説明

食用のホログラフィック絹製品

本発明は、食用の絹ホログラフィック成分、およびこれを作製する方法に関連する。食用の絹ホログラフィック成分は、医薬および食品を標識するために使用されるか、または医薬を送達するために製剤化されてもよい。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects Agency)により与えられた助成金番号W911NF-07-1-0618号;空軍科学研究局(Air Force Office of Scientific Research)により与えられた助成金番号FA9550-07-1-0079号;および国立衛生研究所(National Institute of Health)により与えられた助成金番号EB002520号の下で、政府支援によりなされた。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
関連出願
本出願は、各々の全文が本明細書に組み入れられる、2008年6月18日出願の米国特許仮出願第61/073,609号、および2008年8月12日出願の同第61/088,063号の恩典を主張する。
【0003】
発明の分野
本発明は、ホログラフィック画像を提供する絹タグ、絹マーカー、または絹標識に関連する。具体的には、ナノパターニングによって、ホログラフィック媒体としての絹フィブロインの使用が可能になり、かつ完全に生体適合性で、生分解性で、食用で、かつ移植可能である純粋なタンパク質ベースの生体高分子における高度に緻密な表面レリーフ型ホログラムの実現を可能にする。
【背景技術】
【0004】
背景
安全上の理由および経済上の理由の双方に関して、製品の原産地(Source-of-product)および偽造品に対する懸念が高まっている。安全性に関して、2006年のホウレンソウでの大腸菌(E. coli)の大発生では3名が亡くなり、かつ200名超が病に伏した。ホウレンソウ袋のUPCコードにより製造元を逆追跡することが可能であったことが一因で、このホウレンソウ危機は約3週間で解決した。しかしながら、大部分の果物および野菜は、そのようなバーコードまたは他の識別手段を設けていない。2008年春のトマトでのサルモネラ菌(Salmonella)大発生のため、生鮮食品では食物の原産国を識別する標識が付けられ始めた。原産国表示制度(The Country of Origin Labeling Law;COOL)により、2008年9月30日から、小売店から供給元、および途中の全食品取扱業者まで、検証可能な監査証跡が必要となった。消費者は、食料雑貨商と同様、圃場から食卓までの情報と共に、製品がどこに由来しているかを知る権利を有する。一部の果物および野菜の表面で利用可能な標識が存在するが、現行の紙ベースのステッカーは、取り除くのが困難であることが多く、かつ製品の使用前には取り除かねばならない。さらに、現行の紙ベースの標識の製造は安価であるが、偽造が比較的容易である。
【0005】
偽造品はまた、安全性の懸念も喚起する。Verizonの店頭で正規購入された模造携帯電話バッテリーの過熱による外傷は、消費製品安全委員会(Consumer Product Safety Commission;CPSC)による2004年のリコールの引き金となった。偽のUnderwriters Laboratories(UL)マークを有する煙探知器から、非管理条件下で貯蔵されかつ不適切な有効成分を含む偽の医薬ピル剤まで、偽造品貿易によって米国の家庭に持ち込まれている危険製品の数は、ますます増加している。2006年には、14,000種超の偽造商品の積荷が押収された。医薬に関して、世界保健機構(World Health Organization;WHO)は、発展途上国で販売された薬物の10%〜30%が偽造品の可能性があると推定し、かつ一部の調査ではそのパーセンテージはずっと高い可能性があると結論づけられている。さらに、製品がインターネットで売却されるため、偽造品は増加してきている。例えば、FDAが2回のインターネット注文で入手した薬品サンプルには、タルクおよびデンプンしか含まれていなかった。正規の薬物製造業者によると、これらの2つのサンプルは有効なロット番号を表示し、かつ有効期限2007年4月と標識されていたが、このロット番号に対する正確な有効期限は、実際には2005年3月であった。FDAは、工場から薬局まで薬物を追跡するための電子系図(ePedigree)システムを目指している。この技術は、卸売業者および薬剤師に個別の製品のIDおよび用量を判別させることによって、薬物の流用または偽造を防止しうる。提案された偽造防止基準の一部は、プライバシーに関する懸念、または、製薬会社が薬物の合法的な並行貿易を弱体化させるために偽造防止技術を使用しようとし得る可能性に関する懸念を提起するものである。
