説明

食酢の呈味改善剤

【課題】 簡易な手段で経済的かつ人体に健康的であり、従来の食酢類の酢酸の酸味と刺激臭を低減させ、風味における濃厚感や複雑さ、まろやかさ等が改善させる食酢用の呈味改善剤、及び呈味改善剤等が含有された食酢を提供する。
【解決手段】 酢酸発酵物を、その色調に変化が生じるまで濃縮することによって、食酢の呈味を改善する調味素材を提供する。濃縮による酢酸発酵物の色調変化(OD420nm)は、濃縮後の色強度/濃縮前の色強度=1.1〜50、好ましくは5〜50、より好ましくは10〜50であることを指標としてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質及び糖質原料から製造される酢酸発酵物を濃縮して得られる呈味改善剤を添加することによって、風味における濃厚感や複雑さ、まろやかさ等が改善された食酢類に関する。
【背景技術】
【0002】
古来、人類にとって「食」は生きるための「栄養の摂取」という意味合いだけでなく、美味しいものを食べることで心を満たすという、精神的な意味合いを持ってきた。また、現代においては、健康に気を遣う人が増えたことにより、安全で健康に良いとされる食品が望まれている。そのような事情により、安全でより風味の良い飲食物が求められるのは必然であり、飲食物の風味や香りを改善する方法が開発されてきた。
【0003】
従来、風味や香味を改善する目的で様々なものが用いられてきており、シイタケ、昆布、かつお節、煮干等の天然素材に由来する基本だしは、家庭でも一般的に使用されている調味素材の代表的な例である。また、畜肉エキス、チキンエキス、魚介類エキス、野菜エキスなどの天然エキスは、料理をする上でのベースとして業務用に広く使われており、その機能は、各種食品にコクや味の複雑さ加えることで、食材の味の薄さカバーするとされている。その他にも、グルタミン酸ナトリウムやイノシン酸二ナトリウム、グアニル酸二ナトリウムに代表されるアミノ酸や核酸系のうま味調味料や、HVP(植物蛋白分解物)、HAP(動物蛋白分解物)、酵母エキスといった味に幅を持たせる調味素材が工業的に広く用いられている。
【0004】
また、その他にも以下の例が挙げられる。
(1)乳脂肪、糖、アミノ酸及び水を含有する組成物を熟成することを特徴とする香味改
善剤の製造方法(特許文献1)。
(2)畜肉エキスまたは魚介類エキスから得られる不溶性成分を用いたコク味調味料素材
の製造方法(特許文献2)。
(3)乳清を乳酸菌及び酵母により発酵させて得られた清澄乳酸菌・酵母発酵乳清液を有
効成分として含有することを特徴とする調味料風味改良剤の製造方法(特許文献3)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−153665号公報
【特許文献2】特許第3493854号公報
【特許文献3】特開平7−75520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の調味素材は、各種飲食物の風味や香味を改善する上でユーザーを満足させるものではなかった。シイタケ、昆布、かつお節、煮干等の天然素材に由来する基本だしは、味に変化を加える因子の主となるものがアミノ酸、核酸等の低分子物質で構成されているため、味に旨みは加えるが天然エキスに比べると呈味が単調であるという欠点がある。畜肉エキス、チキンエキス、魚介類エキス、野菜エキスなどの天然エキスは経済性に欠け、アミノ酸や核酸系の化学調味料は食品添加物として扱われる為、最近のヘルシー思考にはそぐわない傾向がある。その他にも、HVP(植物蛋白分解物)やHAP(動物蛋白分解物)は、タンパク質を処理した際の分解臭を有し、酵母エキスはその酵母特有の風味から使用量が制限されてしまう。
