説明

食品改質剤

【課題】 優れた食感(特に麺のコシなどの粘弾性)を付与し、かつ食感を維持し得る食品改質剤を提供すること
【解決手段】 アルギン酸またはその塩の酵素分解物を含有する食品改質剤であって、該酵素分解物の主成分が、20,000〜400,000の分子量を有する分子の集合体であり、そして該酵素分解物の2質量/容量%水溶液の40℃における粘度が10cps〜120cpsである、食品改質剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルギン酸の酵素分解物を含有する食品改質剤およびその製造方法、ならびにこの食品改質剤を含有する食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品、特に麺類については、本格指向と簡便指向の両極の傾向がある。例えば、うどん麺、中華麺などの麺類は、茹で後の麺のコシ、粘弾性などの食感および味覚に優れた、本格的な味が要求されている。例えば、コンビニエンスストアー等で販売されている麺類は、製麺工場で製造されて店へ配送されるため、製造後の時間の経過に伴って、麺の食感が悪化するという問題がある。このような点から、茹で後の麺の品質(食感)、およびこの品質(食感)を安定に保つことはきわめて重要である。他方、簡便指向においては、熱湯または電子レンジだけで調理、喫食できる簡便性が求められている。しかし、簡便指向の場合、麺の腰や粘弾性に欠けており、未だ満足のいく品質(食感)が得られていないのが現状である。
【0003】
このような麺類の食感および保存安定性の問題点を解決する為、種々の方法が提案されている(特許文献1〜5)。しかし、これまで開発された技術では、麺に不自然な食感を与える点、食感は良好であるが麺の腰や粘弾性が不十分である点、保存性が悪い点等の問題点があり、食感に優れ、かつ保存安定性に優れた麺類は開発されていない。
【0004】
食感の改善のために、増粘多糖類などの使用が検討されている。例えば、特許文献5には、長時間保存しても麺のコシの強さが損なわれない麺類を得ることを目的として、アルギン酸を含む麺帯の一方の表面に、多価金属イオン含有溶液を塗布し、この塗布面が内側になるように、該麺帯を接合させた後、圧延し、切断することが記載されている。すなわち、アルギン酸と多価金属イオンとによって形成されるゲルの強度が、多価金属イオン濃度に依存することを利用して、麺の内側から外側に向かってゲル強度の勾配を設けることによって麺類のコシを出すことが記載されている。
【0005】
また、アルギン酸を分解して低分子化する試み、および低分子化したアルギン酸を食品、化粧品などに利用する研究もなされている(特許文献6〜13)。しかし、得られたアルギン酸の分解物は、アルギン酸の有する増粘特性がほとんど活かせないため、食感の改善目的で使用されていない。例えば、特許文献13には、分子量1000〜15000のアルギン酸の分解物が、アルギン酸の有する生理的機能(例えば、食物繊維機能、血清コレステロール上昇抑制作用など)の利用に向けられている。
【特許文献1】特開平5−15331号公報
【特許文献2】特開平5−91845号公報
【特許文献3】特開平8−23906号公報
【特許文献4】特開平9−28334号公報
【特許文献5】特開2004−8180号公報
【特許文献6】特開昭59−143597号公報
【特許文献7】特開昭63−39581号公報
【特許文献8】特開昭63−39589号公報
【特許文献9】特開平3−224484号公報
【特許文献10】特開平4−141090号公報
【特許文献11】特開平4−169189号公報
【特許文献12】特開平6−217774号公報
【特許文献13】特開平3−273002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、優れた食感(特に麺のコシなどの粘弾性)を与えることができ、さらに、この食感を安定的に維持し得る食品改質剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、優れた食感を有し、さらに食感を維持し得る食品について、鋭意検討した結果、特定のアルギン酸またはその塩の酵素分解物を含有させることによって、優れた食感を与え、かつその食感が長期間保持されることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、アルギン酸またはその塩の酵素分解物を含有し、該酵素分解物の主成分が、20,000〜400,000の分子量を有する分子の集合体であり、そして該酵素分解物の2質量/容量%水溶液の40℃における粘度が10cps〜120cpsである食品改質剤を提供する。
