説明

顔料分散液及びその製造方法並びに該顔料分散液を用いた光硬化型インク組成物

【課題】重合禁止剤及び重合反応を起こさない有機溶剤を使用しなくても、分散処理中にモノマーが重合反応することがない顔料分散液及びその製造方法並びに該顔料分散液を含む光硬化型インク組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも、着色剤と、分散剤と、重合性化合物と、を含み、重合禁止剤を実質的に含まない顔料分散液であって、該重合性化合物が、N−ビニルフォルムアミドであることを特徴とする顔料分散液により解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散液及びその製造方法並びに該顔料分散液を用いた光硬化型インク組成物に関し、特に、重合禁止剤及び重合反応を起こさない有機溶剤を使用しなくても、分散処理中にモノマーが重合反応することがない顔料分散液及びその製造方法並びに該顔料分散液を含む光硬化型インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット用顔料インク組成物を調製する場合、分散装置を用いて顔料を分散処理し、インク組成物中で安定に分散するように処理することが一般的である。光硬化型顔料インク組成物では、インク溶媒にモノマーと呼ばれる重合性化合物を用いるが、これは顔料と共に分散処理することが非常に困難である。その理由は、分散処理時に発生する熱やメカノケミカル的に発生するラジカルによりモノマーが重合反応を開始してしまい、粘度増加やゲル化といった望ましくない現象を引き起こすためである。
【0003】
この不都合を改善するために、重合禁止剤を添加して、モノマーの重合反応を抑制する手法がある。例えば、インク組成物が重合禁止剤を100〜10,000ppm含有するインク組成物が、インク保存安定性、にじみ耐性、印刷後の安定性(耐擦性など)、平滑性を向上し、記録媒体の変形を抑え、記録媒体の種類(特にインク吸収性のない記録媒体)に関係なく良好な画像が得られ、且つ、安定した高精細な画像を印字できる旨が開示されている(特許文献1)。また、他の例として、(a)顔料を20〜95質量%含有する顔料分散物と、(b)重合性化合物と、(c)重合開始剤とを含有し、さらに重合禁止剤を含有し、25℃における粘度が6〜500mPa・sで、かつカールフィッシャー法により測定した含水率が0.01〜2.5質量%である活性光線硬化性インクが、低粘度で、感度、出射安定性、ヒートサイクル性、インク保存安定性に優れている旨が開示されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2003−127518号公報
【特許文献2】特開2003−306622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の従来技術では、光硬化型顔料インク組成物中に必然的に重合禁止剤が混入することになり、該光硬化型顔料インク組成物の硬化反応を阻害するという問題があった。そのため、光硬化型顔料インク組成物では、重合反応を起こさない有機溶剤を用いて分散処理を行い、得られた顔料の溶媒分散液を用いて、後からモノマーや光重合開始剤を添加しインク組成物を調製することが一般的である。
【0005】
しかしながら、この方法では硬化反応に不必要な有機溶剤がインク中に存在するため、この有機溶剤を除去させるために硬化反応前の乾燥工程が必須となる。また、有機溶剤が大気中に揮発することは作業環境、局所排気装置、排ガス燃焼装置等の設備負担、周辺環境への影響の面からも好ましいものではない。さらに、有機溶剤とモノマーと置換する方法、例えばエバポレータや蒸留操作等で沸点差を利用する方法が考えられるが、インク組成物の製造工程が増え、コストが増大するとともに、完全に有機溶剤を除去することも難しいという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、重合禁止剤及び重合反応を起こさない有機溶剤を使用しなくても、分散処理中にモノマーが重合反応することがない顔料分散液及びその製造方法並びに該顔料分散液を含む光硬化型インク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、少なくとも、着色剤と、分散剤と、重合性化合物と、を含み、重合禁止剤を実質的に含まない顔料分散液であって、該重合性化合物が、N−ビニルフォルムアミドであることを特徴とする顔料分散液を提供するものである。N−ビニルフォルムアミドは、他のモノマーとは共重合するが、単体では重合反応をしない。そのため、重合性化合物として上記化合物のみを用い、顔料の分散を行うことにより、重合禁止剤及び有機溶剤を用いることなく顔料のモノマー分散が可能となる。
