説明

顕微鏡

【課題】蛍光、ラマン散乱光等の観察光と励起光の波長の順序が変動しても同一の光学系を用いて複数の波長の光を観察することができる。
【解決手段】異なる照明光を射出する複数の光源部4,5と、該光源部4,5から射出された複数の照明光を標本Aに集光する対物光学系6,7と、光源部4,5からの複数の照明光を標本A上の異なる位置に集光させるように対物光学系6,7に導光する照明光学系8,9,10と、照明光を照射することにより標本Aにおいて発生した複数の観察光を異なる位置に結像させる結像光学系11と、該結像光学系11による異なる結像位置において複数の観察光を検出する光検出部12とを備える顕微鏡1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の光源から発せられた異なる波長の励起光により、標本において発生した異なる波長の蛍光を波長によって分離して複数の蛍光画像を取得する蛍光顕微鏡が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この顕微鏡は、2つの励起光と2つの蛍光とを3つのダイクロイックミラーの組み合わせによって波長の順序に従って分離する方式のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−333516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、励起光の波長が同一であっても発生する蛍光の波長は、標本の状態や標本に導入する蛍光薬剤の種類によって変化する。このため、標本の状態や標本に導入する蛍光薬剤の種類によっては、励起光と蛍光の波長の順序が入れ替わることがある。そのような場合には、同一のダイクロイックミラーの組み合わせによっては蛍光を励起光と分離して検出することができないため、同一の光学系を用いて観察することができないという不都合がある。このような問題は、ラマン散乱光においても同様に生じる。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、蛍光、ラマン散乱光等の観察光と励起光の波長の順序が変動しても同一の光学系を用いて複数の波長の光を観察することができる顕微鏡を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、異なる照明光を射出する複数の光源部と、該光源部から射出された複数の照明光を標本に集光する対物光学系と、前記光源部からの複数の照明光を前記標本上の異なる位置に集光させるように前記対物光学系に導光する照明光学系と、前記照明光を照射することにより前記標本において発生した複数の観察光を異なる位置に結像させる結像光学系と、該結像光学系による異なる結像位置において前記複数の観察光を検出する光検出部とを備える顕微鏡を提供する。
【0007】
本発明によれば、複数の光源部から発せられた異なる照明光は、照明光学系により導光されて対物レンズにより標本上の異なる位置に集光させられ、各集光位置において観察光が発生される。標本上の異なる位置において発生した複数の観察光は、結像光学系によって異なる位置に結像させられ、その結像位置に配置されている光検出部によって検出される。すなわち、観察光を波長により分離するのではなく、空間的に分離することにより、照明光と観察光との波長順序が変動しても同一の光学系を用いて、複数の観察光を観察することができる。
【0008】
上記発明においては、前記光源部が、異なる照明光を発生する複数の光源と、該光源からの照明光をライン状に集光させる線状集光素子とを備えていてもよい。
このようにすることで、標本上にライン状の照明光を照射してライン状の観察像を検出することができる。
【0009】
また、上記発明においては、前記光検出部が、単一の光検出器であり、前記結像光学系が、複数の観察光を前記光検出器の異なる位置に結像させてもよい。
このようにすることで、複数の観察光を検出する光検出器を共用することができ、装置の構成を簡易化することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記光検出器により検出された複数の観察光の検出光量値と、前記観察光相互間の検出光量値の差分とに基づいて前記光源部から射出させる光量を制御する光源制御部とを備えていてもよい。
