説明

食品改質剤

【課題】食品の歩留りや保水性を向上させることができ、硬さや弾力等の食感を良化させることのできる食品改質剤、該食品改質剤を含有する食品、及び、該食品改質剤を利用した食品の品質改良方法を提供すること。
【解決手段】油脂加工澱粉及び卵白分解物を含有することを特徴とする食品改質剤、該食品改質剤を含有する食品、及び、該食品改質剤を利用した食品の品質改良方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の歩留りや保水性の向上、及び、硬さや弾力等の食感の良化を目的とした食品改質剤、並びにその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ハム、ベーコン、ソーセージ、豚カツ、唐揚げ、ローストビーフ等の畜肉含有食品や、冷凍すり身、蒲鉾、ちくわ等の魚肉含有食品の製造においては、保水性や弾力性等の改善により食品の品質を向上させる目的で、重合リン酸塩が使用されている。しかし、重合リン酸塩は、多量の摂取によるカルシウムの吸収阻害が問題とされており、摂取を避けることが望まれている。また、最近の健康志向や、添加物のラベル表示を極力少なくしたいという市場の要求からも、重合リン酸塩を使用する必要の無い、食品の保水性や弾力性等の改善方法が望まれている。また、大手食肉加工メーカーにおける食品改質剤に対する調査でも、分散性が高く、重合リン酸塩不使用の場合でも保水性を向上させることが可能な製剤が欲しいとの要望が寄せられている。
すなわち、重合リン酸塩の代替物としては、分散性が高く、かつ食品の風味に悪影響を与えることなしに、保水性や歩留りを向上させることができ、硬さや弾力等の食感を良化させることのできる食品改質剤が望まれている。
【0003】
このような食品改質剤に関する従来の技術としては、例えば、油脂及びグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有する油脂加工澱粉を含むことを特徴とする食肉加工食品用品質改良剤(特許文献1参照);易再分散性澱粉を含有することを特徴とする肉質改良材(特許文献2参照);蛋白質の酵素加水分解物を含有する食肉改質剤(特許文献3参照);卵白蛋白質の酵素加水分解物を含有することを特徴とする食肉用浸漬剤(特許文献4参照);などが、これまでに提案されている。
しかしながら、これらの技術では、食品の歩留まりや保水性の向上、食感の良化等に対して、十分に満足のいく効果が得られない場合があるなどの欠点があった。
したがって、食品の歩留りや保水性を向上させることができ、硬さや弾力等の食感を良化させることのできる、優れた食品改質剤は未だ提供されておらず、開発が望まれているのが現状である。
【0004】
【特許文献1】特開2005−318871号公報
【特許文献2】特開2004−41011号公報
【特許文献3】国際公開第98/41101号公報
【特許文献4】特開2004−329165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、食品の歩留りや保水性を向上させることができ、硬さや弾力等の食感を良化させることのできる食品改質剤、該食品改質剤を含有する食品、及び、該食品改質剤を利用した食品の品質改良方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、油脂加工澱粉と卵白分解物とを併用することによって、それぞれを単独で使用した場合よりも、格段に優れた食品の品質改良効果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 油脂加工澱粉及び卵白分解物を含有することを特徴とする食品改質剤である。
<2> 卵白分解物が、卵白酵素加水分解物である前記<1>に記載の食品改質剤である。
<3> 油脂加工澱粉の含有量が15〜70質量%であり、卵白分解物の含有量が5〜50質量%である前記<1>から<2>のいずれかに記載の食品改質剤である。
<4> 油脂加工澱粉と卵白分解物との含有量比が、質量比で、油脂加工澱粉:卵白分解物=1:3.3〜15:1である前記<1>から<3>のいずれかに記載の食品改質剤である。
<5> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の食品改質剤を含有することを特徴とする食品である。
<6> 畜肉含有食品である前記<5>に記載の食品である。
<7> 魚肉含有食品である前記<5>に記載の食品である。
<8> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の食品改質剤を食品に添加することを特徴とする食品の品質改良方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記従来における諸問題を解決することができ、食品の歩留りや保水性を向上させることができ、硬さや弾力等の食感を良化させることのできる食品改質剤、該食品改質剤を含有する食品、及び、該食品改質剤を利用した食品の品質改良方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(食品改質剤)
