説明

顕微鏡装置および細胞観察方法

【課題】細胞周期に関連した細胞の挙動を短時間で効率的に観察することのできる顕微鏡装置および細胞観察方法を提供すること。
【解決手段】 ステージ5上に載置された複数の細胞の細胞周期を特定するために用いられるとともに、該細胞の観察画像を取得するために用いられる解析・観察用光学系20と、所定の細胞に対して光刺激を与えるために用いられる刺激用光学系21とを備え、これらの光学系を用いて、ステージ上に載置された細胞の細胞周期を特定し、また、細胞に対して光刺激を与え、また、光刺激を与える前後の細胞の挙動を観察する顕微鏡装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡装置に係り、特に、細胞周期を特定することができるとともに、細胞に対して光刺激を与えることができる顕微鏡装置および細胞観察方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、標本にレーザ光を照射し、この標本から発せられる蛍光を取得して画像情報を得ることにより、標本の細胞周期を解析する走査型サイトメータ(LSC:Laser Scanning Cytometer)が知られている。
また、従来、上記走査型サイトメータに、共焦点レーザ走査型顕微鏡(CLSM:Conforcal Laser Scanning Microscope)の機能を持たせ、細胞周期の各期における特定の細胞を観察することを可能としたレーザ顕微鏡が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
上記レーザ顕微鏡は、レーザ光源から対物レンズの瞳へ入射させるレーザ光の光束径を切り替え可能な光束径切替手段と、標本において発生した蛍光を観察用の光路と細胞周期解析用の光路とに切り替える光路切替手段とを備え、標本に照射する光束径および標本で発生した蛍光が経由する光路とを切り替えることにより、1つの装置によって標本の細胞周期解析と観察とを行うこととしている。
【特許文献1】特開2000−97857号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、細胞の観察では、各細胞周期に属する細胞がどのような振る舞いをするか、例えば、刺激に対する反応(細胞が受ける影響)と細胞周期との関係などを観察したいという要求がある。しかし、従来のレーザ顕微鏡では、このような観察をすることが考慮されていなかった。
【0004】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、細胞周期に関連した細胞の挙動を短時間で効率的に観察することのできる顕微鏡装置および細胞観察方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、細胞の細胞周期を特定する細胞周期特定過程と、前記細胞に対して光刺激を与える光刺激過程と、前記細胞の観察画像を取得する観察画像取得過程とを有する細胞観察方法を提供する。
【0006】
このような方法によれば、細胞周期特定過程において細胞の細胞周期が特定され、光刺激過程において細胞に対して光刺激が与えられ、観察画像取得過程において、細胞の観察画像が取得されて、モニタなどに表示されることにより、細胞の挙動が観察されることとなる。この場合において、細胞に対して光刺激を与える光刺激過程を有しているので、細胞に対して人為的に刺激を与えることが可能となる。これにより、所望の光刺激を与えることにより、細胞の振る舞いを活発化させたり、停滞化させたりすることができる。
【0007】
上記細胞観察方法は、各前記細胞の位置とその細胞周期とを対応付けて記憶する記憶過程と、光刺激の対象となる細胞周期を指定するための入力過程と、指定された前記細胞周期に属する前記細胞の位置を、前記記憶過程において記憶した情報を用いて特定する細胞特定過程とを有し、前記光刺激過程では、特定した前記位置に対して光刺激を行うこととしても良い。
【0008】
