説明

風力発電設備の動力伝達装置

【課題】動力伝達装置自体を大型化することなく、外部から巨大な負荷が掛かった場合であっても各要素の破損や故障等を効果的に防止する。
【解決手段】第1、第2単純遊星歯車機構42、44と、該第1、第2単純遊星歯車機構42、44の出力部材(低速部材)66、86を収容するケーシング88、90と、を備えた風力発電設備の減速装置(動力伝達装置)であって、出力部材66、86が第1対向面66F、86F1、86F2を、ケーシングが第2対向面88F、90F1、90F2をそれぞれ備え、該第1、第2対向面66F&88F、86F1&90F1、及び、86F2&90F2は、組み立て時においては接触しないが、出力部材66、86において伝達される荷重が該出力部材66、86において伝達し得る限界である極値荷重Lm66、Lm86よりも小さな値に設定された所定値L66、L86を超えると接触するように、互いに対向して配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置、特に、風力発電設備に使用するのに好適な動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電設備には、モータの駆動力によって風に対してナセル(発電室)を水平面内で回転させるヨー制御を行うための減速装置、風に対して風車ブレードの向き(傾き)を変更するピッチ制御を行うための減速装置、あるいは風車ブレードの遅い回転を増速して発電機に導く増速装置等の動力伝達装置が組み込まれている。
【0003】
特許文献1に、ナセルをヨー駆動する減速装置が開示されている。この減速装置では、出力部材から遊星歯車の公転を取り出す単純遊星歯車機構と、自転を取り出す揺動内接噛合型の遊星歯車機構とを組み合わせた減速機構が使用されている。
【0004】
出力部材には、出力ピニオンが設けられている。出力ピニオンは、風力発電設備の円筒支柱側に設けられた外歯歯車と噛合しており、該出力ピニオンが回転すると、その反作用で(減速装置が取り付けられた)ナセルが円筒支柱に対して旋回駆動されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−205575号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
風力発電設備は、自然環境下に設置されるため、ときに乱れた強い風や突風を受けたりすることがある。このような強い風が風車ブレードに掛かると、風力発電設備内の動力伝達装置は出力部材側から巨大な風力負荷が掛けられた状態となり、減速装置内の各部材等に過度に強いトルクが掛かって、ときに破損してしまうことがあるという問題があった。
【0007】
一方で、風力発電設備の動力伝達装置の場合、狭い空間内に取り付ける必要があることから、該動力伝達装置の小型化の要請が非常に強い。また、動力伝達装置を取り付けるための風力発電設備の本体側(例えば、ヨー駆動用の減速装置の場合はナセルの構造体)の取付孔の大きさ等が決まっていることもあるため、該動力伝達装置自体を自由に大型化することができないという問題もある。
【0008】
本発明は、このような従来の問題を解消するためになされたものであって、動力伝達装置自体を大型化することなく、外部から巨大な負荷が掛かった場合であっても各要素の破損や故障等を効果的に防止することのできる動力伝達装置を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、遊星歯車機構と、該遊星歯車機構を収容するケーシングと、を備えた風力発電設備の動力伝達装置であって、前記遊星歯車機構の低速部材が第1対向面を、前記ケーシングが第2対向面をそれぞれ備え、該第1、第2対向面は、組み立て時においては接触しないが、前記低速部材において伝達される荷重が所定値を超えると接触するように、互いに対向して配置され、かつ、前記所定値が、前記低速部材において伝達し得る限界である極値荷重よりも小さな値に設定されている構成とすることにより、上記課題を解決したものである。
【0010】
本発明に係る動力伝達装置の遊星歯車機構は、低速部材が第1対向面を、ケーシングが第2対向面をそれぞれ備えている。第1、第2対向面は、組み立て時においては接触しないが、低速部材において伝達される荷重が所定値を超えると接触するように、互いに対向して配置されている(そのような特性を有する微小隙間が組み立て時に第1、第2対向面間に形成されている)。第1、第2対向面が接触を開始する「所定値」は、極値荷重よりも小さな値に設定される。「極値荷重」とは、該低速部材において伝達し得る限界荷重のことであり、後に詳述する。
【0011】
本発明に係る動力伝達装置によれば、低速部材は、大半の運転時においてケーシングと接触することなく円滑に回転することができ、かつ、低速部材に掛かる荷重が所定値を超えた場合には、第1、第2対向面が接触し、低速部材がケーシング側から支持反力を受けることができるようになる。
【0012】
第1、第2対向面の接触圧力は、低速部材に掛かる荷重が大きいときほど大きい。したがって、第1、第2対向面は、低速部材に掛かる荷重が大きいときほど、より強く作用する「制動機構」として機能する。この結果、動力伝達系の各部材は、その荷重負担が低減され、破損や故障等の発生が防止される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る動力伝達装置によれば、動力伝達装置自体を大型化することなく、外部から巨大な負荷が掛かったような場合であっても、各要素の破損や故障等を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態の一例に係る風力発電設備に使用する減速装置(動力伝達装置)の全体断面図