【0007】
また、前述した(1)〜(3)の製造方法によって製造された風味、香味等の改善剤についても、嗜好性や経済性の面において満足のいくものではない。これまで示してきた調味素材はその風味の特徴から、食酢自体に濃厚感や複雑さ、まろやかさ等の風味を付与するには適さないという欠点があった。
【0008】
調味料素材には、食酢類があるが、その製造方法は、原料の種類や発酵方法の違いによって種々の方法が知られているが、いずれにしても酢酸の酸味と刺激臭が強く感じられ、消費者から好まれない要因となっている。特に、発酵を終えて間もない食酢はその刺激臭が強く、風味をまろやかにする為に1〜数ヶ月の熟成工程を経るなど時間とコストを要する問題点がある。また、食酢だけではなく食酢を素材として製造される合わせ酢、ポン酢、マヨネーズ、ドレッシング、ソース、及び酢飲料等も酢酸の酸味や刺激臭を有し、それが消費者から好まれない要因になっている。
【0009】
また、食酢はその主成分が酢酸であるため、旨味に「強さ」がなく、単調で「厚み」や「深み」に欠けるという欠点がある。そのため食酢は酸調味料としてのみに利用され、醤油や旨味調味料のように和風、洋風、中華料理に幅広く利用されることがなく、使用範囲が狭いのが実情である。
【0010】
本発明は、以上のような問題点を解消すべく、食酢類に対し経済的かつ人体に健康的な方法で、風味における濃厚感や複雑さ、まろやかさ等を付与する呈味改善剤、及びそれらを含有する食酢類を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、タンパク質及び糖質原料から製造される酢酸発酵物を濃縮して得られる食酢用呈味改善剤を用いることにより、食酢に風味の濃厚感や複雑さ、まろやかさ等の付与ができることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
即ち本発明は、酢酸発酵物を濃縮して得られる食酢用呈味改善剤を用いることにより、濃厚感や複雑さ、まろやかさ等の風味が改善された食酢及びその製造方法を提供するものである。また、酢酸発酵物が糖質原料をアルコール発酵し、次いで酢酸発酵させて得た発酵液である請求項1記載の食酢用呈味改善剤を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、含有アルコールを酢酸発酵させて得た発酵液、または糖質原料をアルコール発酵し、次いで酢酸発酵させて得た発酵液、もしくは酢酸発酵工程でアミノ酸含有組成物及び糖質原料を添加して発酵させて得た食酢類を、その色調に変化が生じるまで濃縮して製造されることを特徴とする食酢用呈味改善剤あって、任意量の濃縮前の食酢類及び前記量と同一量の濃縮後の食酢類について、それぞれOD420nmにおける吸光度が0.001〜0.500の範囲内となるように希釈液で適宜希釈したときに、希釈後の総液量を前記食酢類の任意量で除して得られる希釈倍率に対し、それぞれの吸光度の数値を乗じて得られた数値を食酢類の色強度としたときに、前記濃縮による食酢類の色調変化分が(濃縮後液の色強度)/(濃縮前液の色強度)=1.1乃至50の範囲内から選択される色調を有する食酢用呈味改善剤を提供するものである。
【0014】
ここで言う酢酸発酵物の濃縮は、その濃縮効率から、色調の変化を指標とした数値は50が上限であり、それ以上の数値を示す濃縮は酢酸発酵物の示す物性的に難しいと考えられた。
【0015】
従来行われてきた酢酸発酵物の濃縮技術は、酸味を和らげて酢酸発酵物自体の風味を改善することや、酢酸発酵物中の酢酸に由来する刺激的な酸味や酸臭を感じないようする為、粉末化してソフトカプセルやハードカプセルに閉じ込めるといった、液体成分の割合を少なくして体積を小さくすることなどが主な目的であった。しかし、本発明の食酢用呈味改善剤に用いられる濃縮技術の目的は、食酢自体に濃厚感や複雑さ、まろやかさといった新たな風味を付与する調味素材を、酢酸発酵物を由来として製造することである。