このような方法によれば、細胞周期特定過程において各細胞の細胞周期が特定されると、この細胞周期とその細胞の位置とが対応付けられて記憶されることとなる。そして、光刺激を与える細胞周期が指定された場合には、その指定された細胞周期に該当する細胞の位置が記憶されている情報に基づいて選択され、その細胞の位置にのみ光刺激が行われることとなる。これにより、所望の細胞周期に該当する細胞にのみ光刺激を与えることができ、この光刺激による挙動を観察することが可能となる。
【0009】
上記細胞観察方法は、光刺激の対象となる細胞を指定するための入力過程を備え、前記光刺激過程では、指定された細胞に対して光刺激を行うこととしても良い。
【0010】
このように、光刺激の対象となる細胞が指定されるので、所望の細胞に選択的に光刺激を与えることが可能となる。
【0011】
上記細胞観察方法において、細胞周期特定過程では、蛍光を励起させるための照明光を複数の前記細胞に照射し、前記照明光を照射したことにより前記細胞から生ずる蛍光を検出し、該蛍光の輝度を統計的に処理することにより各前記細胞の細胞周期を特定することとしても良い。
【0012】
このような方法によれば、蛍光を励起させるための照明光が細胞に照射され、細胞における照射光の照射面において励起された蛍光が検出され、この検出された蛍光の輝度が統計的に処理されることにより、各細胞の細胞周期が特定されることとなる。
【0013】
本発明は、細胞の細胞周期を特定するための細胞周期特定手段と、前記細胞に対して光刺激を与える光刺激手段と、前記細胞の観察画像を取得する観察画像取得手段とを具備する顕微鏡装置を提供する。
【0014】
このような構成によれば、細胞周期特定手段により、細胞の細胞周期が特定され、光刺激手段により、細胞に対して光刺激が与えられ、観察画像取得手段により、細胞の観察画像が取得されて、モニタなどに表示されることにより、細胞の挙動が観察されることとなる。この場合において、光刺激手段を備えているので、細胞に対して人為的に刺激を与えることが可能となる。これにより、所望の光刺激を与えることにより、細胞の振る舞いを活発化させたり、停滞化させたりすることができる。
【0015】
上記顕微鏡装置は、各前記細胞の位置とその細胞周期とを対応付けて記憶する記憶手段と、光刺激の対象となる細胞周期を指定するための入力手段と、指定された前記細胞周期に属する前記細胞の位置を、前記記憶手段に記憶されている情報を用いて特定する細胞特定手段とを有し、前記細胞特定手段によって特定された前記細胞の位置に対して、前記光刺激手段が光刺激を行うこととしても良い。
【0016】
このような構成によれば、細胞周期特定手段によって各細胞の細胞周期が特定されると、この細胞周期とその細胞の位置とが対応付けられて記憶手段に記憶されることとなる。そして、光刺激の対象となる細胞周期が入力手段により指定された場合には、その指定された細胞周期に該当する細胞の位置が記憶手段に記憶されている情報に基づいて選択され、その細胞の位置にのみ光刺激が行われることとなる。これにより、所望の細胞周期に属する細胞に対して選択的に光刺激を与えることができる。
【0017】
上記顕微鏡装置は、光刺激の対象となる細胞の位置を入力するための入力手段を備え、入力された位置に対して、前記光刺激手段が光刺激を行うこととしても良い。
【0018】
このような構成によれば、光刺激の対象となる細胞が入力手段により指定された場合には、その指定された細胞に対して光刺激が行われることとなる。これにより、所望の細胞に対して選択的に光刺激を与えることができる。
【0019】
上記顕微鏡装置において、前記細胞周期特定手段が、複数の前記細胞に蛍光を励起させるための照明光を照射させる光照射光学系と、前記照明光を照射したことにより前記細胞から生ずる蛍光を検出する光検出手段と、検出された前記蛍光の輝度を統計的に処理することにより、各前記細胞の細胞周期を特定する細胞周期解析手段とを具備することとしても良い。
【0020】
このような構成によれば、光照射光学系により蛍光を励起させるための照明光が細胞に照射され、光検出手段により、該細胞における照射光の照射面において励起された蛍光が検出され、細胞周期解析手段により、この検出された蛍光の輝度が統計的に処理されることにより、各細胞の細胞周期が特定されることとなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、細胞周期に関連した細胞の挙動を短時間で効率的に観察することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係る顕微鏡装置について、図を参照して説明する。
