説明

顕微鏡装置

【課題】装置の小型化を図った、共焦点顕微鏡と全反射顕微鏡とを切り換えて使用可能な顕微鏡装置を提供する。
【解決手段】二次元スキャナ34と、正の屈折力を有する集光レンズ203とを備え、集光レンズ203が光軸から外されている場合に、二次元スキャナ34により標本12の走査照明が可能であり、集光レンズ203を光軸に挿入した場合に、標本12の全反射照明が可能である顕微鏡装置1において、集光レンズ203を光軸に挿入した場合に光軸に対して垂直移動可能に構成し、標本12の全反射照明時において、集光レンズ203に入射させるレーザ光源からのレーザ光束を二次元スキャナ34により偏向させるか、または、光軸に挿入した集光レンズ203を光軸に対して垂直移動させるかにより、集光レンズ203を通過したレーザ光束の主光線を光軸に対して垂直方向に移動させ、対物レンズ16の瞳位置Pにおける集光位置を調整可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共焦点顕微鏡と全反射顕微鏡とを切り換えて使用可能な顕微鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
共焦点顕微鏡や全反射蛍光顕微鏡は、生体細胞等の観察に広く利用されている。両者は共にレーザ光源を使用する点で一致しており、共焦点顕微鏡と全反射蛍光顕微鏡とを切り換えて使用することができる顕微鏡装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−121796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の顕微鏡では、共焦点顕微鏡から全反射顕微鏡に切り換える際に、対物レンズの瞳位置の全反射領域にレーザ光を集光させるための光学部材を照明光学系内に挿入しなければならず、この切り換えのために大掛かりな切り換え機構が必要となり、顕微鏡装置の大型化に繋がるという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、装置の小型化を図った、共焦点顕微鏡と全反射顕微鏡とを切り換えて使用可能な顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するため、本発明は、レーザ光源と、前記レーザ光源からのレーザ光束を対物レンズを介して標本に照射する照明光学系と、前記レーザ光源と前記対物レンズとの間に配置され、前記レーザ光源からのレーザ光を偏向する偏向手段と、前記偏向手段と前記対物レンズとの間に挿脱可能に設けられ、前記偏向手段を介した前記レーザ光源からのレーザ光束を前記対物レンズの瞳位置の所定領域に集光するための、正の屈折力を有する集光レンズと、前記標本からの蛍光を検出する蛍光検出光学系とを備え、前記集光レンズが光軸から外されている場合に、前記偏向手段により前記標本の走査照明が可能であり、前記集光レンズを光軸に挿入した場合に、前記標本の全反射照明が可能である顕微鏡装置において、前記集光レンズを、光軸に挿入した場合に、光軸に対して垂直移動可能に構成し、前記標本の全反射照明時において、前記集光レンズに入射させる前記レーザ光源からのレーザ光束を前記偏向手段により偏向させるか、または、光軸に挿入した前記集光レンズを光軸に対して垂直移動させるか、少なくともどちらか一方を行うことにより、前記集光レンズを通過したレーザ光束の主光線を光軸に対して垂直方向に移動させ、前記対物レンズの瞳位置における集光位置を調整可能にした。
【0007】
なお、前記集光レンズは、楔プリズムと、凸レンズとの貼り合わせから構成してもよい。
【0008】
また、前記集光レンズと前記対物レンズとの間に設けられ、前記集光レンズを通過し前記対物レンズの瞳位置に集光されるレーザ光が通るように構成された複数の反射部材と、
光路長を変化させつつ、前記反射部材を通過した前記レーザ光の主光線が光軸に対して平行になるように、前記複数の反射部材のうち少なくとも一つを移動させる移動機構とを備え、前記移動機構を用いて前記複数の反射部材のうち少なくとも一つを移動させることにより、前記複数の反射部材を通過したレーザ光の主光線を光軸に対して垂直方向に移動させ、前記対物レンズの瞳位置における集光位置を調整可能にしてもよい。
【0009】
また、前記集光レンズと前記対物レンズとの間に設けられ、前記集光レンズを通過し前記対物レンズの瞳位置に集光されるレーザ光が通るように構成された平行平板と、前記平行平板を光軸に対して回転させる回転機構とを備え、前記回転機構を用いて前記平行平板を光軸に対して回転させることにより、前記平行平板を通過したレーザ光の主光線を光軸に対して垂直方向に移動させ、前記対物レンズの瞳位置における集光位置を調整可能にしてもよい。
