説明

食品の製造方法

【課題】本発明は、低温、短時間の加熱処理において、十分香辛食材から香味を引き出し、それらを用いた食品においても、風味に優れた食品の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】上記課題を解決するために、本発明は、香辛食材を糖質関連酵素と反応させ、得られた反応組成物を用いて食品を製造することを特徴とする食品の製造方法の構成、さらに、前記酵素反応処理後に、糖質関連酵素を失活させる工程を含むことを特徴とする前記記載の食品の製造方法。また、香辛食材を糖質関連酵素と反応させ得られた反応組成物を含むことを特徴とする食品の構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパイス、香辛野菜、ハーブ等(以下、「香辛食材」という。)を含む食品の製造方法に係り、特に、香辛食材を糖質関連酵素で反応処理し、味・香りなどに優れた高品質の食品及び食品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、香辛食材から味・香りを引き出すには、香辛食材の粗細物や粉末に水及び/又は油脂を加えて加熱処理することが常法とされていた。そして、この従来法において、味・香り成分を充分抽出するためには、高温で長時間にわたって加熱処理を行うことが必須の要件とされていた。
【0003】
他に、特許文献1には、マスタードシード等の種子香辛料を動植物油脂中において80〜180℃に加熱し、ついで磨細した組成物並びに更に香辛料抽出物及び/又は香味油の製造方法が開示されている。その組成物をカレールウやレトルトカレーに添加することでカレーの香味が増強されるというものである。
【特許文献1】特開2000−224969号公報
【0004】
なお、カレールウの製造工程中にα−アミラーゼを失活させることが特許文献2に開示されている。ところが、糊化した澱粉を含むルウを貯蔵しても澱粉の糊化によるルウらしい粘性が保持された状態を維持するために、香辛料原料中にもともと含まれるアミラーゼ活性を失活させるというものである。香辛食材の風味改善のために、製造工程中に敢えて添加したα−アミラーゼを反応処理後に失活させるものではない。
【特許文献2】特開平10−57024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の高温で長時間にわたる加熱処理では、香辛食材の味や香り、色を変質及び/又は減退させてしまうこともある。さらに、カレールウのように油脂を含む食品の製造では、高温で長時間の加熱処理は油脂の劣化を促進させる要因となり、製品の品質は見て劣るものとなる。
【0006】
品質的に優れた食品を得ようとするならば加熱温度を低下させるか、あるいは加熱時間を短縮させることが必要となる。このような加熱条件において香辛食材から味・香りに優れた食品を製造することが求められている。
【0007】
また、特許文献1には、香辛食材を糖質関連酵素と反応することにより、香辛食材に含まれる水溶性成分並びに脂溶性成分及び/又は揮発性成分を引き出し、食品の味・香りを増強させる点については開示されていない。また、酵素反応処理後に得られる反応組成物を用いてカレー製品等の食品を製造することも開示されていない。
【0008】
そこで、本発明は、低温、短時間の加熱処理において、十分香辛食材から香味を引き出し、それらを用いた食品においても、風味に優れた食品の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、本発明者等は、種々の香辛食材に含まれる味・香りを引き出すことを試みた。その結果、本発明者等は鋭意研究を進めた結果、糖質関連酵素で香辛食材を酵素反応処理することで、低温で短時間の加熱条件であっても味・香り成分を十分引き出すことができるという知見を得た。本発明は、かかる知見をもとに開発されたもので、香辛食材の味・香りに優れた高品質の食品の製造方法を提供するものである。
【0010】
具体的には、香辛食材を糖質関連酵素と反応させ、得られた反応組成物を用いて食品を製造することを特徴とする食品の製造方法の構成、前記酵素反応処理後に、糖質関連酵素を失活させる工程を含むことを特徴とする前記記載の食品の製造方法の構成、前記香辛食材が、スパイス、香辛野菜、ハーブのうちから選ばれる1種類又は2種類以上を含むことを特徴とする前記記載の食品の製造方法の構成、前記糖質関連酵素が、糖質を加水分解させる酵素であることを特徴とする前記何れかに記載の食品の製造方法の構成とした。
また、香辛食材を糖質関連酵素と反応させ得られた反応組成物を含むことを特徴とする食品の構成とした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低温、短時間の加熱処理において、十分香辛食材から香味を引き出し、それらを用いた食品においても、風味・品質の高い各種食品を製造することが可能となる。特に、スパイシーな香り、香辛味とコクの豊かな食品が得られる。
【0012】
具体的には、本発明は、α−アミラーゼ等の糖質関連酵素により香辛食材を酵素反応処理することで味・香りを引き出すことができ、同時に上記処理を施した香辛食材と糖質関酵素溶液は、両者とも風味がよく、これらを用いて高品質の各種食品を調製することができる。
【0013】
すなわち、本発明は、香辛食材をα−アミラーゼ等の糖質関連酵素溶液中で反応処理し、酵素反応処理後に得られる反応組成物(固形食品及び/又は酵素溶液を含む液状食品)を用いて食品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明において、「糖質関連酵素」とは、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ等が挙げられ、糖質を加水分解させる作用を持ち、食材の細胞構造を破壊、分解、切断等の作用、影響を与える酵素であれば良い。酵素の使用量は特に制限されるものではない。
【0015】