【0006】
さらに安全性に関連して、医薬および食物の汚染または改ざんを識別するための機構がほとんど存在しない。鮮度および安全性に関して、安価で正確な指標が必要である。例えば、食物がサルモネラ菌、大腸菌、もしくは他の危険汚染物に接触したことを消費者に警告するために食物もしくは包装の表面に直接配置され得るか、または薬物製品が過剰な熱もしくは湿度の下で貯蔵されたもしくはそれ以外で改ざんされたことを示すために医薬の表面に直接配置され得る、標識が必要である。
【0007】
安全性の懸念の他に、偽造は重大な経済波及問題を有する。偽造商品によって、合法ビジネスの年間売上高は最大2,500億米ドルを失うと推定される。2003年に、WHOは、偽造薬物の年間収益が320億米ドルを上回ったという推定を示した。各製品を保持する容器に個別の製造番号を割り当てることにより、電子装置を使用して医薬品等の物品を追跡および識別する無線ICタグ(radio frequency identification)等の、この問題との戦いを支援しうるいくつかの技術が存在する。そのような取り組みは、独特であり、食物および医薬の場合には食用でありかつ生分解性である標識の必要性を説明するものである。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、食用で、生体適合性で、生分解性の、ホログラフィック画像を付与する、絹に組み込まれた(silk-embedded)高解像度の回折マイクロレリーフを提供する。本発明の一つの態様は、製品表面上に直接配置されて識別表示を提供しうる、食用で、生体適合性で、生分解性の絹フィブロインタンパク質含有ホログラフィック標識を提供することである。別の態様は、果物または野菜を覆い、かつホログラフィック識別標識も提供し、かつさらに製品を保存することが可能な、食用で、生分解性で、生体適合性の絹フィブロイン被覆剤を提供する。関連する態様において、絹フィブロインマイクロレリーフは、有機(organic)である。
【0009】
別の態様は、識別表示および/または有効期限を提供するためにピル剤もしくはカプセル剤等の医薬品に貼り付けることが可能であるかまたは薬品全体を覆うことが可能である絹フィブロインを含む、食用で、生体適合性で、生分解性のホログラフィック標識またはホログラフィックマークを提供する。関連する態様において、絹ホログラムは、商品の包装紙中に、または例えば、瓶の首を覆う収縮スリーブもしくは瓶全体のスリーブ等の商品の他の包装中に組み入れられる。
【0010】
本発明のまた別の態様は、低分子、タンパク質、酵素、有機色素および無機色素、ならびに光活性色素等に安定性を提供し、かつホログラフィック識別表示またはホログラフィック情報の成分も組み入れた、絹フィブロイン製剤を提供する。そのような製剤は、治療用製剤の投与のため、またはホログラムにより識別表示および/もしくは他の情報を提供する診断装置の移植のために、使用されてもよい。
【0011】
別の態様は、細菌もしくは他の汚染物に接触したらホログラムを表示するかまたは色を変化させる、プログラムされたバイオセンサー絹膜を提供する。
【0012】
色彩変化は、表面特性の変動もしくは絹の全体特性の変動のいずれかに関連付けることができ、または付随する生物学的成分(すなわち、低分子、タンパク質、酵素、有機色素および無機色素、ならびに光活性色素等)に応じてプログラムすることができる。あるいは、絹ホログラムは、通貨中に組み入れられる。
【0013】
別の態様では、絹ホログラムはビタミン剤または他の栄養補助食品等の食用の製品の一部となって、識別表示を提供し、かつ小児用ビタミン剤のための曜日デザイン等の消費者にとっての関心事も提供する。したがって、一つの態様において、ホログラムは、摂取可能な絹のシートを飾りかつ装飾するための、膜の摂取に関する情報またはグラフィックアートを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】厚さ60μmの絹膜中で達成された白色光ホログラムを示す。膜は幅2.5 cm×高さ1 cmである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
詳細な説明
