を有する太径芯材を利用した杭体変形を許容する斜群杭工法において,緩みを生じた斜面に設置する際には独楽型支圧版を用いるようにするものである。
【発明の効果】
【0011】
配置は不安定化した斜面全体の内的安定を確保すべく計画され,かつ芯材を大断面とすることで自然斜面を対象とする補強土工法としては大深度(深度10m程度まで)の地すべりを設計対象とすることを可能にした。また,斜杭構造とすることで,軸力成分の引留め・締付け効果を有効化し,補強力の強化を図った。さらに,軸力と曲げせん断抵抗力の発現割合を,応力−歪み関係と補強材の降伏基準から評価することで,芯材の撓みに伴う軸力,曲げせん断抵抗力の発現形態を考慮した補強力評価を実現した。
【0012】
また,敢えてプレストレスを掛けず,補強効果発現に至るまでの間の芯材および地山の変形を許容する設計とすることで(移動層内芯材長の5%を上限),芯材の変形過程で生じる地山と芯材の一体化効果を発現し,補強材の打設間隔を最大4mまで拡大してコスト縮減を実現した。
【0013】
また,千鳥配置を基本とする長方配置,正方配置を選択可能とし,斜面長/施工延長比に応じて補強効率の優れた配置を選定し,さらなるコスト縮減を実現した。
【0014】
さらに,独楽型支圧版形状を採用することで,地耐力が小さな緩み斜面においても効率的に引張り補強を発現することを可能にした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の適用範囲は,自然斜面,人工斜面の区別を問わず,下記条件を満足する斜面に対して導入が可能となる。
(1) 緩み層厚3m以上,10m以下
(2) 非粘性土斜面
(3) 背後に本体地すべりが存在したとしても,既に完全に活動を停止している。
(4) 杭頭変位を許容(移動層内杭長の5%程度)
【実施例1】
【0016】
本発明の実施例を後述の段落「0031」に示す「表1」および図面によって説明する。当該「表1」において,本発明は多様な形態を有する緩み斜面に対応すべく2タイプの仕様がある。
【0017】
まず,地塊型のすべり変位が卓越する斜面においては,芯材の断面強度を高め,乗り越え,小ブロック化を生じない施工位置に数列のGCPを配置する曲げせん断主体のAタイプが有効である。
【0018】
これに対し,泥濘化,流動化といった状況が顕著で小規模な斜面崩壊が多発する地区においては,引張り主体で地盤の一体化効果を誘導するBタイプを採用することで,斜面全体に太径棒鋼を配置し,緩んだ斜面を締めて安定性を向上することができる。
【0019】
また,部分的に極度に泥濘化が進行した箇所に対しては,増打ちを行うことで斜面状況に臨機応変に対応するものとする。
【0020】
図1は,本発明の適用判定フローである。本発明は,太径芯材を利用することによるたわみ補強の効果,頭部支圧版構造を有することによる引張り補強の効果,さらに地盤と芯材の一体化効果に期待することで,緩みを生じた斜面全体の安定性向上を図る工法である。よって本工法の採用にあたっては,緩みの状態,土質,変動形態,基岩面の深さ(緩み層厚),ブロックの規模,斜面の向き,湧水状況,また背後に地すべり本体ブロックの存在が明らかな場合は,これの活動性についても検討を行い導入の可否,工法仕様について吟味することが肝要となる。
【0021】
また,プレストレスを載荷しない工法であるため,本工法による補強力は地山の緩みが進行するのに伴い徐々に発揮されることとなる。このため,設計に期待する補強力が発揮されるまでには,相応の緩み変位を許容することとなる。よって,保全対象が緩み斜面に隣接する場合等では,本工法の適用を見合わせる判断が必要となる。
【0022】
従来工法(地すべり対策工法であれば杭工,アンカー工,補強土工であれば地山補強土工の代表としてノンフレーム工法等)との使い分けは,緩み層厚が5mを上回り,かつ緩み斜面が小規模に崩壊・変形・浸食を繰り返す場合に,本工法の優位性が発揮され,斜面全体の内的安定を確保する総工費としてコスト縮減効果が高い。
【0023】
