説明

食品素材

【課題】アルコール含有液状物質の食品への添加を容易にする食品素材を得る。
【解決手段】アルコール含有液状物質とでんぷんを混合し、該混合物におけるでんぷんの分散状態を維持しながら加熱して餡状にしてなる。また、前記、加熱温度を60℃乃至85℃としたことを特徴とする食品素材。さらに、アルコール含有液状物質とでんぷんの混合割合を、アルコール含有液状物質が90w%〜50w%ででんぷんが10w%〜50w%にしたことを特徴とする食品素材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品素材に関し、特にでんぷんとアルコール含有液状物質を用いた食品素材に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の製造過程において食品に添加することで風味を増したり、保存性を高めたりすることのできるアルコール含有液状物質として、例えばみりん、清酒、ワイン、紹興酒、ブランデー、焼酎、ウイスキー、食品用アルコールなどが考えられる。
このような、アルコール含有液状物質を液体状態のままで食品の製造過程において添加しようとすると種々の問題があることから、現状ではあまり行われていないのが現状である。
この問題点を、例えば、魚肉ねり製品である蒲鉾の製造過程を例に挙げて説明する。
蒲鉾は、一般的には魚肉のすり身、調味料、でんぷん、水を一定の割合で混合してペースト状にし、これを加熱してゲル化することによって製造される(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−269138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記ペースト状物質に液状のみりんを添加するとペースト状物質の粘性が下がり、成形後にダレを起こし、製品不良を生ずることがある。
したがって、ダレを起こさないようにするためには、加えるみりんの量だけ水を減量する必要があるが、これは配合比を変更することを意味し、魚肉の種類によって微妙な配合の違いがあることを考慮すると、この配合比の変更は煩雑である。
【0004】
同様の問題を有する食品の他の例として、餡こを例示することができる。餡こは糖分によって水分活性を抑制して保存性を高めている。保存性を維持するために一定の糖度が必要なため、甘すぎるという問題がある。そこで、糖度を下げると共にアルコールを加えることで保存性を維持することが考えられる。
しかし、アルコールを液状のままで加えようとすると、上記の蒲鉾の場合と同様に、粘度が低下してダレを起こし製品不良となる。
【0005】
このように、アルコール含有液状物質を食品の製造過程において添加しようとすると種々の問題がある。
【0006】
本発明は係る課題を解決するためになされたものであり、アルコール含有液状物質の食品への添加を容易にする食品素材を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は魚肉ねり製品の製造過程においてみりんの添加を簡易に行う方法を鋭意検討した。
魚肉ねり製品には、一般的にでんぷんが使用されていることから、みりんをでんぷんに含ませることを考えた。みりんとでんぷんを混合して攪拌するとみりんの中にでんぷんが分散されるが、そのままの状態では時間が経過するとみりんとでんぷんが分離する。
そこで、発明者はみりんとでんぷん(用いたでんぷんは、ばれいしょでんぷん)の混合物を攪拌しながら加熱することを試みた。徐々に加熱温度を上昇させながら前記混合物の性状を確認した。すると、温度が72℃近傍になると急に粘度が増し、漉し餡のような餡状になった。
この餡状になった物質を、本明細書では「餡みりん」という。なお、みりん以外のアルコール含有液状物質を用いた場合には、餡の後に、アルコール含有液状物質の一般名称を付加して称呼することとする。例えば、餡清酒など。
【0008】
餡みりんの性状を調べたところ、みりんの風味を有し、かつでんぷんがいまだ完全にα化しておらず、でんぷんの本来有する性状を有していることが分かった。
上記、餡みりんを魚肉ねり製品の製造工程において添加することにすると、餡みりんが液状でないことからダレが生ぜず成形不良・製品不良の問題が生じない。
そのため、従来の配合を変える必要がなく、必要な量だけ任意に加えることができる。
さらに、餡みりんはでんぷんの本来の性質を有していることから、魚肉ねり製品の弾力形成の効果を発揮できる。
また、一般的に魚肉ねり製品のペースト状物質にはでんぷんが含まれているので、でんぷんを用いてみりんを餡状にして添加したとしても、みりんのみが新たな添加材料となり、みりんについては食品表示の義務は生じるが、でんぷんについてはその絶対量が増加するのみであり、係る表示の義務は生じない。また、この例のように餡みりんの材料となるでんぷんとして、餡みりんを添加する各種加工食品の原材料として使用されているでんぷん(本例ではばれいしょでんぷん)を用いるようにすれば、上記の表示義務が生じない。この点から、餡みりんの材料となるでんぷんの選定基準として、餡みりんを添加する各種加工食品に原材料として使用されているでんぷんを選定することも一つの基準となり得る。
【0009】
このように、みりんを液体ではなく餡みりんとして添加することによって、種々の利点が得られるとの知見を得た。
そして、発明者はみりんとばれいしょでんぷんのみならず、清酒とでんぷん(用いたのは、ばれいしょでんぷん)についても同様の実験をおこなったところ、清酒とでんぷんの混合物をでんぷんの分散状態を維持しながら加熱すると、63℃近傍で餡状となった。
餡清酒を和食、和菓子等の製造工程において清酒を液体のまま添加することに代えて用いると、上記と同様の利点があるとの知見を得た。
【0010】
以上のように、アルコール含有液状物質を含む餡状の食品素材を得ることができ、これを食品の製造過程において添加することで、アルコール含有液状物質を液状のまま添加する場合には得られない優れた効果があるとの知見を得た。
本発明はかかる知見を基になされたものであり、具体的には以下の構成を有する。
【0011】
(1)本発明に係る食品素材は、アルコール含有液状物質とでんぷんを混合し、該混合物におけるでんぷんの分散状態を維持しながら加熱して餡状にしてなることを特徴とするものである。
【0012】