【図2】図1の減速装置の要部拡大図
【図3】図1の減速装置のIII−III線に沿う断面図
【図4】本発明の他の実施形態の一例に係る風力発電設備に使用する減速装置の全体断面図
【図5】本発明の更に他の実施形態の一例に係る風力発電設備に使用する減速装置の全体断面図
【図6】図1の減速装置が適用される風力発電設備の正面図
【図7】上記風力発電設備のナセルに図1の減速装置が組み込まれている様子を模式的に示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態の一例に係る風力発電設備の減速装置(動力伝達装置)について詳細に説明する。
【0016】
始めに、当該減速装置が適用されている風力発電設備のヨー駆動装置の概略から説明する。
【0017】
図6、図7を参照して、この風力発電設備10は、円筒支柱11の最上部にナセル(発電室)12を備える。図6、図7では、ヨー(Yaw)駆動装置14と、ピッチ(Pitch)駆動装置16が描写されている。ヨー駆動装置14は、円筒支柱11に対するナセル12全体の旋回角を制御するためのものであり、ピッチ駆動装置16は、ノーズコーン18に取り付けられる3枚の風車ブレード20のピッチ角を制御するためのものである。
【0018】
この実施形態では、ヨー駆動装置14に本発明が適用されているため、ここではヨー駆動装置14について説明する。
【0019】
このヨー駆動装置14は、モータ22及び出力ピニオン24付きの4個の減速装置G1〜G4及びそれぞれの出力ピニオン24と噛合する1個の旋回用の内歯歯車28を備える(旋回用の内歯歯車28は、外歯歯車であることもある)。各減速装置G1〜G4は、それぞれナセル12の構造体(風力発電設備の本体:図1参照)12A側の所定の位置に固定されている。
【0020】
図6、図7に示されるように、各減速装置G1〜G4のそれぞれの出力ピニオン24が噛合している旋回用の内歯歯車28は、円筒支柱11側に固定されている。
【0021】
この構成により、各減速装置G1〜G4のモータ22によって各出力ピニオン24を同時に回転させると、該出力ピニオン24が旋回用の内歯歯車28と噛合しながら旋回用の内歯歯車28の中心36(図7参照)に対して公転する。この結果、ナセル12の構造体12Aを円筒支柱11(に固定された旋回用の内歯歯車28)に対して相対的に移動させることができ、ナセル12全体を円筒支柱11に固定されている旋回用の内歯歯車28の中心36の周りで旋回させることができる。これにより、ノーズコーン18を所望の方向(例えば風上の方向)に向けることができ、効率的に風圧を受けることができる。
【0022】
前記減速装置G1〜G4は、それぞれ同一の構成を有しているため、ここでは減速装置G1について説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施形態の一例に係る風力発電設備に使用する減速装置(動力伝達装置)の全体断面図、図2は、図1の減速装置の要部拡大図、図3は、図1の減速装置のIII−III線に沿う断面図である。
【0024】
減速装置G1はモータ22(図1では図示略:図7参照)、ウォーム減速機構40、第1単純遊星歯車機構42、及び第2単純遊星歯車機構44を、動力伝達経路上でこの順に備えている。
【0025】
以下動力伝達経路の順番に説明していく。
【0026】
モータ22は、図1においては図示が省略されており、取付ボルト孔46を介して図1の紙面と垂直の方向に取り付けられている。モータ22のモータ軸(図示略)には、図示せぬカップリングを介してウォーム減速機構40のウォームピニオン48が連結されている。ウォームピニオン48は、ウォームギヤ50と噛合し、動力の伝達方向を90度変更している。ウォームギヤ50は、中間軸52に固定されている。中間軸52は、カップリング54を介して第1単純遊星歯車機構42の入力軸56と連結されている。
【0027】
第1単純遊星歯車機構42は、入力軸56に形成された太陽歯車58、該太陽歯車58と噛合する3個の遊星歯車60A〜60C(図3参照)、各遊星歯車60A〜60Cを回転自在に支持するキャリヤピン62A〜62C、及び各遊星歯車60A〜60Cが内接噛合する内歯歯車64を備える。第1単純遊星歯車機構42は、太陽歯車58の回転によって生じる遊星歯車60A〜60Cの公転をキャリヤピン62A〜62Cが固定された出力部材66から取り出す構成とされている。第1単純遊星歯車機構42の出力部材66は、スプライン68を介して第2単純遊星歯車機構44の入力軸70と連結されている。
【0028】
第2単純遊星歯車機構44は、入力軸70に形成された太陽歯車78、該太陽歯車78と噛合する3個の遊星歯車80A〜80C(80Aのみ図示)、各遊星歯車80A〜80Cを回転自在に支持するキャリヤピン82A〜82C(82Aのみ図示)、及び各遊星歯車80A〜80Cが内接噛合する内歯歯車84を備える。第2単純遊星歯車機構44は、太陽歯車78の回転によって生じる遊星歯車80A〜80Cの公転をキャリヤピン82A〜82Cが固定された出力部材86から取り出す構成とされている。第2単純遊星歯車機構44の出力部材86は、キャリヤ部86A、該キャリヤ部86Aとスプライン86Bを介して連結された軸部86Cから構成され、軸部86Cの端部に前述した出力ピニオン24が一体的に固定されている。
【0029】
主に図2を用いて本発明の要部の構成をより詳細に説明する。
【0030】
この実施形態においては、第1単純遊星歯車機構42の出力部材(低速部材)66に本発明に係る第1対向面66Fが形成され、該第1単純遊星歯車機構42を収容するケーシング88に本発明に係る第2対向面88Fがそれぞれ形成されている。