【0008】
上記発明の好ましい態様は次の通りである。該分散剤は、ポリオキシアルキレンポリアルキレンアミン又はソルビタンエステルであることが好ましい。
【0009】
また、本発明は、上記課題を解決するために、少なくとも、着色剤と、分散剤と、重合性化合物と、を含む混合物を混合し、重合禁止剤を実質的に含まない状態で該混合物を分散処理して顔料分散液を製造する方法であって、該重合性化合物として、N−ビニルフォルムアミドを用いることを特徴とする顔料分散液の製造方法を提供するものである。N−ビニルフォルムアミドは、単体では重合反応をしないが、他のモノマーとは共重合する。そのため、重合性化合物として上記化合物のみを用い、顔料の分散を行うことにより、重合禁止剤及び有機溶剤を用いることなく顔料のモノマー分散が可能となる。
【0010】
上記発明の好ましい態様は次の通りである。前記分散剤として、ポリオキシアルキレンポリアルキレンアミン又はソルビタンエステルを用いることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、上記顔料分散液と、光重合開始剤と、重合性化合物とを含有する光硬化型インク組成物を提供するものである。本発明の光硬化型インク組成物は、重合禁止剤を実質的に含まないため、該光硬化型インク組成物の硬化反応が阻害されることなく、優れた品質の画像を形成することができる。
【0012】
また、本発明は、インク組成物を付着させて記録媒体に印刷を行う記録方法であって、該インク組成物として、前記光硬化型インク組成物を用い、その後、紫外線を照射することにより該光硬化型インク組成物を硬化させる記録方法を提供するものである。本発明の記録方法は、前記光硬化型インク組成物を用いるため、該光硬化型インク組成物の硬化反応が阻害されることなく、優れた品質の画像を形成することができる。また、前記顔料分散液に有機溶媒を含まないため、乾燥工程が必要無く、排気処理設備も不要となり、コスト面で有利であり、また作業環境、周辺環境への影響を改善できる。
【0013】
また、本発明は、インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印刷を行うインクジェット記録方法であって、インク組成物として、前記光硬化型インク組成物を用い、その後、紫外線を照射することにより該光硬化型インク組成物を硬化させる記録方法を提供するものである。本発明の記録方法は、前記光硬化型インク組成物を用いるため、該光硬化型インク組成物の硬化反応が阻害されることなく、優れた品質の画像を形成することができる。また、前記顔料分散液に有機溶媒を含まないため、乾燥工程が必要無く、排気処理設備も不要となり、コスト面で有利であり、また作業環境、周辺環境への影響を改善できる。
【0014】
また、本発明は、前記記録方法によって印刷が行われた記録物を提供するものである。本発明は、前記光硬化型インク組成物を用いた記録方法によって印刷が行われるため、優れた品質の画像を形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の顔料分散液及び顔料分散液の製造方法によれば、重合禁止剤及び重合反応を起こさない有機溶剤を使用しなくても、分散処理中に重合性化合物(モノマー)が重合反応することなく顔料分散液を調製することができるため、光硬化型インク組成物において重合禁止剤の影響を受けることなく高品質の光硬化型インク組成物を得ることができる。また、有機溶剤を使用しなくてもよいため、従来必須とされていた有機溶剤の除去処理を行う必要がなく、製造工程及びコストの負担を軽減することができる。
【0016】
また、本発明の光硬化型インク組成物によれば、前記顔料分散液の重合禁止剤を実質的に含まないため、該光硬化型インク組成物の硬化反応が阻害されることなく、優れた品質の画像を形成することができる。
【0017】
また、本発明の記録方法及び記録物によれば、前記光硬化型インク組成物を用いるため、該光硬化型インク組成物の硬化反応が阻害されることなく、優れた品質の画像を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[顔料分散液]
本発明の顔料分散液は、既述の通り、少なくとも、着色剤と、分散剤と、重合性化合物と、を含み、重合禁止剤を実質的に含まない顔料分散液であって、該重合性化合物が、N−ビニルフォルムアミドである。
【0019】
当該化合物は、単体では重合反応をしないが、他のモノマーとは共重合する。そのため、この特性を利用すれば、重合禁止剤又は重合反応を起こさない有機溶剤を使用しなくても、分散処理中に重合性化合物(モノマー)が重合反応することなく顔料のモノマー分散が可能となる。
