説明

食品用容器

【課題】透明性に優れ、冷凍及び電子レンジによる加熱調理に適した容器特性を有する、食品用容器を提供すること。
【解決手段】樹脂成分1を含む樹脂組成物、又は、樹脂成分1及び樹脂成分2を含む樹脂組成物を、射出成形する。
樹脂成分1:ポリプロピレン成分60〜90質量%、並びに、プロピレンとエチレン及び/又は炭素数4〜12のα−オレフィンとの共重合エラストマー成分40〜10質量%を含み、キシレン可溶分の極限粘度が1.5〜2.5の範囲にあり、キシレン不溶分の極限粘度が1.0〜1.5の範囲にあり、キシレン不溶分の分子量分布(Mw/Mn)が3.5〜5.5の範囲にある、プロピレンブロック共重合体。
樹脂成分2:MFRが5〜60の範囲にあり、荷重たわみ温度が115℃以上であり、Hazeが20以下である、ホモプロピレン重合体及び/又はエチレンプロピレンランダム共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品用容器に関し、特に、ポリプロピレン樹脂組成物を射出成形して得られる食品用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、一人暮らし、共働き家庭の増加、高齢化の進展によって、食品の調理になるべく手間をかけない傾向が増加してきており、調理物を冷凍保存した食品用容器を、そのまま電子レンジにて解凍加熱するニーズが増加している。そのため、この種の用途に用いられる食品用容器は、冷凍庫による低温保管や電子レンジによる加熱調理において要求される各種性能を満たすことが求められる。
【0003】
従来、食品用容器としては、軽量且つ透明性に優れるばかりか、比較的安価で経済性にも優れるため、一般に、ポリプロピレン製の容器が幅広く採用されている。しかしながら、一般に、プロピレン単独重合体を用いた成形品は、高い剛性を有する反面、耐衝撃性、特に低温での耐衝撃性に劣るという欠点がある。そのため、例えば、冷凍庫から取り出す際に誤って落下させた場合や冷凍した食品を取り出す際に過度の力が加えられた場合に、容器が破損することがあり、その他にも、凍りついた食品用容器の蓋を外す際に過度の力が加えられた場合に、容器の取っ手等が破損することがあった。現在の主流である−20℃対応の冷凍庫や、−40℃対応の急速冷凍庫の出現により、これらの問題の発生が高まる傾向にある。
【0004】
耐衝撃性を高める目的で、プロピレンホモポリマーとエチレン−プロピレン共重合体エラストマーとを用いて製造したプロピレンブロック共重合体が提案されている。しかしながら、このプロピレンブロック共重合体は、低温での耐衝撃性や剛性に優れるものの、透明性が悪いという欠点を有し、透明性が要求される用途には不向きなものであった。
【0005】
そのため、かかる欠点を解消すべく、種々の検討がなされている。例えば、特許文献1乃至5には、結晶性ポリプロピレンとプロピレン共重合体エラストマーからなり、共重合成分の粘度、粘度比或いは共重合割合を制御した、プロピレンブロック共重合体が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平6−093061号公報
【特許文献2】特開平6−313048号公報
【特許文献3】特開平7−286020号公報
【特許文献4】特開平8−027238号公報
【特許文献5】特開2004−27217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1乃至5に記載のプロピレンブロック共重合体を用いた容器は、透明性や耐衝撃性、剛性が未だ不十分であり、また、冷凍時の変形や電子レンジ加熱調理時の耐熱性、内容物の臭い移りや色移り、繰り返し使用時の耐久性、低温保管時の勘合性等、食品用容器として要求される基本性能において、改善すべき余地があった。
【0008】