【0016】
本発明の呈味改善剤を含有させることにより食酢の風味が改善される理由は、以下のとおりであると考えられる。一般的に、味を感じる味覚受容体は味細胞からなる味蕾に存在していることが知られている。舌の先にある味蕾は、主に甘味や塩味を感じ、舌の奥にある味蕾は、主に旨味を感じている。舌だけでなく、軟口蓋や喉の奥でも味を感じており、本発明の食酢用呈味改善剤は、これら複数の部位で味を感じさせることにより、風味に空間的な広がりを持たせている。また、本発明の食酢用呈味改善剤を含有させた食酢を用いた飲食物は、後からじっくりと広がる風味が強くなり、余韻の残る味となることから、時間的に段階を踏んで味覚を刺激していると言える。これら空間的、時間的な複数の作用により、味に「濃厚感」や「複雑さ」、「まろやかさ」等の風味が付与されるものと考えられる。
【0017】
一般に「濃厚感」や「複雑さ」、「まろやかさ」等の風味は、旨みにおける重要な要素の一つだと考えられており、これらは一つの物質に由来する味覚ではなく、飲食物に含まれる無数の物質に由来する複数の味覚が複雑に絡み合ったものと認識されている。同様に、飲食物の「おいしさ」は味覚だけでなく、嗅覚、食感など、複数の要因により感じ取られる。本発明では、酢酸発酵物を濃縮させることで、含有されるアミノ酸や有機酸の割合を増やし、食酢にそれらの成分を含有させることにより、複数の味覚や嗅覚を刺激し、食酢の味に広がりを持たせることに成功した。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、酢酸発酵物を濃縮して得られる食酢用呈味改善剤の添加により、食酢への「濃厚感」「複雑さ」「まろやかさ」等が風味に付与され、また、旨味に「厚み(強さ)」「伸び」を付与し、また、時間経過とともにぼやけてしまう酸味の「厚み(強さ)」「伸び」を保持するとともに、甘味に「厚み」や「深み」を与え、甘味の「しつこさ」を軽減させる。すなわち、本発明の食酢用呈味改善剤を用いることで通常和食や洋食といった調理される食品や、ドレッシングやタレ等の混合調味料に対して行われてきた風味調味料の添加による簡便な呈味の改善手段を、今まで調味素材の添加による呈味の調整が適さなかった食酢に対して行うことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、糖質原料をアルコール発酵し、次いで酢酸発酵させて得た発酵液を濃縮したことを特徴とするが、濃縮対象物は、前記の発酵液に限らず、それに類する公知の一般的な酢や、穀類あるいは果実を原料とした食酢、発酵工程で酢酸、アミノ酸含有組成物及び/または糖質原料の中から1種または2種以上のものを添加させて得られた酢酸発酵物など、酢酸を主成分とする食酢類に適用可能である。
【0020】
本発明で使用する糖質原料とは、穀類及び/又は果実であることを特徴としても良い。例示される穀物として、米類、麦類、とうもろこし、アワ、ヒエ、アマランサス、豆類、イモ類などが挙げられる。また、糖質原料として、リンゴ、ブドウ、プルーン、柿、パイナップルなどの果汁のなかから1種又は2種以上のものを使用することが例示される。また、添加する糖は、ブドウ糖、果糖等の単糖類、ショ糖、麦芽糖等の二糖類、及びそれらを多量に含む水飴、糖蜜、異性化糖などの中から選択された1種又は2種以上のものを使用することが例示される。ここで、主に米を糖質原料として用いた場合には、酢酸発酵物とは米酢となる。
【0021】