図2は本発明の標準構造図「GCP=Geo Coat Piling(ジオコートパイル)」−Aタイプ)である。1は本発明に係る芯材であり,当該芯材として鋼管1′を用いる仕様をAタイプと呼び,直径φ=101.6mm,肉厚t=25mm,定着長L=3m以上のものを用いる。また,芯材1に異形棒鋼1″を用いる仕様の場合は,D51(直径=50.8mm)程度のものを使用する場合をBタイプと呼ぶ。当該芯材の直径は50〜186mmの適当なものを選定する。2は注入孔付きヘッドキャップであり,芯材1に鋼管1′を用いる場合に,鋼管自体をグラウト材gの注入管として使用するため,先端面に設けると共に,これに注入孔21を設けてある。
【0024】
3は支圧版と芯材1となる鋼管1′を縁切りすべく設けた総ネジPC鋼棒ゲビンデスターブであり,当該ゲビンデスターブと芯材1との結合は,鋼管1′とゲビンデスターブの場合は,図2及び図3のようにねじ込み式を可とし,鋼管1′の頭部である地表側端部側に中央ネジ加工されたキャップ9を取り付け,このネジ孔にゲビンデスターブ3をねじ込んでナット6′で固定してある。4はゲビンデスターブ3の長さの先端部位に装着する独楽型支圧版である。
上記のゲビンデスターブ3は,独楽型支圧版4と鋼管1′を縁切りするために設置してあるが,その「縁切り」とは,支圧版4に力が加わった際に地上部から芯材1の周囲のグラウトgが破壊することを防止すべく両者4・1′の間に緩衝域を設けることを意味する。
【0025】
次に,芯材1が異形ボルト1″とゲビンデスターブ3の場合は,カップラー継手12を使用して連結する(図5)。
【0026】
5は地表面Gから独楽型支圧版4に装着する頭部プレート,6はゲビンデスターブ3の先端に装着して頭部プレート5に固着するナット,7はオイルキャップ,8はオイルキャップ内に入れる防錆材である。上記移動層内の杭長L′の先端に連結するゲビンデスターブ3の長さは,当該移動層内の杭長の上部構造L″の長さに少なくとも頭部プレート5の厚さ及びナット6の高さを加えた寸法に設定してある。
タイプAでは,定着長L及び移動層内杭長L′の区間における芯材周囲のクリアランス部はセメントミルクで閉塞され,芯材1とグラウトg,グラウトgと削孔10の壁との付着を実現する。
【0027】
次に,タイプBでは,芯材1が異形棒鋼1″となり,カップラー式継手12を介して連結される。その頭部構造は芯材1となる異形棒鋼1″が独楽型支圧版4に直接連結される。さらに異形ボルトに沿わせて注入パイプ11を設け,その注入パイプ11を利用して,グラウトgは,支圧版4の裏面まで充填実施される。
【0028】
図4は具体的な設計の流れを示す。本発明の設計に当たっては,地盤条件,地下水の状態,周辺構造物などを十分考慮し,十分に安定が保たれ,かつ有害な変形を生じないように設計する必要がある。
【0029】
まず,崩壊形態・すべりの想定を行うにおいては,地盤条件等から崩壊形態やすべり面を想定し,これに応じて補強材の補強効果を考慮して,極限釣り合い法により安定性の検討を行う。斜面の安定計算は,円弧すべり法,直線すべり法,非円弧すべり法,複合すべり法など,想定するすべりに応じた安定計算により行い,斜面安全率を検討する。
【0030】
また,本発明は補強材と地盤の一体化を前提とする。したがって,想定通りに一体化が生じ,期待する補強力が発揮されるよう以下の点に留意する必要がある。まず,粘性土地盤はアーチアクションが生じにくく,地盤と補強材の一体化を期待することが難しい。一体化効果は移動層内杭長L′の下方3/4深度付近で強く発揮されることから,当該深度の移動層地盤が有する粘性度合いを確認するものとする。また,一体化により補強材の変形拘束効果が斜面に働くとき,補強領域内部において斜面が破壊することはない。よって,本発明では中抜けなどの内的安定検討は行なわなくてよい。
【0031】
さらに必要抑止力の算定は,設計断面のすべり面上の釣り合いより求め,計画安全率を満足しなければならない。また設計断面荷重は,必要抑止力に荷重係数を乗じて定める。
【0032】
次に現斜面の安定性,移動層厚,必要抑止力を考慮し,タイプ(A,B)と芯材を選定する。移動層が厚いすべりに対してはAタイプ(曲げせん断主体),そうでないすべりにはBタイプ(引張主体)を検討する。
「表1」は,本発明の特徴及び型式を示す表である。

【0033】
さらに一体化の制御条件として,補強材間隔と支圧版の組合せを検討する。
(1)補強材間隔B,補強材角度θ
Aタイプ(曲げせん断主体)
・補強材間隔B=2.0〜4.0mの範囲とする。
・補強材角度θ=0°〜30°の範囲とする。
Bタイプ(引張主体)
・補強材間隔B=1.0〜3.0mの範囲とする。