本発明は、かかる事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、透明性に優れ、冷凍庫等による冷凍及び電子レンジによる加熱調理に適した容器特性を有する、食品用容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意研究した結果、特定のプロピレンブロック共重合体を用いることにより、透明性に優れ、冷凍及び電子レンジ加熱調理に適した容器特性を有する食品用容器が得られること、並びに、かかるプロピレンブロック共重合体と特定のホモプロピレン重合体及び/又は特定のエチレンプロピレンランダム共重合体とを併用することにより、各種の容器性能がバランス良く高められた食品用容器が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下<1>〜<4>を提供する。
【0010】
<1>下記で定義される樹脂成分1を含む樹脂組成物を、射出成形により成形した食品用容器。
樹脂成分1:ポリプロピレン成分60〜90質量%、並びに、プロピレンとエチレン及び/又は炭素数4〜12のα−オレフィンとの共重合エラストマー成分40〜10質量%を含み、キシレン可溶分の極限粘度が1.5〜2.5の範囲にあり、キシレン不溶分の極限粘度が1.0〜1.5の範囲にあり、キシレン不溶分の分子量分布(Mw/Mn)が3.5〜5.5の範囲にある、プロピレンブロック共重合体。
【0011】
<2>下記で定義される樹脂成分1を40〜95質量%及び下記で定義される樹脂成分2を5〜60質量%含む樹脂組成物を、射出成形により成形した食品用容器。
樹脂成分1:ポリプロピレン成分60〜90質量%、並びに、プロピレンとエチレン及び/又は炭素数4〜12のα−オレフィンとの共重合エラストマー成分40〜10質量%を含み、キシレン可溶分の極限粘度が1.5〜2.5の範囲にあり、キシレン不溶分の極限粘度が1.0〜1.5の範囲にあり、キシレン不溶分の分子量分布(Mw/Mn)が3.5〜5.5の範囲にある、プロピレンブロック共重合体。
樹脂成分2:MFRが5〜60の範囲にあり、荷重たわみ温度が115℃以上であり、Hazeが20以下である、ホモプロピレン重合体及び/又はエチレンプロピレンランダム共重合体。
【0012】
<3>前記樹脂成分1が、ポリプロピレン成分80〜90質量%、並びに、プロピレンとエチレン及び/又は炭素数4〜12のα−オレフィンとの共重合エラストマー成分20〜10質量%を含む、<1>又は<2>に記載の食品用容器。
【0013】
<4>前記樹脂成分1のキシレン不溶分の分子量分布(Mw/Mn)が、4.0〜5.0の範囲にある、<1>〜<3>のいずれか1項に記載の食品用容器。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、透明性に優れ、冷凍庫等による冷凍及び電子レンジによる加熱調理に適した容器特性を有し、低温での耐衝撃性、冷凍時における寸法安定性、耐熱性、耐久性、勘合性、耐臭い移り、耐色移り等の各種性能がバランス良く高められた食品用容器が実現される。したがって、外部から内容物を容易に視認することができ、また、冷凍保存を長期に亘り安全に且つ安定して行うことができ、しかも、電子レンジによる加熱調理において内容物を簡単且つ美味に温めることができ、その上さらに、長期に亘り繰り返し使用することができるので、取扱性及び経済性が高められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明は、この実施の形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない限り、種々の形態で実施することができる。
【0016】
本実施形態の食品用容器は、少なくとも樹脂成分1を含む樹脂組成物を射出成形して得られるものであり、樹脂成分1として、ポリプロピレン成分と共重合体エラストマー成分とを所定の割合で含み、後述する種々の物性を満たすプロピレンブロック共重合体を用いる点に特徴がある。
【0017】
樹脂成分1におけるポリプロピレン成分は、プロピレン単独重合体、プロピレンとエチレン及び/又は炭素数4〜12のα−オレフィンとの共重合体、及びこれらの混合物の中から選ばれるものである。ここで、炭素数4〜12のα−オレフィンとしては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテン等、任意のものが使用可能である。上述した各種の(共)重合体は、それぞれ単独で用いても、2種以上を併用してもよい。ここで、本実施形態における樹脂成分1のポリプロピレン成分は、プロピレンに由来する単位を95〜100質量%含むものを意味し、他の(共)重合成分の含有量が5.0質量%以下のものを意味する。エチレン及び/又は炭素数4〜12のα−オレフィンの含有量が5質量%より多いものは、得られる成形品の剛性及び耐熱性が顕著に低下する傾向にあるので、本実施形態では不適である。樹脂成分1のポリプロピレン成分がプロピレン以外に他の(共)重合成分を含む場合、共重合成分の含有量は0.1〜3.5質量%であることが好ましい。
