食中毒細菌の同時培養方法、及び検出方法
【課題】食中毒細菌を簡易かつ迅速に検出するために、主要な食中毒細菌を含む複数属の好気性細菌を同時に培養可能な細菌培養方法と、当該培養方法を用いた迅速な細菌検出方法を提供する。また、複数の菌属の好気性細菌を同時に培養できる増菌培地を提供する。
【解決方法】培養中の増菌培地のpH値を5より大きく10以下の範囲内に保持することで、少なくともBacillus属とListeria属の好気性細菌の同時培養を一の増菌培地中で可能にする。さらに、増菌培地の塩濃度を1%〜4%とすることでVibrio属の好気性・好塩性細菌の同時培養も可能にする。また、当該細菌培養方法とリアルタイムPCR法とを組み合わせることで、複数属の細菌を同時に検出する。
【解決方法】培養中の増菌培地のpH値を5より大きく10以下の範囲内に保持することで、少なくともBacillus属とListeria属の好気性細菌の同時培養を一の増菌培地中で可能にする。さらに、増菌培地の塩濃度を1%〜4%とすることでVibrio属の好気性・好塩性細菌の同時培養も可能にする。また、当該細菌培養方法とリアルタイムPCR法とを組み合わせることで、複数属の細菌を同時に検出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数属の細菌を単一培地で同時に培養する方法と、その培養方法を利用した細菌検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食中毒細菌の検出は、食の安全を確保する上で重要な検査技術の一つである。そのため、食品業界などでは分子遺伝学的手法や免疫学的手法に基づいた各種食中毒細菌の簡易迅速検出方法の開発が進んでいる。中でも特定の細菌の遺伝子などに特異的な塩基配列を増幅して検出を行う核酸増幅法は、その感度や迅速性、並びに特異性の高さから現在様々な食中毒細菌検出法に応用されている。
【0003】
しかし、核酸増幅法を利用した検査法であっても、鋳型としての核酸を必要量得るには一定以上の菌数が必要となる。当該検出に必要な菌数の下限値は約1×103cfu(colony forming unit)/mlであり、食品から細菌を高感度に検出するためにはほとんどの場合で標的細菌を培養する必要がある。ところが、一般に性状の異なる細菌は培養条件も異なることから、複数種の細菌を検出するためには、標的細菌ごとにその至適培養条件で培養しなければならない。そのため、食中毒細菌の検出方法の簡易化や迅速化には、当該培養に要する手間や培養時間が大きな問題となる。このような問題を解決する手段としては、複数の食中毒細菌を一の培地で同時に培養する方法が挙げられる。ただし、そのためには複数種若しくは複数属の細菌を同時に培養可能な増菌培地の開発が不可欠となってくる。
【0004】
複数属の食中毒細菌を培養可能な増菌培地としては、これまでSalmonella属とListeria属の細菌を同時に培養可能なUEB(Universal Enrichment Broth)(非特許文献1)や、Salmonella属、Listeria属、及びStaphylococcus aureusを同時に培養する緩衝ペプトン水を用いた培地などが知られている(非特許文献2)。しかし、これらの増菌培地は、いずれも、2、3種の食中毒細菌を同時に培養できるに過ぎない。したがって、より多くの食中毒細菌を同時に培養可能な増菌培地が求められている。
【非特許文献1】Bailey JS & NACox NA,(1992)J.Food Prot.,55;256−259
【非特許文献2】Alarcon B,Garcia−Canas V,Cifuentes A,Gonzalez R & Aznar R(2004)J. Agric. Food Chem.,52;7180−7186
【非特許文献3】Nakata HM & Halvorson HO,(1960)J. Bacteriol.,80;801−810
【非特許文献4】Budu−Amoako E,Toora S,Ablett RF & Smith J,(1992)Appl.Environ.Microbiol.,58;3177−3179
【非特許文献5】Busch SV & Donnelly CW,(1992)Appl.Environ.Microbiol.,58;14−20
【非特許文献6】大野茂男、西村善文 監修、(1997)細胞工学 別冊 実験プロトコールシリーズ タンパク実験プロトコール
【非特許文献7】Sambrook J,Fritsch EF,Maniatis T,(1989)Molecular Cloning A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press.
【非特許文献8】Priest FG,Goodfellow M,Todd C,(1998)Journal of General Microbiology,134;1847−1882
【非特許文献9】Seeliger HPR & Jones D,(1986)Genus Listerias,In Bergey’S Manual of Systematic Bacteriology Volume2, ed. By Sneath PHA,pp1235−1245,Williams & Wilkins Baltimore,MD,USA.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、食中毒細菌を簡易かつ迅速に検出するために、主要な食中毒細菌が属する複数属の好気性細菌を同時に培養可能な細菌培養方法と、当該培養方法を用いた迅速な細菌検出方法を提供することである。また、複数の菌属の好気性細菌を同時に培養できる増菌培地を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明者らは主要な食中毒細菌が属する複数属の好気性細菌を同時に培養できる培養条件について研究を行った。本願の発明は、かかる研究結果に基づくものであり、以下の細菌培養方法、細菌検出方法、増菌培地、細菌検出用キットに関するものである。
【0007】
本願第1の発明は、少なくともBacillus属、及びListeria属の好気性細菌を一の増菌培地中で同時に培養可能な細菌培養方法であって、増菌培地のpH値を5より大きく10以下に保持して培養する細菌培養方法である。
【0008】
本願第2の発明は、さらに、Vibrio属の好気性・好塩性細菌を一の増菌培地中で同時に培養可能な細菌培養方法であって、増菌培地の塩濃度が水を溶媒として質量対容量百分率で1%〜4%であることを特徴とする第1の発明に記載の細菌培養方法である。
【0009】
本願第3の発明は、増菌培地が水を溶媒として糖の含有率を質量対容量百分率で0.001%以下とすることを特徴とする第1の発明又は第2の発明に記載の細菌培養方法である。
【0010】
本願第4の発明は、増菌培地が水を溶媒として質量対容量百分率で、ペプトン:1%〜3%、リン酸二カリウム:0.15%〜0.35%、塩化ナトリウム:1%〜4%、及び酵母エクストラクト:0.01%〜0.1%、よりなることを特徴とする第3の発明に記載の細菌培養方法である。
【0011】
本願第5の発明は、少なくともStaphylococcus属、Salmonella属、Escherichia属、Vibrio属、Bacillus属、及びListeria属のうち、二以上の属の好気性細菌を同時に検出できる細菌検出方法であって、第1の発明から第4の発明のいずれか一に記載の細菌培養方法で培養する培養工程と、培養工程後に得られる細菌から所望の細菌を検出する検出工程と、を有する細菌検出方法である。
【0012】
本願第6の発明は、検出工程が、さらに、培養工程後に得られる菌体から核酸を抽出する核酸抽出工程と、核酸抽出工程で得られる核酸に対して、所望の細菌のゲノムDNA上でその細菌に特有な塩基配列を認識するオリゴヌクレオチドを用いて所望の細菌を検出する核酸検出工程と、を有する第5の発明に記載の細菌検出方法である。
【0013】
本願第7の発明は、核酸検出工程が、さらに、核酸抽出工程で得られる核酸を鋳型として、所望の細菌のゲノムDNA上でその細菌に特有な塩基配列を認識するオリゴヌクレオチドを用いて、核酸増幅法により所望の細菌の核酸を増幅する核酸増幅工程と、前記核酸増幅工程で増幅した核酸に基づいて所望の細菌を検出する増幅核酸検出工程と、を有する第6の発明に記載の細菌検出方法である。
【0014】
本願第8の発明は、核酸増幅工程が二以上の細菌に対して、各細菌のゲノムDNA上でそれぞれの細菌に特有な塩基配列を認識するオリゴヌクレオチドを用いて、一の反応液中で同時にそれぞれの細菌の核酸を増幅する第7の発明に記載の細菌検出方法である。
【0015】
本願第9の発明は、核酸検出工程がリアルタイムPCR法を用いる第7の発明、又は第8の発明に記載の細菌検出方法である。
【0016】
本願第10の発明は、核酸検出工程が前記所望の細菌のゲノムDNA上で、その細菌に特有な塩基配列を認識するオリゴヌクレオチドをプローブとしたハイブリダイゼーション法によって検出する第6の発明に記載の細菌検出方法である。
【0017】
本願第11の発明は、前記Staphylococcus属、Salmonella属、Escherichia属、Vibrio属、Bacillus属、及びListeria属の各好気性細菌は、それぞれS.aureus、Salmonella spp.、E.coli O157、V.parahaemolyticus、B.cereus、及びL.monocytogenesである第5の発明から第10の発明のいずれか一に記載の細菌検出方法である。
【0018】
本願第12の発明は、水を溶媒としたときの質量対容量百分率が、糖:0.001%以下、ペプトン:1%〜3%、リン酸二カリウム:0.15%〜0.35%、塩化ナトリウム:1%〜4%、及び酵母エクストラクト:0.01%〜0.1%となることを特徴とする増菌培地である。
【0019】
本願第13の発明は、前記ペプトンが自身の質量に対して10%〜20%のソイトンを含有することを特徴とする第12の発明に記載の増菌培地である。
【0020】
本願第14の発明は、第12の発明、又は第13の発明に記載の増菌培地を含む細菌検出用キットである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の細菌培養方法によれば、Bacillus属、及びListeria属の好気性細菌を単一の増菌培地で同時に培養できる。これによって、食中毒細菌の培養方法の簡易化、迅速化が図れる。また、それに伴って培地や培養装置、光熱費などの培養に要するコスト削減もできる。
【0022】
本発明の細菌検出方法によれば、検査対象物から細菌を検出するまでの操作を簡易化できる。また、検出までに要する時間を短縮化できる。加えて、本発明の他の細菌検出法によれば、複数属の食中毒細菌を同時に検出できる。また、それによって、被検体からの細菌検出をより迅速に行える。
【0023】
本発明の増菌培地によれば、少なくともBacillus属、及びListeria属の細菌を同時に培養する際に、培養中も適正なpH値を保持できる。それゆえ培養中に培地のpH調節を行う必要がなくなり、培養操作の一層の簡易化、迅速化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下で前記発明を実施するための最良の形態について説明する。ただし、本願の発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではなく、その作用効果を奏する範囲において種々なる態様で実施しうる。なお、実施形態1は、主に請求項1から4、及び請求項12、13に関する。また、実施形態2は主に請求項5から11に関する。また、実施形態3は主に請求項14に関する。
【0025】
<<実施形態1>>
【0026】
<実施形態1:概要>
実施形態1は、細菌培養方法、及び増菌培地に関する。本実施形態の細菌培養方法は、増菌培地のpH値を5より大きく10以下に保持して培養することで、少なくともBacillus属、及びListeria属の好気性細菌を同時に培養できることを特徴とする。また、本実施形態の増菌培地は、培養中に特段の操作を加えることなく、前記pH値を保持できることを特徴とする。
【0027】
<実施形態1:発明に至る経緯>
本実施形態の細菌培養方法の詳細な説明に入る前に、まず、本発明に至った経緯について述べる。前述のように、課題解決のために本発明者らは主要な食中毒細菌が属する複数属の好気性細菌を同時に培養できる培養条件について研究を行った。現在、日本における主要な食中毒細菌としては、Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌:以下「S.aureus」とする)、Salmonella Enteritidis(サルモネラ菌:以下「S.Enteritidis」とする)、Escherichia coli O157(病原大腸菌O157:以下「E.coli O157」とする)、Vibrio parahaemolyticus(腸炎ビブリオ:以下「V.parahaemolyticus」とする)、Bacillus cereus(嘔吐型セレウス菌:以下「B.cereus」とする)、及びListeria monocytogenes(リステリア菌:以下「L.monocytogenes」とする)などが挙げられる。これら6属6種の細菌をTSBなどの一般的な増菌培地を用いて普通に用いられる培養条件下で同時に培養した結果、好塩性のV.parahaemolyticusの増殖が抑制される結果が得られた。当該細菌の増殖抑制は、増菌培地の塩濃度を上げることで解決できた。
【0028】
また、前記6属の細菌を同時培養した場合、L.monocytogenesの増殖が抑制される結果が得られた。Listeria属を同時に培養できる培養条件を見出すために、本発明者らは当該増殖抑制の原因を調べた。その結果、増殖抑制はL.monocytogenesとB.cereusとを同時培養した際に生じること、及び当該増殖抑制はBacillus属の増殖による増菌培地のpH値の低下に起因することを突き止めた。この発見に基づき、増菌培地のpH値を5より大きく10以下に保持して培養を行うことによって同時培養が困難であったBacillus属とListeria属の二属を一の増菌培地で同時に培養できるという培養条件を見出した。この培養条件に加えて増菌培地の塩濃度を上げることで、V.parahaemolyticusを含む、上記6属の細菌全てを一の増菌培地で同時に培養することが可能となった。
【0029】
さらに、本発明者らはBacillus属が増殖してもpH値が低下しない増菌培地の開発を行った。非特許文献3よりBacillus属の増殖による増菌培地のpH値の低下は、Bacillus属が増菌培地中のブドウ糖を代謝分解する過程で有機酸などの酸を産生し、それを培地中に排出することが原因であると考えられた。そこで、増菌培地から糖を可能な限り除去し、それを補完する栄養素を添加することでBacillus属の増殖によってもpH値が大幅に低下することなく、前記6属の細菌を同時に培養可能な増菌培地を開発することに成功した。本実施形態の細菌培養方法と増菌培地の発明は、かかる発見に基づくものである。
【0030】
<実施形態1:構成>
本実施形態の細菌培養方法、及び増菌培地の各構成について以下で説明する。
【0031】
((細菌培養方法の構成))
【0032】
(Bacillus属、及びListeria属の好気性細菌を同時に培養する場合)
少なくともBacillus属、及びListeria属の好気性細菌を一の増菌培地中で同時に培養する本実施形態の細菌培養方法の構成要件は、増菌培地のpH値を5より大きく10以下に保持して培養することである。
【0033】
「好気性細菌」とは、物質の代謝に酸素を必要とする細菌の総称をいう。ただし、本願では完全嫌気状態であっても増殖可能な通性好気性細菌(又は通性嫌気性細菌)も含むものとする。
【0034】
「Bacillus属の好気性細菌」は、本願では特に増殖により培地のpH値の低下を生じさせる好気性の菌種を指す。すなわち、増殖に伴って発生する酸を増菌培地中に排出する好気性の菌種をいう。例えば、B.cereus、Bacillus subtilisが該当する。増殖条件に関して、これらの菌種は類似の性状を有している(非特許文献8)。
【0035】
「Listeria属の好気性細菌」は、L.monocytogenes、Listeria innocua、Listeria ivanovii、Listeria grayi、Listeria welshimeri、Listeria seegligeriなどが該当する。増殖条件に関して、これらの菌種は類似の性状を有している(非特許文献9)。
【0036】
「増菌培地」とは、細菌を増殖させることを目的とする培地である。これについては後で詳述する。
【0037】
「一の増菌培地」とは、同一容器内にある単一の増菌培地を意味する。
【0038】
「同時に培養」とは、複数の菌種を一の増菌培地に接種した後、それらを共に増殖させることをいう。共に増殖しているかの判断基準は、例えば、各細菌の培地容量当たりの菌数がそれぞれの定常期までに所定の値以上あることとすればよい。「所定の値」としては、一例として約1×103cfu/mlが挙げられる。当該数値は、核酸増幅法などを用いた検出方法の検出下限菌数に相当するため、所定の値の最下限値としては適当だからである。各菌種が所定の菌数に達するまでの時間は問わない。例えば、ある菌種は培養後2時間で所定の菌数に達して、その1時間後には定常期に入り、他の種は培養後10時間で所定の菌数に達した場合であっても、両者は同時に培養されたものとする。
【0039】
「増菌培地のpH値を5より大きく10以下に保持」とは、増菌培地全体のpH値を培養中に5よりも大きく10以下の範囲内に保つことである。増菌培地のpH値が当該範囲内であれば多少の変動は問わない。しかし、pH値が当該範囲外の場合は、Bacillus属、及びListeria属の細菌を同時に培養する上で好ましくない。
【0040】
増菌培地のpH値をpH5以下にすることが好ましくない理由は、Listeria属細菌の増殖が抑制されるためである。これについては、図1を用いて以下で詳細に説明する。図1は、各pH値の増菌培地におけるL.monocytogenesの培地容量当たりの菌数を示している。図1の実験は、HClを用いて各pH値に調整した滅菌済みTSBにL.monocytogenesを無菌条件下で最終菌濃度が1〜10cfu/mlとなるように接種し、37℃で18時間静置培養後、TSB寒天培地(以下「TSA」とする)に希釈塗沫してコロニー数をカウントしたものである。この図が示すように、増菌培地のpH値がpH5以下の場合には、L.monocytogenesはほとんど検出できない。したがって、増菌培地のpH値を5以下にすることはListeria属細菌の増殖が抑制されてしまうため好ましくない。Bacillus属とListeria属の効率的な増殖を考慮した場合、増菌培地のpH値は、5.2以上であることが好ましく、5.5以上であることがより好ましい。なお、TSB、TSAの組成については、実施例1で詳述する。
【0041】
また、増菌培地のpH値が10を越えることが好ましくない理由は、好アルカリ性細菌を除く多くの細菌は、pH10を越える強アルカリ下で増殖が抑制されることが知られているからである。図示はしないが、Listeria属細菌もpH10を越える環境下で増殖が抑制される(非特許文献9)。したがって、増菌培地のpH値は10を越えることは好ましくない。Bacillus属とListeria属の効率的な増殖を考慮した場合、増菌培地のpH値は9以下であることが好ましく、8.7以下であることがより好ましい。
【0042】