本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコール、および試薬等に限定されず、それ自体が変動し得ることが理解されるべきである。本明細書において使用される用語は、特定の態様を記載することのみを目的とし、かつ添付の特許請求の範囲によってのみ定義される本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0016】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合に、文脈により特記されない限り、単数形は複数への言及を包含し、かつ逆もまた同様である。実施例以外においてまたは別途示される場合に、本明細書において使用される成分の量または反応条件を表す全ての数値は、全ての場合において「約」という用語によって修飾されるものとして理解されるべきである。
【0017】
全ての特許および特定された他の刊行物は、例えば本発明との関連において使用され得るそのような刊行物において記載される方法論を記載および開示する目的のために、参照により明確に本明細書に組み入れられる。これらの刊行物は、本出願の出願日以前のそれらの開示のみに関して提供される。この点に関して、先行発明によりまたはいかなる他の理由に関しても、そのような開示に先行する資格を本発明者らが有さないことを承認すると見なされるべきではない。これらの文書の日付に関する全ての記載または内容に関する表示は、本願出願人らが入手可能な情報に基づいており、かつこれらの文書の日付または内容の正確性に関してのいかなる承認を構成するものでもない。
【0018】
特記されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者に一般的に理解されるものと同一の意味を有する。本発明の実施または試験において任意の公知の方法、装置および材料が使用され得るが、この点において、該方法、該装置および該材料は本明細書において記載されたものである。
【0019】
本発明は、完全に生体適合性で、生分解性で、移植可能で、かつ食用であるタンパク質ベースの生体高分子における高度に緻密な表面レリーフ型ホログラムの実現のための、ホログラフィック媒体としての絹を提供する。
【0020】
絹フィブロインは、その天然状態または合成状態から様々な形状および立体構造で再構成され得る、独特な生体高分子である。絹フィブロインタンパク質には、過去の主要な利用様式である織物の用途および医療用縫合の用途をはるかに超える用途が近年見出されている。例えば、ハイドロゲルの生成(国際公開公報第2005/012606号;PCT/US08/65076号;PCT/US08/65076号)、超薄膜(国際公開公報第2007/016524号)、厚膜、コンフォーマル被覆剤(国際公開公報第2005/000483号;国際公開公報第2005/123114号)、ミクロスフェア(PCT/US2007/020789号)、3D多孔質マトリックス(国際公開公報第2004/062697号)、膜、ミクロスフェア、および多孔質マトリックスの組み合わせ(PCT/US09/44117号)、固形ブロック(国際公開公報第2003/056297号)、マイクロ流体装置(PCT/US07/83646号;PCT/US07/83634号)、電気光学装置(PCT/US07/83639号)、および、直径がナノスケール(国際公開公報第2004/0000915号)から数センチメートル(米国特許第6,902,932号)までの範囲に及ぶ繊維が、生体材料および再生医療における関連で探究されている(国際公開公報第2006/042287号;米国特許出願第11/407,373号;PCT/US08/55072号)。本発明のホログラフは、上記のいずれの用途と共に使用されてもよい。この天然繊維の自然界で類のない靭性によって、ケブラーまたは他の高分子材料等の大多数の有機性相当物を超えないとしてもこれらに匹敵する優れた機械的特性(引張および圧縮の双方)が、絹ベースの材料に付与される。
【0021】
絹フィブロインは、数ナノメートル〜数百メートル、またはそれ以上までの厚さ制御により、熱力学的に安定なβシートである機械的に強固な膜へと容易に形成され得る。これらの膜は、安定化のための外来の架橋反応または後処理架橋を必要とすることなく、一例として、空気、湿度または乾燥窒素ガスへの曝露後に結晶化する精製絹フィブロイン溶液の注入成形によって、形成されうる。結果として得られる強化絹は、光学基質としての使用に適した、機械的特性、表面特性、および透明性を有する。例えば、PCT/US07/83600号;PCT/US07/83620号;PCT/US07/83605号を参照されたい。
【0022】