【0009】
好ましい実施態様においては、前記酵素分解物が、アルギン酸リアーゼによる分解物である。
【0010】
好ましい実施態様においては、上記アルギン酸リアーゼは、スフィンゴバクテリウム属、フラボバクテリウム属、シュードモナス属、キサントモナス属、アルカリゲネス属、またはバチルス属に属する微生物に由来する。
【0011】
好ましい実施態様においては、上記アルギン酸リアーゼは、スフィンゴバクテリウム属に属する微生物に由来する。。
【0012】
好ましい実施態様においては、上記スフィンゴバクテリウム属に属する微生物は、スフィンゴバクテリウム マルチボラムである。
【0013】
本発明は、また、食品改質剤の製造方法を提供する。この方法は、アルギン酸またはその塩に、アルギン酸リアーゼを作用させる工程、およびその主成分が、20,000〜400,000の分子量を有する分子の集合体であり、2質量/容量%水溶液の40℃における粘度が10cps〜120cpsであるアルギン酸またはその塩の酵素分解物を回収する工程を包含する。
【0014】
好ましい実施態様においては、前記アルギン酸リア−ゼを、塩化ナトリウムの存在下、アルギン酸またはその塩に作用させる。
【0015】
好ましい実施態様においては、前記アルギン酸リアーゼが、スフィンゴバクテリウム属、フラボバクテリウム属、シュードモナス属、キサントモナス属、アルカリゲネス属、またはバチルス属に属する微生物に由来する。
【0016】
好ましい実施態様においては、前記アルギン酸リアーゼが、前記スフィンゴバクテリウム属の微生物に由来する。
【0017】
好ましい実施態様においては、前記スフィンゴバクテリウム属に属する微生物が、スフィンゴバクテリウム マルチボラムである。
【0018】
本発明は、さらに、前記いずれかの食品改質剤と食品材料とを含有する、食品材料組成物を提供する。
【0019】
好ましい実施態様においては、前記食品材料が、小麦粉、米粉、餅粉、そば粉および餅米からなる群から選択されるデンプン性食品材料である。
【0020】
本発明は、また、上記食品改質剤を含有する食品を提供する。
【0021】
好ましい実施態様においては、前記食品が、ボイルまたはスチームしてなる食品である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の食品改質剤は、食品、特に麺類などのデンプン性食品材料を含有する食品に、優れた食感(特に麺のコシなどの粘弾性)を付与し、さらに食感を安定的に保持できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の食品改質剤は、アルギン酸またはその塩の酵素分解物を含有し、該酵素分解物の主成分が、20,000〜400,000の分子量を有する分子の集合体であり、そして該酵素分解物の2質量/容量%水溶液の40℃における粘度が10cps〜120cpsである食品改質剤を提供する。分子の集合体の分子量は50,000〜400,000の範囲にあることがより好ましい。粘度は、10cps〜80cpsであることが好ましく、10cps〜40cpsであることがさらに好ましい。なお、上記酵素分解物の主成分である分子の集合体は、通常、該酵素分解物の60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上を占める。上記アルギン酸またはその塩の酵素分解物が、上記分子量範囲の分子の集合体を主成分とすることおよび上記粘度範囲を有することを満たさなければ、本発明の効果は得られない。
【0024】
本発明に用いられるアルギン酸またはその塩の酵素分解物は、アルギン酸またはその塩にアルギン酸を低分子化し得る酵素、例えば、アルギン酸リアーゼを作用させることによって得られる。
【0025】