ところで、Bacillus属とListeria属の好気性細菌を同時に培養する場合、通常の培養条件ではpH値を上記範囲内に保持することは難しい。これは、前述のようにBacillus属細菌の増殖により、増菌培地のpH値が低下するからである。図2は、B.cereusとL.monocytogenesを同時に培養したときの、各培養時間におけるそれぞれの細菌の培地容量当たりの菌数と培地のpH値の関係を示している。図2の実験では、まず、滅菌済みTSBにB.cereusとL.monocytogenesのそれぞれを最終菌濃度が約100cfu/mlとなるように無菌条件下で接種し、37℃で静置培養した。続いて、接種直後から18時間後まで、2時間ごとに増菌培地溶液の一部を採取した後、それぞれの細菌の選択培地プレートに希釈塗沫して形成されたコロニー数をカウントした。また、この時同時に増菌培地溶液の一部を遠心し、上清を濾過滅菌後にpH測定を行った。選択培地の組成については、実施例1で詳述する。この図で示すように、増菌培地のpH値は、B.cereusが増殖して定常期に入る培養後12時間以降に急速に低下していることがわかる。また、増菌培地のpH値の低下に伴い、L.monocytogenesの増殖がほとんど抑制されていることも示されている。このように、受動的な培養方法ではBacillus属細菌が増殖することで、Listeria属の増殖が抑制されるという二属を同時培養する上で相反する問題が発生する。
【0043】
そこで、本実施形態は、Bacillus属を培養中であっても増菌倍地中のpH値を能動的に5より大きく10以下の範囲内に保持させることを構成要件としている。それによって、少なくともBacillus属、及びListeria属の好気性細菌を一の増菌倍地中で同時に培養ことが可能となる。増菌培地のpH値を保持する方法については、「実施形態1:方法」の項で述べる。また、アルカリ側に関しては、Bacillus属、及びListeria属の好気性細菌を同時に培養した場合であっても、一方の菌種の増加によって増菌培地のpH値が増加するということはない。したがって、接種時に増菌培地のpH値を10以下に調整しておけばよい。
【0044】
なお、増菌培地のpH値を一時的に前記pH値の範囲外とした場合であっても、培養中に前記範囲内にpH値を戻す場合、あるいはpH値が戻る場合には、増菌培地のpH値は当該範囲内に保持されているものとみなす。
【0045】
「少なくともBacillus属、及びListeria属の好気性細菌を一の増菌倍地中で同時に培養できる」とは、検査対象物中にBacillus属とListeria属の各好気性細菌が存在する場合には、少なくとも当該二属の菌種に関しては、単一の培地で同時に培養できることをいう。したがって、本実施形態の細菌培養方法で同属の複数菌種が同時に培養されてもよい。また、検査対象物中に他の好気性細菌が存在する場合には、それらが当該二属の細菌と共に培養されてもよい。特に食中毒細菌を含む他の菌属が同時に培養されることは、本発明の目的に資するため好ましい。一例を挙げれば、TSB培地を用いた本実施形態の細菌培養方法では、前記二属以外に、Staphylococcus属、Salmonella属、Escherichia属、Vibrio属(ここではVibrio choleraeなどの非好塩性菌種に限る)などの同時培養が可能である。また、これ以外にもShigella属、Aeromonas属、Plesiomonas属などが挙げられる。
【0046】
(前記二属に加えて、さらにVibrio属の好気性・好塩性細菌を同時培養する場合)
少なくともBacillus属、Listeria属の好気性細菌に加えて、さらにVibrio属の好気性・好塩性細菌を一の増菌培地中で同時に培養する本実施形態の細菌培養方法は、増菌培地のpH値を5より大きく10以下に保持して培養することに加えて、増菌培地の塩濃度を1%〜4%とすることを構成要件とする。このうち、前述した構成要件以外について、以下で説明する。
【0047】
「Vibrio属の好気性・好塩性細菌」とは、Vibrio属に属する好気性細菌種であり、かつ増殖に一定濃度以上の塩を必要とする菌種をいう。例えば、V.parahaemolyticus、Vibrio fluvialis、Vibrio vulnificus、Vibrio damsela、Vibrio alginolyticsが該当する。増殖条件に関して、これらの菌種は類似の性状を有している。
【0048】
「塩濃度」とは、水を媒体とするときの塩の質量対容量(g/ml)百分率を意味する。ここでいう「塩」とは、主として塩化ナトリウムを意味するが、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、及び/又は塩化カリウムなどを含んでいてもよい。
【0049】
塩濃度を1%以上4%以下とする理由は、好塩性Vibrio属をはじめとする好塩性菌種は海水中に生息するものが多く、増殖や生息には一般に海水の塩濃度に近い環境を必要とするためである。海水の塩濃度は約3.4%である。したがって、本実施形態では塩濃度を1%以上4%以下に設定した。この範囲外では、当該菌種の増殖が抑制される可能性があるため好ましくない。
【0050】
塩濃度が好塩性Vibrio属の増殖に与える影響を、一例を挙げて説明する。図3は、B.cereus、L.monocytogenes、及び好塩性細菌であるV.parahaemolyticusを同時に培養したときの、それぞれの細菌の培地容量当たりの菌数を示している。(a)はTSB(塩濃度0.5%)で培養した結果を、また(b)はTSBにおいてNaClを質量対容量百分率で1.5%とした増菌培地(塩濃度1.5%)で培養した結果である。各実験は、それぞれの滅菌済み増菌培地に最終菌濃度が約1〜10cfu/mlとなるように無菌状態下で接種し、37℃で18時間静置培養した後、TSAに希釈塗沫してコロニー数をカウントしたものである。これらの図で示すように、V.parahaemolyticusは、塩濃度0.5%下では増殖がほとんど抑制された。一方、塩濃度1.5%下では約1×106cfu/mlと、細菌検出上十分な菌数まで増殖した。なお、図3ではL.monocytogenesの増殖が抑制されているが、これは当該実験に用いた増菌培地のpH値を前記範囲内に保持していないためである。
【0051】
以上のように、本実施形態においてBacillus属、Listeria属と共にVibrio属の好気性・好塩性菌種を同時培養する場合には、増菌培地の塩濃度を1%以上4%以下とするのが好ましい。
【0052】
((増菌培地))
【0053】
本実施形態の細菌培養方法では、培養中の増菌培地のpH値を5より大きく10以下の範囲内に能動的に保持する必要がある。増菌培地の組成は、培養中の増菌培地のpH値を保持する方法に応じて適宜選択する。例えば、後述の「実施形態1:方法」の項の「培養工程」で述べる(A)の増菌培地のpH値を外部から強制調整する方法であれば、細菌培養に一般的に使用される汎用培地のTSBを使用すればよい。また、(B)の増菌培地にpH緩衝能を有する試薬を加えておく方法の場合にも同じくTSBが使用できる。ただし、この場合、溶媒の1/10容量程度でバッファとしてPBS(Phosphate Buffered Saline:137mM HCl、8.1mM Na2HPO4・12H2O、2.68mM KCl、1.47mM KH2PO4、pH7.4)などを加える必要がある。さらに、Vibrio属の好気性・好塩性細菌を一の増菌培地中で同時に培養するためには、(A)、(B)のいずれの場合にも、増菌培地の塩濃度が最終濃度で1%〜4%となるように、前記TSBに塩化ナトリウムなどを追加しておけばよい。
【0054】
ところで、前述のように、通常の細菌の培養条件ではBacillus属の増殖で増菌培地のpH値の低下が生じてしまう。このBacillus属の増殖による増菌培地のpH値の低下は、Bacillus属細菌が糖を代謝して酸を産生し、それを培地中に排出することに起因する。したがって、増菌培地中の糖を除去するか、若しくは限りなく少量に抑えれば、Bacillus属の増殖による増菌培地のpH値の低下を抑制できる。具体的には、例えば、増菌培地中の糖の含有率を水を溶媒として質量対容量百分率で0.001%以下となるようにすればよい。ただし、この場合、糖に代わる栄養素を増菌培地に加えて栄養的に補完することが好ましい。糖に代わる栄養素としては、各種ビタミン、ミネラル、核酸物質などを豊富に含むことが知られているイーストエクストラクト(非特許文献4、5)などが挙げられる。
【0055】
本発明者らは、上記の点を考慮して本実施形態の増菌培地の趣旨に即した新たな増菌培地を開発した。本願では、当該新たな増菌培地を以下便宜的にSEB(Simultaneous Enrichment Broth)と呼ぶ。SEBは、TSBの組成に基づき糖含有量を質量対容量百分率0.001%以下に抑え、それを補完するためにイーストエクストラクトを加えた増菌培地である。当該SEBは、水を溶媒としたときの質量対容量百分率でペプトン:1%〜3%、リン酸二カリウム:0.15%〜0.35%、塩化ナトリウム:1%〜4%、及び酵母エクストラクト:0.01%〜0.1%を主な構成要素とする。前記ペプトンは、タンパク質を加水分解酵素により部分分解処理して断片化したものであれば特に限定はしない。例えば、カゼインをトリプシン処理したトリプトン(DIFCO社)、細菌をペプシン処理したバクト・ペプトン(DIFCO社)が利用できる。細菌のより効率的な増殖には、当該ペプトンの一部に大豆タンパク質を加水分解酵素により部分分解したソイトン(DIFCO社)をペプトンの質量に対して10%〜20%加えるとよい。なお、前記SEBの組成はVibrio属の好気性・好塩性細菌も同時に培養できるように、塩化ナトリウムの含有率を1%〜4%としているが、好塩性細菌を同時に培養する必要がない場合には、塩化ナトリウムの含有率はTSBと同様の0.5%程度としても構わない。SEBを用いたBacillus属とListeria属の好気性細菌の同時培養の実施例は、実施例1、及び2で述べる。
【0056】
複数菌種を同時に培養することを目的とする場合には、増菌培地の状態は原則として液体培地であることが好ましい。ただし、コロニーを形成させたい場合など、必要に応じて寒天培地などの固体培地を用いてもよい。
【0057】
<実施形態1:方法>
実施形態1の細菌培養方法について例を挙げて説明する。図4は本実施形態における細菌培養方法のフローチャートの一例である。この図で示すように、本実施形態の細菌培養方法は、増菌培地調製工程(S0401)、接種工程(S0402)、培養工程(S0403)で構成される。以下で各工程について説明する。なお、以下の一連の操作は原則として無菌的環境下で行い、また、使用する培地や試薬、器具なども原則として滅菌済みのものを使用する。
【0058】
「増菌培地調製工程」(S0401)とは、少なくともBacillus属、及びListeria属の好気性細菌を同時に培養できる増菌培地を調製する工程である。当該増菌培地は、前述の構成を有する増菌培地を適宜選択して調製すればよい。当該工程で用いる増菌培地は、液体培地が望ましい。増菌培地の分量は、用途に応じて定めるようにすればよい。例えば、本実施形態の培養方法により得られた培養液を用いて実施形態2で述べる核酸増幅法により所望の細菌を検出するのであれば、増菌培地の分量は5ml〜20mlあれば足りる。また、古典的なサザンハイブリダイゼーション法などを用いて所望の細菌を検出するのであれば、増菌培地の分量は50ml〜500ml程あることが好ましい。調製後の増菌培地は、121度で15分〜20分ほどオートクレーブ滅菌して使用する。なお、市販の増菌培地を用いるなど既存の培地を利用する場合であれば、本工程は省略してもよい。
【0059】
「接種工程」(S0402)とは、検査対象物を増菌培地に添加することで、検査対象物中の細菌を増菌培地に接種する工程である。ここでいう検査対象物とは、本願発明を鑑みれば主として食品が該当するが、それ以外のものであってもよい。例えば、食品を包んでいたラップやパック、又は食器が挙げられる。検査対象物を増菌培地に添加する方法は、検査対象物中に存在する細菌を増菌培地に接種できる方法であれば特に限定しない。例えば、検査対象物である食品が液体や流動物(カレーのルーなど)であれば、その一部を直接増菌培地中に添加すればよい。また、検査対象物が固体食品などであれば、当該検査対象物をホモジェナイズした後、ホモジェネートの一部を直接増菌培地中に添加するか、ホモジェネートに無菌PBSなどのバッファを加えて混合した後、その懸濁液、もしくは上清を増菌培地中に添加してもよい。あるいは、当該検査対象物を無菌の増菌培地と共にホモジェナイズしたものをそのまま培養する方法であってもよい。さらに、食器やパックであれば、検査箇所を無菌PBSなどで洗浄し、当該洗浄後のPBSを直接増菌培地中に添加するなどすればよい。
【0060】
なお、本実施形態の細菌培養方法は、状況に応じて接種工程(S0402)と次の培養工程(S0403)との間に前培養工程を設けてもよい。「前培養工程」とは、培養工程の増菌培地に接種する菌数を所定数以上にするために予め比較的少量の増菌培地に検査対象物を接種して細菌数を増加させる工程である。当該工程を経るか否かは、通常、培養工程に用いる増菌培地の容量によって判断する。例えば、増菌培地の分量が100mlを越えるような場合には、当該工程を経ることが好ましい。細菌の対数増殖期までの時間を短縮できるからである。逆に、50ml以下のような少量の培地への接種の場合、当該前培養工程を経なくともよい。前培養工程におけるpH値の保持や塩濃度などの培養条件は、培養工程と同様にすることが望ましい。通常の培養条件では前培養の段階で各細菌の増殖に偏重を来たす可能性があるためである。前培養は、36℃〜38℃で6時間〜12時間程度行えばよい。前培養後は、培養液を適量直接、若しくはPBSなどの無菌バッファで適当に希釈した後、増菌培地に接種する。
【0061】
「培養工程」(S0403)とは、接種後の増菌培地を一定条件下に置き、接種された細菌を培養する工程である。一定条件下とは、少なくともBacillus属、及びListeria属の好気性細菌を同時に培養する場合には、培養中の増菌培地のpH値を5より大きく10以下に保持することである。また、さらにVibrio属の好気性・好塩性細菌を同時に培養するには、増菌培地の塩濃度を1〜4%としておくことである。
【0062】
前述のように、通常の培養条件ではBacillus属の増殖によりpH値の低下が生じる。したがって、本実施形態の細菌培養方法では、培養中の増菌培地のpH値を能動的に保持する必要がある。以下、培養中に増菌培地のpH値を保持する方法について具体例を挙げて説明する。
【0063】
(A)増菌培地のpH値を外部から強制調整する方法
増菌培地のpH値をモニタリングしながら、外部から薬剤などを加えて強制的にpH値を調整することによって、増菌培地のpH値を所定の範囲内に保持させる方法である。当該方法の具体例としては、滴定が挙げられる。例えば、培養中に増菌培地のpH値をpHメーターで計測し、pH値が5以下となった場合には、0.1N程度のNaOH溶液を滴定して、5より大きく10以下の範囲内となるように調整すればよい。逆にpH値が10を越えた場合には0.1N程度のHCl溶液を滴定して、同様に5より大きく10以下の範囲内となるように調整すればよい。この方法で用いる増菌培地は汎用性の高い通常の増菌培地でよい。例えば、TSBなどが利用できる。なお、塩濃度については、必要に応じてTSBに適宜添加し、調整すればよい。これらの調整は滴定装置とpHメーターを連結して、又は一体化して、自動で行えるようにすると便利である。
【0064】
(B)増菌培地にpH緩衝能を有する試薬を加えておく方法
pHレンジが5より大きく10以下の範囲内にあり、かつ細菌の増殖に影響をほとんど及ぼすことのない試薬を増菌培地に加えておく方法である。増菌培地自身がpH緩衝能をもつことから、Bacillus属の増殖によりpH値の低下が生じても、Listeria属の好気性細菌が増殖可能なpH値に自動調整されることから便利である。具体例としてはPBSを増菌培地の溶媒として1/10容量程度加える方法が挙げられる。当該方法で培養を行う場合には、前記増菌培地調製工程(S0401)で、pH緩衝能を有する試薬を加えた増菌培地を調製しておけばよい。
【0065】
(C)糖含有量を抑制した増菌培地を使用する方法
前記「増菌培地」の項で述べたように増菌培地における糖の含有量を抑制する、若しくは糖を除去することで、培養中のpH値の低下を防止する方法である。当該方法で培養を行う場合には、前記増菌培地調製工程(S0401)で、予め糖含有量を抑制した増菌培地を調製しておけばよい。この場合、前述のように増菌培地には糖を代替する栄養素を添加することが好ましい。増菌培地の具体例としては、前記「増菌培地」の項で述べたSEBなどが挙げられる。
【0066】
培養温度は36℃〜38℃、培養時間は6時間〜24時間程度行えばよい。通常は、37℃で12時間〜20時間程度培養すれば足りる。増菌培地は静置培養、振とう培養のいずれであってもよい。静置培養の場合にはインキュベーターなどを、また振とう培養の場合には恒温振とう培養器などを用いてもよい。
【0067】
以上の工程を経ることで、少なくともBacillus属、及びListeria属の好気性細菌を同時に培養できる。なお、本実施形態の細菌培養方法に基づいた細菌培養の結果は、実施例2、及び3に示した。
【0068】
<実施形態1:効果>
本実施形態の細菌培養方法によれば、複数属の食中毒細菌を単一培地で同時に培養することが可能となり、培養方法の簡易化、迅速化ができる。また、実施形態2の細菌検出方法における検出時間の短縮化にも繋がる。
【0069】
本実施形態の増菌培地によれば、少なくともBacillus属、及びListeria属の細菌を同時に培養する場合、培養中も適正なpH値を保持できる。それによって、培養中に培地のpH調節を行う必要がなくなり、培養操作の一層の簡易化、迅速化が可能となる。
【0070】
<<実施形態2>>
【0071】
<実施形態2:概要>
実施形態2は、細菌検出方法に関する。本実施形態の細菌検出方法は、前記実施形態1の細菌培養方法で細菌を培養する培養工程を含むことを特徴とする。本実施形態の細菌検出方法によれば、少なくともStaphylococcus属、Salmonella属、Escherichia属、Vibrio属、Bacillus属、及びListeria属のうち、二以上の属の好気性細菌を同時に検出することができる。したがって、食中毒細菌をはじめとする細菌の簡易迅速な検出方法として有用である。
【0072】
<実施形態2:方法>
実施形態2の細菌検出方法について説明する。図5に本実施形態のフローチャートの一例を示す。この図のように、本実施形態の細菌検出方法は、培養工程(S0501)と検出工程(S0502)とを構成要件とする。以下、各工程について説明する。
【0073】
「培養工程」(S0501)とは、実施形態1の細菌培養方法で培養を行う工程である。ここでいう、培養工程とは、「実施形態1:方法」の項で述べた培養工程のみならず、広く実施形態1の培養方法を用いた一連の培養工程をいう。すなわち、接種工程の他、必要に応じて増菌培地調製工程、及び前培養工程などを含むものとする。基本的な方法については実施形態1で述べた方法と同じでよい。当該培養工程後に得られる培地中の細菌を次の検出工程に用いる。
【0074】
「検出工程」(S0502)とは、前記培養工程(S0501)後に得られる細菌から所望の細菌を検出する工程である。「所望の細菌」とは、存在の有無を確認したい標的細菌をいう。検出工程は、検出方法の違いによって、さらにいくつかに分類できる。第一は、増殖した生菌をそのまま用いて検出する方法である。第二は、増殖した細菌のタンパク質を検出する方法である。第三は、増殖した細菌の核酸を検出する方法である。以下、各方法について説明する。
【0075】
(生菌を用いる方法)
培養工程で増殖した細菌を、生菌状態のままで検出する方法である。例えば、所望の細菌の選択培地を用いたコロニー形成法が挙げられる。コロニー形成法は、具体的には、培養後の培養液にPBSなどのバッファを加えて10倍連続希釈系列を作成し、所望の細菌の選択培地プレートに適当量塗抹した後、形成されるコロニー数に基づいて所望の細菌の存在や菌数を算出する方法である。選択培地は、「実施形態1:発明に至る経緯」で挙げた日本の主要な食中毒細菌であれば、実施例1及び2で詳述する選択培地が利用できる。
【0076】
(タンパク質を検出する方法)