【0018】
なお、樹脂成分1のポリプロピレン成分は、剛性と耐熱性が特に要求される場合には、プロピレン単独重合体であることが好ましく、また、耐衝撃性と透明性が特に要求される場合には、プロピレンとエチレン及び/又はα−オレフィンとの共重合体であることが好ましい。また、樹脂成分1のポリプロピレン成分は、例えば、チーグラー・ナッタ系触媒やメタロセン触媒を用い、公知の重合方法によって製造することが可能である。
【0019】
樹脂成分1の共重合体エラストマー成分は、プロピレンとエチレン及び/又は炭素数4〜12のα−オレフィンとの共重合体エラストマー成分である。ここで、共重合体エラストマー成分を構成する、炭素数4〜12のα−オレフィンとしては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテン等、任意のものが使用可能である。樹脂成分1の共重合体エラストマー成分は、プロピレンに由来する単位を50〜85質量%含み、他の共重合成分の含有量が15〜50質量%であるものが好ましい。
【0020】
樹脂成分1は、ポリプロピレン成分を60〜90質量%、及び、共重合体エラストマー成分を40〜10質量%含む。共重合体エラストマー成分の含有量が10質量%未満の樹脂成分1を用いると、得られる成形部品の耐衝撃性が低下し、共重合体エラストマー成分の含有量が40質量%を超える樹脂成分1を用いると、得られる成形部品の剛性及び耐熱性が低下する傾向にある。これらのバランスを考慮すると、樹脂成分1は、ポリプロピレン成分を80〜90質量%、及び、共重合体エラストマー成分を20〜10質量%含むものであることが好ましい。
【0021】
樹脂成分1は、キシレン可溶分及びキシレン不溶分を含む。本実施形態では、樹脂成分1として、キシレン可溶分の極限粘度が1.5〜2.5dL/gの範囲にあるものが用いられる。キシレン可溶分の極限粘度が2.5dL/gを超えるものを用いると、透明性が低下し、また、キシレン可溶分の極限粘度が1.5dL/g未満のものを用いると、耐衝撃性が低下する傾向にあるので、本実施形態では不適である。これらのバランスを考慮すると、樹脂成分1として、キシレン可溶分の極限粘度が1.8〜2.3dL/gの範囲にあるものを用いることが好ましい。
【0022】
また、本実施形態では、樹脂成分1として、キシレン不溶分の極限粘度が1.0〜1.5dL/gの範囲にあるものが用いられる。キシレン不溶分の極限粘度が1.5を超えるものを用いると、低温での耐衝撃性が低下し、また、キシレン不溶分の極限粘度が1.0未満のものを用いると、透明性が低下する傾向にあるので、本実施形態では不適である。
【0023】
さらに、本実施形態では、樹脂成分1として、キシレン不溶分の分子量分布(Mw/Mn)が3.5〜5.5の範囲であるものが用いられる。ここで、Mw/Mnは、多分散度(分子量の分布を示す値)として当業界に広く知られた関係式であり、Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量を意味する。このキシレン不溶分の分子量分布(Mw/Mn)は、オルトジクロロベンゼンを溶媒として用いたGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定され、分子量をポリスチレン換算することで求められる。本実施形態において、樹脂成分1のキシレン不溶分の分子量分布(Mw/Mn)の好ましい範囲は4.0〜5.0である。
【0024】
また、樹脂成分1は、Haze(曇り度)が50%以下であることが好ましい。かかる透明度を満たすために、キシレン可溶分の極限粘度とキシレン不溶分の極限粘度との比(キシレン可溶分粘度/キシレン不溶分粘度)が1.2〜2.0の範囲にあることが好ましい。本明細書において、Hazeは、JIS K7105に準拠し、1.0mm厚のサンプルを用いて測定した値である。
