説明

顕微鏡観察システムおよびそれに用いる生物試料用容器

【課題】細胞等の生物試料のトレーサビリティの管理に有用な顕微鏡観察システムおよびそれに用いる生物試料用容器を提供する。
【解決手段】生物試料を収容する透明樹脂からなる容器本体11と、この容器本体11に設けられ、前記生物試料に関する情報を格納可能なメモリを内蔵するICチップとアンテナとを有する生物試料用容器10と、前記容器10内の生物試料を観察可能な光学顕微鏡20と、光学顕微鏡20に取り付けられ、前記生物試料に関する情報を前記ICチップに前記アンテナを介して読み書き可能な非接触式ICタグリーダ/ライタ31と、を具備する顕微鏡観察システム100、およびこれに用いる生物試料用容器10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡観察システムおよびそれに用いる生物試料用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば再生医療分野において、患者から採取した細胞や組織等をシャーレあるいはウェルプレートといった培養容器で培養し、再び患者に移植するまでのトレーサビリティの管理強化に対する要望が高まっている。
【0003】
従来、この種の管理は、培養容器に、患者名、採取日、培養条件、観察条件等の管理すべき情報を直接記入するか、あるいは、情報を記入したラベルを容器に貼り付けることによって行っている。しかし、培養に用いるインキュベータは温度とともに湿度も一定に保つため、水分によりラベルの品質が劣化するおそれがあり、また、消毒用エタノール等の使用により印字そのものが劣化し、情報の消失に繋がるおそれがあった。さらに、作業者自身が情報を管理することになるため、作業者の負担が大きいとともに、記入ミスやラベルの読み取りミス等が発生するおそれもあった。
【0004】
このような中、情報を容易に書き込み、保存、読み取り可能なICタグを用いた商品管理システム等が開発され(例えば、特許文献1、特許文献2参照)、医療分野への応用が期待されている。すなわち、ICタグにより上記のような患者から採取した細胞等を管理することができれば、作業者の負担を減らし、トレーサビリティの信頼性を高めることができると考えられる。しかし、一般の商品の管理と異なり、対象物やその管理方法の特殊性から応用にあたって解決すべき課題が少なくなく、未だ、かかる管理システムを構築するまでに至っていないのが現状である。
【特許文献1】特開2005−332046号公報
【特許文献2】特開2006−6261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、細胞等の生物試料のトレーサビリティの管理に有用な顕微鏡観察システムおよびそれに用いる生物試料用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る顕微鏡観察システムは、生物試料を収容する透明容器と、この透明容器に取り付けられ、前記生物試料に関する情報を格納可能なメモリを内蔵するICチップ及びアンテナを有するICタグとを備える生物試料用容器と、前記透明容器内の生物試料を観察可能な顕微鏡と、前記顕微鏡に取り付けられ、前記生物試料に関する情報を前記ICチップに前記アンテナを介して読み書き可能な非接触式ICタグリーダ/ライタと、を具備することを特徴としている。
【0007】
また、本発明の一態様に係る生物試料用容器は、生物試料を顕微鏡で観察するシステムに用いる生物試料用容器であって、前記生物試料を収容する透明容器と、この透明容器に取り付けられ、前記生物試料に関する情報を格納可能なメモリを内蔵するICチップとアンテナとを有するICタグとを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様に係る顕微鏡観察システムおよび生物試料用容器によれば、ICタグによる細胞等を生物試料のトレーサビリティの信頼性の高い管理が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を用いて説明する。なお、以下では本発明の実施の形態を図面を用いて説明するが、それらの図面は図解のために提供されるものであり、本発明はこれらの図面に何ら限定されるものではない。
(第1の実施の形態)
【0010】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る顕微鏡観察システムの構成を概略的に示した図である。
【0011】