所望の細菌に特有のタンパク質を検出する方法である。例えば、抗体を用いた免疫学的な検出方法が挙げられる。具体例としては、ELISA法やウェスタンブロッティング法が利用できる。簡易性や迅速性を鑑みればELISA法が好ましい。これらの方法は、確立した周知の技術であることから具体的説明については省略する。なお、タンパク質は、細菌から抽出する方法と細菌の膜表面タンパク質を利用する方法があるが、いずれの方法であっても構わない。後者は、細菌の膜表面タンパク質を抗原とすることによりELISA法などで菌体のまま検出できるため、細菌検出の簡易性、迅速性の目的に資する点で便利である。細菌からタンパク質を抽出する方法も確立した周知の技術であり、例えば、非特許文献6に記載の方法に準じて処理すればよい。この方法で使用する抗体は、所望の細菌で知られる特有のタンパク質、若しくは特異的に発現するタンパク質などに対する抗体を用いる。これらは、市販の抗体などを利用すればよい。
【0077】
(核酸を検出する方法)
培養工程で増殖した細菌から核酸を抽出後、所望の細菌に特有な塩基配列を有する核酸を検出する方法である。図6のフローチャートで示すように、当該方法は、検出工程(S0602)が、さらに、核酸抽出工程(S0603)と核酸検出工程(S0604)とを有することを特徴とする。以下で本方法に特徴的な工程である核酸抽出工程(S0603)と核酸検出工程(S0603)について説明する。なお、培養工程(S0601)の説明は上記S0501で既に説明したため省略する。
【0078】
「核酸抽出工程」(S0603)とは、培養工程後に得られる菌体から核酸を抽出する工程である。ここでいう「核酸」とは、DNAやRNAが該当する。菌体から核酸を抽出する方法は、アルカリ法などの核酸抽出法として確立した公知の技術が利用できる。具体的な方法については非特許文献7に記載の方法などに準じればよい。
また、菌体から核酸を抽出する方法は、市販の核酸抽出キットなども利用できる。抽出後の核酸は、TEバッファなどで懸濁した後、適当な濃度に調整して次の核酸検出工程で用いる。
【0079】
「核酸検出工程」(S0604)とは、核酸抽出工程で得られる核酸に対して、所望の細菌のゲノムDNA上でその細菌に特有な塩基配列を認識するオリゴヌクレオチドを用いて所望の細菌を検出する工程である。
【0080】
「オリゴヌクレオチド」とは、10塩基〜50塩基程度のデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、LNA(登録商標;Locked Nucleic Acid)、PNA(ペプチド核酸)、又はそれらの組み合わせなどによって構成されている。本実施形態のオリゴヌクレオチドは、プローブ、又は核酸増幅におけるプライマーとしての機能を有する。
【0081】
当該オリゴヌクレオチドを構成する一、又は二以上のヌクレオチドは糖鎖などで修飾されていてもよい。また、当該オリゴヌクレオチドは標識物質で標識されていてもよい。標識物質の使用は、増幅された核酸断片の検出が容易になるため便利である。「標識物質」とは、例えば、蛍光物質、蛍光抑制物質、RI、ジゴキシゲニン(DIG)等のハプテン、又はビオチンが挙げられる。「蛍光物質」とは、特定波長の励起光を吸収することで励起状態となり、元の基底状態に戻る際に蛍光を発する性質を有する物質を言う。標識に用いる蛍光物質は、オリゴヌクレオチドに標識可能なものであれば、種類は特に問わない。例えば、FAM、TET、HEX、Cy3、Cy5、Texas Red、FITCが挙げられる。「蛍光抑制物質」とは、いわゆるクエンチャーであって、蛍光物質の励起エネルギーを吸収する物質等をいう。例えば、BHQ1、BHQ2、BHQ3、Dabcyl、TAMRAが該当する。オリゴヌクレオチドの標識される位置は、使用する標識物質等の性質に応じて適宜決定すればよく、特に限定はしない。例えば、5’及び/又は3’末端であってもよいし、オリゴヌクレオチド内のいずれかのヌクレオチドであってもよい。なお、蛍光抑制物質を使用する場合は通常、蛍光物質とペアで標識される。この場合、蛍光物質はオリゴヌクレオチドの5’末端に標識され、蛍光抑制物質は同じオリゴヌクレオチドの3’末端に標識されることが一般的である。また、蛍光抑制物質は、種類によって蛍光の抑制範囲が異なる。したがって、蛍光抑制物質を使用する場合は、ペアとなる前記蛍光物質の発光を抑制できる種類を選択する必要がある。
【0082】
「所望の細菌のゲノムDNA上でその細菌に特有な塩基配列」とは、標的細菌のゲノムDNA上に存在する当該標的細菌に特異的な塩基配列である。当該特有な塩基配列は、種特異的な塩基配列であることが好ましいが、亜属特異的、属特異的な塩基配列であってもよい。なぜなら、本実施形態の細菌検出方法では、必ずしも種レベルで検出する必要がないためである。例えば、食品のVibrio属による汚染度を確認したい場合にはVibrio属の有無が検出できれば十分であり、V.parahaemolyticusまでを検出する必要はない。このような場合であれば、Vibrio属に特異的な塩基配列が、ここでいう所望の細菌のゲノムDNA上でその細菌に特有な塩基配列に該当する。
【0083】
当該特有な塩基配列としては、標的細菌が有する特異的な遺伝子の配列や塩基多型等が挙げられる。ここでいう特異的な遺伝子とは、例えば、種特異的若しくは属特異的な酵素が挙げられる。また、塩基多型とは、種特異的若しくは属特異的な、SNP(Single Nucleitide Polymorphism)、マイクロサテライト、VNTR(Variable Nucleotide Tandem Repeat)、又はRFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)等が該当する。具体的な塩基配列については、所望の細菌に応じて適宜検討、選択することが好ましい。例えば、主要食中毒細菌6属6種の場合であれば、実施例4の表2で挙げた遺伝子の塩基配列が利用できる。ただし、表2は、具体例の一つであり、本実施形態でいう所望の細菌のゲノムDNA上でその細菌に特有な塩基配列は、それに限られるものではない。
【0084】
「認識する」とは、同定できることをいう。つまり、用いるオリゴヌクレオチドは、必ずしもそれ自身が所望の細菌に特有な塩基配列に相補的な塩基配列を有することで特有な塩基配列を認識する必要はない。オリゴヌクレオチド自身の塩基配列は所望の細菌に特有な塩基配列を含んでいなくとも、それを用いることで結果的に所望の細菌に特有な塩基配列を同定できるのであれば、認識するものとみなす。例えば、特有な塩基配列は有していないが、所望の細菌に特有なSNPなどの塩基配列を含む特定の領域を増幅できるプライマーペアが該当する。
【0085】
核酸検出工程は、検出方法によってさらにいくつかの方法に分けることができる。例えば、ハイブリダイゼーション法による方法や核酸増幅法を用いた方法が該当する。以下、各方法について説明する。
【0086】
(ハイブリダイゼーション法による方法)
ハイブリダイゼーション法による核酸検出工程は、前記所望の細菌のゲノムDNA上でその細菌に特有な塩基配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプローブとして、ハイブリダイゼーションにより標的細菌の有無を検出する方法である。例えば、ゲル・ブロッティング法や、核酸を直接固定したフィルターや基板を用いる方法が挙げられる。ゲル・ブロッティング法の具体例としてはサザンブロット・ハイブリダイゼーション法、ノザンブロット・ハイブリダイゼーション法、若しくはそれらを原理とするブロッティング法などが該当する。サザンブロット・ハイブリダイゼーション法は、電気泳動後のゲル中で分画されたDNAをメンブレンに転写した後、標識されたプローブを当該メンブレン上の目的の塩基配列を有するDNAにハイブリダイズさせて検出することを基礎とするものである。ノザンブロット・ハイブリダイゼーション法は、DNAに代わってRNAをメンブレンに転写して、サザンブロット・ハイブリダイゼーション法と同様の処理を行う方法である。前記の方法はいずれも分子生物学分野で確立した極めて一般的な技術であり、非特許文献7などのプロトコールに準じて行えばよいことから詳細な説明については省略する。また、核酸が固定されたフィルターや基板を用いる方法の具体例としてはマクロアレイ、マイクロアレイ、又はDNAチップなどの解析法等が該当する。これらの方法は、検出感度を高めるために、次に述べる核酸増幅法を用いた方法と組み合わせることが望ましい。マクロアレイ、マイクロアレイ、又はDNAチップを用いる方法は、複数の細菌を同時検出できることから本発明の目的に資するので好ましい。これらの方法を用いた検出方法は、公知の技術であることから、詳細な説明は省略する。なお、マイクロアレイ、又はDNAチップを用いた方法は基板など作製のための技術、労力、コストを考慮すると受託解析サービスを行っている専門業者を利用する方が便利である。
【0087】
(核酸増幅法を用いた方法)
核酸増幅法を用いた方法による核酸検出工程は、図7のフローチャートで示すように、核酸検出工程(S0704)がさらに、核酸増幅工程(S0705)と増幅核酸検出工程(S0706)とを有することを特徴とする。以下で核酸増幅工程(S0705)と増幅核酸検出工程(S0706)について説明する。その他の工程の説明については、前述の各工程と同様であることから省略する。
【0088】
「核酸増幅工程」(S0705)とは、核酸抽出工程で得られる核酸を鋳型として、所望の細菌のゲノムDNA上でその細菌に特有な塩基配列を認識するオリゴヌクレオチドを用いて、核酸増幅法により所望の細菌の核酸を増幅する工程である。核酸増幅工程による細菌検出方法は、培養工程で細菌数を増加させ、さらに細菌から抽出された核酸を当該核酸増幅法で増幅することにより、検査対象物中にわずかに存在する細菌であっても検出可能となることから、検出感度を高める上で有用である。また、前述のように、ハイブリダイゼーション法と組み合わせて用いることで、迅速性、簡易性を高めることができる。
【0089】
「核酸増幅法」とは、DNAなどの核酸を鋳型とし、二つのプライマーに挟まれた特定の領域を酵素反応によって増幅する方法である。例えば、PCR法、ICAN法、LAMP法、NASBA法、又はそれらの応用的な方法(例えば、リアルタイムPCR法)が挙げられる。いずれも公知の技術であるが、中でもPCR法は、医学、農学をはじめとする分子生物学の分野において現在世界中で広く使用されている方法であり、様々な応用技術も知られていることから便利である。
【0090】
核酸増幅法における核酸増幅反応については、使用する核酸増幅法に応じて適宜定める。例えば、PCR法であれば、通常、鋳型の熱変性反応、プライマーなどのアニーリング反応、プライマーの伸長反応の3反応を1サイクルとして、当該サイクルを繰り返す方法を基本としている。各反応における温度と時間は、熱変性反応を88℃〜98℃で30秒間〜1分間、アニーリング反応を52℃〜60℃で30秒間〜1分間、伸長反応を70℃〜75℃で40秒間〜3分間程度行えばよい。効率的な増幅のためには、使用するプライマーの塩基配列や塩基数に応じて適宜定めることが好ましい。一方、ICAN法やLAMP法は、50℃から65℃の一定温度で増幅が可能である。これらの核酸増幅法は、サーマルサイクラーなどの温度制御機器を必要としないため便利である。また、サイクル数は、使用するDNAポリメラーゼの種類や所望する核酸の増幅量によって異なるが、通常、25サイクルから45サイクル程度で足りる。好ましくは28サイクルから42サイクル、特に好ましくは30サイクルから40サイクルである。
【0091】
「核酸を鋳型として」とは、核酸の塩基配列を鋳型にしてということである。したがって、核酸抽出工程で得られた核酸そのものを必ずしも鋳型にする必要はない。例えば、核酸抽出工程で得られた核酸がmRNAであった場合には、そのmRNAから逆転写によって得られるcDNAを鋳型にしてもよい。
【0092】
核酸増幅工程は、二以上の標的細菌のそれぞれに対する複数のプライマーペアなどを一の反応液中で混和して、各細菌の核酸を同時に増幅してもよい。具体的な方法としては、いわゆるMultiplex PCR法などが挙げられる。当該方法によれば、一の核酸増幅反応で複数の標的細菌のそれぞれに特有な核酸断片を増幅できる。したがって、当該方法は、本願発明の細菌検出法の目的である簡易化、迅速化に資することからも好ましい。なお、各標的細菌に用いるオリゴヌクレオチドは、それらの塩基配列がお互いの核酸増幅を阻害しないようにすること、標識物質が細菌間で重複しないようにすることなどを考慮する必要がある。
【0093】
「増幅核酸検出工程」(S0706)とは、核酸増幅工程で増幅した核酸に基づいて所望の細菌を検出する工程である。
【0094】
「基づいて」とは、利用してという意味である。「増幅した核酸に基づいて」とは、増幅した核酸断片をそのまま利用してという意味、増幅した核酸断片に所定の処理をした後に利用してという意味、又は核酸の増幅に伴う現象を利用してという意味などを有する。それぞれ場合の具体的方法について、以下で例を挙げて説明する。
【0095】
増幅した核酸断片をそのまま利用する方法は、増幅反応後の核酸断片の塩基長から標的細菌を検出する方法などが挙げられる。これは、それぞれの細菌で特有の塩基長の増幅断片が増幅されるように、予め各細菌を認識するプライマーの塩基配列を設定しておけばよい。増幅断片の塩基長を視認する方法は、ゲル電気泳動法が利用できる。ゲル電気泳動法は分子生物学の分野で頻用される確立した技術であり、その詳細な方法については非特許文献7をはじめとする各種プロトコールに準ずればよい。
【0096】
増幅した核酸断片に所定の処理をした後に利用する方法は、増幅した核酸断片を所定の制限酵素で切断したときの切断断片のパターンから標的細菌を検出する方法などが挙げられる。増幅した核酸断片の塩基配列中に存在する制限酵素部位の相違によって標的細菌を検出する方法である。この方法は、増幅した核酸断片の塩基長が複数の標的細菌間で近似する場合であっても検出可能な点で便利である。制限酵素は、各標的細菌から増幅される核酸断片の塩基配列に基づいて適宜定めればよい。当該方法は、増幅した核酸断片に対して通常の制限酵素切断処理を行った後、前記ゲル電気泳動法によって検出すればよい。
【0097】
核酸の増幅に伴う現象を利用する方法とは、標的の核酸断片の増加を経時的に検出する方法等が挙げられる。
ここで、「経時的」とは、時間経過的であることを意味する。核酸断片の増加を経時的に検出する方法としては、例えば、核酸断片の増加に伴う蛍光強度の増加を測定する方法が挙げられる。より具体的には、リアルタイムPCR法などが利用できる。増幅産物の増加を反映する蛍光強度の増加を経時的に検出できれば、その検出方法については問わない。例えば、5’ヌクレアーゼ法(TaqManプローブ法)やサイクリングプローブ法が挙げられる。5’ヌクレアーゼ法は、5’末端を蛍光物質で、また3’末端を蛍光抑制物質で標識されたプローブがPCRの伸長反応におけるDNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性によって分解され、蛍光物質が遊離することで発せられる蛍光をリアルタイムで検出する方法である。サイクリングプローブ法は、末端を蛍光物質で標識されたRNAを含むプローブがRNaseHの添加によりRNA部分が分解されることで発せられる蛍光をリアルタイムで検出する方法である。あるいは、SYBER Green等の核酸染色剤を核酸増幅の反応液中に加えておき、核酸増幅反応とともに染色することによって拡散断片の増加を当該核酸染色剤から発せられる蛍光の強度により検出してもよい。リアルタイムPCRでの検出は、増幅開始から検出完了までが6時間以内で可能である。したがって、実施形態1の細菌培養方法とMultiplex リアルタイムPCRとを組み合わせることで、複数種の細菌を接種から検出までが1日以内で完了できる。それゆえ、簡易性、迅速性の点からもリアルタイムPCR法による細菌検出法は大変好ましい。
【0098】
上記いずれかの方法によれば、S.aureus、Salmonella spp.、E.coli O157、V.parahaemolyticus、B.cereus、及びL.monocytogenesのうち、二以上の菌種を同時に検出できる。当該検出の具体例は、実施例2から4で述べる。
【0099】
<実施形態2:効果>
本実施形態の細菌検出方法によれば、検査対象物から細菌を検出するまでの操作を簡易化できる。また、検出までに要する時間を短縮化できる。加えて、本実施形態の他の細菌検出法によれば、複数属の食中毒細菌を同時に検出できる。それによって、被検体からの細菌検出をより迅速に行うことができる。
【0100】
本実施形態の細菌検出方法によれば、特にMultiplex リアルタイムPCR法を用いることで、S.aureus、Salmonella spp.、E.coli O157、V.parahaemolyticus、B.cereus、及びL.monocytogenesなどの複数属の食中毒細菌を接種から検出までを僅か1日以内で完了することが可能である。したがって、食の安全を確保するための検査を行う上で、極めて有用な簡易迅速検出方法を提供できる。
【0101】
<<実施形態3>>
【0102】
<実施形態3:概要>
実施形態3は、細菌検出用キットに関する。本実施形態の細菌検出用キットは、前記実施形態1の増菌培地を含むことを特徴とする。
【0103】
<実施形態3:構成>
本実施形態の細菌検出用キットは、キット内に前記実施形態1の増菌培地を含むように構成されている。ここでいう「実施形態1の増菌培地」とは、前記SEBを意味する。ただし、当該キットに含まれるSEBは、使用前にあっては各構成成分が必ずしも最終濃度である必要はなく、また液体状態である必要もない。例えば、使用際に滅菌水で希釈するように、濃縮された液体状態でパッキングされていてもよいし、使用前に所定量の滅菌水で溶解する粉末状態でパッキングされていてもよい。
【0104】
本実施形態の細菌検出用キットは、SEB以外では培養から標的細菌の検出までに必要とされる試薬等で構成されていることが好ましい。例えば、培養後の菌体から核酸を抽出のための溶菌剤、中和剤や、核酸増幅を行うためのDNAポリメラーゼ、バッファ、dATP/dGTP/dCTP/dTTP、特定の食中毒細菌を検出するためのプライマーセットが挙げられる。その他、必要なチューブやカラムなどを有していてもよい。
【0105】
<実施形態3:効果>
本実施形態の細菌検出用キットによれば、細菌検出の検査を行う者がSEBをはじめ実施形態1の細菌培養方法や実施形態2の細菌検出方法で必要な各種試薬等を買い揃える必要ないため便利である。
【実施例1】
【0106】
<<SEBによるBacillus属とListeria属の同時培養>>
【0107】
<目的>
SEBを増菌培地として用いた場合に、少なくともBacillus属とListeria属の好気性細菌が同時に培養できることを確認する。
【0108】
<材料>
【0109】
(使用細菌種)
・Bacillus cereus No.55
・Listeria monocytogenes Lis1
【0110】
(各種培地の組成と調製)
【0111】
(1)TSB
TSB(DIFCO社;1.7% pancreatic digest of casein、0.3% enzymatic digest of soybean meal、0.25% リン酸二カリウム、 0.5% NaCl、 0.5% ブドウ糖)を水で溶解し、121℃で15分間オートクレーブ滅菌して作製した。
【0112】
(2)TSAプレート
TSA(Tryptic Soy Agar;DIFCO社)を121℃で15分間オートクレーブ滅菌後、約12mlずつシャーレに分注して作製した。
【0113】
(3)SEB
2% ペプトン{1.7% pancreatic digest of casein(Becton & Dickinson社) + 0.3% enzymatic digest of soybean meal(DIFCO社)}、0.25%リン酸二カリウム(dipotassium phosphate;ナカライテスク社)、3% NaCl(sodium chloride;ナカライテスク社)、0.05% イーストエクストラクト(NIHON SEIYAKU社)を水で溶解し、HClを用いてpH7.3に調整後、121℃で15分間オートクレーブ滅菌して使用した。
【0114】
(4)B.cereusの選択培地:卵黄加NGKG寒天培地
卵黄加NGKG寒天培地は、121℃で15分間オートクレーブ滅菌して作製したNGKG寒天培地(日水製薬)450mlを50℃に保温したものに卵黄10mlと滅菌生理食塩水50mlを混和したものを加え、約12mlずつシャーレに分注して作製した。