アルギン酸は、グルロン酸およびマンヌロン酸が1,4−結合したポリマーであり、一般的には、約100万の分子量を有する。本発明には、アルギン酸の塩も用いられる。アルギン酸の塩としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウムなどが挙げられる。これらの中で、アルギン酸ナトリウムが好適に用いられる。以下、「アルギン酸」というときは、特に断らない限り、アルギン酸塩を含む。
【0026】
本発明に用いられるアルギン酸リアーゼは、アルギン酸を低分子化できるものであれば、特に制限されない。微生物由来のアルギン酸リアーゼが入手が容易な点から好ましい。スフィンゴバクテリウム属、フラボバクテリウム属、シュードモナス属、キサントモナス属、アルカリゲネス属、またはバチルス属に属する微生物に由来するアルギン酸リアーゼが好ましく用いられる。これらの中でも、スフィンゴバクテリウム属に属する微生物、特にスフィンゴバクテリウム マルチボラム由来のアルギン酸リアーゼが好ましく用いられる。
【0027】
アルギン酸の酵素分解物は、アルギン酸をアルギン酸リアーゼで分解(低分子化)することによって得られる。アルギン酸リアーゼの添加量には、特に制限はない。アルギン酸の濃度と反応時間を考慮して決定すればよい。アルギン酸の水溶性を考慮すると、アルギン酸の、例えば1〜5質量/容量%水溶液を調製する。例えば、アルギン酸が2質量/容量%の場合、アルギン酸1質量部に対して、例えば、0.1ユニット〜2.0ユニット、好ましくは0.3〜1.0ユニットのアルギン酸リアーゼを添加する。ここで、アルギン酸リアーゼの酵素活性単位である「1ユニット」とは、pH6.3および37℃の条件下において、0.1質量/容量%アルギン酸ナトリウム溶液1mLの235nmの吸光度を1分間あたり1上昇させることができるアルギン酸リアーゼの量をいう。
【0028】
アルギン酸の溶解性(分散性)を改善する点から、反応液中に、塩化ナトリウムを添加することが好ましい。上記の目的を得るためには、アルギン酸1質量部に対して0.1質量部〜2質量部、好ましくは0.2質量部〜0.5質量部添加される。
【0029】
アルギン酸の酵素分解の条件に特に制限はない。アルギン酸の濃度と反応時間を考慮して決定すればよい。用いる酵素量、アルギン酸量により異なるが、一般的には、20〜45℃で、0.5〜4時間、行われる。
【0030】
アルギン酸の分解反応は、例えば、ゲル濾過クロマトグラフィーによって分子量分布をモニターし、そして、2質量/容量%水溶液の粘度を測定することにより追跡し得る。サンプリングした分解物中に含まれる分子の大部分が、20,000〜400,000の分子量を有し、かつ、40℃における粘度が10cps〜120cpsの範囲になったときに反応を終了させる。あるいは、予め、目的とするアルギン酸の酵素分解物の生成を予備的に検討しておき、その条件で反応を行ってもよい。
【0031】
反応の停止は、反応液のpHを低下させることによる酵素の失活、あるいは高温(例えば、80℃以上)処理による酵素の熱失活などの手段で、行い得る。
【0032】
分子量は、例えば、TSK−GEL G3000PWXL(東ソー社製)カラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィーによって以下の条件で測定される。
<測定条件>
移動相: 300mMの塩化ナトリウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH7.0)
流速: 0.5mL/min.
温度: 40℃
検出器: RI
標準: Shodex STANDARD P−82(昭和電工社製)
【0033】
粘度は、アルギン酸の酵素分解物の2質量/容量%水溶液を調製し、この水溶液の温度を40℃に調整し、B型粘度計(トキメック社製)を用いて測定される。
【0034】
酵素分解液からのアルギン酸の酵素分解物の回収は、例えば、酸性沈澱により沈澱物を回収し、この沈澱物を乾燥および粉砕する方法、あるいは上記酵素分解液をスプレードライなどにより直接粉末化する方法などによって行われる。
【0035】
酸性沈澱は、溶液のpHが酸性側(例えば、pHが2以下)となるように、酸性物質(例えば、塩酸、硫酸など)を添加し、沈澱を生じさせる。その後、吸引濾過などにより沈殿物を回収し、必要に応じて、エタノールなどのアルコールで洗浄される。回収された沈澱物は、その後、当業者が通常用いる乾燥方法で乾燥され、当業者が通常用いる粉砕方法によって粉末化される。
【0036】