【0020】
ここで、本発明に係る顔料分散液は重合禁止剤を実質的に含まない。「重合禁止剤を実質的に含まない」とは、重合禁止剤を積極的に添加しないこと、あるいは原料起因で重合禁止剤を含む場合でも顔料分散液中の含有量が0.01重量%未満であることをいう。仮に重合禁止剤を0.01重量%以上含む顔料分散液を用いて光硬化型顔料インク組成物を調製すると、該光硬化型顔料インク組成物の硬化反応を阻害する可能性があるからである。なお、「重合禁止剤」とは、一般的な重合性組成物に配合されているものを意味し、具体的には、例えば、フェノール系酸化防止剤、ヒンダード・アミン光安定剤、リン系酸化防止剤、広く(メタ)アクリルモノマーに用いられるハイドロキノンモノメチルエーテルの他、ハイドロキノン、tブチルカテコール、ピロガロールなどを挙げることができる。
【0021】
本実施形態において用いられる分散剤としては、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン(C24N)n−(PO)x−(EO)y−OH(上記式中、n、x及びyは、それぞれ1以上の整数を意味し、POはプロピレンオキサイドを意味し、EOはエチレンオキサイドを意味する。)が好ましい。ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミンの具体例としては、例えば、ディスコール(Discole)N−503、N−506、N−509、N−512、N−515、N−518、N−520等を挙げることができる。
【0022】
上記分散剤の添加量は、好ましくは0.1〜20質量%であり、より好ましくは0.5〜10質量%である。
【0023】
本実施形態において使用される着色剤は、耐光性の観点から顔料を使用することが好ましい。顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。
【0024】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタン等を使用することができる。
【0025】
また、有機顔料として、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料などのアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(たとえば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等が挙げられる。上記顔料は1種単独でも、2種以上併用して用いることもできる。また、カラーインデックスに記載されていない顔料であってもインク組成物中にて不溶であればいずれも使用できる。
【0026】
ブラック顔料としては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックの具体例としては、三菱化学製の#2300、#900、HCF88、#33、#40、#45、#52、MA7、MA8、MA100、#2200B等、コロンビア社製のRaven5750、同5250、同5000、同3500、同1255、同700等、キャボット社製のRegal 400R、同330R、同660R、Mogul L、同700、Monarch 800、同880、同900、同1000、同1100、同1300、同1400等、デグッサ社製のColor Black FW1、同FW2V、同FW18、同FW200、Color Black S150,同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同140U、Specisal Black 6、同5、同4A、同4等を挙げることができ、これらの1種又は2種の混合物として用いてもよい。
【0027】
イエロー顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、180、185等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントイエロー74、109、110、128及び138からなる群から選択される1種又は2種以上の混合物である。
【0028】
マゼンタ及びライトマゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド、5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、15:1、112、122、123、168、184、202、209及びC.I.ピグメントヴァイオレット19等が挙げられ、好ましくはC.I,ピグメントレッド122、202、209及びC.I.ピグメントヴァイオレット19からなる群から選択される1種又は2種以上の混合物である。