本発明の食品改質剤は、油脂加工澱粉及び卵白分解物を含有してなり、必要に応じて、更にその他の成分を含有してなる。
【0010】
<油脂加工澱粉>
前記油脂加工澱粉としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、澱粉の表面に油脂を吸着させたものなどが好ましい。
【0011】
前記油脂加工澱粉は、例えば、澱粉に油脂を吸着させることにより得ることができる。前記油脂加工澱粉の製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記澱粉に前記油脂を添加し、均一に混合した後、乾燥する方法などが挙げられる。
【0012】
前記澱粉としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、米澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉、エンドウ豆澱粉などが挙げられる。また、前記澱粉に、エステル化処理、エーテル化処理、架橋処理、酸化処理、酸処理、湿熱処理等の処理を施した加工澱粉であってもよい。
前記澱粉は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
また、前記油脂としては、食用可能な油脂であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ヒマワリ油、米糠油、コーン油、椰子油、パーム油、パーム核油、落花生油、オリーブ油、ハイオレイック菜種油、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックコーン油、ハイオレイックヒマワリ油等の植物油脂;牛脂、ラード、魚油、乳脂等の動物油脂;などが挙げられる。また、前記油脂に、分別、水素添加、エステル交換等の処理を施したものであってもよい。
前記油脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
また、前記油脂加工澱粉としては、市販品を使用することもできる。前記油脂加工澱粉の市販品としては、例えば、日食ねりこみでん粉YF(日本食品化工株式会社)、日食ねりこみでん粉K−1(日本食品化工株式会社)などが挙げられる。
前記油脂加工澱粉は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
前記油脂加工澱粉の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記食品改質剤中、15〜70質量%が好ましく、25〜60質量%がより好ましく、40〜50質量%が特に好ましい。前記油脂加工澱粉の含有量が、前記好ましい範囲内であると、歩留りや保水性の向上効果に優れ、かつ、硬さや弾力等の食感の良化効果に優れる点で、有利である。
【0016】
<卵白分解物>
前記卵白分解物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、卵白の酵素加水分解物、卵白の酸加水分解物などが挙げられる。これらの中でも、分解物の安定性の点で、卵白の酵素加水分解物が、特に好ましい。
【0017】
前記卵白の酵素加水分解物は、例えば、卵白に酵素を作用させることにより得ることができる。
前記卵白としては、全卵より卵黄を除去したものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、生卵白液、冷凍卵白液、粉末卵白などが挙げられる。
前記酵素としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、植物、動物、細菌等由来のプロテアーゼなどが挙げられる。
前記卵白に前記酵素を作用させる際の条件としても、使用する酵素の活性が失われず、目的の卵白酵素加水分解物が得られる範囲内であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0018】
また、前記卵白分解物としては、市販品を使用することもできる。前記卵白分解物の市販品としては、例えば、プロフィックスA(太陽化学株式会社)などが挙げられる。
前記卵白分解物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