餡状とは、アルコール含有液状物質とでんぷんの混合物の加熱過程において、粘性が急激に増した状態で、かつでんぷんがいまだ完全にはα化していない状態をいう。
以下、さらに詳細に説明する。
餡状からさらに加熱温度を上げて加熱を続けると、コロイド状態となる。コロイド状態になることを糊化(α化)というが、糊化したでんぷんは、もとのでんぷんと著しく性質が異なっている。これはでんぷんを構成しているアミロースとアミロペクチンの強固な結合が、水分と熱によって崩れるために起きる現象で、これをα化といい、α化したでんぷんをαでんぷんという。元のでんぷんをβでんぷんという。
したがって、餡状とは、加熱によって急激に粘性が増すでんぷんが、完全にα化する前の状態であって、でんぷん自体はもとのでんぷんすなわちβでんぷんの性質を有している状態をいう。
【0013】
このように、餡状であれば、βでんぷんの性質を有しているため、餡状の食品素材を、でんぷんを材料として使用する食品の製造工程において添加すれば、元々の材料としても機能するので、材料としてのでんぷん量を減量することもでき、あるいは特に減量しなくても新たな材料が添加されることがないので、きわめて好都合である。
また、餡状では完全にα化していないので、その後の粉砕等の加工の必要がなくそのまま直ぐに包装して製品とすることができる。そして、餡状であることから、分散性にも優れ、例えば練り製品への添加もスムーズに行うことができる。
【0014】
アルコール含有液状物質の例としては、みりん、清酒、紹興酒、ワイン、ブランデー、焼酎、ウイスキー、食品用アルコールなどがある。
【0015】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、加熱温度を60℃乃至85℃としたことを特徴とするものである。
加熱温度を60℃乃至85℃にすることで、でんぷんがいまだ完全にはα化していない餡状にすることができる。
【0016】
(3)また、上記(1)または(2)に記載のものにおいて、アルコール含有液状物質とでんぷんの混合割合を、アルコール含有液状物質が90w%〜50w%ででんぷんが10w%〜50w%にしたことを特徴とするものである。
【0017】
(4)また、上記(1)〜(3)に記載のものにおいて、加熱は通電加熱であることを特徴とするものである。
通電加熱とは、対向する電極間に加熱対象を配置して通電することで、加熱対象物をジュール熱によって加熱することをいう。
通電加熱を行うことによって、直接加熱であることから加熱温度を確実に制御でき、加熱対象の性質に応じた加熱温度制御ができ、餡状物質を確実に生成することができる。また、加熱対象の温度を短時間で目標温度にできるので、アルコールの気化を極力抑えた加熱ができ、かつ、アミノカルボニル反応(メイラード反応)による褐変もない。さらに、アルコール含有液状物質が酒類の場合には風味を損なうことなく餡状の食品素材を生成できる。
なお、加熱対象物の導電率を高めるために、通常食品加工製品の添加材料とされる食塩やアミノ酸等の電解質を添加することにより、加熱時間を短縮できることも通電加熱の特徴である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る食品素材は、アルコール含有液状物質とでんぷんを混合し、該混合物におけるでんぷんの分散状態を維持しながら加熱して餡状にしてなるので、アルコール含有液状物質を食品の製造過程において添加することが極めて容易になる。
また、前記食品素材自体はアルコールを含有することから保存性にも優れるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本実施の形態に係る食品素材は、ばれいしょでんぷんとみりんを混合し、該混合物におけるでんぷんの分散状態を維持しながら約72℃まで加熱して餡状にしてなるものである。
前述したように、餡状とは、アルコール含有液状物質とでんぷんの混合物の加熱過程において、粘性が急激に増した状態で、かつでんぷんがいまだ完全にはα化していない状態をいう。
以下においては、発明者が実験装置によって行った餡みりんの製造方法を説明する。
【0020】
図1はこの製造方法に用いた実験装置の説明図である。まず、実験装置の説明をする。実験装置は、図1に示すように、筒状容器1の内部にチタン板からなる電極3を対向配置し、筒状容器1内に攪拌羽根5を設けたものである。各電極3には通電用の電極線が接続され、これら電極線は100V、20KHzの高周波電源(図示なし)に接続されている。
また、筒状容器1内の温度をモニタリングするためにサーモレコーダ9のセンサ11を挿入した。
【0021】
筒状容器1内には、ばれいしょでんぷん:100g、みりん:300g、食塩:2gを入れて混合し、みりんにばれいしょでんぷんを分散させた。そして、この分散状態を維持させるために攪拌羽根5を回転させた状態で通電した。通電初期状態では温度が20℃、電流値は約1アンペアであった。
その後、徐々に温度が上昇し、食品の場合には温度が上昇すると抵抗値が下がることから電流値が増していった。
そして、筒状容器1内の温度が約72℃になったときに、急激に粘性が増し、容器内の混合物が餡状になった。
【0022】
以上のようにして製造された餡みりんは、みりんのアルコール分の気化が抑えられており、またβでんぷんの性質を有している。さらに、メイラード反応による褐変もない。したがって、でんぷんを原材料に用いる食品、例えば魚肉ねり製品の製造工程において添加することで、上述したように、配合比の変更なく極めて容易にみりんの添加を実現できる。
【0023】
なお、上記の実施の形態では、でんぷんの例としてばれいしょでんぷんを用い、アルコール含有液状物質の例としてみりんを用いる例を示したが、でんぷんの他の例としては、とうもろこしでんぷん、小麦でんぷん、タピオカでんぷんを挙げることができ、また、アルコール含有液状物質の他の例として、清酒、紹興酒、ワイン、ブランデー、焼酎、ウイスキー、食品用アルコールなどを挙げることができる。
【0024】
なお、上記のでんぷんの種類とアルコール含有液状物質の種類によって餡状になる温度が異なるので、以下においては、でんぷんの種類と餡状になる温度、餡状のさらに詳しい状態について実験を行ったので、その結果を表に示す。
【0025】
表1は餡みりんの例である。みりんのアルコール分は12.5度〜13.5度である。みりんとでんぷんの重量割合は、75:25とし、電解質として食塩を0.5%添加した。
【表1】