【0023】
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態に係る顕微鏡装置について、図を参照して説明する。
本実施形態に係る顕微鏡装置Aは、レーザ走査型顕微鏡である。図1中、各種レンズおよびピンホール等の光学部品は、説明の簡略化のために適宜省略している。
【0024】
本実施形態に係る顕微鏡装置Aは、図1に示されるように、解析・観察用光学系20と、刺激用光学系21とを備えている。解析・観察用光学系20は、ステージ5上に載置された複数の細胞の細胞周期を特定するために用いられるとともに、該細胞の観察画像を取得するために用いられる光学系である。刺激用光学系21は、所定の細胞に対して光刺激を与えるために用いられる光学系である。
【0025】
解析・観察用光学系20は、細胞周期特定用の解析レーザ光または細胞観察用の観察レーザ光(以下、単に「第1のレーザ光」という。)を選択的に出射させる第1の光源装置1と、第1の光源装置1から出射された第1のレーザ光を光軸に交差する方向に2次元的に走査する第1のスキャナ2とを備えている。
なお、解析・観察用光学系20におけるより詳細な構成については、例えば、特開2000−97857号公報に開示されている走査型サイトメータの構成を参照されたい。
【0026】
刺激用光学系21は、光刺激用レーザ光(以下「第2のレーザ光」という。)を出射する第2の光源装置15と、第2の光源装置15から出射された第2のレーザ光を光軸に交差する方向に2次的に走査する第2のスキャナ16とを備えている。
顕微鏡装置Aは、更に、上記第1のレーザ光および第2のレーザ光を合波するダイクロイックミラー17と、合波された第1のレーザ光および第2のレーザ光を集光して細胞に照射する一方、照明用レーザ光を細胞に照射することにより、細胞内の蛍光物質が励起されて発生した蛍光を集光する対物レンズ3と、該対物レンズ3により集光された蛍光を検出する光検出器6とを備えている。
【0027】
上記第1の光源装置1と第1のスキャナ2との間には、細胞において発生し、対物レンズ3により集光され、ダイクロイックミラー17、第1のスキャナ2等を経由して戻る蛍光を第1のレーザ光から分岐して光検出器6に向かわせるダイクロイックミラー18が備えられている。
また、第2の光源装置15において、第2のレーザ光の光路には、後述する制御装置22によって開閉制御されるシャッタ(図示せず)が設けられている。
【0028】
また、細胞を載置するステージ5は、該ステージ5を光軸方向に沿って移動させる合焦機構(図示せず)により支持されている。
【0029】
制御装置22は、CPU(中央演算装置)8、メモリ9、記憶装置12を主な構成として備えている。後述する細胞周期特定処理、観察画像作成処理等の各種処理を実現するための一連の処理手順は、プログラムの形式で記憶装置12に記録されており、このプログラムをCPU8がメモリ9に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、後述の各種機能が実現される。また、CPU8は、上記細胞周期特定処理、観察画像作成処理を実現させている間に生じたデータを記憶装置12に記憶する。
【0030】
制御装置22のCPU8には、フレームメモリ10、入力装置13が接続されている。フレームメモリ10は、CPU8が観察画像作成処理を実行した場合に構築される蛍光画像を1フレーム分ごとにバッファし、これを表示部11に出力する。これにより、表示部11には、ステージ上に載置された細胞の蛍光画像が表示されることとなる。
入力装置13は、キーボード、マウスなどのポインティングデバイスなどを有し、オペレータが情報を入力するために主に用いられる。
【0031】