前記卵白分解物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記食品改質剤中、5〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましく、15〜25質量%が特に好ましい。前記卵白分解物の含有量が、前記好ましい範囲内であると、歩留りや保水性の向上効果に優れ、かつ、硬さや弾力等の食感の良化効果に優れる点で、有利である。
【0020】
<油脂加工澱粉:卵白分解物>
前記食品改質剤中の、前記油脂加工澱粉と前記卵白分解物との含有量比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、質量比で、前記油脂加工澱粉:卵白分解物=1:3.3〜15:1が好ましく、1:2〜6:1がより好ましく、1:1.5〜3.5:1が特に好ましい。前記油脂加工澱粉と前記卵白分解物との含有量比が、前記好ましい範囲内であると、歩留りや保水性の向上効果に優れ、かつ、硬さや弾力等の食感の良化効果に優れる点で、有利である。
【0021】
<油脂加工澱粉+卵白分解物>
また、前記食品改質剤中の、前記油脂加工澱粉と前記卵白分解物との合計の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記食品改質剤中、20〜100質量%が好ましく、40〜100質量%がより好ましく、60〜70質量%が特に好ましい。前記油脂加工澱粉と前記卵白分解物との合計の含有量が、前記好ましい範囲内であると、歩留りや保水性の向上効果に優れ、かつ、硬さや弾力等の食感の良化効果に優れる点で、有利である。
【0022】
<その他の成分>
前記食品改質剤は、前記油脂加工澱粉及び前記卵白分解物以外にも、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて、その他の成分を含有してなる。
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、糖類、各種食品添加物、食塩等の調味料などが挙げられる。
【0023】
―糖類―
前記糖類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ショ糖、トレハロース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、マルトオリゴ糖、ソルビトールとマルチトールの共晶体などが挙げられる。
前記糖類は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
前記その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。
【0025】
<製造方法>
前記食品改質剤の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、通常使用されるミキサー、乳鉢、すり鉢等を用いて、前記油脂加工澱粉、前記卵白分解物、及び、必要に応じて適宜選択した前記その他の成分などを、前記したような所望の割合で混合することにより、製造することができる。
【0026】
<形状>
前記食品改質剤の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記した各成分の粉末混合物のままであってもよいし、また、食品に対して使用可能な成分や賦形剤等と混合して製剤化し、粉末状、顆粒状、錠剤状等の任意の剤形にしてもよい。また、前記食品改質剤は、液体状、ペースト状等であってもよい。
【0027】
<適用対象>
以上のようにして得られる前記食品改質剤は、歩留りを向上させる歩留り向上剤、保水性を高める水分保持剤、及び、硬さや弾力等の食感を良化させる食感改良剤、から選択される少なくともいずれかの性質を有するものである。前記食品改質剤は、歩留りや保水性を向上させることができ、硬さや弾力等の食感を良化させることができ、また、食品の風味への悪影響を及ぼさないことから、食品全般への使用に好適である。中でも、前記食品改質剤は、歩留りや保水性を向上させることで、適用した食品に所望の程度のジューシー感を付与することができ、また、硬さや弾力等を良化させることで、適用した食品に所望の程度の柔らかさ(硬さ)や歯応えを付与することができることから、特に食肉含有食品、魚肉含有食品への使用に好適である。
【0028】
(食品)
本発明の食品は、前記本発明の食品改質剤を含有してなり、必要に応じて、更にその他の成分を含有してなる。
<食品の種類>
前記食品としては、前記食品改質剤が含有されている経口摂取可能な組成物であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記食品改質剤は、食品に所望の程度のジューシー感、及び、所望の程度の柔らかさ(硬さ)や歯応えを付与することができることから、中でも、畜肉含有食品、魚肉含有食品に好適である。
【0029】
―畜肉含有食品―