このようにすることで、複数の観察光の検出光量値に大きな差がある場合に、いずれかの観察光が検出されなかったり飽和してしまったりする不都合の発生を防止することができる。また、複数の観察光の検出光量値の差分を低減させることにより、単一の光検出器によっても複数の観察光を精度よく検出することができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記光検出部が、複数の画素を配列してなる光検出器を備え、前記線状集光素子が、前記光検出器の画素の配列方向に沿うライン状に前記照明光を集光させてもよい。
このようにすることで、画素毎に検出ムラが発生せず、観察光の分布を定量的に検出することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記標本を搭載するステージと、該ステージを、標本上に集光されたライン状の照明光の長さ方向に交差する方向に移動させるステージ駆動手段とを備え、該ステージ駆動手段による前記ステージの移動速度が以下の関係を満たすこととしてもよい。
V=F×P/β
ここで、Vはステージの移動速度(mm/sec)、Fは光検出器の転送レート(フレーム/sec)、Pは光検出器の画素ピッチ(mm)、βは撮影倍率である。
【0013】
このようにすることで、標本の1フレーム当たりの移動量と、光検出器の画素ピッチを同一とすることができ、ライン状の照明光の長さ方向およびこれに直交する方向に同じ分解能の見易い観察画像を取得することができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記結像光学系と前記光検出器との間に配置され、前記標本におけるライン状の観察光の像の長さ方向に直交する方向に観察光を波長毎に分散させる波長分散素子を備えていてもよい。
このようにすることで、波長分散素子により観察光を波長毎に分散させて観察光のスペクトルを取得することができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記波長分散素子は、該波長分散素子が一の観察光から生成する0次光が、他の観察光から離れるように設定された格子面を有する回折格子であるってもよい。
このようにすることで、強度の大きな0次光が他の観察光とともに検出されてしまう不都合の発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、観察光と励起光の波長の順序が変動しても同一の光学系を用いて複数の波長の光を観察することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る顕微鏡を示す模式的な全体構成図である。
【図2】図1の顕微鏡の光源部の構造を示す(a)側面図、(b)(a)に直交する方向から見た側面図である。
【図3】図1の顕微鏡において標本上に集光される励起光の対物レンズの視野範囲との位置関係を示す図である。
【図4】図1の顕微鏡における標本上における励起光の集光位置を対物レンズの光軸からシフトさせる方法の変形例を示す図である。
【図5】図1の顕微鏡の変形例であって、2つの落射照明用の照明部を有する場合を示す図である。
【図6】図1の顕微鏡の変形例であって、2つの落射照明用の照明部と1つの透過照明用の照明部とを有する場合を示す図である。
【図7】図1の顕微鏡の変形例であって、スキャナを有する場合を示す図である。
【図8】図1の顕微鏡の変形例であって、(a)は、一方の蛍光の強度を観察し、他方の蛍光のスペクトルを観察する場合の模式的な全体構成図、(b)は、CCDの撮像面上の蛍光の集光状態を示す図である。
【図9】図8の顕微鏡に備えられる回折格子の入射光と回折光との関係を示す模式図である。
【図10】図1の顕微鏡の変形例であって、2つの蛍光のスペクトルを観察する場合の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態に係る顕微鏡1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る顕微鏡1は、図1に示されるように、標本Aを搭載するステージ2と、該ステージ2を駆動するステージ駆動部3と、異なる波長の励起光(照明光)を射出する2つの光源部4,5と、該光源部4,5から射出された励起光をそれぞれ標本A上に集光する対物レンズ6,7と、2つの光源部4,5から射出された2つの励起光を標本A上の異なる位置に集光させるように各対物レンズ6,7に導光するリレーレンズ8,9と、対物レンズ6により集光された蛍光を励起光から分岐させるダイクロイックミラー10と、該ダイクロイックミラー10によって分岐された蛍光を集光する結像レンズ(結像光学系)11と、該結像レンズ11により集光された蛍光を検出するCCD(光検出部)12とを備えている。CCD12とダイクロイックミラー10との間には、蛍光を透過し励起光を遮断するバリアフィルタ13が配置されている。