【0031】
第1、第2対向面66F、88Fは、それぞれ組み立て時(減速装置G1を組み立てた状態:出力部材66に荷重が掛かっていないとき)においては接触しないが、出力部材66において伝達される荷重が所定値L66を超えると(出力部材66の軸心のずれや部材自体の変形等により)接触するという特性を有する。すなわち、減速装置G1の組み立て時においては、第1、第2対向面66F、88Fは、それぞれ微小隙間δ1を有して対向して配置されており、接触していない。
【0032】
一方、第2単純遊星歯車機構44においても、出力部材86および該出力部材86を収容するケーシング90に、反負荷側第1、第2対向面86F1、90F1、及び、負荷側第1、第2対向面86F2、90F2がそれぞれ形成されている。第2単純遊星歯車機構44の出力部材86は、一対の円錐ころ軸受92、94によって支持されており、反負荷側第1、第2対向面86F1、90F1、及び、負荷側第1、第2対向面86F2、90F2は、双方とも、この一対の円錐ころ軸受92、94の軸方向外側位置(反負荷側の円錐ころ軸受92の更に反負荷側(反出力ピニオン24側)に形成されている。
【0033】
第2単純遊星歯車機構44の反負荷側第1、第2対向面86F1、90F1、及び、負荷側第1、第2対向面86F2、90F2も、それぞれ組み立て時(減速装置G1を組み立てた状態:出力部材86に荷重が掛かっていないとき)においては接触しないが、出力部材86において伝達される荷重が設定された所定値L86を超えると(出力部材86の軸心のずれや部材自体の変形等により)接触するという特性を有する。すなわち、減速装置G1の組み立て時においては、反負荷側第1、第2対向面86F1、90F1、及び、負荷側第1、第2対向面86F2、90F2は、それぞれ微小隙間δ2、δ3を有して対向して配置されており、接触していない。
【0034】
この第2単純遊星歯車機構44における微小隙間δ2、δ3の大きさは、(荷重伝達のメカニズムが異なるため一概には言えないが、通常は)第1単純遊星歯車機構42における前記微小隙間δ1よりは大きい。また、反負荷側第1、第2対向面86F1、90F1の微小隙間δ2の方が、(出力ピニオン24に対してより遠く、かつより大径であるため)負荷側第1、第2対向面86F2、90F2の微小隙間δ3よりも若干大きい。因みに、最終段での微小隙間δ3の大きさは、具体的には、1.5〜3.0MW(1500〜3000kW)クラスの風力発電設備で、概ね40〜100μm程度である。
【0035】
今、「風力負荷」が旋回用の内歯歯車28を介して減速装置G1の出力ピニオン24側から入力されたと想定すると、この風力負荷は、減速装置G1の各回転要素を回転させようとする。そして、減速装置G1の動力伝達経路上に伝達される荷重(トルク)が大きくなると、キャリヤピンやキャリヤ自体に(主として捻れ方向の)弾性変形が生じる。その結果、例えば出力部材86に径方向の変形が生じる。また、このとき、出力部材86には円周方向の回転トルクのほかに、旋回用の内歯歯車28および出力ピニオン24の噛合によって発生するラジアル荷重も同時に入力されてくるが、この旋回用の内歯歯車28および出力ピニオン24の噛合によって発生するラジアル荷重は、入力されてくる「風力負荷」に比例して大きくなるため、「風力負荷」が大きいときほど、出力部材86の軸心ずれ(すなわち径方向の変位)も大きくなる。出力部材86の場合、このラジアル荷重の影響が特に大きい。更には、種々の外乱荷重も同時に入力されてくる。こうした要因により、出力部材86には風力負荷に応じた軸心ずれや変形に伴う径方向の変位が生じる。
【0036】
一方、出力部材66も、モータ22から(あるいは出力ピニオン24から)の減速比(あるいは増速比)や荷重の伝達メカニズムが出力部材86とは異なるため、絶対値は異なるが、やはり出力部材66に風力負荷に応じた軸心ずれや変形が生じる。出力部材66の場合は、第1、第2単純遊星歯車機構42、44のフロート組み付け(自動調心機能を持たせるために「遊び」を持たせた組み付け)の影響も大きい。
【0037】
いずれの場合も、出力部材66、86の軸心ずれや変形は、該出力部材66、86において伝達される荷重と強い相関がある。すなわち、定性的に風力負荷が大きいときほど、出力部材66、86の各第1、第2対向面での半径方向の変位が大きい。また、この軸心ずれや変形の量(径方向の変位)は、出力部材66、88の素材、形状、寸法、出力ピニオン24からの増速比等によって変化する。
【0038】
そこで、(a)出力部材66、86において伝達される荷重がそれぞれ所定値L66、86を超えた時点で、第1、第2対向面66F、88Fが丁度接触するような微小隙間δ1、反負荷側第1、第2対向面86F1、90F1が丁度接触するような微小隙間δ2、あるいは負荷側第1、第2対向面86F2、90F2が丁度接触するような微小隙間δ3を予め実験やシミュレーション等によって検知・確認する;(b)組み立て時にこの大きさの微小隙間δ1〜δ3が各対向面間に形成されるように出力部材66、88及びケーシング88、90の形状や寸法を設計する;という手順を踏むことにより、高い再現性で各第1、第2対向面同士を、出力部材66、86において伝達される荷重がそれぞれ所定値L66、86を超えた時点で接触させることができるような減速装置G1を製造することができる。
【0039】
ここで、当該所定値L66、L86の説明をするに当たって、2つの荷重を以下のように定義する。
【0040】
[極値荷重Lm66、Lm86]