図1に示すように、本実施形態の顕微鏡観察システム100は、生物試料用容器10と、光学顕微鏡20とを備えている。光学顕微鏡は、正立顕微鏡、倒立顕微鏡、位相差顕微鏡、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡、蛍光顕微鏡および共焦点レーザー顕微鏡のいずれであってもよく、観察対象の生物試料の種類等によって適宜選択可能である。具体的には、例えば、オリンパス社製のBX51、BX61、IX71、IX81等が使用される。
【0012】
生物試料用容器10は、図2に拡大して示すように、細胞等の生物試料を収容する凹部を有するポリスチレン等の透明樹脂からなる円筒状の容器本体11と、この本体11に所要のクリアランスをもって嵌合可能な円筒状の蓋体12とを有している。蓋体12も容器本体11と同様、ポリスチレン等の透明樹脂で形成されている、なお、図2(a)および(b)はそれぞれ容器本体11および蓋体12を示した図であり、図2(c)は容器本体11に蓋体12を嵌合させた状態を示した図である。
【0013】
容器本体11の側壁の外表面には、ICチップとアンテナとを有するICタグ13が例えば接着剤によって固定されている。ICチップはEPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)を内蔵しており、容器本体11の凹部に収容される生物試料を固有に識別する識別情報、例えば、採取した患者名、性別、年齢、血液型等の患者情報、採取日、検体種別等の検体情報、生物試料に施した処理の条件、あるいは動物細胞の種類、継代代数、初期に播種した細胞数、生物試料の培養日数や培養温度、培養装置等の培養に関する情報等の、生物試料に関する情報を格納できるようになっている。アンテナは、非接触にてEPROMに前記情報の書き込み(ライト)もしくは読み取り(リード)を行うために設けられている。
【0014】
なお、図示は省略したが、ICタグ13は、容器本体11の側壁外表面に凹部を設け、この凹部に固定するようにしてもよい。これにより容器本体11の側壁外表面からのICタグ13の突き出しを抑え、容器本体11の取り扱いを容易にすることができる。また、例えばそのような凹部に係止用の爪を設け、この爪にICタグ13を係止させることにより、ICタグ13を容器本体11に着脱自在に固定することも可能である。着脱自在とすることによりICタグ13を再利用することが可能となる。ICタグを容器本体に着脱自在に固定する方法としては、係止用の爪による方法の他、再剥離可能な両面粘着テープや、一時的に仮固定可能な接着剤による方法等を用いることができる。
【0015】
ICタグ13は、さらに、側壁内に埋設させることも可能である。この場合、ICタグ13の再利用は困難になるものの、容器本体11を通常のものと同様に取り扱うことが可能となり、また、ICタグ13が容器本体11から誤って脱落するような事故の発生も防止することができる。
【0016】
一方、光学顕微鏡20の、生物試料用容器10を載置するステージ21の近傍には、ICタグリーダ/ライタ30のアンテナ31が、ステージ21の観察領域に生物試料用容器10を載置したときに、その生物試料用容器10に取り付けられたICタグ13と非接触でリード/ライトできるように配置される。アンテナとしては、例えばループアンテナ、パッチアンテナ、スロットアンテナ、ノッチアンテナ、誘電体アンテナ等が使用される。なお、ICタグリーダ/ライタ30が、ICタグ13から情報を読み取り、また、ICタグ13に情報を書き込むためには、アンテナ31の向きとともに、両者を通信可能範囲にまで近づけることが必須である。本発明においては、必要に応じて、容器本体11の側壁外表面に補助アンテナを設けることができる。
【0017】
ICタグリーダ/ライタ30には、ICタグリーダ/ライタ30で読み取ったICタグ13の生物試料に関する情報を記憶するとともに、光学顕微鏡による生物試料の観察情報、例えば、観察者、観察日時、観察温度、レンズ倍率等の観察条件に関する情報や観察結果等を格納するデータベース41を備えたコンピュータ42が接続されている。
【0018】
このように構成される顕微鏡観察システム100においては、細胞等の生物試料を収容した生物試料用容器10を、観察のために光学顕微鏡20のステージ21上の観察領域に載置する。この生物試料用容器10の容器本体11に取り付けられているICタグ13には、予め生物試料を固有に識別する識別情報等が書き込まれており、ICタグリーダ/ライタ30が、その情報を読み取り、その読み取った情報をコンピュータ42へ送信する。観察者はこのコンピュータ42へ送られてきた情報を確認しながら、光学顕微鏡20で生物試料を収容した生物試料用容器10を観察し、その観察情報を生物試料を固有に識別する識別情報等とともにコンピュータ42に保存する。観察情報は、ICタグリーダ/ライタ30により、生物試料用容器10に取り付けられたICタグ13に書き込むことも可能である。