【0115】
(5)L.monocytogenesの選択培地:Oxford寒天培地
Oxford寒天培地は、121℃で15分間オートクレーブ滅菌して作製したListeria selective agar base(OXOID社)500mlを50℃に保温したものに、Listeria selective supplement cord SR0140E(OXOID社) 1バイアルを70%エタノール5mlで溶解したものを混和し、約12mlずつシャーレに分注して作製した。
【0116】
<方法>
本実施例では、前記2種の細菌がSEBで同時に培養可能であることを確認するために、同定済みの上記2種をSEBに接種する方法で行った。以下の操作は、原則として全て無菌状態にて行った。また、使用する試薬、器具は、121℃で20分間、オートクレーブで滅菌したものを用いた。
【0117】
スラントから掻き取った1白金耳の各菌体を5mlのTSBにそれぞれ接種し、37℃で一晩培養した。次に、PBSを用いて前培養液の10倍連続希釈系列を作成し、225mlのSEBに最終菌濃度が約100cfu/mlなるように、50μlずつ混合接種した。接種後、増菌培地を37℃のインキュベータ中で静置培養し、接種直後から2時間ごとに培養後18時間後まで、培養液10mlずつを採取した。当該培養液を4000×gで10分間遠心分離し、上清をEB−Disk25(孔径2.5μm;関東化学)を用いて濾過滅菌した後、pHの測定を行った。また、同時にこの培養液からPBSを用いて10倍連続希釈系列を作成し、それぞれの細菌の選択培地プレートに100μl塗抹して、培養後のコロニー数より生菌数を算出した。なお、各接種菌量は、TSAに100μl塗抹し、培養後のコロニー数より算出した。
【0118】
<結果>
実施例1の結果を図8に示す。対照実験に相当する図2の結果と比較してもわかるように、SEBを増菌培地に用いた場合、B.cereusが定常期に入る12時間後も、培地のpH値が図2の結果のような大幅な低下は生じることなかった。すなわち、B.cereusが増殖しても増菌培地のpH値をpH5より大きくpH10以下の範囲を保持することができた。その結果、L.monocytogenesも約1×105cfu/ml以上と、検出に十分な菌数にまで増殖可能であった。したがって、SEBを増菌培地とすることで、培養中に増菌培地のpH調整を行わずとも、少なくともBacillus属とListeria属の好気性細菌を同時に培養できることが確認できた。
【実施例2】
【0119】
<<実施形態1の細菌培養方法に基づく主要6属6種の食中毒細菌の同時培養>>
【0120】
<目的>
実施形態1の細菌培養方法に基づき、Bacillus属、Listeria属、及びVibrio属のそれぞれに属する食中毒細菌、並びに他の主要な食中毒細菌を一の場増菌培地中で同時に培養可能であることを示す。
【0121】
<材料>
【0122】
(使用細菌種)
・Staphylococcus aureus IFO 3060
・Salmonella Enteritidis IFO 3313
・Escherichia coli O157:H7(stx1+,stx2+)
・Vibrio parahaemolyticus WP−1 (tdh+)
・Bacillus cereus No.55
・Listeria monocytogenes Lis1
【0123】
(各種培地の組成と調製)
【0124】
(1)S.aureusの選択培地:卵黄加マンニット食塩培地
121℃で15分間オートクレーブ滅菌して作製したマンニット食塩培地(日水製薬)500mlを50℃に保温したものに、卵黄50mlと3%滅菌食塩水50mlを混和したものを加え、約12mlずつシャーレに分注して作製した。
【0125】
(2)E.coli O157の選択培地:CT−SMAC培地
CT−SMAC培地(セフィキシム、亜テルル酸カリウム添加ソルビトールマッコンキー寒天培地)は、Solbitol MacCONKEY培地(OXOID社)500mlを121℃で15分間オートクレーブ滅菌後、50℃まで冷却したものに、Cefixime Tellurite Selective Supplement(OXOID社)1バイアルを滅菌水2mlに溶解したものを混和した後、約12mlずつシャーレに分注して作製した。
【0126】
(3)Salmonella spp.の選択培地:DHL寒天培地
DHL寒天培地(日水製薬)は、処方に従って、加温溶解した後に約12mlずつシャーレに分注した。
【0127】
(4)V.parahaemolyticusの選択培地:TCBS寒天培地
TCBS寒天培地(日水製薬)は処方に従って、加温溶解した後に約12mlずつシャーレに分注した。
【0128】
なお、本実施例では、上記培地以外にTSB、TSAプレート、SEB、B.cereusの選択培地、L.monocytogenesの選択培地を用いたが、いずれも実施例1と同様であることからその説明は省略する。ただし、TSB、TSAプレートについては、S.aureus、及び/又はV.parahaemolyticusを培養する場合にはTSBに最終濃度でそれぞれ1.5%、3%のNaCl添加した。
【0129】
<方法>
本実施例では、前記6種の細菌が一の培地中で同時に培養可能であることを示すために、同定済みの各種細菌を増菌培地に接種する方法で行った。以下の操作は、原則として全て無菌状態にて行った。また、使用する試薬、器具は、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌処理したものを用いた。
【0130】
スラントから掻き取った1白金耳の各菌体を5mlのTSBにそれぞれ接種し、37℃で一晩培養した。次に、PBSを用いて前培養液の10倍連続希釈系列を作成し、10mlのSEBに最終菌濃度が約1〜10cfu/mlとなるように、それぞれ10μlずつ混合接種した。接種後、増菌培地を37℃のインキュベータで18時間静置培養した。培養後の菌数の測定は、PBSを用いて培養液の10倍連続希釈系列を作成し、各細菌の選択培地プレートに100μl塗抹して、培養後のコロニー数より算出した。なお、各接種菌量は、TSAに100μl塗抹し、培養後のコロニー数より算出した。
【0131】
<結果>
実施例2の結果を図9に示す。この図で示すように、主要な食中毒細菌6属6種の全てが18時間で105cfu/ml以上まで増殖された。すなわち、SEBを増菌培地に用いた実施形態1の細菌培養方法によれば、日本で主要な食中毒細菌6種の全てを培養時間18時間で同時に培養できることが確認された。
【実施例3】
【0132】
<<食品からの食中毒細菌の同時検出>>
【0133】
<目的>
実施形態2の細菌検出方法により、食品からStaphylococcus属、Salmonella属、Escherichia属、Vibrio属、Bacillus属、及びListeria属の好気性細菌を同時に検出可能であることを示す。
【0134】
<材料>
【0135】
(使用細菌種)
実施例2と同じ6属6種を使用した。
【0136】
(食品試料)
スーパーマーケットで市販の鶏肉、刺身用鯛の切り身、レタスを購入し、使用した。
【0137】
(各種培地の組成と調製)
実施例1及び実施例2と同様の各種培地を使用した。
【0138】
<方法>
本実施例では、食品から前記6属の細菌を同時に培養可能であることを確認するために、上記6属6種を食品に接種する方法で行った。以下の操作は、原則として全て無菌状態にて行った。また、使用する試薬、器具は、121℃で20分間、オートクレーブで滅菌したものを用いた。
【0139】
食品試料25gを225mlのSEBとともにフィルター付きストマッカー袋中で30秒間破砕し、そのままインキュベータ中で37℃、18時間静置培養した。破砕液からPBSを用いて10倍連続希釈系列を作成し、TSAに100μl塗抹して、培養後のコロニー数から食品試料中の生菌数を算出した。
【0140】
食品試料への食中毒細菌の接種は、まず、スラントから掻き取った1白金耳の食中毒細菌6種を5mlのTSBにそれぞれ接種し、37℃で一晩培養した。次に、PBSを用いて前培養液の10倍連続希釈系列を作成し、最終菌濃度で約1cfu/gとなるように食品試料である鶏肉、刺身用鯛の切り身、レタスに混合接種した。各食品試料からの採菌と、培養は前記と同様に食品試料25gから破砕によって採取した後、37℃、18時間静置培養した。その後、PBSを用いて培養液の10倍連続希釈系列を作成し、実施例1及び2に記載の各細菌用選択培地に100μl塗抹して、培養後のコロニー数から食品試料の生菌数を算出した。
【0141】
<結果>
表1に結果を示す。それぞれ鶏肉で2.3×105cfu/g、刺身用鯛の切り身で4.4×104cfu/g、レタスで1.2×106cfu/gの共存菌(食品に元々存在していた細菌)が存在する食品サンプルにおいても、実施形態2の細菌検出方法により6種全ての標的食中毒細菌を検出できることが示された。
【表1】
【実施例4】
【0142】
<<リアルタイムPCRを用いた食中毒細菌の同時検出>>
【0143】
<目的>
リアルタイムPCR法を用いた実施形態2の細菌検出方法により、日本で主要な食中毒細菌6属6種の全てを同時に検出可能であることを示す。
【0144】
<材料>
【0145】
(使用細菌種)
実施例2と同じ6属6種を使用した。
【0146】
(各種培地の組成と調製)
実施例1及び実施例2と同様の各種培地を使用した。
【0147】
(PCR反応液)
本実施例では、6種の各細菌を認識するオリゴヌクレオチドを3種ずつに分けて2つの反応液(反応チューブI、反応チューブII)でPCR反応を行った。これは、本実施例で使用したリアルタイムPCR用サーマルサイクラーの蛍光色素の検出上限が4種であったためである。したがって、4種の蛍光色素を細菌検出用の3種及びモニター用の1種で2チューブに分けた。なお、1台で7種以上の蛍光色素を検出可能なリアルタイムPCR用2台のサーマルサイクラーであれば、主要な食中毒細菌6属6種を1の反応チューブで反応させることも可能である。
【0148】
(1)共通反応液組成
10×EX Taq buffer(TAKARA) 2.5μl
dNTPs for EX Taq(TAKARA) 2.0μl
20mM MgCl2(TAKARA) 2.5μl
5×Rox reference dye 0.5μl
5U/μl EX Taq polymerase(TAKARA) 0.125μl
Template DNA 2.0μl
【0149】
(2)反応チューブI用プライマー及びプローブ
20pmol/μl nucA forward primer 0.25μl
20pmol/μl nucA reverse primer 0.25μl
20pmol/μl nucA probe 0.25μl
20pmol/μl eaeA forward primer 0.25μl
20pmol/μl eaeA reverse primer 0.25μl
20pmol/μl eaeA probe 0.25μl
20pmol/μl hlyA forward primer 0.25μl
20 pmol/μl hlyA reverse primer 0.25μl
20pmol/μl hlyA probe 0.25μl
【0150】
(3)反応チューブII用プライマー及びプローブ
20pmol/μl tl forward primer 0.25μl
20pmol/μl tl reverse primer 0.25μl
20pmol/μl tl probe 0.25μl
20pmol/μl invA forward primer 0.25μl
20pmol/μl invA reverse primer 0.25μl
20pmol/μl invA probe 0.25μl
20pmol/μl crs forward primer 0.25μl
20pmol/μl crs reverse primer 0.25μl
20pmol/μl crs probe 0.25μl
【0151】
前記共通反応液を各反応チューブ用のプライマー及びプローブと混合した。混合後のチューブを反応チューブI、反応チューブIIとしてリアルタイムPCRに用いた。前記各プライマーおよびプローブの塩基配列は、表2に示す。
【表2】
【0152】
<方法>
【0153】
(培養)
実施例2で用いた6属6種の食中毒細菌をそれぞれ1〜10cfu/mlとなるようにSEB10mlに混合接種し、18時間37℃にて静置培養した。基本的な培養方法は実施例2と同様である。当該培養は、実施形態2における培養工程に該当する。
【0154】
(核酸抽出)
前記培養後の培養液1.0mlを6000×gで10分間遠心分離して集菌後、DNA Tissue Kit(QIAGEN社)を用い、付属のプロトコール(グラム陽性菌からの抽出法)に従ってゲノムDNAの調製を行った。ただし、溶菌の際には10mg/ml N−acetylmuramidaseを2μl添加した。当該培養は、実施形態2における核酸抽出工程に該当する。
【0155】
(リアルタイムPCR反応)
上記反応液をそれぞれ0.2mlリアルタイムPCR用マイクロチューブ中で調製し、全量が25μlになるように滅菌水を加えて十分に混合した後、リアルタイムPCR用サーマルサイクラー(MX3000P Stratagene社)を用いて核酸増幅反応を行った。反応条件は(95℃で1分間→55℃で1分間→72℃で1分間)を1サイクルとして、42サイクル行った。サイクルごとにそれぞれの蛍光色素強度を測定し、前記サーマルサイクラー付属の解析ソフトにて、解析を行った。
【0156】
PCRによる増幅産物の確認はアガロースゲル電気泳動で行った。アガロースゲルは、3%アガロースゲル/TAEアガロースゲルを使用した。当該電気泳動法は極めて一般的な技術であることから、ここではその説明を省略する。
【0157】
<結果>
図10に本実施例のリアルタイムPCRにおけるサイクルごとの相対蛍光強度プロットを示す。この図で示すように、2本の反応チューブの全ての蛍光色素で増幅が確認され、6種の食中毒細菌を同時に検出できることが示された。図10によれば、各細菌の核酸増幅は30サイクル前後で十分に検出できることも示された。したがって、サーマルサイクラーにセッティング後は、2〜2.5時間程度で検出結果が得られることとなる。実施例1で示すように、細菌培養方法による培養時間が12時間から18時間で足りることから、接種から検出までを24時間以内で行うことが可能なことも実証された。なお、図11で示すように、アガロースゲル電気泳動においても目的サイズの増幅が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】各pH値の増菌培地におけるL.monocytogenesの培地容量当たりの菌数を示す図
【図2】B.cereusとL.monocytogenesを同時に培養したときの、各培養時間におけるそれぞれの細菌の培地容量当たりの菌数と培地のpH値の関係を示す図
【図3】B.cereus、L.monocytogenes、及びV.parahaemolyticusを同時に培養したときの、それぞれの細菌の培地容量当たりの菌数を示す図
【図4】実施形態4における細菌培養方法のフローチャート図
【図5】実施形態2のフローチャートの一例(1)
【図6】実施形態2のフローチャートの一例(2)
【図7】実施形態2のフローチャートの一例(3)
【図8】実施例1の結果を示す図
【図9】実施例2の結果を示す図
【図10】実施例4におけるリアルタイムPCRの結果を示す図
【図11】実施例4におけるPCRの核酸増幅を示すアガロース電気泳動の結果を示す図
【符号の説明】
【0159】
図2 BC:B.cereus、LM:L.monocytogenes
図3 BC:B.cereus、LM:L.monocytogenes、VP:V.parahaemolyticus
図8 BC:B.cereus、LM:L.monocytogenes
図9 BC:B.cereus、LM:L.monocytogenes、VP:V.parahaemolyticus、SA:S.aureus、SE:S.Enteritidis、O157:E.coli 0157
図10 BC:B.cereus、LM:L.monocytogenes、VP:V.parahaemolyticus、SA:S.aureus、SE:S.Enteritidis、O157:E.coli 0157
図11 M:100pbマーカー、1:反応チューブI(ポジティブコントロール)、2:反応チューブII(ポジティブコントロール)、3:反応チューブI(培養液サンプル)、4:反応チューブII(培養液サンプル)、5:反応チューブI(ネガティブコントロール)、6:反応チューブII(ネガティブコントロール)
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数属の細菌を単一培地で同時に培養する方法と、その培養方法を利用した細菌検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食中毒細菌の検出は、食の安全を確保する上で重要な検査技術の一つである。そのため、食品業界などでは分子遺伝学的手法や免疫学的手法に基づいた各種食中毒細菌の簡易迅速検出方法の開発が進んでいる。中でも特定の細菌の遺伝子などに特異的な塩基配列を増幅して検出を行う核酸増幅法は、その感度や迅速性、並びに特異性の高さから現在様々な食中毒細菌検出法に応用されている。
【0003】
しかし、核酸増幅法を利用した検査法であっても、鋳型としての核酸を必要量得るには一定以上の菌数が必要となる。当該検出に必要な菌数の下限値は約1×103cfu(colony forming unit)/mlであり、食品から細菌を高感度に検出するためにはほとんどの場合で標的細菌を培養する必要がある。ところが、一般に性状の異なる細菌は培養条件も異なることから、複数種の細菌を検出するためには、標的細菌ごとにその至適培養条件で培養しなければならない。そのため、食中毒細菌の検出方法の簡易化や迅速化には、当該培養に要する手間や培養時間が大きな問題となる。このような問題を解決する手段としては、複数の食中毒細菌を一の培地で同時に培養する方法が挙げられる。ただし、そのためには複数種若しくは複数属の細菌を同時に培養可能な増菌培地の開発が不可欠となってくる。
【0004】
複数属の食中毒細菌を培養可能な増菌培地としては、これまでSalmonella属とListeria属の細菌を同時に培養可能なUEB(Universal Enrichment Broth)(非特許文献1)や、Salmonella属、Listeria属、及びStaphylococcus aureusを同時に培養する緩衝ペプトン水を用いた培地などが知られている(非特許文献2)。しかし、これらの増菌培地は、いずれも、2、3種の食中毒細菌を同時に培養できるに過ぎない。したがって、より多くの食中毒細菌を同時に培養可能な増菌培地が求められている。
【非特許文献1】Bailey JS & NACox NA,(1992)J.Food Prot.,55;256−259
【非特許文献2】Alarcon B,Garcia−Canas V,Cifuentes A,Gonzalez R & Aznar R(2004)J. Agric. Food Chem.,52;7180−7186
【非特許文献3】Nakata HM & Halvorson HO,(1960)J. Bacteriol.,80;801−810
【非特許文献4】Budu−Amoako E,Toora S,Ablett RF & Smith J,(1992)Appl.Environ.Microbiol.,58;3177−3179
【非特許文献5】Busch SV & Donnelly CW,(1992)Appl.Environ.Microbiol.,58;14−20
【非特許文献6】大野茂男、西村善文 監修、(1997)細胞工学 別冊 実験プロトコールシリーズ タンパク実験プロトコール
【非特許文献7】Sambrook J,Fritsch EF,Maniatis T,(1989)Molecular Cloning A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press.