【0026】
なお、表1における温度は、通電加熱における通電を止めたときの最高温度を示している。以下の表2〜表5においても同様である。
表1から分かるように、でんぷんの種類によって、餡状になる温度が異なり、また、餡状の性状に違いがある。また、この例ではみりんとでんぷんの配合比を一定としているが、この配合比に違いによっても餡状になる温度に違いがあることを確認している。
ただし、少なくとも表に示される配合比においては、72℃〜84℃の温度範囲において餡みりんが生成できることが確認された。
【0027】
表2は餡清酒の例である。清酒のアルコール分は13.0度〜14.0度である。清酒とでんぷんの重量割合は、75:25とし、電解質として食塩を0.5%添加した。
【表2】

【0028】
餡清酒の場合においても、でんぷんの種類によって、餡状になる温度が異なり、また、餡状の性状に違いがある。また、この例では清酒とでんぷんの配合比を一定としているが、この配合比に違いによっても餡状になる温度に違いがあることを確認している。
ただし、少なくとも表に示される配合比においては、63℃〜74℃の温度範囲において餡清酒が生成できることが確認された。
【0029】
表3は餡焼酎の例である。焼酎のアルコール分は35%である。焼酎とでんぷんの重量割合は、75:25とし、電解質として食塩を0.5%添加した。
【表3】