【0025】
本実施形態で用いる樹脂組成物は、電子レンジ調理時の特性をさらに高める目的で、上述した樹脂成分1に加えて下記の樹脂成分2を含むものが好ましい。このように樹脂成分1と樹脂成分2とを併用した樹脂組成物を射出成形することにより、透明性や低温での耐衝撃性、電子レンジ適性等がバランス良く高められた食品用容器が得られる。
【0026】
樹脂成分2は、ホモプロピレン重合体、エチレンプロピレンランダム共重合体及びこれらの混合物の中から選ばれるものである。ここで、エチレンプロピレンランダム共重合体には、プロピレンとエチレンとの共重合体、プロピレンとエチレンと炭素数4〜12のα−オレフィンとの共重合体、及びこれらの混合物が含まれる。また、炭素数4〜12のα−オレフィンとしては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテン等、任意のものが使用可能である。上述した各種の(共)重合体は、それぞれ単独で用いても、2種以上を併用してもよい。ここで、本実施形態における樹脂成分2のプロピレン成分は、プロピレンに由来する単位を95〜100質量%含むものを意味し、他の(共)重合成分の含有量が5.0質量%以下のものを意味する。エチレン及び/又は炭素数4〜12のα−オレフィンの共重合体の含有量が5質量%より多いものは、得られる成形品の剛性及び耐熱性が顕著に低下する傾向にあるので、本実施形態では不適である。樹脂成分2のポリプロピレン成分がプロピレン以外に他の(共)重合成分を含む場合、共重合成分の含有量は0.1〜3.5質量%であることが好ましい。
【0027】
なお、樹脂成分2のポリプロピレン成分は、剛性と耐熱性が特に要求される場合には、ホモプロピレン重合体であることが好ましく、また、耐衝撃性と透明性が特に要求される場合には、エチレンプロピレンランダム共重合体であることが好ましい。また、樹脂成分2のポリプロピレン成分は、例えば、チーグラー・ナッタ系触媒やメタロセン触媒を用い、公知の重合方法によって製造することが可能である。
【0028】
本実施形態において、樹脂成分2は、そのメルトフローレート(以下、MFRともいう)が5〜60g/10分の範囲にあるものが用いられる。MFRが5g/10分未満の樹脂成分2を用いると、樹脂組成物の押出機による混練時又は成形時に、各成分の分散不良や吐出不良を起こす場合があり、その結果、成形品の耐衝撃性や剛性、透明性が低下する傾向にある。また、MFRが60g/10分を超える樹脂成分2を用いると、耐衝撃性や透明性が低下する傾向にある。成形品の透明性、剛性及び耐衝撃性等を高める観点から、樹脂成分2のMFRは、10〜50g/10分の範囲にあることが好ましく、15〜50g/10分の範囲にあることがより好ましい。なお、本明細書において、MFRは、JIS K7210に準拠し、230℃、2.16kg荷重で測定した値である。
【0029】
また、樹脂成分2は、荷重たわみ温度(HDT)が115℃以上のものであることが必要とされる。荷重たわみ温度が115℃未満の樹脂成分2を用いると、食品用容器として電子レンジ適性が十分なものを得難い傾向にある。なお、本明細書において、荷重たわみ温度(HDT)は、JISK7207に準拠して測定した値である。
【0030】
さらに、樹脂成分2は、Haze(曇り度)は20%以下であることが必要とされる。Hazeが20%を超える樹脂成分2を用いた場合、得られる成形体の透明性が低下する傾向にあるので、食品用容器としての用途が限定され得る。なお、Hazeは、上述した樹脂成分1と同様の方法にて測定される値である。
【0031】
上述した通り、射出成形に用いる樹脂組成物は、少なくとも樹脂成分1を含有するものであればよいが、樹脂成分1と樹脂成分2とを併用(ブレンド)する場合は、樹脂成分1を40〜95質量%、樹脂成分2を5〜60質量%含むものであることが好ましい。樹脂成分2の比率が5質量%未満のものを用いると、電子レンジ特性が不十分になる傾向にある。一方、樹脂成分2の比率が60質量%を超えるものを用いると、低温での耐衝撃性が不十分になる傾向にある。
【0032】