制御装置22のCPU8には、更に、第1の光源装置1、第1のスキャナ2、第2の光源装置15、第2の光学装置15が備えるシャッタ(図示せず)、ならびに第2のスキャナ16などが接続されている。CPU8は、第1の光源装置1から出射されるレーザ光の切り替え、第2の光源装置15から出射される第2のレーザ光の照射開始および停止制御を行うとともに、第1および第2のスキャナ2、16などを作動させることにより、各レーザ光の照射位置を制御する。
【0032】
このように構成された本実施形態に係る顕微鏡装置Aの作用について図2から図6を参照して、説明する。
まず、制御装置22は、ステージ5上に載置されている各細胞の細胞周期を特定する細胞周期特定処理(本発明の「細胞周期特定手段」に相当)を実行する(図2のステップSA1)。この細胞周期特定処理においては、まず、制御装置22により、第1の光源装置1から出射される第1のレーザ光が解析用レーザ光とされ、第2の光源装置15が備えるシャッタが閉状態とされる。これにより、細胞の細胞周期特定処理においては、第1の光源装置1から出射された解析用レーザ光のみが細胞に照射され、観察用レーザ光および光刺激用レーザ光は、停止される。
【0033】
続いて、制御装置22は、第1のスキャナ2を作動させる。これにより、図3に示すように、第1の光源装置1から出射された解析用レーザ光が対物レンズ3の焦点面において2次元的(X方向、Y方向)に走査され、ステージ5上に載置されている各細胞に順次照射される。この解析用レーザ光の照射により細胞内で励起された蛍光は、上記解析用レーザ光と同じ光路を逆向きに進み、対物レンズ3、ダイクロイックミラー17、第1のスキャナ2を介してダイクロイックミラー18へ導かれる。ダイクロイックミラー18により、蛍光は解析用レーザ光と分離されて光検出器6へ導かれる。
光検出器6において、上記蛍光は電気信号に変換され、A/D変換器7においてデジタル信号に変換された後に、制御装置22に入力される。
【0034】
制御装置22は、入力された蛍光のデジタル信号に基づいて、2次元的な蛍光画像を構築し、この蛍光画像をフレームメモリ13に出力することにより、表示部11に表示させるとともに、この蛍光画像の情報を用いて、以下のような手順で各細胞の細胞周期を特定する。
まず、制御装置22は、図3に示すように、当該蛍光画像内における個々の細胞の細胞内成分量を蛍光の輝度(光強度)に基づいて定量的に測定する。この内成分量は、例えば、蛍光輝度総量および最大蛍光輝度などである。蛍光輝度総量は、例えば、各細胞が蛍光画像上で占める各ピクセルの輝度値を足し合わせることにより求めることができる。最大蛍光輝度は、各細胞が蛍光画像上で占める各ピクセルの輝度値の中で最大のものを抽出することにより求めることができる。
【0035】
制御装置22は、個々の細胞について、蛍光輝度総量と最大蛍光輝度とを算出すると、この算出結果に基づいて横軸に蛍光輝度総量を縦軸に最大蛍光輝度を設定した座標軸上にプロットすることにより、細胞周期の状態図を作成する。これにより、図4に示すような細胞周期の状態図が得られることとなる。このように、細胞周期の状態図は、統計的に、U字型のグラフとして現れることとなる。この場合において、制御装置22は、細胞周期の状態図におけるプロットと、蛍光画像における位置座標とを対応付けて記憶しておく。
【0036】
続いて、制御装置22は、細胞周期の状態図に示された特性を5つの細胞周期のエリアに分割する。具体的には、左上の領域をM周期、左下のエリアをG1期、右上の領域をM期、右下の領域をG2期、およびG1期とG2期ではさまれる領域をS期とする。そして、細胞周期の状態図における個々の細胞の座標に基づいて、各細胞の細胞周期を特定し、この細胞周期と蛍光画像における位置座標とを対応付けて記憶装置12に保存する。なお、このとき、制御装置22が、当該細胞周期の状態図を上記蛍光画像とともに、表示部11に表示させることとしても良い。この情報の保存あるいは状態図の表示が終了すると、制御装置22は、当該細胞周期特定処理を終了する。
【0037】
続いて、制御装置22は、光刺激を与える細胞の条件をオペレータに入力させるための細胞特定画面を表示部11に表示する(図2のステップSA2)。この細胞特定画面には、上述した蛍光画像および細胞周期の状態図が表示されているほか、光刺激を与える細胞を細胞周期により指定することのできる入力欄が表示されている。図5に、入力欄の一例を示す。図5に示した入力欄においては、光刺激を与えたい細胞の細胞周期を選択するようになっている。