【0010】
また、前記照明光学系として、落射照明光学系を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、装置の小型化を図った、共焦点顕微鏡と全反射顕微鏡とを切り換えて使用可能な顕微鏡装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態に係る顕微鏡装置の概略断面図である。
【図2】本実施形態に係る顕微鏡装置の光学系を示した図である。
【図3】本実施形態に係る顕微鏡装置において、全反射顕微鏡に切り換えた際の顕微鏡装置の光学系を示した図である。
【図4】本実施形態に係る顕微鏡装置を構成する集光レンズの作用を説明する図であり、(a)は共焦点走査照明状態または落射照明状態を、(b)は全反射照明状態を説明する図である。
【図5】本実施形態に係る顕微鏡装置において、光軸上に集光レンズを挿入した際の顕微鏡装置の光学系を示した図である。
【図6】本実施形態に係る顕微鏡装置において、集光レンズを光軸方向に垂直移動可能に構成した際の顕微鏡装置の光学系を示した図である。
【図7】本実施形態に係る顕微鏡装置において、集光レンズの代わりに、楔プリズムと凸レンズとの貼り合わせからなる光学部材を用いた際の顕微鏡装置の光学系を示した図である。
【図8】本実施形態に係る顕微鏡装置において、反射部材を設けた際の顕微鏡装置の光学系を示した図である。
【図9】本実施形態に係る顕微鏡装置において、平行平板を設けた際の顕微鏡装置の光学系を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る顕微鏡装置の概略断面図である。図2は、本実施形態に係る顕微鏡装置の光学系を示した図である。図3は、本実施形態に係る顕微鏡装置において、全反射顕微鏡に切り換えた際の顕微鏡装置の光学系を示した図である。図4は、本実施形態に係る顕微鏡装置を構成する集光レンズの作用を説明する図である。なお、図2、図3では、後述する透過照明光学系の記載を省略している。
【0014】
図1から図4において、顕微鏡装置1は、倒立型蛍光顕微鏡本体2と、顕微鏡本体2に搭載されている各種装置を制御するパーソナルコンピュータ等を有する制御装置(以下、PCと記す)3とから構成される。
【0015】
まず、顕微鏡装置1を透過型顕微鏡として使用する場合について、図1及び図2を用いて説明する。
【0016】
顕微鏡本体2は、ステージ11と、ステージ11に載置された標本12に透過照明光源13からの光を照射する透過照明光学系14と、標本12を透過した光を集光する対物レンズ16と、対物レンズ16を複数搭載したリボルバ15と、結像光学系17と、レンズ19aを備えた接眼鏡筒19と、不図示の接眼レンズとを有する。結像光学系17は、対物レンズ16側から順に、結像レンズ18と、ミラーM1と、リレーレンズ17bと、ミラーM2と、リレーレンズ17cと、ミラーM3とを備える。
【0017】
なお、顕微鏡本体2は、対物レンズ16と結像光学系17との間に、後述の照明光学系51を構成する蛍光キューブボックス20を備えている。蛍光キューブボックス20は、内部に複数の蛍光キューブを装着可能であり、必要に応じて光路上から該当する蛍光キューブを光路上から挿脱可能に構成されている。なお、今回のように透過型顕微鏡として使用する場合、蛍光キューブボックス20内の蛍光キューブは、いずれも光路上から外されている。
【0018】
また、顕微鏡本体2は、結像光学系17を構成する結像レンズ18とミラーM1との間に、プリズム22を備えている。プリズム22は、光路上から挿脱可能に構成されており、標本12の透過像を観察する場合には光路上から外す。
【0019】
透過型顕微鏡として使用する場合、透過照明光源13から射出した光は透過照明光学系14を介してステージ11上の標本12に照射され、標本12を透過した光は対物レンズ16により集光される。そして、対物レンズ16により集光された光は、結像光学系17に入り、結像レンズ18と、ミラーM1とを介して、一次像面17aに結像される。一次像面17aに結像された標本12の像は、リレーレンズ17bと、ミラーM2と、リレーレンズ17cと、接眼鏡筒19のレンズ19a及びミラーM3を介して二次像面18bに結像され、不図示の接眼レンズを介して観察者に観察される。このように、顕微鏡装置1を、透過型顕微鏡として使用することができる。
【0020】
また、本実施形態において、顕微鏡本体2には、共焦点走査観察系31と、落射照明系41とが、共通の照明光学系51を介して配置されている。