【0029】
シアン及びライトシアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、15:34、16、22、60及びC.I.バットブルー4、60等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントブルー15:3、15:4及び60からなる群から選択される1種又は2種以上の混合物である。
【0030】
ホワイトインクに使用される顔料として、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸バリウム、シリカ、アルミナ、カオリン、クレー、タルク、白土、水酸化アルミ、炭酸マグネシウム、白色中空樹脂エマルジョン等が挙げられ、好ましくはこれらからなる群から選択される1種又は2種以上の混合物である。
【0031】
また、各色の顔料はその色調を調整する為に、互いに混合して用いる事も可能である。例えば、赤みのブラックの色調を青みに変える目的で、ピグメントブラック7とピグメントブルー15:3を混合する事も可能である。
【0032】
本実施形態に利用される顔料は、その平均粒径が10〜500nmの範囲にあるものが好ましく、より好ましくは50〜300nm程度のものである。また、本発明に利用される顔料の配合量は、濃淡インク組成物等のインク組成物の種類に応じて適宜決定されてよいが、インク組成物中、1.5〜20重量%、好ましくは3〜10重量%である。
【0033】
[顔料分散液の製造方法]
本発明の顔料分散液の製造方法は、既述の通り、少なくとも、着色剤と、分散剤と、重合性化合物と、を含む混合物を混合し、重合禁止剤を実質的に含まない状態で該混合物を分散処理して顔料分散液を製造する方法であって、該重合性化合物として、N−ビニルフォルムアミドを用いる。
【0034】
当該化合物は、他のモノマーとは共重合するが、単体では重合反応をしない。そのため、この特性を利用すれば、重合禁止剤又は重合反応を起こさない有機溶剤を使用しなくても、分散処理中に重合性化合物(モノマー)が重合反応することなく顔料のモノマー分散が可能となる。
【0035】
分散処理は、顔料分散液を調製する際に用いられる通常の分散方法を用いることができる。例えば、少なくとも、着色剤と、分散剤と、重合性化合物を混合攪拌して混合物とし、サンドミルを用いて、直径1.0〜3.0mmのジルコニアビーズと共に、分散液温度40℃以下の条件下、3〜12時間高速で撹拌することにより、顔料が溶媒中に分散された顔料分散液を調製することができる。なお、その後ジルコニアビーズは顔料分散液から分離される。
【0036】
なお、本実施形態で特に説明しない事項については、「顔料分散液」について説明した事項が適宜適用される。
【0037】
[光硬化型インク組成物]
本発明の光硬化型インク組成物は、先述した顔料分散液と、光重合開始剤と、重合性化合物とを含有する。
【0038】
光重合開始剤としては、フォトポリマーハンドブック(フォトポリマー懇話会編 工業調査会発行1989年)の39〜56頁に記載の公知の光重合開始剤、特開昭64−13142号、特開平2−4804号に記載されている化合物を任意に用いることが可能である。
【0039】
重合性化合物としては、特に制限されることなく、種々の重合性化合物を用いることができるが、N−ビニルフォルムアミド又はエチレングリコールモノアリルエーテル(商品名アリルグリコール)を用いることが好ましい。
【0040】
当該N−ビニルフォルムアミド及びエチレングリコールモノアリルエーテル以外の重合性化合物としては、光重合開始剤から生成するラジカルまたはイオンにより重合されるものであれば特に限定ない。このような重合性化合物とは、高分子の基本構造の構成単位となり得る分子をいう。このような重合性化合物は光重合性モノマーとも呼ばれ、単官能モノマー、二官能モノマー、多官能モノマーが含まれる。なお、この単官能モノマー、二官能モノマー、多官能モノマーとしては、特に限定されないが、分子量が100〜3000程度(好ましくは100〜2000程度)のものを使用することができる。
【0041】
このような重合性化合物の代表的なものとして、単官能モノマーとしては、フェノキシエチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、メトキシジエチレングリコールモノアクリレート、アクロイルモルホリン、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸シクロヘキシル、オキセタンメタアクリレート等を挙げることができる。
【0042】