前記畜肉含有食品としては、例えば、牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉、馬肉等の畜肉を含有する食品であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記畜肉を利用して調理した、焼き物類、揚げ物類、煮物類、蒸し物類、練り物類などが挙げられる。前記畜肉含有食品の具体例としては、例えば、鶏唐揚げ、鶏肉の焼き物、照り焼きチキン、チキンナゲット、焼き豚、豚カツ、ソーセージ、ハム、ベーコン、ステーキ、ローストビーフ、焼肉、ハンバーグ、ミートボール、餃子、シュウマイ、ロールキャベツの具などが挙げられる。
【0030】
―魚肉含有食品―
前記魚肉含有食品としては、例えば、スケソウタラ、カジキ、シャケ、アジ、タイ、エビ、イカ、タコ等の魚肉を含有する食品であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記魚肉を利用して調理した、焼き物類、揚げ物類、煮物類、蒸し物類、練り物類などが挙げられる。前記魚肉含有食品の具体例としては、例えば、蒲鉾、薩摩揚げ、はんぺん、つみれ、魚肉ソーセージ、ちくわ、エビフライ、焼き魚、冷凍すり身などが挙げられる。
【0031】
<製造方法>
前記食品の製造方法としては、特に制限はなく、例えば、各種食品における公知の製造方法を用いて、適宜製造することができる。
前記食品改質剤の、前記食品への添加方法としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記食品の調理中に、混和、練りこみ、浸漬、注入、吹きつけ、ふりかけ、まぶす等して添加することができる。これらの中でも、より具体的には、前記食品改質剤をピックル液に含有させ、インジェクター等を利用して前記食品に注入するインジェクション法、前記食品改質剤をピックル液と共にロータリータンブラーに仕込み、前記食品に浸漬させていくタンブリング法などが好ましい。
【0032】
前記食品中の前記食品改質剤の含有量は、食品の種類や、所望の品質改良効果の程度などに応じて、適宜選択することができ、一概には決定されないが、例えば、前記食品の総質量に対して、0.2質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上が特に好ましい。前記食品改質剤の含有量が、前記食品の総質量に対して0.2質量%以上であると、歩留まりや保水性の向上効果、硬さや弾力等の食感の良化効果に優れる点で、有利である。また、前記食品中の前記食品改質剤の含有量の上限については、適宜選択することができ、一概には決定されないが、標準的には10.0質量%以下であり、また、5.0質量%以下であっても十分な前記効果を得ることができる。
【0033】
<その他の成分>
前記食品は、前記食品改質剤以外にも、食品の種類等に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内で、通常使用され得る各種食品素材や食品添加物などの、その他の成分を含有することができる。
前記その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。
【0034】
(食品の品質改良方法)
前記本発明の食品改質剤は、任意の方法で各種食品に添加することにより、食品の風味に悪影響を与えることなしに、歩留りや保水性を向上させることができ、硬さや弾力等を良化させることができる。よって、本発明は、前記本発明の食品改質剤を利用した、優れた食品の品質改良方法にも関する。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
(実施例1、比較例1〜2)
−食品改質剤の調製−
下記表1に記載の組成で、合計200gとなるように各成分を秤量し、スーパーミキサー(ピッコロSMP−2、株式会社カワタ製)を用いて10分間混合することにより、実施例1の食品改質剤を調製した。また、比較例1の食品改質剤としては、油脂加工澱粉(日食ねりこみでん粉YF(日本食品化工株式会社))を単独で使用し、比較例2の食品改質剤としては、卵白酵素加水分解物(プロフィックスA(太陽化学株式会社))を単独で使用した。
【0037】
【表1】

【0038】
−食品改質剤含有食品(鶏ムネ肉の焼き物)の製造−
下記に示す処方に従って、得られた実施例1及び比較例1〜2の食品改質剤を含有する鶏ムネ肉の焼き物を、それぞれ製造した。
鶏ムネ肉の皮を取り除き、1個あたり50gの大きさに削ぎ切りしたものを、3個(計150g)準備した。また、醤油25g及び水450gを混合し、ピックル液を調製した。得られたピックル液のうち45gを分取し、食品改質剤2.25g(鶏ムネ肉100質量%に対して1.5質量%)を添加し、食品改質剤含有ピックル液を調製した。前記鶏ムネ肉(計150g)と前記食品改質剤含有ピックル液(計47.25g)とを、バキュームタンブラー(MGH−20型、スイス・ズーナー社製)に入れ、25rpmで20分間、タンブリング処理を行った。タンブリング処理後、取り出した前記鶏ムネ肉をザルに移し、10分間静置して水切りを行った後、230℃のオーブンで15分間、加熱調理した。調理後の各鶏ムネ肉の焼き物(添加サンプル)を、室温にて冷却後、下記の各評価に供した。