【0038】
このような細胞特定画面においては、オペレータが、入力欄における細胞周期を選択することにより、光刺激を与える細胞周期を指定することができるようになっている他、表示部11に表示されている蛍光画像或いは細胞周期の状態図において、細胞を個々に指定することにより、光刺激を与える細胞自体を指定することができるようになっている。
なお、上記細胞特定画面における光刺激を与える細胞の条件の入力は、オペレータが入力部13を操作することにより行われる。
【0039】
上記細胞特定画面においてオペレータによって条件が入力されると、(図2のステップSA2)、制御装置22は、この条件に該当する細胞の位置座標を特定し、光刺激を実施する位置座標として設定する(図2のステップSA3)。この場合において、記憶装置12には、各細胞の細胞周期とその位置座標とが対応付けられているので、この対応付けに基づいて、条件に該当する細胞の位置座標を決定することができる。
例えば、M期に該当する細胞に対して光刺激を与えることが条件として入力された場合、制御装置22は、M期に属する細胞の位置座標を記憶装置12から抽出し、光刺激を実施する位置座標として設定する。
【0040】
このようにして、光刺激を与える位置座標を設定すると、制御装置22は、光刺激処理(本発明の「光刺激手段」に相当)と観察画像取得処理(本発明の「観察画像取得手段」に相当)とを並行して実行する。
具体的には、制御装置22は、第1の光源装置1から出射される第1のレーザ光を観察用レーザ光に切り替えるとともに、第2の光源装置15が備えるシャッタを開状態とする。これにより、第1の光源装置1から出射された観察用レーザ光と第2の光源装置から出射された刺激用レーザ光とがダイクロイックミラー17により合波されて、対物レンズ3を介して細胞に照射されることとなる。
【0041】
続いて、制御装置22は、設定した位置座標に光刺激用レーザが順次照射されるように、第2のスキャナ16を作動させる。これにより、図6に示すように、第2の光源装置2から出射された光刺激用レーザ光が、設定された座標位置にある細胞に順次照射される(図2のステップSA4)。これにより、細胞の振る舞いを変化させることができる。例えば、細胞内の特定のたんぱく質を破壊したり、細胞の振る舞いを停滞化させたり、弱めることができる。
【0042】
また、制御装置22は、上記第2のスキャナ16の作動と並行して、第1のスキャナ2を作動させる。これにより、第1の光源装置1から出射された観察用レーザ光が対物レンズ3の焦点面において2次元的に走査され、ステージ5上に載置された細胞に次々と照射されることとなる。
観察用レーザ光の照射により細胞で励起された蛍光は、上記観察用レーザ光と同じ光路を逆向きに進み、対物レンズ3、ダイクロイックミラー17、第1のスキャナ2を介してダイクロイックミラー18へ導かれる。ダイクロイックミラー18により、蛍光は観察用レーザ光と分離されて光検出器6へ導かれる。
光検出器6において、上記蛍光は電気信号に変換され、A/D変換器7においてデジタル信号に変換された後に、制御装置22に入力される。
【0043】
制御装置22は、入力された蛍光のデジタル信号に基づいて、2次元的な蛍光画像を構築し、この蛍光画像をフレームメモリに出力することにより、表示部11に表示させる。これにより、表示部11には、光刺激が照射される前後における細胞の焦点面での蛍光画像、つまり、光刺激が照射される前後における細胞の蛍光輝度の2次元分布が実験結果として表示されることとなる(図2のステップSA5)。これにより、この画像をオペレータが確認することにより、各細胞の挙動を把握することが可能となる。
【0044】
なお、上記光刺激が与えられた後においては、上述した細胞周期特定処理と観察画像取得処理とを制御装置22が交互に繰り返し行うことで、例えば、光刺激を与えた細胞の細胞周期がどのように変化したかを確認することができるとともに、その細胞の挙動を蛍光画像により確認することが可能となる。また、この確認において、光刺激を与える場合には、光刺激モードを実行することにより、所望の細胞に対して光刺激を与えることができる。