極値荷重Lm66、Lm86とは、耐用年数(風力発電設備の減速装置の場合、20年)の間に、出力部材66、86に1度だけ掛かっても破壊されない荷重(該出力部材66、86において伝達し得る限界荷重)のことである。極値荷重Lm66、Lm86は、本実施形態においては、(幅が若干大きいが)定格出力トルク相当荷重Ls66、Ls86の2倍強である。この例のように2MWクラスの風力発電設備で、減速装置の数が4台の場合、極値荷重Lm86は、概ね30〜120kNmである。極値荷重Lm66は、それより減速比が異なる分、小さい。
【0041】
[定格トルク相当荷重Ls66、Ls86]
定格トルク相当荷重Ls66、Ls86とは、接続されるモータ22が定格トルクを出力しているときに、出力部材66、86に掛かる荷重をそれぞれ意味している。モータ22から出力部材66、86までの減速比をそれぞれGr66、Gr86とした場合(Gr66<Gr86)、出力部材66の定格トルク相当荷重Ls66は、出力部材86の定格トルク相当荷重Ls86の(Gr66/Gr86)倍となる。(Gr66/Gr86)は、1未満であるため、Ls66<Ls86である。
【0042】
本実施形態では、当該所定値L66、L86が、出力部材66、86のそれぞれの極値荷重Lm66、Lm86より小さな値に設定される(L66<Lm66、L86<Lm86)。より具体的には、所定値L66、L86は、定格トルク相当荷重Ls66、Ls86と同等に設定される。好ましい範囲は、定格トルク相当荷重Ls66、Ls86の−10%〜+30%程度である。これは、所定値L66、L86が小さ過ぎるとモータ22の側から駆動したときに頻繁に接触することになり、一方、大き過ぎると適正な破損防止効果が発揮できなくなる虞があるためである。なお、機器の保護をより優先する場合には、定格トルク相当荷重Ls66、Ls86の1/3〜1/2程度にまで低めても良い(1/3〜1/2程度が下限)。
【0043】
なお、第1、第2対向面66F、88F、86F1、90F1、及び、86F2、90F2は、それぞれ第1、第2単純遊星歯車機構42、44の軸方向に平行な面(本実施形態の場合、鉛直面)で構成されている。また、本実施形態に係る減速装置(動力伝達装置)G1は、第1、第2の複数の単純遊星歯車機構42、44を有しているが、このうち特に最終段に配置された第2単純遊星歯車機構44の出力部材(低速部材)86及びケーシング88にそれぞれ形成された負荷側第1、第2対向面86F2、90F2は、減速装置G1がナセル12の構造体12Aに設置されたときに該ナセル12の構造体12Aと同一の平面上になる位置に形成している。これは、ナセル12の構造体12A(風力発電設備の本体側の部材)までの軸方向距離を最短とすることで(同一平面上なので軸方向距離は零)、ケーシング90そのものを、該ケーシング90の外側からナセル12の構造体12Aが直接的に支えられるようにすることを意図したものである。
【0044】
また、この実施形態では、第1単純遊星歯車機構42の出力部材66と、第2単純遊星歯車機構44の出力部材86との間にも、出力部材66の荷重が増大したときに接触する対向面66G、86Gが形成されている。本発明は、このように、出力部材とケーシングとの間以外の2つの部材間で、掛かっている荷重が増大したときに接触するような対向面を形成することを禁止するものではない。
【0045】
次に、この減速装置G1の作用を説明する。
【0046】
[モータ22によってナセル12を積極的にヨー駆動する場合]
モータ22のモータ軸の回転は、ウォーム減速機構40のウォームピニオン48及びウォームギヤ50の噛合によって初段減速され、カップリング54を介して第1単純遊星歯車機構42の入力軸56に伝達される。
【0047】
第1単純遊星歯車機構42の入力軸56が回転すると、該入力軸56に形成された太陽歯車58が回転し、遊星歯車60A〜60Cが内歯歯車64の内側で公転する。この公転成分は、キャリヤピン82A〜82Cを介して出力部材66から取り出され、スプライン68を介して(最終段の)第2単純遊星歯車機構44の入力軸70に伝達される。
【0048】
第2単純遊星歯車機構44においても、第1単純遊星歯車機構42と同様の減速作用がなされ、遊星歯車80A〜80Cの公転が出力部材86のキャリヤ部86Aから取り出され、スプライン86Bを介して軸部86Cに伝達される。
【0049】
出力部材86の回転は、そのまま出力ピニオン24となる。出力ピニオン24は旋回用の内歯歯車28と噛合しており、且つ、該旋回用の内歯歯車28は、円筒支柱11に固定されているため、反作用によって、出力ピニオン24は、自転しながら旋回用の内歯歯車28の中心36に対して公転する(図7参照)。減速装置G1は、ナセル12の構造体12Aに固定されているため、結局、該円筒支柱11側の旋回用の内歯歯車28の軸心36に対してナセル12が水平方向に回転(旋回)する。
【0050】
ここで、風がそれほど強くない場合、通常、モータ22によるヨー駆動は、該モータ22の定格出力トルクの1/2以下のトルクで実現できることが多い。このため、モータ22による通常のヨー駆動時の大半においては、出力部材66、86及びケーシング88、90の各第1、第2対向面66F&88F、86F1&90F1、及び、86F2&90F2が接触することはない。したがって、出力部材66、86は、フリーの状態で回転でき、モータ22からの駆動力の伝達に際して、伝達ロスは殆ど生じない。
【0051】
一方、強い風、もしくは風向きの変化によりナセル12に作用する回転力に逆らいながら該ナセル12をヨー駆動する場合、モータ22は、定格出力トルクに近いトルクで減速装置G1を駆動することになる。そのため、所定値L66、L86が定格トルク相当荷重Ls66、Ls86より小さな値に設定されているときはほぼ必ず(所定値L66、L86が定格トルク相当荷重Ls66、Ls86の近傍に設定されている場合には、僅かな外乱が掛かっただけで)、出力部材66、86に所定値L66、L86以上の荷重がそれぞれ掛かることになる。そのため、各第1、第2対向面間に当初維持されていた微小隙間δ1〜δ3が詰まって該第1、第2対向面同士が接触する。これにより、出力部材66、86は、それぞれケーシング88、90によって支持されながら回転することになり、それ以上の軸心ずれ等が抑えられることから安定した回転を継続することができる。