【0019】
各光源部4,5は、図2(a)および図2(b)に示されるように、水銀ランプ、ハロゲンランプ、タングステンランプ、レーザ光源、LEDあるいはLDのような光源4a,5aと、該光源4a,5aからの励起光を略平行光にする集光レンズ4b,5bと、略平行光となった励起光をライン状に集光するシリンドリカルレンズ(線状集光素子)4c,5cとを備えている。これにより、各光源部4,5は、ライン状の励起光を射出するようになっている。図2(a)と図2(b)とは相互に直交する方向から見た図である。符号4d,5dのようなスリットを備えていてもよい。
【0020】
一方の光源部4は、ステージ2上の標本Aに対してCCD12と同じ側に配置された落射照明用の光源部4であり、他方の光源部5は、標本Aに対してCCD12とは反対側に配置された透過照明用の光源部5である。
【0021】
ステージ駆動部3は、対物レンズ6,7により標本A上に集光されたライン状の励起光の像の長さ方向に直交する方向に標本Aを移動させるようになっている。ステージ駆動部3による標本Aの移動速度は、以下の式(1)のように設定されている。
V=F×P/β (1)
ここで、Vはステージ2の移動速度(mm/sec)、FはCCD12の転送レート(フレーム/sec)、PはCCD12の画素ピッチ(mm)、βは撮影倍率である。
【0022】
各リレーレンズ8,9は、対応する各光源部4,5の射出端におけるライン状の集光位置と標本Aの位置とが光学的に共役な位置関係になるように、各光源部4,5からの励起光を対応する各対物レンズ6,7の入射瞳位置に略平行光として入射させるようになっている。
【0023】
各リレーレンズ8,9の光軸は、対応する各光源部4,5の光軸に対してそれぞれシフトさせられている。これにより、各光源部4,5から射出され各リレーレンズ8,9を介した励起光は、光軸に対して傾斜した方向から各対物レンズ6,7に入射し、標本A上には各対物レンズ6,7の光軸から離れた位置にライン状に集光されるようになっている。
【0024】
2つのリレーレンズ8,9の光軸のシフト方向を異ならせることにより、2つの光源部4,5からの2種類の励起光は、標本A上の異なる位置に集光されるようになっている。本実施形態においては、図3に示されるように、平行間隔をあけて配される2本のライン状の照明Bとして標本A上に集光されるようになっている。図中、符号Cは対物レンズ4,5の視野範囲を示している。
CCD12の撮像面は、対物レンズ6および結像レンズ11によって、標本Aと共役な位置に配置されている。
【0025】
このように構成された本実施形態に係る顕微鏡1の作用について、以下に説明する。
本実施形態に係る顕微鏡1を用いてステージ2上の標本Aの蛍光観察を行うには、2つの光源部4,5から同時に励起光を射出させる。
【0026】
落射照明用の光源部4から射出された励起光は、リレーレンズ8によって略平行光とされ、ダイクロイックミラー10によって反射され、対物レンズ6の光軸に対して傾斜した方向から対物レンズ6に入射され、対物レンズ6によってステージ2上の標本Aに集光される。
また、透過照明用の光源部5から射出された励起光は、リレーレンズ9によって略平行光とされて、対物レンズ7の光軸に対して傾斜した方向から対物レンズ7に入射され、対物レンズ7によってステージ2上の標本Aに集光される。
【0027】
各光源部4,5の射出端からは、ライン状の励起光が射出されており、射出端と標本Aとは光学的に共役な位置関係に配置されているので、標本A上にはライン状の励起光が集光される。
各光源部4,5からの励起光の標本Aにおける集光位置においては、蛍光物質が励起されることにより蛍光が発生する。発生した蛍光は対物レンズ6により集光され、ダイクロイックミラー10を透過して、結像レンズ11により結像され、CCD12に入射される。