二官能モノマーとしては、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレ−ト、ポリエチレングリコール#400ジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、ヒドロキシピオペリン酸エステルネオペンチンルグリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート等を挙げることができる。
【0043】
多官能モノマーとしては、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタアクリレート、トリメチロールプロパンEO付加物トリアクリレート、トリメチロールプロパンPO付加物トリアクリレート、グリセリンEO付加物トリアクリレート、グリセリンPO付加物トリアクリレート、ペンタエリストールトリアクリレート、ジペンタエリストールヘキサアクリレート、ジペンタエリストールポリアクリレート、多官能モノマー間の反応を利用して作製されるデンドリマー等を挙げることができる。
【0044】
また、本実施形態の光硬化型インク組成物には、その他の重合促進剤を添加することもできる。当該その他の重合促進剤としては、アミン化合物からなる重合促進剤を挙げることができる。このアミン化合物としては、特に限定されないが、臭気の問題やインク組成物の硬化がより確実になることから、特にアミノベンゾエート誘導体が、好ましい。これはアミノベンゾエート誘導体が、酸素による重合阻害を軽減する為である。
【0045】
アミノベンゾエート誘導体は、350nm以上の波長域に吸収を持たないものが好ましい。このようなアミノベンゾエート誘導体の例としては、特に限定されないが、エチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、2−エチルヘキシル−4−ジメチルアミノベンゾエート等が挙げられ、これは、Darocur EDB、EHA(チバ スペシャルティ ケミカルズ社製)の商品名で入手可能である。
【0046】
本実施形態の光硬化型インク組成物に含まれる光重合開始剤としては、例えば、200nm〜450nm程度の領域の紫外線又は可視光を吸収しラジカルまたはイオンを生成して重合性化合物の重合を開始させるものである。
【0047】
本実施形態の光硬化型インク組成物に用いられる光重合開始剤は、代表的なものとしてラジカル発生型を挙げると、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、イソプロピルベンゾインエーテル、イソブチルベンゾインエーテル、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、ベンジル、ジエトキシアセトフェノン、ベンゾフェノン、クロロチオキサントン、2−クロロチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2−メチルチオキサントン、ポリ塩化ポリフェニル、ヘキサクロロベンゼン等が挙げられ、好ましくは、イソブチルベンゾインエーテル、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシムである。
【0048】
また、Vicure 10、30(Stauffer Chemical社製)、Irgacure 184、127、500、651、2959、907、369、379、754、1700、1800、1850、1870、819、OXE01、Darocur 1173、TPO、ITX(チバ スペシャルティ ケミカルズ社製)、Quantacure CTX、ITX(Aceto Chemical社製)、Kayacure DETX−S(日本化薬社製)、ESACURE KIP150(Lamberti社製)、Lucirin TPO(BASF社製)の商品名で入手可能な光重合開始剤も使用することができる。
【0049】
本実施形態の光硬化型インク組成物には、水性溶媒を含んでいてもよい。更に任意の成分として、樹脂エマルジョン、無機酸化物コロイド、湿潤剤、pH調整剤、防腐剤、防かび剤、熱重合禁止剤、界面活性剤等を添加してもよい。
【0050】
[記録方法]
本実施形態における記録方法は、上述した光硬化型インク組成物を用いた記録方法である。光硬化型インク組成物を用いた記録方法とは、例えば、インクジェット記録方法、ペン等の筆記具による記録方法、その他各種の印刷方法により光硬化型インク組成物を付着させ、その後に、紫外線を照射することにより硬化させるものである。したがって、前記実施形態に係る光硬化型インク組成物は、例えば水性ペンなどの筆記具類、インクジェット記録方法、印刷、スタンプなどの用途に好ましく用いることができる。
【0051】