絹フィブロインは、ナノスケールでパターニングされる能力を有する。この特性により、絹を用いて、緻密な光学素子を実現することが可能であり、かつ、導波路から、とりわけ光ファイバー、1D、2Dおよび3Dの回折構造体、反射器、フォトニック結晶、ナノ共振器の範囲に及ぶ、他のフォトニック部品を実現することが可能である。Lawrence et al., 9(4) Biomacromol. 1214-20 (2008)(絹ホログラムのカラー写真を含む);Parker et al., 21 Adv. Mats. 1-5 (2009)を参照されたい。パターニングされたナノ構造は、絹膜または製造される他の構造体上に設けられ得る。一つの態様において、基質の表面は、滑らかな絹生体高分子膜を提供するよう平滑であってもよく、ナノパターンを該絹膜の表面上に機械加工してもよい。ナノパターンは、フェムト秒レーザー等のレーザーを使用して、ナノインプリントを使用して、または、フォトリソグラフィー、電子ビームリソグラフィー、ソフトリソグラフィー等のリソグラフィー技術を含む他のナノナノパターン機械加工技術によって、機械加工されうる。そのような技術を使用して、3μm未満の間隔で700 nm程度のナノパターンの外形(feature)が、実証されている。PCT/US07/83620号;PCT/US2008/082487号を参照されたい。実際、50 nm未満の間隔で200 nmまたはそれ未満程度のナノパターニングされた外形が達成されている。絹の表面パターニングのもつ非常に高い解像度およびコンフォーマルな外形は、緻密な回折構造の製造を可能にし、かつ、より緻密なセキュリティ機能および例えばキネグラム(kinegram)等のグラフィックスを備えた先進的なホログラムの製造を可能にする。
【0023】
このように、ナノパターニングによって、ホログラフィック媒体としての絹の使用、ならびに、完全に生体適合性で、生分解性で、かつ移植可能である純粋なタンパク質ベースの生体高分子における高度に緻密な表面レリーフ型ホログラムおよび透過型ホログラムの実現が可能になる。
【0024】
例えばクレジットカードまたは高級品に対するセキュリティ機能として現在広範に使用されている表面レリーフ型ホログラムを絹に複製することができ、これによって光学的に透明なマトリックスにおける並外れた高解像度の画像が可能になる。絹においてこれを実現できる可能性は、ホログラムセキュリティのための新規で低価格で生体適合性の基質を提案することにより、およびホログラムセキュリティを医療業界および製薬業界にもたらすことにより、いくつかの機会を開くものである。
【0025】
生物学的ドーパント(とりわけ医薬、抗体、酵素、有機指示薬、光活性色素等)を絹に組み込んで、通常の貯蔵条件下でそれらの生物学的な生存力(viability)および機能性を維持できることは、関心対象の生物学的物質または薬学的物質を組み込んだ絹マトリックス上の表面ホログラムを含めることによって、医薬または生物学的化合物のセキュリティ保護された新しい様式の貯蔵およびブランディング(branding)を可能にする。例えば、PCT/US09/44117号;Lawrence et al., 2008を参照されたい。絹フィブロインは環境温度と圧力の条件下で水ベースのシステムで加工されうるため、これが実現可能である。
【0026】
さらに絹ホログラムは、化学色素を使用することなく色彩および関心事(interest)を提供する。実際、絹フィブロイン膜は、法的に認可されている数種よりもずっと多い多種多様な色を生じる能力、とりわけ、段階的に変動する波長を有する複数色の併置により生まれる「虹様の」効果を生じる能力を提供する。
【0027】
絹においてホログラムを実現できることによって、管理可能な安定性を備えた安定なマイクロレリーフを有しかつ例えば視覚的なホログラフィック画像およびホログラフィック効果等の情報を付与する、医薬ブランディング、食物標識、治療用のプリント絹、ならびに、任意の多種多様な形状および立体構造の剤形を含む食用の製品としての新規品目を含む、いくつかの用途が可能になる。
【0028】
医薬ブランディングに関して、絹膜は、該膜を摂取可能な薬物へと変える薬学的成分を包含するように作製されてもよい。このことは、絹が完全に有機で、摂取可能で、非毒性の生体高分子であることを示した以前の結果と、生物学的化合物を、その生存力を維持しながら該膜に付随させることが可能であるという事実との組み合わせに基づいて、可能である。例えば、PCT/US07/83620号を参照されたい。さらに、身体内でのタンパク質分解活性により、絹は分解すると考えられる。例えば、PCT/US09/44117号を参照されたい。放出速度および分解速度は、βシート構造の操作および階層化によって、ならびに/または賦形剤もしくは生体侵食性で生体適合性の高分子の添加によって、制御されてもよい。