本発明の食酢用呈味改善剤は、これらの糖質原料について微生物を利用して作られる。微生物の利用様式から次の1〜3段型に分類されている。1段型は、含有アルコールを酢酸菌の働きで酢酸に変えるタイプであり、アルコール酢、粕酢がこれに該当する。2段型は、発酵性糖類(グルコース、フラクトース、マルトース、シュクロース等)を含む原料に酵母を加えてアルコールを造り、それに酢酸菌を加えて、酢酸に変えるタイプであり、糖蜜酢や果実酢がこれに属する。3段型は、でん粉、穀類、イモ類を麹や酵素製剤を用いて、でん粉を発酵性糖類に分解し、酵母を加えてアルコールとし、ついで酢酸菌を働かせて酢酸に変えるタイプであり、米酢や麦芽酢がこれに属する。
【0022】
アルコール発酵処理条件については、従来公知の方法を適宜利用できる。例えば、30℃で時々撹拌して行い、3〜4日で発酵を完了することができる。有用な酵母としては、Saccharomyces
cerevisiae AKU4100、 Saccharomyces
sake AKU4111、Schizosaccharomyces pombe AKU4220、Saccharomycodes Iudwigii AKU4400などが利用できる。
【0023】
酢酸発酵条件についても、従来公知の方法を適宜利用できる。例えば、30℃で撹拌下、深部発酵法で行い、24〜48時間で発酵を完了することができる。有用な酢酸菌としては、Acetobacter
aceti IFO3283、Acetobacter rancens IFO3298、Acetobacter methanolicus JCM6891、Acetobacter pasteurianus IFO3222、Acetobacter aceti IFO3299、Acetobacter lovaniensis SKU1108などが利用できる。
【0024】
本発明において濃縮とは、濃縮前と比べ濃縮後の体積が小さくなるプロセスを示す。濃縮方法としては、減圧濃縮、凍結濃縮、膜濃縮など、従来公知の方法が適宜利用できる。減圧濃縮とは、アスピレーターまたは真空ポンプ等で減圧することにより、溶媒の沸点を下げ、効率良く濃縮する方法であり、凍結濃縮とは、液体材料を凍らせると、水分子だけが氷となることを利用して、溶媒である水を氷として分離し、濃縮する方法である。また膜濃縮とは、膜を介した圧力差や温度差を推進力として溶媒のみを膜透過させ、溶質濃度を高める方法である。濃縮時間については、長期間をかけて濃縮することもできるが、例えば30分から5時間といった短時間の濃縮でも、本発明の効果を奏する呈味改善剤を得ることができるので、本発明の食酢及びその製造方法は、工業的な生産にも適している。
【0025】
本発明においてアミノ酸含有組成物とは、アミノ酸単体、アミノ酸ナトリウム塩、タンパク質およびそれらを多量に含む糠、発酵粕、たんぱく加水分解物、酵母エキスなどがある。また、本発明で言う食酢とは、酸度(酢酸換算)や可溶性固形分で規定されるものではなく、食用に製造・調整されたお酢全般を示し、酢酸発酵物のみからなるものだけでなく、合成酢を配合したものも含む。
【0026】
本発明の食酢用呈味改善剤を添加する対象は食酢自体に限らず、ポン酢やマヨネーズ、ドレッシングといった食酢を含有する食品にも応用できる。そうすることにより、食酢への「濃厚感」や「複雑さ」、「まろやかさ」等の風味の付与が最終製品にも及び、全体として呈味が改善される。
【0027】
酢酸発酵物を濃縮する目安と測定方法について、以下に説明する。任意量の濃縮前の酢酸発酵物と同任意量の濃縮後の酢酸発酵物とを取り出し、それぞれOD420nmにおける吸光度が0.001〜0.500の範囲内となるように希釈液で適宜希釈する。このとき、希釈後の総液量を、最初に取り出した酢酸発酵物の液量で除して得られる希釈倍率に対し、それぞれの吸光度の数値を乗じて得られた数値を酢酸発酵物の色強度としたときに、濃縮による酢酸発酵物の色調変化が、(濃縮後液の色強度)/(濃縮前液の色強度)=1.1〜50、好ましくは5〜50、より好ましくは10〜50の範囲内となるように濃縮するのが望ましい。