上述した樹脂成分1と樹脂成分2とを併用(ブレンド)する態様を採用することにより、各種の容器性能がバランス良く高められた食品用容器を、簡易且低コストで実現することができる。一方、樹脂成分1と樹脂成分2に含まれる共重合成分をすべて含む、単独の共重合ポリマーを用いても、所望の特性は得られない。必要な透明性を確保するには、樹脂成分1をまず合成することが必要である。ひとたび得られた樹脂成分1に対して樹脂成分2を樹脂成分1に混合することにより、各種の容器性能がバランス良く高められた食品用容器が得られる。本発明は、樹脂成分2の樹脂成分1に対する配合することによって、食品用容器としての特性が効率的に著しく改良できる効果に基づいている。
【0033】
本実施形態の樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができる。例えば、樹脂成分1と樹脂成分2とをリボンブレンダーやタンブラー、ヘンシェルミキサー等を用いて混合した後、ニーダーやミキシングロール、バンバリーミキサー、単軸或いは二軸押出機等を用いて170〜280℃、好ましくは190〜260℃の温度条件下で溶融混練することにより得ることができる。
【0034】
なお、上記の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、他の樹脂や添加剤等を配合することができる。添加剤の具体例としては、酸化防止剤、耐候性安定剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、染料、顔料、オイル、ワックス等が例示される。
【0035】
本実施形態の食品用容器は、樹脂組成物を射出成形することにより製造される。射出成形による製造プロセスは、特に限定されるものではなく、公知の射出成形機を用いて常法に従って行うことができる。なお、食品用容器は、食品を収納する容器本体と、この本体の開口を塞ぐ蓋とから構成される態様が一般的であるが、かかる場合、本実施形態の食品用容器は、前者の容器本体を意味する。すなわち、食品用容器の蓋は、上述した樹脂組成物を用いて射出成形することにより、容器本体と同様に製造することは可能であるが、これに限定されるものではない。すなわち、食品用容器の蓋は、他の樹脂組成物を用いたものであっても、射出成形以外の製法により製造されたものであっても構わない。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに特に限定されるものではない。
【0037】
なお、諸物性の測定方法は次の通りである。
<メルトフローレート(MFR)の測定>
JIS−K7210に準拠し、温度230℃、荷重2160gの条件で測定した。
【0038】
<キシレン可溶分量及びキシレン不溶分量の測定>
オルトキシレン250mlにサンプル2.5gを入れ、加熱しながら攪拌して沸騰温度まで昇温し、30分以上かけて完全溶解させる。完全溶解を確認した後、攪拌を行いながら100℃以下になるまで放冷し、さらに25℃に保った恒温槽にて一晩放置し、25℃まで除熱する。その後、析出した成分をろ紙によりろ別し、得られた析出成分をキシレン不溶分として測定する。次いで、ろ液を加熱しながら窒素気流下でキシレンを溜去し乾燥することでキシレン可溶分を得て、これを測定する。
【0039】
<極限粘度の測定>
デカリン中、135℃において測定する。試料25mg〜120mg間から4水準を採取し、デカヒドロナフタレン25mlを加え、135℃で加熱攪拌し、全自動動粘度測定装置(VMR−053UPL/F01型)を用いて各水準の試料溶液の比粘度を求めた。粘度管はウベローデ改良型を用いた。
【0040】
[実施例1〜6、比較例1〜2]
下記に示す樹脂成分1と樹脂成分2とを、表1に記載の割合で、ブレンダーを用いて均一に混合した後、射出成形機を用いてヒーター温度200℃にて、上部開口した有底筒状(略直方体状)の容器本体と、その開口を塞ぐ板状の蓋とを成形し、略直方体の食品用容器を得た。
<容器の大きさ>
容器本体 :縦155×横116×高さ50(mm)、肉厚1.0mm
蓋 :縦155×横116×高さ 8(mm)、肉厚1.0mm
容器本体及び蓋の勘合部:U字型
<樹脂成分1>
プロピレンブロック共重合体A1
(ポリプロピレン成分 :87.5質量%,ホモポリマー)
(共重合エラストマー成分 :12.5質量%)
極限粘度(キシレン可溶分) :2.0dL/g
極限粘度(キシレン不溶分) :1.2dL/g