【0030】
表3に示されるように、ばれいしょでんぷんと焼酎によって餡焼酎が生成できることが確認された。
【0031】
上記の表1〜表3の例から分かるように、でんぷんの種類、アルコール含有液状物質の種類によって餡状になる温度が異なる。さらには、表には示されていないが、でんぷんとアルコール含有液状物質の配合比によっても餡状になる温度がことなることを確認している。しかし、温度領域として低温すぎたり、高温すぎたりしては餡状になることはできず、発明者の知見では、温度域として60℃〜85℃の範囲であることが好ましいことを確認している。また、アルコール含有液状物質とでんぷんの配合比率についても、餡状にするためには、アルコール含有液状物質が90w%〜50w%ででんぷんが10w%〜50w%の範囲にあることを要することを確認している。
【0032】
上記のように種々のでんぷんとアルコール含有液状物質から生成される餡状の食品素材は、種々の食品製造過程において添加材料として用いることができる。この場合の食品の製造方法は、例えば、以下のようになる。
【0033】
でんぷんを用いてペースト状にする工程を含む食品の製造方法であって、アルコール含有液状物質に前記でんぷんを分散させた状態で加熱して餡状にしてなる食品素材を、前記ペースト状の物質に添加することを含むことを特徴とする食品の製造方法。
この場合のでんぷん及びアルコール含有液状物質の具体例としては、例えば、前述した魚肉ねり製品において、でんぷんとしてばれいしょでんぷんを用い、アルコール含有液状物質としてみりんを用いる例がある。
【0034】
上記のように、でんぷんとアルコール含有液状物質とを含んでなる餡状の食品素材は、その形態が餡状であるため、アルコール含有液状物質を種々の食品に添加するのを容易ならしめ、その応用範囲は無限の広がりを期待できる。
【0035】
なお、でんぷんに代えて穀粉を用いた場合にも、上記と同様の食品素材が生成できる。例えば、穀粉として小麦粉、上新粉を用い、これに清酒を用いた場合を表4に示す。
表4では、清酒と穀粉の重量割合は、75:25とし、電解質として食塩を0.5%添加した。
【表4】

【0036】
表4に示したように、小麦粉と清酒からなる餡清酒の場合には、原材料として小麦粉を用いる食品、例えば、パン、うどん、そばなどに添加するのに好適である。
【0037】
なお、アルコール含有液状物質とでんぷんを混合し、該混合物におけるでんぷんの分散状態を維持しながら加熱してでんぷんを餡状にし、さらに加熱してα化し、その後β化(老化)させたものはアルコール含有した粉状物質(アルコール含有でんぷん)とすることができるため、新たな食品素材として有効である。
アルコール含有液状物質とでんぷんの混合物を一旦α化させて再びβ化させた場合には、固形になるが、これを砕いて粉状にすることで食品製造過程での添加を容易に行うことができる。このようなアルコール含有でんぷんの具体例を表5に示す。
【0038】
【表5】

【0039】
表5の例は、清酒とばれいしょでんぷんを用いたものであり、清酒とばれいしょでんぷんの重量割合は、50:50とし、電解質として食塩を0.5%添加した。
表5に示す温度帯に加熱することで、透明団子状になるので、これを常温で2週間保管した後粉末化することで粉状のアルコール含有でんぷんを生成できる。
【0040】
なお、アルコール含有液状物質として食品用アルコールを用いれば、アルコール含有でんぷんとして、餅、和菓子、うどん、パスタ、餃子の皮やから揚げ、トンカツ、コロッケ等の打ち粉や結着材料として用いることができ、保存剤としての機能を有する打ち粉等とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施の形態で用いた実験装置の説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1 筒状容器、3 電極、5 攪拌羽根、7 電極線、9 サーモレコーダ、11 センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール含有液状物質とでんぷんを混合し、該混合物におけるでんぷんの分散状態を維持しながら加熱して餡状にしてなることを特徴とする食品素材。
【請求項2】
加熱温度を60℃乃至85℃としたことを特徴とする請求項1に記載の食品素材。
【請求項3】
アルコール含有液状物質とでんぷんの混合割合を、アルコール含有液状物質が90w%〜50w%ででんぷんが10w%〜50w%にしたことを特徴とする請求項1または2に記載の食品素材。
【請求項4】
加熱は通電加熱であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の食品素材。

【図1】
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【公開番号】特開2008−22727(P2008−22727A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−196316(P2006−196316)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(506247402)有限会社テクリエ (1)
【Fターム(参考)】