【0052】
[出力ピニオン24側から風力負荷が入力された場合]
本実施形態においては、出力ピニオン24側から風力負荷が入力された場合、ウォーム減速機構40のセルフロック機能(負荷側から回転させようとしても回転しない機能)によって、出力部材66、86を含む減速装置G1の各部材が、停止状態を維持するようになっている。このため、風によってナセル12が無制御状態で振らつくことはない。
【0053】
ここで、風、もしくは風向きの変化によりナセル12に作用する回転力があまり強くなく、出力部材66、86に伝達される荷重が所定値L66、L86以下の場合には、減速装置G1内の各部材は、強度的に全く問題なく、停止した状態で出力ピニオン24側からのトルク等を受け止めることができる。
【0054】
一方、風が強く、例えば、突風等が風車ブレード20に作用することによってナセル12を強制的に旋回させようとする「巨大な風力負荷」が減速装置G1の出力ピニオン24側から入力された場合、この巨大な風力負荷は、減速装置G1の各部材を(出力ピニオン24を介して)回転させようとする。そして、このときに減速装置G1の出力部材66、86において伝達される荷重が、それぞれ所定値L66、L86を超えると、各第1、第2対向面66F&88F、86F1&90F1、及び、86F2&90F2同士が互いに接触するようになる。
【0055】
本実施形態では、この所定値L66、L86が、定格トルク相当荷重Ls66、Ls86程度に設定されている。この値は、極値荷重Lm66、Lm86から見ると、1/2程度の大きさでしかない。このため、減速装置G1の出力部材66、86において伝達される荷重が極値荷重Lm66、Lm86より、未だかなり小さいうちに第1、第2対向面66F、88F、反負荷側第1、第2対向面86F1、90F1、及び、負荷側第1、第2対向面86F2、90F2同士が必ず接触する。
【0056】
これにより、各対向面での出力部材66、86の支持剛性は飛躍的に高められ、より軸心ずれが大きくなったり変形が大きくなったりするのが抑制される。そしてこのケーシング88、90側からの反力は、風力負荷が大きければ大きいほど大きくなるため、結果として、風力負荷が大きければ大きいほど、各対向面同士間で発生する摩擦も大きくなり、大きな「制動作用」が得られることになる。このため、減速装置G1の各部材に発生する曲げ応力や捻り応力も低減し、破損を免れることができる。
【0057】
特に、上記実施形態のように、低コスト化のために、出力ピニオン24側から入力されてくる風力負荷に対して、(制動力が「可変」の専用の制動手段を配備せずに減速比30以上の)ウォーム減速機構40のセルフロック機能を代用させるようにした減速装置G1にあっては、各部材が完全に停止した状態が維持されるため、極めて過酷な状態に曝される虞が大きいが、本実施形態では、風力負荷が大きいときに有効に制動機能が発揮されることになるため、ウォーム減速機構40のセルフロックの負担が軽減すると共に、その分、各部材の荷重負担を軽減することができる。
【0058】
また、これらの作用は、例えばセンサ等を用いて電気的に制御することで得られる作用ではないため、台風や激しい雷雨等による停電環境下においても確実に得ることができる。
【0059】
更には、例えば、減速装置やモータを保護するために出力ピニオン24側からの駆動力を「遮断」してナセルの旋回を完全にフリーにしてしまう構成とも異なるため、ナセル12が無制御状態でふらつくこともない。これは、風力発電設備全体の保護という観点で極めて重要な作用である。
【0060】
また、上記実施形態によれば、(複数の)第1、第2単純遊星歯車機構42、44のうち減速装置G1が取り付けられるナセル12側の構造体(風力発電設備の本体側の部材)12Aに最も近い第2単純遊星歯車機構44の出力部材86が、反負荷側第1対向面86F1及び負荷側第1対向面86F2を備えている。更には、負荷側第1対向面86F2が減速装置G1が取り付けられるナセル12側の構造体12Aと同一の平面上(軸方向距離が零)に形成されるようにしている。このため、ケーシング90が取り付けられているナセル12側の構造体12Aの剛性をも、出力部材86の支持剛性の向上に有効に機能させることができる。
【0061】
また、上記実施形態においては、本発明に係る第1、第2対向面を計3箇所に形成しているため(出力部材同士の対向面を加えると4箇所)、高負荷時の駆動系全体の支持剛性が非常に高い。また、第1、第2対向面は、第1、第2単純遊星歯車機構42、44の軸方向と平行な面で形成されているため、構造が単純な分、形成自体が容易であり、かつ効果の再現性が高い。
【0062】
更に、上記実施形態では、反負荷側第1、第2対向面86F1、90F1、及び、負荷側第1、第2対向面86F2、90F2を、出力部材86を支持する一対の軸受92、94の軸方向外側位置に形成するようにしているため、出力部材86の荷重の大小を敏感に対向面間の微小隙間δ2、δ3の変化に反映させることができている。そのため、荷重の大小と微小隙間δ2、δ3の変化の相関関係の再現性が高い。また、この構造により支持機能や制動機能をより効果的に発揮させることができている。
【0063】
図4に、本発明の他の実施形態の構成例を示す。
【0064】