Mw/Mn(キシレン不溶分):4.48(Mw:191000、Mn:42700)
Haze(1mm厚) :20%
プロピレンブロック共重合体A2
(ポリプロピレン成分 :90質量%,ホモポリマー)
(共重合エラストマー成分 :10質量%)
極限粘度(キシレン可溶分) :2.0dL/g
極限粘度(キシレン不溶分) :1.2dL/g
Mw/Mn(キシレン不溶分):4.48(Mw:191000、Mn:42700)
Haze(1mm厚) :19%
<樹脂成分2>
ホモポリプロピレンB(サンアロマー社製PM900C)
(MFR:30、HDT:132℃、Haze(1mm厚):10%)
ランダムポリプロピレンC(サンアロマー社製PMA20V)
(MFR:20、HDT:120℃、Haze(1mm厚): 8%)
なお、上記の分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフAllianceGPC2000型を用いて測定した。分子量校正はポリスチレン換算とした。また、荷重たわみ温度(HDT)は、JIS−K7207に準拠して測定した。
【0041】
上記実施例1〜6及び比較例1〜2で得られた食品用容器(容器本体)について、透明性、低温衝撃強度、電子レンジテスト、冷凍加熱テスト及び低温時の勘合性を測定した結果を、表1に示す。なお、各種性能の測定方法を、以下に示す。
【0042】
<透明性:Haze(曇り度%)>
JIS K7105に準拠し、1.0mm厚の全ヘイズを測定した。
【0043】
<低温衝撃強度(落下テスト)>
容器本体内に水を400ml入れ、冷凍庫に放置し、容器表面温度が−18℃、および−23℃となるまで冷却した。その後、その容器本体を135cmの高さから面積600mm×450mm、厚さ10mmの合板上に落下させ、容器本体の割れの有無を目視により観察した。この試験では、各々の温度条件下で3サンプルずつ実施して、亀裂が生じたサンプル数を評価した。
【0044】
<低温衝撃強度(落球テスト)>
冷凍恒温層に蓋付食品用容器を入れ、表面温度が−20℃、および−30℃となるまで冷却した。この蓋付食品用容器の底部中央へ、直径19.05mm、28.16gの鋼球を落下させ、亀裂発生の有無を目視により観察した。この試験は、日本プラスチック日用品工業組合自主規格基準(プラスチック製容器 HP−13−1978)に準拠して行った。また、この試験では、各々の温度条件下で3サンプルずつ実施して、亀裂が生じたサンプル数を評価した。
【0045】
<電子レンジテスト(溶解性)>
容器本体内にミートソース(ハインツ社製、業務用)200gを入れ、500Wの電子レンジにて3分加熱する。次いで、容器本体から内容物を取り除き、中性洗剤で容器本体内を洗った後、その容器本体に生じた溶解痕の発現程度を目視により観察した。以下に、判定基準を記す。なお、溶解痕とは、食品と接触する部分(容器本体の内壁)において、加熱された食品により溶解することによって形成される、火ぶくれのような跡(熱変性の痕跡)を意味する。
〇 ・・・溶解痕の発生が9個以下
△ ・・・溶解痕の発生が10個〜19個
× ・・・溶解痕の発生が20個以上
【0046】
<電子レンジテスト(色移り)>
容器本体内にレトルトカレー(ハウス食品製、ククレ中辛)200gを入れ、500Wの電子レンジにて3分加熱する。次いで、容器本体から内容物を取り除き、中性洗剤で容器本体内を洗った後、その容器本体の着色度合いをHaze(曇り度%)の変化に基づいて評価した。以下に、判定基準を記す。
〇 ・・・ 食品の接触した容器部分のHazeの増加が5%未満
△ ・・・ 食品の接触した容器部分のHazeの増加が5%以上15%未満
× ・・・ 食品の接触した容器部分のHazeの増加が15%以上
【0047】
<冷凍加熱テスト(耐久性)>
容器本体内にミートソース(キューピー製、1缶)290gを入れ、蓋をして通常冷凍(−18℃)する。次に、500Wの電子レンジにて4分加熱し、容器本体内のミートソースをよくかき混ぜて均一にした後、さらに500Wの電子レンジにて全体が70℃程度となる様に3分加熱する。以上の操作を10回繰り返した後、容器本体から内容物を取り除き、中性洗剤で容器本体内を洗った後、その容器本体の溶解痕の発現程度及びHaze(曇り度%)の変化に基づいて、耐久性を評価した。以下に、判定基準を記す。