本実施形態の記録方法の別の態様によれば、前記実施形態のインク組成物の液滴を吐出し記録媒体に付着させ、その後に、紫外線を照射することにより硬化させるインクジェット記録方法が提供される。本実施形態によるインクジェット記録方法としては、前記インク組成物を微細なノズルより液滴として吐出して、その液滴を記録媒体に付着させる方法であればいかなる方法も使用することができる。そのような方法の具体例としては、種々の態様の方法が知られている。
【0052】
そのような方法の一例としては、例えば、静電吸引方式が挙げられる。この方式では、ノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印可し、ノズルからインク組成物を液滴状で連続的に噴射させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する。また、この方法においては必要に応じて、インク滴を偏向させることなく印刷情報信号に対応して噴射させてもよい。
【0053】
他の態様としては、小型ポンプでインク液に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインク滴を噴射させる方法がある。この方法では、噴射したインク滴は噴射と同時に帯電させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する。別の態様としては、圧電素子を用いる方法が挙げられる。この方法では、インク液に圧電素子で圧力と印刷情報信号を同時に加え、インク滴を噴射させ、記録を行う。さらに別の態様としては、熱エネルギーの作用によりインク液を急激に体積膨張させる方法がある。この方法では、インク液を印刷情報信号に従って微小電極で加熱発泡させ、インク滴を噴射させ、記録を行う。
【0054】
記録媒体としては、特に制限はなく、例えば、普通紙、インクジェット専用紙(マット紙、光沢紙)、ガラス、プラスチック、フィルム、金属、プリント配線基板等の種々の記録媒体を用いることができる。
【0055】
紫外線の照射量は、基板または記録媒体等の上に付着させたインク組成物量や厚さにより、適宜好ましい条件を選択することが好ましい。そのため、厳密には特定できないが、例えば、10mJ/cm2以上、10,000mJ/cm2以下であり、また好ましくは50mJ/cm2以上、6,000mJ/cm2以下の範囲で行うことが好ましい。かかる程度の範囲内における紫外線照射量であれば、十分硬化反応を行うことができる。
【0056】
紫外線照射は、メタルハライドランプ、キセノンランプ、カーボンアーク灯、ケミカルランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ等のランプが挙げられる。例えばFusion System社製のHランプ、Dランプ、Vランプ等の市販されているものを用いて行うことができる。
【0057】
また、消費エネルギー低減の面から、紫外線発光ダイオード(紫外線LED)や紫外線発光半導体レーザ等の紫外線発光半導体素子により、紫外線照射を行うことが特に好ましい。
【0058】
また、本実施形態のインク組成物を用いた記録方法では、紫外線光照射前、同時またはその後に加熱してもよい。加熱は、記録媒体に熱源を接触させて加熱する方法、赤外線やマイクロウェーブ(2,450MHz程度に極大波長を持つ電磁波)などを照射し、または熱風を吹き付けるなど記録媒体に接触させずに加熱する方法などが挙げられる。
【0059】
[記録物]
更に、本実施形態によれば、前記実施形態に係る記録方法により記録された記録物も提供される。この記録物は、少なくとも上述した光硬化型インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着して記録が行われたものである。前記実施形態に係る記録方法により記録された記録物は、上述した光硬化型インク組成物を用いて記録が行われたものであるため、速乾性、耐久性に優れている。なお、記録媒体の具体例としては、上記に示した記録媒体を用いることが可能である。
【実施例】
【0060】
1.顔料分散液の調製
[顔料分散液1]実施例1
着色剤としてC.I.ピグメントブラック7(カーボンブラック)15部、分散剤としてのディスコールN−518(大日精化工業社製)3.5部に、モノマーとしてのN−ビニルフォルムアミド(荒川化学工業社製。以下、「NVF」と称する)加えて全体を100部とし、混合攪拌して混合物とし、サンドミル(安川製作所社製)を用いて、ジルコニアビーズ(直径1.5mm)と共に6時間分散処理を行った。その後ジルコニアビーズをセパレータで分離し顔料分散液1(実施例1)を得た。なお、顔料分散液1の初期粘度をPhysica社製 MCR−300を用いて測定したところ、10.1(mPa・s)であった。