本発明で用いられる前記酵素は水に溶けた状態で用いることもできる。また、水溶液に限らずW/O型及びO/W型エマルジョンの状態で用いることもできる。エマルジョン溶液の調製に使用する油脂は、ラード、ヘット、チキンオイル、バター等の動物油脂の未精製品若しくは精製品、或いはヤシ油、パーム油、こめ油、大豆油、綿実油、菜種油等の未精製品若しくは精製品が用いられる。好ましくは動物性油脂の未精製品もしくは精製品が用いられる。油脂の使用量は特に限定されるものではない。
【0016】
本発明で使用する香辛食材とは、スパイス、香辛野菜、ハーブ等の辛味、香味豊かな食材が含まれ、具体的には、ターメリック、コリアンダー、クミン、フェネグリーク、ブラックペッパー、オールスパイス、ナツメグ、カルダモン、レッドペッパー、シナモン、ディルシード、クローブ、ジンジャー、フェンネル、メース、キャラウェイ、アニス、セロリシード、ローレル、スターアニス、セージ、玉葱、葱、ニンニク、それらの混合物、例えばカレー粉等が挙げられる。
【0017】
本発明の食品の製造方法においては、香辛食材は糖質関連酵素とともに20℃〜80℃、好ましくは30℃〜70℃、さらに好ましくは40℃〜60℃で1分間以上加熱・撹拌処理される。糖質関連酵素の由来に左右されるが、反応温度が20℃以下であれば酵素反応の速度は遅く、80℃を越えた場合は酵素が失活してしまうため好ましくない。
【0018】
原材料に澱粉を含み、澱粉の糊化によって粘性を出すタイプの食品の様に、糖質の物性が製品の品質に影響を及ぼす場合には、酵素反応処理した香辛食材の反応組成物を澱粉原料と混合させる前に糖質関連酵素を失活させる工程が必須になる。
【0019】
その代表的な例として、カレールウが挙げられる。カレールウは、通常小麦粉と油脂とを焙煎して小麦粉ルウを得る。これにカレー粉や各種調味料を加えて混合し、加熱等の加工処理を施すことによって得られる。カレールウの粘性は小麦粉が水分と共に加熱されることで、小麦粉中の澱粉がα化(糊化)されることによって生じる。
【0020】
しかしながら、糖質関連酵素処理後、酵素を失活しないカレー粉に小麦粉ルウを加えた場合、澱粉の糊化による粘性が失われてしまい流動性の高い物性になってしまう。これは反応酵素としてα−アミラーゼ等、澱粉を加水分解させる作用を持つ酵素を用いた時に起こる現象である。
【0021】
そのため、酵素反応処理された反応組成物をカレールウ等の澱粉含有食品に用いる場合には、蒸気やジュール加熱等の加熱処理により反応組成物中の糖質関連酵素を失活させることが望ましい。しかしながら、この加熱工程は反応組成物中に水分が残存している状態で行われなければ糖質関連酵素が充分に失活されない。特に耐熱性の強い糖質関連酵素を用いる場合には注意が必要となるため、加熱工程中は反応組成物中の水分量を1%以上に調整することが好ましい。
【0022】
又、糖質関連酵素の失活処理後の液状又はペースト状の反応組成物は、更に加熱処理を行うことにより、反応組成物中の水分量を減らして無水反応組成物を調製することができる。
【0023】
更に、賦形剤或いは溶剤を加えることにより、固形、粉末、液体状態に加工した調味料等としての食品、あるいはそれらを調味料として用いて食品を製造することもできる。
【0024】
本発明の主要な内容は、以上に説明した通りであるが、これに種々の変形応用が為し得ることは勿論である。本発明を適用することができる食品の例としては、カレールウ、レトルトカレー、調味油、練りスパイス、ソース、ドレッシング等を挙げることができる。上記の食品は、本発明を好適に適用し得る食品の一例に過ぎず、本発明を他の食品にも適用し得ることはいうまでもない。
【実施例1】
【0025】
以下、発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでない。
【0026】
加熱撹拌機[カジワラ(株)製、電磁式]に精製ラード400gを入れ、加熱溶解し、油温が60℃に達した後、カレー粉400g及びα−アミラーゼ0.5g、水10gを加え加熱を継続(約15分)し、品温が90℃に達した後、90℃を維持したまま10分間攪拌し、その後直ちに放冷(30℃まで急冷)し、本発明固形の反応組成物を得た。これとは別に、小麦粉1500gと精製ラード1000gを121℃で45分間焙煎処理して小麦粉ルウを得た。その後、本発明の反応組成物と小麦粉ルウを混合しカレールウを得た。このカレールウを用いることでスパイシーな香り、香辛味とコクの豊かなカレーが得られた。
【実施例2】
【0027】
加熱撹拌機[カジワラ(株)製、電磁式]に、こめ油1000gを入れ加熱し、油温が60℃に達した後で粉末レッドペッパー100g、α−アミラーゼ0.01g、水1gを入れ加熱・攪拌を継続(約15分)し、品温が90℃達温後完全に水分を蒸発させるまで90℃を維持したまま加熱を継続する。その後直ちに放冷(20℃まで急冷)し濾過することで風味、品質に優れた調味油が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
香辛食材を糖質関連酵素と反応させ、得られた反応組成物を用いて食品を製造することを特徴とする食品の製造方法。
【請求項2】
前記酵素反応処理後に、糖質関連酵素を失活させる工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の食品の製造方法。
【請求項3】
前記香辛食材が、スパイス、香辛野菜、ハーブのうちから選ばれる1種類又は2種類以上を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の食品の製造方法。
【請求項4】
前記糖質関連酵素が、糖質を加水分解させる酵素であることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載の食品の製造方法。
【請求項5】
香辛食材を糖質関連酵素と反応させ得られた反応組成物を含むことを特徴とする食品。

【公開番号】特開2009−95254(P2009−95254A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267529(P2007−267529)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000165284)月島食品工業株式会社 (22)
【Fターム(参考)】