【0021】
次に、顕微鏡装置1を走査型顕微鏡(走査型蛍光顕微鏡、共焦点走査型顕微鏡)として使用する場合について、図2を参照しつつ説明する。
【0022】
共焦点走査観察系31は、不図示のレーザ光源と、このレーザ光源からのレーザ光を導く光ファイバ32と、光ファイバ32の端面から射出されたレーザ光を略平行光に変換するコレクタレンズ33と、コレクタレンズ33によって変換された略平行光を標本12上で二次元に走査させる二次元スキャナ34と、二次元スキャナ34を通った略平行光を集光して像面IP1に結像させる瞳リレーレンズ35と、コレクタレンズ33と二次元スキャナ34との間に設けられたダイクロイックミラー36と、ダイクロイックミラー36により反射された光をピンホール38を介してPMT等の受光素子39に結像させる結像レンズ37とを備える。
【0023】
照明光学系51は、像面IP1で瞳リレーレンズ35により結像された像を光軸に略平行なレーザ光に変換する結像レンズ52と、蛍光キューブボックス20内の蛍光キューブ21と、対物レンズ16とを備える。
【0024】
走査型顕微鏡として使用する場合、光路上に配置する上記蛍光キューブ21として、波長選択フィルタ21a、ダイクロイックミラー21b、及び、エミッションフィルタ21cを内蔵したものを、蛍光キューブボックス20内から選択し、光路上に配置する。
【0025】
なお、顕微鏡本体2は、共焦点走査観察系31(具体的には瞳リレーレンズ35)と照明光学系51(具体的には結像レンズ52)との間に、後述する落射照明系41を構成するダイクロイックミラー44を備えているが、共焦点走査観察系31を使用する場合には照明光学系51の光軸上から外す。
【0026】
また、顕微鏡本体2は、結像光学系17を構成する結像レンズ18とミラーM1との間に、光路上から挿脱可能に設けたプリズム22を、共焦点走査観察系31を使用する場合には光路上に配置する。
【0027】
走査型蛍光顕微鏡として使用する場合、共焦点走査観察系31において、不図示のレーザ光源から射出されたレーザ光は、光ファイバ32によりコレクタレンズ33に導かれ、このコレクタレンズ33により略平行光に変換された後、二次元スキャナ34を経て、瞳リレーレンズ35に入射し、この瞳リレーレンズ35により像面IP1にて結像される。続いて、像面IP1から射出したレーザ光は、照明光学系51において、結像レンズ52により略平行光にされた後、蛍光キューブ21に入射する。蛍光キューブ21に入射したレーザ光は、波長選択フィルタ21aにより所定の励起波長のレーザ光が選択された後、ダイクロイックミラー21bにより対物レンズ16の方向に反射され、対物レンズ16に入射して標本12に集光される。
【0028】
レーザ光で励起され標本12で発現した蛍光は、対物レンズ16により集光されて蛍光キューブ21に入射し、蛍光キューブ21を構成するダイクロイックミラー21bを透過し、エミッションフィルタ21cにより所定の蛍光が選択された後、結像レンズ18によりプリズム22を介して撮像素子23に結像され、撮像素子23により蛍光像が撮像される。そして、撮像素子23により撮像された蛍光像は、図1に示すPC3により画像処理され、モニター3aに表示される。このように、顕微鏡装置1は、走査型蛍光顕微鏡として使用することができる。
【0029】
一方、共焦点走査型顕微鏡として使用する場合、標本12で発現した蛍光は、対物レンズ16により集光され、蛍光キューブ21内のダイクロイックミラー21bにより反射され、照明光学系51の結像レンズ52と共焦点走査観察光学系31の瞳リレーレンズ35とを逆行し、二次元スキャナ34に入射してデスキャンされ、ダイクロイックミラー36により反射され、結像レンズ37とピンホール38とを介して、PMT等の受光素子39に入射し、該素子39上の各点での光の強度に基づきPC3により二次元像が生成され、モニター3aに表示される。このように、顕微鏡装置1は、共焦点走査型顕微鏡として使用することができる。
【0030】
なお、顕微鏡装置1では、撮像素子23により撮像された蛍光画像と、受光素子39により受光された共焦点画像とを、モニター3aに重ねて表示させるなどして観察することが可能である。
【0031】
次に、顕微鏡装置1を落射蛍光顕微鏡として使用する場合について、図2を参照しつつ説明する。
【0032】
顕微鏡本体2は、落射照明系41として、不図示の光源と、この光源からの光を導く光ファイバ42と、光ファイバ42の端面から射出された光を略平行光に変換するコレクタレンズ43と、視野絞り45と、照明光学系51の光軸上から挿脱可能に構成されたダイクロイックミラー44とを備える。なお、不図示の光源には、レーザ光源、高圧水銀ランプ、あるいはキセノンランプ等が使用可能である。