【0028】
CCD12の撮像面と標本Aとは光学的に共役な位置関係に配置されているので、蛍光は結像レンズ11によって、CCD12の撮像面にライン状に集光される。
ここで、CCD12の撮像面上に集光されるライン状の蛍光は、その長さ方向がCCD12の画素配列方向に一致していることが好ましい。このようにすることで、画素毎の検出信号にムラを発生させることなく、正確に蛍光を検出することができる。
【0029】
そして、落射照明用の励起光および透過照明用の励起光は、標本A上の異なる位置に集光されているので、その集光位置から発生した蛍光もCCD12の撮像面における異なる位置に集光する。
これにより、CCD12には、標本A上の平行間隔をあけた2本のライン状の照明の位置における蛍光像を同時に取得することができる。
【0030】
この状態で、ステージ駆動部3を作動させて、ステージ2をライン状の励起光の像の長さ方向に直交する方向に移動させることにより、標本A上において励起光を2次元範囲に走査させることができる。したがって、各励起光の集光位置において取得したライン状の蛍光画像をステージ2の位置と対応づけて蓄積することにより、標本Aの2次元的な蛍光画像を2種類同時に取得することができる。
【0031】
このように、本実施形態に係る顕微鏡1によれば、標本Aの状態や標本Aに導入する蛍光薬剤等の種類によって、観察する光と励起光の波長の順序が変動しても同一の光学系を用いて複数の波長の光を観察することができるという利点を有する。
また、本実施形態に係る顕微鏡1によれば、式(1)を満たすようにステージ2の移動速度を設定しているので、標本Aの1フレーム当たりの移動量と、CCD12の画素ピッチとを一致させることができ、縦横方向に同じ分解能の見易い蛍光画像を取得することができるという利点がある。
【0032】
また、本実施形態においては、2本のライン状の励起光を標本A上に同時に集光した状態で、ステージ2を一方向に移動させるので、一方の励起光が最初に標本A上を走査させられる。したがって、最初に走査される側の励起光のエネルギ密度を後に走査される側の励起光のエネルギ密度より小さく設定することが好ましい。これにより、標本Aに与えるダメージを低減しつつ、両蛍光を観察することができる。
【0033】
なお、本実施形態においては、リレーレンズ8,9の光軸に対して、各光源部4,5の光軸をシフトさせることにより、標本A上における励起光の集光位置を対物レンズ6,7の光軸から離れた位置に設定した。これに代えて、図4に示されるように、リレーレンズ8,9の光軸と光源部4,5の光軸とを一致させた状態で、ダイクロイックミラー10の傾斜角度をリレーレンズ8の光軸に対して45°とは異なる角度に設定してもよい。
【0034】
これによっても、対物レンズ6への励起光の入射角度を対物レンズ6の光軸に対して傾斜させることができ、標本A上における励起光の集光位置を対物レンズ6の光軸から離れた位置に設定することができる。
また、リレーレンズ8の光軸のシフトと、ダイクロイックミラー10の角度調節の両方によって、励起光の集光位置を対物レンズ6の光軸から離れた位置に設定してもよい。
【0035】
また、本実施形態においては、2つの光源部4,5を標本Aを挟んで両側にそれぞれ配置し、落射照明観察と透過照明観察とを行うこととしたが、これに代えて、図5に示されるように、2つの光源部4をCCD12側に配置して2種類の落射照明を行うことにしてもよい。また、その逆に、2種類の透過照明を行うことにしてもよい。さらに、図6に示されるように、2種類の落射照明と1つの透過照明により3種類の蛍光観察を行うこととしてもよい。
【0036】
また、CCD12として、単一の2次元CCDを例示したが、これに代えて、各蛍光の集光位置に配置されるラインCCDを複数用意してもよい。
また、単一の2次元CCDによって2種類の蛍光を検出する場合には、2種類の蛍光の検出光量I1,I2が以下の関係となるように光源部4,5を制御する光源制御部(図示略)を備えることとしてもよい。
【0037】
例えば、
I1<0.8×α、I2<0.8×α、|I1−I2|<0.3×α
ここで、αはCCDの飽和検出光量である。
【0038】