また、前記食品改質剤を添加しない以外は前記と同様にして、対照となる鶏ムネ肉の焼き物(無添加サンプル)を製造した。
<鶏ムネ肉の焼き物の処方>
鶏ムネ肉 150.00g
ピックル液(醤油:水=1:18) 45.00g
食品改質剤 2.25g
合計 197.25g
【0039】
[評価]
前記鶏ムネ肉の焼き物について、以下の方法により、1)歩留り、及び、2)物性(破断荷重、破断歪率)を測定した。結果を表2及び表3に示す。
なお、1)及び2)では、1回の試験あたり、前記鶏ムネ肉の焼き物3個(1個あたりの調理前質量50g)について、それぞれ1個あたりの各値を求め、3個の平均値を算出した。更に、前記試験を4回繰り返して行い、それらの平均値も算出した。表2及び表3中、「1」〜「4」には、1〜4回目の各試験結果(鶏ムネ肉の焼き物3個の平均値)を示し、「平均」には、1〜4回目の試験結果の平均値を示す。
【0040】
1)歩留り
前記鶏ムネ肉の焼き物について、調理前、加熱調理前(タンブリング及び水切り後)、及び、加熱調理後の質量を測定した。
調理前の質量100質量%に対する、加熱調理前(タンブリング及び水切り後)、及び、加熱調理後の質量比(質量%)を求め、それぞれ「タンブリング後歩留り」、及び、「加熱後歩留り」とした。また、各試験条件間の誤差を無くすため、加熱調理前(タンブリング及び水切り後)、及び、加熱調理後の各段階で、無添加サンプルの質量100質量%に対する添加サンプルの質量比(質量%)を求め、それぞれ「タンブリング後歩留り(無添加比)」、及び、「加熱後歩留まり(無添加比)」として評価した。
【0041】
なお、前記歩留りの値が高い程、保水性が高いことを意味し、即ち、肉のジューシーさを感じることの指標となる。そのため、前記鶏ムネ肉の焼き物については、一般的に、前記歩留まりの値は高くなることが望ましい。
【0042】
2)物性(破断荷重、破断歪率)
前記鶏ムネ肉の焼き物の破断荷重及び破断歪率を、レオメーター(CREEP METER RE2−33005S、株式会社山電製)を用いて測定した。測定には、直径7mmのポリアセタール樹脂製球形プランジャー(株式会社山電製)を使用し、該プランジャーの移動速度を1mm/秒として測定した。なお、前記プランジャーは、鶏ムネ肉の筋繊維方向に対し、およそ垂直になるようにして使用した。
破断荷重及び破断歪率の測定を行い、それぞれ「破断荷重」、及び、「破断歪率」とした。また、各試験条件間の誤差を無くすため、各破断荷重及び破断歪率について、無添加サンプルの値を100とした場合の添加サンプルの値の比を求め、それぞれ「破断荷重(無添加比)」、及び、「破断歪率(無添加比)」として評価した。
【0043】
前記破断荷重(単位:N)は、前記測定サンプルが破断するのに要した応力であり、該破断荷重の値が高い程、測定したサンプルが硬いことを表す。なお、前記鶏ムネ肉の焼き物については、一般的に柔らかさが望まれるため、前記破断荷重の値は低くなることが望ましい。
また、前記破断歪率(単位:%)は、前記測定サンプルの厚みに対する、前記測定サンプルが破断するまでに前記プランジャーが移動した距離の割合であり、該破断歪率の値が高い程、測定したサンプルの弾力性が高い(深くまで噛まないと噛み切れない)ことを表す。なお、前記鶏ムネ肉の焼き物については、一般的に柔らかさが望まれるため、奥深くまで噛まずとも噛み切れた方が、肉の柔らかさを感じ易いという点で、前記破断歪率の値は低くなることが望ましい。
【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
表2の結果から、「タンブリング後歩留まり(無添加比)」については、比較例1〜2と実施例1との間に差が無かったのに対し、「加熱後歩留まり(無添加比)」は、比較例1〜2と比較して実施例1の方が、格段に値が高くなっていた。このことから、実施例1の食品改質剤を添加した鶏ムネ肉の焼き物は、比較例1〜2の食品改質剤を添加した鶏ムネ肉の焼き物と比較して、加熱後の身の縮みなどがなく、より保水性が高くジューシーな、優れた品質を有していることが判った。
また、表3の結果から、「破断荷重(無添加比)」及び「破断歪率(無添加比)」は、比較例1〜2と比較して実施例1の方が、格段に値が低くなっていた。このことから、実施例1の食品改質剤を添加した鶏ムネ肉の焼き物は、比較例1〜2の食品改質剤を添加した鶏ムネ肉の焼き物と比較して、より柔らかく、奥深くまで噛まなくとも噛み切れるという、食感に優れた品質を有していることが判った。
【0047】