【0045】
以上説明してきたように、本実施形態に係る顕微鏡装置Aによれば、細胞の細胞周期を特定した後に、光刺激を与える細胞の座標位置をオペレータにより指定された条件に基づいて設定し、設定した座標位置の細胞に対して光刺激を与えるとともに、この光刺激の前後における蛍光画像を、前記光刺激モードと並行して実行される観察画像取得モードにおいて取得することができる。
このように、所望の細胞に対して光刺激を与えるので、細胞に対して人為的に刺激を与えることができ、細胞の振る舞いを活発化させたり、停滞化させたりすることができる。また、光刺激の前後における観察画面が表示部11に表示されるので、オペレータは、光刺激の前後にわたる細胞の挙動を観察することができる。
【0046】
また、本実施形態に係る顕微鏡装置Aによれば、細胞周期特定処理において特定した細胞周期と細胞の座標位置とを対応付けて記憶装置12に保存するので、所望の細胞周期の細胞に対して選択的に光刺激を与えることができる。
【0047】
なお、本実施形態においては、制御装置22が光刺激処理と観察画像取得処理とを並行して実施することとしたが、光刺激処理と観察画像取得処理とを順次実施することとしても良い。例えば、観察画像取得処理を実行することにより、光刺激直前の蛍光画像を取得し、次に、光刺激処理を行うことにより所定の細胞に光刺激を与え、その後、再び観察画像取得処理を実行することにより、光刺激直後の細胞画像を取得することとしても良い。
【0048】
更に、観察画像取得処理においては、ステージ5に載置されている細胞全体を観察対象として蛍光画像を取得していたが、例えば、観察を行う細胞についても、オペレータが任意に指定できるような構成としても良い。例えば、上述した細胞特定画面において刺激を与える細胞の条件が指定された後に、該細胞特定画面と同様の構成を備える観察用細胞特定画面を表示部11に表示させることにより、観察の対象とする細胞を指定できるようにしても良い。このように、観察を行う細胞についても指定可能とすることにより、実験をより一層効率的に行うことができる。
【0049】
また、本実施形態においては、細胞周期を特定した後に、光刺激を与える細胞を特定するための細胞特定画面を表示させていたが、この細胞特定画面を実験を開始するとき、つまり、細胞周期特定処理を実行する前に(つまり、図2のステップSA1の前に)表示させることとしても良い。これにより、細胞周期特定処理を実行する前に、光刺激を与える細胞を指定するための条件を設定しておくことができるので、細胞周期特定モードが終了したときに、光刺激を与える位置座標を速やかに設定することができ、実験をより円滑に行わせることができる。更に、細胞周期特定モードが終了してから光刺激モードならびに観察画像取得モードを開始するまでの時間を短縮することができるので、時間経過に起因する実験誤差を低減させることができる。
【0050】
また、図7に示すように、最初に、観察画像取得処理を実行することにより、まずは、細胞の蛍光画像を表示部11に表示し(ステップSB1)、この蛍光画面において、オペレータに刺激を与える細胞あるいは領域を指定させ(ステップSB2)、その後、入力された条件に基づいて光刺激を与える位置座標を特定することとしても良い(ステップSB3)。この場合には、光刺激を与える細胞が、細胞周期によってではなく、細胞自体として指定されることとなる。
このようにして、光刺激を与える細胞が指定されると、その後に、細胞周期特定処理を実行することで(ステップSB4)、光刺激を与える細胞が今どの細胞周期にいるのかを把握し、その後、光刺激の対象として指定された細胞に対して光刺激を与えるとともに(ステップSB5)、この光刺激処理と並行して、観察画面取得処理を実行することにより、光刺激を与える前後における蛍光画像を取得することで、細胞の挙動を確認することが可能となる(ステップSB6)。
なお、この場合、光刺激を与えた細胞に限定して細胞観察を行うこととしても良い。
【0051】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態について、図を用いて説明する。