【0061】
[顔料分散液2]実施例2
着色剤をC.I.ピグメントイエロー155、ディスコールN−518の添加量を1.0部とした以外は、顔料分散液1と同様に調製し、顔料分散液2(実施例2)を得た。なお、顔料分散液2の初期粘度をPhysica社製 MCR−300を用いて測定したところ、6.4(mPa・s)であった。
【0062】
[顔料分散液3]実施例3
着色剤をC.I.ピグメントヴァイオレット19、ディスコールN−518の添加量を1.0部とした以外は、顔料分散液1と同様に調製し、顔料分散液3(実施例3)を得た。なお、顔料分散液3の初期粘度をPhysica社製 MCR−300を用いて測定したところ、7.4(mPa・s)であった。
【0063】
[顔料分散液4]実施例4
着色剤をC.I.ピグメントブルー15:3、ディスコールN−518の添加量を2.0部とした以外は、顔料分散液1と同様に調製し、顔料分散液4(実施例4)を得た。なお、顔料分散液4の初期粘度をPhysica社製 MCR−300を用いて測定したところ、5.9(mPa・s)であった。
【0064】
[顔料分散液5]実施例5
着色剤としてのC.I.ピグメントブラック7(カーボンブラック)15部、分散剤としてのソルビタンモノラウレート(和光純薬社製)2.0部に、NVFを加えて全体を100部とし、混合攪拌して混合物とした。この混合物を、サンドミル(安川製作所社製)を用いて、ジルコニアビーズ(直径1.5mm)と共に6時間分散処理を行った。その後ジルコニアビーズをセパレータで分離し顔料分散液5(実施例5)を得た。なお、顔料分散液5の初期粘度をPhysica社製 MCR−300を用いて測定したところ、11.4(mPa・s)であった。
【0065】
[顔料分散液6]比較例1
着色剤としてのC.I.ピグメントブラック7(カーボンブラック)15部、分散剤としてのディスコールN−518(大日精化工業社製)3.5部に、モノマーとしてのメタクリル酸ラウリル(三菱ガス化学社製)を加えて全体を100部とし、混合攪拌して混合物とした。これを、サンドミル(安川製作所社製)を用いて、ジルコニアビーズ(直径1.5mm)と共に分散処理を行った。しかしながら、得られた顔料分散液6(比較例1)は分散開始1時間でゲル化してしまい、ビーズを分離する事ができなかった。そのため、顔料分散液6の初期粘度は測定することができなかった。
【0066】
[顔料分散液7]比較例2
着色剤としてのC.I.ピグメントブラック7(カーボンブラック)15部、分散剤としてのディスコールN−518(大日精化工業社製)3.5部、熱重合禁止剤としてのp−メトキシフェノール(関東化学社製)0.2部に、モノマーとしてのメタクリル酸ラウリルを加えて全体を100部とし、混合攪拌して混合物とした。これを、サンドミル(安川製作所社製)を用いて、ジルコニアビーズ(直径1.5mm)と共に6時間分散処理を行った。その後ジルコニアビーズをセパレータで分離し顔料分散液7(比較例2)を得た。なお、顔料分散液7の初期粘度をPhysica社製 MCR−300を用いて測定したところ、24.8(mPa・s)であった。
【0067】
[顔料分散液8]比較例3
着色剤としてのC.I.ピグメントブラック7(カーボンブラック)15部、分散剤としてのディスコールN−518(大日精化工業社製)3.5部、p−メトキシフェノール0.2部に、モノマーとしてのN−ビニルフォルムアミドを加えて全体を100部とし、混合攪拌して混合物とした。これを、サンドミル(安川製作所社製)を用いて、ジルコニアビーズ(直径1.5mm)と共に6時間分散処理を行った。その後ジルコニアビーズをセパレータで分離し顔料分散液8(比較例3)を得た。なお、顔料分散液8の初期粘度をPhysica社製 MCR−300を用いて測定したところ、12.2(mPa・s)であった。
【0068】
2.光硬化性インク組成物の調製
上記のように調製した顔料分散液1を用い、下記の組成にて光硬化性インク組成物1を調製した。即ち、モノマーとしてAPG−200(新中村化学工業社製)、ビスコート#360(大阪有機化学工業社製)及びAG(日本乳化剤社製)を使用した。また、添加剤は、光重合開始剤としてIrgacure 819及び369並びにDarocur EHA(いずれもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、界面活性剤としてBYK−UV3570(ビックケミー・ジャパン社製)を使用した。これらを混合且つ完全に溶解し、インク溶媒を調製した。次いで、顔料分散液1を攪拌しながらインク溶媒中に徐々に滴下した。滴下終了後、常温で1時間混合攪拌した。その後、5μmのメンブランフィルターでろ過し、所望の光硬化性インク組成物1(実施例6)とした。