【0028】
特に穀物酢に添加して用いる場合は、前述の色調変化が、(濃縮後液の色強度)/(濃縮前液の色強度)=1.1〜50、好ましくは10〜50の範囲内となるように濃縮するのが望ましい。
【0029】
また、食酢を含む調味料であるポン酢に添加して用いる場合は、前述の色調変化が、(濃縮後液の色強度)/(濃縮前液の色強度)=1.1〜50、好ましくは10〜50の範囲内となるように濃縮するのが望ましい。
【0030】
また、食酢を含む調味料であるマヨネーズに添加して用いる場合は、前述の色調変化が、(濃縮後液の色強度)/(濃縮前液の色強度)=1.1〜50、好ましくは5〜50の範囲内となるように濃縮するのが望ましい。
【0031】
また、原材料に食酢を含むドレッシングに添加して用いる場合は、前述の色調変化が、(濃縮後液の色強度)/(濃縮前液の色強度)=1.1〜50、好ましくは5〜50の範囲内となるように濃縮するのが望ましい。
【0032】
また、酢味噌に添加して用いる場合は、前述の色調変化が、(濃縮後液の色強度)/(濃縮前液の色強度)=5〜50、好ましくは10〜50の範囲内となるように濃縮するのが望ましい。
【0033】
ここで言うOD420nmの吸光度は、一般的に用いられている分光光度計「株式会社日立製作所製U−1000型分光光度計」を用いて室温にて測定した。ここで、希釈液とは水が一般的である。
【0034】
この色調の変化はアミノカルボニル(メイラード)反応等の反応の程度によって変化するものである。通常、食品において糖と窒素成分であるアミノ酸の存在下で起こるアミノカルボニル反応は、食品の色を褐色に変化させ、また風味を劣化させる現象として忌み嫌われてきた。そのため、食品の製造工程においてはアミノカルボニル反応が生じない方法が模索されてきた。しかしながら、本発明者は、あえてアミノカルボニル反応に注目し、糖とアミノ酸の反応物の存在が食酢の風味改善効果をもたらすことを見出した。
【0035】
本発明は、濃縮することにより、アミノカルボニル反応を促進させた酢酸発酵物に呈味改善効果があることを見出し、これを利用して食酢の風味向上を可能とするものである。以下、本発明を実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0036】
(本発明の「食酢用呈味改善剤」の製造方法)
米に液化酵素を作用させ、60〜70℃で3時間液化を行った。次いで糖化酵素を添加し、50〜60℃にて16時間糖化を行った。得られた糖化液に酵母を加え25〜30℃でアルコール発酵を行い、アルコール濃度約15%、糖濃度1%の米アルコールを得た。得られた米アルコールに酢酸菌を接種し25〜30℃で酢酸発酵を行った。得られた酢酸発酵液を濃縮し、熟成タンクにおいて30〜40℃で熟成を行った。熟成終了後、ろ過、殺菌を行い、窒素濃度2.0%、塩分濃度0.05%、糖濃度15%、酸度8%(酢酸換算)の本発明の食酢用呈味改善剤を得た。
【実施例2】
【0037】
(本発明の「食酢用呈味改善剤」が添加された食酢の製造方法)
食酢に実施例1で得られた「食酢用呈味改善剤」を添加し、酸度4.2%(酢酸換算)の呈味改善がなされた食酢を得た。
【実施例3】
【0038】
(「酢のもの」に対する利用)
下記表1の配合の酢のもの(対照区)と、実施例2で調整した呈味改善がされた食酢を加えた酢のもの(添加区)を用いた。二点比較法を用い、味覚正常者である味覚パネラー12名で官能評価を実施した。結果は下記表2に示す。
【表1】