【0033】
落射蛍光顕微鏡として使用する場合、照明光学系51内に配置する蛍光キューブ21として、波長選択フィルタ21a、ダイクロイックミラー21b、及び、エミッションフィルタ21cを内蔵したものを、蛍光キューブボックス20内から選択し、光路上に配置する。
【0034】
落射蛍光顕微鏡として使用する場合、落射照明系41において、不図示の光源から射出した光は、光ファイバ42によりコレクタレンズ43に導かれ、このコレクタレンズ43により略平行に変換された後、視野絞り45を介し、照明光学系51の光軸上に配置されたダイクロイックミラー44により反射され、照明光学系51の結像レンズ52により集光され、照明光学系51の光軸に対して略平行な光として光路上に配置された蛍光キューブ21に入射する。蛍光キューブ21に入射した光は、波長選択フィルタ21aにより所定の励起波長のレーザ光が選択され、ダイクロイックミラー21bにより対物レンズ16の方向に反射され、対物レンズ16に入射して標本12に集光される。
【0035】
この光で励起され標本12で発現した蛍光は、対物レンズ16により集光され、蛍光キューブ21を構成するダイクロイックミラー21bを透過し、エミッションフィルタ21cにより所定の蛍光が選択された後、結像レンズ18により結像光学系17内に配置されたプリズム22を介して撮像素子23に結像され、撮像素子23により蛍光像が撮像される。そして、撮像素子23により撮像された蛍光像は、図1に示すPC3により画像処理され、モニター3aに表示される。このように、顕微鏡装置1は、落射蛍光顕微鏡として使用することができる。
【0036】
続いて、顕微鏡装置1を全反射顕微鏡として使用する場合について、図3及び図4(b)を参照しつつ説明する。
【0037】
全反射顕微鏡として使用する場合、照明として、上述の共焦点走査観察系31を使用する。また、蛍光キューブボックス20内から、遮光板202、集光レンズ203、ダイクロイックミラー21b、及び、エミッションフィルタ21cを内蔵した蛍光キューブ201を選択し、光路上に配置する。
【0038】
集光レンズ203は、正の屈折力を持つレンズ群であり、対物レンズ16の瞳位置Pに集光する焦点距離fを有しており、その光軸は照明光学系51の光軸から距離「d」だけ偏心して配置されている(図4(b)参照)。遮光板202は、集光レンズ203の外側を通るレーザ光線を遮光するものであり、集光レンズ203とほぼ同じ大きさの開口が形成されており、集光レンズ203の外側を囲うように設置する。
【0039】
蛍光キューブ201に入射したレーザ光は、その主光線が集光レンズ203によって照明光学系51の光軸に対して略平行となり、対物レンズ16の瞳位置Pにおいて照明光学系51の光軸に対して距離「d」の位置に集光される。この距離「d」は、対物レンズ16の全反射条件となる開口数(NA)の位置に対応している。
【0040】
全反射顕微鏡として使用する場合、共焦点走査観察系31の不図示のレーザ光源から射出されたレーザ光は、光ファイバ32によりコレクタレンズ33に導かれ、このコレクタレンズ33により略平行な光に変換され、二次元スキャナ34に入射する。なお、二次元スキャナ34を構成するXY各ミラーの傾斜角度は、レーザ光を対物レンズ16の瞳位置Pの全反射条件領域に集光させるため、PC3の制御部(図1参照)により所定の角度に制御されている。このような二次元スキャナ34から射出した光軸シフト後のレーザ光は、瞳リレーレンズ35により像面IP1で結像された後、照明光学系51の結像レンズ52を介して、光路上に配置された蛍光キューブ201に入射する。
【0041】
蛍光キューブ201に入射したレーザ光は、集光レンズ203を通ってその主光線が照明光学系51の光軸に対して略平行となった後、ダイクロイックミラー21bにより対物レンズ16の方向に反射され、対物レンズ16の瞳位置Pにおいて照明光学系51の光軸から距離「d」の位置にある輪帯状の全反射条件領域に集光される。全反射条件領域に集光されたレーザ光は、標本12とこれを支持する不図示のガラス基板との境界面にて全反射を起こす入射角で、対物レンズ16から標本12に入射する。全反射角で標本12に入射したレーザ光は、境界面にエバネッセント波を発生し、標本12の境界面近傍では、このエバネッセント波により励起された蛍光が発生する。
【0042】