この実施形態に係る減速装置G1aが、先の実施形態に係る減速装置G1と異なるのは、(a)ウォーム減速機構(40)の代わりに第3、第4単純遊星歯車機構102、104を採用されていること、(b)該第3、第4単純遊星歯車機構102、104の間にトルクリミッタカップリング106が組み込まれていること、及び、(c)先の実施形態では得られていたウォーム減速機構(40)のセルフロック機能が得られないことから、モータ100に図示せぬ制動機構が組み込まれていること、の3点である。
【0065】
減速装置G1aでは、モータ100、第3、第4単純遊星歯車機構102、104、第1、第2単純遊星歯車機構42、44がこの順でインラインで並んでいる。
【0066】
前段側の第3、第4単純遊星歯車機構102、104については、特に本発明に係る第1、第2対向面は形成されていない。後段側の第1、第2単純遊星歯車機構42、44の構成は、第1、第2対向面66F、88F、反負荷側第1、第2対向面86F1、90F1、及び、負荷側第1、第2対向面86F2、90F2の構成を含め、先の実施形態の第1、第2単純遊星歯車機構42、44の構成と同一である。このため、各対向面において先の実施形態における減速装置G1と全く同様の作用効果が得られる。
【0067】
また、この実施形態では、トルクリミッタカップリング106において現に伝達されているトルクが限界所定値Lmt1よりも大きくなったときに、該トルクリミッタカップリング106が滑り出す構成としてある。
【0068】
この結果、出力ピニオン24側から入力されてくる荷重が、該限界所定値Lmt1に相当する荷重よりも大きくなっても、減速装置G1aが破壊されるのを確実に防止することができる。なお、トルクリミッタカップリング106が作動した場合でも、当該限界所定値Lmt1に相当する反力を減速装置G1aの各部材に発生させることができるため、ナセル12が無制御状態で風に任せて振らつくことはない。
【0069】
その他の構成および作用効果は、先の実施形態と同様であるため、図中で先の実施形態と同一または類似する部分に同一の符号を付すに止め、重複説明を省略する。
【0070】
図5に、本発明の更に他の実施形態の例を示す。
【0071】
図5には、風力発電設備のピッチ駆動装置16(図7参照)に使用する減速装置G1bが示されている。この減速装置G1bは、いわゆる揺動内接噛合型と称される遊星歯車機構202を備える。
【0072】
モータ204のモータ軸204Aの先端にはヘリカルピニオン206が形成されている。ヘリカルピニオン206は3個(1個のみ図示)のヘリカルギヤ208と噛合している。3個のヘリカルギヤ208は、それぞれ3本の(1個のみ図示)の偏心体軸210に固定されている。偏心体軸210には、2枚の遊星歯車212、214を揺動させるための偏心体216、218が設けられている。偏心体216、218は、それぞれ各偏心体軸210に対して同位相で偏心している。遊星歯車212、214は、各偏心体216、218がそれぞれ同時に同位相で同一の回転速度で回転することによって互いに180度の位相差で揺動し、それぞれ内歯歯車220と内接噛合する。
【0073】
なお、モータ204には、図示せぬ制動機構が付設されている。
【0074】
内歯歯車220は、本体220Aと、該本体220Aに回転自在に組み込まれた円柱ピン220Bによって構成されている。内歯歯車220の本体220Aは、ケーシング230と一体化されて固定されており、遊星歯車212、214と内歯歯車220との相対回転は、3本の偏心体軸210の軸心O1周りの公転成分(すなわち遊星歯車212、214の自転成分)として出力部材232から取り出される。
【0075】
この実施形態に係る減速装置G1bの出力部材232では、キャリヤ部232Aと軸部232Cが一体化されている。出力部材232は、自動調心ころ軸受234を介してケーシング230に支持されている。前記内歯歯車220の内歯を構成する円柱ピン220Bは、遊星歯車212、214との噛合位置よりも軸方向負荷側に延在されており、この延在部220B1が、出力部材232(のキャリヤ部232A)を支持する軸受として機能している。
【0076】
この実施形態では、出力部材232の第1対向面232Fおよび出力部材232を収容するケーシング230の第2対向面230Fが、偏心体軸210を支持する(負荷側の)軸受236の半径方向外側位置に形成されている。
【0077】
そして、この実施形態においても、第1、第2対向面232F、230Fは、組み立て時においては接触しないが、出力部材232において伝達される荷重が所定値L232を超えると接触するように互いに対向して配置され、かつ、前記所定値L232が、出力部材232において伝達し得る限界である極値荷重Lm232よりも小さな値(具体的には出力部材232に掛かる定格トルク相当荷重Ls232程度)に設定されている。
【0078】
この構成により、この減速装置G1bにおいても、出力部材232に強い風力負荷が掛かったときの該出力部材232の支持剛性を高めることができるとともに、適度の制動機能を得ることができる。また、第1、第2対向面232F、230Fが、偏心体軸210を支持する軸受236の半径方向外側位置に形成されていることから、強い荷重が入力されてきたときの偏心体軸210の支持剛性も同時に高めることができ、かつ適度な制動力が得られることで、モータ204に付設された制動機構の負担を軽減できるようになるとともに、その分遊星歯車機構202等の各部材の荷重負荷を軽減できる。とりわけ、この実施形態のように、複数の偏心体軸210が内歯歯車220の軸心からオフセットして配置され、それぞれが遊星歯車212、214を貫通しているような揺動内接噛合型の遊星歯車機構202の場合、偏心体軸210を支持する軸受236の半径方向外側の出力部材232の肉厚が薄くなり易く、強度が厳しくなるためこの構成は有効である。