以上、表2及び表3の結果から、油脂加工澱粉及び卵白分解物を共に含む本発明の食品改質剤は、油脂加工澱粉と卵白分解物との相乗効果により、油脂加工澱粉単独、及び、卵白分解物単独の食品改質剤と比較して、鶏ムネ肉の焼き物の歩留まり、保水性、及び、柔らかさ等の食感を、格段に向上させることができることが判った。
【0048】
(実施例2〜7、比較例3〜4)
−食品改質剤の調製−
組成を、それぞれ下記表4及び表5に示す組成とした以外は、前記実施例1及び比較例1〜2と同様にして、実施例2〜7及び比較例3〜4の食品改質剤を調製した。(なお、比較例3〜4の組成は前記比較例1〜2の組成と同じである。)
【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【0051】
−食品改質剤含有食品(鶏ムネ肉の焼き物)の製造−
前記実施例1及び比較例1〜2と同様にして、鶏ムネ肉の皮を取り除き、1個あたり50gの大きさに削ぎ切りしたものを3個(計150g)用いて、実施例2〜7及び比較例3〜4の食品改質剤を含有する鶏ムネ肉の焼き物を、それぞれ製造した。
また、前記食品改質剤を添加しない以外は前記と同様にして、対照となる鶏ムネ肉の焼き物(無添加サンプル)を製造した。
【0052】
[評価]
得られた実施例2〜7及び比較例3〜4の食品改質剤を含有する鶏ムネ肉の焼き物について、前記実施例1及び比較例1〜2と同様にして、1)歩留りを測定し、評価した。なお、ここでは、鶏ムネ肉の焼き物3個(1個あたりの調理前質量50g、計150g)の総量について、各値を測定した。
結果を表6に示す。
【0053】
【表6】

【0054】
表6の結果から、「タンブリング後歩留まり(無添加比)」については、比較例3〜4と実施例2〜7との間に差が無かったのに対し、「加熱後歩留まり(無添加比)」は、比較例3〜4と比較して実施例2〜7の方が、格段に値が高くなっていた。このことから、実施例2〜7の食品改質剤を添加した鶏ムネ肉の焼き物は、比較例3〜4の食品改質剤を添加した鶏ムネ肉の焼き物と比較して、加熱後の身の縮みなどがなく、より保水性が高くジューシーな、優れた品質を有していることが判った。
即ち、表6の結果からも、油脂加工澱粉及び卵白分解物を共に含む本発明の食品改質剤は、油脂加工澱粉と卵白分解物との相乗効果により、油脂加工澱粉単独、及び、卵白分解物単独の食品改質剤と比較して、鶏ムネ肉の焼き物の歩留まりや保水性を、格段に向上させることができることが判った。
【0055】
(実施例8〜18)
−食品改質剤の調製−
組成を、それぞれ下記表7に示す組成とした以外は、前記実施例1と同様にして、実施例8〜18の食品改質剤を調製した。(なお、実施例14は前記実施例1と同じ組成、実施例18は前記実施例5と同じ組成である。)
【0056】
【表7】

【0057】
−食品改質剤含有食品(鶏ムネ肉のから揚げ)の製造−
下記に示す処方に従って、得られた実施例8〜18の食品改質剤を含有する鶏ムネ肉のから揚げをそれぞれ製造した。
鶏ムネ肉の皮を取り除き、1個あたり25gの大きさに12個(計300g)準備した。また、冷水のみをピックル液とした。ピックル液(冷水のみ)60gを分取し、食品改質剤4.5g(鶏ムネ肉100質量%に対して1.5%質量)を添加し、食品改質剤含有ピックル液を調製した。前記鶏ムネ肉(計300g)と前記食品改質剤含有ピックル液(計64.5g)を、バキュームタンブラー(MGH−20型、スイス・ズーナー社製)に入れ、25rpmで30分間、タンブリング処理を行った。タンブリング処理後、取り出した前記鶏ムネ肉をザルに移し(水切りは行わない)、バッター液100g(晩餐館から揚げの素、株式会社日本食研)とタンブリング処理を行った前記鶏ムネ肉を混ぜ合わせ、電気フライヤー(REF−8SE、レマコム株式会社)を用いて、170℃に熱した油で4分間油調を行った。
調理後の各鶏ムネ肉のから揚げ(添加サンプル)を、室温にて冷却後、下記の歩留まり評価に供した。
また、前記食品改質剤を添加しない以外は前記と同様にして、対照となる鶏ムネ肉のから揚げ(無添加サンプル)を製造し、比較例5とした。
<鶏ムネ肉のから揚げの処方>
鶏ムネ肉 300.0g
ピックル液(冷水のみ) 60.0g
食品改質剤 4.5g
バッター液(バッター粉:水=1:1) 100.0g
合計 464.5g
【0058】
[評価]
前記鶏ムネ肉のから揚げについて、以下の方法により歩留まりを測定し、評価した。
前記鶏ムネ肉のから揚げについて、調理前、タンブリング後、加熱調理前(バッタリング後)、加熱調理後の質量を測定した。なお、ここでは、鶏ムネ肉のから揚げ12個(1個あたりの調理前質量25g、計300g)の総量について、各値を測定した。調理前の100質量%に対する、タンブリング後、加熱調理前(バッタリング後)、及び加熱調理後の質量比(質量%)を求め、それぞれ「タンブリング後歩留り」、「バッタリング後歩留り」、及び「加熱後歩留り」とした。また、各試験条件間の誤差を無くすため、タンブリング後、加熱調理前(バッタリング後)、及び加熱調理後の各段階で、無添加サンプルの質量100質量%に対する添加サンプルの質量比(質量%)を求め、それぞれ「タンブリング後歩留り(無添加比)」、「バッタリング後歩留り(無添加比)」、及び「加熱後歩留り(無添加比)」として評価した。結果を表8に示す。