得られたアルギン酸の酵素分解物は、そのまま、食品改質剤として使用できる。あるいはさらに、食品改質剤の用途を考慮し、必要に応じて、当業者が通常食品に使用する材料を配合してもよい。本発明の食品改質剤は、アルギン酸の酵素分解物を含有するため、食品に優れた食感を付与する。さらに常温下または冷蔵下に長期保存しても上記の優れた食感を維持できる。この食感および食感の維持性は、アルギン酸、アルギン酸の酸またはアルカリ加水分解物を含有する場合には得られない優れた効果である。
【0037】
本発明の食品改質剤は食品材料に配合されて、食品材料組成物が製造される。食品材料には特に制限はないが、小麦粉、米粉、餅粉、そば粉などのデンプン性の粉体が好ましく用いられる。食品材料組成物としては、例えば、湯通しあるいは調理する前の麺類、例えば、中華麺、そば麺、うどん麺、冷麦、きしめん、ビーフン麺、ちゃんぽん麺、冷麺、にゅう麺、素麺などが挙げられる。これらは、生麺、生チルド麺、生冷凍麺、茹で麺、茹でチルド麺、茹で冷凍麺、蒸し麺、蒸しチルド麺、蒸し冷凍麺、乾麺、油揚げ即席麺、非油揚げ即席麺、ロングライフ麺などの種々の形態であり得る。さらに、これらの麺を調製するための粉状物も、食品材料組成物に含まれる。
【0038】
さらに、湯通しあるいは調理する前のパスタ類、例えば、スパゲッティ、タリアテッレ、ラザニア、ペンネ、マカロニなど、並びに、これらを製麺するための粉状物も、食品材料組成物に含まれる。また、餃子の皮、シュウマイの皮、ラビオリの皮、並びのこれらの皮用の粉状物、白玉または白玉用の粉状物;餅粉あるいは餅米の粉状物;蒸し饅頭(肉まん、あんまんなど)用の皮または皮用の粉状物などが挙げられる。
【0039】
本発明の食品改質剤は、用いる食品材料に応じて、適宜配合される。配合量は特に制限がないが、一般に、食品材料組成物あるいは食品中に0.01質量%〜10質量%含まれる。例えば、うどん麺または中華麺の場合、製麺に用いる粉状物中に0.1質量%〜5質量%、好ましくは0.2質量%〜1質量%含有される。
【0040】
本発明の食品は、アルギン酸の酵素分解物を含有する食品改質剤を含んでいる。上記食品材料組成物を用いて調理した食品も、食品改質剤を含んでいるので、本発明に包含される。食品には、ボイルまたはスチームしてなる食品が含まれる。ボイルしてなる食品としては、例えば、中華麺、そば麺、うどん麺、冷麦、きしめん、ビーフン麺、ちゃんぽん麺、冷麺、にゅう麺、素麺、パスタ類(例えば、スパゲッティ、タリアテッレ、ラザニア、ペンネ、マカロニ)などの麺類;水餃子;白玉などが挙げられる。スチームしてなる食品としては、例えば、蒸し餃子、シューマイ、餅類(大福餅、柏餅、桜餅など)、蒸し饅頭(肉まん、あんまんなど)などが挙げられる。これらはいずれも例示であり、これらに制限されない。
【実施例】
【0041】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0042】
(実施例1:アルギン酸の酵素分解物の調製)
アルギン酸ナトリウム(ISP社、商品名MANUGEL GHB)の2質量/容量%水溶液を調製した。アルギン酸リアーゼS(ナガセケムテックス株式会社)を7.25U/Lとなるようにアルギン酸水溶液に添加して、40℃にて、1時間、反応させた。反応終了後、反応液に6Nの塩酸を加えて反応液のpHを2以下とし、白色の沈澱物を生成させた。この沈澱物を吸引濾過により回収した後、エタノールによる洗浄を2回行った。沈澱物を50℃にて一晩乾燥させ、ラボミル(大阪ケミカル株式会社製)を用いて粉砕して、アルギン酸の酵素分解物の粉末を得た(粉末1)。得られた粉末1の2質量/容量%水溶液を調製し、この水溶液の粘度をB型粘度計(トキメック社製)を用いて測定した。
【0043】
さらに、粉末1の分子量分布をTSK−GEL G3000PWXL(東ソー社製)カラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィーによって、以下の条件で測定したところ、粉末1中に含まれる分子のほとんどが分子量100,000〜400,000の範囲にあった。
<測定条件>
移動相: 300mMの塩化ナトリウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH7.0)
流速: 0.5mL/min.