本実施形態の顕微鏡装置が第1の実施形態と異なる点は、図8に示すように、細胞の蛍光をCCD25で検出する点である。なお、この図において、解析・観察用光学系20については、図示を省略している。この解析・観察用光学系20は、通常の顕微鏡光学系の構成でもあってもよいし、多数の微小開口を備えた共焦点ディスクによるディスク走査光学系であっても良い。
【0052】
このような構成によれば、細胞において励起された蛍光が、CCD25によって撮像されることとなるので、蛍光画像を高速に取得することが可能となる。
【0053】
なお、本実施形態においても、CCD25によって取得された蛍光画像を用いて、各細胞の細胞内成分量、つまり、各細胞の蛍光輝度総量と最大蛍光輝度を求め、この細胞内政分量に基づいて細胞周期の状態図を作成することにより、各細胞の細胞周期を特定する。
【0054】
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態について、図を用いて説明する。
本実施形態の顕微鏡装置が第1の実施形態と異なる点は、図9に示すように、解析・観察用光学系と刺激用光学系とを共通の光学系を用いて構成した点である。
具体的には、本実施形態に係る解析・観察・刺激用光学系30は、細胞周期特定用の解析レーザ光、細胞観察用の観察用レーザ光、および、光刺激用レーザ光のいずれか一つのレーザ光を選択的に出射させる第3の光源装置26と、第3の光源装置26から出射されたレーザ光を光軸に交差する方向に2次元的に操作する第1のスキャナ2とを備えている。
【0055】
これにより、細胞周期特定処理においては、第3の光源装置26から解析用レーザ光のみが出射され、光刺激処理においては、第3の光源装置26から光刺激用レーザ光のみが出射され、観察画像取得処理においては、第3の光源装置26から観察用レーザ光のみが出射されることなる。
【0056】
以上述べたように、本実施形態に係る顕微鏡装置によれば、共通する光学系を用いて、細胞周期の特定、光刺激、並びに観察画像の取得を行うことが可能となるので、装置の小型化を図ることができる。
【0057】
〔第4の実施形態〕
次に、本発明の第4の実施形態について、図を用いて説明する。
本実施形態の顕微鏡装置が第1の実施形態と異なる点は、図10に示すように、光刺激用レーザ光を出射する第2の光源装置15に代えて、ハロゲンランプなどの光束径の大きな光を出射させる第4の光源装置27を備える点、および、第2のスキャナ16に代えて、投光管28を備える点である。上記投光管28は、例えば、第4の光源装置27から出射される刺激光の光軸上に配置された複数のレンズにより構成されている。
【0058】
このような構成によれば、上述した第2の光源装置15から出射される刺激用レーザ光よりも光束径の大きな光を第3の光源装置27から出射されることとなるので、広範囲に対して光刺激を効率的に実施することが可能となる。例えば、全ての細胞を包含する領域に対して同時に光刺激を行うことが可能となる。これにより、全ての細胞に対して同時に光刺激を行うことができ、時間による反応誤差をなくすことができる。
【0059】
なお、上述した第4の本実施形態に係る顕微鏡装置と上述した第2の実施形態に係る顕微鏡装置を組み合わせることとしても良い。つまり、図10に示すように、光刺激を第4の光学装置27および投光管28により行うこととし、また、図8に示すように、解析・観察用光学系から出射された第1のレーザ光を細胞に照射することにより励起された蛍光をCCD25にて検出することとしても良い。
また、細胞周期の特定方法として第1の実施形態において採用した方法のほかに、細胞の周期を可視化する蛍光マーカを標本に適用し、図7のステップSB1において観察画像を取得したあとに、その観察画像を解析して各細胞の細胞周期を特定することとしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る顕微鏡装置を示す全体構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る細胞観察方法の手順を示した図である。
【図3】細胞周期特定処理における細胞内成分量の測定について説明するための図である。