【0059】
なお、前記歩留り(加熱後歩留り)の値が高いほど、保水性が高いことを意味し、即ち、肉のジューシーさを感じることの指標となる。その為、前記鶏ムネ肉のから揚げについては、一般的に、前記歩留り(加熱後歩留り)の値は高くなることが望ましい。
【0060】
【表8】

【0061】
表8の結果から、「加熱後歩留まり(無添加比)」は、実施例8〜18においていずれも100より高い値を示した。特に、実施例9〜18の食品改質剤を添加した鶏ムネ肉のから揚げは、食品改質剤無添加の鶏ムネ肉のから揚げ(比較例5)と比較して、いずれも加熱後の身の縮みなどがなく、保水性が高くジューシーな、優れた品質を有していることが判った。
【0062】
(実施例19〜27)
−食品改質剤の調製−
下記表9に示す通り、前記実施例1と同様の組成の食品改質剤を調製した。この食品改質剤を表10に示した各添加量で添加し、鶏ムネ肉の焼き物を製造した実施例をそれぞれ実施例19〜27とした。
【0063】
【表9】

【0064】
【表10】

【0065】
−食品改質剤含有食品(鶏ムネ肉の焼き物)の製造−
前記実施例1と同様の組成の食品改質剤を表10に記載の各添加量で添加した以外は、前記実施例1と同様にして、鶏ムネ肉の皮を取り除き、1個あたり50gの大きさに削ぎ切りしたものを3個(計150g)用いて、実施例19〜27の鶏ムネ肉の焼き物をそれぞれ製造した。
また、前記食品改質剤を添加しない以外は前記と同様にして、対照となる鶏ムネ肉の焼き物(無添加サンプル)を製造した。
【0066】
[評価]
表10に記載の各添加量で、前記実施例1と同様の組成の食品改質剤を添加し、製造した実施例19〜27の鶏ムネ肉の焼き物について、前記実施例1と同様にして、1)歩留まりを測定し、評価した。なお、ここでは、鶏ムネ肉の焼き物3個(1個あたりの調理前質量50g、計150g)の総量について、各値を測定した。結果を表11に示す。
【0067】
【表11】

【0068】
表11の結果から、「加熱後歩留まり(無添加比)」は、実施例19〜27において、いずれも100より高い値を示し、このことから、実施例19〜27の鶏ムネ肉の焼き物は、食品改質剤無添加の鶏ムネ肉の焼き物と比較して、いずれも加熱後の身の縮みなどがなく、保水性が高くジューシーな、優れた品質を有していることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の食品改質剤は、歩留りや保水性を向上させることができ、硬さや弾力等の食感を良化させることができ、また、食品の風味への悪影響を及ぼさないことから、食品全般への使用に好適である。中でも、前記食品改質剤は、歩留りや保水性を向上させることにより、適用した食品に所望の程度のジューシー感を付与することができ、また、硬さや弾力等を良化させることにより、適用した食品に所望の程度の柔らかさ(硬さ)や歯応えを付与することができることから、特に食肉含有食品、魚肉含有食品への使用に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂加工澱粉及び卵白分解物を含有することを特徴とする食品改質剤。
【請求項2】
卵白分解物が、卵白酵素加水分解物である請求項1に記載の食品改質剤。
【請求項3】
油脂加工澱粉の含有量が15〜70質量%であり、卵白分解物の含有量が5〜50質量%である請求項1から2のいずれかに記載の食品改質剤。
【請求項4】
油脂加工澱粉と卵白分解物との含有量比が、質量比で、油脂加工澱粉:卵白分解物=1:3.3〜15:1である請求項1から3のいずれかに記載の食品改質剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の食品改質剤を含有することを特徴とする食品。
【請求項6】
畜肉含有食品である請求項5に記載の食品。
【請求項7】
魚肉含有食品である請求項5に記載の食品。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかに記載の食品改質剤を食品に添加することを特徴とする食品の品質改良方法。

【公開番号】特開2007−300918(P2007−300918A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102927(P2007−102927)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(505080585)エーザイフード・ケミカル株式会社 (10)
【Fターム(参考)】