【非特許文献8】Priest FG,Goodfellow M,Todd C,(1998)Journal of General Microbiology,134;1847−1882
【非特許文献9】Seeliger HPR & Jones D,(1986)Genus Listerias,In Bergey’S Manual of Systematic Bacteriology Volume2, ed. By Sneath PHA,pp1235−1245,Williams & Wilkins Baltimore,MD,USA.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、食中毒細菌を簡易かつ迅速に検出するために、主要な食中毒細菌が属する複数属の好気性細菌を同時に培養可能な細菌培養方法と、当該培養方法を用いた迅速な細菌検出方法を提供することである。また、複数の菌属の好気性細菌を同時に培養できる増菌培地を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明者らは主要な食中毒細菌が属する複数属の好気性細菌を同時に培養できる培養条件について研究を行った。本願の発明は、かかる研究結果に基づくものであり、以下の細菌培養方法、細菌検出方法、増菌培地、細菌検出用キットに関するものである。
【0007】
本願第1の発明は、少なくともBacillus属、及びListeria属の好気性細菌を一の増菌培地中で同時に培養可能な細菌培養方法であって、増菌培地のpH値を5より大きく10以下に保持して培養する細菌培養方法である。
【0008】
本願第2の発明は、さらに、Vibrio属の好気性・好塩性細菌を一の増菌培地中で同時に培養可能な細菌培養方法であって、増菌培地の塩濃度が水を溶媒として質量対容量百分率で1%〜4%であることを特徴とする第1の発明に記載の細菌培養方法である。
【0009】
本願第3の発明は、増菌培地が水を溶媒として糖の含有率を質量対容量百分率で0.001%以下とすることを特徴とする第1の発明又は第2の発明に記載の細菌培養方法である。
【0010】
本願第4の発明は、増菌培地が水を溶媒として質量対容量百分率で、ペプトン:1%〜3%、リン酸二カリウム:0.15%〜0.35%、塩化ナトリウム:1%〜4%、及び酵母エクストラクト:0.01%〜0.1%、よりなることを特徴とする第3の発明に記載の細菌培養方法である。
【0011】
本願第5の発明は、少なくともStaphylococcus属、Salmonella属、Escherichia属、Vibrio属、Bacillus属、及びListeria属のうち、二以上の属の好気性細菌を同時に検出できる細菌検出方法であって、第1の発明から第4の発明のいずれか一に記載の細菌培養方法で培養する培養工程と、培養工程後に得られる細菌から所望の細菌を検出する検出工程と、を有する細菌検出方法である。
【0012】
本願第6の発明は、検出工程が、さらに、培養工程後に得られる菌体から核酸を抽出する核酸抽出工程と、核酸抽出工程で得られる核酸に対して、所望の細菌のゲノムDNA上でその細菌に特有な塩基配列を認識するオリゴヌクレオチドを用いて所望の細菌を検出する核酸検出工程と、を有する第5の発明に記載の細菌検出方法である。
【0013】
本願第7の発明は、核酸検出工程が、さらに、核酸抽出工程で得られる核酸を鋳型として、所望の細菌のゲノムDNA上でその細菌に特有な塩基配列を認識するオリゴヌクレオチドを用いて、核酸増幅法により所望の細菌の核酸を増幅する核酸増幅工程と、前記核酸増幅工程で増幅した核酸に基づいて所望の細菌を検出する増幅核酸検出工程と、を有する第6の発明に記載の細菌検出方法である。
【0014】
本願第8の発明は、核酸増幅工程が二以上の細菌に対して、各細菌のゲノムDNA上でそれぞれの細菌に特有な塩基配列を認識するオリゴヌクレオチドを用いて、一の反応液中で同時にそれぞれの細菌の核酸を増幅する第7の発明に記載の細菌検出方法である。
【0015】
本願第9の発明は、核酸検出工程がリアルタイムPCR法を用いる第7の発明、又は第8の発明に記載の細菌検出方法である。
【0016】
本願第10の発明は、核酸検出工程が前記所望の細菌のゲノムDNA上で、その細菌に特有な塩基配列を認識するオリゴヌクレオチドをプローブとしたハイブリダイゼーション法によって検出する第6の発明に記載の細菌検出方法である。
【0017】
本願第11の発明は、前記Staphylococcus属、Salmonella属、Escherichia属、Vibrio属、Bacillus属、及びListeria属の各好気性細菌は、それぞれS.aureus、Salmonella spp.、E.coli O157、V.parahaemolyticus、B.cereus、及びL.monocytogenesである第5の発明から第10の発明のいずれか一に記載の細菌検出方法である。
【0018】
本願第12の発明は、水を溶媒としたときの質量対容量百分率が、糖:0.001%以下、ペプトン:1%〜3%、リン酸二カリウム:0.15%〜0.35%、塩化ナトリウム:1%〜4%、及び酵母エクストラクト:0.01%〜0.1%となることを特徴とする増菌培地である。
【0019】
本願第13の発明は、前記ペプトンが自身の質量に対して10%〜20%のソイトンを含有することを特徴とする第12の発明に記載の増菌培地である。
【0020】
本願第14の発明は、第12の発明、又は第13の発明に記載の増菌培地を含む細菌検出用キットである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の細菌培養方法によれば、Bacillus属、及びListeria属の好気性細菌を単一の増菌培地で同時に培養できる。これによって、食中毒細菌の培養方法の簡易化、迅速化が図れる。また、それに伴って培地や培養装置、光熱費などの培養に要するコスト削減もできる。
【0022】
本発明の細菌検出方法によれば、検査対象物から細菌を検出するまでの操作を簡易化できる。また、検出までに要する時間を短縮化できる。加えて、本発明の他の細菌検出法によれば、複数属の食中毒細菌を同時に検出できる。また、それによって、被検体からの細菌検出をより迅速に行える。
【0023】
本発明の増菌培地によれば、少なくともBacillus属、及びListeria属の細菌を同時に培養する際に、培養中も適正なpH値を保持できる。それゆえ培養中に培地のpH調節を行う必要がなくなり、培養操作の一層の簡易化、迅速化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下で前記発明を実施するための最良の形態について説明する。ただし、本願の発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではなく、その作用効果を奏する範囲において種々なる態様で実施しうる。なお、実施形態1は、主に請求項1から4、及び請求項12、13に関する。また、実施形態2は主に請求項5から11に関する。また、実施形態3は主に請求項14に関する。
【0025】
<<実施形態1>>
【0026】
<実施形態1:概要>
実施形態1は、細菌培養方法、及び増菌培地に関する。本実施形態の細菌培養方法は、増菌培地のpH値を5より大きく10以下に保持して培養することで、少なくともBacillus属、及びListeria属の好気性細菌を同時に培養できることを特徴とする。また、本実施形態の増菌培地は、培養中に特段の操作を加えることなく、前記pH値を保持できることを特徴とする。
【0027】
<実施形態1:発明に至る経緯>
本実施形態の細菌培養方法の詳細な説明に入る前に、まず、本発明に至った経緯について述べる。前述のように、課題解決のために本発明者らは主要な食中毒細菌が属する複数属の好気性細菌を同時に培養できる培養条件について研究を行った。現在、日本における主要な食中毒細菌としては、Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌:以下「S.aureus」とする)、Salmonella Enteritidis(サルモネラ菌:以下「S.Enteritidis」とする)、Escherichia coli O157(病原大腸菌O157:以下「E.coli O157」とする)、Vibrio parahaemolyticus(腸炎ビブリオ:以下「V.parahaemolyticus」とする)、Bacillus cereus(嘔吐型セレウス菌:以下「B.cereus」とする)、及びListeria monocytogenes(リステリア菌:以下「L.monocytogenes」とする)などが挙げられる。これら6属6種の細菌をTSBなどの一般的な増菌培地を用いて普通に用いられる培養条件下で同時に培養した結果、好塩性のV.parahaemolyticusの増殖が抑制される結果が得られた。当該細菌の増殖抑制は、増菌培地の塩濃度を上げることで解決できた。
【0028】
また、前記6属の細菌を同時培養した場合、L.monocytogenesの増殖が抑制される結果が得られた。Listeria属を同時に培養できる培養条件を見出すために、本発明者らは当該増殖抑制の原因を調べた。その結果、増殖抑制はL.monocytogenesとB.cereusとを同時培養した際に生じること、及び当該増殖抑制はBacillus属の増殖による増菌培地のpH値の低下に起因することを突き止めた。この発見に基づき、増菌培地のpH値を5より大きく10以下に保持して培養を行うことによって同時培養が困難であったBacillus属とListeria属の二属を一の増菌培地で同時に培養できるという培養条件を見出した。この培養条件に加えて増菌培地の塩濃度を上げることで、V.parahaemolyticusを含む、上記6属の細菌全てを一の増菌培地で同時に培養することが可能となった。
【0029】
さらに、本発明者らはBacillus属が増殖してもpH値が低下しない増菌培地の開発を行った。非特許文献3よりBacillus属の増殖による増菌培地のpH値の低下は、Bacillus属が増菌培地中のブドウ糖を代謝分解する過程で有機酸などの酸を産生し、それを培地中に排出することが原因であると考えられた。そこで、増菌培地から糖を可能な限り除去し、それを補完する栄養素を添加することでBacillus属の増殖によってもpH値が大幅に低下することなく、前記6属の細菌を同時に培養可能な増菌培地を開発することに成功した。本実施形態の細菌培養方法と増菌培地の発明は、かかる発見に基づくものである。
【0030】
<実施形態1:構成>
本実施形態の細菌培養方法、及び増菌培地の各構成について以下で説明する。
【0031】
((細菌培養方法の構成))
【0032】
(Bacillus属、及びListeria属の好気性細菌を同時に培養する場合)
少なくともBacillus属、及びListeria属の好気性細菌を一の増菌培地中で同時に培養する本実施形態の細菌培養方法の構成要件は、増菌培地のpH値を5より大きく10以下に保持して培養することである。
【0033】
「好気性細菌」とは、物質の代謝に酸素を必要とする細菌の総称をいう。ただし、本願では完全嫌気状態であっても増殖可能な通性好気性細菌(又は通性嫌気性細菌)も含むものとする。
【0034】
「Bacillus属の好気性細菌」は、本願では特に増殖により培地のpH値の低下を生じさせる好気性の菌種を指す。すなわち、増殖に伴って発生する酸を増菌培地中に排出する好気性の菌種をいう。例えば、B.cereus、Bacillus subtilisが該当する。増殖条件に関して、これらの菌種は類似の性状を有している(非特許文献8)。
【0035】
「Listeria属の好気性細菌」は、L.monocytogenes、Listeria innocua、Listeria ivanovii、Listeria grayi、Listeria welshimeri、Listeria seegligeriなどが該当する。増殖条件に関して、これらの菌種は類似の性状を有している(非特許文献9)。
【0036】
「増菌培地」とは、細菌を増殖させることを目的とする培地である。これについては後で詳述する。
【0037】
「一の増菌培地」とは、同一容器内にある単一の増菌培地を意味する。
【0038】
「同時に培養」とは、複数の菌種を一の増菌培地に接種した後、それらを共に増殖させることをいう。共に増殖しているかの判断基準は、例えば、各細菌の培地容量当たりの菌数がそれぞれの定常期までに所定の値以上あることとすればよい。「所定の値」としては、一例として約1×103cfu/mlが挙げられる。当該数値は、核酸増幅法などを用いた検出方法の検出下限菌数に相当するため、所定の値の最下限値としては適当だからである。各菌種が所定の菌数に達するまでの時間は問わない。例えば、ある菌種は培養後2時間で所定の菌数に達して、その1時間後には定常期に入り、他の種は培養後10時間で所定の菌数に達した場合であっても、両者は同時に培養されたものとする。
【0039】
「増菌培地のpH値を5より大きく10以下に保持」とは、増菌培地全体のpH値を培養中に5よりも大きく10以下の範囲内に保つことである。増菌培地のpH値が当該範囲内であれば多少の変動は問わない。しかし、pH値が当該範囲外の場合は、Bacillus属、及びListeria属の細菌を同時に培養する上で好ましくない。
【0040】
増菌培地のpH値をpH5以下にすることが好ましくない理由は、Listeria属細菌の増殖が抑制されるためである。これについては、図1を用いて以下で詳細に説明する。図1は、各pH値の増菌培地におけるL.monocytogenesの培地容量当たりの菌数を示している。図1の実験は、HClを用いて各pH値に調整した滅菌済みTSBにL.monocytogenesを無菌条件下で最終菌濃度が1〜10cfu/mlとなるように接種し、37℃で18時間静置培養後、TSB寒天培地(以下「TSA」とする)に希釈塗沫してコロニー数をカウントしたものである。この図が示すように、増菌培地のpH値がpH5以下の場合には、L.monocytogenesはほとんど検出できない。したがって、増菌培地のpH値を5以下にすることはListeria属細菌の増殖が抑制されてしまうため好ましくない。Bacillus属とListeria属の効率的な増殖を考慮した場合、増菌培地のpH値は、5.2以上であることが好ましく、5.5以上であることがより好ましい。なお、TSB、TSAの組成については、実施例1で詳述する。
【0041】
また、増菌培地のpH値が10を越えることが好ましくない理由は、好アルカリ性細菌を除く多くの細菌は、pH10を越える強アルカリ下で増殖が抑制されることが知られているからである。図示はしないが、Listeria属細菌もpH10を越える環境下で増殖が抑制される(非特許文献9)。したがって、増菌培地のpH値は10を越えることは好ましくない。Bacillus属とListeria属の効率的な増殖を考慮した場合、増菌培地のpH値は9以下であることが好ましく、8.7以下であることがより好ましい。
【0042】
ところで、Bacillus属とListeria属の好気性細菌を同時に培養する場合、通常の培養条件ではpH値を上記範囲内に保持することは難しい。これは、前述のようにBacillus属細菌の増殖により、増菌培地のpH値が低下するからである。図2は、B.cereusとL.monocytogenesを同時に培養したときの、各培養時間におけるそれぞれの細菌の培地容量当たりの菌数と培地のpH値の関係を示している。図2の実験では、まず、滅菌済みTSBにB.cereusとL.monocytogenesのそれぞれを最終菌濃度が約100cfu/mlとなるように無菌条件下で接種し、37℃で静置培養した。続いて、接種直後から18時間後まで、2時間ごとに増菌培地溶液の一部を採取した後、それぞれの細菌の選択培地プレートに希釈塗沫して形成されたコロニー数をカウントした。また、この時同時に増菌培地溶液の一部を遠心し、上清を濾過滅菌後にpH測定を行った。選択培地の組成については、実施例1で詳述する。この図で示すように、増菌培地のpH値は、B.cereusが増殖して定常期に入る培養後12時間以降に急速に低下していることがわかる。また、増菌培地のpH値の低下に伴い、L.monocytogenesの増殖がほとんど抑制されていることも示されている。このように、受動的な培養方法ではBacillus属細菌が増殖することで、Listeria属の増殖が抑制されるという二属を同時培養する上で相反する問題が発生する。
【0043】
そこで、本実施形態は、Bacillus属を培養中であっても増菌倍地中のpH値を能動的に5より大きく10以下の範囲内に保持させることを構成要件としている。それによって、少なくともBacillus属、及びListeria属の好気性細菌を一の増菌倍地中で同時に培養ことが可能となる。増菌培地のpH値を保持する方法については、「実施形態1:方法」の項で述べる。また、アルカリ側に関しては、Bacillus属、及びListeria属の好気性細菌を同時に培養した場合であっても、一方の菌種の増加によって増菌培地のpH値が増加するということはない。したがって、接種時に増菌培地のpH値を10以下に調整しておけばよい。
【0044】
なお、増菌培地のpH値を一時的に前記pH値の範囲外とした場合であっても、培養中に前記範囲内にpH値を戻す場合、あるいはpH値が戻る場合には、増菌培地のpH値は当該範囲内に保持されているものとみなす。
【0045】
「少なくともBacillus属、及びListeria属の好気性細菌を一の増菌倍地中で同時に培養できる」とは、検査対象物中にBacillus属とListeria属の各好気性細菌が存在する場合には、少なくとも当該二属の菌種に関しては、単一の培地で同時に培養できることをいう。したがって、本実施形態の細菌培養方法で同属の複数菌種が同時に培養されてもよい。また、検査対象物中に他の好気性細菌が存在する場合には、それらが当該二属の細菌と共に培養されてもよい。特に食中毒細菌を含む他の菌属が同時に培養されることは、本発明の目的に資するため好ましい。一例を挙げれば、TSB培地を用いた本実施形態の細菌培養方法では、前記二属以外に、Staphylococcus属、Salmonella属、Escherichia属、Vibrio属(ここではVibrio choleraeなどの非好塩性菌種に限る)などの同時培養が可能である。また、これ以外にもShigella属、Aeromonas属、Plesiomonas属などが挙げられる。
【0046】
(前記二属に加えて、さらにVibrio属の好気性・好塩性細菌を同時培養する場合)
少なくともBacillus属、Listeria属の好気性細菌に加えて、さらにVibrio属の好気性・好塩性細菌を一の増菌培地中で同時に培養する本実施形態の細菌培養方法は、増菌培地のpH値を5より大きく10以下に保持して培養することに加えて、増菌培地の塩濃度を1%〜4%とすることを構成要件とする。このうち、前述した構成要件以外について、以下で説明する。
【0047】
「Vibrio属の好気性・好塩性細菌」とは、Vibrio属に属する好気性細菌種であり、かつ増殖に一定濃度以上の塩を必要とする菌種をいう。例えば、V.parahaemolyticus、Vibrio fluvialis、Vibrio vulnificus、Vibrio damsela、Vibrio alginolyticsが該当する。増殖条件に関して、これらの菌種は類似の性状を有している。
【0048】
「塩濃度」とは、水を媒体とするときの塩の質量対容量(g/ml)百分率を意味する。ここでいう「塩」とは、主として塩化ナトリウムを意味するが、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、及び/又は塩化カリウムなどを含んでいてもよい。
【0049】
塩濃度を1%以上4%以下とする理由は、好塩性Vibrio属をはじめとする好塩性菌種は海水中に生息するものが多く、増殖や生息には一般に海水の塩濃度に近い環境を必要とするためである。海水の塩濃度は約3.4%である。したがって、本実施形態では塩濃度を1%以上4%以下に設定した。この範囲外では、当該菌種の増殖が抑制される可能性があるため好ましくない。
【0050】