【0029】
薬物が絹膜に組み入れられたら、該絹膜に対し、例えば薬物の原産地および製造元の信憑性を保証する等のためのブランディングに利用可能であり得るホログラムを含めるような表面パターニングを容易に行うことができる。有効期限または患者の氏名を含む、医薬についての個別の情報を、ホログラムと共に任意の単回用量に刻印することができる。該用量はまた、明確な意味を有さなくてもよい追跡目的またはセキュリティ目的の選択コードまたは秘密の識別子を含んでもよく、これらを表示するためには拡大、環境条件の変化、または特定の光源が必要である。追跡およびセキュリティに加え、そのような秘密の印は、二重盲検研究または臨床治験において利用されてもよい。30 nm未満までもの解像度でパターニングされかつ外形をマイクロスケールおよびナノスケールで正確に複製できるという、実証済みの絹の潜在的可能性によって、白色光ホログラムに勝る有用性で薬学的化合物中に組み込まれるが、キネグラム、ピクセルグラム(Pixelgram)、エクセルグラム(Exelgram)、フーリエ変換構造体またはフォトニックバンドギャップ格子等の技術的に進んだセキュリティデバイスを組み込む、緻密なセキュリティが可能になる。
【0030】
不安定な化合物の耐久性を保証するため、ホログラフィック医薬は、母型表面上での絹溶液の注入成形を介して膜の表面上に刻印されてもよい-該医薬が数秒間の中程度の熱曝露に耐え得るという条件で、薬学的化合物に依ってはエンボス加工が適する場合がある。したがって該エンボス加工は、材料の安定性に応じて、インサイチューで(ピル剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、薬物等の表面上で)実施してもよく、または薄膜上でまず実施し、次にエンボス加工後にこれでピル剤もしくはカプセル剤の表面を包むか、コーティングするか、もしくは貼り付けてもよい。
【0031】
被覆剤に関して、膜または被覆剤に有意な柔軟性および弾性を付与する一方で光学的な特徴を維持するグリセロール等の生体適合性の可塑剤を、絹フィブロインに添加することができる。この特徴により、事前にエンボス加工し、次にエンボス加工後にピル剤を包むもしくはコーティングするための、または、食品用標識を提供するための、簡単な手段が提供される。グリセロールもまた、完全に生体適合性であり、食用である。濃度は、所望の柔軟性の程度に応じて、絹製剤の0%〜50%まで変動させることができる。50%を上回る濃度も使用可能であるが、膜はそれほど機械的強固性を有さないであろう。米国特許出願第61/104,135号を参照されたい。
【0032】
実際、可塑剤の選択および相対的部分は、湿度に対するマイクロレリーフの経時的応答を制御するように調整されてもよい。この層に混合される、様々な融点を有する油剤およびワックスにより、温度に対するマイクロレリーフの経時的応答の制御が提供される。マイクロレリーフによって生じる視覚的な画像または効果の退色または色の変化(再構成角度の変化による)は、剤形の環境履歴およびその完全性についての視覚的指標を提供する。グリセロールに加え、適切なワックスには、パラフィン(低融点)およびカルナバロウ(高融点)が含まれ;適切な吸湿性可塑剤には、デキストロース(高吸湿性)およびプロピレングリコール等の糖が含まれる。したがって、識別情報に加え、例えば薬物の有効期限または患者の処置期間のいずれかに協調して標識が変化するように経時的に変化するよう、標識の構造的完全性を「プログラム」してもよい。
【0033】
治療用のプリント絹に関して、薬学的化合物を含むように絹膜シートを作製できるのと同じ様式で、ビタミン剤または栄養補助食品等の他の治療化合物を、上記のように絹に含めることができる。この様式で、成人および小児に対する個別の複数レジメンを一様にプリントすることによって、コンプライアンスが改善する可能性がある。可能性のある製品は、医薬の一日用量を包含した引き剥がし部分またはページを備えたシートまたは本、ゲームに従ってパーツを摂取するパズル、食用のカードおよび食用の手紙、ならびに多数の関連する玩具および消費材である。嗅覚の魅力を含め、当技術分野において公知である表面の構造化、着色、および味付けを加えることによって、ブランディング、装飾、および容易な認識の可能性が加わる。
【0034】