エバネッセント波で励起され標本12で発現した蛍光は、対物レンズ16により集光されて蛍光キューブ201に入射し、蛍光キューブ201を構成するダイクロイックミラー21bを透過し、エミッションフィルタ21cにより所定の蛍光が選択された後、結像レンズ18によりプリズム22を介して撮像素子23に結像され、撮像素子23により蛍光像が撮像される。そして、撮像素子23により撮像された蛍光像は、図1に示すPC3により画像処理され、モニター3aに表示される。
【0043】
このように、顕微鏡装置1は、前述の蛍光キューブ21を蛍光キューブ201に交換し、この蛍光キューブ201内の集光レンズ203と二次元スキャナ34とを用いて、レーザ光の光軸I1を照明光学系51の光軸から距離「d」だけ略平行に移動させ、対物レンズ16の瞳位置Pの全反射時条件領域に集光させることによって、全反射蛍光顕微鏡として使用することができる。
【0044】
なお、全反射照明時において、対物レンズ16の瞳位置Pの輪帯状の全反射条件領域をレーザ光がスキャンするように、二次元スキャナ34を構成するXY各ミラーの傾斜角度を制御することも可能である。このように輪帯状の全反射条件領域をレーザ光がスキャンすることにより、良好な全反射照明を行うことが可能である。
【0045】
図4を参照して、全反射照明への移行について詳説する。図4(a)は走査型顕微鏡又は落射蛍光顕微鏡として使用する場合の照明状態を示し、図4(b)は全反射顕微鏡として使用する場合の照明状態を示している。
【0046】
図4(a)に示すように、走査型顕微鏡あるいは落射蛍光顕微鏡として使用する場合、結像レンズ52に入射したレーザ光束は、点線で示す(+)最大画角光束、実線で示す像中心光束、及び、破線で示す(−)最大画角光束のいずれの場合も対物レンズ16の瞳位置Pでは集光されていない、照明光学系51の光軸51aに対して略平行な光束である。
【0047】
一方、図4(b)に示す、全反射顕微鏡として使用する場合、レーザ光束は、二次元スキャナ34のXY各ミラーによりその主光線が照明光学系51の光軸51aから紙面上方に距離「d」シフトされ、次に入射した結像レンズ52によりその光軸I1が照明光学系51の光軸51aに対して略平行にされ、続いて入射した集光レンズ203により照明光学系51の光軸51aから距離「d」の位置にある対物レンズ16の瞳位置Pの輪体状の全反射条件領域に集光されるようになっている。この結果、全反射照明が可能となる。なお、集光レンズ203の外側を通るレーザ光は、遮光板202によって遮光されるようになっている。
【0048】
以上のように、顕微鏡装置1は、蛍光キューブボックス20内から対物レンズ16に応じた焦点距離fを持つ集光レンズを備えた蛍光キューブ201に選択して光路上に配置し、この蛍光キューブ201内の集光レンズ203と二次元スキャナ34とを用いて、レーザ光の光軸I1を照明光学系51の光軸から距離「d」だけ略平行に移動させ、対物レンズ16の瞳位置Pの全反射時条件領域に集光させることによって、容易に全反射照明を達成することが可能である。
【0049】
本実施形態においては、図5に示すように、光路上に挿入された対物レンズ16に応じて二次元スキャナ34のXY各ミラーの傾きを制御して、集光レンズ203への入射光に傾きαを持たせることで、対物レンズ16や蛍光キューブ201の切り替えに応じたレーザ光の光軸位置I1、換言すると対物レンズ16の瞳位置Pにおける集光位置を設定することも可能である。
【0050】
例えば、前述の図4(b)に示すように、集光レンズ203に入射するレーザ光の光軸I1が照明光学系51の光軸51aに対して略平行のとき、該レーザ光は対物レンズ16の瞳位置Pにおいて照明光学系51の光軸51aに対して距離「d」の位置に集光していたが、二次元スキャナ34のXY各ミラーの傾きを制御して、図5に示すように、レーザ光の光軸I1が照明光学系51の光軸51aに対して傾きαを持って集光レンズ203に入射するようにすれば、該レーザ光の集光位置を距離「d’」に変更することができる。この場合、照明光学系51の光軸51aに対して傾きαを持って集光レンズ203に入射したレーザ光束は、この集光レンズ203によって、その傾きαがほぼゼロにされ、その光軸は照明光学系51の光軸51aに対して距離「d’」離れて略平行となって、対物レンズ16の瞳位置Pの輪帯状の全反射条件領域に集光される。この結果、全反射照明が可能となる。
【0051】
また、本実施形態においては、顕微鏡装置1に、集光レンズ203及び集光レンズ203の外周を囲うように配置され遮光板202を、共に照明光学系51の光軸51aに対して垂直な方向にシフトさせる駆動機構(不図示)を設け、図6に示すように、集光レンズ203及び遮光板202の位置を照明光学系51の光軸51aに対して垂直な方向に移動させることにより、対物レンズ16や蛍光キューブ201の切替えに応じたレーザ光の光軸位置I1(対物レンズ16の瞳位置Pにおける集光位置)を設定することも可能である。