【表2】

【実施例4】
【0039】
(マヨネーズへの利用)
下記表3の配合のマヨネーズ(対照区)と、実施例2で調整した呈味改善がなされた食酢を加えたマヨネーズ(添加区)を用いた。二点比較法を用い、味覚正常者である味覚パネラー12名で官能評価を実施した。結果は下記表4に示す。
【表3】

【表4】

【実施例5】
【0040】
(すし飯への利用)
下記表5対照区の配合で合わせたすし酢10gを炊いたご飯100gに混ぜ合わせたすし飯を
対照区とし、一方実施例2で調整した呈味改善がなされた食酢を用いて下記表5添加区の配合で合わせたすし酢10gを炊いたご飯100gに混ぜ合わせたものを添加区とする。それぞれを6時間室温で保存した添加区、対照区について、二点比較法を用い、味覚正常者である味覚パネラー15名で官能評価を実施した。結果は表6に示す。
【表5】

【表6】

【実施例6】
【0041】
(ぽん酢への利用)
市販のぽん酢100g(対照区)と、実施例2で調整した呈味改善がなされた食酢1.0gを加えて(添加区)調整したものを用いた。二点比較法を用い、味覚正常者である味覚パネラー12名で官能評価を実施した。結果は下記表7に示す。
【表7】

【実施例7】
【0042】
(酢酸発酵物への食酢用呈味改善剤の効果)
市販の穀物酢に(濃縮後液の色強度)/(濃縮前液の色強度)=1.1乃至50に示す範囲の食酢用呈味改善剤を0.3重量%で添加して、穀物酢における食酢用呈味改善剤の評価を味覚正常者であるパネラー20名で行い、また評価は20名の平均値で評価した。評価結果を表8に示す。なお、それぞれの指標については、4段階で評価した。「酸角マスキング」については、:非常によくマスキングされる(+++)、:マスキングされる(++)、ややマスキングされる(+)、:マスキングされない(−)。「コク」については、:非常によくコクが増す(+++)、:コクが増す(++)、ややコクが増す(+)、:コクは増さない(−)。「まろやかさ」については、:非常によくまろやかさが増す(+++)、:まろやかさが増す(++)、ややまろやかさが増す(+)、:まろやかさは増さない(−)。「味の複雑さ」については、:非常によく味の複雑さが増す(+++)、:味の複雑さが増す(++)、やや味の複雑さが増す(+)、:味の複雑さは増さない(−)。「バランス」については、酸角マスキング、コク、まろやかさおよび味の複雑さのバランスを指し、:非常にバランスが良い(+++)、:バランスが良い(++)、ややバランスがよい(+)、:バランスが悪い(−)と評価した。
【表8】

【0043】
以上のように穀物酢において、食酢用呈味改善剤はそれの示すところの定義、[(濃縮後液の色強度)/(濃縮前液の色強度)=1.1乃至50]において効果が見られた。また、好ましくは10〜50において効果的であることが確認できた。
【実施例8】
【0044】
(ぽん酢への食酢用呈味改善剤の効果)
市販のぽん酢に(濃縮後液の色強度)/(濃縮前液の色強度)=1.1乃至50に示す範囲の食酢用呈味改善剤を0.6重量%で添加して、ぽん酢における食酢用呈味改善剤の評価を味覚正常者であるパネラー20名で行い、また評価は20名の平均値で評価した。評価結果を表9に示す。なお、それぞれの指標については、4段階で評価した。「味の広がり」については、:非常によく味の広がりが増す(+++)、:味の広がりが増す(++)、やや味の広がりが増す(+)、:味の広がりは増さない(−)。「味のまとまり」については、:非常によく味のまとまりが増す(+++)、:味のまとまりが増す(++)、やや味のまとまりが増す(+)、:味のまとまりは増さない(−)。「味の厚み」については、:非常によく味の厚みが増す、:味の厚みが増す、やや味の厚みが増す、:味の厚みは増さない。「バランス」については、味の広がり、味のまとまりおよび味の厚みのバランスを指し、:非常にバランスが良い(+++)、:バランスが良い(++)、ややバランスがよい(+)、:バランスが悪い(−)と評価した。
【表9】

【0045】
以上のように、ぽん酢において、食酢用呈味改善剤はそれの示すところの定義、(濃縮後液の色強度)/(濃縮前液の色強度)=1.1乃至50において、効果が見られた。また、好ましくは10〜50において効果的であることが確認できた。
【実施例9】
【0046】
(マヨネーズへの食酢用呈味改善剤の効果)
市販のマヨネーズに(濃縮後液の色強度)/(濃縮前液の色強度)=1.1乃至50に示す範囲の食酢用呈味改善剤を0.3重量%で添加して、マヨネーズにおける本発明の食酢用呈味改善剤の評価を味覚正常者であるパネラー20名で行い、また評価は20名の平均値で評価した。評価結果を表10に示す。なお、それぞれの指標については、4段階で評価した。「卵黄感」については、:非常によく卵黄感が増す(+++)、:卵黄感が増す(++)、やや卵黄感が増す(+)、:卵黄感は増さない(−)。「コク」については、:非常によくコクが増す(+++)、:コクが増す(++)、ややコクが増す(+)、:コクは増さない(−)。「味の複雑さ」については、:非常によく味の複雑さが増す(+++)、:味の複雑さが増す(++)、やや味の複雑さが増す(+)、:味の複雑さは増さない(−)。「バランス」については、卵黄感、コクおよび味の複雑さのバランスを指し、:非常にバランスが良い(+++)、:バランスが良い(++)、ややバランスがよい(+)、:バランスが悪い(−)と評価した。
【表10】