食物の標識は、本発明の特に適切な用途を提供する。例えば、ホウレンソウ袋に絹ホログラム標識を付与できるのみならず、ホウレンソウ自体を、食用のマイクロレリーフで標識してもよい。標識は小型で食用であるため、調理または摂取の前に取り除く必要がない。リンゴおよびトマト等の果物には、標識を付けてもよいし、またはマイクロレリーフが付いた絹膜で覆ってもよい。その際には、果物を、絹フィブロイン溶液中に浸漬させるかまたはそれ以外の方法で絹フィブロイン溶液に導入し、その後空気または気体により乾燥させることができる。そのような工程により、食品に対する安定性、ならびに、供給源に関する認証および食物が有機認定を受けたか否かに関する認証の双方が提供され得る。
【0035】
現行の紙ベースの標識とは異なり、絹標識は、それ自体が有機認定を受けることもできる。カイコガ(Bombyx mori)等の蚕によって生産される絹フィブロインは、最も一般的であり、かつ地球に優しい再生可能な資源の代表である。米国農務省有機認定を受けたクワの葉で飼養された蚕由来の蚕の繭は、市販されている。さらに、蚕蛾が羽化した繭由来のベジタリアンシルクまたは「ピースシルク」により、本発明の絹ホログラムにおける使用に適した絹フィブロインが得られる。有機絹フィブロインは、例えば、米国特許出願第11/247,358号、国際公開公報第2005/012606号、およびPCT/US07/83605号中に開示される水ベースの技術および塩ベースの技術を使用して、有機飼養された蚕の繭から調製されてもよい。したがって、食物を有機認定済として識別する食用のホログラム標識は、有機絹の基準が最終決定されたら、それ自体が有機認定を受けていてもよい。
【0036】
さらに絹標識は、それらが大腸菌、サルモネラ菌、および他の致命的な可能性のある汚染物に対するセンサーとして使用され得る「食用の光学部品」であるようなバイオセンサーの能力を有してもよい。例えば、望ましくない細菌と接触すると、本センサーはしたがってホログラム警告を表示するか色を変化させる。絹バイオセンサーを構築するための方法は議論されており、例えば、PCT/US07/83620号;Lawrence et al., 2008;Parker et al., 2009を参照されたい。透明な薄いプラスチック片に類似した安価な絹ベースのセンサーは、作物の袋に投入されてもよく、またはさらに作物の袋自体を作製するのに使用されてもよい。光学部品の絹から作製される膜はまた、レストランのサラダトングをコーティングするのに使用することもでき、またはさらに細断して食物の上に振りかけることもできる。
【0037】
新規品目は、いくつかの2Dおよび3Dの双方ならびにその組み合わせの画像を絹において製造することを考慮に入れている。絹の非毒性の特性によって、いかなる毒性成分またはいかなる化学処理も導入することなく高品質のホログラフィック画像を組み込むための理想的な材料基質が提供される。ホログラフィック絹膜は、単なる構成成分として使用することもでき、ホログラムを用いて得られる輝いたグラフィックデザインを提供し得る生体適合性で非毒性の被覆剤として使用することもできる。
【0038】
同じ原理で、絹の特性を活用して、食用の玩具、食用のゲーム、および食用のカードを絹で作製することができる。さらに、これらの同一の膜に、着色料(例えば、食物の着色料、または他の生体適合性の色素等)、香料、ビタミン剤、様々な供給源の栄養素および関連物質を添加してもよい。したがって、コード化された情報に基づいて膜を追跡するためのエンボス加工の他に、ピル剤を「嗅覚の」特徴に基づいてコード化することもできる。これにより、医薬の情報に関するライブラリーまたはデータベースに対するフィンガープリントを識別するためのガスクロマトグラフィー-質量分析を介した迅速なスクリーニングが可能になる。
【0039】
さらなる用途は上記で概説されたのと同じ概念を利用し、かつこれらは、有用であり、任意で食用であり、産生および廃棄の双方について環境に優しいと考えられる生体適合性被覆剤を用いた、織物、衣服、化学製品、肥料、および、ヒトと接触するほぼ全ての消費材の追跡に関して、類似の様式で適用可能である。これはまた、建築用品、塗料、水道部品および電気部品、芸術作品、博物館の品目、ならびに関連する芸術作品にも適用可能である。
【実施例】
【0040】
実施例1. 適切な表面で絹フィブロイン溶液を注入成形することによる絹ホログラム
絹フィブロイン溶液の生成は、採取されたカイコガの繭の精製によって開始する。繭を0.02 M Na2CO3水溶液中で45分間に渡って煮沸することによって、フィブロインフィラメントに結合する水溶性糖タンパク質であるセリシンをフィブロイン鎖から取り除く。この段階の完了後、残留フィブロイン束をミリQ水中で徹底的に濯ぎ、一晩乾燥させる。
【0041】