【0052】
例えば、図6の実線で示す位置に集光レンズ203及び遮光板202がある場合、二次元スキャナ34及び結像レンズ52を通過して、その光軸が、照明光学系51の光軸51aから紙面上方にシフトされ、且つ、照明光学系51の光軸51aに対して略平行となったレーザ光は、実線で示す位置にある集光レンズ203を通過することにより、対物レンズ16の瞳位置Pにおいて照明光学系51の光軸51aから距離「d」離れた全反射条件領域に集光される。この結果、全反射照明が可能となる。前記対物レンズ16が交換されて、全反射条件領域が照明光学系51の光軸51aから距離「d”」離れたものに変更された場合、不図示の駆動機構を駆動して、集光レンズ203及び遮光板202を図6の実線で示す位置から点線で示す位置に垂直シフトすることにより、その場合にも全反射照明を行うことが可能となる。このように集光レンズ203及び遮光板202のシフト量を制御することで、レーザ光の光軸位置I1(瞳位置Pにおける集光位置)を調整することが可能となる。
【0053】
さらに、顕微鏡装置1では、二次元スキャナ34のXY各ミラーの傾きと、集光レンズ203及び遮光板202の照明光学系51の光軸51aに対して垂直な方向へのシフト量とを同時に制御することにより、レーザ光の光軸位置I1(瞳位置Pにおける集光位置)を調整することも可能である。このように両者を同時に制御することによって、二次元スキャナ34のXY各ミラーの傾きの変化量や、集光レンズ203及び遮光板202のシフト量を小さい値に留めることができ、ひいてはレーザ光の光軸位置I1をより高い精度で調整することが可能となる。
【0054】
このように、顕微鏡装置1では、標本12の全反射照明時において、集光レンズ203に入射させるレーザ光源からのレーザ光束を二次元スキャナ34により偏向させるか、または、照明光学系51の光軸51aに挿入した集光レンズ203を該光軸に対して垂直移動させるか、少なくともどちらか一方を行うことにより、集光レンズ203を通過したレーザ光束の主光線I1を光軸に対して垂直方向に移動させ、対物レンズ16の瞳位置Pにおける集光位置を調整可能にした。
【0055】
なお、上記のように、レーザ光の光軸I1が、照明光学系51の光軸51aから紙面上方にシフトされて結像レンズ52に入射し、結像レンズ52を通過後、照明光学系51の光軸51aに対して傾きαを持って集光レンズ203に入射する場合、該レーザ光は集光レンズ203の下端に入射させる必要がある(図5参照)。そのため、集光レンズ203の有効径は、この集光レンズ203に入射するレーザ光の光束径よりも十分大きくする必要がある。
【0056】
そこで、顕微鏡装置1では、集光レンズ203の代わりに、図7に示すように、頂角δ1を有する楔プリズム204aと、対物レンズ16の瞳位置Pに集光する焦点距離fを持つ凸レンズ204bとを貼り合わせた光学部材204を使用することで、装置の小型化を図ることが可能である。なお、楔プリズム204aの頂角δ1は、対物レンズ16の開口数(NA)に合わせて調整されているレーザ光の光軸I1の傾斜角αに対応しており、楔プリズム204aを構成する媒質の屈折率をnとしたとき、条件式 δ1=α/(n−1) で表すことができる。
【0057】
例えば、図7に示すように、二次元スキャナ34及び結像レンズ52を通過して、その光軸が照明光学系51の光軸51aから紙面上方にシフトされ且つ照明光学系51の光軸51aに対して傾きαを持ったレーザ光は、光学部材204に入射すると、該部材を構成する楔プリズム204aによって、その傾きαがほぼゼロにされ、主光線が照明光学系51の光軸51aに対して距離「d」だけ離れて略平行にされた後、同じく光学部材204を構成する凸レンズ204bによって対物レンズ16の瞳位置Pの輪帯状の全反射条件領域に集光される。この結果、全反射照明が可能となる。なお、光学部材204の外側を通るレーザ光は、遮光板202によって遮光されるようになっている。
【0058】
さらに、顕微鏡装置1では、光学部材204及びこのレンズの外周を囲う遮光板202を共に照明光学系51の光軸51aに対して垂直な方向にシフトさせる駆動機構(不図示)を設け、光学部材204及び遮光板202の位置を照明光学系51の光軸51aに対して垂直な方向に移動させることにより、対物レンズ16や蛍光キューブ201の切替えに応じたレーザ光の光軸位置I1を設定することも可能である。
【0059】