【0079】
その他の構成については、先の実施形態と同様であるため、重複説明は省略する。
【0080】
なお、上記実施形態では、第1、第2対向面を、いずれも出力部材あるいはケーシングそのものに直接形成するようにしていたが、本発明における「出力部材」、「ケーシング」の用語は、圧入、接着あるいはボルト等によって出力部材やケーシングの本体と一体化され、結果として出力部材やケーシングの一部を構成している「付加部材」の概念をそれぞれ含んでいる。出力部材もケーシングも大物の部材で製造コストが高いため、その一部である第1、第2対向面を適切な形成状態とするための設計の柔軟性に欠ける傾向がある。しかし、該第1、第2対向面を、このような付加部材にて形成するようにすると、当該付加部材は、素材の選定や加工、硬化処理の自由度が高いため、制動性や耐久性の設計の自由度を大きく拡大することができる。
【0081】
また、上記実施形態においては、本発明を風力発電設備のヨー駆動装置の減速装置やピッチ駆動装置の「減速装置」に本発明を適用していたが、本発明は、発明の作用効果の面から推し図るならば、風力発電設備の発電機の前段に配置する「増速装置」に適用することも可能である(増速装置に使用される遊星歯車機構の場合、本発明に係る「低速部材」は、具体的には遊星歯車機構の入力部材となる)。つまり、「低速部材」とは、遊星歯車機構の回転する部材のうち、相対的に回転速度の小さい部材をいう。
【0082】
風力発電設備の増速装置は、風車ブレードの(トルクはあるが)遅い回転を、効率的に発電機を駆動するのに最適な速い回転に変換するために使用される。風力発電設備の増速装置は、その入力段に単純遊星歯車機構が組み込まれることが多い。この単純遊星歯車機構は、前述したように、自動調心機能を得るために、(ケーシングと一体化されている)内歯歯車に対して太陽歯車あるいは遊星歯車がフロート状態で組み込まれることが多く、実際、このフロート組み付けにより、(負荷が過大でないときは)相応の自動調心機能が得られる。
【0083】
しかし、破損が懸念されるほど過大な負荷が掛かったときは、自動調心機能は必ずしも良好には機能せず、入力部材(低速部材)の軸心の傾きがむしろ大きくなったり、それによってより大きな曲げ応力が発生したりする虞がある。本発明を適用することにより、このようなときに、入力部材がケーシングから支持反力が受けることができ、かつ、適度な制動を得ることができる。この結果、増速装置の各部材の負荷を軽減できるようになると共に、特に発電機が過回転するという状況を回避することができるようになる。
【0084】
更には、本発明は、その構成及び作用効果から、風力発電設備の動力伝達装置に限らず、例えば、デッキクレーンの旋回、シールド掘削機のドリル駆動、建設用のショベルの旋回等の用途に用いる減速装置(動力伝達装置)にも適用可能である。それは、これらの用途においても、作業中に、風の影響を受けたり、重量物の慣性力の影響を受けたり、あるいは障害物や地中の岩石等に衝突して作業対象物側から突然大きな負荷(反力)を受けたりすることがあり、状況的に風力発電設備の動力伝達装置が巨大な風力負荷によって強制回転させられるようとする状況と類似する状況が形成される虞があるためである。
【0085】
特に、このような用途における減速装置は、一般に出力部材(低速部材)の端部に出力ピニオンを有しており、該出力ピニオンが、減速装置が取付けられる本体に対して相対的に動く相手側メンバに取付けられた歯車と噛合する構成とされることが多い。このような構成において作業中に外部からの強い負荷が掛かると、出力部材には、回転トルクだけでなく(前記歯車と出力ピニオンの噛合による)強いラジアル荷重が掛かる。このラジアル荷重は、基本的に掛かった負荷に比例して発生するため、負荷が大きいときほど、出力部材の半径方向の変形や偏心が大きくなる。したがって、本発明は、このような用途における減速装置(動力伝達装置)にも適用することができ、同様な作用効果が得られる。
【0086】
なお、風力発電設備以外の用途に本発明を適用する場合、当該動力伝達装置が搭載される各機器の耐用年数の間に、低速部材に一度だけ掛かっても壊れない伝達の限界荷重を「極値荷重」と読み替えて、所定値を設定すればよい。
【0087】
いずれの用途に使用される場合であっても、本発明においては、動力伝達装置の減速機構や増速機構の具体的な構成は、遊星歯車機構を備えている限り、特に限定されない。
【0088】
また、上記実施形態では、所定値が、モータの定格トルク相当荷重程度となるように、第1対向面と第2対向面との間の隙間を設定し、低速部材に掛かる荷重がそれほど大きくならないうちからケーシングの支持機能を発揮させるようにしていた。しかし、所定値は、極値荷重より小さな値に設定されている限り、本発明の意図する作用効果を相応に得ることができる。所定値(第1対向面と第2対向面との間の隙間)は、伝達ロス、支持機能、あるいは制動機能等を考慮して、適宜に設定してよい。
【0089】
また、上記実施形態では、風力発電設備の本体側の部材に最も近い遊星歯車機構の低速部材に本発明に係る第1対向面を形成するようにしていたが、必ずしもそのような位置に形成する必要はなく、本体側の部材と同一の平面上に位置させる必要もない。この場合でも、少なくともケーシングが有する剛性については十分に利用することができる。
【0090】