塩濃度が好塩性Vibrio属の増殖に与える影響を、一例を挙げて説明する。図3は、B.cereus、L.monocytogenes、及び好塩性細菌であるV.parahaemolyticusを同時に培養したときの、それぞれの細菌の培地容量当たりの菌数を示している。(a)はTSB(塩濃度0.5%)で培養した結果を、また(b)はTSBにおいてNaClを質量対容量百分率で1.5%とした増菌培地(塩濃度1.5%)で培養した結果である。各実験は、それぞれの滅菌済み増菌培地に最終菌濃度が約1〜10cfu/mlとなるように無菌状態下で接種し、37℃で18時間静置培養した後、TSAに希釈塗沫してコロニー数をカウントしたものである。これらの図で示すように、V.parahaemolyticusは、塩濃度0.5%下では増殖がほとんど抑制された。一方、塩濃度1.5%下では約1×106cfu/mlと、細菌検出上十分な菌数まで増殖した。なお、図3ではL.monocytogenesの増殖が抑制されているが、これは当該実験に用いた増菌培地のpH値を前記範囲内に保持していないためである。
【0051】
以上のように、本実施形態においてBacillus属、Listeria属と共にVibrio属の好気性・好塩性菌種を同時培養する場合には、増菌培地の塩濃度を1%以上4%以下とするのが好ましい。
【0052】
((増菌培地))
【0053】
本実施形態の細菌培養方法では、培養中の増菌培地のpH値を5より大きく10以下の範囲内に能動的に保持する必要がある。増菌培地の組成は、培養中の増菌培地のpH値を保持する方法に応じて適宜選択する。例えば、後述の「実施形態1:方法」の項の「培養工程」で述べる(A)の増菌培地のpH値を外部から強制調整する方法であれば、細菌培養に一般的に使用される汎用培地のTSBを使用すればよい。また、(B)の増菌培地にpH緩衝能を有する試薬を加えておく方法の場合にも同じくTSBが使用できる。ただし、この場合、溶媒の1/10容量程度でバッファとしてPBS(Phosphate Buffered Saline:137mM HCl、8.1mM Na2HPO4・12H2O、2.68mM KCl、1.47mM KH2PO4、pH7.4)などを加える必要がある。さらに、Vibrio属の好気性・好塩性細菌を一の増菌培地中で同時に培養するためには、(A)、(B)のいずれの場合にも、増菌培地の塩濃度が最終濃度で1%〜4%となるように、前記TSBに塩化ナトリウムなどを追加しておけばよい。
【0054】
ところで、前述のように、通常の細菌の培養条件ではBacillus属の増殖で増菌培地のpH値の低下が生じてしまう。このBacillus属の増殖による増菌培地のpH値の低下は、Bacillus属細菌が糖を代謝して酸を産生し、それを培地中に排出することに起因する。したがって、増菌培地中の糖を除去するか、若しくは限りなく少量に抑えれば、Bacillus属の増殖による増菌培地のpH値の低下を抑制できる。具体的には、例えば、増菌培地中の糖の含有率を水を溶媒として質量対容量百分率で0.001%以下となるようにすればよい。ただし、この場合、糖に代わる栄養素を増菌培地に加えて栄養的に補完することが好ましい。糖に代わる栄養素としては、各種ビタミン、ミネラル、核酸物質などを豊富に含むことが知られているイーストエクストラクト(非特許文献4、5)などが挙げられる。
【0055】
本発明者らは、上記の点を考慮して本実施形態の増菌培地の趣旨に即した新たな増菌培地を開発した。本願では、当該新たな増菌培地を以下便宜的にSEB(Simultaneous Enrichment Broth)と呼ぶ。SEBは、TSBの組成に基づき糖含有量を質量対容量百分率0.001%以下に抑え、それを補完するためにイーストエクストラクトを加えた増菌培地である。当該SEBは、水を溶媒としたときの質量対容量百分率でペプトン:1%〜3%、リン酸二カリウム:0.15%〜0.35%、塩化ナトリウム:1%〜4%、及び酵母エクストラクト:0.01%〜0.1%を主な構成要素とする。前記ペプトンは、タンパク質を加水分解酵素により部分分解処理して断片化したものであれば特に限定はしない。例えば、カゼインをトリプシン処理したトリプトン(DIFCO社)、細菌をペプシン処理したバクト・ペプトン(DIFCO社)が利用できる。細菌のより効率的な増殖には、当該ペプトンの一部に大豆タンパク質を加水分解酵素により部分分解したソイトン(DIFCO社)をペプトンの質量に対して10%〜20%加えるとよい。なお、前記SEBの組成はVibrio属の好気性・好塩性細菌も同時に培養できるように、塩化ナトリウムの含有率を1%〜4%としているが、好塩性細菌を同時に培養する必要がない場合には、塩化ナトリウムの含有率はTSBと同様の0.5%程度としても構わない。SEBを用いたBacillus属とListeria属の好気性細菌の同時培養の実施例は、実施例1、及び2で述べる。
【0056】
複数菌種を同時に培養することを目的とする場合には、増菌培地の状態は原則として液体培地であることが好ましい。ただし、コロニーを形成させたい場合など、必要に応じて寒天培地などの固体培地を用いてもよい。
【0057】
<実施形態1:方法>
実施形態1の細菌培養方法について例を挙げて説明する。図4は本実施形態における細菌培養方法のフローチャートの一例である。この図で示すように、本実施形態の細菌培養方法は、増菌培地調製工程(S0401)、接種工程(S0402)、培養工程(S0403)で構成される。以下で各工程について説明する。なお、以下の一連の操作は原則として無菌的環境下で行い、また、使用する培地や試薬、器具なども原則として滅菌済みのものを使用する。
【0058】
「増菌培地調製工程」(S0401)とは、少なくともBacillus属、及びListeria属の好気性細菌を同時に培養できる増菌培地を調製する工程である。当該増菌培地は、前述の構成を有する増菌培地を適宜選択して調製すればよい。当該工程で用いる増菌培地は、液体培地が望ましい。増菌培地の分量は、用途に応じて定めるようにすればよい。例えば、本実施形態の培養方法により得られた培養液を用いて実施形態2で述べる核酸増幅法により所望の細菌を検出するのであれば、増菌培地の分量は5ml〜20mlあれば足りる。また、古典的なサザンハイブリダイゼーション法などを用いて所望の細菌を検出するのであれば、増菌培地の分量は50ml〜500ml程あることが好ましい。調製後の増菌培地は、121度で15分〜20分ほどオートクレーブ滅菌して使用する。なお、市販の増菌培地を用いるなど既存の培地を利用する場合であれば、本工程は省略してもよい。
【0059】
「接種工程」(S0402)とは、検査対象物を増菌培地に添加することで、検査対象物中の細菌を増菌培地に接種する工程である。ここでいう検査対象物とは、本願発明を鑑みれば主として食品が該当するが、それ以外のものであってもよい。例えば、食品を包んでいたラップやパック、又は食器が挙げられる。検査対象物を増菌培地に添加する方法は、検査対象物中に存在する細菌を増菌培地に接種できる方法であれば特に限定しない。例えば、検査対象物である食品が液体や流動物(カレーのルーなど)であれば、その一部を直接増菌培地中に添加すればよい。また、検査対象物が固体食品などであれば、当該検査対象物をホモジェナイズした後、ホモジェネートの一部を直接増菌培地中に添加するか、ホモジェネートに無菌PBSなどのバッファを加えて混合した後、その懸濁液、もしくは上清を増菌培地中に添加してもよい。あるいは、当該検査対象物を無菌の増菌培地と共にホモジェナイズしたものをそのまま培養する方法であってもよい。さらに、食器やパックであれば、検査箇所を無菌PBSなどで洗浄し、当該洗浄後のPBSを直接増菌培地中に添加するなどすればよい。
【0060】
なお、本実施形態の細菌培養方法は、状況に応じて接種工程(S0402)と次の培養工程(S0403)との間に前培養工程を設けてもよい。「前培養工程」とは、培養工程の増菌培地に接種する菌数を所定数以上にするために予め比較的少量の増菌培地に検査対象物を接種して細菌数を増加させる工程である。当該工程を経るか否かは、通常、培養工程に用いる増菌培地の容量によって判断する。例えば、増菌培地の分量が100mlを越えるような場合には、当該工程を経ることが好ましい。細菌の対数増殖期までの時間を短縮できるからである。逆に、50ml以下のような少量の培地への接種の場合、当該前培養工程を経なくともよい。前培養工程におけるpH値の保持や塩濃度などの培養条件は、培養工程と同様にすることが望ましい。通常の培養条件では前培養の段階で各細菌の増殖に偏重を来たす可能性があるためである。前培養は、36℃〜38℃で6時間〜12時間程度行えばよい。前培養後は、培養液を適量直接、若しくはPBSなどの無菌バッファで適当に希釈した後、増菌培地に接種する。
【0061】
「培養工程」(S0403)とは、接種後の増菌培地を一定条件下に置き、接種された細菌を培養する工程である。一定条件下とは、少なくともBacillus属、及びListeria属の好気性細菌を同時に培養する場合には、培養中の増菌培地のpH値を5より大きく10以下に保持することである。また、さらにVibrio属の好気性・好塩性細菌を同時に培養するには、増菌培地の塩濃度を1〜4%としておくことである。
【0062】
前述のように、通常の培養条件ではBacillus属の増殖によりpH値の低下が生じる。したがって、本実施形態の細菌培養方法では、培養中の増菌培地のpH値を能動的に保持する必要がある。以下、培養中に増菌培地のpH値を保持する方法について具体例を挙げて説明する。
【0063】
(A)増菌培地のpH値を外部から強制調整する方法
増菌培地のpH値をモニタリングしながら、外部から薬剤などを加えて強制的にpH値を調整することによって、増菌培地のpH値を所定の範囲内に保持させる方法である。当該方法の具体例としては、滴定が挙げられる。例えば、培養中に増菌培地のpH値をpHメーターで計測し、pH値が5以下となった場合には、0.1N程度のNaOH溶液を滴定して、5より大きく10以下の範囲内となるように調整すればよい。逆にpH値が10を越えた場合には0.1N程度のHCl溶液を滴定して、同様に5より大きく10以下の範囲内となるように調整すればよい。この方法で用いる増菌培地は汎用性の高い通常の増菌培地でよい。例えば、TSBなどが利用できる。なお、塩濃度については、必要に応じてTSBに適宜添加し、調整すればよい。これらの調整は滴定装置とpHメーターを連結して、又は一体化して、自動で行えるようにすると便利である。
【0064】
(B)増菌培地にpH緩衝能を有する試薬を加えておく方法
pHレンジが5より大きく10以下の範囲内にあり、かつ細菌の増殖に影響をほとんど及ぼすことのない試薬を増菌培地に加えておく方法である。増菌培地自身がpH緩衝能をもつことから、Bacillus属の増殖によりpH値の低下が生じても、Listeria属の好気性細菌が増殖可能なpH値に自動調整されることから便利である。具体例としてはPBSを増菌培地の溶媒として1/10容量程度加える方法が挙げられる。当該方法で培養を行う場合には、前記増菌培地調製工程(S0401)で、pH緩衝能を有する試薬を加えた増菌培地を調製しておけばよい。
【0065】
(C)糖含有量を抑制した増菌培地を使用する方法
前記「増菌培地」の項で述べたように増菌培地における糖の含有量を抑制する、若しくは糖を除去することで、培養中のpH値の低下を防止する方法である。当該方法で培養を行う場合には、前記増菌培地調製工程(S0401)で、予め糖含有量を抑制した増菌培地を調製しておけばよい。この場合、前述のように増菌培地には糖を代替する栄養素を添加することが好ましい。増菌培地の具体例としては、前記「増菌培地」の項で述べたSEBなどが挙げられる。
【0066】
培養温度は36℃〜38℃、培養時間は6時間〜24時間程度行えばよい。通常は、37℃で12時間〜20時間程度培養すれば足りる。増菌培地は静置培養、振とう培養のいずれであってもよい。静置培養の場合にはインキュベーターなどを、また振とう培養の場合には恒温振とう培養器などを用いてもよい。
【0067】
以上の工程を経ることで、少なくともBacillus属、及びListeria属の好気性細菌を同時に培養できる。なお、本実施形態の細菌培養方法に基づいた細菌培養の結果は、実施例2、及び3に示した。
【0068】
<実施形態1:効果>
本実施形態の細菌培養方法によれば、複数属の食中毒細菌を単一培地で同時に培養することが可能となり、培養方法の簡易化、迅速化ができる。また、実施形態2の細菌検出方法における検出時間の短縮化にも繋がる。
【0069】
本実施形態の増菌培地によれば、少なくともBacillus属、及びListeria属の細菌を同時に培養する場合、培養中も適正なpH値を保持できる。それによって、培養中に培地のpH調節を行う必要がなくなり、培養操作の一層の簡易化、迅速化が可能となる。
【0070】
<<実施形態2>>
【0071】
<実施形態2:概要>
実施形態2は、細菌検出方法に関する。本実施形態の細菌検出方法は、前記実施形態1の細菌培養方法で細菌を培養する培養工程を含むことを特徴とする。本実施形態の細菌検出方法によれば、少なくともStaphylococcus属、Salmonella属、Escherichia属、Vibrio属、Bacillus属、及びListeria属のうち、二以上の属の好気性細菌を同時に検出することができる。したがって、食中毒細菌をはじめとする細菌の簡易迅速な検出方法として有用である。
【0072】
<実施形態2:方法>
実施形態2の細菌検出方法について説明する。図5に本実施形態のフローチャートの一例を示す。この図のように、本実施形態の細菌検出方法は、培養工程(S0501)と検出工程(S0502)とを構成要件とする。以下、各工程について説明する。
【0073】
「培養工程」(S0501)とは、実施形態1の細菌培養方法で培養を行う工程である。ここでいう、培養工程とは、「実施形態1:方法」の項で述べた培養工程のみならず、広く実施形態1の培養方法を用いた一連の培養工程をいう。すなわち、接種工程の他、必要に応じて増菌培地調製工程、及び前培養工程などを含むものとする。基本的な方法については実施形態1で述べた方法と同じでよい。当該培養工程後に得られる培地中の細菌を次の検出工程に用いる。
【0074】
「検出工程」(S0502)とは、前記培養工程(S0501)後に得られる細菌から所望の細菌を検出する工程である。「所望の細菌」とは、存在の有無を確認したい標的細菌をいう。検出工程は、検出方法の違いによって、さらにいくつかに分類できる。第一は、増殖した生菌をそのまま用いて検出する方法である。第二は、増殖した細菌のタンパク質を検出する方法である。第三は、増殖した細菌の核酸を検出する方法である。以下、各方法について説明する。
【0075】
(生菌を用いる方法)
培養工程で増殖した細菌を、生菌状態のままで検出する方法である。例えば、所望の細菌の選択培地を用いたコロニー形成法が挙げられる。コロニー形成法は、具体的には、培養後の培養液にPBSなどのバッファを加えて10倍連続希釈系列を作成し、所望の細菌の選択培地プレートに適当量塗抹した後、形成されるコロニー数に基づいて所望の細菌の存在や菌数を算出する方法である。選択培地は、「実施形態1:発明に至る経緯」で挙げた日本の主要な食中毒細菌であれば、実施例1及び2で詳述する選択培地が利用できる。
【0076】
(タンパク質を検出する方法)
所望の細菌に特有のタンパク質を検出する方法である。例えば、抗体を用いた免疫学的な検出方法が挙げられる。具体例としては、ELISA法やウェスタンブロッティング法が利用できる。簡易性や迅速性を鑑みればELISA法が好ましい。これらの方法は、確立した周知の技術であることから具体的説明については省略する。なお、タンパク質は、細菌から抽出する方法と細菌の膜表面タンパク質を利用する方法があるが、いずれの方法であっても構わない。後者は、細菌の膜表面タンパク質を抗原とすることによりELISA法などで菌体のまま検出できるため、細菌検出の簡易性、迅速性の目的に資する点で便利である。細菌からタンパク質を抽出する方法も確立した周知の技術であり、例えば、非特許文献6に記載の方法に準じて処理すればよい。この方法で使用する抗体は、所望の細菌で知られる特有のタンパク質、若しくは特異的に発現するタンパク質などに対する抗体を用いる。これらは、市販の抗体などを利用すればよい。
【0077】
(核酸を検出する方法)
培養工程で増殖した細菌から核酸を抽出後、所望の細菌に特有な塩基配列を有する核酸を検出する方法である。図6のフローチャートで示すように、当該方法は、検出工程(S0602)が、さらに、核酸抽出工程(S0603)と核酸検出工程(S0604)とを有することを特徴とする。以下で本方法に特徴的な工程である核酸抽出工程(S0603)と核酸検出工程(S0603)について説明する。なお、培養工程(S0601)の説明は上記S0501で既に説明したため省略する。
【0078】
「核酸抽出工程」(S0603)とは、培養工程後に得られる菌体から核酸を抽出する工程である。ここでいう「核酸」とは、DNAやRNAが該当する。菌体から核酸を抽出する方法は、アルカリ法などの核酸抽出法として確立した公知の技術が利用できる。具体的な方法については非特許文献7に記載の方法などに準じればよい。
また、菌体から核酸を抽出する方法は、市販の核酸抽出キットなども利用できる。抽出後の核酸は、TEバッファなどで懸濁した後、適当な濃度に調整して次の核酸検出工程で用いる。
【0079】
「核酸検出工程」(S0604)とは、核酸抽出工程で得られる核酸に対して、所望の細菌のゲノムDNA上でその細菌に特有な塩基配列を認識するオリゴヌクレオチドを用いて所望の細菌を検出する工程である。
【0080】
「オリゴヌクレオチド」とは、10塩基〜50塩基程度のデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、LNA(登録商標;Locked Nucleic Acid)、PNA(ペプチド核酸)、又はそれらの組み合わせなどによって構成されている。本実施形態のオリゴヌクレオチドは、プローブ、又は核酸増幅におけるプライマーとしての機能を有する。
【0081】
当該オリゴヌクレオチドを構成する一、又は二以上のヌクレオチドは糖鎖などで修飾されていてもよい。また、当該オリゴヌクレオチドは標識物質で標識されていてもよい。標識物質の使用は、増幅された核酸断片の検出が容易になるため便利である。「標識物質」とは、例えば、蛍光物質、蛍光抑制物質、RI、ジゴキシゲニン(DIG)等のハプテン、又はビオチンが挙げられる。「蛍光物質」とは、特定波長の励起光を吸収することで励起状態となり、元の基底状態に戻る際に蛍光を発する性質を有する物質を言う。標識に用いる蛍光物質は、オリゴヌクレオチドに標識可能なものであれば、種類は特に問わない。例えば、FAM、TET、HEX、Cy3、Cy5、Texas Red、FITCが挙げられる。「蛍光抑制物質」とは、いわゆるクエンチャーであって、蛍光物質の励起エネルギーを吸収する物質等をいう。例えば、BHQ1、BHQ2、BHQ3、Dabcyl、TAMRAが該当する。オリゴヌクレオチドの標識される位置は、使用する標識物質等の性質に応じて適宜決定すればよく、特に限定はしない。例えば、5’及び/又は3’末端であってもよいし、オリゴヌクレオチド内のいずれかのヌクレオチドであってもよい。なお、蛍光抑制物質を使用する場合は通常、蛍光物質とペアで標識される。この場合、蛍光物質はオリゴヌクレオチドの5’末端に標識され、蛍光抑制物質は同じオリゴヌクレオチドの3’末端に標識されることが一般的である。また、蛍光抑制物質は、種類によって蛍光の抑制範囲が異なる。したがって、蛍光抑制物質を使用する場合は、ペアとなる前記蛍光物質の発光を抑制できる種類を選択する必要がある。
【0082】
「所望の細菌のゲノムDNA上でその細菌に特有な塩基配列」とは、標的細菌のゲノムDNA上に存在する当該標的細菌に特異的な塩基配列である。当該特有な塩基配列は、種特異的な塩基配列であることが好ましいが、亜属特異的、属特異的な塩基配列であってもよい。なぜなら、本実施形態の細菌検出方法では、必ずしも種レベルで検出する必要がないためである。例えば、食品のVibrio属による汚染度を確認したい場合にはVibrio属の有無が検出できれば十分であり、V.parahaemolyticusまでを検出する必要はない。このような場合であれば、Vibrio属に特異的な塩基配列が、ここでいう所望の細菌のゲノムDNA上でその細菌に特有な塩基配列に該当する。