〇 ・・・ 溶解痕の発生が19個以下で、且つ、
食品の接触した容器部分のHazeの増加が15%未満
△ ・・・ 溶解痕の発生が20個以上29個以下で、且つ、
食品の接触した容器部分のHazeの増加が15%以上30%未満
× ・・・ 溶解痕の発生が30個以上で、且つ、
食品の接触した容器部分のHazeの増加が30%以上
【0048】
<電子レンジテスト(臭い移り)>
容器本体内に炊き立てのご飯を入れ、蓋をしたまま常温で6時間放置する。その後、容器本体を電子レンジで温め、ご飯を試食し、容器本体由来の臭い(容器そのものの臭い)の有無を官能評価する。以下に、判定基準を記す。
〇 ・・・ 容器本体由来の臭いは感じられない
× ・・・ 容器本体由来の臭いが感じられる
【0049】
<低温時の勘合性>
蓋をした容器本体を−40℃の冷凍庫内にて240時間放置する。その後、蓋をした容器本体を取り出し、容器本体と蓋の勘合部の変形度合いを目視により観察した。以下に、判定基準を記す。
〇 ・・・ 勘合部の変形は認められない
× ・・・ 勘合部の変形が認められる
【0050】
【表1】

【0051】
表1から明らかなように、実施例1〜6の食品用容器は、透明性に優れ、低温での耐衝撃性や電子レンジ適性に優れることが確認された。また、樹脂成分1及び樹脂成分2を配合した実施例2〜5の食品用容器は、比較例1及び2の食品用容器に比して、透明性、低温での耐衝撃性、冷凍時における寸法安定性、耐熱性、耐久性、勘合性、耐臭い移り、耐色移りのすべての評価項目において同等以上の性能を有し、これら各種性能がバランス良く高められたものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の食品用容器は、透明性に優れ、冷凍や電子レンジ加熱調理の繰り返し使用に耐え得る性能を有するので、食品を収納する容器の分野において、広く一般に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記で定義される樹脂成分1を含む樹脂組成物を、射出成形により成形した食品用容器。
樹脂成分1:ポリプロピレン成分60〜90質量%、並びに、プロピレンとエチレン及び/又は炭素数4〜12のα−オレフィンとの共重合エラストマー成分40〜10質量%を含み、キシレン可溶分の極限粘度が1.5〜2.5の範囲にあり、キシレン不溶分の極限粘度が1.0〜1.5の範囲にあり、キシレン不溶分の分子量分布(Mw/Mn)が3.5〜5.5の範囲にある、プロピレンブロック共重合体。
【請求項2】
下記で定義される樹脂成分1を40〜95質量%及び下記で定義される樹脂成分2を5〜60質量%含む樹脂組成物を、射出成形により成形した食品用容器。
樹脂成分1:ポリプロピレン成分60〜90質量%、並びに、プロピレンとエチレン及び/又は炭素数4〜12のα−オレフィンとの共重合エラストマー成分40〜10質量%を含み、キシレン可溶分の極限粘度が1.5〜2.5の範囲にあり、キシレン不溶分の極限粘度が1.0〜1.5の範囲にあり、キシレン不溶分の分子量分布(Mw/Mn)が3.5〜5.5の範囲にある、プロピレンブロック共重合体。
樹脂成分2:MFRが5〜60の範囲にあり、荷重たわみ温度が115℃以上であり、Hazeが20以下である、ホモプロピン重合体及び/又はエチレンプロピレンランダム共重合体。
【請求項3】
前記樹脂成分1が、ポリプロピレン成分80〜90質量%、並びに、プロピレンとエチレン及び/又は炭素数4〜12のα−オレフィンとの共重合エラストマー成分20〜10質量%を含む、請求項1又は2に記載の食品用容器。
【請求項4】
前記樹脂成分1のキシレン不溶分の分子量分布(Mw/Mn)が、4.0〜5.0の範囲にある、請求項1〜3のいずれか1項に記載の食品用容器。

【公開番号】特開2009−190773(P2009−190773A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35018(P2008−35018)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(390017949)旭化成ホームプロダクツ株式会社 (56)
【Fターム(参考)】