続いて、60℃で4時間に渡って乾燥フィブロイン束を9.3 M LiBr水溶液に溶解する。次に、水ベースの透析工程によって、3日間にわたり溶液からLiBr塩を抽出する。結果として得られる溶液を透析カセット(例えば、Slide-a-Lyzer、Pierce、MWCO 3.5K)から抽出し、遠心分離およびシリンジベースのマイクロ濾過(孔サイズ5μm、Millipore Inc., Bedford, MA)によって、残留粒子を取り除く。この工程によって、優れた品質および安定性をもつ8%〜10%w/vの絹フィブロイン溶液の生成が可能になる。精製段階は、透明度が最大限でありかつしたがって散乱が最小限である高品質の光学膜の生成のために重要である。タンパク質の割合がより高いまたはより低い絹溶液からも、膜を生成することは可能である。
【0042】
例えば、改変されたソフトリソグラフィー注入成形工程によって、またはホットエンボス加工工程によって、絹フィブロイン膜のパターニングが実現できる。Lawrence et al., 2008も参照されたい。
【0043】
例えば、注入成形工程の間に、200μL〜1 mLの絹フィブロイン溶液を清潔な乾燥母型表面に蒸着させる。続いて、環境温度と圧力の下での自由空気中で、この溶液を結晶化させる。これらの設定の下で、およそ16時間後に乾燥膜が生成される。βシート膜形成に必要な時間を短縮するために、代替的な後処理技術(例えば、水蒸気アニーリングまたはメタノールへの曝露等)を使用することが可能である。
【0044】
母型の一角を緩め、続いて薄い剃刀またはメスを使用しててこの原理で外すことにより、膜の取り出しを達成することができる。母型からの取り出し工程を支援するために、界面活性剤を使用することもできる。
【0045】
膜が母型から取り出されたら、真空誘導された(vacuum-induced)メタノール蒸気(26 mmHgでの100%メタノール)または水蒸気(10 mmHg〜3 mmHg未満)への24時間〜36時間に渡る曝露によって、絹フィブロインをさらに架橋することができる。この段階は、膜の用途に基づいて任意である。所望の構造安定性を膜に付与するために、他の後処理技術を使用することが可能である。
【0046】
ホットエンボス加工手法においては、120℃を上回る温度までマスクをゆっくりと過熱する。この温度は一般に、使用される特定の膜に応じて最適化される。温度は一般に、膜の厚さ、膜の後処理、および刻印サイズ等のパラメーターの関数である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絹に組み込まれた(silk-embedded)高解像度の回折レリーフを有する医薬であって、該回折レリーフが該医薬にホログラフィック画像を付与する、医薬。
【請求項2】
絹に組み込まれた高解像度の回折レリーフを有する食品であって、該回折レリーフが該食品にホログラフィック画像を付与する、食品。
【請求項3】
絹に組み込まれた高解像度の回折レリーフを有する包装であって、該回折レリーフが該包装にホログラフィック画像を付与する、包装。
【請求項4】
絹に組み込まれた高解像度の回折レリーフを有する食用の新規品目であって、該回折レリーフが該新規品目にホログラフィック画像を付与する、新規品目。
【請求項5】
絹に組み込まれた高解像度の回折レリーフを有する栄養補助食品であって、該回折レリーフが該栄養補助食品にホログラフィック画像を付与する、栄養補助食品。
【請求項6】
食用の製品にホログラフィック画像を付与する高解像度の回折レリーフを有する該製品を調製する方法であって、絹フィブロイン高分子を高解像度の回折レリーフ型に接触させる段階、該絹フィブロインを強化する段階、および該絹フィブロインを該型から取り出す段階を含む、方法。
【請求項7】
前記食品にホログラフィック画像を付与する絹に組み込まれた高解像度の回折レリーフが、食物が汚染されているか否かを示すバイオセンサーを含む、請求項2記載の食品。

【図1】
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【公表番号】特表2011−525254(P2011−525254A)
【公表日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−514798(P2011−514798)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/047751
【国際公開番号】WO2009/155397
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(510300430)トラスティーズ オブ タフツ カレッジ (12)
【Fターム(参考)】