温度: 40℃
検出器: RI
標準: Shodex STANDARD P−82(昭和電工社製)
【0044】
(実施例2および3)
反応時間を2時間および3時間としたこと以外は、調製例1と同様にして、アルギン酸の酵素分解物の粉末を得た(それぞれ粉末2および3とする)。各粉末の2質量/容量%水溶液を調製し、この水溶液の粘度を調製例1と同様にして測定した。結果を表1に併せて示す。なお、実施例1と同様にして粉末2および3の分子量分布を見ると、粉末中に含まれる分子のほとんどが分子量20,000〜400,000の範囲にあった。
【0045】
(比較例1)
アルギン酸ナトリウム(ISP社、商品名MANUGEL GHB)の2質量/容量%水溶液を調製した。この水溶液に硫酸を、その硫酸濃度が1M〜5Mとなるように添加して60℃にて24時間攪拌して、酸加水分解を行った。実施例1と同様にして、アルギン酸ナトリウムの酸加水分解物の粉末を得た(粉末4とする)。得られた粉末4の2質量/容量%水溶液を調製し、この水溶液の粘度を実施例1と同様にして測定したところ、粘度が低すぎて測定できなかった。そこで、粉末4については、10質量/容量%水溶液を調製して粘度を測定した。さらに、粉末4の分子量分布を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0046】
(比較例2)
アルギン酸ナトリウム(ISP社、商品名MANUGEL GHB)の2質量/容量%水溶液を調製し、この水溶液の粘度を実施例1と同様にして測定した。さらに、アルギン酸ナトリウムの分子量分布を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に併せて示す。
【0047】
【表1】

【0048】
分解前のアルギン酸ナトリウムは、そのほとんどが100,000〜1,000,000の分子量を有する分子の集合体であったが、分子量20,000〜400,000の分子は全体の50%以下であった。このアルギン酸ナトリウムを2質量%含有する水溶液の粘度は300cps〜350cpsの範囲にあった。これに対して、アルギン酸リアーゼ分解物である実施例1〜3の酵素分解物はいずれも、そのほとんどが20,000〜400,000の分子量を有する分子の集合体であり、2質量%含有水溶液の粘度は10cps〜120cpsの範囲にあった。比較例1の酸加水分解物については、そのほとんどが1,000〜200,000の分子量を有する分子の集合体であったが、20,000〜400,000の分子は全体の50%以下であった。この酸加水分解物の粘度は、2質量%含有水溶液では低すぎるため測定できず、10質量%含有水溶液において20cps〜50cpsであった。
【0049】
(実施例4:うどん麺の調製)
実施例1で得られたアルギン酸の酵素分解物の粉末(粉末1)4g、小麦粉(中力粉)1400g、澱粉600g、グルテン80g、および食塩82gの粉体混合物に、水800gを加え、約10分間混練した。この混練物を、RICHMEN(LM5062、株式会社大和製作所製)を用いて圧延、複合、および圧延を行い、厚さ4.2mmの麺帯を作成した。この麺帯を30分間熟成させた後、圧延、切断して麺線を得た(麺1)。
【0050】
(実施例5および6)
粉末1の代わりに、実施例2および3で得られたアルギン酸の酵素分解物の粉末(粉末2および3)をそれぞれ用いたこと以外は、実施例4と同様にして、麺線を得た(それぞれ麺2および3)。
【0051】
(比較例3)
粉末1の代わりに、比較例1で得られたアルギン酸の酸加水分解物の粉末(粉末4)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、麺線を得た(麺4)。
【0052】
(実施例7:食感および保存性の評価)
実施例4〜6および比較例3で得られた各麺(麺1〜4)を沸騰水に入れ、8分30秒間茹で、水で冷却した。得られた茹で麺の一部を用いて食感を測定し、残りの茹で麺は冷蔵庫で保管し、保存性について検討した。
【0053】
食感は、麺のコシ(粘弾性)で評価し、その基準は以下の通りである。
<食感の評価基準>
食感が非常によい(麺のコシが強い): ◎
食感がよい(麺のコシはやや劣るが、許容範囲である): ○
食感が悪い(麺のコシが弱い) : ×
【0054】
保存性は、24時間、48時間、および72時間冷蔵保存した茹で麺を取り出し、冷蔵保存後の食感について、以下の基準で評価した。なお、72時間冷蔵保管した茹で麺の食感および保存性は、上記と同じ条件で改めて作成した茹で麺(冷蔵保管0時間)と比較した。食感および保存性についての評価結果を表2に示す。
<保存性の評価基準>
外観および食感ともに変わらない: ◎
外観および食感ともやや劣るが、許容範囲である: ○