CCD12が単一である場合には、一方の検出光量に合わせてCCD12の調整を行うと、他方が暗い場合は検出されず、他方が明るい場合は検出光量が飽和して正確に検出されない問題が生ずるので、上記関係式を満たすように光源部4,5を制御することで、上記問題の発生を防止することができる。上記式の係数は一例である。
【0039】
また、本実施形態においては、ステージ2の移動により励起光を標本A上で走査させることとしたが、これに代えて、図7に示されるように、光源部4とリレーレンズ8との間に、一対のリレーレンズ15,16とスキャナ17とを設けることにしてもよい。図7に示す例は、2種類の落射照明を行う場合で、スキャナ17は、単一のガルバノミラーにより構成されている。
【0040】
一対のリレーレンズ15,16は、光源部4から発せられた励起光の集光位置と、リレーレンズ8の前側焦点位置とを光学的に共役な位置関係とするように設けられている。また、スキャナ17は、リレーレンズ16の後側焦点位置およびリレーレンズ15の前側焦点位置に一致する位置に配置されている。スキャナ17を構成するガルバノミラーを一方向に揺動させることにより、標本A上に集光された2本のライン状の励起光の像を、その長さ方向に直交する方向に移動させ、標本A上において走査させることができる。
【0041】
また、本実施形態においては、2種類の蛍光の強度をそれぞれ観察する蛍光観察を行うこととしたが、これに代えて、図8に示されるように、一方は蛍光の強度を観察し、他方は蛍光のスペクトルを観察することにしてもよい。
図8(a)に示す例では、2つの光源部4からの励起光は標本A上の異なる2直線上に入射され、結像レンズ11とCCD12との間に、結像レンズ11によって一旦結像された蛍光を略平行光に変換する2対のリレーレンズ18a,18b,19a,19bを設け、一方のリレーレンズ対18a,18bの間には、ミラー20を配置し、他方のリレーレンズ対19a,19bの間には、反射型の回折格子21のような波長分散素子を配置している。
【0042】
回折格子21は、図9に示されるように、階段状の溝が形成された反射面21aを有している。回折格子21の反射面21aに入射した光はそれぞれの溝で回折され、各溝の回折光が相互に干渉し合う。ここで、溝間隔をdmm、回折格子21の法線に対する入射光の角度をθ、回折格子21の法線に対する射出光の角度をθで定義すると、回折条件は、
d(sinθ+sinθ)=mλ
で表される。ここで、λは入射光の波長、mは干渉次数と呼ばれる整数である。
【0043】
m=0のとき、波長λの値によらず、θ=−θであり、射出光は0次光と呼ばれ、回折格子21が通常の鏡と同じように機能する。m≠0のとき、波長λが変化すると、回折条件を満たす回折角θが変化する。したがって、回折格子21は反射面21aに入射するライン状の蛍光像の長さ方向に直交する方向に蛍光を分散するように配置される。分光された蛍光は、回折格子21によって、波長毎に異なる角度となって分散し、リレーレンズ19bを介して該リレーレンズ19bの後側焦点位置に配置されたCCD12に入射させられる。
【0044】
すなわち、回折格子21により分光された蛍光は、標本A上での集光位置と波長に応じて、CCD12の異なる位置に入射する。したがって、CCD12の撮像面においては、図8(b)に示されるように、標本A上の集光位置に対応する軸(Y軸)と、波長に対応する軸の2つの軸を有することになる。
また、ミラー20により反射された蛍光は、図8(b)に示されるように、回折格子21により分光された蛍光とは異なる位置におけるCCD12の撮像面に、ライン状の像を形成して入射される。
【0045】
このように、回折格子21で分光された蛍光は、標本A上の位置と波長に応じてCCD12の異なる位置において検出されるので、CCD21の1フレームで、標本A上の各位置におけるスペクトルを測定することができる。そして、このようにして測定されたスペクトルを解析することにより、標本Aに含まれる物質を分析することも可能となる。
【0046】
なお、波長分散素子としては、反射型の回折格子21を例示したが、これに限定されるものではなく、プリズムのような透過型の波長分散素子を採用してもよい。また、結像レンズ11による結像面に、ライン状の蛍光像に沿って配置されたスリットを備えることにしてもよい。このようにすることで、対物レンズ6の合焦位置以外からの蛍光をスリットで遮光することができ、取得される蛍光画像の空間分解能を向上することができる。
【0047】