【0047】
以上のように、マヨネーズにおいて、食酢用呈味改善剤は、それの示すところの定義(濃縮後液の色強度)/(濃縮前液の色強度)=1.1乃至50において、効果が見られた。また、好ましくは5〜50において効果的であることが確認できた。
【実施例10】
【0048】
(ドレッシングへの食酢用呈味改善剤の効果)
市販のドレッシングに(濃縮後液の色強度)/(濃縮前液の色強度)=1.1乃至50に示す範囲の食酢用呈味改善剤を0.6重量%で添加して、ドレッシングにおける本発明の食酢用呈味改善剤の評価を味覚正常者であるパネラー20名で行い、また評価は20名の平均値で評価した。評価結果を表11に示す。なお、それぞれの指標については、4段階で評価した。「香ばしさ」については、:非常によく香ばしさが増す(+++)、:香ばしさが増す(++)、やや香ばしさが増す(+)、:香ばしさは増さない(−)。「コク」については、:非常によくコクが増す(+++)、:コクが増す(++)、ややコクが増す(+)、:コクは増さない(−)。「味の複雑」さについては、:非常によく味の複雑さが増す(+++)、:味の複雑さが増す(++)、やや味の複雑さが増す(+)、:味の複雑さは増さない(−)。「バランス」については、香ばしさ、コクおよび味の複雑さのバランスを指し、:非常にバランスが良い(+++)、:バランスが良い(++)、ややバランスがよい(+)、:バランスが悪い(−)と評価した。
【表11】

【0049】
以上のようにドレッシングにおいて、食酢用呈味改善剤はそれの示すところの定義(濃縮後液の色強度)/(濃縮前液の色強度)=1.1乃至50において、効果が見られた。また、好ましくは5〜50において効果的であることが確認できた。
【実施例11】
【0050】
(酢味噌への食酢用呈味改善剤の効果)
市販の酢味噌に(濃縮後液の色強度)/(濃縮前液の色強度)=1.1乃至50に示す範囲の食酢用呈味改善剤を0.6重量%で添加して、酢味噌における食酢用呈味改善剤の評価を味覚正常者であるパネラー20名で行い、また評価は20名の平均値で評価した。評価結果を表12に示す。なお、それぞれの指標については、4段階で評価した。「コク」については、:非常によくコクが増す(+++)、:コクが増す(++)、ややコクが増す(+)、:コクは増さない(−)。「まろやかさ」については、:非常によくまろやかさが増す(+++)、:まろやかさが増す(++)、ややまろやかさが増す(+)、:まろやかさは増さない(−)。「バランス」については、コク、まろやかさおよび酸味マスキングのバランスを指し、:非常にバランスが良い(+++)、:バランスが良い(++)、ややバランスがよい(+)、:バランスが悪い(−)と評価した。
【表12】

【0051】
以上のように、酢味噌において、食酢用呈味改善剤は、(濃縮後液の色強度)/(濃縮前液の色強度)=5乃至50において、効果が見られた。また、好ましくは10〜50において効果的であることが確認できた。
【実施例12】
【0052】
(その他の食品に対する利用)
表13に示した飲食物に対して、本発明の食酢用呈味改善剤を少量添加、又は呈味改善がなされた食酢を既存の食酢と置き換えたところ、呈味改善効果を、味覚正常者である味覚パネラーに対するインタビュー調査により確認した。本発明の呈味改善剤又は呈味改善がなされた食酢は、このように広範な飲食物に対し、呈味の優れた改善効果を発揮することが出来る。
【表13】