【0069】
顔料分散液 20重量%
APG−200 20重量%
ビスコート#360 15重量%
Irgacure819 4重量%
Irgacure369 1重量%
Darocur EHA 1重量%
BYK−UV3570 0.5重量%
AG 残量
【0070】
引き続き顔料種を変更し、光硬化性インク組成物1(実施例6)の場合と同様の要領で光硬化性インク組成物2〜6(実施例7〜10及び比較例4)を調製した。なお、分散液6(比較例1)及び分散液7(比較例2)については、分散処理により粘度が異常に上昇したため、これらは光硬化性インク組成物の原料としては用いなかった。
【0071】
[試験例1]保存安定性の評価
上記顔料分散液1〜8(実施例1〜5及び比較例1〜3)を遮光性の保存容器に入れ、60℃の環境にて5日間加熱し、初期粘度から5日間経過後の粘度変化(Δη)を測定した。粘度の測定は、Physica社製 MCR−300を用いて行った。その測定値から、以下の評価基準を用いて顔料分散液の保存安定性を評価した。結果を表1に示す。
A:5日間経過後の粘度変化(Δη)が±0.2(mPa・s)以下である。
B:5日間経過後の粘度変化(Δη)が±0.2(mPa・s)を超える。
【0072】
【表1】

【0073】
[試験例2]硬化性評価
上記のように調製した光硬化性インク組成物1〜6(実施例6〜10及び比較例4)をガラス基板上に滴下したものをサンプルとして、以下の要領で光硬化性インク組成物の硬化性の評価を行った。紫外線照射装置として、ピーク波長365nmの紫外線発光ダイオードNICHIA i-LED「NCCU033」及びピーク波長380nmの紫外線発光ダイオードNICHIA「NCCU001」(共に日亜化学工業社製)を用いて作製したものを使用した。紫外線照射装置の照射条件は、照射面において、365nm及び380nmの波長の照射強度がそれぞれ20mW/cm2、即ち合計で40mW/cm2となるようにした。そして、紫外線をサンプルに5秒間照射して積算光量が200mJ/cm2するとなる条件(表中、「硬化性1」と表記する)と、15秒間照射し、積算光量が600mJ/cm2となる条件(表中、「硬化性2」と表記する)の2回に分けて行った。そして、以下の評価基準を用いて光硬化性インク組成物(表中、単に「インク」と表記する。)の硬化性を評価した。熱重合禁止剤の添加量(重量%)と併せて、結果を表2に示す。
A:問題なく硬化する。
B:硬化不良が発生する。
【0074】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、着色剤と、分散剤と、重合性化合物と、を含み、重合禁止剤を実質的に含まない顔料分散液であって、
該重合性化合物が、N−ビニルフォルムアミドであることを特徴とする顔料分散液。
【請求項2】
該分散剤が、ポリオキシアルキレンポリアルキレンアミン又はソルビタンエステルであることを特徴とする請求項1記載の顔料分散液。
【請求項3】
少なくとも、着色剤と、分散剤と、重合性化合物と、を含む混合物を混合し、
重合禁止剤を実質的に含まない状態で該混合物を分散処理して顔料分散液を製造する方法であって、
該重合性化合物として、N−ビニルフォルムアミドを用いることを特徴とする顔料分散液の製造方法。
【請求項4】
前記分散剤として、ポリオキシアルキレンポリアルキレンアミン又はソルビタンエステルを用いることを特徴とする顔料分散液の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の顔料分散液と、光重合開始剤と、重合性化合物とを含有する光硬化型インク組成物。
【請求項6】
インク組成物を付着させて記録媒体に印刷を行う記録方法であって、該インク組成物として、請求項5に記載の光硬化型インク組成物を用い、その後、紫外線を照射することにより該光硬化型インク組成物を硬化させる記録方法。
【請求項7】
インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印刷を行うインクジェット記録方法であって、インク組成物として、請求項5項に記載の光硬化型インク組成物を用い、その後、紫外線を照射することにより該光硬化型インク組成物を硬化させる記録方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の記録方法によって印刷が行われた記録物。


【公開番号】特開2007−169308(P2007−169308A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−364318(P2005−364318)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】