また、図8(a)に示されるように、2つのリレーレンズ18b,19bの間に遮光板22を配置してもよい。これにより、蛍光が回折格子21に照射された際に発生する測定に関係のない迷光等を遮光板22によって遮光でき、蛍光どうしの干渉を防止することができる。
【0048】
また、図8(a)に示されるように、回折格子21によって発生する0次光が、ミラー20によって反射された蛍光の光束から離れる方向に設定された反射面21aを有する回折格子を採用することが好ましい。強度の大きな0次光が他の蛍光に混じって検出されてしまう不都合を防止して、単一のCCD12の同一撮像面によって2種類の蛍光を同時に、かつ、より確実に分離して検出することができるという利点がある。
【0049】
また、2種類の蛍光をいずれも分光観察する場合には、図10に示されるように、各々の0次光が他方の蛍光の光束から離れるように設定された反射面21aを有する回折格子21を採用すればよい。
また、本実施形態においては、励起光を照射して標本Aにおいて発生する蛍光を観察する場合について例示して説明したが、これに限定されるものではなく、標本Aから発生するCARS光やラマン散乱光等を観察する場合に適用してもよい。
【符号の説明】
【0050】
A 標本
1 顕微鏡
2 ステージ
3 ステージ駆動手段
4,5 光源部
4a,5a 光源
4c,5c シリンドリカルレンズ(線状集光素子)
6,7 対物レンズ(対物光学系)
8,9 リレーレンズ(照明光学系)
10 ダイクロイックミラー(照明光学系)
11 結像光学系
12 CCD(光検出器:光検出部)
21 回折格子(波長分散素子)
21a 反射面(格子面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる照明光を射出する複数の光源部と、
該光源部から射出された複数の照明光を標本に集光する対物光学系と、
前記光源部からの複数の照明光を前記標本上の異なる位置に集光させるように前記対物光学系に導光する照明光学系と、
前記照明光を照射することにより前記標本において発生した複数の観察光を異なる位置に結像させる結像光学系と、
該結像光学系による異なる結像位置において前記複数の観察光を検出する光検出部とを備える顕微鏡。
【請求項2】
前記光源部が、異なる照明光を発生する複数の光源と、該光源からの照明光をライン状に集光させる線状集光素子とを備える請求項1に記載の顕微鏡。
【請求項3】
前記光検出部が、単一の光検出器であり、
前記結像光学系が、複数の観察光を前記光検出器の異なる位置に結像させる請求項1に記載の顕微鏡。
【請求項4】
前記光検出器により検出された複数の観察光の検出光量値と、前記観察光相互間の検出光量値の差分とに基づいて前記光源部から射出させる光量を制御する光源制御部とを備える請求項3に記載の顕微鏡。
【請求項5】
前記光検出部が、複数の画素を配列してなる光検出器を備え、
前記線状集光素子が、前記光検出器の画素の配列方向に沿うライン状に前記照明光を集光させる請求項2に記載の顕微鏡。
【請求項6】
前記標本を搭載するステージと、
該ステージを、標本上に集光されたライン状の照明光の長さ方向に交差する方向に移動させるステージ駆動手段とを備え、
該ステージ駆動手段による前記ステージの移動速度が以下の関係を満たす請求項5に記載の顕微鏡。
V=F×P/β
ここで、
Vはステージの移動速度(mm/sec)、
Fは光検出器の転送レート(フレーム/sec)、
Pは光検出器の画素ピッチ(mm)、
βは撮影倍率である。
【請求項7】
前記結像光学系と前記光検出器との間に配置され、前記標本におけるライン状の観察光の像の長さ方向に直交する方向に観察光を波長毎に分散させる波長分散素子を備える請求項2に記載の顕微鏡。
【請求項8】
前記波長分散素子は、該波長分散素子が一の観察光から生成する0次光が、他の観察光から離れるように設定された格子面を有する回折格子である請求項7に記載の顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−3198(P2012−3198A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140791(P2010−140791)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】