また、顕微鏡装置1は、図8に示すように、集光レンズ203と対物レンズ16の瞳位置Pとの間に配置された第1〜第3の反射部材207〜209と、第2の反射部材208を照明光学系51の光軸51aに対して平行移動させる移動機構(不図示)とを備え、集光レンズ203を通り対物レンズ16の瞳位置Pに集光される光が第1〜第3の反射部材207〜209を順に通過するように構成し、移動機構を用いて第2の反射部材208を前記光軸I1に対して対物レンズ16に応じた移動量δ2平行移動させることで、対物レンズ16の瞳位置Pにおける集光位置を変動させることができる。その結果、対物レンズ16や蛍光キューブ201の切替えに応じて、レーザ光の光軸位置I1(瞳位置Pにおける集光位置)を適宜設定することが可能である。
【0060】
例えば、図8において、反射部材207〜209が図中の実線の位置にある場合、その光軸が照明光学系51の光軸51aから紙面上方にシフトされて結像レンズ52に入射したレーザ光は、結像レンズ52を通過してその光軸が照明光学系51の光軸51aに対して略平行にされた後、集光レンズ203に入射する。次いで、レーザ光は、図中の実線で示す位置にある反射部材207〜209で順に反射され、その光軸I1が再び照明光学系51の光軸51aに対して略平行にされた後、対物レンズ16の瞳位置Pにおいて照明光学系51の光軸51aから距離「d」離れた輪帯状の全反射条件領域に集光される。この結果、全反射照明が可能となる。このような対物レンズ16を交換し、全反射条件領域が、瞳位置Pにおいて照明光学系51の光軸51aから距離「d−2δ2」離れたものに変更された場合、不図示の移動機構により、第2の反射部材208を実線で示す位置から点線で示す位置へと光軸方向にδ2だけ瞳側に平行移動させることにより、レーザ光の光軸位置I1(集光位置)が先程よりも光軸側に距離「2δ2」ずれた、照明光学系51の光軸51aから距離「d−2δ2」離れた所望の位置となり、全反射照明が達成される。
【0061】
なお、上記において、反射部材は、第1の反射部材(ミラー207)と、第2の反射部材(折り返しミラー208)と、第3の反射部材(ミラー209)との計3つの部材からなり、第2の反射部材208を光軸に対して平行移動可能に構成したが、これに限定されるわけではなく、該反射部材を通過したレーザ光の光軸位置I1(瞳位置Pにおける集光位置)が調整できればよいため、その構成部材や数、移動させる部材や数及び移動方向など、顕微鏡装置1やニーズに沿って設定することが可能である。
【0062】
また、顕微鏡装置1は、図9に示すように、集光レンズ203と対物レンズ16の瞳位置Pとの間に配置された平行平板210と、平行平板210を照明光学系51の光軸51aに対して回転させる回転機構(不図示)とを備え、集光レンズ203を通り対物レンズ16の瞳位置Pに集光される光が平行平板210を通過するように構成し、対物レンズ16に応じて回転機構を用いて平行平板210を前記光軸に対して傾けることで、平行平板210中を通過するときの光の屈折作用を利用して、対物レンズ16の瞳位置Pにおける集光位置を変動させることができる。その結果、対物レンズ16や蛍光キューブ201の切替えに応じて、レーザ光の光軸位置I1(瞳位置Pにおける集光位置)を適宜設定することが可能である。
【0063】
例えば、図9において、照明光学系51の光軸51aから紙面上方にシフトされて結像レンズ52に入射したレーザ光は、その光軸I1が結像レンズ52を通過して照明光学系51の光軸51aに対して略平行な光線となった後、平行平板210を介して、対物レンズ16の瞳位置Pにおいて照明光学系51の光軸51aから距離「d」離れた輪帯状の全反射条件領域に集光する。この結果、全反射照明が可能となる。次いで、この対物レンズ16を交換し、全反射条件領域が瞳位置Pにおいて照明光学系51の光軸51aから距離「d'''」離れたものに変更された場合、不図示の回転機構により、平行平板210を照明光学系51の光軸51aに対して傾けると、その場合にも全反射照明が可能となる。
【0064】
以上述べたように、本実施形態に係る顕微鏡装置1によれば、共焦点走査観察系31の二次元スキャナ34のXY各ミラーの傾斜角度を所定の傾きに制御し、蛍光キューブボックス20内から対物レンズ16の瞳位置Pに集光する焦点距離fを持った集光レンズ203を備えた蛍光キューブ201を選択して光路上に配置することにより、全反射蛍光観察を可能にすることができる。また、透過観察、走査型蛍光観察、共焦点走査型観察、落射蛍光観察等の顕微鏡としても使用可能な顕微鏡装置1を提供することができる。
【0065】
以上、本発明を分かりやすくするために、実施形態の構成要件を付して説明したが、本発明がこれに限定されるものではないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0066】