【0083】
当該特有な塩基配列としては、標的細菌が有する特異的な遺伝子の配列や塩基多型等が挙げられる。ここでいう特異的な遺伝子とは、例えば、種特異的若しくは属特異的な酵素が挙げられる。また、塩基多型とは、種特異的若しくは属特異的な、SNP(Single Nucleitide Polymorphism)、マイクロサテライト、VNTR(Variable Nucleotide Tandem Repeat)、又はRFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)等が該当する。具体的な塩基配列については、所望の細菌に応じて適宜検討、選択することが好ましい。例えば、主要食中毒細菌6属6種の場合であれば、実施例4の表2で挙げた遺伝子の塩基配列が利用できる。ただし、表2は、具体例の一つであり、本実施形態でいう所望の細菌のゲノムDNA上でその細菌に特有な塩基配列は、それに限られるものではない。
【0084】
「認識する」とは、同定できることをいう。つまり、用いるオリゴヌクレオチドは、必ずしもそれ自身が所望の細菌に特有な塩基配列に相補的な塩基配列を有することで特有な塩基配列を認識する必要はない。オリゴヌクレオチド自身の塩基配列は所望の細菌に特有な塩基配列を含んでいなくとも、それを用いることで結果的に所望の細菌に特有な塩基配列を同定できるのであれば、認識するものとみなす。例えば、特有な塩基配列は有していないが、所望の細菌に特有なSNPなどの塩基配列を含む特定の領域を増幅できるプライマーペアが該当する。
【0085】
核酸検出工程は、検出方法によってさらにいくつかの方法に分けることができる。例えば、ハイブリダイゼーション法による方法や核酸増幅法を用いた方法が該当する。以下、各方法について説明する。
【0086】
(ハイブリダイゼーション法による方法)
ハイブリダイゼーション法による核酸検出工程は、前記所望の細菌のゲノムDNA上でその細菌に特有な塩基配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプローブとして、ハイブリダイゼーションにより標的細菌の有無を検出する方法である。例えば、ゲル・ブロッティング法や、核酸を直接固定したフィルターや基板を用いる方法が挙げられる。ゲル・ブロッティング法の具体例としてはサザンブロット・ハイブリダイゼーション法、ノザンブロット・ハイブリダイゼーション法、若しくはそれらを原理とするブロッティング法などが該当する。サザンブロット・ハイブリダイゼーション法は、電気泳動後のゲル中で分画されたDNAをメンブレンに転写した後、標識されたプローブを当該メンブレン上の目的の塩基配列を有するDNAにハイブリダイズさせて検出することを基礎とするものである。ノザンブロット・ハイブリダイゼーション法は、DNAに代わってRNAをメンブレンに転写して、サザンブロット・ハイブリダイゼーション法と同様の処理を行う方法である。前記の方法はいずれも分子生物学分野で確立した極めて一般的な技術であり、非特許文献7などのプロトコールに準じて行えばよいことから詳細な説明については省略する。また、核酸が固定されたフィルターや基板を用いる方法の具体例としてはマクロアレイ、マイクロアレイ、又はDNAチップなどの解析法等が該当する。これらの方法は、検出感度を高めるために、次に述べる核酸増幅法を用いた方法と組み合わせることが望ましい。マクロアレイ、マイクロアレイ、又はDNAチップを用いる方法は、複数の細菌を同時検出できることから本発明の目的に資するので好ましい。これらの方法を用いた検出方法は、公知の技術であることから、詳細な説明は省略する。なお、マイクロアレイ、又はDNAチップを用いた方法は基板など作製のための技術、労力、コストを考慮すると受託解析サービスを行っている専門業者を利用する方が便利である。
【0087】
(核酸増幅法を用いた方法)
核酸増幅法を用いた方法による核酸検出工程は、図7のフローチャートで示すように、核酸検出工程(S0704)がさらに、核酸増幅工程(S0705)と増幅核酸検出工程(S0706)とを有することを特徴とする。以下で核酸増幅工程(S0705)と増幅核酸検出工程(S0706)について説明する。その他の工程の説明については、前述の各工程と同様であることから省略する。
【0088】
「核酸増幅工程」(S0705)とは、核酸抽出工程で得られる核酸を鋳型として、所望の細菌のゲノムDNA上でその細菌に特有な塩基配列を認識するオリゴヌクレオチドを用いて、核酸増幅法により所望の細菌の核酸を増幅する工程である。核酸増幅工程による細菌検出方法は、培養工程で細菌数を増加させ、さらに細菌から抽出された核酸を当該核酸増幅法で増幅することにより、検査対象物中にわずかに存在する細菌であっても検出可能となることから、検出感度を高める上で有用である。また、前述のように、ハイブリダイゼーション法と組み合わせて用いることで、迅速性、簡易性を高めることができる。
【0089】
「核酸増幅法」とは、DNAなどの核酸を鋳型とし、二つのプライマーに挟まれた特定の領域を酵素反応によって増幅する方法である。例えば、PCR法、ICAN法、LAMP法、NASBA法、又はそれらの応用的な方法(例えば、リアルタイムPCR法)が挙げられる。いずれも公知の技術であるが、中でもPCR法は、医学、農学をはじめとする分子生物学の分野において現在世界中で広く使用されている方法であり、様々な応用技術も知られていることから便利である。
【0090】
核酸増幅法における核酸増幅反応については、使用する核酸増幅法に応じて適宜定める。例えば、PCR法であれば、通常、鋳型の熱変性反応、プライマーなどのアニーリング反応、プライマーの伸長反応の3反応を1サイクルとして、当該サイクルを繰り返す方法を基本としている。各反応における温度と時間は、熱変性反応を88℃〜98℃で30秒間〜1分間、アニーリング反応を52℃〜60℃で30秒間〜1分間、伸長反応を70℃〜75℃で40秒間〜3分間程度行えばよい。効率的な増幅のためには、使用するプライマーの塩基配列や塩基数に応じて適宜定めることが好ましい。一方、ICAN法やLAMP法は、50℃から65℃の一定温度で増幅が可能である。これらの核酸増幅法は、サーマルサイクラーなどの温度制御機器を必要としないため便利である。また、サイクル数は、使用するDNAポリメラーゼの種類や所望する核酸の増幅量によって異なるが、通常、25サイクルから45サイクル程度で足りる。好ましくは28サイクルから42サイクル、特に好ましくは30サイクルから40サイクルである。
【0091】
「核酸を鋳型として」とは、核酸の塩基配列を鋳型にしてということである。したがって、核酸抽出工程で得られた核酸そのものを必ずしも鋳型にする必要はない。例えば、核酸抽出工程で得られた核酸がmRNAであった場合には、そのmRNAから逆転写によって得られるcDNAを鋳型にしてもよい。
【0092】
核酸増幅工程は、二以上の標的細菌のそれぞれに対する複数のプライマーペアなどを一の反応液中で混和して、各細菌の核酸を同時に増幅してもよい。具体的な方法としては、いわゆるMultiplex PCR法などが挙げられる。当該方法によれば、一の核酸増幅反応で複数の標的細菌のそれぞれに特有な核酸断片を増幅できる。したがって、当該方法は、本願発明の細菌検出法の目的である簡易化、迅速化に資することからも好ましい。なお、各標的細菌に用いるオリゴヌクレオチドは、それらの塩基配列がお互いの核酸増幅を阻害しないようにすること、標識物質が細菌間で重複しないようにすることなどを考慮する必要がある。
【0093】
「増幅核酸検出工程」(S0706)とは、核酸増幅工程で増幅した核酸に基づいて所望の細菌を検出する工程である。
【0094】
「基づいて」とは、利用してという意味である。「増幅した核酸に基づいて」とは、増幅した核酸断片をそのまま利用してという意味、増幅した核酸断片に所定の処理をした後に利用してという意味、又は核酸の増幅に伴う現象を利用してという意味などを有する。それぞれ場合の具体的方法について、以下で例を挙げて説明する。
【0095】
増幅した核酸断片をそのまま利用する方法は、増幅反応後の核酸断片の塩基長から標的細菌を検出する方法などが挙げられる。これは、それぞれの細菌で特有の塩基長の増幅断片が増幅されるように、予め各細菌を認識するプライマーの塩基配列を設定しておけばよい。増幅断片の塩基長を視認する方法は、ゲル電気泳動法が利用できる。ゲル電気泳動法は分子生物学の分野で頻用される確立した技術であり、その詳細な方法については非特許文献7をはじめとする各種プロトコールに準ずればよい。
【0096】
増幅した核酸断片に所定の処理をした後に利用する方法は、増幅した核酸断片を所定の制限酵素で切断したときの切断断片のパターンから標的細菌を検出する方法などが挙げられる。増幅した核酸断片の塩基配列中に存在する制限酵素部位の相違によって標的細菌を検出する方法である。この方法は、増幅した核酸断片の塩基長が複数の標的細菌間で近似する場合であっても検出可能な点で便利である。制限酵素は、各標的細菌から増幅される核酸断片の塩基配列に基づいて適宜定めればよい。当該方法は、増幅した核酸断片に対して通常の制限酵素切断処理を行った後、前記ゲル電気泳動法によって検出すればよい。
【0097】
核酸の増幅に伴う現象を利用する方法とは、標的の核酸断片の増加を経時的に検出する方法等が挙げられる。
ここで、「経時的」とは、時間経過的であることを意味する。核酸断片の増加を経時的に検出する方法としては、例えば、核酸断片の増加に伴う蛍光強度の増加を測定する方法が挙げられる。より具体的には、リアルタイムPCR法などが利用できる。増幅産物の増加を反映する蛍光強度の増加を経時的に検出できれば、その検出方法については問わない。例えば、5’ヌクレアーゼ法(TaqManプローブ法)やサイクリングプローブ法が挙げられる。5’ヌクレアーゼ法は、5’末端を蛍光物質で、また3’末端を蛍光抑制物質で標識されたプローブがPCRの伸長反応におけるDNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性によって分解され、蛍光物質が遊離することで発せられる蛍光をリアルタイムで検出する方法である。サイクリングプローブ法は、末端を蛍光物質で標識されたRNAを含むプローブがRNaseHの添加によりRNA部分が分解されることで発せられる蛍光をリアルタイムで検出する方法である。あるいは、SYBER Green等の核酸染色剤を核酸増幅の反応液中に加えておき、核酸増幅反応とともに染色することによって拡散断片の増加を当該核酸染色剤から発せられる蛍光の強度により検出してもよい。リアルタイムPCRでの検出は、増幅開始から検出完了までが6時間以内で可能である。したがって、実施形態1の細菌培養方法とMultiplex リアルタイムPCRとを組み合わせることで、複数種の細菌を接種から検出までが1日以内で完了できる。それゆえ、簡易性、迅速性の点からもリアルタイムPCR法による細菌検出法は大変好ましい。
【0098】
上記いずれかの方法によれば、S.aureus、Salmonella spp.、E.coli O157、V.parahaemolyticus、B.cereus、及びL.monocytogenesのうち、二以上の菌種を同時に検出できる。当該検出の具体例は、実施例2から4で述べる。
【0099】
<実施形態2:効果>
本実施形態の細菌検出方法によれば、検査対象物から細菌を検出するまでの操作を簡易化できる。また、検出までに要する時間を短縮化できる。加えて、本実施形態の他の細菌検出法によれば、複数属の食中毒細菌を同時に検出できる。それによって、被検体からの細菌検出をより迅速に行うことができる。
【0100】
本実施形態の細菌検出方法によれば、特にMultiplex リアルタイムPCR法を用いることで、S.aureus、Salmonella spp.、E.coli O157、V.parahaemolyticus、B.cereus、及びL.monocytogenesなどの複数属の食中毒細菌を接種から検出までを僅か1日以内で完了することが可能である。したがって、食の安全を確保するための検査を行う上で、極めて有用な簡易迅速検出方法を提供できる。
【0101】
<<実施形態3>>
【0102】
<実施形態3:概要>
実施形態3は、細菌検出用キットに関する。本実施形態の細菌検出用キットは、前記実施形態1の増菌培地を含むことを特徴とする。
【0103】
<実施形態3:構成>
本実施形態の細菌検出用キットは、キット内に前記実施形態1の増菌培地を含むように構成されている。ここでいう「実施形態1の増菌培地」とは、前記SEBを意味する。ただし、当該キットに含まれるSEBは、使用前にあっては各構成成分が必ずしも最終濃度である必要はなく、また液体状態である必要もない。例えば、使用際に滅菌水で希釈するように、濃縮された液体状態でパッキングされていてもよいし、使用前に所定量の滅菌水で溶解する粉末状態でパッキングされていてもよい。
【0104】
本実施形態の細菌検出用キットは、SEB以外では培養から標的細菌の検出までに必要とされる試薬等で構成されていることが好ましい。例えば、培養後の菌体から核酸を抽出のための溶菌剤、中和剤や、核酸増幅を行うためのDNAポリメラーゼ、バッファ、dATP/dGTP/dCTP/dTTP、特定の食中毒細菌を検出するためのプライマーセットが挙げられる。その他、必要なチューブやカラムなどを有していてもよい。
【0105】
<実施形態3:効果>
本実施形態の細菌検出用キットによれば、細菌検出の検査を行う者がSEBをはじめ実施形態1の細菌培養方法や実施形態2の細菌検出方法で必要な各種試薬等を買い揃える必要ないため便利である。
【実施例1】
【0106】
<<SEBによるBacillus属とListeria属の同時培養>>
【0107】
<目的>
SEBを増菌培地として用いた場合に、少なくともBacillus属とListeria属の好気性細菌が同時に培養できることを確認する。
【0108】
<材料>
【0109】
(使用細菌種)
・Bacillus cereus No.55
・Listeria monocytogenes Lis1
【0110】
(各種培地の組成と調製)
【0111】
(1)TSB
TSB(DIFCO社;1.7% pancreatic digest of casein、0.3% enzymatic digest of soybean meal、0.25% リン酸二カリウム、 0.5% NaCl、 0.5% ブドウ糖)を水で溶解し、121℃で15分間オートクレーブ滅菌して作製した。
【0112】
(2)TSAプレート
TSA(Tryptic Soy Agar;DIFCO社)を121℃で15分間オートクレーブ滅菌後、約12mlずつシャーレに分注して作製した。
【0113】
(3)SEB
2% ペプトン{1.7% pancreatic digest of casein(Becton & Dickinson社) + 0.3% enzymatic digest of soybean meal(DIFCO社)}、0.25%リン酸二カリウム(dipotassium phosphate;ナカライテスク社)、3% NaCl(sodium chloride;ナカライテスク社)、0.05% イーストエクストラクト(NIHON SEIYAKU社)を水で溶解し、HClを用いてpH7.3に調整後、121℃で15分間オートクレーブ滅菌して使用した。
【0114】
(4)B.cereusの選択培地:卵黄加NGKG寒天培地
卵黄加NGKG寒天培地は、121℃で15分間オートクレーブ滅菌して作製したNGKG寒天培地(日水製薬)450mlを50℃に保温したものに卵黄10mlと滅菌生理食塩水50mlを混和したものを加え、約12mlずつシャーレに分注して作製した。
【0115】
(5)L.monocytogenesの選択培地:Oxford寒天培地
Oxford寒天培地は、121℃で15分間オートクレーブ滅菌して作製したListeria selective agar base(OXOID社)500mlを50℃に保温したものに、Listeria selective supplement cord SR0140E(OXOID社) 1バイアルを70%エタノール5mlで溶解したものを混和し、約12mlずつシャーレに分注して作製した。
【0116】
<方法>
本実施例では、前記2種の細菌がSEBで同時に培養可能であることを確認するために、同定済みの上記2種をSEBに接種する方法で行った。以下の操作は、原則として全て無菌状態にて行った。また、使用する試薬、器具は、121℃で20分間、オートクレーブで滅菌したものを用いた。
【0117】
スラントから掻き取った1白金耳の各菌体を5mlのTSBにそれぞれ接種し、37℃で一晩培養した。次に、PBSを用いて前培養液の10倍連続希釈系列を作成し、225mlのSEBに最終菌濃度が約100cfu/mlなるように、50μlずつ混合接種した。接種後、増菌培地を37℃のインキュベータ中で静置培養し、接種直後から2時間ごとに培養後18時間後まで、培養液10mlずつを採取した。当該培養液を4000×gで10分間遠心分離し、上清をEB−Disk25(孔径2.5μm;関東化学)を用いて濾過滅菌した後、pHの測定を行った。また、同時にこの培養液からPBSを用いて10倍連続希釈系列を作成し、それぞれの細菌の選択培地プレートに100μl塗抹して、培養後のコロニー数より生菌数を算出した。なお、各接種菌量は、TSAに100μl塗抹し、培養後のコロニー数より算出した。
【0118】
<結果>
実施例1の結果を図8に示す。対照実験に相当する図2の結果と比較してもわかるように、SEBを増菌培地に用いた場合、B.cereusが定常期に入る12時間後も、培地のpH値が図2の結果のような大幅な低下は生じることなかった。すなわち、B.cereusが増殖しても増菌培地のpH値をpH5より大きくpH10以下の範囲を保持することができた。その結果、L.monocytogenesも約1×105cfu/ml以上と、検出に十分な菌数にまで増殖可能であった。したがって、SEBを増菌培地とすることで、培養中に増菌培地のpH調整を行わずとも、少なくともBacillus属とListeria属の好気性細菌を同時に培養できることが確認できた。
【実施例2】
【0119】
<<実施形態1の細菌培養方法に基づく主要6属6種の食中毒細菌の同時培養>>
【0120】
<目的>
実施形態1の細菌培養方法に基づき、Bacillus属、Listeria属、及びVibrio属のそれぞれに属する食中毒細菌、並びに他の主要な食中毒細菌を一の場増菌培地中で同時に培養可能であることを示す。
【0121】
<材料>
【0122】
(使用細菌種)
・Staphylococcus aureus IFO 3060
・Salmonella Enteritidis IFO 3313
・Escherichia coli O157:H7(stx1+,stx2+)
・Vibrio parahaemolyticus WP−1 (tdh+)
・Bacillus cereus No.55
・Listeria monocytogenes Lis1
【0123】
(各種培地の組成と調製)
【0124】
(1)S.aureusの選択培地:卵黄加マンニット食塩培地
121℃で15分間オートクレーブ滅菌して作製したマンニット食塩培地(日水製薬)500mlを50℃に保温したものに、卵黄50mlと3%滅菌食塩水50mlを混和したものを加え、約12mlずつシャーレに分注して作製した。
【0125】
(2)E.coli O157の選択培地:CT−SMAC培地
CT−SMAC培地(セフィキシム、亜テルル酸カリウム添加ソルビトールマッコンキー寒天培地)は、Solbitol MacCONKEY培地(OXOID社)500mlを121℃で15分間オートクレーブ滅菌後、50℃まで冷却したものに、Cefixime Tellurite Selective Supplement(OXOID社)1バイアルを滅菌水2mlに溶解したものを混和した後、約12mlずつシャーレに分注して作製した。
【0126】
(3)Salmonella spp.の選択培地:DHL寒天培地
DHL寒天培地(日水製薬)は、処方に従って、加温溶解した後に約12mlずつシャーレに分注した。
【0127】
(4)V.parahaemolyticusの選択培地:TCBS寒天培地
TCBS寒天培地(日水製薬)は処方に従って、加温溶解した後に約12mlずつシャーレに分注した。
【0128】