また、本発明では、必ずしも第1、第2対向面を複数の箇所に形成する必要はなく、1箇所のみの形成でも上記作用効果を相応に得ることができる。1箇所にのみ形成する場合の形成個所は、特に限定されないが、例えば、減速装置G1の最終段に配置された遊星歯車機構の出力部材が第1対向面を備えるようにすると良い。最終段に配置された遊星歯車機構の出力部材が第1対向面を備えるように構成すると、例えば、モータ駆動時において該出力部材の第1対向面とケーシングの第2対向面との相対摺動速度が極めて遅いため(例えば0.1rpmのレベル)、低速部材とケーシングとが摺動することによる摩耗や発熱の恐れを低減できる。また、例えば、最終段以外の遊星歯車機構の低速部材に形成するようにしてもよい。この場合には、第1、第2対向面での熱負荷は大きくなるものの、該第1、第2対向面で受け持つべき荷重をより小さくすることができる。
【0091】
また、上記実施形態においては、いずれも第1、第2対向面が、出力部材を支持する一対の軸受の軸方向外側位置に形成されていたが、本発明においては、例えば、第1、第2対向面を低速部材のどの位置に形成するかについては特に限定されない。
【0092】
また、本発明においては、遊星歯車機構の構成も特に上記実施形態の例に限定されない。例えば、偏心体軸が遊星歯車機構の中央に1個のみ配置された、いわゆる中央クランクタイプの揺動内接噛合型の遊星歯車機構であっても良い。
【符号の説明】
【0093】
10…風力発電設備
11…円筒支柱
12…ナセル(発電室)
14…ヨー駆動装置
16…ピッチ駆動装置
22…モータ
24…出力ピニオン
42、44…第1、第2単純遊星歯車機構
60A〜60C…遊星歯車
66、86…出力部材
66F、86F1、86F2…第1対向面
88、90…ケーシング
88F、90F1、90F2…第2対向面
L66、L86…所定値
Lm66〜Lm86…極値荷重

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星歯車機構と、該遊星歯車機構を収容するケーシングと、を備えた風力発電設備の動力伝達装置であって、
前記遊星歯車機構の低速部材が第1対向面を、前記ケーシングが第2対向面をそれぞれ備え、
該第1、第2対向面は、組み立て時においては接触しないが、前記低速部材において伝達される荷重が所定値を超えると接触するように、互いに対向して配置され、かつ、
前記所定値が、前記低速部材において伝達し得る限界である極値荷重よりも小さな値に設定されている
ことを特徴とする風力発電設備の動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記動力伝達装置が、風力発電設備の本体側に設けられた歯車と噛み合うピニオンを出力軸に有する減速装置であって、前記遊星歯車機構の遊星歯車の自転または公転を取り出す出力部材を前記低速部材として有する
ことを特徴とする風力発電設備の動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
当該動力伝達装置が遊星歯車機構を最終段に有し、
該最終段に配置された遊星歯車機構の前記低速部材が、前記第1対向面を備える
ことを特徴とする風力発電設備の動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
当該動力伝達装置が前記遊星歯車機構を含め複数の減速機構を有し、
該複数の減速機構のうち、前記遊星歯車機構が、該動力伝達装置が取り付けられる前記風力発電設備の本体側の部材に最も近い位置に配置される
ことを特徴とする風力発電設備の動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記第1、第2対向面が、前記動力伝達装置が取り付けられる前記風力発電設備の本体側の部材と、同一の平面上に形成されている
ことを特徴とする風力発電設備の動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記第1、第2対向面が、それぞれ前記遊星歯車機構の軸方向と平行な面で構成されている
ことを特徴とする風力発電設備の動力伝達装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
前記所定値が、当該動力伝達装置に接続されているモータが定格トルクを出力しているときに前記低速部材に掛かる荷重以上の範囲に設定される
ことを特徴とする風力発電設備の動力伝達装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかにおいて、
前記低速部材を支持する一対の軸受を備え、
前記第1、第2対向面が、該一対の軸受の軸方向外側位置に形成されている
ことを特徴とする風力発電設備の動力伝達装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかにおいて、
前記第1、第2対向面を、当該動力伝達装置の複数の箇所で備えた
ことを特徴とする風力発電設備の動力伝達装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかにおいて、
前記遊星歯車機構が、遊星歯車を揺動させるための偏心体が設けられた偏心体軸を複数備えるとともに、
該複数の偏心体軸が、該遊星歯車機構の内歯歯車の軸心からオフセットされた位置で前記遊星歯車を貫通するとともに、該内歯歯車の内側で該遊星歯車が揺動する揺動内接噛合型の遊星歯車機構で構成され、
前記第1、第2対向面が、前記偏心体軸を支持する軸受の半径方向外側位置に形成されている
ことを特徴とする風力発電設備の動力伝達装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−251522(P2012−251522A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126618(P2011−126618)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】