外観および食感とも明らかに劣る: ×
【0055】
【表2】

【0056】
表2の結果から、実施例のアルギン酸の酵素分解物の粉末(粉末1〜3)を用いた茹で麺は、茹で直後(冷蔵保管0時間)の麺のコシが強く、72時間保管した場合にもそのコシの強さを保持していた。これらの中でも、特に粉末3を用いた茹で麺の食感および保存安定性が優れていた。これに対して、比較例のアルギン酸の酸加水分解物の粉末(粉末4)を用いた茹で麺は、茹で直後には麺のコシが許容範囲であるものの、24時間保管した時点で麺のコシが弱くなり、食感が低下して実用性に耐え得るものではなくなった。この理由は明らかではないが、アルギン酸の酸加水分解物が、アルギン酸の分子鎖をランダムに切断して得られるのに対して、アルギン酸の酵素分解物は、アルギン酸の分子鎖を選択的に切断して得られる点にあると考えられる。なお、実施例の茹で麺を食した場合は、保存の如何に関わらず、食感の良い原因としてモチモチ感があるとの感想が得られた。一方、比較例の茹で麺を食した場合は、食感の悪い原因として粉っぽいとの感想が得られた。
【0057】
(実施例8:麺の保水性の検討)
実施例4と同様に、アルギン酸の酵素分解物(粉末1)を用いて、うどん麺1を調製した。また、粉末1の代わりにアルギン酸ナトリウム(非分解物)を用いたこと以外は実施例4と同様にして、うどん麺2を調製した。さらに、アルギン酸の酵素分解物またはアルギン酸ナトリウムを添加しないで、実施例4と同様の方法で、うどん麺3を調製した。
【0058】
うどん麺1〜3の各質量を測定した後、実施例7と同じ方法で、茹で麺を調製した。得られた各茹で麺の半分をラップして常温下で保存した。保持0時間後、24時間後、48時間後、72時間後、および96時間後に重量を測定し、保持0時間の質量を100として保水率(%)を求めた。結果を表3に示す。
【0059】
他方、各茹で麺の残り半分は、ラップして、冷蔵下で保存した。保存0時間後および24時間後に重量を測定し、保水率を求めた。結果を表3に併せて示す。
【0060】
【表3】

【0061】
表3の結果から、アルギン酸の酵素分解物の粉末(粉末1)を含有する茹で麺は、他の茹で麺と比べて、常温保存および冷蔵保存において保水性がほとんど変らないことがわかる。このことは、アルギン酸の酵素分解物を含む食品においても、従来の食品と同じ水準の保水性が得られることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の食品改質剤は、アルギン酸の酵素分解物を含有するため、食品に優れた食感を付与し、その食感が安定に維持される。本発明の食品改質剤は、例えば、デンプン性食品材料を含有するボイル用食品(例えば、麺類)またはスチーム用食品(例えば、餅など)などに利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸またはその塩の酵素分解物を含有する食品改質剤であって、
該酵素分解物の主成分が、20,000〜400,000の分子量を有する分子の集合体であり、そして
該酵素分解物の2質量/容量%水溶液の40℃における粘度が10cps〜120cpsである、食品改質剤。
【請求項2】
前記酵素分解物が、アルギン酸リアーゼによる分解物である、請求項1に記載の食品改質剤。
【請求項3】
前記アルギン酸リアーゼが、スフィンゴバクテリウム属、フラボバクテリウム属、シュードモナス属、キサントモナス属、アルカリゲネス属、またはバチルス属に属する微生物に由来する、請求項2に記載の食品改質剤。
【請求項4】
前記アルギン酸リアーゼが、スフィンゴバクテリウム属に属する微生物に由来する、請求項2に記載の食品改質剤。
【請求項5】
前記スフィンゴバクテリウム属に属する微生物が、スフィンゴバクテリウム マルチボラムである、請求項4に記載の食品改質剤。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の食品改質剤と食品材料とを含有する、食品材料組成物。
【請求項7】
前記食品材料が、小麦粉、米粉、餅粉、そば粉、および餅米からなる群から選択される、デンプン性食品材料である、請求項6に記載の食品材料組成物。
【請求項8】
請求項1から5のいずれかの項に記載の食品改質剤を含有する、食品。
【請求項9】
前記食品が、ボイルまたはスチームしてなる食品である、請求項8に記載の食品。

【公開番号】特開2006−56(P2006−56A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180141(P2004−180141)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】