なお、本実施例では、上記培地以外にTSB、TSAプレート、SEB、B.cereusの選択培地、L.monocytogenesの選択培地を用いたが、いずれも実施例1と同様であることからその説明は省略する。ただし、TSB、TSAプレートについては、S.aureus、及び/又はV.parahaemolyticusを培養する場合にはTSBに最終濃度でそれぞれ1.5%、3%のNaCl添加した。
【0129】
<方法>
本実施例では、前記6種の細菌が一の培地中で同時に培養可能であることを示すために、同定済みの各種細菌を増菌培地に接種する方法で行った。以下の操作は、原則として全て無菌状態にて行った。また、使用する試薬、器具は、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌処理したものを用いた。
【0130】
スラントから掻き取った1白金耳の各菌体を5mlのTSBにそれぞれ接種し、37℃で一晩培養した。次に、PBSを用いて前培養液の10倍連続希釈系列を作成し、10mlのSEBに最終菌濃度が約1〜10cfu/mlとなるように、それぞれ10μlずつ混合接種した。接種後、増菌培地を37℃のインキュベータで18時間静置培養した。培養後の菌数の測定は、PBSを用いて培養液の10倍連続希釈系列を作成し、各細菌の選択培地プレートに100μl塗抹して、培養後のコロニー数より算出した。なお、各接種菌量は、TSAに100μl塗抹し、培養後のコロニー数より算出した。
【0131】
<結果>
実施例2の結果を図9に示す。この図で示すように、主要な食中毒細菌6属6種の全てが18時間で105cfu/ml以上まで増殖された。すなわち、SEBを増菌培地に用いた実施形態1の細菌培養方法によれば、日本で主要な食中毒細菌6種の全てを培養時間18時間で同時に培養できることが確認された。
【実施例3】
【0132】
<<食品からの食中毒細菌の同時検出>>
【0133】
<目的>
実施形態2の細菌検出方法により、食品からStaphylococcus属、Salmonella属、Escherichia属、Vibrio属、Bacillus属、及びListeria属の好気性細菌を同時に検出可能であることを示す。
【0134】
<材料>
【0135】
(使用細菌種)
実施例2と同じ6属6種を使用した。
【0136】
(食品試料)
スーパーマーケットで市販の鶏肉、刺身用鯛の切り身、レタスを購入し、使用した。
【0137】
(各種培地の組成と調製)
実施例1及び実施例2と同様の各種培地を使用した。
【0138】
<方法>
本実施例では、食品から前記6属の細菌を同時に培養可能であることを確認するために、上記6属6種を食品に接種する方法で行った。以下の操作は、原則として全て無菌状態にて行った。また、使用する試薬、器具は、121℃で20分間、オートクレーブで滅菌したものを用いた。
【0139】
食品試料25gを225mlのSEBとともにフィルター付きストマッカー袋中で30秒間破砕し、そのままインキュベータ中で37℃、18時間静置培養した。破砕液からPBSを用いて10倍連続希釈系列を作成し、TSAに100μl塗抹して、培養後のコロニー数から食品試料中の生菌数を算出した。
【0140】
食品試料への食中毒細菌の接種は、まず、スラントから掻き取った1白金耳の食中毒細菌6種を5mlのTSBにそれぞれ接種し、37℃で一晩培養した。次に、PBSを用いて前培養液の10倍連続希釈系列を作成し、最終菌濃度で約1cfu/gとなるように食品試料である鶏肉、刺身用鯛の切り身、レタスに混合接種した。各食品試料からの採菌と、培養は前記と同様に食品試料25gから破砕によって採取した後、37℃、18時間静置培養した。その後、PBSを用いて培養液の10倍連続希釈系列を作成し、実施例1及び2に記載の各細菌用選択培地に100μl塗抹して、培養後のコロニー数から食品試料の生菌数を算出した。
【0141】
<結果>
表1に結果を示す。それぞれ鶏肉で2.3×105cfu/g、刺身用鯛の切り身で4.4×104cfu/g、レタスで1.2×106cfu/gの共存菌(食品に元々存在していた細菌)が存在する食品サンプルにおいても、実施形態2の細菌検出方法により6種全ての標的食中毒細菌を検出できることが示された。
【表1】
【実施例4】
【0142】
<<リアルタイムPCRを用いた食中毒細菌の同時検出>>
【0143】
<目的>
リアルタイムPCR法を用いた実施形態2の細菌検出方法により、日本で主要な食中毒細菌6属6種の全てを同時に検出可能であることを示す。
【0144】
<材料>
【0145】
(使用細菌種)
実施例2と同じ6属6種を使用した。
【0146】
(各種培地の組成と調製)
実施例1及び実施例2と同様の各種培地を使用した。
【0147】
(PCR反応液)
本実施例では、6種の各細菌を認識するオリゴヌクレオチドを3種ずつに分けて2つの反応液(反応チューブI、反応チューブII)でPCR反応を行った。これは、本実施例で使用したリアルタイムPCR用サーマルサイクラーの蛍光色素の検出上限が4種であったためである。したがって、4種の蛍光色素を細菌検出用の3種及びモニター用の1種で2チューブに分けた。なお、1台で7種以上の蛍光色素を検出可能なリアルタイムPCR用2台のサーマルサイクラーであれば、主要な食中毒細菌6属6種を1の反応チューブで反応させることも可能である。
【0148】
(1)共通反応液組成
10×EX Taq buffer(TAKARA) 2.5μl
dNTPs for EX Taq(TAKARA) 2.0μl
20mM MgCl2(TAKARA) 2.5μl
5×Rox reference dye 0.5μl
5U/μl EX Taq polymerase(TAKARA) 0.125μl
Template DNA 2.0μl
【0149】
(2)反応チューブI用プライマー及びプローブ
20pmol/μl nucA forward primer 0.25μl
20pmol/μl nucA reverse primer 0.25μl
20pmol/μl nucA probe 0.25μl
20pmol/μl eaeA forward primer 0.25μl
20pmol/μl eaeA reverse primer 0.25μl
20pmol/μl eaeA probe 0.25μl
20pmol/μl hlyA forward primer 0.25μl
20 pmol/μl hlyA reverse primer 0.25μl
20pmol/μl hlyA probe 0.25μl
【0150】
(3)反応チューブII用プライマー及びプローブ
20pmol/μl tl forward primer 0.25μl
20pmol/μl tl reverse primer 0.25μl
20pmol/μl tl probe 0.25μl
20pmol/μl invA forward primer 0.25μl
20pmol/μl invA reverse primer 0.25μl
20pmol/μl invA probe 0.25μl
20pmol/μl crs forward primer 0.25μl
20pmol/μl crs reverse primer 0.25μl
20pmol/μl crs probe 0.25μl
【0151】
前記共通反応液を各反応チューブ用のプライマー及びプローブと混合した。混合後のチューブを反応チューブI、反応チューブIIとしてリアルタイムPCRに用いた。前記各プライマーおよびプローブの塩基配列は、表2に示す。
【表2】
【0152】
<方法>
【0153】
(培養)
実施例2で用いた6属6種の食中毒細菌をそれぞれ1〜10cfu/mlとなるようにSEB10mlに混合接種し、18時間37℃にて静置培養した。基本的な培養方法は実施例2と同様である。当該培養は、実施形態2における培養工程に該当する。
【0154】
(核酸抽出)
前記培養後の培養液1.0mlを6000×gで10分間遠心分離して集菌後、DNA Tissue Kit(QIAGEN社)を用い、付属のプロトコール(グラム陽性菌からの抽出法)に従ってゲノムDNAの調製を行った。ただし、溶菌の際には10mg/ml N−acetylmuramidaseを2μl添加した。当該培養は、実施形態2における核酸抽出工程に該当する。
【0155】
(リアルタイムPCR反応)
上記反応液をそれぞれ0.2mlリアルタイムPCR用マイクロチューブ中で調製し、全量が25μlになるように滅菌水を加えて十分に混合した後、リアルタイムPCR用サーマルサイクラー(MX3000P Stratagene社)を用いて核酸増幅反応を行った。反応条件は(95℃で1分間→55℃で1分間→72℃で1分間)を1サイクルとして、42サイクル行った。サイクルごとにそれぞれの蛍光色素強度を測定し、前記サーマルサイクラー付属の解析ソフトにて、解析を行った。
【0156】
PCRによる増幅産物の確認はアガロースゲル電気泳動で行った。アガロースゲルは、3%アガロースゲル/TAEアガロースゲルを使用した。当該電気泳動法は極めて一般的な技術であることから、ここではその説明を省略する。
【0157】
<結果>
図10に本実施例のリアルタイムPCRにおけるサイクルごとの相対蛍光強度プロットを示す。この図で示すように、2本の反応チューブの全ての蛍光色素で増幅が確認され、6種の食中毒細菌を同時に検出できることが示された。図10によれば、各細菌の核酸増幅は30サイクル前後で十分に検出できることも示された。したがって、サーマルサイクラーにセッティング後は、2〜2.5時間程度で検出結果が得られることとなる。実施例1で示すように、細菌培養方法による培養時間が12時間から18時間で足りることから、接種から検出までを24時間以内で行うことが可能なことも実証された。なお、図11で示すように、アガロースゲル電気泳動においても目的サイズの増幅が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】各pH値の増菌培地におけるL.monocytogenesの培地容量当たりの菌数を示す図
【図2】B.cereusとL.monocytogenesを同時に培養したときの、各培養時間におけるそれぞれの細菌の培地容量当たりの菌数と培地のpH値の関係を示す図
【図3】B.cereus、L.monocytogenes、及びV.parahaemolyticusを同時に培養したときの、それぞれの細菌の培地容量当たりの菌数を示す図
【図4】実施形態4における細菌培養方法のフローチャート図
【図5】実施形態2のフローチャートの一例(1)
【図6】実施形態2のフローチャートの一例(2)
【図7】実施形態2のフローチャートの一例(3)
【図8】実施例1の結果を示す図
【図9】実施例2の結果を示す図
【図10】実施例4におけるリアルタイムPCRの結果を示す図
【図11】実施例4におけるPCRの核酸増幅を示すアガロース電気泳動の結果を示す図
【符号の説明】
【0159】
図2 BC:B.cereus、LM:L.monocytogenes
図3 BC:B.cereus、LM:L.monocytogenes、VP:V.parahaemolyticus
図8 BC:B.cereus、LM:L.monocytogenes
図9 BC:B.cereus、LM:L.monocytogenes、VP:V.parahaemolyticus、SA:S.aureus、SE:S.Enteritidis、O157:E.coli 0157
図10 BC:B.cereus、LM:L.monocytogenes、VP:V.parahaemolyticus、SA:S.aureus、SE:S.Enteritidis、O157:E.coli 0157
図11 M:100pbマーカー、1:反応チューブI(ポジティブコントロール)、2:反応チューブII(ポジティブコントロール)、3:反応チューブI(培養液サンプル)、4:反応チューブII(培養液サンプル)、5:反応チューブI(ネガティブコントロール)、6:反応チューブII(ネガティブコントロール)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともBacillus属の好気性細菌、及びListeria属の好気性細菌を一の増菌培地中で同時に培養可能な細菌培養方法であって、
増菌培地のpH値を5より大きく10以下に保持して培養する細菌培養方法。
【請求項2】
さらに、Vibrio属の好気性・好塩性細菌を一の増菌培地中で同時に培養可能な細菌培養方法であって、
増菌培地の塩濃度が水を溶媒として質量対容量百分率で1%〜4%である請求項1に記載の細菌培養方法。
【請求項3】
増菌培地は、水を溶媒として糖の含有率を質量対容量百分率で0.001%以下とする請求項1又は2に記載の細菌培養方法。
【請求項4】
増菌培地は、水を溶媒として質量対容量百分率で、ペプトン:1%〜3%、リン酸二カリウム:0.15%〜0.35%、塩化ナトリウム:1%〜4%、及び酵母エクストラクト:0.01%〜0.1%、よりなる請求項3に記載の細菌培養方法。
【請求項5】
少なくともStaphylococcus属、Salmonella属、Escherichia属、Vibrio属、Bacillus属、及びListeria属のうち、二以上の属の好気性細菌を同時に検出できる細菌検出方法であって、
請求項1から4のいずれか一に記載の細菌培養方法で培養する培養工程と
培養工程後に得られる細菌から所望の細菌を検出する検出工程と、
を有する細菌検出方法。
【請求項6】
検出工程は、さらに
培養工程後に得られる菌体から核酸を抽出する核酸抽出工程と、
核酸抽出工程で得られる核酸に対して、所望の細菌のゲノムDNA上でその細菌に特有な塩基配列を認識するオリゴヌクレオチドを用いて所望の細菌を検出する核酸検出工程と、
を有する請求項5に記載の細菌検出方法。
【請求項7】
核酸検出工程は、さらに、
核酸抽出工程で得られる核酸を鋳型として、所望の細菌のゲノムDNA上でその細菌に特有な塩基配列を認識するオリゴヌクレオチドを用いて、核酸増幅法により所望の細菌の核酸を増幅する核酸増幅工程と、
前記核酸増幅工程で増幅した核酸に基づいて所望の細菌を検出する増幅核酸検出工程と
を有する請求項6に記載の細菌検出方法。
【請求項8】
核酸増幅工程は、二以上の細菌に対して、各細菌のゲノムDNA上でそれぞれの細菌に特有な塩基配列を認識するオリゴヌクレオチドを用いて、一の反応液中で同時にそれぞれの細菌の核酸を増幅する請求項7に記載の細菌検出方法。
【請求項9】
核酸検出工程は、リアルタイムPCR法を用いる請求項7又は8に記載の細菌検出方法。
【請求項10】
核酸検出工程は、前記所望の細菌のゲノムDNA上でその細菌に特有な塩基配列を認識するオリゴヌクレオチドをプローブとしたハイブリダイゼーション法によって検出する請求項6に記載の細菌検出方法。
【請求項11】
前記Staphylococcus属、Salmonella属、Escherichia属、Vibrio属、Bacillus属、及びListeria属の各好気性細菌は、それぞれStaphylococcus aureus、Salmonella Enteritidis、Escherichia coli O157、Vibrio parahaemolyticus、Bacillus cereus、及びListeria monocytogenesである請求項5から10のいずれか一に記載の細菌検出方法。
【請求項12】
水を溶媒としたときの質量対容量百分率が、糖:0.001%以下、ペプトン:1%〜3%、リン酸二カリウム:0.15%〜0.35%、塩化ナトリウム:1%〜4%、及び酵母エクストラクト:0.01%〜0.1%となる増菌培地。
【請求項13】
前記ペプトンは、ソイトンをペプトンの質量に対して10%〜20%含有する請求項12に記載の増菌培地。
【請求項14】
請求項12、又は13に記載の増菌培地を含む細菌検出用キット。
【請求項1】
少なくともBacillus属の好気性細菌、及びListeria属の好気性細菌を一の増菌培地中で同時に培養可能な細菌培養方法であって、
増菌培地のpH値を5より大きく10以下に保持して培養する細菌培養方法。
【請求項2】
さらに、Vibrio属の好気性・好塩性細菌を一の増菌培地中で同時に培養可能な細菌培養方法であって、
増菌培地の塩濃度が水を溶媒として質量対容量百分率で1%〜4%である請求項1に記載の細菌培養方法。
【請求項3】
増菌培地は、水を溶媒として糖の含有率を質量対容量百分率で0.001%以下とする請求項1又は2に記載の細菌培養方法。
【請求項4】
増菌培地は、水を溶媒として質量対容量百分率で、ペプトン:1%〜3%、リン酸二カリウム:0.15%〜0.35%、塩化ナトリウム:1%〜4%、及び酵母エクストラクト:0.01%〜0.1%、よりなる請求項3に記載の細菌培養方法。
【請求項5】
少なくともStaphylococcus属、Salmonella属、Escherichia属、Vibrio属、Bacillus属、及びListeria属のうち、二以上の属の好気性細菌を同時に検出できる細菌検出方法であって、
請求項1から4のいずれか一に記載の細菌培養方法で培養する培養工程と
培養工程後に得られる細菌から所望の細菌を検出する検出工程と、
を有する細菌検出方法。
【請求項6】
検出工程は、さらに
培養工程後に得られる菌体から核酸を抽出する核酸抽出工程と、
核酸抽出工程で得られる核酸に対して、所望の細菌のゲノムDNA上でその細菌に特有な塩基配列を認識するオリゴヌクレオチドを用いて所望の細菌を検出する核酸検出工程と、
を有する請求項5に記載の細菌検出方法。
【請求項7】
核酸検出工程は、さらに、
核酸抽出工程で得られる核酸を鋳型として、所望の細菌のゲノムDNA上でその細菌に特有な塩基配列を認識するオリゴヌクレオチドを用いて、核酸増幅法により所望の細菌の核酸を増幅する核酸増幅工程と、
前記核酸増幅工程で増幅した核酸に基づいて所望の細菌を検出する増幅核酸検出工程と
を有する請求項6に記載の細菌検出方法。
【請求項8】
核酸増幅工程は、二以上の細菌に対して、各細菌のゲノムDNA上でそれぞれの細菌に特有な塩基配列を認識するオリゴヌクレオチドを用いて、一の反応液中で同時にそれぞれの細菌の核酸を増幅する請求項7に記載の細菌検出方法。
【請求項9】
核酸検出工程は、リアルタイムPCR法を用いる請求項7又は8に記載の細菌検出方法。
【請求項10】
核酸検出工程は、前記所望の細菌のゲノムDNA上でその細菌に特有な塩基配列を認識するオリゴヌクレオチドをプローブとしたハイブリダイゼーション法によって検出する請求項6に記載の細菌検出方法。
【請求項11】
前記Staphylococcus属、Salmonella属、Escherichia属、Vibrio属、Bacillus属、及びListeria属の各好気性細菌は、それぞれStaphylococcus aureus、Salmonella Enteritidis、Escherichia coli O157、Vibrio parahaemolyticus、Bacillus cereus、及びListeria monocytogenesである請求項5から10のいずれか一に記載の細菌検出方法。
【請求項12】
水を溶媒としたときの質量対容量百分率が、糖:0.001%以下、ペプトン:1%〜3%、リン酸二カリウム:0.15%〜0.35%、塩化ナトリウム:1%〜4%、及び酵母エクストラクト:0.01%〜0.1%となる増菌培地。
【請求項13】
前記ペプトンは、ソイトンをペプトンの質量に対して10%〜20%含有する請求項12に記載の増菌培地。
【請求項14】
請求項12、又は13に記載の増菌培地を含む細菌検出用キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−48670(P2008−48670A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228474(P2006−228474)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(506262346)株式会社IBC (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(506262346)株式会社IBC (2)
【Fターム(参考)】
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