【0019】
本実施形態においては、生物試料に関する情報が、生物試料用容器10に取り付けられたICタグ13のICチップに読み書きされるので、従来のように生物試料用容器に筆記具を用いて直接記入したりラベルに記入して貼り付けた場合のように、培養や処理等の過程で失われるおそれはない。また、そのような生物試料に関する情報が、生物試料を光学顕微鏡で観察する際に、ICタグリーダ/ライタによって読み書きされるため、情報の記入ミスや読み取りミスの発生が抑制される。したがって、細胞等の生物試料について信頼性の高いトレーサビリティが可能となる。
【0020】
(その他の実施の形態)
上記第1の実施の形態では、ICタグ13を生物試料用容器10の容器本体11の側壁に取り付けているが、例えば蓋体12の側壁、または蓋体12底部の光学顕微鏡による生物試料の観察に支障をきたさない周辺部に設けることも可能である。しかしながら、蓋体12と容器本体11はそれぞれ個別に取り扱われることも少なくないため、組み合わせミスを防止する観点からは、容器本体11に取り付けることが好ましい。なお、蓋体12の側壁にICタグ13を取り付けた場合にはICタグリーダ/ライタ30のアンテナ31は、上記第1の実施形態の場合と同様の位置に設ければよいが、蓋体12底部に設ける場合には、光学顕微鏡20のステージ21の上方、ICタグ13と向き合うようにアンテナ31を設ける必要がある。このように蓋体12にICタグ13を用いた場合でも、必要に応じて補助アンテナを設けることができる。
【0021】
また、上記第1の実施の形態では、生物試料用容器10として、生物試料を収容する凹部が1個のみのいわゆるシャーレを用いた例について説明したが、例えば、図3に示すような凹分を複数個配列したいわゆるウェルプレート10Aや、図4に示すような培養瓶10B等であってもよいことは言うまでもない。
【0022】
なお、本発明は、以上説明した実施形態の記載内容に限定されるものではなく、構造や材質、各部材の配置などは、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る顕微鏡観察システムの構成を概略的に示す図である。
【図2】図1に示す生物試料用容器の構成を拡大して示す斜視図である。
【図3】本発明を適用可能な生物試料用容器の他の例を示す斜視図である。
【図4】本発明を適用可能な生物試料用容器のさらに他の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0024】
10…生物試料用容器、10A…ウェルプレート、10B…培養瓶、11…容器本体、12…蓋体、13…ICタグ、20…光学顕微鏡、21…ステージ、30…ICタグリーダ/ライタ、31…アンテナ、100…顕微鏡観察システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物試料を収容する透明容器と、この透明容器に取り付けられ、前記生物試料に関する情報を格納可能なメモリを内蔵するICチップ及びアンテナを有するICタグとを備える生物試料用容器と、前記透明容器内の生物試料を観察可能な顕微鏡と、前記顕微鏡に取り付けられ、前記生物試料に関する情報を前記ICチップに前記アンテナを介して読み書き可能な非接触式ICタグリーダ/ライタと、を具備することを特徴とする顕微鏡観察システム。
【請求項2】
前記非接触式ICタグリーダ/ライタは、前記生物試料用容器が前記顕微鏡のステージ上の観察領域に載置されたときに、前記ICチップに前記情報を読み書きするように構成されていることを特徴とする請求項1記載の顕微鏡観察システム。
【請求項3】
生物試料を顕微鏡で観察するシステムに用いる生物試料用容器であって、前記生物試料を収容する透明容器と、この透明容器に取り付けられ、前記生物試料に関する情報を格納可能なメモリを内蔵するICチップとアンテナとを有するICタグとを備えることを特徴とする生物試料用容器。
【請求項4】
前記透明容器は側壁を有しており、この側壁に前記ICタグが取り付けられていることを特徴とする請求項3記載の生物試料用容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−162648(P2009−162648A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−1260(P2008−1260)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】