・引張補強を発揮させるため,補強材角度θ=30°〜45°を基本とする。
(2)支圧版
Aタイプ(曲げせん断主体)
・独楽(こま)型支圧版の場合,支圧版サイズ1.0mとする。
・独楽型以外の支圧版の場合,支圧版サイズ1.5mとする。
Bタイプ(引張主体)
・支圧版サイ1.0mを基本とする。
(3)配置
・千鳥配置とする。設計補強力および施工性を勘案し,長方配置,正方配置などから効率のすぐれた配置を選択する。
【0034】
設計断面荷重を満足するように根入れ長を設定する。
【0035】
補強力は,地山の変形後に初めて発生するものであり,地山の変形および補強材との相互作用により,補強力の値は変化する。本発明においては,地山変形量を考慮した解析に基づき,設計最大引抜き抵抗力Tmaxにより引張補強力を評価し,設計最大たわみ補強力ΣRmaxにより曲げせん断補強力を評価する。その上で,設計耐力Rudを算定し,設計断面荷重Rrdと比較照査を行い,補強材の終局限界状態に対する安全性照査を行う。
【0036】
設計耐力に対応した変位量ySmaxを設計変形量とし,地山の想定最大変形量とする。施工中および施工後において,地山の変形量は設計変形量ySmax以内であることが求められる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によ,従来の地すべり対策工法や補強土工法の適用範囲に属さない地すべり末端部における緩み斜面の安定化を促進する工法が創出され,かつ中小規模の地すべりに対しても,変形を考慮した支持機構の導入によるコスト縮減効果が高い地すべり対策工法として,新たな工法の選択肢を生じた。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】は,本発明の適用判定フローである。
【図2】は,芯材に鋼管を用いた本発明に係る構造図(GCP−Aタイプ)である。
【図3】は,鋼管頭部とゲビンデスターブの下端部と頭部の接続状態を示す拡大断面図である。
【図4】は,図2の先端を示す拡大断面図である。
【図5】は,芯材に異形鋼棒を用いた構造図(Bタイプ)である。
【図6】は,本発明の設計手順のフローである。
【符号の説明】
【0039】
1……芯材(鋼管1′又は異形鋼棒1″)
2……注入孔付きヘッドキャップ
3……ゲビンデスターブ
4……独楽型支圧版
5……頭部プレート
6・6′……ナット
7……オイルキャップ
8……防錆材
9……接続キャップ
10……削孔
11……注入パイプ
12……カップラー式継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太径芯材を利用することによるたわみ補強の効果,頭部支圧版構造を有する斜杭構造を採用することによる引張り補強の効果を,歪み進行に伴う相互の分担割合を図る設計にすることを特徴とする頭部に支圧版構造を有する太径芯材を利用した杭体変形を許容する斜群杭工法。
【請求項2】
プレストレスを載荷しない請求項1記載の頭部に支圧版構造を有する太径芯材を利用した杭体変形を許容する斜群杭工法。
【請求項3】
設計補強力及び施工性を勘案して,長方千鳥配置,正方千鳥配置から補強効率の優れた配置を選定する請求項1記載の頭部に支圧版構造を有する太径芯材を利用した杭体変形を許容する斜群杭工法。
【請求項4】
緩みを生じた斜面に設置する際には独楽型支圧版を用いた請求項1記載の頭部に支圧版構造を有する太径芯材を利用した杭体変形を許容する斜群杭工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−80210(P2011−80210A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231657(P2009−231657)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(000170646)国土防災技術株式会社 (23)
【出願人】(000006839)日鐵住金建材株式会社 (371)
【出願人】(509277914)社団法人長崎県林業コンサルタント (1)
【出願人】(509277903)藤永地建株式会社 (1)
【出願人】(509276630)大栄開発株式会社 (1)
【出願人】(590001647)株式会社親和テクノ (4)
【Fターム(参考)】