【図4】細胞周期特定処理における細胞周期の状態図の一例を示した図である。
【図5】入力欄の一例を示した図である。
【図6】光刺激について説明するための図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係る細胞観察方法の手順を示した図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る顕微鏡装置を示す全体構成図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る顕微鏡装置を示す全体構成図である。
【図10】本発明の第4の実施形態に係る顕微鏡装置を示す全体構成図である。
【符号の説明】
【0061】
A 顕微鏡装置
1 第1の光源装置
2 第1のスキャナ
3 対物レンズ
5 ステージ
6 光検出器
7 A/D変換器
8 CPU
9 メモリ
10 フレームメモリ
11 表示部
12 記憶装置
13 入力部
15 第2の光源装置
16 第2のスキャナ
17、18 ダイクロイックミラー
20 解析・観察用光学系
21 刺激用光学系
22 制御装置
25 CCD
26 第3の光源装置
27 第4の光源装置
28 投光管
30 解析・光刺激・観察用光学系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の細胞周期を特定する細胞周期特定過程と、
前記細胞に対して光刺激を与える光刺激過程と、
前記細胞の観察画像を取得する観察画像取得過程と
を有する細胞観察方法。
【請求項2】
各前記細胞の位置とその細胞周期とを対応付けて記憶する記憶過程と、
光刺激の対象となる細胞周期を指定するための入力過程と、
指定された前記細胞周期に属する前記細胞の位置を、前記記憶過程において記憶した情報を用いて特定する細胞特定過程と
を有し、
前記光刺激過程では、特定した前記位置に対して光刺激を行う請求項1に記載の細胞観察方法。
【請求項3】
光刺激の対象となる細胞を指定するための入力過程を備え、
前記光刺激過程では、指定された細胞に対して光刺激を行う請求項1または請求項2に記載の細胞観察方法。
【請求項4】
細胞周期特定過程では、蛍光を励起させるための照明光を複数の前記細胞に照射し、前記照明光を照射したことにより前記細胞から生ずる蛍光を検出し、該蛍光の輝度を統計的に処理することにより各前記細胞の細胞周期を特定する請求項1から請求項3のいずれかに記載の細胞観察方法。
【請求項5】
細胞の細胞周期を特定するための細胞周期特定手段と、
前記細胞に対して光刺激を与える光刺激手段と、
前記細胞の観察画像を取得する観察画像取得手段と
を具備する顕微鏡装置。
【請求項6】
各前記細胞の位置とその細胞周期とを対応付けて記憶する記憶手段と、
光刺激の対象となる細胞周期を指定するための入力手段と、
指定された前記細胞周期に属する前記細胞の位置を、前記記憶手段に記憶されている情報を用いて特定する細胞特定手段と
を有し、
前記細胞特定手段によって特定された前記細胞の位置に対して、前記光刺激手段が光刺激を行う請求項5に記載の顕微鏡装置。
【請求項7】
光刺激の対象となる細胞を指定するための入力手段を備え、
指定された細胞に対して、前記光刺激手段が光刺激を行う請求項5または請求項6に記載の顕微鏡装置。
【請求項8】
前記細胞周期特定手段が、
複数の前記細胞に蛍光を励起させるための照明光を照射させる光照射光学系と、
前記照明光を照射したことにより前記細胞から生ずる蛍光を検出する光検出手段と、
検出された前記蛍光の輝度を統計的に処理することにより、各前記細胞の細胞周期を特定する細胞周期解析手段と
を具備する請求項5から請求項7の顕微鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−309776(P2007−309776A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138848(P2006−138848)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】