【実施例13】
【0053】
実施例1の発酵工程でアミノ酸含有組成物及び糖質を加えて製造した食酢用呈味改善剤、また実施例1にならって、りんごを原料とする食酢用呈味改善剤を得た。
【実施例14】
【0054】
(原料由来別の食酢用呈味改善剤の効果)
実施例13で得た食酢用呈味改善剤について、これらを表14に示す料理に0.3〜0.6重量%で添加して、味覚正常者であるパネラー20名による効果の評価を行った。なお各料理における評価の指標は
穀物酢については、:酸角マスキング、コク、まろやかさ、味の複雑さ、バランス
ぽん酢については、:味の広がり、味の厚み、味のまとまり、バランス
マヨネーズについては、:卵黄感、コク、味の複雑さ、バランス
ドレッシングについては、:香ばしさ、コク、味の複雑さ、バランス
トマトソースについては、:トマト感、味の厚み、旨みの伸び、バランス
酢味噌については、:コク、まろやかさ、バランスを用いた。なお、評価は20名の平均値で評価した。評価結果を表14に示す。
【表14】

【0055】
以上のように由来原料が異なる食酢用呈味改善剤であっても、幅広い料理に対して味の厚み、酸角マスキング、まろやかさ、味の複雑さ、味の広がり、コク、旨みの伸びなどの増強に効果を及ぼすことが分かる。また、料理によっては由来原料などを選択することで、より効果をもたらす食酢用呈味改善剤を提供することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の食酢用呈味改善剤が添加された食酢は、飲食物に少量添加するという非常に簡便な手段で当該飲食物の呈味を劇的に改善する効果を有する。本発明の食酢用呈味改善剤は、従来好まれなかった食酢中の酢酸の酸味と刺激臭を低減させ、食酢だけでなく食酢を素材とする合わせ酢、ぽん酢、マヨネーズ、ドレッシング及びソースに含まれる酢酸由来の酸味及び刺激臭を抑え、風味における濃厚感や複雑さ、まろやかさ等を付与する。また、本発明の食酢用呈味改善剤の利用により、食酢の風味に「濃厚感」や「複雑さ」、まろやかさ等が付与される為、食酢が酸味調味料としてだけでなく、醤油や旨味調味料のように和風、洋風、中華料理といった幅広い食品に用いられる調味料が提供できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸発酵物を濃縮することにより得られる食酢用呈味改善剤。
【請求項2】
酢酸発酵物が糖質原料をアルコール発酵し、次いで酢酸発酵させて得た発酵液である請求項1記載の食酢用呈味改善剤。
【請求項3】
含有アルコールを酢酸発酵させて得た発酵液、または糖質原料をアルコール発酵し、次いで酢酸発酵させて得た発酵液、もしくは酢酸発酵工程でアミノ酸含有組成物及び糖質原料を添加して発酵させて得た食酢類を、その色調に変化が生じるまで濃縮して製造されることを特徴とする食酢用呈味改善剤あって、任意量の濃縮前の食酢類及び前記量と同一量の濃縮後の食酢類について、それぞれOD420nmにおける吸光度が0.001〜0.500の範囲内となるように希釈液で適宜希釈したときに、希釈後の総液量を前記食酢類の任意量で除して得られる希釈倍率に対し、それぞれの吸光度の数値を乗じて得られた数値を食酢類の色強度としたときに、前記濃縮による食酢類の色調変化分が(濃縮後液の色強度)/(濃縮前液の色強度)=1.1乃至50の範囲内から選択される色調を有する食酢用呈味改善剤。
【請求項4】
前記糖質原料が穀物及び/又は果実である請求項2または3記載の食酢用呈味改善剤。
【請求項5】
減圧濃縮法、凍結濃縮法および膜濃縮法からなる群より選ばれた1種又は2種以上のいずれかの方法で濃縮された請求項1、2、3または4記載の食酢用呈味改善剤。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5記載の呈味改善剤を含有する食酢類。