1 顕微鏡装置
2 倒立型蛍光顕微鏡(顕微鏡本体)
3 制御装置(PC)
11 ステージ
12 標本
13 透過照明光源
14 透過照明光学系
15 リボルバ
16 対物レンズ
17 結像光学系
18 結像レンズ
19 接眼鏡筒
20 蛍光キューブボックス
21 蛍光キューブ
22 プリズム
23 撮像素子
31 共焦点走査観察系
32 光ファイバ
33 コレクタレンズ
34 二次元スキャナ(偏向手段)
35 瞳リレーレンズ
41 落射照明系
42 光ファイバ
43 コレクタレンズ
44 ダイクロイックミラー
51 照明光学系
52 結像レンズ
201 蛍光キューブ
202 遮光板
203 集光レンズ
204 光学部材
204a 楔プリズム
204b 凸レンズ
207〜209 反射部材
210 平行平板
P 対物レンズの瞳位置
I1 レーザ光の光軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源と、
前記レーザ光源からのレーザ光束を対物レンズを介して標本に照射する照明光学系と、
前記レーザ光源と前記対物レンズとの間に配置され、前記レーザ光源からのレーザ光を偏向する偏向手段と、
前記偏向手段と前記対物レンズとの間に挿脱可能に設けられ、前記偏向手段を介した前記レーザ光源からのレーザ光束を前記対物レンズの瞳位置の所定領域に集光するための、正の屈折力を有する集光レンズと、
前記標本からの蛍光を検出する蛍光検出光学系とを備え、
前記集光レンズが光軸から外されている場合に、前記偏向手段により前記標本の走査照明が可能であり、
前記集光レンズを光軸に挿入した場合に、前記標本の全反射照明が可能である顕微鏡装置において、
前記集光レンズを、光軸に挿入した場合に、光軸に対して垂直移動可能に構成し、
前記標本の全反射照明時において、前記集光レンズに入射させる前記レーザ光源からのレーザ光束を前記偏向手段により偏向させるか、または、光軸に挿入した前記集光レンズを光軸に対して垂直移動させるか、少なくともどちらか一方を行うことにより、前記集光レンズを通過したレーザ光束の主光線を光軸に対して垂直方向に移動させ、前記対物レンズの瞳位置における集光位置を調整可能にしたことを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項2】
前記集光レンズは、楔プリズムと、凸レンズとの貼り合わせからなることを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡装置。
【請求項3】
前記集光レンズと前記対物レンズとの間に設けられ、前記集光レンズを通過し前記対物レンズの瞳位置に集光されるレーザ光が通るように構成された複数の反射部材と、
光路長を変化させつつ、前記反射部材を通過した前記レーザ光の主光線が光軸に対して平行になるように、前記複数の反射部材のうち少なくとも一つを移動させる移動機構とを備え、
前記移動機構を用いて前記複数の反射部材のうち少なくとも一つを移動させることにより、前記複数の反射部材を通過したレーザ光の主光線を光軸に対して垂直方向に移動させ、前記対物レンズの瞳位置における集光位置を調整可能にしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の顕微鏡装置。
【請求項4】
前記集光レンズと前記対物レンズとの間に設けられ、前記集光レンズを通過し前記対物レンズの瞳位置に集光されるレーザ光が通るように構成された平行平板と、
前記平行平板を光軸に対して回転させる回転機構とを備え、
前記回転機構を用いて前記平行平板を光軸に対して回転させることにより、前記平行平板を通過したレーザ光の主光線を光軸に対して垂直方向に移動させ、前記対物レンズの瞳位置における集光位置を調整可能にしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の顕微鏡装置。
【請求項5】
前記照明光学系として、落射照明光学系を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の顕微鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−118265(P2011−118265A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277354(P2009−277354)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】